説明

フォトクロミックレンズおよびその製造方法

【課題】厚膜であるにもかかわらず、液溜まりの影響が低減されたフォトクロミック層を有するフォトクロミックレンズを簡便に製造するための手段を提供すること。
【解決手段】レンズ基材上に、フォトクロミック色素を含むフォトクロミック層を有するフォトクロミックレンズの製造方法。レンズ基材の表面上にフォトクロミック色素と硬化性成分とを含むフォトクロミック液をスピンコートにより塗布して塗布膜を形成し、次いで該塗布膜に硬化処理を施すことにより硬化膜を形成する成膜工程を複数回行うことにより、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミックレンズおよびその製造方法に関するものであり、詳しくは、フォトクロミック層表面周縁部において、フォトクロミック液の液溜まりによる影響が低減されたフォトクロミックレンズおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フォトクロミック染料を応用したフォトクロミックレンズが眼鏡用として市販されている(例えば特許文献1参照)。これらは明るい屋外で発色して高濃度のカラーレンズと同様な防眩効果を有し、室内に移ると高い透過率を回復するものである。
【0003】
フォトクロミックレンズの製造方法としては、レンズ基材上にフォトクロミック色素を含む硬化性組成物(フォトクロミック液)をスピンコートにより塗布して形成した塗布膜に硬化処理を施しフォトクロミック層を形成する方法が広く用いられている(例えば特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/001578A1
【特許文献2】特開2009−285978号公報
【特許文献3】特開2005−246265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2および3に記載されているように、スピンコートにより塗布膜を形成する工程を経てフォトクロミック層を作製する方法では、塗布膜表面上で遠心力により中心部から周縁部に向かう力が加わるため、周縁部にフォトクロミック液の液溜まりが生じやすい。この状態の塗布膜に硬化処理を施すと、周縁部全周にわたり盛り上がった帯状(土手状)部分を有するフォトクロミック層が作製されてしまい、得られるフォトクロミック層は膜厚の均一性に劣るものとなる。製品レンズは、フォトクロック層の膜厚を均一にするために上記帯状部分を除去して出荷せざるを得ない。例えば直径70mmのレンズ基材上で幅5mmもの液溜まりが発生してしまうと、両端でそれぞれ幅5mm、したがって合計幅10mmの周縁部を除去することとなるため、レンズ有効径は15%近く減少してしまう。これはコスト増につながるうえに、廃棄量が増えるため環境負荷も高めることとなる。本発明者らの検討によれば、液溜まりの幅はフォトクロミック層が厚くなるほど広がる傾向があり、フォトクロミック層の厚さが30μm以上になると、液溜まりの影響により除去せざるを得ない周縁部の幅(以下、「液溜まり幅」ともいう)は、製造コストや環境負荷の観点から、許容できないほど大きなものとなる。
【0006】
上記液溜まりへの対策として、特許文献2にはスピンコート中に紫外線照射による硬化処理を行うこと、特許文献3には塗布装置に設けたへら機構により液溜まりを削ぎ落とすこと、が提案されている。いずれの方法も、液溜まりを低減する方法として有効なものであるが、既存の塗布装置の構成を変更する必要が生じるため簡便性の点からは更なる改善が求められる。
【0007】
そこで本発明の目的は、厚さ30μm以上と厚膜であるにもかかわらず、液溜まりの影響が低減されたフォトクロミック層を有するフォトクロミックレンズを簡便に製造するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、フォトクロミック液のスピンコートと硬化を繰り返し複数の硬化膜を累積成膜すると、1回の成膜工程で形成されたフォトクロミック層と比べて、周縁部の帯状部分の幅(液溜まり幅)が減少することを新たに見出した。これは、成膜工程を複数に分けることで、先に形成された硬化膜表面周縁部の帯状部分が障壁の役割を果たし2回目以降の成膜工程で塗布されるフォトクロミック液が遠心力により周縁部に広がることが抑制されることや、先に形成されていた硬化膜とその上に塗布されたフォトクロミック液の馴染みがよいため、硬化膜上に塗布されたフォトクロミック液が仮に遠心力により周縁部に広がったとしても、中心に向かって戻る力が働くこと、等が理由ではないかと本発明者らは推察している。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]レンズ基材上に、フォトクロミック色素を含むフォトクロミック層を有するフォトクロミックレンズの製造方法であって、
レンズ基材の表面上にフォトクロミック色素と硬化性成分とを含むフォトクロミック液をスピンコートにより塗布して塗布膜を形成し、次いで該塗布膜に硬化処理を施すことにより硬化膜を形成する成膜工程を複数回行うことにより、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成することを特徴とする、前記製造方法。
[2]各成膜工程を、形成される硬化膜の中心膜厚が30μm未満となる成膜条件で行う[1]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[3]前記複数回の成膜工程を、隣接形成される二層の硬化膜の中心膜厚の差が5μm以下となる成膜条件で行う[1]または[2]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[4]フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚100μm以下で累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成する[1]〜[3]のいずれかに記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[5]レンズ基材上に、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を有することを特徴とするフォトクロミックレンズ。
[6]前記総厚は100μm以下である[5]に記載のフォトクロミックレンズ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液溜まりの影響が低減されたフォトクロミックレンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、レンズ基材上に、フォトクロミック色素を含むフォトクロミック層を有するフォトクロミックレンズの製造方法に関するものであり、レンズ基材の表面上にフォトクロミック色素と硬化性成分とを含むフォトクロミック液をスピンコートにより塗布して塗布膜を形成し、次いで該塗布膜に硬化処理を施すことにより硬化膜を形成する成膜工程を複数回行うことにより、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成することを特徴とするものである。先に説明したように、フォトクロミック液のスピンコートと硬化を繰り返し複数の硬化膜を累積成膜することにより液溜まりの影響で形成される周縁部の帯状部分の幅を小さくすることができるため、通常のスピンコートでは液溜まりの影響が顕著に発生する厚さ30μm以上のフォトクロミック層において、液溜まりの影響を低減することができる。
したがって本発明によれば、レンズ基材上に、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を有することを特徴とするフォトクロミックレンズ、
も提供することができる。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0012】
レンズ基材
本発明におけるレンズ基材は特に限定されるものではなく、プラスチック、無機ガラス等の通常のレンズ基材を用いることができる。プラスチックとしては、例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エピチオ基を有する化合物を材料とする重合体、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、スルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリスルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体等などが挙げられる。レンズ基材の厚さは、特に限定されるものではないが、通常1〜30mm程度である。レンズ基材の直径は、例えば50mm〜100mm程度、通常の眼鏡レンズでは70〜80mm程度である。また、その上にフォトクロミック層が形成される基材の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等の任意の形状であることができる。凸面上に塗布されたフォトクロミック液は、平面上や凹面上と比べて周縁部に向かって広がりやすく液溜まりが特に発生しやすい傾向があるため、液溜まりを低減可能な本発明は、レンズ基材凸面上にフォトクロミック層を有する態様への適用に特に適する。
【0013】
フォトクロミック層は通常、レンズ基材上に直接または他の層を介して間接的に設けられる。フォトクロミック層と基材との間に形成され得る層の一例としては、公知のハードコート層や密着性向上のためのプライマー層を挙げることができる。その厚さは、例えば0.5〜10μm程度であるが特に限定されるものではない。
【0014】
フォトクロミック層
前記レンズ基材の表面に直接または他の層を介して間接的に塗布されるフォトクロミック液は、フォトクロミック色素と硬化性成分とを含むものであり、塗布後に硬化処理を施すことによって、硬化体(樹脂成分)中にフォトクロミック色素を含む硬化膜を形成することができる。より詳しくは、上記フォトクロミック液は、硬化性成分、フォトクロミック色素、重合開始剤、および任意に添加される添加剤から形成することができる。以下に、各成分について説明する。
【0015】
(i)硬化性成分
フォトクロミック層形成のために使用可能な硬化性成分は、特に限定されず、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有する公知の光重合性モノマーやオリゴマー、それらのプレポリマーを用いることができる。これらのなかでも、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基をラジカル重合性基として有する化合物が好ましい。即ち、フォトクロミック層に含まれる樹脂成分は、アクリル系モノマーの重合反応により形成される樹脂(アクリル系樹脂)であることが好ましい。なお、前記(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示し、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシとメタクリロイルオキシの両方を示す。本発明において使用可能な硬化性成分の詳細については、例えばWO2008/001578A1段落[0050]〜[0075]を参照できる。
【0016】
(ii)フォトクロミック色素
フォトクロミック液に添加されるフォトクロミック色素としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物が挙げられ、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を特に制限なく使用することができる。その詳細については、例えばWO2008/001578A1段落[0076]〜[0088]を参照できる。フォトクロミック液中のフォトクロミック色素の濃度は、前記硬化性成分100質量部に対して、0.01〜20質量部とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることが更に好ましい。
【0017】
(iii)重合開始剤
フォトクロミック液に添加する重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の熱重合開始剤および光重合開始剤から適宜選択することができる。それらの詳細については、WO2008/001578A1段落[0089]〜[0090]を参照できる。
【0018】
(iv)添加剤
フォトクロミック液には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。その詳細については、WO2008/001578A1段落[0092]〜[0097]を参照できる。
【0019】
本発明では、以上説明した成分を含むフォトクロミック液を塗布および硬化する成膜工程を複数回行うことにより、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成する。フォトクロミック液の調製方法は特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合することにより行うことができる。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよいし、モノマー成分のみを予め混合し、重合させる直前にフォトクロミック色素や他の添加剤を添加・混合してもよい。前記フォトクロミック液は、25℃での粘度が20〜500mPa・sであることが好ましく、50〜300mPa・sであることがより好ましく、60〜200mPa・sであることが特に好ましい。この粘度範囲とすることにより所望の厚さのフォトクロミック層を容易に得ることができる反面、この粘度のフォトクロミック液を用いて1回の成膜工程により厚さ30μm以上の厚膜のフォトクロミック層を形成しようとすると、前述の通り液溜まりの影響により製品レンズを作製する際に除去せざるを得ない周縁部の幅が大きくなり、レンズ有効径の大幅な減少の原因となる。これに対し本発明によれば、液溜まりの影響を低減することができるため、上記粘度のフォトクロミック液を用いて、液溜まりによる影響が低減された、厚さ30μm以上の厚膜のフォトクロミック層を得ることが可能となる。
【0020】
フォトクロミック液の塗布は、通常のスピンコートにより行うことができる。その詳細については、例えば特開2009−2875978号公報および特開2005−246265号公報を参照することができる。スピンコートは、被塗布面の中心部から外縁部に向かって塗布を行う方式と、その逆に外縁部から中心部に向かって塗布を行う方式がある。本発明ではいずれの方式を採用してもよいが、フォトクロミック液は一般に高粘度であるため、前者の方法ではフォトクロミック液を遠心力によって被塗布面全体に均一に広げることが困難な場合がある。そのような場合には、後者の方法を採用することが好ましく、被塗布面の外縁部から中心部に向かって螺旋状の塗布軌跡を描くように塗布を行うことがより好ましい。そのような塗布方法については、特開2009−2875978号公報段落[0012]〜[0029]および特開2005−246265号公報段落[0042]を参照できる。
【0021】
複数回行う成膜工程は、すべて同一条件で行ってもよく異なる条件で行ってもよい。1回の成膜工程において形成される硬化膜が厚くなるほど液溜まり幅が大きくなる傾向があるため、成膜工程を複数回に分けることによる効果を十分得るためには、好ましくは、1回の成膜工程を、形成される硬化膜の中心膜厚(幾何中心または光学中心における膜厚)が30μm未満、好ましくは10μm以上30μm未満となる成膜条件で行う。塗布条件としては、回転数、回転時間、フォトクロミック液の吐出量などがあり、これらを制御することによりフォトクロミック液を所望の厚さでレンズ基材上に塗布することができる。後述の実施例で示すように、隣接成膜される二層の硬化膜の中心膜厚の差が5μm以下の場合に液溜まり幅低減が顕著であった。したがって本発明では、隣接形成される二層の硬化膜の中心膜厚の差が5μm以下、例えば0μm以上5μm以下となる成膜条件で複数回の成膜工程を行うことが好ましい。フォトクロミック液をスピンコートによりレンズ基材上に塗布した後、フォトクロミック液に含まれる硬化性成分の種類に応じた硬化処理(加熱、光照射等)を施すことにより、フォトクロミック色素を含む硬化膜を形成することができる。本発明では、レンズ基材上で上記成膜工程を繰り返すことで、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成することができる。複数の上記硬化膜の積層体であるフォトクロミック層の膜厚(上記総厚)は30μm以上であり、調光性能の観点から、好ましくは40μmである。その上限は、通常のフォトクロミックレンズにおけるフォトクロミック層の厚さを考慮すると、例えば100μm以下であり、好ましくは60μm以下である。成膜工程の回数は、所望の膜厚のフォトクロミック層が得られるように設定すればよく特に限定されるものではないが、生産効率の観点からは、2〜5回程度、更には2〜4回程度とすることが好ましく、2回または3回であることが特に好ましい。
【0022】
上記成膜工程を経て形成されたフォトクロミック層上には、必要に応じて公知のハードコート膜、反射防止膜、撥水層等の機能性膜を形成することができる。
本発明では、フォトクロミック層を累積成膜するため、異なる処方のフォトクロミック液を使用することにより、異なる組成の複数の硬化膜からなるフォトクロミック層を形成することもできる。例えば、硬化膜間でフォトクロミック色素の種類や濃度を変えることにより、所望の色調を呈するフォトクロミックレンズを得ることも可能である。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0024】
[比較例1]
1.フォトクロミック液の調製
プラスチック製容器にトリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、質量平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性単量体100質量部に、フォトクロミック色素として下記クロメン1を3質量部、光安定化剤LS765(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート)を各5質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤Irganox245(BASF製)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−1870(BASF製)0.8質量部を添加して十分に攪拌混合を行った組成物に、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM503)を攪拌しながら滴下した。その後、さらにシリコーン系レベリング剤Y−7006(ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサン コポリマー 東レダウコーニング(株)製)を0.1質量量部添加混合した後、自転公転方式攪拌脱泡装置((株)シンキー AR−250)にて2分間脱泡することで、フォトクロミック性を有する硬化性組成物を得た。得られた液の25℃での粘度は110mPa・sであった。
【0025】
【化1】

【0026】
2.フォトクロミックレンズの作製
ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)製のプラスチックレンズ基材(Index1.5、S0.00、直径70mm)の凸面上に、水系ポリウレタン樹脂液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン、25℃での粘度100mPa・s、固形分濃度38質量%)スピンコート法により塗布した後、温度25℃湿度50%RHの雰囲気下で15分風乾処理し、厚さ約7μmのプライマー層を形成した。
特開2005−246265号公報の図1〜図9に記載の構成を有する塗布装置を用いて、上記プライマー層の上にスピンコートによりプライマー層表面(被塗布面)の外縁部から中心部に向かって螺旋状の塗布軌跡を描くように上記1.で調製したフォトクロミック液を塗布した(回転数:320rpm、回転時間:7.5秒、塗布時雰囲気温度:約25℃)。ただし特開2005−246265号公報に記載のへら機構は使用しなかった。
上記塗布後のレンズを窒素雰囲気中にて、UVランプで波長405nmの紫外線を照射し(照射時間90秒)、さらに、100℃にて25秒間、熱処理(イナート化)を行った
同様の工程を経て合計2枚のフォトクロミックレンズを得た。形成されたフォトクロミック層の幾何中心における膜厚を光干渉式膜厚測定器により測定した結果を、表1に示す。
【0027】
[実施例1]
フォトクロミック液の塗布を2回にわけ、各塗布後に比較例1と同様の条件で紫外線照射(硬化処理)および熱処理を行うことで、2枚の硬化膜が累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成した。2回の塗布におけるスピンコートの回転時間は、表1に示すとおりである(回転数は比較例1と同様)。
本実施例では、同様の工程を経て合計2枚のフォトクロミックレンズを得た。1回目の硬化処理後、2回目の硬化処理後に、それぞれ硬化膜の膜厚を比較例1と同様の方法で測定した。1回目の硬化処理後の測定値を、表1に硬化膜の中心膜厚(1回目)として示し、2回目の硬化処理後の測定値を、表1にフォトクロミック層の中心膜厚として示す。表1中の硬化膜の中心膜厚(2回目)は、フォトクロミック層の中心膜厚から硬化膜の中心膜厚(1回目)を差し引くことで算出した値である。
【0028】
[実施例2、3]
2回の塗布における塗布条件を表1に示すように変更した点以外、実施例1と同様の方法で、2枚の硬化膜が累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成した。同様の工程を経て、各実施例につき合計2枚のフォトクロミックレンズを得た。実施例1と同様の方法で、各膜厚の測定および算出を行った結果を、表1に示す。
【0029】
実施例、比較例の各レンズを蛍光灯下で目視により観察し、周縁部に帯状に観察される部分の幅を液溜まり幅として測定した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すように、比較例1では、2枚のレンズとも液溜まり幅は5.0mmであった。したがって液溜まり部分を除去して製品レンズとする際には、除去幅は10mmとレンズ基材直径の15%近い量となってしまう。
これに対し実施例1〜3では、比較例1と同様の膜厚のフォトクロミック層を形成したにもかかわらず、成膜工程を複数回に分けた結果、比較例1に対して20〜30%も液溜まり幅を減少させることができた。中でも、隣接形成した二層の硬化膜の中心膜厚の差が5μm以下の実施例2および実施例3において、液溜まり幅を顕著に減少させることができた。
以上の結果から、厚さ30μm以上の厚膜のフォトクロミック層を形成する際に成膜工程を分割することにより、液溜まりによる影響を低減できることが確認された。
なお、実施例2および実施例3で1回目の成膜工程で形成した硬化膜における液溜まり幅の観察も行ったところ、2mm程度(両端で合計4mm程度)とレンズ基材直径に対して5%程度と小さいものであったことから、液溜まりの影響は厚膜のフォトクロミック層において顕在化することが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、フォトクロミックレンズ製造時のコスト減および環境負荷の低減が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材上に、フォトクロミック色素を含むフォトクロミック層を有するフォトクロミックレンズの製造方法であって、
レンズ基材の表面上にフォトクロミック色素と硬化性成分とを含むフォトクロミック液をスピンコートにより塗布して塗布膜を形成し、次いで該塗布膜に硬化処理を施すことにより硬化膜を形成する成膜工程を複数回行うことにより、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
各成膜工程を、形成される硬化膜の中心膜厚が30μm未満となる成膜条件で行う請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項3】
前記複数回の成膜工程を、隣接形成される二層の硬化膜の中心膜厚の差が5μm以下となる成膜条件で行う請求項1または2に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項4】
フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚100μm以下で累積成膜されてなるフォトクロミック層を形成する請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項5】
レンズ基材上に、フォトクロミック色素を含む硬化膜が総厚30μm以上で累積成膜されてなるフォトクロミック層を有することを特徴とするフォトクロミックレンズ。