説明

フォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置

【課題】 輝度および干渉性の両方が格段に高く、TEM等の電子顕微鏡、加速器、X線発生装置等用の電子線源として利用した場合、それらの性能を飛躍的に向上させることのできるフォトカソード型電子線源を実現する陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置を提供する。
【解決手段】 この出願の発明の局所被覆装置は、フォトカソード型電子線源の陰極先端部(15)に高量子効率物質を被覆するものであり、陰極先端部(15)と、高量子効率物質被覆物の構成物質が放出される放出源(41、42)との間に、陰極先端部(15)への被覆領域を制限するための穴を有する絞りを配置したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、フォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置に関するものである。より詳細には、この出願の発明は、高量子効率物質を陰極先端部の限定された微小領域に被覆することができ、発生する電子ビームの輝度および干渉性を向上させた電子線源を提供することができる、フォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置に関するものである。
【0002】
なお、この出願の明細書において、「局所」とは、フォトカソード型電子線源の陰極先端部の限定された微小領域のことを意味する。
【背景技術】
【0003】
従来より、電子顕微鏡、電子線加速器およびX線発生装置用等の電子線源として、電界放射型電子線源や熱電子放出型電子線源が一般的に使用されており、とくに電界放射型電子線源は今日最高輝度の電子線源として様々な分野に利用されている。しかしながら、最高輝度の電子線源とされる電界放射型電子線源を搭載した電子顕微鏡でさえも、現在実用的に放出される電子の総電流はわずか1μA程度となっている。
【0004】
ところで、光学顕微鏡では凸レンズと凹レンズを組み合わせて球面収差を完全に除去できるため、その像分解能は原理的分解能である可視光の波長程度を有している。これに対して透過型電子顕微鏡(TEM)では実用的な磁界凹レンズを作製することが原理的に不可能なため、球面収差を除去できず、その像分解能は原理的分解能である電子の波長(200keVで0.0251オングストローム)に比べて100倍も低く、光学顕微鏡における虫眼鏡程度の像分解能を有するにすぎない。TEMの加速電圧を200kVから1000kVとして電子の波長を短くしても、像分解能の向上は10%程度でしかない。
【0005】
しかし、極めて輝度の高い電子線源をTEMに使用して、良質なホログラムが得られれば、ホログラムから像への再生において光学用の凸レンズと凹レンズを組み合わせてホログラムが有する球面収差を完全に除去しながら像再生ができ、TEMの分解能を現状の100倍以上の原理的分解能にまで向上させることができる。これはTEMが考案されてまもなく、D.Gaborが提案した方法であるが、現在もっとも高い輝度・干渉性を有する電界放射型電子線源であっても、その輝度がまだ不十分なため、分解能向上の効果は小さい。
【0006】
そこで、新しい電子線源としてフォトカソード型電子線源が注目されている。フォトカソード型電子線源は光電効果を利用しており、先端部に量子効率(1個の光子の光電効果によって放出される光電子の個数の割合(%))の高い物質を被覆させた陰極に対してレーザー光等の光を照射し、光電子を放出させることによって電子線源として使用することができる。
【0007】
ここで、図1の(a)、(b)、(c)に、それぞれ熱電子放出型電子線源、電界放出型電子線源およびフォトカソード型電子線源からの電子ビームの輝度比較のために電子ビームの集束の様子を示す。また、図2の(a)、(b)に、それぞれ熱電子放出型電子線源および電界放出型電子線源における電子線の集束用電極の概要を模式的に示す。電子ビームの輝度βは、図1(a)に示すように、電子ビームによる電流をI、クロスオーバー位置での電子ビームの面積をS、立体角をωとすると、β=I/(S・ω)で表される。
【0008】
図1に示すように、フォトカソード型電子線源以外の電子線源では電子ビームが一度発散してから収束されるので、先端部を小さくしても立体角ωは大きくなる。これに対して、フォトカソード型電子線源では、レーザー照射領域が陰極先端部の面積よりも小さければ電子ビームの発散がないため(電子は先端部の表面の法線方向(電場の方向)に放出)、立体角ωを小さくできる。このことと、フォトカソード型電子線源では、実用的には、他のタイプの電子線源に比べて10,000倍以上もの個数(電流)の電子が放出できることとから、他のタイプの電子線源よりも遥かに高い輝度の電子線源となることが期待される。
【0009】
なお、フォトカソード型電子線源の陰極先端部に通常の金属を被覆し、そこにレーザー光を照射してもCs3Sb等の高量子効率物質に比べれば光電子の放出効率(量子効率)
は100万分の1以下であり、無視できるほどに小さいものとなる。
【0010】
ところで、フォトカソード型電子線源で最も重要な要素であるCs3Sbに代表される
量子効率の高い物質は化学的に極めて活性であり、微量の酸素と反応するとその量子効率が時間とともに減少することが知られており、この傾向は高量子効率物質の温度が高くなるほど顕著となる。そのため、高量子効率物質をガラス管中に真空封入し、温度が上昇しないように弱い光を照射して使用していた。したがって、高量子効率物質を陰極先端部に被覆した従来のフォトカソード電子線源では、放出される電子の総電流量が不十分で、その輝度も抑えられ、さらにガラス管の中でしか使用できなかった。
【0011】
これらの問題を解決するため、この出願の発明の発明者(木本高義)は、特許文献1および特許文献2(特許文献1の分割出願)において新規なフォトカソード型電子線源およびその作製方法ならびにその電子線源への高量子効率物質の被覆方法を提案した。
【0012】
特許文献1では、図3に示しているように陰極先端部を冷却するために、陰極ユニット(100)において、ペルチェ冷却効率の高いn型半導体とp型半導体(図3ではn型Bi2Te3(101)とp型Bi2Te3(102))を直接接合して陰極(103)を構成し、この陰極(103)が熱伝導率および電気伝導率の高い陰極基盤(104)と接合されている。そしてn型Bi2Te3(101)とp型Bi2Te3(102)の接合面が吸熱面となるように陰極ユニット(100)の陰極端子(105)および陰極基盤(104)を介して電流を流し、陰極先端部(106)の局所冷却を行っている。これにより、熱伝導のみで陰極先端部を冷却するよりは遥かに冷却効率が高く、レーザー照射される陰極先端部の入熱をより効果的に除くことができるようになった。また、陰極ユニット(100)の取り扱いが、グローブ付きの不活性中作業カバーを取り付けた電子線源で行い、酸素に晒されることによる量子効率の減少を防止した。なお、(107)は補強用絶縁物、(108)は高量子効率物質であるCs3Sbである。
【0013】
また、特許文献1および特許文献2では、フォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の被覆をグローブ付きの不活性ガス中作業用カバーが取り付けてある被覆装置内において行い、酸素に晒されることによる量子効率の減少を防止している。すなわち、グローブ付きの不活性ガス中作業用カバーが取り付けてある被覆装置内において、真空状態で陰極ユニットの陰極先端部に高量子効率物質を被覆させた後に、真空排気を停止させ、被覆装置内及び不活性ガス中作業用カバー内を超高純度の不活性ガスで大気圧まで充満させ、不活性ガス中作業用カバーのグローブが使用できる状態にした後に、陰極ユニット全体を、グローブを用いて密閉性容器に超高純度不活性ガスとともに閉じ込め、その後密閉性容器を被覆装置から取り出すようにした。図4に、不活性ガス中作業用カバーのグローブが利用できる蒸着装置および電子線発生装置における陰極ユニットの陰極先端部への蒸着、陰極ユニットの蒸着装置からの取出し、蒸着済み陰極ユニットの電子線発生装置への取付け、電子線発生装置の作動の一連の作業の流れをわかりやすくまとめて示す。
図5は、図4の不活性ガス中作業用カバーを拡大して示す図である。また、図6に陰極ユニット全体を密閉性容器に閉じ込める様子を示す。図4〜図6の各符号の名称についてはこの出願の明細書の図面の簡単な説明の欄の符号の説明の項に列記してある。
【0014】
以上のようにして従来技術の有する問題点が解決されたわけであるが、陰極先端部に用いるペルチェ冷却効率の高い物質自体は一般に脆い性質を有するため、先鋭化が難しかったり、外力が働くと破壊にいたるおそれがある等の解決すべき課題があった。
【0015】
そこで、この出願の発明の発明者(木本高義)は、特許文献3においてこれらの問題を改善した冷却式高量子効率フォトカソード型電子線源用陰極を提案した。
【0016】
特許文献3のフォトカソード型電子線源用陰極を図7に示す。図7(a)はフォトカソード型電子線源に用いる陰極ユニット(110)の全体図であり、図7(b)はその陰極ユニット(110)の陰極(111)および陰極基盤(112)の要部拡大図である。図7(c)はそれらの変形例を示す図、図7(d)は陰極先端部(115)の拡大図である。図7(b)に示されているように、n型Bi2Te3(113)およびp型Bi2Te3(114)が、それぞれ銅製の2つの陰極基盤(112)に半田を用いて接合され、さらにn型Bi2Te3(113)とp型Bi2Te3(114)のそれぞれに熱伝導率および電気伝導率の高い物質である銅からなる陰極先端部(115)が半田を用いて接合されている。陰極先端部(115)の先端面は僅かに凹面であり、その凹面に高量子効率物質であるCs3Sb(116)が被覆されている。このような構成においては、ペルチェ効果を示
す物質(113)、(114)どうしの接触はなく、熱伝導率および電気伝導率の高く、先鋭化が容易に行える銅を用いて陰極先端部(115)としているので、特許文献1において残っていた課題は解決された。
【特許文献1】特開2003−92077号公報(第6−7頁、図6;第5−6頁、図1)
【特許文献2】特開2004−221077号公報(第4−5頁、図1)
【特許文献3】特開2003−346691号公報(第7頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記のような冷却式高量子効率フォトカソード型電子線源用電極をTEM等の電子顕微鏡、加速器、X線発生装置等用の電子線源において利用し、それらの性能を飛躍的に向上させるためには、さらに次のような解決すべき課題があった。
【0018】
すなわち、フォトカソード型電子線源で陰極先端部に照射するレーザー光は、量子力学的な制約により、そのビーム径を可視光の波長以下には細くすることができない。また、幾何学的な制約により陰極先端部は収束用光学レンズからある程度離さざるを得ないために、レーザー光のビーム径は上記限界値よりも大きくなる。さらに、先鋭化された陰極先端部には蒸着により高量子効率物質がその全体に被覆されていたため、ある程度の広がりをもったレーザー照射領域から電子が放出されることになり、輝度を高くできても電子線の干渉性を高めることには制約があった。
【0019】
この出願の発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、輝度および干渉性の両方が格段に高く、TEM等の電子顕微鏡、加速器、X線発生装置等用の電子線源として利用した場合、それらの性能を飛躍的に向上させることのできるフォトカソード型電子線源を実現する、フォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この出願の発明は、上記課題を解決するため、第1には、フォトカソード型電子線源の陰極先端部に高量子効率物質を被覆する装置において、陰極先端部と、高量子効率物質被覆物の構成物質が放出される放出源との間に、陰極先端部への被覆領域を制限するための穴を有する絞りを配置したことを特徴とするフォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置を提供する。
【0021】
また、第2には、上記第1の発明において、被覆装置が真空蒸着方式の装置であることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0022】
また、第3には、上記第1または第2の発明において、絞りを加熱する絞り加熱手段を有することを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0023】
また、第4には、上記第3の発明において、絞り加熱手段が、通電加熱手段と光ファイバーを介したレーザー加熱手段を併用したものであることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0024】
また、第5には、上記第1から第4の発明のいずれかにおいて、複数の放出源を有し、これらの放出源が搭載用部材上に搭載され、陰極先端部の中心と絞りの穴中心とを結ぶ軸が、放出源から被覆物構成物質が放出される幾何学的範囲に収まるように搭載用部材が移動可能となっていることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0025】
また、第6には、上記第5の発明において、搭載用部材上の複数の放出源の間に、放射熱を遮蔽する板を設けたことを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0026】
また、第7には、上記第1から第6の発明のいずれかにおいて、放出源の上に、被覆物構成物質が放出される開口を有し、放射熱を遮蔽するための絶縁性の板を設けたことを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0027】
また、第8には、上記第1から第7のいずれかの発明において、陰極を組み込みフォトカソード型電子線源に装着される陰極ユニットを取り付けるための絶縁性陰極ユニット搭載台を有するとともに、絞りを固定保持する絞りユニットが、絶縁性陰極ユニット搭載台の窪み開口部に固定されるようになっていることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0028】
また、第9には、上記第8の発明において、絞りユニットに固定された絞りの穴の位置が、絶縁性陰極ユニット搭載台の窪み開口部内で調整可能であり、実体顕微鏡による陰極先端部と絞りの穴中心との軸合わせを行うことができるようになっていることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0029】
また、第10には、上記第1から第9の発明において、絞りが、十分な機械的強度を有し、かつ、微細な穴を集束イオンビーム、電界研磨あるいは放電加工を用いて1個ないしは2個以上開けたものであることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0030】
また、第11には、上記第1から第9の発明において、絞りが、絞りの中央部に所要の大きさの窪みを形成したものに、集束イオンビームを走査用電極板のコンピュータ制御により任意の形状の1個ないしは2個以上の微細な穴を開けたものであることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0031】
また、第12には、上記第1から第11の発明のいずれかにおいて、ペルチェ冷却効果の高い組合せの物質を接合した陰極の陰極先端部を被覆対象とし、この陰極に電流を流す電源を備え、電流を流す向きの選択により陰極先端部に対する加熱と冷却の選択が行える
ことを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0032】
また、第13には、上記第12の発明において、陰極先端部を加熱する通電加熱手段を有し、この通電加熱手段による加熱と、陰極に陰極先端部が加熱される方向に電流を流すことによる加熱との併用により、陰極先端部が加熱されるようになっていることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0033】
また、第14には、上記第12の発明において、陰極先端部を冷却するための水冷金属板とペルチェ冷却サーモモジュールとの組合せを有し、この組合せによる冷却と、陰極に陰極先端部が冷却される方向に電流を流すことによる冷却との併用により、陰極先端部が冷却されるようになっていることを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0034】
また、第15には、上記第1から第14の発明のいずれかにおいて、陰極先端部と放出源との間に、放出源から被覆物構成物質以外の不純物が到達することを防止するための移動可能なマスクを有することを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0035】
また、第16には、上記第1から第15のいずれかの発明において、陰極先端部にアースに対して負の電圧を印加でき、かつ、ファラデーカップと、ファラデーカップの底部中央から、高量子効率物質が被覆された陰極先端部にレーザー光を照射するための光ファイバーとからなり、陰極先端部への被覆の終了後にレーザー光を陰極先端部に照射し、陰極先端部から放出される電子ビームより電流測定を行い、その結果に基づいて被覆状態を調べるための移動可能な被覆状態検査手段を有することを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0036】
また、第17には、上記第16の発明において、ファラデーカップの入口近くに陰極先端部から放出される電子ビームの進行方向を偏向させる偏向手段を設けたことを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【0037】
さらに、第18には、上記第16または第17の発明において、光ファイバー先端近傍にレーザー光集束用レンズを設けたことを特徴とする局所被覆装置を提供する。
【発明の効果】
【0038】
この出願の発明によれば、前記構成を採用したので、以下のような顕著なる効果を得ることができる。
1)フォトカソード型電子線源から発生する電子ビームの干渉性を電界放出型電子線源と同等以上に向上できる。
2)レーザー光はその中心部ほど輝度が高いため、また、クロスオーバー位置での電子ビームの開き立体角(ω)が小さくなるため、発生する電子ビームの輝度が向上し、電界放射型電子線源より遥かに高くなる。
3)高量子効率物質が被覆される領域を自由な形にできるため、発生する電子ビームの断面を自由な形にできる。これは他の電子線源では不可能なことであり、思いがけない科学的進歩がもたらされる可能性がある。
4)高量子効率物質が被覆される範囲がレーザー光の輝度変化がその範囲内でなくなる程小さくすることにより、電子ビームの輝度をその断面内で一定とすることができる。これも他の電子線源では不可能である。
5)陰極先端部への高量子効率物質の被覆効率の向上を図ることができる。
6)TEMの分解能が原理的分解能まで飛躍的に向上することが期待されるのみならず、コヒーレント電子線回折、元素分析の位置制度の向上、磁束の観察精度の向上等をもたらす。
【0039】
したがって、この出願の発明にしたがって作製された陰極をフォトカソード型電子電源を組み込み、TEM等の電子顕微鏡、加速器、X線発生装置等用の電子線源として利用した場合、それらの性能を飛躍的に向上させることのできる電子線源が実現できる。そして、電子顕微鏡、電子線加速器、X線発生装置等の性能向上により、材料開発、物性研究、基礎物理等の研究が進展すれば、光学分野におけるレーザーの発明にも匹敵する経済的効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0041】
この出願の発明によるフォトカソード型電子線源の陰極先端部に高量子効率物質を被覆する局所被覆装置は、陰極先端部と、高量子効率物質被覆物の構成物質が放出される放出源との間に、陰極先端部への被覆領域を制限するための穴を有する絞りを配置したことを特徴とする。このような構成により、陰極先端部中央に高量子効率物質を局所被覆することができ、輝度と干渉性を同時に大幅に向上させたフォトカソード型電子線源が実現できる。
【0042】
図8は、この出願の発明によるフォトカソード型電子線源の陰極先端部に高量子効率物質を被覆する局所被覆装置の一実施形態を示す概念図である。この実施形態は、陰極は図7のものと同様な構造のものを用い、高量子効率物質としてCs3Sbを蒸着法により陰
極先端部に被覆する場合の例である。
【0043】
この出願の発明による被覆装置で用いる絞りは、固定式のものでも可動式のものでもよい。絞りは白金、タンタル、カーボン等の材料を用いて作製することができる。絞りの形状は、絞りが組み込まれるユニットやホルダーにより適宜の形状とすることができるが、通常、円板状のものが使用される。絞りに形成する穴の形状、寸法は電子線源の用途に応じて適宜設定することができるが、たとえばTEM等の電子顕微鏡の電子線源の陰極作製に使用する場合、通常、直径0.01〜100μm程度の円形穴とする。
【0044】
絞りに小さな穴を開ける方法としては、電解研磨、放電加工、集束イオンビーム穿孔等がある。このうちで、最も小さな穴を開けることができ、しかも穴の形状を制御できる方法は図9に示す集束イオンビーム穿孔である。現在の技術では集束イオンビームの直径は10nm(ナノメートル)(=100オングストローム)以下にまで集束できることから、最小10nm以下の穴までを穿孔することができる。また、イオンビーム走査用電極間に印加する電圧をコンピュータ制御することにより、自由な形状の穴を開けることが可能となる。例えば、図10に示すように、集束イオンビーム穿孔により、三角形の穴を開けた絞りAを作製して使用すれば、断面が三角形の電子ビームを得ることができる。蒸発物質は真空中を直線的に飛ぶため、陰極先端部には絞りに開けた穴の大きさに比例し、絞りの穴の形状と同じ形状の領域に局所的な被覆を形成することができる。また、同じく図10に示すように、近接した2個の微小丸穴(例えば、穴径が10nmで中心間距離が15nm)を開けた絞りBを作製して使用すれば、近接した2本の極細の電子ビーム(15nm離れた直径10nmのビーム)を得ることができる。これは他のタイプの電子線源では不可能なことである。後者の例の2本の電子ビームを用いれば、電子の干渉性に関する基礎物理の研究等にも応用できる。
【0045】
絞りは、ユニット化してあるいはホルダーに支持させて用いることができる。たとえば円板状の絞りを絞り保持板で挟持して絞り収納円筒内に収納し、押え部材で固定してユニット化することができる。
【0046】
絞りは、陰極先端部へ高量子効率物質を被覆する際に蒸着物による目詰まりを防ぐため加熱することが好ましい。その場合、タンタル等の抵抗線を用いた通電加熱や光ファイバーを用いたレーザー加熱を用いることができ、両者を併用すると加熱効果がすぐれたものとなる。加熱温度は蒸着物の溶融温度より高い温度に設定する。目詰まりを効果的に防止するため、絞りの温度を測定するための熱電対を絞りに取り付けて、加熱制御を行うようにしてもよい。
【0047】
この出願の発明の局所被覆装置で被覆する高量子効率物質としては、Cs3Sb、Na2KSb、Rb3Sb、CsI等、高量子効率を示す物質であれば適宜のものが使用可能で
あるが、特に好ましいものとしてはCs3Sbが挙げられる。
【0048】
この出願の発明の局所被覆装置において被覆対象となる陰極は、フォトカソード型電子線源に使用される陰極であれば適宜のものが使用可能であるが、特に好ましいものとしてはこの出願の発明の発明者が特許文献3において提案した冷却式のものが挙げられる。このタイプの陰極では、ペルチェ冷却効率の高い組合せの物質を利用しているが、熱伝導率および電気伝導率の高い物質からなる陰極先端部を介してペルチェ効果が働くため、陰極先端部の先鋭化が容易であり、強度も十分なものとなる。ペルチェ冷却効率の高い組合せの物質としては、一部のn型半導体とp型半導体の組合せ(ビスマス・テルル系、鉛・テルル系、シリコン・ゲルマニウム系等)に代表される熱電半導体の組合せを用いることができ、特にn−Bi2Te3とp−Bi2Te3の組合せを用いることが好ましい。また、熱伝導率および電気伝導率の高い物質としては、銅、銀または金を好適に用いることができる。銅または銀を用いる場合、表面に金メッキを施して表面酸化による熱接触や電気抵抗の発生をなくすことが好ましい。また、陰極は特許文献3に示すように陰極基盤、陰極端子、ウェネルトキャップ等を備えた陰極ユニットとして使用することが好ましい。
【0049】
この出願の発明の局所被覆装置における高量子効率物質の放出源としては、蒸着法を用いる場合、高量子効率物質を構成する元素を蒸着ボートに収容させたものとすることができる。たとえば高量子効率物質としてCs3Sbを用いる場合、Cs用蒸着ボートとSb
用蒸着ボートを蒸着ボート取付台上に載置する。両蒸着ボート間には放射熱を遮蔽する板を設けることが好ましい。また、蒸着ボート取付台は公知のアクチュエータで移動可能とし、ストッパーにより各蒸着ボートの位置を規制することが好ましい。各蒸着ボートが規制されたとき、中心合わせされた絞りの穴中心及び陰極先端部の中心とを結ぶ線が、蒸着する元素を収容した蒸着ボートの出口穴(蒸着ボートの上部中心にある蒸着物の出口の面積)に含まれるようにする。
【0050】
放出源の上には、被覆物構成物質が放出される開口を有し、放射熱を遮蔽するための絶縁性の板を設けることが好ましい。
【0051】
また、陰極先端部と放出源との間に、放出源から被覆物構成物質以外の不純物が到達することを防止するための移動可能なマスクを設けることも被覆物の高量子効率を維持するために好ましい。たとえば蒸着法を用いた場合、蒸着ボートの温度が低く、被覆物構成物質が蒸発しないときでも、蒸着ボートから不純物が蒸発して陰極先端部に付着することがあり、上記のようなマスクを設置するとでこのような不純物の付着が防止できる。
【0052】
この出願の発明の局所被覆装置では、陰極を組み込み、フォトカソード型電子線源に装着される陰極ユニットを取り付けるための絶縁性陰極ユニット搭載台を用いることができる。この絶縁性陰極ユニット搭載台は、陰極を組み込んだ陰極ユニットを、陰極先端部が放出源を向く方向に載置、収容するすり鉢状の空間を有し、その底部中央には窪み開口部が設けられ、そこに絞りを固定保持する絞りユニットを固定するように構成する。
【0053】
この場合、絞りユニットに固定された絞りの穴の位置が、絶縁性陰極ユニット搭載台の窪み開口部内で調整可能であり、実体顕微鏡による陰極先端部の中心と絞りの穴中心との軸合わせを行うことができるようにする。軸合わせを行うため窪み開口部は水平面方向に位置調整するための遊びを有する構造となっており、軸合わせが終わると絞りユニットを押えネジ等の固定手段によりその位置で固定できるようにする。
【0054】
この出願の発明の局所被覆装置では、たとえばCs3Sbのような高量子効率物質を被
覆する際に、化学反応を促進するため陰極先端部を加熱することが好ましく、また、被覆された高量子効率物質の量子効率をできるだけ高く維持するため被覆直後は陰極先端部を速やかに冷却することが好ましい。
【0055】
陰極先端部の加熱は、ペルチェ冷却効果の高い組合せの物質を接合した陰極の陰極先端部を被覆対象とした場合、タンタル線等の抵抗線を用いた通電加熱と、陰極に陰極先端部が加熱される方向に電流を流すことによる加熱との併用により行うことが好ましい。
【0056】
また、陰極先端部の冷却は、陰極先端部を冷却するための水冷金属板とペルチェ冷却サーモモジュールとの組合せによる冷却と、陰極に陰極先端部が冷却される方向に電流を流すことによる冷却との併用により行うことが好ましい。
【0057】
この出願の発明の局所被覆装置では、被覆終了後において陰極先端部の温度をできるだけ低くすることにより、陰極先端部に被覆した高量子効率物質の量子効率をできるだけ高く維持するため、絶縁性陰極ユニット搭載台等の周辺部品の温度が高くならないようにする必要がある。そのため、絶縁性陰極ユニット搭載台等を水冷銅製基盤に載せ、銅製基盤を不凍液で冷却することが好ましい。
【0058】
陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆にはいくつかの技術的困難が伴い、被覆膜の厚さ等への留意、最適な蒸着条件の模索等を行う必要がある。そのため、高量子効率物質を局所被覆した直後にその被覆状態を確認することが望ましい。そこで、この出願の発明の局所被覆装置では、局所被覆直後の被覆状態をその場確認するための被覆状態検査手段(光電子検出手段)を設けるようにしている。図11に、被覆状態検査手段の概念図を示す。
【0059】
この被覆状態検査手段は、ファラデーカップを利用したもので、その底部中央にはレーザー照射のための光ファイバーの先端部が挿入され、ファラデーカップは電流計に接続され、陰極先端部から放出される電子ビームによる電流を検出し、その結果に基づいて局所被覆の良否を検査することができる。ファラデーカップは、陰極先端部と放出源の制限された空間を移動可能に設置されるため、上記のような改造をしてある。陰極先端部から放出される電子ビームはそのまま直進すると光ファイバー(電気的絶縁物)に衝突するので、ファラデーカップの入口近傍には電子ビームの進行方向を偏向させる電極板や磁界発生コイル等の偏向手段を設ける。また、絞りの穴径が小さい場合等には、ファラデーカップに飛び込む電子の数が少ないため、その電子数を増大する目的で、陰極先端部に照射されるレーザー光を平行光とすることが好ましく、そのため光ファイバーの先端近傍にレーザー光集束用の凸レンズを設ける。
【0060】
この出願の発明の局所被覆装置による局所被覆は、特許文献1、2に示すようなグローブ付き不活性ガス中作業カバーを利用して行うことができ、このようにすると酸素に晒されることによる量子効率の低下を防止することができる。
【0061】
図12に、この出願の発明により陰極先端部に局所被覆された高量子効率物質(Cs3
Sb)にレーザー照射を行い、電子ビームが放出される概念図を示す。
【0062】
以下、この出願の発明の実施例を示すが、もちろん、この出願の発明は以下の例および上記実施形態に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能である。
【実施例】
【0063】
図13に、この出願の発明によるフォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置の一実施例を示す。
【0064】
図12において、(10)は陰極ユニット、(30)は絞りユニット、(40)は蒸着ユニット、(50)は絶縁性陰極ユニット搭載台、(80)は被覆状態検査ユニットである。
【0065】
この実施例で用いる陰極ユニット(10)は、図7に示したものと同様な冷却型陰極(11)を用いたものである。陰極(11)は、図14に拡大して示すように、ペルチェ冷却効率の高いn型Bi2Te3(12)およびp型Bi2Te3(13)が、それぞれ無酸素銅製で表面にNiメッキ後に金メッキした2つの陰極基盤(14)に融点が221℃と高い半田を用いて接合し、さらにn型Bi2Te3(12)およびp型Bi2Te3(13)のそれぞれに熱伝導率および電気伝導度の高い物質である銅からなる陰極先端部(15)を融点が221℃の半田を用いて接合されている。接合に融点が221℃と高い半田を使用するのは陰極先端部(15)に高量子効率物質(この例ではCs3Sb)を局所被覆する
際に陰極先端部(15)を130℃程度に加熱するので、半田が溶融しないようにするためである。陰極先端部(15)の先端面は図12に示すように僅かに凹面であり、高量子効率の局所被覆前に金メッキを施してある。陰極基盤(14)は絶縁陰極基盤(16)で支持された陰極端子(17)と接合されている。この陰極端子(17)には着脱可能な陰極端子用コンタクト(17’)が取り付けられている。また、陰極基盤(14)と陰極先端部(15)にはそれぞれの温度を測定するための二対の熱電対(18)、(19)の先端がそれぞれネジ止めされている。この二対の熱電対(18)、(19)にそれぞれ銀蝋で接合された熱電対端子(20)には熱電対端子用コンタクト(20’)が取り付けられている。また、陰極ユニット(10)には、ウェネルトキャップ(22)が取り付けられている。
【0066】
この実施例では、高量子効率物質を陰極先端部(15)に局所被覆することを可能にするため、絞りユニット(30)を使用し、予め陰極ユニット(10)を搭載した絶縁性陰極ユニット搭載台(50)内に装着する。絞りユニット(30)は、図15に示すように、白金からなり10μm径の微細な穴(32)を開けた直径が2mmで厚さが0.2mmの円板状の絞り(31)を一対の銅製絞り保持板(33a)で保持してステンレス鋼製絞り収納円筒(34)内に収容して絞り固定用ネジ(35)で固定する。絞り(31)の微細な穴(32)は、図9に示す集束イオンビーム穿孔により形成した。なお、図15において、(33b)と(33d)はスペーサー(1)とスペーサー(2)、(33c)と(33e)は空間である。
【0067】
この実施例では、絞り(31)を絞りユニット(30)の絞り収納用円筒(34)内に収納した例を述べているが、この出願の発明によれば、これ以外に、絞り収容用円筒を用いずに、絞り保持板やスペーサーを微小ネジで一体化させたものも利用することができる。これは、なるべく絞り(31)の周辺のみを200℃以上(Cs3Sbを被覆した場合
)の高温にして絶縁性陰極ユニット(50)の昇温を抑えるものである。この場合、絞り保持板と絶縁性陰極ユニット(50)の間に熱伝導の小さな絶縁性のスペーサーを設け、加熱のためのタンタル巻線(61)と熱電対(65)を直接絞り保持板に接するようにする。このようにすると、蒸着中の絶縁性陰極ユニット(50)の温度が低くなるために、蒸着後の陰極ユニット(10)が高温にならず、蒸着後すばやく陰極ユニット(10)が
取出せる利点がある。
【0068】
蒸着ユニット(40)は、図13に示すように、Sb用蒸着ボート(41)とCs用蒸着ボート(42)を備え、これらの蒸着ボート(41)、(42)は蒸着ボート取付台(43)上に載置固定される。Sb用蒸着ボート(41)にはSb粉末が収容され、Cs用蒸着ボート(42)にはCs2CrO4とAl(還元剤)及びW(蒸発スピード調節剤)の各粉末が収容される。蒸着ボート取付台(43)は図示しないアクチュエータにより図13において矢印で示すように往復動作可能となっている。また、その往復動作はストッパー(44)、(45)で規制され、蒸着ボート取付台(43)がストッパー(44)と接したときには、Cs用蒸着ボート(42)の放出口(42a)の中に、絞り(31)の穴(32)の中心軸と陰極先端部(15)の中心軸(両者はほぼ一致)が入るようになっている。また、蒸着ボート取付台(43)がストッパー(45)と接したときには、Sb用蒸着ボート(41)の放出口(41a)の中心軸と絞り(31)の穴(32)の中心軸と陰極先端部(15)の中心軸が一致するようになっている。ストッパー(44)、(45)は円板状のストッパー取り付け板(46)に取付固定されている。また、蒸着ボート取付台(43)上にはSb蒸着用ボート(41)とCs用蒸着ボート(42)の間に互いの蒸着ボート(41)、(42)からの放射熱を遮断するための蒸着ボート間放熱防止用衝立(47)が設けてある。さらに、蒸着ボート(41)、(42)の上部にも、これらからの放射熱を遮断するための円板状の放熱遮断板(48)が設けられ、蒸着状態にある蒸着ボート(41)あるいは(42)の放出口(41a)あるいは(42b)の上には蒸着ビームが通過する蒸着物放出用穴(49)が形成されている。
【0069】
絶縁性陰極ユニット搭載台(50)は、たとえば機械加工が容易なマッコールを用いて作製され、陰極ユニット(10)を搭載するための搭載スペースを備え、その底部(51)はすり鉢状となっており、すり鉢状底部(51)の中央には窪み開口部(52)が形成されている。この窪み開口部(52)内に絞りユニット(30)が装着され、絞りユニット押えネジ(53)により押さえつけ固定されるようになっている。
【0070】
ここで、絶縁性陰極ユニット搭載台(50)の窪み開口部(52)へ絞りユニット(30)を位置調整(絞り(31)の穴(32)の中心軸と陰極先端部(15)の中心軸を一致させる)して固定するための位置調整機構を図16に示す。位置調整機構(55)には実体顕微鏡(56)を用いる。実体顕微鏡(56)の検鏡台には図13とは上下を反対にした状態で、陰極ユニット(10)を搭載した絶縁性陰極ユニット搭載台(50)が載置できるようになっている。実体顕微鏡(56)はCCDカメラ(58)に接続されており、観察対象がCCDカメラ(58)は図示しないCRTモニターの画面に映し出されるようになっている。なお、(59)は中間鏡筒である。
【0071】
この実施例では、高量子効率物質(Cs3Sb)を陰極先端部(15)に局所被覆する
際、絞り(31)の穴(32)が、放出された高量子効率物質の構成物質の付着により目詰まりするのを防止するため、絞り(31)を200℃程度に加熱する。この加熱は、絞り加熱用タンタル巻線(63)による通電加熱と、絞り加熱用レーザー導入用光ファイバー(64)を介してレーザー光を照射するレーザー加熱とを併用して行う。このため、絶縁性陰極ユニット搭載台(50)内には、絞り加熱用タンタル巻線(63)を通す巻線用通路と、絞り加熱用レーザー導入用光ファイバー(64)を通す光ファイバー用通路が形成されている。また、絞り(31)の温度を測定して加熱制御を行うために、絞り温度測定用熱電対(65)が取り付けられる。このため、絶縁性陰極ユニット搭載台(50)内には絞り温度測定用熱電対(65)を通すための熱電対用通路が形成されている。また、窪み開口部(52)には絞り加熱用タンタル線(61)と絞り温度測定用熱電対(65)を取り付けるための円板状の取り付け用銅板(67)が絞りユニット(30)と接触して設けられている。絞り加熱用タンタル線(63)と絞り温度測定用熱電対(65)の取り
付け用銅板(67)への取付は絶縁性陰極ユニット搭載台(50)に開けられたネジ穴へのネジ止めにより行われる。
【0072】
絶縁性陰極ユニット搭載台(50)は、陰極先端部(15)に局部被覆後の高量子効率物質の量子効率をできるだけ高く維持する必要から、絶縁性陰極ユニット搭載台(50)の周辺部品の温度が高くならないように、水冷銅製基盤(68)に載せ、不凍液で冷却するようにしてある。
【0073】
また、この実施例では、化学反応を促進させてより量子効率の高いCs3Sbの局所被
覆を得るため、蒸着の際には、陰極先端部(15)を130℃に加熱する。そのため電源(PW)に陰極先端部加熱用タンタル巻線(69)をスイッチ(SW2)を介して接続する。また、陰極(11)のペルチェ冷却効果の高い組合せの物質を接合を利用して、接合面において発熱が起こる方向(p−Bi2Te3→n−Bi2Te3)に電流が流れるようにする。
【0074】
また、この実施例では、陰極先端部(15)に局所被覆したCs3Sbの量子効率をよ
り高く維持するため、蒸着直後に陰極先端部(15)を速やかに冷却させる。そのため市販ペルチェ冷却サーモモジュール(70)を用いる。このペルチェ冷却サーモモジュール(70)はタンタル線急冷用銅板(71)と陰極先端等急冷用銅板(72)とに接する側が冷却面となり、水冷アルミニウム板(73)に接する側が発熱面となるように配される構成となっている。また、n型Bi2Te3からp型Bi2Te3の向きに電流が流れるように、陰極用コンタクト冷却用銅線(74)に電流を流して、陰極先端部(15)の局所冷却を行うようにする。なお、タンタル線急冷用銅板(71)には銅線取り付け用ネジ(75a)、(75b)が設けられ、陰極先端等急冷用銅板(72)には銅線取り付け用ネジ(76a)、(76b)が設けられている。
【0075】
また、この実施例では、陰極先端部(15)と蒸着ユニット(40)との間に、蒸着ユニット(40)から被覆物構成物質以外の不純物が到達することを防止するマスク(77)が移動可能に設けれている。
【0076】
さらに、この実施例では、局所被覆が成功したことを確認してから陰極ユニットをTEM等の電子線発生装置に移す作業に入れるようにするための蒸着直後その場確認のためと局所被覆の条件捜しのために、被覆状態検査ユニット(80)を設ける。被覆状態検査ユニット(80)は、金属製円筒からなるファラデーカップ(81)を利用して構成される。通常のファラデーカップの構造を図17に示す。電子やイオンの入口をある程度狭くすれば、2次電子の逃げを防止できるため、ビーム電流を正確に測定できる。
【0077】
この実施例のファラデーカップ(81)は、陰極先端部(15)と蒸着ユニット(40)の間の制限された空間内に移動可能に配置しなければならないため、図18、図19に示すように改造を行っている。すなわち、ファラデーカップ(81)の底部から光ファイバー(83)の先端が突出するように挿入され、レーザー光(84)の照射を行うようになっている。ファラデーカップ(81)は電流計(85)に接続され、レーザー照射により陰極先端部(15)から放出される電子ビーム(86)による電流を検出できるようになっている。ファラデーカップ(81)は絶縁用ファラデーカップ台座(87)に取り付けられる。
【0078】
陰極先端部(15)からの電子ビーム(86)はそのまま直進すると光ファイバー(電気的絶縁物)に衝突してチャージアップするので、ファラデーカップ(81)の入口近傍には絶縁板(88)を介して電極板(89)を設ける。この電極板(89)により電子ビーム(86)の進行方向は図示のように僅かに曲げられる。なお、図中(90)は電流計
(85)に接続される導線、(91)は光ファイバー(83)の芯である。
【0079】
絞り(31)の穴(32)がある程度大きい場合には、電流計(85)として高感度の電流計を用いることにより、陰極先端部(15)からの電子ビーム(86)が検出できる。
【0080】
また、絞り(31)の穴(32)をより小さくする場合には、陰極先端部(15)に照射されるレーザー光(84)の強度は小さくなるため、ファラデーカップ(81)に飛び込む電子の個数(電流)が少なくなり、電流計(85)でその電流を検出できなくなる。さらに、レーザー光(84)が放出される光ファイバー(83)の芯(91)の内側のコアーの直径が小さいと、コアー部が絞り(31)の穴(32)の中心軸と陰極先端部(15)の中心軸を包含するようにして、レーザー光(84)が陰極先端部(15)に照射されるようにするためには、極めて高精度でファラデーカップ(81)の位置調整を行う必要がある。したがって、その場合、図20に示すように、レンズ取り付け用円筒(92)を設けてその中を光ファイバー(83)の先端を挿入するとともに、光ファイバー(83)の先端近傍に凸レンズ(93)を設けて、レーザー光(84)を平行に近いビームにする。
【0081】
また、電子ビーム(86)の加速電圧(運動エネルギー)が大きい場合には、同じく図20に示すように電極板(89)の代わりに磁界発生用コイル(94)を設けて、磁場によって電子ビーム(86)を曲げるようにする。
【0082】
蒸着した高量子効率物質が本来の量子効率を有しているか否かは、放出される電子ビームの電流値から判断できる。この手法は、将来フォトカソード型電子線源が実用化された場合、陰極ユニットを販売する企業等における検査手段をも提供する。
【0083】
次に、上記構成の実施例の局所被覆装置による被覆操作について説明する。
【0084】
先ず、図13、図14に示す構造の陰極ユニット(10)を用意する。陰極先端部(15)の径は200μmである。また、図15に示すように白金からなり10μm径の微細な穴(32)を集束イオンビーム穿孔により直径が2mmで厚さが0.2mmの円板状の絞り(31)を作製する。この絞り(31)を一対の銅製絞り保持板(33)で保持してステンレス鋼製絞り収納用円筒(34)内に収容して絞り固定用ネジ(35)で固定して絞りユニット(30)とする。
【0085】
次に、図16に示すように、陰極ユニット(10)をマッコール製の絶縁性陰極ユニット搭載台(50)に搭載し、窪み開口部(52)を上にした状態で絶縁性陰極ユニット搭載台(50)を実体顕微鏡(55)の検鏡台上に載せて、陰極先端部(15)にピントを合わせる。CCDカメラ(58)で撮影された陰極先端部(15)のCRTモニター画面を観ながら、陰極先端部(15)の中心がCRTモニター画面の中心に位置するように、絶縁性陰極ユニット搭載台(50)を微動させる。次に、絞りユニット(30)をピンセットでつかみ、絶縁性陰極ユニット搭載台(50)の窪み開口部(52)の中に入れてから、絞り(31)にピントが合うようにする。絞り(31)の穴(32)の中心がCRTモニター画面の中心に一致するように絞りユニット(30)を水平面内で微動させ、その後、絞りユニット押えネジ(53)を用いて絞りユニット(30)を固定する。
【0086】
次に、図13に示すように、陰極ユニット(10)を搭載し、絞りユニット(30)を固定した絶縁性陰極ユニット搭載台(50)を装置本体の水冷銅製基盤(68)に載せ、各種配線の接続、各種部材の駆動準備を行う。また、蒸着装置内を真空度が1×10-4Paよりも高い高真空にする。
【0087】
次に、スイッチ(SW2)をオンにして、加熱用タンタル巻線(61)による通電加熱と、絞り過熱用レーザー導入用光ファイバー(62)を介するレーザー加熱の併用により、絞り(31)を200℃に加熱する。一方、Sb用蒸着ボート(42)を500℃まで加熱して陰極先端部(15)にSbを所要量蒸着する。この蒸着の際、絞りユニット(30)の絞り(31)により陰極先端部(15)にSbが局所被覆される。その後、陰極先端部加熱用タンタル巻線(69)による通電加熱と、陰極(11)のペルチェ冷却効果の高い組合せの物質を接合を利用した加熱(n−Bi2Te3(12)→p−Bi2Te3(13)の電流方向)の併用により、陰極先端部(15)を約130℃に加熱してから、Cs用蒸着ボート(41)を700℃まで加熱してCsの蒸着を行う(なお、膜を厚くする場合には、Sbの蒸着とCsの蒸着を繰り返す)。陰極先端部(15)には、絞り(31)により、Sbと同形状の膜が同じ位置に同じ大きさで蒸着され、陰極先端部(15)が加熱されていることから、SbとCsが反応し、高量子効率Cs3Sbの局所被覆が形成さ
れる。局所被覆の径は10μmであった。
【0088】
蒸着が終了すると、スイッチSW2をオフとし、通電加熱を停止してから、図13の水冷アルミニウム板(73)の中に予め冷却してあった不凍液を流して水冷アルミニウム板(73)を急冷するとともに、市販のペルチェ冷却サーモモジュール(70)にタンタル線急冷用銅板(71)と陰極先端等冷却用銅板(72)の接合面が吸熱側になるように電流を流してタンタル線急冷用銅板(71)と陰極先端等冷却用銅板(72)を急冷し、熱伝導によって陰極先端部加熱用タンタル巻線(69)、陰極端子用コンタクト(17’)および陰極端子(17)を急冷して陰極先端部(15)を急冷する。同時にスイッチ(SW1)をオンにして、陰極(11)のペルチェ冷却効果の高い組合せの物質を接合を利用した冷却(p−Bi2Te3(13)→n−Bi2Te3(12)の電流方向)を併用する。これにより、局所被覆したCs3Sbの量子効率ができるだけ高い状態で維持される。
【0089】
なお、マスク(77)の移動は必要に応じて行う。
【0090】
局所被覆の形成後、被覆状態検査ユニット(80)により、局所被覆したCs3Sbの
蒸着状態を検査する。図18、図19あるいは図20の装置により、光ファイバー(83)からレーザー光(84)を陰極先端部(15)に照射し、放出される電子ビーム(86)をファラデーカップ(81)で受け、その電流を電流計(85)で検出し、蒸着の良否を確認する。良好な蒸着であれば、特許文献2に示されるグローブ付きの不活性ガス中作業用カバーを用いて陰極ユニット(10)を蒸着装置から取り出して電子線源を有する装置(TEM等)に装填できるようにする。その作業の様子は図4〜図6に示すような手順である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】(a)、(b)、(c)は、それぞれ熱電子放出型電子線源、電界放出型電子線源およびフォトカソード型電子線源からの電子ビームの輝度比較のために電子ビームの集束の様子を示す図である。
【図2】(a)、(b)は、それぞれ熱電子放出型電子線源および電界放出型電子線源における電子線の集束用電極の概要を模式的に示す図である。
【図3】(a)は特許文献1で提案したフォトカソード型電子線源の陰極ユニットの全体図、(b)は陰極ユニットの陰極および陰極の要部拡大図、(c)は陰極先端部の拡大図である。
【図4】この出願の出願人が特許文献1および特許文献2において提案した、不活性ガス中作業用カバーのグローブが利用できる蒸着装置および電子線発生装置における陰極ユニットの陰極先端部への蒸着、陰極陰極ユニットの蒸着装置からの取出し、蒸着済み陰極ユニットの電子線発生装置への取付け、電子線発生装置の作動の一連の作業の流れをわかりやすく説明する図である。
【図5】図4の不活性ガス中作業用カバーを拡大して示す図である。
【図6】陰極ユニット全体を密閉性容器に閉じ込める様子を示す図である。
【図7】(a)は特許文献3で提案したフォトカソード型電子線源に用いる陰極ユニットの全体図であり、(b)、(c)は陰極ユニットの陰極および陰極基盤の要部拡大図、(d)は陰極先端部の拡大図である。
【図8】この出願の発明によるフォトカソード型電子線源の陰極先端部に高量子効率物質を被覆する局所被覆装置の一実施形態を示す概念図である。
【図9】集束イオンビーム穿孔の説明図である。
【図10】集束イオンビーム穿孔による絞りの形成の説明図である。
【図11】被覆状態検査ユニットの概念図である。
【図12】この出願の発明により陰極先端部に局所被覆された高量子効率物質(Cs3Sb)にレーザー照射を行い、電子ビームが放出される概念図である。を示す。
【図13】この出願の発明によるフォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置の一実施例を示す図である。
【図14】図13の陰極ユニットの拡大図である。
【図15】図13の絞りユニットの説明図である。
【図16】絞りユニットの位置調整機構の説明図である。
【図17】通常のファラデーカップの構造を示す図である。
【図18】被覆状態検査ユニットの説明図である。
【図19】改造されたファラデーカップの説明図である。
【図20】改造された別のファラデーカップの説明図である。
【符号の説明】
【0092】
10 陰極ユニット
11 陰極
12 n型Bi2Te3
13 p型Bi2Te3
14 陰極基盤
15 陰極先端部
16 絶縁陰極基盤
17 陰極端子
17’ 陰極端子用コンタクト
18、19、65 熱電対
20 熱電対端子(4個のうちのふたつ)
20’ 熱電対端子用コンタクト(4個のうちのふたつ)
22 陰極ウェネルト
30 絞りユニット
31 絞り
32 微細な穴
33 絞り保持板
33a 銅製絞り保持板
33b スペーサー(1)
33c 空間
33d スペーサー(2)
33e 空間
34 絞り収容円筒
35 絞り固定用ネジ
40 蒸着ユニット
41 Sb用蒸着ボート
42 Cs用蒸着ボート
43 蒸着ボート取り付け台
44、45 ストッパー
46 ストッパー取り付け板
47 蒸着ボート間放熱防止用衝立
48 放熱遮蔽版
49 蒸着物放出用穴
50 絶縁性陰極ユニット搭載台
51 すり鉢状底部
52 窪み開口部
53 絞りユニット押えネジ
55 位置調整機構
56 実体顕微鏡
58 CCDカメラ
59 中間鏡筒
63 絞り加熱用タンタル巻線
64 絞り加熱用光ファイバー
65 絞りの温度測定用熱電対線
67 絞り加熱用タンタル線と熱電対の取り付け用銅板
68 水冷銅製基盤
69 陰極先端部加熱用タンタル巻線
70 ペルチェ冷却サーモモジュール
71 タンタル線急冷用銅板
72 陰極先端等急冷用銅板
73 水冷アルミニウム板
74 陰極用コンタクト冷却用銅線
75a 銅線取り付け用ネジ(8個のうちのひとつ)
75b 銅線取り付け用ネジ
76a 銅線取り付け用ネジ
76b 銅線取り付け用ネジ
77 マスク
80 被覆状態検査ユニット
81 ファラデーカップ
83 光ファイバー
84 レーザー光
85 電流計
86 電子ビーム
87 絶縁用ファラデーカップ台座
88 絶縁板
89 電極板
90 導線
91 光ファイバーの芯(内側にコアー、外側にクラッド)
92 レンズ取り付け用円筒
93 凸レンズ
94 磁界発生コイル
100 陰極ユニット
101 n型Bi2Te3
102 p型Bi2Te3
103 陰極
104 陰極基盤
105 陰極端子
106 陰極先端部
107 補強用絶縁物
108 高量子効率物質(Cs3Sb)
110 陰極ユニット
111 陰極
112 陰極基盤
113 n型Bi2Te3
114 p型Bi2Te3
115 陰極先端部
116 高量子効率物質(Cs3Sb)
151 不活性ガス中作業用カバー
152 バルブ
153 バルブ
154 フランジ巻上げ下ろしハンドル
155 陰極ユニット密閉容器出入口
156 蓋
157 グローブ
158 内側ポケット
159 真空フランジ
160 Oリング
161 ボルト
162 ナット
163 Oリング
164 Oリング締めつけリング
165 カバーシート
201 不活性ガス中作業用カバー
202 バルブ
203 バルブ
204 フランジ巻上げ下ろしハンドル
205 陰極ユニット密閉容器出入口
206 蓋
207 グローブ
208 内側ポケット
209 真空フランジ
300 陰極ユニット
301 密閉容器
302 Oリング
303 蝶ネジ
304 超高純度不活性ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトカソード型電子線源の陰極先端部に高量子効率物質を被覆する装置において、陰極先端部と、高量子効率物質被覆物の構成物質が放出される放出源との間に、陰極先端部への被覆領域を制限するための穴を有する絞りを配置したことを特徴とするフォトカソード型電子線源の陰極先端部への高量子効率物質の局所被覆装置。
【請求項2】
被覆装置が真空蒸着方式の装置であることを特徴とする請求項1記載の局所被覆装置。
【請求項3】
絞りを加熱する絞り加熱手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の局所被覆装置。
【請求項4】
絞り加熱手段が、通電加熱手段と光ファイバーを介したレーザー加熱手段を併用したものであることを特徴とする請求項3記載の局所被覆装置。
【請求項5】
複数の放出源を有し、これらの放出源が搭載用部材上に搭載され、陰極先端部の中心と絞りの穴中心とを結ぶ軸が、放出源から被覆物構成物質が放出される幾何学的範囲に収まるように搭載用部材が移動可能となっていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の局所被覆装置。
【請求項6】
搭載用部材上の複数の放出源の間に、放射熱を遮蔽する板を設けたことを特徴とする請求項5記載の局所被覆装置。
【請求項7】
放出源の上に、被覆物構成物質が放出される開口を有し、放射熱を遮蔽するための絶縁性の板を設けたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の局所被覆装置。
【請求項8】
陰極を組み込みフォトカソード型電子線源に装着される陰極ユニットを取り付けるための絶縁性陰極ユニット搭載台を有するとともに、絞りを固定保持する絞りユニットが、絶縁性陰極ユニット搭載台の窪み開口部に固定されるようになっていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の局所被覆装置。
【請求項9】
絞りユニットに固定された絞りの穴の位置が、絶縁性陰極ユニット搭載台の窪み開口部内で調整可能であり、実体顕微鏡による陰極先端部と絞りの穴中心との軸合わせを行うことができるようになっていることを特徴とする請求項8記載の局所被覆装置。
【請求項10】
絞りが、十分な機械的強度を有し、かつ、微細な穴を集束イオンビーム、電界研磨あるいは放電加工を用いて1個ないしは2個以上開けたものであることを特徴とする請求項1から9のいずれかの局所被覆装置。
【請求項11】
絞りが、絞りの中央部に所要の大きさの窪みを形成したものに、集束イオンビームを走査用電極板のコンピュータ制御により任意の形状の1個ないしは2個以上の微細な穴を開けたものであることを特徴とする請求項1から9のいずれかの局所被覆装置。
【請求項12】
ペルチェ冷却効果の高い組合せの物質を接合した陰極の陰極先端部を被覆対象とし、この陰極に電流を流す電源を備え、電流を流す向きの選択により陰極先端部に対する加熱と冷却の選択が行えることを特徴とする請求項1から11のいずれかの局所被覆装置。
【請求項13】
陰極先端部を加熱する通電加熱手段を有し、この通電加熱手段による加熱と、陰極に陰極先端部が加熱される方向に電流を流すことによる加熱との併用により、陰極先端部が加熱されるようになっていることを特徴とする請求項12記載の局所被覆装置。
【請求項14】
陰極先端部を冷却するための水冷金属板とペルチェ冷却サーモモジュールとの組合せを有し、この組合せによる冷却と、陰極に陰極先端部が冷却される方向に電流を流すことによる冷却との併用により、陰極先端部が冷却されるようになっていることを特徴とする請求項12記載の局所被覆装置。
【請求項15】
陰極先端部と放出源との間に、放出源から被覆物構成物質以外の不純物が到達することを防止するための移動可能なマスクを有することを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の局所被覆装置。
【請求項16】
陰極先端部にアースに対して負の電圧を印加でき、かつ、ファラデーカップと、ファラデーカップの底部中央から、高量子効率物質が被覆された陰極先端部にレーザー光を照射するための光ファイバーとからなり、陰極先端部への被覆の終了後にレーザー光を陰極先端部に照射し、陰極先端部から放出される電子ビームより電流測定を行い、その結果に基づいて被覆状態を調べるための移動可能な被覆状態検査手段を有することを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の局所被覆装置。
【請求項17】
ファラデーカップの入口近くに陰極先端部から放出される電子ビームの進行方向を偏向させる偏向手段を設けたことを特徴とする請求項16記載の局所被覆装置。
【請求項18】
光ファイバー先端近傍にレーザー光集束用レンズを設けたことを特徴とする請求項16または17に記載の局所被覆装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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