説明

フィルター用フェルト

【課題】ポリフェニレンサルファイド繊維を含むバグフィルターなどに用いるフェルトに関するものであり、長期安定して排ガス中のダストろ過を行うことができ、フィルターの弾力性を向上することで、逆洗、振動により表面のダストを除去する際、振動の力を効率よく伝達することができるフィルター用フェルトの提供。
【解決手段】中空率が5〜50%、比容積が50cm/g以上、圧縮率が75%以下である中空断面ポリフェニレンサルファイド短繊維を30%以上使用した不織布を少なくとも1層以上使用するフィルター用フェルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド繊維を含むバグフィルターなどに用いるフェルトに関するものであり、長期安定して排ガス中のダストろ過を行うことができ、フィルターの弾力性を向上することで、逆洗、振動により表面のダストを除去する際、振動の力を効率よく伝達することができるフィルター用フェルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭焚きボイラー、都市ゴミ焼却炉、産業廃棄物焼却炉等から排出される排ガス中には煤塵のみならずダイオキシン等の有害物質も含まれており、大気汚染防止として各種排ガス集塵は非常に重要である。また、ダイオキシン生成抑制及び排出抑制の観点からも、バグフィルターによる排ガスろ過が大きく期待されている。また、大きなろ過速度で目詰まりなしの低圧損運転できれば、ろ過面積やバグフィルター設置面積も小さくでき、コストダウンにもつながる。また、ダイオキシン類や重金属などの有害物質対策として、ガス化溶融炉や灰溶融炉が使用されるようになり、ダストはより小さくなる傾向にある。
【0003】
ダスト吹き漏れ量が小さく長期安定して排ガスろ過を行う方法として、様々な方法が検討されている。
例えば、既に製品として存在するものとして、不織布あるいは織物のろ過面側にポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という)からなり細孔径が約2〜3μm程度のメンブレンを接着させ払い落とし性を向上させたものがある。
また、不織布あるいは織物のろ過面側にフィルムの延伸方向にスリットを入れた一軸延伸フィルムを貼り合わせ、μm径オーダーの微少な粒子を捕捉可能としたろ過布(例えば、特許文献1)が提案されている。
ポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」という)繊維よりなるフェルトに限っては、ろ過面層に細繊度繊維を用い、更には太さ勾配をつけたもの(例えば、特許文献2)、異型断面繊維を使用することにより、繊維表面積を大きくしたしたもの(例えば、特許文献3)が知られている。
【0004】
上記のPTFEメンブレンをろ布のろ過面側に接着させたものは、パルスジェット方式や逆洗方式によるダスト払い落とし性は優れるが、初期より圧損が大きく、さらに、他素材との接着性に劣るPTFEは長期にわたるダスト払い落とし操作によりPTFEメンブレン自体がろ過面から剥がれたり、ダスト払落し屈曲疲労によってシワができ、破損に至るという問題がある。また、バグフィルター用フェルトは、ろ過と同時に塩化水素などの酸性ガスをろ過面のケーキ層で消石灰などにより反応除去するという機能も有している。しかし、メンブレンを使用するとケーキ層まで払落ししてしまうため、酸性ガスの除去率が低下するといった問題がある。さらに、メンブレン加工のコストが非常に高く、現在あるバグフィルター用ろ布としては最も高いものとなっている。
【0005】
特許文献1のものは、ろ過層内部のフィルムによりろ布を通過しようとしたダストを捕捉することができるが、繊維からなるろ過層自体の空隙率が大きいため、目詰まりを起こし長期安定して排ガスろ過を行えないという問題がある。
【0006】
特許文献2のものは、繊度が2.0dtex以下であるPPS短繊維をろ過層表層に配している。これは、ろ過性能は向上するものであるが、フェルト作成時の生産性が低くなる問題がある。
【0007】
また、特許文献3では、繊度が5.6dtex以下で、Y型の異型断面PPS繊維を使用して性能向上するものである。しかし、これらの技術でろ過層のろ過性能を向上することはできても、断面の形状から強力の低下が大きくなる問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平2−253814号公報
【特許文献2】特開平10−165729号公報
【特許文献3】特開2000−117027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術のバグフィルター用フェルトの持つ問題点に対し、PPS繊維を含むバグフィルターなどに用いるフェルトにおいて、長期安定して排ガス中のダストろ過を行うことができ、フィルターの弾力性を向上することで、パルス、逆洗、振動により表面のダストを除去する際、振動の力を効率よく伝達することができるフィルター用フェルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、以下の通りである。
1.中空率が5〜50%、比容積が50cm/g以上、圧縮率が75%以下である中空断面ポリフェニレンサルファイド短繊維を30%以上使用した不織布を少なくとも1層以上使用することを特徴とするフィルター用フェルト。
2.前記中空断面ポリフェニレンサルファイド短繊維が、少なくとも2つの突起物が存在する断面形状である中空異型断面ポリフェニレンサルファイド短繊維であることを特徴とする請求項1に記載のファルター用フェルト。
3.前記ポリフェニレンサルファイド短繊維が比容積が70cm/g以上、圧縮率が65%以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルター用フェルト。
4.前記ポリフェニレンサルファイド短繊維が立体捲縮を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフィルター用フェルト。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、PPS繊維を含む不織布層からなるバグフィルター用フェルトで、長期安定して排ガス中のダストろ過を行うことができ、フィルターの弾力性を向上することで、パルス、逆洗、振動により表面のダストを除去する際、振動の力を効率よく伝達することができるフィルター用フェルトを提供することを可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるPPS短繊維の断面形状は、中空断面が好ましく、その中空率は好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜40%である。中空率が5%未満では十分な比容積、圧縮率を得ることができず、50%より大きくなると後工程で破裂の問題が発生する。その結果十分な比容積、圧縮率を得ることができなくなる。
【0013】
また繊維断面形状において、突起物が2つ以上5つ以下存在することが好ましく、突起物が3つ以上5つ以下存在することがより好ましい。6つ以上の突起物が存在しても目的を達成することはできるが、突起物を大きくしなければ効果が小さくなる。突起物が存在することにより圧縮率を低くすることができる。
【0014】
本発明に用いるPPS短繊維の比容積は50cm/g以上が好ましく、60cm/g以上がより好ましく、70cm/g以上がさらに好ましく、90cm/g以上が最も好ましい。圧縮率は75%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。比容積が50cm/g以下、あるいは圧縮率が75%以上であれば、PPS短繊維をウェッブとしニードルパンチなどにより交絡させたフェルトとした時に、一定の嵩を保持した場合、柔らかい、いわゆる腰のないフェルトとなり、振動の力を吸収してしまい、振動の力を効率よく伝達することができなくなる。
【0015】
さらに、捲縮形態が立体捲縮を有することが好ましい。これは機械捲縮より、望ましい比容積、圧縮率が得やすいためである。
【0016】
PPS短繊維の繊度は2.0〜20dtex、好ましくは2.5〜17dtexである。2.0dtexより小さくなると圧縮率が高くなり好ましくない。また20dtexより大きくなると製造時の繊維の冷却速度が遅くなり生産性が悪くなる問題がある。
【0017】
次にこのPPS短繊維を得るために用いる樹脂について説明する。用いる樹脂は線状PPSポリマーが好ましく、ASTM D−1238−82法で荷重49N、温度315.6℃の条件で測定したPPSのメルトフローレートが50〜160g/10minがより好ましい。バグフィルター用フェルトのように厳しい各種用途には単なる耐熱性や耐薬品性のみならず、例えばフィルター形体に必要な強度なども併せ持つ必要がある。そのため、例えば繊維としての高い強力を得るために、重合段階でトリクロロベンゼンなどを用いて未反応の塩素基を残しておき、紡糸前のポリマーの段階で酸素雰囲気あるいはチッソ雰囲気での高温処理によって未反応塩素基により架橋反応を起こさせ重合度を増し、繊維として必要な初期強度を得る方法がある。また、比較的メルトフローレート(低分子量)の低いポリマーでも、紡糸前に、酸素雰囲気で一時的に架橋させて分子量を大きくすることによっても繊維自体は強力など必要物性を満足させることができる。しかし、この様な方法では比較的低分子量ポリマーを一次的な架橋反応によって得られたポリマーよりなる繊維であり、ESCAなどでイオウ原子を中心とする結合を測定すると既に−SO−や−SO−の結合が含まれ、一次的に架橋や酸化により重合度を高くしたこの様な方法では長期に渡る耐熱性を得ることはできない。本発明のPPSは、ASTM D−1238−82法で荷重49N、温度315.6℃の条件で測定したPPSのメルトフローレートが50〜160g/10minからなる線状ポリマーを紡糸してなるものであり、例えば、ESCAでイオウ原子を中心とする結合状態を測定した場合、その95アトミック%以上がスルフィド結合であることが好ましく、98アトミック%以上がスルフィド結合であることより好ましく、100アトミック%がスルフィド結合であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明でいうPPSに代表されるポリアリーレンスルフィドは、−Ar−S−(Arはアリーレン基)で表されるアリーレンスルフィドを繰返し単位とする芳香族ポリマーである。アリーレン基としては、p−フェニレンの他に、例えばm−フェニレン、ナフチレン基などさまざまなものが知られているが、その耐熱性、加工性、経済的観点から言ってもp−フェニレンスルフィドの繰返し単位が最も優れる。
【0019】
本発明でいうPPSのASTM D−1238−82法で荷重49N、温度315.6℃の条件で測定したメルトフローレートは50〜160g/10minである。十分な長期耐熱性や強度を得るためには線状ポリマーでなおかつ重合度がより高いほうが好ましい。しかし、メルトフローレートが50g/10min以下では高温でもあまりにも粘性が高く、紡糸時の圧損上昇などから生産性と言う面では好ましくない。また、またメルトフローレートが160g/10min以上になる、即ち分子量が小さくなると紡糸時の圧損上昇などは抑えることができるが、分子量分布が大きくなり、低圧損状態でより高分子量ポリマーが含まれると、高分子量ポリマーの溶融状態が悪く紡糸時の糸切れなどに影響を及ぼす可能性がある。また、長期耐熱性の観点からも低分子量化は望ましくない。この様な観点からPPSのメルトフローレートは50〜160g/10min、さらに好ましくは80〜140g/10minの範囲である。また、線状ポリマーのPPSは、架橋型や半架橋型のPPSに比べると、長期耐熱性に優れるばかりでなく溶融時の熱安定性も優れるため加工性にも優れる。
【0020】
本発明で使用するPPSは、極性有機溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物を重合反応させる方法により得ることができる。アルカリ金属硫化物は、例えば、硫化ナトリウム、硫化リチウム、硫化カリウム等、あるいはこれらの混合物などが使用することができる。これらの中でも硫化ナトリウムが最も経済的に優れることから一般的に用いられる。
【0021】
また、ジハロ化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼンなどのジハロベンゼン、1,4−ジクロロナフタレン等のジハロナフタレン、その他、ジハロ安息香酸、ジハロベンゾフェノン、ジハロフェニルエーテルなどを上げることができるが、物性および経済的観点よりp−ジクロロベンゼンが最も好ましく使用される。その他、一般的には、多少の分岐構造を得るために1分子当り2個ではなく3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を少量併用することも知られており、トリクロロベンゼンなどが上げられるが、本発明でいう線状ポリマーとはこの様な半架橋構造を実質的に有さないものである。
【0022】
次に本発明の中空断面と中空異型断面PPS繊維を得る方法について説明する。前記した樹脂を用い、溶融紡糸法により得ることができる。ノズルより押し出し500〜2000m/minの速度で紡糸し、未延伸糸を得る。このときノズルは、図1〜6のノズル孔を持つノズルを用いることで中空断面あるいは中空異型断面の繊維を得ることができる。
しかし、立体的な捲縮を得るために糸断面方向で収縮率の差を与える必要がある。そのような未延伸糸を作る方法としては、クエンチの風速を1.2m/sec以上、好ましくは1.6m/sec以上とし、溶融されたポリマーの冷却速度を変更する方法、サイドバイサイドによりメルトフローレートが少なくとも10g/10min、好ましくは20g/10min以上異なる樹脂を用いる方法、サイドバイサイドにより一方のポリマーの滞留時間を0.5分以上長くすることで収縮差をつける方法、サイドバイサイドにより一方のポリマーに架橋型あるいは半架橋型の樹脂を用いる方法、サイドバイサイドにより一方に相溶性のある樹脂である例えばポリケトンサルファイド、PEEKなどを0.1〜50wt%、好ましくは1〜20wt%混合する方法、さらにはサイドバイサイドにより一方に相溶性のないポリオレフィン樹脂(例えばポリプロピレンなど)を0.1〜5wt%、好ましくは0.2〜2wt%混合する方法などがある。以上により得られた未延伸糸を常法により所望する繊度になるよう延伸倍率を設定し、延伸し、乾燥後カットし短繊維を得ることができる。このとき、収縮による立体的な捲縮を発現させるため、140℃以上、好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上の温度条件下で延伸することが望ましい。
【0023】
以上により得られた中空断面、中空異型断面PPS繊維の少なくとも1種を30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上含有した不織布を少なくとも一層に使用することで振動の力をろ過面に効率よく伝えることができるフィルター用フェルトを得ることができる。例えば一般的なバグフィルター用のフェルトでは耐熱性、耐薬品性に優れた例えばPPS短繊維などが多く用いられているが、構造としては、ろ過層、支持層、クリーンガスサイド層で構成されている場合が多い。ろ過層(最外層)は繊維の表面積を上げるため、4dtex以下の丸断面の繊維、あるいはY断面や扁平断面などの異型断面の繊維が用いられることが多い。支持層は高温下での寸法安定性向上のために、PPS繊維よりなる織布が多く用いられていることが多い。クリーンガスサイド層は2.2dtex以上の丸断面繊維が用いられることが多い。
【0024】
本発明のフィルター用フェルトは、特にこのろ過層の反対側となるクリーンガスサイド層に用いることで効力を発揮することができる。したがって、本発明のフェルト層と、本発明のフェルトを構成する繊維より細く、密度も1.2倍以上高いろ過層であるフェルト層との二層構造以上が好ましいバグフィルター用フェルトの構成である。
【0025】
ろ過層、支持層、クリーンガスサイド層には、PPS繊維の他、要求により、m−アラミド繊維、ポリイミド繊維、PTFE繊維などを併用することができる。しかし、回収後の処理の観点からはPPS繊維100%で構成されることが好ましい。
【0026】
以上のフェルトを得る方法としてはカードウェッブを積層し、ニードルパンチにより交絡させることで得られる。このとき、ろ過層はろ過効率を上げるため一定以上の密度に仕上げる必要があるが、クリーンガスサイド層は製品規格によりある一定以上の嵩を必要とする。このとき比容積の低い繊維あるいは圧縮率の高い繊維の場合、前記したとおり、フェルトに腰がなく、非常に柔らかい製品となる。このときの問題点についてバグフィルターの例で説明する。バグフィルターのパルスジェットタイプは、例えば、筒径155φ、長さ6mのろ布は、小さい設備で数十本、火力発電所などの大型の設備では数万本の単位で使用される。筒状ろ布に対して、ろ過は外側から内側へ向かってガスが流れ、一定圧力や一定時間で上部パルスエアーによる物理的衝撃によってダスト払い落とし操作が繰り返される。しかしクリーンガスサイド層のフェルトに腰がないと衝撃が吸収され十分にダストを払い落とすことができず、長時間の衝撃が必要となり、繊維へのダメージも大きくなり、長期間使用に不利となる。したがって、クリーンガスサイド層に用いる繊維の比容積、圧縮率が重要になるのである。
【0027】
ろ過層と支持層とクリーンガスサイド層の一体化処理が、ニードルパンチ、あるいはウォーターパンチいずれかの方法によって行うことが出来る。また、ろ過層と支持層とクリーンガスサイド層の積層一体化後、140〜270℃の加熱プレスを行ってもよい。さらに、ろ過層と支持層とクリーンガスサイド層を積層一体化し熱プレスした後に、180℃以上の熱処理後、ろ過面層の毛焼きを行う、あるいは、180℃の熱処理後に赤外線、電熱バーによるろ過面溶融処理を行うことが出来る。あるいは、ろ過層最表面をより平滑化させるために、毛焼き処理の後に、熱カレンダー処理を行うことも出来る。
【0028】
また、ろ過層と支持層とクリーンガスサイド層の積層一体化、熱プレス、熱処理、フェルト表面処理などを行った後にフッ素系などの樹脂加工をすることが出来る。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
なお、測定方法は下記の通りである。
【0030】
比容積および圧縮率:JIS L 1097 合成繊維ふとんわた試験方法に準拠して評価した。カードウエッブを10cm×10cmで約5gになるよう重ねる。1時間以上放置したのちサンプルの質量を正確に測る(Wg)。60gの天板を載せ、更に500gのおもりを30秒載せ、おもりのみ取り除き30秒放置する。この操作を3回繰り返し、おもりを取り除き30秒後に四隅の高さを測定し平均値を求める(H0mm)。同サンプルに60gの天板を載せ、更に1000gのおもりを30秒載せ、この時の四隅の高さを測定し平均値(H1mm)を求める。
比容積(cm/g)=10×10×H0/10/W
圧縮率(%)=(H0−H1)/H0×100
【0031】
繊度:JIS L−1015−8.5(1999)の方法に準じて測定した。
【0032】
中空率:断面を光学顕微鏡にて撮影し、面積比より求めた。
中空率(%)=中空部面積/外周円の面積×100
【0033】
パルスエアーによるダストの払い落とし性(ドイツ規格、VDI N3926):
ろ過速度:2.0mm/min、ダスト濃度:5g/m、ダスト種類:Pural NF、温度:130℃、ダスト払い落とし:1000Pa、エージング間隔:5s、タンク圧:0.5MPa、パルスエアー圧:1017mbar、パルス時間:60ms
手順
(1)サンプルを装着した段階で、ダストのない状態で、サンプルフェルトの持つ初期圧損Paを測定する。
(2)第1段階:圧損が1000Paに達したときにダスト払い落としを行う。この操作を30回繰り返す。
(3)第2段階:ダスト無で、5s間隔による10000回のエージングを行う。
(4)第3段階:安定化操作として、ダスト無でパルスエアーによる払い落とし操作のみを10回行う。
(5)第4段階:ダストを流し、圧損1000Paでのダスト払い落としを2時間実施する。その最終時の、ダスト払い落とし直後の残留圧損Paを測定する。
【0034】
<実施例1>
メルトフローレートが110g/10minであるPPSを図1のノズルよりポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=2.0g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。このときの冷却条件は1.6m/sec、25℃であった。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率2.5、延伸温度160℃にて延伸し、乾燥後64mmにカットし中空断面PPS短繊維を得た。繊度は6.7dtex、中空率=25%、立体捲縮を持ち、比容積=98cm/g、圧縮率=71%であった。この繊維を100%でクリーンガスサイド層用カードウェッブ(目付200g/m)とした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS(東洋紡績株式会社製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、支持層であるPPS織布(500dtex、120フィラメントPPS長繊維使用平織物、織密度タテ/ヨコ=26/20本/2.54cm、目付104g/m)に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンガスサイド層用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付、521g/m、厚さ1.8mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0035】
<実施例2>
メルトフローレートが110g/10minであるPPSポリマーを図1のノズルよりポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=2.1g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。このときの冷却条件は3.0m/sec、25℃であった。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率1.8、延伸温度160℃にて延伸し、乾燥後64mmにカットし中空断面PPS短繊維を得た。繊度は14dtex、中空率=22%、立体捲縮を持ち、比容積=90cm/g、圧縮率=65%であった。この繊維を100%でクリーンガスサイド層用カードウェッブ(目付200g/m)とした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS(東洋紡績製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、実施例1と同様なPPS基布に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンガスサイド層用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付530g/m、厚さ2.1mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0036】
<比較例1>
メルトフローレートが110g/10minであるPPSポリマーを丸型ノズルよりポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=2.1g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。このときの冷却条件は1.0m/sec、25℃であった。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率2.5、延伸温度160℃にて延伸し、スタッフィングボックスにより捲縮を付与し、乾燥後64mmにカットし丸断面PPS短繊維を得た。繊度は7.0dtex、機械捲縮を持ち、比容積=65cm/g、圧縮率=65%であった。この繊維を100%でクリーンガスサイド層用カードウェッブ(目付200g/m)とした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS(東洋紡績製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、実施例1と同様なPPS基布に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンガスサイド層用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付515/m、厚さ1.8mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0037】
<実施例3>
実施例1で得られた6.7dtexの中空断面PPS短繊維を60重量%、比較例1で得られた7.0dtexの丸断面PPS短繊維を40重量%混綿し、クリーンガスサイド層用カードウェッブ(目付200g/m)とした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS(東洋紡績製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、実施例1と同様なPPS基布に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンガスサイド用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付530/m、厚さ1.8mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0038】
<比較例2>
実施例1で得られた6.7dtexの中空断面PPS短繊維を10重量%、比較例1で得られた7.0dtexの丸断面PPS短繊維を90重量%混綿し、クリーンガスサイド層用カードウェッブ(目付200g/m)とした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS(東洋紡績製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、実施例1と同様なPPS基布に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンサイド用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付505/m、厚さ1.8mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0039】
<実施例4>
メルトフローレートが110g/10minであるPPSポリマーを図5のノズルよりポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=2.7g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。このときの冷却条件は3.0m/sec、25℃であった。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率2.0、延伸温度160℃にて延伸し、乾燥後64mmにカットし中空異型断面PPS短繊維を得た。繊度は11dtex、中空率=22%、立体捲縮を持ち、比容積=65cm/g、圧縮率=61%であった。この繊維を100%でクリーンガスサイド層用カードウェッブ(目付200g/m)とした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS短繊維(東洋紡績株式会社製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、実施例1と同様なPPS基布に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンサイド用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付525g/m、厚さ2.0mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0040】
<比較例3>
メルトフローレートが110g/10minであるPPSポリマーを丸型ノズルよりポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=1.9g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。このときの冷却条件は1.0m/sec、25℃であった。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率2.2、延伸温度160℃にて延伸し、スタッフィングボックスにより捲縮を付与し、乾燥後64mmにカットし丸断面PPS短繊維を得た。繊度は7.0dtex、機械捲縮を持ち、比容積=65cm/g、圧縮率=70%であった。この繊維を100%でクリーンガスサイド層のカードウェッブ200g/mとした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS短繊維(東洋紡績株式会社製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、実施例1と同様なPPS基布に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンサイド用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付509g/m、厚さ1.8mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0041】
<実施例5>
実施例4で得られた11dtexの中空異型断面PPS短繊維を60重量%、比較例3で得られた7.0dtexの丸断面PPS短繊維を40重量%混綿し、クリーンガスサイド層のカードウェッブ200g/mとした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS短繊維(東洋紡績株式会社製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、実施例1と同様なPPS基布に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンサイド用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付518g/m、厚さ1.9mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0042】
<比較例4>
実施例4で得られた11dtexの中空異型断面PPS短繊維を10重量%、比較例3で得られた7.0dtexの丸断面PPS短繊維を90重量%混綿し、クリーンガスサイド層用カードウェッブとした。この繊維を100%でクリーンガスサイド層のカードウェッブ200g/mとした。あらかじめ2.2dtex丸断面繊維のPPS短繊維(東洋紡績製プロコン(登録商標))100%からなるウエブをクロスレイヤーにより、実施例1と同様なPPS基布に積層し、ニードルパンチによりろ過層フェルト(目付200g/m)と支持層の積層品を作成した。この積層品の支持層側(ろ過層と反対側)に上記クリーンサイド用カードウェッブを積層し、さらに両面よりニードルパンチで一体化させた。得られたフェルトを210℃の熱カレンダーによってプレスおよび、熱セットを行い、ろ過層には、ガス毛焼きを施して、目付501g/m、厚さ1.9mmのバグフィルター用フェルトを得た。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明では、従来、一般的に使用されているフィルター用フェルトのダストの除去効果を改善するために、中空率が5〜50%、比容積が50cm/g以上、圧縮率が75%以下である中空断面ポリフェニレンサルファイド短繊維を30%以上使用した不織布を少なくとも1層以上使用することによって、効率良く残存率を下げることができた。このことからパルスエアーなどの稼動時間を長くすることができ、フィルター寿命を長期化できるフィルター用フェルトを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明で使用可能な中空断面繊維用ノズルを示す一例である。
【図2】本発明で使用可能な中空断面繊維用ノズルを示す一例である。
【図3】本発明で使用可能な中空断面繊維用ノズルを示す一例である。
【図4】本発明で使用可能な中空で、2つの突起物が存在する断面形状繊維用ノズルを示す一例である。
【図5】本発明で使用可能な中空で、3つの突起物が存在する断面形状繊維用ノズルを示す一例である。
【図6】本発明で使用可能な中空で、4つの突起物が存在する断面形状繊維用ノズルを示す一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空率が5〜50%、比容積が50cm/g以上、圧縮率が75%以下である中空断面ポリフェニレンサルファイド短繊維を30%以上使用した不織布を少なくとも1層以上使用することを特徴とするフィルター用フェルト。
【請求項2】
前記中空断面ポリフェニレンサルファイド短繊維が、少なくとも2つの突起物が存在する断面形状である中空異型断面ポリフェニレンサルファイド短繊維であることを特徴とする請求項1に記載のファルター用フェルト。
【請求項3】
前記ポリフェニレンサルファイド短繊維が比容積が70cm/g以上、圧縮率が65%以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルター用フェルト。
【請求項4】
前記ポリフェニレンサルファイド短繊維が立体捲縮を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフィルター用フェルト。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−179938(P2008−179938A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336025(P2007−336025)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】