説明

フェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法

【課題】
本発明は、特別な前処理を必要とせず簡単かつ効率よくリグノセルロース系バイオマスをフェノール化処理・再生することにより溶融成形性を有するリグノセルロース複合材料への変換方法を提供することである。
【解決手段】
本発明は、イオン液体を含む溶液を用いてリグノセルロース系バイオマスを膨潤および/または部分溶解させた後、フェノール化合物を加えて反応させることにより溶融成形性を有するリグノセルロース複合材料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特別な前処理を必要とせず簡単かつ効率よくリグノセルロース系バイオマス(リグニンを含んだ状態のバイオマス材料)をフェノール化処理することによりフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材などのリグノセルロース材料は優れた性能を有する天然複合材料である。今までそのマトリクスとするヘミセルロースとリグニン成分を抽出した後セルロースは製紙やセルロース誘導体の原料として利用されている。一方、天然木質材料の直接利用は建設材や家具などの分野に限られている。木材はプラスチックのように形が自由に制御できないことがその原因の一つである。木質材料はプラスチックのように自由自在に加工できればその利用活用は更に広がる。そのためには、マトリクスとするヘミセルロースやリグニンに溶融性や加工性を付与しなければならず、フェノール化反応によりリグニンやヘミセルロースに溶融流動性を付与する提案があるが、いずれもが、強酸高濃度で木質材料を処理するためセルロースの高度分解やリグニンの縮合反応が起るため、得られた材料の物性、硬化反応性、流動性は大きく劣る。
【0003】
リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を添加した後、大量の強酸を添加して混合することにより得られるリグノフェノール誘導体とセルロース成分から成るリグノセルロース系組成物については、特許文献1に開示されているが、リグニンをフェノール誘導体で処理する方法として、(1)木粉等のリグノセルロース系材料に液体状のフェノール誘導体(例えば、P−クレゾール等)を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させる方法及び(2)リグノセルロース系材料に、固体状あるいは液体状のフェノール誘導体を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトン)を浸透させた後、溶媒を留去する方法が示されているが、これらの方法では、リグノセルロース系材料のフェノール誘導体を収着させるのに長時間を要し、また固液の反応であるので均一に反応させることが難しい。
【0004】
【特許文献1】特開2001−342353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、イオン液体を含有する溶媒を用いてリグノセルロース系バイオマス(リグニンを含んだ状態の木質材料)を、特別な前処理を必要とすることなく、膨潤及び/または部分溶解、解繊する工程と、前記工程と同時又はその後に前記膨潤及び/または部分溶解した後、解繊したリグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物と反応させる工程を有することを特徴とするフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料製造方法を提供するもので、セルロースの重合度を著しく低下させることなく、またヘミセルロースとリグニンの基本構造が大きく改変されることなく処理する方法を提供するものである。さらに反応に長時間を要し、均一反応が難しいという従来の問題点を解決し、処理時間が短く、より均一に処理可能な方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示すような特徴を有するフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法に関するものである
【0007】
(1)リグノセルロース系バイオマス(リグニンを含んだ状態の木質材料)を化1化学式で表させるイオン液体を含有する溶媒を用いて膨潤及び/または部分溶解した後、解繊する工程と、前記解繊工程と同時又はその後に、前記膨潤及び/または部分溶解した後に解繊したリグノセルロース系バイオマス(以下「膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマス」という。)とフェノール類化合物とを反応させる工程を有することを特徴とするフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法である。
【化1】


式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアリル基である。Xはハロゲン又は擬ハロゲン、カルボキシル基である。
【0008】
上記したフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料とは、前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物とを反応させる工程を経た後の反応混合物及び反応混合物を貧溶媒と混合し沈殿析出させることにより得られる物質の両方のうちいずれかを意味する。
【0009】
(2)前記イオン液体を含有する溶媒に、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルフォキサイド、アセトニトリル、メタノール、エタノールの中から選ばれる一つ以上の溶媒を含有することを特徴とする(1) に記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法である。
【0010】
(3)前記イオン液体を含有する溶媒に、イオン液体の重量比は20〜95%であることを特徴とする(1)または(2)に記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法である。
【0011】
(4)前記フェノール類化合物はフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ノボラック、レゾールのいずれかの1つ以上であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法である。
【0012】
(5)前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物との反応は、酸性又はアルカリ性触媒存在下で行なうことを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法である。
【0013】
(6)前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物とを反応させた後の反応混合物を貧溶媒と混合し沈殿析出させることにより分離回収することを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法である。
反応混合物の貧溶媒としては、イオン液体は溶解するが、セルロース並びにヘミセルロース、リグニン及びそれらのフェノール化した成分は溶けない溶媒である水、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類等が挙げられる。
【0014】
前記リグノセルロース系バイオマスをイオン液体を含有する溶媒を用いて膨潤及び/または部分溶解する場合において、処理温度は30〜180℃で行なうことを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料製造方法。
【0015】
膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物との反応において、反応温度は30〜180℃であることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載のリグノセルロース系バイオマスの処理方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、イオン液体を含有する溶媒で膨潤及び/または部分溶解し、フェノール化した反応混合物は粘性をもった液状であるため、天然木質材料より容易に多量に搬送されることが可能となり、搬送後、反応混合物をイオン液体の貧溶媒と混合することによりイオン液体を含まないフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材とすることができる。また、セルロース誘導体への化学反応の原料として用いることができる。
【0017】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを原料にするが、特にこれまで有効利用されてこなかった間伐材、低木、木片、木屑などを有効利用することができ、真に森林資源を有効利用する道を開き、ひいては地球温暖化阻止を達成するものである。
【0018】
本発明のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法は、短い時間と温和な条件でフェノール化反応を行うことができるので、簡便、高効率である。また、本発明のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法は広範なリグノセルロースに適する。
【0019】
更に、本発明のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料は、溶融成形性・溶融加工性を有し、目的に応じてこれまでの工業材料と同様に自動車、航空、電子、電気など主要産業用の成形材料として使用されることが可能となる。そして、石油由来の炭素材料ではなしえなかったリグノセルロースのもつ特性を発現させることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明では、リグノセルロース系バイオマス(リグニンを含んだ状態の木質材料)を前記化1化学式で表させるイオン液体を含有する溶媒を用いて膨潤及び/または部分溶解した後、解繊する工程と、前記解繊工程と同時又はその後に膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物と反応させる工程を有するフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法である。
【0021】
本発明に使用するリグノセルロース系バイオマスの種類は特に限定されることはない。使用できる原料として木材、イナワラ、ムギワラ、バガス、竹、ケナフや、それらの廃棄物などが挙げられる。これらのうち、資源量の面より、木材、竹、ケナフがより好ましい。
【0022】
上記イオン液体としては、例えば、塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、臭化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、塩化1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、臭化1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、臭化1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートが挙げられる。
【0023】
イオン液体のみで繊維原料を処理することも出来るが、溶解力が高すぎでセルロースミクロフィブリルまで溶解してしまう恐れがあるため、有機溶媒を添加して使用することが好ましい。
【0024】
添加する有機溶媒種はイオン液体との相溶性、リグノセルロース系バイオマスとの親和性、混合溶媒の溶解性、粘度などを考慮し適宜選択すればよいが、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノールの内のいずれかの一つ以上を使用することが好ましい。これらの有機溶媒の共存によりイオン液体はリグノセルロース系バイオマスへの浸透が促進され、リグノセルロース系バイオマスを膨潤及び/または部分溶解することができる。
【0025】
イオン液体を含む溶媒中のイオン液体の濃度は、20%〜95%が好ましく、より好ましくは30%〜90%である。
イオン液体への有機溶媒の適切添加量はリグノセルロース系バイオマスの原料、イオン液体、有機溶媒などの種類に依存する。これらの影響因子に応じて適宜調整すればよい。しかし溶液中のイオン液体の含有量は重量比で20%未満の場合、膨潤・溶解能力は不十分となり十分な解繊が出来ない。
【0026】
窒素系有機溶媒は溶解力がより高いためイオン液体の含有量は20〜85%の範囲であることがより好ましい。より好ましくは30〜80%である。
メタノールなどのアルコール溶媒では溶解力は低いためイオン液体の含有量は35〜95%の範囲であることが好ましい、より好ましくは55〜90%である。
【0027】
リグノセルロース材料と上記イオン液体と有機溶媒からなる混合溶媒の重量比は特に限定されないが、木材の場合には50:100から5:100が好ましい。一方ヘミセルロースの含有量の高い草類の場合には100:100から10:100範囲が好ましい。
【0028】
本発明においては、リグノセルロース系バイオマス(リグニンを含んだ状態の木質材料)と前記化1化学式で表させるイオン液体を含有する溶媒を混合することによって膨潤及び/または部分溶解をおこなう。
【0029】
原料に用いるリグノセルロース系バイオマスは、適当な大きさに粉砕して用いられる。その大きさはイオン液体を含有する溶媒を添加して膨潤及び/または部分溶解が起こる大きさであればよいが、最大の辺が1cm以下であることが好ましく、原料は細かく粉砕してあるほど溶媒を均一にいきわたらせることができ、膨潤及び/または部分溶解が短時間で完了する。
【0030】
本発明においては、リグノセルロース系バイオマスにイオン液体を含有する溶媒を添加することにより、リグノセルロース系バイオマスの構成成分のセルロース繊維の間に存在するヘミセルロースやリグニン等の不定形成分を膨潤及び/又は溶解させることによりリグノセルロース系バイオマスの膨潤及び/又は部分溶解が生じる。セルロース繊維は、溶解させないのがベストであるが、ほんの一部溶解した程度であれば本発明の実施には差し支えはない。
【0031】
また、セルロース繊維の間の前記不定形成分が膨潤及び/又は溶解することにより、セルロース繊維が緩まり及び/又は解されることによりリグノセルロース系バイオマスが解繊される。解繊は、リグノセルロース系バイオマスを膨潤及び/又は部分溶解させることによっても生じるが、その上更に機械処理及び/または超音波処理を加えれば、解繊効率はより高くなるためより好ましい。
【0032】
また、解繊は、リグノセルロース系バイオマスとイオン液体を含有する溶媒を混合する際に、機械処理及び/または超音波処理を同時に行うことにより効果的に行うことができる。
機械処理としては、機械攪拌、ボールミル、振動ミル、グラインダ、ホモジナイザー等の通常用いられる機械処理を用いることができる。
【0033】
前記リグノセルロース系バイオマスをイオン液体を含有する溶媒を用いて膨潤及び/または部分溶解において、処理温度は30〜180℃であることが好ましい。30℃より低くなるとリグノセルロースの膨潤又は部分溶解する時間は長いため好ましくない。又180℃より高くなるとセルロースやヘミセルロースの分解反応やリグニンの縮合や分解反応を生じる恐れがあるため好ましくない。詳しく言うと60〜150℃の温度範囲がより好ましい。
【0034】
前記リグノセルロース系バイオマスをイオン液体を含有する溶媒を用いて膨潤及び/または部分溶解において、処理時間はイオン液体と有機溶媒混合溶媒の溶解性に依存するが、10〜180分であることが好ましい。20分より低くなるとリグノセルロースの膨潤又は部分溶解は不十分ため好ましくない。又120分より長くなるとリグノセルロースの各成分の分解反応やリグニンの再縮合反応は行なう恐れがあるため好ましくない。詳しく言うと20〜150分はより好ましい。更により好ましくは30〜120分である。
【0035】
このように、リグノセルロース系バイオマスを膨潤・解繊させるのには、原料に応じてイオン液体溶媒、処理条件等を適宜選択して行うことができる。そして、リグノセルロース系バイオマスが膨潤・解繊しているかどうかは、光学顕微鏡、電子顕微鏡等で観察することにより確認できる。
【0036】
本発明においては、前記解繊工程と同時又はその後に膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物とを反応させる。
【0037】
リグノセルロース系バイオマスは、膨潤、解繊されており、リグノセルロース系バイオマスのうちヘミセルロースやリグニンは溶解または膨潤された状態であるため、フェノール類化合物との反応が容易に進行する。
【0038】
前記フェノール類化合物は最後製品の応用分野に依存し特に限定されないが、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ノボラック、レゾールは挙げられる。それらのいずれかの1つ以上であることが好ましい。
【0039】
前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類との比率は特定限定されないが、100:300から100:10が好ましい。得られた複合材料の加工性または物性の面から100:200〜100:50の範囲はより好ましい。バイオマスの利用量を向上するために100:100〜100:30の範囲は好ましい。総合的考えると100:100から100:50がよりこのましい。
【0040】
前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物と反応には、酸性又はアルカリ性触媒存在下で速度一層高くなるため、好ましい。酸性触媒は無機酸又は有機酸とも適用である。例えば硫酸、塩酸、燐酸などの無機酸や酢酸、ギ酸などの有機酸であればよい。
アルカリは金属の水酸化物などの無機アルカリや三級アミンの有機アルカリであればよい。添加量は反応温度や時間、又はリグノセルロース系バイオマスの種類によるが、総合反応物に対して0.1重量%から10重量%であればよい。10重量%より高くなるとセルロースなどの多糖類は分解することやリグニンの縮合反応は起こる恐れがあるため好ましくない。
【0041】
前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物との反応において、反応温度は30〜180℃であることが好ましい。30℃より低くなると前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物との反応速度は低すぎるため好ましくない。又180℃より高くなるとセルロースやヘミセルロースの分解反応やリグニンの再縮合反応は行なう恐れがあるため好ましくない。詳しく言うと反応温度は80〜150℃の温度範囲はより好ましい。
【0042】
前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物との反応において、反応時間は温度、触媒に依存するが、15〜180分であることが好ましい。15分より短くなると前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノールの反応は不十分ため得られた反応生成物の溶融加工性や物性は劣るため好ましくない。又180分より高くなるとセルロースやヘミセルロースの分解反応やリグニンの再縮合反応が起こる恐れがあるため好ましくない。詳しく言うと反応時間は20〜150分はより好ましい。
【0043】
前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物との反応においては、溶解した成分(リグニン及びヘミセルロース)との反応が優先される。その中でもリグニンはフェノール化合物との反応性が高いためリグニンが最優先でフェノール化されると考えられる。
【0044】
上記リグノセルロース系バイオマスの処理過程でプロセスの効率面から強力混合機又は混練機を利用することが好ましい。強力機械攪拌によりリグニンの溶解やフェノールとの反応速度は一層加速するためプロセスの効率は改善するため好もしい。
【0045】
前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物とを反応させた後、反応混合物を貧溶媒と混合しフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料を沈殿析出させることにより分離回収することができる。
反応混合物の貧溶媒としては、イオン液体は溶解するが、セルロール並びにヘミセルロース、リグニン及びそれらのフェノール化した成分は溶けない溶媒である水、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類等が挙げられる。
【0046】
こうようにして、沈殿析出させたフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料は、フェノール化により熱流動性又は溶剤溶解性が付与された複合材料として利用される。
【実施例】
【0047】
以下は実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
本発明ではリグノセルロース系バイオマスのセルロース繊維の解繊を促進するために振動ミルを用いた。振動ミル用ビーズの直径はφ0.63μmであった。
膨潤、部分溶解、解繊などリグノセルロース系バイオマスの形態変化は光学顕微鏡(400倍)の観察により判断して処理を進めた。
反応系内に残る未反応フェノールの定量はHPLC(ODSカーラムを用いた)で行った。得られたフェノール化リグノセルロースの結合フェノール量は下の式によって計算された。
結合フェノール量=(フェノールの仕込み量−未反応フェノール量)/リグノセルロースの仕込み量×100%
【0048】
実施例1
米国松木材チップを粉砕機で200メッシュ以下まで粉砕して得られた木粉2.5gを200mlのフラスコに入れ、それにN,N−ジメチルアセトアミド15gと塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム30gを加え、95℃で30分攪拌によりリグノセルロースを膨潤又は部分溶解させた後振動ミルを用いて室温で20分処理させた。さらにp−クレゾール5gと濃硫酸0.75gの混合液を加え更に95℃で攪拌しながら90分反応させた。後茶色粘性液体を得た。得られた粘性液体に300mlの蒸留水を加え、粉状から少し大きな塊が入り混じった固体状の物質として析出させ、更に洗浄、ろ過、乾燥することによってフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料を得た。
【0049】
光学顕微鏡(400倍)で観察によりセルロース繊維の平均直径は約0.5μmであった。濾液のHPLC分析結果からリグノセルロースの結合フェノール量は35%であった。
【0050】
また、生成したフェノール化リグノセルロース系バイオマスは、溶融成形性を有しており、上記の粉状から少し大きな塊が入り混じった固体状の物質10gを180℃、15MPaで15分間ホットプレスした。その後、加圧をやめて取り出した加温された状態では溶融した流動性のある物質であった。しかし、加圧したままで室温まで冷却して取り出すと1枚の茶色の板状成形体を得ることができた。
【0051】
実施例2
N,N−ジメチルホルムアミド10gと塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム30g、p−クレゾール5gと濃硫酸0.75gを70℃で混合し、それに米国松木材チップを粉砕機で200メッシュ以下まで粉砕して得られた木粉2.5gを攪拌しながら加えてから95℃加熱下で90分攪拌により膨潤又は部分溶解させた後、振動ミルを用いて室温で20分処理させた。茶色な粘性液を得られた。それに300mlの蒸留水を加え析出させてから更に洗浄、ろ過することによってフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料を得た。HPLC分析結果からリグノセルロースの結合フェノール量は30%であった。
【0052】
比較例
N,N−ジメチルアセトアミド15gと塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム30gの代わりに、蒸留水45mlを用いた以外は実施1と同様に実施した。処理された木粉の外観は処理前とほぼ変わらなかった。HPLC分析結果からリグノセルロースの結合フェノール量は3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、特別な前処理を必要とせずリグノセルロース系バイオマスを解繊、フェノール化させることによって熱溶融性、反応性を付与し、熱加工性を有するリグノセルロース複合材料を製造することができる。
【0054】
本発明の製造方法により得られたフェノール化リグノセルロース系バイオマス複合材料は溶融成形性を有しており、熱硬化性複合材料として利用できる。
更に、本発明のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料は、溶融加工性を有し、目的に応じてこれまでの工業材料と同様に自動車、航空、電子、電気、建築等の主要産業用の成形材料として使用されることが可能となる。
【0055】
また、貧溶媒で析出させる前のフェノール化リグノセルロース系バイオマスとイオン液体を含有する溶媒の混合物は、セルロース誘導体を生成する原料として利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系バイオマス(リグニンを含んだ状態のバイオマス材料)を化1化学式で表されるイオン液体を含有する溶媒を用いて膨潤及び/または部分溶解した後、解繊する工程と、前記解繊工程と同時又はその後に、前記膨潤及び/または部分溶解した後に解繊したリグノセルロース系バイオマス(以下「膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマス」という。)とフェノール類化合物とを反応させる工程を有することを特徴とするフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法。
【化1】


式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアリル基である。Xはハロゲン又は擬ハロゲン又は炭素数1〜4までのカルボキシル基である。
【請求項2】
前記イオン液体を含有する溶媒に、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルフォキサイド、アセトニトリル、メタノール、エタノールの中から選ばれる一つ以上の溶媒を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記イオン液体を含有する溶媒に、イオン液体の重量比は20〜95%であることを特徴とする請求項1または2に記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記フェノール類化合物はフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ノボラック、レゾールのいずれかの1つ以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物との反応は、酸性又はアルカリ性触媒存在下で行なうことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記膨潤・解繊リグノセルロース系バイオマスとフェノール類化合物とを反応させた後の反応混合物を貧溶媒と混合し沈殿析出させることにより分離回収することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のフェノール化リグノセルロースバイオマス複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2010−150323(P2010−150323A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327531(P2008−327531)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】