説明

フィルター用不織布およびそれを用いたフィルター

【課題】後加工によるエレクトレット処理を行わずとも高い捕集性能を有し、使用後の廃棄が容易であるフィルター用不織布を提供する。
【解決手段】本発明は、生分解性連続フィラメントからなる部分的に熱圧着された長繊維不織布であって、フィルター通過速度3.0m/minにおける圧力損失が50Pa以下、QF値が0.02〜0.09Pa−1で、剛軟度が1〜25mNであることを特徴とするフィルター用不織布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後加工によるエレクトレット処理を行わずとも高い捕集性能を有し、使用後の廃棄が容易であるフィルター用不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、粉塵を除去するためのエアーフィルター、あるいは液体フィルターの材料として種々の不織布が提案されている。特に近年では、剛性に優れる熱圧着タイプの長繊維不織布がプリーツ形状のフィルターとして好適に使用されている。プリーツ形状のフィルター材を使用すると濾過面積を広く取れるため濾過流速を低減することが可能であり、粉塵の捕集能力の向上や機械圧力損失の低減を図れるという利点がある。
【0003】
しかしながら、従来ある熱圧着タイプの長繊維不織布は、粉塵の捕集性能と圧力損失のバランスに優れ、かつプリーツするに十分な剛性を有するものではなかった。これはすなわち従来の技術では、長繊維不織布を構成する繊維の繊維径は細くても10μm程度であり、この繊維の細さによる目開き具合のみで不織布の粉塵捕集性能や圧力損失を制御しようという設計思想をもつものであったためである。
【0004】
そこで、粉塵捕集性能を向上させるため不織布をエレクトレット化する技術がある。エレクトレットの方法としては、高電圧コロナ処理法、水流帯電法などの方法が用いられているが、不織布を製造する工程の後工程としてエレクトレット処理を行う必要があるため、製造コストがかかるという問題点があった。
【0005】
一方、既存の空調機器、空気清浄器、キャビンフィルタ、各種家電に組み込まれたフィルタユニットなどは、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイドなどの繊維が組み合わせされて構成されており、使用した後のフィルタユニットは、焼却処理や埋没処理などによって処分していた。
しかしながら、焼却処理では、多額の費用が必要となり、その上、焼却時の排煙や二酸化炭素の発生や有毒ガス発生の可能性があり、大気汚染や地球の温暖化という点で問題があった。また、埋没処理する場合には、濾材を構成する不織布が半永久的にその形状を維持するため、土壌汚染の原因になる可能性があるうえ、廃棄のために極めて広大な土地が必要になるといった問題があった。
【0006】
前記廃棄物公害問題を解決するため、微生物による代謝分解性や加水分解性を有する素材を用いたエレクトレット濾材の検討がなされている。例えば特許文献1には乳酸重合体からなるエレクトレット濾材が提案されている。当該技術によれば、乳酸重合体を主成分とする繊維からなる不織布に直流コロナ電界を印加し、エレクトレット濾材を製造している。しかし、不織布を製造したのちに後工程としてエレクトレット処理が必要となるため、製造コストがかかるという問題点があった。
【0007】
また、特許文献2には生分解性を有する不織布に結晶化促進剤として有機カルボン酸アミドを添加した不織布によって構成されているフィルターが提案されている。当該技術によれば不織布に有機カルボン酸アミドを添加することにより結合材であるポリ乳酸の結晶核の形成を促進し、不織布の剛性が向上した結果、フィルターとして使用したときに風圧等による変形が抑制され、圧力損失の急激な上昇を防ぐことが記載されている。しかし、得られたフィルターは粉塵の捕集性能に優れているものの圧力損失が大きく、捕集性能と圧力損失のバランスは十分なものではなかった。
【0008】
さらに特許文献3には、生分解性合成繊維からなる積層不織布にヒンダードアミン系添加剤またはトリアジン系添加剤を含有するエレクトレット化されたフィルターが提案されている。当該技術によれば、ヒンダードアミン系添加剤またはトリアジン系添加剤を不織布に添加することにより、特に高いエレクトレット性能を保持させることができると記載されている。しかし、不織布を製造したのちに積層加工およびエレクトレット処理を必要とするため、生産性が高いものではなかった。
【特許文献1】特許第3716992号公報
【特許文献2】特開2007−21428号公報
【特許文献3】特開2003−260321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、後加工によるエレクトレット処理を行わずとも高い捕集性能を有し、使用後の廃棄が容易であるフィルター用不織布を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
すなわち、
(1)生分解性連続フィラメントからなる部分的に熱圧着された長繊維不織布であって、フィルター通過速度3.0m/minにおける圧力損失が50Pa以下、QF値が0.02〜0.09Pa−1で、縦方向の剛軟度が1〜25mNであることを特徴とするフィルター用不織布。
【0011】
(2)前記生分解性連続フィラメントが、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型脂肪族モノアミドと、ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤を含有することを特徴とする前記(1)に記載のフィルター用不織布。
【0012】
(3)脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型脂肪族モノアミド0.1〜5.0wt%と、ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤0.05〜10wt%を含有することを特徴とする前記(2)に記載のフィルター用不織布。
【0013】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のフィルター用不織布がプリーツ形状に加工されてなることを特徴とするフィルター。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、後加工によるエレクトレット処理を行わずとも高い捕集性能を有し、使用後の廃棄が容易であるフィルター用不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のフィルター用不織布は、生分解性連続フィラメントが部分的に熱圧着されて一体化したものである。
【0016】
前記生分解性連続フィラメントの原料樹脂としては、自然環境下で、日光、紫外線、熱、水、酵素、微生物等の作用により化学的に分解され、さらには形態的に崩壊するものであれば何ら制限されるものではないが、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート系樹脂等が好適に用いられる。またこれらの樹脂を複数種類複合して用いてもよく、複数種共重合して用いてもよい。また前記生分解性樹脂を複合する方法としては、溶融した複数種類の樹脂を混合する方法や、2種類の生分解性樹脂を芯鞘型、あるいはサイドバイサイド型に複合する方法が好ましい方法である。
【0017】
またさらに、前記生分解性連続フィラメントの原料樹脂は、熱安定性や強度の面から、少なくともポリ乳酸系樹脂を含んでなるものが好ましく、具体的にはポリ乳酸系樹脂の含有量が50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であることがより好ましい。かかるポリ乳酸系樹脂としては、ポリ(D−乳酸)と、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸の共重合体、あるいはこれらのブレンド体が好ましいものである。最も好ましいポリ乳酸系樹脂は、構成成分の60重量%以上がL−乳酸からなるポリ乳酸である。
【0018】
かかるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は5万〜30万が好ましく、より好ましくは7万〜30万である。重量平均分子量が5万を下回る場合は、繊維の強力が低くなる傾向があり、また、重量平均分子量が30万を越える場合は、粘度が高いためノズルから押し出したポリマーの曳糸性が乏しく、高速延伸ができにくくなり、究極的には未延伸状態になり、十分な繊維強度を得ることができない傾向がでてくる。
【0019】
本発明のフィルター用不織布は、QF値が0.02〜0.09Pa−1の範囲にあるものである。QF値が0.02Pa−1を下回る場合は、捕集性能、圧力損失が十分でなく好ましくない。また、フィルター用不織布においては、不織布の目付や一体化の方法を考慮すると0.09Pa−1を上回るようなQF値を得ることは困難である。より好ましいQF値は0.03〜0.09Pa−1である。なお、本発明におけるQF値は以下の式により算出し、小数点以下第三位を四捨五入したものである。
QF値(Pa−1)=−[ln(1−[捕集性能(%)]/100)]/[圧力損失(Pa)]
前記式における捕集性能と圧力損失は以下の測定方法、あるいはこれと同等の結果が得られる測定方法で測定されるものである。すなわち不織布の任意の部分から、15cm×15cmのサンプルを3個採取し、それぞれのサンプルについて、図1に示す捕集性能測定装置で捕集性能と圧力損失を測定するものである。この捕集性能測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側にダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4、ブロワ5を連結した構成となっている。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を接続し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができる。捕集性能の測定にあたっては、ポリスチレン粒子を含む溶液(例えばナカライテック製0.309Uポリスチレン10重量%溶液)を蒸留水で希釈し(例えばナカライテック製0.309Uの場合は200倍まで希釈)、ダスト収納箱2に充填する。次にサンプルMをホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が3.0m/minになるように流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を2万〜7万個/(2.83×10−4(0.01ft))の範囲で安定させ、サンプルMの上流のダスト個数D2および下流のダスト個数D1をパーティクルカウンター6(例えばリオン社製、KC−01D)でダスト粒径0.3〜0.5μmの範囲についてそれぞれ測定し、下記計算式にて求めた数値の小数点以下第1位を四捨五入した値を捕集性能(%)とするものである。
【0020】
捕集性能(%)=〔1−(D1/D2)〕×100
ここで、D1:下流のダスト個数(3回の合計)
D2:上流のダスト個数(3回の合計)
また、圧力損失(Pa)は上記捕集性能測定時のサンプルMの上流と下流の静圧差を圧力計8で読み取り、3サンプルの平均値の小数点以下第一位を四捨五入して算出するものである。
【0021】
本発明のフィルター用不織布は1〜25mNの縦方向の剛軟度を有することが必要である。縦方向の剛軟度が1mNを下回る場合は、不織布の強度や形態保持性が低くなる傾向であり好ましくない。特にプリーツ加工性が低下するため好ましくない。縦方向の剛軟度については不織布の目付や一体化の方法を考慮すると、フィルター用不織布においては、前記QF値を満たしつつ25mNを上回る値とするのは困難である。より好ましい縦方向の剛軟度は1〜20mNであり、さらに好ましくは1〜15mNである。ここで本発明における剛軟度の測定は、JIS−L1085(1998年版)の6.10.3(a)に記載のガーレ試験機(例えば株式会社東洋精機製作所製ガーレ・柔軟度試験機)にて実施するものである。ガーレ試験機での剛軟度は以下の方法により求められる。すなわち、試料から長さ38.1mm(有効試料長L25.4mm)、幅d25.4mmの試験片を試料の任意の20点から採取する。ここで長繊維不織布においては、不織布の長手方向を試料の長さ方向とする。採取した試験片をそれぞれチャックに取り付け、可動アームA上の目盛り1−1/2”(1.5インチ=3.81cm)に合わせてチャックを固定する。次に振り子Bの支点から下部のおもり取付孔a、b、cに適当なおもりW、W、W(g)を取り付けて可動アームAを定速回転させ、試験片が振り子Bから離れるときの目盛りRG(mgf)を読む。目盛りは小数点以下第一位の桁で読む。ここでおもり取付孔に取り付けるおもりは適宜選択できるものであるが、目盛りRGが4〜6になるよう設定するのが好ましい。得られた目盛りRGの値から下記式を用いて剛軟度の20回の平均値を求め、小数点以下第一位を四捨五入して試料の剛軟度Br(mN)を算出するものである。
Br=RG×(aW+bW+cW)×{(L−12.7)/d}×3.375×10−5
本発明において、前記生分解性連続フィラメントは、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含有するものが好ましい。その含有量としては、不織布全重量に対して0.1〜5.0wt%が好ましい。
【0022】
本発明では、滑材としての効果を発揮する脂肪族ビスアミドやアルキル置換型の脂肪族モノアミドを、スパンボンド不織布を構成する生分解性繊維の繊維表面に存在させることにより、繊維表面の摩擦抵抗が低減され、捕集した粉塵が繊維表面から離脱しやすくなり、フィルターが目詰まりしにくい傾向となるため好ましいものである。さらに生分解性繊維の繊維間の摩擦抵抗も低減されるため、不織布の柔軟性も向上し製袋加工性も向上する傾向となるものである。さらにまたスパンボンド不織布にエンボスロール等で熱処理を行う際には、熱ロールからの離型性が向上し、操業性を安定させることもできるという効果も奏する。よって本発明のフィルター用不織布においては、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを不織布全体に対して0.1〜5.0wt%含有するスパンボンド不織布を、粉塵と接する面に使用するのが好ましい使用法である。
【0023】
前記脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドの含有量が0.1wt%よりも少ない場合は、上記の効果が不十分となる場合があり、含有量が5.0wt%を超える場合は、紡糸性が不安定となる傾向がある。より好ましい含有量の範囲は0.3〜4.0wt%、最も好ましい範囲は0.5〜2.0wt%である。脂肪族ビスアミドまたはアルキル置換型の脂肪族モノアミドをそれぞれ単独で用いてもよいし、両者を併用して含有するものでもよい。両者を併用して含有する場合、両者の含有量の合計が0.1〜5.0wt%となるように調整するのが好ましく、より好ましい含有量の合計の範囲は0.3〜4.0wt%、最も好ましい範囲は0.5〜2.0wt%である。
【0024】
また、脂肪族ビスアミドやアルキル置換型の脂肪族モノアミドは、繊維表面もしくは表面近傍に存在することが好ましいから、前記生分解性連続フィラメントを芯鞘型繊維とし、その芯鞘型繊維の鞘成分のみにそれらを含有する形態も好ましいものである。本発明において生分解性フィラメントに芯鞘型繊維を採用し、鞘成分のみに脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含有させる形態は、芯成分にそれらを含有させる必要がないことから、生産安定性や製造コスト面から好ましい形態である。脂肪族ビスアミド、アルキル置換型の脂肪族アミドを鞘成分に含有する芯鞘型繊維は、鞘成分に前記量の脂肪族ビスアミド、アルキル置換型の脂肪族アミド、または両者を含有させて紡糸すればよい。
【0025】
なお、本発明における芯鞘型繊維は、芯成分の周りを鞘成分が同心円状に、あるいは偏心円状に被覆してなるもの、さらには芯成分の周りに鞘成分を断続的に配してなるものが最も好ましい形態である。また芯:鞘の重量比率は特に制限されるものではないが、30:70〜95:5の範囲が好ましく、40:60〜90:10の範囲がより好ましい。
本発明において用いられる脂肪族ビスアミドは特に制限されるものではないが、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、および芳香族系脂肪酸ビスアミド等であり、例えばメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスバルミチン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
【0026】
また、本発明において用いられるアルキル置換型の脂肪族モノアミドとしては、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置換した構造の化合物を示し、N−ラウリルラウリル酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
【0027】
脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを、紡糸するための原料となる生分解性樹脂に添加する方法は、マスターチップを作製し添加する方法や、溶融直前に粉体を添加する方法など、何ら制限されるものではないが、予め原料樹脂と添加する物質を加熱溶融混合したマスターチップを作製し、これを紡糸の際に原料樹脂に必要量添加して、添加物質量を調整する方法が最も好ましい。
【0028】
本発明において、前記生分解性連続フィラメントは、ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤を少なくとも1種配合することが好ましい。この添加剤を非導電性繊維シートに含有させることにより、特に高いエレクトレット性能を保持させることが可能になる。
【0029】
上記ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤の添加量は、特に限定されないが、好ましくは不織布全重量に対して0.05〜10wt%の範囲がよく、更に好ましくは0.1〜7wt%の範囲にするとよい。添加量が0.05wt%未満では、目的とする高レベルのエレクトレット性能を得ることが難しく、また10wt%を超えるほど多く配合すると、製糸性が悪化し、かつコスト的にも不利になる。ヒンダードアミン系添加剤またはトリアジン系添加剤をそれぞれ単独で用いてもよいし、両者を併用して含有するものでもよい。両者を併用して含有する場合、両者の含有量の合計が0.05〜10wt%となるように調整するのが好ましく、更に好ましい含有量の合計の範囲は0.1〜7wt%である。
【0030】
上記2種類の添加剤のうちヒンダードアミン系添加剤としては、ポリ〔((6−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)〕(チバ・ジャパン製、“キマソープ”944(登録商標))、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(チバ・ジャパン製、“チヌピン”622)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)(チバ・ジャパン製、“チヌピン”144(登録商標))などが挙げられる。
【0031】
また、トリアジン系添加剤としては、前述の“キマソープ”944(登録商標)のほかに、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−((ヘキシル)オキシ)−フェノール(チバ・ジャパン製、“チヌピン”1577(登録商標))などを挙げることができる。これらのなかでも特にヒンダードアミン系添加剤を使用することが好ましい。
【0032】
ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤を、紡糸するための原料となる生分解性樹脂に添加する方法は、マスターチップを作製し添加する方法や、溶融直前に粉体を添加する方法など、何ら制限されるものではないが、予め原料樹脂と添加する物質を加熱溶融混合したマスターチップを作製し、これを紡糸の際に原料樹脂に必要量添加して、添加物質量を調整する方法が最も好ましい。
【0033】
なお、前記生分解性連続フィラメントには、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤や艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、親水剤等を添加してもよい。
【0034】
本発明において、前記長繊維不織布を構成する生分解性連続フィラメントの繊度は1〜10デシテックスが好ましい範囲である。生分解性連続フィラメントの繊度が1デシテックスを下回る場合は、不織布の圧力損失が高くなる傾向であり、さらに生産時に糸切れが生じやすいなど生産安定性の面からも好ましくない。また、生分解性連続フィラメントの繊度が10デシテックスを上回る場合は、不織布の捕集性能が低下する傾向であり、さらに生産時にフィラメントの冷却不良による糸切れが生じやすいなど生産安定性の面からも好ましくない。より好ましい繊度の範囲は、1〜8デシテックスの範囲である。ただし、本発明の性能を損なわない範囲で、1〜10デシテックス以外の繊維が含まれていてもかまわない。
【0035】
なお、ここでいう繊度は、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維を任意に選び出してその太さ(μm)を測定する。繊維は断面が円形と仮定し、太さを繊維径とする。それらの平均値の小数点以下第二位を四捨五入して算出した繊維径とポリマーの密度から繊度を算出し、小数点第三位を四捨五入して求める。繊維断面が非円形の場合は、内接円の直径と外接円の直径の平均値を繊維径と仮定し、求める。
【0036】
さらに、本発明において、前記生分解性連続フィラメントの断面形状は何ら制限されるものではないが、円形、中空丸形、楕円形、あるいはX型、Y型等の異形、多角形、多葉形等が好ましい形態である。
【0037】
本発明における熱圧着部分とは、熱圧着処理によって不織布の厚みが不織布全体の40%以下に圧縮された部分を指す。本発明においては、この熱圧着部分を有する、すなわち、部分的熱圧着されたものである。
【0038】
ここで本発明における不織布全体の厚みは、以下の方法によって求められる。すなわち、不織布より幅方向に1m当たり10個のサンプルを採取し、JIS L1906(2006年度版)に基づいてディスク径10mm、荷重10kPaで測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入してシート全体の厚み(mm)を求める。
【0039】
また圧着部分の厚みは、以下の方法によって求められる。不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で50〜1000倍の圧着部分の断面写真を撮影する。圧着部分の厚みを圧着部分1箇所につき3箇所、計30箇所測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して圧着部分の厚み(mm)を求める。
【0040】
さらに、本発明において、熱圧着部分の形状は円形、楕円形、多角形、十字型等の異形、あるいはこれらの組合せ等、何ら制限されるものではないが、縦方向の剛軟度を向上させる効果があることから、縦方向が横方向より長い形状であることが好ましい。
【0041】
本発明のフィルター用不織布の熱圧着部分の圧着面積率は、不織布全面積に対して5〜50%が好ましい範囲である。圧着面積率が5%以上であれば、不織布の強度が十分に得られ、さらに表面が毛羽立ちやすくなることがない。圧着面積率が50%以下であれば、繊維間の空隙が少なくなって圧力損失が上昇し、捕集性能が低下することもない。より好ましい圧着面積率は5〜30%であり、最も好ましい圧着面積率は5〜15%である。
熱圧着部分の圧着面積率は、以下の方法によって求められる。すなわち、不織布からランダムに小片サンプル3個を採取し、走査型電子顕微鏡で1枚の写真の中に圧着部分が5箇所以上写るよう倍率を10〜200倍に調整したのちに、サンプル1個につき1枚、計3枚の写真を撮影する。写真1枚あたりの圧着部分の面積S’を測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して圧着部分の面積S(mm)を求める。また、撮影した写真の総面積S’を測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して写真の総面積S(mm)を求める。さらに得られた値から下記式を用いて熱圧着部分の圧着面積率RS(%)を求め、小数点以下第一位を四捨五入して算出する。
=S/S×100
不織布を部分的に熱圧着する方法は特に限定されるものではないが、熱エンボスロールによる接着、あるいは超音波発振装置とエンボスロールとの組み合わせによる接着が好ましいものである。特に熱エンボスロールによる接着は、不織布の強度を向上させる点から最も好ましいものである。熱エンボスロールによる熱接着の温度は、不織布の繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点より5〜50℃低いことが好ましく、10〜40℃低いことがより好ましい。熱エンボスロールによる熱接着の温度と、不織布の繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点の温度差が5℃を下回る場合は、熱接着が強くなり過ぎる傾向であり、好ましくない。50℃を上回る場合は熱接着が不十分となる場合があり好ましくない。
【0042】
本発明のフィルター用不織布における熱圧着部分の横方向の長さに対する縦方向の長さの比(以下、縦横比)は0.8〜20が好ましく、1〜15がより好ましく、2〜12がさらに好ましい。前記圧着部分の縦横比が0.8以上であれば、プリーツ加工に必要な不織布の剛性が十分に得られる。圧着部分の縦横比が20以下であれば、不織布の横方向の繊維接着点が多くなるため、不織布の横方向の引張強力が十分に得られる。なお、本発明において、縦方向とは不織布の長手方向を指し、横方向とは不織布の幅方向を指す。
【0043】
熱圧着部分の縦横比は、以下の方法によって求められる。すなわち、不織布からランダムに小片サンプル3個を採取し、走査型電子顕微鏡で20〜100倍の圧着部分の写真を撮影する。圧着部分の縦方向の最大長さL’および横方向の最大長さL’を圧着部分1箇所につきそれぞれ1箇所、計3箇所ずつ測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して圧着部分の縦方向の長さL(mm)および横方向の長さL(mm)を求める。得られた値から下記式を用いて熱圧着部分の縦横比RLを求め、小数点以下第二位を四捨五入して算出する。
=L/L
1つの不織布に熱圧着部分の形状が複数ある場合は、熱圧着部分の縦横比は以下の方法によって求められる。すなわち、1つの不織布に熱圧着部分の形状Aと形状Bが存在する場合、前記算出方法に基づき、熱圧着部分Aの縦方向の長さL1A(mm)、横方向の長さL2A(mm)、熱圧着部分Bの縦方向の長さL1B(mm)、横方向の長さL2B(mm)を求める。
【0044】
また熱圧着部分の圧着面積率についても、前記圧着面積率の算出方法に基づき、熱圧着部分Aの面積S1A(mm)、熱圧着部分Bの面積S1B(mm)、写真の総面積S(mm)を求め、さらに得られた値から下記式を用いて熱圧着部分Aの圧着面積率RSA(%)、熱圧着部分Bの圧着面積率RSB(%)を算出する。
SA=S1A/S×100
SB=S1B/S×100
得られた値から下記式を用いて熱圧着部分の縦横比Rを求め、小数点以下第二位を四捨五入して算出する。
=[{RSA/(RSA+RSB)}×L1A/L2A]+[{RSB/(RSA+RSB)}×L1B/L2B
本発明のフィルター用不織布の目付は90〜350g/mの範囲が好ましい。目付が90g/m以上であると、剛性が得られ捕集性能が低下する傾向がない。目付が350g/m以下であれば、目付が高すぎて圧力損失が上昇する可能性が低く、さらにはコスト面からも好ましい方向である。より好ましい目付の範囲は100〜320g/mである。さらに好ましくは150〜260g/mである。ここでいう目付は、縦50cm×横50cmのサイズの試料を3個採取して各重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入することで求められる。
【0045】
本発明のフィルター用不織布の引張強力は縦方向が50N/5cm以上、横方向が15N/5cm以上が好ましい。縦方向の引張強力が50N/5cm、横方向の引張強力が15N/5cmを下回る場合、プリーツ加工時にシートが破断する恐れがある。より好ましい引張強力の範囲は、縦方向が60N/5cm以上、横方向が20N/5cm以上である。さらに好ましくは縦方向が70N/5cm以上、横方向が25N/5cm以上である。
なお、本発明において、縦方向とは不織布の長手方向を指し、横方向とは不織布の幅方向を指す。
【0046】
ここでいう引張強力は、不織布からランダムに5cm×30cmの試料を3個採取して、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件で縦方向、横方向とも定速伸長型引張試験機にて引張試験を行い、試料が破断するまで引っ張ったときの最大強力を引張強力とする。シート縦方向、横方向それぞれの平均値について小数点以下第一位を四捨五入して算出する。
【0047】
次に本発明のフィルター用不織布の製造方法について説明する。
【0048】
本発明のフィルター用不織布は長繊維不織布であり、この長繊維不織布はスパンボンド法にて製造されるものが好ましい。本発明のフィルター用不織布の製造方法の好ましい形態は、生分解性重合体を紡糸口金から溶融押し出し後、これをエアサッカーにより牽引、延伸して生分解性連続フィラメントとし、これを開繊し移動捕集面上に堆積させて繊維ウェブを形成し、熱エンボスロールにて部分的熱圧着を施すことにより不織布を形成するものである。熱エンボス処理については、前述のとおりである。また、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型脂肪族モノアミド、ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤の添加方法についても、前述のとおりである。
【0049】
本発明のフィルター用不織布は剛性に優れているため、プリーツ形状への加工も容易であり、またプリーツ形態の保持性にも優れている。従って、本発明のフィルター用不織布はプリーツ形状のフィルターとして使用するのが好ましい。
【0050】
本発明のフィルター用不織布の使用用途は何ら制限されるものではないが、機械的強度や剛性に優れ、かつ粉塵の捕集性能に優れることから、工業用のフィルターとして好ましく使用される。特に好ましくは、プリーツ形状の円筒型ユニットとして、集塵機等のバグフィルターや放電加工機等の液体フィルター用途に使用されるもの、さらにはガスタービンや自動車エンジン等の吸気エアーを清浄にするために用いられる吸気用フィルターに使用されるものである。中でも特に集塵機用のバグフィルターにおいては、使用中にフィルター表層に堆積した粉塵を除去するため、逆洗エアーによる払い落とし処理を実施するため、強度に優れる本発明の不織布は好ましいものである。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき本発明につき具体的に説明するが、本発明がこれら実施例によって限定されるものではない。なお、下記実施例における各特性値は、次の方法で測定したものである。
【0052】
(1)繊度(デシテックス)
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維を任意に選び出し、その太さを測定した。繊維は断面が円形と仮定し、太さを繊維径(μm)とした。それらの平均値の小数点以下第二位を四捨五入して算出した繊維径とポリマーの密度から繊度を算出し、小数点第三位を四捨五入して求めた。繊維断面が非円形の場合は、内接円の直径と外接円の直径の平均値を繊維径と仮定し、求めた。
【0053】
(2)目付(g/m
不織布からランダムに縦方向50cm×横方向50cmの試料を3個採取して、各試料の重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算し、小数点以下第一位を四捨五入した。
【0054】
(3)不織布全体の厚み(mm)
不織布より幅方向に1m当たり10個のサンプルを採取し、JIS L1906(2000年版)に基づいてディスク径10mm、荷重10kPaで測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して求めた。
【0055】
(4)熱圧着部分の厚み(mm)
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で50〜1000倍の熱圧着部分の断面写真を撮影した。熱圧着部分の厚みを熱圧着部分1箇所につき3箇所、計30箇所測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して求めた。
【0056】
(5)熱圧着部分の圧着面積率
不織布からランダムに小片サンプル3個を採取し、走査型電子顕微鏡で1枚の写真の中に圧着部分が5箇所以上写るよう倍率を10〜200倍に調整したのちに、サンプル1個につき1枚、計3枚の写真を撮影した。写真1枚あたりの圧着部分の面積S’を測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して圧着部分の面積S(mm)を求めた。また、撮影した写真の総面積S’を測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して写真の総面積S(mm)を求めた。さらに得られた値から下記式を用いて熱圧着部分の圧着面積率RS(%)を求め、小数点以下第一位を四捨五入して算出した。
S=S/S×100
(6)熱圧着部分の縦横比
不織布からランダムに小片サンプル3個を採取し、走査型電子顕微鏡で20〜100倍の熱圧着部分の写真を撮影した。熱圧着部分の縦方向の最大長さL’および横方向の最大長さL’を熱圧着部分1箇所につきそれぞれ1箇所、計3箇所ずつ測定し、それらの平均値の小数点以下第三位を四捨五入して圧着部分の縦方向の長さL(mm)および横方向の長さL(mm)を求めた。得られた値から下記式を用いて熱圧着部分の縦横比RLを求め、小数点以下第二位を四捨五入して算出した。
L=L/L
1つの不織布に熱圧着部分の形状が複数ある場合は、熱圧着部分の縦横比は以下の方法によって求めた。すなわち、1つの不織布に熱圧着部分の形状Aと形状Bが存在する場合、前記算出方法に基づき、熱圧着部分Aの縦方向の長さL1A(mm)、横方向の長さL2A(mm)、熱圧着部分Bの縦方向の長さL1B(mm)、横方向の長さL2B(mm)を求めた。
また熱圧着部分の圧着面積率についても、前記圧着面積率の算出方法に基づき、熱圧着部分Aの面積S1A(mm)、熱圧着部分Bの面積S1B(mm)、写真の総面積S(mm)を求め、さらに得られた値から下記式を用いて熱圧着部分Aの圧着面積率RSA(%)、熱圧着部分Bの圧着面積率RSB(%)を算出した。
SA=S1A/S×100
SB=S1B/S×100
得られた値から下記式を用いて熱圧着部分の縦横比Rを求め、小数点以下第二位を四捨五入して算出した。
=[{RSA/(RSA+RSB)}×L1A/L2A]+[{RSB/(RSA+RSB)}×L1B/L2B
(7)引張強力(N/5cm)
不織布からランダムに5cm×30cmの試料を3個採取して、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件で縦方向、横方向とも定速伸長型引張試験機にて引張試験を行い、試料が破断するまで引っ張ったときの最大強力を引張強力とした。シート縦方向、横方向それぞれの平均値について小数点以下第一位を四捨五入して算出した。
【0057】
(8)捕集性能(%)、圧力損失(Pa)、QF値(Pa−1
粉塵の捕集性能は、以下の方法で測定した。
【0058】
不織布の任意の部分から、15cm×15cmのサンプルを3個採取し、それぞれのサンプルについて、図1に示す捕集性能測定装置で捕集性能を測定した。この捕集性能測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側にダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4、ブロワ5を連結した構成となっている。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を接続し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができる。捕集性能の測定にあたっては、ポリスチレン0.309U 10重量%溶液(ナカライテック製)を蒸留水で200倍まで希釈し、ダスト収納箱2に充填する。次にサンプルMをホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が3.0m/minになるように流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を2万〜7万個/(2.83×10−4(0.01ft))の範囲で安定させ、サンプルMの上流のダスト個数D2および下流のダスト個数D1をパーティクルカウンター6(リオン社製、KC−01D)でダスト粒径0.3〜0.5μmの範囲についてそれぞれ測定し、下記計算式にて求めた数値の小数点以下第1位を四捨五入し捕集性能(%)を求めた。
【0059】
捕集性能(%)=〔1−(D1/D2)〕×100
ここで、D1:下流のダスト個数(3回の合計)
D2:上流のダスト個数(3回の合計)
また圧力損失(Pa)は上記捕集性能測定時のサンプルMの上流と下流の静圧差を圧力計8で読み取り、3サンプルの平均値の小数点以下第一位を四捨五入して算出した。
さらにQF値は上記の方法で求めた捕集性能と圧力損失の値を用いて以下の式により算出し、小数点以下第三位を四捨五入したものである。
【0060】
QF値(Pa−1)=−[ln(1−[捕集性能(%)]/100)]/[圧力損失(Pa)]
(9)剛軟度(mN)
剛軟度の測定は、JIS−L1085(1998年版)の6.10.3(a)に記載のガーレ試験機(株式会社東洋精機製作所製ガーレ・柔軟度試験機)にて実施した。ガーレ試験機での剛軟度は以下の方法により求めた。すなわち、試料から長さ38.1mm(有効試料長L25.4mm)、幅d25.4mmの試験片を試料の任意の20点から採取する。ここで長繊維不織布においては、不織布の長手方向を試料の長さ方向とする。採取した試験片をそれぞれチャックに取り付け、可動アームA上の目盛り1−1/2”(1.5インチ=3.81cm)に合わせてチャックを固定する。次に振り子Bの支点から下部のおもり取付孔a,b,cに適当なおもりW,W,W(g)を取り付けて可動アームAを定速回転させ、試験片が振り子Bから離れるときの目盛りRG(mgf)を読む。目盛りは小数点以下第一位の桁で読む。ここでおもり取付孔に取り付けるおもりは、目盛りRGが4〜6になるよう設定した。得られた目盛りRGの値から下記式を用いて剛軟度の20回の平均値を求め、小数点以下第一位を四捨五入して試料の剛軟度Br(mN)を算出した。
Br=RG×(aW+bW+cW)×{(L−12.7)/d}×3.375×10−5
実施例1
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂を原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率10%、圧着部分縦横比11.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0061】
実施例2
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を0.1wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944)を0.05wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率10%、圧着部分縦横比11.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0062】
実施例3
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を0.5wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率10%、圧着部分縦横比11.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0063】
実施例4
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を5.0wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を10.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率10%、圧着部分縦横比11.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0064】
実施例5
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を0.5wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率8%、圧着部分縦横比1.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0065】
実施例6
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を0.5wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率30%、圧着部分縦横比11.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0066】
実施例7
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を0.5wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率10%、圧着部分縦横比0.8となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付90g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0067】
実施例8
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を0.5wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率10%、圧着部分縦横比20.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付90g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0068】
実施例9
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を0.5wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率10%、圧着部分縦横比20.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付170g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0069】
実施例10
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50L)を0.5wt%およびトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率13%、圧着部分縦横比1.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0070】
【表1】

【0071】
得られた不織布の特性は表1に示した通りであるが、実施例1〜10の不織布はいずれも引張強力、剛軟度に優れたものであった。また捕集性能と圧力損失にも優れているため、QF値はそれぞれ、0.04〜0.09Pa−1と良好であった。
【0072】
比較例1
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂を原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率13%、圧着部分縦横比1.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度1.31デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0073】
比較例2
重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にタルク(富士タルク工業株式会社製LMS100)を3.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率50%、圧着部分縦横比11.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊度3.04デシテックス、目付100g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。得られた不織布を、純水の水槽に浸積し、サクションポンプで不織布の片側から吸引して純水を十分浸透させたのち脱水し、110℃で乾燥し、エレクトレット加工されたポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0074】
比較例3
重量平均分子量が5万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃、熱風温度260℃、熱風圧力0.1MPaで紡糸し、ネットコンベア上に捕集することにより、繊度0.04デシテックス、目付30g/mのポリ乳酸メルトブロー不織布を得た。
【0075】
比較例4
重量平均分子量が5万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃、熱風温度260℃、熱風圧力0.1MPaで紡糸し、ネットコンベア上に捕集することにより、繊度0.03デシテックス、目付40g/mのポリ乳酸メルトブロー不織布を得た。
また、重量平均分子量が15万で、L−乳酸を98.8wt%、D−乳酸を1.2wt%含有したポリ乳酸樹脂にトリアジン系添加剤(チバ・ジャパン株式会社製、“キマソープ”944(登録商標))を1.0wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、ネットコンベア上に捕集することにより、繊度6.23デシテックス、目付30g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
得られた2種類の不織布を、それぞれ純水の水槽に浸積し、サクションポンプで不織布の片側から吸引して純水を十分浸透させたのち脱水し、110℃で乾燥した。引き続き、乾燥後のポリ乳酸メルトブロー不織布にポリ乳酸スパンボンド不織布を積層し、圧着率10%、圧着部分縦横比11.0となるようなエンボスロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、エレクトレット加工されたフィルター用不織布を得た。
【0076】
【表2】

【0077】
得られた不織布の特性は表2に示した通りであるが、比較例2の不織布は、剛軟度が0であり、フィルターとして必要な剛性に劣るものであった。
【0078】
比較例2の不織布は、引張強力、剛軟度に優れるものであった。しかしながら捕集性能と圧力損失から求められるQF値は0.01Pa−1であり、フィルターとしての性能に劣るものであった。
【0079】
さらに比較例3、4の不織布は、引張強力、剛軟度、および捕集性能と圧力損失から求められるQF値に優れるものであった。しかしながら不織布を製造したのちに積層加工およびエレクトレット処理を必要とするため、生産性が高いものではなかった。なお、比較例4で得られたフィルター用不織布の捕集性能は99.997%であったが、本発明の捕集性能数値記載方法に基づき小数点以下第1位を四捨五入すると100%となるため、表2には100%と記載した。また、比較例4のQF値は捕集性能99.997%をもとに算出した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のフィルター用不織布は粉塵の捕集性能に優れ、さらに圧力損失が低い上に、機械的特性や剛性に優れることから、特に工業用のエアフィルターや液体フィルターとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】捕集性能測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0082】
1 サンプルホルダー
2 ダスト収納箱
3 流量計
4 流量調整バルブ
5 ブロワ
6 パーティクルカウンター
7 切替コック
8 圧力計
M 測定サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性連続フィラメントからなる部分的に熱圧着された長繊維不織布であって、フィルター通過速度3.0m/minにおける圧力損失が50Pa以下、QF値が0.02〜0.09Pa−1で、縦方向の剛軟度が1〜25mNであることを特徴とするフィルター用不織布。
【請求項2】
前記生分解性連続フィラメントが、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型脂肪族モノアミドと、ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のフィルター用不織布。
【請求項3】
脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型脂肪族モノアミド0.1〜5.0wt%と、ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤0.05〜10wt%を含有することを特徴とする請求項2に記載のフィルター用不織布。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフィルター用不織布がプリーツ形状に加工されてなることを特徴とするフィルター。

【図1】
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【公開番号】特開2009−249764(P2009−249764A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98973(P2008−98973)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】