説明

フェノール誘導体及びそれから得られるコア架橋型スターポリスルフィド

【課題】高屈折率を有するコア架橋型スターポリスルフィド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるフェノール誘導体。


(式(1)中、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール誘導体及びそれから得られるコア架橋型スターポリスルフィドに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック系光学材料は無機系材料と比較し機械的特性に優れ、光学特性の制御が可能である。さらにこれらの利点に加え、成形加工が容易であり、低コストで大量生産が可能となることから、レンズ、眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、光ディスク、光学繊維等様々な分野に応用されている。
【0003】
光学用樹脂の重要な特性のひとつに屈折率がある。屈折率を精密に制御することは、光学レンズ、光導波路等に応用する際、必要不可欠である。屈折率の制御には、樹脂中に様々な置換基を導入する手法が広く用いられている。屈折率は主として分子屈折、つまり分極率に支配される。
【0004】
フッ素以外のハロゲン基である塩素、沃素等は分子屈折、分子容ともに増加することから屈折率は高くなる。しかし、これらの化合物は高屈折率であるがアッベ数が下がる傾向にあり、色収差の問題が生じる。このため、アッベ数を大きく低下させることなく高屈折率化を図る手段として硫黄原子を導入する方法がある。
【0005】
一方、近年、星型高分子、多分岐高分子、環状高分子等形状特異性高分子が合成され、その性質も徐々に明らかにされている。形状特異性高分子中でもスターポリマーは、最も基本的な構造をとるため、分岐ポリマーのモデルとして古くから研究が行われている。スターポリマーは、鎖状ポリマーが中心(コア)に結合した構造を有しており、古くから分岐ポリマーのモデルとしての研究が盛んに行われ、これまで多数の合成法が報告されている。
【0006】
スターポリマーの合成法には、大きく分けて2種類の合成法がある。1つはcore−first法であり、コアとなる多官能性開始剤の合成が困難である等の欠点を有している。もう1つはarm−first法であり、腕分子となる鎖状ポリマーを重合した後、コアとなる試薬と反応させる方法である。この合成法の場合においても、コアとなる試薬と腕分子との高分子反応により合成することから、目的とする腕数のスターポリマーを合成するのが困難であるという欠点がある。
【0007】
このように従来の合成法では多くの腕を有するスターポリマーの合成は困難であった。しかし、最近では、リビングラジカルやリビングカチオン重合により腕分子を合成した後、ジビニル化合物を添加することにより、コアに架橋構造を有するスターポリマーの合成法が報告されている。この合成法によれば、簡便に腕の長さを制御できる多数の腕を有するスターポリマーの合成が可能である(非特許文献1)。また、これらスターポリマー類の基本一次構造は、同じ線状高分子と比較すると、高分子鎖同士のからみ合いが少ないため、流動性に優れる等の特徴も報告されている。しかし、スターポリマー類の熱的性質や流動特性については数多く報告されているにもかかわらず、その光学特性に関する報告はこれまでほとんど報告されていない。
【0008】
以前、本発明者らはcore−first法による、コアにカリックスアレーン骨格を有する種々のスターポリスルフィドの合成を行い、この屈折率特性についての検討を行った。その結果、硫黄含有量の上昇、及びスターポリマーの特異的な構造に起因する密度の高さにより、対応する鎖状ポリマーと比較すると、高い屈折率を示すことが判明した(特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−225799号公報
【特許文献2】特開2006−16342号公報
【非特許文献1】S.Kanaoka, J.Ueda, M.Sawamoto, T.Higashimura, Macromolecules, 26,254 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規なフェノール誘導体及びその製造方法を提供することである。
本発明の目的は、高屈折率を有するコア架橋型スターポリスルフィド及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、フェノール誘導体を出発原料にしてポリチオエーテル鎖を伸長してマクロ開始剤を合成した後、コア化合物と反応させることにより、高屈折率スターポリマーを見出した。さらに、重合性基を有するマクロ開始剤を合成し、その光架橋反応により高屈折率光硬化性樹脂を見出した。
本発明によれば、以下のフェノール誘導体、コア架橋型スターポリスルフィド等が提供される。
1.下記式(1)で表されるフェノール誘導体。
【化8】

(式(1)中、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示す。)
2.下記式(2)で表されるフェノール誘導体。
【化9】

(式(2)中、nは1〜1000の整数を表し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、またRとRは結合してもよい。)
3.下記式(3)で表されるフェノール誘導体。
【化10】

(式(3)中、nは1〜1000の整数を表し、mは1〜1000の整数を表し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、またRとRは結合してもよく、Xは酸素又は硫黄を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、またRとRは結合してもよい。)
4.2又は3記載のフェノール誘導体に下記式(4)で表される化合物を反応させることで得られるコア架橋型スターポリスルフィド。
【化11】

(式(4)中、Rは−O−、−S−、−CH−、−NH−、―SO−、―C(CH−、―CH(CH)−、又は−C(CF−であり、Rはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。X及びYはそれぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。)
5.1記載のフェノール誘導体に、下記式(5)で表されるチイラン化合物を反応させる2記載のフェノール誘導体の製造方法。
【化12】

(式中、R及びRは式(2)と同じである。)
6.1記載のフェノール誘導体に、下記式(5)で表されるチイラン化合物と、下記式(6)で表されるエポキシ化合物又はチイラン化合物を反応させる3記載のフェノール誘導体の製造方法。
【化13】

(式中、R、R及びXは式(3)と同じである。)
7.2又は3記載のフェノール誘導体に下記式(4)で表される化合物を反応させるコア架橋型スターポリスルフィドの製造方法。
【化14】

(式(4)中、Rは−O−、−S−、−CH−、−NH−、―SO−、―C(CH−、―CH(CH)−、又は−C(CF−であり、Rはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。X及びYはそれぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。)
8.重合性基を有する2又は3記載のフェノール誘導体。
9.8記載のフェノール誘導体に加熱又は活性エネルギー線照射して得られる3次元硬化物。
10.8記載のフェノール誘導体に加熱又は活性エネルギー線照射する10記載の3次元硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規なフェノール誘導体及びその製造方法が提供できる。
本発明によれば、新規なフェノール誘導体から、光学材料として好適な高屈折率を有するコア架橋型スターポリスルフィドが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のスターポリマーは、式(1)〜(3)で表されるフェノール誘導体を中間体として製造できる。
【0013】
式(1)〜(3)中のRは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基であり、例えば芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられ、フェニル基が好ましい。芳香族基に置換する置換基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基や、ビニル基、アリル基等のアルケニル基や、シクロヘキシル基、ノルボルネン基等の飽和又は不飽和環状脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基や、エーテル類、エステル類、アミノ類、及びこれらが置換された有機基である。好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。
【0014】
式(1)〜(3)中のRは、炭素数1〜20の2価の有機基であり、例えばメチレン基、エチレン基等のアルキレン基やフェニレン基等の芳香族基及びこれらが置換された有機基であるが、塩素基の反応性の観点から炭素数1〜4のアルキレン基又はジニトロ置換フェニレン基等の電子吸引性基が望ましい。
【0015】
式(1)〜(3)中のRは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基であり、例えば芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられ、フェニル基が好ましい。芳香族基に置換する置換基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基や、ビニル基、アリル基等のアルケニル基や、シクロヘキシル基、ノルボルネン基等の飽和又は不飽和環状脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基、エーテル類、エステル類、アミノ類、及びこれらが置換された有機基である。好ましくは炭素数1〜4のアルキル基で置換された又は非置換のフェニル基、又はナフチル基である。
【0016】
式(2)及び式(3)中のR及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基であり、例えば、互いに独立してメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基や、ビニル基、アリル基等のアルケニル基や、シクロヘキシル基、ノルボルネン基等の飽和又は不飽和環状脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基や、エーテル類、エステル類、アミノ類、及びこれらが置換された有機基であり、また、RとRが結合して、例えばシクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ノルボルナン環等の環を形成してもよい。好ましくは、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基で置換された又は非置換のフェノキシアルキル(好ましくは炭素数1〜4)基である。
【0017】
式(2)及び式(3)中のnは1〜1000の整数であり、好ましくは1〜100である。
式(2)の数平均分子量は好ましくは1000〜50000である。
【0018】
式(3)中のR及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基であり、例えば、互いに独立してメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基や、ビニル基、アリル基、アクリロリル基、メタクリロイル基、スチリル基、p−ビニルアリール基、ビニロキシ基等のアルケニル基や、シクロヘキシル基、ノルボルネン基、クロトニル基、アルコキシ基、フェノキシ基等の飽和又は脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基や、エーテル類、エステル類、及びこれらが置換された有機基であり、また、RとRが結合して、例えばシクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ノルボルナン等の環を形成してもよい。好ましくは、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは(メタ)アクリロキシアルキル(好ましくは炭素数1〜4)基である。
【0019】
式(3)中のmは1〜1000の整数であり、好ましくは1〜100である。
式(3)の数平均分子量は好ましくは1000〜50000である。
【0020】
式(2)で示されるフェノール誘導体は、式(1)で示される化合物に、下記式で示される対応するチイラン化合物を反応させることによって得ることができる。好ましくは塩触媒存在下で反応を行う。
【化15】

(式中、R及びRは式(2)と同じである。)
【0021】
塩触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩を用いることができる。触媒の添加量は、式(1)で示される化合物の官能基量と等量が好ましい。
【0022】
反応に用いる溶媒は、エーテル類、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒の他に、N,N−ジメチルホルムアミドや1−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0023】
反応温度は、通常、0〜150℃の間で行うが、好ましくは20℃〜100℃、より好ましくは50℃〜100℃である。反応温度が0℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が150℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
反応は、アンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0024】
式(3)で示されるフェノール誘導体は、式(1)で示される化合物に、チイラン化合物(5)と、式(6)で示される対応するチイラン化合物又はエポキシ化合物を反応させることによって得ることができる。また、式(3)で示されるフェノール誘導体は、式(2)で示される化合物に式(6)で示されるチイラン化合物又はエポキシ化合物を反応させることによって得ることができる。好ましくは塩触媒存在下で反応を行う。
【化16】

(式中、R、R及びXは式(3)と同じである。)
【0025】
塩触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩を用いることができる。触媒の添加量は、出発原料の式(1)又は式(2)で示される化合物の官能基量と等量が好ましい。
【0026】
反応に用いる溶媒はエーテル類、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒の他に、N,N−ジメチルホルムアミドや1−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0027】
反応温度は、通常、0〜150℃の間で行うが、好ましくは20〜100℃、より好ましくは50〜100℃である。反応温度が0℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が150℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
反応はアンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0028】
式(2)又は式(3)の化合物に下記式(4)で表される化合物を反応させることでコア架橋型スターポリスルフィドが得られる。好ましくは、塩触媒存在下で反応を行う。
【化17】

(式(4)中、Rは−O−、−S−、−CH−、−NH−、―SO−、―C(CH−、―CH(CH)−、又は−C(CF−であり、Rはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。X及びYはそれぞれ硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
【0029】
式(4)中のYはベンゼン環のオルト位、メタ位又はパラ位に置換しており、好ましくはパラ位に置換している。また、RはYが置換した部位以外にそれぞれ1つずつ置換している。
【0030】
塩触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩や、リチウムクロリド、リチウムブロミド等の金属塩を用いることができる。触媒の添加量は、式(2)で示される化合物の官能基量と等量が好ましい。
【0031】
反応に用いる溶媒はエーテル類、ハロゲン系溶媒、炭化水素系溶媒の他に、N,N−ジメチルホルムアミドや1−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0032】
反応温度は、通常、0〜150℃の間で行うが、好ましくは20〜100℃、より好ましくは50〜100℃である。反応温度が0℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が150℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
反応はアンプル封管等、水分を除去できる状態で行うのが望ましい。
【0033】
式(2)、式(3)で示される化合物は、2重結合や3重結合をもつ不飽和炭化水素基や、アクリル基やメタクリル基、シクロプロパン基やシクロブタン基等の高歪炭化水素基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、エポキシ基やオキセタン基等の環状エーテル基等、ラジカル重合性やカチオン、アニオン重合性等の重合性基を含むことができる。例えばR,R,R,R,R,R,Rの少なくとも1つが重合性基を含むことができる。
【0034】
式(2)及び(3)の化合物が重合性基を含む場合、対応する重合触媒を加え加熱又は光等の活性エネルギー線を照射することによって、3次元硬化物を得ることができる。
【0035】
このとき、式(2)及び式(3)で示される化合物と他の物質を混合し、共に硬化させてもよい。エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオレフィン、シロキサンポリマー等の各種ポリマーを任意の割合でブレンドしてもよい。
【0036】
さらに、3次元硬化物の特性を高める目的で、シリカや酸化チタン等無機フィラーや有機フィラーを任意の割合で加えてもよい。
【0037】
熱ラジカル重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキシド、p−クロルベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシド、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物である。熱ラジカル重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性モノマーの種類や組成によって異なるため一概に限定できないが、重合性基に対して0.01〜10当量%の範囲で用いるのが好適である。重合温度及び重合時間は、重合開始剤の種類と量や重合性モノマーの種類によって大きく変化するので限定できないが、2〜40時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。
【0038】
また紫外線、可視光、又は放射線等の活性エネルギー線を用いたラジカル重合の開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものとして、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジルメチルケタール、2−イソプロピルチオキサントン等が用いられる。これらの重合開始剤は、重合性基に対して0.001〜5当量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0039】
熱カチオン重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、塩化アルミニウム、4塩化スズ、4塩化チタン等が用いられる。熱カチオン重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性モノマーの種類や組成によって異なるため一概に限定できないが、重合性基に対して0.01〜10当量%の範囲で用いるのが好適である。重合温度及び重合時間は、重合開始剤の種類と量や重合性モノマーの種類によって大きく変化するので限定できないが、2〜40時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。
【0040】
また紫外線、可視光、又は放射線等の活性エネルギー線を用いたカチオン重合の開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものとして、スルホニウム塩類、ヨードニウム塩類等が用いられる。これらの重合開始剤は、重合性基に対して0.001〜5当量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0041】
アニオン重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、金属リチウム等が用いられる。
【0042】
以上の触媒に、各種増感剤や助触媒を加えてもよい。また、3次元硬化物の物性を制御するために、酸化防止剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、レベリング剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例1
下記式(7)で表される化合物(以下(7)と略す)を下記の方法で合成した。
【化18】

500ml三口フラスコに、p−tert−ブチルフェノール3.0g(0.02mol)、ピリジン3.16ml(0.04mol)、THF20mlに溶解させた後、ハミルトンシリンジでクロロアセチルクロリド4.5ml(0.04mol)を0℃に保ちながら、窒素雰囲気下でゆっくり滴下し、3時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し5mol%の炭酸水素ナトリウム水溶液をゆっくり加えて3回洗浄を行った。その後、蒸留水で3回洗浄を行い有機層が中性になったのを確認し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ過後、酢酸エチルを減圧留去し、褐色粘性液体を得た。
50ml三口フラスコに得られた褐色粘性液体とチオ安息香酸カリウム3.0g(0.04mmol)、さらに触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド0.07g(5mol%)を加え、1−メチル−2−ピロリドン10mlに溶解させた後、室温で5時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、蒸留水で三回洗浄して、酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムをろ過後、酢酸エチルを減圧留去し、展開溶媒としてクロロホルムを用いてカラムにて単離精製を行った。クロロホルムを減圧留去し、(7)を褐色粘性液体として4.30g(65%)得た。得られた化合物のIR、H−NMRの結果を以下に示す。
IR:2962、1758、1660、1596、1480、1128、755
H−NMR(600MHz、DMSO−d):1.25(s、9H)、4.25(s、4H)、7.07(d、2.0H)、7.41(d、2.0H)、7.56(t、2H)、7.70(t、1H)、7.97(d、2H)
【0044】
実施例2
下記式(8)で表される化合物(以下(8)と略す)を下記の方法で合成した。
【化19】

湿度10%以下のドライバック中において、アンプル管にテトラブチルアンモニウムクロリドを0.003g(0.16mmol)秤り取り、攪拌しながら40℃で5時間減圧乾燥を行った。その後、(7)0.0525g(0.16mmol)とスルフィドA 1.064g(6.4mol)をアンプル管に加え、1−メチル−2−ピロリドンに溶解させた。次に、液体窒素を用いて3回凍結脱気を行い、減圧状態でアンプル管を封管した。試料が凍結したのを確認して、90℃、24時間の条件で反応を行った。反応終了後、メタノールで2回再沈精製を行い、n=40の(8)を1.018g(収率91%)得た。構造確認は、IR、H−NMRにより行った。
得られたポリスルフィドの分子量をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で測定したところ、数平均分子量7.10×10、分散度1.60であった。
IR:2964、1735、1662、1598、1496、754
H−NMR(500MHz、DMSO−d):1.05(broads s、9H)、3.00〜3.22(m、119.9H)、4.06〜4.12(m、119.9H)、6.83〜7.89(m、207.4H)
スルフィドAの量を変えて同様に反応を行い評価した結果を次の表に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例3
コア架橋型スターポリスルフィドを下記の方法で合成した。
【化20】

【0047】
湿度10%以下に保ったドライボックス中で、アンプル管にテトラブチルアンモニウムクロリド0.058g(0.2mmol)量り取り、攪拌しながら40℃で5時間減圧乾燥を行った。その後、化合物(7)(以下(7)と略す)0.066g(0.2mmol)、3−フェノキシプロピレンスルフィド(以下スルフィドAという)0.377g(2.0mmol)、1−メチル−2−ピロリドン1mlを加え封管した。アンプル管を90℃で24時間攪拌後、反応溶液をメタノールで2回再沈精製を行い、化合物(8)(以下(8)と略す)を0.30g(62%)得た。尚、得られた(8)の重合度nは、H−NMR(500MHz、DMSO−d)により算出した。
【0048】
得られた(8)と化合物(9)(以下(9)と略す)0.078g(0.2mmol)との反応を1−メチル−2−ピロリドン(NMP)中、90℃、48時間の条件で行った。反応終了後、メタノールに2回再沈精製を行い、コア架橋型スターポリスルフィドを黄色固体として0.30g(62%)得た。
【0049】
尚、(9)は以下の方法で製造できる。
100ml三口フラスコに、チオ尿素5.48g(0.07mol)と水10lを加え、撹拌して懸濁させ、濃硫酸3.53g(0.035mol)を滴下して加えた。均一溶液になったところで、アイスバスで0℃に保ちながら、ビス(4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル)スルフィド10.876g(0.035mol)(住友精化株式会社製)を滴下して加えた。室温で20時間撹拌し、生成した白色沈殿物を回収し、エーテルで洗浄した。その後、減圧乾燥してビス(4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル)スルフィドチウロニウム塩酸塩を白色固体として14.0g(収率96%)得た。
得られた化合物のIRの結果を以下に示す。
IR(cm−1):3371、3100、2925、1658、1596、1493、995
【0050】
100ml三口フラスコに、得られたビス(4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル)スルフィドチウロニウム塩酸塩14.0g(0.03mol)と水50lを加え、撹拌して懸濁させた。炭酸ナトリウム水溶液(0.03mol)を加え、60℃で2時間撹拌して反応させた。反応溶液の下層をクロロホルムで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ別し、クロロホルムを減圧留去して白色固体を得た。白色固体をクロロホルム:n−ヘキサン=1:3で再結晶を行い、(9)を無色透明針状結晶として11.2g(収率80%)得た。
得られた化合物の分析結果を以下に示す。
IR(cm−1):3100、2983、995、811
H−NMR(500MHz、CDCl
δ(ppm)2.13(dd、2H)、2.49(dd、2H)、2.81(dd、2H)、3.41(dd、2H)、3.07〜3.12(m、2H)、7.25〜7.36(m、2H)
元素分析(C1818):C:54.7%、H:4.48%
【0051】
得られたコア架橋型スターポリスルフィドの分子量をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法で測定したところ、数平均分子量1.35x10、分散度2.14であった。SEC法の測定条件は以下の通りであった。
(a)サイズ排除クロマトグラフィー(SEC):東ソー株式会社製、ゲル浸透クロマトグラフィー(SEC)HLC−8020型
(b)カラム:TSKgelG1000H(東ソー株式会社製)
(c)展開溶媒:テトラヒドロフラン
(d)標準物質:ポリスチレン
得られた化合物のIRの結果を以下に示す。
IR(cm−1):3100、2964、1735、1662、1598、1496、754
【0052】
得られたコア架橋型スターポリスルフィドの屈折率を測定したところ、1.651であった。
屈折率の測定方法:ポリマー20mgを、テトラヒドロフラン2mlに溶解し、この溶液0.2mlをシリコンウエハー上に滴下し、スピンコータ(浅沼製作所株式会社製)により塗布した。次いで、この溶液が塗布されたシリコンウエハーを室温で24時間減圧乾燥後、エリプソメータ(ガードナー社製、115B型)により波長632.8nmにおける屈折率測定を5回行い、最大値と最小値を除いた3回の測定値の平均を屈折率とした。
【0053】
さらに、得られたコア架橋型スターポリスルフィドについて下記の方法でTgを測定した。Tgは30.7℃であった。
Tgの測定方法:アルミニウムパンにポリマーを約5mg秤とり、パンを密閉した後、示差走査熱量計(Seiko Instruments EXSTAR 6000/TG/DTA6200)により、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/min、昇温設定−50℃〜50℃により測定を行った。
【0054】
表2に示すように、スルフィドA及び(7)の量を変えて同様の条件で反応を行い、得られたコア架橋型スターポリスルフィドについて評価した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
得られたコア架橋型スターポリスルフィドの屈折率は、スルフィドAの重合度による影響は見られず、全ての場合において約1.650であった。このことは密度がほぼ一定であるためと考えられる。
【0057】
(7)0.4mmol、スルフィドA 2.0mmolを反応させて得られた生成物は、有機溶媒に対して不溶であった。また、可溶部のGPC測定の結果は2峰性を示したことから、可溶部においてもコア架橋型スターポリスルフィド同士で分子間での架橋反応が進行しているものと考えられる。
【0058】
実施例4
下記式(10)で示される化合物(以下(10)と略す)を下記の方法で合成した。
【化21】

【0059】
湿度10%以下に保ったドライボックス中で、アンプル管にテトラブチルアンモニウムクロリド0.0056g(0.02mmol)、スルフィドA 0.1690g(1.0mmol)、3−メタクリロイルオキシプロピレンスルフィド(以下スルフィドBという)0.0312g(0.2mmol)、(7)0.0065g(0.02mmol)、1−メチル−2−ピロリドン1mlを加え封管した。反応溶液を70℃で24時間攪拌後、反応溶液をメタノールで2回に再沈精製を行い、(10)を無色透明固体として0.0497g(収率91%)得た。
【0060】
得られた化合物の分子量をSEC法で測定したところ、数平均分子量2.0x10、分散度1.40であった。重合度(m,n)はH−NMR(500MHz、DMSO−d)により算出した結果、m=7、n=50であった。Tgは−4℃であった。
【0061】
表3に示すように、スルフィドAとスルフィドBの量を変えて同様に反応を行い評価した。結果を表3に示す。
【0062】
実施例5
3次元硬化物を下記の方法で合成した。
(10)0.1gをテトラヒドロフラン1mlに溶解し、Irgacure907(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、0.003g)、2−エチルアントラキノン0.001gを加えた。溶液を臭化カリウム板上に塗布しフィルムを形成した。その後、光源として250W超高圧水銀灯を用いて15分間光照射を行い、3次元硬化物を得た。
【0063】
スルフィドAとスルフィドBの量を変えて合成した(10)についても、同様に光硬化反応を行い、得られた硬化物のTgを測定した。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
光照射後のTgは上昇することが判明した。生成物は種々の溶媒に不溶であったことから、光照射により側鎖メタクリロイル基が反応し3次元硬化物が得られたことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のコア架橋型スターポリスルフィドは、高耐熱性を有し、屈折率調整可能な、さらに高屈折率を有する樹脂である。この樹脂は、光学レンズ、光学フィルム、光学フィルムを用いた液晶表示装置等に用いることができる。
本発明の硬化物は、光学レンズ、光学フィルム、光学フィルムを用いた液晶表示装置等に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフェノール誘導体。
【化1】

(式(1)中、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示す。)
【請求項2】
下記式(2)で表されるフェノール誘導体。
【化2】

(式(2)中、nは1〜1000の整数を表し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、またRとRは結合してもよい。)
【請求項3】
下記式(3)で表されるフェノール誘導体。
【化3】

(式(3)中、nは1〜1000の整数を表し、mは1〜1000の整数を表し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Rは置換又は無置換の炭素数1〜20の1価の芳香族基を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、またRとRは結合してもよく、Xは酸素又は硫黄を示し、R及びRはそれぞれ水素又は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、またRとRは結合してもよい。)
【請求項4】
請求項2又は3記載のフェノール誘導体に下記式(4)で表される化合物を反応させることで得られるコア架橋型スターポリスルフィド。
【化4】

(式(4)中、Rは−O−、−S−、−CH−、−NH−、―SO−、―C(CH−、―CH(CH)−、又は−C(CF−であり、Rはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。X及びYはそれぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。)
【請求項5】
請求項1記載のフェノール誘導体に、下記式(5)で表されるチイラン化合物を反応させる請求項2記載のフェノール誘導体の製造方法。
【化5】

(式中、R及びRは式(2)と同じである。)
【請求項6】
請求項1記載のフェノール誘導体に、下記式(5)で表されるチイラン化合物と、下記式(6)で表されるエポキシ化合物又はチイラン化合物を反応させる請求項3記載のフェノール誘導体の製造方法。
【化6】

(式中、R、R及びXは式(3)と同じである。)
【請求項7】
請求項2又は3記載のフェノール誘導体に下記式(4)で表される化合物を反応させるコア架橋型スターポリスルフィドの製造方法。
【化7】

(式(4)中、Rは−O−、−S−、−CH−、−NH−、―SO−、―C(CH−、―CH(CH)−、又は−C(CF−であり、Rはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。X及びYはそれぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。)
【請求項8】
重合性基を有する請求項2又は3記載のフェノール誘導体。
【請求項9】
請求項8記載のフェノール誘導体に加熱又は活性エネルギー線照射して得られる3次元硬化物。
【請求項10】
請求項8記載のフェノール誘導体に加熱又は活性エネルギー線照射する請求項10記載の3次元硬化物の製造方法。


【公開番号】特開2008−50266(P2008−50266A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221427(P2006−221427)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)主催者名 学校法人 神奈川大学 発表日 平成18年2月16日及び平成18年2月21日 (2)発行団体名 社団法人 高分子学会 発行日 平成18年3月15日 (3)発行団体名 社団法人 日本化学会 発行日 平成18年3月13日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】