説明

フィルムロールの加熱装置

【課題】フィルムロール全体を短時間で均一加熱乾燥させることで、エージング時間全体の短縮を図り、製品フィルムロールの中にも乾燥じわを発生させず、フィルム間の接着性も遥かに向上する品質の安定したフィルム製品を得ること。
【解決手段】
内面にマイクロ波の反射板を備え、積層接着したフィルムをロール状に巻いたフィルムロール1をマイクロ波により加熱する加熱庫10と、この加熱庫10外に設置され、マイクロ波を発振して加熱庫10にマイクロ波を照射するマイクロ波発振器11と、加熱庫10の床部に設置され、フィルムロール1を載置して加熱庫10の床部上で回転及び/又は移動するテーブル(12,13)とを備えたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層接着(ラミネート)したフィルムをロール状に巻いたフィルムロールのエージング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムロールの加熱乾燥には、従来から図5に示すような乾燥装置が用いられている。すなわち、フィルムロール1は、エージングルーム2に収容静置され、床下から温風装置3により加熱される。そして、エージングルーム2内の室温が40℃に維持された状態下で、ゆっくりと時間をかけてロール内部温度が40℃になった後、フィルムロール1をエージングルーム2内で室温40℃に保ったまま、一定時間のエージングを行っている。
【先行技術文献】
【0003】
【特許文献】
【特許文献】特開2003−283114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来装置では、ロール内部温度を40℃にまで上げるための初期加熱には、図6に示す試験データに示すように、ロールの巻き深さ15cmのところでの熱電対4を用いた温度測定では、24時間以上を要してしまい、その後一定時間を費やしてエージングを行うため、初期加熱からエージングまでの所要時間が長くかかってしまう。また、初期加熱時間が長く、加熱時間の経過も緩やかなため、製品となるロール中に乾燥じわが生じたり、フィルム間の接着力が弱まることもあり、安定した品質のフィルム製品にならないことがあった。
【0005】
本発明は、初期加熱を短時間にしてエージング時間全体の短縮を図ることで、製品フィルムロール中に生じることのある乾燥じわを抑制し、フィルム間の接着力をも向上させて、品質の安定したフィルム製品を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の第一のものは、内面にマイクロ波の反射板を備え、積層接着したフィルムをロール状に巻いたフィルムロールをマイクロ波により加熱する加熱庫と該加熱庫外に設置され、前記マイクロ波を発振して前記加熱庫にマイクロ波を照射するマイクロ波発振器と、前記加熱庫床部に設置され、前記フィルムロールを載置して前記加熱庫床部上で回転及び/又は移動するテーブルとを備えたことを特徴とするフィルムロールの加熱装置である。
【0007】
また、第二のものは、内面にマイクロ波の反射板を備え、積層接着したフィルムをロール状に巻いたフィルムロールをマイクロ波により加熱する加熱庫と、該加熱庫外に設置され、前記マイクロ波を発振して前記加熱庫にマイクロ波を照射するマイクロ波発振器と、前記加熱庫天井に設置され、前記マイクロ波を撹拌するスタラーファンとを備えたことを特徴とするフィルムロールの加熱装置である。
【0008】
さらに、第三のものは、内面にマイクロ波の反射板を備え、積層接着したフィルムをロール状に巻いたフィルムロールをマイクロ波により加熱する加熱庫と、該加熱庫外に設置され、前記マイクロ波を発振して前記加熱庫にマイクロ波を照射するマイクロ波発振器と、前記フィルムロールを載置して前記加熱庫床部上で回転及び/又は移動するテーブルと、前記加熱庫天井に設置され、前記マイクロ波を撹拌するスタラーファンとを備えたことを特徴とするフィルムロールの加熱装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第一及び第二の装置によると、初期加熱時間6分〜10分程度という短時間で一気にロール内部温度を40℃にまで上げられるので、エージング時間全体の短縮を図ることができ、その結果、製品フィルムロール中には乾燥じわがなく、フィルム間の接着力も向上して、品質の安定したフィルム製品を得ることができる。また、フィルムロールを載置するテーブルが回転及び/又は移動することにより、あるいはスタラーファンがマイクロ波を撹拌するので、マイクロ波の照射ムラが極めて少なくなりロールへのほぼ均一な加熱が可能となる。
【0010】
さらに本発明の第三の装置によると、テーブルとスタラーファンの両方を作動させ、フィルムロールを載置するテーブルが回転及び/又は移動しながら、スタラーファンの方ではマイクロ波を撹拌するので、マイクロ波の照射ムラを防ぎ、ロールへの完全な均一加熱が可能となる。これにより、第一及び第二の装置と同等以上の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】 本発明によるフィルムロールの加熱装置の第一の実施例を示す概略斜視図である。
【図2】 図1の装置を用いたフィルムロールの加熱温度と加熱経過時間の関係を示す試験データである。
【図3】 本発明によるフィルムロールの加熱装置の第二の実施例を示す周辺機器を省略した概略斜視図である。
【図4】 本発明によるフィルムロールの加熱装置の第三の実施例を示す周辺機器を省略した概略斜視図である。
【図5】 従来のフィルムロールを加熱乾燥するエージングルームの概略断面図である。
【図6】 従来のエージングルームによるフィルムロールの加熱温度と加熱経過時間の関係を示す試験データである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0012】
以下に、本発明によるフィルムロールの加熱装置の実施例を図面に基づき説明する。
【実施例1】
図1及び図2には、本発明によるフィルムロールの加熱装置の第一の実施例が示されている。フィルムロール1は、積層接着(ラミネート)したフィルムをロール状に巻いたものである。加熱庫10は、このフィルムロール1を収納して加熱し、その中心温度を40℃にまで上げるもので、筐体状に形成され、すべての内面(側壁面,床面,天井面)にはマイクロ波を反射させるために金属製の反射板(図示省略。)が設けられている。このような加熱庫10には、図示はしないが、例えば、フィルムロール1の搬入・搬出口や換気装置が設けられ、温度計などの測定装置も取り付けられている。
【0013】
そして、加熱庫10にマイクロ波を照射し、庫内のフィルムロール1を加熱させるため、加熱庫10外にはマイクロ波発振器11が設置されている。マイクロ波発振器11の周波数fは一般には2450MHzとされている。このマイクロ波発振器11は、本実施例では1機が示されているが、加熱庫10の処理規模によっては複数機設置することもできる。
【0014】
加熱庫10の床上には、フィルムロール1を載置して回転する回転テーブル12や移動テーブル13が設置されている。これら回転テーブル12,移動テーブル13はマイクロ波をフィルムロール1全体にもれなく照射させるためのものであるため、回転テーブル12と移動テーブル13を格別に設置することも可能であるが、マイクロ波の照射ムラを最小限に抑えるためには回転テーブル12と移動テーブル13を一体にして設置し、同時に作動させるのが好ましい。
【0015】
マイクロ波発振器11には、マイクロ波の照射時間やそのパワー等マイクロ波発振に必要な諸動作を制御するコントローラー14が接続されている。また、このコントローラー14を加熱庫10側にも接続することで、回転テーブル12や移動テーブル13の作動・停止、加熱庫10の室温調整や室温測定あるいは換気装置(図示せず。)の作動・停止等をもコントロールすることができる。
【0016】
本装置を用いたフィルムロール1の加熱とその中心温度の測定は、次のように行われる。フィルムロール1を回転テーブル12(移動テーブル13)に静置し、フィルムロール1の一カ所にファイバーセンサー15を巻き深さ15cmのところまで刺し込み、配線を加熱庫10外に出した状態で加熱庫10を密閉する。
【0017】
この状態でコントローラー14によりマイクロ発振器11を作動させると、加熱庫10内にはマイクロ波が発生して、それが直接あるいは反射板を介して間接にフィルムロール1の全体に照射されて加熱される。そのとき回転テーブル12(移動テーブル13)が作動しているため、マイクロ波はフィルムロール1の全体に万遍なく照射される。そして、わずか6分〜10分ほどもすれば、ファイバーセンサー15がフィルムロール1の巻き深さ15cmのところの温度40℃を検知する(図2のデータ参照。)。この温度検知によりマイクロ波発振器11の作動は停止される。あとはしばらくの時間(1時間以上)フィルムロール1は40℃に保たれたままなので、加熱の終わったフィルムロール1は、別の室温40℃に設定されたエージング室に運ばれ、乾燥されるまでの一定時間そこに置かれることとなる。なお、エージングの終わった製品フィルムロールを製品フィルムとして引き出し加工したところ、製品フィルムロールの全体でも乾燥じわは確認されなかった。また、フィルム間の接着性も従来製品に比べて遥かに向上していた。
【実施例2】
【0018】
図3には、本発明によるフィルムロールの加熱装置の第二の実施例が示されている。この実施例が第一の実施例と異なるところは、マイクロ波の照射ムラを抑える機器を回転テーブル12(移動テーブル13)からスタラーファン15に代えたところにある。このスタラーファン15は加熱庫10の天井部に設置されるもので、ファンの首ふり回転で直接あるいは間接にフィルムロール1に照射されるマイクロ波を撹拌する働きをする。この実施例においても第二の実施例と同様の効果を奏するものである。なお、本装置の周辺機器は第一の実施例に準じるので、図示は省略する。
【実施例3】
【0019】
図4には、本発明によるフィルムロールの加熱装置の第三の実施例が示されている。この実施例は、第一及び第二の実施例を合わせたもので、加熱庫11の床面には回転テーブル12(移動テーブル13)が、その天井部にはスタラーファン15が設置されている併用型である。この実施例によると、直接あるいは間接照射されるマイクロ波をスタラーファン15が撹拌するとともに、動く回転テーブル12(移動テーブル13)がマイクロ波の照射ムラを防ぐことになるので、フィルムロール1への完全かつ均一な加熱が可能となる。この実施例においては、第一及び第二の実施例と同等以上の効果を奏するものである。なお、周辺機器についても第一及び第二の実施例に準じる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明装置は、短時間での加熱乾燥を必要とする大型の工業製品への適用を期待することができる。
【符号の説明】
【0021】
1 フィルムロール
10 加熱庫
11 マイクロ波発振器
12 回転テーブル
13 移動テーブル
14 コントローラー
15 ファイバーセンサー
16 スタラーファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面にマイクロ波の反射板を備え、積層接着したフィルムをロール状に巻いたフィルムロールをマイクロ波により加熱する加熱庫と、該加熱庫外に設置され、前記マイクロ波を発振して前記加熱庫にマイクロ波を照射するマイクロ波発振器と、前記加熱庫床部に設置され、前記フィルムロールを載置して前記加熱庫床部上で回転及び/又は移動するテーブルとを備えたことを特徴とするフィルムロールの加熱装置。
【請求項2】
内面にマイクロ波の反射板を備え、積層接着したフィルムをロール状に巻いたフィルムロールをマイクロ波により加熱する加熱庫と、該加熱庫外に設置され、前記マイクロ波を発振して前記加熱庫にマイクロ波を照射するマイクロ波発振器と、前記加熱庫天井に設置され、前記マイクロ波を撹拌するスタラーファンとを備えたことを特徴とするフィルムロールの加熱装置。
【請求項3】
内面にマイクロ波の反射板を備え、積層接着したフィルムをロール状に巻いたフィルムロールをマイクロ波により加熱する加熱庫と、該加熱庫外に設置され、前記マイクロ波を発振して前記加熱庫にマイクロ波を照射するマイクロ波発振器と、前記フィルムロールを載置して前記加熱庫床部上で回転及び/又は移動するテーブルと、前記加熱庫天井に設置され、前記マイクロ波を撹拌するスタラーファンとを備えたことを特徴とするフィルムロールの加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214000(P2012−214000A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93473(P2011−93473)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(598079592)株式会社ダイトー (3)
【Fターム(参考)】