説明

フェニルアルカン酸誘導体を含有する医薬

【課題】多発性硬化症の予防及び/又は治療に有効な医薬を提供する。
【解決手段】 3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を有効成分として含む多発性硬化症の予防及び/又は治療のための医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症の予防及び/又は治療のための新規な医薬、並びに動脈硬化症の予防及び/又は治療のための新規な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症としては、脳および脊髄の病理学的変化である播種性脱髄斑を特徴とする遅進性の疾患が挙げられる。この疾患は、症状として多発性で様々な神経症状を発現し、経過として寛解と再燃を伴うことが多い疾患である。多発性硬化症の経過は非常に多様であり、次の3種類の病型:(1)再発寛解型、(2)二次性進行型、及び(3)一次性進行型に分類して診断される。
【0003】
多発性硬化症の二次性進行型又は一次性進行型の急性増悪に対して、急性期短期療法として経口又は点滴でのコルチコステロイド製剤がパルス療法として投与されている。多発性硬化症に対する長期的な再発予防進行抑制治療として、再発寛解型にはインターフェロンβ1b製剤が単独で、又はグラチラマー・アセテート製剤との組み合わせで投与されており、二次性進行型にはインターフェロンβ1b製剤が治療剤として投与されている(非特許文献1)。
【0004】
上述の非特許文献1に記載されているコルチコステロイド剤は、投与量を増減することにより、多発性硬化症の二次性進行型又は一次性進行型の急性増悪に対して短期的に病態回復を促進する効果があることが確認されている。しかしながら、コルチコステロイド剤自体は多発性硬化症の症状を完全に消失させる程度には有効ではない。コルチコステロイド剤を投与した患者にうつ病、精神病、胃痛、嘔吐、頭痛、消化性潰瘍、糖尿病、又は高血圧などの症状が発現して投与中止に到る場合もあることから、コルチコステロイドの投与量を増加することも一般的には難しく、その結果、十分な病態回復促進効果を達成できないという問題がある。
【0005】
また、上述の非特許文献1に記載されているインターフェロンβ1b製剤を用いた単独療法、又はインターフェロンβ1a製剤とグラチラマー・アセテート製剤との併用療法は、投与量を増減することにより多発性硬化症の再発寛解型又は二次進行型の病型に対して年間再発率を低下させ、又は症状の悪化を遅延させるとともに、再発までの期間を延長させる効果を発揮する。しかしながら、その効果は不十分であり、再発を完全に防止できず、症状の悪化も完全には阻止できないという問題がある。また、インターフェロンβ1b製剤やインターフェロンβ1a製剤を投与した患者に発熱、倦怠、注射部位皮膚壊死、白血球減少症、好中球減少症、又は肝機能障害などの症状が発現して投与中止に至る場合もある。患者の体内でインターフェロンβ1a又はインターフェロンβ1bに対する抗体が形成されることによってこれらの製剤の効果が減弱し、ショック症状が惹き起こされることもあり、グラチラマー・アセテート製剤を投与した患者では、注射部位の痛みや硬化が副作用として生じることもある(非特許文献1)。
【0006】
一方、動脈硬化症は動脈壁が肥厚し弾力性を失う複数の疾患の総称であり、粥状硬化と非粥状硬化に分類される。粥状動脈硬化症は冠状動脈疾患などの血管疾患の中でも最も頻度の高い重大なものである。粥状動脈硬化症の主要な危険因子は脂質異常症であり、脂質異常症の治療が粥状動脈硬化症の予防的、進展抑制的及び/又は改善的治療となることが明らかにされている。脂質異常症の治療としては、食事療法及び運動療法などの補助療法のほか、胆汁酸陰イオン交換樹脂製剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ニコチン酸製剤、フィブラート誘導体製剤による薬物治療が行われており、これらの薬物治療はI型脂質異常症、II型脂質異常症、III型脂質異常症、IV型脂質異常症、V型脂質異常症に有用であることが知られている。これらの補助療法及び薬物療法による治療が粥状動脈硬化症による冠状動脈疾患などの血管疾患に対して予防的、進展抑制的及び/又は改善的治療効果を有することが明らかにされている(非特許文献2)。
【0007】
しかしながら、胆汁酸陰イオン交換樹脂製剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ニコチン酸製剤、フィブラート誘導体製剤は十分満足すべき薬剤とは言えず、脂質異常症に起因する粥状動脈硬化症による冠状動脈疾患などの血管疾患が米国及び西洋諸国において深刻な問題となっている。また、胆汁酸陰イオン交換樹脂製剤では便秘などの副作用、HMG-CoA還元酵素阻害剤では肝炎や筋炎などの副作用、及びニコチン酸製剤では胃の不快感、高尿酸血症、高血糖、顔面潮紅、又は掻痒感などの副作用発現のおそれがあり、フィブラート誘導体製剤では胆石形成や他の代謝異常を惹き起こすことがあるので、いずれも投与量を増加させることが困難な場合があり、その結果、脂質異常症治療効果を十分に得難いという問題がある。従って、動脈硬化症に対して満足すべき治療効果を発揮できる薬剤は未だ提供されていないのが現状である。
【0008】
なお、3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸は、プロスタグランジン産生抑制作用及びロイコトリエン産生抑制作用を有することが報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】国際公開WO 03/70686号
【非特許文献1】Clinical Guideline 8, November 2003, National Institute for Clinical Excellence, United Kingdom
【非特許文献2】メルクマニュアル第17版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、多発性硬化症の予防及び/又は治療に有効な医薬を提供することにある。より具体的には、多発性硬化症に対して高い有効性を発揮することができ、副作用や毒性の低い医薬を提供することが本発明の課題であり、多発性硬化症に対して病態の回復促進効果、年間再発率の低下効果、症状悪化の抑制効果、再発までの期間の延長効果を有し、高い症状消失効果及び再発防止効果を発揮できる医薬を提供することが本発明の課題である。
また、本発明の別の課題は、動脈硬化症に対して高い有効性を発揮でき、副作用や毒性の低い医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、驚くべきことに3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸、又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物が、多発性硬化症の予防及び/又は治療、並びに動脈硬化症の予防及び/又は治療に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明としては以下のものが挙げられる。
〔A1〕3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を有効成分として含む多発性硬化症の予防及び/又は治療のための医薬。
〔A2〕多発性硬化症がミエリンタンパク質に対する自己免疫反応性を有する多発性硬化症である上記〔A1〕に記載の医薬。
〔A3〕多発性硬化症がミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質に対する自己免疫反応性を有する多発性硬化症である上記〔A1〕に記載の医薬。
【0012】
〔A3−2〕多発性硬化症が再発寛解型、二次性進行型、又は一次性進行型の多発性硬化症である上記〔A1〕〜〔A3〕のいずれかに記載の医薬。
〔A3−3〕多発性硬化症が再発寛解型又は二次性進行型の多発性硬化症である上記〔A1〕〜〔A3〕のいずれかに記載の医薬。
〔A3−4〕多発性硬化症が再発寛解型の多発性硬化症である上記〔A1〕〜〔A3〕のいずれかに記載の医薬。
〔A4〕多発性硬化症に伴い生ずる四肢の麻痺を予防及び/又は治療するための上記〔A1〕〜〔A3−4〕のいずれかに記載の医薬。
なお、上記〔A1〕〜〔A3−4〕のように引用する項番号が範囲で示され、その範囲内に〔A3−2〕等の枝番号を有する項が配置されている場合には、〔A3−2〕等の枝番号を有する項も引用されることを意味する。以下においても同様である。
【0013】
〔A4−2〕多発性硬化症に伴い生ずる、無関心、判断の欠如、不注意、情緒障害、情緒不安定、多幸症、反応性抑うつ症、視神経炎、耳側蒼白を伴う部分的な視神経萎縮、暗点、中心暗点、部分盲、視野の全体的な狭窄、視野のかすみ、眼筋麻痺による複視、視覚障害を伴う乳頭浮腫、眼振、めまい、片眼の痛み、一側顔面の感覚異常、一側性の顔面のしびれ又は痛み、片側顔面の麻痺又は痙攣、上肢の感覚異常、下肢の感覚異常、体幹の感覚異常、皮膚の感覚異常、皮膚のしびれ、皮膚の感覚鈍磨、下肢の麻痺、手の麻痺、巧緻運動障害、一肢又は多肢の筋力低下、肢の硬直、歩行障害、歩行不能、深部反射の亢進、バビンスキー兆候、クローヌス、表在反射の低下又は消失、企図振戦、静止時振戦、痙性、片麻痺、有痛性屈筋スパズム、構音障害、尿意切迫、排尿躊躇、部分的残尿、尿失禁、便秘、尿便失禁、男性の勃起不全、女性の性器感覚低下、異常な疲労感、又は重症例での生命の期間の短縮の症状を予防及び/又は治療するための上記〔A1〕〜〔A3−4〕のいずれかに記載の医薬。
【0014】
〔A5〕上記〔A1〕〜〔A4−2〕のいずれかに記載の多発性硬化症の予防及び/又は治療のための医薬の製造のための3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物の使用。
〔A6〕哺乳動物の多発性硬化症の予防及び/又は治療方法であって、3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物の有効量を哺乳動物に投与する工程を含む方法。
〔A6−2〕上記〔A1〕〜〔A4−2〕のいずれかに記載の特徴を有する上記〔A6〕に記載の方法。
〔A7〕3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を含有する多発性硬化症の予防及び/又は治療のための医薬であって、該多発性硬化症に対して、病態の回復促進効果、年間再発率の低下効果、症状の悪化を遅らせる効果、再発までの期間を延長する効果、完全に症状を消失させる効果、又は再発を完全に抑制する効果を有する医薬。
【0015】
〔B1〕3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を有効成分として含む動脈硬化症の予防及び/又は治療のための医薬。
〔B2〕動脈硬化症が粥状動脈硬化症である上記〔B1〕に記載の医薬。
〔B3〕動脈硬化症が脂質異常症に伴い生ずる動脈硬化症である上記〔B1〕又は〔B2〕に記載の医薬。
〔B3−2〕動脈硬化症が脂質異常症に伴い生ずる粥状動脈硬化症である上記〔B1〕又は〔B2〕に記載の医薬。
【0016】
〔B4〕脂質異常症がIII型脂質異常症である上記〔B3〕又は〔B3−2〕に記載の医薬。
〔B4−2〕動脈硬化症が脂質異常症に伴い生ずる粥状動脈硬化症であり、脂質異常症がアポリポ蛋白Eをコードする遺伝子の異常により生ずる脂質異常症である上記〔B1〕に記載の医薬。
〔B4−3〕動脈硬化症が脂質異常症に伴い生ずる粥状動脈硬化症であり、脂質異常症がI型脂質異常症、II型脂質異常症、III型脂質異常症、IV型脂質異常症、又はV型脂質異常症である上記〔B1〕に記載の医薬。
【0017】
〔B5〕上記〔B1〕〜〔B4−3〕のいずれかに記載の動脈硬化症予防及び/又は治療のための医薬の製造のための3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物の使用。
〔B6〕哺乳動物の動脈硬化症の予防及び/又は治療方法であって、3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物の有効量を哺乳動物に投与する工程を含む方法。
〔B6−2〕上記〔B1〕〜〔B4−3〕のいずれかに記載の特徴を有する上記〔B6〕に記載の方法。
【0018】
〔B7〕3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、水和物、あるいはこれらのプロドラッグを有効成分として含む血管性疾患の予防及び/又は治療のための医薬。
〔B7−2〕血管性疾患が、血管の内膜肥厚を伴う血管性疾患である上記〔B7〕に記載の医薬。
〔B7−3〕血管性疾患が、大動脈の内膜肥厚を伴う血管性疾患である上記〔B7〕に記載の医薬。
【発明の効果】
【0019】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を有効成分として含む本発明の医薬は、多発性硬化症の予防及び/又は治療において高い有効性を発揮することができ、副作用の少ない医薬として有用である。また、上記有効成分を含む本発明の医薬は、動脈硬化症の予防及び/又は治療において高い有効性を発揮することができ、副作用の少ない医薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
1.多発性硬化症の予防及び/又は治療
多発性硬化症としては、脳および脊髄の病理学的変化である播種性脱髄斑を特徴とする遅進性の疾患が挙げられる。症状として多発性で様々な神経症状を発現し、経過として寛解と再燃を伴うことが多い。
多発性硬化症の原因は未だ完全には解明されていないが、免疫学的異常が原因の一つとして考えられている。すなわち、脳および脊髄の神経組織の構成成分であるミエリンタンパクに対する自己免疫反応、より具体的には、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(以下、MOGと呼ぶことがある)、ミエリン塩基性タンパクあるいはプロテオリピッドタンパクに対する自己免疫反応が多発性硬化症の患者で起こっている可能性があることが報告され、自己の神経組織構成タンパクに対する自己免疫反応が起こることによって神経組織の傷害が起こり、その結果、次に例示する様々な症状が現れると考えられている(Ben-Nun, A., et al., Journal of Neurology 243, suppl. 1, PP.S14-S22, 1996)。
【0021】
多発性硬化症の症状に関しては、疾患の進行に伴い様々な症状が現れてくる場合がある。
すなわち、精神状態の異常として、無関心、判断の欠如、不注意、情緒障害、情緒不安定、多幸症、又は反応性抑うつ症が、単独で又は複数で症状として現れることがある。 脳神経の異常として、視神経炎、耳側蒼白を伴う部分的な視神経萎縮、暗点、中心暗点、部分盲、視野の全体的な狭窄、視野のかすみ、眼筋麻痺による複視、視覚障害を伴う乳頭浮腫、眼振、めまい、片眼の痛み、一側顔面の感覚異常、一側性の顔面のしびれ又は痛み、あるいは片側顔面の麻痺又は痙攣が、単独で又は複数で現れることがある。
【0022】
感覚性の障害として上肢の感覚異常、下肢の感覚異常、体幹の感覚異常、皮膚の感覚異常、皮膚のしびれ、又は皮膚の感覚鈍磨が、単独で又は複数で現れてくることがある。
運動性の異常として、下肢の麻痺、手の麻痺、巧緻運動障害、一肢又は多肢の筋力低下、肢の硬直、歩行障害、歩行不能、深部反射の亢進、バビンスキー兆候、クローヌス、表在反射の低下又は消失、企図振戦、静止時振戦、痙性、片麻痺、有痛性屈筋スパズム、あるいは構音障害の症状が、単独で又は複数で現れることがある。
【0023】
尿意切迫、排尿躊躇、部分的残尿、尿失禁、便秘、尿便失禁、男性の勃起不全、女性の性器感覚低下、又は異常な疲労感の症状が、単独で又は複数で現れることがある。また、重症例では生命の期間短縮がみられることがある(メルクマニュアル第17版)。本発明の多発性硬化症予防及び/又は治療剤は、上記症状に対しても効果的に使用することができる。
【0024】
多発性硬化症の経過としては、非常に多様で予測困難であり、多くの患者で再発が起こる。最初発症した後、数ヶ月から数年の寛解期間を経る患者がいる一方、頻繁に発作を再発し、経過の急速憎悪および急速進行が見られ、早期に機能喪失に陥る患者もいることから、次の3種類:(1)再発寛解型、(2)二次性進行型、(3)一次性進行型に分類して診断される。上記に説明した症状や分類は、熟練した医師により正確に識別及び判定される。
【0025】
本発明の医薬の有効性は、例えば以下の実施例に具体的に示すように、多発性硬化症の動物病態モデルであるMOG誘発マウス実験的免疫性脳脊髄炎において、3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸(以下、本件化合物1と呼ぶことがある)を30mg/kg、50mg/kg、又は100mg/kgの用量で連日経口投与することによって、脳脊髄炎の発症を用量依存的に部分的又は完全に抑制できること、及び脳脊髄炎の発症に起因する尾の弛緩、後肢の不完全麻痺、後肢の完全麻痺、後肢の完全麻痺と前肢の麻痺、又は死亡を用量依存的に部分的又は完全に抑制できることにより、当業者が容易に確認することができる。また、本発明の医薬の安全性については、例えば以下の実施例に具体的に示すように、これらの用量で毒性学的兆候が認められないこと、及びラットに500mg/kg/日の用量で28日間連続経口投与を行っても死亡例が認められないことにより確認できる。
【0026】
本発明の医薬は多発性硬化症の予防及び/又は治療に有効性を発揮できる。本発明の医薬が有効性を示す多発性硬化症としては、好ましくはミエリンタンパク質に対する自己免疫反応性を有する多発性硬化症が例示され、さらに好ましくはミエリンタンパク質がミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質であるミエリンタンパク質に対する自己免疫反応性を有する多発性硬化症が例示される。
【0027】
また、本発明の医薬は、多発性硬化症の発症に伴い生ずる様々な症状、例えば、無関心、判断の欠如、不注意、情緒障害、情緒不安定、多幸症、反応性抑うつ症、視神経炎、耳側蒼白を伴う部分的な視神経萎縮、暗点、中心暗点、部分盲、視野の全体的な狭窄、視野のかすみ、眼筋麻痺による複視、視覚障害を伴う乳頭浮腫、眼振、めまい、片眼の痛み、一側顔面の感覚異常、一側性の顔面のしびれ又は痛み、片側顔面の麻痺又は痙攣、上肢の感覚異常、下肢の感覚異常、体幹の感覚異常、皮膚の感覚異常、皮膚のしびれ、皮膚の感覚鈍磨、下肢の麻痺、手の麻痺、巧緻運動障害、一肢又は多肢の筋力低下、肢の硬直、歩行障害、歩行不能、深部反射の亢進、バビンスキー兆候、クローヌス、表在反射の低下又は消失、企図振戦、静止時振戦、痙性、片麻痺、有痛性屈筋スパズム、構音障害、尿意切迫、排尿躊躇、部分的残尿、尿失禁、便秘、尿便失禁、男性の勃起不全、女性の性器感覚低下、異常な疲労感、又は重症例での生命の期間の短縮に対して予防及び/又は治療効果を有する。本発明の医薬は、好ましくは、多発性硬化症に伴う下肢の麻痺又は手の麻痺の予防及び/又は治療、すなわち、四肢の麻痺を予防及び/又は治療に有効性を発揮できる。
【0028】
また、本発明の医薬は、再発寛解型、二次性進行型、又は一次性進行型の多発性硬化症の予防及び/又は治療に有効であり、好ましくは再発寛解型又は二次性進行型の多発性硬化症の予防及び/又は治療に有効である。さらに好ましくは、本発明の医薬は再発寛解型の多発性硬化症の予防及び/又は治療に有効である。
【0029】
さらに、本発明の医薬は、多発性硬化症において病態の回復促進効果、年間再発率の低下効果、症状の悪化を遅らせる効果、再発までの期間を延長する効果の少なくとも1つ以上の効果を発揮することができ、さらに多発性硬化症において完全に症状を消失させる効果、又は再発を完全に阻止する効果を有する場合もある。本発明の医薬は、予防又は治療のいずれか、又は両方の目的で使用することができるが、好ましくは多発性硬化症の予防のために用いることができる。多発性硬化症の治療のために用いることが好ましい別の態様もある。
【0030】
2.動脈硬化症予防及び/又は治療剤
動脈硬化症は動脈壁が肥厚し弾力性を失う複数の疾患の総称であり、粥状硬化と非粥状硬化に分類される。粥状動脈硬化症は冠状動脈疾患などの血管疾患の中でも最も頻度の高い重大なものとして例示される。粥状動脈硬化症の主要な危険因子としては脂質異常症が挙げられる。
【0031】
脂質異常症としては、血漿中のコレステロール若しくはトリグリセリドなどの脂質の濃度異常、又は脂質が結合するカイロミクロン、高比重リポ蛋白(HDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、若しくは超低比重リポ蛋白(VLDL)などのリポ蛋白の濃度異常が挙げられ、具体的にはVLDL値及び/又はLDL値の高値、コレステロール値及び/又はトリグリセリド値の高値、あるいはHDLの低値が挙げられる。これらの脂質異常症は、原発性又は二次性に生じ、I型脂質異常症、II型脂質異常症、III型脂質異常症、IV型脂質異常症、V型脂質異常症、二次性高トリグリセリド血症、及び家族性レシチンコレステロール-アシルトランスフェラーゼ欠損症などに分類される。
【0032】
I型脂質異常症は、リポ蛋白リパーゼ活性又はアポリポ蛋白C−IIの活性が欠損することによりカイロミクロンとVLDLトリグリセリドの血中からの除去能力が損なわれることによって血中のカイロミクロン濃度及びトリグリセリド濃度の上昇が起こる。II型脂質異常症としてはLDL及びコレステロールの上昇が挙げられ、原発性のことも二次性のこともある。III型脂質異常症としては、血漿中のβ泳動性VLDLの蓄積を特徴とし、通常は家族性の脂質異常症が挙げられる。血液中にトリグリセリド及びコレステロールを多く含み、粟粒発疹性扁平掌側黄色腫や早発性の重度の粥状動脈硬化症に極めてかかりやすくなる。III型脂質異常症ではアポリポ蛋白E(アポE)をコードする遺伝子の異常が認められ、アポEの表現型及び遺伝子解析によって正確な診断がなされる。IV型脂質異常症としては内因性の高トリグリセリド血症が挙げられる。V型脂質異常症としては混合性高トリグリセリド血症が挙げられる。二次性高トリグリセリド血症としては糖尿病やネフローゼなどの他の疾患あるいはアルコール摂取や薬物摂取に起因する二次性の高トリグリセリド血症が挙げられる。家族性レシチンコレステロール-アシルトランスフェラーゼ欠損症は遺伝的にレシチンコレステロール-アシルトランスフェラーゼ活性を欠損することに起因し、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症及び/又は高リン脂質血症を示す(メルクマニュアル第17版)。
【0033】
本発明の医薬の動脈硬化症の予防及び/又は治療効果は、例えば以下の実施例に具体的に示すように、動脈硬化症の動物病態モデルであるアポリポ蛋白E(アポE)遺伝子欠損マウスにおける自然発症動脈硬化症において、本件化合物1を一日あたり約60mg/kgの混餌投与を行うことによって、動脈硬化症の指標である大動脈血管内膜の肥厚が抑制されることにより当業者が容易に確認できる。
【0034】
本発明の医薬は動脈硬化症の予防及び/又は治療のための医薬として用いることができる。本発明の医薬が有効性を発揮する動脈硬化症としては、例えば粥状動脈硬化症が例示され、好ましくは脂質異常症に伴う粥状動脈硬化症が例示され、さらに好ましくはアポリポ蛋白Eの異常に起因するIII型脂質異常症に伴う粥状動脈硬化症が例示される。
【0035】
また、本発明の医薬としては、脂質異常症に伴う粥状動脈硬化症の予防及び/又は治療のための医薬が例示される。脂質異常症に伴う粥状動脈硬化症としては、I型脂質異常症に伴う粥状動脈硬化症、II型脂質異常症に伴う粥状動脈硬化症、IV型脂質異常症に伴う粥状動脈硬化症、又はV型脂質異常症に伴う粥状動脈硬化症が挙げられる。本発明の医薬は、上記症状に対して予防的、進展抑制的、及び/又は改善的治療を行うための医薬として有用である。
【0036】
また、本発明の医薬は、血管の内膜肥厚、好ましくは大動脈の内膜肥厚を伴う血管性疾患に対して予防的、進展抑制的、及び/又は改善的治療を行うための医薬として有用である。すなわち、本発明により血管性疾患の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
本発明の医薬は、動脈硬化症の予防又は治療のいずれか、又は両者の目的で使用できるが、動脈硬化症の予防のための医薬として用いることが好ましい。また、動脈硬化症の治療のための医薬として用いることが好ましい別の態様もある。
【0037】
本件化合物1は国際公開WO第03/70686号公報に記載の公知の方法により製造することができる。
また、本発明の医薬は本件化合物1を有効成分として含むものであればよく、本件化合物1の形態は特に限定されるものではないが、本件化合物1のA形結晶又はB形結晶、あるいはそれらの混合物を用いることもできる。また、油状の本件化合物1を用いることもできる。
【0038】
本件化合物1のA形結晶について説明する。本件化合物1のA形結晶の特性としては、以下が例示される。すなわち、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが、少なくとも6.9±0.2°、16.4±0.2°、18.2±0.2°、25.0±0.2°または27.5±0.2°における1つ以上の特徴的なピークを有することが例示され、好ましくは、2θが6.9±0.2°、14.4±0.2°、16.4±0.2°、18.2±0.2°、25.0±0.2°及び27.5±0.2°に特徴的なピークを有することが例示される。
【0039】
粉末X線回折スペクトルでの2θ角は、各種の要因により許容し得る若干の測定誤差を生じる場合があり、当該実測値は、通常±0.3°、典型的には±0.2°、より好ましい測定において±0.1°程度変動する。従って、本明細書において、特定のサンプルに対する実測値に基づく2θ角は、それらの許容し得る誤差を包含し得るものであることが理解されよう。
【0040】
また、本件化合物1のA形結晶の別の特性としては、示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において、約182℃の吸熱ピークを有することが例示される。
示差走査熱量分析における吸熱ピークは、本件化合物の結晶が本来有する固有の物性であるが、実際の測定において、測定誤差の他、場合によっては許容し得る量の不純物の混入等の原因による融点の変動が起こる可能性も否定できない。従って、当業者は、本発明における吸熱ピーク温度の実測値がどの程度変動し得るかを十分に理解し得、例示するならば、場合により±5℃程度、典型的には±3℃程度、好ましい測定において±2℃程度の誤差が想定され得る。
【0041】
さらに、本件化合物1のA形結晶の別の特性としては、赤外吸収スペクトルにおいて、波数3361、2938、1712、1204、1011及び746cm-1付近に顕著な赤外線吸収バンドを有することが例示される。
注記すれば、赤外吸収スペクトル波数においては若干の測定誤差が許容されており、本件発明においてもこの誤差を含み得ると考えられる。当業者はその誤差の程度を十分に理解できるものであり、例えばヨーロッパ薬局方第4版を参考にすれば、赤外吸収スペクトルによる確認試験における参照スペクトルとの比較において、波数スケールの±0.5%以内で一致する程度を指摘している。本発明においては特に限定されるものではないが、通常考えられるこれらの誤差を参考にすればよく、例えば一つの尺度として、その波数スケールの実測値に対して±0.8%程度、好ましくは±0.5%程度、特に好ましくは±0.2%程度の変化が例示できる。
【0042】
本件化合物1のA形結晶は、上記各種の特性のいずれか一つ又は二つ以上の組合せにて規定される結晶として例示される。このA形結晶が一定の性状を示すことより、コントロールされていない単なる結晶に比べて、医薬の有効成分として、あるいは薬効を発揮する上で、さらには製造過程等において好ましい性質を示すものであることを確認した。なお、上述のA形結晶は、例えば、後述のB形結晶に比較して、水系溶媒に対してより高い溶解性が認められ、その点でも好ましい。
【0043】
また本発明の更なる態様において使用される結晶としては、B形結晶も好ましい例として挙げられる。本件化合物1のB形結晶について説明する。本件化合物1のB形結晶の特性としては、以下が例示される。すなわち、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが、少なくとも15.9±0.2°、17.3±0.2°、22.2±0.2°または22.9±0.2°における1つ以上の特徴的なピークを有することが例示され、好ましくは、2θが14.4±0.2°、15.9±0.2°、17.3±0.2°、22.2±0.2°及び22.9±0.2°に特徴的なピークを有することが例示される。
【0044】
また、本件化合物1のB形結晶の別の特性としては、示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において、約203℃の吸熱ピークを有することが例示される。
さらに、本件化合物1のB形結晶の別の特性としては、赤外吸収スペクトルにおいて、波数2939、1720、1224、1016及び751cm-1付近に顕著な赤外線吸収バンドを有することが例示される。
【0045】
本件化合物1のB形結晶については、上記各種の特性のいずれか一つ又は二つ以上の組合せにて規定される結晶として例示される。このB形結晶は、一定の性状を示すことより、コントロールされていない単なる結晶に比べて、医薬の有効成分として、あるいは薬効を発揮する上で、さらには製造過程等において好ましい性質を示すものである。またこのB形結晶は、A形結晶に比較しては、ろ過性がより高いことや、これとは別に流動特性がより改善されており、B形結晶を大量製造する際には、例えば、ろ過工程および/または脱水工程等における所要時間を短縮できることが期待される。また、B形結晶は、乾燥形態又は固体形態の医薬の製造に際してもより好ましいものである。ろ過脱水後のB形結晶は、ろ過脱水後のA形結晶に比較して、含水率が低いことも確認されており、特に大量製造する際には、乾燥にかかる時間の短縮や熱エネルギーを減ずることが期待され好ましいものと考えられる。またこれらとは別に、このB形結晶はA形結晶よりも実質的に良好な形態的安定性を有すると考えられる。
【0046】
本件化合物1のA形結晶の製造方法として、本件化合物1の塩基性条件下の溶液に酸を加え本件化合物1からなる結晶を生ぜしめ、その結晶を取得する方法が挙げられる。
すなわち、本発明に用いる本件化合物1の塩基性条件下の溶液としては、該化合物が塩基性条件下にて溶解された溶液であれば特に限定されず、ここで、溶解されるべき該化合物は、油状、固体状(各種結晶形、無晶形を含む)あるいはそれらの混合物のいずれであってもよい。なお、本件化合物1は、国際公開WO第03/70686号公報の方法に従って調製することができる。
【0047】
上述の塩基性条件下の溶液を調製するために用いられる塩基としては、無機塩基が好ましい。すなわち、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属塩基などが挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどは好ましく、水酸化ナトリウムは特に好ましい例として挙げられる。これらはあらかじめ水あるいはメタノール、エタノール、t−ブタノールなどのアルコール類などの溶液状にしたものを用いることもでき、あらかじめ一定の濃度の塩基を含む水溶液を調製して用いる場合、加える量を規定しやすい点などから特に好ましい。また濃厚な塩基性溶液を用いた場合、後に酸を加えた際、高い中和熱が発生することも考えられるため、0.5〜2規定の塩基の水溶液を用いる場合が非常に好ましい例として挙げられる。
【0048】
加える塩基の量は、下限としては、該化合物1当量に対して、通常は0.8当量以上、好ましくは0.9当量以上、より好ましくは1.0当量以上が例示される。上限としては、該化合物1当量に対して、通常3.0当量以下が例示され、2.0当量以下が好ましい例として挙げられる。
【0049】
化合物を塩基とともに溶解するために用いる溶媒としては、好ましくは極性溶媒が挙げられ、具体的には水、メタノール、エタノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトンなどが挙げられ、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフランなどは好ましく、水、メタノール、エタノールなどは特に好ましい。また水とメタノールを混合して用いる場合は非常に好ましく、塩基を含む溶液とした後の水:メタノールの混合比は1:20〜10:1が例示されるが1:10〜1:1の比率が好ましい。
【0050】
上述の塩基性条件下の溶液においては、溶媒の沸点以下の温度で加温してもよく、また不溶物が存在する場合、ろ過などの操作により不溶物を取り除くことが好ましい。
上記溶液に加える酸としては、酸を添加することにより生ずる結晶の沈殿物に取り込まれない限り液体状、固体状及び気体状のいずれの状態のものでもよいが、好ましくは溶液状、又は気体であり、溶液状の酸が特に好ましい例として挙げられる。
【0051】
また、酸としては有機酸及び無機酸が挙げられるが、用いる酸は塩基を中和するためにその酸性度が本件化合物の酸性度より高い必要があり、塩酸、硫酸、燐酸などの鉱酸が好ましく塩酸は特に好ましい。これらはあらかじめ水あるいはメタノール、エタノール、t−ブタノールなどのアルコール類などの溶液状にしたものを用いることもでき、あらかじめ一定の濃度の酸を含む水溶液を調製して用いる場合、加える量を規定しやすい点などから好ましい。また濃厚な酸性溶液を用いた場合、高い中和熱が発生することも考えられるため、0.5〜2規定の酸性水溶液を用いる場合が特に好ましい例として挙げられる。
【0052】
加える酸の量としては、結晶が十分に生成する程度まで添加すれば良く特に限定されないが、通常は、塩基1当量に対して、通常0.8当量以上が例示され、好ましくは0.9当量以上添加することが好ましい。また、約1当量添加することが特に好ましい。また上限としては特に限定されないが、塩基1当量に対して、通常1.5当量以下が例示され、1.2当量以下が好ましい例として挙げられる。
【0053】
酸を加える方法としては、(1)一度に加える、(2)数回に分けて加える、(3)滴下などの方法で連続的に時間をかけて加える、などが挙げられるが、滴下などの方法で連続的に時間をかけて加える方法が好ましい。酸を加える際には攪拌を行うことが好ましい。加える速度に関しては、用いた化合物の量、塩基性条件下の溶液における塩基の濃度、用いる酸の種類、酸性溶液の濃度によっても異なるが、0.5〜2規定の塩酸を用いた場合、1時間〜6時間かけて全量を加える方法が例示される。
【0054】
酸を加える際の温度については、上限としては60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、45℃以下がさらに好ましく、下限としては0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましい。
【0055】
生じた結晶を取得するに際しては、通常は、酸の添加後24時間以内、好ましくは20時間以内、特に好ましくは10時間以内に行うことが例示される。また、酸の添加の直後に結晶を取得することもできるが、好ましくは添加後1時間以降、特に好ましくは添加後3時間以降に行うことが好ましい。
【0056】
析出した結晶の採取方法としては、濾過やデカンテーション等の公知の方法により結晶を取得することができるが、通常は、濾過することが好ましい。またろ過により結晶を採取した後、極性溶媒、例えば水、メタノール、エタノール又はそれらの混合液により結晶を洗浄することができ、これは不純物を取り除く操作として有効である。洗浄方法としては、濾過器上の結晶を極性溶媒ですすぐ方法が好ましい。また、結晶を極性溶媒、例えば水、メタノール、エタノール又はそれらの混合液に投入して懸濁液とし、これを十分攪拌した後再度結晶を濾過により取得する方法も好ましい。さらに、上記の2つの洗浄を両方行うことが特に好ましい。採取した結晶は、通常行われる乾燥方法、例えば減圧乾燥、減圧加温乾燥、常圧加温乾燥、風乾などにより乾燥することができる。
【0057】
酸を加えた後の最終的な化合物の析出濃度としては、用いる溶媒の種類、混合溶媒の場合はその比率によっても異なるが、下限としては一般的に1w/v%以上、好ましくは5w/v%以上が挙げられる。上限としては、30w/v%以下が好ましく、20w/v%以下が好ましい例として挙げられる。
なお、結晶を生成させるに際して、少量のA形結晶を種晶として添加することも好ましい態様と考えられる。
【0058】
上記の製造方法のうち好ましい例としては、以下の方法が例示される。以下の3つの製造方法の例示において、使用する塩基の量、酸添加前の攪拌温度、加える酸の量、及び酸添加後の攪拌時間は前述した好ましい例を採用することができる。
【0059】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸に対して0.8〜3.0当量の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを含む、水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフランあるいはこれらの混合溶媒に溶解された溶液に、攪拌下10〜50℃の温度で、塩基1当量に対して0.8〜1.5当量の塩酸、硫酸、又は燐酸の水溶液を滴下などの方法で連続的に時間をかけて加え、さらに1〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0060】
上記の化合物1当量に対して0.9〜2.0当量の水酸化ナトリウムを含む、水、メタノール、エタノールあるいはこれらの混合溶媒に溶解された溶液に、攪拌下25〜45℃の温度で、塩基1当量に対して0.9〜1.2当量の0.5〜2規定塩酸水溶液を1時間〜6時間かけて加え、さらに3〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0061】
上記の化合物1当量に対して0.9〜2.0当量の0.5〜2規定水酸化ナトリウム水溶液及びメタノールを加え溶解された溶液に、攪拌下25〜45℃の温度で、塩基1当量に対して0.9〜1.2当量の0.5〜2規定塩酸水溶液を1時間〜6時間かけて加え、さらに3〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0062】
また、上述の本件化合物1の塩基性条件下の溶液としては、3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸の低級アルキルエステルのアルカリ加水分解物であってもよい。つまり、A形結晶の別の製造方法としては以下が挙げられる。
【0063】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸の低級アルキルエステルを溶媒中アルカリ加水分解した後、当該塩基性条件下の溶液に酸を加えることにより結晶を得る方法。
【0064】
上記“低級アルキルエステル”としては、炭素数1〜4のアルキル基のカルボン酸エステルが例示され、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、t−ブチル基の何れかを示す。このうちメチル基及びエチル基は特に好ましい例である。
【0065】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸の低級アルキルエステルは、国際公開WO第03/70686号公報の方法に従って調製することができる。
【0066】
上記化合物のアルカリ加水分解物を調製するに際して用いる塩基としては、前述の溶液を塩基性条件下にするために用いる塩基を用いることができる。
塩基の使用量は化合物1当量に対し、通常は1当量以上が例示される。上限としては、該化合物1当量に対して、通常10当量以下が例示され、3当量以下が好ましく、2当量以下が特に好ましい例として挙げられる。
【0067】
溶媒としては、通常、反応を妨げない不活性媒体、好ましくは極性溶媒中で反応せしめることが好ましい。前述の条件も参考にすることができるが、極性溶媒としては水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられ、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフランなどは好ましく、水、メタノール、エタノールなどは特に好ましい。また水とメタノールを混合して用いる場合は非常に好ましく、塩基を加えた後の反応溶液として水:メタノールの混合比は1:20〜10:1が例示されるが1:10〜1:1の比率が好ましい。
【0068】
該アルカリ加水分解の反応温度は、例えば室温〜溶媒の還流温度までの適当な温度が選択され、特に好ましい例としては50〜70℃の条件が挙げられる。反応時間は、通常は0.5〜72時間で、好ましくは1〜24時間が例示され、より具体的には上限としては24時間以内が好ましく、20時間以内がより好ましく、10時間以内がさらに好ましく、下限としては0.5時間以降が好ましく、1時間以降がより好ましく、3時間以降がさらに好ましいが、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により反応経過を追跡することが可能であるから、通常は3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸の収量が最大となるところで適宜反応を終了させればよい。
アルカリ加水分解反応後、その塩基性条件下の溶液に添加する酸や結晶の生成条件や採取方法等については、前述の通りである。
【0069】
上記の製造方法のうち好ましい例としては、以下が例示される。以下の3つの製造方法の例示において、アルカリ加水分解において使用する塩基の量、加水分解反応の反応温度、加水分解反応の反応時間、酸添加前の攪拌温度、加える酸の量、及び酸添加後の攪拌時間は前述した好ましい例を採用することができる。
【0070】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸の低級アルキルエステルを水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフランあるいはこれらの混合溶媒中、該低級アルキルエステル1当量に対して1〜3当量の水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウム存在下、50〜70℃で1〜24時間反応した後、攪拌下10〜50℃の温度で、塩基1当量に対して0.8〜1.5当量の塩酸、硫酸、又は燐酸の水溶液を滴下などの方法で連続的に時間をかけて加え、さらに1〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0071】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸のメチルあるいはエチルエステルを水、メタノール、エタノール、あるいはこれらの混合溶媒中、該メチルあるいはエチルエステル1当量に対して1〜2当量の水酸化ナトリウム存在下、50〜70℃で1〜24時間反応した後、攪拌下25〜45℃の温度で、塩基に対して0.9〜1.2当量の0.5〜2規定塩酸水溶液を1時間〜6時間かけて加え、さらに3〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0072】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸のメチルあるいはエチルエステルに、該メチルあるいはエチルエステル1当量に対して1〜2当量の0.5〜2規定水酸化ナトリウム水溶液及びメタノールを加え50〜70℃で1〜24時間反応した後、攪拌下25〜45℃の温度で、塩基1当量に対して0.9〜1.2当量の0.5〜2規定塩酸水溶液を1時間〜6時間かけて加え、さらに3〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0073】
一方、本件化合物1のB形結晶の製造方法としては、本件化合物1を、アセトン、ジクロロメタン、メタノール、酢酸エチル、メタノール/酢酸混液、及びアセトニトリルから成る群から選択されるいずれか一つ又は二つ以上の溶媒に溶解させた溶液から結晶化せしめる方法が挙げられる。
本件化合物1は、前述のとおり、国際公開WO第03/70686号公報の方法等に従って調製することができる。
【0074】
また上記製造方法において用いる溶媒としては、アセトン、ジクロロメタン、メタノール、酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ニトロベンゼン、2,2,2−トリフルオロエタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられ、また、これらの溶媒は混合して用いることもできる。さらにテトラヒドロフラン/水、N,N−ジメチルホルムアミド/水、N,N−ジメチルアセトアミド/水、テトラヒドロフラン/メタノール、ジイソプロピルエーテル/酢酸、メタノール/酢酸などが挙げられる。これらのうちアセトン、ジクロロメタン、メタノール、酢酸エチル、アセトニトリル、メタノール/酢酸などは好ましく、アセトン、ジクロロメタンなどは特に好ましい。
【0075】
化合物を溶媒に溶解する際は、得られる結晶の収量の点などから溶媒の沸点以下の温度で加温することが好ましく、また不溶物が存在する場合、濾過などの操作により不溶物を取り除いてもよい。
加える溶媒の量は、用いる溶媒の種類、混合溶媒の場合はその比率によっても異なるが、用いた溶媒の沸点以下の温度で化合物が溶解する量が好ましく、さらには、得られる結晶の収量の点などから溶媒の沸点付近で化合物が溶解し飽和濃度となる量を用いるのが特に好ましい。具体的には、例えば溶媒としてアセトンを用いた場合には、化合物1gに対して15〜25mlが好ましく、15ml程度がさらに好ましい例として挙げられる。また、ジクロロメタンを用いた場合には化合物1gに対して30〜50mlの量を用いるのが好ましく、30ml程度がさらに好ましい例として挙げられる。
【0076】
加温して調製した化合物の溶液を冷却する方法としては、急激に冷却する、段階的に冷却する、放冷する、などの方法が挙げられるが、段階的に冷却する方法もしくは放冷する方法が好ましい。
冷却温度は、用いる溶媒の量、用いる溶媒の種類、混合溶媒の場合はその比率によっても異なり、化合物を溶解させたときの温度によっても異なるが、化合物が飽和濃度以上となる温度まで冷却することが好ましい。
【0077】
冷却操作は、撹拌しながら行っても、静置して行ってもよいが、結晶の析出を早め、操作時間を短縮する点からは撹拌しながら行うのが好ましい。
なお、上記の方法により結晶を生成させるに際して、少量のB形結晶を種晶として添加することも好ましい態様である。
【0078】
析出した結晶の採取は、一般的にろ過によって行うことができる。またろ過により結晶を採取した後、化合物の溶解に用いた溶媒または結晶を著しく溶解しない溶媒、またはそれらの混合液により結晶を洗浄することができ、これは不純物を取り除く操作として有効である。
採取した結晶は、通常行われる乾燥方法、例えば減圧乾燥、減圧加温乾燥、常圧加温乾燥、風乾などにより乾燥することができる。
【0079】
上記の製造方法のうち好ましい例としては、以下が例示される。
本件化合物1の1gに対して15〜25mlのアセトン、もしくは30〜50mlのジクロロメタンを加え、沸点付近まで加温して該化合物を溶解し、必要に応じ不溶物をろ過した後、室温で撹拌し、数時間〜数日後、生成した結晶を得る方法。
また、本件化合物1のB形結晶についての他の製造方法としては、本件化合物1の塩基性条件下の溶液に酸を加える過程で本件化合物1が結晶しはじめる直前に本件化合物1のB形結晶を種晶として加え、本件化合物1のB形結晶を生ぜせしめ、その結晶を取得する方法も挙げられる。
【0080】
本発明に用いる本件化合物1やその形状、入手方法は、前述の「本件化合物1のA形結晶の製造方法」における説明と同様である。さらに本件化合物1の塩基性条件下の溶液の調製方法等も前記と同様である。さらに上述の塩基性条件下の溶液は、3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸の低級アルキルエステルのアルカリ加水分解物であってもよいことも前記と同様である。
【0081】
上述の塩基性条件下の溶液を調製するために用いられる塩基の種類や添加量等や、化合物を塩基とともに溶解するために用いる溶媒の種類や添加量等、さらに添加する酸の種類や添加量、加える方法、加える速度、加える際の温度等についても上記での説明が準用できる。B形結晶の種晶を加える方法としては、種晶を加える段階で混合液中に結晶が存在しない状態であることが好ましく、また加えた種晶が溶解せずに存在する状態であることが好ましい。該化合物の当量以上の塩基を加えて溶解させた後に酸を加える場合、当量以上の塩基が、加えた酸によって中和された段階で、B形結晶の種晶を加えることが種晶の溶解を回避する点で好ましい。また、この時、当量以上の塩基の中和をpH計等による機器を用いて確認することも好ましい方法である。すなわち、例えば、該化合物に対して1.5当量の塩基を用いて該化合物を溶解する場合、0.5当量相当の酸を加え、系内のpHが7〜9程度の弱塩基性を示した段階で種晶を添加することが好ましい例として挙げられる。また、種晶は酸の添加により結晶が生成する前に添加することが好ましい。2規定の塩酸を1時間〜6時間かけて加える場合、上述した該化合物の当量以上の塩基の中和が終了した後、0.1〜0.2当量の酸の添加により、系内のpHが弱酸性を示す段階で結晶が生成し始める可能性が高いため、B形の種晶添加はこれより早い段階で行うことが好ましい。
【0082】
添加するB形結晶の量としては、添加した結晶が溶解しない量であれば良く特に限定されないが、該化合物に対して通常0.01%以上が例示され、好ましくは0.05%以上、特に好ましくは約0.1%添加することが例示される。また上限としては特に限定されないが、該化合物に対して、通常2%以下が例示され、好ましくは1.5%以下、さらに好ましいくは1.0%以下、特に好ましくは0.3%以下が例示される。析出した結晶の採取方法、採取した結晶の乾燥方法、酸を加えた後の最終的な化合物の析出濃度等については、前述の「本件化合物1のA形結晶の製造方法」と同様の条件を用いることができる。
【0083】
上記の製造方法のうち好ましい例としては、以下が例示される。以下の3つの製造方法の例示において、使用する塩基の量、酸添加前の攪拌温度、加える酸の量、加えるB形の種晶の量、及び酸添加後の攪拌時間は前述した好ましい例を採用することができる。
本件化合物1の1当量に対して0.8〜3.0当量の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを含む、水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフランあるいはこれらの混合溶媒に溶解された溶液に、攪拌下10〜50℃の温度で、塩基1当量に対して0.8〜1.5当量の塩酸、硫酸、又は燐酸の水溶液を滴下などの方法で連続的に時間をかけて加え、その途中系内のpHが7〜9の弱塩基性を示した段階でB形の種晶を該化合物に対して0.01〜2%加えた後、さらに1〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0084】
本件化合物1の1当量に対して0.9〜2.0当量の水酸化ナトリウムを含む、水、メタノール、エタノールあるいはこれらの混合溶媒に溶解された溶液に、攪拌下25〜45℃の温度で、塩基1当量に対して0.9〜1.2当量の0.5〜2規定塩酸水溶液を1時間〜6時間かけて加え、その途中系内のpHが7〜9の弱塩基性を示した段階でB形の種晶を該化合物に対して0.05〜1.5%加えた後、さらに1〜5時間攪拌し結晶を得る方法。
本件化合物1の1当量に対して0.9〜2.0当量の0.5〜2規定水酸化ナトリウム水溶液及びメタノールを加え溶解された溶液に、攪拌下25〜45℃の温度で、塩基1当量に対して0.9〜1.2当量の0.5〜2規定塩酸水溶液を1時間〜6時間かけて加え、その途中系内のpHが7〜9の弱塩基性を示した段階でB形の種晶を該化合物に対して0.1%加えた後、さらに1〜5時間攪拌し結晶を得る方法。
【0085】
また、製造方法の好ましい例としては、以下の態様も例示される。以下の3つの製造方法の例示において、アルカリ加水分解において使用する塩基の量、加水分解反応の反応温度、加水分解反応の反応時間、酸添加前の攪拌温度、加える酸の量、加えるB形の種晶の量、及び酸添加後の攪拌時間は前述した好ましい例を採用することができる。
【0086】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸の低級アルキルエステルを水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフランあるいはこれらの混合溶媒中、該低級アルキルエステル1当量に対して1〜3当量の水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウム存在下、50〜70℃で1〜24時間反応した後、攪拌下10〜50℃の温度で、塩基1当量に対して0.8〜1.5当量の塩酸、硫酸、又は燐酸の水溶液を滴下などの方法で連続的に時間をかけて加え、その途中系内のpHが7〜9の弱塩基性を示した段階でB形の種晶を該化合物に対して0.01〜2%加えた後、さらに1〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0087】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸のメチルあるいはエチルエステルを水、メタノール、エタノール、あるいはこれらの混合溶媒中、該メチルあるいはエチルエステル1当量に対して1〜2当量の水酸化ナトリウム存在下、50〜70℃で1〜24時間反応した後、攪拌下25〜45℃の温度で、塩基に対して0.9〜1.2当量の0.5〜2規定塩酸水溶液を1時間〜6時間かけて加え、その途中系内のpHが7〜9の弱塩基性を示した段階でB形の種晶を該化合物に対して0.05〜1.5%加えた後、さらに3〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0088】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸のメチルあるいはエチルエステルに、該メチルあるいはエチルエステル1当量に対して1〜2当量の0.5〜2規定水酸化ナトリウム水溶液及びメタノールを加え50〜70℃で1〜24時間反応した後、攪拌下25〜45℃の温度で、塩基1当量に対して0.9〜1.2当量の0.5〜2規定塩酸水溶液を1時間〜6時間かけて加え、その途中系内のpHが7〜9の弱塩基性を示した段階でB形の種晶を該化合物に対して0.1%加えた後、さらに3〜24時間攪拌し結晶を得る方法。
【0089】
本発明の医薬の有効成分としては、本件化合物1又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を用いることができる。
本件化合物1の塩としては、酸付加塩又は塩基付加塩のいずれであってもよく、塩であればその種類は特に限定されないが、薬学上許容される塩が好ましい。本件化合物1の塩としては、塩基付加塩が好ましい例として挙げられる。例えば、ナトリウム、アンモニア等の無機塩基又はトリエチルアミン等の有機塩基との塩を挙げることができる。また、本件化合物1の塩としては、酸付加塩が好ましい例として挙げられる。例えば、塩酸、硫酸等の無機酸、又は酢酸、クエン酸等の有機酸との塩を挙げることができる。もっとも、塩の種類はこれらに限定されることはなく、当業者が適宜選択可能であることは言うまでもない。本発明化合物1の水和物としては、任意の個数の水が付加した水和物を用いることができる。水和物に替えて本件化合物1の溶媒和物を用いることができる場合もある。
【0090】
本明細書において、「本件化合物1又はその塩のプロドラッグ」としては、哺乳類動物に経口的又は非経口的に投与した後に生体内、好ましくは消化管、肝臓、又は血中で酸化、加水分解などを受けて本件化合物1又はその塩を生成する化合物又はその塩が挙げられる。例えば、カルボキシル基、アミノ基、または水酸基などを有する薬剤をプロドラッグ化する手段は多数知られており、当業者は適宜の手段を選択可能である。
【0091】
本件化合物1又はその塩のプロドラッグとしては特に限定されないが、例えば、本件化合物1のアミノ基及びカルボキシル基から選択される1以上の任意の基にプロドラッグを構成する基が導入された化合物又はその塩が挙げられる。アミノ基についてプロドラッグを構成する基としては、例えばアシル基、アルコキシカルボニル基が例示される。好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、メトキシカルボニル基、又はエトキシカルボニル基等が挙げられ、エトキシカルボニル基が特に好ましい。また、アセチル基が好ましい態様もあり、プロピオニル基が好ましい態様もあり、メトキシカルボニル基が好ましい別の態様もある。
【0092】
また、カルボキシル基についてプロドラッグを構成する基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、又はジエチルアミノ基が例示される。好ましい例としては、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基等が挙げられ、エチル基が特に好ましい。また、n-プロピル基が特に好ましい別の態様もある。さらに、イソプロピル基が好ましい別の態様もある。
【0093】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を上記の医薬として用いるには、有効量の3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物をそのままで、あるいは薬学上許容される担体と混合して医薬組成物となせばよく、この担体として例えばカルボキシメチルセルロースなどの懸濁化剤や場合によっては、精製水、又は生理食塩水などであってもよく、その他の公知の担体も用いることができる。一例を示すと3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を0.5%カルボキシメチルセルロースを含む精製水に懸濁又は溶解し用いる方法が挙げられる。
【0094】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、非経口的又は経口的に投与可能な適宜の形態の医薬として調製することができる。医薬の形態としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、懸濁剤、カプセル剤、又は注射剤等が挙げられるが、その製造のためにこれらの医薬の形態に応じた各種担体を使用することができる。例えば、経口投与用の医薬の製造のための担体としては、賦形剤、結合剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色剤を挙げることができる。
【0095】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を注射剤等の非経口投与に適する形態の医薬として調製する場合には、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、プロピレングリコール、又はポリエチレングリコール等を使用することができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤、等張化剤、又は無痛化剤等を加えてもよい。
【0096】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を哺乳類、例えばヒトに投与する際には、錠剤、散剤、顆粒剤、懸濁剤、又はカプセル剤の形で経口投与することができ、また、点滴を含む注射剤、さらには坐剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム、又はスプレーの形で非経口投与することができる。その投与量は、適用症、投与形態、患者の年齢、体重、症状の度合いなどによって異なるが、一般的には成人1日当たり1〜1000mgを1〜3回に分けて投与することが例示される。投与期間は数日〜2カ月の連日投与が一般的であるが、患者の症状により1日投与量、投与期間共に増減することができる。
【実施例】
【0097】
〔製造例1〕3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸メチルの製造
3−[3−ブロモ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−ニトロフェニル]プロピオン酸メチル(14.00g、国際公開WO第03/70686号公報の方法に従って調製)、1−メチル−1H−インダゾール−5−ボロン酸(7.62g、国際公開WO第03/70686号公報の方法に従って調製)、酢酸パラジウム(75mg、和光純薬社製)、トリフェニルホスフィン(0.17g、和光純薬社製)に、THF(40ml)を加え、撹拌した後、水(27ml)にリン酸三カリウム(16.97g、和光純薬社製)を溶解させた溶液を加え、系内を窒素置換した。次いでこの混合液を60℃で4時間撹拌して反応させた。反応が終了していることを確認した後、分液して上層を得た。上層を室温に冷却後、酢酸エチル(40ml)と活性炭(2.8g、日本エンバイロケミカルズ社製)を加え、室温で1時間撹拌した。懸濁液をろ過してろ液を得、さらにフィルター上の残渣を酢酸エチル(20ml)で洗浄して洗液を得、ろ液と洗液をあわせて減圧濃縮し、濃縮液(44g)を得た。次いで濃縮液にアセトン(140ml)を加えて撹拌した後、撹拌しながら室温で水(140ml)を1時間かけて加え、さらに室温で1時間撹拌した。次いで、この混合液をろ過し、さらにフィルター上の固形物を水(70ml)で洗浄し、湿固形物を得た。この湿固形物を50℃で減圧乾燥することにより、3−[4−(インダン−2−イルオキシ)−3−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)−5−ニトロフェニル]プロピオン酸メチル(15.7g)の結晶を得た。
【0098】
3−[4−(インダン−2−イルオキシ)−3−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)−5−ニトロフェニル]プロピオン酸メチル(13.0g)にTHF(138ml)、安定化ニッケル(4.42g、日揮化学社製)、水(4ml)を加え、撹拌後、系内を水素置換し、水素雰囲気下50℃で7時間撹拌し反応させた。反応が終了していることを確認した後、その反応液を窒素置換し、ろ過してろ液を得、さらにフィルター上の残渣をTHF(34ml)で洗浄して洗液を得た。ろ液と洗液を合せた溶液に活性炭(2.6g、日本エンバイロケミカルズ社製)を加え、室温で1時間撹拌した。懸濁液をろ過してろ液を得、さらにフィルター上の残渣をTHF(34ml)で洗浄して洗液を得た。ここで取得したろ液と洗液を合せた溶液に室温で水(207ml)を1時間かけて加え、さらに氷冷下1時間撹拌した。次いで、この混合液をろ過し、さらにフィルター上の固形物を水(68ml)で洗浄し、湿固形物を得た。この湿固形物を50℃で減圧乾燥することにより、3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸メチル(10.3g)の結晶を得た。
【0099】
〔製造例2〕3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸(本件化合物1)の製造
WO03/070686号の実施例567の製造方法に従い、本件化合物1を製造した。
【0100】
〔製造例3〕本件化合物1のA形結晶の製造
製造例1で得た3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸メチル(10.0g)にメタノール(45ml)を加え、撹拌した後、2規定水酸化ナトリウム水溶液(17.0ml)を加え60℃で3時間撹拌下にてアルカリ加水分解した。反応後、反応液を35℃に冷却し、2規定塩酸水溶液(17.0ml)を2時間かけて加え、さらに35℃で16時間撹拌した。次いで、この混合液をろ過し、さらにフィルター上の固形物を水(27ml)とメタノール(13ml)の混合液で洗浄し、湿固形物を得た。この湿固形物を50℃で減圧乾燥することにより、9.2gの結晶を得た。
【0101】
〔製造例4〕本件化合物1のB形結晶の製造1
製造例3に従って調製した本件化合物1のA形結晶(1.0g)にアセトン(17ml)を加え、60℃の水浴中で加熱溶解させた。次いで溶液を室温下で終夜撹拌した。生じた沈殿物をろ過し、フィルター上の固体を得た。次いで50℃で減圧乾燥することにより、0.55gの結晶を得た。
【0102】
〔製造例5〕本件化合物1のB形結晶の製造2
製造例3に従って調製した本件化合物1のA形結晶(1.0g)にジクロロメタン(31ml)を加え、40℃の水浴中で加熱溶解させた。次いで溶液を室温下で終夜撹拌した。生じた沈殿物をろ過し、フィルター上の固体を得た。次いで50℃で減圧乾燥することにより、0.81gの結晶を得た。
当該結晶は、後述する試験例2の示差走査熱量分析により図5と実質的に同様なスペクトルを示し、本件化合物1のB形結晶であることが確認された。
【0103】
〔製造例6〕本件化合物1のB形結晶の製造3
製造例3に従って調製した本件化合物1のA形結晶(10.0g)にメタノール(45ml)を加え、撹拌した後、2規定水酸化ナトリウム水溶液(17.0ml)を加え60℃で1時間撹拌した。その混合液を35℃に冷却し、2規定塩酸水溶液(7.0ml)を30分かけて加え、混合液のpHが7〜9となったことを確認した後、すみやかに製造例4に従って調製した本件化合物1のB形結晶の種結晶(0.1g)を加え、10分撹拌した。次いでこの混合液に2規定塩酸水溶液(10.0ml)を1時間かけて加え、さらに35℃で2時間撹拌した。次いで、この混合液をろ過し、さらにフィルター上の固形物を水(27ml)とメタノール(13ml)の混合液で洗浄し、湿固形物を得た。この湿固形物を50℃で減圧乾燥することにより、9.7gの白色結晶を得た。
当該結晶は、後述する試験例1の粉末X線回折測定により図4と実質的に同様なスペクトルを示し、本件化合物1のB形結晶であることが確認された。また、当該結晶は、後述する試験例2の示差走査熱量分析により図5と実質的に同様なスペクトルを示し、B形結晶であることが確認された。
【0104】
〔製造例7〕本件化合物1のB形結晶の製造4
製造例1に準ずる手法で得た3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸メチル(80.0g)にメタノール(360.0ml)を加え、撹拌した後、水(36.2ml)及び2規定水酸化ナトリウム水溶液(99.7ml)を加え60℃で3時間撹拌下にてアルカリ加水分解した。反応後、反応液中の粉塵などの不溶物を濾別し、水(180.2ml)を加えた後35℃に調整した。混合液に2規定塩酸水溶液(10.7ml)を8分かけて加え、混合液のpHが7.9となったことを確認した後、すみやかに製造例4に従って調製した本件化合物1のB形結晶の種結晶(0.08g)を加え、4分撹拌した。次いでこの混合液に2規定塩酸水溶液(89.0ml)を111分かけて加え、さらに35℃で14.3時間撹拌した。次いで、この混合液をろ過し、さらにフィルター上の固形物を水(213.4ml)とメタノール(106.7ml)の混合液で洗浄し、湿固形物を得た。この湿固形物に、水(213.4ml)とメタノール(106.7ml)を添加して再度混合液とし、18〜20℃で37分攪拌した。次いで、この混合液をろ過し、さらにフィルター上の固形物を水(21.3ml)とメタノール(10.7ml)の混合液で洗浄し、湿固形物を得た。この湿固形物を50℃で減圧乾燥することにより、76.28gの白色結晶を得た。
当該結晶は、後述する試験例2の示差走査熱量分析により図5と実質的に同様なスペクトルを示し、本件化合物1のB形結晶であることが確認された。
【0105】
〔製造例8〕本件化合物1の混合結晶の製造1
製造例3に従って調製した本件化合物1のA形結晶0.9gと製造例4に従って調製したB形結晶0.1gを乳鉢と乳棒を用いて混合し、A形結晶90%とB形結晶10%の混合物を得た。
【0106】
〔製造例9〕本件化合物1の混合結晶の製造2
製造例3に従って調製した本件化合物1のA形結晶0.1gと製造例4に従って調製したB形結晶0.9gを乳鉢と乳棒を用いて混合し、A形結晶10%とB形結晶90%の混合物を得た。
【0107】
〔実施例1〕
製造例2の方法に準じて得た化合物を0.5%メチルセルロースを含む精製水に懸濁または溶解することにより、適宜の量の本件化合物1を含有する医薬を調製することができる。
【0108】
〔実施例2〕
製造例3の方法に準じて得たA形結晶を0.5%メチルセルロースを含む精製水に懸濁または溶解することにより、適宜の量の本件化合物1のA形結晶を含有する医薬を調製することができる。
【0109】
〔実施例3〕
製造例6の方法に準じて得たB形結晶を0.5%メチルセルロースを含む精製水に懸濁または溶解することにより、適宜の量の本件化合物1のB形結晶を含有する医薬を調製することができる。
【0110】
〔試験例1〕粉末X線回折
本願明細書の製造例3に準じて得た本件化合物1のA形結晶及び製造例6に準じて得た本件化合物1のB形結晶につき、粉末X線回折を行った。
測定条件
X線回折装置:島津製作所製のXRD−6000
X線源 :CuKα(40kV30mA)
走査モード :連続
スキャン速度 :2°/分
スキャンステップ:0.02°
走査駆動軸 :θ−2θ
走査範囲 :5°−40°
散乱スリット :1°
受光スリット :0.30mm
【0111】
製造例3に準じて得た本件化合物1のA形結晶を測定したところ、図1に示すスペクトルを得た。本件化合物1のA形結晶の粉末X線回折スペクトルにおいては、2θが6.9°、14.4°、16.4°、18.2°、25.0°及び27.5°に特徴的なピークを認められた。また、20.0°、20.7°、22.9°又は25.4°のいずれか、又は全部にもピークを認め、これらのうちのいずれかは少なくとも特徴的なピークと捉えることもできる。さらに、10.2°、12.7°、15.0°又は23.8°のいずれか、又は全部にもピークを認め、これらのうちのいずれかは少なくとも特徴的なピークと捉えることもできる。
【0112】
また製造例6に準じて得た本件化合物1のB形結晶を測定したところ、図4に示すスペクトルを得た。本件化合物1のB形結晶の粉末X線回折スペクトルにおいては、2θが14.4°、15.9°、17.3°、22.2°及び22.9°に特徴的なピークを認めた。また、8.6°、9.8°、21.2°、23.6°又は28.4°のいずれか、又は全部にもピークを認め、これらのうちのいずれかは少なくとも特徴的なピークと捉えることもできる。さらに、12.6°、18.0°、18.3°、18.8°、19.2°、19.8°、20.4°、25.3°、26.6°又は31.8°のいずれか、又は全部にもピークを認め、これらのうちのいずれかは少なくとも特徴的なピークと捉えることもできる。
【0113】
〔試験例2〕示差走査熱量分析
本願明細書の製造例3及び4で得た結晶1〜3mgを開放アルミニウムパンに入れ、パーキンエルマー製のPYRIS Diamond DSC示差走査熱量測定装置を用い、乾燥窒素雰囲気下で50℃から220℃まで昇温速度10℃/分で測定した。または、ブルカー・エイエックスエス製のDSC3200 DSC示差走査熱量測定装置を用い、50℃から220℃まで昇温速度10℃/分で測定した。
【0114】
製造例3に準じて得た本件化合物1のA形結晶を測定した結果、図2に示されるチャートを得た。本件化合物1のA形結晶の示差走査熱量分析においては、約182℃に吸熱ピークを認めた。なお、水和物または溶媒和物を示唆するピークは特に認められなかった。
また製造例4に準じて得た本件化合物1のB形結晶を測定した結果、図5に示されるチャートを得た。本件化合物1のB形結晶の示差走査熱量分析においては、約203℃に吸熱ピークを認めた。なお、水和物または溶媒和物を示唆するピークは特に認められなかった。
本発明においては、本件化合物1が水和物または溶媒和物となっていても特に問題とは言えないが、好ましくは無水和物、または無溶媒和物であることがより好ましい。
【0115】
〔試験例3〕赤外吸収スペクトル分析
本願明細書の製造例3及び6に準じて得た結晶につき、臭化カリウム錠剤法で測定した。
製造例3に準じて得た本件化合物1のA形結晶を測定した結果、図3に示されるスペクトルを得た。その結果、本件化合物1のA形結晶の赤外吸収スペクトルにおいては、波数3361、2938、1712、1204、1011及び746cm-1に顕著な赤外線吸収バンドを認めた。また、3443、3349、1620、1515、1480又は1278cm-1のいずれか、又は全部にも赤外線吸収バンドを認め、これらのうちのいずれかは少なくとも特徴的なピークと捉えることもできる。さらに、3473、1585、1432、1343、1159、781又は615cm-1のいずれか、又は全部にも赤外線吸収バンドを認め、これらのうちのいずれかは少なくとも特徴的なピークと捉えることもできる。
【0116】
また製造例6に準じて得た本件化合物1のB形結晶を測定した結果、図6に示されるスペクトルを得た。そのB形結晶の赤外吸収スペクトルにおいては、波数2939、1720、1224、1016及び751cm-1に顕著な赤外線吸収バンドを認めた。また、3407、3358、1513、1476又は852cm-1のいずれか、又は全部にも赤外線吸収バンドを認め、これらのうちのいずれかは少なくとも特徴的なピークと捉えることもできる。さらに、3447、3325、1615、1339、1157、945、783及び617cm-1のいずれか、又は全部にも赤外線吸収バンドを認め、これらのうちのいずれかは少なくとも特徴的なピークと捉えることもできる。
【0117】
〔試験例4〕走査型電子顕微鏡(SEM)観察
本願明細書の製造例3および4で得た結晶につき、SEM観察を行った。
製造例3の本件化合物1のA形結晶を測定した結果、図7に示されるSEM写真を得た。
製造例4の本件化合物1のB形結晶を測定した結果、図8に示されるSEM写真を得た。
しかしながら、これらは参考のみの目的で示され、本発明のいずれの結晶の特性も当該電子顕微鏡像により規定されることはなく、またこれに限定される必要はない。
【0118】
〔試験例5〕MOG誘発マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎に対する効果
(1)測定方法
MOGの部分ペプチドであるMOG35−55で感作することにより、ヒトの多発性硬化症様の病態を示すことから多発性硬化症の動物病態モデルとみなされるMOG誘発マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎(Mendel, I., Kerlero de Rosbo, N., and Ben-Num. A., European Journal of. Immunology 25: PP. 1951-1959, 1995)に対する発症予防効果を以下の方法で調べた。C57BL/6雌性マウス(7週齢)を一群6又は7匹として試験に供した。MOG35−55(渡辺化学工業)を3mg/mLになるように生理食塩水に溶解したものと、2.5mg/mLの結核死菌(DIFCO社)を含むコンプリートフロインドアジュバンド(DIFCO社)を等量混和してエマルジョンを作製した。試験動物の右側腹部皮下に該エマルジョンを注射し、同じ日に500ngのアイレットアクチベーティングプロテイン(フナコシ株式会社)を腹腔内に投与した。さらにその2日後に500ngのアイレットアクチベーティングプロテインを再度腹腔内に投与して免疫した。製造例3の方法に準じて得た本件化合物1のA形結晶を0.5%のメチルセルロースを含む精製水に懸濁させ、試験動物に30mg/kg、50mg/kg、もしくは100mg/kgになるように経口投与した。投与は該エマルジョンを注射した日から14日間、1日1回行った。対照群には被験化合物無添加の0.5%のメチルセルロースを含む精製水を同様に投与した。陽性対照群には3mg/kgとなるようにステロイド薬であるプレドニゾロンを3mg/kgの用量で投与した。各マウスの体重と脳脊髄炎症状スコアを毎日測定した。脳脊髄炎症状スコアは尾および四肢を主要な評価部位として以下の基準で測定した。スコア0:変化なし、スコア1:尾の弛緩、スコア2:後肢の不完全麻痺、スコア3:後肢の完全麻痺、スコア4:後肢の完全麻痺と前肢の麻痺、スコア5:死亡。初めて1以上の脳脊髄炎症状スコアが認められた日を発症日とした。各群の個体数に対する1以上の脳脊髄炎症状スコアを示した個体数の割合を百分率で示したものを発症率とした。
【0119】
(2)測定結果
対照群の発症率は100%、プレドニゾロン投与群の発症率は67%であったのに対し、30mg/kg及び50mg/kgの本件化合物1を投与した群の発症率は29%、100mg/kgの本件化合物1を投与した群の発症率は0%であった。また、いずれの用量においても、死亡や体重減少などの毒性学的兆候は認められなかった。従って3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸(本件化合物1)は多発性硬化症、特にMOGに対する自己免疫反応が病態形成に重要な多発性硬化症の治療剤、特に予防的な治療剤として有用であり、また、多発性硬化症の発症に伴い生ずる四肢の麻痺、すなわち、下肢の麻痺および/又は手の麻痺の予防及び/又は治療剤として有用である。
本件化合物1のB形結晶についても上記と同様の方法により、多発性硬化症の予防及び/又は治療剤としての効果を確認することができる。
【0120】
〔試験例6〕アポE欠損自然動脈硬化発症マウスモデルに対する発症予防効果
(1)測定方法
動脈硬化症を自然発症するアポリポ蛋白E(アポE)遺伝子欠損マウスに、製造例3の方法に準じて得た本件化合物1のA形結晶を投与し、動脈硬化発症に対する本件化合物1の作用を以下の方法で調べた。
アポE遺伝子を人為的に欠損させた雄性、8週齢のB6.129P2-Apoe<tm1Unc>/Jマウス(Jackson Laboratory)を用いた。本件化合物1のA形結晶をラット・マウス用粉末飼料CRF-1(日本チャールス・リバー株式会社)に均一に混ぜ、混餌投与により該マウスに投与した。投与量は一日あたり約60mg/kgとした。すなわち、予めマウス一匹の一日あたりの自由摂餌での摂餌量を測定し、一日あたり60mg/kgの本件化合物を摂取することになるように本件化合物1のA形結晶を均一に混合して含有する粉末飼料を調製し、該マウスに自由に摂取させた。飲水は水道水を自由摂取させた。対照群には本件化合物1を混ぜていない粉末飼料を与えた。8週間、13週間又は18週間投与を行った後にマウスを安楽死させ、大動脈近位部を摘出してホルマリンで固定し、病理切片標本を作製した。病理切片標本を顕微鏡下で観察し、大動脈内膜の肥厚面積を測定した。各時点での各群の例数は8匹又は9匹とした。
【0121】
(2)測定結果
本件化合物1のA形結晶投与群の摂餌量及び各個体の体重を測定し、本件化合物1の摂取量を計算した結果、一日あたりの摂取量は55.3〜63.0mg/kgであった。
8週間、13週間及び18週間投与後の対照群における大動脈内膜の肥厚面積の平均値±標準誤差は、それぞれ0.0679±0.00706、0.131±0.0177及び0.216±0.0226 mm2であったのに対し、8週間、13週間及び18週間投与後の本件化合物1投与群における大動脈内膜の肥厚面積の平均±標準誤差は、それぞれ0.0533±0.0108、0.101±0.0223及び0.188±0.0256 mm2であった。すなわち、いずれの時点においても本件化合物1のA形結晶投与群の大動脈内膜の肥厚面積は、対照群よりも小さい値を示した。
本件化合物1のB形結晶についても上記と同様の方法により、動脈硬化症治療剤としての効果を確認することができる。
【0122】
〔試験例7〕ラット28日間連続投与毒性試験
(1)方法
雄性および雌性のSDラットに、1%メチルセルロース水溶液に懸濁した本件化合物1のA形結晶を、20mg/kg/日、100mg/kg/日、500mg/kg/日になるように一日1回、28日間経口投与を行った。各投与群の例数は一群あたり10匹で行った。
(2)結果
いずれの投与群においても、死亡例は認められなかった。
本件化合物1のB形結晶についても上記と同様の方法により、低毒性であることを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本件化合物1のA形結晶の粉末X線回折スペクトル。図中、縦軸は強度(CPS)を示し、横軸は2θ(°)を示す。
【図2】本件化合物1のA形結晶の示差走査熱量分析。図中、縦軸はmWを示し、横軸は温度(℃)を示す。
【図3】本件化合物1のA形結晶の赤外吸収スペクトル。図中、縦軸は透過率(%)を示し、横軸はcm-1を示す。
【図4】本件化合物1のB形結晶の粉末X線回折スペクトル。図中、縦軸は強度(CPS)を示し、横軸は2θ(°)を示す。
【図5】本件化合物1のB形結晶の示差走査熱量分析。図中、縦軸はmWを示し、横軸は温度(℃)を示す。
【図6】本件化合物1のB形結晶の赤外吸収スペクトル。図中、縦軸は透過率(%)を示し、横軸はcm-1を示す。
【図7】本件化合物1のA形結晶の結晶形状を示す図面代用写真であって、走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】本件化合物1のB形結晶の結晶形状を示す図面代用写真であって、走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を有効成分として含む多発性硬化症の予防及び/又は治療のための医薬。
【請求項2】
多発性硬化症がミエリンタンパク質に対する自己免疫反応性を有する多発性硬化症である請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
多発性硬化症がミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質に対する自己免疫反応性を有する多発性硬化症である請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
多発性硬化症に伴い生ずる四肢の麻痺を予防及び/又は治療するための請求項1〜3のいずれかに記載の医薬。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医薬の製造のための3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物の使用。
【請求項6】
3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物を有効成分として含む動脈硬化症の予防及び/又は治療のための医薬。
【請求項7】
動脈硬化症が粥状動脈硬化症である請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
動脈硬化症が脂質異常症に伴い生ずる動脈硬化症である請求項6又は7に記載の医薬。
【請求項9】
脂質異常症がIII型脂質異常症である請求項8に記載の医薬。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれか1項に記載の医薬の製造のための3−[3−アミノ−4−(インダン−2−イルオキシ)−5−(1−メチル−1H−インダゾール−5−イル)フェニル]プロピオン酸又はその塩、これらのプロドラッグ、あるいはそれらの水和物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−167137(P2009−167137A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8745(P2008−8745)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】