説明

フォイルストリッパー

【課題】フォイルの移動及び切替えを一の駆動系により実現することができるフォイルストリッパーを提供する。
【解決手段】本発明に係るフォイルストリッパー46は、少なくとも2枚のフォイル47を回転軸72まわりに回転可能に備え、一のフォイルを加速粒子軌道上に配置するカセットロール71と、カセットロール71を加速粒子軌道に沿って移動させる駆動機構56と、回転軸72まわりに設けられた複数のインデクスピン74a〜74dと、カセットロール71の移動軌道上に設けられ、インデクスピンの1つと当接可能なレバー83であって、第1の当接面87及び第2の当接面88を備え、第1の当接面87でインデクスピンと当接する場合には動作が規制され、第2の当接面88で当接する場合には、第2の当接面88とインデクスピンとの当接状態を解消するように移動可能なレバー83と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速粒子を取り出すためのフォイルを移動させ、かつ、加速粒子の軌道上に配置されるフォイルを切替えるフォイルストリッパーに関する。
【背景技術】
【0002】
サイクロトロンなどの粒子加速器に備えられるフォイルストリッパーは、加速された陽子や重陽子のビームをカーボンフォイルにより、H(D)からH(D)に荷電変換して軌道の曲率を反転して系外に引き出す。このカーボンフォイルが長期使用などにより消耗した場合、加速器を止めて真空を大気に開放し、新品のカーボンフォイルに付け替える作業が強いられる。この作業は、マシン操業時間が減ることや、作業者の被爆などのデメリットがある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、フォイルを自動的に切り替える手法が開示されている。この手法では、4枚のフォイルを装填できるフォイルホルダが設けられており、使用していたフォイルが破損した場合等には、外部よりこのフォイルホルダを回転して、フォイルを入れ替えることができる。
【特許文献1】特開平10−256000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、粒子加速器において、1つのフォイルストリッパーで、より多くのターゲットに対応することができれば好ましい。そこで、マグネットの外周における円周方向に複数のターゲットを設け、1個のフォイルストリッパーを加速粒子の軌道に沿って移動させることにより、各ターゲットに加速粒子を誘導することが考えられる。
【0005】
しかしながら、フォイルストリッパーを移動させて複数のターゲットに加速粒子を誘導する手法に、さらに特許文献1のようなフォイル切替え機構を適用した場合に、フォイルストリッパーを移動させるための駆動系と、フォイルを切り替えるための駆動系とが個別に必要となり、これらの駆動系を設置するスペースを考慮しなければならないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決し、フォイルの移動及び切替えを一の駆動系により実現することができるフォイルストリッパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフォイルストリッパーは、加速粒子を取り出すためのフォイルを移動させ、かつ、加速粒子の軌道上に配置されるフォイルを切り替えるフォイルストリッパーであって、少なくとも2枚のフォイルを回転軸まわりに回転可能に備え、一のフォイルを加速粒子の軌道上に配置するよう構成された回転体と、回転体を加速粒子の軌道に沿って移動させる移動手段と、回転体の回転軸まわりに設けられた複数の突起部と、回転体の移動軌道上に設けられ、複数の突起部の一の突起部と当接可能なレバーであって、一の突起部と当接可能な第1の当接面及び第2の当接面を備え、第1の当接面で一の突起部と当接する場合には動作が規制され、第2の当接面で一の突起部と当接する場合には、第2の当接面と一の突起部との当接状態を解消するように移動可能なレバーと、を備えている。
【0008】
この構成により、移動手段によりフォイルを備える回転体をレバーの方向へ移動させて、回転体の一の突起部をレバーの第1の当接面と当接させた状態からさらにレバーの方向へ回転体を移動させることにより、第1の当接面と当接している突起部にレバーからの反力が伝えられ、回転体が回転されてフォイルが切替えられる。また、フォイル切替え後には、移動手段により回転体をレバーと反対方向へ移動させると、回転体の他の突起部がレバーの第2の当接面に接触するが、この場合レバーは、第2の当接面とこの突起部との当接状態を解消するように移動するので、回転体はもとの方向に回転することなくレバーから離れる。移動手段はフォイルストリッパーを移動させる駆動系でもあるので、フォイルの移動及び切替えを一の駆動系により実現することができる。また、駆動系を一つにまとめることにより、コストダウンや省スペース化にもつながる。
【0009】
本発明に係るフォイルストリッパーでは、レバーは、支持点を中心に回動可能に支持され、該支持点周りの一の方向の回動は基準回動位置よりも回動しないように回動規制部材により規制されると共に、該支持点周りの他の方向に回動したときには基準回動位置に戻るように付勢部材により弾性的に付勢されており、レバーは、第1の当接面で一の突起部と当接する場合には、基準回動位置に位置して一の方向への回動が規制され、第2の当接面で一の突起部と当接する場合には、第2の当接面と一の突起部との当接状態を解消するように付勢部材の付勢力に抗して他の方向に回動可能であるのが好適である。
【0010】
この構成により、フォイル切替え後に、移動手段により回転体がレバーと反対方向へ移動して、回転体の一の突起部がレバーの第2の当接面に接触した場合に、レバーが突起部から伝わる力の向きに沿って回動するので、第2の当接面と一の突起部との当接状態をスムーズに解消させることができる。また、第2の当接面と一の突起部との当接状態が解消された後には、付勢部材の付勢力によってレバーを基準回動位置まで自動的に戻すことができる。
【0011】
本発明に係るフォイルストリッパーは、回転体の回転軸と直交するように設けられ、回転体と連動して回転可能な円板であって、その周面上に設けられた少なくとも1つの凹部を備える円板と、円板の向心方向に弾性的に付勢され、円板の周面に当接されており、凹部と嵌合可能なローラと、をさらに備えるのが好適である。
【0012】
この構成により、フォイルが切替えられる際には、ローラが、円板の周面に沿って回転して、新たなフォイルが所望の位置まで回転したときに周面上の凹部に嵌合される。これにより、フォイルが切替えられた後に、回転体やフォイルが回動するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るフォイルストリッパーによると、フォイルの移動及び切替えを一の駆動系により実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るフォイルストリッパーを備える粒子加速器としてのサイクロトロン10の本体部12の構成を示す正面図である。図1に示すように、サイクロトロン10は、一対の磁極16と、図示しない一対のコイルと、真空箱20と、一対の加速電極22と、フォイルストリッパー46と、ターゲット48a〜48cと、を備えている。
【0016】
一対の磁極16は、図1及び図2に示すように、それぞれ円板状の外形を有する。これら磁極16の対向する面には、それぞれ谷領域16aと山領域16bとが交互に連続して設けられている。より詳細には、これら磁極16の対向する面は、それぞれ4つの谷領域16aと4つの山領域16bとが交互に現れる8つの扇形のセクタに分割されている。このように構成することで、セクターフォーカシングを利用して加速粒子の軌道の収束効果を高めている。
【0017】
真空箱20は、図1に示すように、箱本体21と図示しない箱蓋とを有している。箱本体21の底壁部21aには、磁極16の外形と略同径の開口部21bが設けられており、この開口部21bから、一方の磁極16の谷領域16a及び山領域16bを備える面が、真空箱20に突出されている。また、箱本体21には真空排気用の排気口(図示せず)が設けられており、この排気口には図示しない真空ポンプが接続されている。箱蓋は、真空ポンプによって真空箱20内を真空化できるように、箱本体21の上部開口を塞いでいる。箱蓋には、箱本体21と同様に、他方の磁極16の谷領域16a及び山領域16bを備える面を真空箱20に突出させるために、磁極16の外形と略同径の開口部が設けられている。
【0018】
図示しない一対のコイルは、一対の磁極16の側面の周りにそれぞれ設けられており、電磁石が構成されている。
【0019】
一対の加速電極22は、図1に示すように、それぞれ正面視において三角形状をなす。各加速電極22は、例えば銅等の電気導体から構成されており、上下2枚の三角板を底辺で連結して構成されている。そして、加速電極22の板面には冷却用の冷媒を通すための管32が設けられている。
【0020】
これら一対の加速電極22は、一対の磁極16の谷領域16aに位置する。そして、加速電極22の先端部同士が、図1に示すように、蝶の羽のような外形を有する接続部材34により、機械的且つ電気的に接続されている。
【0021】
加速電極22の一方の側方には、加速粒子を取り出すためのフォイルストリッパー46が設けられている。フォイルストリッパー46にはカセットロール交換式の4枚のフォイル47(図3参照)が備えられており、そのうちの1枚のフォイルが、加速粒子の軌道上に配置されている。このフォイルは、加速粒子の軌道上の第1の所定位置101a、第2の所定位置101b、第3の所定位置101c及び第4の所定位置101dに位置決めされるように、フォイルストリッパー46により移動される。
【0022】
フォイルストリッパー46は、フォイル47を第4の所定位置101dに移動する際に、加速粒子の軌道上にあるフォイルを別のものに切替え可能である。その詳細は図5、図7〜10を参照して後述する。
【0023】
フォイルストリッパー46のフォイル47が第1の所定位置101a、第2の所定位置101b及び第3の所定位置101cに位置決めされたときのフォイル47通過後の加速粒子の軌道上には、放射性同位元素を生成するための第1のターゲット48a、第2のターゲット48b、第3のターゲット48cがそれぞれ設けられている。各ターゲットには、加速粒子を導入する入口に、ターゲットに導入される加速粒子のビーム幅を限定するためのコリメータ49a、49b、49cが設けられている。
【0024】
次に、図3〜図6を参照して、フォイルストリッパー46の詳細について説明する。図3は、フォイルストリッパー46の詳細な構成を示す図である。図4は、図3のIV−IV断面図である。図5は、フォイル切替えに関する構成要素を示す図である。図6は、図5のVI―VI断面図である。
【0025】
フォイルストリッパー46は、図3に示すように、ガイド51と、移動体52と、駆動機構56と、フォイルチェンジャ63と、図示しない制御装置と、を備えている。
【0026】
ガイド51は、一対の磁極16の外周側に配置され、弧状の形状に沿った外側、内側に側面51a、51bをもつ板材である。ガイド51がなす弧は、ガイド51近傍の加速粒子のビーム軌道上の3点101a、101b、101cを通る円弧と同一の中心点をもつように設計してある。ガイド51のなす弧の曲率中心は、磁極16の中心Oとは異なる点Pであり、また、その曲率半径は、磁極16の半径より小さい。
【0027】
ガイド51には、移動体52がガイド51に沿って移動可能に係合されている。移動体52は、4枚のフォイル47を有するフォイルカセットユニット50を備える。フォイルカセットユニット50は、4枚のフォイル47のうち1枚のフォイルがガイド51のなす弧より内側に位置し、加速粒子の軌道上に配置されるように移動体52に備えられている。この1枚のフォイルが、加速粒子を通過させて軌道を磁極16の遠心方向に曲げるために用いられ、残りの3枚のフォイルは交換用の予備フォイルとしてフォイルカセットユニット50に備えられている。
【0028】
フォイルカセットユニット50は、図4及び図5に示すように、4枚のフォイル47を格納するカセットロール(回転体)71を備える。カセットロール71は、一対の磁極16の対向方向と平行な回転軸72まわりに回転可能に設置されており、回転軸72まわりに略90度間隔で第1のホルダー73a、第2のホルダー73b、第3のホルダー73c及び第4のホルダー73dを備える。第1〜第4のホルダー73a〜73dのそれぞれには、フォイル47が1枚ずつ付着されている。図4〜図6では、第1〜第4のホルダー73a〜73dのうち第3のホルダー73cに付着されているフォイル47が加速粒子の軌道上に配置されている。
【0029】
図5及び図6に示すように、カセットロール71のガイド51側の面には、回転軸72まわりに略90度間隔で第1のインデクスピン74a、第2のインデクスピン74b、第3のインデクスピン74c及び第4のインデクスピン74dが設けられている。第1〜第4のインデクスピン(突起部)74a〜74dのそれぞれは、第1〜第4のホルダー73a〜73dが配置されている近辺のカセットロール71の下部に設けられている。
【0030】
カセットロール71のガイド51と反対側の面には、回転軸72を中心とするインデクスホイール(円板)75が連結されている。インデクスホイール75は、回転軸72と直交するように設けられ、カセットロール71と連動して回転する。インデクスホイール75の周面には、回転軸72まわりに略90度間隔で第1の凹部76a、第2の凹部76b、第3の凹部76c及び第4の凹部76dが設けられている。
【0031】
また、インデクスホイール75の周面には、サプレッションローラ(ローラ)77が当接されている。図4に示すように、サプレッションローラ77は、コイルばね78と連結されており、インデクスホイール75の向心方向に弾性的に付勢されている。また、サプレッションローラ77は、図示しない治具などによってインデクスホイール75の円周方向への動作を規制されている。したがって、サプレッションローラ77は、インデクスホイール75が回転すると、位置を固定したまま周面に沿って回転することができる。
【0032】
また、サプレッションローラ77は、インデクスホイール75の周面に設けられた第1〜第4の凹部76a〜76dのいずれか1つと嵌合可能である。この場合、第1〜第4のホルダー73a〜73dのいずれか1つのフォイル47が、加速粒子の軌道上に位置決めされることになる。図5の例では、サプレッションローラ77が第1の凹部76aと嵌合しているときには、第3のホルダー73cのフォイルが加速粒子の軌道上に位置決めされている。
【0033】
図3及び図4に示すように、移動体52には、フォイルカセットユニット50を搭載する面の裏面に、二対のつば付ローラ53a、53b、54a、54bが、それぞれ移動体52の裏面と直交する回転軸で回転自在に設けられている。このうち、ローラ53a、54aは、ガイドの外側面51aと係合するように配置されており、ローラ53b、54bは、ガイドの内側面51bと係合するように配置されている。すなわち、移動体52は、図4に示すように、一対のつば付ローラ53a、53bのそれぞれによって、ガイド51の外側の側面51a及び内側の側面51bからガイドに係合されている。また、移動体52は、一対のつば付ローラ54a、54bのそれぞれによって、ガイド51の外側の側面51a及び内側の側面51bからガイドに係合されている。これにより、移動体52は、ガイド51に沿って移動可能となる。
【0034】
また、移動体52は、ガイド51の弧状の軌道に沿って外周面を備えており、この外周面にはセクターギア55が設けられている。
【0035】
移動体52のセクターギア55を介して、移動体52を移動させるための駆動力を与える駆動機構56が、移動体52に連結されている。駆動機構56は、図4に示すように、ステッピングモータ57と、回転を減速するとともに、直交方向の回転に変換する歯車機構を有している。この歯車機構は、ステッピングモータ57の回転軸である第1の軸58と、この第1の軸58に取り付けられた第1のかさ歯車59と、第1のかさ歯車59に噛み合わされ、これと直交する第2のかさ歯車60と、第2のかさ歯車60の回転中心である第2の軸61と、この第2の軸61に取り付けられたピニオンギア62と、を備えている。図3に示すように、ピニオンギア62が、移動体52のセクターギア55と噛み合わされている。
【0036】
フォイルストリッパー46は、図示しない制御装置を有しており、この制御装置により、フォイル47の位置のフィードバック制御を行う。具体的には、各ターゲット48a〜48cの入口に備えられた一対のコリメータ49a〜49cによって、電流値が検出される。これらの電流値はビームが当たる面積が多いほど大きな値をとるので、これらの電流値を比較することで、ビーム径の中心とターゲット入口の中心との相対的なずれを検知することができる。すなわち、一方の電流値が大きいときには、その電流値の検出箇所の方向にビームが偏っていることを示し、また、両方の電流値が同一のときには、ビーム径の中心とターゲット入口の中心が一致して、ビームが所望のターゲットに正確に導入されていることを示す。
【0037】
フォイルストリッパー46の図示しない制御装置は、ターゲット48a〜48cのうちビームを導入させたいターゲットの入口に備えられた一対のコリメータにより測定された電流値の差分に応じて、ステッピングモータ57への制御指令をフィードバック制御する。これにより、ビーム軌道上のフォイル47の位置が調整されて、ビーム径の中心がターゲット入口の中心と一致するようになる。
【0038】
また、フォイルストリッパー46には、フォイルチェンジャ63が設けられている。フォイルストリッパー46は、加速粒子の軌道上に配置されるフォイル47が長期使用などにより消耗して劣化や破損を生じた場合に、フォイルチェンジャに63を利用して新たなフォイルに交換することができる。フォイルチェンジャ63は、フォイル47が第3の所定位置101cから第4の所定位置101dまで移動されるときに、フォイルカセットユニット50と接触することにより、加速粒子の軌道上に配置されるフォイル47を交換するよう構成されている。
【0039】
図5及び図6に示すように、フォイルチェンジャ63は、ガイド51に固定される台座81を備える。台座81にはフォイルカセットユニット50のカセットロール71の回転軸72と平行な向きに支持軸82が設けられており、さらにこの支持軸(支持点)82を中心として回動可能に支持されたレバー83が連結されている。
【0040】
レバー83は、図6に示すように、支持軸82を介して台座81に対して回動可能に取り付けられている基部84と、フォイルカセットユニット50のカセットロール71のインデクスピン74a〜74dの1つと当接可能な作動部86と、基部84及び作動部86を連結する連結部85からなる。
【0041】
レバー83の作動部86は、図5に示すように、カセットロール71に対向する第1の当接面87と、この第1の当接面87に対して、カセットロール71と反対側で鋭角に対向する第2の当接面88と、によって、インデクスピン74a〜74dの1つと当接することができる。
【0042】
レバー83は、支持軸82まわりに回動された場合には、支持軸82まわりに設けられたねじりコイルばね(付勢部材)89によって反力が与えられ、回動方向と反対側に回転して所定位置に戻るように構成されている。ここで、レバー83の所定位置(基準回動位置)とは、例えば第1の当接面87及び第2の当接面88の両方が、カセットロール71の移動軌道上に配置される位置のことである。
【0043】
レバー83が所定位置にある場合には、台座81に設けられたストッパー(回動規制部材)90が基部84の側部に当接している。このストッパー90は、レバーが所定位置から支持軸82まわりの一方向に回動するのを規制している。すなわち、本実施形態では、図5に示すように、第1の当接面87に力が加えられた場合には、ストッパー90は、レバー83が支持軸82を中心として所定位置から時計回り方向に回動するのを規制している。
【0044】
一方、第2の当接面88に力が加えられた場合には、レバー83は、ねじりコイルばね89により基準位置に戻るよう弾性的に付勢されつつ、支持軸82を中心として所定位置から反時計回り方向に回動する。そして第2の当接面88に力が加えられなくなると、コイルばね89の反力によって所定位置に戻される。
【0045】
次に、上述したような構成のサイクロトロン10及びフォイルストリッパー46の作用について説明する。
【0046】
磁極16の中心部に設けられたビーム引出し部Oから、陽子或いは重陽子といった加速粒子が、磁極16により一様な磁場がかけられている空間に引き出され、RFキャビティにより生成される電界により多重加速される。加速粒子は、加速に伴って軌道半径が大きくなっていく。
【0047】
フォイルストリッパー46において、駆動機構56のステッピングモータ57が駆動されて、駆動機構56内の歯車機構を介してピニオンギア62が回転する。このピニオンギア62に噛み合っている移動体52のセクターギア55が連動し、移動体52がガイド51に沿って移動する。そして、移動体52に搭載されたフォイルカセットユニット50のフォイル47は、第1の所定位置101a、第2の所定位置101bまたは第3の所定位置101cに位置決めされる。
【0048】
次に、図5、図7〜図10を参照して、フォイルストリッパー46によるフォイル切替え動作について説明する。
【0049】
図5に、フォイルカセットユニット50が第3の所定位置101cにある場合の、カセットロール71とフォイルチェンジャ63との位置関係を示す。図5に示すように、フォイルカセットユニット50が第3の所定位置101cにある場合には、フォイルチェンジャ63のレバー83は、カセットロール71のインデクスピン74a〜74dのいずれとも当接していない。
【0050】
駆動機構56により、移動体52に搭載されたフォイルカセットユニット50が第4の所定位置101dへ向けて駆動されると、図7に示すように、フォイルチェンジャ63のレバー83が、第1の当接面87で第1のインデクスピン74aと当接する。このとき、フォイルカセットユニット50は、駆動機構56によってフォイルチェンジャ63に近づく方向に移動しているので、第1の当接面87には第1のインデクスピン74aから力が加えられる。また、ストッパー90によりレバー83が回動するのが規制されているので、第1の当接面87から第1のインデクスピン74aに反力が加えられる。そして、サプレッションローラ77が第1の凹部76aから外れて、カセットロール71が時計回りに回転しはじめる。このとき、サプレッションローラ77は、インデクスホイール75の周面に沿って回転している。
【0051】
フォイルカセットユニット50が第4の所定位置101dに到達すると、図8に示すように、カセットロール71が略90度回転してフォイル切替えが完了し、加速粒子の軌道上に第四のホルダー73dが配置される。このとき、サプレッションローラ77は、第2の凹部76bに嵌合されている。
【0052】
続いて、フォイルカセットユニット50をフォイルチェンジャ63から離すべく、駆動機構56によって再び第3の所定位置101cの方向へ駆動されると、図9に示すように、フォイルチェンジャ63のレバー83が、第2の当接面88で第2のインデクスピン74bと当接する。このとき、フォイルストリッパー46は、駆動機構56によってフォイルチェンジャ63から離れる方向に移動しているので、第2の当接面88には第2のインデクスピン74bから力が加えられる。これにより、レバー83が、第2の当接面88と第2のインデクスピン74bとの当接状態を解消すべく、ねじりコイルばね89による反力を受けつつ、支持軸82を中心として反時計回りに回動される。レバー83が反時計回りに回動されている間に、第2のインデクスピン74bが第2の当接面88上を端部まで移動する。このとき、カセットロール71は回転しておらず、サプレッションローラ77は第2の凹部76bに嵌合されたままである。
【0053】
第2のインデクスピン74bが第2の当接面88の端部を越えて、第2の当接面88が第2のインデクスピン74bから離れると、第2の当接面88にインデクスピン74bから加えられていた力が無くなり、図10に示すように、ねじりコイルばね89の反力によってレバー83が支持軸82を中心として時計回りに回動してもとの所定位置に戻される。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係るフォイルストリッパー46は、駆動機構56によりフォイル47を備えるカセットロール71をフォイルチェンジャ63のレバー83の方向へ移動させて、カセットロール71のインデクスピン74a〜74dの1つをレバー83の第1の当接面87と当接させた状態からさらにレバー83の方向へカセットロール71を移動させることにより、第1の当接面87と当接しているインデクスピンにレバー83からの反力が伝えられ、カセットロール71が回転されてフォイル47が切替えられる。駆動機構56はフォイル47を移動させる駆動系でもあるので、フォイル47の移動及び切替えを一の駆動系により実現することができる。また、駆動系を一つにまとめることにより、コストダウンや省スペース化にもつながる。
【0055】
また、フォイル切替え後には、駆動機構56によりカセットロール71をレバー83と反対方向へ移動させると、カセットロール71の他のインデクスピンがレバー83の第2の当接面88に接触する。この場合、レバー83がインデクスピンから伝わる力の向きに沿って回動するので、第2の当接面及88とインデクスピンとの当接状態をスムーズに解消させることができる。また、第2の当接面88とインデクスピンとの当接状態が解消された後には、ねじりコイルばね89の付勢力によってレバー83を所定位置まで自動的に戻すことができる。
【0056】
また、本実施形態に係るフォイルストリッパー46は、フォイル47が切替えられる際には、サプレッションローラ77が、インデクスホイール75の周面に沿って回転して、新たなフォイルが所望の位置まで回転したときに周面上の凹部76a〜76dのいずれかに嵌合される。これにより、フォイル47が切替えられた後に、カセットロール71やフォイル47が回転するのを抑制することができる。
【0057】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、フォイルストリッパー46に備えられるフォイル47の枚数は、4枚に限らず、複数の枚数であれば他の任意の枚数であってもよい。また、上記の実施形態では、複数のフォイル47が回転軸72まわりに略90度の等間隔で配置されているが、回転軸72まわりに任意の間隔で配置してよい。
【0058】
また、カセットロール71を回転させるためのインデクスピン76a〜76dは、フォイルチェンジャ63のレバー83と当接可能であればよく、ピン以外の突起状の部材でもよい。また、上記実施形態では、インデクスピン76a〜76dは、フォイルストリッパー46に備えられるフォイル47の枚数や同一の個数を、フォイル47と同様に回転軸72まわりに略90度の等間隔で配置したが、フォイルの数と異なってもよいし、回転軸72まわりに任意の間隔で配置してもよい。
【0059】
さらに、フォイルチェンジャ63のレバー83は、第2の当接面88がインデクスピンにより押された場合に、上記の実施形態のように支持軸82を中心に回動してインデクスピンを回避するのではなく、例えば、第2の当接面88が受ける力のうちカセットロール71の移動軌道の遠心方向の分力を利用して、遠心方向に直線状に設けられたレールに沿って水平移動するなどの他の動作により、インデクスピンを回避する形式でもよい。
【0060】
また、フォイルストリッパー46の駆動機構56は、ギヤ機構以外のフリクション機構などでもよく、また、クランクを利用したシリンダ機構でもよい。
【0061】
また、1個のフォイルストリッパー46から加速粒子を導入するターゲットの数は、3個以外の複数個でもよい。
【0062】
さらに、上記実施形態では、1個のフォイルストリッパー46を用いて1箇所から加速粒子を取り出していたが、複数のフォイルストリッパーを加速粒子の軌道上に等間隔に配列して、同時に複数箇所から加速粒子を取り出すように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態に係る粒子加速器としてサイクロトロンの構成を示す正面図である。
【図2】一対の磁極の構成を示す斜視図である。
【図3】フォイルストリッパーの詳細な構成を示す図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】フォイル切替えに関する構成要素を示す図であり、フォイルカセットユニットが第3の所定位置にある場合の、カセットロールとフォイルチェンジャとの位置関係を示す図である。
【図6】図5のVI―VI断面図である。
【図7】フォイルチェンジャがカセットロールを回転させている状態を示す図である。
【図8】フォイルカセットユニットが第4の所定位置にあり、フォイル切替え直後である場合の、カセットロールとフォイルチェンジャとの位置関係を示す図である。
【図9】フォイルカセットユニットがフォイルチェンジャから離れるときに、フォイルチェンジャのレバーの第2の当接面がカセットロールのインデクスピンと当接している状態を示す図である。
【図10】フォイルカセットユニットがフォイルチェンジャから離れるときに、フォイルチェンジャのレバーの第2の当接面がカセットロールのインデクスピンから離れた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10…サイクロトロン、16…磁極、22…加速電極、46…フォイルストリッパー、47…フォイル、48a、48b、48c…ターゲット、50…フォイルカセットユニット、51…ガイド、51a…外側面、51b…内側面、52…移動体、53a、53b、54a、54b…つば付ローラ、55…セクターギア、56…駆動機構(移動手段)、63…フォイルチェンジャ、71…カセットロール(回転体)、72…回転軸、74a〜74d…インデクスピン(突起部)、75…インデクスホイール(円板)、76a〜76d…凹部、77…インデクスローラ(ローラ)、82…支持軸、83…レバー、87…第1の当接面、88…第2の当接面、89…ねじりコイルばね(付勢部材)、90…ストッパー(回動規制部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速粒子を取り出すためのフォイルを移動させ、かつ、加速粒子の軌道上に配置されるフォイルを切り替えるフォイルストリッパーであって、
少なくとも2枚のフォイルを回転軸まわりに回転可能に備え、一のフォイルを前記加速粒子の軌道上に配置するよう構成された回転体と、
前記回転体を前記加速粒子の軌道に沿って移動させる移動手段と、
前記回転体の回転軸まわりに設けられた複数の突起部と、
前記回転体の移動軌道上に設けられ、前記複数の突起部の一の突起部と当接可能なレバーであって、該一の突起部と当接可能な第1の当接面及び第2の当接面を備え、前記第1の当接面で前記一の突起部と当接する場合には動作が規制され、前記第2の当接面で前記一の突起部と当接する場合には、前記第2の当接面と前記一の突起部との当接状態を解消するように移動可能なレバーと、
を備えるフォイルストリッパー。
【請求項2】
前記レバーは、支持点を中心に回動可能に支持され、該支持点周りの一の方向の回動は基準回動位置よりも回動しないように回動規制部材により規制されると共に、該支持点周りの他の方向に回動したときには前記基準回動位置に戻るように付勢部材により弾性的に付勢されており、
前記レバーは、前記第1の当接面で前記一の突起部と当接する場合には、前記基準回動位置に位置して前記一の方向への回動が規制され、
前記第2の当接面で前記一の突起部と当接する場合には、前記第2の当接面と前記一の突起部との当接状態を解消するように前記付勢部材の付勢力に抗して前記他の方向に回動可能である、請求項1に記載のフォイルストリッパー。
【請求項3】
前記回転体の回転軸と直交するように設けられ、前記回転体と連動して回転可能な円板であって、その周面上に設けられた少なくとも1つの凹部を備える円板と、
前記円板の向心方向に弾性的に付勢され、前記円板の周面に当接されており、前記凹部と嵌合可能なローラと、
をさらに備える、請求項1又は2に記載のフォイルストリッパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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