説明

フィルター保持機構、レンズ装置および撮像装置

【課題】可視光から近赤外光までの波長範囲を撮像し、かつ色収差によるボケを低減すること。
【解決手段】光路111上において、IRカットフィルター131と、可視光から近赤外光の間の特定の区間の波長を遮断する第1の光学フィルター132とを切り替える切替装置130を、レンズ装置110の物体側、レンズ装置110の光学系の中、レンズ装置110の光学系の後ろに配置する。したがって、レンズ装置110を透過した外光は、光路111上に保持されたIRカットフィルター131または第1の光学フィルター132を介して撮像素子121に受光される。このため、撮像素子121においては、IRカットフィルター131または第1の光学フィルター132によって一部の波長が遮断された外光が入射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学性能を調整する光学フィルターを備えたフィルター保持機構、レンズ装置および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラなどの撮像装置において、より一層の小型化とともに高倍率化が要求されている。この要求に応えるために、撮像装置に搭載する小型で高変倍が可能なレンズ装置が求められている。撮像装置本体内には、撮像用の光電変換素子すなわち撮像素子が配置されている。撮像素子は、レンズ装置を介して入射した外光を受光し、光電変換して、入射光量に応じた電気信号を出力する。
【0003】
撮像素子は、具体的には、たとえばCCDイメージセンサ(Charge Coupled Device Image Sensor)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどの固体撮像素子によって実現される。これらの撮像素子は、紫外光から可視光を含み近赤外光までの広い範囲の波長を受光するため、色収差が生じる。
【0004】
ここで、可視光の波長範囲を、たとえば400nm以上700nm未満と定義する。その理由は、写真レンズでは、人間の目の感度から可視光の波長範囲を、たとえば360nm以上700nm未満とすることが一般的であるが、CCDイメージセンサなどの電子記録媒体においては、波長が360nm以上400nm未満の光の感度が低いためである。また、近赤外光の波長範囲を、たとえば700nm以上1100nm未満と定義する。その理由は、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどの感度の上限が、波長が1100nmの光まで撮像可能であるためである。なお、可視光または近赤外光の波長範囲は、これに限ることなく、レンズの種類や使用目的によって種々変更可能である。
【0005】
図12は、可視光の色収差の補正について示す説明図である。また、図13は、可視光から近赤外光までの色収差について示す説明図である。図12に示すように、可視光(たとえば、波長が400nm以上700nm未満の光)の色収差を補正しても、図13に示すように、近赤外光(たとえば、波長が700nm以上1100nm未満の光)の色収差までは補正しきれない。
【0006】
このような問題を解決するため、可視光域カットフィルターと近赤外光域カットフィルター(IRカットフィルター)をレンズ系の光路内で出し入れして、可視光または近赤外光のみを撮像する撮像装置及びレンズ装置が提案されている(たとえば、下記特許文献1参照。)。
【0007】
図14は、IRカットフィルターを挿入した場合の色収差の補正について示す説明図である。IRカットフィルターは、可視光を透過し近赤外光を吸収する。したがって、図14に示すように、明るい被写体に対しては、IRカットフィルターをレンズの光路内に挿入して可視光のみを受光するため、撮像素子の受光する波長の範囲が狭くなり、小型化を保ったまま色収差の補正を行うことができる。
【0008】
また、図15は、近赤外投光器によって近赤外光を投光した場合の色収差について示す説明図である。可視光域カットフィルターは、赤外光を透過し可視光を吸収する。したがって、図15に示すように、IRカットフィルターをはずし、可視光カットフィルターを挿入した場合、近赤外光を被写体に投光して撮影するため、可視光のピント位置と近赤外光のピント位置が多少ずれていても投光している光の像にピントを合わせなおすことが出来る。したがって、図12に示すように可視光の色収差が補正されていれば、図13に示すように近赤外光までの色収差が補正されていなくても、図15に示すように、近赤外光投光器によって近赤外光を投光する場合、解像に大きな問題は起こらなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−152032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、時間帯によって明るい被写体と、暗い被写体と、を1台の撮像装置で撮像する監視用途に使用されるカメラにおいては、可視光から近赤外光までの光を出来るだけ取り込んで、監視の死角をなくすことが求められている。このため、上述した特許文献1のように、可視光カットフィルターとIRカットフィルターを切り替える方式では、IRカットフィルターに切り替えた場合に、近赤外光があっても可視光がなければ被写体を撮影することが出来ないし、逆に、可視光カットフィルターに切り替えた場合は、可視光があっても近赤外光が無ければ被写体を撮影することができないという問題がある。
【0011】
このような問題を解決するため、近年では、暗い被写体に投光しないで、撮像素子への入射光量を増やす目的でIRカットフィルターをはずし、可視光カットフィルターを挿入せずに、可視光から近赤外光までを撮影する場合が多くなってきた。このため、可視光カットフィルターもIRカットフィルターもレンズ系の光路内に挿入せずに、可視光から近赤外光までのどの光で照明された被写体に対しても、色収差によって解像力が低下することなく撮像することが求められている。
【0012】
しかしながら、可視光から近赤外光までの混合光による像を結像することになるので、図12に示すように、可視光の色収差が補正されていても、図13に示すように可視光から近赤外光までの色収差が補正されていないと、大きくボケた像になってしまう。このため、分散の小さな硝子で形成されたレンズを用いることが考えられるが、分散の小さな硝子は高価であるため、コストが高くなるという問題がある。また、分散の小さな硝子は屈折率が低いので、レンズの曲率が強くなるために収差が発生して、この収差を補正するために、レンズが大型化してしまうという問題がある。
【0013】
特に、高変倍のレンズ装置の場合は、可視光の範囲だけでも、ワイド端からテレ端までの全ズーム域において色収差を補正することが難しいのにも関わらず、可視光から近赤外光までの色収差を補正することは、小型化を保ったままでは困難である。このように、時間帯によって明るい被写体と、暗い被写体と、を1台の撮像装置で撮像する監視用途に使用されるカメラにおいては、小型化・高性能化・低コスト化を両立させることは難しいという問題がある。
【0014】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、可視光から近赤外光までの波長範囲を撮像することができ、かつ色収差によるボケを低減することができるフィルター保持機構、レンズ装置および撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかるフィルター保持機構は、可視光から近赤外光までの波長域の中の一部の波長を遮断し、かつ可視光の少なくとも一部の波長ならびに近赤外光の少なくとも一部の波長を透過させる第1の光学フィルターと、前記第1の光学フィルターを光路上に保持する保持部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この請求項1の発明によれば、可視光から近赤外光までの波長範囲の一部を遮断するのみであるため、可視光または近赤外光のどちらの光が入射されても撮像することができ、かつ使用波長範囲が可視光から近赤外光の全ての波長範囲より狭いため、色収差によるボケを抑えることができる。
【0017】
また、請求項2の発明にかかるフィルター保持機構は、請求項1に記載の発明において、前記第1の光学フィルターと、近赤外光を遮断する第2の光学フィルターと、を切り替える切替部をさらに備えたことを特徴とする。
【0018】
この請求項2の発明によれば、明るい被写体を撮影する場合は、近赤外光を遮断するIRカットフィルターを用いることで鮮明なカラー画像を撮像することができる。さらに、暗い被写体を撮影する場合は、可視光領域でも近赤外領域でも撮像することができる。
【0019】
また、請求項3の発明にかかるフィルター保持機構は、請求項1または2に記載の発明において、前記第1の光学フィルターは、可視光の短波長側の一部の波長を遮断することを特徴とする。
【0020】
この請求項3の発明によれば、可視光の長波長側の一部と近赤外光に使用波長範囲を狭めることができるので、色収差によるボケを低減することができる。
【0021】
また、請求項4の発明にかかるフィルター保持機構は、請求項1または2に記載の発明において、前記第1の光学フィルターは、近赤外光の長波長側の一部の波長を遮断することを特徴とする。
【0022】
この請求項4の発明によれば、可視光と近赤外光の短波長側の一部に使用波長範囲を狭めることができるので、色収差によるボケを低減することができる。
【0023】
また、請求項5の発明にかかるフィルター保持機構は、請求項1または2に記載の発明において、前記第1の光学フィルターは、可視光の短波長側の一部の波長および近赤外光の長波長側の一部の波長を遮断することを特徴とする。
【0024】
この請求項5の発明によれば、可視光の長波長側の一部と近赤外光の短波長側の一部に使用波長範囲を狭めることができるので、色収差によるボケをより低減することができる。
【0025】
また、請求項6の発明にかかるフィルター保持機構は、請求項2に記載の発明において、前記切替部は、前記第1の光学フィルターとして、可視光の短波長側の一部の波長を遮断する光学フィルター、近赤外光の長波長側の一部の波長を遮断する光学フィルターまたは可視光の短波長側の一部の波長および近赤外光の長波長側の一部の波長を遮断する光学フィルターのいずれか一つと、前記第2の光学フィルターと、を切り替えることを特徴とする。
【0026】
この請求項6の発明によれば、色収差や使用目的の異なるレンズ装置を用いる場合でも、可視光または近赤外光のどちらの光が入射されても撮像することができ、かつ色収差によるボケを低減することができる。
【0027】
また、請求項7の発明にかかるレンズ装置は、請求項1〜6に記載の、光学フィルターを有するフィルター保持機構と、外光を前記光学フィルターに入射させる複数のレンズと、を備え、前記フィルター保持機構は、前記レンズの物体側、前記レンズの間または前記レンズの後ろ側のいずれか一つに配置されたことを特徴とする。
【0028】
この請求項7の発明によれば、可視光から近赤外光までの波長範囲の一部を遮断するのみであるため、可視光または近赤外光のどちらの光が入射されても撮像することができ、かつ使用波長範囲が可視光から近赤外光の全ての波長範囲より狭いため、色収差によるボケを抑えることができる。さらに、高い光学性能を備え、光変倍が可能な小型のレンズ装置にも、簡単に、安い製造コストで適用することができる。
【0029】
また、請求項8の発明にかかる撮像装置は、請求項1〜6に記載の、光学フィルターを有するフィルター保持機構と、撮像用の光電変換素子と、外光を前記光学フィルターを介して前記光電変換素子に入射させる複数のレンズを有するレンズ装置と、を備えたことを特徴とする。
【0030】
この請求項8の発明によれば、可視光から近赤外光までの波長範囲の一部を遮断するのみであるため、可視光または近赤外光のどちらの光が入射されても撮像することができ、かつ使用波長範囲が可視光から近赤外光の全ての波長範囲より狭いため、色収差によるボケを抑えることができる。さらに、高い光学性能を備え、光変倍が可能な小型のレンズ装置を備えた撮像装置にも、簡単に、安い製造コストで適用することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかるフィルター保持機構、レンズ装置および撮像装置によれば、可視光から近赤外光までの波長範囲を撮像することができ、かつ色収差によるボケを低減することができるという効果を奏する。さらに、高い光学性能を備え、光変倍が可能な小型のレンズ装置にも、簡単に、安い製造コストで適用することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態1にかかる撮像装置の構成について示す説明図である。
【図2】実施の形態1にかかる撮像装置の構成について示す説明図である。
【図3】実施の形態1にかかる撮像装置の構成について示す説明図である。
【図4】実施の形態1にかかる撮像装置の他の構成について示す説明図である。
【図5】実施の形態1にかかる第1の光学フィルターの特性について示す特性図である。
【図6】実施の形態1にかかる第1の光学フィルターを透過した外光の像面上での軸上スポット像について示す説明図である。
【図7】実施の形態2にかかる第1の光学フィルターの特性について示す特性図である。
【図8】実施の形態2にかかる第1の光学フィルターを透過した外光の像面上での軸上スポット像について示す説明図である。
【図9】実施の形態3にかかる第1の光学フィルターの特性について示す特性図である。
【図10】実施の形態3にかかる第1の光学フィルターの最適な特性について示す特性図である。
【図11】実施の形態3にかかる第1の光学フィルターを透過した外光の像面上での軸上スポット像について示す説明図である。
【図12】可視光の色収差の補正について示す説明図である。
【図13】可視光から近赤外光までの色収差について示す説明図である。
【図14】IRカットフィルターを挿入した場合の色収差の補正について示す説明図である。
【図15】近赤外投光器によって近赤外光を投光した場合の色収差について示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるフィルター保持機構、レンズ装置および撮像装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
(実施の形態1)
(撮像装置の構成について)
まず、この発明の実施の形態1にかかる撮像装置の構成について説明する。図1〜図3は、実施の形態1にかかる撮像装置の構成について示す説明図である。図1〜図3に示すように、撮像装置100は、レンズ装置110と、撮像装置本体120とを備えている。撮像装置本体120には、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどの撮像素子121が備えられており、レンズ装置110によって外光が入射される。
【0035】
また、レンズ装置110は、第1の光学フィルター132と、第2の光学フィルター131と、を切り替える切替装置130を備えている。切替装置130は、第1の光学フィルター132または第2の光学フィルター131のいずれか一つを光路111上に保持する。第2の光学フィルター131は、可視光を透過し近赤外光を遮断するIRカットフィルター等である(以下、第2の光学フィルターをIRカットフィルターとする)。具体的には、たとえばIRカットフィルター131は、波長が700nm以上の光を遮断する。また、第1の光学フィルター132は、詳細は後述するが、可視光から近赤外光(たとえば、波長が400nm以上1100nm以下)までの波長域の中の一部の波長を遮断し、かつ可視光の少なくとも一部の波長ならびに近赤外光の少なくとも一部の波長を透過させる。切替装置130は、レンズ装置110の物体側に配置されてもよいし(図1)、レンズ装置110の光学系の中に配置されてもよいし(図2)、レンズ装置110の光学系の後ろに配置されていてもよい(図3)。
【0036】
このように、レンズ装置110を透過した外光は、光路111上に保持されたIRカットフィルター131または第1の光学フィルター132を介して撮像素子121に受光される。このため、撮像素子121においては、IRカットフィルター131または第1の光学フィルター132によって一部の波長が遮断された外光が入射される。
【0037】
(撮像装置の他の構成について)
つぎに、実施の形態1にかかる撮像装置の他の構成について説明する。図4は、実施の形態1にかかる撮像装置の他の構成について示す説明図である。図4に示すように、切替装置130は、光路111上、かつ撮像素子121の前であれば、撮像装置本体120内に配置されていてもよい。
【0038】
(第1の光学フィルターの特性について)
つぎに、実施の形態1にかかる第1の光学フィルター132の特性について説明する。図5は、実施の形態1にかかる第1の光学フィルターの特性について示す特性図である。図5においては、縦軸は透過率であり、横軸は波長である。図5に示すように、第1の光学フィルター132は、可視光の短波長側の光を遮断する。第1の光学フィルター132は、具体的には、たとえば波長が450nm以上650nm以下の光のうちの任意の波長未満の光を遮断する。
【0039】
その理由は、可視光の波長の範囲を、たとえば400nm以上700nm未満とした場合、色収差の発生が比較的小さいレンズでは、波長が450nm以下の光を遮断することで画像の劣化を防止することが出来るからである。また、色収差の発生が比較的大きいレンズでは、可視光を撮像可能な最短の波長、たとえば、波長が650nm以下の光までを遮断することにより、可視光と近赤外光の混合光で撮像した画像の劣化を低減することができるからである。さらに、波長が650nmより大きい波長の光を遮断すると、可視光の範囲の全てを遮断することとほとんど変わらない為、可視光が入射されても撮像できなくなってしまうからである。
【0040】
図6は、実施の形態1にかかる第1の光学フィルターを透過した外光の像面上での軸上スポット像について示す説明図である。図6においては、波長が550nm未満の光を遮断する第1の光学フィルター132を挿入した場合について説明する。図6には、第1の光学フィルター132を透過し像面に入射される光のうち、可視光の短波長側の最短波長(たとえば、550nm)、可視光と近赤外光との境界の波長(たとえば、700nm)、近赤外光の長波長側の最長波長(たとえば、1100nm)の光の軸上スポット像を示している。図6に示すように、図13において像面に入射される光のうちの、可視光の短波長側の最短波長(たとえば、400nm)、可視光と近赤外光との境界の波長(たとえば、700nm)、近赤外光の長波長側の最長波長(たとえば、1100nm)の光の軸上スポット像の範囲と比べると、それぞれのスポット像の範囲が狭くなっているのがわかる。すなわち、色収差によるボケが少ないため、可視光と近赤外光の混合光を受光しても、撮像した画像の劣化を低減することができる。
【0041】
なお、実施の形態1においては、光路上にIRカットフィルター131と第1の光学フィルター132を切り替える切替装置130を配置しているが、これに限るものではない。たとえば、切替装置130ではなく、第1の光学フィルターのみを保持する保持装置を配置してもよい。このようにすることで、明るい被写体の画像の解像度は若干落ちるが、IRカットフィルターと第1の光学フィルターとを切り替えずに、明るい被写体も暗い被写体も撮像することができる。具体的には、たとえば時間帯によって明るい被写体と、暗い被写体と、を1台の撮像装置で撮像する監視用途に使用されるカメラにおいて、昼間と夜間で光学フィルターを切り替えなくても、監視の死角をなくすことができる。
【0042】
(実施の形態2)
(撮像装置の構成について)
つぎに、実施の形態2にかかるレンズ装置または撮像装置について説明する。実施の形態2にかかるレンズ装置または撮像装置は、切替装置130におけるIRカットフィルター131と切り替える第1の光学フィルターが、実施の形態1にかかる第1の光学フィルター132とは異なる波長の光を遮断する。その他の構成については、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0043】
(第1の光学フィルターの特性について)
つぎに、実施の形態2にかかる第1の光学フィルター133の特性について説明する。図7は、実施の形態2にかかる第1の光学フィルターの特性について示す特性図である。図7においては、縦軸は透過率であり、横軸は波長である。図7に示すように、第2の光学フィルター133は、近赤外光の長波長側の光を遮断する。第1の光学フィルター133は、具体的には、たとえば波長が900nm以上1100nm以下の光のうちの任意の波長より大きい波長の光を遮断する。
【0044】
その理由は、一般的に用いられている赤外LED投光器から投光される赤外光の波長が850nm程度であり、この赤外LED投光器から投光された光によって照射された物体を撮像できるようにするためである。また、LED投光器から投光される光には、ある程度の波長幅があるため、900nmより大きい波長の光を遮断することで、画像の劣化を低減することができる。また、赤外LED投光器には、投光される赤外光の波長が950nm程度のものもある。このため、波長が950nm程度の赤外光によって照射された物体を撮像できるように、ある程度の波長幅を考慮して1000nmより大きい波長の光を遮断することで、画像の劣化を低減することができる。また、LED投光器よりも波長が長い光源の光に照射された物体の撮像に対しては、現在市販されているCCDやCMOSなどの撮像素子の感度が概ね1100nmの波長の光までであり、それ以上の波長の光に対しては非常に感度が低く、色収差による画像ボケの影響が少ない為である。
【0045】
図8は、実施の形態2にかかる第1の光学フィルターを透過した外光の像面上での軸上スポット像について示す説明図である。図8においては、波長が900nmより大きい波長の光を遮断する第1の光学フィルター133を挿入した場合について説明する。図8には、第1の光学フィルター133を透過し像面に入射される光のうちの、可視光の短波長側の最短波長(たとえば、400nm)、可視光と近赤外光との境界の波長(たとえば、700nm)、近赤外光の長波長側の最長波長(たとえば、900nm)の光の軸上スポット像を示している。図8に示すように、図13において像面に入射される光のうちの、可視光の短波長側の最短波長(たとえば、400nm)、可視光と近赤外光との境界の波長(たとえば、700nm)、近赤外光の長波長側の最長波長(たとえば、1100nm)の光の軸上スポット像の範囲と比べると、それぞれのスポット像の範囲が狭くなっているのがわかる。
【0046】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0047】
(実施の形態3)
(撮像装置の構成について)
つぎに、実施の形態3にかかるレンズ装置または撮像装置について説明する。実施の形態3にかかるレンズ装置または撮像装置は、切替装置130におけるIRカットフィルター131と切り替える第1の光学フィルターが、実施の形態1または実施の形態2にかかる第1の光学フィルター132、133とは異なる波長の光を遮断する。その他の構成については、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0048】
(第1の光学フィルターの特性について)
つぎに、実施の形態3にかかる第1の光学フィルター134の特性について説明する。図9は、実施の形態3にかかる第1の光学フィルターの特性について示す特性図である。図9においては、縦軸は透過率であり、横軸は波長である。図9に示すように、第1の光学フィルター134は、可視光の短波長側の光と近赤外光の長波長側の光を遮断する。第1の光学フィルター134は、具体的には、たとえば波長が450nm以上650nm以下の光のうちの任意の波長未満の光と、波長が900nm以上1100nm以下の光のうちの任意の波長より大きい波長の光と、を遮断する。
【0049】
その理由は、実施の形態1および実施の形態2に示した理由と同様である。
【0050】
(第1の光学フィルターの最適な特性について)
つぎに、実施の形態3にかかる第1の光学フィルターの最適な特性について説明する。図10は、実施の形態3にかかる第1の光学フィルターの最適な特性について示す特性図である。図10においては、縦軸は透過率であり、横軸は波長である。図10に示すように、最適な特性の第1の光学フィルター134は、たとえば波長が550nm未満の光と、波長が900nmより大きい波長の光と、を遮断する。
【0051】
その理由は、波長が550nm未満の光を遮断した場合、可視光の波長範囲において短波長側の半分(たとえば、400nm以上550nm未満の波長範囲)の光を遮断することができるので、色収差が改善され、画像の劣化が抑えられるからである。また、CCDイメージセンサなどの撮像素子においては、波長が550nm以上600nm未満の光の感度が高いため、この範囲の波長の光を透過させることで輝度が大きく下がることを抑えることができるからである。
【0052】
また、実施の形態2において説明したように、一般的に用いられているLED投光器から投光される光の波長が850nm程度であり、ある程度の波長幅を考慮して、波長が900nm以上の光を遮断しても、比較的明るい画像を撮像することができ、また画像の劣化を防ぐことができるためである。
【0053】
図11は、実施の形態3にかかる第1の光学フィルターを透過した外光の像面上での軸上スポット像について示す説明図である。図11においては、図10に示す最適な特性の第1の光学フィルター134を挿入した場合について説明する。図11には、最適な特性の第1の光学フィルター134を透過し像面に入射される光のうち、可視光の短波長側の最短波長(たとえば、550nm)、可視光と近赤外光との境界の波長(たとえば、700nm)、近赤外光の長波長側の最長波長(たとえば、900nm)の光の軸上スポット像を示している。図11に示すように、図13において像面に入射される光のうちの、可視光の短波長側の最短波長(たとえば、400nm)、可視光と近赤外光との境界の波長(たとえば、700nm)、近赤外光の長波長側の最長波長(たとえば、1100nm)の光の軸上スポット像の範囲と比べると、それぞれのスポット像の範囲が狭くなっているのがわかる。
【0054】
さらに、図11においては、図6および図8に示す像面上での軸上スポット像と比べても、像面に入射される光のうちの、可視光の短波長側の最短波長、可視光と近赤外光との境界の波長、近赤外光の長波長側の最長波長の光の軸上スポット像が、それぞれ狭くなっているのがわかる。
【0055】
実施の形態3によれば、実施の形態1または実施の形態2と同様の効果を得ることができる。さらに、実施の形態3によれば、実施の形態1または実施の形態2と比べても、より色収差が少なく、劣化の少ない画像を撮像することができる。
【0056】
(実施の形態4)
(撮像装置の構成について)
つぎに、実施の形態4にかかるレンズ装置または撮像装置について説明する。実施の形態4にかかるレンズ装置または撮像装置は、切替装置130が、IRカットフィルター131に加え、実施の形態1にかかる第1の光学フィルター132、実施の形態2にかかる第1の光学フィルター133または実施の形態3にかかる第1の光学フィルター134のうちの少なくとも2つ以上の光学フィルターを備えている。そして、切替装置130によってレンズ装置110の色収差と使用目的により切り替えて、IRカットフィルター131、実施の形態1にかかる第1の光学フィルター132、実施の形態2にかかる第1の光学フィルター133、実施の形態3にかかる第1の光学フィルター134のいずれか一つを光路内に挿入するようにする。その他の構成については、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0057】
実施の形態4によれば、実施の形態1〜実施の形態3と同様の効果を得ることができる。さらに、実施の形態4によれば、色収差や使用目的の異なる様々な種類のレンズ装置または撮像装置に切替装置130を配置することができる。
【0058】
以上説明したように、フィルター保持機構、レンズ装置および撮像装置によれば、明るい被写体を撮影する場合は、IRカットフィルター131を挿入することでカラー画像を撮像し、暗い被写体を撮影する場合には、IRカットフィルター131をレンズの光路から出して、可視光から近赤外光の間の特定の区間の波長を遮断するフィルターを挿入して撮像する。このようにすることで、ビデオカメラまたはビデオカメラ用のレンズ装置において、可視光の色収差は補正できているが、可視光から近赤外光までの色収差が充分に補正しきれていないレンズ装置で撮像する場合であっても、撮影をおこなう波長範囲を狭めることができるので、色収差による画像のボケを低減しながら被写体の撮影光量および撮影波長の死角を低減することができる。なお、フィルターによって遮断する、可視光から近赤外光の間の波長の範囲については、各レンズの色収差と使用目的により選択してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明にかかるフィルター保持機構、レンズ装置および撮像装置は、ビデオカメラまたはビデオカメラ用のレンズ装置に有用であり、特に、監視用途に使用されるビデオカメラまたはビデオカメラ用のレンズ装置に適している。
【符号の説明】
【0060】
100 撮像装置
110 レンズ装置
111 光路
120 撮像装置本体
121 撮像素子
130 切替装置
131 IRカットフィルター
132 第1の光学フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光から近赤外光までの波長域の中の一部の波長を遮断し、かつ可視光の少なくとも一部の波長ならびに近赤外光の少なくとも一部の波長を透過させる第1の光学フィルターと、
前記第1の光学フィルターを光路上に保持する保持部と、
を備えたことを特徴とするフィルター保持機構。
【請求項2】
前記第1の光学フィルターと、近赤外光を遮断する第2の光学フィルターと、を切り替える切替部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のフィルター保持機構。
【請求項3】
前記第1の光学フィルターは、可視光の短波長側の一部の波長を遮断することを特徴とする請求項1または2に記載のフィルター保持機構。
【請求項4】
前記第1の光学フィルターは、近赤外光の長波長側の一部の波長を遮断することを特徴とする請求項1または2に記載のフィルター保持機構。
【請求項5】
前記第1の光学フィルターは、可視光の短波長側の一部の波長および近赤外光の長波長側の一部の波長を遮断することを特徴とする請求項1または2に記載のフィルター保持機構。
【請求項6】
前記切替部は、前記第1の光学フィルターとして、可視光の短波長側の一部の波長を遮断する光学フィルター、近赤外光の長波長側の一部の波長を遮断する光学フィルターまたは可視光の短波長側の一部の波長および近赤外光の長波長側の一部の波長を遮断する光学フィルターのいずれか一つと、前記第2の光学フィルターと、を切り替えることを特徴とする請求項2に記載のフィルター保持機構。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の、光学フィルターを有するフィルター保持機構と、
外光を前記光学フィルターに入射させる複数のレンズと、
を備え、
前記フィルター保持機構は、前記レンズの物体側、前記レンズの間または前記レンズの後ろ側のいずれか一つに配置されたことを特徴とするレンズ装置。
【請求項8】
請求項1〜6に記載の、光学フィルターを有するフィルター保持機構と、
撮像用の光電変換素子と、
外光を前記光学フィルターを介して前記光電変換素子に入射させる複数のレンズを有するレンズ装置と、
を備えたことを特徴とする撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2010−231051(P2010−231051A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79504(P2009−79504)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】