説明

フォトクロミックレンズの保存方法および製造方法

【課題】光応答性および光学特性に優れたフォトクロミックレンズを得るための手段を提供すること。
【解決手段】最表面の超微小押し込み硬さが800nm以上のフォトクロミック膜とレンズ基材とを含むフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック膜の最表面がフォトクロミックレンズの最表面に位置するフォトクロミックレンズを、酸素濃度および/または湿度が低減した雰囲気下に保存するフォトクロミックレンズの保存方法。前記方法を使用するフォトクロミックレンズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミックレンズの保存方法および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フォトクロミック染料を応用したプラスチック製フォトクロミックレンズが眼鏡用として市販されている。これらは明るい屋外で発色して高濃度のカラーレンズと同様な防眩効果を有し、室内に移ると高い透過率を回復するものである。フォトクロミックレンズには、所定の光が入射するとすばやく応答して高濃度で発色し、かつ上記光がない環境下に置かれると速やかに退色することが求められる。
【0003】
フォトクロミックレンズとしては、レンズ基材上にフォトクロミック色素を含むコーティング(フォトクロミック膜)を設けたレンズが広く用いられている。このフォトクロミック膜上には、通常、更にハードコートや反射防止膜などの各種コーティングが施されている。そこで、優れた光応答性(反応速度および発色濃度)とレンズ基材やハードコート層との密着性に優れたフォトクロミックレンズを得るための製造方法が種々検討されている(例えば特許文献1〜3参照)。しかし、従来のフォトクロミックレンズの光応答性は必ずしも十分なものではなく、光応答性の更なる改善が求められていた。
【特許文献1】国際公開WO03/011967
【特許文献2】特開2005−308767
【特許文献3】特開平10−231331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、フォトクロミック膜中のフォトクロミック色素の発退色の反応速度および発色濃度は分子構造に起因するフォトクロミック色素固有の特性に依存すると考えられていた。しかし、本願出願人は検討を重ねた結果、フォトクロミック膜を完全に硬化させずに柔軟性(流動性)を持たせれば、膜中で色素が動き易くなり発退色の反応速度および発色濃度が大きく向上するとの新たな知見を得た。
そこで、本願出願人は、上記知見に基づき、少なくとも一方の面の超微小押し込み硬さが800nm以上であり適度な柔軟性を有するフォトクロミック膜について、先に特許出願した(特願2007−020484号)。
【0005】
上記フォトクロミック膜は優れた光応答性を発揮するものではあるが、本発明者らが検討を重ねた結果、フォトクロミック膜の表面に、ハードコートや反射防止膜などのコーティングを形成するときにレンズに光学的欠陥(例えば曇り、着色など)が生じる場合があるという新たな課題があることが見出された。
【0006】
そこで、本発明の目的は、光応答性および光学特性に優れたフォトクロミックレンズを得るための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
例えば特許文献1、2に記載されているように、フォトクロミック膜の原料液には、フォトクロミック化合物の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤が必要により添加される。一方、本願出願人が開発した前述のフォトクロミック膜は最表面に柔軟性を付与するために、通常、フォトクロミック膜が完全に硬化するまでは硬化処理を行わずに形成される。そのためフォトクロミック膜最表面には未重合の部分が含まれる。このようなフォトクロミック膜を大気中で長時間保存すると、フォトクロミック膜の原料液中に添加されている添加剤が、その外表面側(空気と接触する側)に染み出し(本発明においては、添加剤または添加剤由来の成分がフォトクロミック膜表面側に出てくることを「染み出す」と表現する)、染み出した成分がコーティング液中の成分と反応することが、曇りや着色などの光学的欠陥の原因となっていると考えられる。そして本発明者らは、上記知見に基づき更に検討を重ね、フォトクロミック膜形成後のフォトクロミックレンズ表面が、空気中の酸素や水分と接触することが上記染み出しの原因となることを新たに見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1]最表面の超微小押し込み硬さが800nm以上のフォトクロミック膜とレンズ基材とを含むフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック膜の最表面がフォトクロミックレンズの最表面に位置するフォトクロミックレンズを、酸素濃度および/または湿度が低減した雰囲気下に保存するフォトクロミックレンズの保存方法。
[2]前記雰囲気は、真空雰囲気である[1]に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
[3]前記雰囲気は、不活性ガス雰囲気である[1]に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
[4]前記雰囲気は、脱酸素剤を含む密閉雰囲気である[1]に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
[5]密閉雰囲気は乾燥剤を更に含む[4]に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
[6]前記雰囲気は、乾燥剤を含む密閉雰囲気である[1]に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
[7]最表面の超微小押し込み硬さが800nm以上のフォトクロミック膜とレンズ基材とを含むフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック膜の最表面がフォトクロミックレンズの最表面に位置するフォトクロミックレンズの、該最表面上にコーティング膜を形成する成膜工程を含むフォトクロミックレンズの製造方法であって、
前記成膜工程前のフォトクロミックレンズを、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法により保存する、前記製造方法。
[8]前記フォトクロミック膜は、ヒンダーアミン系光安定剤を含む[7]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた光応答性と光学特性を兼ね備えたフォトクロミックレンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[フォトクロミックレンズの保存方法]
本発明は、最表面の超微小押し込み硬さが800nm以上のフォトクロミック膜とレンズ基材とを含むフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック膜の最表面がフォトクロミックレンズの最表面に位置するフォトクロミックレンズの保存方法に関する。本発明の保存方法においては、前記フォトクロミックレンズを、酸素濃度および/または湿度が低減した雰囲気下に保存する。なお、本発明において、「フォトクロミック膜」とは、少なくともフォトクロミック色素を含有し、所定波長の光の照射および遮断に伴い透過率変化を起こし得る膜をいうものとする。
以下に、本発明の保存方法について更に詳細に説明する。
【0011】
本発明の保存方法において、保存対象となるフォトクロミックレンズは、最表面の超微小押し込み硬さが800nm以上のフォトクロミック膜とレンズ基材とを含むフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック膜の最表面がフォトクロミックレンズの最表面に位置するフォトクロミックレンズである。超微小押し込み硬さが800nm以上の適度な柔軟性を持たせることにより、フォトクロミック膜中でフォトクロミック色素が動き易くなり光応答性(発退色の反応速度および発色濃度)を大きく向上させることができる。
【0012】
フォトクロミック膜最表面の超微小押し込み硬さは、その上にコーティング膜を設ける場合の界面における混ざり合いの防止およびコーティング膜との密着性維持の観点からは、5000nm以下であることが好ましい。その好ましい範囲は、900〜4000nmであり、1200nm以上であることが更に好ましい。
【0013】
前記フォトクロミック膜全体に同様の柔軟性を持たせることももちろん可能である。但し、最表面には上記の適度な柔軟性を持たせ、レンズ基材と対向する表面には適度な硬度を持たせることが、光応答性と光学特性を両立する上では好ましい。以下に、この点について更に説明する。
【0014】
図1は、フォトクロミックレンズの概略を示す説明図である。
フォトクロミックレンズは、一般に、前面(眼鏡レンズとして装用者に装用されたときの物体側の面)と後面(眼鏡レンズとして装用者に装用されたときの眼球側の面)に光学面を備えたレンズ基材と、そのレンズ基材の前面に形成されたフォトクロミック膜と、フォトクロミック膜の上に形成されたハードコートなどのコーティング膜とを備えている。コーティング膜としてはその他に反射防止膜、撥水膜、防汚膜、ミラーコート膜など各種コーティングを必要に応じて積層して形成することができる。
前述のように、フォトクロミック膜を完全に硬化させずに適度な柔軟性(流動性)を持たせれば、フォトクロミック膜中でフォトクロミック色素が動きやすくなり発退色の反応速度および発色濃度が大きく向上させることができる。しかし、フォトクロミック膜全体の柔軟性(流動性)を高めると、例えば後述する注型重合法によってフォトクロミック膜を形成する場合には、注型重合時にレンズ原料液とフォトクロミック膜の未硬化部分との混ざり合いが生じ、光学特性が低下するおそれがある。そこで、フォトクロミックレンズにおける光応答性が主として光が入射する側のフォトクロミック膜表層部において発現されることに着目し、フォトクロミック膜のレンズ前面側表層部に存在する色素を動きやすい状態としておき、レンズ後面側表層部は、注型重合時にレンズ原料液との混ざり合いが生じないように硬化させることが好ましい。このようなフォトクロミック膜を得る方法としては、フォトクロミック膜の硬化の程度を評価できる指標(例えば硬度や重合度)をフォトクロミック膜の物体側と眼球側とで測定し、その結果を基に硬化条件を設定するとよい。以上の観点から、フォトクロミック膜のレンズ基材と対向する表面の超微小押し込み硬さは、少なくとも最表面より高い値とすることが好ましい。その好ましい範囲は、500〜5000nmの範囲である。レンズ基材と対向する面の超微小押し込み硬さが500nm以上であれば、基材とフォトクロミック膜との密着性を確保することができ、5000nm以下であれば、注型重合法において生じ得る基材とフォトクロミック膜との界面での混ざり合いを防ぎ、良好な光学特性を確保することができる。その下限は、より好ましくは600nm、更に好ましくは1000nm、特に好ましくは2500nmであり、その上限は、より好ましくは3500nmである。
【0015】
本発明における「超微小押し込み硬さ」とは、エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT−2100を用いて、荷重100mgfをかけることにより測定される値である。測定は、以下のように行うことができる。超微小押し込み硬さの測定方法の概略図を図2に示す。
まず、レンズ基材上のフォトクロミック膜を基材から剥がし、測定対象面(面Aまたは面B)が最表面に位置するようにモニターガラス上に固定する。次いで、測定対象面に三角錐形状のダイヤモンド圧子(稜間隔115度)を用いて荷重100mgfをかけて垂直に押し込み、その際の膜の変位量(nm)を測定する。本発明では、この変位量(nm)を超微小押し込み硬さとする。数値が小さいほど硬度が高いことを意味し、数値が大きいほど硬度が低く柔軟であることを意味する。
【0016】
本発明の保存方法では、前記フォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズを、酸素濃度および/または湿度が低減した雰囲気下に保存する。ここで、「酸素濃度を低減した雰囲気」とは、大気中と比べて酸素濃度が低い雰囲気をいい、「湿度が低減した雰囲気」とは、大気中と比べて湿度が低い雰囲気をいう。前述のように、本発明者らの検討の結果、長期保存後のフォトクロミックレンズ上にコーティング膜を形成した際に生じる光学欠陥は、長期保存中にフォトクロミック膜表面が大気中の酸素や水分と接触することに起因して表面に染み出した添加剤等の成分が、コーティング液中の成分と反応することが原因であることが新たに見出された。そこで、染み出しの原因となる酸素および/または湿度が低減した雰囲気中にコーティング膜形成前のフォトクロミックレンズを保存することにより染み出しを抑制し、これにより光学欠陥が少なく優れた光学特性を有するフォトクロミックレンズを得ることができる。
【0017】
前記雰囲気としては、(A)真空雰囲気(好ましくは真空度10-1Pa以上)、(B)不活性ガス(希ガス、窒素ガス等)雰囲気、(C)脱酸素剤を含む密閉雰囲気、(D)乾燥剤を含む密閉雰囲気、(E)上記(C)+(D)、を挙げることができる。
【0018】
前記(A)を形成するためには、例えばデシケータを用いることができる。デシケータを使う場合としては、例えば、真空デシケータを使用し、連結された真空ポンプを駆動させて真空にして真空雰囲気を形成することができる。
【0019】
前記(B)を形成するためには、ガス置換タイプのデシケータを用いて、希ガスや窒素ガス等の不活性ガスを流す方法を用いることができる。この場合は希ガス中の酸素濃度および水分量が少ない方が好ましいので、高純度の希ガスを使用することが好ましい。
【0020】
前記(C)〜(E)を形成するためには、それぞれ公知の脱酸素剤および乾燥剤を使用することができる。具体的には、脱酸素剤や乾燥剤をデシケータ中に配置し、前記雰囲気を実現することができる。
【0021】
乾燥剤としては公知の物が使用でき、例えばシリカゲルを主成分とする乾燥剤を使用できる。また、乾燥剤の種類と封入量は、保存雰囲気内の水分量や保存期間等を考慮して決定すればよい。
【0022】
また脱酸素剤としては、公知の物が使用できる。例えば、酸素を吸収する脱酸素剤組成物を、通気性を有する包装材で包装したものを用いることができる。なお、脱酸素剤組成物を含有する物質をシート状に形成したものを用いてもよい。脱酸素剤組成物としては、例えば、還元性金属の酸化反応を利用して酸素を吸収するものを用いるこができる。このような脱酸素剤組成物を用いた脱酸素剤には、脱酸素に当たって雰囲気中から水分を補給する必要がある水分依存型脱酸素剤と、雰囲気中からの水分補給を必要としない自力反応型脱酸素剤とがある。水分依存型脱酸素剤としては、例えば、特公昭56−33980号公報に記載されたものがある。この脱酸素剤組成物は、鉄粉等の金属粉をハロゲン化金属で被覆した構造を備えている。
また、自力反応型脱酸素剤としては、例えば特公昭57−31449号公報に記載されたものがある。この脱酸素剤は、脱酸素剤中に水分供与体を存在させて、そこから脱酸素に必要な水分を供給するようにしたものである。
自力反応型の脱酸素剤を使用した場合は、脱酸素剤中の水分供与体から生じた水蒸気が密閉された包装材内に蒸散し、レンズに影響を与えるおそれがある。そのような場合は、自力反応型の脱酸素剤とともに乾燥剤(例えばシリカゲルなど)を包装材中に同封すると良い。また、脱酸素機能と乾燥機能を合わせ持つ脱酸素剤を用いても良い(例えば三菱ガス化学株式会社製ファーマキープ(KD、KCタイプ))。また、水分供与体を必要とせずに乾燥雰囲気中で脱酸素機能を発揮する脱酸素剤を用いてもよい。そのような脱酸素剤としては、炭素−炭素不飽和結合を有する架橋高分子からなる脱酸素成分を有する脱酸素剤(例えば特開平11−70331号公報参照)や、遷移金属を担体に担持して活性化してなる金属を主剤とする脱酸素剤(例えば特開平8−38883号公報参照)や、マグネシウム化合物を担体に担持後、還元することにより得られる活性化マグネシウムを主剤とする脱酸素剤(例えば特開2001−37457号公報参照)、不飽和基を有した液状炭化水素オリゴマーを主剤とし酸素吸収促進物質を含むものを担体に担持した酸素吸収組成物を有する脱酸素剤(例えば特開平10−113555号公報参照)等がある。市販されている製品としては、三菱ガス化学株式会社製ファーマキープ(KHタイプ)を挙げることができる。脱酸素剤の種類と封入量は、保存雰囲気内の酸素量と、保存期間等を考慮して決定すると良い。
【0023】
また、酸素および/または湿度が低減した雰囲気は、ガスバリア性の包装袋を用いて形成することもできる。その方法としては、例えば酸素や水蒸気の透過を抑制した包装袋中にレンズを入れ、ノズル式脱気包装機や図3に示すようなチャンバー式真空・ガス置換包装機を使用して、包装袋内を真空にして密閉する方法を用いることが好ましい。また、本発明ではこれら包装機を用いて包装袋内に希ガスを封入して密閉して前記(B)の雰囲気を実現してもよい。また、図4に示すように、レンズと一緒に脱酸素剤、または、乾燥剤、またはその両方を入れ、包装袋の開口部を密閉して前記(C)〜(D)の雰囲気を実現してもよい。なお、本発明において、「密閉」とは、少なくとも酸素および/または水蒸気の透過を抑制し得る程度に、保存雰囲気が外気から遮断されていることをいう。「ガスバリア性」とは、酸素と水蒸気の透過を抑制する性質をいう。
【0024】
本発明の保存方法において保存対象となるフォトクロミックレンズは、例えば、注型重合を用いて、レンズ基材の硬化とレンズ基材上へのフォトクロミック膜の形成を成形型内で行う方法(以下、注型重合法という)により製造できる。この方法では、まず、レンズの一方の面を形成するためのモールドの片面にフォトクロミック液を塗布し、塗布されたフォトクロミック液に硬化処理を施すことにより、モールド表面にフォトクロミック膜を形成する。その後、表面にフォトクロミック膜が形成されたモールドを使用して、レンズ基材の重合反応を行う。具体的には、以下の工程によって注型重合法により、レンズ基材上に前記のフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズを得ることができる。
(フォトクロミック液塗布工程)
レンズの一方の面を形成するための第一モールドの片面(成形面)に、フォトクロミック液(フォトクロミック色素、硬化性成分、および必要に応じて各種添加剤を含む)を塗布する。
(フォトクロミック液硬化処理工程)
前記第一モールド成形面上に塗布されたフォトクロミック液が完全に硬化が進まない程度に硬化処理を施して、第一モールド成形面にフォトクロミック膜を形成する。
(レンズ鋳型形成工程)
前記第一モールドとレンズの他方の面を形成するための第二モールドを、前記第一モールドのフォトクロミック膜の最表面が第二モールドの成形面と対向するように配置し、かつ前記2つのモールドの周囲を密閉して、フォトクロミック膜が内部に位置するキャビティを備えたレンズ鋳型を形成する。
(注型重合工程)
前記キャビティに硬化性成分を含むレンズ原料液を注入し、該キャビティで前記硬化性成分の硬化反応を行う。
(離型工程)
前記レンズ鋳型を取り除き、成形されたレンズを得る。この得られたレンズには、前記フォトクロミック液硬化処理工程により前記第一モールド成形面に形成されていたフォトクロミック膜が第一モールド成形面から剥がれてレンズ基材上に形成されている。
以下に、各工程の詳細を順次説明する。
【0025】
(フォトクロミック液塗布工程)
本工程では、レンズの一方の面を形成するためのモールド(第一モールド)の片面(成形面)に、フォトクロミック液を塗布する。
フォトクロミック液としては、少なくともフォトクロミック色素、硬化性成分をふくみ、必要に応じて各種添加剤を含むフォトクロミック液を用いることができる。各成分の詳細は後述する。
【0026】
第一モールド表面へのフォトクロミック液の塗布は、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法等の公知の方法によって行うことができる。塗布液の粘性、面精度の点からは、スピンコート法を使用することが好ましい。塗布量は、所望のフォトクロミック膜の厚さに応じて適宜調整すればよい。
【0027】
メニスカス形状のレンズを形成するためには、レンズの凹面を形成すべく凸面側(使用時に眼球側)に成形面を有する凸面型と、レンズの凸面(使用時に物体側)を形成すべく凹面側に成形面を有する凹面型が用いられる。本発明では、この凹面型(モールド)上にフォトクロミック液を塗布してフォトクロミック膜を形成することにより、物体側にフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズを得ることができる。レンズ上にフォトクロミック液を塗布、硬化することによりフォトクロミックレンズを製造する方法では、使用時に物体側に位置する凸面上にフォトクロミック液を塗布するため、フォトクロミック液の粘度が低い場合や塗布量が多い場合には、塗布されたフォトクロミック液が凸面から流下することがある。それに対し、前記のように凹面上にフォトクロミック液を塗布すれば、モールド表面から流下することなく安定に保持することができるという利点がある。
【0028】
(フォトクロミック液硬化処理工程)
本工程では、第一モールド上に塗布されたフォトクロミック液に硬化処理を施すことにより、第一モールド上にフォトクロミック膜を形成する。
【0029】
フォトクロミック膜の硬化状態は、(1)フォトクロミック液の組成、(2)硬化条件、(3)フォトクロミック膜の厚さ、によって制御することができる。以下に、上記(1)〜(3)について順次説明する。
【0030】
(1)フォトクロミック液
(i)硬化性成分
フォトクロミック膜形成のために使用可能な硬化性成分は、特に限定されず、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有する公知の光重合性モノマーやオリゴマー、それらのプレポリマーを用いることができる。これらのなかでも、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基をラジカル重合性基として有する化合物が好ましい。なお、前記(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示す。
【0031】
フォトクロミック膜とレンズ基材との界面での混ざり合い防止、硬度調整の容易さ、膜形成後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、または発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性を良好なものとするため、ラジカル重合性単量体としては、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上を示すもの(以下、高硬度モノマーと称す場合がある)と、同じく単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40以下を示すもの(以下、低硬度モノマーと称す場合がある)を併用することがより好ましい。
Lスケールロックウェル硬度とは、JIS−B7726に従って測定される硬度を意味する。各モノマーの単独重合体についてこの測定を行うことにより、前記硬度条件を満足するかどうかを簡単に判断することができる。具体的には、モノマーを重合させて厚さ2mmの硬化体を得、これを25℃の室内で1日保持した後にロックウェル硬度計を用いて、Lスケールロックウェル硬度を測定することにより容易に確認することができる。
【0032】
また、前記Lスケールロックウェル硬度の測定に供する重合体は、仕込んだ単量体の有す重合性基の90%以上が重合する条件で注型重合して得たものである。このような条件で重合された硬化体のLスケールロックウェル硬度は、ほぼ一定の値として測定される。
前記高硬度モノマーは、硬化後の硬化体の耐溶剤性、硬度、耐熱性等を向上させる効果を有する。これらの効果をより効果的なものとするためには、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が65〜130を示すラジカル重合性単量体が好ましい。
このような高硬度モノマーは、通常2〜15個、好ましくは2〜6個のラジカル重合性基を有する化合物であり、好ましい具体例としては、下記一般式(1)〜(5)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
【化1】

(式中、R13は水素原子またはメチル基であり、R14は水素原子、メチル基またはエチル基であり、R15は3〜6価の有機基であり、fは0〜3の範囲の整数、f’はO〜3の範囲の整数、gは3〜6の範囲の整数である。)
【0034】
【化2】

(式中、R16は水素原子またはメチル基であり、Bは3価の有機基であり、Dは2価の有機基であり、hは1〜10の範囲の整数である。)
【0035】
【化3】

(式中、R17は水素原子またはメチル基であり、R18は水素原子、メチル基、エチル基またはヒドロキシル基であり、Eは環状の基を含む2価の有機基であり、iおよびjは、i+jの平均値が0〜6となる正の整数である。)
【0036】
【化4】

(式中、R19は水素原子またはメチル基であり、Fは側鎖を有していてもよい主鎖炭素数2〜9のアルキレン基である。)
【0037】
【化5】

(式中、R20は水素原子、メチル基またはエチル基であり、kは1〜6の範囲の整数である。)
【0038】
前記一般式(1)〜(4)における、R13〜R19は、いずれも水素原子またはメチル基であるため、一般式(1)〜(4)で示される化合物は2〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。
前記一般式(1)におけるR14は水素原子、メチル基またはエチル基である。
一般式(1)におけるR15は3〜6価の有機基である。この有機基は特に限定されるものではなく、また、その主鎖中に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素一炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。
単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上を示すためには、R15は、好ましくは炭素数1〜30の有機基であり、より好ましくはエーテル結合および/またはウレタン結合を含んでいてもよい炭素数1〜15の有機基である。
また、fおよびf’は、それぞれ独立に0〜3の範囲の整数である。また、Lスケールロックウェル硬度を60以上とするためには、fおよびf’の合計が0〜3であることが好ましい。
【0039】
前記一般式(1)で示される高硬度モノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレト、トリメチロールブロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
【0040】
前記一般式(2)におけるBは3価の有機基であり、Dは2価の有機基である。このBおよびDは特に限定されるものではなく、その主鎖中に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素−炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上であるためには、Bは炭素数3〜10の直鎖または分枝状の炭化水素から誘導される有機基であると好ましく、Dは炭素数1〜10の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素、または炭素数6〜10の芳香族炭化水素から誘導される有機基である。
また単独重合体のLスケールロックウェル硬度を60以上とするために、hは1〜10の範囲の整数であり、好ましくは1〜6の範囲の整数である。
前記一般式(2)で示される高硬度モノマーの具体的としては、分子量2,500〜3,500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB80等)、分子量6,000〜8,000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB450等)、分子量45,000〜55,000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB1830等)、分子量10,000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬社、GX8488B等)等が挙げられる。
【0041】
前記一般式(3)におけるR18は水素原子、メチル基、エチル基またはヒドロキシル基である。また式(3)におけるEは環状の基を含む2価の有機基である。この有機基は環状の基を含むものであれば特に限定されるものではなく、また、その主鎖中に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素−炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。Eに含まれる環状の基としては、ベンゼン環、シクロヘキサン環、アダマンタン環または以下に示す環状の基等が挙げられる。
【化6】

【0042】
Eに含まれる環状の基はベンゼン環であることが好ましく、さらにEは下記式:
【化7】

(Gは、酸素原子、硫黄原子、−S(O2)−、−C(O)−、−CH2−、−CH=CH−、−C(CH32−および−C(CH3)(C65)−から選ばれるいずれかの基であり、R21およびR22は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子であり、lおよびl’は、それぞれ独立に0〜4の範囲の整数である。)で示される基であるとより好ましく、最も好ましいEは下記式:
【化8】

で示される基である。
【0043】
前記一般式(3)中、iおよびjは、i+jの平均値が0〜6となる正の整数である。なお、式(3)で示される化合物は、iおよびjの双方が0である場合を除き、通常iおよびjの異なる複数の化合物の混合物として得られる。それらの単離は困難であるため、iおよびjはi+jの平均値で示される。i+jの平均値は2〜6であることがより好ましい。
一般式(3)で示される高硬度モノマーの具体的としては、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0044】
前記一般式(4)におけるR19は水素原子またはメチル基であり、Fは側鎖を有していてもよい主鎖炭素数2〜9のアルキレン基である。この主鎖炭素数2〜9のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基、ノニリレン基等が例示される。
一般式(4)で示される高硬度モノマーの具体的としては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,9−ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート等が挙げられる。
【0045】
前記一般式(5)におけるR20は水素原子、メチル基またはエチル基であり、kは2〜6の範囲の整数であり、好ましくはkは3または4である。
一般式(5)で示される高硬度モノマーの具体的としては、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
なお、前記一般式(1)〜(5)で示される化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60未満のものがあるが、その場合には、これらの化合物は後述する低硬度モノマーまたは中硬度モノマーに分類される。
また、前記一般式(1)〜(5)で示されない高硬度モノマーもあり、その代表的化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0046】
また、前記低硬度モノマーは、硬化体を強靭なものとし、またフォトクロミック化合物の退色速度を向上させる効果を有する。
このような低硬度モノマーとしては、下記一般式(6):
【化9】

(式中、R23は水素原子またはメチル基であり、R24およびR25は、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基であり、Zは酸素原子または硫黄原子であり、mはR23が水素原子の場合は1〜70の整数であり、R23がメチル基の場合は7〜70の整数でありそしてm’は0〜70の範囲の整数である。)
【0047】
または下記一般式(7):
【化10】

(式中、R26は水素原子またはメチル基であり、R27およびR28は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基またはヒドロキシル基であり、Iは環状の基を含む2価の有機基であり、i’およびj’は、i’+j’の平均値が8〜40となる整数である。)
で示される2官能モノマーや、下記一般式(8):
【0048】
【化11】

(式中、R29は水素原子またはメチル基であり、R30およびR31は、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基であり、R32は水素原子、炭素数1〜25のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数6〜25のアリール基、または炭素数2〜25の(メタ)アクリロイル基以外のアシル基であり、Zは酸素原子または硫黄原子であり、m’’はR29が水素原子の場合は1〜70の整数であり、R29がメチル基の場合は4〜70の整数であり、m’’’は0〜70の範囲の整数である。)
【0049】
または下記一般式(9):
【化12】

(式中、R33は水素原子またはメチル基であり、R34はR33が水素原子の場合には炭素数1〜20のアルキル基であり、R33がメチル基の場合には炭素数8〜40のアルキル基である。)
で示される単官能のモノマーが例示される。
【0050】
前記一般式(6)〜(9)において、R23、R26、R29およびR33は水素原子またはメチル基である。すなわち、低硬度モノマーは重合性基として、通常2個以下の(メタ)アクリロイルオキシ基または(メタ)アクリロイルチオ基を有する。
前記一般式(6)におけるR24およびR25は、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基であり、Zは酸素原子または硫黄原子である。
一般式(6)においては、R23が水素原子の場合、すなわち重合性基としてアクリロイルオキシ基またはアクリロイルチオ基を有する場合には、mは1〜70の整数であり、一方、R23がメチル基である場合、すなわち重合性基としてメタクリロイルオキシ基またはメタクリロイルチオ基を有する場合には、mは7〜70の整数である。また、m’は0〜70の範囲の整数である。
一般式(6)で示される低硬度モノマーの具体的としては、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アタリレート類が挙げられる。
【0051】
前記一般式(7)におけるR26は水素原子、メチル基またはエチル基である。
また、Iは環状の基を含む2価の有機基である。このIとしては前記式(9)に含まれる環状の基であるEとして例示されたものと同様である。式(7)におけるi’およびj’は、i’+j’の平均値が8〜40となる整数、好ましくは9〜30となる整数である。このi’およびj’も前記した式(3)におけるiおよびjと同様の理由で通常は平均値で示される。
一般式(7)で示される低硬度モノマーの具体的としては、平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン等を挙げることができる。
【0052】
前記一般式(8)におけるR29は水素原子またはメチル基であり、R30およびR31は、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基である。R32は水素原子、炭素数1〜25のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数6〜25のアリール基、または炭素数2〜25のアクリロイル基以外のアシル基である。
炭素数1〜25のアルキル基またはアルケニル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ノニル基等が挙げられる。また、これらアルキル基またはアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、さらには、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アリール基、エポキシ基等の置換基で置換されていてもよい。
炭素数1〜25のアルコキシアルキル基としては、メトキシブチル基、エトキシブチル基、ブトキシブチル基、メトキシノニル基等が挙げられる。
炭素数6〜25のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、アントラニル基、オクチルフェニル基等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基以外のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、オレイル基等が挙げられる。
一般式(8)におけるm’’は、R29が水素原子の場合、すなわちアクリロイルオキシ基またはアクリロイルチオ基を重合性基として有する場合には1〜70の範囲の整数であり、R29がメチル基の場合、すなわちメタクリロイルオキシ基またはメタクリロイルチオ基を重合性基として有する場合にはm’’は4〜70の整数であり、またm’’’は0〜70の範囲の整数である。
【0053】
一般式(8)で示される低硬度モノマーの具体的としては、平均分子量526のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量360のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量475のメチルエテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量375のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量430のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量622のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量620のメチルエーテルポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量566のポリテトラメチレングリコールメタアクリレート、平均分子量2,034のオクチルフェニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量610のノニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量640のメチルエーテルポリエチレンチオグリコールメタクリレート、平均分子量498のパーフルオロヘブチルエチレングリコールメタクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アタリレート等が挙げられる。一般式(8)で示される低硬度モノマーの平均分子量の好ましい範囲は200〜2500、より好ましくは300〜700である。なお、本発明における平均分子量は、質量平均分子量である。
【0054】
前記一般式(9)におけるR33は水素原子またはメチル基であり、R33が水素原子の場合には、R34は炭素数1〜20のアルキル基であり、R33がメチル基の場合には、R34は炭素数8〜40のアルキル基である。これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アシル基、エポキシ基等の置換基で置換されていてもよい。
一般式(9)で示される低硬度モノマーの具体的としては、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアタリレート、ブチルアタリレート、ラウリルアクリレート等を挙げることができる。
これら式(6)〜(9)で表される低硬度モノマーの中でも、平均分子量475のメチルエテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレートが特に好ましい。
前記式(6)〜(9)で示される化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40以上を示すものがあるが、その場合には、これらの化合物は前述した高硬度モノマーまたは後述する中硬度モノマーに分類される。
【0055】
前記高硬度モノマーでも低硬度モノマーでもないモノマー、すなわち、単独硬化体のLスケールロックウェル硬度が40を超え60未満を示すモノマー(中硬度モノマーと称す場合がある)として、例えば、平均分子量650のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量1,400のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド等の2官能(メタ)アタリレート;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、アリルジグリコールカーボネート等の多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸および多価チオメタクリル酸エステル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸ビフェニル等のアクリル酸およびメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸およびチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルピロリドン等のビニル化合物;オレイルメタクリレート、ネロールメタクリレート、ゲラニオールメタクリレート、リナロールメタクリレート、ファルネソールメタクリレート等の分子中に不飽和結合を有する炭化水素鎖の炭素数が6〜25の(メタ)アタリレートなどのラジカル重合性単官能単量体等が挙げられる。
【0056】
これらの中硬度モノマーを使用することも可能であり、前記高硬度モノマー、低硬度モノマーおよび中硬度モノマーは適宜混合して使用できる。硬化性組成物の硬化体の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性のバランスを良好なものとするため、前記ラジカル重合性単量体中、低硬度モノマーは5〜70質量%、高硬度モノマーは5〜95質量%であることが好ましい。さらに、配合される高硬度モノマーとして、ラジカル重合性基を3つ以上有する単量体が、その他のラジカル重合性単量体中少なくとも5質量%以上配合されていることが特に好ましい。
【0057】
(ii)フォトクロミック色素
フォトクロミック液に添加し得るフォトクロミック色素としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物が挙げられ、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を特に制限なく使用することができる。
前記フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物およびクロメン化合物としては、例えば、特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号明細書、WO96/14596号明細書などに記載されている化合物が好適に使用できる。
また、優れたフォトクロミック性を有する化合物として、例えば、特開2001−114775号公報、特開2001−031670号公報、特開2001−011067号公報、特開2001−011066号公報、特開2000−347346号公報、特開2000−34476号公報、特開2000−3044761号公報、特開2000−327676号公報、特開2000−327675号公報、特開2000−256347号公報、特開2000−229976号公報、特開2000−229975号公報、特開2000−229974号公報、特開2000−229973号公報、特開2000−229972号公報、特開2000−219687号公報、特開2000−219686号公報、特開2000−219685号公報、特開平11−322739号公報、特開平11−286484号公報、特開平11−279171号公報、特開平10−298176号公報、特開平09−218301号公報、特開平09−124645号公報、特開平08−295690号公報、特開平08−176139号公報、特開平08−157467号公報等に開示された化合物も好適に使用することができる。
【0058】
これらフォトクロミック化合物の中でも、クロメン系フォトクロミック化合物は、フォトクロミック特性の耐久性が他のフォトクロミック化合物に比べ高く、さらにフォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の向上が他のフォトクロミック化合物に比べて特に大きいため特に好適に使用することができる。さらに、これらクロメン系フォトクロミック化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、本発明によるフォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の向上が他のクロメン系フォトクロミック化合物に比べて特に大きいため好適に使用することができる。
【0059】
さらに、その発色濃度、退色速度、耐久性等の各種フォトクロミック特性が特に良好なクロメン化合物としては、下記一般式(12)で表されるものが好ましい。
【化13】

【0060】
[式中、下記一般式(13):
【化14】

で示される基は、置換もしくは非置換の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の不飽和複素環基であり、R43、R44およびR45は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、アラルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、置換もしくは非置換のアリール基、ハロゲン原子、アラルキル基、ヒドロキシル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とピラン環もしくは前記式(13)で示される基の環とが結合する置換もしくは非置換の複素環基、または該複素原基に芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、oは0〜6の範囲の整数であり、
41およびR42は、それぞれ独立に、下記一般式(14)、
【化15】

(式中、R46は、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、R47は、水素原子、アルキル基、またはハロゲン原子であり、pは1〜3の範囲の整数である。)で示される基、下記一般式(15):
【化16】

(式中、R48は、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、p’は1〜3の整数である。)で示される基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、またはアルキル基であるか、あるいはR41とR42とが一緒になって、脂肪族炭化水素環もしくは芳香族炭化水素環を構成していてもよい。]
なお、前記一般式(14)、(15)、前記R41およびR42にて説明した置換アリール基および置換ヘテロアリール基における置換基としては、前記R43〜R44と同様の基が挙げられる。
【0061】
前記一般式(12)で示されるクロメン化合物のなかでも、発色濃度、退色速度等のフォトクロミック特性および耐久性の点から、下記一般式(16)〜(21)で示される化合物が特に好適である。
【化17】

(式中、R49およびR50は、それぞれ前記一般式(12)のR41およびR42と同様であり、R51およびR52は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、qおよびq’は、それぞれ1または2である。)
【0062】
【化18】

{式中のR53およびR54は、それぞれ前記一般式(12)のR41およびR42と同様であり、R55およびR56は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、Lは下記式:
【化19】

(上記式中、Pは、酸素原子または硫黄原子であり、R57は、炭素数1〜6のアルキレン基であり、s、s’およびs’’は、いずれも1〜4の整数である。)で示されるいずれかの基であり、rおよびr’は、それぞれ独立に1または2である。}
【0063】
【化20】

(式中、R58およびR59は、それぞれ前記式(12)のR41およびR42と同様であり、R60、R61およびR62は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、vは1または2である。)
【0064】
【化21】

(式中、R63およびR64は、それぞれ前記式(12)のR41およびR42と同様であり、R65およびR66は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、wおよびw’は、それぞれ独立に1または2である。)
【0065】
【化22】

(式中、R67およびR68は、それぞれ前記式(12)のR41およびR42と同様であり、R69、R70、R71およびR72は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、xおよびx’は、それぞれ独立に1または2である。)
【0066】
【化23】

(式中、R73およびR74は、それぞれ前記式(12)のR41およびR42と同様であり、R75、R76およびR77は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、
【化24】

は、少なくとも1つの置換基を有してもよい脂肪族炭化水素環であり、y、y’およびy’’は、それぞれ独立に1または2である。]
【0067】
上記一般式(16)〜(21)で示されるクロメン化合物の中でも、下記構造のクロメン化合物が特に好ましい。
【化25】

【0068】
これらフォトクロミック化合物は適切な発色色調を発現させるため、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。
【0069】
本発明では、フォトクロミック液中のフォトクロミック色素濃度によってフォトクロミック膜の硬化状態を制御することができる。光重合により硬化反応を行う場合、重合のために光照射を行うと、その光に応答してフォトクロミック色素が発色するため、重合用に照射された光の膜内部への透過が抑制される。これにより、重合用に照射された光が入射する面近傍で硬化反応を良好に進行させるとともに、他方の面での硬化反応の進行を抑えることができる。上記の効果を得るためには、フォトクロミック液中のフォトクロミック色素の濃度は、前記重合性成分100質量部(ラジカル重合性単量体等)に対して、0.01〜20質量部とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることが更に好ましい。
【0070】
(iii)重合開始剤
フォトクロミック液に添加する重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の熱重合開始剤および光重合開始剤から適宜選択することができる。
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられ、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイドが好ましい。
これら光重合開始剤は、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。光重合開始剤のフォトクロミック液全量に対する配合量としては、前記重合性成分100質量部(ラジカル重合性単量体等)に対して、通常0.001〜5質量部であり、0.1〜1質量部であると好ましい。
【0071】
また、フォトクロミック膜を熱重合により形成する場合、使用可能な熱重合開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシカーボネート等のパーカーボネート類;2,2’−アゾピスイソプチロニトリル、2,2’−アゾピス(4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等のアゾ化合物等挙げられる。
これら熱重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性単量体の種類や組成によって異なるが、通常、前記重合性成分100質量部に対して0,01〜10質量部の範囲とすることが好適である。上記熱重合開始剤は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0072】
(iv)添加剤
フォトクロミック液には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0073】
前記界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、重合性単量体への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等である。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用してもよい。界面活性剤の添加量は、前記重合性成分100質量部に対し、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0074】
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用してもよい。さらにこれらの非重合性化合物の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用してもよい。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、前記重合性成分100質量部に対し、0.001〜20質量部の範囲が好ましい。
【0075】
前記安定剤の中でも、硬化させる際のフォトクロミック色素の劣化防止、または得られたフォトクロミック膜の耐久性向上の観点から好ましい安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤が挙げられる。ただし、後述の実施例で示すように、染み出し成分としては、ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。これに対し、前述のように本発明の保存方法によれば、長期保存中の染み出しを防止することができる。そのため、本発明の保存方法は、長期保存中に染み出しが生じるおそれがある、ヒンダードアミン系光安定剤を含むフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズへの適用が有効である。
【0076】
ヒンダードアミン光安定剤としては、公知の化合物を何ら制限なく用いることができる。その中でも、塗布用に用いる場合、特に、フォトクロミック色素の劣化防止効果を発現する化合物としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、旭電化工業(株)製アデカスタブLA−52、LA−62、LA−77、LA−82等を挙げることができる。その添加量は、前記重合性成分100質量部に対し、例えば0.001〜20質量部の範囲であり、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、より好適には、1〜10質量部の範囲である。
【0077】
また、フォトクロミック液においては、成膜時の均一性を向上させるために、界面活性剤、レベリング剤等を含有させることが好ましく、特にレベリング性を有するシリコーン系・フッ素系レベリング剤を添加することが好ましい。その添加量としては、特に限定されないが、フォトクロミック液全量に対し、通常0.01〜1.0質量%であり、0.05〜0.5質量%の範囲が好ましい。
【0078】
本発明においては、フォトクロミック液に、密着性を向上させるために通常添加される各種成分(カップリング剤等の密着剤、またはカップリング剤の重合触媒)を添加しないことが好ましい。これにより、注型重合(第四工程)後にフォトクロミック膜付きの成形体をレンズ鋳型から取り出すことが容易になる。また、シランカップリング剤等を含む塗布液は、液保存時に自己重合により液寿命(ポットライフ)が低下するため、そのような成分を含まないことは、作業性の面から好ましい。
【0079】
本発明において、フォトクロミック液の調製方法は特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合することにより行うことができる。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよいし、モノマー成分のみを予め混合し、重合させる直前にフォトクロミック色素や他の添加剤を添加・混合してもよい。
前記フォトクロミック液は、25℃での粘度が20〜500cpであることが好ましく、50〜300cpであることがより好ましく、60〜200cpであることが特に好ましい。この粘度範囲とすることにより、フォトクロミック液の塗布が容易となり、所望の厚さのフォトクロミック膜を容易に得ることができる。
【0080】
(2)硬化条件
フォトクロミック膜の硬化処理は、光重合、熱重合のいずれによって行ってもよいが、両面で異なる硬度を有するフォトクロミック膜を得るためには、硬化状態の部分的制御が容易な光重合を用いることが好ましい。光重合を用いる場合、第一モールドのフォトクロミック液塗布面に対して光照射を行うことにより、光照射側の面(フォトクロミック膜最表面)近傍は硬化し、かつ内部が未硬化状態であって、一方の面に適度な柔軟性が付与されたフォトクロミック膜を得ることができる。硬化状態は、光源とモールド表面(フォトクロミック液塗布面)との距離、照度、照射量、照射時間を調整することによって制御することができる。なお、硬化効率を上げるために、光照射を不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0081】
照射する光は、フォトクロミック液に含まれる重合開始剤に応じて選択すればよいが、前述のように、フォトクロミック色素の発色により硬化反応を制御するためには、フォトクロミック色素が応答する波長の光、例えば波長150〜380nmの光、好ましくは紫外線(波長200〜380nm程度)を使用することができる。
【0082】
紫外線の光源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク、殺菌灯、無電極ランプ等の公知の光源を使用することができる。光源とモールド表面との距離、照射量、照射時間は、フォトクロミック液の組成や塗布量を考慮して調整することが好ましい。具体的には、照射量は1〜100J/cm2とすることができ、1〜75J/cm2することが好ましい。例えば、光源とモールド表面との距離は100〜300mm、照度は100〜250mW/cm2、照射時間は10〜400秒とすることができる。照射時間に関しては10〜300秒であるとさらに好適である。
【0083】
前述のように、第一モールドのフォトクロミック液塗布面に対して光照射を行うことにより、最表面が硬化し、かつ内部に未硬化の硬化性成分を含むフォトクロミック膜を形成することができる。なお、第一モールドとして光透過性の素材(例えばガラス)からなるモールドを使用し、第一モールドを介して光照射を行うことにより、モールド表面と対向している面近傍の硬度を調整することもできる。これにより、フォトクロミック膜の耐久性を確保することができる。また、第一モールドを介して光照射を行なうことにより、添加剤の染み出しを低減することができる。但し、通常、モールド表面と対向している面は、使用時には入射面側に位置するため、モールドを介して光照射を行う場合には、入射面側でのフォトクロミック色素の動き易さを確保できる程度の光照射とすべきである。モールドを介した光照射は、フォトクロミック液塗布面に対する光照射よりも低い照射量、例えば0.1〜30J/cm2の照射量で行うことが好ましい。また、後述するようにフォトクロミック膜上にハードコートや反射防止膜を設ける場合には、それらによってフォトクロミック膜表面が保護されるため、モールドを介した光照射を行うことなく耐久性を確保することができる。
【0084】
(3)フォトクロミック膜の厚さ
フォトクロミック膜の硬化状態は、フォトクロミック膜の厚さによっても調整することができる。フォトクロミック膜が過度に薄いと、照射した光の大部分が膜を透過し、膜全体の重合が進行するため、第一モールドと対向する面に適度な柔軟性を付与することが困難となる。また、フォトクロミック膜において色素が動き易い部分が少なくなるため、発退色の反応速度や発色濃度を向上することが困難となる。以上の点から、フォトクロミック膜の厚さは、10μm以上であることが好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。
【0085】
前述のようにフォトクロミック膜中の硬化状態を制御することによって、硬化性成分が硬化することによって形成された硬化樹脂と未硬化の硬化性成分を含むフォトクロミック膜を得ることができる。フォトクロミック膜の最表面(注型重合時のレンズ原料液と接する面)およびその近傍は、硬化樹脂を主成分として含むことが好ましく、一方、モールド表面と接触する面およびその近傍における硬化樹脂含有率は、最表面およびその近傍における硬化樹脂含有率より低いことが好ましい。こうして、入射面側に適度な柔軟性が付与されたフォトクロミックレンズを得ることができる。なお、上記の「近傍」とは、例えば、表面からフォトクロミック層内部に至る表層部で硬度が徐々に低下する領域である。
【0086】
なお、上記効果を良好に得るためには、フォトクロミック膜の硬化とレンズ基材の硬化を異なる重合反応によって行うべきである。フォトクロミック膜とレンズ基材の硬化を同種の重合反応によって行うと、レンズ基材の重合反応時にフォトクロミック膜の重合反応も進行してしまい、第二工程において適度な柔軟性を付与した面(第一モールドと対向する面)が硬化してしまい、フォトクロミック色素の動き易さが損なわれるおそれがある。具体的には、本発明では、フォトクロミック膜の硬化は光照射によって行うことが好ましく、レンズ基材の硬化は熱重合によって行うことが好ましい。
【0087】
(レンズ鋳型形成工程)
レンズ鋳型形成工程では、前記フォトクロミック液硬化処理工程において成形面にフォトクロミック膜を形成した第一モールドを、第ニモールドの他方の面と対向するように配置するとともに、これら2つのモールドの周囲に環状のガスケットを配置することにより、2つのモールドとガスケットによってキャビティを形成する。ここで、第一モールドは、フォトクロミック膜の最表面が第二モールド表面と対向するように配置される。これにより、フォトクロミック膜はキャビティ内部に位置することになる。
【0088】
前記モールド、ガスケットとしては、通常注型重合に使用されるものをそのまま使用することができるが、モールドとしては、破損及びキズをつきにくくするために化学強化処理を施したガラス製モールドを使用することが好ましい。
【0089】
第一モールド、第二モールドおよびガスケットを前記のように配置することにより構成されたレンズ鋳型の概略図を、図5に示す。以下、図3に基づいて第三工程について説明する。但し、本発明は、図5に示す態様に限定されるものではない。
【0090】
図5中、レンズ鋳型1は、レンズの前面(凸面)を形成すべく凹面側に成形面を有する凹面型である第一モールド10、レンズの後面(凹面)を形成すべく凸面側に成形面を有する凸面側に成形面を有する第二モールド11、およびガスケット12によって内部にキャビティ13が形成されている。ガスケット12は、ガスケットの外周ホルダーとして機能し、レンズの厚さを決める役割を果たす。
【0091】
第一モールドおよび第二モールドは、製造治具にて取り扱い可能な非転写面(非使用面101、111)とレンズの光学表面を転写させるための転写面(使用面102、112)を有する。使用面102、112はレンズの光学面形状および表面状態を転写する面である。使用面102上には、第二工程においてフォトクロミック膜が形成されている。
【0092】
フォトクロミック膜が酸化防止剤を含む場合には、フォトクロミック膜を形成した第一モールドに対し、キャビティ形成前にアニールを施すことが好ましい。これにより、キャビティ内でフォトクロミック膜に含まれる酸化防止剤がレンズ原料液に溶出することを防ぐことができる。アニール条件は、適宜設定することができる。
【0093】
本発明では、第一モールド表面に形成されたフォトクロミック膜の最表面に対して、前記のキャビティ形成に先立って、UVオゾンまたはプラズマによるドライエッチング処理を行うことが好ましい。前記処理を行うことにより、密着剤を使用することなく、レンズ基材とフォトクロミック膜との密着性を高めることができる。なお、フォトクロミック膜が密着剤を含まないことによって得られる効果については、前述の通りである。
【0094】
前記UVオゾン処理を施すことにより、フォトクロミック膜表面において、分子レベルで結合が切れ、親水性の高い官能基(例えば、-OH,-CHO,-COOH)が発現し、レンズ基材に含まれる物質がフォトクロミック膜成分と結合することにより、レンズ基材とフォトクロミック膜の密着性が向上すると考えられる。また、UVオゾン処理によってフォトクロミック膜に含まれる不純物が洗浄されるため、これら不純物によってレンズ基材との密着性が阻害されなくなることも、密着性向上に寄与すると考えられる。
【0095】
図6に、UVオゾン処理の一例を示す。UVオゾン処理は、図6に示すようにUVランプ下にフォトクロミック膜を形成したモールドをフォトクロミック膜が表面に位置するように配置して行うことができる。ここで、UVランプとフォトクロミック膜表面との距離は、照射エネルギーが1〜10mW/cm2程度の場合には、10〜20cmとすることが好ましい。また、処理時間は、例えば5〜600秒とすることができる。
【0096】
また、プラズマ処理の場合、処理条件としては出力100〜300W、処理時間10〜300秒が好ましい。導入ガスは特に限定されないが、大気、酸素、窒素等を使用できる。
【0097】
(注型重合工程)
注型重合工程は、前記レンズ鋳型形成工程において形成されたキャビティ内へレンズ原料液を注入し、レンズ基材の重合とレンズ基材上へのフォトクロミック膜の形成を行う工程である。
キャビティ内へ注入されるレンズ原料液は、レンズ基材を構成する各種ポリマーの原料モノマー、オリゴマーおよび/またはプレポリマーを含むことができ、共重合体を形成するために2種以上のモノマーの混合物を含むこともできる。レンズ原料液には、必要があればモノマーの種類に応じて選択した触媒を添加することもできる。また、レンズ原料液には、通常使用される各種添加剤を含むこともできる。
【0098】
前記レンズ基材としては、通常プラスチックレンズとして使用される種々の基材を用いることができる。前記レンズ基材としては、例えば、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリウレタンとポリウレアの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エン−チオール反応を利用したスルフィド樹脂、硫黄を含むビニル重合体等が挙げられる。上記中、ウレタン系が好適であるが、これらに限定されるものではない。また、前記レンズ基材は、プラスチックレンズ基材であることが好ましく、眼鏡用プラスチックレンズ基材であることが更に好ましい。
【0099】
なお、プラスチックレンズ上にフォトクロミック色素を含む塗布液を塗布し、該塗布液を硬化することによりフォトクロミック膜付きレンズを得る方法では、紫外線照射によりフォトクロミック膜を形成する場合には、レンズ基材に紫外線吸収剤が含まれると、レンズ基材側から紫外線照射を行っても、照射した紫外線の大部分はレンズ基材に吸収されてしまう。従って、この場合には、フォトクロミック膜側から紫外線照射をすることになる。しかし、この方法では、フォトクロミック膜のレンズ基材と対向する面の硬度を、他方の面より高めることは難しい。それに対し、注型重合法によれば、フォトクロミック膜に予め所望の硬化処理を施すことができるため、レンズ基材に紫外線吸収剤が含まれていても、前記基材上に所望の硬度を有するフォトクロミック膜を形成することができる。そのため、注型重合法は、レンズ基材に紫外線吸収剤を含むフォトクロミックレンズを得る方法として、特に好適である。
【0100】
前記キャビティ内へのレンズ原料液の注入およびその後の重合反応は、通常の注型重合と同様に行うことができる。本発明では、フォトクロミック膜の硬化処理を光重合によって行うことが好ましく、他方、レンズ基材の硬化処理は、熱重合によって行うことが好ましい。前述のように、フォトクロミック膜とレンズ基材の硬化処理を、同種の重合反応によって行う場合には、一方の重合反応により他方が影響を受けてしまうため、フォトクロミック膜とレンズ基材の重合状態を別個に制御することは困難となる。それに対し、光重合によって形成されたフォトクロミック膜をキャビティ内でレンズ基材上に形成する場合、レンズ基材の硬化を加熱によって行えば、この加熱によってはフォトクロミック膜の重合が進行することはないため、所定の硬化状態を維持した状態のフォトクロミック膜をレンズ基材上に形成することができる。
【0101】
レンズ基材の硬化のための加熱の条件は、レンズ原料液中の硬化性成分の種類や組成(混合物の場合)さらには触媒の種類等により適宜調整できる。
【0102】
(離型工程)
重合が完了した後に、ガスケット、第一モールド、第二モールドを取り除き、フォトクロミック膜がレンズ基材上に形成されたフォトクロミックレンズを得る。離型工程は、通常の注型重合における離型工程と同様に行うことができる。
【0103】
離型工程により得られたフォトクロミックレンズは、先に説明した保存方法により保存される。保存期間は、生産性等を考慮し適宜設定することができ、例えば0.5時間〜6ヶ月程度とすることができる。更に保存後、フォトクロミック膜最表面上にハードコートなどのコーティング膜を形成することができる。成膜工程の詳細は後述する。
【0104】
[フォトクロミックレンズの製造方法]
更に本発明は、最表面の超微小押し込み硬さが800nm以上のフォトクロミック膜とレンズ基材とを含むフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック膜の最表面がフォトクロミックレンズの最表面に位置するフォトクロミックレンズの、該最表面上にコーティング層を形成する成膜工程を含むフォトクロミックレンズの製造方法に関する。本発明のフォトクロミックレンズの製造方法では、上記成膜工程前のフォトクロミックレンズを、先に説明した本発明の保存方法により保存する。これにより、長期保存後の染み出しが低下ないしは防止されたフォトクロミック膜最表面にコーティングを形成することができ、染み出し成分とコーティング成分が反応することにより曇りや着色が生じ光学特性が低下することを防止することができる。更に前記フォトクロミック膜は、最表面が適度な柔軟性を有することにより優れた光応答性を発揮し得る。よって、本発明のフォトクロミックレンズの製造方法によれば、優れた光応答性と光学特性を兼ね備えたフォトクロミックレンズを得ることができる。
【0105】
本発明のフォトクロミックレンズの製造方法におけるフォトクロミック膜形成までの各工程および保存工程の詳細は、先に説明した通りである。
以下に、成膜工程について説明する。
【0106】
(成膜工程)
成膜工程は、前記保存工程において酸素濃度および/または湿度が低下した雰囲気中で保存されていたフォトクロミックレンズのフォトクロミック膜最表面にコーティングを形成する。コーティングとしては、ハードコート層、反射防止膜等を挙げることができる。また、ハードコート層を形成した後、その上に反射防止膜等の各種コーティングを設けることも可能である。
【0107】
前記ハードコート層の材料としては、特に限定されず、公知の有機ケイ素化合物及び金属酸化物コロイド粒子よりなるコーティング組成物を使用することができる。
前記有機ケイ素化合物としては、例えば下記一般式(III)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物が挙げられる。
(R91a'(R93b'Si(OR924-(a'+b') ・・・(III)
(式中、R91は、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基、R92は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基、R93は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基、a’およびb’はそれぞれ0または1を示す。)
【0108】
前記R92の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
前記R92の炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
前記R92の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
前記R93の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
前記R93の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
【0109】
前記一般式(III)で表される化合物の具体例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、i−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、sec−ブチルシリケート、t−ブチルシリケーテトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、3、3、3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0110】
前記金属酸化物コロイド粒子としては、例えば、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタニウム(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb25)等が挙げられ、単独又は2種以上を併用することができる。
【0111】
前記反射防止膜の材質および形成方法は特には限定されず、公知の無機酸化物よりなる単層、多層膜を使用することができる。
この無機酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ニオブ(Nb25)酸化イットリウム(Y23)等が挙げられる
【0112】
本発明の製造方法によって得られるフォトクロミックレンズにおいて、レンズ基材、および必要に応じて設けられるハードコート、反射防止膜の厚さは特に限定されないが、レンズ基材の厚さは、例えば1〜30mm、ハードコートの厚さは、例えば0.5〜10μm、反射防止膜の厚さは、例えば0.1〜5μmとすることができる。また、フォトクロミック膜の厚さについては、前述の通りである。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例により本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0114】
[実施例1](UV片面照射、脱酸素剤+乾燥剤封入)
1.フォトクロミック液の調製
プラスチック製容器にトリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性単量体100質量部に、フォトクロミック色素として下記クロメン1を3質量部、酸化防止剤としてはヒンダードアミン系光安定剤である三共ライフテック社製サノールLS765(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を0.4質量部、CGI403(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド)を0.1質量部添加した。その液を自転公転方式攪拌脱泡装置((株)シンキー製AR−250)にて2分間脱泡することで、フォトクロミック液を得た。得られた液の粘度は200mpa/sであった。
【0115】
【化26】

【0116】
2.フォトクロミック膜の形成
上記1.で得たフォトクロミック液を用いて、以下の工程によりモールド上にフォトクロミック膜を形成した。
(1)フォトクロミック液を約2g程度、清浄に洗浄されたガラスモールドの凹面側に滴下し、スピンコート法にて600回転で20秒間、コーティングを行った。
(2)その後、窒素雰囲気中で東芝ライラック製UVランプにてモールドの凹面側から紫外線を照射し、フォトクロミック液の硬化処理を行った。紫外線照射は、照射距離330mm、照射時間165秒で行った。
(3)モールド上に形成されたフォトクロミック膜の膜厚を測定すると30ミクロンであった。
(4)次にフォトクロミック膜が付いたガラスモールドを110℃×100分の加熱処理(アニール)をした後、180秒間のUVオゾン処理(メーカー:アイグラフィック社製)を行った。
【0117】
3.注型重合
フォトクロミック膜の形成が終了したモールドを使用し、以下の工程によりフォトクロミックレンズを成形した。
(1)フォトクロミック膜を形成したモールドをレンズ凸面となるよう筒状のガスケットに押し込み、レンズ凹面となる面にはフォトクロミック膜が形成されていないモールドを所定量押し込み組み付けをしてキャビティを形成した。
(2)次に、(1)にて形成されたキャビティ内に熱硬化性ウレタン系モノマーを含むレンズ原料を注入し所定の重合プログラムにて加熱重合しモノマーを硬化させた。
(3)重合が終了し硬化したレンズからモールドを離型した。このときモールドに形成されたフォトクロミック膜がレンズに転写された。
(4)フォトクロミック膜が転写されたレンズは外周部を切削後洗浄し、所定のプログラムでアニール処理をした。
以上の工程により、凸面上にフォトクロミック膜を有するメニスカス形状のフォトクロミックレンズを得た。
【0118】
4.酸素・水分低減雰囲気中保存工程
得られたフォトクロミックレンズを、レンズ保護シートでレンズの両光学面を覆うようにして挟み、レンズの凹面側のレンズ保護シートの外側に脱酸素剤と乾燥剤を配置した状態で、酸素と水分の透過を抑えたレンズ包装袋に開口部より挿入した。そして、大気中でレンズ包装袋の開口部を熱圧着により接着して包装袋を密閉した。
レンズ保護シートとしては、和紙製のシートを使用した。
レンズ包装袋は、酸素透過度がほぼ0ml/m2・atm・24hであり、水蒸気透過度がほぼ0g/m2・24hであるガスバリア性フィルムを用いて袋状に形成した。ガスバリア性フィルムとしては、レンズ包装袋として形成されたときに最も内側に位置する第1層が低密度ポリエチレン(30μm)、第2層がポリエチレン(20μm)、第3層がアルミニウム箔(7μm)、第4層がポリエチレン(13μm)、第5層がポリエチレンテレフタレート(12μm)からなる複合フィルムを使用した。密閉された状態の包装袋内のレンズを除いた容積は約30〜40mlであった。
また、脱酸素剤としては、酸素吸収量が約20mlの脱酸素剤(製造元:三菱ガス化学株式会社、商品名:エージレス、型番:Z−20PK)を使用した。
また、乾燥剤としてはシリカゲル(製造元:旭硝子エスアイテック株式会社製。成分:二酸化ケイ素98%以上、塩化コバルト0.09%)が和紙製袋に分包された物を使用した。前記脱酸素剤は自力反応型で有るため脱酸素剤中の水分供与体から水蒸気が包装袋内に蒸散するが、この蒸散される水分量および包装袋内容積から計算した必要量より過剰のシリカゲルを包装袋内に封入した。
【0119】
[実施例2](UV片面照射、真空)
1.フォトクロミック液の調製
実施例1と同じとした。
2.フォトクロミック膜の形成
実施例1と同じとした。
3.注型重合
実施例1と同じとした。
4.酸素・水分低減雰囲気中保存工程
得られたフォトクロミックレンズを、ロータリーポンプで10-1Paの圧力にした真空デシケータ中保存した。
【0120】
[実施例3](UV片面照射、窒素置換)
1.フォトクロミック液の調製
実施例1と同じとして。
2.フォトクロミック膜の形成
実施例1と同じとした。
3.注型重合
実施例1と同じとした。
4.酸素・水分低減雰囲気中保存工程
得られたフォトクロミックレンズを、窒素ガスで置換されたガス置換型デシケータ中に設置し、窒素ガスを流しながら保存した。窒素ガスは、純度99.999vol%以上、酸素1volppm以下、水分(露点−70℃以下)のものを使用した。また、デシケータ中の酸素濃度は、0.06%以下であった。
【0121】
[実施例4](UV片面照射、乾燥剤封入)
1.フォトクロミック液の調製
実施例1と同じとした。
2.フォトクロミック膜の形成
実施例1と同じとした。
3.注型重合
実施例1と同じとした。
4.酸素・水分低減雰囲気中保管工程
レンズ包装袋中に脱酸素剤を入れずに乾燥剤だけを封入した以外は、実施例1と同じとした。
【0122】
[実施例5](UV片面照射、脱酸素材封入)
1.フォトクロミック液の調製
実施例1と同じとした。
2.フォトクロミック膜の形成
実施例1と同じとした。
3.注型重合
実施例1と同じとした。
4.酸素・水分低減雰囲気中保管工程
レンズ包装袋中に乾燥剤を入れずに脱酸素剤だけを封入した以外は、実施例1と同じとした。
【0123】
[実施例6](両面UV照射、脱酸素材+乾燥剤)
1.フォトクロミック液の調製
実施例1と同じとした。
2.フォトクロミック膜の形成
実施例1の2.の(1)〜(2)までは同じとした。その後、窒素雰囲気中で東芝ライラック製UVランプにてモールドの凸面側から紫外線を照射し、フォトクロミック液の硬化処理を行った。紫外線照射は、照射距離330mm、照射時間40秒で行った。モールド上に形成されたフォトクロミック膜の膜厚を測定すると30ミクロンであった。
次にフォトクロミック膜が付いたガラスモールドを110℃×100分の加熱処理(アニール)をした後、180秒間のUVオゾン処理(メーカー:アイグラフィック社製)を行った。
3.注型重合
実施例1と同じとした。
4.酸素・水分低減雰囲気中保管工程
実施例1と同じとした。
【0124】
[実施例7](両面UV照射、真空)
フォトクロミック膜の形成を実施例6の2.と同様に両面からUV照射した以外は、実施例2と同じとした。
【0125】
[実施例8](両面UV照射、窒素置換)
フォトクロミック膜の形成を実施例6の2.と同様に両面からUV照射した以外は、実施例3と同じとした。
【0126】
[実施例9](両面UV照射、乾燥剤封入)
フォトクロミック膜の形成を実施例6の2.と同様に両面からUV照射した以外は、実施例4と同じとした。
【0127】
[実施例10](両面UV照射、脱酸素剤封入)
フォトクロミック膜の形成を実施例6の2.と同様に両面からUV照射した以外は、実施例5と同じとした。
【0128】
[比較例1](片面UV照射、空気中保管)
実施例1の1.〜3.の工程により形成したフォトクロミックレンズを空気中の暗所に保存した。保存中の温度は20℃〜25℃の範囲内、相対湿度は30〜50%の範囲内であった。
【0129】
[比較例2](両面UV照射、空気中保管)
実施例6の1.〜3.の工程により形成したフォトクロミックレンズを空気中の暗所に保存した。保存中の温度は20℃〜25℃の範囲内、相対湿度は30〜50%の範囲内であった。
【0130】
[実施例11](ハードコート層、反射防止層形成)
実施例1〜10の保存開始から2日後のレンズに対して、下記4〜6の処理を行い、ハードコート層および反射防止膜を形成した。
【0131】
4.ハードコーティング液の調製
5℃雰囲気下、変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン−酸化珪素複合体メタノールゾル45質量部とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン15質量部およびテトラエトキシシラン3質量部とを混合し、1時間攪拌した。その後、0.001モル/L濃度の塩酸4.5質量部を添加し、50時間攪拌した。その後、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)25質量部、ダイアセトンアルコール(DAA)9質量部および(C)成分であるアルミニウムトリスアセチルアセトネート(AL−AA)1.8質量部、過塩素酸アルミニウム0.05質量部を順次添加し、150時間攪拌した。得られた溶液を0.5μmのフィルターでろ過したものをコーティング組成物とした。
【0132】
5.ハードコート層の形成
実施例1で形成したフォトクロミックレンズのフォトクロミック膜表面に対して30秒間のUVオゾン処理を実施した。その後、60℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間浸漬処理して十分に純水洗浄/乾燥を行った後、前記4.で調製されたハードコーティング組成物を用いて、ディッピング法(引き上げ速度20cm/分)でコーティングを行い、110℃、60分加熱硬化することでハードコート層を形成した。
【0133】
6.反射防止膜の形成
前記5.にてハードコート層を形成したプラスチックレンズを蒸着装置に入れ、排気しながら85℃に加熱し、2.7mPa(2×10-5torr)まで排気した後、電子ビーム加熱法にて蒸着原料を蒸着させて、SiO2からなる膜厚0.6λの下地層、この下地層の上にTa25、ZrO2、Y23からなる混合層(nd=2.05、nλ=0.075λ)とSiO2層(nd=1.46、nλ=0.056λ)からなる第一屈折層、Ta25、ZrO2、Y23からからなる混合層(nd=2.05、nλ=0.075λ)とSiO2層からなる第2低屈折率層(nd=1.46、nλ=0.25λ)を形成して反射防止膜を施した。
【0134】
[フォトクロミックレンズの評価]
(1)外観検査
実施例1〜10および比較例1、2において、それぞれ保存開始から2日後、5日後、10日後、20日後、30日後に、レンズ表面を光学顕微鏡(ニコン社製OPTIPHOT2)を使って外観検査した。外観検査は、微分干渉モード200倍、観察エリア425μm×325μm内において、染み出しが生じている箇所の数を目視によりカウントした。実施例1〜5および比較例1の結果を表1に、実施例6〜10および比較例2の結果を表2に示す。なお、これら表において、染み出し箇所の数が0〜50個の場合を記号○、51〜100個の場合を記号△、101個以上の場合を記号×で表示している。また、光学顕微鏡の微分干渉モード200倍の写真を図7に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
【表2】

【0137】
上記外観評価の結果、実施例1〜10では、比較例に比べ長い時間保存しても添加剤の染み出しが少なかった。特に、脱酸素剤と乾燥剤を用いて空気中の酸素と水分の両方を低減した雰囲気中に保管した場合(実施例1、6)と、真空雰囲気中に保管した場合は(実施例2、7)は30日経過しても、染み出しは見られなかった。なお、窒素置換雰囲気中に保管した場合(実施例3、8)は、保存期間が長い場合に染み出しが生じたが、これは窒素ガス中の含まれる酸素がデシケータ中に存在していたことが原因と考えられる。また、脱酸素剤を用いて空気中の酸素を低減した雰囲気中に保存した場合(実施例5、10)は、他の実施例に比べて染み出しが生じるまでの時間は早かった。これは使用した脱酸素剤が自力反応型であるため、脱酸素剤から放出された水分が影響したためであると考えられる。なお、両面UV照射の場合(実施例6〜10)は、片面UV照射の場合(実施例1〜5)に比べ、同じ酸素・水分低減手段において、染み出しが生じにくかった。
また、実施例11では、何れのレンズもコーティング後に曇りや着色などの光学欠陥は観察されず、光学特性は良好であった。
【0138】
実施例11において、実施例1のレンズにハードコート層、および反射防止層をこの順に形成して得られたレンズについて、JIS T7333に準じた以下の方法によってフォトクロミック性の評価を行った。
得られたフォトクロミックレンズ上のフォトクロミック膜に対し、キセノンランプを用い、エアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、フォトクロミック膜表面(レンズ基材と対向する面とは反対の面)に対して光照射し、フォトクロミック膜を発色させた。この時の発色濃度について大塚電子工業製の分光光度計により550nmの透過率を測定した。上記光照射は、JIS T7333に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表3に示す値となるように行った。この数値が、小さいほどフォトクロミック性が優れていることを示す。退色速度は同様に15分間(900秒)光照射し、照射を止めた時点からの透過率(550nm)を測定した。時間と共に透過率が元に戻る速度が速いほど、フォトクロミック性が優れている。図8は、照射(0〜900秒)、照射終了(900秒)、照射終了後(900秒)のフォトクロミックレンズの光透過率(550nm)を示す。図8からわかるように、実施例1のレンズに上記コーティングを形成して得られたレンズは発退色の反応速度および発色濃度が高く、優れた光応答性を有していた。
【0139】
【表3】

【0140】
[染み出し成分の分析]
比較例1、2で保存開始から10日後のレンズ、および、実施例3、4,5で保管開始から30日後のレンズについて、それぞれフォトクロミック膜表面に染みだしている物質をマイクロニードルを用いて採取し、その採取した物質をダイヤモンドセルに載せ、フーリエ変換型顕微赤外分光光度計(島津製作所製μ−IR8000)を用いて透過法によりスペクトルを測定した。その結果、ヒンダードアミン系光安定剤であるLS765のスペクトルと一致した。この結果から、上記比較例および実施例における染み出し物質にはLS765が含まれていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、優れた光応答性と光学特性を有するフォトクロミックレンズを得ることができる。特に、本発明により得られるフォトクロミックレンズは眼鏡レンズとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】フォトクロミックレンズの概略を示す説明図である。
【図2】超微小押し込み硬さの測定方法の概略図である。
【図3】チャンバー式真空・ガス置換包装機の概略図である。
【図4】レンズの保存方法の一例を示す。
【図5】レンズ鋳型の概略図である。
【図6】UVオゾン処理の一例を示す。
【図7】保存中のフォトクロミックレンズの外観検査の結果を示す光学顕微鏡写真である。
【図8】実施例1のレンズ上にハードコート層を形成した実施例11のフォトクロミックレンズの光照射中、照射終了時、照射終了後のフォトクロミックレンズの光透過率(550nm)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面の超微小押し込み硬さが800nm以上のフォトクロミック膜とレンズ基材とを含むフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック膜の最表面がフォトクロミックレンズの最表面に位置するフォトクロミックレンズを、酸素濃度および/または湿度が低減した雰囲気下に保存するフォトクロミックレンズの保存方法。
【請求項2】
前記雰囲気は、真空雰囲気である請求項1に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
【請求項3】
前記雰囲気は、不活性ガス雰囲気である請求項1に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
【請求項4】
前記雰囲気は、脱酸素剤を含む密閉雰囲気である請求項1に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
【請求項5】
密閉雰囲気は乾燥剤を更に含む請求項4に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
【請求項6】
前記雰囲気は、乾燥剤を含む密閉雰囲気である請求項1に記載のフォトクロミックレンズの保存方法。
【請求項7】
最表面の超微小押し込み硬さが800nm以上のフォトクロミック膜とレンズ基材とを含むフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック膜の最表面がフォトクロミックレンズの最表面に位置するフォトクロミックレンズの、該最表面上にコーティング膜を形成する成膜工程を含むフォトクロミックレンズの製造方法であって、
前記成膜工程前のフォトクロミックレンズを、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により保存する、前記製造方法。
【請求項8】
前記フォトクロミック膜は、ヒンダーアミン系光安定剤を含む請求項7に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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