説明

フェノールを用いた、プリオンで汚染した表面の汚染除去

プリオンで汚染された表面または液体の汚染除去の方法は、上記表面を、一種以上のフェノールを含有する組成物で処理する工程を包含する。特に有効であるフェノールとしては、p−クロロ−m−キシラノール、チモール、トリクロサン、4−クロロ,3−メチルフェノール、ペンタクロロフェノール、ヘキサクロロフェン、2,2−メチル−ビス(4−クロロフェノール)およびp−フェニルフェノールが挙げられる。本発明の別の局面に従う、プリオンで汚染されている物質上でフェノールベースの汚染除去組成物の有効性を決定する方法が提供される。本方法は、フェノールベースの汚染除去溶液をタンパク質と合わせる工程、上記物質により取り込まれたフェノールの量を決定する工程、および取り込まれたフェノールの量に基づいて組成物の有効性を決定する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、生物学的汚染除去の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、医療器具、歯科用器具および薬学的器具から有害な生物学的物質(例えば、プリオン(タンパク質性感染物質))の除去および/または死滅と関連した特定の適用を見出し、それに対する特定の言及により記載される。しかし、本発明の方法およびシステムが、プリオン感染した物質で汚染された幅広い範囲の装置、器具および他の表面(例えば、薬学的調製物設備、食品加工設備、実験動物研究設備(床、作業表面、機器、ケージ、発酵槽、流体ラインなどが挙げられる))の生物学的汚染除去に利用され得ることが、理解される。
【0003】
用語「プリオン」は、ヒトおよび/または動物において、比較的類似する、必ず致命的である脳疾患を引き起こすタンパク質性感染物質を記載するために使用される。これらの疾患は、一般的に、感染性海綿状脳症(TSE)と呼ばれる。TSEとしては、ヒトにおけるクロイツフェルトヤーコプ病(CJD)および変異型CJD(vCJD)、ウシにおけるウシ海綿状脳症(BSE)、ヒツジにおける「狂牛病」としても知られるスクラピー、ならびにヘラジカにおける消耗病が挙げられる。これらの疾患は全て、特定の疾患に感受性の動物の神経性器官を攻撃する。これらは、最初に長い潜伏期間があり、その後短い期間の神経性の症状(痴呆および協調運動障害を含む)が続くことによって特徴づけられ、最終的には死に至る。
【0004】
これらの疾患の原因となる感染物質は、核酸とは関連しない単純なタンパク質であると考えられている。このようなプリオン疾患の病原性機構は、最初は正常な宿主のコードされたタンパク質に関与すると考えられている。タンパク質は、異常な形態(プリオン)に構造変化を受け、このタンパク質は、自己増殖能を有する。この変化の正確な原因は、現在分かっていない。この異常な形態のタンパク質は、体内で効率的には分解されず、特定の組織(特に神経組織)におけるそのタンパク質の蓄積が、最終的には、組織の損傷(例えば、細胞死)を引き起こす。一旦、顕著な神経組織損傷が生じると、臨床的な徴候が観察される。
【0005】
従って、プリオン疾患は、タンパク質凝集疾患と分類され得、これにはまたいくつかの他の致命的な疾患(例えば、アルツハイマー病およびアミロイド症)が含まれる。ヒトにおいて最も流行している(集団の約1:1,000,000に生じる)プリオン疾患であるCJDの場合、症例の約85%は、散在的に生じ、約10%は、遺伝的であり、約5%は、医原性に生じると考えられる。
【0006】
プリオン疾患は、高度に伝染性であるとは考えられないが、特定の危険性の高い組織(脳、脊髄、脳髄液および眼)を介して感染し得る。いくつかの手順(硬膜移植、角膜移植、心膜同種移植を含む)の間の、ならびにヒト性腺刺激ホルモン汚染およびヒト成長ホルモン汚染を介する医原性の感染が報告されている。医療デバイスによる感染(神経外科的器具、深部電極および中枢神経系に近接する外科的手順に使用される他のデバイスからが挙げられる)もまた報告されている。プリオン感染の点からは「低リスク」であるとこれまで考えられた手順(例えば、扁桃摘出術および歯科手順)は、特にプリオンに関連する疾患の発生率が増加する場合、受け入れ難い感染のリスクを引き起こし得るという懸念が生じている。
【0007】
プリオン感染した患者に対する外科的手順の後、プリオンを含む残留物が、外科器具、特に神経外科器具および眼科器具に残存し得る。長期の潜伏期間の間、外科手術の候補者がプリオン保有者であるか否かを決定することは、極端に難しい。
【0008】
種々のレベルの細菌汚染除去が、当該分野で認識されている。例えば、衛生化は、洗浄による夾雑物または細菌の除去を意味する。消毒は、有害な微生物を死滅させるために、洗浄を必要とする。最も高レベルの生物学的汚染制御である、滅菌は、全ての生存する微生物の死滅を意味する。
【0009】
従来の意味で、生存しないか、または繁殖しない特定の生体物質(例えば、プリオン)は、それでもやはり有害な存在に複製および/または変形し得ることが現在公知である。本発明者らは、本明細書中で、用語「非活性化」を、このような有害な生体物質(例えば、プリオン)の死滅、および/またはそれらの複製する能力または有害な種への構造変化を受ける能力の破壊を包含するように使用する。
【0010】
プリオンは、非常に丈夫であり、かつ従来の汚染除去の方法および滅菌方法に耐性を示すことが知られている。微生物とは違って、プリオンは、破壊または崩壊させるべきDNAまたはRNAを有さない。プリオンは、その疎水性の性質に起因して、一緒に凝集して不溶性の塊になる傾向がある。首尾よく微生物の滅菌を導く多くの条件下で、プリオンは、密な塊を形成し、そのことにより滅菌プロセスからプリオン自体および内在するプリオンを保護する。
【0011】
世界保健機関(1997)のプリオン非活性化のためのプロトコルは、器具を、濃水酸化ナトリウムまたは濃次亜塩素酸ナトリウム中に2時間浸漬し、その後1時間オートクレーブすることを要求する。これらの積極的な処理は、多くの場合、医療デバイス(特に、屈曲性の内視鏡およびプラスチック部分、真鍮部分もしくはアルミニウム部分を有する他のデバイス)に適合しない。多くのデバイスは、高温に曝露することにより損傷を受ける。強アルカリなどの化学的処理は、一般的に、医療デバイス材質または表面に損傷を与える。グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、エチレンオキサイド、液体過酸化水素、大部分のフェノール類、アルコール類、および乾熱、煮沸、凍結、UV、電離およびマイクロ波照射のようなプロセスは、一般的に効果がないと報告されている。プリオンに対して有効で、なお表面とは適合性である製品およびプロセスに対する明確な必要性が存在する。
【0012】
ErnstおよびRace(J.Virol.Methods 41:193〜202(1993))は、フェノールベースの殺菌剤製品(LpHTM、STERIS Corp.、Mentor、Ohioから入手可能である)が、スクラピーに対して有効であることが見出された研究を記載していて、この製品は、著者らに従うと、p−第三級アミノフェノール、o−ベンジル−p−クロロフェノールおよび2−フェニルフェノールを含む。この研究は、ハムスター脳ホモジェネートを注入したスクラピー感受性のハムスターモデルから取り除かれた感染のレベルに対する濃度(0.9〜90%)の効果および曝露時間(0.5〜16時間)の効果を調べた。比較的高濃度のLpHTMまたは長時間が、プリオンの存在の減少に有効であることが見出された。他の研究において、フェノールは、一般的に、プリオンに対して有効でないことが見出されている。
【0013】
本発明は、プリオン感染した物質で汚染された表面の処理の新規の改良された方法を提供し、この方法は、上で参照した問題などを克服する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
本発明の一局面に従う、プリオンで汚染された物体を処理する方法が提供される。本方法は、上記物体を、フェノールを含有する組成物と接触させ、物体上のプリオンを不活性化する工程を包含する。
【0015】
本発明の別の局面に従う、プリオンで汚染されている物質上でフェノールベースの汚染除去組成物の有効性を決定する方法が提供される。本方法は、フェノールベースの汚染除去溶液をタンパク質と合わせる工程、上記物質により取り込まれたフェノールの量を決定する工程、および取り込まれたフェノールの量に基づいて組成物の有効性を決定する工程を包含する。
【0016】
本発明の1つの利点は、器具に対して穏やかであることである。
【0017】
本発明の別の利点は、プリオンを迅速かつ効果的に不活性化することである。
【0018】
本発明の別の利点は、広範な材質およびデバイスと適合性であることである。
【0019】
本発明のなおさらなる利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明を読み、理解すると、当業者に明らかになる。
【0020】
全体を通して、以下の略語が使用される:
BSA = ウシ血清アルブミン
OBPCP = o−ベンジル−p−クロロフェノール
OPP = o−フェニルフェノール
PCMX = p−クロロ,m−キシラノール(p−chloro,m−xylanol)
PTAP = p−第三級アミルフェノール
3,4DiOH benzoic = 3,4ジヒドロキシ安息香酸
3,5DiMeOphenol = 3,5ジメトキシフェノール
2,6DiMeOphenol = 2,6ジメトキシフェノール
2,3DiMe−phenol = 2,3ジメトキシフェノール。
【0021】
本発明は、種々の成分および成分の配置、ならびに種々の工程および工程の配列の形態をとり得る。図面は、好ましい実施形態を例示する目的のみのためのものであり、本発明を制限すると解釈されるべきではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
有害なプリオンの減少または除去に関して、広範な物体(表面および液体を含む)に有効である殺菌剤組成物は、フェノールまたはフェノールの組合せを含有する。上記組成物が、プリオン汚染を除去または実質的に減少させる工程に有効である表面としては、医療手順、歯科手順および薬学的手順に使用される器具の表面、食品加工産業および飲料加工産業で使用される機器の表面および作業表面、壁、床、天井、発酵槽、流体供給ラインならびに病院、産業設備、研究室における他の潜在的に汚染された表面などが挙げられる。特定の例としては、廃棄前の医療廃棄物(例えば、血液、組織および他の身体の廃棄物)の処理、プリオンで感染していることが知られているか、もしくは感染していることが疑われる動物を収容するために使用された部屋、ケージなどの処理、BSE感染した領域(屠殺場、食品加工設備などが挙げられる)の汚染除去、医療デバイスの再処理、消毒システムもしくは滅菌システムの汚染除去、抗真菌効果、抗ウイルス効果、抗結核菌細菌効果および抗細菌効果ならびに抗プリオン効果を有する薬、医薬および洗浄剤の処方が挙げられる。
【0023】
上記組成物は、一種以上のフェノールを含有する。適切なフェノールとしては、アルキル、クロロおよびニトロで置換されたフェノールおよびビフェノールならびにこれらのカルボン酸が挙げられる。例示的なフェノールとしては、フェノール;2,3−ジメチルフェノール;3,5−ジメトキシフェノール(3,5−DiMeOphenol);2,6−ジメトキシフェノール(2,6−DiMeOphenol);o−フェニルフェノール(OPP);p−第三級アミルフェノール(PTAP);o−ベンジル−p−クロロフェノール(OBPCP);p−クロロ,m−クレゾール(PCMC);o−クレゾール;p−クレゾール;2,2−メチレンビス(p−クロロフェノール);3,4−ジヒドロキシ安息香酸(3,4DiOH benzoic);p−ヒドロキシ安息香酸;カフェイン酸;プロトカテク酸;p−ニトロフェノール;3−フェノールフェノール;2,3−ジメトキシフェノール(2,3DiMe−phenol);チモール;4−クロロ,3−メトキシフェノール;ペンタクロロフェノール;ヘキサクロロフェン;pクロロ−m−キシラノール(PCMX);トリクロサン;2,2−メトキシ−ビス(4−クロロ−フェノール);およびパラ−フェニルフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
比較的疎水性が高いフェノールは、上記組成物においてより有効である傾向があることが見出されている。Pは、計算されたオクタノール−水分配係数と定義される。より高いLog P値は、物質がより疎水性であることを示す。P値を決定するのに利用可能なソフトウエアは、例えば、Advanced Chemistry Development Softwareから入手可能である。好ましくは、上記組成物中のフェノールのうちの少なくとも1つは、ACDソフトウエア方法で測定される場合、少なくとも2.5、より好ましくは、少なくとも約3、および約6.0までのLog P値を有する。Log P値が高くなるにつれて(より疎水性)、より多くのフェノールが吸収されることが見出されている。従って、より低いフェノール濃度は、そのフェノールが疎水性である場合に使用され、所望のプリオン破壊を達成し得る。3.35のLog P値を有する、1つの特に好ましいフェノールは、PCMXである。
【0025】
上記組成物は、好ましくは酸性であり、すなわち、中性のpH(pH7)以下を有し、より好ましくは、約6以下のpHを有し、最も好ましくは、約2.5のpHを有する。例えば、上記組成物は、pHを調整するために添加される有機酸または無機酸(例えば、塩酸、グリコール酸、ホスホン酸など)を含有し得る。上記組成物は、アルカリ性であり得、例えば、塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)がpHを調整するために添加されることもまた企図される。好ましくは、アルカリ度は、50%以下のフェノールがイオン化されているようなアルカリ度である。
【0026】
上記組成物は、水または他の適切な溶媒を含む。上記組成物は、好ましくは、濃縮物として提供され、この濃縮物は、水で希釈されて、汚染除去に適切な濃度の汚染除去溶液を形成する。好ましくは、上記濃縮物は、約1重量%の溶液に希釈される。より厳密な汚染除去のために、上記濃縮物は、より高濃度で(例えば、約5重量%以上の溶液)使用され得る。他で特に明記されない限り、全ての濃度が上記濃縮物に対して提供される。
【0027】
好ましくは、上記濃縮物の総モルフェノール濃度は、約0.1M〜1.0M以上であり、より好ましくは、約0.2M以上であり、最も好ましくは、約0.5M以上である。有害なタンパク質(例えば、プリオン)の少なくとも99%を破壊する効果的な組成物は、約0.2M〜0.5M以上の合計フェノール濃度で処方されている。
【0028】
上記組成物はまた、特定の用途に依存して、他の成分を含み得る。適切な成分としては、水の硬度の塩を除去するための金属イオン封鎖剤、共溶媒、界面活性剤、腐食防止剤、緩衝剤などが挙げられる。
【0029】
金属イオン封鎖剤は、好ましくは、有機酸、無機酸またはそれらの混合物である。適切な有機酸としては、モノ脂肪族カルボン酸およびジ脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ含有有機酸、ならびにそれらの混合物が挙げられる。例示的な金属イオン封鎖剤としては、以下が挙げられる:グリコール酸、サリチル酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、ソルビン酸、スルファミン酸、酢酸、安息香酸、カプリン酸、カプロン酸、シアヌル酸、ジヒドロ酢酸、ジメチルスルファミン酸、プロピオン酸、ポリアクリル酸、2−エチル−ヘキサン酸、ギ酸、フマル酸、1−グルタミン酸、イソプロピルスルファミン酸、ナフテン酸、シュウ酸、吉草酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、クエン酸、クレゾール酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、リン酸、ホウ酸、ホスホン酸、およびそれらの組み合わせ(グリコール酸が好ましい)。アルカリ性組成物については、酸性金属イオン封鎖剤が省略され得る。
【0030】
酸は好ましくは、上記濃縮組成物の約2〜25%の濃度で、より好ましくは約5〜20%の濃度で、より好ましくは約15〜20%の濃度で存在する。
【0031】
適切な共溶媒としては、炭素原子、水素原子および酸素原子のみを含むポリオールが挙げられる。例示的なポリオールは、C〜Cポリオール(例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、およびグルコース)である。高級グリコール、ポリグリコール、ポリオキシドおよびグリコールエステルもまた、共溶媒として企図される。これらの例としては、以下が挙げられる:アルキルエーテルアルコール(例えば、メトキシエタノール、メトキシエタノールアセテート、ブトキシエタノール(ブチルセロソルブ)、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールn−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、2−エトキシエタノール、2−エトキシ−エチルアセテート、フェノキシエタノール、およびエチレングリコールn−プロピルエーテル)。共溶媒の組み合わせが使用され得る。上記ポリオールは、好ましくは、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%の濃度として存在し、最大40%までであり得る。
【0032】
適切な界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤(例えば、アルキルアリールアニオン性界面活性剤)が特に好ましい。例示的な界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸および1−オクタンスルホン酸ナトリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
また、有用なアニオン性界面活性剤は、以下である:サルフェート、スルホネート(特にC14〜C18スルホネート)、スルホン酸、エトキシレート、サルコシネート、およびスルホスクシネート(例えば、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸マグネシウム、スルホコハク酸エステル、ラウリル硫酸アンモニウム、スルホン酸アルキル、ラウリル硫酸ナトリウム、αオレフィンスルホン酸ナトリウム、硫酸アルキル、硫酸化アルコールエトキシレート、硫酸化アルキルフェノールエトキシレート、キシレンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホネート、トリエタノールアミンドデシルベンゼンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、N−アルコイルサルコシネート、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ジアルキルスルホスクシネート、N−アルコイルサルコシン、ラウロイルサルコシン、およびこれらの組み合わせ)。
【0034】
上記組成物はまた、1種以上の可溶性無機塩(例えば、塩化ナトリウム)を含有し得る。塩化ナトリウムは、特定のフェノール(特に、ハロゲン化されていないフェノール(例えば、OPP))に対する効力を増加させることが見出されている。一方、ハロゲン化フェノール(例えば、PCMX)の効力は、あまり顕著ではない。
【0035】
例示的な濃縮組成物は、以下の通りである:
【0036】
【表1−1】

1つの実施形態において、上記OBPCOPまたはOBPCOPの少なくともいくつかは、これらのフェノールのいずれかよりも有効なフェノール(例えば、PCMX)で置き換えられる。
【0037】
このような組成物は、水中に濃縮物が1重量%の濃度に希釈された場合、プリオンで汚染された表面に対して有効であることが示されている。不活性化プリオンの機構は完全には理解されていないが、上記フェノールはプリオンタンパク質と複合体を形成し得、そのプリオンタンパク質を無毒にすることが企図される。その結果、上記プリオンは、さらなるプリオンを産生するように複製し得ない。本発明者らによる研究は、上記フェノールが一般的に、プリオンを分解しないことを示唆する。プリオンタンパク質の三次元構造の変化はフェノールとの相互作用に起因し、そのプリオンを不活性化することが提唱される。
【0038】
さらに、上記組成物は、従来のプリオン処理(例えば、高温または高濃度の次亜塩素酸ナトリウムもしくは水酸化ナトリウム)と比較した場合、広範囲の表面と適合性である。
【0039】
上記組成物は、種々の方法(噴霧、コーティング、浸漬などを含む)で適用され得る。1つの実施形態において、上記組成物は、ゲルの形態で適用される。この実施形態において、増粘剤(例えば、天然セルロースまたは修飾セルロース)は、粘度を上昇させるために処方物に添加される。
【0040】
他の合成ポリマー(ポリアセテートを含む)、天然石(natural gems)、無機ポリマー(例えば、合成粘土)、界面活性剤(例えば、ブロックコポリマーおよびカチオン性界面活性剤)は、増粘剤として使用され得る。
【0041】
上記組成物は、室温で適用され得るが、より高温が好ましい。上記組成物を少なくとも30℃に、より好ましくは約40℃以上に加熱することによって、プリオンの不活性化に必要とされる時間の実質的な短縮が達成されることが見出されている。
【0042】
上記組成物の種々の処方物の効力は、ヒトプリオンまたは他の動物のプリオンを使用して調査され得る。あるいは、プリオンモデル(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)のようなタンパク質)は、処方物を評価するために使用され得る。好ましいプリオンモデルは、回腸流体依存性生物体(ileal fluid dependant organism)(IFDO)である。IFDOは、Burdonら(Burdon、J.Med.Micro.、29:145−157(1989))によって同定され、多くの点において(例えば、消毒方法および滅菌方法に対する耐性において)プリオンと類似していると記載された。実験室においてIFDOを人工的に培養し、それらを検出する能力に起因して、IFDOは、プリオン不活性化に対する汚染除去プロセスの効果を研究するための良好なモデル系を提供する。例示的な実施形態において、IFDOは、改変されたマイコプラズマベースのブロス(Oxoid)中で人工的に培養され、段階希釈して同様の寒天上にプレートすることによって定量される。汚染除去処方物の効力は、好ましくは、上記組成物の使用を模倣して、室温で、水中の約1%希釈の濃縮組成物において、懸濁試験によって研究される。適切な接触時間の後、アリコートがサンプリングされ、段階希釈して、改変マイコプラズマ寒天にプレートすることによって定量される。このプレートは、好ましくは、約37℃で数時間、好ましくは約48時間インキュベートされる。このプレートを試験し、目に見えるコロニーの数を数える。次いで、Log減少値が決定され得る(Log減少値は、取り除かれた生物体の数の指標であり、(生物体の初期数のLog10)−(処理後の生物体の数のLog10)の間の差として表される(例えば、6というlog減少値は、100万の初期の生物体から、最大で1の生物体が処理後に残ることを意味する))。
【0043】
ウシ血清アルブミン(BSA)を用いてSDS−PAGE技術を使用する分解研究は、BSAが、消毒薬LpHTMによっていかなる有意な程度にも分解しないことを示す。従って、LpHTMおよび他のフェノールベースの組成物は、タンパク質の二次構造または三次構造に対してわずかな効果を有し、そのタンパク質はもはや有毒でなくなることが提唱されている。
【0044】
上記組成物中のフェノールの溶解性は、タンパク質が複合体化する程度に対して効果を有することが見出されている。一般的に、上記処方物中のフェノールの溶解性が低くなるほど、複合体化の程度が大きくなる(すなわち、フェノール処方物がプリオン不活性化に、より有効になる)。溶解性は、上記処方物中のフェノールおよび他の成分の種類および濃度(例えば、使用される溶媒および共溶媒)の選択によって影響を受ける。
【0045】
本発明の範囲を限定することを意図することなく、以下の実施例は、種々の消毒組成物の模倣されたプリオンモデルに対する効果を示す。
【実施例】
【0046】
(実施例1:上記組成物の効力に対するフェノール濃度の効果の研究)
種々の組成物の抗プリオン(priocidal)活性に対する種々の処方物効果の寄与を試験するために、IFDOを使用して、log減少値を応答として、実験を行う。組成物I〜VIIの成分を、表1に列挙する。組成物Iは、市販の処方物LpHTMである。
【0047】
IFDOを、改変されたマイコプラズマブロスにおいて人工的に培養し、段階希釈して同様の寒天にプレートすることによって定量する。組成物I〜VIIの効力を、室温での、水中の1%希釈の組成物において、懸濁試験を行うことによって研究する。適切な接触時間(例えば、10分間)後、アリコートをサンプリングし、段階希釈して改変マイコプラズマ寒天にプレートすることによって定量する。37℃、48時間のインキュベーション後、上記プレートを目に見えるコロニーを数えることによって評価し、log減少値を決定する。上記組成物を現存のフェノール生成物と比較した結果を、表1に示す。
【0048】
【表1−2】

*初期カウント:1mLあたりLog106.7。
【0049】
LpHTMでの比較研究により、処理後、4.0のLog減少値のIFDOが得られる。得られたLog減少値に基づいて、実施例VIIが最良であった。なぜなら、6.7のLog減少値が得られたからである(すなわち、目に見えるコロニーはなかった)。
【0050】
(実施例2:ほぼ等モル濃度のフェノールの効果)
ほぼ等モル濃度の種々のフェノール(溶解性が可能な場合に可能である)を、実施例1の方法によって研究する。表2は、処方物IX〜XXについての成分重量および得られた結果を示す。
【0051】
【表2−1】

【0052】
【表2−2】

得られたLog値に基づいて、2,4,5−トリクロロフェノールを含む処方物XIVは、LpHで達成されたLog減少値(4.0)よりも良好な最も大きなLog減少値(4.9)を達成した。
【0053】
(実施例3:結果と分配係数(P)との相関)
は、計算されたオクタノール−水分配係数と定義される。log P値は、2つの方法を使用して計算される。1つ目の方法は、Alchemy 2000 Molecular Modeling Software(Tripos)をSTERIS Corporationによって開発されたデータセットと一緒に使用する。2番目の方法は、Advanced Chemistry Development(ACD)Software Solaris v4.67(著作権1994−2002 ACD)を使用する。各フェノールについて計算されたLog P値を、表3に示す:これらの値を、実施例2で得られたLog減少コロニー値と比較する。
【0054】
【表3】

図1は、IFDOのLog減少値対Log P値(Alchemy 2000)およびIFDOのLog減少値対Log P値(ACD)を示す。Log P値(Alchemy 2000)とLog P値(ACD)との相関を、図2に示す。
【0055】
トリクロサンおよびチモールを除いて、フェノールの活性は、そのフェノールに関連するLog Pと相関するようにみえる。
【0056】
チモールおよびトリクロサンは、それらは明らかにフィットしなかったので、このグラフおよび次のグラフには含めなかった。Log Pを計算するための2つの方法は、互いにかなり十分一致する。
【0057】
一般的に、2と6.5との間のlog P値を有するフェノールは、上記方法のいずれかによって測定された場合、向上した活性を示す。
【0058】
LpHTM生成物中のフェノールは、効力にとって最も有意な必要要件であることが見出され、OBPCP>>OPP>PTAPと評価された。あいまいな濃度のこれらのフェノールで試験した場合、最適な組み合わせは、OPBCPまたはOPPのいずれかを含む処方物であることが示された;PTAPはあまり効果がなかった。
【0059】
プリオンに対するフェノールの効果は、タンパク質の分解に関与しないようである。これは、BSAを用いたSDS−PAGEによるタンパク質分解研究において示された。フェノール処方物に曝露した場合、上記タンパク質はインタクトにみえた。フェノールは、プリオンタンパク質の二次構造もしくは三次構造に対してか、またはプリオンタンパク質を非感染性にするいくつかの点において、予測されなかったわずかな効果を有すると結論付けられ得る。
【0060】
(実施例4:フェノール処方活性に対する温度の効果)
IFDOを、改変されたマイコプラズマブロスにおいて人工的に培養し、段階希釈して同様の寒天にプレートすることによって定量する。フェノール処方活性に対する温度の効果を、水中の1%希釈の組成物において、種々の温度(20℃および40℃)で懸濁試験をすることによって研究する。5分間、10分間、15分間および20分間の接触時間後、アリコートをサンプリングし、段階希釈して改変マイコプラズマ寒天にプレートすることによって定量する。37℃、48時間のインキュベーション後、上記プレートを目に見えるコロニーを数えることによって評価し、log減少値を決定する。20℃と40℃とにおいてフェノール組成物(LpH)を比較した結果を、図3に示す。
【0061】
図3に示されるように、IFDOレベルは、20℃での15分間と比べて、40℃での5分間において、検出可能なレベル以下(すなわち、1 Logより大きい)に減少した。
【0062】
(実施例5:フェノール処方物とBSAタンパク質との相互作用)
種々のフェノールを含むフェノール溶液を、以下の通りに調製した:可溶化剤(例えば、アニオン性界面活性剤)を含むフェノール、有機酸、イソプロピルアルコール、グリコールおよびアミンの混合物約1.38gを、99mLの水に溶解して、4mMの総フェノール濃度を含む溶液を形成した。約1gのBSAを上記フェノール溶液に添加し、約0.15mM濃度のBSA(BSAの分子量は、約66,000ダルトンであると推定される)を得た。上記溶液を15分間撹拌して、次いで1800rpmで5分間遠心分離した。アリコートを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。図4は、存在する開始フェノール%に対する4回の結果を示す。フェノールは、BSAによって吸収された。吸収された%は、形成された沈殿物の量と良い相関を示した。これらの結果に基づいて、%吸収は、プリオンに対するフェノールの効力を決定する良い手段である。
【0063】
(実施例6)
実施例5からの吸収された開始濃度の%を、フェノールのHPLC保持時間に対してプロットした。図5は、これらの値の間の相関を示す。0.81という相関係数が得られ、HPLC保持時間は、上記タンパク質によるフェノールの吸収のかなり良好な指標であることを示唆している。
【0064】
(実施例7)
いくつかのフェノールについての(コンピュータにより計算された)Log P値を、図6に示したように、吸収された同等物に対してプロットした。この結果は、Log P値がより大きくなるにつれて(より疎水性)、より多くのフェノールが吸収されることを示す。従って、より低いフェノール濃度は、フェノールが疎水性である場合に使用されて、所望のプリオン破壊を達成し得る。
【0065】
(実施例8)
変化する量のブラインおよびフェノールを含む100mLの水を、フェノール取り込みについて研究した。この結果を表4に示す。賦形剤は、界面活性剤の混合物を含んだ。
【0066】
【表4】

この結果は、溶液中のブラインの存在は、2.5重量%または5重量%存在する場合、フェノールの取り込みに対して有意に影響を与えたことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、種々のフェノールの分配係数に対するlog(減少したプリオン)を示すプロットである。
【図2】図2は、種々の方法により得られた分配係数間の相関を示すプロットである。
【図3】図3は、フェノールによるプリオンの減少に対する温度の効果を示すプロットである。
【図4】図4は、種々のフェノールのBSAとの相互作用を示すプロットである。
【図5】図5は、種々のフェノールのHPLC保持時間に対する吸収された初期濃度の百分率を示すプロットである。
【図6】図6は、種々のフェノールのlogPに対する吸収されたフェノール当量のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリオンで汚染された物体を処置する方法であって、該方法は、以下:
該物体を、該物体のプリオンを不活性化するために、フェノールを含有する組成物と接触させる工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、p−クロロ−m−キシラノール、チモール、トリクロサン、4−クロロ,3−メチルフェノール、ペンタクロロフェノール、ヘキサクロロフェン、2,2−メチル−ビス(4−クロロフェノール)およびp−フェニルフェノールからなる群の少なくとも一種を含むこと、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、以下:
前記組成物が、o−フェニルフェノールおよびo−ベンジル−p−クロロフェノールのうちの少なくとも一種をさらに含有すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、少なくとも0.005Mの濃度であること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、約0.2Mまでの濃度であること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、2と6.5との間のlogP値を有すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、2と5との間のlogP値を有すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、少なくとも4のlogP値を有すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が、前記フェノールを少なくとも約10%の濃度で含有すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が、可溶性の無機塩を含有すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、以下:
前記可溶性の塩が、ナトリウム塩を含むこと、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、以下:
前記ナトリウム塩が、少なくとも2重量%の濃度で存在すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、o−フェニルフェノールを含むこと、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、以下:
前記塩が、塩化ナトリウムを含むこと、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、p−クロロ,m−キシラノール(PCMX)を含むこと、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記フェノールが、前記プリオンと複合化され、沈殿を形成すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記物体が表面を含み、該方法が、該表面を、該表面のプリオンを不活性化するために、前記フェノールを含有する前記組成物と接触させる工程を包含すること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記物体が、医療器具、歯科用器具および薬学的器具からなる群の一種を備えること、
によってさらに特徴づけられる、方法。
【請求項19】
プリオンで汚染されている物質上で、フェノールベースの汚染除去剤組成物の有効性を決定する方法であって、以下:
該フェノールベースの汚染除去剤溶液を、タンパク質と合わせる工程;
該タンパク質によって取り込まれたフェノールの量を決定する工程;および
該取り込まれたフェノールの量に基づいて、該組成物の有効性を決定する工程;
によって特徴づけられる、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、以下:
前記タンパク質が、プリオン含有物質およびウシ血清アルブミンのうちの少なくとも一種を含むこと、
によってさらに特徴づけられる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−501653(P2007−501653A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522648(P2006−522648)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/024801
【国際公開番号】WO2005/018686
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(502042506)ステリス インコーポレイテッド (22)
【Fターム(参考)】