説明

フェノール樹脂成形材料

【課題】機械的強度と衝撃特性を両立させたフェノール樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】ノボラック型フェノール樹脂がビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂により変性されたフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂と、充填材とを含有するフェノール樹脂成形材料であって、前記成形材料全体に対して前記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂を10〜40重量%、前記充填材を30〜85重量%含有するフェノール樹脂成形材料。ビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂の特性である可撓性や接着性が変性によって付与され、フェノール樹脂成形材料の機械的強度と衝撃特性を同時に得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度と衝撃特性を両立させたフェノール樹脂成形材料に関し、より詳しくは、ノボラック型フェノール樹脂がビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂で変性されたノボラック型フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂成形材料は機械的強度、耐熱性、寸法安定性、成形性などに優れ、自動車分野、電気・電子分野などの基幹産業分野において長期にわたり使用されている。特に最近では、コストダウン及び軽量化などを目的に鉄製やアルミニウム製の金属部品をガラス繊維で強化した高強度のフェノール樹脂成形品に置換する試みが、積極的に行われている。今後更に金属代替を進めるためには、より一層の高性能化が望まれている。
【0003】
一般にフェノール樹脂を含む熱硬化性樹脂は硬くて脆い、すなわち靭性に劣るという欠点がみられる。このため、フェノール樹脂の靭性を向上することを目的として従来から、フェノール樹脂に天然ゴム、アクリロニトリルブタジエン(NBR)などの外部可撓化剤を添加する方法が提案され、一部は実用化されている。しかし、これらの方法では靭性は向上しても、機械的強度などが低下する場合が多い。
【0004】
このような問題を解決する検討の一例としてフェノール樹脂と、熱可塑性樹脂、エラストマー、あるいはエンジニアリングプラスチックとの混合がある。これまで幾つかの材料について検討されて、機械的強度や衝撃特性など成形品特性あるいは成形性についてある程度の改良に成功している。
【0005】
熱可塑性樹脂の一つとしてフェノキシ樹脂が挙げられる。フェノキシ樹脂は、ポリヒドロキシエーテル樹脂としても知られており、透明性、可撓性、耐衝撃性、密着性、機械的特性などに優れており、単独で塗料、電気絶縁材、成型加工材、接着剤などに使用することができる。また、硬化剤を併用すると、熱硬化性樹脂としても使用できる樹脂である。
【0006】
例えば、特許文献1には、フェノキシ樹脂3〜25重量%、フェノール2〜25重量%、酸性触媒2〜10重量%、及びレゾール型フェノール樹脂65〜75重量%が配合され、特定の工程により得られたフェノキシ樹脂改質フェノール樹脂において機械的強度が向上させることが開示されている。この技術は、フェノキシ樹脂とフェノールをあらかじめ混合し、この混合物にさらに酸性触媒を混合する。この触媒の混合された混合物と、レゾール型フェノール樹脂とを混合し、目的の改質フェノール樹脂を得るものである。このため、工程が多く経済的に不利であることが予想される。この文献にはノボラック型フェノール樹脂とビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂の混合に関する記述は一切なく、本発明とは異なる。
【0007】
特許文献2には、全フェノール樹脂中の5〜20重量%がフェノキシ変性されたノボラック型フェノール樹脂20〜40重量%、ガラス繊維30〜60重量%、炭素繊維とグラファイト粉末とから選ばれるものを5〜20重量%含有して成るフェノール樹脂成形材料が開示されており、高温環境下での静的強度及び寸法安定性などの特性が改善されることが記載されている。しかし、この文献にはノボラック型フェノール樹脂とビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂の混合に関する記述は一切なく、熱時高温環境下での静的強度及び寸法安定性などの特性を改善したものであり、本発明のフェノール樹脂成形材料の機械的強度と衝撃特性の両立とは主旨が異なる。
【0008】
また、特許文献3には熱硬化性樹脂20〜80重量部とフェノキシ樹脂20〜80重量部との混合物を必須とするシート状接着剤、特許文献4には(A)フェノキシ樹脂15〜100重量部、(B)エポキシ樹脂0〜85重量部、(A)+(B)100重量部に対し、フェノールホルムアルデヒド樹脂1〜50重量部を有機溶剤中に分散ないしは溶解させてなる塗料組成物、特許文献5にはフェノキシ樹脂とフェノール系樹脂の予備結合物に不飽和脂肪族カルボン酸共重合体をグラフトさせた重合物を含む水性樹脂分散体などの技術が開示されている。しかし、これらの技術はいずれも、接着性や、加工性、密着性などの塗料特性を改善したものであり、本発明のフェノール樹脂成形材料の機械的強度と衝撃特性の両立とは主旨も効果も異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3200369号公報
【特許文献2】特許第3906657号公報
【特許文献3】特開平3−105932号公報
【特許文献4】特開平7−207222号公報
【特許文献5】特開平7−242714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、機械的強度と衝撃特性を両立させたフェノール樹脂成形材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、ノボラック型フェノール樹脂がビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂により変性されたノボラック型フェノール樹脂と、充填材とを含有し、成形材料全体に対して前記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂を10〜40重量%、充填材を30〜85重量%含有するフェノール樹脂成形材料が、ビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂の特性である可撓性や接着性が変性によって付与され、フェノール樹脂成形材料の硬化物において機械的強度と衝撃特性を同時に得ることが出来ることを見出し、本発明に至った。
【0012】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(3)により達成される。
(1)ノボラック型フェノール樹脂がビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂により変性されたフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂と、充填材とを含有するフェノール樹脂成形材料であって、上記成形材料全体に対して上記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂を10〜40重量%、上記充填材を30〜85重量%含有することを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
(2)上記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂が、上記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂全体に対して5〜30重量%をビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂により変性されたものである、上記(1)に記載のフェノール樹脂成形材料。
(3)上記充填材が、ガラス繊維、炭素繊維、及び、ガラス粉末から選ばれた1種以上のものである上記(1)又は(2)に記載のフェノール樹脂成形材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、変性によりビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂の特性である可撓性や接着性がフェノール樹脂成形材料に付与され、機械的強度と衝撃特性を同時に得るフェノール樹脂成形材料を与えることから、自動車分野、電気・電子分野などの基幹産業分野における金属製の構造部品や機構部品の樹脂代替化を大幅に促進するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、ノボラック型フェノール樹脂がビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂により変性されたフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂と、充填材とを含有するフェノール樹脂成形材料であって、上記成形材料全体に対して上記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂を10〜40重量%、上記充填材を30〜85重量%含有することを特徴とする。
【0016】
本発明で用いられるノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、蓚酸、塩酸、硫酸、トルエンスルホン酸などの酸性触媒の存在下で、フェノール類(P)に対するアルデヒド類(F)の反応モル比(F/P)を、通常0.5〜0.9として反応させることにより得られるものである。
【0017】
ここで用いられるフェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、キシレノール、パラターシャリーブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラフェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシンなどのフェノール類が挙げられ、通常、フェノール、クレゾールが多く用いられる。
また、同様にアルデヒド類としても特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン等のアルデヒド類、あるいはこれらの混合物であり、これらのアルデヒド類の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することもできるが、通常はホルムアルデヒドが多く用いられる。
【0018】
本発明に用いられるビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂とは、ビスフェノールF(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)とエピクロロヒドリンからなる下式(1)の繰り返し単位を有するフェノキシ樹脂である限り特に限定されるものではなく、他のフェノキシ樹脂との共重合物、あるいは混合物であってもよい。ビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂は特に可撓性、接着性が優れている。
【0019】
【化1】

【0020】
他のフェノキシ樹脂としては、2価フェノール類から選ばれる1種あるいは2種以上の化合物とエピクロロヒドリンとの反応、若しくは2価フェノール類から選ばれる1種あるいは2種以上の化合物と、エピクロロヒドリンおよびグリセリンなどの多価アルコールからなる多価グリシジルエーテルの付加重合反応により得られるポリヒドロキシポリエ−テル類が挙げられる。
【0021】
上記2価フェノール類としては、ヒドロキノン、レゾルシンなどのフェノール類;2,6−ジヒドロキシナフタレンなどのナフタレン類;4,4´−ビフェノ−ルなどのビフェノール類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA(2,2
−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビスフェノールB(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン];2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,3’−ビフェニリル)プロパンなどのビス(ヒドロキシビフェニリル)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テルなどのビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトンなどのビス(ヒドロキシフェニル)ケトン類;4,4’−(o,m,p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールなどのビス(ヒドロキシフェニル−アルキル)アレーン類;ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのハロゲン化ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類などが挙げられる。
【0022】
このようなビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂は市販のものを選択可能であり、例えば、東都化成(株)から、「フェノトート」シリーズ(例えば、「YP−70」、「FX−313」、「FX−316」、「ZX−1356−2」など)として、ジャパンエポキシレジン(株)から、「jER」シリーズ(例えば、「jER4250」、「jER4275」など)として入手することもできる。これらのフェノキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0023】
本発明で用いられるフェノキシ樹脂の数平均分子量は、10万以下のものが好ましい。数平均分子量が10万を超えると混練中の粘度上昇により、作業性の低下や成形性が悪くなる。また、上式(1)の構造を有するがn≦15となる通常の液状エポキシ樹脂の添加は、ノボラック型フェノール樹脂の異常硬化の原因となり、成形材料の強度が発現せず、成形性も悪い。
【0024】
本発明で用いられるビスフェノールF骨格を有するフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂の調製方法としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂とビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂とを、有機溶剤中に溶解させて攪拌混合する、あるいは加圧ニーダー、ロール、単軸または二軸混練機などで溶融混練することにより実施することができる。
【0025】
本発明で用いられるビスフェノールF骨格を有するフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂と充填材は、成形材料全体に対し、それぞれ10〜40重量%、30〜85重量%配合することが好ましい。ビスフェノールF骨格を有するフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂の含有量が40重量%を超える、若しくは充填材の含有量が30重量%未満では、成形品の機械的強度が充分でないことがあり、寸法変化も大きくなることがある。また、ビスフェノールF骨格を有するフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂の含有量が10重量%未満、若しくは充填材の含有量が85重量%を超えると混練などの成形材料化が困難になり、成形材料段階での作業性の低下につながることがある。
【0026】
本発明に用いられるフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂のフェノキシ樹脂による変性率は、上記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂全体に対して5〜30重量%であるとよく、好ましくは8〜20重量%がよい。これにより高い機械的強度を維持したまま、衝撃強度を向上させる効果を高く得ることができる。
フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂のフェノキシ樹脂による変性率が5重量%未満であると、フェノキシ変性による衝撃特性の向上を十分高く得ることができないことがある。また、30重量%を超えると、フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂の硬化速度が遅くなったり、耐熱性の低下を招いたりすることがある。
【0027】
本発明で用いる充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維(バサルト/ロックウール)、カオリンウール、セラミックス繊維などの無機繊維;アラミド繊維、メリヤス布、パルプ、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール(PBO)繊維などの有機繊維;ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維;その他、ボロン繊維、天然繊維、変成した天然繊維などの強化繊維が挙げられる。その他、木粉、ヤシガラ粉、モミ殻粉、トウモロコシ粉、合板粉末、樹脂製成形品粉末、パルプ粉などの有機質基材、及び、ガラス粉末、炭酸カルシウム、クレー、タルク、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、雲母、アスベストケイソウ土などの無機質基材を用いてもよい。上記の充填材は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
これらの中で、充填材はガラス繊維、炭素繊維、ガラス粉末から選ばれた1種以上のものであることが好ましい。これにより、成形品に機械的特性、耐熱性の効果を付与することができる。
【0028】
本発明で用いるガラス繊維としては、従来強化ガラス繊維として使用されているEガラス、Sガラス、Dガラス、高弾性率ガラスなどのガラス繊維を用いることができる。中でも強度向上及びコストの面からEガラスを用いることが好ましい。このガラス繊維は、長繊維であっても短繊維であってもよい。かかるガラス繊維の形状として、特に制限されるものではなく、例えばチョップドストランド、ミルドファイバー、チョップドマット、ロービング、織布、不織布などが挙げられる。
【0029】
本発明で用いられる炭素繊維は、強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる部材に好適である。炭素繊維の種類として、特に制限されるものではなく、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などを用いることができる。この炭素繊維は、長繊維であっても短繊維であってもよい。かかる炭素繊維の形状として、特に制限されるものではなく、例えばチョップドストランド、ミルドファイバー、チョップドマット、ロービング、織布、不織布などが挙げられる。
【0030】
本発明で用いるガラス粉末としては、ビーズ状のものやパウダー状のものがあり、組成、形状、粒径などが多種類存在し、使用目的に応じて選択性が広い点で好適である。特に球状のガラスビーズでは、成形の際、流動時に配向がなく、成形収縮や後収縮が均一となり、良好な寸法精度、寸法安定性を確保することが可能となる。
【0031】
さらに、これらガラス繊維あるいはガラス粉末表面にシランカップリング剤で処理したガラス繊維あるいはガラス粉末を用いることが好ましい。シランカップリング剤としては、従来公知のものが適宜使用できる。例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3(又は2)−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンの加水分解縮合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β(ア
ミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、両末端にアルコキシシリル基を持ったアミノシランなどが挙げられる。これらシランカップリング剤のいずれかを1種類または2種類以上組み合わせて用いて良い。
【0032】
本発明のフェノール樹脂成形材料には、本発明の効果を損なわない範囲で目的、用途に応じ、着色剤、離型剤、導電剤、カップリング剤、硬化助剤、溶剤などを配合することができる。混練方法としては、二本ロール、コニーダー、二軸押出機などの混練機を用いて単独又は併用して混練することができる。成形方法としては、トランスファー成形、コンプレッション成形、インジェクション成形などの成形方法によって成形することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について実施例及び比較例により具体的に説明するが、実施例及び比較例で採用した条件は、本発明の効果を確認するための一条件例であり、本発明は以下の実施例のみに何ら限定されるものではない。なお以下に記載の「部」は「重量部」を示す。
【0034】
(合成例1)撹拌機、温度調節機、温度計、冷却コンデンサーの付いた反応装置にてビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名jER4275、数平均分子量:8,000)10部とフェノール50部とを115℃にて加熱溶解させた。その後、160℃まで加熱しノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製、商品名PR−51714、数平均分子量:800)90部を徐々に添加し溶融混合した。フェノキシ樹脂とノボラック樹脂とが均一な状態となってから1時間保持した後、真空下にてフェノールを減圧除去させた。反応容器より溶融樹脂を取り出し、冷却後粉砕してビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂による変性率が10重量%のフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂Aを得た。
【0035】
(合成例2)合成例1において、フェノキシ樹脂をビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名jER4250、数平均分子量:9,000)とした以外は上記と同様にしてビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂による変性率が10重量%のフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂Bを得た。
【0036】
(合成例3)合成例1において、フェノキシ樹脂をビスフェノールF骨格を含まないフェノキシ樹脂(ビスフェノールA骨格を有するフェノキシ樹脂)(東都化成工業株式会社製、商品名フェノトートYP−50S、数平均分子量:11,000)とした以外は上記と同様にしてフェノキシ樹脂による変性率が10重量%のフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂Cを得た。
【0037】
実施例及び比較例に用いた上記以外の原料は以下の通りである。
ノボラック型フェノール樹脂:フェノキシ変性されていないノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製、商品名A−1082G、数平均分子量:900)
アクリロニトリルブタジエンゴム:JSR社製
硬化剤:ヘキサメチレンテトラミン
ガラス粉末:ユニチカ株式会社製、商品名ユニビーズ UB−13Lをγ−アミノプロピルトリエトキシシラン処理したもの
着色剤:カーボンブラック
硬化助剤:酸化マグネシウム
離型剤:ステアリン酸カルシウム
【0038】
(実施例1〜2、比較例3)合成例1〜3で調製したフェノキシ変性ノボラック型フェノ
ール樹脂及び表1記載の各原料を表1に示す割合でドライブレンドした後、二本ロールにより90℃で10分間溶融混練を行い、冷却後粉砕することで成形材料を得た。
(比較例1)実施例1〜2において、フェノール樹脂としてフェノキシ変性されていないノボラック型フェノール樹脂を用いた以外は実施例1〜2と同様にして成形材料を得た。(比較例2)実施例1〜2において、フェノール樹脂としてフェノキシ変性されていないノボラック型フェノール樹脂を用い、靭性向上剤としてアクリロニトリルブタジエンゴムを用いた以外は実施例1〜2と同様にして成形材料を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
得られた成形材料については、175℃の金型を用いてトランスファー成形機により試験片を作製し、得られた成形品の性能を測定した。その結果を表2に示す。なお各種特性評価については、JIS K 6911規格に準じて測定した。
【0041】
【表2】

【0042】
表2より、ノボラック型フェノール樹脂がビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂により変性されたフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂を用いた場合では、高い機械的強度を維持したまま、衝撃強度を向上させる効果を有していることが判る(実施例1〜2)。
一方、フェノキシ変性されていないノボラック型フェノール樹脂を用いた場合では、実施例1〜2と比較し、高い機械強度を示しているが、衝撃強度が低いことが判る(比較例1)。また、靭性向上剤としてNBRを添加した場合では、機械的強度の著しい低下が認められるとともに衝撃強度向上の効果の程度も小さいことが判る(比較例2)。さらにビスフェノールF骨格を含まないフェノキシ樹脂を用いた場合では、高い機械的強度を維持したまま、衝撃強度を向上させる効果を有していることが認められるが、その効果の程度は小さく(比較例3)、同じフェノキシ樹脂であってもビスフェノールF骨格を含む実施例1〜2の方が、高い機械的強度を維持したまま、衝撃強度を向上させる効果が高いことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、機械的強度と衝撃特性を両立させた成形品を得ることができるものであり、自動車分野、電気・電子分野などの基幹産業分野における金属製の構造部品や機構部品の樹脂代替化を大幅に促進することができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂がビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂により変性されたフェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂と、充填材とを含有するフェノール樹脂成形材料であって、前記成形材料全体に対して前記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂を10〜40重量%、前記充填材を30〜85重量%含有することを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
【請求項2】
前記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂が、前記フェノキシ変性ノボラック型フェノール樹脂全体に対して5〜30重量%をビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂により変性されたものである、請求項1に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項3】
前記充填材が、ガラス繊維、炭素繊維、及び、ガラス粉末から選ばれた1種以上のものである請求項1又は2に記載のフェノール樹脂成形材料。

【公開番号】特開2011−202075(P2011−202075A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72305(P2010−72305)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】