説明

フェニルプロペンアミド誘導体を有効成分とする糖化最終産物形成阻害剤

【課題】新規なAGE形成阻害剤を提供すること。
【解決手段】


(式中、Rは、アルキルチオ基を示す。)で表されるフェニルプロペンアミド誘導体、その塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤。優れたAGE産生阻害作用を有し、糸球体疾患の予防及び/又は治療剤、特に糖尿病性腎症の予防及び/又は治療用の医薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糸球体病変における不可逆的蛋白修飾による糖尿病性腎症の発症又は進展に対する予防及び/又は治療に有用な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、本邦では糖尿病患者、糖尿病が疑われる患者及び糖尿病予備群が約2千万人存在するといわれている。糖尿病を起因とした合併症のうち、糖尿病性腎症の発症率は年々増加の推移をたどり、すでに慢性糸球体腎炎の発症率を上回り第一位となっている。
【0003】
糖尿病性腎症が発症した場合における最大の問題点は、末期腎不全即ち透析への移行率が、非常に高いことにある。また、糖尿病性腎症による透析への移行は医療費高騰等の社会的に大きな問題となっている。そこで、糖尿病性腎症に関わる治療剤、又は予防を期待できる薬剤が強く望まれている。
【0004】
糖尿病性腎症の成因には、(1)遺伝的素因をはじめとして、(2)糸球体血行動態変化、(3)グリケーションの亢進やカルボニル・酸化ストレスにより生じた糖化最終産物(Advanced Glycation End Products(以下、「AGE」と称する))の蓄積、(4)Protein Kinase Cの活性化や、(5)ポリオール代謝の亢進など、様々な因子の関与が考えられている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。
【0005】
現在、糖尿病性腎症の治療現場では、糸球体血行動態の改善を主目的としたアンジオテンシン変換酵素阻害剤(以下、「ACE阻害剤」と称する)やアンジオテンシンIIの1型受容体拮抗剤(以下、「ARB」と称する)が汎用されており、基礎のみならず臨床的なevidenceが報告されている(非特許文献6、非特許文献7)。しかしながら、これらの多くは血圧降下剤として認可されており、糖尿病性腎症の治療剤としての認可はほとんどなされていない。単に、糖尿病性腎症の患者の多くは高血圧であることから、これらが汎用されているに過ぎない。なお、ACE阻害剤のタナトリル錠(塩酸イミダプリル)は1型糖尿病性腎症の治療剤として初めて認可されたものの、糖尿病性腎症に対する治療又は予防的作用を有する薬剤はほとんどなく、新規な薬剤の登場が切望されている。
【0006】
そこで次の糖尿病性腎症の治療剤として、AGE形成阻害剤が注目を浴びている。AGEで修飾されたタンパクは腎循環動態、腎糸球体基底膜の濾過機構等、多数の腎機能に悪影響を及ぼし、また、AGE自身がメサンギウム細胞等の腎構成細胞に多数存在するAGE関連受容体(例えば、Receptor for AGE:RAGE)に作用して、サイトカインや増殖因子等の障害因子を産生させることが報告されている(非特許文献8)。従って、AGEの形成を抑制することは、糖尿病性腎症の進展抑制に繋がると考えられる。
【0007】
アミノグアニジンは、反応性カルボニル化合物(3−デオキシグルコソン、メチルグリオキサールなど)の捕捉作用、酸素ラジカル(特に、ヒドロキシラジカル)の捕捉作用及び金属キレート形成作用により、AGEの形成を阻害すると考えられており、AGE阻害に基づく糖尿病性腎症の治療剤として、最初に本格的な研究がなされた化合物である。しかし、これはすでに臨床治験も終了したが、いまだ実用化には至っていない。(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【0008】
また、その他のAGE形成阻害剤としてはアミノグアニジンの誘導体であるOPB−9195、LR−90、ALT−946、天然化合物及びその類縁体であるチアミン(ビタミンB)、チアミンピロリン酸、ベンフォチアミンなど幾つかの化合物が知られている(非特許文献12)が、いずれも実用化には至っていない。
その一方で下記一般式(1)で示されるようなフェニルプロペンアミド構造を骨格として持つAGE形成阻害剤は知られていなかった。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは、C〜Cアルキルチオ基を示し、Rは、水素原子、又はC〜Cアルキル基を示し、Rは、水素原子、C〜C10アリールカルボニル基、C〜Cアシル基、又はC〜Cアルキルオキシカルボニル基を示す。)
【0011】
【非特許文献1】Cooper,ME.etal.;Lancet,352,213-219,1998.
【非特許文献2】槙野博史;糖尿病性腎症発症・進展機序と治療:80−121,1999年;診断と治療社
【非特許文献3】Bohlender, J.et al.;Am. J. Physiol. Renal Physiol.,289,F645-F659,2005
【非特許文献4】D, Jay.et al.;FreeRadical Biology & Medicine,40,183-192,2006
【非特許文献5】Vinik, A.;Expert Opin. Investig. Drugs,14(12),1547-1559,2005
【非特許文献6】Masakuni,N.et al.;Jpn. J. Pharmacol.,85:416-422,2001
【非特許文献7】Rossing, K.et al.;DiabetesCare.,28(9):2106-2112,2005
【非特許文献8】Locatelli, F.et al.;Nephrol.Dial.Transplant.,18(9):1716-25,2003
【非特許文献9】Price,DL.et al.;J. Biol. Chem.,276,48967-48972,2001
【非特許文献10】Abdel-Rahman, E.et al.;ExpertOpin. Investig. Drugs.,11(4):565-574,2002
【非特許文献11】Mark E.et al.;Current Diabetes Reports.,4:441-446,2004
【非特許文献12】今泉勉 ほか;AGEs研究の最前線:209−217,2004年;メディカルレビュー社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、新規なAGE形成阻害剤を提供することにある。AGE形成阻害剤は糸球体病変における不可逆的蛋白修飾による糖尿病性腎症の発症及び進展に対する予防又は治療に有用である。また、原疾患が糖尿病性腎症と診断されていない患者であっても、慢性糸球体腎炎や高血圧性腎症などの糸球体疾患により透析移行している患者の多くは血漿中のAGEが著しく増加しているという周知の事実から、AGE形成阻害剤は糖尿病性腎症のみならず、慢性糸球体腎炎や高血圧性腎症なども含めた糸球体疾患に対する予防又は治療に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記実情に鑑み、本発明者らは、AGE形成阻害作用を持つ化合物を探索した結果、下記一般式(1)で表される化合物が、AGEの一種であるペントシジンを指標にしたin vitro系での阻害試験において、アミノグアニジンと比較して、強いAGE形成阻害作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明を詳述すると以下の通りである。
<1> 次の一般式(1)
【0015】
【化2】


(式中、Rは、C〜Cアルキルチオ基を示し、Rは、水素原子、又はC〜Cアルキル基を示し、Rは、水素原子、C〜C10アリールカルボニル基、C〜Cアシル基、又はC〜Cアルキルオキシカルボニル基を示す。)で表されるフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
<2> Rは、メチルチオ基であり、Rは、水素原子、又はメチル基であり、Rは、水素原子、C〜C10アリールカルボニル基、又はC〜Cアルキルオキシカルボニル基である<1>記載のフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
<3> N−メチル−N−(o−メチルチオフェニル)アクリルアミド、(E)−N−(o−メチルチオフェニル)−3−メトキシカルボニルプロペンアミド、及び(E)−N−メチル−N−(o−メチルチオフェニル)−3−ベンゾイルプロペンアミドからなる群から選ばれるフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
<4> <1>〜<3>のいずれかに記載のフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤。
<5> <1>〜<3>のいずれかに記載のフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする糸球体疾患の予防及び/又は治療剤。
<6> 糸球体疾患が、糖尿病性腎症である<5>記載の予防及び/又は治療剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一般式(1)で表される化合物、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、後記試験例に示すように、優れたAGE形成阻害作用を有し、糸球体疾患の予防及び/又は治療剤、特に糖尿病性腎症の予防及び/又は治療剤として有用である。
【0017】
実施例に記載するとおり、血液透析患者の血漿を用い、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した評価において、各被検薬物は、アミノグアニジンと比べ、同等以上の優れたAGE形成阻害活性を示した。即ち、血液透析患者の血漿を用い、37℃、7日間、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した系において認められた主要なAGEの一種であるペントシジンの生成に対して、各被検薬物の添加は、いずれもアミノグアニジン添加に比べ、同等以上の強いペントシジン生成抑制作用を示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書中、C〜Cアルキル基とは、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜6のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
本明細書中、C〜Cアルキルチオ基としては、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、イソブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基等が挙げられ、メチルチオ基が好ましい。
本明細書中、C〜C10アリールカルボニル基とは、C〜C10アリール基にカルボニル基が結合した基である。具体的には、フェニルカルボニル基、1−ナフチルカルボニル基、2−ナフチルカルボニル基、アズレニル基等が挙げられ、フェニルカルボニル基が好ましい。
本明細書中C〜Cアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、2−メチルペンタノイル基、3−メチルペンタノイル基、4−メチルペンタノイル基、2,2−ジメチルブタノイル基、2,3−ジメチルブタノイル基、3,3−ジメチルブタノイル基等が挙げられる。
本明細書中、C〜Cアルキルオキシカルボニル基とは、上述のC〜Cアルキル基にオキシカルボニル基が結合した基である。具体的には、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、イソブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられ、メチルオキシカルボニル基が好ましい。
【0019】
本発明の好ましい例としては、N−メチル−N−(o−メチルチオフェニル)アクリルアミド、(E)−N−(o−メチルチオフェニル)−3−メトキシカルボニルプロペンアミド、又は(E)−N−メチル−N−(o−メチルチオフェニル)−3−ベンゾイルプロペンアミドが挙げられる。
【0020】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、塩にすることができる。
好ましい塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩のような鉱酸の酸付加塩;安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等の有機酸の酸付加塩が挙げられ、薬学上許容される塩であれば特に制限されない。
また、一般式(1)で表される化合物は、水和物に代表される任意の溶媒和物を形成することができ、これらの溶媒和物も本発明に包含される。
さらに、一般式(1)で表される化合物に光学異性体や幾何異性体が存在する場合は、これらすべての異性体が本発明に包含される。
【0021】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、例えば下記1)の手法により製造することができる。
1)
【0022】
【化3】

【0023】
[図中、R、R及びRは前記と同じ置換基を示し、R及びRはC〜Cアルキル基を示し、PGは保護基を示し、Xはハロゲンを示す。]
【0024】
一般式(1)で表される化合物は、ベンゾチアジン−3−オン誘導体(II)又は、(V)より製造することができる。これ等は夫々市販品を用いることができる。
ベンゾチアジン−3−オン誘導体(II)に対し、ハロゲン化剤と反応後、塩基存在下アルコールと処理することでアルコキシベンゾチアジン−3−オン誘導体(III)を製造することができる。ハロゲン化剤としては、臭素、ヨウ素、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミド等を使用することができ、塩基としては、特に制限はないが、例えば水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の水素化アルカリ金属類、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属類、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等の炭酸アルカリ金属類、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の重炭酸アルカリ金属類、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウム t−ブトキシド、カリウム t−ブトキシド等のアルコールの金属塩類、トリエチルアミン、ピリジン、イミダゾール、4−ジメチルアミノピリジン等の有機塩基等を使用することができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を使用することができる。溶媒としては、特に制限はないが、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、アセトン、ブタノン、アセトニトリル、プロピオニトリル等を単独又は組み合わせて用いることができる。反応温度は−78℃〜100℃、好ましくは−30℃〜50℃で、反応時間は5分〜24時間、好ましくは1〜5時間反応させることによって目的物を製造することができる
【0025】
アルコキシベンゾチアジン−3−オン誘導体(III)に対し、塩基存在下、求核置換反応の後、酸処理を行うことで(V)を製造することができる。塩基としては、前記と同じものを使用することができる。求核種としては、アセト酢酸エステル誘導体、メルドラム酸、マロン酸エステル誘導体等の活性メチレン(IV)を使用することができる。酸としては特に制限はないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の鉱酸又は酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸等の有機酸を使用することができる。溶媒としては、特に制限はないが、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン等を単独又は組み合わせて用いることができる。反応温度は−78〜100℃、好ましくは0〜100℃で、反応時間は5分〜5日間、好ましくは1時間〜1日反応させることによって(V)が得られる。
【0026】
(V)に対し、アルキルハライドで処理した後、塩基と反応させることによりフェニルプロペンアミド誘導体(1)を製造することができる。
アルキルハライドとしては、メチルアイオダイド、エチルアイオダイド、n−プロピルアイオダイド、n−プロピルクロリド、n−プロピルブロミド、アリールアイオダイド、アリールクロリド、アリールブロミド、n−ブチルアイオダイド、n−ブチルブロミド、n−ブチルクロリド、n−ペンタンアイオダイド、n−ペンタンクロリド、n−ペンタンブロミド、n−ヘキサンアイオダイド、n−ヘキサンクロリド、n−ヘキサンブロミド等のC〜Cアルキルハライドを使用することができる。塩基としては、前記と同じものを使用することができる。溶媒としては、特に制限はないが、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、アセトン、ブタノン、アセトニトリル、プロピオニトリル等を単独又は組み合わせて用いることができる。反応温度は−78℃〜100℃、好ましくは−30℃〜50℃で、反応時間は12時間〜5日、好ましくは1〜3日反応させることによって目的物を製造することができる。
【0027】
(V)は必要に応じて保護基を導入することができる。すなわち、(V)に対し、公知の方法(Protective groups in organic synthesis third edition,John Wiley & Sons,Inc.記載の方法等)により(V’)を製造することができる。保護基としては、公知のもの(Protective groups in organic synthesis third edition,JohnWiley & Sons,Inc.記載の方法等)を用いることができ、好ましくはアセチル基、ピバロイルオキシメチル基等を用いることができる。(V’)に対し、アルキルハライドで処理した後、塩基と反応させ、保護基を除去することによりフェニルプロペンアミド誘導体(1)を製造することができる。
アルキルハライドとしては、前記と同じものを使用することができる。塩基としては、前記と同じものを使用することができる。溶媒としては、特に制限はないが、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、アセトン、ブタノン、アセトニトリル、プロピオニトリル等を単独又は組み合わせて用いることができる。反応温度は−78℃〜100℃、好ましくは−30℃〜50℃で、反応時間は12時間〜5日、好ましくは1〜3日反応させることによって目的物を製造することができる。保護基の除去は公知の方法(Protective groups in organic synthesis third edition,JohnWiley & Sons,Inc.記載の方法等)に準じる。
【0028】
また、一般式(1)で表される化合物は、2)の手法により製造することもできる。
2)
【0029】
【化4】

【0030】
[図中、R、R及びRは前記と同じ置換基を示し、Xはハロゲンを示す。]
【0031】
フェニルプロペンアミド誘導体(VIII)はアニリン誘導体(VI)に対し、塩基存在下ハロゲン化アルケニル誘導体(VII)と反応させることによって製造することができる。ハロゲン化アルケニル誘導体としては、アクリル酸クロリド、クロトン酸クロリド、シンナモイルクロリド等を使用することができる。塩基としては、前記と同じものを使用することができる。溶媒としては、特に制限はないが、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン等を単独又は組み合わせて用いることができる。反応温度は−78℃〜100℃、好ましくは−30℃〜50℃で、反応時間は5分〜24時間、好ましくは1〜6時間反応させることによってフェニルプロペンアミド誘導体(VIII)を製造することができる。アニリン誘導体(VI)は市販品を用いることができる。
フェニルプロペンアミド誘導体(VIII)に対し、塩基存在下アルキルハライド(IX)と反応させることにより、アルキルフェニルプロペンアミド誘導体(1)を製造することができる。塩基としては、前記と同じものを使用することができる。アルキルハライドとしては、前記と同じものを使用することができる。溶媒としては、特に制限はないが、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン等を単独又は組み合わせて用いることができる。反応温度は−78℃〜100℃、好ましくは−30℃〜50℃で、反応時間は30分〜24時間、好ましくは30分〜6時間反応させることによってアルキルフェニルプロペンアミド誘導体(1)を製造することができる。
【0032】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、上記方法によって得られるが、さらに必要に応じて再結晶法、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段を用いて精製することができる。また必要に応じて、常法によって前記した所望の溶媒和物にすることもできる。
【0033】
本発明の医薬組成物は、一般式(1)で表される化合物、又はそれらの溶媒和物を含有するものであって、単独で用いてよいが、通常は薬学的に許容される担体、添加物等を配合して使用される。医薬組成物の投与形態は、特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できる。斯かる剤形としては、例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等を挙げることができる。
【0034】
これらの製剤は、その剤形に応じて製剤学上使用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物と適宜混合、希釈又は溶解し、常法に従い製造することができる。
【0035】
例えば、散剤の場合は、必須成分のほかに、必要に応じて適当な賦形剤、滑沢剤等を加えよく混和して調製すればよい。錠剤の場合は、必要に応じて適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を加え、常法に従い打錠して調製すればよい。また錠剤は必要に応じてコーティングを施し、フィルムコート錠、糖衣錠等にすることができる。
【0036】
また、注射剤の場合は、液剤(無菌水又は非水溶液)、乳剤及び懸濁剤の形態とすることができる。これらに用いられる非水担体、希釈剤、溶媒又はビヒクルとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射可能な有機酸エステルが挙げられる。また、該組成物には防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の補助剤を適宜配合することができる。
【0037】
本発明の一般式(1)で表される化合物の投与量は年齢、体重、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して1日1〜1000mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[製造例1]
N−(o−メチルチオフェニル)アクリルアミドの製造
(o−メチルチオ)アニリン(4.55g、東京化成化学工業株式会社製)を無水塩化メチレン(25mL)に溶かし、0℃に冷却する。プロペニル クロリド(5.9g)とトリエチルアミン(9.12mL)をゆっくり加える。反応混合物を0℃で2.5時間撹拌した後、水、1M塩酸、5%水酸化ナトリウムで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:5)ですばやく精製し生成物(2.5g,40%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:2.39(3H,s),5.80(1H,d,J=10 Hz),6.32(1H,dd,J=10,17 Hz),6.44(1H,d,J=10 Hz),6.49(1H,d,J=8 Hz),7.05−7.15(1H,m),7.28−7.35(1H,m),7.50(1H,d,J=8 Hz).
【実施例1】
【0039】
N−メチル−N−(o−メチルチオフェニル)アクリルアミドの製造
N−(o−メチルチオフェニル)アクリルアミド(2.65g)を無水塩化メチレン(30mL)に溶かし、氷冷下水素化ナトリウム(60% in mineral oil)(548mg)を加えた。30分撹拌した後、メチルアイオダイド(1.95g)を加えて2.5時間撹拌した。反応混合物を水で洗浄後、塩化メチレンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:3)で精製し、生成物(2.5g,88%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:2.44(3H,s),3.26(3H,s),5.48(1H,dd,J=2,10 Hz),5.89(1H,dd,J=10,17 Hz),6.37(1H,dd,J=2,17 Hz),7.12(1H,dd,J=1,8 Hz)7.15−7.32(2H,m),7.35−7.42(1H,m).
【0040】
[製造例2]
メチル 4―アセチル−3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾチアジニルアセテートの製造
メチル 3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾチアジニルアセテート(1.18g、シグマ アルドリッチ ジャパン社製)を無水酢酸(2mL)に溶解し、5時間過熱環流した。室温まで冷却し、反応混合物を水で洗浄後、重曹を加え塩化メチレンで抽出、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:1)で精製し、生成物(490mg,35%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:2.55−2.70(1H,m),2.68(3H,s),3.05−3.17(1H,m),3.75(3H,s),3.80−3.90(1H,m),7.15−7.20(1H,m),7.21−7.35(2H,m),7.42−7.50(1H,m).
【実施例2】
【0041】
(E)−N−(o−メチルチオフェニル)−3−メトキシカルボニルプロペンアミドの製造
メチル 4−アセチル−3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾチアジニルアセテート(450mg)を無水塩化メチレン(10mL)に溶解し、氷冷下、メチルアイオダイド(2.06g)と銀 テトラフルオロボレート(343mg)を加え、室温で15時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、ろ液を濃縮した。残渣を塩化メチレン(15mL)に溶解し、5%水酸化ナトリウム水溶液−塩化メチレン(5mL−5mL)を滴下し、室温で30分攪拌した。反応液を塩化メチレンで抽出、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、濃縮した。残渣を薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、生成物(40mg,10%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:2.39(3H,s),3.83(3H,s),6.95(1H,d,J=15 Hz),7.11(1H,d,J=15 Hz),7.05−7.20(1H,m),7.30−7.38(1H,m),7.51(1H,d,J=8 Hz),8.43(1H,d,J=8 Hz),8.67(1H,br s).
【0042】
[製造例3]
2−エトキシ−4−メチル−3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾチアジンの製造
4−メチル−3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾチアジン(6.72g、シグマ アルドリッチ ジャパン社製)を無水四塩化炭素(60mL)に溶かし、0℃下、N−クロロスクシンイミド(5.18g)を加え、溶液を徐々に室温まで加温し、3時間撹拌した。次いでエタノール(8.0g)とピリジン(4.0g)をゆっくり加え、100℃で1時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、水で2回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮し、生成物(8.35g,98%)得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.11(3H,t,J=7 Hz),3.52(3H,s),3.80(2H,q,J=7 Hz),5.10(1H,s),7.06(1H,dd,J=1,8 Hz),7.15(1H,d,J=7 Hz),7.25−7.32(1H,m),7.37(1H,dd,J=1,8 Hz).
MS m/z:223(M+).Anal.Calcd. for C1113NOS:C,59.17;H,5.87;N,6.27.Found:C,59.20;H,5.935;N,6.31.
【0043】
[製造例4]
2−ベンゾイルメチル−4−メチル−3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾチアジンの製造
2−エトキシ−4−メチル−3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾチアジン(2.0g)を無水塩化メチレン(30mL)に溶かし、メチル ベンゾイルアセテート(3.45g)を加えた。0℃下、トリフルオロボラン エーテレート(1.3mL)を加え、徐々に室温まで戻し、50℃まで加温し、4時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、水で洗浄後、塩化メチレンで抽出、硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。残渣にエタノール(5mL)、水(5mL)を加えて溶かし、濃硫酸(2.4mL)をゆっくり加え、16時間還流した。室温まで冷却し、水で洗浄、酢酸エチルで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:10)で精製し、生成物(2.01g,75%) を得た。
H−NMR(CDCl)δ:3.12(1H,dd、J=6,17 Hz),3.46(3H,s),3.84(1H,dd,J=7,17 Hz),4.21(1H,dd,J=6,7 Hz),7.02−7.11(2H,m),7.12−7.20(1H,m),7.27−7.35(2H,m),7.35−7.40(1H,m),7.45−7.53(1H,m),7.53−7.63(1H,m),7.98(1H,d,J=7 Hz).
HRMS m/z:297.0821 Calcd.for C1715NOS Observed 297.0820.
【実施例3】
【0044】
(E)−N−メチル−N−(o−メチルチオフェニル)−3−ベンゾイルプロペンアミドの製造
2−ベンゾイルメチル−3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾチアジン(2.0g)を無水塩化メチレン(80mL)に溶かし、メチルアイオダイド(9.3g)を加えた。0℃下、銀 テトラフルオロボレート(1.4g)を加え、室温に戻し一夜撹拌した。析出した結晶をろ過し、アセトニトリルで洗浄後、ろ液を濃縮しスルホニウム塩の結晶(2.0g)を得た。スルホニウム塩をアセトニトリルに溶解し、0℃で2当量のトリエチルアミンを加え、1時間撹拌した。反応液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:酢酸エチル=10:1)で精製し、生成物(1.0g,48%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:2.43(3H,s),3.32(3H,s),6.72(1H,d,J=15 Hz),7.13−7.26(3H,m),7.36−7.46(3H,m),7.54−7.58(1H,m)7.94(2H,d,J=8 Hz),7.96(1H,d,J=15 Hz).
HRMS m/z:311.0978 Calcd. for C1817NOS.Observed 311.0977.
【実施例4】
【0045】
血液透析患者の血漿を用いてのAGE形成阻害作用
血液透析患者の血漿中AGE(指標:ペントシジン)の測定はMiyataらの報告に従って実施した(Miyata,T.et al:J Am Soc Nephrol,13,2478-2487,2002)。血液透析患者の血漿0.9mLをアミノグアニジン又は各被検薬物の存在下(添加量は0.1mL)で、37℃で7日間反応した。アミノグアニジン及び各被検薬物の最終濃度は5.0mMとした。なお、アミノグアニジン又は各被検薬物はジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解して使用した。DMSOの最終濃度は反応溶液1mL中、反応時における酸化反応に影響しない10%とした。7日間の反応後に、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した血漿中のペントシジンの濃度を以下に示す方法で測定した。
【0046】
反応溶液0.05mLに等量の10%トリクロロ酢酸(以下、「TCA」と称する)を加え、5000×g、5分間遠心した。上清を除去し、沈殿物を5%TCA0.3mLで洗い、その後凍結乾燥し乾燥させた。次いで、窒素条件下で110℃、16時間6N塩酸0.1mL添加し、乾燥物を加水分解した。引き続き、5N水酸化ナトリウム0.1mLと0.5Mリン酸緩衝液(pH7.4)0.2mLを添加し中和した。中和溶液は、口径0.5μmのフイルターを通し、リン酸緩衝液で希釈し、ペントシジン測定用サンプルを調整した。ペントシジン濃度の測定はMiyataらの方法に従って実施した。
【0047】
表1に、各被検薬物によるペントシジン形成阻害強度を、アミノグアニジンによる形成阻害強度を1.0とした場合における相対値として表した(形成阻害強度はコントロール群を対照においた。コントロール群にはDMSOのみ添加した)。
相対値=(被検薬物の形成阻害率)÷(アミノグアニジンの形成阻害率)
【0048】
アミノグアニジン及び各被検薬物の反応中における最終濃度は5.0mMに固定した。
【0049】
各被検薬物の相対値は、それぞれ2.36,2.35及び1.23と算出され、いずれもアミノグアニジンによるペントシジン形成阻害強度と同等以上であった。以上から、一般式(1)で表される本発明の化合物は、アミノグアニジンと同等以上の強力なAGE形成阻害作用を有し、さらに強力な治療剤としての可能性が本実験結果より明らかとなった。
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】


(式中、Rは、C〜Cアルキルチオ基を示し、Rは、水素原子、又はC〜Cアルキル基を示し、Rは、水素原子、C〜C10アリールカルボニル基、C〜Cアシル基、又はC〜Cアルキルオキシカルボニル基を示す。)で表されるフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
一般式(1)において、Rは、メチルチオ基であり、Rは、水素原子、又はメチル基であり、Rは、水素原子、C〜C10アリールカルボニル基、又はC〜Cアルキルオキシカルボニル基である請求項1記載のフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項3】
N−メチル−N−(o−メチルチオフェニル)アクリルアミド、(E)−N−(o−メチルチオフェニル)−3−メトキシカルボニルプロペンアミド、及び(E)−N−メチル−N−(o−メチルチオフェニル)−3−ベンゾイルプロペンアミドからなる群から選ばれるフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のフェニルプロペンアミド誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする糸球体疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項6】
糸球体疾患が、糖尿病性腎症である請求項5記載の予防及び/又は治療剤。


【公開番号】特開2009−7290(P2009−7290A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169680(P2007−169680)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】