説明

フィルタ装置の再生方法及びフィルタ装置の再生システム

【課題】フィルタ装置の容器への熱影響を抑制しつつ、フィルタエレメントに付着したカーボンをより短時間で除去してフィルタ装置を再生するシステムの提供。
【解決手段】石炭を部分燃焼してガス化する石炭ガス化炉で生成された生成ガス28の流路に設けられ生成ガス28の上流側及び下流側の流路と連通する開口が設けられた容器40と、この容器40の両開口を隔てて生成ガス28中の粉粒体を捕集するフィルタエレメント42とを有してなるフィルタ装置16に、フィルタエレメント42に捕集されている粉粒体に含まれるカーボンを燃焼させる再生用ガス58を通流させてフィルタ装置16を再生する。ここで、容器40の内部圧力を大気圧より高くあらかじめ設定された圧力にし、容器40の内部温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように再生用ガス58の温度を制御して容器40に投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置の再生方法及びフィルタ装置の再生システムに係り、特に、石炭ガス化炉で生成された生成ガス中から粉粒体を捕集するフィルタ装置の再生技術に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭ガス化設備では、石炭ガス化炉で生成された生成ガスの流路にフィルタ装置を設けて、生成ガス中に含まれる粉粒体を捕集することが知られている。フィルタ装置は、生成ガスの上流側及び下流側の流路とそれぞれ連通する開口が設けられた容器と、この容器の両開口を隔てて粉粒体を捕集する金属製のフィルタエレメントなどで構成される。
【0003】
フィルタエレメントに粉粒体が捕集されると生成ガスの通気抵抗が大きくなるため、フィルタ装置に設置されている差圧計で計測されるフィルタエレメントの上流側と下流側のフィルタ差圧ΔPが上昇する。粉流体の捕集を続けフィルタ差圧ΔPが上昇するとフィルタ装置だけでなく上流側装置の圧力も高くなり設備全体の運転継続ができなくなる恐れがある。そのため,予め設定した時間間隔で,あるいはこのフィルタ差圧ΔPがあらかじめ決めた設定値に達すると、フィルタエレメントの下流側から上流側へ逆洗ガスを供給する逆洗ガス供給バルブを一瞬開き、逆洗ガスによりフィルタエレメントに捕集された粉粒体を払い落とすことが一般的に行われている。この逆洗操作により粉粒体を払い落とした後に回復したフィルタ差圧ΔPを回復差圧という。
【0004】
しかしながら、フィルタエレメントに捕集された粉粒体の一部はフィルタエレメントの表面から少し入った所に入り込んでパーマネント層を形成する。パーマネント層の粉粒体は逆洗によっても払い落され難く、フィルタエレメントによる粉粒体の捕集と逆洗とを繰り返すうちに、パーマネント層の粉粒体が堆積して、逆洗を行ってもフィルタの回復差圧が徐々に上昇することがある。
【0005】
このように、逆洗してもフィルタ差圧ΔPが回復せず、パーマネント層に堆積した粉粒体により回復差圧が高くなったフィルタエレメントの再生手段の一つとして、特許文献1及び特許文献2の技術が知られている。特許文献1の技術は、常圧下において酸素濃度5〜15Vol.%に調整されたガスをフィルタ装置へ供給し、そのガス中でフィルタエレメントを400〜450℃に加熱処理することにより、パーマネント層内の粉粒体に含まれる未燃炭素(カーボン)を酸化(燃焼)させて除去するものである。
【0006】
一方、特許文献2の技術は、常圧下で燃焼排ガスの一部を取り出して酸素濃度を5〜20Vol.%に調整するとともに80〜400℃に加熱してフィルタ装置に供給するものである。これによれば、酸化反応速度の遅いいわゆる「おき燃焼」処理という方法によってフィルタエレメントに付着した粉粒体中の未燃炭素(カーボン)を除去することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−192337号公報
【特許文献2】特開平8−309151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、フィルタエレメントが収容されている容器は、通常、圧力容器として製作されており、圧力容器の材質は耐熱鋼であるCr−Mo鋼などが使用される。一般的に、耐熱鋼は400℃以上となると強度が落ち、容器の寿命が短くなる。
【0009】
したがって、特許文献1に記載された技術では、容器の内部温度を400〜450℃とするため、フィルタ装置の再生をする度に、容器の低寿命化が懸念される。特に、フィルタエレメントを取り付けている管板への熱影響が大きく、フィルタエレメントの再生処理後の歪みが大きくなってしまうおそれがある。
【0010】
一方、特許文献2に記載された技術は、常圧下で加熱処理温度80〜400℃、酸素濃度5〜20Vol.%の条件で粉粒体中の未燃分であるカーボンを除去する方法であるから、特に低温及び低酸素濃度の条件でのカーボンの酸化反応速度が遅く、カーボンを完全に燃焼除去してフィルタ装置の再生をするのに大変多くの時間(日数)が掛かってしまうので好ましくない。
【0011】
そこで本発明は、フィルタ装置の容器への熱影響を抑制しつつ、フィルタエレメントに付着したカーボンをより短時間で除去してフィルタ装置を再生することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のフィルタ装置の再生方法は、基本的には、石炭を部分燃焼してガス化する石炭ガス化炉で生成された生成ガスの流路に設けられ生成ガスの上流側及び下流側の流路とそれぞれ連通する開口が設けられた容器と、この容器の両開口を隔てて生成ガス中の粉粒体を捕集するフィルタエレメントとを有してなるフィルタ装置に、フィルタエレメントに捕集されている粉粒体に含まれるカーボンを燃焼させる再生用ガスを通流させてフィルタ装置を再生するものである。
【0013】
特に、容器の内部圧力を大気圧より高くあらかじめ設定された圧力にした状態で、容器の内部温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように再生用ガスの温度を制御して容器に投入することを特徴としている。
【0014】
これによれば、容器の内部温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように再生用ガスの温度を制御しているから、容器への熱影響(低寿命化)を抑制することができる。これに加えて、容器の内部圧力を大気圧より高くあらかじめ設定された圧力にしているから、フィルタエレメントに付着したカーボンをより短時間で除去することができる。すなわち、フィルタエレメントに付着したカーボンは、再生ガス中の酸素と酸化反応し、一酸化炭素(CO)又は二酸化炭素(CO)の気体となり、パーマネント層から除去される。このとき、カーボンの周りに酸素が多く存在すると、カーボンと酸素の酸化反応が起こりやすい。この点、本発明のように容器内部の雰囲気圧力を高くして酸素分圧を増加させることにより、容器内の酸素分子数、言い換えればカーボンの周りの酸素分子数を増やすことができる。その結果、カーボンの酸化(燃焼)反応を促進することができるので、フィルタエレメントに付着したカーボンをより短時間で除去することができる。
【0015】
本発明においては、上記の条件に加えて、容器に投入される再生用ガスの酸素濃度を30Vol.%以下のあらかじめ設定された濃度に制御することができる。また、容器に投入される再生用ガスの酸素濃度及び温度の少なくとも一方を段階的に増加させることができる。さらに、容器に投入される再生用ガスの酸素濃度及び温度の一方を段階的に増加させるとともに、他方を段階的に減少させることができる。
【0016】
つまり、カーボンの酸化反応は発熱反応であり、粉粒体にはカーボンのほかタールなどの酸化物も含まれていることから、フィルタ装置の再生処理中に急激な発熱反応が生じ、容器の低寿命化が進むおそれがある。この点、再生処理の初期は再生用ガスの酸素濃度及び温度の少なくとも一方を低めに設定することにより、再生初期の酸化反応を抑制して急激な発熱を抑制することができる。これに加えて、再生処理が進むにつれてフィルタエレメントに付着したカーボンは減少するから、これに応じて再生用ガスの酸素濃度及び温度の少なくとも一方を段階的に増加させることにより、急激な発熱反応を抑制しつつより短時間でカーボンを除去することができる。
【0017】
また、容器に再生用ガスを投入してフィルタ装置の再生を開始した後、容器の入口側の再生用ガスの温度及び容器の出口側の再生用ガスの温度を検出し、この検出された入口側温度と出口側温度の差があらかじめ設定された閾値より小さくなったらフィルタ装置の再生を終了することができる。
【0018】
また、本発明のフィルタ装置の再生システムは、石炭を部分燃焼してガス化する石炭ガス化炉と、この石炭ガス化炉で生成された生成ガスが通流する生成ガス流路と、この生成ガス流路に設けられこの流路を通流する生成ガス中の粉粒体を捕集するフィルタ装置とを備えている。フィルタ装置は、生成ガスの上流側及び下流側の流路とそれぞれ連通する開口が設けられた容器と、この容器の両開口を隔てて粉粒体を捕集するフィルタエレメントとを有して構成される。フィルタ装置の再生システムはまた、フィルタエレメントに捕集された粉粒体中のカーボンを燃焼させてフィルタ装置を再生させる再生用ガスを容器に投入する再生用ガス投入流路と、容器に投入されてフィルタエレメントを通過した再生用ガスを排出する再生用ガス排出流路と、容器の内部の再生用ガスの流れに対してフィルタエレメントより上流側に設けられた入口側温度検出器と、再生用ガス投入流路に設けられこの流路を通流する再生用ガスを加熱又は減熱する温度調整器と、フィルタ装置の内部圧力を検出する圧力検出器と、再生用ガス排出流路に設けられた再生用ガス出口弁と、フィルタ装置の再生制御を行なう再生制御器とを備えて構成される。
【0019】
そして、再生制御器は、入口側温度検出器で検出されたフィルタ装置の内部温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように温度調整器における加熱量又は減熱量を制御し、圧力検出器で検出されたフィルタ装置の内部圧力が大気圧より高くあらかじめ設定された圧力になるように再生用ガス出口弁の弁開度を制御することを特徴としている。
【0020】
また、入口側温度検出器での検出温度に応じて温度調整器を制御することに代えて、容器の内部の再生用ガスの流れに対してフィルタエレメントより下流側又は再生用ガスの出口側流路に出口側温度検出器を設けて、出口側温度検出器で検出されたフィルタ装置の内部温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように温度調整器における加熱量又は減熱量を制御するよう構成することもできる。
【0021】
すなわち、カーボンの酸化反応は発熱反応であるから、再生用ガスの入口側の温度が400℃未満であっても出口側が400℃以上になるおそれもある。そこで、出口側の温度を検出して、検出温度が400℃未満になるよう温度調整器を制御することが好ましい。入口側温度検出器での検出温度に応じて温度調整器を制御する場合、400℃未満のあらかじめ設定された温度は、カーボンの酸化反応による再生用ガスの出口側温度の上昇を考慮して設定される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、フィルタ装置の容器への熱影響を抑制しつつ、フィルタエレメントに付着したカーボンをより短時間で除去してフィルタ装置を再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態のフィルタ再生システムを含む石炭ガス化設備の全体構成を示す図である。
【図2】フィルタ装置の構造の一例を説明する図である。
【図3】タイマー式逆洗制御方式フィルタ装置の集塵・逆洗時のフィルタ差圧ΔPの挙動例を示す図である。
【図4】フィルタエレメントによる集塵及び逆洗の原理を示す図である。
【図5】本実施形態のフィルタ装置の再生システムの構成を示す図である。
【図6】フィルタエレメントの雰囲気圧力変化に対する加熱再生条件を示す図である。
【図7】フィルタエレメントの酸素濃度変化に対する加熱再生条件を示す図である。
【図8】本実施形態のフィルタ装置の再生方法の一例による結果を時系列で表した図である。
【図9】加熱再生処理前後のフィルタエレメントの様子を示す図である。
【図10】本実施形態のフィルタ装置の再生方法の一例による結果を時系列で表した図である。
【図11】本実施形態のフィルタ装置の再生方法の一例による結果を時系列で表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用してなるフィルタ装置の再生システム、及びフィルタ装置の再生方法の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一機能部品については同一符号を付して重複説明を省略する。
【0025】
図1は、本実施形態のフィルタ装置再生システムを含む石炭ガス化設備の全体構成を示す図である。図1に示すように、石炭ガス化設備100は、石炭を部分燃焼してガス化する石炭ガス化炉10と、石炭ガス化炉10で生成された生成ガス28の流路に設けられ、生成ガス28の熱を回収する熱回収ボイラ12と、生成ガス28中の粉粒体を捕集するサイクロン14及びフィルタ装置16とを備えて構成されている。粉粒体には、未燃分のカーボン(C)の他に灰分が存在する。灰分は珪素(Si)、アルミニウム(Al)及びカルシウム(Ca)などの酸化物、酸化シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化カルシウム(CaO)などで構成されている。
【0026】
また、石炭ガス化設備100は、サイクロン14及びフィルタ装置16で捕集された粉粒体を回収するホッパ18と、ホッパ18で回収された粉粒体を石炭ガス化炉10に循環する搬送管20と、搬送管20に設けられたロータリーバルブ22とを備えて構成されている。
【0027】
石炭ガス化炉10には、ガス化用バーナ24及びチャーバーナ26が設置され、微粉炭及びカーボンを含むチャー等の微粉燃料を高温下で一酸化炭素(CO)と水素(H)を主成分とする生成ガス28にガス化する。一方、石炭ガス化炉10の底部には冷却水プール30が設けられており、冷却水プール30によって生成された水砕スラグ32は石炭ガス化炉10の底部から排出される。
【0028】
熱回収ボイラ12に送られた生成ガス28は、熱回収ボイラ12に供給される例えば水などの媒体34に熱回収された後、生成ガス28の流路を介してサイクロン14へ送られる。一方、熱回収ボイラ12で熱回収した水などの媒体34は蒸気35として熱回収ボイラ12から排出される。サイクロン14へ送られた生成ガス28は、生成ガス28中に含まれる粉粒体がサイクロン14により捕集され、さらに生成ガスの流路を介してフィルタ装置16へ送られる。フィルタ装置16に送られた生成ガス28は、サイクロン14で捕集できなかった微細な粉粒体がフィルタ装置16で捕集される。粉粒体が捕集された生成ガス28は脱塵ガス36としてフィルタ装置16から排出される。一方、サイクロン14及びフィルタ装置16で捕集された粉粒体はホッパ18で回収されたあと、ロータリーバルブ22にて切り出され、搬送管20を介して再度石炭ガス化炉10へ投入される。
【0029】
ここで、図2を用いてフィルタ装置16の構造の一例を説明する。図2に示すように、フィルタ装置16は、生成ガスの上流側及び下流側の流路とそれぞれ連通する開口が設けられた容器40と、容器40の両開口を隔てて生成ガスに含まれる粉粒体を捕集する金属製のフィルタエレメント42とを有して構成される。また、フィルタエレメント42に付着した粉粒体を逆洗ガス44で払い落とすために逆洗ガス供給バルブ46が備えられている。ガス化設備100運転時、石炭をガス化して得られた生成ガス28はフィルタ装置16の下部から投入される。フィルタエレメント42は、生成ガス28中の粉粒体を捕集して生成ガス28中の固形分を除去し、クリーンな脱塵ガス36とする。
【0030】
ここで、容器40内の生成ガス28の流れに対してフィルタエレメント42より上流側には、容器40内部の圧力を計測する入口側圧力計48が設けられるとともに、容器40内部の生成ガスの上流側及び下流側の温度を計測する入口側温度計50,出口側温度計51が設けられている。粉粒体を捕集するとフィルタエレメント42の通気抵抗が大きくなると、フィルタ装置16に設置されている差圧計52で測定されるフィルタ差圧ΔPが上昇する。このフィルタ差圧ΔPがあらかじめ決めた設定値に達すると、あるいは設定した時間間隔毎に、逆洗ガス供給バルブ46が一瞬開き、逆洗ガス44によりフィルタエレメント42に捕集された粉粒体が払い落とされる。この操作によってフィルタエレメント42の洗浄が行われ、フィルタ差圧ΔPが粉粒体を捕集する前の差圧に回復される。
【0031】
続いて、フィルタ装置16による粉粒体の捕集・逆洗時の差圧変化と、フィルタエレメント42での粉粒体の捕集原理について詳細に説明する。図3は、フィルタ装置16の集塵・逆洗時のフィルタ差圧ΔPの挙動を示す図であり、図4は、フィルタエレメント42による集塵及び逆洗の原理を示す図である。
【0032】
生成ガス28から粉粒体54を捕集すると、フィルタエレメント42のろ過面積が小さくなり通気抵抗が徐々に大きくなるため、フィルタ差圧ΔPが徐々に上昇する。この時、図4(a)のようにフィルタエレメント42の表面で粉粒体54が捕集される。ここで、フィルタエレメント42の表面から少し入った所に粉粒体54が入り込み、パーマネント層56を形成する。さらに粉粒体54の捕集をしていくとフィルタエレメント42の差圧ΔPが上昇する。差圧ΔPが上昇し続けると石炭ガス化設備100の安定運転が困難となるため、事前に設定したタイマーの時間に、あるいは設定したフィルタ差圧ΔPになると、逆洗操作が行われる。図3には、設定した時間間隔で逆洗操作を繰り返すタイマー式逆洗方式のフィルタ差圧ΔPの挙動の一例を示した。
【0033】
図4(b)に示すように、この操作により捕集された粉粒体54はフィルタエレメント42から払い落とされるが、パーマネント層56はフィルタエレメント42内に残る。フィルタエレメント42使用開始直後、フィルタ差圧ΔPは、粉粒体54の捕集直後の差圧にほぼ回復する。しかし、粉粒体54の捕集及び逆洗を繰り返すうちに、逆洗操作で除去しきれない粉粒体54がパーマネント層56に残り、フィルタエレメント42の差圧ΔPが回復しなくなる。
【0034】
これに対して、例えば常圧下において酸素濃度5〜15Vol.%に調整されたガスをフィルタ装置へ供給し、そのガス中でフィルタエレメントを400〜450℃で加熱処理することにより、パーマネント層内のカーボンを酸化させて除去することが知られている。また、常圧下で燃焼排ガスの一部を取り出して酸素濃度を5〜20Vol.%に調整したガスを80〜400℃に加熱し、酸化反応速度の遅いいわゆる「おき燃焼」処理という方法によってフィルタエレメントに付着した未燃炭素を除去する方法も知られている。
【0035】
しかしながら、フィルタエレメント42が収容されている容器40は、通常、圧力容器として製作されており、圧力容器の材質は耐熱鋼であるCr−Mo鋼などが使用される。一般的に、耐熱鋼は400℃以上となると強度が落ち、容器40の寿命が短くなってしまう。したがって、フィルタエレメント42を400〜450℃で加熱処理すると、フィルタ装置の再生をする度に、容器40の低寿命化が懸念される。特に、フィルタエレメント42を取り付けている管板への熱影響が大きく、フィルタエレメント42の再生処理後の歪みが大きくなってしまうおそれがある。この点、再生時には容器40からフィルタエレメント42を取り外すことも考えられるが、この場合、大気中の水分吸収によるフィルタエレメント42の腐食及びフィルタエレメント42取付け管板の熱歪変形に対する管理が必要になり好ましくないので、容器内での再生が望まれている。
【0036】
一方、おき燃焼では、容器の低寿命化のおそれは少ないが、特に低温及び低酸素濃度の条件でのカーボンの酸化反応速度が遅く、カーボンを完全に燃焼除去してフィルタ装置の再生をするのに大変多くの時間(日数)が掛かってしまうので好ましくない。
【0037】
本実施形態のフィルタ装置の再生システムは、この点に鑑みてなされたものであり、フィルタ装置16の容器40への熱影響を抑制しつつ、フィルタエレメント42に付着したカーボンをより短時間で除去してフィルタ装置16を再生するものである。以下、フィルタ装置16の再生システムの詳細について説明する。
【0038】
図5は、本実施形態のフィルタ装置の再生システムの構成を示す図である。図4で説明した部分と同様の構成については説明を省略する。図5に示すように、フィルタ装置16の再生システムは、フィルタエレメント42に捕集された粉粒体中のカーボンを燃焼させてフィルタ装置16を再生させる再生用ガス58を容器40に投入する再生用ガス投入流路60と、容器40に投入されてフィルタエレメント42を通過した再生用ガス58を排出する再生用ガス排出流路62が備えられている。
【0039】
再生用ガス投入流路60は、生成ガス28を容器40に投入する生成ガス流路64に接続されており、再生用ガス58は再生用ガス投入流路60及び生成ガス流路64の一部を介して容器40に供給される。生成ガス流路64における再生用ガス投入流路60の接続部より上流側には、生成ガス入口弁66が設けられている。一方、再生用ガス排出流路62は、容器40から排出される生成ガス(脱塵ガス36)を通流させる生成ガス流路68から分岐して設けられている。生成ガス流路68における再生用ガス排出流路62の分岐部より下流側には、生成ガス出口弁70が設けられている。石炭ガス化設備100の運転を停止した後チャーフィルタエレメントの再生処理を実施する際には、他へ再生用ガス58が流れないよう、生成ガス入口弁66および生成ガス出口弁70を閉とする。また、容器40の底部には、捕集された粉粒体を排出する粉粒体配管が設けられており、粉粒体配管には粉粒体出口弁71が設けられている。
【0040】
また、フィルタ装置の再生システムは、再生用ガス投入流路60に設けられ、この流路を通流する再生用ガス58を加熱又は減熱する温度調整器73と、再生用ガス投入流路60に設けられた酸素濃度分析計72と、再生用ガス投入流路60の酸素濃度分析計72よりも上流側に酸素74及び窒素76を調整用ガスとして投入する調整用ガス投入流路78と、再生用ガス投入流路60に設けられた再生用ガス入口弁80と、再生用ガス排出流路62に設けられた再生用ガス出口弁82と、フィルタ装置16の再生制御を行なう再生制御器84とを備えている。なおフィルタ装置16の容器40及び温度調整器73より下流側の再生用ガス投入流路60は保温材75で覆われており、再生用ガス58の温度が奪われ難くなっている。
【0041】
なお、本実施形態では生成ガス28の流れ方向と再生用ガス58の流れ方向が同一方向であるので、上述の入口側温度計50は、容器40の内部の再生用ガス58の流れに対してフィルタエレメント42より上流側に設けられ、再生用ガス58の容器入口ガス温度検出器となる。また、入口側圧力計48は、フィルタ装置16の内部圧力を検出する圧力検出器となる。
【0042】
再生制御器84には、入口側温度計50で検出された温度、入口側圧力計48で検出された圧力、及び酸素濃度分析計72で検出された酸素濃度が入力されるようになっている。再生制御器84は、入力された3つの検出値に基づいて、温度調整器73における加熱量又は減熱量、再生用ガス出口弁82の弁開度、及び調整用ガスの流量を制御するものである。
【0043】
ところで、フィルタエレメント42を再生するためには、フィルタエレメント42表面のパーマネント層56内に捕集された粉粒体を除去する必要がある。粉粒体にはカーボン(C)の他に灰分が存在する。灰分は珪素(Si)、アルミニウム(Al)及びカルシウム(Ca)などの酸化物、酸化シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化カルシウム(CaO)などで構成されている。これらの融点はSiO
約1700℃、Al 約2050℃、CAO 約2570℃と非常に高く、熱力学的に非常に安定している。したがって、400℃未満の温度では簡単に除去できない。そこで、パーマネント層56に捕集されたカーボンを除去することに注目して、フィルタエレメントの再生を行なう。以下の式(1)及び(2)にカーボンと酸素の反応式を示す。
【0044】
C + 1/2O → CO −111MJ/kmol ・・・ (1)
C + O → CO −394MJ/kmol ・・・ (2)
【0045】
カーボンは、ガス中の酸素と酸化反応し、一酸化炭素(CO)又は二酸化炭素(CO)の気体となり、パーマネント層56から除去される。このとき、カーボンの周りに酸素が多く存在すると、カーボンが酸素と出会う確率が高くなり酸化反応を起しやすい。そのためには、雰囲気圧力を高くして酸素分圧を増加させる方法がある。つまり容器40内の酸素分子数を増加して、カーボンの周りの酸素分子を増やすのである。したがって、雰囲気圧力を高くすることでカーボンと酸素の酸化反応を促進し、再生時の加熱温度を低くすることができる。
【0046】
この点に鑑みて、本実施形態の再生制御器84は、入口側温度計50で検出されたフィルタ装置16の内部温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように温度調整器73における加熱量又は減熱量を制御し、入口側圧力計48で検出されたフィルタ装置116の内部圧力が大気圧より高くあらかじめ設定された圧力になるように再生用ガス出口弁82の弁開度を制御する。内部温度の下限は例えば300℃とし、内部圧力の上限は例えば3.0MPa(Gage)とする。また、再生制御器84は、酸素濃度分析計72で検出された再生用ガス58の酸素濃度が30Vol.%以下のあらかじめ設定された濃度になるように調整用ガスの流量を制御する。酸素濃度の下限は例えば2Vol.%とする。また、入口側温度計50での検出温度に応じて温度調整器73における加熱量又は減熱量を制御する場合、400℃未満のあらかじめ設定された温度は、カーボンの酸化反応による再生用ガス58の出口側温度の上昇を考慮して設定される。
【0047】
図6は、フィルタエレメント42の雰囲気圧力変化に対する加熱再生条件を示す図であり、図7は、フィルタエレメント42の酸素濃度変化に対する加熱再生条件を示す図である。これらの図は、発明者らがカーボンの反応速度と雰囲気圧力、加熱温度及び酸素濃度との関係を試験により求め、カーボンの反応速度からエレメントの加熱再生条件を試算した結果の一例である。
【0048】
図6は、酸素濃度21Vol.%でフィルタエレメント42の雰囲気圧力を変化させたときの加熱温度と再生日数との関係を示している。図6において、曲線a,b,c,d,e,f,gは、それぞれ雰囲気圧力が0MPa(Gage),0.5MPa(Gage),1.0MPa(Gage),1.5MPa(Gage),2.0MPa(Gage),2.5MPa(Gage),3.0MPa(Gage)のときの加熱温度と再生日数との関係を示している。一方、図7は、雰囲気圧力2.5MPa(Gage)でフィルタエレメント42の酸素濃度を変化させたときの加熱温度と再生日数との関係を示している。図7において、曲線h,i,j,k,lは、それぞれ酸素濃度が2Vol.%,5Vol.%,10Vol.%,21Vol.%,30Vol.%のときの加熱温度と再生日数との関係を示している。
【0049】
例えば、第6図において、酸素濃度21Vol.%で48h(2日)の再生処理をする場合、常圧下では約410℃の加熱温度であるのに対し、雰囲気圧力2.5MPa(Gage)の場合約345℃と65℃も加熱温度を低減できることが分かる。また、この加熱温度345℃において常圧条件で加熱処理をすると648h(27日)もの再生時間が必要となる。したがって、チャーフィルタの加熱再生処理において、雰囲気を加圧条件とすると非常に有効であることが分かる。
【0050】
第7図では、2.5MPa(Gage)の雰囲気圧力で酸素濃度を2〜30Vol.%に変化させた時の加熱温度と再生時間(日)との関係である。120h(5日)の加熱再生処理とした場合、2Vol.%の低酸素濃度条件でも加圧下とすることで、加熱温度約370℃でカーボンを除去してフィルタエレメントの再生処理ができることが分かる。本図においても、雰囲気を加圧条件とすることが加熱処理再生に有効であり、低酸素濃度であってもチャーフィルタの再生処理が可能となることが分かる。ここで、酸素濃度を高くすると加熱温度を低く,再生時間(日)を少なくできる。ただしその効果、つまり図中の各濃度の傾向を示す線と線との間の幅は酸素濃度を2Vol.%、10Vol.%、21Vol.%及び30Vol.%とすると徐々に小さくなることが明らかである。この傾向から30Vol.%以上の条件では再生時間(日)を短縮する効果がそれほど大きくないと推測される。そこで、本実施形態では酸素濃度の上限を30Vol.%とした。また、加熱温度が400℃以下の条件ではチャー中カーボンの酸化反応が遅く、図6及び図7から分かるように再生時間(日)が急激に増加する傾向であり,条件によっては30日も再生処理に要する。ただし、酸素濃度2Vol.%であっても雰囲気を2.5MPa(Gage)の加圧条件とし,340℃以上の加熱温度条件とすると14日以内と比較的短い期間でフィルタエレメントの再生処理が可能となることから本実施形態では酸素濃度の下限を2Vol.%とした。
【0051】
カーボンが酸化する場合、上記の式(1)及び(2)に示すように発熱反応であることが分かる。粉粒体にはカーボンのほかタールなどの酸化物が含まれている。フィルタエレメントの再生処理中に急激な発熱反応が起こると、容器40の低寿命化の点で好ましくない。しかし、ガス化設備を停止する際、フィルタ装置16の逆洗とパージを十分していれば、フィルタエレメント42に付着して残っている粉粒体は少量だと思われる。仮に、酸素濃度21Vol.%で雰囲気圧力2.5MPa(Gage)、240h(10日)の再生時間とすると、図6から加熱温度は約310℃である。カーボンが発熱して急激に酸化反応を起す温度、つまりカーボンの燃焼開始温度を発明者らが測定した結果、同条件では約430℃であるので、この310℃という条件ではカーボンの急激な発熱反応は起こらないと推定される。
【0052】
続いて、フィルタ装置16の再生方法の手順について説明する。まず、フィルタエレメント42の再生を開始する際、生成ガス入口弁66、生成ガス出口弁70及び粉粒体出口弁71が閉じられる。次に、再生用ガス入口弁80が開けられて再生用ガス58が容器40に投入され、投入された再生用ガス58の温度が入口側温度計50で測定される。そして、この測定値がエレメント再生時のあらかじめ設定された加熱温度となるよう、再生用ガス58が温度調整器73で加熱される。
【0053】
温度調整器73は例えば熱交換器で構成することができる。この場合、熱交換器の熱源として燃料を燃焼した高温の燃焼ガスを供給することができる。また、温度調整器73は、電気ヒータを用いて構成することもできる。また、高温の燃焼ガスをそのまま再生用ガス58としてもよい。この場合、温度調整器73は省略することができる。
【0054】
次に、再生用ガス58中の酸素濃度が酸素濃度分析計72にて測定される。例えば再生用ガス58として空気などの酸素濃度が分かっている場合、又はあらかじめ調整された窒素及び酸素の混合ガスを再生用ガス58として用いる場合は、酸素濃度分析計72は不要である。燃焼ガスのように酸素濃度が不明なガスを再生用ガス58として使用する場合、酸素濃度分析計72で測定した値に基づいて、あらかじめ設定された再生条件の酸素濃度となるよう酸素74及び窒素76の流量が決められる。
【0055】
続いて、フィルタ装置16の内部圧力が入口側圧力計48で測定される。この値があらかじめ設定された再生条件の圧力となるよう、再生用ガス出口弁82の開度が調整される。このようにして、フィルタエレメント42の再生に必要な温度、圧力及び酸素濃度の条件を整える。その後、この条件をエレメント再生に必要な時間保持して、フィルタエレメント42の再生を行なう。
【0056】
図8は、本実施形態のフィルタ装置の再生方法の一例による結果を時系列で表した図である。図8は、横軸に時間を取り、上からフィルタ装置16の内部圧力(容器40の内部圧力)、再生用ガス中の酸素濃度、容器内部温度、フィルタエレメント付着カーボン量、フィルタ差圧ΔPを示している。図8は、加熱処理条件としてフィルタ装置16の内部圧力が2.5MPa(Gage)、酸素濃度が21Vol.%、加熱温度が310℃、再生時間が240h(10日)での経時変化である。フィルタ装置16の内部圧力、酸素濃度及びフィルタエレメントの入口ガス温度の3項目が再生条件となった時点をフィルタエレメントの再生処理開始としている。
【0057】
図8に示すように、再生処理が完了するA点まで、フィルタ装置16の内部圧力、再生ガス中の酸素濃度及びフィルタエレメント入口ガス温度は一定である。式(1)及び(2)に示したように、粉粒体中のカーボンは、再生用ガス中の酸素との酸化反応によりCO又はCOの気体となって除去される。そのため、フィルタエレメントに付着したカーボン量は時間の経過とともに徐々に減少する。粉粒体中のカーボンが除去されると、フィルタエレメントの差圧ΔPは減少し、再生処理時間経過後のA点でエレメントの再生処理が完了する。
【0058】
図9は、加熱再生処理前後のフィルタエレメントの様子を示す図である。この図9は、フィルタエレメント42の表層部のパーマネント層56とパーマネント層56内に入り込んでいる粉粒体54及び粉粒体54中の灰分90とカーボン92の様子を示している。図9(a)は再生前の状況で、パーマネント層56に灰分90とカーボン92が存在している。図9(b)は加熱再生後の様子で、加熱再生処理によりカーボン92が除去され粉粒体54中の灰分90だけが残っている。カーボン92が除去されるとカーボン92が存在していた部分の容積が空間となるため流路面積が増加し、図8に示すようにエレメント差圧ΔPは減少する。
【0059】
加熱再生処理により粉粒体54中のカーボン92が除去されたパーマネント層56は、空隙の増加で脆い状態であり、逆洗ガス44においても通過しやすい。したがって、加熱再生処理で残ったパーマネント層56内の灰分90を逆洗操作で払い落とすことができる。図9(c)にパーマネント層56内の灰分90を除去する様子を示す。加熱再生処理後、通常の逆洗操作と同様に、逆洗ガス供給バルブ46を一瞬開いて逆洗ガス44をフィルタエレメント42に通過させて灰分90を払い落とすことにより、より効果的にフィルタエレメント42の再生をすることができる。
【0060】
また、エレメントの再生処理後に逆洗をする代わりに、再生用ガスを逆洗方向から、つまり本実施形態の説明で流したガスの流れ方向と逆方向に再生用ガスを流して、エレメントの再生処理をしてもよい。しかしその際には、再生用ガス中に異物が混入していると、フィルタエレメント42内側に異物が付着してしまうおそれがある。そのため、再生用ガスに異物が混入しないように、フィルタを付けるなど注意することが必要である。
【0061】
ところで、上記の式(1)及び(2)示したカーボンの酸化反応式のように、カーボンの酸化反応はいずれも発熱反応である。そのため、図8に示すように、フィルタ出口ガス温度は、入口ガス温度よりもやや高くなる。加熱再生処理が進み付着カーボン量が減少すると、フィルタ出口ガス温度は徐々に低下する。粉粒体中のカーボン量がなくなると、酸化反応が終了するため発熱量が0となり、フィルタ入口ガス温度とフィルタ出口ガス温度が同じガス温度となる。このように入口ガス温度と出口ガス温度が同じ温度になった時を加熱再生処理が終了したと判断の目安にすることができる。
【0062】
なお、再生制御器84は、入口側温度計50での検出温度に応じて温度調整器73を制御することに代えて、出口側温度計51での検出温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように温度調整器73における加熱量又は減熱量を制御するよう構成することもできる。
【0063】
すなわち、カーボンの酸化反応は発熱反応であるから、フィルタ容器の入口側のガス温度が400℃未満であっても出口側のガス温度が400℃以上になるおそれもある。そこで、出口側のガス温度を検出して、検出温度が400℃未満になるよう温度調整器73を制御することが好ましい。
【0064】
図10は、本実施形態のフィルタ装置の再生方法の一例による結果を時系列で表した図である。図8と同様に横軸に時間を取り、上からフィルタ装置16の内部圧力、再生用ガス58中の酸素濃度、容器内部温度、フィルタエレメント付着カーボン量、フィルタ差圧ΔPを示している。この例は、容器に投入される再生用ガス58の酸素濃度及び容器内部温度の少なくとも一方が段階的に増加するように、調整用ガスの流量及び温度調整器73における温度の少なくとも一方を制御するものである。より詳細には、再生用ガス58の加熱温度を調整して容器内部温度を段階的に増加させるものである。なお、再生用ガス58の加熱温度を調整して容器内部温度を段階的に増加させることに代えて、酸素濃度を段階的に増加させてもよいし、両者を段階的に増加させることもできる。
【0065】
ここでは、容器内部温度をステップ1及びステップ2の2段階で加熱処理をする方法について説明する。ステップ1の容器内部温度を310℃、ステップ2の容器内部温度を345℃とした。これらの加熱温度条件におけるカーボンの酸化反応終了時間である再生加熱処理時間は、図6より、それぞれ240h(10日間)及び48h(2日間)である。ここでは2段階の加熱処理をするため、加熱時間としては両ステップともカーボンの酸化反応が完了する時間の半分、つまり、それぞれ120h(5日間)及び24h(1日間)とした。
【0066】
フィルタ装置16の内部圧力及び再生ガス中の酸素濃度は、それぞれ2.5MPa(Gage)及び21Vol.%で、エレメントの再生処理が完了するまで一定である。フィルタ装置16の内部圧力、再生用ガス中の酸素濃度及びチャーフィルタ容器入口ガス温度の3項目が再生条件となった時点で、ステップ1の再生処理開始とする。カーボンと再生用ガス中の酸素との酸化反応が進み、フィルタエレメントの付着カーボン量が50%になる時間120h(5日間)経過後、ステップ2の加熱条件である345℃に加熱温度を変更する。
【0067】
容器内部温度の設定値を変更後、残りの付着カーボンは24h(1日間)の加熱処理で除去される。この例による2段階の加熱処理では、計144h(6日間)で加熱処理が完了する。加熱処理温度310℃一定で加熱再生処理をすると240h(10日間)かかるのに対し、144h(6日間)でエレメントの再生処理が完了する。したがって、4日間短縮できることになる。加熱温度を段階的に上げる際、高温条件から低温条件へ変化させると再生初期に存在する多くのカーボンが急激に反応して発熱する場合が考えられるため、低温条件から高温条件変化させる方がむしろ安全な方法である。
【0068】
図11は、本実施形態のフィルタ装置の再生方法の一例による結果を時系列で表した図である。図10と同様に、横軸に時間をとり、上から順にフィルタ装置16の内部圧力、再生ガス中の酸素濃度、容器内部温度、フィルタエレメント付着カーボン量、フィルタ差圧ΔPを示している。この例は、容器40に投入される再生用ガス58の酸素濃度及び容器内部温度の一方が段階的に増加するように、調整用ガスの流量及び温度調整器73における温度の少なくとも一方を制御するとともに、容器40の内部に投入される再生用ガス58の酸素濃度及び容器内部温度の他方が段階的に減少するように調整用ガスの流量及び温度調整器73における温度の他方を制御するものである。以下では、再生用ガスの酸素濃度を段階的に増加させ、容器内部温度を段階的に減少させる例を説明するが、これに限らず、容器内部温度を段階的に増加させ、酸素濃度を段階的に減少させることもできる。
【0069】
ここでは一例として、容器内部温度及び酸素濃度をステップ1及びステップ2の2段階で変化させて加熱処理を行なう方法について説明する。ステップ1の容器内部温度と酸素濃度は370℃×2Vol.%、ステップ2では310℃×21Vol.%とした。これらの加熱温度条件における再生加熱処理時間は、図7より、それぞれ120h(5日間)及び240h(10日間)である。上記の図10と同様に、2段階の加熱処理であるため両ステップともカーボンの酸化反応完了時間の半分である60h(2.5日間)及び120h(5日間)を加熱処理時間とした。
【0070】
フィルタ装置16の内部圧力は2.5MPa(Gage)で加熱再生処理が完了するまで一定である。フィルタ装置の内部圧力、再生用ガス58中の酸素濃度及びチャーフィルタ容器入口ガス温度の3項目が再生条件となった時点で、ステップ1の再生処理開始とする。カーボンと再生用ガス中の酸素との酸化反応が進み、フィルタエレメントの付着カーボン量が50%になる時間60h(2.5日間)経過後、ステップ2の加熱条件である酸素濃度を2Vol.%から21Vol.%に高くし、容器内部温度を370℃から310℃に低下させる。容器内部温度及び酸素濃度を変更後、残りの付着カーボンは120h(5日間)の加熱処理で除去される。
【0071】
本2段階の加熱処理では計180h(7.5日間)で加熱処理が完了する。加熱処理温度310℃一定で加熱再生処理をすると240h(10日間)かかるのに対し、60h(2.5日間)短縮できることになる。ところで、加熱処理においてチャー中のカーボンを確実に除去するため加熱温度を高く設定することが望ましい。しかし、加熱処理の初期段階では、カーボンの急激な酸化反応による発熱が懸念される。第7図に酸素濃度変化に対する加熱再生条件を示す。本実施形態ステップ1の再生条件である圧力2.5MPa(Gage)及び温度370℃において、酸素濃度21Vol.%では約1日間で、酸素濃度2Vol.%では約5日間でチャー中のカーボンを除去できることが分かる。このことから、加熱処理温度を370℃と高くしても酸素濃度を21Vol.%から2Vol.%に低下させることで酸化反応速度を1/5に低くしてカーボンの急激な酸化反応による発熱を抑えることができる。また、図6には圧力変化に対する加熱再生条件を示す。本実施形態ステップ2の加熱処理条件である温度310℃で酸素濃度21Vol.%において、圧力を常圧の0MPa(Gage)とすると再生日数が30日を越える。したがって、本実施形態のように加圧下として酸素濃度を21Vol.%に高くすることで、310℃と低い加熱温度条件であっても短時間でフィルタエレメントの加熱再生処理が可能である。その結果、常圧再生よりも加熱温度及び酸素濃度の条件を広い範囲で設定でき、再生処理初期段階に酸素濃度を低く設定することによりチャーフィルタエレメントの再生処理を安全に行なうことができる。
【0072】
以上、本実施形態のフィルタ装置の再生システム及び再生方法によれば、フィルタ装置の容器内部の圧力を大気圧より高くした状態で加熱再生処理を行っているので、比較的低い温度条件であっても、フィルタエレメントに捕集されているカーボンの酸化反応を促進してより短時間で除去することができる。その結果、フィルタ装置の容器への熱影響を抑制しつつ、フィルタエレメントに付着したカーボンをより短時間で除去してフィルタ装置を再生することができる。
【0073】
また、フィルタ装置を含む石炭ガス化設備において、フィルタ装置の長寿命化、運転毎の差圧上昇を防止することによる石炭ガス化設備の安定運転、及び信頼性向上が図れる。また、フィルタ差圧が上昇するとガス化設備の運転中止を余儀なくされるところ、本実施形態によれば、石炭ガス化設備の停止期間中の時間を短縮することができるので、石炭ガス化設備を経済的に運用することが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
10 石炭ガス化炉
16 フィルタ装置
28 生成ガス
40 容器
42 フィルタエレメント
48 入口側圧力計
50 入口側温度計
52 差圧計
54 粉粒体
58 再生用ガス
60 再生用ガス投入流路
62 再生用ガス排出流路
64,68 生成ガス流路
66 生成ガス入口弁
70 生成ガス出口弁
72 酸素濃度分析計
73 温度調整器
74 酸素
76 窒素
78 調整用ガス投入流路
80 再生用ガス入口弁
82 再生用ガス出口弁
84 再生制御器
90 灰分
92 カーボン
100 石炭ガス化設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を部分燃焼してガス化する石炭ガス化炉で生成された生成ガスの流路に設けられ前記生成ガスの上流側及び下流側の流路とそれぞれ連通する開口が設けられた容器と、該容器の両開口を隔てて前記生成ガス中の粉粒体を捕集するフィルタエレメントとを有してなるフィルタ装置に、前記フィルタエレメントに捕集されている粉粒体に含まれるカーボンを燃焼させる再生用ガスを通流させて前記フィルタ装置を再生する方法であって、
前記容器の内部圧力を大気圧より高くあらかじめ設定された圧力にした状態で、前記容器の内部温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように前記再生用ガスの温度を制御して前記容器に投入するフィルタ装置の再生方法。
【請求項2】
請求項1のフィルタ装置の再生方法において、
前記容器に投入される再生用ガスの酸素濃度を30Vol.%以下のあらかじめ設定された濃度に制御するフィルタ装置の再生方法。
【請求項3】
請求項2のフィルタ装置の再生方法において、
前記容器に投入される再生用ガスの酸素濃度の前記あらかじめ設定された濃度及び前記容器の内部温度の前記あらかじめ設定された温度の少なくとも一方を段階的に増加させるフィルタ装置の再生方法。
【請求項4】
請求項2のフィルタ装置の再生方法において、
前記容器に投入される再生用ガスの酸素濃度の前記あらかじめ設定された濃度及び前記容器の内部温度の前記あらかじめ設定された温度の一方を段階的に増加させるとともに、他方を段階的に減少させるフィルタ装置の再生方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項のフィルタ装置の再生方法において、
前記容器に前記再生用ガスを投入して前記フィルタ装置の再生を開始した後、前記容器の入口側の前記再生用ガスの温度及び前記容器の出口側の前記再生用ガスの温度を検出し、該検出された入口側温度と出口側温度の差があらかじめ設定された閾値より小さくなったら前記フィルタ装置の再生を終了するフィルタ装置の再生方法。
【請求項6】
石炭を部分燃焼してガス化する石炭ガス化炉と、該石炭ガス化炉で生成された生成ガスが通流する生成ガス流路と、該生成ガス流路に設けられ該流路を通流する生成ガス中の粉粒体を捕集するフィルタ装置とを備え、該フィルタ装置は、前記生成ガスの上流側及び下流側の流路とそれぞれ連通する開口が設けられた容器と、該容器の両開口を隔てて前記粉粒体を捕集するフィルタエレメントとを有して構成され、
前記フィルタエレメントに捕集された粉粒体中のカーボンを燃焼させて前記フィルタ装置を再生させる再生用ガスを前記容器に投入する再生用ガス投入流路と、前記容器に投入されて前記フィルタエレメントを通過した再生用ガスを排出する再生用ガス排出流路と、
前記容器の内部の前記再生用ガスの流れに対して前記フィルタエレメントより上流側に設けられた入口側温度検出器と、前記再生用ガス投入流路に設けられ該流路を通流する再生用ガス温度を調整する温度調整器と、前記フィルタ装置の内部圧力を検出する圧力検出器と、前記再生用ガス排出流路に設けられた再生用ガス出口弁と、前記フィルタ装置の再生制御を行なう再生制御器とを備え、
前記再生制御器は、前記入口側温度検出器で検出された前記フィルタ装置の内部温度が400℃未満のあらかじめ設定された温度になるように前記温度調整器における加熱量又は減熱量を制御し、
前記圧力検出器で検出された前記フィルタ装置の内部圧力が大気圧より高くあらかじめ設定された圧力になるように前記再生用ガス出口弁の弁開度を制御するフィルタ装置の再生システム。
【請求項7】
請求項6のフィルタ装置の再生システムにおいて、
前記再生用ガス投入流路に設けられた酸素濃度検出器と、該再生用ガス投入流路の前記酸素濃度検出器よりも上流側に酸素及び窒素の少なくとも一方の調整用ガスを投入する調整用ガス投入流路とを備え、
前記再生制御器は、前記酸素濃度検出器で検出された再生用ガスの酸素濃度が30Vol.%以下のあらかじめ設定された濃度になるように前記調整用ガスの流量を制御するフィルタ装置の再生システム。
【請求項8】
請求項7のフィルタ装置の再生システムにおいて、
前記再生制御器は、前記容器に投入される再生用ガスの酸素濃度の前記あらかじめ設定された濃度及び前記容器の内部温度の前記あらかじめ設定された温度の少なくとも一方が段階的に増加するように、前記調整用ガスの流量及び前記温度調整器における温度の少なくとも一方を制御するフィルタ装置の再生システム。
【請求項9】
請求項7のフィルタ装置の再生システムにおいて、
前記再生制御器は、前記容器に投入される再生用ガスの酸素濃度の前記あらかじめ設定された濃度及び前記容器の内部温度の前記あらかじめ設定された温度の一方が段階的に増加するように、前記調整用ガスの流量及び前記温度調整器における温度の少なくとも一方を制御するとともに、前記容器の内部に投入される再生用ガスの酸素濃度及び温度の他方が段階的に減少するように前記調整用ガスの流量及び前記温度調整器における温度の他方を制御するフィルタ装置の再生システム。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項のフィルタ装置の再生システムにおいて、
前記再生用ガス排出流路に設けられた出口側温度検出器を備え、
前記再生制御器は、前記容器に前記再生用ガスを投入して前記フィルタ装置の再生を開始した後、前記入口側温度検出器で検出された温度と前記出口側温度検出器で検出された温度との差があらかじめ設定された閾値より小さくなったら前記フィルタ装置の再生を終了するフィルタ装置の再生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−7006(P2012−7006A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141772(P2010−141772)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度〜20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、多目的石炭ガス製造技術開発(EAGLE)/パイロット試験設備およびゼロエミッション化技術に関する研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】