説明

フォトクロミックレンズの製造方法

【課題】光応答性に優れたフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズを提供すること。
【解決手段】レンズ基材上にフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズの製造方法。フォトクロミック色素および光硬化性成分を含むフォトクロミック液をレンズ基材の一方の面上に塗布し、前記フォトクロミック液に対して、少なくともレンズ基材を介して光を照射し、前記硬化性成分の少なくとも一部を硬化させることにより、最表面が800nm以上の超微小押し込み硬さを有するフォトクロミック膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答性および光学特性に優れたフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フォトクロミック染料を応用したプラスチック製フォトクロミックレンズが眼鏡用として市販されている。これらは明るい屋外で発色して高濃度のカラーレンズと同様な防眩効果を有し、室内に移ると高い透過率を回復するものである。
【0003】
フォトクロミックレンズとしては、レンズ基材上にフォトクロミック色素を含むコーティング(フォトクロミック膜)を設けたレンズが広く用いられている。一般に、上記構成のフォトクロミックレンズを製造する方法としては、レンズ基材上にフォトクロミック液を塗布した後、塗布面に対して紫外線等の光を照射することにより、フォトクロミック液に含まれる硬化性成分を硬化させる方法が用いられている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−246268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記フォトクロミック膜には、所定の光が入射するとすばやく応答して高濃度で発色し、かつ上記光がない環境下に置かれると速やかに退色することが求められる。従来、フォトクロミック膜の発退色の反応速度および発色濃度は、分子構造に起因するフォトクロミック色素固有の特性に依存すると考えられていた。そのため、特定の分子構造を有するフォトクロミック色素を使用することにより、フォトクロミック膜の光に対する応答性(反応速度および発色濃度)を改善することが検討されてきた。
【0005】
しかし、従来のフォトクロミック膜の光に対する応答性(反応速度および発色濃度)は必ずしも満足いくものではなく、光応答性の更なる改善が求められていた。
【0006】
かかる状況下、本発明は、光応答性に優れたフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。
従来、フォトクロミック膜中のフォトクロミック色素の発退色の反応速度および発色濃度は分子構造に起因するフォトクロミック色素固有の特性に依存すると考えられていた。しかし、本発明者らは検討を重ねた結果、フォトクロミック膜の光応答性に関して以下の新たな知見を得た。
(1)フォトクロミック膜を完全に硬化させずに柔軟性(流動性)を持たせれば、膜中で色素が動き易くなり発退色の反応速度および発色濃度が大きく向上する。
(2)フォトクロミックレンズにおける光応答性は、主として光が入射する物体側(入射面側)表層部において発現されるため、少なくともフォトクロミック膜の物体側表層部に存在する色素を動き易い状態としておけば、高い光応答性を得ることができる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1]レンズ基材上にフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズの製造方法であって、
フォトクロミック色素および光硬化性成分を含むフォトクロミック液をレンズ基材の一方の面上に塗布し、
前記フォトクロミック液に対して、少なくともレンズ基材を介して光を照射し、前記硬化性成分の少なくとも一部を硬化させることにより、最表面が800nm以上の超微小押し込み硬さを有するフォトクロミック膜を形成することを特徴とするフォトクロミックレンズの製造方法。
[2]レンズ基材のフォトクロミック液塗布面に対して光を照射することを更に含む、[1]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[3]前記レンズ基材を介した光照射は、前記フォトクロミック液塗布面に対する光照射よりも高い照射量で行われる[2]に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[4]前記照射される光の波長は、150〜380nmの範囲である[1]〜[3]のいずれかに記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
[5]前記レンズ基材は紫外線吸収剤を含まない[1]〜[4]のいずれかに記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた光応答性および光学特性を有するフォトクロミックレンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のフォトクロミックレンズの製造方法は、以下の工程を行うことにより、レンズ基材上にフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズを得るものである。
(工程I)フォトクロミック色素および光硬化性成分を含むフォトクロミック液をレンズ基材の一方の面上に塗布する。
(工程II)前記フォトクロミック液に対して、少なくともレンズ基材を介して光を照射し、前記硬化性成分の少なくとも一部を硬化させることにより、最表面が800nm以上の超微小押し込み硬さを有するフォトクロミック膜を形成する。
【0011】
本発明では、レンズ基材上に塗布したフォトクロミック液に対して、少なくともレンズ基材を介して光を照射することにより、最表面が800nm以上の超微小押し込み硬さを有するフォトクロミック膜を形成する。
従来のフォトクロミックレンズの製造方法では、レンズ基材上にコーティング液を塗布した後、塗布面に対して紫外線等の光を照射することにより、コーティング液に含まれる硬化性成分を硬化させていた。上記のように塗布面側から光照射が行われていたのは、従来の方法ではフォトクロミック液を硬化するためには高エネルギーの光を照射する必要があり、レンズ基材側から光照射を行うと、レンズ基材がダメージを受け光学特性が低下するからであった。
それに対し、先に説明したように、本願発明者らの検討の結果、フォトクロミック膜に適度な柔軟性(流動性)を持たせれば、膜中で色素が動き易くなり発退色の反応速度および発色濃度が大きく向上することが判明した。更に、フォトクロミック膜における光応答性は、主として光が入射する物体側表層部において発現されるため、少なくともフォトクロミック膜の物体側表層部に存在する色素を動き易い状態としておけば、高い光応答性を得ることができることも判明した。
レンズ基材上にフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズは、通常、図1に示すようにフォトクロミック膜を物体側(入射面側)に配置した状態で使用される。そこで、本発明では、使用時に物体側(入射面側)に配置されるフォトクロミック膜最表面が800nm以上の超微小押し込み硬さを有するように、少なくともレンズ基材を介して、前記フォトクロミック液に対して光を照射する。最表面が上記超微小押し込み硬さを有する適度に柔軟なフォトクロミック膜が得られる程度のエネルギーの光であれば、レンズ基材を介して照射したとしても、レンズ基材にダメージを与えることがない。しかも、フォトクロミック膜の一方の面の超微小押し込み硬さが800nm以上であれば、該面近傍でフォトクロミック色素が動き易い状態となるため、上記面を入射面側に配置することにより、高い光応答性を得ることができる。こうして、本発明によれば、レンズ基材が光照射によるダメージを受けることなく優れた光学特性を発揮するとともに、フォトクロミック膜が高い光応答性を示すフォトクロミックレンズを得ることができる。
【0012】
フォトクロミック膜最表面の超微小押し込み硬さが大きいほど、つまり最表面近傍の柔軟性(流動性)が高いほど、フォトクロミック色素が動き易くなりフォトクロミック性能の点では好ましい。但し、最表面が過度に柔軟であると面形状を保持することが困難となったり、フォトクロミック膜上にコーティング膜を設ける場合に界面で混ざり合いが生じたり、密着性が低下するおそれがある。以上の観点から、フォトクロミック膜最表面の超微小押し込み硬さは、5000nm以下であることが好ましく、4000nm以下であることが更に好ましく、3500nm以下であることがより一層好ましい。また、フォトクロミック膜最表面の超微小押し込み硬さは、好ましくは900nm以上、更に好ましくは1200nm以上、より一層好ましくは2000nm以上である。なお、前記光照射は、フォトクロミック膜最表面が上記範囲の超微小押し込み硬さを有する柔軟性を持つように光照射を行えばよく、フォトクロミック膜全体が同様の柔軟性を持つように行ってもよく、または、一方の面の硬度が他方の面の硬度より高くなるように行っても構わない。
【0013】
本発明における「超微小押し込み硬さ」とは、エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT−2100を用いて、荷重100mgfをかけることにより測定される値である。測定は、以下のように行うことができる。
超微小押し込み硬さの測定方法の概略図を図2に示す。
まず、レンズ基材上のフォトクロミック膜を基材から剥がし、測定対象面(面Aまたは面B)が最表面に位置するようにモニターガラス上に固定する。次いで、測定対象面に三角錐形状のダイヤモンド圧子(稜間隔115度)を用いて荷重100mgfをかけて垂直に押し込み、その際の膜の変位量(nm)を測定する。本発明では、この変位量(nm)を超微小押し込み硬さとする。数値が小さいほど硬度が高いことを意味し、数値が大きいほど硬度が低く柔軟であることを意味する。本発明におけるフォトクロミック膜の各面の超微小押し込み硬さの制御方法については、後述する。
【0014】
上記超微小押し込み硬さにより、測定対象面の表層部の硬さ(柔軟性)を評価することができる。同様に表層部の硬さの指標としては、インデンテーション硬さ、マルテンス硬さ、複合ヤング(Young)率も知られている。
【0015】
インデンテーション硬さは、圧子の負荷から除荷までの変位−荷重曲線から求められる値であってISO 14577に規定されている。超微小押し込み硬さと同様にエリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT−2100を用いて負荷開始から除荷までの全過程にわたって押し込み荷重P(mgf)に対応する押し込み深さh(nm)を連続的に測定し、P−h曲線を作成する。作成されたP−h曲線からインデンテーション硬さHを、下記式(1)により求めることができる。
H(mgf/μm2)=Pmax/A …(1)
[Pmax:最大荷重(mgf)、A:圧子投影面積(μm2)]
【0016】
また、複合ヤング率E*(mgf/μm2)は、上記P−h曲線から、下記式(2)により求めることができる。
【数1】

[P:荷重(mgf)、Pmax:最大荷重(mgf)、A:圧子投影面積(μm2)、h:押し込み深さ(nm)]
【0017】
マルテンス硬さも、ISO 14577に規定されている。マルテンス硬さは、荷重Fをかけて圧子を所定の押し込み量hまで押し込んだときに、荷重Fを圧子の侵入した表面積Asで除した値と定義され、塑性および弾性変形の両方の成分が含まれる。試験荷重が負荷された状態で測定される硬さであり、負荷増加時の荷重−押し込み深さ曲線の値から求めることができる。測定は、上記エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT−2100を用いて行うことができる。
【0018】
前記フォトクロミック膜最表面の硬さ(柔軟性)をインデンテーション硬さによって表すと、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.2〜10、複合ヤング率によって表すと、好ましくは1.0以上、より好ましくは3〜150、マルテンス硬さによって表すと、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2〜5である。
次に、本発明の製造方法の詳細を説明する。
【0019】
(工程I)
本工程では、フォトクロミック色素および光硬化性成分を含むフォトクロミック液をレンズ基材の一方の面に塗布する。
フォトクロミック液は、少なくともフォトクロミック色素と硬化性成分を含み、任意に重合開始剤、各種添加剤を含むことができる。各成分の詳細は後述する。
【0020】
レンズ基材表面へのフォトクロミック液の塗布は、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法等の公知の方法によって行うことができる。塗布液の粘性、面精度の点からは、スピンコート法を使用することが好ましい。また、特開2005−246268号に記載の塗布装置を用いてフォトクロミック液の塗布を行うことにより、被コーティング面の外周縁から外周面(コバ面と呼ばれる)に集まるフォトクロミック液の膜厚を均一化することができる。塗布量は、所望のフォトクロミック膜の厚さに応じて適宜調整すればよい。また、フォトクロミック液をレンズ基材上へ塗布する前に、酸、アルカリ、各種有機溶媒による化学的処理、プラズマ、紫外線、オゾン等による物理的処理、各種洗剤を用いる洗剤処理を行うことによってレンズ基材とフォトクロミック膜の着性等を向上させることができる。
【0021】
(工程II)
本工程では、レンズ基材上に塗布されたフォトクロミック液に対して、少なくともレンズ基材を介して光を照射し、フォトクロミック液に含まれる硬化性成分の少なくとも一部を硬化させることにより、レンズ基材上にフォトクロミック膜を形成する。フォトクロミック膜の硬化状態(各面の超微小押し込み硬さ)は、(1)フォトクロミック液の組成、(2)硬化条件、(3)フォトクロミック膜の厚さ、によって制御することができる。以下に、上記(1)〜(3)について順次説明する。
【0022】
(1)フォトクロミック液
フォトクロミック液は、硬化性成分、フォトクロミック色素、重合開始剤、および任意に添加される添加剤から形成することができる。以下に、各成分について説明する。
【0023】
(i)硬化性成分
フォトクロミック膜形成のために使用可能な硬化性成分は、特に限定されず、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有する公知の光重合性モノマーやオリゴマー、それらのプレポリマーを用いることができる。これらのなかでも、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基をラジカル重合性基として有する化合物が好ましい。なお、前記(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示す。
【0024】
フォトクロミック膜の硬度調整の容易さ、膜形成後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、または発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性を良好なものとするため、ラジカル重合性単量体としては、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上を示すもの(以下、高硬度モノマーと称す場合がある)と、同じく単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40以下を示すもの(以下、低硬度モノマーと称す場合がある)を併用することがより好ましい。
Lスケールロックウェル硬度とは、JIS−B7726に従って測定される硬度を意味する。各モノマーの単独重合体についてこの測定を行うことにより、前記硬度条件を満足するかどうかを簡単に判断することができる。具体的には、モノマーを重合させて厚さ2mmの硬化体を得、これを25℃の室内で1日保持した後にロックウェル硬度計を用いて、Lスケールロックウェル硬度を測定することにより容易に確認することができる。
【0025】
また、前記Lスケールロックウェル硬度の測定に供する重合体は、仕込んだ単量体の有す重合性基の90%以上が重合する条件で注型重合して得たものである。このような条件で重合された硬化体のLスケールロックウェル硬度は、ほぼ一定の値として測定される。
前記高硬度モノマーは、硬化後の硬化体の耐溶剤性、硬度、耐熱性等を向上させる効果を有する。これらの効果をより効果的なものとするためには、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が65〜130を示すラジカル重合性単量体が好ましい。
このような高硬度モノマーは、通常2〜15個、好ましくは2〜6個のラジカル重合性基を有する化合物であり、好ましい具体例としては、下記一般式(1)〜(5)で表される化合物が挙げられる。
【0026】
【化1】

(式中、R13は水素原子またはメチル基であり、R14は水素原子、メチル基またはエチル基であり、R15は3〜6価の有機基であり、fは0〜3の範囲の整数、f’はO〜3の範囲の整数、gは3〜6の範囲の整数である。)
【0027】
【化2】

(式中、R16は水素原子またはメチル基であり、Bは3価の有機基であり、Dは2価の有機基であり、hは1〜10の範囲の整数である。)
【0028】
【化3】

(式中、R17は水素原子またはメチル基であり、R18は水素原子、メチル基、エチル基またはヒドロキシル基であり、Eは環状の基を含む2価の有機基であり、iおよびjは、i+jの平均値が0〜6となる正の整数である。)
【0029】
【化4】

(式中、R19は水素原子またはメチル基であり、Fは側鎖を有していてもよい主鎖炭素数2〜9のアルキレン基である。)
【0030】
【化5】

(式中、R20は水素原子、メチル基またはエチル基であり、kは1〜6の範囲の整数である。)
【0031】
前記一般式(1)〜(4)における、R13〜R19は、いずれも水素原子またはメチル基であるため、一般式(1)〜(4)で示される化合物は2〜6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。
前記一般式(1)におけるR14は水素原子、メチル基またはエチル基である。
一般式(1)におけるR15は3〜6価の有機基である。この有機基は特に限定されるものではなく、また、その主鎖中に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素一炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。
単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上を示すためには、R15は、好ましくは炭素数1〜30の有機基であり、より好ましくはエーテル結合および/またはウレタン結合を含んでいてもよい炭素数1〜15の有機基である。
また、fおよびf’は、それぞれ独立に0〜3の範囲の整数である。また、Lスケールロックウェル硬度を60以上とするためには、fおよびf’の合計が0〜3であることが好ましい。
【0032】
前記一般式(1)で示される高硬度モノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレト、トリメチロールブロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
【0033】
前記一般式(2)におけるBは3価の有機基であり、Dは2価の有機基である。このBおよびDは特に限定されるものではなく、その主鎖中に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素−炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上であるためには、Bは炭素数3〜10の直鎖または分枝状の炭化水素から誘導される有機基であると好ましく、Dは炭素数1〜10の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素、または炭素数6〜10の芳香族炭化水素から誘導される有機基である。
また単独重合体のLスケールロックウェル硬度を60以上とするために、hは1〜10の範囲の整数であり、好ましくは1〜6の範囲の整数である。
前記一般式(2)で示される高硬度モノマーの具体的としては、分子量2,500〜3,500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB80等)、分子量6,000〜8,000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB450等)、分子量45,000〜55,000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB1830等)、分子量10,000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬社、GX8488B等)等が挙げられる。
【0034】
前記一般式(3)におけるR18は水素原子、メチル基、エチル基またはヒドロキシル基である。また式(3)におけるEは環状の基を含む2価の有機基である。この有機基は環状の基を含むものであれば特に限定されるものではなく、また、その主鎖中に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素−炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。Eに含まれる環状の基としては、ベンゼン環、シクロヘキサン環、アダマンタン環または以下に示す環状の基等が挙げられる。
【化6】

【0035】
Eに含まれる環状の基はベンゼン環であることが好ましく、さらにEは下記式:
【化7】

(Gは、酸素原子、硫黄原子、−S(O2)−、−C(O)−、−CH2−、−CH=CH−、−C(CH32−および−C(CH3)(C65)−から選ばれるいずれかの基であり、R21およびR22は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子であり、lおよびl’は、それぞれ独立に0〜4の範囲の整数である。)で示される基であるとより好ましく、最も好ましいEは下記式:
【化8】

で示される基である。
【0036】
前記一般式(3)中、iおよびjは、i+jの平均値が0〜6となる正の整数である。なお、式(3)で示される化合物は、iおよびjの双方が0である場合を除き、通常iおよびjの異なる複数の化合物の混合物として得られる。それらの単離は困難であるため、iおよびjはi+jの平均値で示される。i+jの平均値は2〜6であることがより好ましい。
一般式(3)で示される高硬度モノマーの具体的としては、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0037】
前記一般式(4)におけるR19は水素原子またはメチル基であり、Fは側鎖を有していてもよい主鎖炭素数2〜9のアルキレン基である。この主鎖炭素数2〜9のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基、ノニリレン基等が例示される。
一般式(4)で示される高硬度モノマーの具体的としては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,9−ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート等が挙げられる。
【0038】
前記一般式(5)におけるR20は水素原子、メチル基またはエチル基であり、kは2〜6の範囲の整数であり、好ましくはkは3または4である。
一般式(5)で示される高硬度モノマーの具体的としては、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
なお、前記一般式(1)〜(5)で示される化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60未満のものがあるが、その場合には、これらの化合物は後述する低硬度モノマーまたは中硬度モノマーに分類される。
また、前記一般式(1)〜(5)で示されない高硬度モノマーもあり、その代表的化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0039】
また、前記低硬度モノマーは、硬化体を強靭なものとし、またフォトクロミック化合物の退色速度を向上させる効果を有する。
このような低硬度モノマーとしては、下記一般式(6):
【化9】

(式中、R23は水素原子またはメチル基であり、R24およびR25は、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基であり、Zは酸素原子または硫黄原子であり、mはR23が水素原子の場合は1〜70の整数であり、R23がメチル基の場合は7〜70の整数でありそしてm’は0〜70の範囲の整数である。)
【0040】
または下記一般式(7):
【化10】

(式中、R26は水素原子またはメチル基であり、R27およびR28は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基またはヒドロキシル基であり、Iは環状の基を含む2価の有機基であり、i’およびj’は、i’+j’の平均値が8〜40となる整数である。)
で示される2官能モノマーや、下記一般式(8):
【0041】
【化11】

(式中、R29は水素原子またはメチル基であり、R30およびR31は、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基であり、R32は水素原子、炭素数1〜25のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数6〜25のアリール基、または炭素数2〜25の(メタ)アクリロイル基以外のアシル基であり、Zは酸素原子または硫黄原子であり、m’’はR29が水素原子の場合は1〜70の整数であり、R29がメチル基の場合は4〜70の整数であり、m’’’は0〜70の範囲の整数である。)
【0042】
または下記一般式(9):
【化12】

(式中、R33は水素原子またはメチル基であり、R34はR33が水素原子の場合には炭素数1〜20のアルキル基であり、R33がメチル基の場合には炭素数8〜40のアルキル基である。)
で示される単官能のモノマーが例示される。
【0043】
前記一般式(6)〜(9)において、R23、R26、R29およびR33は水素原子またはメチル基である。すなわち、低硬度モノマーは重合性基として、通常2個以下の(メタ)アクリロイルオキシ基または(メタ)アクリロイルチオ基を有する。
前記一般式(6)におけるR24およびR25は、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基であり、Zは酸素原子または硫黄原子である。
一般式(6)においては、R23が水素原子の場合、すなわち重合性基としてアクリロイルオキシ基またはアクリロイルチオ基を有する場合には、mは1〜70の整数であり、一方、R23がメチル基である場合、すなわち重合性基としてメタクリロイルオキシ基またはメタクリロイルチオ基を有する場合には、mは7〜70の整数である。また、m’は0〜70の範囲の整数である。
一般式(6)で示される低硬度モノマーの具体的としては、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アタリレート類が挙げられる。
【0044】
前記一般式(7)におけるR26は水素原子、メチル基またはエチル基である。
また、Iは環状の基を含む2価の有機基である。このIとしては前記式(9)に含まれる環状の基であるEとして例示されたものと同様である。式(7)におけるi’およびj’は、i’+j’の平均値が8〜40となる整数、好ましくは9〜30となる整数である。このi’およびj’も前記した式(3)におけるiおよびjと同様の理由で通常は平均値で示される。
一般式(7)で示される低硬度モノマーの具体的としては、平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン等を挙げることができる。
【0045】
前記一般式(8)におけるR29は水素原子またはメチル基であり、R30およびR31は、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基である。R32は水素原子、炭素数1〜25のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数6〜25のアリール基、または炭素数2〜25のアクリロイル基以外のアシル基である。
炭素数1〜25のアルキル基またはアルケニル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ノニル基等が挙げられる。また、これらアルキル基またはアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、さらには、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アリール基、エポキシ基等の置換基で置換されていてもよい。
炭素数1〜25のアルコキシアルキル基としては、メトキシブチル基、エトキシブチル基、ブトキシブチル基、メトキシノニル基等が挙げられる。
炭素数6〜25のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、アントラニル基、オクチルフェニル基等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基以外のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、オレイル基等が挙げられる。
一般式(8)におけるm’’は、R29が水素原子の場合、すなわちアクリロイルオキシ基またはアクリロイルチオ基を重合性基として有する場合には1〜70の範囲の整数であり、R29がメチル基の場合、すなわちメタクリロイルオキシ基またはメタクリロイルチオ基を重合性基として有する場合にはm’’は4〜70の整数であり、またm’’’は0〜70の範囲の整数である。
【0046】
一般式(8)で示される低硬度モノマーの具体的としては、平均分子量526のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量360のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量475のメチルエテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量375のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量430のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量622のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量620のメチルエーテルポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量566のポリテトラメチレングリコールメタアクリレート、平均分子量2,034のオクチルフェニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量610のノニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量640のメチルエーテルポリエチレンチオグリコールメタクリレート、平均分子量498のパーフルオロヘブチルエチレングリコールメタクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アタリレート等が挙げられる。一般式(8)で示される低硬度モノマーの平均分子量の好ましい範囲は200〜2500、より好ましくは300〜700である。なお、本発明における平均分子量は、質量平均分子量である。
【0047】
前記一般式(9)におけるR33は水素原子またはメチル基であり、R33が水素原子の場合には、R34は炭素数1〜20のアルキル基であり、R33がメチル基の場合には、R34は炭素数8〜40のアルキル基である。これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アシル基、エポキシ基等の置換基で置換されていてもよい。
一般式(9)で示される低硬度モノマーの具体的としては、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアタリレート、ブチルアタリレート、ラウリルアクリレート等を挙げることができる。
これら式(6)〜(9)で表される低硬度モノマーの中でも、平均分子量475のメチルエテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレートが特に好ましい。
前記式(6)〜(9)で示される化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40以上を示すものがあるが、その場合には、これらの化合物は前述した高硬度モノマーまたは後述する中硬度モノマーに分類される。
【0048】
前記高硬度モノマーでも低硬度モノマーでもないモノマー、すなわち、単独硬化体のLスケールロックウェル硬度が40を超え60未満を示すモノマー(中硬度モノマーと称す場合がある)として、例えば、平均分子量650のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量1,400のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド等の2官能(メタ)アタリレート;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、アリルジグリコールカーボネート等の多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸および多価チオメタクリル酸エステル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸ビフェニル等のアクリル酸およびメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸およびチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルピロリドン等のビニル化合物;オレイルメタクリレート、ネロールメタクリレート、ゲラニオールメタクリレート、リナロールメタクリレート、ファルネソールメタクリレート等の分子中に不飽和結合を有する炭化水素鎖の炭素数が6〜25の(メタ)アタリレートなどのラジカル重合性単官能単量体等が挙げられる。
【0049】
これらの中硬度モノマーを使用することも可能であり、前記高硬度モノマー、低硬度モノマーおよび中硬度モノマーは適宜混合して使用できる。硬化性組成物の硬化体の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性のバランスを良好なものとするため、前記ラジカル重合性単量体中、低硬度モノマーは5〜70質量%、高硬度モノマーは5〜95質量%であることが好ましい。さらに、配合される高硬度モノマーとして、ラジカル重合性基を3つ以上有する単量体が、その他のラジカル重合性単量体中少なくとも5質量%以上配合されていることが特に好ましい。
【0050】
前記フォトクロミック液に含まれる硬化性成分には、前記成分に加えて、分子中に少なくとも一つのエポキシ基と少なくとも一つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体(以下、単にエポキシ系モノマーと称す場合がある)が、さらに配合されていることが好ましい。このエポキシモノマーはその構造により、単独硬化体のLスケールロック硬度が60以上を示すものもあれば、40以下を示すものもある。単独重合体の硬度で分類すると、硬度に応じ高硬度モノマー、低硬度モノマー、中硬度モノマーのいずれかに分類されることになる。このエポキシ系モノマーを、硬化性成分として使用することにより、フォトクロミック色素の耐久性をより向上することができ、さらにフォトクロミック膜の密着性を向上することができる。このようなエポキシ系モノマーとしては公知の化合物を使用できるが、ラジカル重合性基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有す化合物が好ましい。
前記エポキシ系モノマーの具体例としては、下記一般式(10)で表されるモノマーを挙げることができる。
【0051】
【化13】

{式中、R35およびR38は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R36およびR37は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基、または、下記式:
【化14】

(G'は、酸素原子、硫黄原子、-S(O2)-、-C(O)-、-CH2-、-CH=CH-、-C(CH3)2-および-C(CH3)(C6H5)-から選ばれるいずれかの基であり、R39およびR40は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基またはハロゲン原子であり、l''およびl'''は、それぞれ独立に0〜4の整数である。)で示される基である。}
【0052】
前記R36およびR37で示される炭素数1〜4のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン差等が挙げられる。またこれらアルキレン基は、ヒドロキシル基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい。
また、R36および/またはR37が下記式:
【化15】

で表される基の場合、G'は、酸素原子、硫黄原子、-S(O2)-、-C(O)-、-CH2-、-CH=CH-、-C(CH3) 2-および-C(CH3)(C6H5)-から選ばれるいずれかの基であり、R39およびR40は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基または塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子であり、l''およびl'''は、それぞれ独立に0〜4の整数である。
上記式で表される基としては、下記式:
【化16】

で示される基が最も好ましい。
【0053】
一般式(10)で示されるエポキシ系モノマーの具体的としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β-メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA-モノグリシジルエーテル-メタクリレート、4-グリシジルオキシメタクリレート、3-(グリシジル-2-オキシエトキシ)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-(グリシジルオキシ-1-イソプロピルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-グリシジルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、平均分子量540のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でもグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートおよび平均分子量40のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレートが特に好ましい。
これらエポキシ系モノマーを使用する場合、その配合割合は、硬化性成分中、通常0.01〜30質量%であり、0.1〜20質量%であることが好適である。
【0054】
(ii)フォトクロミック色素
フォトクロミック液に添加し得るフォトクロミック色素としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物が挙げられ、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を特に制限なく使用することができる。
前記フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物およびクロメン化合物としては、例えば、特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号明細書、WO96/14596号明細書などに記載されている化合物が好適に使用できる。
また、優れたフォトクロミック性を有する化合物として、例えば、特開2001−114775号公報、特開2001−031670号公報、特開2001−011067号公報、特開2001−011066号公報、特開2000−347346号公報、特開2000−34476号公報、特開2000−3044761号公報、特開2000−327676号公報、特開2000−327675号公報、特開2000−256347号公報、特開2000−229976号公報、特開2000−229975号公報、特開2000−229974号公報、特開2000−229973号公報、特開2000−229972号公報、特開2000−219687号公報、特開2000−219686号公報、特開2000−219685号公報、特開平11−322739号公報、特開平11−286484号公報、特開平11−279171号公報、特開平10−298176号公報、特開平09−218301号公報、特開平09−124645号公報、特開平08−295690号公報、特開平08−176139号公報、特開平08−157467号公報等に開示された化合物も好適に使用することができる。
【0055】
これらフォトクロミック化合物の中でも、クロメン系フォトクロミック化合物は、フォトクロミック特性の耐久性が他のフォトクロミック化合物に比べ高く、さらにフォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の向上が他のフォトクロミック化合物に比べて特に大きいため特に好適に使用することができる。さらに、これらクロメン系フォトクロミック化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、本発明によるフォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の向上が他のクロメン系フォトクロミック化合物に比べて特に大きいため好適に使用することができる。
【0056】
さらに、その発色濃度、退色速度、耐久性等の各種フォトクロミック特性が特に良好なクロメン化合物としては、下記一般式(12)で表されるものが好ましい。
【化17】

【0057】
{式中、下記一般式(13):
【化18】

で示される基は、置換もしくは非置換の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の不飽和複素環基であり、R43、R44およびR45は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、アラルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、置換もしくは非置換のアリール基、ハロゲン原子、アラルキル基、ヒドロキシル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とピラン環もしくは前記式(13)で示される基の環とが結合する置換もしくは非置換の複素環基、または該複素原基に芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、oは0〜6の範囲の整数であり、
41およびR42は、それぞれ独立に、下記一般式(14)、
【化19】

(式中、R46は、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、R47は、水素原子、アルキル基、またはハロゲン原子であり、pは1〜3の範囲の整数である。)で示される基、下記一般式(15):
【化20】

(式中、R48は、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、p’は1〜3の整数である。)で示される基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、またはアルキル基であるか、あるいはR41とR42とが一緒になって、脂肪族炭化水素環もしくは芳香族炭化水素環を構成していてもよい。]
なお、前記一般式(14)、(15)、前記R41およびR42にて説明した置換アリール基および置換ヘテロアリール基における置換基としては、前記R43〜R44と同様の基が挙げられる。
【0058】
前記一般式(12)で示されるクロメン化合物のなかでも、発色濃度、退色速度等のフォトクロミック特性および耐久性の点から、下記一般式(16)〜(21)で示される化合物が特に好適である。
【化21】

(式中、R49およびR50は、それぞれ前記一般式(12)のR41およびR42と同様であり、R51およびR52は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、qおよびq’は、それぞれ1または2である。)
【0059】
【化22】

{式中のR53およびR54は、それぞれ前記一般式(12)のR41およびR42と同様であり、R55およびR56は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、Lは下記式:
【化23】

(上記式中、Pは、酸素原子または硫黄原子であり、R57は、炭素数1〜6のアルキレン基であり、s、s’およびs’’は、いずれも1〜4の整数である。)で示されるいずれかの基であり、rおよびr’は、それぞれ独立に1または2である。}
【0060】
【化24】

(式中、R58およびR59は、それぞれ前記式(12)のR41およびR42と同様であり、R60、R61およびR62は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、vは1または2である。)
【0061】
【化25】

(式中、R63およびR64は、それぞれ前記式(12)のR41およびR42と同様であり、R65およびR66は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、wおよびw’は、それぞれ独立に1または2である。)
【0062】
【化26】

(式中、R67およびR68は、それぞれ前記式(12)のR41およびR42と同様であり、R69、R70、R71およびR72は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、xおよびx’は、それぞれ独立に1または2である。)
【0063】
【化27】

(式中、R73およびR74は、それぞれ前記式(12)のR41およびR42と同様であり、R75、R76およびR77は、それぞれ前記式(12)のR45と同様であり、
【化28】

は、少なくとも1つの置換基を有してもよい脂肪族炭化水素環であり、y、y’およびy’’は、それぞれ独立に1または2である。]
【0064】
上記一般式(16)〜(21)で示されるクロメン化合物の中でも、下記構造のクロメン化合物が特に好ましい。
【化29】

【0065】
これらフォトクロミック化合物は適切な発色色調を発現させるため、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。
【0066】
本発明では、フォトクロミック液中のフォトクロミック色素濃度によってフォトクロミック膜の硬化状態を制御することができる。光重合により硬化反応を行う場合、重合のために光照射を行うと、その光に応答してフォトクロミック色素が発色するため、重合用に照射された光の膜内部への透過が抑制される。これにより、重合用に照射された光が入射する面では硬化反応が良好に進行し、高い硬度を得ることができ、他方の面での硬化反応の進行を抑えることができる。上記の効果を得るためには、フォトクロミック液中のフォトクロミック色素の濃度は、前記硬化性成分100質量部(ラジカル重合性単量体等)に対して、0.01〜20質量部とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることが更に好ましい。
【0067】
(iii)重合開始剤
フォトクロミック液に添加する重合開始剤は、公知の光重合開始剤から適宜選択することができる。
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられ、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイドが好ましい。
これら光重合開始剤は、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。光重合開始剤のフォトクロミック液全量に対する配合量としては、前記硬化性成分100質量部(ラジカル重合性単量体等)に対して、通常0.001〜5質量部であり、0.1〜1質量部であると好ましい。
【0068】
(iv)各種添加剤
前記フォトクロミック液に、片末端にエポキシ基を有する有機ケイ素化合物を配合することにより、フォトクロミック膜とレンズ基材の密着性を高めることができる。
前記有機ケイ素化合物としては、シラノール基を有する化合物、または加水分解によりシラノール基を生成する基を有する化合物であって、例えば、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物が挙げられる。
(R81a(R83bSi(OR824-(a+b) ・・・(I)
(式中、R81はエポキシ基を有する有機基、R82は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基、R83は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基、aは1、bは0または1を示す。)
【0069】
前記R81のエポキシ基を有する有機基としては、例えば、エポキシ基、グリシドキシ基(α-グリシドキシ基、β-グリシドキシ基、γ-グリシドキシ基、δ-グリシドキシ基等)、3、4-エポキシシクロヘキシル基等が挙げられる。
前記R82の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
前記R82の炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
前記R82の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
前記R83の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
前記R83の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
【0070】
前記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3、4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3、4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ-(3、4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ-(3、4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ-(3、4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ-(3、4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン等が挙げられ、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシランが好ましい。
前記有機ケイ素化合物のフォトクロミック液全量に対する配合量は、硬化性成分100質量部に対して、通常0.1〜1質量部であり、1.0〜10質量部であると好ましい。
【0071】
前記フォトクロミック液に、片末端にラジカル重合性官能基を有する有機ケイ素化合物を配合することにより、フォトクロミック膜の膜強度を向上することができる。
前記有機ケイ素化合物は、シラノール基を有する化合物、または加水分解によりシラノール基を生成する基を有する化合物であって、例えば、下記一般式(II)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物が挙げられる。
(R84c(R86dSi(OR854-(c+d) ・・・(II)
(式中、R84はラジカル重合性官能基を有する有機基、R85は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基、R86は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基、cは1、dは0または1を示す。)
【0072】
前記R84のラジカル重合性官能基を有する有機基としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が挙げられ、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましい。
前記R85の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
前記R85の炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
前記R85の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基トリル基等が挙げられる。
前記R86の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
前記R86の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基トリル基等が挙げられる。
【0073】
前記一般式(II)で表される化合物の具体例としては、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタクリロキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン等が好ましい。
前記有機ケイ素化合物のフォトクロミック液全量に対する配合量は、硬化性成分100質量部に対して、通常0.1〜15質量部であり、1.0〜10質量部であると好ましい。
【0074】
前記フォトクロミック液には、アミン化合物を配合することもできる。アミン化合物を配合することにより、フォトクロミック膜とレンズ基材の密着性を大きく向上させることができる。
前記アミン化合物としては、前記硬化性成分の縮合、または付加触媒として機能する塩基性の化合物であれば、公知のアミン化合物が何ら制限なく使用できる。
【0075】
前記アミン化合物として必要な機能を発揮しないアミン化合物としては、例えば下記基:
【化30】

(上記基中、R01は水素原子またはアルキル基であり、R02、R03、R04およびR05は、それぞれ同一または異なるアルキル基である)
で表されるアミノ基のみをアミノ基として有するヒンダードアミン化合物が挙げられる。
【0076】
密着性向上のために使用できるアミン化合物の具体例としては、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4-ジメチルアミノベンゾフェノン、ジアザピシクロオクタン等の非重合性低分子系アミン化合物、N,N-ジメチルアミノエチルメタアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタアクリレート等の重合性基を有するアミン化合物、n-(ヒドロキシエチル)-N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシフェニル-2-ピペリジノエトキシシラン、N,N-ジエチルアミノメチルトリメチルシラン、(N,N-ジエチル-3-アミノプロピル)トリメトキシシラン等のシリル基を有するアミン化合物が挙げられる。
これらのアミノ化合物の中でも、密着性向上の観点より、水酸基を有するもの、ラジカル重合性基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有するもの、あるいは加水分解によりシラノール基を生成可能な基を有するアミン化合物が好ましい。
【0077】
例えば、下記一般式(11):
【化31】

{式中、R06は水素原子または炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R07は水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基または加水分解によりシラノール基を生成可能な基であり、R08は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基または加水分解によりシラノール基を生成可能な基であり、A'は炭素数2〜6のアルキレン基、A''はR08が水素原子またはアルキル基の場合には炭素数1〜6のアルキレン基、R08が水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基または加水分解によりシラノール基を生成可能な基である場合には炭素数2〜6のアルキレン基を示す。}
で示されるアミン化合物が、塩基性が強く、密着性向上効果の高いアミン化合物としてより好適である。
【0078】
一般式(11)中のR07およびR08における、加水分解によりシラノール基を生成可能な基とは、前記有機ケイ素化合物で定義した基と同義である。
これらアミン化合物は単独または数種混合して使用することができる。前記アミン化合物の配合量は、硬化性成分100質量部に対して0.01〜20質量部とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることが更に好ましい。
【0079】
前記フォトクロミック液には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0080】
前記界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、重合性単量体への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等である。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用してもよい。界面活性剤の添加量は、前記重合性成分100質量部に対し、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0081】
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用してもよい。さらにこれらの非重合性化合物の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用してもよい。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、前記重合性成分100質量部に対し、0.001〜20質量部の範囲が好ましい。
【0082】
前記安定剤の中でも、硬化させる際のフォトクロミック色素の劣化防止、または得られたフォトクロミック膜の耐久性向上の観点から好ましい安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤が挙げられる。ヒンダードアミン光安定剤としては、前述したアミン化合物から除かれる化合物として記載したヒンダードアミン化合物として定義した化合物であれば、公知の化合物を何ら制限なく用いることができる。その中でも、塗布用に用いる場合、特に、フォトクロミック色素の劣化防止効果を発現する化合物としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、旭電化工業(株)製アデカスタブLA−52、LA−62、LA−77、LA−82等を挙げることができる。その添加量は、前記重合性成分100質量部に対し、例えば0.001〜20質量部の範囲であり、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、より好適には、1〜10質量部の範囲である。
【0083】
また、フォトクロミック液においては、成膜時の均一性を向上させるために、界面活性剤、レベリング剤等を含有させることが好ましく、特にレベリング性を有するシリコーン系・フッ素系レベリング剤を添加することが好ましい。その添加量としては、特に限定されないが、フォトクロミック液全量に対し、通常0.01〜1.0質量%であり、0.05〜0.5質量%の範囲が好ましい。
【0084】
本発明において、フォトクロミック液の調製方法は特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合することにより行うことができる。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよいし、モノマー成分のみを予め混合し、重合させる直前にフォトクロミック色素や他の添加剤を添加・混合してもよい。
前記フォトクロミック液は、25℃での粘度が20〜500cpであることが好ましく、50〜300cpであることがより好ましく、60〜200cpであることが特に好ましい。この粘度範囲とすることにより、フォトクロミック液の塗布が容易となり、所望の厚さのフォトクロミック膜を容易に得ることができる。
【0085】
(2)硬化条件
前記のようにレンズ基材上にフォトクロミック液を塗布した後、フォトクロミック液に対して光を照射し、フォトクロミック液の少なくとも一部を硬化させ、最表面が1200nm以上の超微小押し込み硬さを有するフォトクロミック膜を形成する。この際の光照射条件を調整することによって、得られるフォトクロミック膜の硬化状態を制御することができる。
【0086】
照射する光は、フォトクロミック液に含まれる重合開始剤に応じて選択すればよいが、前述のように、フォトクロミック色素の発色により硬化反応を制御するためには、フォトクロミック色素が応答する波長の光、例えば波長150〜380nmの光、好ましくは紫外線(波長200〜380nm程度)を使用することができる。但し、レンズ基材としては、硬化反応を進行し得る程度に、照射される光に対して透過性を有するものを使用する。例えば、照射光として紫外線を使用する場合、紫外線吸収剤を含むレンズ基材を介して紫外線を照射すると、照射した紫外線の大部分はレンズ基材に吸収されてしまうため、レンズ基材と対向するフォトクロミック膜表面を接着性が確保できる程度に硬化させることが困難となる。よって、この場合はレンズ基材として紫外線吸収剤を含まないものを使用することが好ましい。
【0087】
紫外線の光源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク、殺菌灯、無電極ランプ等の公知の光源を使用することができる。光源と照射面との距離、照射エネルギー、照射時間は、フォトクロミック液の組成や塗布量を考慮して調整することが好ましい。具体的には、レンズ基材を介した光照射の照射エネルギーは1〜100J/cm2とすることができ、1〜75J/cm2することが好ましい。光源とレンズ基材と対向する面の距離は、レンズ基材の厚さを考慮して適宜設定すればよく、例えば100〜300mmとすることができる。また、照度は100〜250mW/cm2、照射時間は10〜400秒とすることができる。照射時間に関しては10〜300秒であるとさらに好適である。こうして、レンズ基材と対向する面近傍は適度に硬化し、かつ内部が未硬化状態であって、一方の面(最表面)に適度な柔軟性が付与されたフォトクロミック膜を得ることができる。なお、硬化効率を上げるために、光照射を不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0088】
本発明では、レンズ基材を介した光照射に加えて、レンズ基材のフォトクロミック液塗布面に対する光照射を行うこともできる。これにより、フォトクロミック膜最表面の硬度を調整し、フォトクロミック膜の耐久性を確保することができる。但し、フォトクロミック膜最表面の超微小押し込み硬さが1200nm以上となるように、レンズ基材を介した光照射を、フォトクロミック液塗布面に対する光照射よりも高い照射量で行うことが好ましい。フォトクロミック液塗布面に対する光照射は、例えば0.1〜30J/cm2の照射量で行うことができる。
また、後述するようにフォトクロミック膜上にハードコートや反射防止膜を設ける場合には、それらによってフォトクロミック膜表面が保護されるため、最表面に対する光照射を行うことなく耐久性を確保することができる。
【0089】
(3)フォトクロミック膜の厚さ
フォトクロミック膜の硬化状態は、フォトクロミック膜の厚さによっても調整することができる。フォトクロミック膜が過度に薄いと、照射した光の大部分が膜を透過し、膜全体の重合が進行するため、フォトクロミック膜最表面に適度な柔軟性を付与することが困難となる。また、フォトクロミック膜において色素が動き易い部分が少なくなるため、発退色の反応速度や発色濃度を向上することが困難となる。以上の点から、フォトクロミック膜の厚さは、10μm以上であることが好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。
【0090】
レンズ基材
前記レンズ基材は、通常プラスチックレンズとして使用される種々の基材を用いることができる。前記レンズ基材としては、例えば、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリウレタンとポリウレアの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エン−チオール反応を利用したスルフィド樹脂、硫黄を含むビニル重合体等が挙げられる。上記中、ウレタン系が好適であるが、これらに限定されるものではない。また、前記レンズ基材は、プラスチックレンズ基材であることが好ましく、眼鏡用プラスチックレンズ基材であることが更に好ましい。なお、前述のように、フォトクロミック液に対して紫外線を照射する場合、紫外線吸収剤を含まないレンズ基材を使用することが好ましい。前記レンズ基材としては、フォトクロミック膜形成のために照射される光(例えば紫外線)に対する透過率が、例えば85〜95%程度のものを使用することができる。
【0091】
ハードコート、反射防止膜
前記フォトクロミックレンズには、フォトクロミック膜上に、ハードコート層を形成することができる。更に、このハードコート層上に、反射防止膜を形成こともできる。
このハードコート層の材料としては、特に限定されず、公知の有機ケイ素化合物及び金属酸化物コロイド粒子よりなるコーティング組成物を使用することができる。
前記有機ケイ素化合物としては、例えば下記一般式(III)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物が挙げられる。
(R91a'(R93b'Si(OR924-(a'+b') ・・・(III)
(式中、R91は、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基、R92は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基、R93は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基、a’およびb’はそれぞれ0または1を示す。)
【0092】
前記R92の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
前記R92の炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
前記R92の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
前記R93の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
前記R93の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
【0093】
前記一般式(III)で表される化合物の具体例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、i−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、sec−ブチルシリケート、t−ブチルシリケーテトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、3、3、3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0094】
前記金属酸化物コロイド粒子としては、例えば、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタニウム(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb25)等が挙げられ、単独又は2種以上を併用することができる。
【0095】
前記反射防止膜の材質および形成方法は特には限定されず、公知の無機酸化物よりなる単層、多層膜を使用することができる。
この無機酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ニオブ(Nb25)酸化イットリウム(Y23)等が挙げられる
【0096】
前記ハードコート、反射防止膜は、レンズ基材上に形成されたフォトクロミック膜上に、公知の方法で形成することができる。前記レンズ基材、および必要に応じて設けられるハードコート、反射防止膜の厚さは特に限定されないが、レンズ基材の厚さは、例えば1〜30mm、ハードコートの厚さは、例えば0.5〜10μm、反射防止膜の厚さは、例えば0.1〜5μmとすることができる。また、フォトクロミック膜の厚さについては、前述の通りである。
【実施例】
【0097】
以下に、実施例により本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0098】
[実施例1]
1.フォトクロミック液の調製
プラスチック製容器にトリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性単量体100質量部に、フォトクロミック色素として下記クロメン1を3質量部、酸化防止剤としてLS765(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を0.4質量部、CGI403(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド)を0.1質量部添加した。その液に、密着剤として、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)4.8質量部、ラジカル重合性官能基を有する有機ケイ素化合物としてγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.6質量部を攪拌しながら滴下した。十分に攪拌した後、N−メチルジエタノールアミン1.4質量部を秤量滴下し、さらに十分に攪拌混合を行った。その後、シリコーン系レベリング剤Y−7006(ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマー:日本ユニカー(株)製)を0.1質量部添加混合した後、自転公転方式攪拌脱泡装置((株)シンキー製AR−250)にて2分間脱泡することで、フォトクロミック液を得た。得られた液の粘度は140mPa・sであった。
【0099】
【化32】

【0100】
2.フォトクロミックレンズの形成
プラスチックレンズ基材としてHOYA(株)製 商品名EYAS(中心肉厚2.0mm厚)から紫外線吸収剤を除いたレンズを使用した。このレンズ基材を60℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間浸漬処理して十分に純水洗浄、乾燥を行った後、上記1.で調製したフォトクロミック液を用いて、スピンコート法で基材凸面側にコーティングを行った。
その後、窒素雰囲気中で東芝ライラック製UVランプ(波長150〜380nm)にてレンズの凹面側から光照射し、フォトクロミック膜の硬化処理を行った。照射距離(レンズ基材と対向するフォトクロミック膜表面と光源の距離)は330mm、照射時間は185秒で行った。フォトクロミック膜の膜厚を測定すると30ミクロンであった。得られたフォトクロミック膜について、下記方法により物体側表面の硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
(i)超微小押し込み硬さ
前記方法にて、実施例1のフォトクロミック膜の物体側表面の超微小押込み硬さを測定した。
【0102】
(ii)インデンテーション硬さ
エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT−2100を用いて、荷重100mgfを加え、負荷開始から除荷までの全過程にわたって押し込み荷重P(mgf)に対応する押し込み深さh(nm)を連続的に測定し、P−h曲線を作成した。作成したP−h曲線からインデンテーション硬さHを、前述の式(1)により求めた。
【0103】
(iii)複合ヤング率
上記(ii)で作成したP−h曲線から、前述の式(2)によって複合ヤング率を求めた。
【0104】
(iv)マルテンス硬さ
エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT−2100を用いて、荷重100mgfをかけて圧子を押し込んだ。このときに圧子の侵入した表面積を押し込み深さから測定し、「荷重/圧子の侵入した表面積」としてマルテンス硬さを求めた。
【0105】
[実施例2]
フォトクロミック膜硬化処理時の光照射時間を80秒にした以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミックレンズを形成した。フォトクロミック膜の膜厚を測定すると30ミクロンであった。得られたフォトクロミック膜について、下記方法により物体側表面の硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
[実施例3]
フォトクロミック膜硬化処理時の光照射時間を320秒にした以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミックレンズを形成した。フォトクロミック膜の膜厚を測定すると30ミクロンであった。得られたフォトクロミック膜について、下記方法により物体側表面の硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
[実施例4]
レンズ凹面側からの光照射を165秒行った後、窒素雰囲気中で東芝ライラック製UVランプにてレンズの凸面側(フォトクロミック液塗布面側)から光照射(照射距離330mm、照射時間40秒)し、フォトクロミック膜の硬化処理を行った以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミックレンズを得た。フォトクロミック膜の膜厚を測定すると30ミクロンであった。得られたフォトクロミック膜について、下記方法により物体側表面の硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例5](ハード層、反射防止層形成)
実施例1〜4で形成した凸面上にフォトクロミック膜を有するメニスカス形状のフォトクロミックレンズに対して下記4.5の処理を行い、ハードコート層および反射防止膜を形成した。
【0109】
4.ハードコーティング液の調製
5℃雰囲気下、変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン−酸化珪素複合体メタノールゾル45質量部とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン15質量部およびテトラエトキシシラン3質量部とを混合し、1時間攪拌した。その後、0.001モル/L濃度の塩酸4.5質量部を添加し、50時間攪拌した。その後、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)25質量部、ダイアセトンアルコール(DAA)9質量部および(C)成分であるアルミニウムトリスアセチルアセトネート(AL−AA)1.8質量部、過塩素酸アルミニウム0.05質量部を順次添加し、150時間攪拌した。得られた溶液を0.5μmのフィルターでろ過したものをコーティング組成物とした。
【0110】
5.ハードコート層の形成
実施例1で形成したフォトクロミックレンズのフォトクロミック膜表面に対して30秒間のUVオゾン処理を実施した。その後、60℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間浸漬処理して十分に純水洗浄/乾燥を行った後、前記4.で調製されたハードコーティング組成物を用いて、ディッピング法(引き上げ速度20cm/分)でコーティングを行い、110℃、60分加熱硬化することでハードコート層を形成した。
【0111】
6.反射防止膜の形成
前記5.にてハードコート層を形成したプラスチックレンズを蒸着装置に入れ、排気しながら85℃に加熱し、2.7mPa(2×10-5torr)まで排気した後、電子ビーム加熱法にて蒸着原料を蒸着させて、SiO2からなる膜厚0.6λの下地層、この下地層の上にTa25、ZrO2、Y23からなる混合層(nd=2.05、nλ=0.075λ)とSiO2層(nd=1.46、nλ=0.056λ)からなる第一屈折層、Ta25、ZrO2、Y23からからなる混合層(nd=2.05、nλ=0.075λ)とSiO2層からなる第2低屈折率層(nd=1.46、nλ=0.25λ)を形成して反射防止膜を施した。
以上の工程により、レンズ基材の凸面上にフォトクロミック膜、ハードコート層、および反射防止層をこの順に有するフォトクロミックレンズを得た。
【0112】
[参考例]
プラスチックレンズ基材としてポリチオウレタン(HOYA(株)製 商品名EYAS(紫外線吸収剤含有)、中心肉厚2.0mm厚)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で基材凸面側にフォトクロミック液をコーティングした。
その後、窒素雰囲気中で東芝ライラック製UVランプにてレンズの凸面側(フォトクロミック液塗布面側)から光照射し、フォトクロミック膜を硬化させた。照射距離は330mm、照射時間は165秒で行った。硬化膜の膜厚を測定すると30ミクロンであった。
さらに、110℃、100分間硬化を行い、フォトクロミック膜を有するプラスチックレンズを得た。得られたフォトクロミック膜について前記方法によって物体側表面の硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
調光性能の評価(透過率の変化)
JIS T7333に準じた以下の方法によってフォトクロミック性の評価を行った。実施例1〜4および参考例で得られたフォトクロミックレンズ上のフォトクロミック膜に対し、キセノンランプを用い、エアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、フォトクロミック膜表面(レンズ基材と対向する面とは反対の面)に対して光照射し、フォトクロミック膜を発色させた。この時の発色濃度について大塚電子工業製の分光光度計により550nmの透過率を測定した。上記光照射は、JIS T7333に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表2に示す値となるように行った。退色速度は同様に15分間(900秒)光照射し、照射を止めた時点からの透過率(550nm)を測定した。時間と共に透過率が元に戻る速度が速いほど、フォトクロミック性が優れている。結果を図3に示す。図3は、照射(0〜15分)、照射終了(15分)、照射終了後(15分〜)のフォトクロミックレンズの光透過率(550nm)を示す。
【0115】
【表2】

【0116】
図3に示すように、実施例1〜4のレンズは照射開始後および照射終了後直ちに透過率が大きく変化した。これは、発退色の反応速度が高いことを示す。さらに、照射終了後には実施例1〜4のレンズは参考例のレンズと比べて透過率が早く元に戻り、優れたフォトクロミック性を有していた。以上の結果からわかるように、実施例1〜4のレンズは、優れた光応答性を有していた。
また、実施例1〜4のレンズを目視で観察したところ、レンズ基材の透明性はフォトクロミック膜形成前と同様に良好であった。この結果から、本発明によれば、レンズ基材にダメージを与えることなく、フォトクロミック膜を形成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、優れた調光性能および光学特性を有するフォトクロミックレンズを提供することができる。本発明により得られるフォトクロミックレンズは、眼鏡レンズとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】レンズ基材上にフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズの一例を示す。
【図2】超微小押し込み硬さの測定方法の概略図を示す。
【図3】実施例1〜4および参考例で得られたフォトクロミックレンズ上のフォトクロミック膜の発色濃度、発退色速度の測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材上にフォトクロミック膜を有するフォトクロミックレンズの製造方法であって、
フォトクロミック色素および光硬化性成分を含むフォトクロミック液をレンズ基材の一方の面上に塗布し、
前記フォトクロミック液に対して、少なくともレンズ基材を介して光を照射し、前記硬化性成分の少なくとも一部を硬化させることにより、最表面が800nm以上の超微小押し込み硬さを有するフォトクロミック膜を形成することを特徴とするフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項2】
レンズ基材のフォトクロミック液塗布面に対して光を照射することを更に含む、請求項1に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項3】
前記レンズ基材を介した光照射は、前記フォトクロミック液塗布面に対する光照射よりも高い照射量で行われる請求項2に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記照射される光の波長は、150〜380nmの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記レンズ基材は紫外線吸収剤を含まない請求項1〜4のいずれか1項に記載のフォトクロミックレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−58932(P2008−58932A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25900(P2007−25900)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】