説明

フィルタおよびフィルタ装置

【課題】濾過した流体へ虫が侵入するのを防ぐことのできる、フィルタおよびフィルタ装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るフィルタは、「ウェブと平均開口径が1mm未満の織物又は編物から構成されているフィルタ」であり、「織物又は編物が前記ウェブの外周を被覆していると共に、前記フィルタにおける一方の主面にのみ前記ウェブが露出している」ことによって、ウェブの側面や濾過下流側から逃げ出した虫を、平均開口径が1mm未満の織物又は編物によって捕捉し、濾過した流体へ虫が侵入することを防ぐことができる、という効果を奏することを見出した。
そのため、本発明に係るフィルタおよびフィルタ装置は、虫が濾過した流体へ侵入することを防ぐことができる、という効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過した流体へ虫が侵入するのを防ぐことのできる、フィルタおよびフィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医療品の生産工場、精密機器の製造工場などにおいて、生産物が衛生的であると共に不純物により汚染されることがないように、フィルタ装置によって、外気などの気体を清浄化し室内に取り入れる、あるいは、河川の水などの液体を清浄化して工業用水として使用することがなされている。また、工場からの排気や排水に対しても同様に、フィルタ装置によって気体や液体など流体は清浄化されて工場外の環境中へと放出される。
【0003】
このような用途に使用されるフィルタとして、例えば特許文献1には、支持層の濾過下流側へ微細繊維層を積層してなる、気体相あるいは液体相から固体物質を分離することを目的とした、通流装置で使用するための不織布フィルタ材が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明に係る不織布フィルタ材のような、従来技術に係るフィルタを用いて流体を濾過した場合、濾過した流体へ虫が侵入することがあった。一例として、屋外から空気を室内に導いた場合、従来技術に係るフィルタの濾過下流側となる室内側に、クロバネキノコバエ科、ショウジョウバエ科、チョウバエ類などの蝿や、イガ類の蛾が侵入することがあった。
【0005】
上述した蝿や蛾などの虫がフィルタを通過するのを防ぐため、本発明者らは、上述した虫の体長がいずれも1mm以上の大きさである(非特許文献1)という知見のもと、直径1mm以上の大きさの粒子を捕集可能な不織布フィルタ材を使用してなるフィルタを検討した。
【0006】
しかし、直径1mm以上の大きさの粒子を捕集可能な不織布フィルタ材を用いても、上述した蝿や蛾などの虫がフィルタを通過するのを防ぐことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-527358号公報(特許請求の範囲、0001-0002、0050、図5aなど)
【非特許文献1】不快害虫とその駆除(著者代表:服部畦作・森谷清樹、出版:(財)日本環境衛生センター、発行日:昭和62年12月1日)
【0008】
虫がフィルタを通過して濾過した流体へ侵入する原因として、濾過対象中に含まれる塵埃などの粒子と異なり、不織布フィルタ中に捕捉された虫は不織布フィルタを構成する繊維を移動させたり、繊維同士の間隔や空隙の大きさを拡大して不織布フィルタの空隙間を移動して、不織布フィルタの空隙を経由して濾過下流側へ逃げ出てしまうこと、が考えられた。
【0009】
また、フィルタ装置は濾過対象の流体が通過する流路を備えていると共に、フィルタの外周を挟み込んでフィルタを固定する固定部材を備えている。そして、フィルタ装置から使用済みのフィルタを外し、新しいフィルタへと容易に交換できるように、フィルタと固定部材との間には隙間が存在するものであった。
【0010】
そのため、濾過した流体へ虫が侵入する原因として、フィルタの側面から出た虫が、フィルタと固定部材との隙間を通ることで濾過下流側へ逃げ出し易くなっていること、が考えられた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、濾過した流体へ虫が侵入するのを防ぐことのできる、フィルタおよびフィルタ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、
「ウェブと平均開口径が1mm未満の織物又は編物から構成されているフィルタであり、前記織物又は編物が前記ウェブの外周を被覆していると共に、前記フィルタにおける一方の主面にのみ前記ウェブが露出している、ことを特徴とするフィルタ。」
である。
【0013】
請求項2に係る発明は、
「請求項1に記載のフィルタを備えるフィルタ装置。」
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に係るフィルタは、「ウェブと平均開口径が1mm未満の織物又は編物から構成されているフィルタ」であり、「織物又は編物が前記ウェブの外周を被覆していると共に、前記フィルタにおける一方の主面にのみ前記ウェブが露出している」ことによって、ウェブの側面や濾過下流側から逃げ出した虫を、平均開口径が1mm未満の織物又は編物によって捕捉し、濾過した流体へ虫が侵入することを防ぐことができる、という効果を奏するフィルタであることを見出した。
【0015】
そのため、本発明の請求項1に係るフィルタは、虫が濾過した流体へ侵入することを防ぐことができる、という効果を奏するフィルタである。
【0016】
本発明の請求項2に係るフィルタ装置は、「請求項1に記載のフィルタを備えるフィルタ装置」である。そのため、濾過した流体へ虫が侵入することを防ぐことができる、という効果を奏するフィルタ装置である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るフィルタを、フィルタの一方の主面側からみた模式的正面図である。
【図2】図1のフィルタのa-a’線における、模式的断面図である。
【図3】本発明に係るフィルタ装置を、フィルタ装置の一方の主面側からみた模式的正面図である。
【図4】図3のフィルタのb-b’線における、模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るフィルタについて、フィルタの一方の主面側からみた模式的正面図である図1、および、図1のフィルタのa-a’線における、模式的断面図である図2を用いて説明する。
【0019】
本発明に係るフィルタ(10)は、ウェブ(11)と平均開口径が1mm未満の織物又は編物(12)から構成されており、図1〜図2に図示しているように、織物又は編物(12)がウェブ(11)の外周を被覆している。
【0020】
本発明に係るフィルタ(10)は、織物又は編物(12)がウェブ(11)の外周を被覆していると共に、図1〜図2に図示しているように、フィルタ(10)における一方の主面にのみウェブ(11)が露出した態様を成しており、フィルタ(10)における織物又は編物(12)に囲まれたウェブ(11)の露出部分を、濾過上流側(図2における紙面上の上方向、A側)に面することができる。
【0021】
なお、図1〜図2においてウェブ(11)の露出部分の形状は正方形形状であり、フィルタ(10)の濾過上流側(図2における紙面上の上方向、A側)に面する一方の主面の中央部分に、ウェブ(11)の露出部分が形成されている。
【0022】
次に、本発明に係るフィルタ(10)が濾過した流体へ虫が侵入するのを防ぐ作用を、流体中に含まれる虫の動向をもとに説明する。
【0023】
1.濾過上流側(A)の流体中に含まれる虫は、濾過上流側(A)から濾過下流側(B)に向かい流体と共に移動する途中で、濾過上流側(図2における紙面上の上方向、A側)に面している、フィルタ(10)における織物又は編物(12)に囲まれたウェブ(11)の露出部分を通過する。
2.ウェブ(11)の露出部分を通過した虫は、ウェブ(11)の空隙中に捕捉される。
3.ウェブ(11)の空隙中に捕捉された虫は、ウェブ(11)の空隙間を移動して、ウェブ(11)の側面や濾過下流側(B)の主面から逃げ出る。
4.ウェブ(11)の外周が、平均開口径が1mm未満の織物又は編物(12)によって被覆されているため、ウェブ(11)の側面や濾過下流側(B)に面する主面から逃げ出た虫は、平均開口径が1mm未満の織物又は編物(12)によって捕捉される。
【0024】
流体中に含まれる虫の動向が上述のようになるため、本発明に係るフィルタ(10)は、虫が濾過上流側(A)から濾過下流側(B)にフィルタ(10)を通過するのを防いで、濾過した流体へ虫が侵入することを防ぐことができる。
【0025】
本発明に係るフィルタ装置について、本発明に係るフィルタ装置を、フィルタ装置の一方の主面側からみた模式的正面図である図3、および、図3のフィルタのb-b’線における、模式的断面図である図4を用いて説明する。
【0026】
本発明に係るフィルタ装置(20)は、フィルタ(10)の一部を挟む固定部材(21)を備えることのできるフレーム(22)、気体あるいは液体を濾過上流側(A)から濾過下流側(B)に移動させることが可能なファン(23)から構成されており、図3〜図4に図示しているように、フィルタ装置(20)における濾過上流側(A)に、ウェブ(11)の露出部分が面するようにしてフィルタ(10)を備えている。
【0027】
本発明に係るフィルタ装置(20)は、濾過上流側(A)に存在する濾過の対象となる流体を、本発明に係るフィルタ(10)を通過させることで濾過することができるため、濾過した流体へ虫が侵入することを防ぐことができる、という効果を奏するフィルタ装置(20)である。
【0028】
また、ウェブ(11)と固定部材(21)との間に織物又は編物(12)が介在するように、固定部材(21)によりフィルタ(10)を固定できるため、ウェブ(11)の側面や濾過下流側(B)に面する主面から逃げ出た虫が、フィルタ(10)と固定部材(21)との隙間を通ることを防ぐことができる。
【0029】
その結果、本発明に係るフィルタ装置(20)は、濾過した流体へ虫が侵入することを防ぐことができる。
【0030】
本発明の詳細について、以下に説明する。
【0031】
ウェブ(11)として不織布を使用することができる。
ウェブ(11)を構成する繊維成分は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなど)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂などの公知の有機ポリマー、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機ポリマーなどの公知の無機系化合物が重合してなるポリマー、あるいは、金属、ガラスなどを用いることができる。
【0032】
これらの繊維成分を構成可能なポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体、多成分のポリマーが混和したものでも構わず、またポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
また、これら例示以外のポリマーも使用可能であり、例示以外のポリマーも含め、2種以上のポリマーからなる繊維成分を用いることもできる。
【0033】
ウェブ(11)を構成する繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の繊維成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0034】
ウェブ(11)を構成する繊維は、一種類あるいは複数種類の繊維成分から構成されてなるものでも構わない。複数種類の繊維成分からなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型などの態様であることができる。
【0035】
ウェブ(11)を構成する繊維の平均繊維径は、特に限定されるべきものではなく、求める通気抵抗の値や濾過対象物の大きさに合わせて、適宜調整することができるが、ウェブ(11)を用いて構成する本発明に係るフィルタ(10)を粗塵捕集のためのプレフィルタとみなして使用する場合、ウェブ(11)を構成する繊維の平均繊維径は1〜500μmであるのが好ましく、3〜200μmであるのがより好ましく、5〜100μmであるのが最も好ましい。
【0036】
なお、本発明でいう「繊維径」とは、繊維の断面を走査型電子顕微鏡により2000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真をもとに繊維の断面積を計測し、前記断面積と同じ面積をもつ円の直径をいう。
そして、本発明でいう「平均繊維径」とは、無作為に選んだ50本の繊維における各繊維径の合計値を繊維本数(50本)で割った平均値をいう。
【0037】
ウェブ(11)を調製する方法として、例えば、カード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせて不織布の態様とする乾式不織布、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き不織布の態様とする湿式不織布、直接法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法など)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法を用いることができる。そして、このようにして調製されたウェブ(11)における繊維の絡合の程度を調整するため、ウェブ(11)をニードルパンチ装置や水流絡合装置に供することができる。
【0038】
また、ウェブ(11)を構成する繊維同士を一体化するため、繊維同士をバインダで一体化する、あるいは、ウェブ(11)を構成する繊維のうち1種類以上の繊維成分が、他の繊維成分よりも低い融点を備えている場合には、ウェブ(11)を加熱処理することで前記繊維成分を融着させて、繊維同士を一体化することができる。
【0039】
ウェブ(11)には、例えば、難燃剤、触媒粒子、または脱臭剤などの機能性材料を含ませて、多機能化することもできる。機能性材料の含有形態としては、例えば、ウェブ(11)を構成する繊維に機能性材料を練り込んだ形態、ホットメルト不織布(熱可塑性樹脂からなるメルトブロー不織布など)を介してウェブ(11)の主面に機能性材料を接着して担持した形態、ウェブ(11)を構成する熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に加熱した機能性材料を接触させ繊維表面に機能性材料一部埋没させて担持させた形態(例えば、特開2004−3070号公報に開示の方法など)などとすることができる。
【0040】
ウェブ(11)の目付は特に限定されるべきものではなく、適宜調整することができるが、100g/m2〜1000g/m2であるのが好ましく、200g/m2〜800g/m2であるのがより好ましく、300g/m2〜600g/m2であるのが最も好ましい。
また、ウェブ(11)における両主面の最短距離の長さである、ウェブ(11)の厚さは特に限定されるべきものではなく、求める通気抵抗あるいは通液抵抗の値に合わせて、適宜調整することができるが、ウェブ(11)における厚さは9mm〜29mmであるのが好ましく、12mm〜26mmであるのがより好ましく、17mm〜23mmであるのが最も好ましい。
なお、本発明では、目付とは主面の面積1mあたりにおける質量をいい、厚さとは高精度デジタル測定機(ライトマチック(VL−50A) (株)ミツトヨ)により計測した、2.0kPa加重時の5点の厚さの算術平均値をいう。
【0041】
図1〜図2では、平板状のウェブ(11)を用いてフィルタ(10)を構成した態様を図示しているが、立体加工したウェブ(11)を用いてフィルタ(10)を構成することもできる。ウェブ(11)を立体加工する方法として、例えば、レシプロ式やロータリー式、セミロータリー式などのプリーツ加工機による方法、ジグザグ形状に成形された一対の押し型でプレスする方法、ヒートシーラーで溶融加工した部分が山あるいは谷となるように手で折り屈曲させる方法、対をなすギアあるいはパターンロールで挟み込んで折る方法などを採用することができる。
なお、ウェブ(11)を波状に屈曲した際の、波の高さや波同士の間隔など形状は適宜、調整するのが好ましい。
【0042】
ウェブ(11)の外周を織物又は編物(12)で被覆する際に、ウェブ(11)の変形を防ぐことができるように、ウェブ(11)の側面および主面の周縁部分に枠を設けてもよい。
枠の形状は適宜選択することができ、例えば、ウェブ(11)の側面のみを保持可能な断面形状が「I字型」の枠、ウェブ(11)における一方の主面の周縁部分と側面を保持可能な断面形状が「L字型」の枠、ウェブ(11)における両主面の周縁部分と側面を保持可能な断面形状が「コ字型」の枠などを採用することができる。
なお、枠を構成する素材は、ステンレスやアルミやメッキした鉄などの金属製、木製、樹脂製などであることができる。また、枠の重量や厚さなどは適宜調整する。
ウェブ(11)と枠の接合態様は、枠の一部にウェブ(11)を嵌め込み固定する方法などウェブ(11)と枠を分別可能な態様で接合しても、ウェブ(11)と枠をバインダにより接着するあるいは熱融着によって溶融一体化するなど、ウェブ(11)と枠を分別不可能な態様で接合していてもよく、適宜選択して調製することができる。
【0043】
本発明でいう織物又は編物(12)は、上述したウェブ(11)を構成可能な繊維を、編むあるいは織ることで調製することができる。
本発明に係るフィルタ(10)が備える織物又は編物(12)は1mm未満の平均開口径を備えており、虫が織物又は編物(12)を通過するのを防ぐことができるという効果を奏する。
この理由は、完全に判明していないが、織布や編物(12)は繊維同士が一定のパターンによって絡み合い、ウェブ(11)よりも繊維の配列がより均一で、かつ繊維同士の間隔や空隙の大きさが変化し難い。そのため、虫が織物又は編物(12)を構成している繊維を移動させ、繊維同士の間隔や空隙の大きさを拡大して織物又は編物(12)を通過しようとするのを防ぐことができるためであると考えられる。
【0044】
なお、本発明でいう「開口径」とは、織物又は編物(12)における主面の電子顕微鏡写真をもとに、開口の面積を測定し、前記開口の面積と同じ面積をもつ円の直径をいう。
そして、本発明でいう「平均開口径」とは、無作為に選んだ50個の開口における各開口径の合計値を開口の数(50個)で割った平均値をいう。
【0045】
織物又は編物(12)が備える平均開口径の大きさは、虫が織物又は編物(12)を通過することを防ぐことができる大きさであると共に、求める通気抵抗あるいは通液抵抗の値に合わせて適宜調整するのが好ましいが、1mm未満であると共に200μm以上であるのが好ましく、300μm〜800μmであるのがより好ましく、400μm〜600μmであるのが最も好ましい。
なお、織物又は編物(12)が備える開口の形状は、虫を捕捉できるように適宜、選択するのが好ましい。
【0046】
織物又は編物(12)の目付は特に限定されるべきものではなく、適宜調整することができるが、20〜120g/m2であるのが好ましく、40〜100g/m2であるのがより好ましく、60〜80g/m2であるのが最も好ましい。
また、織物又は編物(12)の厚さは、特に限定されるべきものではなく、求める通気抵抗あるいは通液抵抗の値に合わせて、適宜調整することができるが、0.1mm〜1.0mmであるのが好ましく、0.2mm〜0.4mmであるのがより好ましい。
【0047】
織物又は編物(12)がウェブ(11)を被覆する態様は、フィルタ(10)における一方の主面にのみウェブ(11)が露出している態様となるように、織物又は編物(12)がウェブ(11)の外周を被覆していれば良く、限定されるものではない。
【0048】
図1では、ウェブ(11)の露出形状が正方形形状となるように、織物又は編物(12)がウェブ(11)の外周を被覆している態様を図示しているが、ウェブ(11)の露出形状は限定されるものではなく、例えば、多角形形状、角が丸められているなどしてなる略多角形形状、円形形状などとすることができる。
【0049】
フィルタ(10)の一方の主面の面積に占めるウェブ(11)の露出面積の割合は、通気抵抗あるいは通液抵抗の値に合わせて適宜調整することができるが、79%〜97%であるのが好ましく、82%〜94%であるのがより好ましく、85%〜91%であるのが最も好ましい。
【0050】
織物又は編物(12)がウェブ(11)を被覆する態様は限定されるものではなく、ウェブ(11)と織物又は編物(12)を分別可能となるように被覆しても、バインダを使用するあるいは熱溶着するなどしてウェブ(11)と織物又は編物(12)を一体化することで分別不可能な態様で被覆してもよい。
ウェブ(11)と織物又は編物(12)を分別可能となるように被覆すると、物又は編物(12)に捕捉され、ウェブ(11)と織物又は編物(12)の間に存在している虫を、フィルタ(10)から容易に除去することができる。更に、分別した織物又は編物(12)とウェブ(11)を洗浄することで、織物又は編物(12)やウェブ(11)に捕集された塵埃を除去して、フィルタ(10)の濾過性能の回復を容易に行うことができる。
そのため、ウェブ(11)と織物又は編物(12)が分別可能となるように、ウェブ(11)に織物又は編物(12)を被覆するのが好ましい。
【0051】
ウェブ(11)と織物又は編物(12)が分別可能なフィルタ(10)を調製する場合、織物又は編物(12)が意図せずウェブ(11)の外周から外れるのを防ぐことができるように、織物又は編物(12)はウェブ(11)の一部を露出可能な開口部分を備えた袋状あるいは箱状をしていると共に、ウェブ(11)の露出部分を囲む織物又は編物(12)の縁部分の全体あるいは一部に、例えば、ヒモあるいはゴムヒモなどの紐状体(図示せず)を設けるのが好ましい。
織物又は編物(12)の縁部分に紐状体を設けることで、織物又は編物(12)でウェブ(11)の外周を被覆した後、紐状体をしばることで、あるいは、紐状体の備える伸張回復能力によって、ウェブ(11)の露出部分を囲む織物又は編物(12)の縁部分をすぼめてウェブ(11)の露出部分を小さくすることで、織物又は編物(12)が意図せずウェブ(11)の外周から外れることを防ぐことができる。
【0052】
フィルタ装置(20)を構成するフレーム(22)は、フレーム(22)にフィルタ(10)を備えることができると共に、濾過上流側(A)に存在する濾過の対象となる流体をウェブ(11)の露出部分へと導いて、濾過下流側(B)に濾過した流体を放出することができればよく、その形状は特に限定されるものではない。フレーム(22)の形状として、例えば、濾過上流側(A)および濾過下流側(B)に開口のある直方体形状などを採用することができる。
【0053】
図3〜図4に図示しているように、固定部材(21)に固定されたフィルタ(10、以降、フィルタエレメントと称する)を備えてなるフィルタ装置(20)を調製する場合、フレーム(22)における固定部材(21)の設置位置や設置方法および固定方法などは、適宜、調整する。
このとき、ウェブ(11)の側面や濾過下流側(B)に面する主面から逃げ出た虫が、フィルタ(10)と固定部材(21)との間に存在する隙間に到達することがないように、フィルタ(10)と固定部材(21)との間に織物又は編物(12)が介在した状態となるように、固定部材(21)でフィルタ(10)を固定する。
【0054】
固定部材(21)の形状は適宜選択することができるが、フィルタ(10)の固定が容易となるように、断面が「コ字型」の額縁状の固定部材(21)を用いる、あるいは、断面が「L字型」の額縁状の固定部材(21)を用いることができる。
【0055】
固定部材(21)によるフィルタ(10)の固定態様は、固定部材(21)の一部にフィルタ(10)を挿入し、単に挟持して固定する方法など、フィルタ(10)を固定部材(21)と分別可能な態様で固定してもよい。また、必要であれば固定部材(21)におけるフィルタ(10)と接する部分に、例えば、クリップ、パチン錠、キックバネなどのフィルタ(10)を拘束できる部材を設けることで、前記拘束できる部材と固定部材(21)とでフィルタ(10)を挟み込み、フィルタ(10)を分別可能な態様で固定してもよい。
あるいは、フィルタ(10)と固定部材(21)をバインダにより接着する、あるいは熱融着によって溶融一体化するなど、フィルタ(10)を固定部材(21)と分別不可能な態様で固定していてもよく、適宜選択して調製することができる。
【0056】
フレーム(22)や固定部材(21)を構成する素材は、特に限定されるものではないが、好適に使用できる程度の強度を有する必要があるため、ステンレス、鉄、アルミなどの金属製、木製、樹脂製などであるのが好ましい。
【0057】
ファン(23)は気体あるいは液体を、濾過上流側(A)から濾過下流側(B)に移動させることが可能であれば良く、ファン(23)の種類、フレーム(22)におけるファン(23)の位置などは、適宜、調整する。ファン(23)による通気量あるいは通液量は適宜調整する。
【実施例】
【0058】
以下、本発明に係るフィルタ(10)の調製方法と、フィルタ(10)を備えるフィルタ装置(20)の調製方法、および、フィルタ(10)が示す濾過した流体へ虫が侵入するのを防ぐ能力の評価方法とその結果を説明する。
なお、本実施例において、特定の寸法、形状、配置関係、数値的条件など、本発明の理解を容易とする程度に特定条件を例示して説明するが、本発明はこれら例示形態にのみ限定されるものではなく、この発明の目的の範囲内で変形又は変更を行うことができる。
【0059】
(実施例1)
(1)ウェブの調製方法
ポリエステル繊維A(繊度:17デシテックス、繊維長:51mm)42.5重量%、ポリエステル繊維B(繊度:22デシテックス、繊維長:76mm)5重量%、ポリエステル繊維C(繊度:33デシテックス、繊維長:76mm)20重量%、および、モダアクリル繊維(繊度:17デシテックス、繊維長:64mm)32.5重量%を均一に混綿し、カーディングすることで得た繊維ウェブを、クロスレイヤーにより繊維の配向方向を交差させ積層して、目付が230g/m2のクロス繊維ウェブを得た。
次に、スチレンブタジエンゴム、塩化ビニリデン、塩化ビニル・アクリル酸エステル共重合体を混合してなるエマルジョンに、三酸化アンチモン系化合物の難燃剤を混ぜ合わせた接着剤を用意した。
クロス繊維ウェブに接着剤を付与した後、乾燥機にて乾燥させ、固形分で350g/mの接着剤によって繊維同士を接着させた、目付が580g/m2、厚さが2cmの不織布を得た。
このようにして調製した不織布を縦59.5cm、横59.5cmとなるように切り取りウェブを調製した。
【0060】
(2)箱状の織物の調製方法
ポリエステル系繊維の織物(平均開口径:400μm、目付:70g/m2、厚さ:0.3cm)を縦67.5cm、横67.5cmに切り取り、切り取った織物を、1つの面の中央部に開口を有する直方体状に折り曲げ、織物同士が重なっている部分を縫い合わせることで、ウェブの露出部分を囲むことのできる、一部に開口を備える箱状に立体加工された織物(以降、箱状の織物と称する、たて:60.1cm、よこ:60.1cm、高さ:2.6cm)を調製した。なお、箱状の織物における開口の形状は、一辺55.5cmの正方形形状であった。
【0061】
(3)フィルタの調製方法
箱状の織物の内部にウェブを単に収納することで、箱状の織物とウェブを分別可能な状態で、一方の主面にのみウェブが露出しているフィルタを調製した。なお、フィルタの外形は縦60.1cm、横60.1cm、高さ2.6cmであり、フィルタにおけるウェブの露出部分の大きさは一辺55.5cmの正方形形状であった。
【0062】
(4)フィルタエレメントの調製方法
断面が「コ字型」の額縁状の固定部材を用意すると共に、フィルタの全周縁部分を固定部材の凹部に挿入し、単に挟持することで、フィルタを固定部材に分別可能な状態で固定して、フィルタエレメントを調製した。
【0063】
(5)フィルタ装置の調製方法
濾過対象となる外気の取込口が屋外に露出しており、濾過した外気を放出する吐出口が屋内に露出している、内部に送風ファンを備えたフィルタ装置を用意した。そして、ウェブの露出している部分が屋外に面するようにして、フィルタエレメントをフィルタ装置に設けた。
【0064】
(測定方法)
フィルタ装置の送風ファンを稼動し、風速が2.5m/sとなるように調整することで、屋外の大気をフィルタエレメントに通過させて濾過して、濾過した外気を屋内に放出した。
なお、屋外の大気(外気)中にはクロバネキノコバエ科、ショウジョウバエ科、チョウバエ類などの蝿や、イガ類の蛾が存在しており、屋内空間にはこれらの虫が存在していないことを確認した。
4ヶ月の間、送風ファンを可動し続けた後、フィルタ装置 から固定部材に収められたフィルタを取り外し、ウェブの空隙中に捕捉されていた虫の数(C1)、ウェブと織物の間に存在していた虫の数(C2)、測定を行っている4ヶ月の間に屋内で認められた虫の数(換言すればフィルタ装置を通過した虫の数、C3)を各々数えて、測定の結果を表1にまとめた。
【0065】
【表1】


測定の結果、実施例1のフィルタに捕捉された虫の数は53匹であったのに対して、測定中にフィルタ装置を通過した虫の数は0匹であった。
そのため、本発明に係るフィルタは、虫が濾過した流体へ侵入することを防ぐことができる、という効果を奏することが判明した。
【0066】
そして、ウェブの空隙中に捕捉されていた虫の数が7匹であったのに対して、ウェブと織物の間に存在していた虫の数が46匹であった。
そのため、本発明に係るフィルタは、ウェブの側面や濾過下流側から逃げ出した虫を、平均開口径が1mm未満の織物又は編物によって捕捉できる、という効果を奏することが判明した。
【0067】
また、本発明に係るフィルタ装置は上述の効果を奏するフィルタを備えているため、虫が濾過した流体へ侵入することを防ぐことができる、という効果を奏するフィルタ装置である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、濾過した流体へ虫が侵入するのを防ぐことのできる、フィルタおよびフィルタ装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
10・・・フィルタ
11・・・ウェブ
12・・・織物又は編物
A・・・濾過上流側
B・・・濾過下流側
20・・・フィルタ装置
21・・・固定部材
22・・・フレーム
23・・・ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブと平均開口径が1mm未満の織物又は編物から構成されているフィルタであり、前記織物又は編物が前記ウェブの外周を被覆していると共に、前記フィルタにおける一方の主面にのみ前記ウェブが露出している、ことを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルタを備えるフィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−71058(P2013−71058A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212429(P2011−212429)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】