説明

フェライトの製造方法

広い周波数範囲においても高効率のフェライトが実現可能なフェライトの製造方法が開示される。このフェライトの製造方法は、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)及び硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)を3:2:24の割合にて混合して液状の混合物を形成する段階と、混合物を水酸化ナトリウム(NaOH)により共沈して金属化させる段階と、共沈された混合物を洗浄及び乾燥する段階と、洗浄及び乾燥された混合物を熱処理する段階と、混合物に酸化アルミニウム(Al)を添加する段階と、を含む。このような構成によれば、誘電率、透磁率、誘電損失及び透磁損失を低下させることができて、高効率のフェライトが実現可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナに係り、さらに詳しくは、周波数の範囲を拡張させてアンテナの効率を向上させることのできるフェライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無線機器とは、場所を問わずにどこでも無線通信を通じて情報を送受可能な機器を総称し、携帯電話、パームサイズPCまたはPDA(Personal Digital Assistants;個人用の携帯情報端末)またはHPC(Hand Held PC:携帯用PC)などを含む。かような無線機器には無線にて電子情報を送受するアンテナが設けられ、このアンテナには情報の無線送受のために、RF(Radio Frequency)磁性素子が採用される。
【0003】
RF磁性素子は様々なタイプのフェライトを用いて実現することができ、その中でも、BaCoFe2441から構成されるZ−タイプまたはヘキサフェライトは数百MHzにおいて使用可能なフェライトである。この種のZ−タイプまたはヘキサフェライトは透磁率と誘電率が高いため、アンテナの小型化に有利である。
【0004】
ところが、上記の如きZ−タイプまたはヘキサフェライトを用いたRF磁性素子は数百MHz以上の周波数においては透磁損失値と誘電損失値が大きくなってRF磁性素子としては不向きであるという欠点を有する。また、Z−タイプまたはヘキサフェライトの特性であると言われる高い透磁率と誘電率を有するように実現された小型のアンテナの場合、減少された断面積により効率低下が引き起こされる。これにより、RF磁性素子をもって周波数範囲を拡張できるように透磁損失値と誘電損失値を低下させると共に、透磁率と誘電率を調節してアンテナの効率を向上させられる方案が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、透磁損失値と誘電損失値を低下させて周波数の範囲を拡張させることのできるフェライトの製造方法を提供するところにある。
【0006】
本発明の他の目的は、透磁率と誘電率を低下させてアンテナ効率を向上させることのできるフェライトの製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明によるフェライトの製造方法は、磁性を有する液状の混合物を形成する段階と、前記混合物を金属化する段階と、前記金属化された混合物を洗浄及び乾燥する段階と、前記洗浄及び乾燥された混合物を熱処理する段階と、前記熱処理された混合物に酸化アルミニウム(Al)を添加する段階と、を含む。
【0008】
本発明の実施の形態によれば、前記液状の混合物は、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)及び硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)を3:2:24の割合にて混合して得られる。このような割合にて混合された前記液状の混合物は、水酸化ナトリウム(NaOH)により共沈されて金属化される。
【0009】
このようにして金属化された混合物は蒸留水により洗浄されて、110℃〜130℃の温度において24時間乾燥される。このようにして乾燥された混合物は900〜1100℃の温度において1次熱処理された後、1250〜1350℃において2次熱処理される。このとき、前記酸化アルミニウムは、前記1次熱処理段階後に、前記1次熱処理された混合物と数%〜数十%の重量比にて混合される。これらの一連の過程を経て形成されたフェライトは、透磁率、誘電率、透磁損失及び誘電損失が低い。
【0010】
本発明の他の側面によるフェライトの製造方法によれば、BaCoFe2441から形成された混合体を準備する段階と、前記混合体にAlから構成された添加物を数%〜数十%の重量比にて混合する段階と、を含む。ここで、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)及び硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)を3:2:24の割合にて混合して液状の混合物を形成する段階と、前記液状の混合物を共沈する段階と、前記共沈された混合物を洗浄及び乾燥する段階と、前記乾燥された混合物を2つの段階に亘って熱処理する段階と、を含み、前記添加物の添加段階は、1次熱処理された混合物に添加されて、2次熱処理される。
【発明の効果】
【0011】
上記の如き構成を有する本発明によれば、BaCoFe2441から形成された混合体に酸化アルミニウム(Al)が混入することにより、製造されたフェライトの透磁損失と誘電損失を低下させることが可能となる。これにより、フェライトが数百MHz以上の範囲、すなわち、数GHzの周波数範囲においても採用可能となる。
【0012】
また、フェライトに酸化アルミニウムが添加されることにより、製造されたフェライトの透磁率及び誘電率を低下させることが可能となる結果、採用されるアンテナの効率を向上させることができる。さらに、フェライトへの酸化アルミニウムの添加割合を調節することにより、フェライトの誘電率及び透磁率の値を所望の値に調節することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるフェライトの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1により製造されたフェライトを概略的に示す斜視図である。
【図3】本発明により製造されたフェライトの透磁率と誘電率を示すグラフである。
【図4】本発明により製造されたフェライトの透磁損失と誘電損失を示すグラフである。
【図5】本発明により製造されたフェライトの反射損失を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づき、本発明の好適な一実施の形態によるフェライトの製造方法を説明する
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態によるフェライトの製造方法を説明するためのフローチャートであり、図2は、このような製造方法により製造されたZ−タイプフェライトを示す図である。
【0016】
図1を参照すれば、本発明の一実施の形態によるフェライトの製造方法は、液状の混合物の形成段階(S10)、金属化段階(S20)、洗浄及び乾燥段階(S30)、熱処理段階(S40)及び添加物の添加段階(S50)を含む。以下、これらの段階について順番に説明する。
【0017】
図1に示すように、まず、磁性を有する液状の混合物を形成する(S10)。ここで、混合物は、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)及び硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)が所定の割合にて混合されて得られる。このとき、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)及び硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)は、3:2:24の割合にて混合される。
【0018】
このようにして液状の混合物が得られると(S10)、混合物を金属化させる(S20)。このような液状の混合物の金属化のために、沈殿反応時に未だ溶解度に達していない他の物質やイオンが一緒に沈殿する現象である共沈法を用いて金属化させる(S20)。本発明においては、混合物に水酸化ナトリウム(NaOH)を混入する共沈法を利用する場合を例示している。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、液状の混合物から金属が抽出可能であれば、種々の方法が採用可能であることはいうまでもない。
【0019】
共沈された混合物は、洗浄及び乾燥される(S30)。洗浄及び乾燥段階(S30)は、具体的に、共沈されて金属化された混合物のスラリーを蒸留水を用いて洗浄する。次いで、洗浄された混合物を110℃〜130℃の温度において24時間乾燥させる。この実施の形態においては、洗浄された混合物を乾燥機(図示せず)において120℃の温度において乾燥する場合を例示している。
【0020】
このようにして洗浄及び乾燥された混合物は、熱処理される(S40)。熱処理段階(S40)は2つの段階に亘って行われ、1次熱処理段階(S41)は、900℃〜1100℃の温度において行われ、2次熱処理段階(S42)は、1250℃〜1350℃の温度において行われる。この実施の形態においては、1次熱処理段階(S41)は1000℃において行われ、2次熱処理段階(S42)は1320℃において行われる場合を例示している。
【0021】
一方、1次熱処理段階(S41)後に、1次熱処理された混合物に添加物が添加される段階が行われる(S50)。添加物は酸化アルミニウム(Al)であり、1次熱処理された混合物に数%〜数十%の重量比にて添加される。ここで、添加物としての酸化アルミニウムは、製造されるフェライトの透磁損失値と誘電損失値を低下させ、且つ、透磁率と誘電率を低下させるために添加される。
【0022】
このようにして酸化アルミニウムが1次熱処理された混合物に添加された後(S50)に2次熱処理されれば(S42)、図2に示すように、フェライト1が製造される。
【0023】
参考までに、上記の製造方法により製造されたフェライト1は、BaCoFe2441から構成された混合体に数%〜数十%の重量比の割合にて酸化アルミニウムが添加されたフェライトである。
【0024】
表1は、上記の製造段階により製造されたフェライト1の添加物である酸化アルミニウムの量による性能を比較して示す表である。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、酸化アルミニウムが0%の割合にて混合されたフェライト1に比べて、酸化アルミニウムの添加割合が1%、10%及び20%に増大するにつれてアンテナのサイズは増加され、アンテナの特定の方向に対する利得値であるピークゲイン値も上がる。加えて、酸化アルミニウムの添加割合が増大するにつれて、フェライト1の効率も急増する。これにより、上記の如き製造方法により製造されたフェライト1を採用したアンテナの断面積を増大させ、その結果、アンテナの効率を向上させることが可能となる。
【0027】
また、図3及び図4は、上記の如き製造方法により製造されたフェライト1の透磁率、誘電率、透磁損失及び誘電損失を示すグラフである。参考までに、透磁率、誘電率、透磁損失及び誘電損失はアンテナの性能を示す指標であり、透磁率は物質の磁気的性質を示す量であり、誘電率は誘電体の電気的な特性であり、貯蔵可能な電荷量を示す指標である。なお、透磁損失は磁化損失量であり、誘電損失は誘電体中において熱により消失されるエネルギー損失量を示す。
【0028】
図3に示すように、酸化アルミニウムの添加割合が0%、1%、10%及び20%に増大するにつれて、透磁率と誘電率が下がると共に、周波数の範囲とは無関係に一定していることが分かる。加えて、図4に示すように、酸化アルミニウムの添加割合の増加がフェライト1の透磁損失及び誘電損失の低下に影響を及ぼすことが分かる。このため、フェライト1を構成する混合体であるBaCoFe2441に酸化アルミニウムを添加することにより、フェライト1の透磁率と誘電率を調節することができると共に、透磁損失と誘電損失の減少により一層広い範囲の周波数において採用可能となる。
【0029】
図5は、酸化アルミニウムの添加割合による反射損失を示すグラフである。図5に示すように、酸化アルミニウムの添加割合が0%、1%、10%及び20%に増大するにつれて、反射損失値は次第に低下する。このような反射損失値の低下により、数GHzの広帯域環境下においても採用可能なフェライト特性を有することとなる。
【0030】
以上述べたように、本発明の好適な実施の形態を参照して説明したが、当該技術分野における通常の知識を持った者であれば、特許請求の範囲に記載の本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内において本発明を様々に修正及び変更することが可能であることが理解できるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する液状の混合物を形成する段階と、
前記混合物を金属化する段階と、
前記金属化された混合物を洗浄及び乾燥する段階と、
前記洗浄及び乾燥された混合物を熱処理する段階と、
前記熱処理された混合物に酸化アルミニウム(Al)を添加する段階と、
を含むことを特徴とするフェライトの製造方法。
【請求項2】
前記液状の混合物を形成する段階においては、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)及び硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)を3:2:24の割合にて混合することを特徴とする請求項1に記載のフェライトの製造方法。
【請求項3】
前記混合物を金属化する段階においては、水酸化ナトリウム(NaOH)により前記液状の混合物を共沈することを特徴とする請求項1に記載のフェライトの製造方法。
【請求項4】
前記金属化された混合物を洗浄及び乾燥する段階は、前記混合物を蒸留水により洗浄する段階と、前記洗浄された混合物を110℃〜130℃の温度において24時間乾燥する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のフェライトの製造方法。
【請求項5】
前記洗浄及び乾燥された混合物を熱処理する段階は、前記乾燥された混合物を900〜1100℃の温度において1次熱処理する段階と、前記1次熱処理された混合物を1250〜1350℃の温度において2次熱処理する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のフェライトの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理された混合物に酸化アルミニウム(Al)を添加する段階においては、前記1次熱処理段階後に、前記1次熱処理された混合物と前記酸化アルミニウムとを数%〜数十%の重量比にて混合することを特徴とする請求項5に記載のフェライトの製造方法。
【請求項7】
BaCoFe2441から形成された混合体を準備する段階と、
前記混合体にAlから構成された添加物を数%〜数十%の重量比にて混合する段階と、
を含むことを特徴とするフェライトの製造方法。
【請求項8】
前記混合体を準備する段階は、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)及び硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)を3:2:24の割合にて混合して液状の混合物を形成する段階と、前記混合物を共沈する段階と、前記共沈された混合物を洗浄及び乾燥する段階と、前記乾燥された混合物を2つの段階に亘って熱処理する段階と、を含むことを特徴とする請求項7に記載のフェライトの製造方法。
【請求項9】
前記添加物を混合する段階においては、前記2つの段階の熱処理段階のうち1次熱処理段階が完了した混合物に前記添加物を混合することを特徴とする請求項8に記載のフェライトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−530479(P2011−530479A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522902(P2011−522902)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004457
【国際公開番号】WO2010/018964
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(507248424)イーエムダブリュ カンパニー リミテッド (41)
【Fターム(参考)】