説明

フィルタ装置

【課題】λ/2共振による共振周波数を高周波側にシフトさせることにより、通過帯域近傍における減衰特性を確保することである。
【解決手段】フィルタ装置は、積層体1と、積層体1を挟んで対向するように配置された第1の接地電極2および第2の接地電極3と、積層体1内において互いに電磁界結合するように平面視において横並びに配置された複数の共振器電極41〜44と、積層体1内において複数の共振器電極41〜44と第2の接地電極3との間に設けられた結合電極5と、積層体1内に設けられた入力端子電極6および出力端子電極7とを備えている。複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部は、平面透視において結合電極5と重なるように設けられた開口部421、431を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や無線LAN等の様々な用途で無線通信機器が用いられるようになっており、各無線通信機器において使用される周波数が互いに近くなっていることから、これらの無線通信機器には、所望周波数帯域の信号のみを選択的に通過させるとともに、通過帯域の低周波側および高周波側に近接した信号帯域における不所望信号の混入を防止して良質の通信を行ない得るようにするために、通過周波数帯域の低周波側および高周波側の減衰帯域にそれぞれ減衰極を備えた帯域通過特性を有するフィルタ装置が搭載されている。
【0003】
情報伝送容量の増加に伴い、無線通信機器は使用可能な周波数帯域において、高周波化と広帯域化とで利用帯域幅を拡張して情報伝送容量を確保するようになってきている。そのため、通過帯域が広く、かつ通過帯域の近傍に減衰極を有する(急峻な減衰特性を有する)フィルタ装置が求められるようになってきている。
【0004】
例えば、新しい通信手段として着目されているUWBは、10m程度の短い距離において広い周波数帯域を使用して大容量のデータ転送を実現するものであり、例えば米国FCC(Federal Communication Commission)の規定によると3.1〜10.6GHzという非常に広
い周波数帯域を使用する計画となっている。そして、日本では、無線LANのIEEE802.11.aにおいて使用される5.15GHz〜5.25GHzを避ける形で、3.4GHz〜4.8GH
z程度の帯域を使用するローバンドと7.25GHz〜10.25GHz程度の帯域を使用するハ
イバンドとに分割された規格が立案されている。このため、ローバンド用のフィルタであれば、3.4GHz〜4.8GHz程度の広い帯域を使用する(この帯域の周波数の信号を通過させる)のに対して、わずかに0.35GHzしか離れていない5.15GHzでは減衰するという非常に急峻な減衰特性が求められている。
【0005】
このような広帯域で通過帯域の両側近傍に減衰極を有するバンドパスフィルタの要求に対して、複数の共振器電極の短絡端を電気的に接続する結合電極を備えたフィルタ装置が提案されている。このフィルタ装置においては、結合電極を備えていることによって、複数の共振器電極間において、容量性の結合だけでなく誘導性の結合も生じさせることができる。これにより、所定の通過帯域近傍の周波数帯域における信号を急峻に減衰させることができるというものである(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−118615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、所定の通過帯域を除く周波数帯域における信号をより大きく減衰させることが求められている。従来のフィルタ装置においては、結合電極によって通過帯域近傍の周波数帯域における信号を急峻に減衰させることができるが、この結合電極によってλ/2共振が生じるものであった。このλ/2共振が生じると、減衰特性に跳ね上がりが生じるので、例えば、ローバンド用とハイバンド用との両方を備えたデュアルバンドのフィルタ装置とした場合には、ローバンド用フィルタにおいて発生したλ/2共振によ
って、ハイバンド用のフィルタによる通過帯域の外側において、減衰が急峻でなくなったり共振が発生したりしてしまう、あるいは、通過帯域においても共振によるノイズが発生してしまう場合があるという問題点があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みて案出されたものであり、その目的は、λ/2共振による共振周波数を高周波側にシフトさせることにより、通過帯域近傍における減衰特性を確保することができ、例えばUWB用途にも好適に用いることのできるフィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様によれば、フィルタ装置は、積層体と、積層体を挟んで対向するように配置された第1の接地電極および第2の接地電極と、積層体内において互いに電磁界結合するように平面視において横並びに配置された3つ以上の複数の共振器電極と、積層体内において複数の共振器電極と第2の接地電極との間に設けられた結合電極と、積層体内に設けられた入力端子電極および出力端子電極とを備えている。積層体は、互いに積層された複数の誘電体層を含んでいる。複数の共振器電極のそれぞれは、短絡端と開放端とを有している。結合電極は、一端および他端を有している。結合電極の一端は、複数の共振器電極のうち初段の共振器電極の短絡端部と対向しているとともに初段の共振器電極の短絡端に電気的に接続されている。結合電極の他端は、複数の共振器電極のうち最終段の共振器電極の短絡端部と対向しているとともに最終段の共振器電極の短絡端に電気的に接続されている。入力端子電極は、初段の共振器電極に沿った形状を有しており、初段の共振器電極と対向するように初段の共振器電極と第1の接地電極との間に設けられており、初段の共振器電極に電磁界結合されている。出力端子電極は、最終段の共振器電極に沿った形状を有しており、最終段の共振器電極と対向するように最終段の共振器電極と第1の接地電極との間に設けられており、最終段の共振器電極に電磁界結合されている。複数の共振器電極の少なくとも一部は、平面透視において結合電極と重なるように設けられた開口部または切欠き部を有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一つの態様によれば、フィルタ装置において、複数の共振器電極の少なくとも一部は、平面透視において結合電極と重なるように設けられた開口部または切欠き部を有していることによって、フィルタ装置は、複数の共振器電極の少なくとも一部と結合電極との容量結合に関して低減されており、結合電極のλ/2共振による共振周波数を高域側へシフトさせることができ、所定の通過帯域近傍の特性に関して向上されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一つの実施形態におけるフィルタ装置の分解斜視図を示している。
【図2】図1に示されたフィルタ装置の一部分の平面透視図を示している。
【図3】図2に示された構造の他の例を示す平面透視図である。
【図4】図3に示された構造の他の例を示す平面透視図である。
【図5】図3に示された構造の他の例を示す平面透視図である。
【図6】(a)は図2に示された開口部の形状を示す図であり、(b)〜(e)は開口部の形状の他の例を示す図である。
【図7】(a)は図3に示された切欠き部の形状を示す図であり、(b)〜(e)は切欠き部の形状の他の例を示す図である。
【図8】図1に示された実施形態における一つの実施例のフィルタ装置の分解斜視図を示している。
【図9】図8に示されたフィルタ装置における伝送特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1に示されているように、本発明の一つの実施形態におけるフィルタ装置は、積層体1と、積層体1を挟んで対向するように配置された第1の接地電極2および第2の接地電極3と、積層体1内において互いに電磁界結合するように平面視において横並びに配置された複数の共振器電極41〜44と、積層体1内において複数の共振器電極41〜44と第2の接地電極3との間に設けられた結合電極5と、積層体1内に設けられた入力端子電極6および出力端子電極7とを備えている。破線は、例えば、誘電体層12を貫通している導体によって共振器電極41と結合電極5とが電気的に接続されていることを示している。他の破線も電気的な接続関係を示している。一点鎖線は、複数の誘電体層11〜14、第1の接地電極2および第2の接地電極3が積層されていることを示している。
【0014】
積層体1は、互いに積層された複数の誘電体層11〜14を含んでいる。複数の誘電体層11〜14は、例えば、アルミナ,ムライト,窒化アルミニウム,BaO−TiO系,CaO−TiO系,MgO−TiO系またはガラスセラミックス等のセラミック材料、あるいは四ふっ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE),四ふっ化エチレン−エチレン共重合樹脂(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合樹脂:ETFE),四ふっ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(テトラフルオロエチレン−パーフルテロアルキルビニルエーテル共重合樹脂:PFA)等のフッ素樹脂,ガラスエポキシ樹脂またはポリイミド等の有機樹脂材料が用いられる。これらの材料による複数の誘電体層11〜14の形状または寸法(厚み、幅または長さ)は、使用される周波数または用途等に応じて設定される。セラミック材料の場合は、より高周波の信号を伝送することが可能なAu,AgまたはCu等の低抵抗金属からなる導体材料と同時焼成が可能な低温焼成セラミックスが好ましい。
【0015】
第1の接地電極2は、誘電体層14の上面に形成されており、第2の接地電極3は、誘電体層11の下面に形成されている。
【0016】
複数の共振器電極41〜44のそれぞれは、短絡端と開放端とを有している。複数の共振器電極41〜44は、平面視において、誘電体層12の上面に形成された内部接地電極8によって囲まれている。このような構成によって、複数の共振器電極41〜44から発生する電磁波の周囲への漏洩を低減することができる。この効果は、例えばモジュール基板の一部分にフィルタ装置が形成される場合に、モジュール基板のフィルタ装置以外の部分に対する影響を低減させることができる。内部接地電極8は、複数の共振器電極41〜44の短絡端同士を接続するための領域と複数の共振器電極41〜44の並び方向において複数の共振器電極41〜44を挟むように設けられた領域とを含む環状のものである。
【0017】
内部接地電極8と共振器電極41との距離または内部接地電極8と共振器電極44との距離は、共振器電極11および14による磁界に与える影響を低減させて、フィルタのQ値の低下による通過帯域の損失を低減させるように、共振器電極11または14と第1の接地電極2または第2の接地電極3との間の距離よりも大きいことが好ましい。
【0018】
図2に示されているように、複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部は、平面透視において結合電極5と重なるように設けられた開口部421、431を有している。図2に示された例において、開口部421および431は、複数の共振器電極41〜44のうち初段の共振器電極41および最終段の共振器電極44以外の共振器電極42および43に設けられている。
【0019】
図3に示されているように、図2に示された構成の他の例として、複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部が平面透視において結合電極5と重なるように設けられた切欠き部
422、432を有しているものがある。図3に示された例において、切欠き部422および432は、複数の共振器電極41〜44のうち初段の共振器電極41および最終段の共振器電極44以外の共振器電極42および43に設けられている。図3に示されたフィルタ装置において、切欠き部422および432のそれぞれは、共振器電極42において共振器電極41に近い側の長辺部分、および共振器電極43において共振器電極44に近い側の長辺部分に設けられている。
【0020】
図4に示されているように、図3に示された構造の他の例としては、切欠き部422およ
び432のそれぞれが、共振器電極42において共振器電極43に近い側の長辺部分、および共
振器電極43において共振器電極42に近い側の長辺部分に設けられているものがある。
【0021】
図5に示されているように、図3に示された構造の他の例としては、共振器電極42において共振器電極41に近い側の長辺部分および共振器電極43に近い側の長辺部分の両方に切欠き部422が設けられており、共振器電極43において共振器電極42に近い側の長辺部分お
よび共振器電極44に近い側の長辺部分の両方に切欠き部432が設けられているものがある

【0022】
再び図2を参照して、結合電極5は、一端51および他端52を有している。結合電極の一端51は、複数の共振器電極41〜44のうち初段の共振器電極41の短絡端部と対向しているとともに初段の共振器電極41の短絡端に電気的に接続されている。結合電極の他端52は、複数の共振器電極41〜44のうち最終段の共振器電極44の短絡端部と対向しているとともに最終段の共振器電極44の短絡端に電気的に接続されている。
【0023】
再び図1を参照して、入力端子電極6(特に内部入力端子電極62)は、初段の共振器電極41に沿った形状を有しており、初段の共振器電極41と対向するように初段の共振器電極41と第1の接地電極2との間に設けられており、初段の共振器電極41に電磁界結合されている。
【0024】
出力端子電極7(特に内部出力端子電極72)は、最終段の共振器電極44に沿った形状を有しており、最終段の共振器電極44と対向するように最終段の共振器電極44と第1の接地電極2との間に設けられており、最終段の共振器電極44に電磁界結合されている。
【0025】
図1〜図5に示されているように、本実施形態のフィルタ装置において、複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部は、平面透視において結合電極と重なるように設けられた開口部421,431または切欠き部422,432を有していることによって、本実施形態におけるフィルタ装置は、複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部と結合電極5との容量結合に関して低減されており、結合電極5のλ/2共振による共振周波数を高域側へシフトさせることができ、所定の通過帯域近傍の特性に関して向上されている。
【0026】
図1〜図5に示されているように、本実施形態のフィルタ装置において、開口部421,431または切欠き部422,432が、複数の共振器電極41〜44のうち初段の共振器電極41および最終段の共振器電極44以外の共振器電極42,43に設けられている場合、フィルタ装置は、結合電極5による初段の共振器電極41および最終段の共振器電極44の結合状態の低減を抑えつつ、共振器電極42,43と結合電極5との容量結合に関して低減されている。従って、フィルタ装置は、所定の通過帯域近傍の周波数帯域における信号の減衰に関して向上されているとともに、結合電極5のλ/2共振による共振周波数を高域側へシフトさせることができる。
【0027】
図1および図2に示されているように、本実施形態のフィルタ装置において、複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部が、開口部421,431および切欠き部422,432のうち開口部421,431を有している場合、フィルタ装置は、切欠き部422,432を有する場合に比べて
、隣に配置された共振器電極同士の容量成分による結合量の変化に関して低減されている。
【0028】
本実施形態のフィルタ装置において、複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部が、開口部421,431および切欠き部422,432のうち開口部421,431を有している場合、複数の共振器電極41〜44のそれぞれにおいて一対の長辺が直線状となるため、フィルタ装置は、切欠き部422,432を有する場合に比べて、複数の共振器電極41〜44のそれぞれにおける高周波信号の縁端効果を考慮した設計をしやすくなる。
【0029】
本実施形態のフィルタ装置において、複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部が、開口部421,431および切欠き部422,432のうち開口部421,431を有している場合、フィルタ装置は、切欠き部422,432を有する場合に比べて、共振器電極41〜44におけるインピーダンスの不連続部分に関して低減されている。
【0030】
本実施形態のフィルタ装置において、図3〜図5に示されているように、複数の共振器電極41〜44の少なくとも一部が、切欠き部422,432を有している場合、図5に示されているように、一つの共振器電極における2つの長辺のそれぞれに切欠き部が設けられている構造の方が、図3および図4に示されているように、一つの共振器電極における2つの長辺のいずれか一方にだけ切欠き部が設けられている構造に比べて、隣に配置された共振器電極との結合状態または高周波信号における縁端効果等を考慮した設計が行ないやすい。
【0031】
フィルタ装置において、開口部421,431または切欠き部422,432の形状は、開口部421
,431または切欠き部422,432が形成された共振器電極の幅が、段階的に、あるいは徐々
に変化するような形状にされていると、共振器電極の幅が急激に変わることによるインピーダンスの急激な変化を低減させることができる。
【0032】
開口部421の場合であれば、例えば、図6(a)に示された例のような長方形に比べて
、図6(b)または図6(d)に示された例のような六角形、あるいは図6(c)に示された例のような八角形、図6(e)に示された例のような楕円形、あるいはひし形や長円形等で共振器電極42の長さ方向に沿った形状がよい。
【0033】
開口部421は、図6(a)〜(e)に示された例のように、共振器電極42の長さ方向に
平行な中心線に対して対称な形状で、幅方向の中心に位置するように形成すると、開口部421を挟んだ共振器電極42の両縁端部の幅が同じになるので、両縁端部に流れる電流分布
が同等となる。
【0034】
切欠き部422の場合であれば、その形状は、上記形状の開口部421を長さ方向に平行な中心線で1/2とした形状、例えば三角形や台形とすればよい。具体的には、図7(a)〜(e)に示された形状である。図7(a)〜(e)に示された切欠き部422の形状は、図
6(a)〜(e)に示された開口部421の形状を長さ方向に平行な中心線で1/2とした
形状である。
【0035】
このように、開口部421または切欠き部422の形状を共振器電極42の長さ方向に沿った細長い形状とすることで、開口部421または切欠き部422を形成した残りの共振器電極42の幅をあまり小さくすることなく、結合電極5と入出力電極6または出力端子電極7との結合を大きくすることができる。
【0036】
図6および図7において、共振器電極42と開口部421または切欠き部422とを用いて説明したが、共振器電極43と開口部431または切欠き部432との関係においても同様である。
【0037】
再び図1〜図5を参照して、積層体1は4層の誘電体層11〜14が積層されて構成されており、4つの共振器電極41〜44が短絡端と開放端とが交互に入れ替わるように配置されたいわゆるインターデジタル型に配置された例が示されている。積層体1の層数は、誘電体層11〜14の厚みや比誘電率等によって適宜変えることができる。結合電極5は、4つの共振器電極41〜44がインターデジタル型に配置されているので、一端51が初段の共振器電極41の短絡端部と対向し、他端52が最終段の共振器電極44の短絡端部と対向するには、図1〜図5に示されている例のようにクランク型となる。同じ4つの共振器電極41〜44であっても、短絡端および開放端の向きが同じ、いわゆるコムライン型に配置されている場合であれば、結合電極5はコの字型(C字型)となる。同様に、共振器電極の配置が同じインターデジタル型の配置の場合でも、その数が5つ等の奇数である場合にも、結合電極5はコの字型(C字型)となる。このように、結合電極5の形状は共振器電極の配置と数に応じた形状となる。
【0038】
共振器電極41〜44は、積層体1の誘電体層12および13の間に横並びに整列させて配置されて、相互に電磁界結合(エッジ結合)している。隣り合う共振器電極41と42,42と43,43と44同士の間隔は、小さい方が強い結合が得られ、通過帯域を広くできるので好ましいが、短絡端から開放端までの間において互いに短絡しないようにして等間隔に良好に形成するには、例えば0.05〜0.5mm程度に設定される。横並びに配置されて相互に電磁界結
合するためには、共振器電極41〜44の形状は細長い帯状のものであるのが好ましい。
【0039】
共振器電極41〜44をインターデジタル型に配置したときには、共振器電極41〜44間の結合は、磁界による結合と電界による結合とが加算されることによって各共振器電極41〜44間においてより強い結合が生じることによって、それぞれの共振モードにおける共振周波数の間の周波数間隔を、従来の1/4波長共振器を利用したフィルタで実現可能であった帯域を超えて調整することができ、広帯域な通過帯域を有するフィルタ装置とすることができる。インターデジタル型に配置された共振器電極41〜44間の結合は強い磁界結合となり、共振器電極41〜44のパターン幅を小さくして磁界を強める必要がないので、共振器電極41〜44のパターン幅を大きくすることによって、共振器電極41〜44の電気抵抗を小さくし、共振器の急峻性共振の鋭さを示すQ値(quality factor)を高くすることができる。その結果、広い通過帯域を有し急峻な減衰特性を有する、例えばUWB用途のバンドパスフィルタに適したフィルタ装置とすることができる。
【0040】
共振器電極41〜44をコムライン型に配置したときは、インターデジタル型と比べて共振器電極41〜44間の結合が弱いことから、通過帯域が狭く急峻な特性が得られ、また各共振器電極41〜44のパターン幅を小さくできることによってより小型化できるため、携帯電話用や無線LAN等の比較的小型の無線機器に適したフィルタ装置となる。
【0041】
図1〜図5に示された例では4つの共振器電極41〜44が設けられているが、共振器電極は5つ以上を設けてもよく、損失が大きくならない程度の個数であればよい。UWBのローバンド用途では、損失と減衰特性のバランスから、共振器電極は4つが好ましい。
【0042】
共振器電極41〜44は、それぞれ上下に位置する第1の接地電極2および第2の接地電極3(第1の接地電極2および第2の接地電極3をまとめて接地電極2,3ともいう)と共にストリップライン共振器を構成しており、短絡端が上下の接地電極2,3に接続されて接地電位に接続されることによって1/4波長共振器として機能する。
【0043】
共振器電極41〜44と上下の接地電極2,3との接続は、共振器電極41〜44が形成された層間に共振器電極41〜44の短絡端同士を接続するための導体層を設けて、この導体層と貫通導体とによって接続したり、この導体層を誘電体層の端部まで延ばして誘電体層の端面(積層体1の側面)に形成された端面導体によって接続したりすればよい。共振器電極41
〜44の短絡端同士を接続するための導体層を設けない場合は、共振器電極41〜44のそれぞれを貫通導体によって接地電極2,3に接続してもよいし、共振器電極41〜44の短絡端を誘電体層の端部まで延ばして、誘電体層の端面(積層体1の側面)に形成された端面導体によって接地電極2,3に接続してもよい。端面導体で接続すると、共振器電極41〜44から発生する電磁波の周囲への漏洩を低減するシールド層として端面導体を機能させることができ、貫通導体の場合でも、その間隔を小さくしたり、共振器電極41〜44の周りに二重以上に配列し、側面から見てできるだけ貫通導体を隙間なく配置したりすれば、同様にシールドの機能がより顕著になるので好ましい。共振器電極41〜44の短絡端同士を接続するための導体層を設けると、共振器電極41〜44の短絡端を接地電極2,3に接続するのが容易となるので好ましい。
【0044】
第1の接地電極2、第2の接地電極3、内部接地電極8、共振器電極41〜44、結合電極5、入力端子電極6、および出力端子電極7は、誘電体層11〜14がセラミック材料から成る場合は、W,Mo,Mo−Mn,Au,Ag,Cu等の金属を主成分とするメタライズ層によって形成される。誘電体層41〜44が樹脂系材料からなる場合は、厚膜印刷法、各種の薄膜形成方法、めっき法、または箔転写法等により形成された金属層や、このような金属層上にめっき層を形成されたもの、例えばCu層,Cr−Cu合金層またはCr−Cu合金層上にNiめっき層およびAuめっき層を被着させたもの,TaN層上にNi−Cr合金層およびAuめっき層を被着させたもの,Ti層上にPt層およびAuめっき層を被着させたもの,Ni−Cr合金層上にPt層およびAuめっき層を被着させたもの等が挙げられる。その厚みや幅は、伝送される高周波信号の周波数や用途等に応じて設定される。
【0045】
誘電体層41〜44,第1の接地電極2,第2の接地電極3,内部接地電極8,共振器電極41〜44,結合電極5,入力端子電極6,出力端子電極7の形成は、周知の方法を用いればよい。例えば誘電体層11〜14がガラスセラミックスから成る場合であれば、まずそれら誘電体層11〜14となるガラスセラミックスのグリーンシートを準備し、グリーンシート上にスクリーン印刷法によりAg等の導体ペーストを所定形状で印刷塗布して第1の接地電極2、第2の接地電極3、内部接地電極8、共振器電極41〜44、結合電極5、入力端子電極6、および出力端子電極7の各電極パターンを形成する。これらの電極パターンが形成されたグリーンシートを重ねて圧着するなどして積層体を作製し、この積層体を850〜1000
℃で焼成することにより形成する。その後、外表面に露出している導体層上には、NiめっきおよびAuめっき等のめっき皮膜を形成する。誘電体層11〜14が有機樹脂材料から成る場合であれば、例えば有機樹脂シート上に第1の接地電極2、第2の接地電極3、内部接地電極8、共振器電極41〜44、入力端子電極6、出力端子電極7、および結合電極5の各電極パターン形状に加工したCu箔を転写し、Cu箔が転写された有機樹脂シートを積層して接着剤で接着することによって形成する。
【0046】
接地電極2,3と共振器電極41〜44の短絡端とを接続する接続導体は、それらの間に位置する誘電体層内に形成された貫通導体または誘電体層の端面に形成された端面導体の形態で形成することによって、積層体1の内部に形成されるフィルタ装置の設計自由度が向上するとともに、より小型で高性能なフィルタ装置とすることができる。
【0047】
このような接続導体となる貫通導体や側面導体は、誘電体層11〜14がガラスセラミックス等のセラミックスから成る場合には、貫通導体は、例えば前述の製造方法において第1の接地電極2、第2の接地電極3、内部接地電極8、共振器電極41〜44、結合電極5、入力端子電極6、および出力端子電極7の各電極パターンを形成する前に、グリーンシートに金型加工やレーザー加工によりあらかじめ形成しておいた貫通孔内に同様の導体ペーストを印刷法等によって充填することで形成することができ、端面導体は、例えば共振器電極41〜44の電極パターンの短絡端を端面に露出させたグリーンシート積層体を形成した後
、同様の導体ペーストをグリーンシート積層体の側面に印刷することによって形成することができる。端面導体は、グリーンシートに共振器電極41〜44の列の幅程度の貫通孔を形成しておき、共振器電極41〜44の電極パターンの短絡端をこの貫通孔に接するように形成した後、グリーンシートの積層前または積層後に導体ペーストを貫通孔の内面に印刷し、または貫通穴に充填して、貫通孔の部分で切断することによっても形成することができる。誘電体層11〜14が樹脂系材料から成る場合も同様に、グリーンシートに代えて有機樹脂シートを用い、導体ペーストの印刷やめっきによって貫通孔内に貫通導体を形成したり、薄膜法等によって側面導体を形成したりすればよい。共振器電極11〜14の電極パターンの短絡端を積層体の側面に露出させるには、共振器電極11〜14の電極パターンの短絡端がグリーンシート(あるいは有機樹脂シート)の端部に位置するように形成したり、共振器電極11〜14の電極パターンを形成したグリーンシート(有機樹脂シート)を積層した後に、共振器電極11〜14の電極パターンの短絡端が側面に露出するように積層体を切断したりすればよい。
【0048】
図8を参照して、図1に示されたフィルタ装置における一つの実施例について説明する。
【0049】
例えばUWBのローバンド規格に用いられるような通過帯域の中心周波数が3.9GHz
のバンドパスフィルタとしてのフィルタ装置は、例えば誘電体層11〜14として比誘電率が9.4のガラスセラミックスを用い、第1の接地電極2,第2の接地電極3,内部接地電極
8,共振器電極11〜14,結合電極5,入力端子電極6,出力端子電極7および貫通導体にAgメタライズを用いることにより得られる。比誘電率が9.4のガラスセラミックスは、
例えば、ガラス成分としてPbO,B,SiO,Al,ZnOおよびアルカリ土類金属酸化物を主成分とする結晶化ガラスが50質量%と、フィラー成分としてアルミナが50質量%とからなるものを用いればよい。
【0050】
このとき、誘電体層11〜14は、厚みを上から順に、400μm,75μm,75μm,350μmとする。接地電極2,3は、寸法を3.35mm×5.0mmとし、内部接地電極8は外寸を3.35mm×5.0mmで内寸(開口の寸法)を2.945mm×3.5mmとする。この開口内に寸法が0.4mm×3.35mmの共振器電極11,12,13,14を順に0.155mm,0.135mm,0.155mmの間隔で横並びに整列し、各短絡端を内部接地電極8に接続して、各開放端と内部接地電極8との間隔が0.15mmとなり、共振器電極11および14と内部接地電極8との間隔が0.45mmとなるように配置する。内部接地電極8と積層体1の上下面の接地電極2,3とは、外周部に配列した直径0.1mmの貫通導体で接続する。入力端子電極6は、0.3mm×3.35mmの内部入力端子電極62を初段の共振器電極11の開放端側と平面透視で0.3mm×3.35
mmの範囲で重なるように配置し、0.2mm×0.2mmの外部入力端子電極61と直径0.1m
mの貫通導体で接続する。出力端子電極7も同様に、0.3mm×3.35mmの内部出力端子
電極72を最終段の共振器電極14の開放端側と平面透視で0.3mm×3.35mm重なるように
配置し、0.2mm×0.2mmの外部出力端子電極71と直径0.1mmの貫通導体で接続する。
結合電極5は、2つの0.1mm×2.0mmの対向部を1.545mm×0.1mmの接続部で接続したクランク形とし、2つの対向部がそれぞれ初段の共振器電極11および最終段の共振器電極14の短絡端側と平面透視で0.1mm×1.8mmの範囲で重なるように配置し、内部接地電極8と重なる部分の中心で直径0.1mmの貫通導体により内部接地電極8に接続する。
【0051】
本実施例において、フィルタ装置は、共振器長を短くするための容量電極9をさらに備えている。容量電極9は、0.2mm×0.4mmの矩形および0.4mm×0.6mmの矩形からなる凸型であって、平面透視において内部接地電と0.4mm×0.6mmの範囲で重なり、平面透視において共振器電極3a〜3dの開放端部と0.2mm×0.25mmの範囲で重なるよう
に配置されており、それぞれ重なる部分の中心で直径0.1mmの貫通導体によって接続さ
れている。
【0052】
開口部421および431は、共振器電極の長さ方向に0.4mm、共振器電極の幅方向に0.3mmの矩形形状とし、平面透視で結合電極と対向するように配置されている。
【0053】
図8に示された本実施例のフィルタ装置において、図3に示された切欠き部422および432を設ける場合、切欠き部422および432は、共振器電極の長さ方向に0.4mm、共振器電
極の幅方向に0.3mmの矩形形状とされ、平面透視において結合電極と対向するように配
置されている。
【0054】
図8に示された本実施例におけるフィルタ装置は、図9において実線によって示された特性曲線を有する。本実施例におけるフィルタ装置に対して、共振器電極42および43に開口部421および431、または切欠き部422および432が設けられていない比較例のフィルタ装置は、図9において破線によって示された特性曲線を有する。図9おいて、縦軸は挿入損失(単位:dB)を、横軸は周波数(単位:GHz)を示している。図9に示示されたフィルタ特性から、本実施例におけるフィルタ装置の特性は、比較例のフィルタ装置の特性に比べて、結合電極のλ/2共振による共振周波数が高域側へシフトされていることが分かる。すなわち、本実施例におけるフィルタ装置の特性は、比較例のフィルタ装置の特性に比べて、通過帯域の近傍における高周波側の減衰量が確保されている減衰特性を有することが分かる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・積層体
11、12、13、14・・・誘電体層
2・・・第1の接地電極
3・・・第2の接地電極
41、42、43、44・・・共振器電極
5・・・結合電極
6・・・入力端子電極
61・・・外部入力端子電極
62・・・内部入力端子電極
7・・・出力端子電極
71・・・外部出力端子電極
72・・・内部出力端子電極
8・・・内部接地電極
9・・・容量電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層された複数の誘電体層を含む積層体と、
該積層体を挟んで対向するように配置された第1の接地電極および第2の接地電極と、
前記積層体内において互いに電磁界結合するように平面視において横並びに配置され、それぞれ短絡端と開放端とを有する3つ以上の複数の共振器電極と、
前記積層体内において前記複数の共振器電極と前記第2の接地電極との間に設けられており、一端および他端を有しており、前記一端が前記複数の共振器電極のうち初段の共振器電極の短絡端部と対向しているとともに前記初段の共振器電極の短絡端に電気的に接続されており、前記他端が前記複数の共振器電極のうち最終段の共振器電極の短絡端部と対向しているとともに前記最終段の共振器電極の短絡端に電気的に接続された結合電極と、
前記初段の共振器電極に沿った形状を有しており、前記初段の共振器電極と対向するように前記積層体内において前記初段の共振器電極と前記第1の接地電極との間に設けられており、前記初段の共振器電極に電磁界結合された入力端子電極と、
前記最終段の共振器電極に沿った形状を有しており、前記最終段の共振器電極と対向するように前記積層体内において前記最終段の共振器電極と前記第1の接地電極との間に設けられており、前記最終段の共振器電極に電磁界結合された出力端子電極とを備えており、前記複数の共振器電極の少なくとも一部は、平面透視において前記結合電極と重なるように設けられた開口部または切欠き部を有していることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
前記開口部または前記切欠き部は、前記複数の共振器電極のうち前記初段の共振器電極および前記最終段の共振器電極以外の共振器電極に設けられていることを特徴とする請求項1記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記複数の共振器電極の少なくとも一部は、前記開口部および前記切欠き部のうち前記開口部を有していることを特徴とする請求項1記載のフィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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