説明

フェノール系硬化剤及び該フェノール系硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物

【課題】低い温度でも流動性を有し、低温での硬化が可能であって良好な塗布性及び充填性を有し、さらに、得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、熱応力緩和特性を改善することが可能なエポキシ樹脂硬化剤の提供。
【解決手段】特定なビニルフェノールと、式(2)で表されるビニルエーテルを含み、1分子中にフェノール性水酸基を2以上有する共重合体。


[式中、Rは置換または無置換炭化水素基を表す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール系硬化剤に関し、更に詳細にはエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる新規なフェノール系硬化剤及びそれを用いたエポキシ樹脂組成物に関する。得られるエポキシ樹脂組成物は、電子材料用樹脂組成物およびコーティング剤等の種々の用途に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、その硬化に際して種々の硬化剤を使用されるが、硬化剤の種類により硬化物の性能が大きく異なることが知られており、当該エポキシ樹脂組成物の用途によって硬化剤が使い分けられている。なかでもフェノール系硬化剤は、接着性、耐水性、電気的性能等の物性バランスに優れており、電気・電子分野におけるエポキシ樹脂用の硬化剤として広く用いられている。
【0003】
上記のフェノール系硬化剤の中でも、特にポリビニルフェノールは電気抵抗特性に優れていることが知られており、電子材料用樹脂組成物として種々の用途が検討されている(例えば、特許文献1、2など)。しかしながら、電子機器、通信機などの精密機器に装着されている回路は、近年ますます高速化、高密度化が進み、ポリビニルフェノールを硬化剤とするエポキシ樹脂組成物に対してもより高い性能が求められるようになっている。
【0004】
たとえば、半導体パッケージや半導体素子の反りは、各構成部材の熱膨張率の差により生じるため、硬化温度を下げることが望まれている。しかし、ポリビニルフェノールはガラス転移温度が高いため、硬化までの溶融状態において被着面に十分追従する粘度に達するためにはある程度高い温度が必要であり、低温での硬化では接着性が不十分となるため硬化温度を下げることができなかった。
【0005】
また、熱膨張率の差によって生じる応力を吸収緩和するために、硬化物の硬度および耐熱性を保持したまま低弾性率にすることが望まれているが、ポリビニルフェノールを硬化剤とするエポキシ樹脂組成物では、熱硬化時の三次元架橋により硬化物の弾性率が高くなり、各構成部材の熱膨張率の差に基づく歪を吸収することができなかった。
【0006】
一方、低温での流動性を高めて硬化温度を下げるためには、エポキシ樹脂組成物にガラス転移温度の低い熱可塑成分を添加するか、低分子量の成分を添加して流動性を向上させる必要がある。また、各構成部材の熱膨張率の差に基づく歪を吸収し、熱応力緩和特性を改善す方法として、エポキシ樹脂組成物にゴム成分を添加する手法が知られている。しかしながら、エポキシ樹脂組成物にガラス転移温度の低い熱可塑成分やゴム成分を添加すると、流動性や熱応力緩和特性を改善することができるものの、耐熱性が低下したり線膨張係数が大きくなることがあり、また、他成分との相溶性が低くなり、均一に混合せずに相分離を起こすことがあるなどの問題点があった。
【0007】
これに対し、特許文献3には、ビニルフェノール単位と、(メタ)アクリル酸エステル、1,3−ブタジエンまたはイソプレン等のガラス転移温度が0℃以下の重合体を与えるモノマー由来の繰返し単位とを有する共重合体を配合した熱硬化性樹脂組成物が、絶縁特性、耐熱性さらには熱衝撃性に優れた硬化物を与えることが示されている。しかしながら、(メタ)アクリレート単位を含む重合体は熱応力緩和性の向上効果は大きくなく、逆に耐水性、電気的特性が悪くなるという問題があり、また、1,3−ブタジエン等の繰り返し単位を含む共重合体は熱応力緩和上は向上するが、相溶性や基板密着性が悪くなるという問題があった。
【0008】
さらに、半導体パッケージ用封止材に用いる液状エポキシ樹脂組成物の場合には、クラックや反り、剥離を防止するため、多量の無機充填剤を配合することにより、エポキシ樹脂硬化物の線膨張率を小さくし、硬化収縮率を小さくすることが行われる。また、導電性接着剤、ダイボンディングペースト、異方導電ペーストの場合には、導電性を付与するため導電性充填剤をエポキシ樹脂に大量に配合する必要がある。このような、無機充填剤や導電性充填剤をエポキシ樹脂組成物に大量に配合するには、低粘度の樹脂バインダーを使用する必要がある。しかしながらポリビニルフェノールは一般に固体で提供されるため、液状またはペースト状で用いる場合には粘度が高くなり、塗布性や流し込みによる充填性が悪いという問題があった。
【0009】
エポキシ樹脂組成物の粘度を下げる方法としては、例えば、溶剤に溶解してエポキシ樹脂組成物の粘度を調整する方法が知られている。しかしながら、多量の溶剤を使用すると、導電性ペースト等の用途では硬化加熱時の溶剤の抜け跡として硬化物中にボイドが発生し、接着強度、熱伝導性及び導電性の低下の原因となり信頼性の面から好ましくない。また、溶剤の蒸発により作業環境が悪化するという問題もある。更に、溶剤として反応性希釈剤を用いる方法も知られているが(例えば、特許文献4など)、反応性希釈剤は硬化時に体積収縮が起こるため、やはり多量の使用は好ましくないとされている。
【特許文献1】特開平10−008006号
【特許文献2】特開2002−335079号
【特許文献3】特開2001−247656号
【特許文献4】特開2003−26766号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の課題は、従来のポリビニルフェノールを含むエポキシ樹脂組成物に比べて低い温度でも流動性を有し、低温での硬化が可能であり、さらに、得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、熱応力緩和特性を改善することが可能な、新規なエポキシ樹脂組成物を提供することにある。また、無溶剤またはより少ない溶剤量で、良好な塗布性及び充填性を有する低粘度のエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、この課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のビニルフェノールとビニルエーテルとの共重合体をフェノール系硬化剤として用いることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるフェノール系硬化剤であって、式(1)
【化4】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1または2を表
す)
で示されるビニルフェノール単位(a)と、式(2)
【化5】

[式中、Rは炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖ま
たは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基、炭素数5
〜10のシクロアルキル基または次の基
【化6】

(ここで、mは0、1、2または3であり、Xは未置換または一つ若しくはそれ以上
の炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、炭素数1〜4の直鎖または分岐
鎖のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子によっ
て置換されたフェニル基である)
で表されるアリール基またはアリールアルキル基を表す]
で表されるビニルエーテル単位(b)を含み、1分子中にフェノール性水酸基を2以上有する共重合体であることを特徴とするフェノール系硬化剤である。
【0013】
また本発明は、前記のフェノール系硬化剤とエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0014】
エポキシ系樹脂に本発明のフェノール系硬化剤を配合することにより、従来のポリビニルフェノールを含むエポキシ樹脂組成物に比べて低い温度でも流動性を有し、低温での硬化が可能であり、さらに、硬化物の耐熱性を損なうことなく応力緩和性に優れた硬化物を与えることが可能な、エポキシ樹脂組成物を得ることができる。そしてこの、エポキシ樹脂組成物は、無溶剤またはより少ない溶剤量で、良好な塗布性及び充填性を有する低粘度のエポキシ樹脂組成物となる。
【0015】
従って、本発明のフェノール系硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物は、例えば、電子材料用樹脂組成物として好適に使用することができる。具体的には、プリント基板用プリプレグ用樹脂組成物、プリント基板用銅張り積層板用樹脂組成物、ビルドアッププリント基板の層間絶縁材料用コーティング剤、半導体の層間絶縁膜用樹脂組成物、電子部品の封止剤用樹脂組成物、半導体チップの封止剤用樹脂組成物、アンダーフィル用樹脂硬化物、レジストインキ、導電ペースト、電子部品収納用成形物用樹脂組成物および異方性導電膜用組成物等といった各種用途に用ることができる。
【0016】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬度及び密着性に優れ、コーティング剤組成物、接着剤等の各種用途にも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のフェノール系硬化剤は上記一般式(1)で表されるビニルフェノール単位(a)と、上記一般式(2)で表されるビニルエーテル単位(b)を含み、1分子中にフェノール性水酸基を2以上有する共重合体である。
【0018】
一般式(1)において、Rで表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0019】
また、一般式(2)におけるRの定義において、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基、イソアミル基等が挙げられる。更に、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のフルオロアルキル基としては、上記炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基の全部または一部の水素がフッ素に置換されたフルオロアルキル基が挙げられ、その例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基などが挙げられる。
【0020】
更にまた、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基としては、メトキシ基メチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−テトラヒドロピラニル基、2−テトラヒドロフラニル基等が、炭素数5〜10のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基などがそれぞれ挙げられる。
【0021】
一方、基(3)で表される基のうちアリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられ、アリールアルキル基としてはベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、メトキシベンジル基、エトキシベンジル基、フルオロベンジル基、トリフルオロメチルベンジル基等が挙げられる。
【0022】
このような共重合体は、前記一般式(1)で表されるビニルフェノール単位(a)を誘導しうるビニルフェノール系単量体またはその水酸基を保護した単量体と、前記一般式(2)で表されるビニルエーテル単位(b)を誘導しうるビニルエーテル系単量体を共重合することにより得られる。
【0023】
ビニルフェノール単位(a)を誘導しうるビニルフェノール系単量体としては、例えば、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシスチレン、p−イソプロペニルフェノール、m−イソプロペニルフェノール、o−イソプロペニルフェノール等が挙げられる。この中でもp−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−イソプロペニルフェノール、m−イソプロペニルフェノールが好ましく用いられる。
【0024】
また、これらの水酸基を保護した単量体としては、例えば、p−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−エトキシスチレン、m−エトキシスチレン、p−プロポキシスチレン、m−プロポキシスチレン、p−イソプロポキシスチレン、m−イソプロポキシスチレン、p−n−ブトキシスチレン、m−n−ブトキシスチレン、p−イソブトキシスチレン、m−イソブトキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン等のアルコキシスチレン類;p−メトキシメトキシスチレン、m−メトキシメトキシスチレン、p−(1−エトキシエトキシ)スチレン、m−(1−エトキシエトキ)シスチレン、p−(2−テトラヒドロピラニル)オキシスチレン、m−(2−テトラヒドロピラニル)オキシスチレン等のアルコキシアルキルオキシスチレン類;p−アセトキシスチレン、m−アセトキシスチレン、p−tert−ブチルカルボニルオキシスチレン、m−tert−ブチルカルボニルオキシスチレン等のアルカノイルオキシスチレン類;p−メトキシカルボニルオキシスチレン、m−メトキシカルボニルオキシスチレン、p−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン、m−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン等のアルコキシカルボニルオキシスチレン類;p−tert−ブトキシカルボニルメチルオキシスチレン、m−tert−ブトキシカルボニルオキシメチルスチレン等のアルコキシカルボニルアルキルオキシスチレン類;p−トリメチルシリルオキシスチレン、m−トリメチルシリルオキシスチレン、p−tert−ブチルジメチルシリルオキシスチレン、m−tert−ブチルジメチルシリルオキシスチレン等のアルキルシリルオキシスチレン類等が挙げられる。この中でも、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン、p−アセトキシスチレン、m−アセトキシスチレン等が好ましく用いられる。
【0025】
一方、ビニルエーテル単位(b)を誘導しうるビニルエーテル系単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;トリフルオロメチルビニルエーテル、ペンタフルオロエチルビニルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル類;2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル、2−テトラヒドロピラニルビニルエーテル、2−テトラヒドロフラニルビニルエーテル等のアルコキシアルキルビニルエーテル類;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘプチルビニルエーテル、シクロオクチルビニルエーテル、2−ビシクロ[2.2.1]ヘプチルビニルエーテル、2−ビシクロ[2.2.2]オクチルビニルエーテル、8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルビニルエーテル、1−アダマンチルビニルエーテル、2−アダマンチルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル類;フェニルビニルエーテル、4−メチルフェニルビニルエーテル、4−トリフルオロメチルフェニルビニルエーテル、4−フルオロフェニルビニルエーテル等のアリールビニルエーテル類;ベンジルビニルエーテル、4−フルオロベンジルビニルエーテル等のアリールアルキルビニルエーテル類等が挙げられる。この中でも特に、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル等の低級アルキルビニルエーテル類を好ましく用いることができる。
【0026】
これらのビニルフェノール系単量体、その水酸基を保護した単量体及びビニルエーテル系単量体は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0027】
本発明のフェノール系硬化剤を構成する共重合体において、得られる硬化物の特性を効果的に発現させるためには、繰り返し単位(a)と繰り返し単位(b)が各々ブロックを形成していることが好ましく、特にビニルフェノール単位(a)をAセグメントとし、ビニルエーテル単位(b)をBセグメントとするABA型トリブロックを形成していることが好ましいい。
【0028】
また、低粘度化のためには、共重合体に含まれる繰り返し単位(a)と繰り返し単位(b)の組成比(モル比)が1/99〜10/90であることが好ましく、3/97〜7/93であることがより好ましく、また、共重合体の50℃における粘度は100000mPa・s以下が好ましく、60000mPa・s以下がより好ましい。
【0029】
本発明の共重合体を製造するための重合方法は特に限定されないが、例えば、ラジカル重合、(リビング)カチオン重合などが挙げられ、得られる共重合体の分子構造や組成比の制御などを考慮すると、リビングカチオン重合が好ましい。
【0030】
例えば、本発明の最も好ましい実施形態である、ビニルフェノール単位(a)をAセグメントとし、ビニルエーテル単位(b)をBセグメントとするABA型トリブロック共重合体は、二官能開始剤、ルイス酸及び溶媒の存在下に前記のビニルエーテル系単量体をリビングカチオン重合させ、次いで、前記のビニルフェノール系単量体またはその水酸基を保護した単量体を添加してリビングカチオン重合させ、必要により脱保護処理を行うことにより得ることができる。
【0031】
上記において使用される二官能開始剤としては、下式(4)
【化7】


(式中、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を表し、Rは水素原子または炭素数1
〜4のアルキル基を表す)
で表される構造を有するものを用いることができる。
【0032】
上記式(4)においてRで表される炭素数1〜10のアルキレン基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、シクロへキシレン基などが挙げられる。また、Rの定義における炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基などが挙げられる。
【0033】
式(4)で表される化合物の具体的な例としては、1,1−ビス(1−アセトキシメトキシ)メタン、1,2−ビス(1−アセトキシメトキシ)エタン、1,3−ビス(1−アセトキシメトキシ)プロパン、1,4−ビス(1−アセトキシメトキシ)エタン、1,2−ビス(1−アセトキシメトキシ)ブタン、1,5−ビス(1−アセトキシメトキシ)エタン、1,2−ビス(1−アセトキシメトキシ)ペンタン、1,6−ビス(1−アセトキシメトキシ)ヘキサン、1,7−ビス(1−アセトキシメトキシ)ヘプタン、1,8−ビス(1−アセトキシメトキシ)オクタン、1,9−ビス(1−アセトキシメトキシ)ノナン、1,10−ビス(1−アセトキシメトキシ)デカン、1,1−ビス(1−アセトキシエトキシ)メタン、1,2−ビス(1−アセトキシエトキシ)エタン、1,3−ビス(1−アセトキシエトキシ)プロパン、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)ブタン、1,5−ビス(1−アセトキシエトキシ)ペンタン、1,6−ビス(1−アセトキシエトキシ)ヘキサン、1,7−ビス(1−アセトキシエトキシ)ヘプタン、1,8−ビス(1−アセトキシエトキシ)オクタン、1,9−ビス(1−アセトキシエトキシ)ノナン、1,10−ビス(1−アセトキシエトキシ)デカン、1,4−ビス(1−アセトキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)シクロヘキサンなどが挙げられる。なかでも、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)ブタン、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)シクロヘキサン等が好ましく用いられる。これらの化合物は、1,4−ブタンジオールジビニルテーテルまたは1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテルに酢酸を付加させることにより得られる。
【0034】
前記ABA型トリブロック共重合体の製造における、二官能開始剤の添加量には特に制限はなく、目的とする共重合体の分子量により適宜決定される。
【0035】
また、ABA型トリブロック共重合体の製造において用いられるルイス酸としては、ビニルエーテル系単量体のカチオン重合に一般的に用いられるルイス酸を特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、Et1.5AlCl1.5等の有機金属ハロゲン化物、TiCl、TiBr、BCl、BF、BF・OEt、SnCl、SnCl、SbCl、SbF、WCl、TaCl、VCl、FeCl、ZnBr、AlCl、AlBr等の金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。
【0036】
このルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用するビニルエーテル系単量体の重合特性あるいは重合濃度等を考慮して設定することができる。通常はビニルエーテル系単量体に対して0.1〜100モル%で使用することができ、好ましくは1〜50モル%の範囲で使用することができる。
【0037】
更に、溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、デカン、ヘキサデカン、イソペンタン、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化エチレン、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、トルエン、塩化メチレン、THFが好適に使用される。これらの溶媒は、単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせで用いても良い。
【0038】
前記ABA型トリブロック共重合体の重合反応では、反応容器に溶媒、ビニルエーテル系単量体、二官能開始剤、ルイス酸を順次投入し、先ずはじめにビニルエーテル単位(b)を含むセグメントBが合成される。次いで、ビニルエーテル系単量体の転換が終了した時点でビニルフェノール系単量体(もしくその水酸基が保護された単量体)を添加し、必要であれば更にルイス酸を追加し、継続して重合反応を進めることにより、ビニルエーテル単位(b)からなるセグメントBの両末端に(保護された)ビニルフェノール単位(a)からなるセグメントAが合成される。
【0039】
上記重合反応の重合条件は、使用するルイス酸、二官能開始剤、単量体及び溶媒等の種類により異なるが、重合温度は、通常−80℃〜150℃の範囲内が好ましく、−78℃〜80℃の範囲内がより好ましい。また、重合時間は、通常は2時間から100時間の範囲である。
【0040】
上記のようにして調製された共重合物からの脱保護は、例えば溶媒中、塩酸、硫酸などの酸触媒下で、反応温度50〜150℃、反応時間1〜30時間反応させることにより行うことができる。
【0041】
一方、本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記フェノール系硬化剤とエポキシ樹脂を必須成分として含むものである。使用されるエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノール類、フェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等)と各種アルデヒドとの重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物との重合物、フェノール類と芳香族ジメチロールとの重縮合物、ビフェノール類、アルコール類等をグリシジル化したグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等が挙げられ、一般に市販されているものを用途に応じて適宜使用することができる。
【0042】
たとえば本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体パッケージ用封止材に用いる液状エポキシ樹脂組成物や、導電性接着剤、ダイボンディングペースト、異方導電ペースト等の用途に用いる場合は、常温で液状のエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。常温で液状のものでない場合は溶剤を必要とするが、溶剤は気泡の原因となり硬化物の接着強度、熱伝導率を低下させてしまうので好ましくない。なお、本明細書中において、常温で液状のエポキシ樹脂とは、常温で液体状の物の他、例えば常温で固形のものでも常温で液状のエポキシ樹脂と混合することで常温で安定して液状を示すものも含む。
【0043】
上記の常温で液状のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートやビニルシクロヘキセンジエポキサイド等の脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロ無水フタル酸のジグリシジルエーテル等の多塩基酸のポリグリシジルエステル等を挙げることができる。エポキシ樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
エポキシ樹脂とフェノール系硬化剤の配合比としては、所定の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、通常、エポキシ樹脂100質量部に対してフェノール系硬化剤が50〜200質量部である。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明のフェノール系硬化剤のほかに、性能を損なわない範囲で他の硬化剤を使用することができる。硬化剤としてはアミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物、フェノ−ル系化合物などが使用できる。用いうる硬化剤の具体例としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ビスフェノール類、フェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等)と各種アルデヒドとの重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物との重合物、フェノール類と芳香族ジメチロールとの重縮合物、ビフェノール類及びこれらの変性物、オキシスチレン化合物やその重合物等が挙げられる。
【0046】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、硬化促進剤を併用してもよい。硬化促進剤の具体例としては2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾ−ル類;2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズなどの金属化合物などが挙げられる。硬化促進剤はエポキシ樹脂100質量部に対して通常0.01〜15質量部が必要に応じ用いられる。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂に含まれるエポキシ樹脂及び本発明のフェノール系硬化剤が常温で液状の場合は、溶剤を用いることは必須ではないが、粘度や塗布性等を調節するために必要に応じて溶剤を配合してもよい。溶剤としては、例えばアルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤、脂肪酸系溶剤等公知のものが使用される。具体的には、例えば、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の有機溶剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じてシリカ、アルミナ、タルク、銀粉末等の充填材やシランカップリング剤、離型剤、顔料等の種々の配合剤を添加することができる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化条件は特に制限されるものではないが、硬化物の用途に応じて、例えば50〜200℃の温度で、10分〜48時間程度加熱し、組成物を硬化させることができる。また、硬化を十分に進行させたり、気泡の発生を防止するために二段階で加熱することもでき、例えば、第一段階では、50〜150℃の温度で10分〜10時間程度加熱し、さらに100〜200℃の温度で、30分〜12時間程度加熱して硬化させることもできる。実用的には、生産性や得られる硬化物物性等を考慮して硬化温度と硬化時間が決定される。
【実施例】
【0050】
以下に合成例、実施例、比較例および試験例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら限定されるものではない。なお、合成例において得られた共重合体の物性評価は以下の方法により行った。
【0051】
平均共重合組成:
13C−NMRの測定結果から求めた。
重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mn:
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により標準ポリスチレン
検量線から求めた[RI検出器;カラムはShodex社製KF−801+KF
−805L;溶離液はテトラヒドロフラン]。
粘度測定:
ブロックフィールド型回転粘度計により測定した。
【0052】
合 成 例 1
p−イソプロピルフェノール/エチルビニルエーテル/p−イソプロピルフェ
ノール系トリブロックポリマー(共重合体1)の製造:
【0053】
三方活栓をつけたガラス容器を準備し、アルゴン置換後、アルゴン雰囲気下で加熱してガラス容器内の吸着水を除いた。容器内にエチルビニルエーテル(以下、「EVE」と記載する)252.6g、酢酸エチル280g、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)ブタン9.4gおよびトルエン2640gを入れ、系内温度が0℃に達したところでEt1.5AlCl1.5の0.91モル(以下Mと記載する)/Lトルエン溶液68mlを加えて重合を開始した。EVEの転化率を時分割にガスクロマトグラフィー(GC)を用いてモニタリングし、EVEモノマーの転換が終了した時点でp−イソプロピルフェノール(以下、「PIPP」と記載する)21.2gを反応溶液に添加し、更に反応を続けた。
【0054】
PIPP添加後、2.5時間、5時間を経過した時点で、SnClの0.5M/Lトルエン溶液をそれぞれ4ml、2ml加えた。PIPP添加後5.5時間後に反応を終了した。重合反応系内に1M/LのNHメタノール溶液を100ml加えて反応を停止し、反応混合物溶液に酸化アルミニウム4質量%を加え、24時間攪拌して触媒を吸着除去し、孔径0.1μmのフィルターで酸化アルミニウムを除去した。このろ液をエバポレーターで減圧濃縮し、PIPP/EVE/PIPP系トリブロックポリマー(共重合体1)を得た。
【0055】
得られた共重合体1の平均組成はPIPP/EVE=4.3/95.7であった。また、重量分子量Mwは17800、数平均分子量Mnは13300であり、分子量分布Mw/Mnは1.34であった。更に、50℃における粘度は52400mPa・sであった。
【0056】
合 成 例 2
p−イソプロピルフェノール/エチルビニルエーテル/p−イソプロピルフェノー
ル系トリブロックポリマー(共重合体2)の製造:
【0057】
三方活栓をつけたガラス容器を準備し、アルゴン置換後、アルゴン雰囲気下で加熱してガラス容器内の吸着水を除いた。容器内にEVE252.6g、酢酸エチル280g、1,4−ビス(1−アセトキシエトキシ)ブタン9.4gおよびトルエン2640gを入れ、系内温度が0℃に達したところでEt1.5AlCl1.5の0.91M/Lトルエン溶液68mlを加えて重合を開始した。EVEの転化率を時分割にガスクロマトグラフィー(GC)を用いてモニタリングし、EVEモノマーの転換が終了した時点でPIPP)28.4gを反応溶液に添加し、更に反応を続けた。
【0058】
PIPP添加後、2.5時間を経過した時点で、SnClの0.5M/Lトルエン溶液を14ml加えた。PIPP添加後6時間後に反応を終了した。重合反応系内に1M/LのNHメタノール溶液を100ml加えて反応を停止し、反応混合物溶液に酸化アルミニウム4質量%を加え、24時間攪拌して触媒を吸着除去し、孔径0.1μmのフィルターで酸化アルミニウムを除去した。このろ液をエバポレーターで減圧濃縮し、PIPP/EVE/PIPP系トリブロックポリマー(共重合体2)を得た。
【0059】
得られた共重合体2の平均組成はPIPP/EVE=5.7/94.3であった。また、重量分子量Mwは12800、数平均分子量Mnは10400であり、分子量分布Mw/Mnは1.23であった。更に、50℃における粘度は36000mPa・sであった。
【0060】
実 施 例 1
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(EPICLON850s;DIC製)100質量部およびフェノール系硬化剤として合成例1で製造した共重合体1、66質量部を混合し、エポキシ樹脂組成物(1a)を得た。
【0061】
次に、このエポキシ樹脂組成物(1a)に対し、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール(和光純薬製)1質量部と、溶剤としてテトラヒドロフラン70質量部を加えてエポキシ樹脂組成物(1b)とし、SUS304板上に塗布し、乾燥器中、150℃で2時間、180℃で5時間加熱処理して硬化物を得た。
【0062】
実 施 例 2
実施例1において、フェノール系硬化剤として合成例2で製造した重合体2を用いた以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物(2a)及び(2b)を得た。
【0063】
比 較 例 1
実施例1において、フェノール系硬化剤として、ポリビニルフェノール樹脂(マルカリンカ− S−2;丸善石油化学(株)製)を用いた以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物(3a)及び(3b)を得た。
【0064】
試 験 例 1
実施例1、実施例2および比較例1で得たエポキシ樹脂組成物(1a)、(2a)および(3a)について、50℃及び150℃の粘度をブロックフィールド型回転粘度計により測定した。この結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1より明らかなように、本発明によるフェノール系硬化剤を用いた実施例1及び2のエポキシ樹脂組成物(1a)および(2a)は、ポリビニルフェノールを用いた比較例1のエポキシ樹脂組成物(3a)と比較して50℃における粘度が低く、充填剤を使用しない場合には無溶剤で使用可能であり、又充填剤を使用する場合においても溶剤量を少なくすることが可能である。
【0067】
また、比較例1では150℃におけるエポキシ組成物(3a)の粘度が300mPa・sを超えているのに対し、実施例1及び2のエポキシ組成物(1a)および(2a)では100mPa・s未満の低い値を示しており、硬化までの溶融状態においても、より低い温度で被着面に十分追従する低粘度に達することが示される。したがってより低い温度での硬化においても、被着面との密着性に優れた硬化物が得られることが示唆される。
【0068】
試 験 例 2
実施例1、実施例2および比較例1において、それぞれエポキシ樹脂組成物(1b)、(2b)および(3b)より得られた硬化物について、以下の特性について評価を行った。この結果を表2に示す。
【0069】
< 特性および測定方法 >
ガラス転移温度:
パーキンエルマー社製 Pyris 1 DSC(入力補償型)、昇温速度10℃/
minで測定
5%重量減少温度:
パーキンエルマー社製 Pyris 1 TGA、昇温速度10℃/minで測定
硬度試験:
機械法による鉛筆硬度試験により評価
密着試験:
碁盤目テープ法により評価
【0070】
【表2】

【0071】
また、表2から明らかなように、実施例1および2のエポキシ樹脂組成物(1b)および(2b)から得られる硬化物は、室温以下にビニルエーテル単位由来のガラス転移点が存在し、ビニルエーテル単位に由来する相が硬化物中で微細に相分離していることが示される。その為、硬化物の弾性率が低下して硬化物の熱応力緩和特性を改善することができる。
【0072】
一方、硬化物の高温下の弾性率変化は、エポキシ樹脂とビニルフェノール単位との架橋物に由来する相によって支配されるが、実施例1および2のエポキシ樹脂組成物(1b)および(2b)で得られた硬化物の、室温より高い温度でのガラス転移温度及び5%重量減少温度は、ポリビニルフェノールを用いた比較例1のエポキシ樹脂組成物(3b)で得られた硬化物と比較して、同程度もしくはやや低い程度であり、実用上遜色の無い高耐熱性を有している。また、硬度及び密着性にも優れており、電気・電子分野及びコーティング剤組成物等の用途において好適に用いることができる。
【0073】
実 施 例 3〜6、比 較 例 2〜3
表3に示す配合で実施例1と同様に樹脂組成物(4b)ないし(9b)を調製し、その硬化物物性を測定した。この結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
表3より明らかなように、エポキシ樹脂を変えたエポキシ樹脂組成物(エポキシ樹脂組成物(4b)および(5b))でも、また、本発明の重合物とポリビニルフェノールを併用したエポキシ樹脂(エポキシ樹脂組成物(6b)および(7b))でも、実施例1および2のエポキシ樹脂(1b)および(2b)とほぼ同様な硬化物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のポリビニルフェノール系硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物は、従来のポリビニルフェノールを含むエポキシ樹脂組成物に比べ、低い温度でも流動性を有し、低温での硬化が可能である。また、このものは、無溶剤またはより少ない溶剤量で、良好な塗布性及び充填性を有するものである。しかも、得られる硬化物は耐熱性の良いものでありながら、熱応力緩和特性を改善することが可能なものである。
【0077】
従って本発明のポリビニルフェノール系硬化剤およびこれを配合したエポキシ樹脂組成物は、電気・電子分野及びコーティング剤組成物等の用途において有利に用いることができるものである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるフェノール系硬化剤であって、式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1または2を表
す)
で示されるビニルフェノール単位(a)と、式(2)
【化2】

[式中、Rは炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖ま
たは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基または次の基
【化3】

(ここで、mは0、1、2または3であり、Xは未置換または一つ若しくはそれ以上
の炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、炭素数1〜4の直鎖または分岐
鎖のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子によっ
て置換されたフェニル基である)
で表されるアリール基またはアリールアルキル基を表す]
で表されるビニルエーテル単位(b)を含み、1分子中にフェノール性水酸基を2以上有する共重合体であることを特徴とするフェノール系硬化剤。
【請求項2】
共重合体が、ビニルフェノール単位(a)をAセグメントとし、ビニルエーテル単位(b)をBセグメントとするABA型トリブロックを形成している請求項1記載のフェノール系硬化剤。
【請求項3】
共重合体におけるビニルフェノール単位(a)とビニルフェノール単位(b)のモル組成比が、1/99〜10/90である請求項1または2に記載のフェノール系硬化剤。
【請求項4】
共重合体の粘度が、50℃において100000mPa・s以下である請求項1〜3のいずれかに記載のフェノール系硬化剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフェノール系硬化剤とエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物。


【公開番号】特開2010−65108(P2010−65108A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231637(P2008−231637)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】