説明

フィルムカット装置

【課題】 フィルムを挟んで対峙する位置にカッター機構と加温機構を設け、多様な構成のフィルムを低塵埃でカットするフィルムカット技術を提供する。
【解決手段】
搬送方向と直交する幅方向にフィルムをカットするフィルムカット装置であって、フィルムを挟んで一方の側からヒータが内蔵された加温ブロックによって該フィルムを加温する加温機構と、該加温機構と対峙する他側から回転刃の移動によって前記フィルムのカットを行うカッター機構と、を備え、フィルムの特性にしたがって加温機構とカッター機構の配置が反転可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムカット技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムカットの方法としては、押切り刃を有するパンチをフィルムの反対側に対峙するダイに押し込んでカットするプレス切断法が一般に行われている。しかし、本方法では、フィルム部材が柔軟であることからせん断作用でパンチとダイの隙間に引き込まれやすく、かつ、パンチが所定位置に引き上げられたときに、切断面周囲に線状のバリが多数発生する傾向にある。これらのバリは、粉砕されて飛散し、結果的にフィルム表裏面に静電吸着によって付着異物を形成する。また、フィルム部材は、多種のものが存在し、特性も異なるため、上述したような従来のフィルムカット方法では、低塵埃への対応が難しい。
【0003】
こうした問題に対し、フィルムを予め設定された温度に加熱し軟化させて低塵埃化するカット技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−334715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、フィルムは、光学フィルムなど特性の異なる複数の部材を重ね合わせて一体化する多層化が行われている。前述したように、フィルムがこれら特性の異なる複数の部材からなる多層構造フィルムである場合、上記特許文献1の技術では、カット対象のフィルムの表裏関係が確実に決まったものにしか適用できない。
【0006】
例えば、表面側が有効面(一例:光学パターン面)である場合、その有効面を傷つけないためには、常に一定方向に設定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の一つの態様は、搬送方向と直交する幅方向にフィルムをカットするフィルムカット装置であって、前記フィルムを挟んで一方の側からヒータが内蔵された加温ブロックによって該フィルムを加温する加温機構と、該加温機構と対峙する他側から回転刃の移動によって前記フィルムのカットを行うカッター機構と、を備え、前記フィルムを挟んだ前記各機構の位置関係を前記フィルムの特性に応じて反転可能としたことを特徴とするフィルムカット装置に関する。
【0008】
また、発明の別な態様では、搬送方向と直交する幅方向にフィルムをカットするフィルムカット装置であって、前記フィルムを挟んで一方の側からヒータが内蔵された加温ブロックによって該フィルムを加温する加温機構と該加温機構と対峙する他側から回転刃の移動によって前記フィルムのカットを行うカッター機構を備えた第一の加温/カット機構部と、前記第一の加温/カット機構部とは異なるフィルム位置に設置され、前記加温機構と前記カッター機構の配置が反転して構成された第二の加温/カット機構部とを有することを特徴とするフィルムカット装置に関する。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明によれば、バリ発生が抑止され、カット性能の改善が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態になるフィルムカット装置の一基本構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態になるフィルムカット装置の構成例(斜視図)を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態になるフィルムカット装置の機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態になるフィルム材料選択テーブルの構成例である。
【図5】本発明の実施の形態になる加工条件設定を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態になるフィルムカット装置におけるカット手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態につき、図面に基づいて説明する。以下の実施例では、フィルムを挟んで対峙する位置にカッター機構と加温機構をセットとして、そのカッター機構と加温機構の配置を互いに反転させた機構を2セット配置し、多様な構成のフィルムの特性に応じて選択可能に構成した例で示している。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態になるフィルムカット装置の一基本構成を示す。
【0013】
フィルムカット装置は、フィルム5を挟んで一方の側(本例では、上面側)からヒータが内蔵されたヒータ内蔵ブロック203a、温度を検出して加熱を制御するサーミスタ204a、および受け刃201a(超鋼刃)を備えた加温ブロック202a(アルミニュウムなどの高熱伝導性部材を適用)をフィルム5に押し付けて加温する加温機構aと、該加温機構aとフィルム5を介して相対峙する他側(下面側)から回転刃101a(微粒子超鋼部材)の移動によって前記フィルム5のカットを行うカッター機構aを備えた第一の加温/カット機構部a(上面加温機構/下面カッター機構)を有する。
【0014】
さらに、第一の加温/カット機構部aとは異なるフィルム5の位置に設置され、加温機構bとカッター機構bの配置が、第一の加温/カット機構部aと逆転して構成された第二の加温/カット機構部b(下面加温機構/上面カッター機構)を有する。
【0015】
なお、51、52は、フィルム5を固定して、ロールから巻き出して一定方向に搬送するフィルムガイドを示している。また、回転刃101a、bは、ベアリング内蔵の回転機構102a、bによる回転を受けながら、フィルム5をスライドレール104a、bに沿って移動し、幅方向にカットする構造となっている。
【0016】
図2は、本発明の実施の形態になるフィルムカット装置の構成例(斜視図)を示す。本図は、加温/カット機構部の構造について、図1の断面図を斜視図として表現したものである。
【0017】
本発明のフィルムカット装置は、多様な構成のフィルム5に対応するため、2組の加温/カット機構部を備えている。切断開始位置には、2つの回転機構102a、bに取り付けられた回転刃101a、bを搭載したキャリヤー103a、bが待機し、フィルム5の特性にしたがって、加温/カット機構部aまたは加温/カット機構部bが選定されて稼動する。なお、図右側の点線部は、切断完了の退避位置を示している。本図面では、紙面手前から奥へカットしているが、カット方向に制約があることは無く、その反対でも同様な効果はある。
【0018】
以下に、フィルム5の上面を加熱する場合について説明する。
【0019】
まず、ヒータ内蔵ブロック203aを備えた加温ブロック202aが、フィルム5に押し付けられ、所定の温度となるまでフィルム5を加熱する。所定の温度になったときに、待機しているキャリヤー103aがスライドレール104aにしたがって、幅方向に移動し、回転する回転刃101aによってフィルム5を切断して行く。
【0020】
本実施例のごとく、フィルム5を加温状態に保ちつつ、カット処理することによって、切断時に生じるバリは、切断面両者ともに軟化溶融して母材に引き込まれ、低塵埃カットが実現される。なお、回転刃101aは、片刃であることがバリ発生防止にはより好適に作用する。
【0021】
図3は、本発明の実施の形態になるフィルムカット装置の機能ブロック図である。
【0022】
フィルムカット装置は、フィルム5の加工条件を設定する条件入力部1、フイルム5上面を加温する加温機構部22とフイルム5下面から幅方向にカットするカッター機構部21とをフィルム5を挟んで対峙する位置に配置させた第一の加温/カッター機構部2、第一の加温/カッター機構部2とは逆の構成で、カッター機構部31を上面に、加温機構部32を下面に備えた第二の加温/カッター機構部3、および所定量のフィルム5をロールから巻き出し、カット後のフィルム5を搬送するフィルム搬送部4を有する。
【0023】
なお、フィルムカット装置は、図示していないが、CPU(Central Processing Unit )及びメモリを有するコンピュータであり、さらに、ディスプレイによる表示手段、およびキーボードやタッチパネルなどの入出力手段を備えている。
【0024】
条件入力部1では、フィルム5の軟化温度及び硬度データが予め格納された材料選択テーブル11(図4に後述)を装置の画面に表示し、該画面にて選択したフィルム5の特性に応じて、フィルム5を加温しカットするための加工条件が設定される加工条件テーブルを備えている。
【0025】
材料選択テーブル11/加工条件テーブル12には、本装置でフィルムカットを行うフィルム材料について特性が記述されている。その内容は、図4に後述する。また、フィルム搬送部4は、ロールから所定量のフィルム5を送り出し、カット/搬出/搬送を順次行って、次工程へと引き継ぐ機構部である。
【0026】
さらに、カッター機構部では、フィルム5を挟み込んで上下に配置させた加温機構部/カッター機構部を一対とした、互いに逆の配置構成となる2組のユニットを、異なるフィルム位置に設置することによって、多様なフィルムのカッティングを可能としている。
【0027】
図4は、本発明の実施の形態になるフィルムの材料選択テーブルの構成例を示す。
【0028】
材料選択テーブル11は、「項番」、「一般光学プラスチック名」、「硬度」、「加温温度」、および「性質/適応品」の項目からなる複数のレコードで構成されている。
【0029】
なお、硬度は、Rockwell硬さが適用され、A>B> ・・・>M>・・・の順で配列され、本例では、2項が非常に硬い材質となっている。
【0030】
本発明では、表面層の材料の軟化温度が高い、または表面硬度が高いという条件を前提として設定している。
【0031】
図4に示す内容の中で、表面硬度がカット条件のパラメータ設定値となっていて、フィルム部材の軟化温度よりも硬度が有効な条件としている。一例として、4項については、表面側がアクリル樹脂系合成樹脂層、裏面側がポリカーボネイト層で構成され、軟化温度で見れば、加温条件は軟化温度の高いポリカーボネイト層からとなるが、表面硬度が優先的な条件となるため、アクリル樹脂系合成樹脂層側から加温して、ポリカーボネイト層からカッターを進行させてカットを実施する。
【0032】
また、異なる複数の部材で構成する多層構造フィルムで、表裏面の硬度にほとんど差が無い場合には、軟化温度が優先され、軟化温度の高い面から加温する。
【0033】
さらに、加温温度は、多層構造フィルムにおいて、軟化温度の低いフィルム部材の軟化温度近傍の温度でカットする。
【0034】
以上のように、このように、加温/カット機構選択は、フィルム部材の構造によって、どちら側を加温するかの加温/カットの表裏の方向が決定される。
【0035】
図5は、本発明の実施の形態になる加工条件設定を説明する図である。
【0036】
実施例では、図4のフィルム材料の選択を受けて、フィルム5を加温しカットするための加工条件を設定するステップを示している。図に示すように、加工条件テーブル12では、加工条件1〜4に対応して、加温温度T1〜T4及び加温時間t1〜t4が定義されている。そして、加工条件1の選択によって、加温温度T1及び加温時間t1による上面側からの加温機構が決定され、加工条件3の選択によって、加温温度T3及び加温時間t3による下面側からの加温機構が決定されることとなる。
【0037】
図6は、本発明の実施の形態になるフィルムカット装置におけるカット手順を示すフローである。本実施例では、表面層の材料が、軟化温度が高い、または表面硬度が高いという条件に設定されたことを前提としている。
【0038】
まず、ステップS11において、装置に表示された図4の材料選択テーブル11から対象とするフィルム5を選択し、ステップS12において、加工条件テーブルから選択されたフィルム基材に適合する加工条件を設定する。
【0039】
その結果を受けて、加温/カット機構部は、ステップS13において、加温は上面側か下面かを決定する。以下では、上面側からの加温が決定された場合(下面側でもよい)について説明する。
【0040】
ステップS14において、加温温度を指示することで、温度検知系(サーミスタ)を用いて温度制御が開始される。ステップS15において、加温ブロック202aの温度T0がサーミスタ204aによって検知される。
【0041】
そして、ステップS16において、検出された加温ブロック202aの温度T0と設定温度T1との比較を行い、未だ設定温度T1に達していなければ(T1>T0)、ステップS17において、内蔵ヒータをONとし、ステップS15以降の処理を繰り返す。
【0042】
設定温度T1に達したら(T1<=T0)、ステップS18において、フィルム搬送部4でフィルム送りが行われ、加温/カッター機構部へと送り出される。図3において、フィルム搬送方向は、左から右側へ搬送されることとする。
【0043】
所定位置までフィルム搬送が行われ、ステップS19において、エアーシリンダ駆動などによる昇降機構(図示せず)が、ヒーター内蔵ブロック203a及び温度検知系(サーミスタ204a)を備えた加温ブロック202aが、フィルム5上に下降して、対向するフィルムガイド51の面に押し当てて、設定された加温時間t1までフィルム5を加温する。
【0044】
そして、ステップS20において、加温時間t0が計測され、ステップS21において、設定された加温時間t1との比較を行い、ステップS22において、t1経過まで固定/加温を継続する。
【0045】
時間t1が経過したら、ステップS23において、リング形状の回転刃101aと対向する加温ブロック202aに設置された受け刃201aの溝に、他方の面からカッターの回転刃101aの先が入り込み、手前から奥へと移動して、加温された部位を横断し、フィルム5をカットする。
【0046】
この受け刃201aは、フィルム幅と同等かそれ以上の長さとしており、直線状の刃を有するものであって、フィルム5の加温領域を限定する働きと、リング形状のカッターの下刃と上刃の関係でシャーカットが実現される。この方法で加温して、リング形状のカッターで切断した時に、生じるバリは軟化溶融して母材へと引き込まれ、カット終了までバリを引き摺らない効果を生じ、低塵埃カットが可能となる。
【0047】
フィルム幅方向のENDセンサ(図にない)が検知するまで、カット動作を継続し(ステップS24、S25)、終端が検知されたら、ステップS26において、カット動作を終了する。終了後は、ステップS27において、加温ブロック202aを上昇させて退避領域に退避させ、ステップS28において、フィルム搬送部で所定位置まで搬送し、次工程へと引き継ぐ。その後、カット機構は、奥側から手前に移動し、次のカットに備える(ステップS29)。その後は、ステップS15に戻り、同一の作業を継続する。
【0048】
なお、本実施例では、上面を加温することとして説明したが、下面についても同様な動作となり、加温ブロック202bが上昇して加温、下降して退避となることのみの違いであって、カット性能などに差異はない。
【0049】
また、本発明では、リング形状カッターは両刃でも問題ないが、片刃の方が、切断部のフィルム形状に与える影響が小さくなり、低塵埃のカットに好適である。
【0050】
以上、本発明は、光学プラスチックなどのフィルム材料の特性を有効に利用したフィルムカットで、基材の特有の条件で表裏面のどちらか一方の面を加熱軟化する手段を備え、軟化温度近傍まで加温し、基材の幅方向に回転/移動可能なカッター機構で切断を行う構成としている。
【0051】
本発明によれば、フィルムは分離されやすく、カット面の軟化部材の冷却効果が得られ、従来から見られた繊維状のバリ発生が抑止、未脱落で切断面に残存するヒゲ状突起異物も、加温の効果で軟化されつつ基材に引き戻される傾向があって、カット性能の改善が図れる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、フィルム部材を用い、長尺フィルムから所定の大きさにカットする工程で、切断面のバリなどを低減する低塵埃カット技術に関わる。
【符号の説明】
【0053】
1 条件入力部
2、3 加温/カッター機構部
4 フィルム搬送部
5 フィルム
11 材料選択テーブル
12 加工条件テーブル
21、31 カッター機構部
22、32 加温機構部
51,52 フィルムガイド
101a、b 回転刃
102a、b 回転機構(ベアリング内蔵)
103a、b キャリヤー
104a、b スライドレール
201a、b 受け刃
202a、b 加温ブロック
203a、b ヒータ内蔵ブロック
204a、b サーミスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向にフィルムをカットするフィルムカット装置であって、
前記フィルムを挟んで一方の側からヒータが内蔵された加温ブロックによって該フィルムを加温する加温機構と、
該加温機構と対峙する他側から回転刃の移動によって前記フィルムのカットを行うカッター機構と、を備え、
前記フィルムを挟んだ前記各機構の位置関係を前記フィルムの特性に応じて反転可能としたことを特徴とするフィルムカット装置。
【請求項2】
幅方向にフィルムをカットするフィルムカット装置であって、
前記フィルムを挟んで一方の面側からヒータが内蔵された加温ブロックによって該フィルムを加温する加温機構と該加温機構に対峙する他の面側から回転刃の移動によって前記フィルムのカットを行うカッター機構を備えた第一の加温/カッター機構部と、
前記第一の加温/カッター機構部とは異なるフィルム位置に設置され、前記加温機構と前記カッター機構の配置が反転して構成された第二の加温/カッター機構部と、
を有することを特徴とするフィルムカット装置。
【請求項3】
前記フィルムカット装置は、前記フィルムの軟化温度及び硬度データが予め格納された材料選択テーブルを画面に表示し、該画面にて選択したフィルムの特性に応じて、前記フィルムの加温及びカットを行う加工条件を設定する入力手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のフィルムカット装置。
【請求項4】
前記フィルムは、複数の部材からなる多層構造フィルムであり、該多層構造フィルムにおいて、表面硬度の高い面側が加温され、他方の面側からカットされることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフィルムカット装置。
【請求項5】
前記多層構造フィルムは、その表裏面の硬度がほぼ同一であって軟化温度が異なる場合、該軟化温度の高い面側が加温されることを特徴とする請求項4に記載のフィルムカット装置。
【請求項6】
前記多層構造フィルムをカットする際の加温温度は、軟化温度の低い方の部材の該軟化温度近傍の温度に設定されることを特徴とする請求項4または5に記載のフィルムカット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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