説明

フィルタ

【課題】 初期の圧力損失を抑制することができ、パティキュレートが蓄積するに従って上昇する圧力損失の上昇率も低いため、パティキュレートを規定量捕集したときの圧力損失が低くなり、再生までの期間をトータルで見たときの圧力損失が低いフィルタを提供する。
【解決手段】 多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設されたハニカム構造を有する柱状のフィルタであって、前記貫通孔は、長手方向に垂直な断面の面積が相対的に大きい大容積貫通孔と、前記断面の面積が相対的に小さい小容積貫通孔との実質的に同数である2 種類の貫通孔からなり、前記大容積貫通孔は、前記フィルタの一端部で封止される一方、前記小容積貫通孔は、前記フィルタの他端部で封止され、前記一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部を有することを特徴とするフィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の記載
本出願は、2002年9月13日に出願された日本国特許出願2002−267819号、2003年3月4日に出願された日本国特許出願2003−57631号を基礎出願として優先権主張する出願である。
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガス中のパティキュレート等を除去する目的等で用いられるフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排気ガス中に含有されるパティキュレートが環境や人体に害を及ぼすことが最近問題となっている。
【0003】
この排気ガスを多孔質セラミックに通過させ、排気ガス中のパティキュレートを捕集して、排気ガスを浄化することができるセラミックフィルタが種々提案されている。
【0004】
このようなセラミックフィルタとしては、図9に示したような、多数の貫通孔141が隔壁143を隔てて、長手方向に並設された円柱状のハニカム構造体140が知られている。
【0005】
貫通孔141は、図9(b)に示したように、排気ガスの流入側又は排出側の端部のいずれかが封止材142により目封じされ、一の貫通孔141に流入した排気ガスは、必ず貫通孔141同士を隔てる隔壁143を通過した後、他の貫通孔141から流出するようになっている。
【0006】
即ち、このようなハニカム構造体140が内燃機関の排気通路に設置されると、内燃機関より排出された排気ガス中のパティキュレートは、このハニカム構造体140を通過する際に隔壁143により捕捉され、排気ガスが浄化される。
【0007】
また、このような排気ガスフィルタとして、排気ガス流出側の端部が封止された貫通孔(以下、流入側貫通孔ともいう)を容積の大きな貫通孔(以下、大容積貫通孔ともいう)とし、排気ガス流入側の端部が封止された貫通孔(以下、流出側貫通孔ともいう)を容積の小さな貫通孔(以下、小容積貫通孔ともいう)とすることにより、排気ガス流入側の開口率を排気ガス流出側の開口率よりも相対的に大きくしたものが開示されている。
図10は、特許文献1に開示された排気ガスフィルタの長手方向に垂直な断面を模式的に示したものである。
【0008】
この排気ガスフィルタ60は、碁盤目の交点に、該碁盤目を構成する正四角形よりも小さな四角形が配置されたような断面形状を有し、小さな四角形に相当する小容積貫通孔61bとその周囲に存在する大容積貫通孔61aとからなり、これらの貫通孔の間に隔壁62a、62bが形成されている。
【0009】
また、図11(a)〜(d)は、特許文献2及び特許文献3に開示された排気ガスフィルタの長手方向に垂直な断面を模式的に示したものである。
【0010】
この排気ガスフィルタ300〜330は、様々な形状の大容積貫通孔301a、311a、321a、331aと、小容積貫通孔301b、311b、321b、331bとからなり、これらの貫通孔の間に隔壁302、312、322、332が形成されている。
【0011】
隔壁302、312、322、332は、いずれも大容積貫通孔301a、311a、321a、331aと小容積貫通孔301b、311b、321b、331bとを隔てるものであり、大容積貫通孔301a、311a、321a、331a同士を隔てる隔壁は、存在しないといってもよい。
【0012】
一般に、このようなフィルタでは、排気ガス中のパティキュレートを捕集することにより、圧力損失が大きくなる。それにつれて背圧が高くなり、この背圧が一定値以上になると、エンジン等に与える負荷が大きくなるため、再生処理を行ってパティキュレートを除去する必要が生じる。従って、経過時間に対する圧力損失の程度は、フィルタの性能を評価するための重要なファクターとなる。
【0013】
図1は、圧力損失に影響を及ぼす主な要因を記載した概念図である。
図1に示すように、圧力損失に影響を及ぼす主な要因としては、(1)フィルタ入口側の開口率;ΔP、(2)貫通孔を通過する際の摩擦(入口側(2)−1;ΔPb−1、出口側(2)−2;ΔPb−2)、(3)隔壁を通過する際の抵抗;ΔP等があげられる。
【0014】
また、図2は、各種排気ガスフィルタにおける圧力損失の経過時間による変化の様子を模式的に示したグラフである。
【0015】
上記特許文献1、2等に記載された2種類の貫通孔を有する排気ガスフィルタは、図9に示す断面形状が四角形で、全ての貫通孔の容積がほぼ等しい排気ガスフィルタに比べ、パティキュレートを捕集する前の状態においては、フィルタ入口側の開口率及び貫通孔入口側を通過する際の摩擦((1);ΔP+(2)−1;ΔPb−1)に起因する圧力損失は若干低くなるが、貫通孔出口側を通過する際の摩擦及び隔壁を通過する際の抵抗((2)−2;ΔPb−2+(3);ΔP)に起因する圧力損失が高くなる。その結果、パティキュレートを捕集する前の圧力損失は、図9に示すような全ての貫通孔の容積が略等しい排気ガスフィルタよりも高くなってしまうことが判明した。
【0016】
さらに、排気ガスフィルタの壁部の大部分は長手方向に垂直な断面における一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部(ア)と、長手方向に垂直な断面における一の大容積貫通孔が隣り合う小容積貫通孔と共有する壁部(イ)とからなる排気ガスフィルタでは、この2種類の壁部の比率によって、圧力損失が変動する。
【0017】
例えば、開口比率を一定とした場合、このうちの壁部(ア)の占める割合が大きいと、大容積貫通孔から直接的に壁部(イ)を通過して、小容積貫通孔へ排気ガスが流れにくくなるために、パティキュレートを捕集する前(T)の圧力損失が高くなる傾向が生じる。
【0018】
しかし、パティキュレートを捕集するに従って、壁部(イ)の表面にパティキュレートが捕集されるために、大容積貫通孔から直接的に壁部(イ)を通過して、小容積貫通孔へ排気ガスが流れるよりも、一旦壁部(ア)に進入し多孔質壁を伝わって壁部(イ)へ流れる方が、抵抗が低くなり、結果的に、大容積貫通孔の構成する壁部の全体に均一にパティキュレートが蓄積されることになる。従って、壁部に蓄積されるパティキュレートの厚みを下げることになり、パティキュレートの捕集に従って上昇する圧力損失の上昇率(ΔP/(T−T))は小さくなる。
【0019】
また、逆に、この割合が小さいと、パティキュレートを捕集する前(T)の圧力損失は低くなるが、パティキュレートの捕集に従って上昇する圧力損失の上昇率(ΔP/(T−T))が大きくなる傾向が表れる。
【0020】
特許文献1(図10)に開示された排気ガスフィルタ60では、この大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部(ア)の占める割合が比較的大きいものである。そのため図2に示すように、パティキュレートを捕集する前(T)の圧力損失(以下、初期の圧力損失ともいう)が、隔壁を通過する際の抵抗((3);ΔP)が高いことに起因して高くなるとともに、初期の圧力損失が高すぎるため、パティキュレートの捕集時(T)においても圧力損失が高くなってしまう。
【0021】
従って、エンジンマネージメントの点から、規定量のパティキュレートをためる前に再生処理を行う必要がある。すなわち、排気ガスフィルタ60は、初期の圧力損失が高くなりすぎるために、実質的にパティキュレートの捕集量が制限されてしまうという問題があった。
【0022】
また、特許文献2(図11)に開示された排気ガスフィルタ300〜330では、大容積貫通孔301a、311a、321a、331a同士を隔てる隔壁(ア)は、ほぼ点接触の状態となっており、殆ど存在しない。
【0023】
そのため、図2に示すように、パティキュレートを蓄積するに従って上昇する圧力損失の上昇率(ΔP/(T−T))が大きいことに起因して、パティキュレートを捕集時(T)の圧力損失が高くなりすぎる。
【0024】
従って、同様にエンジンマネージメントの点から、規定量のパティキュレートをためる前に再生処理を行う必要がある。すなわち、排気ガスフィルタ300〜330は、捕集中の圧力損失の上昇率が大きいために、実質的にパティキュレートの捕集量が制限されるという問題があった。
【0025】
次に、他の従来技術として、特許文献4には、大容積貫通孔のセルピッチをほぼ1.0〜2.5mmとしたハニカム構造体が開示されている。
【0026】
また、特許文献5には、大容積貫通孔の容積率が60〜70%で、小容積貫通孔の容積率が20〜30%で、大容積貫通孔のセルピッチをほぼ2.5〜5.0mmとしたハニカム構造体が開示されている。
【0027】
図19は、これらのハニカム構造体200の長手方向に垂直な断面(以下、単に断面ともいう)を模式的に示した断面図であり、このハニカム構造体200では、断面の形状が6角形の大容積貫通孔201の周囲に断面の形状が3角形の小容積貫通孔202を配している。
【0028】
さらに、特許文献6には、大容積貫通孔の断面の総面積に対する小容積貫通孔の断面の総面積の比の百分率が40〜120%のハニカム構造体が開示されている。
【0029】
図20は、このようなハニカム構造体の長手方向に垂直な断面を模式的に示した断面図であり、このハニカム構造体210では、上記断面の形状が正6角形の大容積貫通孔211の周囲に上記断面の形状が横長6角形の小容積貫通孔212を配している。また、外周近傍には、正6角形の大容積貫通孔211と台形の大容積貫通孔213とを並存させている。
【0030】
また、流入側貫通孔の数を流出側貫通孔の数よりも多くすることにより、排気ガス流入側の開口率を排気ガス流出側の開口率よりも相対的に大きくしたものも開示されている(例えば、特許文献1の図3参照)。
【0031】
このようなハニカムフィルタにおいても、流入側のセルの個数と流出側のセルの個数が異なるものであって、図9に示す断面形状が四角形で、全ての貫通孔の容積がほぼ等しい排気ガスフィルタに比べ、パティキュレートを捕集する前の状態においては、フィルタ入口側の開口率及び貫通孔入口側を通過する際の摩擦((1);ΔP+(2)−1;ΔPb−1)に起因する圧力損失は若干低くなるが、貫通孔出口側を通過する際の摩擦及び隔壁を通過する際の抵抗((2)−2;ΔPb−2+(3);ΔP)に起因する圧力損失が高くなる。その結果、パティキュレートを捕集する前の圧力損失は、図9に示すような全ての貫通孔の容積が略等しい排気ガスフィルタよりも高くなってしまう。
【0032】
また、特許文献7及び特許文献8には、壁の厚みや、物性値を調整する技術が公開されているが、この技術のみでは、低い圧損とすることが、困難であった。
【0033】
また、特許文献9には、正方形と長方形とからなるフィルタが開示されているが、断面を変更した形であるので、押出し成形で製造するのが困難であり、量産製造が難しい。また、断面の変更がないとしても、上述したように、流出側の貫通孔の断面積が相対的に大きいものと小さいものとの差があるので、流出側のガスの抵抗が高くなり、圧損が高くなることになる。
【0034】
このような技術に対応したものとして、2種類の貫通孔の形状からなるフィルタ、とりわけ、八角形と四角形からなるフィルタが開示されている(特許文献10、特許文献11参照)。
【0035】
フィルタをこのような形状のものとすることによって、圧力損失が向上することがわかったが、様々な、形状、開口比率で試験を行なった結果、低い圧力損失と、高いクラック限界といった両方を満足させることは難しいものであって、結果的に、パティキュレートの捕集量が制限されるという問題があった。加えて、これらのフィルタは、アイソスタティック強度、圧縮強度に劣るものであった。
【0036】
さらに、従来技術として、特許文献12に記載されているフィルタには、相対的に大きな正方形と小さな貫通孔の2種類の貫通孔からなるハニカム構造体が開示されてなる。
【0037】
しかし、このフィルタにおいても、圧損が高く、アイソスタティック強度、圧縮強度が低いものであり、クラック限界を高くすることが困難であった。
【0038】
以上、全ての従来技術に開示されたハニカム構造体では、排気ガス流入側の開口率と排気ガス流出側の開口率とが等しいハニカム構造体と比較して、排気ガス流入側の開口率を相対的に大きくしているため、排気ガス浄化用フィルタとして用いた際に、パティキュレートの捕集限界量を多くして再生までの期間を長期化すること等が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】米国特許第4417908号明細書(対応日本特許は特開昭58−196820号公報、特公平3−49608号公報)
【特許文献2】米国特許第4364761号公報(対応する日本出願は特開昭56−124417号公報、特開昭62−96717号公報)
【特許文献3】米国特許第4276071号公報(対応する日本出願は特開昭56−124418号公報)
【特許文献4】実願昭56−187890号マイクロフィルム(実開昭58−92409号公報(第4頁、第6図参照)
【特許文献5】特開平5−68828号公報(特許第3130587号明細書(第1頁)
【特許文献6】特開2001−334114号公報(第5頁、図2参照)(WO02/100514号公報
【特許文献7】米国特許第4416676号明細書
【特許文献8】米国特許第4420316号明細書
【特許文献9】特開昭58−150015号公報
【特許文献10】仏国特許発明第2789327号明細書
【特許文献11】WO02/10562号公報
【特許文献12】WO03/20407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
しかしながら、これらのフィルタは通常のフィルタ(即ち、排気ガス流入側と流出側の開口率が同じフィルタ)に比べて、初期の圧力損失がかなり高いものであることがわかった。あるいは、低い強度になってしまうという問題が生じていた。従って、低い圧力損失を持ちながら、高いアイソスタティック強度、高い圧縮強度を持ち、高いクラック限界というものを満たすことができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明は、これらの課題を解決するためになされたものであり、パティキュレートを捕集した際の圧力損失が低く、パティキュレートを多量に捕集することが可能なフィルタを提供することを目的とするものである。なお、本明細書において、多量に捕集できるとは、単純にフィルタの捕集部分の容積が増すというだけでなく、再生によってクラックが入りにくくなるために、多量に捕集できるということも含むものとする。
【0042】
本発明のフィルタは、多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設されたハニカム構造を有する柱状のフィルタであって、
前記貫通孔は、長手方向に垂直な断面の面積が相対的に大きい大容積貫通孔と、
前記断面の面積が相対的に小さい小容積貫通孔との実質的に同数である2種類の貫通孔からなり、
前記大容積貫通孔は、前記フィルタの一端部で封止される一方、
前記小容積貫通孔は、前記フィルタの他端部で封止され、
前記一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部を有することを特徴とする。
上記フィルタにおいて、長手方向に垂直な断面における上記一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(a)と、長手方向に垂直な断面における上記一の大容積貫通孔が隣り合う上記小容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(b)との比(a/b)をαとし、上記大容積貫通孔の上記断面の面積(A)と、上記小容積貫通孔の上記断面の面積(B)の比(A/B)をβとした際、上記αと上記βとが下記式(1)の関係を有することが望ましい。
β≧(20/9)α+1 (ただし、0<α≦1.5、1<β≦6)…(1)
【0043】
上記フィルタにおいて、大容積貫通孔及び/又は小容積貫通孔の長手方向に垂直な断面の形状は、八角形及び四角形の2種からなることが望ましく、加えて、その形状が、大容積貫通孔と小容積貫通孔とが共有する隔壁を小容積側にある曲率をもって広げた形状であることが望ましい。
【0044】
以下、本発明のフィルタについて説明する。
本発明において、長手方向に垂直な断面における一の大容積貫通孔が隣り合う小容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(b)は、フィルタの断面を見た時、排気ガスが隔壁に対して垂直に通過できる隔壁の長さの合計を表しており、一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(a)は、フィルタの断面を見た時、排気ガスが隔壁に対して垂直に通過できない隔壁の長さの合計を表している。このα(a/b)を、隔壁長さ比ともいうこととする。このα(隔壁長さ比)が大きくなると、排気ガスが隔壁に対して垂直に通過できる隔壁の面積の割合が小さくなることになり、一方、α(隔壁長さ比)が小さくなると、排気ガスが隔壁に対して垂直に通過できる隔壁の面積の割合が大きくなる。このα(隔壁長さ比)は、前述したように圧力損失及びパティキュレートの蓄積状態等に大きな影響を与える。
【0045】
一方、大容積貫通孔の断面の面積(A)と、小容積貫通孔の断面の面積(B)の比β(A/B)は、本発明のフィルタの開口比率を表しており、開口比率が高くなると、排気ガスが流入する側の大容積貫通孔の総容積が相対的に大きくなる。
【0046】
上記(1)式は、初期(T)及びパティキュレート捕集時(T)において、これらに起因する圧力損失のトータルの値が、α、βの値との関係において、どのように推移するかを計算し、又は、実験により測定し、これらの結果に基づいて決定したものである。
【0047】
この際、α(a/b)は、0<α≦1.5を満足する必要がある。α=0では、一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部が存在しなくなるため、特許文献2に記載のフィルタのように、圧力損失の上昇率が高くなる。一方、αが1.5を超えると、一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(a)が大きすぎるため、(3)隔壁を通過する際の抵抗;ΔPcが増大し、初期の圧力損失が大きくなりすぎる。
【0048】
また、β(A/B)は、1<β≦6を満足する必要がある。β=1では、小容積貫通孔と大容積貫通孔とが同じ容積となってしまい、βが6を超えると、小容積貫通孔の容積が小さくなりすぎて、貫通孔出口側を通過する際の摩擦及び隔壁を通過する際の抵抗((2)−2;ΔPb−2+(3);ΔP)に起因する圧力損失が増大し、初期の圧力損失が大きくなってしまう。
【0049】
(1)式を満足しないフィルタ、すなわち、β<(20/9)×α+1を満たすフィルタでは、βに対してαが大きすぎる。すなわち、一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(a)が、一の大容積貫通孔が隣り合う上記小容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(b)に対して長すぎることになる。このため、(3)隔壁を通過する際の抵抗;ΔPによる圧力損失が大きくなり、特許文献1に記載のフィルタのように、初期の圧力損失が大きくなりすぎてしまう。
【0050】
上記αと上記βとが(1)式の関係を有するように、上記a、b、A及びBを設定することにより、図2に示すように初期(T)の圧力損失が高くなるのを、できるだけ抑制することができるとともに、パティキュレートの蓄積に従って上昇する圧力損失の上昇率(ΔP/(T−T))を抑えることができ、その結果、規定量のパティキュレートを蓄積した時(T)の圧力損失を低くすることができる。
【0051】
このため、フィルタ使用している期間をトータルで考えた際の圧力損失を低減することができ、これによって、エンジンに与える負荷を低減することができ、エンジン停止等の不具合をおこす恐れを減らすことができるとともに、パティキュレートを多量に捕集することも可能となる。
【0052】
なお、「大容積貫通孔と小容積貫通孔との実質的に同数である2種類の貫通孔からなり」とは、本発明のフィルタを、長手方向に垂直な断面で見た際、その輪郭の形状等に起因して、大容積貫通孔と小容積貫通孔とが同数でない場合があるが、大容積貫通孔と小容積貫通孔とからなる一定のパターンで判断すると、両者が同数の2種類の貫通孔からなることを意味する。
【0053】
従って、例えば、大容積貫通孔の周囲に多数の小容積貫通孔が存在したり、その逆であるようなフィルタ、例えば、図19に示すフィルタは、本発明のフィルタに含まれない。また、図11に示すような一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部を有さないものは、本発明のフィルタに含まれない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明のような種類のフィルタにおいて、圧力損失に影響を及ぼす主な要因を図示した概念図である。
【図2】図2は、各種排気ガスフィルタにおける圧力損失の経過時間による変化の様子を模式的に示したグラフである。
【図3】図3は、本発明の排気ガス浄化用フィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
【図4】図4(a)は、図3に示したフィルタを構成する多孔質セラミック部材の一例を模式的に示した斜視図であり、(b)は、(a)に示した多孔質セラミック部材のA−A線断面図である。
【図5】図5(a)は、本発明の排気ガス浄化用フィルタの別の一例を模式的に示した斜視図であり、(b)は、(a)に示したフィルタのB−B線断面図である。
【図6】図6(a)〜(d)は、本発明のフィルタを構成する多孔質セラミック部材の長さ方向に垂直な断面を模式的に示した断面図であり、(e)は、従来のフィルタを構成する多孔質セラミック部材の長さ方向に垂直な断面を模式的に示した断面図である。
【図7】図7は、本発明のハニカムフィルタを製造するための一工程の様子を模式的に示した側面図である。
【図8】図8は、本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタを用いた排気ガス浄化装置の一例を模式的に示した断面図である。
【図9】図9は、従来の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの一例を模式的に示した斜視図である。
【図10】図10は、従来の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの別の一例を模式的に示した縦断面図である。
【図11】図11(a)〜(d)は、従来の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの別の例を模式的に示した縦断面図である。
【図12】図12(a)〜(f)は、本発明のフィルタの例を模式的に示した縦断面図である。
【図13】図13は、実施例及び比較例に係るフィルタのα(隔壁長さ比)とβ(開口比率)との関係を示すグラフである。
【図14】図14は、実施例1において、フィルタの入口から異なる位置で観察されるパティキュレートの捕集状態を示す写真である。
【図15】図15は、実施例及び比較例に係るフィルタにおけるアッシュ重量とアッシュ層の長さとの関係を示すグラフである。
【図16】図16は、実施例及び比較例に係るフィルタにおけるフィルタのパティキュレート捕集前もしくは再生直後のパティキュレートがフィルタに堆積されていない状態での圧力損失とアッシュ重量との関係を示すグラフである。
【図17】図17は、上のグラフは、実施例及び比較例に係るフィルタにおけるパティキュレートの捕集量と圧力損失との関係を示すグラフであり、下のグラフは、上記実施例及び比較例に係るフィルタにおけるβ(開口率比)と、初期の圧力損失及びパティキュレートを6(g/L)捕集した際の圧力損失との関係を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例に係るフィルタにおけるβ(開口率比)と再生限界値との関係を示すグラフである。
【図19】図19は、大容積貫通孔と小容積貫通孔の数が実質的に1:2となるように構成された従来の多孔質セラミック部材の長さ方向に垂直な断面を模式的に示した断面図である。
【図20】図20は、従来のハニカム構造体の長手方向に垂直な断面を模式的に示した断面図である。
【図21】図21は、従来のハニカム構造体の長手方向に垂直な断面を模式的に示した断面図である。
【図22】図22は、従来のハニカム構造体の長手方向に垂直な断面を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明のフィルタは、多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設されたハニカム構造を有する柱状のフィルタであって、
上記貫通孔は、長手方向に垂直な断面の面積が相対的に大きい大容積貫通孔と、上記断面の面積が相対的に小さい小容積貫通孔との実質的に同数である2種類の貫通孔からなり、
上記大容積貫通孔は、上記フィルタの一端部で封止される一方、上記小容積貫通孔は、上記フィルタの他端部で封止され、
長手方向に垂直な断面における上記一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(a)と、長手方向に垂直な断面における上記一の大容積貫通孔が隣り合う上記小容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(b)との比(a/b)をαとし、上記大容積貫通孔の上記断面の面積(A)と、上記小容積貫通孔の上記断面の面積(B)の比(A/B)をβとした際、上記αと上記βとが下記式(1)の関係を有することを特徴とするものである。
β≧(20/9)α+1 (ただし、0<α≦1.5、1<β≦6)…(1)
【0056】
本発明のフィルタは、多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設されたハニカム構造を有する柱状のフィルタである。上記フィルタにおいては、少なくとも1つの多孔質セラミックブロックを含んで構成されていることが好ましい。上記多孔質セラミックブロックは、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材がシール材層を介して複数個結束されることにより構成されていてもよく(以下、上記フィルタを集合体型フィルタともいう)、全体が一体として焼結形成されたセラミック部材から構成されていてもよい(以下、上記フィルタを一体型フィルタともいう)。
【0057】
上記集合体型フィルタの場合、壁部は、多孔質セラミック部材の貫通孔を隔てる隔壁と、多孔質セラミック部材の外壁及び多孔質セラミック部材間の接着材層として機能しているシール材層とから構成されており、上記一体型フィルタの場合、一種類の隔壁のみにより構成されている。
【0058】
図3は、本発明のフィルタの一例である集合体型フィルタの具体例を模式的に示した斜視図であり、図4(a)は、図1に示したフィルタを構成する多孔質セラミック部材の一例を模式的に示した斜視図であり、(b)は、(a)に示した多孔質セラミック部材のA−A線断面図である。
【0059】
図3に示したように、本発明のフィルタ10は、多孔質セラミック部材20がシール材層14を介して複数個結束されてセラミックブロック15を構成し、このセラミックブロック15の周囲には、排気ガスの漏れを防止するためのシール材層13が形成されている。
【0060】
また、この多孔質セラミック部材20は、その長手方向に多数の貫通孔21が並設されているが、この貫通孔21は、長手方向に垂直な断面の面積が相対的に大きい大容積貫通孔21aと、上記断面の面積が相対的に小さい小容積貫通孔21bとの2種類からなり、大容積貫通孔21aは、フィルタ10の排気ガス出口側の端部で封止材22により封止される一方、小容積貫通孔21bは、フィルタ10の排気ガス入口側の端部で封止材22により封止され、これらの貫通孔同士を隔てる隔壁23がフィルタとして機能するようになっている。即ち、大容積貫通孔21aに流入した排気ガスは、必ずこれらの隔壁23を通過した後、小容積貫通孔21bから流出するようになっている。
【0061】
本発明のフィルタでは、貫通孔21は大容積貫通孔21aと小容積貫通孔21bとの2種類からなり、その貫通孔の数は実質的に同数である。このような構成にし、貫通孔の不必要な分割をなくすことで、貫通孔入口側を通過する際の摩擦及び/又は貫通孔出口側を通過する際の摩擦((2)−1;ΔPb−1、(2)−2;ΔPb−2)に起因する圧力損失が必要以上に上昇することのを抑えることが可能である。例えば、図19に示すような貫通孔の数が実質的に1:2であるフィルタと比較すると、本発明のフィルタのような貫通孔の数が実質的に同数であるフィルタでは、貫通孔出口側を通過する際の摩擦((2)−2;ΔPb−2)による圧力損失が低いため、トータルの圧力損失が低くなる。
【0062】
また、本発明のフィルタは、一の大容積貫通孔21aが隣り合う大容積貫通孔21bと共有する壁部と、一の大容積貫通孔21aが隣り合う小容積貫通孔21bと共有する壁部の両方を有する。
【0063】
図14(a)〜(c)は、実施例において、フィルタの入口から異なる位置で観察されるパティキュレートの捕集状態を示す写真であるが、この写真より明らかなように、本発明のフィルタでは、隣り合う大容積貫通孔と小容積貫通孔が共有する壁部のみでなく、隣り合う大容積貫通孔同士が共有する壁部にも一様にパティキュレートが蓄積する。これは、排気ガスは、大容積貫通孔から小容積貫通孔へ向かって、フィルタの壁を直接流入する以外にも、孔のなかで渦をまいたりするような多様な流れを生じさせ、パティキュレートが捕集されるに従って、一旦、隣り合う大容積貫通孔同士が共有する壁部に侵入した後、隣り合う大容積貫通孔と小容積貫通孔が共有する壁部を通って小容積貫通孔に抜ける排気ガスの流れが形成されるようになるためであると考えられる。
【0064】
その結果、大容積貫通孔と小容積貫通孔の容積比を一定にした際、両方の壁部を有するフィルタにおいても、使用するに従って、大容積貫通孔の壁全てに一様にパティキュレートが蓄積される。従って、開口比率を一定とした時、大容積貫通孔同士が共有する壁部のないフィルタと比較すると、本発明のフィルタでは、実質的にろ過するための壁部の表面積が大きいこととなり、同じ量のパティキュレートを蓄積させたとき、隔壁部分に蓄積するパティキュレートの厚みを減少させることができる。このため、本発明のフィルタでは、使用を開始してから時間が経過するに従って上昇する圧力損失の上昇率が小さくなり、フィルタ使用している期間トータルで考えた際の圧力損失を低減することができるのである。
【0065】
また、フィルタを再生するためには、パティキュレートを燃焼させるが、パティキュレート中には、燃焼して消滅する炭素等のほかに、燃焼により酸化物となる金属等が含まれており、これらがフィルタ中にアッシュとして残留する。アッシュは、通常、フィルタの出口に近いところに残留し、そのためフィルタを構成する貫通孔は、出口に近いところからアッシュが充填されていき、アッシュが充填された部分の容積が次第に大きくなるとともに、フィルタとして機能する部分の容積(面積)が次第に小さくなっていく。
【0066】
そして、アッシュの蓄積量が多くなりすぎると、フィルタは、最早、フィルタとして機能しなくなり、排気管から取り出して逆洗浄を行ってアッシュをフィルタから取り除くか、フィルタを廃棄することとなる。
【0067】
上述した本発明のフィルタは、貫通孔の容積が全て同じものと比べると、排気ガス流入側の貫通孔の容積が大きいことに起因して、アッシュが蓄積していく際のフィルタとして機能する部分の容積は減少量が小さく、アッシュに起因する圧力損失も小さくなる。従って、逆洗浄等を必要とするまでの期間も長くなる。
【0068】
図3に示したフィルタ10では、フィルタの形状は円柱状であるが、本発明のフィルタは、円柱状に限定されることはなく、例えば、楕円柱状や角柱状等任意の形状、大きさのものであってもよい。
【0069】
本発明のフィルタにおいて、ハニカム構造は、流入側から、流出側にかけて、断面積を変更させていないことが望ましい。なぜなら、圧縮強度等の向上をはかることができるし、押出成形での製造が容易になるからである。
【0070】
本発明のフィルタにおいて、多孔質セラミック部材の材料としては特に限定されず、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミック、炭化珪素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミック、アルミナ、ジルコニア、コージュライト、ムライト、等の酸化物セラミック等を挙げることができる。また、シリコンと炭化珪素の複合体、チタン酸アルミニウムといった2種類以上の材料から形成されていてもよいが、これらのなかでは、耐熱性が大きく、機械的特性に優れ、かつ、熱伝導率も大きい炭化珪素が望ましい。
【0071】
また、多孔質セラミック部材の気孔率は特に限定されないが、20〜80%程度であることが望ましい。気孔率が20%未満であると、本発明のフィルタがすぐに目詰まりを起こすことがあり、一方、気孔率が80%を超えると、多孔質セラミック部材の強度が低下して容易に破壊されることがある。
【0072】
なお、上記気孔率は、例えば、水銀圧入法、アルキメデス法及び走査型電子顕微鏡(SEM)による測定等、従来公知の方法により測定することができる。
【0073】
また、上記多孔質セラミック部材の平均気孔径は1〜100μmであることが望ましい。平均気孔径が1μm未満であると、パティキュレートが容易に目詰まりを起こすことがある。一方、平均気孔径が100μmを超えると、パティキュレートが気孔を通り抜けてしまい、該パティキュレートを捕集することができず、フィルタとして機能することができないことがある。
【0074】
このような多孔質セラミック部材を製造する際に使用するセラミックの粒径としては特に限定されないが、後の焼成工程で収縮が少ないものが望ましく、例えば、0.3〜50μm程度の平均粒径を有する粉末100重量部と、0.1〜1.0μm程度の平均粒径を有する粉末5〜65重量部とを組み合わせたものが望ましい。上記粒径のセラミック粉末を上記配合で混合することで、多孔質セラミック部材を製造することができるからである。
【0075】
上記封止材は、多孔質セラミックからなるものであることが望ましい。
本発明のフィルタにおいて、上記封止材が封止された多孔質セラミック部材は、多孔質セラミックからなるものであるため、上記封止材を上記多孔質セラミック部材と同じ多孔質セラミックとすることで、両者の接着強度を高くすることができるとともに、封止材の気孔率を上述した多孔質セラミック部材と同様に調整することで、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率と封止材の熱膨張率との整合を図ることができ、製造時や使用時の熱応力によって封止材と隔壁との間に隙間が生じたり、封止材や封止材に接触する部分の隔壁にクラックが発生したりすることを防止することができる。
【0076】
上記封止材が多孔質セラミックからなる場合、その材料としては特に限定されず、例えば、上述した多孔質セラミック部材を構成するセラミック材料と同様の材料を挙げることができる。
【0077】
本発明のフィルタにおいて、シール材層13、14は、多孔質セラミック部材20間、及び、セラミックブロック15の外周に形成されている。そして、多孔質セラミック部材20間に形成されたシール材層14は、複数の多孔質セラミック部材20同士を結束する接着剤としても機能し、一方、セラミックブロック15の外周に形成されたシール材層13は、本発明のフィルタ10を内燃機関の排気通路に設置した際、セラミックブロック15の外周から排気ガスが漏れ出すことを防止するための封止材として機能する。
【0078】
上記シール材層を構成する材料としては特に限定されず、例えば、無機バインダー、有機バインダー、無機繊維及び/又は無機粒子からなるもの等を挙げることができる。
【0079】
なお、上述した通り、本発明のフィルタにおいて、シール材層は、多孔質セラミック部材間、及び、セラミックブロックの外周に形成されているが、これらのシール材層は、同じ材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。さらに、上記シール材層が同じ材料からなるものである場合、その材料の配合比は同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0080】
上記無機バインダーとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機バインダーのなかでは、シリカゾルが望ましい。
【0081】
上記有機バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記有機バインダーのなかでは、カルボキシメチルセルロースが望ましい。
【0082】
上記無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ等のセラミックファイバー等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記無機繊維のなかでは、シリカ−アルミナファイバーが望ましい。
【0083】
上記無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物等を挙げることができ、具体的には、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等からなる無機粉末又はウィスカー等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機粒子のなかでは、熱伝導性に優れる炭化珪素が望ましい。
【0084】
シール材層14は、緻密体からなるものであってもよく、その内部への排気ガスの流入が可能なように、多孔質体であってもよいが、シール材層13は、緻密体からなるものであることが望ましい。シール材層13は、本発明のフィルタ10を内燃機関の排気通路に設置した際、セラミックブロック15の外周から排気ガスが漏れ出すことを防止する目的で形成されているからである。
【0085】
図5(a)は、本発明のフィルタの一例である一体型フィルタの具体例を模式的に示した斜視図であり、(b)は、そのB−B線断面図である。
【0086】
図5(a)に示したように、フィルタ30は、多数の貫通孔31が壁部33を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミックブロック35から構成されている。
【0087】
貫通孔31は、長手方向に垂直な断面の面積が相対的に大きい大容積貫通孔31aと、上記断面の面積が相対的に小さい小容積貫通孔31bとの2種類の貫通孔からなり、大容積貫通孔31aは、フィルタ30の排気ガス出口側の端部で封止材32により封止される一方、小容積貫通孔31bは、フィルタ30の排気ガス入口側の端部で封止材32により封止され、これらの貫通孔31を隔てる隔壁33がフィルタとして機能するようになっている。
【0088】
図5には示していないが、多孔質セラミックブロック35の周囲には、図3に示したフィルタ10と同様に、シール材層が形成されていてもよい。
【0089】
このフィルタ30では、多孔質セラミックブロック35が焼結により製造された一体構造のものであるほかは、集合体型フィルタ10と同様に構成されており、大容積貫通孔31aに流入した排気ガスは、貫通孔31を隔てる壁部33を通過した後、小容積貫通孔31bから流出するようになっている。従って、一体型フィルタ30においても、集合体型フィルタの場合と同様の効果が得られる。
【0090】
また、一体型フィルタ30においても、集合体型フィルタ10同様、形状、大きさは任意のものであってよく、その気孔率は集合体型フィルタ同様20〜80%であることが望ましく、その気孔径は1〜100μm程度であることが望ましい。
【0091】
多孔質セラミックブロック35を構成する多孔質セラミックとしては特に限定されず、集合体型フィルタと同様の窒化物、炭化物、酸化物セラミックを挙げることができるが、通常、コージェライト等の酸化物セラミックが使用される。安価に製造することができるとともに、比較的熱膨張係数が小さいため、製造中、及び使用中に熱応力によってフィルタが破損する恐れが少ないからである。
【0092】
このような一体型フィルタ30における封止材32は、同様に多孔質セラミックからなるものであることが望ましく、その材料としては、特に限定されないが、例えば、上述した多孔質セラミック35を構成するセラミック材料と同様の材料を挙げることができる。
【0093】
図3及び図5に示したような構成からなる本発明のフィルタにおいて、大容積貫通孔及び/又は小容積貫通孔の長手方向に垂直な断面の形状は、多角形であることが望ましい。
【0094】
多角形にすることにより、大容積貫通孔及び/又は小容積貫通孔を排気ガスが通過する際に貫通孔の形状による摩擦の大きい部分をなくし、貫通孔を通過する際の摩擦((2)−1;ΔPb−1、(2)−2;ΔPb−2)に起因する圧力損失を低くすること、もしくは、隔壁の厚みの不均一な部分、つまり、排気ガスが局所的に通過しにくくなる部分をなくし、隔壁を通過する際の抵抗;ΔPに起因する圧力損失を低くすること、このどちらかの効果を得ることができるからであると考えられる。
【0095】
また、多角形のなかでも、4角形以上の多角形が望ましく、その角の少なくとも1つが鈍角であることがより望ましい。このようにすることで、貫通孔入口側を通過する際の摩擦及び貫通孔出口側を通過する際の摩擦((2)−1;ΔPb−1+(2)−2;ΔPb−2)に起因する圧力損失を低くすることができるからである。
具体的には、八角形と四角形との組み合わせがより望ましい。
【0096】
大容積貫通孔及び/又は小容積貫通孔の断面の角部の近傍は、曲線により構成されていることが望ましい。曲線にすることにより、貫通孔入口側を通過する際の摩擦及び貫通孔出口側を通過する際の摩擦((2)−1;ΔPb−1+(2)−2;ΔPb−2)に起因する圧力損失をさらに低くすることができるからである。また、角部での応力集中に起因するクラックの発生を防ぐこともできるからである。
【0097】
なお、本発明において、「隣り合う上記大容積貫通孔の上記断面の重心間距離」とは、一の大容積貫通孔の長手方向に垂直な断面における重心と、隣り合う大容積貫通孔の長手方向に垂直な断面における重心との最小の距離をいい、一方、「隣り合う上記小容積貫通孔の上記断面の重心間距離」とは、一の小容積貫通孔の長手方向に垂直な断面における重心と、隣り合う小容積貫通孔の重心との最小の距離のことをいう。
【0098】
上記2つの重心間距離が等しいとき、再生時に熱が均一に拡散することで、フィルタ内の局所的な温度の偏りがなくなり、長期間繰り返し使用しても、熱応力に起因するクラック等が発生することのない耐久性に優れたフィルタとなると考えられる。
【0099】
図6(a)〜(d)及び図12(a)〜(f)は、本発明に係る集合体型フィルタを構成する多孔質セラミック部材の断面の一部を模式的に示した断面図であり、図6(e)は、従来のフィルタにおける断面の一部を模式的に示した断面図である。なお、一体型フィルタにおける大容積貫通孔及び小容積貫通孔の断面の形状も同じ組み合わせであるので、これらの図を用いて本発明のフィルタにおける大容積貫通孔及び小容積貫通孔の断面形状を説明する。
【0100】
図6(a)では、上記開口比率がほぼ1.55、図6(b)では、ほぼ2.54、図6(c)では、ほぼ4.45、図6(d)では、ほぼ6.00である。また、図12(a)、(c)、(e)は、上記開口比率がすべて、ほぼ4.45であり、図12(b)、(d)、(f)は、すべてほぼ6.00である。図6(a)〜(d)では全て、大容積貫通孔の断面の形状は8角形であり、小容積貫通孔の断面の形状は4角形でそれぞれ交互に配列されており、小容量貫通孔の断面積を変化させ、大容積貫通孔の断面形状を少し変化させることにより、開口比率を任意に変動させることが容易にできる。同様に、図12に示すフィルタに関しても任意にその開口比率を変動させることができる。
【0101】
上述したように、八角形と四角形の組み合わせでは、対称性がよいものとなる。対称性がよいものであるので、排気ガスが均等に大容積貫通孔に流入しやすくなる。加えて、アイソスタティック強度、圧縮強度等の向上がはかれる。
【0102】
一例として、A軸の圧縮強度について考察してみる。A軸の圧縮強度とは、ハニカム形状において、少なくとも、貫通孔と垂直な2平面を構成するような立体、(好ましくは残りの4面を互いに平行に切断した直方体、立方体形状)に切り出し、その貫通孔を台に鉛直になるように設置し、その上部から、挟み込むように荷重圧力をかけて、破壊された荷重から、強度を計算するものである。
【0103】
この場合、従来技術にあるように、断面積の形状が全て正方形のみの形であると、A軸については、全て同じ圧力で力が加わることになる。
【0104】
ところが、八角形と四角形の形であると、八角形が広がり、四角形を押しつぶそうとする力等に圧縮の力が分散されるし、また、大容積貫通孔同士が共通する壁では、打ち消しあうことになって、圧縮強度が高いものとなると考えられる。
【0105】
同様にアイソスタティック強度においても、断面積が全て正方形の形状のものに比べて、対角線の方向にも、梁を設けることになるので、同様に強度を向上させることができやすくなると考えられる。なお、アイソスタティック強度は、等方的圧力破壊強度ともいい、フィルタに静水圧等の等方的な圧力を印加し、破壊が発生したときの強度をいう。
【0106】
アイソスタティック強度は、7MPa以上が好ましく、9MPa以上がより好ましい。また、A軸の圧縮強度は、18MPa以上が好ましく、25MPa以上がより好ましい。
しかも、上述した効果は、ある数値範囲にあると、より効果的に見出されるものであることが発明者らの研究によってわかった。
【0107】
このような、強度に関する安定性と、ガスの流れ、熱の伝播といった様々な要因が合い重なって、パティキュレートの再生に対する耐久が優れたハニカムフィルタになると考えられる。
【0108】
また、本発明のフィルタにおいて、ハニカム形状は、流入側から、流出側にかけて、断面積を変更させていないことが望ましい。なぜなら、例えば、上述したような圧縮強度において、貫通孔の断面積を変更することは、圧縮強度の減少を引き起こすし、押出成形での製造が困難になるからである。
【0109】
なお、図12(a)〜(b)に示すフィルタ160、260では、大容積貫通孔161a、261aの断面の形状は5角形であり、そのうちの3つの角がほぼ直角となっており、小容積貫通孔161b、261bの断面の形状は4角形で、それぞれ大きな四角形の斜めに対向する部分を占めるように構成されている。図12(c)〜(d)に示すフィルタ170、270では、図6(a)〜(d)に示す断面の形状を変形したものであって、大容積貫通孔171a、271aと小容積貫通孔171b、271bとが共有する隔壁を小容積貫通孔側にある曲率を持って広げた形状である。この曲率は任意のものであってよい。
【0110】
ここでは、大容積貫通孔171a、271aと小容積貫通孔171b、271bとが共有する隔壁を構成する曲線が1/4円に相当するものを例示する。この場合、その開口比率が最小となる形状は、おおよそ図12(c)のような形状となり、そのときの開口比率は、ほぼ3.66となる。
【0111】
図12(e)〜(f)に示すフィルタ180、280では、大容積貫通孔181a、281a及び小容積貫通孔281b、281bは4角形(長方形)からなり、図のように、2つの大容積貫通孔と2つの小容積貫通孔を組み合わせると、ほぼ正方形となるように構成されている。
【0112】
貫通孔の形状及び並び方が同様であるならば、上記開口比率の変動に伴って、長手方向に垂直な断面における一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(a)と、長手方向に垂直な断面における一の大容積貫通孔が隣り合う上記小容積貫通孔と共有する壁部の長さの合計(b)とは、それぞれほぼ一定の関係で変動する。
【0113】
従って、例えば、図6(a)〜(d)に示す形状のフィルタでは、実質的に下記の(2)式で表すことができる。
β=(α+21/2−1・・・(2)
【0114】
同様に、図10は下記(3)式、図11(a)〜(d)は下記(4)式、図12(a)、(b)は下記(5)式、図12(c)、(d)は下記(6)式、図12(e)、(f)は下記(7)式で実質的にαとβとの関係を一意に表すことができる。
β=(α+1)−1・・・(3)
α=0・・・(4)
β=2{(2−21/2)α+1}−1・・・(5)
β={π/4(4−π)}(α+4/π)−1・・・(6)
β=−(3α+2)/(α−2)…(7)
ただし、隔壁の厚みによって、α(隔壁長さ比)が若干変動することがある。そのため、一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部、一の大容積貫通孔が隣り合う小容積貫通孔と共有する壁部のどちらにも属さない壁部はその効果を考慮し、大容積貫通孔同士が共有する壁部として扱う場合もある。また、上記(2)、(3)、(5)、(6)、(7)式においても、(1)式と同様に、0<α≦1.5、1<β≦6である。
β(開口率比)の下限値は、1.55が好ましく、2.0がより望ましい。β(開口率比)の上限値は、2.75が好ましく、2.54がより望ましく、2.42がより望ましい。
【0115】
このような開口率比とすることにより、パティキュレート捕集時の圧力損失をより低減することができるとともに、再生限界値を大きくすることができる。
【0116】
なお、再生限界値とは、これ以上パティキュレートを捕集すると、再生を行う際に、フィルタにクラック等が発生し、フィルタが損傷するおそれがあるパティキュレートの捕集量(g/l)をいう。従って、再生限界値が大きくなると、再生を行うまでに捕集することが可能なパティキュレートの量を増大させることができ、再生までの期間を長期化することができる。
【0117】
次に、上述した本発明のフィルタの製造方法の一例について説明する。
本発明のフィルタの構造が図5に示したような、その全体が一の焼結体から構成された一体型フィルタである場合、まず、上述したようなセラミックを主成分とする原料ペーストを用いて押出成形を行い、図5に示したフィルタ30と略同形状のセラミック成形体を作製する。
【0118】
上記原料ペーストは、製造後の多孔質セラミックブロックの気孔率が20〜80%となるものであれば特に限定されず、例えば、上述したようなセラミックからなる粉末にバインダー及び分散媒液を加えたものを挙げることができる。
【0119】
上記バインダーとしては特に限定されず、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0120】
上記バインダーの配合量は、通常、セラミック粉末100重量部に対して、1〜10重量部程度が望ましい。
【0121】
上記分散媒液としては特に限定されず、例えば、ベンゼン等の有機溶媒;メタノール等のアルコール、水等を挙げることができる。
上記分散媒液は、原料ペーストの粘度が一定範囲内となるように、適量配合される。
【0122】
これらセラミック粉末、バインダー及び分散媒液は、アトライター等で混合し、ニーダー等で充分に混練した後、押出成形して上記セラミック成形体を作製する。
【0123】
また、上記原料ペーストには、必要に応じて成形助剤を添加してもよい。
上記成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を挙げることができる。
【0124】
さらに、上記原料ペーストには、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
【0125】
上記バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)及びムライトバルーン等を挙げることができる。これらのなかでは、フライアッシュバルーンが望ましい。
【0126】
そして、上記セラミック成形体を、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機及び凍結乾燥機等を用いて乾燥させた後、所定の貫通孔に封止材となる封止材ペーストを充填し、上記貫通孔に目封じする封口処理を施す。
【0127】
上記封止材ペーストとしては、後工程を経て製造される封止材の気孔率が20〜80%となるものであれば特に限定されず、例えば、上記原料ペーストと同様のものを用いることができるが、上記原料ペーストで用いたセラミック粉末に潤滑剤、溶剤、分散剤及びバインダーを添加したものであることが望ましい。上記封口処理の途中で封止材ペースト中のセラミック粒子が沈降することを防止することができるからである。
【0128】
次に、上記封止材ペーストが充填されたセラミック乾燥体に、所定の条件で脱脂、焼成を行うことにより、多孔質セラミックからなり、その全体が一の焼結体から構成されたフィルタを製造することができる。
【0129】
なお、上記セラミック乾燥体の脱脂及び焼成の条件等は、従来から多孔質セラミックからなるフィルタを製造する際に用いられている条件を適用することができる。
【0130】
また、本発明のフィルタの構造が、図3に示したような、多孔質セラミック部材がシール材層を介して複数個結束されて構成された集合体型フィルタである場合、まず、上述したセラミックを主成分とする原料ペーストを用いて押出成形を行い、図4に示した多孔質セラミック部材20のような形状の生成形体を作製する。
【0131】
なお、上記原料ペーストは、上述した集合体型フィルタにおいて説明した原料ペーストと同様のものを挙げることができる。
【0132】
次に、上記生成形体を、マイクロ波乾燥機等を用いて乾燥させて乾燥体とした後、該乾燥体の所定の貫通孔に封止材となる封止材ペーストを充填し、上記貫通孔を目封じする封口処理を施す。
【0133】
なお、上記封止材ペーストは、上述した一体型フィルタにおいて説明した封止材ペーストと同様のものを挙げることができ、上記封口処理は、封止材ペーストを充填する対象が異なるほかは、上述した一体型フィルタの場合と同様の方法を挙げることができる。
【0134】
次に、上記封口処理を経た乾燥体に所定の条件で脱脂、焼成を行うことにより、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された多孔質セラミック部材を製造することができる。
【0135】
なお、上記生成形体の脱脂及び焼成の条件等は、従来から多孔質セラミック部材がシール材層を介して複数個結束されて構成されたフィルタを製造する際に用いられている条件等を適用することができる。
【0136】
次に、図7に示したように、多孔質セラミック部材20が斜めに傾斜した状態で積み上げることができるように、上部の断面がV字形状に構成された台80の上に、多孔質セラミック部材20を傾斜した状態で載置した後、上側を向いた2つの側面20a、20bに、シール材層14となるシール材ペーストを均一な厚さで塗布してシール材ペースト層81を形成し、このシール材ペースト層81の上に、順次他の多孔質セラミック部材20を積層する工程を繰り返し、所定の大きさの角柱状の多孔質セラミック部材20の積層体を作製する。
【0137】
なお、上記シール材ペーストを構成する材料としては、上述した本発明のフィルタにおいて説明した通りであるのでここではその説明を省略する。
【0138】
次に、この多孔質セラミック部材20の積層体を加熱してシール材ペースト層81を乾燥、固化させてシール材層14とし、その後、例えば、ダイヤモンドカッター等を用いて、その外周部を図3に示したような形状に切削することで、セラミックブロック15を作製する。
【0139】
そして、セラミックブロック15の外周に上記シール材ペーストを用いてシール材層13を形成することで、多孔質セラミック部材がシール材層を介して複数個結束されて構成されたフィルタを製造することができる。
【0140】
このようにして製造したフィルタはいずれも柱状であり、その構造は、図3や図5に示した通りである。
【0141】
本発明のフィルタの用途は特に限定されないが、車両の排気ガス浄化装置に用いることが望ましい。
【0142】
図8は、本発明のフィルタが設置された車両の排気ガス浄化装置の一例を模式的に示した断面図である。
【0143】
図8に示したように、排気ガス浄化装置600は、主に、本発明のフィルタ60、フィルタ60の外方を覆うケーシング630、フィルタ60とケーシング630との間に配置された保持シール材620、及び、フィルタ60の排気ガス流入側に設けられた加熱手段610から構成されており、ケーシング630の排気ガスが導入される側の端部には、エンジン等の内燃機関に連結された導入管640が接続されており、ケーシング630の他端部には、外部に連結された排出管650が接続されている。なお、図8中、矢印は排気ガスの流れを示している。
また、図8において、フィルタ60は、図3に示したフィルタ10であってもよく、図5に示したフィルタ30であってもよい。
【0144】
このような構成からなる排気ガス浄化装置600では、エンジン等の内燃機関から排出された排気ガスは、導入管640を通ってケーシング630内に導入され、フィルタ60の貫通孔から壁部(隔壁)を通過してこの壁部(隔壁)でパティキュレートが捕集されて浄化された後、排出管650を通って外部へ排出されることとなる。
【0145】
そして、フィルタ60の壁部(隔壁)に大量のパティキュレートが堆積し、圧力損失が高くなると、フィルタ60の再生処理が行われる。
【0146】
上記再生処理では、加熱手段610を用いて加熱されたガスをフィルタ60の貫通孔の内部へ流入させることで、フィルタ60を加熱し、壁部(隔壁)に堆積したパティキュレートを燃焼除去させるのである。
【0147】
また、ポストインジェクション方式を用いてパティキュレートを燃焼除去してもよい。
また、本発明のフィルタの気孔中には、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
【0148】
このような触媒が担持されていることで、本発明のフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒コンバータとして機能する。
【0149】
上記触媒は、本発明のハニカム構造体を構成する粒子表面に担持されることで気孔を残したものでもよいし、壁部状にある厚みをもって担持されていてもよい。また、上記触媒は、貫通孔の壁部の表面に均一に担持されていてもよいし、ある一定の場所に偏って担持されていてもよい。特に入口側貫通孔の壁部の表面又は表面付近の粒子の表面、さらにはこれらの両方ともに上記触媒を担持させると、パティキュレートと接触しやすいためにパティキュレートの燃焼を効率よく行なうことができる。
【0150】
上記触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を挙げることができる。この貴金属からなる触媒は、所謂、三元触媒であり、このような三元触媒が担持された本発明のフィルタは、従来公知の触媒コンバータと同様に機能するものである。従って、ここでは、本発明のフィルタが触媒コンバータとしても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0151】
但し、本発明のフィルタに担持させることができる触媒は、上記貴金属に限定されることはなく、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば、任意のものを担持させることができる。
【0152】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0153】
(実施例1)
(1)平均粒径11μmのα型炭化珪素粉末60重量%と、平均粒径0.5μmのβ型炭化珪素粉末40重量%とを湿式混合し、得られた混合物100重量部に対して、有機バインダー(メチルセルロース)を5重量部、水を10重量部加えて混練して混合組成物を得た。次に、上記混合組成物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練した後、押出成形を行い、図6(a)〜(d)に示したように、断面形状を大容積貫通孔を八角形、小容積貫通孔として、四角形(略正方形)を選択して、焼成後のβ(開口比率)が1.50となるように生成形体を作製した。
【0154】
次に、マイクロ波乾燥機等を用いて上記生成形体を乾燥させ、セラミック乾燥体とした後、上記生成形体と同様の組成のペーストを所定の貫通孔に充填した後、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、気孔率が42%、平均気孔径が9μm、その大きさが34.3mm×34.3mm×150mmで、貫通孔の数が28個/1cm(10mm×10mm)(大容積貫通孔14個/1cm、小容積貫通孔14個/1cm)、実質的に全ての隔壁23の厚さが0.4mmの炭化珪素焼結体である多孔質セラミック部材20を製造した。
【0155】
なお、得られた多孔質セラミック部材20の一方の端面においては、大容積貫通孔21aのみを封止剤により封止し、他方の端面においては、小容積貫通孔21bのみを封止剤により封止した。
また、多孔質セラミック部材20においてα(隔壁長さ比)は、0.20であった。
【0156】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー30重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子21重量%、シリカゾル15重量%、カルボキシメチルセルロース5.6重量%、及び、水28.4重量%を含む耐熱性のシール材ペーストを用いて上記多孔質炭化珪素部材を、図7を用いて説明した方法により多数結束させ、続いて、ダイヤモンドカッターを用いて切断することにより、円柱形状のセラミックブロックを作製した。
このとき、上記多孔質セラミック部材を結束するシール材層の厚さが1.0mmとなるように調整した。
【0157】
次に、無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)23.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.2重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)7重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース0.5重量%及び水39重量%を混合、混練してシール材ペーストを調製した。
【0158】
次に、上記シール材ペーストを用いて、上記セラミックブロックの外周部に厚さ0.2mmのシール材ペースト層を形成した。そして、このシール材ペースト層を120℃で乾燥して、直径が144mmの円柱形状のフィルタを製造した。
【0159】
(実施例2〜24、及び、比較例1〜2)
(1)多孔質セラミック部材の断面形状を図6(a)〜(d)に示したように、大容積貫通孔を八角形、小容積貫通孔として、四角形(略正方形)の断面形状を選択して、そのβ(開口比率)及びα(隔壁長さ比)をそれぞれ、表1に示した値としたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0160】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
【0161】
(実施例25〜31、及び、比較例3〜4)
(1)多孔質セラミック部材の断面形状を図12(a)、(b)に示したように、大容積貫通孔を五角形、小容積貫通孔として、四角形(略正方形)の断面形状を選択して、そのβ(開口比率)及びα(隔壁長さ比)をそれぞれ、表2に示した値としたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0162】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
【0163】
(実施例32〜35、及び、比較例5〜6)
(1)多孔質セラミック部材の断面形状を図12(c)、(d)に示したように、大容積貫通孔を八角形の四隅を曲率をもって広げ、小容積貫通孔として、四角形(略正方形)を曲率をもって縮めた断面形状を選択して、そのβ(開口比率)及びα(隔壁長さ比)をそれぞれ、表2に示した値としたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0164】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
【0165】
(実施例36〜44、及び、比較例7〜8)
(1)多孔質セラミック部材の断面形状を図12(e)、(f)に示したように、大容積貫通孔を長方形、小容積貫通孔として、長方形(場合によっては正方形)の断面形状を選択して、そのβ(開口比率)及びα(隔壁長さ比)をそれぞれ、表2に示した値としたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0166】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
【0167】
(比較例9〜19)
(1)多孔質セラミック部材の断面形状を図10に示した断面形状と略同様(十二角形と四角形)にし、そのβ(開口比率)及びα(隔壁長さ比)をそれぞれ、表3に示した値としたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0168】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
【0169】
(比較例20〜27)
(1)多孔質セラミック部材の断面形状を、図11(a)(比較例20)、図11(b)(比較例21、22)、図11(c)(比較例23〜25)、図11(d)(比較例26〜27)にそれぞれ示した断面形状と略同様にし、そのβ(開口比率)及びα(隔壁長さ比)を、それぞれ表3に示した値(α=0)としたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0170】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
【0171】
(比較例28〜29)
(1)多孔質セラミック部材の断面形状を図6(e)に示した断面形状(全て正方形でかつ市松模様に封止)と略同様にし、そのβ(開口比率)=1及びα(隔壁長さ比)を、それぞれ表3に示した値(α=0)としたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0172】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
【0173】
(比較例30〜33)
(1)多孔質セラミック部材の断面形状を図19(比較例30)、図20(比較例31)、図21(比較例32)、図22(比較例33)に、それぞれ示した断面形状と略同様にしたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。なお、比較例30に示したフィルタ200(図19)の断面形状は、大容積貫通孔(六角形)と小容積貫通孔(三角形)の数が実質的に1:2である。また、比較例32に示したフィルタ220(図21)の断面は、大きな正方形の貫通孔221aと小さな正方形の貫通孔221bと長方形の貫通孔222が組み合わされて格子状に形成されたものであり、比較例33に示したフィルタ230(図22)の断面は、正方形の貫通孔231とそれよりほんのわずかに小さい正方形の貫通孔232が交互に組み合わされて形成されたものである。
【0174】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
【0175】
(比較例34)
(1)貫通孔の長手方向に平行な断面の形状をテーパ形状にしたほかは、実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0176】
(2)上記(1)で製造した多孔質セラミック部材をそれぞれ用いたほかは、実施例1の(2)と同様にしてフィルタを製造した。
得られたフィルタの貫通孔の長手方向に垂直な断面の面積は、徐々に大きくなったり小さくなったりしており、図6(a)を用いて説明すると、排気ガス入口側における大容積貫通孔21aは、排気ガス出口側では、小容量貫通孔21bとなっており、排気ガス入口側における小容積貫通孔21bは、排気ガス出口側では、大容量貫通孔21aとなっている。
【0177】
(評価方法)
(1)圧力損失変化
図8に示したように、各実施例及び比較例に係るフィルタをエンジンの排気通路に配設して排気ガス浄化装置とし、上記エンジンを回転数3000min−1、トルク50Nmで運転し、初期(運転前)の圧力損失及び所定量のパティキュレート捕集した際の圧力損失を測定した。表1〜3に全ての実施例及び比較例の断面形状、β(開口率比)、α(隔壁長さ比)、(20/9)α+1の値と、そのときの初期の圧力損失、パティキュレートを0.5、4.0、6.0、8.0(g/L)捕集した際の圧力損失のデータを示す。
【0178】
(2)再生限界値の測定
図8に示したように、各実施例及び比較例に係るフィルタをエンジンの排気通路に配設して排気ガス浄化装置とし、上記エンジンを回転数3000min−1、トルク50Nmで所定の時間運転し、その後に再生処理を行う実験を、運転する時間を増加させながら継続して行い、フィルタにクラックが発生するか否かを調査した。上記実験は、各実施例及び比較例に係るフィルタ5個について行った。そして、クラックが発生した際に、捕集していたパティキュレートの量を測定し、5個サンプルの平均値を再生限界値とした。その結果を下記の表1〜3に示した。
【0179】
図13に、実施例1〜44及び比較例1〜33におけるβ(開口率比)とα(隔壁長さ比)との値の関係をグラフ上で示す。図13のグラフ中の点は、上記実施例及び比較例から選んだものであり、数値を〇中に記載したもの(例えば(16)、(17)、(18)・・・)は、実施例の番号を表し、単に番号のみを記載したもの(例えば1、10、20・・・)は、比較例の番号を表す。また、線分Aは、β=(20/9)α+1を表す。線分Bは図11に示す断面形状のフィルタにおけるαとβとの関係を表し、曲線C〜Gはそれぞれ図12(c)〜(d)、図12(e)〜(f)、図6(a)、図12(a)〜(b)、図10に示す断面形状のフィルタにおけるαとβとの関係を表す線である。
【0180】
(3)アッシュ重量とアッシュ層の長さ又はフィルタの圧力損失との関係
図8に示したように、各実施例及び比較例に係るフィルタをエンジンの排気通路に配設して排気ガス浄化装置とし、上記エンジンを回転数3000min−1、トルク50Nmで所定の時間運転し、その後に再生処理を繰り返す実験を行い、フィルタを構成する貫通孔に充填されたアッシュ層の長さ(排気ガスの流れる方向の長さ)とアッシュ重量との関係、フィルタの圧力損失とアッシュ重量との関係を実施例2、実施例13、比較例28について測定した。その結果を図15、図16に示す。
【0181】
(4)フィルタの圧縮強度とアイソスタティック強度
表に記載のフィルタを、実施のように、30mm程度の立方体に切断し、インストロン5582によりA軸の圧縮強度を測定した。
また、直径144mmで長さ150mmのフィルタのアイソスタティック強度を測定した。測定の際には、サンプルの上下にアルミニウム板(1mmの厚み)をあて、ウレタンシート(1mmの厚み)で包んで密封し、水を満たした圧力容器に入れて加圧し、破壊された圧力をアイソスタティック強度とした。
これらの結果も、同様に表1〜3に記した。
【0182】
【表1】

【0183】
【表2】

【0184】
【表3】

【0185】
表1〜3及び図17に示した結果より明らかなように、実施例に係るフィルタでは、比較例に係るフィルタに比べてパティキュレートを一定の量捕集したときの圧力損失を低くすることができるため、再生までの期間をトータルで見たときの圧力損失が低いものであることがわかる。また、圧力損失が低いため、パティキュレートを多量に捕捉することが可能であるといえる。
【0186】
さらに、図15、図16に示すように、比較例28のフィルタに比べ、実施例2、13に係るフィルタでは、アッシュ重量に対して、アッシュ層の長さが短く、それによる圧力損失が小さいため、逆洗浄等を必要とするまでの期間も長くなる。
【0187】
また、実施例に係るフィルタでは、比較例に係るフィルタに比べて、再生限界値が大きいため、再生までに多量のパティキュレートを捕集することができ、再生までの時間を延長することができる。
【0188】
また、図18に示すように、図6(a)〜(d)に示した断面形状を有するフィルタでは、β(開口比率)が2.3〜2.4付近において、再生限界値が最も大きい。従って、実施例1〜44及び比較例1〜33で得られた結果を考慮すると、βは1.55〜2.75が好ましく、2.0〜2.54がより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明のフィルタは、初期の圧力損失を抑制することができ、パティキュレートが蓄積するに従って上昇する圧力損失の上昇率も低いため、パティキュレートを規定量捕集したときの圧力損失が低くなり、再生までの期間をトータルで見たときの圧力損失が低いものである。また、実際に、再生までの捕集量の最大値を表す再生限界値も、比較例に比べて大きくなっている。従って、再生まで、パティキュレートを多量に捕捉することが可能となり、再生までの期間を延長することができる。また、アッシュ重量に対して、アッシュ層の長さが短く、アッシュ層に起因する圧力損失も小さいため、逆洗浄等を必要とするまでの期間も長くなる。
【符号の説明】
【0190】
10、30 フィルタ
13、14 シール材層
15 セラミックブロック
20、40、50、70 多孔質セラミック部材
160、170、180、260、270、280 多孔質セラミック部材
21a、31a、41a、51a、71a 大容積貫通孔
161a、171a、181a、261a、271a、281a 大容積貫通孔
21b、31b、41b、51b、71b 小容積貫通孔
161b、171b、181b、261b、271b、281b 大容積貫通孔
22 封止材
23、43、53、73 隔壁
163、173、183、263、273、283 隔壁
33 壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設されたハニカム構造を有する柱状のフィルタであって、
前記貫通孔は、長手方向に垂直な断面の面積が相対的に大きい大容積貫通孔と、
前記断面の面積が相対的に小さい小容積貫通孔との実質的に同数である2種類の貫通孔からなり、
前記大容積貫通孔は、前記フィルタの一端部で封止される一方、
前記小容積貫通孔は、前記フィルタの他端部で封止され、
前記一の大容積貫通孔が隣り合う大容積貫通孔と共有する壁部を有することを特徴とするフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−224567(P2011−224567A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138916(P2011−138916)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【分割の表示】特願2004−571941(P2004−571941)の分割
【原出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】