説明

フィルムインサート成形品

【課題】外周曲げ部のような段差を設けずに、フィルムの端部の剥がれを防止する。
【解決手段】意匠面10Aにフィルム11が配置されたフィルムインサート成形品よりなる照明ユニットのカバー材10であり、フィルムの端部11Eの位置を意匠面の端部10Eの手前の位置に配置することで、意匠面の端部とフィルムの端部との間に、成形樹脂層の露出部よりなるフィルム端部保護域14を確保し、該フィルム端部保護域の表面14Aとフィルムの表面11Aとを面一に形成した。意匠面の端部10Eと成形樹脂層の端面12Cとの交わる角部12Dを鋭角に設定し、成形樹脂層の端面を天井トリムへの当接面とした。成形樹脂層12は透明樹脂で構成され、フィルム11は黒色系フィルムよりなり、成形樹脂層の裏面から成形樹脂層の端面までの範囲が、黒色系フィルムと同色系の皮膜層13で覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車内に意匠面を向けて装備される車両用天井照明装置のレンズ付きカバー材として有用なフィルムインサート成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂成形品の加飾技術の一つとして、フィルムインサート成形という方法が知られている。フィルムインサート成形とは、金型のキャビティ面に予めフォーミングした意匠面構成用のフィルムをセットし、その上で金型内に溶融樹脂を注入して固化させることにより、フィルムと成形樹脂とが一体化された成形品を得る方法である。この方法で作製された成形品は、例えば、自動車の車内装備として広く使用されている。
【0003】
図4は、その一例として挙げる、自動車の車室内天井部に装備される天井照明装置の下側から見た分解斜視図である。
同図において、符号20で示すものは天井トリム20であり、天井トリム20の開口21に、ランプユニット30とレンズ付きカバー材110とからなる天井照明装置が取り付けられている。ランプユニット30にはスイッチ36とランプ37が装備され、レンズ付きカバー材110には、スイッチ36に対応する位置に操作用開口部116、ランプ37に対応する位置にレンズ117が設けられている。この例では、レンズ付きカバー材110がフィルムインサート成形品で構成されており、その車室内側の面がフィルムの配置された意匠面110Aとなっている。
【0004】
この天井照明装置は、カバー材110とランプユニット30とで天井トリム20の開口21の周縁部を挟むことで、天井トリム20に取り付けられている。
【0005】
図5は、従来のカバー材110の周縁部と天井トリム20の開口21の周縁部との関係を示す拡大断面図である。
カバー材110は、成形樹脂層112の表面にフィルム111が配置されたフィルムインサート成形品で構成されており、フィルム111の表面が、カバー材110の意匠面110Aを構成している。
【0006】
この図5に示す従来例のカバー材110の場合、フィルム111の端部111Eが成形樹脂層112の端部112Eの位置まで延びている。そのため、フィルム111の端部111Eが剥がれやすいという問題がある。
【0007】
そこで、通常は、図6に示すように、フィルム111の端部111Eに、成形樹脂層112の端面112Dまでを覆うように外周曲げ部111Fを連設して、フィルム111の端部が剥がれないようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−168613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このように外周曲げ部111Fをフィルム111の端部111Eに追加して設けた場合、外周曲げ部111Fを確保するだけの寸法をカバー材110の端部の厚みとして設けておかなくてはならないので、天井トリム20にカバー材110の周縁部を押し付けた際に、カバー材110の意匠面110Aと天井トリム20のとの間に段差Hができやすくなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外周曲げ部のような段差を設けずに、フィルムの端部の剥がれを防止することのできるフィルムインサート成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明に係るフィルムインサート成形品は、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1) 金型のキャビティ面にフィルムをセットした上で金型内に溶融樹脂を注入して固化させることにより成形され、前記フィルムの裏面と成形樹脂層の表面とが一体に固着されると共に、成形品の意匠面に前記フィルムが配置されたフィルムインサート成形品において、
前記フィルムの端部の位置を前記意匠面の端部の手前の位置に配置することで、前記意匠面の端部と前記フィルムの端部との間に、前記成形樹脂層の露出部よりなるフィルム端部保護域を確保し、該フィルム端部保護域の表面と前記フィルムの表面とを面一に形成したこと。
(2) 上記(1)の構成のフィルムインサート成形品において、
前記意匠面の端部と前記成形樹脂層の端面との交わる角部を鋭角に設定し、前記成形樹脂層の端面を他の部材への当接面としたこと。
(3) 上記(2)の構成のフィルムインサート成形品において、
前記フィルムインサート成形品が照明ユニットの照光面側に配されるカバー材であり、前記成形樹脂層が透明樹脂で構成され、前記フィルムが黒色系フィルムよりなり、前記成形樹脂層の裏面から前記成形樹脂層の端面までの範囲が、前記黒色系フィルムと同色系の皮膜層で覆われていること。
【0012】
上記(1)の構成のフィルムインサート成形品によれば、フィルムの端部の外側に、成形樹脂層の露出部よりなるフィルム端部保護域を確保し、フィルム端部保護域の表面とフィルムの表面とを面一に形成したので、フィルムの端部の剥がれを防止することができる。また、フィルムの端部に外周曲げ部を設けなくてよいので、成形樹脂層の端部の厚みをできるだけ小さくすることができる。従って、成形樹脂層の端部を他の部材に押し付けた際の意匠面と他の部材の表面との間の段差を目立たない程度に小さくすることができる。
上記(2)の構成のフィルムインサート成形品によれば、意匠面の端部と成形樹脂層の端面との交わる角部を鋭角に設定したので、成形樹脂層の端面を他の部材に押し付けた際に、意匠面から他の部材の表面への変化を、段差のない角度の緩やかな変化とすることができ、できるだけ成形品の意匠面と他の部材の表面との境界を目立たなくすることができて、面一感を持たせることができる。
上記(3)の構成のフィルムインサート成形品によれば、成形樹脂層が透明樹脂で構成され、フィルムが黒色系フィルムよりなり、成形樹脂層の裏面から成形樹脂層の端面までの範囲が、黒色系フィルムと同色系の皮膜層で覆われているので、意匠面を特別に加工しないでも、フィルム端部保護域として露出した部分の成形樹脂層を表面側から見た際に極力目立ち難くすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィルムの端部の剥がれを防止することができる。また、フィルムの端部に外周曲げ部を設けなくてよくなるので、成形樹脂層の端部の厚みをできるだけ小さくすることができ、それにより、成形樹脂層の端部を他の部材に押し付けた際の意匠面と他の部材の表面との間の段差を目立たない程度に小さくすることができる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態のフィルムインサート成形品として示す車両用天井照明装置のカバー部材の構成図で、(a)は裏面側から見た斜視図、(b)は(a)のB−B矢視断面図である。
【図2】同カバー部材の表面側から見た斜視図およびその部分拡大図である。
【図3】同カバー部材の端部を天井トリムに押し付けた際の部分拡大断面図である。
【図4】従来の車両用天井照明装置の概略構成を示す分解斜視図である。
【図5】従来の車両用天井照明装置のカバー部材の端部を天井トリムに押し付けた際の部分拡大断面図である。
【図6】別の従来のカバー部材の端部を天井トリムに押し付けた際の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は実施形態のフィルムインサート成形品として示す車両用天井照明装置のカバー部材の構成図で、(a)は裏面側から見た斜視図、(b)は(a)のB−B矢視断面図、図2は同カバー材の表面側から見た斜視図およびその部分拡大図、図3は同カバー材の端部を天井トリムに押し付けた際の部分拡大断面図である。
【0017】
図1(a)に示すカバー材10は、図4に示したランプユニット30と組み合わせることで、天井トリム20に取り付けられる車両用天井照明装置(照明ユニット)を構成するものであり、車室内への照光面側に配される。このカバー材10は、天井トリム20を挟んでランプユニット30と連結されることで、その周縁部が、天井トリム20の開口21の周縁部の車室内側の面に押し付けられるものである。
【0018】
このカバー材10は、フィルムインサート成形品によって構成されている。即ち、図1(b)に示すように、金型のキャビティ面にフィルム11をセットした上で金型内に溶融樹脂を注入して固化させることにより成形されており、フィルム11の裏面11Bと成形樹脂層12の表面12Aとが一体に固着されると共に、成形品の意匠面10Aにフィルム11が配置されている。
【0019】
この場合、意匠面10Aに配されたフィルム11はPET製の黒色系の遮光フィルムよりなり、成形樹脂層12は透明樹脂により構成されている。また、成形樹脂層12の裏面12Bには、黒色系塗装による遮光性皮膜層13が設けられている。
【0020】
また、図1(b)及び図2に示すように、フィルム11の端部11Eの位置が、意匠面10Aの端部10Eの手前の位置に配置されていることで、意匠面10Aの端部10Eとフィルム11の端部11Eとの間に、成形樹脂層12の露出部よりなるフィルム端部保護域14が確保されている。そして、フィルム端部保護域14の表面14Aとフィルム11の表面11Aとが面一に形成されている。
【0021】
また、意匠面10Aの端部10Eと成形樹脂層12の端面12Cとの交わる角部12Dが鋭角に設定されており、成形樹脂層12の端面12Cが天井トリム20(他の部材)への当接面とされている。また、成形樹脂層12の裏面12Bから成形樹脂層12の端面12Cまでの範囲が、黒色系のフィルム11と同系色塗装による遮光性皮膜層13で覆われている。
【0022】
以上の構成のカバー材10(フィルムインサート成形品)によれば、フィルム11の端部11Eの外側に、成形樹脂層12の露出部よりなるフィルム端部保護域14を確保し、フィルム端部保護域14の表面14Aとフィルム11の表面11Aとを面一に形成しているので、フィルム11の端部11Eの剥がれを防止することができる。また、フィルム11の端部11Eに、剥がれ防止のために、図6に示した従来例のような外周曲げ部を設けなくてよいので、成形樹脂層12の端部の厚みをできるだけ小さくすることができる。従って、図3に示すように、成形樹脂層12の端部12Eを天井トリム20に押し付けた際の、意匠面10Aと天井トリム20の表面との間の段差を目立たない程度に小さくすることができる。
【0023】
特に、意匠面10Aの端部10Eと成形樹脂層12の端面12Cとの交わる角部12Dを鋭角に設定したので、成形樹脂層12の端面12Cを天井トリム20に押し付けた際に、意匠面10Aから天井トリム20の表面への変化を、段差のない角度の緩やかな変化とすることができ、できるだけカバー材10の表面と天井トリム20の表面との境界を目立たなくすることができて、面一感を持たせることができる。
【0024】
また、成形樹脂層12が透明樹脂で構成され、フィルム11が黒色系フィルムよりなり、成形樹脂層12の裏面12Bから成形樹脂層12の端面12Cまでの範囲が、黒色系のフィルム11と同色系の皮膜層13で覆われているので、意匠面10Aを特別に加工しないでも、フィルム端部保護域14として露出した部分の成形樹脂層12を表面側(図2に示す方向)から見た際に極力目立ち難くすることができる。
【0025】
また、フィルム11と遮光性皮膜層13は、ランプの照明光を透過させない性質を持つため、遮光性皮膜層13の形成範囲とフィルム11の形状の組み合わせにより、照明光の透過部を自由なデザインで作製することができる。
【0026】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。例えば、カバー材10には、意匠面10Aの端部10Eと成形樹脂層12の端面12Cとの交わる角部12Dが鋭角である箇所と鈍角である箇所が混在する場合がある。この場合には、その鋭角である箇所には本発明を適用し、その鈍角である箇所には、図6を参照して説明した従来技術のように外周曲げ部111Fを連設するようにして、それぞれの技術を組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
10 カバー材(フィルムインサート成形品)
10A 意匠面
10E 意匠面の端部
11 フィルム
11A 表面
11B 裏面
11E 端部
12 成形樹脂層
12A 表面
12B 裏面
12C 端面
12D 角部
12E 端部
13 遮光性皮膜層
14 フィルム端部保護域
14A 表面
20 天井トリム(他の部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティ面にフィルムをセットした上で金型内に溶融樹脂を注入して固化させることにより成形され、前記フィルムの裏面と成形樹脂層の表面とが一体に固着されると共に、成形品の意匠面に前記フィルムが配置されたフィルムインサート成形品において、
前記フィルムの端部の位置を前記意匠面の端部の手前の位置に配置することで、前記意匠面の端部と前記フィルムの端部との間に、前記成形樹脂層の露出部よりなるフィルム端部保護域を確保し、該フィルム端部保護域の表面と前記フィルムの表面とを面一に形成したことを特徴とするフィルムインサート成形品。
【請求項2】
前記意匠面の端部と前記成形樹脂層の端面との交わる角部を鋭角に設定し、前記成形樹脂層の端面を他の部材への当接面としたことを特徴とする請求項1に記載のフィルムインサート成形品。
【請求項3】
前記フィルムインサート成形品が照明ユニットの照光面側に配されるカバー材であり、前記成形樹脂層が透明樹脂で構成され、前記フィルムが黒色系フィルムよりなり、前記成形樹脂層の裏面から前記成形樹脂層の端面までの範囲が、前記黒色系フィルムと同色系の皮膜層で覆われていることを特徴とする請求項2に記載のフィルムインサート成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45898(P2012−45898A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192423(P2010−192423)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(591178517)株式会社三和スクリーン銘板 (19)
【Fターム(参考)】