説明

フィルタ装置、信号処理装置及び鉄道車両用車上装置

【課題】第1信号波と、第2信号波とを含む信号から、第2信号波の成分を除去して第1信号波を抽出するに当たり、第2信号波の基本周波数が変動した場合にも、目的の第1信号波を確実に抽出し、データ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を招くことのないフィルタ装置及びそれを用いた鉄道車両用車上装置を提供すること。
【解決手段】基準波推定部11は、入力信号S3から、第2信号波S2に含まれる特定周波数の基準波を推定する。バンド・パス・フィルタ部12は、第1信号波S1を抽出する通過帯域を有する。高調波計算部13は、基準波推定部11で推定された基準波から高調波を計算する。高調波除去部14は、高調波計算部13で計算された高調波のうち、バンド・パス・フィルタ部12によって除去されなかった高調波を除去する、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置、信号処理装置及び鉄道車両用車上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ATCシステムでは、レールに流れるATC信号を車上装置で受信し、列車制御に供する一方、変電所から架線及びレールを経由して、車両に動力用電力を供給する。したがって、レールにはATC信号電流と共に帰線電流が流れる。この帰線電流には、50Hz又は60Hzの基本波と共にその高調波が含まれる。
【0003】
通常、ATC信号の搬送周波数は、動力用電力の電源周波数から離隔した値に選定されている。例えば、動力用電力の基本波の周波数が50Hz又は60Hzであるのに対し、ATC信号の搬送周波数は、一例であるが、3150Hzに選定されている。したがって、基本波に関する限り、バンド・パス・フィルタなどを用いて、ATC信号を帰線電流から分離して抽出することができる。ところが、帰線電流は基本波のほかにその高調波を含んでいる。このため、この高調波の成分がATC信号に対するノイズとなり、ATC信号によるデータ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害となる。
【0004】
高調波ノイズによる障害を解決する手段として、特許文献1には、1本のレールに近接配置されたATC信号検出器の出力を、くし形フィルタを通過させることにより、電車電流の高調波成分を除去し、その信号を帯域フィルタを通過させることで、帯域毎のATC信号を抽出する技術が開示されている。
【0005】
しかし、動力用電源の基本波の周波数が変化した場合、高調波には、基本波の周波数変動分の次数倍の周波数変動を生じるから、除去しようとした高調波成分が、フィルタの通過帯域に近接した周波数にシフトし、フィルタリング効果が期待できなくなってしまうという事態に陥ることがある。
【0006】
このような問題に対して、適応フィルタを用いることが考えられるが、一般的な適応フィルタでは、出力信号を最小化するように、フィルタ係数を更新するため、もっとも電力の大きな搬送周波数成分を除去してしまう。
【0007】
上述した問題は、第1信号波と、第2信号波とを含む入力信号から、第2信号波の成分を除去して第1信号波を抽出する信号処理システムにおいて、第2信号波の基本周波数が変動した場合に、均しく発生するものであり、ATCシステムだけに存在するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−72549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、第1信号波と、第2信号波とを含む信号から、第2信号波の成分を除去して第1信号波を抽出するに当たり、第2信号波の基本周波数が変動した場合にも、目的の第1信号波を確実に抽出し、データ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を招くことのないフィルタ装置、それを用いた信号処理装置及び鉄道車両用車上装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明に係るフィルタ装置は、第1信号波と、基本波の周波数が前記第1信号波とは異なる第2信号波の成分とを含む信号から、前記第2信号波の成分を除去して前記第1信号波を抽出するものであって、基準波推定部と、バンド・パス・フィルタ部と、高調波計算部と、高調波除去部とを含んでいる。前記基準波推定部は、前記入力信号から、前記第2信号波に含まれる特定周波数の基準波を推定する。前記バンド・パス・フィルタ部は、前記第1信号波を抽出する通過帯域を有する。前記高調波計算部は、前記基準波推定部で推定された基準波からその高調波を計算する。前記高調波除去部は、前記高調波計算部で計算された高調波のうち、前記バンド・パス・フィルタ部によって除去されなかった高調波を除去する。
【0011】
上述したように、本発明に係るフィルタ装置は、バンド・パス・フィルタ部を含んでおり、最もパワーの大きな第2信号波の基本波を、バンド・パス・フィルタ部により、第1信号波から除去することができる。
【0012】
本発明に係るフィルタ装置は、基準波推定部を含んでいる。基準波推定部は、入力信号波から第2信号波に含まれる特定周波数の基準波を推定する。基準波推定部を備えることにより、第2信号波の基本波の周波数が変動した場合でも、例えば周波数スペクトル解析などによって、基本波又は高調波の周波数を推定することができる。基準波は、基本波であってもよいし、高調波であってもよい。高調波計算部は、このようにして、基準波推定部で推定された基準波からその基本波及び高調波を計算する。
【0013】
本発明に係るフィルタ装置は、更に、高調波除去部を含んでいる。高調波除去部は、高調波計算部で計算された高調波のうち、バンド・パス・フィルタ部によって除去されなかった高調波を除去する。これによって、第2信号波の基本波の周波数が変動した場合であっても、高調波のうち、第1信号波に影響を与える高調波を除去することができる。高調波除去部では、第1信号波の通過周波数帯域に隣接する高調波のみならず、それより高次の、又は、低次の高調波を除去してもよい。
【0014】
したがって、本発明によれば、第2信号波の基本周波数が変動した場合にも、その高調波による影響を回避して、目的の第1信号波を確実に抽出し、データ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を招くことのないフィルタ装置を実現することができる。
【0015】
本発明に係るフィルタ装置は、第1信号波及び第2信号波が混在する信号伝送系において、第1信号波を第2信号波から分離して抽出する信号処理装置を構成するのに用いることができる。この信号処理装置は、第1信号源2と、第2信号源と、信号伝送路と、受信部とを含む。前記第1信号源2は、第1信号波を前記信号伝送路に供給する。前記第2信号源は、第2信号波を、前記信号伝送路に供給する。
【0016】
前記受信部は、フィルタ部と、信号処理部とを含む。前記フィルタ部は、本発明に係るフィルタ装置を含む。このフィルタ装置は前記信号伝送路から前記入力信号が供給される。前記信号処理部は、前記フィルタ装置から供給された信号を処理する。
【0017】
上述した信号処理装置は、受信部に上述した本発明に係るフィルタ装置を備えるので、フィルタ装置による作用効果を奏する。
【0018】
本発明に係るフィルタ装置を用いた信号処理装置の代表的な適用例は、鉄道車両用車上装置である。本発明に係るフィルタ装置は、信号処理部と組み合わされ、鉄道車両用車上装置を構成する。信号処理部は、前記フィルタ装置から出力された信号を解読する。
【0019】
鉄道車両用車上装置は、具体的には、ATCシステムを構成する車上装置である。本発明の適用において、ATC信号が第1信号波に対応し、帰線電流が第2信号波に対応する。したがって、帰線電流を供給する動力用電力源の周波数変動にも拘わらず、帰線電流の基本波、及び、ATC信号に対してノイズとなる帰線電流の高調波を除去し、ATC信号によるデータ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を回避し得るATC車上装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
上述したように、本発明によれば、第2信号波の成分を除去して第1信号波を抽出するに当たり、第2信号波の基本周波数が変動した場合にも、その高調波による障害を回避して、目的の第1信号波を確実に抽出し、データ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を取り除いたないフィルタ装置、信号処理装置及び鉄道車両用車上装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るフィルタ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るフィルタ装置の別の実施形態を示すブロック図である。
【図3】本発明に係るフィルタ装置を用いた信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に係るフィルタ装置を用いた電気鉄道車両用車上装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、図1を参照すると、周波数fsの第1信号波S1と、基本周波数f1(f1≠fs)の第2信号波S2とを含む信号S3が、入力端子Tinに供給される。第1信号波S1は、アナログ信号、デジタル信号の何れでもよいが、ここでは、周波数fsの搬送波に対して周波数偏移変調(FSK; Frequency Shift Keying)を加えたデジタル信号として扱う。周波数偏移変調は、例えば、データが0のとき搬送波を低周波数、1のとき高周波数に変化させる方式である。周波数偏移変調方式のうちでも、MSK(Minimum Shift Keying)変調方式を用いるものとして説明する。MSK変調方式は、変調指数が0.5の位相連続FSK変調方式であり、同期検波や、遅延検波が使え、復調しやすい。第2信号波S2も、アナログ信号、デジタル信号のいずれでもよい。第2信号波S2は、周波数f1の基本波、及び、その高調波(f2〜f7)を含んでいる。
【0023】
入力端子Tinには、上述した第1信号波S1及び第2信号波S2を含む信号S3が供給される。図1の参照符号(a)で示されたグラフは、信号S3の周波数スペクトル解析を示すもので、横軸に周波数Fをとり、縦軸にパワーPをとってある。
【0024】
本発明に係るフィルタ装置は、入力端子Tinに供給された信号S3から、第2信号波S2に含まれる周波数成分(f1〜f7)を除去して第1信号波S1を抽出するもので、基準波推定部11と、バンド・パス・フィルタ部12と、高調波計算部13と、高調波除去部14とを含んでいる。
【0025】
高調波除去部14の後段には復調部15が備えられており、復調部15から出力端子Toutに復調された出力信号S0が供給される。復調部15は、復調すべき第1信号波S1が、MSK変調波である場合、MSK復調を実行することになる。
【0026】
基準波推定部11は、入力信号S3から、第2信号波S2において高調波を計算する基準となる特定周波数の基準波を推定する。基準波は、第2信号波S2の基本波(f1)であってもよいし、特定次数の高調波であってもよい。この明細書では、一貫的な説明と、理解の混乱を避けるため、基準波を基本波(f1)とした場合を例にとって説明する。
【0027】
基準波となる基本波(f1)の推定は、例えば、適応ノッチフィルタを用いて実行することができる。第2信号波S2の周波数成分(f1〜f7)の内、周波数成分f1は基本波、周波数成分f2〜f7は2次高調波〜7次高調波である。もっとも、本発明において、2次高調波〜7次高調波に限定されるものではなく、7次高調波よりも低い次数の高調波を対象としてもよいし、より高い次数の高調波を対象としてもよい。
【0028】
第2信号波S2の基本周波数f1が、予め分かっていたとしても、その周波数f1が変動することは、特別の周波数安定化手段が付加されない限り、避けられない。周波数f1が周波数Δf1だけ変動した場合、高調波には、基本波の周波数変動分Δf1を次数倍した周波数変動を生じるから、高調波(f2〜f7)が、第1信号波S1の通過帯域BPに接近し、又はその内部に入ることがある。このような場合、第1信号波S1に対する第2信号波S2の周波数変動の影響が極めて大きくなる。本発明は、そのような問題を解決しようとするものである。
【0029】
バンド・パス・フィルタ部12は、第1信号波S1を抽出する通過帯域BPを有する。図1の参照符号(b)で示すグラフは、バンド・パス・フィルタ部12を通過した信号を模式的に示すものであり、第2信号波S2は、その基本周波数f1が通過帯域BPの外にある。図1の例では、高調波f2、f7も、通過帯域BPの外にあるので、基本波(f1)とともに、高調波f2、f7もバンド・パス・フィルタ部12によって除去(遮断)される。バンド・パス・フィルタ部12を通過する周波数成分は、高調波f3〜f6、及び、周波数fsの第1信号S1である。バンド・パス・フィルタ部12は、アナログ処理、ディジタル処理の何れでもよい。
【0030】
高調波計算部13は、基準波推定部11で推定された第2信号波S2の基本波(f1)から、その高調波(f2〜f7)を計算する。基本周波数f1が変動した場合、高調波(f2〜f7)の周波数も変動するが、全体の周波数変動特性には相関関係が存在する。したがって、推定された基本波(f1)から高調波(f2〜f7)の周波数を計算することができる。図1の参照符号(e)で示すグラフは、高調波計算部13で基本波(f1)から計算された高調波(f2〜f7)を、周波数スペクトルとして示したものである。
【0031】
高調波除去部14は、高調波計算部13で計算された高調波(f2〜f7)のうち、バンド・パス・フィルタ部12によって除去されなかった高調波f3〜f6を除去する。このような高調波除去部14は、可変型ディジタル・ノッチ・フィルタによって実現することができる。図1において、参照符号(c)を付したグラフは、ディジタル・ノッチ・フィルタを用いた高調波除去を示すもので、ノッチフィルタ特性NFにより、3次高調波f3〜6次高調波f6が除去されている。
【0032】
上述したように、高調波除去部14は、高調波計算部13で計算された高調波(f2〜f7)のうち、バンド・パス・フィルタ部12によって除去されなかった高調波(f3〜f6)を除去するから、第2信号波S2の基本周波数f1が変動した場合であっても、高調波(f2〜f7)のうち、第1信号波S1に最も影響を与える通過周波数帯域に隣接する高調波f3、f6を除去することができる。もっとも、通過帯域BPに隣接する高調波f3、f6のみならず、それより高次の高調波f5、f7、又は、低次の高調波f2を除去してもよい。
【0033】
したがって、本発明によれば、第2信号波S2の基本周波数f1が変動した場合にも、その高調波(f2〜f7)による影響を回避して、目的の第1信号波S1を確実に抽出し、データ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を招くことのないフィルタ装置を実現することができる。
【0034】
図1の参照符号(d)は、高調波除去部14によって抽出された後の信号を示すもので、搬送波周波数fsを含む信号となっている。信号が復調部15に供給され、復調された信号S0が出力端子Toutから出力される。
【0035】
次に、図2を参照して、本発明に係るフィルタ装置の他の実施形態を説明する。図2において、図1に現れた構成部分と等価的な構成部分については同一の参照符号を付してあり、それらの構成部分については説明を省略することがある。この実施形態は、第1信号波S1のパワーレベルに対して、第2信号波S2のパワーレベルが高くない場合、即ち同等又は低い場合に対応するものである。まず、第1信号波S1及び第2信号波S2を含む入力信号S3を、バンド・パス・フィルタ部12に供給する一方、信号帯域抑圧部16に供給する。信号帯域抑圧部16では、第1信号波S1の帯域に対して抑圧をかけ、第1信号波S1のパワーレベルを減衰させる。
【0036】
図2の参照符号(e)で示すグラフは、抑圧後の周波数スペクトルを示す図で、周波数fsの搬送波を含む帯域で、パワーレベルPが著しく減衰している。信号帯域抑圧部16は、例えば、ローパスフィルタLPを用いて実現することができる。そして、抑圧された信号を基準波推定部11に供給し、図2の参照符号(f)で示すように、第2信号波S2の基本波(f1)を推定する。この後、高調波計算部13、高調波除去部14及び復調部15を用いて、第1信号波S1を抽出して出力信号S0を得ることは、図1の場合と同様である。また、バンド・パス・フィルタ部12によるフィルタ作用も、図1の場合と同様である。
【0037】
図2に示した実施形態によれば、第1信号波S1のパワーレベルに対して、第2信号波S2のパワーレベルが高くない場合において、第2信号波S2の基本周波数が変動したときでも、目的の第1信号波S1を確実に抽出し、データ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を招くことのないフィルタ装置を実現することができる。
【0038】
図3は、本発明に係るフィルタ装置を用いた信号処理装置の構成を示す図である。図3を参照すると、この信号処理装置は、第1信号源2と、受信部3と、第2信号源4と、信号伝送路5とを含む。第1信号源2は、第1信号波S1を信号伝送路5に供給する。第2信号源4は、第1信号波S1とは基本周波数f1が異なる第2信号波S2を、信号伝送路5に供給する。
【0039】
受信部3は、フィルタ部31と、信号処理部32とを含む。フィルタ部31は、本発明に係るフィルタ装置を含む。このフィルタ部31には、信号伝送路5から第1信号波S1及び第2信号波S2を含む入力信号S3が供給される。信号処理部32は、フィルタ部31から供給された信号を処理する。
【0040】
上述した信号処理装置は、受信部3のフィルタ部31に、上述した本発明に係るフィルタ装置を備えるので、フィルタ装置による作用効果を奏する。
【0041】
本発明に係るフィルタ装置を用いた信号処理装置の具体的な適用例は、鉄道車両用車上装置である。図4にATCシステムを構成する車上装置3の一例を示してある。図4を、図3と対比しながら説明すると、まず、ATC信号が第1信号波S1に対応する。ATC信号S1は、第1信号源となるATC送信部2から信号伝送路となるレール5に供給される。レール5に供給されたATC信号S1は、車上アンテナ33によって受信され、車上アンテナ33から車上装置3に導かれる。ATC信号は、例えば、MSK変調波であり、その搬送周波数fsは、一例であるが、3150Hzに選定される。
【0042】
車上装置3では、フィルタ部31を構成する本発明に係るフィルタ装置により、ATC信号を抽出する。ATC信号は信号処理部32に供給され、車両制御に供される。
【0043】
鉄道車両では、変電所41、架線42、車両TRに備えられたパンタグラフ43及び車両モータ44などの動力系を含んでおり、これらが、第2信号源4となり、レール5に流れる帰線電流が第2信号波S2に対応する。帰線電流S2は、車上アンテナ33によって受信され、車上アンテナ33から車上装置3に導かれる。変電所41から架線42を経て送電される電力は、50Hz又は60Hzの交流である。
【0044】
上述したように、ATC信号S1の搬送周波数は、動力用電力の電源周波数から離隔した値に選定されている。動力用電力波の基本波に関する限り、バンド・パス・フィルタなどを用いて、ATC信号S1を帰線電流S2から分離して抽出することができる。ところが、帰線電流S2は基本波のほかにその高調波を含んでいる。このため、この高調波の成分がATC信号S1に対するノイズとなり、ATC信号S1によるデータ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を招く。
【0045】
そこで、本発明では、車上装置3に、図1及び図2に示したフィルタ装置31を備えるものである。これにより、帰線電流を供給する変電所41における電源の周波数変動にも拘わらず、ATC信号S1を、帰線電流S2の基本波(f1)から分離して抽出するとともに、ATC信号S1に対してノイズとなる帰線電流S2の高調波を除去し、ATC信号S1によるデータ伝送において、ビット・エラー・レートの劣化や伝送レートの高速化の障害を回避し得るATC車上装置を実現することができる。
【0046】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0047】
11 基準波推定部
12 バンド・パス・フィルタ部
13 高調波計算部
14 高調波除去部
15 復調部
16 信号帯域抑圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1信号波と、基本波の周波数が前記第1信号波とは異なる第2信号波の成分とを含む入力信号から、前記第2信号波の成分を除去して前記第1信号波を抽出するフィルタ装置であって、基準波推定部と、バンド・パス・フィルタ部と、高調波計算部と、高調波除去部とを含んでおり、
前記基準波推定部は、前記入力信号から、前記第2信号波に含まれる特定周波数の基準波を推定し、
前記バンド・パス・フィルタ部は、前記第1信号波を抽出する通過帯域を有し、
前記高調波計算部は、前記基準波推定部で推定された基準波から高調波を計算し、
前記高調波除去部は、前記高調波計算部で計算された高調波のうち、前記バンド・パス・フィルタ部によって除去されなかった高調波を除去する、
フィルタ装置。
【請求項2】
第1信号源と、第2信号源と、信号伝送路と、受信部とを含む信号処理装置であって、
前記第1信号源は、第1信号波を前記信号伝送路に供給するものであり、
前記第2信号源は、第2信号波を、前記信号伝送路に供給するものであり、
前記受信部は、フィルタ部と、信号処理部とを含み、
前記フィルタ部は、請求項1に記載されたフィルタ装置を含み、前記フィルタ装置は前記信号伝送路から前記入力信号が供給され、
前記信号処理部は、前記フィルタ装置から供給された信号を処理する、
信号処理装置。
【請求項3】
フィルタ装置と、信号処理部とを含む鉄道車両用車上装置であって、
前記フィルタ装置は、請求項1に記載されたものであり、
前記信号処理部は、前記フィルタ装置から供給された信号を処理する、
鉄道車両用車上装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate