フェニル酪酸ナトリウムを使用する、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物
【課題】フェニル酪酸ナトリウムを使用した、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物を提供する。
【解決手段】提供されるものは、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を含む、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物である。本発明に従う薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物は、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して神経伝達物質の濃度をコントロールすることにより、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の行動指標である自発運動の増加を阻害し得る効果を提供する。
【解決手段】提供されるものは、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を含む、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物である。本発明に従う薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物は、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して神経伝達物質の濃度をコントロールすることにより、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の行動指標である自発運動の増加を阻害し得る効果を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は、2005年9月23日に出願された韓国特許出願第10−2005−88935号及び2006年4月18日に出願された韓国特許出願第10−2006−34994号に基づき、且つそれからの優先権を主張するが、それらの開示の全てを参照としてここに組み込む。
【0002】
発明の分野
本発明は、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物に関する。より特には、本発明は、薬剤の新規使用としてフェニル酪酸ナトリウムを用いる、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
日常生活の過程で種々のストレスに曝されている現代人は、薬物依存症を起こし易く、そのため薬物依存症又はアルコール依存症は、大きな社会問題である。
【0004】
中毒性薬物として、モリヒネ、コカイン及びアンフェタミンのような麻薬、ニコチン及びアルコールが言及される。これらの薬物の中で、麻薬のような中毒性薬物は使用者を中毒にし、そしてそれらの使用の中止は重篤な禁断症状を引き起こし、そのため、薬物を使用しない日常生活を不可能にし、そして、最終的には人々を身体的及び精神的に衰弱した状態にし、高い危険性へ導く。
【0005】
例えば、コカインはコカ植物の葉から得られるアルカロイド薬剤であり、世界中で最も深刻な問題を引き起こす麻薬の一つである。コカインは、鼻腔の粘膜を介して吸収され、知覚神経終末に作用し、そのため痛覚阻害及び知覚麻痺のような感覚麻痺を引き起こす。従って、コカインは、1862年から手術及び診療における局所麻酔薬として使用されてきた。過剰量のコカインの吸収又はその反復使用は、コカイン中毒を引き起こすが、コカイン中毒といえば、栄養失調とともに、抑うつ症、不安神経症、睡眠障害、慢性疲労症候群及び精神錯乱のような精神疾患を伴う。
【0006】
コカインの利用は通常、その注射、摂取及び鼻孔吸入を介してなされる。コカインの中毒量は0.1gであり、その致死量は1.0gである。コカインの大量消費を原因とする急性中毒は、目まい、顔面蒼白及び散睡から始まり、それにより中毒、精神障害、幻視及び幻聴並びに失神を導き、最終的に呼吸困難致死又は心血管虚脱致死を引き起こす。その常用に起因するコカイン依存症は、モルヒネ中毒に類似するが、無気力及び体重減少のような顕著な肉体疲労並びに集中力の欠如及び精神的破綻のような精神医学上の問題を示す。加えて、コカイン依存症は、幻触、例えば、使用者が彼らの皮膚上を昆虫、イモムシ及び他の小動物がはっている感覚を経験するところの疾患のようなコカイン幻覚症の特定の形態に進行し得る。
【0007】
コカインのような依存性薬物において、反復投与を介するその投薬は、自発運動を増加する(Zavala AR,Nazarian A,Crawford CA,及びMcdougall SA,2000)。加えて、自発運動は行動感作を示す。行動感作とは、依存性薬物の少量の反復した間欠性の投与が自発運動及び定型化された運動(stereotype activity)を徐々に且つ増進的に増加させる現象である。行動感
作は、運動が徐々に増加する発生段階と増加した運動が長期間維持する発現段階に分けられ(Karler R,Chaudhry IA,Calder LD,及びTurkanis SA,1990)、薬物依存症の指標として使用される。
【0008】
コカインは、コカイン誘発の強化効果を介する依存症を引き起こすが、そのような行動感作に影響を及ぼす主な要因はドーパミン(DA)神経伝達系の活性化である。特に、腹側被蓋領域(VTA)に由来するA10神経が側坐核(NAcc)に突き出すところの中脳−辺縁系が、コカイン投与に起因する補償及び強化作用において重要な役割を演じることが知られている(アインホーン(Einhorn)LC、ヨハンセン(Johansen)DA及びホワイト(White)FJ、1988年)。コカインは主に、心拍出量の増加、血圧の上昇及び抹消血管の収縮のような薬理作用を介して心臓血管疾患を引き起こす(フォルチン(Foltin)RW、及びフィッシュマン(Fischman)MW、1988年)。加えて、コカイン投与は、中枢神経系から神経伝達物質であるドーパミンの放出の増加を導き、それにより、薬物依存症の病原因子をもたらす(ディスムケス(Dismukes)K、及びムルダー(Mulder)AH、1977年)。そのような薬物依存症は結果として精神障害を生じるが、側坐核(NAcc)及び線条体部位からのドーパミンの過剰放出により神経化学的に引き起こされる(クリーク(Kreek)MJ、1996年)。
【0009】
最近の研究は、神経活性がコカインの投与後に決定された場合、薬物依存症に関連した側坐核及び線条体のようなドーパミン作動性ニューロンの突起部位において、神経活性の指標として既知の前初期遺伝子であるc−fosの発現増加を報告している(ロバートソン(Robertson)HA、パウル(Paul)ML、モラタラ(Moratalla)R及びグレイビール(Graybiel)AM、1991年)。加えて、D1受容体アゴニストSKF−38393が実験動物に反復投与された場合、自発運動及び神経活性の指標であるc−fosの発現が阻害される(サリー(Sally)AF、シャウン(Shawn)AR、ムゴルザタ(Mdgorzata)K及びディビッド(David)JK、2000年)。更に、生化学的側面であるドーパミンと動物行動学的側面である自発運動の間の緊密な関係を示す実験的証拠が示されてきた(クゼンスキー(Kuczenski)R、セーガル(Segal)DS及びアイゼンシュタイン(Aizenstein)ML、1991年)。インビボの微小透析の使用を介した実験結果は、コカイン投与が、薬物依存症に関係する線条体及び側坐核においてドーパミン濃度を増加し、また、自発運動を増加することも示した(ポンティエリ(Pontieri)FE、タンダ(Tanda)G及びディチアラ(Dichiara)G、1995年)。
【0010】
躁うつ病(BD)は、自殺及び作業生産性の喪失に関連する主要な破滅的な精神病である(ベルメーカー(Belmaker)、2004年;クプファー(Kupfer)、2005年)。躁うつ病の病態生理学は、進歩した遺伝学、神経生物学及び薬理学にも拘らず不明なところが多いままである。ベニシオ(Benicio)N.フレイ(Frey)等(2006年、Effects of mood stabilizers on hippocampus BDNF levels in an animal mode of mania.Life Sciences,LFS−11196)は、アンフェタミン(AMPH)とアルコール依存症の治療のための代表的な薬剤であるリチウム又はバルプロエートとの同時投与に続く動物挙動(自発運動)の確認を介して、リチウム及びバルプロエートの精神安定効果を評価した。更に、ロベルト アルバン(Roberto Arban)等(2005年、Evaluation of the effects of lamotrigine,valproate and carbazepine
in a rodent model of mania.Behavioural Brain Research 158(2005)123−132)は、アンフェタミンとラモトリジン、バルプロエート及びカルバマゼピンとの同時投与後の実験動物の移動
距離を測定することにより、ラモトリジン、バルプロエート及びカルバマゼピンが、アンフェタミン誘発の行動活性を減少することを報告した。
【0011】
その一方で、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)は、周知の化学化合物であるが、今までに報告されたPBAの治療適用分野及び用法を以下に説明する。
フェニル酪酸ナトリウム(PBA)は、グルタミン濃度が減少することにより、有害なアンモニアの発生を減少することが従来報告されてきた。アンモナプス(登録商標:Ammonaps)が、主な成分としてフェニル酪酸ナトリウムを含む尿素サイクル異常症の治療のための治療薬として現在市場に出回っている。
【0012】
加えて、フェニル酪酸塩は、グルタミン濃度減少剤として作用することにより自閉症の治療において有効であることが報告されている。即ち、自閉症患者がグルタミン及びグリシンの異常に高い濃度を示すため、フェニル酪酸塩の投与を介したグルタミンの前駆体であり且つ興奮毒性アミノ酸である、グルタメートの濃度の減少を介してグルタミンの濃度を減少することにより自閉症の治療が可能となることが報告されている(米国特許第6,362,226号明細書)。
【0013】
更に、フェニル酪酸塩は、嚢胞性線維症及び腫瘍又は癌において治療効果を有することは既知であるが、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病におけるフェニル酪酸塩の治療効果は、未だ報告されていない。
【非特許文献1】ベニシオ(Benicio)N.フレイ(Frey)等、2006年、Effects of mood stabilizers on hippocampus BDNF levels in an animal mode of mania.Life Sciences,LFS−11196
【非特許文献2】ロベルト アルバン(Roberto Arban)等、2005年、Evaluation of the effects of lamotrigine,valproate and carbazepine in a rodent model of mania.Behavioural Brain Research 158(2005)123−132
【特許文献1】米国特許第6,362,226号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
技術的課題
従って、本発明は上記課題の観点においてなされたものであり、本発明の目的は、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して神経伝達物質の濃度をコントロールすることにより自発運動の増加を阻害することができる、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を用いる、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
技術的解決
本発明に従って、上記及び他の目的は、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を含む、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物の提供により達成され得る。
【0016】
図面の簡単な説明
本発明の上記及び他の目的、特徴及び他の利点は、図と一緒に用いられる以下の詳細な記述からより明確に理解され得る:
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1は、コカイン−誘発(急性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図1B】図1は、コカイン−誘発(急性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図2A】図2は、コカイン−誘発(急性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図2B】図2は、コカイン−誘発(急性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図3A】図3は、アンフェタミン−誘発(急性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図3B】図3は、アンフェタミン−誘発(急性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図4A】図4は、アンフェタミン−誘発(急性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図4B】図4は、アンフェタミン−誘発(急性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図5A】図5は、アンフェタミン−誘発(慢性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図5B】図5は、アンフェタミン−誘発(慢性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図6A】図6は、アンフェタミン−誘発(慢性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図6B】図6は、アンフェタミン−誘発(慢性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、及び
【図7A】図7は、連続した7日間、フェニル酪酸ナトリウム単独が、腹腔内投与を介して毎日投与された場合の動物の自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図7B】図7は、連続した7日間、フェニル酪酸ナトリウム単独が、腹腔内投与を介して毎日投与された場合の動物の自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明を実施するための最良の形態
以下に、本発明をより詳細に説明する。
本発明に従う医薬組成物中の主な成分として使用されるフェニル酪酸ナトリウムは、以下の構造式Iにより提示される:
【化1】
広範な調査の結果として、本発明者等は、尿素サイクル異常症の治療のための治療薬として現在主に使用されているフェニル酪酸ナトリウムが、新規治療用途として、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の治療において治療的に有効であることを見出し
た。本発明は、これらの発見に基づいて完成されている。
【0019】
本発明に基づく医薬組成物の適用を介して治療され得る薬物依存症は、アンフェタミン依存症及びコカイン依存症を含むが、これらに限定されるものではない。動物へのアンフェタミン又はコカインのような覚醒剤の反復投与は、行動感作と呼ばれる自発運動を顕著に増加する傾向にある。そのような現象は、薬物依存症の神経生物学的解明において重要である、手掛かりを提供することが知られている。
【0020】
本発明において、アンフェタミン又はコカインのような、覚醒剤の投与に起因する行動感作の形成におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果は、調査され、その結果として、フェニル酪酸ナトリウムが、薬物依存症の行動指標である自発運動の増加を阻害することが明らかにされ、それにより、フェニル酪酸ナトリウムが薬物依存症における治療効果を有することが確認された。
【0021】
何れかの特別な理論に結合される願望なしに、本発明に従った医薬組成物中の活性成分として使用されるフェニル酪酸ナトリウムは、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して、グルタメート、ドーパミン及びγ−アミノ酪酸(GABA)のような神経伝達物質の濃度をコントロールする。特に、フェニル酪酸ナトリウムはGluトランスポーターの発現を制御していると考えられる。
【0022】
本発明においては薬物依存症試験がコカイン及びアンフェタミンにおいて実施されてはいるが、本発明に従う医薬組成物はまた、アルコール依存症及び躁うつ病の治療に治療的に有効であると考えられる。
【0023】
アルコール及びコカインのような依存性薬物が、その依存症機構において、側坐核におけるドーパミン又はグルタメートのような神経伝達物質により影響されるという事実は、既知であり(チャールス(Charles)A.ダッキス(Dackis)、2005年)、そのため、そのような薬物への依存はそれらの間の非常に類似の機構によりコントロールされることが示され、本発明において主張されているフェニル酪酸ナトリウムの機構、即ち、そのような神経伝達物質のためのトランスポーターの発現を制御する(又は増加させる)ことにより側坐核においてそのような神経伝達物質の濃度をコントロールすることが可能であると考えられる。そのようなトランスポーターの発現が薬物依存症に関係することは、科学文献及び科学ジャーナルにおいて最近公にされた。より特には、グルタメート及びドーパミントランスポーターがアルコール依存症(スパナゲル(Spanagel)R等、Nat Med.2005年、1月;11(1):35−42)及びコカイン依存症(コリーン(Colleen)A.マククラング(McClung)、PNAS.2005年6月;28(102):9377−9381)に関与することが報告された。加えて、殆どの薬物依存症の研究に関連して、臨床試験及び実験は、アルコール依存症研究及び試験と連動して実施されている。例えば、Drug Discovery Today:Therapeutic Strategies 2巻、1号、2005年、71−78頁(ジョージ(George)A.ケンナ(Kenna)、“Pharmacotherapy of alcohol dependence:Targeting a complex disorder”)及びDrug Discovery Today:Therapeutic Strategies 2巻、1号、2005年、87−92頁(バーバラ(Barbara)H.ハーマン(Herman)等、“Medication for the treatment of cocaine addiction:Emerging candidates”)を参照すると、アルコール依存症及び薬物依存症試験が同一の薬剤を使用して同時に実施され、既にアルコール依存症試験において使用されたのと同一の薬剤がまた、コカインのような薬物の依存症試験において有効であることが示されていることが理解できる。即ち、コカイン及びアルコールのような薬物が類
似の依存症機構を共有することが、ある程度明らかになったため、新規薬剤の開発は、そのような異なった薬物間の類似の依存症機構を活用して、薬物依存症及びアルコール依存症の両方を治療又は予防し得る薬剤を製造することに焦点が合わせられることが判る。更に、上記で議論したように、ベニシオ(Benicio)N.フレイ(Frey)等(2006年、Effects of mood stabilizers on hippocampus BDNF levels in an animal mode of
mania.Life Sciences,LFS−11196)は、アンフェタミン(AMPH)とアルコール依存症の治療のための代表的な薬剤であるリチウム又はバルプロエートとの同時投与に続く動物挙動(自発運動)の確認を介して、リチウム及びバルプロエートの精神安定効果を評価した。そのように、本発明においては、コカイン及びアンフェタミンにおける薬物依存症試験が主に研究されてはいるが、本発明に従う医薬組成物はまた、アルコール依存症及び躁うつ病の治療においても治療的に有効である。
【0024】
本発明に従うフェニル酪酸ナトリウムを含む医薬組成物は、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の治療において使用され得、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防のためにも使用され得る。加えて、臨床投与において、本発明に従う医薬組成物は、経口、腹腔内又は皮下等で投与され得る。加えて、本発明に従う医薬組成物の投与量は、患者の年齢及び症状、投与形態及び薬剤の種類のような種々の要因に依存して適正に決定され得る。
【0025】
本発明に従う医薬組成物は、医薬的に許容されるキャリア、例えば、ラクトースのような希釈剤、ステアリン酸マグネシウムのような滑剤、ポリビニルピロリドンのような結合剤及びカルシウムカルボキシメチルセルロースのような崩壊剤の添加により、錠剤、ソフト及びハードカプセル、液剤等のような種々の単位投与形態中に配合され得る。本発明に従う医薬組成物の単位投与量は、依存症の重症度及び対象者の年齢のような種々の要因に依存して変化するものではあるが、通常、5ないし2000mg、好ましくは10ないし1000mgの範囲であり得る。ここで使用される用語“単位投与量”は、単回での又は一日1回若しくは数回に分けられた薬量で投与され得るところの成人のための医薬組成物の1日投与量を指す。本発明に従う医薬組成物は、好ましくは、単回投与量又は一日1ないし3回に分けられた薬量としての単位投与量の経口投与により与えられる。
【実施例】
【0026】
発明の態様
今から、本発明を以下に示す実施例を参照してより詳細に記載する。これらの実施例は、本発明を説明するためのみに提供されるものであり、本発明の範囲及び精神を限定するものとして解釈されるべきものではない。
【0027】
実施例
本発明に従う、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を含む薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防及び治療のための医薬組成物の効果を試験するために、以下の動物実験を、体重250−275g(到着時)のSDラット(Sprague−Dawley rats)(Samtaco Animal Breeding Company、オサン、韓国)を用いて実施した。
【0028】
動物の自発運動を測定するために、一揃いの12個の活動箱(activity boxes)を使用した(キム(Kim)及びベジナ(Vezina)、1998年)。各箱(22×43×33cm)は、光線遮断から自発運動を評価した。ラットは1時間の馴化時間、活動箱中に置かれた。その後、これらのラットは医薬組成物の特定薬量が投与され、直ちに再度活動箱中に置かれ、ラットの自発運動及び立ち上がり運動が更なる2時間測定された。特に、コンピューターが、活動箱の天井/底及び右/左に組み込まれた光線を
介してラットの自発運動を計算するために適用され、そのようなラットの自発挙動が2時間の間確認された。立ち上がり運動もまた、活動箱に組み込まれた光線を介して、ラットの上昇/下降運動を計算することにより測定された。ここで、ラットの行動を確認するための自発運動の測定とは異なり、立ち上がり運動の測定は、薬物依存症の影響を評価するための指標として使用される、前脚を上げながらの後脚での立ち上がりを確認するために行った。参照として、本発明の実施例はまた、薬物依存症又はアルコール依存症並びに躁うつ病における本発明の医薬組成物の治療効果を確認するために提供されている。例えば、ベニシオ(Benicio)N.フレイ(Frey)等(2006年、Effects
of mood stabilizers on hippocampus BDNF
levels in an animal model of mania.Life
Sciences,LFS−11196)は、本発明の実施例において採用された方法と類似の実験方法用い、アンフェタミン(AMPH)と興味ある薬剤との同時投与後の動物挙動(自発運動)の確認を介して、薬剤の精神安定効果を評価するための実験を行った。
【0029】
実施例1
異なる濃度(0.1、1.0、5.0及び10.0mg/kg)のフェニル酪酸ナトリウムがラットへ単独又はコカイン(15mg/kg)との組合せで腹腔内注射(急速)され、動物の自発運動及び立ち上がりが、2時間の間測定された。このようにして得られた結果を図1及び2に示した。図1及び2において、オープンバーは、生理食塩水+フェニル酪酸ナトリウムの投与を示し、中実バーは、コカイン+フェニル酪酸ナトリウムの投与を示す。図1A及び2Aは2時間合計の結果を示し、図1B及び2Bは20分間隔の経時変化の結果を示す。図1B及び2Bにおいて、x−軸における負の値は、薬剤の投与前の馴化時間を示し、薬剤は0点で注射された(n=8−17)。
図1及び2から判るように、フェニル酪酸ナトリウムが、ラットでのコカイン誘発自発運動及び立ち上がりの増加を投与量依存的に減少することが示され、そのような効果は、1.0mg/kgの投与量で最も大きかった。
【0030】
実施例2
実施例1と同様に、異なる濃度(0.1、1.0及び10.0mg/kg)のフェニル酪酸ナトリウムがラットへ単独又はアンフェタミン(1.5mg/kg)との組合せで腹腔内注射(急速)され、動物の自発運動が、2時間の間測定された。このようにして得られた結果を図3及び4に示した。図3A及び4Aは2時間合計の結果を示し、図3B及び4Bは20分間隔の経時変化の結果を示す。図3B及び4Bにおいて、x−軸における負の値は、薬剤の投与前の馴化時間を示し、薬剤は0点で注射された(n=7−8)。
図3及び4から判るように、フェニル酪酸ナトリウムが、アンフェタミン誘発自発運動の増加を減少することも示され、そのような効果は、0.1ないし1.0mg/kgの投与量で同様に示された。
【0031】
実施例3
行動感作の形成におけるフェニル酪酸ナトリウム効果を試験するために、異なる濃度(0.1、1.0及び10.0mg/kg)のフェニル酪酸ナトリウムがラットへアンフェタミン(1.5mg/kg)との組合せで、2ないし3日間の間隔で合計4回、反復的に投与された。行動感作は、アンフェタミンへの動物の予備曝露に続く1週間の消退期間を設けた後、全ての群のラットへアンフェタミンの同一薬量(1.5mg/kg)を腹腔内注射することにより確認された。このようにして得られた結果を図5及び6に示した。図5A及び6Aは合計2時間合計の結果を示し、図5B及び6Bは20分間隔の経時変化の結果を示す。図5B及び6Bにおいて、x−軸における負の値は、薬剤の投与前の馴化時間を示し、薬剤は0点で注射された(n=7−8)。
図5及び6から判るように、フェニル酪酸ナトリウムが、アンフェタミン誘発行動感作
に対する顕著な阻止効果を示した。そのような効果は、0.1ないし1.0mg/kgの投与量で特に強かった。
【0032】
実施例4
この実施例は、連続した7日間の間、フェニル酪酸ナトリウムの2種の異なった濃度(0.1及び1.0mg/kg)のみが毎日腹腔内注射された場合のフェニル酪酸ナトリウムに対する動物の自発運動応答における変化を測定するために設計された。薬物投与の1日目及び7日目において、動物の自発運動が測定された。このようにして得られた結果を図7に示した。図7Aは薬物投与の1日目及び7日目における、動物の2時間−自発運動の結果を示し、図7Bは立ち上がり測定の結果を示す。
図7から判るように、フェニル酪酸ナトリウム(0.1及び1.0mg/kg)が、合計7日間、1日1回反復的に投与された場合、フェニル酪酸ナトリウム単独の投与は、動物の自発運動において何らの顕著な変化も生じないことが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
産業上の利用可能性
上述から明らかなように、本発明は、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して神経伝達物質の濃度をコントロールすることにより、薬物依存症の行動指標である自発運動の増加を阻害し得る、フェニル酪酸ナトリウムを用いる薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物を提供する。
本発明の好ましい態様が説明目的で開示されているが、当業者は、添付された請求項において開示された発明の範囲及び精神から乖離することなく、種々の変形物、付加物及び置換物が可能であることを理解し得る。
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は、2005年9月23日に出願された韓国特許出願第10−2005−88935号及び2006年4月18日に出願された韓国特許出願第10−2006−34994号に基づき、且つそれからの優先権を主張するが、それらの開示の全てを参照としてここに組み込む。
【0002】
発明の分野
本発明は、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物に関する。より特には、本発明は、薬剤の新規使用としてフェニル酪酸ナトリウムを用いる、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
日常生活の過程で種々のストレスに曝されている現代人は、薬物依存症を起こし易く、そのため薬物依存症又はアルコール依存症は、大きな社会問題である。
【0004】
中毒性薬物として、モリヒネ、コカイン及びアンフェタミンのような麻薬、ニコチン及びアルコールが言及される。これらの薬物の中で、麻薬のような中毒性薬物は使用者を中毒にし、そしてそれらの使用の中止は重篤な禁断症状を引き起こし、そのため、薬物を使用しない日常生活を不可能にし、そして、最終的には人々を身体的及び精神的に衰弱した状態にし、高い危険性へ導く。
【0005】
例えば、コカインはコカ植物の葉から得られるアルカロイド薬剤であり、世界中で最も深刻な問題を引き起こす麻薬の一つである。コカインは、鼻腔の粘膜を介して吸収され、知覚神経終末に作用し、そのため痛覚阻害及び知覚麻痺のような感覚麻痺を引き起こす。従って、コカインは、1862年から手術及び診療における局所麻酔薬として使用されてきた。過剰量のコカインの吸収又はその反復使用は、コカイン中毒を引き起こすが、コカイン中毒といえば、栄養失調とともに、抑うつ症、不安神経症、睡眠障害、慢性疲労症候群及び精神錯乱のような精神疾患を伴う。
【0006】
コカインの利用は通常、その注射、摂取及び鼻孔吸入を介してなされる。コカインの中毒量は0.1gであり、その致死量は1.0gである。コカインの大量消費を原因とする急性中毒は、目まい、顔面蒼白及び散睡から始まり、それにより中毒、精神障害、幻視及び幻聴並びに失神を導き、最終的に呼吸困難致死又は心血管虚脱致死を引き起こす。その常用に起因するコカイン依存症は、モルヒネ中毒に類似するが、無気力及び体重減少のような顕著な肉体疲労並びに集中力の欠如及び精神的破綻のような精神医学上の問題を示す。加えて、コカイン依存症は、幻触、例えば、使用者が彼らの皮膚上を昆虫、イモムシ及び他の小動物がはっている感覚を経験するところの疾患のようなコカイン幻覚症の特定の形態に進行し得る。
【0007】
コカインのような依存性薬物において、反復投与を介するその投薬は、自発運動を増加する(Zavala AR,Nazarian A,Crawford CA,及びMcdougall SA,2000)。加えて、自発運動は行動感作を示す。行動感作とは、依存性薬物の少量の反復した間欠性の投与が自発運動及び定型化された運動(stereotype activity)を徐々に且つ増進的に増加させる現象である。行動感
作は、運動が徐々に増加する発生段階と増加した運動が長期間維持する発現段階に分けられ(Karler R,Chaudhry IA,Calder LD,及びTurkanis SA,1990)、薬物依存症の指標として使用される。
【0008】
コカインは、コカイン誘発の強化効果を介する依存症を引き起こすが、そのような行動感作に影響を及ぼす主な要因はドーパミン(DA)神経伝達系の活性化である。特に、腹側被蓋領域(VTA)に由来するA10神経が側坐核(NAcc)に突き出すところの中脳−辺縁系が、コカイン投与に起因する補償及び強化作用において重要な役割を演じることが知られている(アインホーン(Einhorn)LC、ヨハンセン(Johansen)DA及びホワイト(White)FJ、1988年)。コカインは主に、心拍出量の増加、血圧の上昇及び抹消血管の収縮のような薬理作用を介して心臓血管疾患を引き起こす(フォルチン(Foltin)RW、及びフィッシュマン(Fischman)MW、1988年)。加えて、コカイン投与は、中枢神経系から神経伝達物質であるドーパミンの放出の増加を導き、それにより、薬物依存症の病原因子をもたらす(ディスムケス(Dismukes)K、及びムルダー(Mulder)AH、1977年)。そのような薬物依存症は結果として精神障害を生じるが、側坐核(NAcc)及び線条体部位からのドーパミンの過剰放出により神経化学的に引き起こされる(クリーク(Kreek)MJ、1996年)。
【0009】
最近の研究は、神経活性がコカインの投与後に決定された場合、薬物依存症に関連した側坐核及び線条体のようなドーパミン作動性ニューロンの突起部位において、神経活性の指標として既知の前初期遺伝子であるc−fosの発現増加を報告している(ロバートソン(Robertson)HA、パウル(Paul)ML、モラタラ(Moratalla)R及びグレイビール(Graybiel)AM、1991年)。加えて、D1受容体アゴニストSKF−38393が実験動物に反復投与された場合、自発運動及び神経活性の指標であるc−fosの発現が阻害される(サリー(Sally)AF、シャウン(Shawn)AR、ムゴルザタ(Mdgorzata)K及びディビッド(David)JK、2000年)。更に、生化学的側面であるドーパミンと動物行動学的側面である自発運動の間の緊密な関係を示す実験的証拠が示されてきた(クゼンスキー(Kuczenski)R、セーガル(Segal)DS及びアイゼンシュタイン(Aizenstein)ML、1991年)。インビボの微小透析の使用を介した実験結果は、コカイン投与が、薬物依存症に関係する線条体及び側坐核においてドーパミン濃度を増加し、また、自発運動を増加することも示した(ポンティエリ(Pontieri)FE、タンダ(Tanda)G及びディチアラ(Dichiara)G、1995年)。
【0010】
躁うつ病(BD)は、自殺及び作業生産性の喪失に関連する主要な破滅的な精神病である(ベルメーカー(Belmaker)、2004年;クプファー(Kupfer)、2005年)。躁うつ病の病態生理学は、進歩した遺伝学、神経生物学及び薬理学にも拘らず不明なところが多いままである。ベニシオ(Benicio)N.フレイ(Frey)等(2006年、Effects of mood stabilizers on hippocampus BDNF levels in an animal mode of mania.Life Sciences,LFS−11196)は、アンフェタミン(AMPH)とアルコール依存症の治療のための代表的な薬剤であるリチウム又はバルプロエートとの同時投与に続く動物挙動(自発運動)の確認を介して、リチウム及びバルプロエートの精神安定効果を評価した。更に、ロベルト アルバン(Roberto Arban)等(2005年、Evaluation of the effects of lamotrigine,valproate and carbazepine
in a rodent model of mania.Behavioural Brain Research 158(2005)123−132)は、アンフェタミンとラモトリジン、バルプロエート及びカルバマゼピンとの同時投与後の実験動物の移動
距離を測定することにより、ラモトリジン、バルプロエート及びカルバマゼピンが、アンフェタミン誘発の行動活性を減少することを報告した。
【0011】
その一方で、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)は、周知の化学化合物であるが、今までに報告されたPBAの治療適用分野及び用法を以下に説明する。
フェニル酪酸ナトリウム(PBA)は、グルタミン濃度が減少することにより、有害なアンモニアの発生を減少することが従来報告されてきた。アンモナプス(登録商標:Ammonaps)が、主な成分としてフェニル酪酸ナトリウムを含む尿素サイクル異常症の治療のための治療薬として現在市場に出回っている。
【0012】
加えて、フェニル酪酸塩は、グルタミン濃度減少剤として作用することにより自閉症の治療において有効であることが報告されている。即ち、自閉症患者がグルタミン及びグリシンの異常に高い濃度を示すため、フェニル酪酸塩の投与を介したグルタミンの前駆体であり且つ興奮毒性アミノ酸である、グルタメートの濃度の減少を介してグルタミンの濃度を減少することにより自閉症の治療が可能となることが報告されている(米国特許第6,362,226号明細書)。
【0013】
更に、フェニル酪酸塩は、嚢胞性線維症及び腫瘍又は癌において治療効果を有することは既知であるが、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病におけるフェニル酪酸塩の治療効果は、未だ報告されていない。
【非特許文献1】ベニシオ(Benicio)N.フレイ(Frey)等、2006年、Effects of mood stabilizers on hippocampus BDNF levels in an animal mode of mania.Life Sciences,LFS−11196
【非特許文献2】ロベルト アルバン(Roberto Arban)等、2005年、Evaluation of the effects of lamotrigine,valproate and carbazepine in a rodent model of mania.Behavioural Brain Research 158(2005)123−132
【特許文献1】米国特許第6,362,226号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
技術的課題
従って、本発明は上記課題の観点においてなされたものであり、本発明の目的は、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して神経伝達物質の濃度をコントロールすることにより自発運動の増加を阻害することができる、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を用いる、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
技術的解決
本発明に従って、上記及び他の目的は、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を含む、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物の提供により達成され得る。
【0016】
図面の簡単な説明
本発明の上記及び他の目的、特徴及び他の利点は、図と一緒に用いられる以下の詳細な記述からより明確に理解され得る:
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1は、コカイン−誘発(急性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図1B】図1は、コカイン−誘発(急性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図2A】図2は、コカイン−誘発(急性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図2B】図2は、コカイン−誘発(急性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図3A】図3は、アンフェタミン−誘発(急性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図3B】図3は、アンフェタミン−誘発(急性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図4A】図4は、アンフェタミン−誘発(急性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図4B】図4は、アンフェタミン−誘発(急性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図5A】図5は、アンフェタミン−誘発(慢性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図5B】図5は、アンフェタミン−誘発(慢性)自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図6A】図6は、アンフェタミン−誘発(慢性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図6B】図6は、アンフェタミン−誘発(慢性)立ち上がり運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、及び
【図7A】図7は、連続した7日間、フェニル酪酸ナトリウム単独が、腹腔内投与を介して毎日投与された場合の動物の自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する、
【図7B】図7は、連続した7日間、フェニル酪酸ナトリウム単独が、腹腔内投与を介して毎日投与された場合の動物の自発運動におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果の結果を図示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明を実施するための最良の形態
以下に、本発明をより詳細に説明する。
本発明に従う医薬組成物中の主な成分として使用されるフェニル酪酸ナトリウムは、以下の構造式Iにより提示される:
【化1】
広範な調査の結果として、本発明者等は、尿素サイクル異常症の治療のための治療薬として現在主に使用されているフェニル酪酸ナトリウムが、新規治療用途として、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の治療において治療的に有効であることを見出し
た。本発明は、これらの発見に基づいて完成されている。
【0019】
本発明に基づく医薬組成物の適用を介して治療され得る薬物依存症は、アンフェタミン依存症及びコカイン依存症を含むが、これらに限定されるものではない。動物へのアンフェタミン又はコカインのような覚醒剤の反復投与は、行動感作と呼ばれる自発運動を顕著に増加する傾向にある。そのような現象は、薬物依存症の神経生物学的解明において重要である、手掛かりを提供することが知られている。
【0020】
本発明において、アンフェタミン又はコカインのような、覚醒剤の投与に起因する行動感作の形成におけるフェニル酪酸ナトリウムの効果は、調査され、その結果として、フェニル酪酸ナトリウムが、薬物依存症の行動指標である自発運動の増加を阻害することが明らかにされ、それにより、フェニル酪酸ナトリウムが薬物依存症における治療効果を有することが確認された。
【0021】
何れかの特別な理論に結合される願望なしに、本発明に従った医薬組成物中の活性成分として使用されるフェニル酪酸ナトリウムは、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して、グルタメート、ドーパミン及びγ−アミノ酪酸(GABA)のような神経伝達物質の濃度をコントロールする。特に、フェニル酪酸ナトリウムはGluトランスポーターの発現を制御していると考えられる。
【0022】
本発明においては薬物依存症試験がコカイン及びアンフェタミンにおいて実施されてはいるが、本発明に従う医薬組成物はまた、アルコール依存症及び躁うつ病の治療に治療的に有効であると考えられる。
【0023】
アルコール及びコカインのような依存性薬物が、その依存症機構において、側坐核におけるドーパミン又はグルタメートのような神経伝達物質により影響されるという事実は、既知であり(チャールス(Charles)A.ダッキス(Dackis)、2005年)、そのため、そのような薬物への依存はそれらの間の非常に類似の機構によりコントロールされることが示され、本発明において主張されているフェニル酪酸ナトリウムの機構、即ち、そのような神経伝達物質のためのトランスポーターの発現を制御する(又は増加させる)ことにより側坐核においてそのような神経伝達物質の濃度をコントロールすることが可能であると考えられる。そのようなトランスポーターの発現が薬物依存症に関係することは、科学文献及び科学ジャーナルにおいて最近公にされた。より特には、グルタメート及びドーパミントランスポーターがアルコール依存症(スパナゲル(Spanagel)R等、Nat Med.2005年、1月;11(1):35−42)及びコカイン依存症(コリーン(Colleen)A.マククラング(McClung)、PNAS.2005年6月;28(102):9377−9381)に関与することが報告された。加えて、殆どの薬物依存症の研究に関連して、臨床試験及び実験は、アルコール依存症研究及び試験と連動して実施されている。例えば、Drug Discovery Today:Therapeutic Strategies 2巻、1号、2005年、71−78頁(ジョージ(George)A.ケンナ(Kenna)、“Pharmacotherapy of alcohol dependence:Targeting a complex disorder”)及びDrug Discovery Today:Therapeutic Strategies 2巻、1号、2005年、87−92頁(バーバラ(Barbara)H.ハーマン(Herman)等、“Medication for the treatment of cocaine addiction:Emerging candidates”)を参照すると、アルコール依存症及び薬物依存症試験が同一の薬剤を使用して同時に実施され、既にアルコール依存症試験において使用されたのと同一の薬剤がまた、コカインのような薬物の依存症試験において有効であることが示されていることが理解できる。即ち、コカイン及びアルコールのような薬物が類
似の依存症機構を共有することが、ある程度明らかになったため、新規薬剤の開発は、そのような異なった薬物間の類似の依存症機構を活用して、薬物依存症及びアルコール依存症の両方を治療又は予防し得る薬剤を製造することに焦点が合わせられることが判る。更に、上記で議論したように、ベニシオ(Benicio)N.フレイ(Frey)等(2006年、Effects of mood stabilizers on hippocampus BDNF levels in an animal mode of
mania.Life Sciences,LFS−11196)は、アンフェタミン(AMPH)とアルコール依存症の治療のための代表的な薬剤であるリチウム又はバルプロエートとの同時投与に続く動物挙動(自発運動)の確認を介して、リチウム及びバルプロエートの精神安定効果を評価した。そのように、本発明においては、コカイン及びアンフェタミンにおける薬物依存症試験が主に研究されてはいるが、本発明に従う医薬組成物はまた、アルコール依存症及び躁うつ病の治療においても治療的に有効である。
【0024】
本発明に従うフェニル酪酸ナトリウムを含む医薬組成物は、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の治療において使用され得、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防のためにも使用され得る。加えて、臨床投与において、本発明に従う医薬組成物は、経口、腹腔内又は皮下等で投与され得る。加えて、本発明に従う医薬組成物の投与量は、患者の年齢及び症状、投与形態及び薬剤の種類のような種々の要因に依存して適正に決定され得る。
【0025】
本発明に従う医薬組成物は、医薬的に許容されるキャリア、例えば、ラクトースのような希釈剤、ステアリン酸マグネシウムのような滑剤、ポリビニルピロリドンのような結合剤及びカルシウムカルボキシメチルセルロースのような崩壊剤の添加により、錠剤、ソフト及びハードカプセル、液剤等のような種々の単位投与形態中に配合され得る。本発明に従う医薬組成物の単位投与量は、依存症の重症度及び対象者の年齢のような種々の要因に依存して変化するものではあるが、通常、5ないし2000mg、好ましくは10ないし1000mgの範囲であり得る。ここで使用される用語“単位投与量”は、単回での又は一日1回若しくは数回に分けられた薬量で投与され得るところの成人のための医薬組成物の1日投与量を指す。本発明に従う医薬組成物は、好ましくは、単回投与量又は一日1ないし3回に分けられた薬量としての単位投与量の経口投与により与えられる。
【実施例】
【0026】
発明の態様
今から、本発明を以下に示す実施例を参照してより詳細に記載する。これらの実施例は、本発明を説明するためのみに提供されるものであり、本発明の範囲及び精神を限定するものとして解釈されるべきものではない。
【0027】
実施例
本発明に従う、フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を含む薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防及び治療のための医薬組成物の効果を試験するために、以下の動物実験を、体重250−275g(到着時)のSDラット(Sprague−Dawley rats)(Samtaco Animal Breeding Company、オサン、韓国)を用いて実施した。
【0028】
動物の自発運動を測定するために、一揃いの12個の活動箱(activity boxes)を使用した(キム(Kim)及びベジナ(Vezina)、1998年)。各箱(22×43×33cm)は、光線遮断から自発運動を評価した。ラットは1時間の馴化時間、活動箱中に置かれた。その後、これらのラットは医薬組成物の特定薬量が投与され、直ちに再度活動箱中に置かれ、ラットの自発運動及び立ち上がり運動が更なる2時間測定された。特に、コンピューターが、活動箱の天井/底及び右/左に組み込まれた光線を
介してラットの自発運動を計算するために適用され、そのようなラットの自発挙動が2時間の間確認された。立ち上がり運動もまた、活動箱に組み込まれた光線を介して、ラットの上昇/下降運動を計算することにより測定された。ここで、ラットの行動を確認するための自発運動の測定とは異なり、立ち上がり運動の測定は、薬物依存症の影響を評価するための指標として使用される、前脚を上げながらの後脚での立ち上がりを確認するために行った。参照として、本発明の実施例はまた、薬物依存症又はアルコール依存症並びに躁うつ病における本発明の医薬組成物の治療効果を確認するために提供されている。例えば、ベニシオ(Benicio)N.フレイ(Frey)等(2006年、Effects
of mood stabilizers on hippocampus BDNF
levels in an animal model of mania.Life
Sciences,LFS−11196)は、本発明の実施例において採用された方法と類似の実験方法用い、アンフェタミン(AMPH)と興味ある薬剤との同時投与後の動物挙動(自発運動)の確認を介して、薬剤の精神安定効果を評価するための実験を行った。
【0029】
実施例1
異なる濃度(0.1、1.0、5.0及び10.0mg/kg)のフェニル酪酸ナトリウムがラットへ単独又はコカイン(15mg/kg)との組合せで腹腔内注射(急速)され、動物の自発運動及び立ち上がりが、2時間の間測定された。このようにして得られた結果を図1及び2に示した。図1及び2において、オープンバーは、生理食塩水+フェニル酪酸ナトリウムの投与を示し、中実バーは、コカイン+フェニル酪酸ナトリウムの投与を示す。図1A及び2Aは2時間合計の結果を示し、図1B及び2Bは20分間隔の経時変化の結果を示す。図1B及び2Bにおいて、x−軸における負の値は、薬剤の投与前の馴化時間を示し、薬剤は0点で注射された(n=8−17)。
図1及び2から判るように、フェニル酪酸ナトリウムが、ラットでのコカイン誘発自発運動及び立ち上がりの増加を投与量依存的に減少することが示され、そのような効果は、1.0mg/kgの投与量で最も大きかった。
【0030】
実施例2
実施例1と同様に、異なる濃度(0.1、1.0及び10.0mg/kg)のフェニル酪酸ナトリウムがラットへ単独又はアンフェタミン(1.5mg/kg)との組合せで腹腔内注射(急速)され、動物の自発運動が、2時間の間測定された。このようにして得られた結果を図3及び4に示した。図3A及び4Aは2時間合計の結果を示し、図3B及び4Bは20分間隔の経時変化の結果を示す。図3B及び4Bにおいて、x−軸における負の値は、薬剤の投与前の馴化時間を示し、薬剤は0点で注射された(n=7−8)。
図3及び4から判るように、フェニル酪酸ナトリウムが、アンフェタミン誘発自発運動の増加を減少することも示され、そのような効果は、0.1ないし1.0mg/kgの投与量で同様に示された。
【0031】
実施例3
行動感作の形成におけるフェニル酪酸ナトリウム効果を試験するために、異なる濃度(0.1、1.0及び10.0mg/kg)のフェニル酪酸ナトリウムがラットへアンフェタミン(1.5mg/kg)との組合せで、2ないし3日間の間隔で合計4回、反復的に投与された。行動感作は、アンフェタミンへの動物の予備曝露に続く1週間の消退期間を設けた後、全ての群のラットへアンフェタミンの同一薬量(1.5mg/kg)を腹腔内注射することにより確認された。このようにして得られた結果を図5及び6に示した。図5A及び6Aは合計2時間合計の結果を示し、図5B及び6Bは20分間隔の経時変化の結果を示す。図5B及び6Bにおいて、x−軸における負の値は、薬剤の投与前の馴化時間を示し、薬剤は0点で注射された(n=7−8)。
図5及び6から判るように、フェニル酪酸ナトリウムが、アンフェタミン誘発行動感作
に対する顕著な阻止効果を示した。そのような効果は、0.1ないし1.0mg/kgの投与量で特に強かった。
【0032】
実施例4
この実施例は、連続した7日間の間、フェニル酪酸ナトリウムの2種の異なった濃度(0.1及び1.0mg/kg)のみが毎日腹腔内注射された場合のフェニル酪酸ナトリウムに対する動物の自発運動応答における変化を測定するために設計された。薬物投与の1日目及び7日目において、動物の自発運動が測定された。このようにして得られた結果を図7に示した。図7Aは薬物投与の1日目及び7日目における、動物の2時間−自発運動の結果を示し、図7Bは立ち上がり測定の結果を示す。
図7から判るように、フェニル酪酸ナトリウム(0.1及び1.0mg/kg)が、合計7日間、1日1回反復的に投与された場合、フェニル酪酸ナトリウム単独の投与は、動物の自発運動において何らの顕著な変化も生じないことが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
産業上の利用可能性
上述から明らかなように、本発明は、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して神経伝達物質の濃度をコントロールすることにより、薬物依存症の行動指標である自発運動の増加を阻害し得る、フェニル酪酸ナトリウムを用いる薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物を提供する。
本発明の好ましい態様が説明目的で開示されているが、当業者は、添付された請求項において開示された発明の範囲及び精神から乖離することなく、種々の変形物、付加物及び置換物が可能であることを理解し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を含む、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項2】
薬物依存症がアンフェタミン依存症又はコカイン依存症である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
フェニル酪酸ナトリウムが、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して神経伝達物質の濃度をコントロールする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記神経伝達物質が、グルタメート、ドーパミン及びγ−アミノ酪酸(GABA)を含む請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が経口投与のために単位投与形態に処方される請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記単位投与形態が、錠剤、ソフト若しくはハードカプセル又は液剤である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記単位投与形態が、5ないし2000mgのフェニル酪酸ナトリウムを含む請求項5記載の組成物。
【請求項8】
更に、少なくとも1種の医薬的に許容可能なキャリアを含む請求項1ないし7の何れか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記キャリアが、希釈剤、滑剤、結合剤、崩壊剤及び安定剤からなる群より選択される少なくとも1成分である請求項8記載の組成物。
【請求項1】
フェニル酪酸ナトリウム(PBA)を含む、薬物依存症又はアルコール依存症或いは躁うつ病の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項2】
薬物依存症がアンフェタミン依存症又はコカイン依存症である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
フェニル酪酸ナトリウムが、神経伝達物質トランスポーターの発現の制御を介して神経伝達物質の濃度をコントロールする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記神経伝達物質が、グルタメート、ドーパミン及びγ−アミノ酪酸(GABA)を含む請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が経口投与のために単位投与形態に処方される請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記単位投与形態が、錠剤、ソフト若しくはハードカプセル又は液剤である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記単位投与形態が、5ないし2000mgのフェニル酪酸ナトリウムを含む請求項5記載の組成物。
【請求項8】
更に、少なくとも1種の医薬的に許容可能なキャリアを含む請求項1ないし7の何れか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記キャリアが、希釈剤、滑剤、結合剤、崩壊剤及び安定剤からなる群より選択される少なくとも1成分である請求項8記載の組成物。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【公表番号】特表2009−508940(P2009−508940A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532158(P2008−532158)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/KR2006/003412
【国際公開番号】WO2007/035029
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(303024622)エスケー ホルディングス カンパニー リミテッド (28)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/KR2006/003412
【国際公開番号】WO2007/035029
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(303024622)エスケー ホルディングス カンパニー リミテッド (28)
【Fターム(参考)】
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