説明

フィルタ特性設定装置及び方法、オーディオシステム、並びにプログラム

【課題】ユーザの好みに応じた音の出力を実現するとともに、音の歪み等の発生を抑制することが可能な「フィルタ特性設定装置」を提供する。
【解決手段】CPU30は、複数のスピーカ(及びサブウーハ)からテスト信号(TSP)を出力してその周波数特性データを取得し、当該周波数特性データに基づいてオーディオシステム100にサブウーハが接続されているか否かを判断する。また、その判断の結果、サブウーハが接続されていない場合には、目標特性をターゲットカーブ1に設定し、サブウーハが接続されている場合には、目標特性をターゲットカーブ2に設定する。また、CPU30は、デジタルフィルタ22A1〜22A4、22Bを通過して、スピーカ又はサブウーハから出力されるオーディオ信号のトータルの周波数特性が、設定したターゲットカーブと合致するように、フィルタ特性を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ特性設定装置及び方法、オーディオシステム、並びにプログラムに関し、特にスピーカから出力されるオーディオ信号の特性を補正する補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定するフィルタ特性設定装置及び方法、前記フィルタ特性設定装置によりフィルタ特性が設定された補正用フィルタ手段を具備するオーディオシステム、並びにフィルタ特性を設定するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車載用オーディオ装置などのオーディオシステムにおいては、車両に設置されたスピーカを用いて、ラジオ音声や、CD(Compact Disc)などの記憶媒体に保存された音声を再生して聴取するのが一般的である。また、ユーザは、再生する音域を分けているスピーカ(例えば、サブウーハ)を好みに応じてオーディオシステムに別途接続することにより、例えば重低音が強調された音楽などを楽しんだりしている。
【0003】
最近では、オーディオシステムの車両への設置時等において、スピーカからテスト信号を出力し、そのテスト信号を収音することにより、自動で出力特性を設定するオーディオシステムも出現してきている(例えば、特許文献1参照)。また、サブウーハが無い場合やサブウーハの音量が「切」と設定された場合に、その他のスピーカの音響特性やイコライザ設定手段の接続を切り替える技術も出現してきている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−157597号公報
【特許文献2】特開2004−40625号公報
【特許文献3】特開2006−157597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように自動で出力特性を設定するオーディオシステムの場合、オーディオシステムにどのような種類のスピーカが接続されていたとしても、理想とする音響特性(目標特性)は基本的に不変である。このため、目標特性がたとえ聴覚上理想の特性であったとしても、オーディオシステムにサブウーハを接続しているにもかかわらず低音域が強調されないことで、ユーザに不満が生じるおそれがある。
【0006】
また、特許文献2、3に記載のように、サブウーハが無い場合やサブウーハの音量が「切」と設定された場合に、サブウーハ以外のスピーカに本来サブウーハが出力すべき低音域を出力させようとすると、スピーカから出力される低音が歪んでしまうことが懸念される。
【0007】
そこで、本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、オーディオ信号をユーザの好みに応じた適切なオーディオ信号に補正することが可能なフィルタ特性設定装置及び方法、適切なオーディオ信号を出力することが可能なオーディオシステム及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のオーディオシステムのフィルタ特性設定装置は、複数のオーディオ信号出力チャンネルのスピーカからテスト信号を出力して、前記各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性をそれぞれ検出する周波数特性検出手段と、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断する判断手段と、前記全スピーカが出力する信号レベルの周波数特性の目標特性として、第1の目標特性と、当該第1の目標特性よりも低周波数帯域が強調された第2の目標特性との2種類を保持する目標特性保持手段と、前記判断手段により前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていないと判断されたときに、前記第1の目標特性を選択し、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていると判断されたときに、前記第2の目標特性を選択する選択手段と、前記各スピーカから出力されるオーディオ信号の特性をそれぞれ補正する補正用フィルタ手段を通過して前記全スピーカから出力されるオーディオ信号のトータルの周波数特性が、前記選択手段により選択された目標特性になるように、前記周波数特性検出手段により検出された周波数特性に基づいて、前記各補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定する設定手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
これによれば、選択手段は、複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かに応じて目標特性を第1の目標特性と第2の目標特性のいずれかから選択し、設定手段は、各補正用フィルタ手段を通過して、全スピーカから出力されるトータルのオーディオ信号の周波数特性が、選択手段により選択された目標特性となるように、各補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定するので、複数のスピーカにサブウーハが含まれている場合には、ユーザは、サブウーハが含まれていない場合よりも低周波数帯域が強調された音を聴取することが可能となる。また、サブウーハが含まれていない場合には、サブウーハが含まれている場合よりも低周波数帯域の出力が制限されるので、音の歪みを抑制することが可能となる。
【0010】
この場合において、前記判断手段は、前記周波数特性検出手段により検出された各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性に基づいて、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断することができる。かかる場合には、周波数特性検出手段により検出された各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性に基づいてサブウーハの有無を判断するので、簡易にサブウーハの有無を判断することが可能である。この場合、前記周波数特性検出手段は、前記各スピーカから出力されるテスト信号を取得するマイクロフォンを含むこととすることができる。
【0011】
本発明のフィルタ特性設定装置では、前記サブウーハの使用をオン・オフするためのスイッチ手段を更に備え、前記スイッチ手段がオフされた際には、前記選択手段は、前記判断手段の判断にかかわらず、目標特性として前記第1の目標特性を選択するようにすることができる。かかる場合には、サブウーハの使用がオフされた場合には、複数のスピーカにサブウーハが含まれていない場合と同一のフィルタ特性の設定を行うことで、適切なフィルタ設定及びオーディオ信号の補正を行うことが可能となる。
【0012】
本発明のオーディオシステムは、本発明のフィルタ特性設定装置によりフィルタ特性が設定された補正用フィルタ手段と、前記補正用フィルタ手段に対してオーディオ信号を入力するオーディオ音源と、前記補正用フィルタ手段を通過したオーディオ信号を出力するスピーカと、を備えることを特徴とする。
【0013】
これによれば、サブウーハの有無に応じて適切なフィルタ特性が設定されるので、オーディオ音源から出力されたオーディオ信号を、補正用フィルタ手段において適切に補正してスピーカから出力することが可能となる。
【0014】
本発明のフィルタ特性設定方法は、複数のオーディオ信号出力チャンネルのスピーカからテスト信号を出力して、前記各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性をそれぞれ検出する周波数特性検出ステップと、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断する判断ステップと、前記判断ステップにおいて、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていないと判断されたときに第1の目標特性を選択し、前記スピーカの中にサブウーハが含まれていると判断されたときに前記第1の目標特性よりも低周波数帯域が強調された第2の目標特性を選択する選択ステップと、前記選択された目標特性と前記周波数特性検出ステップで検出された周波数特性とに基づいて、前記各スピーカから出力されるオーディオ信号の特性を補正する補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定する設定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
これによれば、選択ステップでは、複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かに応じて目標特性を第1の目標特性と第2の目標特性のいずれかから選択し、設定ステップでは、各補正用フィルタ手段を通過して、全スピーカから出力されるトータルのオーディオ信号の周波数特性が、選択ステップにおいて選択された目標特性となるように、各補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定するので、複数のスピーカにサブウーハが含まれている場合には、ユーザは、サブウーハが含まれていない場合よりも低周波数帯域が強調された音声を聴取することが可能となる。また、サブウーハが含まれていない場合には、サブウーハが含まれている場合よりも低周波数帯域の出力が制限されるので、音声の歪みを抑制することが可能となる。
【0016】
本発明のフィルタ特性設定方法では、前記判断ステップでは、前記周波数特性検出ステップにより検出された各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性に基づいて、前記スピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断することができる。かかる場合には、周波数特性検出ステップにおいて検出された各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性に基づいてサブウーハの有無を判断するので、簡易にサブウーハの有無を判断することが可能である。この場合、前記周波数特性検出ステップは、前記各スピーカから出力されるテスト信号を取得するマイクロフォンを介して取得することができる。
【0017】
また、本発明のフィルタ特性設定方法では、前記サブウーハの使用のオン・オフを判断するオン・オフ判断ステップを更に含み、前記選択ステップでは、前記サブウーハの使用がオフされた状態では、前記判断ステップにおける判断にかかわらず、目標特性として、前記第1の目標特性を選択するようにすることができる。かかる場合には、サブウーハの使用がオフされた場合には、複数のスピーカにサブウーハが含まれていない場合と同一のフィルタ特性の設定を行うことで、適切なフィルタ設定及びオーディオ信号の補正を行うことが可能となる。
【0018】
本発明のプログラムは、コンピュータを複数のオーディオ信号出力チャンネルのスピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断する判断手段、前記判断手段により前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていないと判断されたときに第1の目標特性を選択し、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていると判断されたときに、前記第1の目標特性よりも低周波数帯域が強調された第2の目標特性を選択する選択手段、及び前記各スピーカから出力されるオーディオ信号の特性をそれぞれ補正する補正用フィルタ手段それぞれを通過した後、前記各スピーカから出力されるトータルのオーディオ信号が前記選択手段により選択された目標特性になるように、前記各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性の実測値に基づいて、前記各補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定する設定手段、として機能させることを特徴とする。
【0019】
これによれば、コンピュータは、複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かに応じて目標特性を第1の目標特性と第2の目標特性のいずれかから選択し、各補正用フィルタ手段を通過して、全スピーカから出力されるトータルのオーディオ信号の周波数特性が選択された目標特性となるように、各補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定するので、複数のスピーカにサブウーハが含まれている場合には、ユーザは、サブウーハが含まれていない場合よりも低周波数帯域が強調された音声を聴取することができる。また、サブウーハが含まれていない場合には、サブウーハが含まれている場合よりも低周波数帯域の出力を制限するので、音声の歪みを抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オーディオ信号をユーザの好みに応じた適切なオーディオ信号に補正することが可能なフィルタ特性設定装置及び方法、適切なオーディオ信号を出力することが可能なオーディオシステム及びプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のオーディオシステムの一実施形態について、図1〜図3に基づいて説明する。
【0022】
図1は、一実施形態に係るオーディオシステム100の構成を概略的に示す。この図1に示すように、オーディオシステム100は、音源10と、A/D変換器12と、デジタル信号プロセッサ(以下、単に「DSP」と呼ぶ)14と、5つのパワーアンプ16A1〜16A4,16Bと、4つのスピーカ18A1〜18A4とを備えている。このうち、スピーカ18A1〜18A4により、4チャンネルスピーカシステムが構成されている。また、パワーアンプ16Bには、ユーザの好みにより、図1に示すように低音域音声の出力に適したサブウーハ18Bを外部から接続することが可能である。このようにサブウーハ18Bが接続された場合、サブウーハ18Bと前述した4チャンネルスピーカシステムとにより、4.1チャンネルスピーカシステムが構成される。なお、本実施形態では、パワーアンプ16Bを1つのみ設けることとしたが、これに限らず、パワーアンプ16Bを2つ以上設けることにより、サブウーハ18Bを2つ以上接続することができるような構成としても良い。
【0023】
音源10は、例えば、ラジオ音源や、CD(コンパクトディスク)などの記憶媒体に記憶された音声情報を再生するプレーヤーなどであり、A/D変換器12は、アナログ信号をデジタル信号に変換するものである。
【0024】
DSP14は、図1に示すように、補正用フィルタ手段としてのデジタルフィルタ22A1〜22A4、22Bと、D/A変換機24A1〜24A4,24Bと、スイッチ機構26A1〜26A4、26Bと、TSP(タイムストレッチパルス)発生器28と、CPU30と、目標特性保持手段としての外部メモリ32とを有している。
【0025】
このうち、デジタルフィルタ22A1〜22A4、22Bは、CPU30の指示の下、フィルタ特性をそれぞれ変更し、A/D変換器12から入力される信号に対する瀘波操作を実行する。D/A変換器24A1〜24A4,24Bは、デジタル信号をアナログ信号に変換して出力する。スイッチ機構26A1〜26A4は、CPU30の指示の下、デジタルフィルタ22A1〜22A4とD/A変換器24A1〜24A4との間をそれぞれ接続するか否か、及びTSP発生器28とD/A変換器24A1〜24A4との間をそれぞれ接続するか否かを設定するためのスイッチである。また、スイッチ機構26Bも、同様に、CPU30の指示の下、デジタルフィルタ22BとD/A変換器24Bとの間を接続するか否か、及びTSP発生器28とD/A変換器24Bとの間を接続するか否を設定するためのスイッチである。
【0026】
TSP発生器28は、スイッチ機構26A1〜26A4又は26Bにより、D/A変換器24A1〜24A4又は24Bのいずれかに接続された場合に、音響特性測定用テスト信号としてタイムストレッチパルスを発生するものである。
【0027】
CPU30は、DSP14全体を統括的に制御するとともに、前述のようにデジタルフィルタ22A1〜22A4,22Bのフィルタ特性を変更(設定)する。なお、CPU30による具体的な処理については、後に詳述する。
【0028】
外部メモリ32は、各デジタルフィルタ22A1〜22A4,22Bのフィルタ特性を決定するために必要とするスピーカ及びサブウーハ全体の目標周波数特性データとして、通常の特性を有するターゲットカーブ1(図2(a)参照)と、ターゲットカーブ1よりも低周波数帯域が強調されたターゲットカーブ2(図2(b)参照)とを記憶している。
【0029】
パワーアンプ16A1〜16A4,16Bは、DSP14のD/A変換器24A1〜24A4,24Bから出力されたアナログ信号を増幅するものである。スピーカ18A1〜18A4は、車両内の前左(FL)、前右(FR)、後左(RL)、後右(RR)にそれぞれ設置される。また、サブウーハ18Bが設置される場合には、例えば車両の後方中央部(後左(RL)のスピーカ18A3と、後右(RR)のスピーカ18A4との間)に設置される。
【0030】
上述したように構成される本実施形態のオーディオシステム100では、図1に点線にて示すように、A/D変換器12に対して周波数特性測定ユニット40を外部から接続することができる。この周波数特性測定ユニット40は、マイク42とマイクアンプ44とを有する。マイク42は、スピーカ18A1〜18A4やサブウーハ18Bから出力されるテスト信号を収音するためのものであり、マイクアンプ44は、マイク42から入力されるアナログ信号を増幅するものである。この周波数特性測定ユニット40によると、TSP発生器28において発生されたタイムストレッチパルスがスピーカ18A1〜18A4及びサブウーハ18Bのいずれかから出力された際に、その出力信号音を収音・増幅することができる。この出力信号音は、後述するデジタルフィルタ22A1〜22A4、22Bそれぞれのフィルタ特性を設定する際に利用される。
【0031】
次に、デジタルフィルタ22A1〜22A4、22Bそれぞれのフィルタ特性を設定する方法について、図3のフローチャートに沿って説明する。なお、図3の処理は、図1に示すCPU30によって実行されるものである。したがって、以下においては、特に必要な場合を除き、処理の主体についての記述を省略するものとする。
【0032】
また、処理の前提として、サブウーハ18Bは、パワーアンプ16Bに接続されており(すなわち、オーディオシステム100が4.1チャンネルスピーカシステムを搭載しており)、かつ、予め、A/D変換器12に対して、ユーザやカーディーラの作業者などにより、周波数特性測定ユニット40が接続され、周波数特性測定ユニット40のマイク42が車両内の所定位置に設置されているものとする。
【0033】
まず、図3のステップS10では、スピーカのチャンネルを表すパラメータnを1に設定するとともに、サブウーハフラグをOFFに設定する。本実施形態では、スピーカのチャンネルは1〜5まで存在するものとし、チャンネル1=前左(FL)スピーカ18A1、チャンネル2=前右(FR)スピーカ18A2、チャンネル3=後左(RL)スピーカ18A3、チャンネル4=後右(RR)スピーカ18A4,チャンネル5=サブウーハ18Bであるものとする。
【0034】
次のステップS12では、終了か否かを判断する。ここでは、パラメータnが所定数(本実施形態では、チャンネル数「5」)より大きいか否か(n>5か否か)に基づいて判断する。この場合、n=1であるので、判断は否定され、次のステップS14に移行する。
【0035】
次のステップS14では、チャンネルnのスイッチ機構(ここではスイッチ機構26A1)を用いて、D/A変換器24A1とTSP発生器28とを接続し、その他のチャンネル(n=2〜5)のスイッチ機構26A2〜26A4,26Bを用いて、D/A変換器24A2〜24A4,24BとTSP発生器28との接続を解除する。
【0036】
次いで、ステップS16では、TSP発生器28に対し音響特性測定用テスト信号としてのタイムストレッチパルスを発生させる。
【0037】
次いで、ステップS18では、スピーカ18A1から出力されるテスト信号音をマイク42で収音し、マイクアンプ44で増幅されるとともにA/D変換器12でデジタル信号に変換された信号をCPU30が受信する。そして、CPU30では、この受信した信号にFFT(Fast Fourier Transform)処理等を施すことにより車室内におけるFLスピーカ18A1の周波数特性データを取得する。この場合、FLスピーカ18A1から出力されるテスト信号音の周波数特性は、全周波数帯域に渡って一定以上の信号レベルを有するような特性となる。
【0038】
次いで、ステップS20では、ステップS18で取得した周波数特性データに基づいて、チャンネル1のスピーカがサブウーハか否かを判断する。ここで、サブウーハか否かは、低周波数帯域のみ高い信号レベルを有するか、あるいは全周波数帯域に渡って一定以上の信号レベルを有するかにより判断する。ここでは、全周波数帯域に渡って一定以上の信号レベルを有するため、サブウーハではないと判断され(ここでの判断は否定され)、ステップS22に移行する。
【0039】
そして、ステップS22においてnを1インクリメント(n←2)した後、ステップS12に戻る。
【0040】
その後は、n=2、n=3、n=4の間、ステップS12→S14→S16→S18→S20→S22を繰り返すことにより、FRスピーカ18A2、RLスピーカ18A3、RRスピーカ18A4の周波数特性データを取得し(ステップS18)、かつサブウーハであるか否かの判断を行う(ステップS20)。なお、n=2〜4の場合、ステップS20における判断は、全て否定される。
【0041】
そして、n=4において、ステップS22でnが1インクリメント(n←5)され、ステップS12に戻ると、ステップS12では、nが5よりも大きいか否かにより終了判断を行う。この場合、n=5であるのでここでの判断は否定され、次のステップS14に移行する。ステップS14では、チャンネル5のスイッチ機構26Bを用いて、TSP発生器28とD/A変換器24Bとの間を接続する。
【0042】
その後、ステップS16では、TSP発生器28から音響特性測定用テスト信号(TSP)を発生させ、ステップS18で、デジタル信号に変換された信号を受信することにより、車室内におけるサブウーハ18Bの周波数特性データを取得する。この場合、サブウーハ18Bから出力されるテスト信号音の周波数特性は、低周波数帯域のみ高い信号レベルを有する特性となる。
【0043】
次いで、ステップS20では、ステップS18で取得した周波数特性データに基づいて、チャンネル5のスピーカがサブウーハか否かを判断する。この場合、周波数特性データが、低周波数帯域のみ高い信号レベルを有するものであるため、サブウーハであると判断され(ここでの判断は肯定され)、ステップS24において、サブウーハフラグをONに設定した後、再度ステップS22に移行する。
【0044】
そして、ステップS22においてnが1インクリメント(n←6)された後、ステップS12に戻る。ステップS12では、n>5であるか否かにより終了か否かを判断するが、ここではn=6であるので判断は肯定され、ステップS26に移行する。
【0045】
次のステップS26では、サブウーハフラグがONであるか否かを判断する。この場合、サブウーハフラグは、n=5のときに実行したステップS24においてONになっているので、ここでの判断は肯定され、ステップS30に移行する。
【0046】
このステップS30では、オーディオシステム100の目標とする周波数特性(目標周波数特性)として、低周波数帯域が強調された図2(b)に示すターゲットカーブ2を、外部メモリ32から読み出して、設定する。
【0047】
その後、ステップS32に移行し、オーディオシステム100のスピーカ及びサブウーハのすべてから出力されるトータルのオーディオ信号(音)が、設定された目標特性(ターゲットカーブ2)と一致するように、CPU30は、ステップS16、S18において車室内で実測した各スピーカ及びサブウーハの周波数特性データを用いて、各デジタルフィルタ22A1〜22A4、22Bのフィルタ特性を設定し、本実施形態のフィルタ特性の設定処理を終了する。
【0048】
なお、サブウーハ18Bがパワーアンプ16Bに接続されていなかった場合、すなわち、オーディオシステム100が4チャンネルスピーカシステムであった場合には、n=5の場合に実行されるステップS18においては周波数特性データを取得することができないので、ステップS20の判断は否定されることとなる。この場合、オーディオシステム100にはサブウーハが1つも存在しないため、ステップS26の時点では、サブウーハフラグはOFFのままである。したがって、ここでの判断は否定されるので、ステップS28において、オーディオシステム100の目標とする周波数特性(目標周波数特性)として通常のフィルタ特性である図2(a)に示すターゲットカーブ1を外部メモリ32から読み出して、設定する。そして、ステップS32では、オーディオシステム100のスピーカ18A1〜18A4から出力されるトータルのオーディオ信号(音)が、設定された目標特性(ターゲットカーブ1)と一致するように、CPU30は、ステップS16、S18において車室内で実測した各スピーカ及びサブウーハの周波数特性データを用いて、各デジタルフィルタ22A1〜22A4、22Bのフィルタ特性を設定する。
【0049】
これまでの説明から明らかなように、本実施形態では、CPU30により、本発明の判断手段、選択手段、及び設定手段が構成されている。また、本実施形態のTSP発生器28と周波数特性測定ユニット40とにより、本発明の周波数特性検出手段が構成されている。更に、本実施形態のCPU30、TSP発生器28、外部メモリ32、周波数特性測定ユニット40により、本発明のフィルタ特性設定装置が構成されている。
【0050】
以上、説明したように、本実施形態によると、CPU30は、複数のスピーカ(及びサブウーハ)からテスト信号(TSP)を出力し、その信号レベルの周波数特性データを取得し、当該周波数特性データに基づいてオーディオシステム100にサブウーハが接続されているか否かを判断する。そして、その判断の結果、サブウーハが接続されていない場合には、目標とする周波数特性をターゲットカーブ1に設定し、サブウーハが接続されている場合には、目標とする周波数特性をターゲットカーブ2に設定する。また、CPU30は、デジタルフィルタ22A1〜22A4、22Bを通過して、スピーカ又はサブウーハから出力されるオーディオ信号のトータルの周波数特性が設定したターゲットカーブと合致するように、車室内で実測した各スピーカ及びサブウーハの周波数特性データを用いてフィルタ特性を設定する。このように、本実施形態では、オーディオシステム100にサブウーハ18Bが接続されている場合には、サブウーハが含まれていない場合よりも低周波数帯域が強調された音を出力することができる。これにより、ユーザは、好みに合った音の聴取をすることができる。また、オーディオシステム100にサブウーハが接続されていない場合には、サブウーハが含まれている場合よりも低周波数帯域の出力が制限されるので、サブウーハ以外のスピーカのみで低周波数帯域を無理やり出力するようなことが極力抑制されるので、音の歪み等の発生を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、実際に検出した周波数特性に基づいてサブウーハの有無を判断するので、別途、スピーカの接続状態を検出する検出システムを用意すること無く、簡易にサブウーハの有無を判断することが可能である。ただし、本発明はこれに限られるものではなく、スピーカの接続状態を別の検出システムにより検出することとしても良い。
【0052】
なお、上記実施形態では、サブウーハ18Bの使用をオン・オフするためのスイッチを設けることとしても良い。この場合、ユーザがスイッチをオフした場合に、CPU30は、すでに設定されている目標特性にかかわらず、目標特性をターゲットカーブ1に設定することができる。このようにすることで、サブウーハ18Bがオフの場合に、サブウーハが出力すべき低周波数帯域の音を、その他のスピーカに無理やり出力させるようなことを抑制することができる。これにより、音の歪み等の発生を抑制することが可能である。
【0053】
なお、上記実施形態では、図2(a)、図2(b)に示す2つのターゲットカーブのいずれかを目標特性として設定する場合について説明したが、これに限らず、例えば、図4(a)に示すようなターゲットカーブをターゲットカーブ1(通常特性)とし、図4(a)よりも低周波数帯域が強調された図4(b)に示すようなターゲットカーブをターゲットカーブ2(低域強調)とすることとしても良い。
【0054】
なお、上記実施形態では、補正用フィルタ手段を、デジタルフィルタに適用した場合について説明したが、これに限られるものではなく、例えばアナログフィルタや、IIRフィルタ(無限インパルス応答フィルタ)、FIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)に適用することも可能である。
【0055】
なお、上記実施形態では、本発明の判断手段、選択手段及び設定手段が、CPU30のプログラムにより実現された場合について説明したが、これに限らず、判断手段、選択手段及び設定手段を別々のハードウェアにより実現することとしても良い。
【0056】
なお、上記実施形態では、本発明のオーディオシステムが車両に搭載された場合について説明したが、これに限らず、種々の空間に配置されるオーディオシステムとして、本発明のオーディオシステムを採用することが可能である。
【0057】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】一実施形態に係るオーディオシステムの構成を概略的に示す図である。
【図2】ターゲットカーブ1、2の一例を示す図である。
【図3】一実施形態に係るフィルタ特性の設定処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
【図4】ターゲットカーブ1、2の別例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
18A1〜18A4 スピーカ
18B サブウーハ
22A1〜22A4 デジタルフィルタ(補正用フィルタ手段)
22B デジタルフィルタ(補正用フィルタ手段)
28 TSP発生器(周波数特性検出手段の一部)
30 CPU(判断手段、選択手段、設定手段)
32 外部メモリ(目標特性保持手段)
40 周波数特性測定ユニット(周波数特性検出手段の一部)
42 マイク(マイクロフォン)
100 オーディオシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のオーディオ信号出力チャンネルのスピーカからテスト信号を出力して、前記各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性をそれぞれ検出する周波数特性検出手段と、
前記複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断する判断手段と、
前記全スピーカが出力する信号レベルの周波数特性の目標特性として、第1の目標特性と、当該第1の目標特性よりも低周波数帯域が強調された第2の目標特性との2種類を保持する目標特性保持手段と、
前記判断手段により前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていないと判断されたときに、前記第1の目標特性を選択し、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていると判断されたときに、前記第2の目標特性を選択する選択手段と、
前記各スピーカから出力されるオーディオ信号の特性をそれぞれ補正する補正用フィルタ手段を通過して前記全スピーカから出力されるオーディオ信号のトータルの周波数特性が、前記選択手段により選択された目標特性になるように、前記周波数特性検出手段により検出された周波数特性に基づいて、前記各補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定する設定手段と、を備えるオーディオシステムのフィルタ特性設定装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記周波数特性検出手段により検出された各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性に基づいて、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載のオーディオシステムのフィルタ特性設定装置。
【請求項3】
前記周波数特性検出手段は、前記各スピーカから出力されるテスト信号を取得するマイクロフォンを含むことを特徴とする請求項2に記載のオーディオシステムのフィルタ特性設定装置。
【請求項4】
前記サブウーハの使用をオン・オフするためのスイッチ手段を更に備え、
前記スイッチ手段がオフされた際には、前記選択手段は、前記判断手段の判断にかかわらず、目標特性として前記第1の目標特性を選択することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のオーディオシステムのフィルタ特性設定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルタ特性設定装置によりフィルタ特性が設定された補正用フィルタ手段と、
前記補正用フィルタ手段に対してオーディオ信号を入力するオーディオ音源と、
前記補正用フィルタ手段を通過したオーディオ信号を出力するスピーカと、を備えるオーディオシステム。
【請求項6】
複数のオーディオ信号出力チャンネルのスピーカからテスト信号を出力して、前記各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性をそれぞれ検出する周波数特性検出ステップと、
前記複数のスピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断する判断ステップと、
前記判断ステップにおいて、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていないと判断されたときに第1の目標特性を選択し、前記スピーカの中にサブウーハが含まれていると判断されたときに前記第1の目標特性よりも低周波数帯域が強調された第2の目標特性を選択する選択ステップと、
前記選択された目標特性と前記周波数特性検出ステップで検出された周波数特性とに基づいて、前記各スピーカから出力されるオーディオ信号の特性を補正する補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定する設定ステップと、を含むオーディオシステムのフィルタ特性設定方法。
【請求項7】
前記判断ステップでは、前記周波数特性検出ステップにより検出された各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性に基づいて、前記スピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断することを特徴とする請求項6に記載のオーディオシステムのフィルタ特性設定方法。
【請求項8】
前記周波数特性検出ステップは、前記各スピーカから出力されるテスト信号をマイクロフォンを介して取得することを特徴とする請求項7に記載のオーディオシステムのフィルタ特性設定方法。
【請求項9】
前記サブウーハの使用のオン・オフを判断するオン・オフ判断ステップを更に含み、
前記選択ステップでは、前記サブウーハの使用がオフされた状態では、前記判断ステップにおける判断にかかわらず、目標特性として、前記第1の目標特性を選択することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のオーディオシステムのフィルタ特性設定方法。
【請求項10】
コンピュータを、
複数のオーディオ信号出力チャンネルのスピーカにサブウーハが含まれているか否かを判断する判断手段、
前記判断手段により前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていないと判断されたときに第1の目標特性を選択し、前記複数のスピーカにサブウーハが含まれていると判断されたときに、前記第1の目標特性よりも低周波数帯域が強調された第2の目標特性を選択する選択手段、及び
前記各スピーカから出力されるオーディオ信号の特性をそれぞれ補正する補正用フィルタ手段それぞれを通過した後、前記各スピーカから出力されるトータルのオーディオ信号が前記選択手段により選択された目標特性になるように、前記各スピーカが出力する信号レベルの周波数特性の実測値に基づいて、前記各補正用フィルタ手段のフィルタ特性を設定する設定手段、として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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