フィルタ
【課題】従来に比べて電荷分離が大きくて光触媒作用を十分に発揮することができ、比較的高濃度の有害物質や悪臭物質に対しても分解作用ならびに吸着作用を維持することができて、これらの除去性能の高いフィルタを提供する。
【解決手段】内外部に多数の微細孔1が形成された多孔体2を有し、この多孔体2には微細孔1を塞ぐことなく光触媒3が担持されており、多孔体2は、光触媒3との間でショットキー接合する性質を有する遷移金属の単体、またはこれらの複数を組み合わせた混合物からなる一方、光触媒3は結晶化された金属酸化物からなる。
【解決手段】内外部に多数の微細孔1が形成された多孔体2を有し、この多孔体2には微細孔1を塞ぐことなく光触媒3が担持されており、多孔体2は、光触媒3との間でショットキー接合する性質を有する遷移金属の単体、またはこれらの複数を組み合わせた混合物からなる一方、光触媒3は結晶化された金属酸化物からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気中や水中における有害物質や悪臭物質の吸着、分解を効率良く行える光触媒を有するフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸化チタン(TiO2)などの光触媒は、光を吸収することよりキャリア(電子と正孔)を生成して光触媒作用を示すもので、この光触媒作用によって大気中や水中のNOX、SOX、ホルムアルデヒト等の有害物質や、アンモニア、硫化水素等の悪臭物質を分解除去することができる。
【0003】
このような光触媒は、被分解物との接触面積が大きいほど効率的に作用するので、比表面積の大きな基体に担持させることが好ましい。そのため、従来技術では、多数の微細孔を有するセラミック多孔体や発泡アルミニュウムなどを基体として使用し、このような多孔体に光触媒を担持させたものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
このように、光触媒を多孔体に担持させれば、有害物質や悪臭物質との接触面積が大きくなって光触媒作用が促進され、酸化還元反応によって二酸化炭素に分解されるので、これらの除去性能を高めることができる。
【0005】
しかし、特許文献1,2に記載されているような従来技術のものは、光触媒である酸化チタン(TiO2)が多孔体の微細孔を塞ぐように膜状あるいは層状の状態で一様に形成されているため、光触媒による分解性能は有る程度維持できるとしても、微細孔による有害物質や悪臭物質の吸着性能が低下するという不具合を生じる。
【0006】
そこで、さらに他の従来技術として、多孔体の微細孔を塞ぐことなく光触媒を担持させた構成のものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この特許文献3記載の従来技術では、光触媒が多孔体の微細孔を塞ぐことなく分散担持されているため、光触媒による有害物質の分解性能を維持しつつ、微細孔による有害物質や悪臭物質の吸着作用も維持することができるという利点を有する。
【0007】
【特許文献1】特開2004−83376号公報
【特許文献2】特開2003−225562号公報
【特許文献3】特開2005−254123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3記載の従来技術のものは、次の点で有害物質や悪臭物質の分解作用を発揮させる上で未だ不十分な点がある。
【0009】
すなわち、従来のものは、多数の微細孔が形成された発泡セラミックスや発泡アルミニュウム等の多孔体の微細孔内の表面に単に光触媒を物理的あるいは機械的に担持させているだけのものであり、キャリアの発生に必要な電荷分離が不十分である。このため、光触媒作用が安定して発現しにくく、有害物質が高濃度になる程、有害物質の分解性能が急激に低下する。しかも、セラミックスやアルミニュウム等の多孔体の微細孔内に多量の水が侵入すると、光触媒作用が弱められてしまうなど、水濡れに弱いという難点もある。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、光触媒が多孔体の微細孔を塞ぐことなく担持されている構成に加えて、光触媒と多孔体とが一種の電極構造をもつようにして、従来に比べて電荷分離が大きくて光触媒作用を十分に発揮することができ、比較的高濃度の有害物質や悪臭物質に対しても分解作用ならびに吸着作用を維持することができて、これらの除去性能の高いフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のフィルタは、内外部に多数の微細孔が形成された多孔体を有し、この多孔体には上記微細孔を塞ぐことなく光触媒が担持されたものであって、上記多孔体は、上記光触媒との間でショットキー接合する性質を有する遷移金属の単体またはこれらの複数を組み合わせた混合物からなる一方、上記光触媒は結晶化された金属酸化物からなることを特徴としている。
【0012】
この場合の多孔体を構成する遷移金属としては、Ni単体であっても光触媒との間でショットキー接合する性質を有するので好適に使用できるが、NiとAgとの混合物からなる場合には、フォトクロミック効果がさらに発揮されるのでさらに一層好ましい。また、光触媒を構成する結晶化された金属酸化物としては、TiO2が活性が高くて、多孔体との密着性も良好なので好ましい。
【0013】
さらに、多孔体をNiとAgとの混合物から構成する場合において、スプレー法によって単にNiとAgとが積層された構成とする場合よりも、NiとAgの各スラリーを用いて両者を混合焼成するスラリー法で製作すれば、多孔体内においてNiとAgとが混在するので光触媒との間でのキャリアの授受と反応が促進され、光触媒による光触媒作用を一層発揮し得るので好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光触媒が多孔体の微細孔を塞ぐことなく担持されている構成に加えて、光触媒と多孔体とがショットキー接合して両者間で一種の電極構造をもつので、従来に比べて電荷分離が大きくてキャリアの発生効率が高く、光触媒作用を十分に発揮することができる。このため、比較的高濃度の有害物質や悪臭物質に対しても分解作用ならびに吸着作用を維持することができて、これらに対する除去性能の高いフィルタを提供することが可能になる。
【0015】
特に、NiとAgからなる多孔体をスラリー法によって製作する場合には、NiとAgとが多孔体中において混在するため、光触媒により生成するキャリアとの授受が円滑に行われる。しかも、その際、光触媒としてTiO2を用いる場合には、活性が高くて、多孔体との密着性も良好なので、多孔体との間で電荷分離が一層大きくなって光触媒作用を十分に発揮することができ、有害物質や悪臭物質に対する分解除去作用をさらに有効に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態におけるフィルタの一部を光学顕微鏡によって拡大した写真図、図2は同フィルタの一部を模式的に示す断面図である。
【0017】
この実施の形態のフィルタは、内外部に多数の微細孔1が形成された多孔体2を有し、この多孔体2には微細孔1を塞ぐことなく各々の微細孔1内の表面に光触媒3が担持されている。この場合、多孔体2の微細孔1は、例えば口径が200〜3000μm程度のものであり、また、この多孔体2に担持されている光触媒3の厚さは850nm〜1μm程度である。
【0018】
ここに、多孔体2の材料としては、光触媒3との間でショットキー接合する性質を有する遷移金属の単体、またはこれらを複数を組み合わせた混合物からなる。この場合の遷移金属の具体例としては、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、ルビジュウム(Ru)、銀(Ag)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)等がある。これらの遷移金属の単体であっても光触媒との間でショットキー接合する性質を有するものであれば好適に使用できるが、これらの遷移金属の複数を組み合わせた混合物であってもよい。特に、ニッケル(Ni)と銀(Ag)との混合物の場合には、フォトクロミック効果がさらに発揮されるのでさらに一層好ましい。
【0019】
また、光触媒3は、結晶化された金属酸化物からなる。この場合の結晶化された金属酸化物の具体例としては、酸化チタン(TiO2)が活性が高くて、多孔体2との密着性も良好なので好ましいが、その他、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化銅(Cu2O)など、自己溶解性のない金属酸化物であれば好適に使用することができる。
【0020】
このように、この実施の形態のフィルタは、光触媒3が多孔体2の微細孔1を塞ぐことなく担持されているので、多孔体2の微細孔1による有害物質や悪臭物質を効率良く吸着することができる。これに加えて、光触媒3と多孔体2とがショットキー接合して両者間で一種の電極構造(多孔体2が陰極側、光触媒3が陽極側)となっているので、従来に比べて電荷分離が大きくてキャリアの発生率が高く、光触媒作用を十分に発揮することができる。このため、比較的高濃度の有害物質や悪臭物質に対しても分解作用ならびに吸着作用を維持することができ、これらに対する除去性能の高いフィルタを提供することが可能になる。
【0021】
次に、上記構成を有するフィルタの製造方法の概略について、図3の製造工程を示すフロー図を参照して製造工程に沿って順に説明する。なお、ここでは、一例として多孔体としてNiを、光触媒としてTiO2をそれぞれ採用した場合について説明するが、本発明はこれらの材料に必ずしも限定されるものではない。
【0022】
最初にスラリー法によって多孔体を作成する。
すなわち、まず、Niの微細粉(例えば粒径1〜5μm)を準備する(S1)。そして、このNiの微細粉を有機系溶媒からなるバインダと一定比率で混合、撹拌してスラリーを作成する(S2)。
【0023】
次に、ウレタン発泡体を準備し(S3)、このウレタン発泡体を上記のスラリーを溜めた浴槽中に浸漬して、ウレタン発泡体にスラリーを含浸させる(S4)。次いで、このスラリーが含浸されたウレタン発泡体を浴槽から引き上げて転圧ローラを通過させ、これによってスラリーを微細孔の内部まで十分に移行させて定着させる(S5)。その際、同時に余分なスラリーは除去される。
【0024】
続いて、スラリーが定着されたウレタン発泡体を、まず、酸化雰囲気の加熱炉中で焼成する(S6)。これにより、ウレタン発泡体とバインダが飛散されて除去される。次いで、還元雰囲気の加熱炉中で焼成する(S7)。これにより、S6で酸化されたニッケル(Ni)が還元されて内外部に多数の微細孔が形成された多孔体が作成される。
【0025】
次に、ゾルゲル法によって上記のようにして作成された多孔体の微細孔内の表面に光触媒を担持させる。
これには、まず、アナターゼの結晶核を有するペルオキソチタン酸液を準備する(S8)。このようなアナターゼの結晶核を有するペルオキソチタン酸液を用いれば、従来のように、アナターゼ分散液を使用する場合に比べて、炭素成分やハロゲン成分を除去する必要がなく、また、比較的低温で、密度の高い結晶性のアナターゼ膜(金属酸化物)を生成することができるので都合が良い。
【0026】
次に、上記の多孔体を洗浄するとともに、表面を荒らしてさらに小さなピットホールを作る(S9)。そして、ペルオキソチタン酸液を溜めた浴槽中に多孔体を浸漬して、ペルオキソチタン酸液を多孔体の微細孔やピットホール内に含浸させる(S10)。次いで、このペルオキソチタン酸液が含浸された多孔体を浴槽から引き上げて遠心分離を行って余分な酸液を除く(S11)。
【0027】
このS10、S11を複数回繰り返して多孔体に均一な膜厚を定着させた後、焼成する(S12)。これにより、多孔体の微細孔は光触媒によって塞がれることはなく、この微細孔内に均一な膜厚を有する結晶化されたアナターゼ膜、すなわち金属酸化物(TiO2)からなる光触媒が担持された状態となる。また、この焼成により、多孔体に対するアナターゼ膜(金属酸化物)の密着強度が向上する。
【0028】
図3では、Niの多孔体にTiO2の光触媒を担持させたフィルタを製作する場合について説明したが、多孔体としてNiにAgを添加することもできる。この場合、スプレー法によって多孔体を作成するよりも、スラリー法によって多孔体を作成するのが一層好ましい。スプレー法によるときには、図4(a)に示すように、NiとAgとが積層されているが、スラリー法によるときには、図4(b)に示すように、NiとAgとが多孔体中に混在している。このスラリー法による場合のNiとAgの混合割合は、Niに対してAgを8〜10重量%混合するのが好適である。また、スラリーを作成する際のNiとAgは、共に微細粉(例えば粒径1〜5μm)が好ましい。
【0029】
このように、スラリー法によって多孔体中にNiとAgとが略均一に混在する構成とすると、光触媒であるTiO2に対してNiのみならずAgも接触あるいは隣接するので、光触媒であるTiO2により生成するキャリアによって、NiおよびAgとの間において図5に示すような授受と反応が起こり、フォトクロミック効果が大きくなる。しかも、その際、光触媒としてのTiO2は、活性が高くて、多孔体との密着性も良好なので、多孔体との間で電荷分離が一層大きくなって光触媒作用を十分に発揮することができ、有害物質や悪臭物質に対する分解除去作用をさらに有効に発揮することができると推察される。
【0030】
図6にはスプレー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)による特性X線画像を、また、図7にはスラリー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)による特性X線画像を、それぞれ示している。
【0031】
これらの図から分かるように、スプレー法によって多孔体を作成した場合には、多孔体中にNiとAgが層状に存在するのに対して、スラリー法によって多孔体を作成した場合には、多孔体中にNiとAgとが混在している。
上記の事項を検証するために、以下の各種実験を行った。
【実施例】
【0032】
実施例1.
Ni単体からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させた構成を有する本発明のフィルタと、セラミック多孔体に光触媒としてTiO2を担持させた従来のフィルタについて、それぞれJIS規格による循環法に基づくアンモニア分解試験を行い、両者の特性を調べた。なお、この場合の本発明のフィルタの比表面積は0.15m2/cm3、従来のフィルタの比表面積は0.54m2/cm3である。また、循環流量は1m3/minで、測定機器はガス検知管を使用した。その結果を図8に示す。
【0033】
図8から分かるように、本発明のフィルタは、従来のフィルタに比べて比表面積が小さいのにもかかわらず、従来のものより短時間の内にアンモニア濃度が低下していることが明らかであり、高いフィルタ特性を有している。単位当たりの表面積から換算して比較すると、本発明のフィルタは従来のものに比べて約15倍ほど性能が高くなっている。
【0034】
実施例2.
本発明の2種類のフィルタ、すなわちNiからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタと、NiとAgの混合物からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタについて、JIS規格による循環法に基づくアンモニア分解試験およびアセトアルデヒト分解試験をそれぞれ行い、両フィルタの特性を比較した。なお、この場合の両フィルタの比表面積は共に0.15m2/cm3である。また、循環流量は1m3/minで、測定機器はガス検知管を使用した。アンモニアの分解比較試験の結果を図9に、アセトアルデヒトの分解比較試験の結果を図10に示す。
【0035】
Niからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタに比べて、NiとAgの混合物からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタの方がアンモニア分解およびアセトアルデヒト分解の各特性がいずれも優れている。これは、多孔体がNiとAgとの混合物の場合には、フォトクロミック効果が大きいので、光触媒作用が十分に発揮されるためと考えられる。
【0036】
実施例3.
Niからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させた本発明のフィルタを用いて、JIS規格によるワンパス法に基づいてクロロホルム、エタノール、イソプロヒルアルコール、アンモニアの各臭気成分について低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれ除去率を測定した。なお、その際のフィルタの比表面積は0.15m2/cm3である。また、循環流量は1m3/minで、測定機器はガス検知管を使用し、フィルタの入口側の除去率を測定した。クロロホルムの除去率の測定結果を図11に、エタノールの除去率の測定結果を図12に、イソプロヒルアルコールの除去率の測定結果を図13に、アンモニアの除去率の測定結果を図14にそれぞれ示す。
【0037】
図11〜図14から分かるように、いずれの種類の臭気成分についても、低濃度の場合のみならず高濃度の場合でも除去率が大きく低下することはなく、これらの臭気成分に対して安定した高い除去性能が得られていることが理解される。
【0038】
実施例4.
本発明の2種類のフィルタ、すなわちNiからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタと、NiとAgの混合物からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタを共にボール状に形成(直径15mm)したものについて、次の実験を行った。なお、フィルタを構成する多孔体はいずれもスラリー法にて作成したものである。
【0039】
直径72mm、幅248mmの筒状のステンレス容器(真ん中に殺菌灯用の直径20mmの空洞あり)の吐水入口側にNi製の配水板(直径72mm、幅15mm)を設置し、それ以外の部分に上記のボール状の各フィルタを詰め、どちらも殺菌灯を点灯した状態で、8Lの水道水を4L/minで循環させて遊離残存塩素の残存率(%)の経時変化を評価した。その結果を図15に示す。
【0040】
図15から分かるように、NiとAgの混合物からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタ(図中、実線で示す)は、Niからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタ(図中、破線で示す)よりも、遊離残存塩素の除去速度が早い。つまり、多孔体を共に同じスラリー法で作成しても、NiにAgを含有させたものの方が遊離残存塩素の高い除去性能が得られている。
【0041】
このことは、先に示した実施例2の場合と同様、多孔体がNiとAgとの混合物の場合には、フォトクロミック効果が大きいので、光触媒作用が十分に発揮されるためと考えられる。
【0042】
実施例5.
NiとAgをスラリー法を用いて混合焼成して作成した多孔体と、NiとAgをスプレー法によって積層して焼成して作成とした多孔体の2種類の多孔体を用い、これらの各多孔体にそれぞれTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタを用いて、次の実験を行った。
【0043】
多孔体をスラリー法で作成したフィルタはボール状(直径15mm)に、多孔体をスプレー法によって作成したフィルタは円板状(直径72mm、幅15mm)にそれぞれ形成した。そして、直径72mm、幅248mmの筒状のステンレス容器(真ん中に殺菌灯用の直径20mmの空洞あり)の吐水入口側にNi製の配水板(直径72mm、幅15mm)を設置し、それ以外の部分に上記の各ボール状のフィルタを詰めた場合と、円板状のフィルタを詰めた場合のそれぞれについて、殺菌灯を点灯した状態で、8Lの水道水を4L/minで循環させて遊離残存塩素の残存率(%)の経時変化を評価した。その結果を図16に示す。
【0044】
図16から分かるように、多孔体をスラリー法で作成したフィルタ(図中、実線で示す)は、多孔体をスプレー法によって作成したフィルタ(図中、破線で示す)に比較して遊離残存塩素の除去速度が早い。つまり、多孔体の組成が共に同じNiとAgであっても、スラリー法で作成したものの方が遊離残存塩素の高い除去性能が得られている。
【0045】
これは、前述のように、スラリー法で作成したフィルタは、多孔体中にNiとAgとが略均一に混在するため、光触媒により生成するキャリアの授受が円滑に行われ、かつ、光触媒としてのTiO2の活性が高くて、多孔体との密着性も良好なので、多孔体との間で電荷分離が一層大きくなって光触媒作用を十分に発揮することができ、有害物質や悪臭物質に対する分解除去作用をさらに有効に発揮するができるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態におけるフィルタの一部を光学顕微鏡によって拡大した写真図である。
【図2】同フィルタの一部を模式的に示す断面図である。
【図3】同フィルタの製造方法の概略について製造工程順に示すフロー図である。
【図4】スプレー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタと、スラリー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの状態を模式的に示す図である。
【図5】スラリー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの作用説明図である。
【図6】スプレー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)による特性X線画像の写真図である。
【図7】スラリー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)による特性X線画像の写真図である。
【図8】本発明のフィルタと従来のフィルタについて、アンモニア分解試験を行った結果を比較して示す特性図である。
【図9】本発明の2種類のフィルタ(Ni−TiO2,Ni−Ag−TiO2)についてアンモニア分解試験を行った結果を比較して示す特性図である。
【図10】本発明の2種類のフィルタ(Ni−TiO2,Ni−Ag−TiO2)について、アセトアルデヒト分解試験を行った結果を比較して示す特性図である。
【図11】本発明のフィルタについて、クロロホルムが低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれの除去率を測定した結果を比較して示す棒グラフである。
【図12】本発明のフィルタについて、エタノールが低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれの除去率を測定した結果を比較して示す棒グラフである。
【図13】本発明のフィルタについて、イソプロヒルアルコールが低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれの除去率を測定した結果を比較して示す棒グラフである。
【図14】本発明のフィルタについて、アンモニアが低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれの除去率を測定した結果を比較して示す棒グラフである。
【図15】本発明の2種類のフィルタ(Ni−TiO2,Ag−Ni−TiO2)について、遊離残存塩素の残存率の経時変化を測定した結果を示す特性図である。
【図16】本発明のフィルタ(スラリー法によるNi−Ag多孔体、スプレー法によるNi−Ag多孔体)について、遊離残存塩素の残存率の経時変化を測定した結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0047】
1 微細孔、2 多孔体、3 光触媒。
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気中や水中における有害物質や悪臭物質の吸着、分解を効率良く行える光触媒を有するフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸化チタン(TiO2)などの光触媒は、光を吸収することよりキャリア(電子と正孔)を生成して光触媒作用を示すもので、この光触媒作用によって大気中や水中のNOX、SOX、ホルムアルデヒト等の有害物質や、アンモニア、硫化水素等の悪臭物質を分解除去することができる。
【0003】
このような光触媒は、被分解物との接触面積が大きいほど効率的に作用するので、比表面積の大きな基体に担持させることが好ましい。そのため、従来技術では、多数の微細孔を有するセラミック多孔体や発泡アルミニュウムなどを基体として使用し、このような多孔体に光触媒を担持させたものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
このように、光触媒を多孔体に担持させれば、有害物質や悪臭物質との接触面積が大きくなって光触媒作用が促進され、酸化還元反応によって二酸化炭素に分解されるので、これらの除去性能を高めることができる。
【0005】
しかし、特許文献1,2に記載されているような従来技術のものは、光触媒である酸化チタン(TiO2)が多孔体の微細孔を塞ぐように膜状あるいは層状の状態で一様に形成されているため、光触媒による分解性能は有る程度維持できるとしても、微細孔による有害物質や悪臭物質の吸着性能が低下するという不具合を生じる。
【0006】
そこで、さらに他の従来技術として、多孔体の微細孔を塞ぐことなく光触媒を担持させた構成のものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この特許文献3記載の従来技術では、光触媒が多孔体の微細孔を塞ぐことなく分散担持されているため、光触媒による有害物質の分解性能を維持しつつ、微細孔による有害物質や悪臭物質の吸着作用も維持することができるという利点を有する。
【0007】
【特許文献1】特開2004−83376号公報
【特許文献2】特開2003−225562号公報
【特許文献3】特開2005−254123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3記載の従来技術のものは、次の点で有害物質や悪臭物質の分解作用を発揮させる上で未だ不十分な点がある。
【0009】
すなわち、従来のものは、多数の微細孔が形成された発泡セラミックスや発泡アルミニュウム等の多孔体の微細孔内の表面に単に光触媒を物理的あるいは機械的に担持させているだけのものであり、キャリアの発生に必要な電荷分離が不十分である。このため、光触媒作用が安定して発現しにくく、有害物質が高濃度になる程、有害物質の分解性能が急激に低下する。しかも、セラミックスやアルミニュウム等の多孔体の微細孔内に多量の水が侵入すると、光触媒作用が弱められてしまうなど、水濡れに弱いという難点もある。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、光触媒が多孔体の微細孔を塞ぐことなく担持されている構成に加えて、光触媒と多孔体とが一種の電極構造をもつようにして、従来に比べて電荷分離が大きくて光触媒作用を十分に発揮することができ、比較的高濃度の有害物質や悪臭物質に対しても分解作用ならびに吸着作用を維持することができて、これらの除去性能の高いフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のフィルタは、内外部に多数の微細孔が形成された多孔体を有し、この多孔体には上記微細孔を塞ぐことなく光触媒が担持されたものであって、上記多孔体は、上記光触媒との間でショットキー接合する性質を有する遷移金属の単体またはこれらの複数を組み合わせた混合物からなる一方、上記光触媒は結晶化された金属酸化物からなることを特徴としている。
【0012】
この場合の多孔体を構成する遷移金属としては、Ni単体であっても光触媒との間でショットキー接合する性質を有するので好適に使用できるが、NiとAgとの混合物からなる場合には、フォトクロミック効果がさらに発揮されるのでさらに一層好ましい。また、光触媒を構成する結晶化された金属酸化物としては、TiO2が活性が高くて、多孔体との密着性も良好なので好ましい。
【0013】
さらに、多孔体をNiとAgとの混合物から構成する場合において、スプレー法によって単にNiとAgとが積層された構成とする場合よりも、NiとAgの各スラリーを用いて両者を混合焼成するスラリー法で製作すれば、多孔体内においてNiとAgとが混在するので光触媒との間でのキャリアの授受と反応が促進され、光触媒による光触媒作用を一層発揮し得るので好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光触媒が多孔体の微細孔を塞ぐことなく担持されている構成に加えて、光触媒と多孔体とがショットキー接合して両者間で一種の電極構造をもつので、従来に比べて電荷分離が大きくてキャリアの発生効率が高く、光触媒作用を十分に発揮することができる。このため、比較的高濃度の有害物質や悪臭物質に対しても分解作用ならびに吸着作用を維持することができて、これらに対する除去性能の高いフィルタを提供することが可能になる。
【0015】
特に、NiとAgからなる多孔体をスラリー法によって製作する場合には、NiとAgとが多孔体中において混在するため、光触媒により生成するキャリアとの授受が円滑に行われる。しかも、その際、光触媒としてTiO2を用いる場合には、活性が高くて、多孔体との密着性も良好なので、多孔体との間で電荷分離が一層大きくなって光触媒作用を十分に発揮することができ、有害物質や悪臭物質に対する分解除去作用をさらに有効に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態におけるフィルタの一部を光学顕微鏡によって拡大した写真図、図2は同フィルタの一部を模式的に示す断面図である。
【0017】
この実施の形態のフィルタは、内外部に多数の微細孔1が形成された多孔体2を有し、この多孔体2には微細孔1を塞ぐことなく各々の微細孔1内の表面に光触媒3が担持されている。この場合、多孔体2の微細孔1は、例えば口径が200〜3000μm程度のものであり、また、この多孔体2に担持されている光触媒3の厚さは850nm〜1μm程度である。
【0018】
ここに、多孔体2の材料としては、光触媒3との間でショットキー接合する性質を有する遷移金属の単体、またはこれらを複数を組み合わせた混合物からなる。この場合の遷移金属の具体例としては、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、ルビジュウム(Ru)、銀(Ag)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)等がある。これらの遷移金属の単体であっても光触媒との間でショットキー接合する性質を有するものであれば好適に使用できるが、これらの遷移金属の複数を組み合わせた混合物であってもよい。特に、ニッケル(Ni)と銀(Ag)との混合物の場合には、フォトクロミック効果がさらに発揮されるのでさらに一層好ましい。
【0019】
また、光触媒3は、結晶化された金属酸化物からなる。この場合の結晶化された金属酸化物の具体例としては、酸化チタン(TiO2)が活性が高くて、多孔体2との密着性も良好なので好ましいが、その他、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化銅(Cu2O)など、自己溶解性のない金属酸化物であれば好適に使用することができる。
【0020】
このように、この実施の形態のフィルタは、光触媒3が多孔体2の微細孔1を塞ぐことなく担持されているので、多孔体2の微細孔1による有害物質や悪臭物質を効率良く吸着することができる。これに加えて、光触媒3と多孔体2とがショットキー接合して両者間で一種の電極構造(多孔体2が陰極側、光触媒3が陽極側)となっているので、従来に比べて電荷分離が大きくてキャリアの発生率が高く、光触媒作用を十分に発揮することができる。このため、比較的高濃度の有害物質や悪臭物質に対しても分解作用ならびに吸着作用を維持することができ、これらに対する除去性能の高いフィルタを提供することが可能になる。
【0021】
次に、上記構成を有するフィルタの製造方法の概略について、図3の製造工程を示すフロー図を参照して製造工程に沿って順に説明する。なお、ここでは、一例として多孔体としてNiを、光触媒としてTiO2をそれぞれ採用した場合について説明するが、本発明はこれらの材料に必ずしも限定されるものではない。
【0022】
最初にスラリー法によって多孔体を作成する。
すなわち、まず、Niの微細粉(例えば粒径1〜5μm)を準備する(S1)。そして、このNiの微細粉を有機系溶媒からなるバインダと一定比率で混合、撹拌してスラリーを作成する(S2)。
【0023】
次に、ウレタン発泡体を準備し(S3)、このウレタン発泡体を上記のスラリーを溜めた浴槽中に浸漬して、ウレタン発泡体にスラリーを含浸させる(S4)。次いで、このスラリーが含浸されたウレタン発泡体を浴槽から引き上げて転圧ローラを通過させ、これによってスラリーを微細孔の内部まで十分に移行させて定着させる(S5)。その際、同時に余分なスラリーは除去される。
【0024】
続いて、スラリーが定着されたウレタン発泡体を、まず、酸化雰囲気の加熱炉中で焼成する(S6)。これにより、ウレタン発泡体とバインダが飛散されて除去される。次いで、還元雰囲気の加熱炉中で焼成する(S7)。これにより、S6で酸化されたニッケル(Ni)が還元されて内外部に多数の微細孔が形成された多孔体が作成される。
【0025】
次に、ゾルゲル法によって上記のようにして作成された多孔体の微細孔内の表面に光触媒を担持させる。
これには、まず、アナターゼの結晶核を有するペルオキソチタン酸液を準備する(S8)。このようなアナターゼの結晶核を有するペルオキソチタン酸液を用いれば、従来のように、アナターゼ分散液を使用する場合に比べて、炭素成分やハロゲン成分を除去する必要がなく、また、比較的低温で、密度の高い結晶性のアナターゼ膜(金属酸化物)を生成することができるので都合が良い。
【0026】
次に、上記の多孔体を洗浄するとともに、表面を荒らしてさらに小さなピットホールを作る(S9)。そして、ペルオキソチタン酸液を溜めた浴槽中に多孔体を浸漬して、ペルオキソチタン酸液を多孔体の微細孔やピットホール内に含浸させる(S10)。次いで、このペルオキソチタン酸液が含浸された多孔体を浴槽から引き上げて遠心分離を行って余分な酸液を除く(S11)。
【0027】
このS10、S11を複数回繰り返して多孔体に均一な膜厚を定着させた後、焼成する(S12)。これにより、多孔体の微細孔は光触媒によって塞がれることはなく、この微細孔内に均一な膜厚を有する結晶化されたアナターゼ膜、すなわち金属酸化物(TiO2)からなる光触媒が担持された状態となる。また、この焼成により、多孔体に対するアナターゼ膜(金属酸化物)の密着強度が向上する。
【0028】
図3では、Niの多孔体にTiO2の光触媒を担持させたフィルタを製作する場合について説明したが、多孔体としてNiにAgを添加することもできる。この場合、スプレー法によって多孔体を作成するよりも、スラリー法によって多孔体を作成するのが一層好ましい。スプレー法によるときには、図4(a)に示すように、NiとAgとが積層されているが、スラリー法によるときには、図4(b)に示すように、NiとAgとが多孔体中に混在している。このスラリー法による場合のNiとAgの混合割合は、Niに対してAgを8〜10重量%混合するのが好適である。また、スラリーを作成する際のNiとAgは、共に微細粉(例えば粒径1〜5μm)が好ましい。
【0029】
このように、スラリー法によって多孔体中にNiとAgとが略均一に混在する構成とすると、光触媒であるTiO2に対してNiのみならずAgも接触あるいは隣接するので、光触媒であるTiO2により生成するキャリアによって、NiおよびAgとの間において図5に示すような授受と反応が起こり、フォトクロミック効果が大きくなる。しかも、その際、光触媒としてのTiO2は、活性が高くて、多孔体との密着性も良好なので、多孔体との間で電荷分離が一層大きくなって光触媒作用を十分に発揮することができ、有害物質や悪臭物質に対する分解除去作用をさらに有効に発揮することができると推察される。
【0030】
図6にはスプレー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)による特性X線画像を、また、図7にはスラリー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)による特性X線画像を、それぞれ示している。
【0031】
これらの図から分かるように、スプレー法によって多孔体を作成した場合には、多孔体中にNiとAgが層状に存在するのに対して、スラリー法によって多孔体を作成した場合には、多孔体中にNiとAgとが混在している。
上記の事項を検証するために、以下の各種実験を行った。
【実施例】
【0032】
実施例1.
Ni単体からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させた構成を有する本発明のフィルタと、セラミック多孔体に光触媒としてTiO2を担持させた従来のフィルタについて、それぞれJIS規格による循環法に基づくアンモニア分解試験を行い、両者の特性を調べた。なお、この場合の本発明のフィルタの比表面積は0.15m2/cm3、従来のフィルタの比表面積は0.54m2/cm3である。また、循環流量は1m3/minで、測定機器はガス検知管を使用した。その結果を図8に示す。
【0033】
図8から分かるように、本発明のフィルタは、従来のフィルタに比べて比表面積が小さいのにもかかわらず、従来のものより短時間の内にアンモニア濃度が低下していることが明らかであり、高いフィルタ特性を有している。単位当たりの表面積から換算して比較すると、本発明のフィルタは従来のものに比べて約15倍ほど性能が高くなっている。
【0034】
実施例2.
本発明の2種類のフィルタ、すなわちNiからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタと、NiとAgの混合物からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタについて、JIS規格による循環法に基づくアンモニア分解試験およびアセトアルデヒト分解試験をそれぞれ行い、両フィルタの特性を比較した。なお、この場合の両フィルタの比表面積は共に0.15m2/cm3である。また、循環流量は1m3/minで、測定機器はガス検知管を使用した。アンモニアの分解比較試験の結果を図9に、アセトアルデヒトの分解比較試験の結果を図10に示す。
【0035】
Niからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタに比べて、NiとAgの混合物からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタの方がアンモニア分解およびアセトアルデヒト分解の各特性がいずれも優れている。これは、多孔体がNiとAgとの混合物の場合には、フォトクロミック効果が大きいので、光触媒作用が十分に発揮されるためと考えられる。
【0036】
実施例3.
Niからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させた本発明のフィルタを用いて、JIS規格によるワンパス法に基づいてクロロホルム、エタノール、イソプロヒルアルコール、アンモニアの各臭気成分について低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれ除去率を測定した。なお、その際のフィルタの比表面積は0.15m2/cm3である。また、循環流量は1m3/minで、測定機器はガス検知管を使用し、フィルタの入口側の除去率を測定した。クロロホルムの除去率の測定結果を図11に、エタノールの除去率の測定結果を図12に、イソプロヒルアルコールの除去率の測定結果を図13に、アンモニアの除去率の測定結果を図14にそれぞれ示す。
【0037】
図11〜図14から分かるように、いずれの種類の臭気成分についても、低濃度の場合のみならず高濃度の場合でも除去率が大きく低下することはなく、これらの臭気成分に対して安定した高い除去性能が得られていることが理解される。
【0038】
実施例4.
本発明の2種類のフィルタ、すなわちNiからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタと、NiとAgの混合物からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタを共にボール状に形成(直径15mm)したものについて、次の実験を行った。なお、フィルタを構成する多孔体はいずれもスラリー法にて作成したものである。
【0039】
直径72mm、幅248mmの筒状のステンレス容器(真ん中に殺菌灯用の直径20mmの空洞あり)の吐水入口側にNi製の配水板(直径72mm、幅15mm)を設置し、それ以外の部分に上記のボール状の各フィルタを詰め、どちらも殺菌灯を点灯した状態で、8Lの水道水を4L/minで循環させて遊離残存塩素の残存率(%)の経時変化を評価した。その結果を図15に示す。
【0040】
図15から分かるように、NiとAgの混合物からなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタ(図中、実線で示す)は、Niからなる多孔体にTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタ(図中、破線で示す)よりも、遊離残存塩素の除去速度が早い。つまり、多孔体を共に同じスラリー法で作成しても、NiにAgを含有させたものの方が遊離残存塩素の高い除去性能が得られている。
【0041】
このことは、先に示した実施例2の場合と同様、多孔体がNiとAgとの混合物の場合には、フォトクロミック効果が大きいので、光触媒作用が十分に発揮されるためと考えられる。
【0042】
実施例5.
NiとAgをスラリー法を用いて混合焼成して作成した多孔体と、NiとAgをスプレー法によって積層して焼成して作成とした多孔体の2種類の多孔体を用い、これらの各多孔体にそれぞれTiO2からなる光触媒を担持させたフィルタを用いて、次の実験を行った。
【0043】
多孔体をスラリー法で作成したフィルタはボール状(直径15mm)に、多孔体をスプレー法によって作成したフィルタは円板状(直径72mm、幅15mm)にそれぞれ形成した。そして、直径72mm、幅248mmの筒状のステンレス容器(真ん中に殺菌灯用の直径20mmの空洞あり)の吐水入口側にNi製の配水板(直径72mm、幅15mm)を設置し、それ以外の部分に上記の各ボール状のフィルタを詰めた場合と、円板状のフィルタを詰めた場合のそれぞれについて、殺菌灯を点灯した状態で、8Lの水道水を4L/minで循環させて遊離残存塩素の残存率(%)の経時変化を評価した。その結果を図16に示す。
【0044】
図16から分かるように、多孔体をスラリー法で作成したフィルタ(図中、実線で示す)は、多孔体をスプレー法によって作成したフィルタ(図中、破線で示す)に比較して遊離残存塩素の除去速度が早い。つまり、多孔体の組成が共に同じNiとAgであっても、スラリー法で作成したものの方が遊離残存塩素の高い除去性能が得られている。
【0045】
これは、前述のように、スラリー法で作成したフィルタは、多孔体中にNiとAgとが略均一に混在するため、光触媒により生成するキャリアの授受が円滑に行われ、かつ、光触媒としてのTiO2の活性が高くて、多孔体との密着性も良好なので、多孔体との間で電荷分離が一層大きくなって光触媒作用を十分に発揮することができ、有害物質や悪臭物質に対する分解除去作用をさらに有効に発揮するができるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態におけるフィルタの一部を光学顕微鏡によって拡大した写真図である。
【図2】同フィルタの一部を模式的に示す断面図である。
【図3】同フィルタの製造方法の概略について製造工程順に示すフロー図である。
【図4】スプレー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタと、スラリー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの状態を模式的に示す図である。
【図5】スラリー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの作用説明図である。
【図6】スプレー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)による特性X線画像の写真図である。
【図7】スラリー法によって作成されたNiとAgからなる多孔体にTiO2を担持させたフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)による特性X線画像の写真図である。
【図8】本発明のフィルタと従来のフィルタについて、アンモニア分解試験を行った結果を比較して示す特性図である。
【図9】本発明の2種類のフィルタ(Ni−TiO2,Ni−Ag−TiO2)についてアンモニア分解試験を行った結果を比較して示す特性図である。
【図10】本発明の2種類のフィルタ(Ni−TiO2,Ni−Ag−TiO2)について、アセトアルデヒト分解試験を行った結果を比較して示す特性図である。
【図11】本発明のフィルタについて、クロロホルムが低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれの除去率を測定した結果を比較して示す棒グラフである。
【図12】本発明のフィルタについて、エタノールが低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれの除去率を測定した結果を比較して示す棒グラフである。
【図13】本発明のフィルタについて、イソプロヒルアルコールが低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれの除去率を測定した結果を比較して示す棒グラフである。
【図14】本発明のフィルタについて、アンモニアが低濃度の場合と高濃度の場合についてそれぞれの除去率を測定した結果を比較して示す棒グラフである。
【図15】本発明の2種類のフィルタ(Ni−TiO2,Ag−Ni−TiO2)について、遊離残存塩素の残存率の経時変化を測定した結果を示す特性図である。
【図16】本発明のフィルタ(スラリー法によるNi−Ag多孔体、スプレー法によるNi−Ag多孔体)について、遊離残存塩素の残存率の経時変化を測定した結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0047】
1 微細孔、2 多孔体、3 光触媒。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外部に多数の微細孔が形成された多孔体を有し、この多孔体には上記微細孔を塞ぐことなく光触媒が担持されたものであって、上記多孔体は、上記光触媒との間でショットキー接合する性質を有する遷移金属の単体、またはこれらの複数を組み合わせた混合物からなる一方、上記光触媒は結晶化された金属酸化物からなることを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
上記多孔体を構成する遷移金属は、ニッケル(Ni)単体、またはニッケル(Ni)と銀(Ag)との混合物からなることを特徴とする請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
上記光触媒は、酸化チタン(TiO2)を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
上記多孔体はスラリー法に基づいて作成されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項1】
内外部に多数の微細孔が形成された多孔体を有し、この多孔体には上記微細孔を塞ぐことなく光触媒が担持されたものであって、上記多孔体は、上記光触媒との間でショットキー接合する性質を有する遷移金属の単体、またはこれらの複数を組み合わせた混合物からなる一方、上記光触媒は結晶化された金属酸化物からなることを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
上記多孔体を構成する遷移金属は、ニッケル(Ni)単体、またはニッケル(Ni)と銀(Ag)との混合物からなることを特徴とする請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
上記光触媒は、酸化チタン(TiO2)を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
上記多孔体はスラリー法に基づいて作成されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−72722(P2009−72722A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245438(P2007−245438)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(597002139)NDE株式会社 (2)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(597002139)NDE株式会社 (2)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】
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