説明

フォトクロミックレンズ

【課題】フォトクロミック特性を有する積層体を、透明な合成樹脂中に埋設したフォトクロミックレンズであって、優れた密着性、フォトクロミック性を示すフォトクロミックレンズを提供する。
【解決手段】互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム3との間に、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層2を有するフォトクロミック積層体4と、少なくとも一方の該光学シート又は光学フィルムの上に合成樹脂層6を有するフォトクロミックレンズであって、該光学シート又は光学フィルムと合成樹脂層との間に、水分散性ポリマーなどの高分子ポリマーからなる塗膜層5を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により吸収スペクトルが可逆的に変化する現象、すなわちフォトクロミズムを付与した新規なフォトクロミックレンズに関する。具体的には、特定の塗膜層を介してフォトクロミック積層体と合成樹脂とが接合された、フォトクロミック特性、接合性に優れた新規なフォトクロミックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡レンズにおいては、防眩性を有するサングラスの需要が急速に高まっている。このサングラスの母材としては、ガラス製レンズに比べて軽量であること、および割れ難さの点で安全性が高いことから、プラスチック製レンズが使用されるようになってきている。そして、このようなプラスチック製サングラスには、フォトクロミック化合物を含有させることによって、周囲の明るさに応じて透過率が変化して防眩性を調節できる、フォトクロミックレンズが適用されている。
【0003】
このようなプラスチック製のフォトクロミックレンズは、様々な方法で製造されている。具体的には、プラスチックレンズの表面にフォトクロミック化合物を含むコーティング組成物を塗布する方法、プラスチックレンズの材質自体にフォトクロミック化合物を混合し、レンズを形成する方法などが挙げられる。
【0004】
また、母材となるプラスチック材料の特性を損なうことなく、安価にフォトクロミック特性を付与できる方法として、下記のような手法も検討されている。つまり、フォトクロミック化合物を接着性ポリウレタン樹脂中に分散させて接着シートを形成し、該接着シートに、ポリカーボネート樹脂のような光学シートを積層したフォトクロミック積層体を使用する方法である。このフォトクロミック積層体を使用する方法としては、該積層体に、熱可塑性樹脂を射出成型により積層してフォトクロミックレンズを製造する方法が知られている。また、機能性のレンズを容易に製造できるという点で、重合して熱硬化性樹脂を形成するモノマー組成物中に該積層体を埋設し、該モノマー組成物を重合することにより、フォトクロミックレンズを製造する方法が知られている。このモノマー組成物を使用する方法は、比較的低温でフォトクロミックレンズを製造することができ、また、モノマーの種類を変えることによって、様々な機能をレンズに付与することができため、多くの検討がなされている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
しかしながら、従来の方法では、以下の点で改善の余地があった。例えば、特許文献1、及び2に記載された方法によって得られるプラスチックレンズでは、母材となる熱硬化性樹脂(合成樹脂)と光学シートとの密着性、及び光学シートとフォトクロミック層(接着シート)との密着性が十分ではない場合があり、フォトクロミックレンズ成形後に、剥離等の問題が生じることがあった。さらに、使用する光学シートによっては耐薬品性が十分ではないため、モノマー組成物を重合して熱硬化性樹脂(母材)を形成する際、白化や黄変といった外観不良が生じるといった問題があった。
【0006】
このような問題を解決するため、特許文献3に記載された方法では、光学シートの耐薬品(溶剤)性や密着性改良のために、該光学シート表面に塗膜層を積層させている。そして、特許文献3には、具体的な塗膜層として、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートからなる塗膜層が例示されている。
【0007】
しかしながら、この塗膜層を設けたフォトクロミックレンズにおいても、熱硬化性樹脂(母材)や光学シートの種類によっては、熱硬化性樹脂(母材)と光学シートとの密着性が改善されない場合があり改善の余地があった。このような場合、フォトクロミック積層体の端面が熱硬化性樹脂(母材)の端面と同一面上に存在すると、フォトクロミックレンズ自体が剥離するおそれがあり改善の余地があった。
【0008】
上述の通り、これまでの方法で得られるプラスチック製のフォトクロミックレンズでは、複数形成された層のいずれかの界面で剥離が生じる問題を解消することができない場合があった。該フォトクロミックレンズは、日常生活で使用するにあたり、高湿度下や、温水と接触する場合があり、このような状況下におかれても、各層間の界面において、高い密着性が保持されなければならない。そのため、高いフォトクロミック特性を維持したまま、例えば、熱水と接触させた後、各層間の密着性が高く、剥離の問題がないフォトクロミックレンズの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−236521号公報
【特許文献2】特開2005−181426号公報
【特許文献3】特開2005−215640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、母材となる熱可塑樹脂、又は熱硬化性樹脂である合成樹脂と、光学シート又は光学フィルムとの密着性に優れ、さらに透明性、フォトクロミック特性に優れたフォトクロミックレンズを提供することにある。
【0011】
さらに、本発明の他の目的は、光学シート又は光学フィルムと、フォトクロミック化合物を含有するポリウレタン樹脂層との密着性をより向上したフォトクロミック積層体をも提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。そして、フォトクロミックレンズにおいて、光学シート又は光学フィルム上に形成され、それを介して母材となる合成樹脂と接合する塗膜層について、様々な材料を検討した。その結果、分子内に親水性の基を有するポリマーから構成される該塗膜層、具体的には、水分散性ポリマー、水分散性ポリマーの架橋体、又は水溶性ポリマーの架橋体よりなる塗膜層を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)の間に、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有するフォトクロミック積層体(A)と、少なくとも一方の該光学シート又は光学フィルム(A2)の上に合成樹脂層(B)を有するフォトクロミックレンズであって、
該光学シート又は光学フィルム(A2)と合成樹脂層(B)との間に、
水分散性ポリマー、水分散性ポリマーの架橋体、及び水溶性ポリマーの架橋体から選ばれる少なくとも1種の高分子ポリマーからなる塗膜層(C)を有することを特徴とするフォトクロミックレンズである。
【0014】
本発明においては、前記塗膜層(C)が、カルボニル基を有する水分散性ポリマーとヒドラジド化合物とを反応させて得られる水分散性ポリマーの架橋体からなることが好ましい。また、本発明においては、前記塗膜層(C)が、カルボキシル基を有する水分散性ポリマーとカルボジイミド化合物とを反応させて得られる水分散性ポリマーの架橋体からなることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明は、前記ポリウレタン樹脂層(A1)と前記光学シート又は光学フィルム(A2)との間に、さらに、前記塗膜層(C)を有するフォトクロミックレンズである。
【0016】
また、他の発明は、前記フォトクロミック積層体(A)の少なくとも一方の表面に、前記塗膜層(C)を積層した積層体である。この積層体は、前記ポリウレタン樹脂層(A1)と前記光学シート又は光学フィルム(A2)との間に、さらに、前記塗膜層(C)を有していてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフォトクロミックレンズは、水分散性ポリマー、水分散性ポリマーの架橋体、又は水溶性ポリマーの架橋体よりなる塗膜層を設けることにより、母材となる合成樹脂と、光学シート又は光学フィルムとの密着性を向上させることができる。さらには、光学シート又は光学フィルムと、フォトクロミック化合物を含有するポリウレタン樹脂層(接着層)との間に、該塗膜層を設けることにより、両者の密着性をより向上させることができる。
【0018】
そのため、本発明のフォトクロミックレンズは、長期間使用可能な優れたフォトクロミック特性を有するプラスチックレンズとして有用である。
【0019】
さらに、重合して熱硬化性樹脂(母材)となるモノマー組成物中に、該塗膜層を有するフォトクロミック積層体(積層体)を埋設してフォトクロミックレンズを製造する場合には、該フォトクロミック積層体は、耐溶剤性に優れるため、モノマー組成物中に光学シート又は光学フィルムの樹脂が溶出することを防止できる。そのため、白濁などが生じない、透明なフォトクロミックレンズを得ることができる。また、該塗膜層を有するフォトクロミック積層体(積層体)は、上記の通り、耐溶剤性に優れるため、有機溶媒を用いてフォトクロミックレンズを製造することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のフォトクロミックレンズの一態様を示す。
【図2】本発明のフォトクロミックレンズの他の態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のフォトクロミックレンズは、 互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)との間に、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有するフォトクロミック積層体(A)と、少なくとも一方の該光学シート又は光学フィルム(A2)の上に合成樹脂層(B)を有するフォトクロミックレンズであって、 該光学シート又は光学フィルム(A2)と合成樹脂層(B)との間に、特定のポリマーからなる塗膜層(C)を有することを特徴とするフォトクロミックレンズである。
【0022】
以下、これらのフォトクロミック積層体(A)、塗膜層(C)、合成樹脂(B)について説明する。
【0023】
フォトクロミック積層体(A)
本発明のフォトクロミック積層体は、互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)との間に、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有するものである。以下、本発明において、このフォトクロミック積層体(A)における密着性とは、1)母材となる合成樹脂(B)と光学シート又は光学フィルム(A2)との密着性、さらには、2)ポリウレタン樹脂層(A1)と光学シート又は光学フィルム(A2)との密着性の両者を意味する。先ず、フォトクロミック積層体(A)を構成する、ポリウレタン樹脂層(A1)について説明する。
【0024】
フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)
(ポリウレタン樹脂層(A1)を構成するポリウレタン樹脂)
本発明において、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)に使用される該ポリウレタン樹脂は、光学シート又は光学フィルム(A2)を接合できる接着剤の役割を果たす。そのため、互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)の間に存在し、両者を接合できる樹脂であれば、特に制限されるものではなく、熱硬化性ポリウレタン、または熱可塑性ポリウレタンであってもよい。
【0025】
本発明で使用するポリウレタン樹脂は、公知の方法で製造することができる。中でも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、及び鎖延長剤から合成されるポリマーであることが好ましい。以下、これら各成分について説明する。
【0026】
(ポリイソシアネート化合物)
該ポリウレタン樹脂に使用されるポリイソシアネート化合物としては、耐候性の観点から脂肪族ポリイソシアネート化合物、または脂環式ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。具体的には、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート化合物、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート化合物を挙げることができ、特にイソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0027】
(ポリオール化合物)
該ポリウレタン樹脂に使用されるポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオールなどのポリオール化合物を使用することできる。中でも、耐熱性、密着性、耐候性、耐加水分解性などの観点から、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールを使用することが好ましい。該ポリオール化合物の数平均分子量は、400〜3000であることが好ましい。中でも、得られるポリウレタン樹脂層の耐熱性、フォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)、特にフォトクロミック化合物の耐候性の観点から、数平均分子量は400〜2500であることが好ましく、400〜1500であることがより好ましい。
【0028】
(鎖延長剤)
該ポリウレタン樹脂に使用される鎖延長剤としては、分子内に2つ以上のイソシアネート基と反応しうる官能基を有する分子量50〜300の化合物である。具体的には、ジアミン化合物、トリアミン化合物、アミノアルコール化合物、アミノカルボン酸化合物、アミノチオール化合物、ジオール化合物、及びトリオール化合物を使用できる。特に、密着性、耐熱性、及びフォトクロミック特性の観点から、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、ピペラジン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミンなどのジアミン化合物を使用することが好ましい。
【0029】
(ポリウレタン樹脂を構成するその他の成分)
上述のポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、及び鎖延長剤から得られるポリウレタン樹脂の末端は、イソシアネート基であってもよいし、該イソシアネート基を反応停止剤によりキャップしていてもよい。該反応停止剤は、1つのイソシアネート基と反応しうる基と、その他、様々な機能を発揮できる基、構造を有する化合物を使用することができる。具体的には、4−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンのようなイソシアネート基と反応する基を有する化合物を反応停止剤として使用することができる。
【0030】
(ポリウレタン樹脂の製造方法)
該ポリウレタン樹脂は、前記成分を用い、公知の方法で製造することができる。具体的には、所謂ワンショット法又はプレポリマー法を採用することができる。例えば、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物と反応させ、次いで、鎖延長剤を反応させ、必要に応じて、反応停止剤を反応させる方法を採用することができる。これら成分の反応条件は、公知の条件を採用することができる。精製方法等も、公知の方法を採用することができる。
【0031】
このようにして得られたポリウレタン樹脂は、次に説明するフォトクロミック化合物と混合されて、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を形成する。この際、粘度調節のために、テトラヒドロフランやプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの有機溶媒を使用することができる。
【0032】
(フォトクロミック化合物)
次に、このポリウレタン樹脂中に混合され、ポリウレタン樹脂層(A1)に含まれるフォトクロミック化合物について説明する。
【0033】
本発明で使用されるフォトクロミック化合物としては、クロメン化合物、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物などの公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することが出来る。これらは、単独使用でもよく、2種類以上を併用しても良い。
【0034】
上記のフルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物およびクロメン化合物としては、例えば特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレットなどに記載されている化合物を挙げることができる。
【0035】
特に、クロメン化合物としては上記特許文献に記載されたもの以外にも、優れたフォトクロミック性を有するクロメン化合物が知られており、このようなクロメン化合物はB成分として好適に使用できる。このようなクロメン化合物としては、特開2001−031670号、特開2001−011067号、特開2001−011066号、特開2000−344761号、特開2000−327675号、特開2000−256347号、特開2000−229976号、特開2000−229975号、特開2000−229974号、特開2000−229973号、特開2000−229972号、特開2000−219678号、特開2000−219686号、特開平11−322739号、特開平11−286484号、特開平11−279171号、特開平09−218301号、特開平09−124645号、特開平08−295690号、特開平08−176139号、特開平08−157467号、米国特許5645767号公報、米国特許5658501号公報、米国特許5961892号公報、米国特許6296785号公報、日本国特許第4424981号公報、日本国特許第4424962号公報、WO2009/136668号パンフレット、WO2008/023828号パンフレット、日本国特許第4369754号公報、日本国特許第4301621号公報、日本国特許第4256985号公報、WO2007/086532号パンフレット、特開平2009−120536号、特開2009−67754号、特開2009−67680号、特開2009−57300号、日本国特許4195615号公報、日本国特許4158881号公報、日本国特許4157245号公報、日本国特許4157239号公報、日本国特許4157227号公報、日本国特許4118458号公報、特開2008−74832号、日本国特許3982770号公報、日本国特許3801386号公報、WO2005/028465号パンフレット、WO2003/042203号パンフレット、特開2005−289812号、特開2005−289807号、特開2005−112772号、日本国特許3522189号公報、WO2002/090342号パンフレット、日本国特許第3471073号公報、特開2003−277381号、WO2001/060811号パンフレット、WO00/71544号パンフレット等に開示されている。
【0036】
これら他のフォトクロミック化合物の中でも、発色濃度、初期着色、耐久性、退色速度などのフォトクロミック特性の観点から、インデノナフト「2,1−f」ナフト「2,1−b」ピラン骨格を有するクロメン化合物を1種類以上用いることがより好ましい。
【0037】
フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)の製造方法
本発明において、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)は、前記方法で得られるポリウレタン樹脂、及びフォトクロミック化合物とを含むフォトクロミック組成物を用いて形成できる。
【0038】
このフォトクロミック組成物は、特に制限されるものではないが、ポリウレタン樹脂100質量部当たり、フォトクロミック化合物を1質量部以上10質量部以下含むことが好ましい。
【0039】
また、形成されるポリウレタン樹脂層(A1)耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や製膜性のために、該フォトクロミック組成物に、界面活性剤、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を配合することもできる。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用され、これらは2種以上を混合して使用してもよい。上記添加剤の添加量は、ポリウレタン樹脂100質量部に対し、合計で0.001〜10質量部の範囲が好ましい。
【0040】
さらに、該フォトクロミック組成物には、フォトクロミック接着シートと光学シートの密着性を向上させる目的で、粘着剤を配合することもできる。具体的には、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、フェノール樹脂、水添テルペン樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが挙げられる。また、該フォトクロミック組成物には、フォトクロミック接着シートの耐熱性の向上、及び重合性モノマーへの溶解性を低減させる目的で、無機酸化物微粒子、及び有機/無機複合材料などを配合することもできる。無機酸化物微粒子としては、メタノール、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの等の有機溶剤に分散したシリカゾルなどの金属酸化物ゾル、有機/無機ハイブリッド材料としては、シリカ/メラミンハイブッリド材料、シリカ/ウレタンハイブリッド材料、シリカ/アクリルハイブリッド材料、シリカ/エポキシ樹脂ハイブリッド材料等が挙げられる。
【0041】
このフォトクロミック組成物から該ポリウレタン樹脂層(A1)を形成すればよい。該ポリウレタン樹脂層(A1)を形成する方法は、下記のフォトクロミック積層体(A)の製造方法で説明する。
【0042】
本発明において、該ポリウレタン樹脂層(A1)の厚さは、特に制限されるものではないが、フォトクロミック積層体(A)とした際に、フォトクロミック化合物の発色濃度、耐候性および接着強度などの観点から、5〜100μm、特に10〜50μmとすることが好ましい。
【0043】
該ポリウレタン樹脂層の両面には、光学シート又は光学フィルム(A2)が積層される。次に、光学シート又は光学フィルム(A2)について説明する。
【0044】
(A2):光学シート又は光学フィルム
本発明で使用される光学シート又は光学フィルム(A2)は、光透過性を有するシート又はフィルムが使用される。原料としてはポリカーボネート樹脂、ポリカーボネートアロイ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアクリレート樹脂、アリル樹脂、ポリスルフォン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等が挙げられる。また、偏光フィルム(例えば、ポリビニルアルコール製の偏光フィルムをトリアセチルセルロース樹脂フィルムではさんだもの)も、本発明の光学フィルムとして使用することが可能である。該偏光フィルムを用いることにより、偏光フォトクロミックレンズを得ることができる。
【0045】
以上のような原料の中でも、密着性、光学特性、及び機械強度などの観点から、ポリカーボネート樹脂が特に好ましい。好ましいポリカーボネート樹脂としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンや2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジハロゲノフェニル) アルカンで代表されるビスフェノール化合物から周知の方法で製造された重合体が挙げられる。また、該重合体には、脂肪酸ジオールに由来する構造単位が含まれるエステル結合を有していてもよい。特に、好ましいポリカーボネート樹脂としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される樹脂が挙げられる。また、このポリカーボネート樹脂の分子量についても、特に制限はないが、賦型性や機械的強度の観点から粘度平均分子量で17,000〜40,000、より好ましくは20,000〜30,00である。
【0046】
また、本発明で使用される光学シート又は光学フィルムは、公知の手法で改質したものを使用することもできる。例えば、前記フォトクロミック組成物による密着性をさらに向上させるため、表面を改質したものを使用することができる。改質の手法としては、特に限定されないが、プラズマ放電処理、コロナ処理、火炎処理、酸、アルカリ薬液等による化学的処理などを挙げることができる。
【0047】
また、本発明における互いに対向する2枚の光学シート又はフィルムは、同一の樹脂からなるシート又はフィルムであってもよいし、異なる樹脂からなるシート又はフィルムであってもよい。特に、上記偏光フィルムを使用する際は、対向するもう一方の光学シート又はフィルムが他の透明性を有するシート又はフィルムであることが好ましい。
【0048】
本発明で使用される光学シート又は光学フィルム(A2)の厚さは50μm〜1mmであり、特に0.1mm〜0.5mmであることが好ましい。50μmより薄い場合には、母材となる、重合して熱硬化性樹脂を形成するモノマー組成物中に、該光学シートまたはフィルムを有するフォトクロミック積層体を埋設した状態で硬化させる際に、光学シート又はフィルムに歪が生じるおそれがある。その一方で、光学シート又はフィルムの厚さが1mmを超える場合、得られるフォトクロミックレンズが厚くなりメガネ用途として好ましくなく、また曲面加工が困難となる場合がある。
【0049】
この光学シート又は光学フィルム(A2)には、合成樹脂層(B)が接する面、または、合成樹脂層(B)、および該ポリウレタン樹脂層(A1)が接する面(光学シート又は光学フィルム(A2)の両面)に、塗膜層(C)を積層することもできる。次に、この光学シート又は光学フィルム(A2)を有するフォトクロミック積層体(A)の製造方法について説明する。
【0050】
フォトクロミック積層体(A)の製造方法
本発明で使用するフォトクロミック積層体(A)は、互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)の間に、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有してなる。このフォトクロ積層体(A)は、例えば、下記のような手順・条件により製造できる。
【0051】
具体的には、該ポリウレタン樹脂層(A)において説明したフォトクロミック組成物を使用してやればよい。例えば、光学シート又は光学フィルム(A2)上に直接、該フォトクロミック組成物を層状に積層してポリウレタン樹脂層(A1)を形成し、さらに、該ポリウレタン樹脂層(A1)の表面に、別の光学シート又は光学フィルム(A2)を積層してやればよい。
【0052】
また、有機溶媒を含むフォトクロミック組成物を使用した場合は、光学シート又は光学フィルム(A2)上に塗布し、有機溶媒を乾燥して該ポリウレタン樹脂層(A1)を形成し、さらに、該ポリウレタン樹脂層(A1)の表面に、別の光学シート又は光学フィルム(A2)を積層してやればよい。
【0053】
その他、有機溶媒に溶解しやすい、例えば、ポリカーボネート製の光学シート又は光学フィルム(A2)を使用する場合には、以下の方法を採用することもできる。具体的には、耐溶剤性の高い平滑な基材上に、有機溶媒を含むフォトクロミック組成物を塗布した後、有機溶媒を乾燥し、該基材上から該ポリウレタン樹脂層(A1)を分離し、得られたポリウレタン樹脂層(A1)の両面に光学シート又は光学フィルム(A2)を積層する方法である。この場合、耐溶剤性の高い平滑な基材として、該ポリウレタン樹脂層(A1)と接する光学シート又は光学フィルム(A2)の面上に、予め塗膜層(C)を積層したもの使用できる。下記に詳述する塗膜層(C)は、耐溶剤性に優れる。そのため、例えば、耐溶剤性の低いポリカーボネート製の光学シート又は光学フィルムの上に塗膜層(C)を積層したものは、そのまま該基材として使用することができる。塗膜層(C)を有するポリカーボネート製光学シートを光学シート又は光学フィルム(A2)を該基材として使用することにより、フォトクロミック積層体(A)の製造工程を簡略化することができる。
【0054】
以上のいずれかの方法を採用することにより、ポリウレタン樹脂層(A1)を形成し、フォトクロミック積層体(A)を製造できる。該ポリウレタン樹脂層(A1)は、主成分であるポリウレタン樹脂が接着剤として機能するため、上記方法で得られた後、そのまま使用することもできる。ただし、該ポリウレタン樹脂層(A1)の両面に、光学シート又は光学フィルム(A2)を積層した後、以下の方法により、その状態を安定化させて使用することが好ましい。具体的には、接合(積層)したばかりのフォトクロミック積層体(A)を20℃以上60℃以下の温度で12時間以上静置しておくことが好ましい。静置する時間の上限は、特に制限されるものではないが、50時間もあれば十分である。さらに、この静置したフォトクロミック積層体(A)を80℃以上130℃以下の温度下、30分以上3時間以下放置しておくことが好ましい(以下、加熱処理とする)。この加熱処理して得られた積層体は、その状態が非常に安定なものとなる。
【0055】
本発明は、このような方法により得られたフォトクロミック積層体(A)の少なくとも一方の面に、合成樹脂層(B)を有するフォトクロミックレンズであって、該フォトクロミック積層体(A)と合成樹脂層(B)との間に、特定のポリマーからなる塗膜層(C)を有すること特徴とする。次に、この塗膜層(C)について説明する。
【0056】
塗膜層(C)
本発明のフォトクロミックレンズにおいて、塗膜層(C)は、必ず、光学シート又は光学フィルム(A2)と下記に詳述する合成樹脂層(B)との間に介在するものである。そして、この塗膜層(C)は、水分散性ポリマー、水分散性ポリマーの架橋体、及び水溶性ポリマーの架橋体から選ばれる少なくとも1種の高分子ポリマーからなることを特徴とする。この塗膜層(C)に、前記高分子ポリマーを使用することにより、有機溶剤系の材料を使用して得られる塗膜層と比較して、熱可塑性樹脂(合成樹脂層(B)、光学シート又は光学フィルム(A2))を溶解し難いため、優れた透明性を有するフォトクロミックレンズを得ることができる。
【0057】
次に、この塗膜層(C)を形成する高分子ポリマーについて説明する。先ず、水分散性ポリマーについて説明する。
【0058】
(水分散性ポリマー)
この水分散性ポリマーを例示すると、具体的には、水分散ポリウレタン樹脂、水分散ポリエステル樹脂、水分散アクリル樹脂、及び水分散ポリウレタン・アクリル樹脂を挙げることができる。
【0059】
(水分散ポリウレタン樹脂)
水分散ポリウレタン樹脂としては、少なくともポリイソシアネート化合物、及びポリオール化合物とが重合されたポリウレタン樹脂が水中に分散しているものを用いるのが好ましい。
【0060】
上記ポリイソシアネート化合物としては、従来から使用されている脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物として好適に使用できるポリイソシアネート化合物を例示すれば、
ジエチレンジイソシアネート、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート化合物、
シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネート、2,6−ビス(イソシアナトメチル)デカヒドロナフタレン、1,9−ジイソシアナト−5−メチルノナン、1,1−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2−イソシアナト−4−[(4−イソシアナトシクロヘキシル)メチル]−1−メチルシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)シクロヘキシルイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアネートメチル)アダマンタンなどの脂環式ポリイソシアネート化合物、
フェニルシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)の異性体混合物、トルエン−2,3−ジイソシアネート、トルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジイソシアネート、フェニレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,1’−メチレンビス(3−メチル−4−イソシアナトベンゼン)、1,3−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(2−イソシアナト−2−プロピル) ベンゼン、キシリレンジイシシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ナフタレン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルベンゼン、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメトキシ(1,1’−ビフェニル)、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニル、1,2−ジイソシアナトベンゼン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)−2,3,5,6−テトラクロロベンゼン、2−ドデシル−1,3−ジイソシアナトベンゼン、1−イソシアナト−4−[(2−イソシアナトシクロヘキシル)メチル]2−メチルベンゼン、1−イソシアナト−3−[(4−イソシアナトフェニル)メチル)−2−メチルベンゼン、4−[(2−イソシアナトフェニル)オキシ]フェニルイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート化合物、
を挙げることができる。これらは単独でも用いることができ、また2種以上の混合物にして用いることもできる。
【0061】
ポリオール化合物は、イソシアネート基と反応性のある少なくとも2個の活性水
素基を有するが、イソシアネート基と反応性のある活性水素基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基等が挙げられ、好ましくはヒドロキシル基が挙げられる。また、前記ポリオール化合物に含まれる活性水素基の数は、膜物性を良好に保つという点から、2〜6が好ましく、2〜4が特に好ましい。
前記ポリオール化合物としては、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシアルカン、ポリウレタンポリオール又はそれらの混合物、シリコーンポリオール等が挙げられる。
【0062】
ポリエステルポリオールの具体例としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステル又はそれらの混合物と、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類もしくはそれらの混合物を反応させて得られるポリエステルポリオール、例えばポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β−メチル−γ−バレロラクトン)等のラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールの具体例としては、例えば水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子量ポリオールを開始剤として用いて、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を重合させることにより得られるポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0063】
ポリエーテルエステルポリオールの具体例としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステル又はそれらの混合物と、上記ポリエーテルポリオールとを反応させて得られるポリエーテルエステルポリオール等が挙げられる。
【0064】
ポリエステルアミドポリオールの具体例としては、上記ポリエステル化反応に際し、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアミノ基を有する脂肪族ジアミンを原料として前記ポリエステル化反応物の原料に追加して反応させることによって得られるもの等が挙げられる。
【0065】
アクリルポリオールの具体例としては、1分子中に1個以上のヒドロキシル基を有する重合性モノマー、例えばアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル等あるいはこれらの対応するメタクリル酸誘導体等と、例えばアクリル酸、メタクリル酸又はそのエステルとを共重合させることによって得られるもの等が挙げられる。
【0066】
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール−A及び水添ビスフェノール−Aからなる群から選ばれた1種又は2種以上のグリコールとジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等とを反応させることにより得られるもの等が挙げられる。
【0067】
ポリヒドロキシアルカンの具体例としては、イソプレン、ブタジエン、又はブタジエンとアクリルアミド等とを共重合させて得られる液状ゴム等が挙げられる。
【0068】
ポリウレタンポリオールの具体例としては、例えば1分子中にウレタン結合を有するポリオールが挙げられ、前記ポリオールは、例えば分子量200〜5,000のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等と前述した1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネート基含有化合物とを(NCO基/OH基)のモル数が1未満、好ましくは0.9以下で反応させることにより得られたもの等が挙げられる。
【0069】
さらに上記ポリオール化合物以外に、鎖延長剤として、低分子量ポリオール化合物を混合してもよい。これら低分子量ポリオール化合物の具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のポリエステルポリオールの製造に使用されるグリコール類や、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0070】
上記低分子量ポリオール化合物以外にも、鎖延長剤として、ジアミン化合物、トリアミン化合物、アミノアルコール化合物、アミノカルボン酸化合物、及びアミノチオール化合物などを用いることも出来る。
【0071】
ジアミン化合物、及びトリアミン化合物として、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N−ビス−(2−アミノエチル)ピペラジン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノ−3−ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2−、1,3−及び1,4−ジアミノシクロヘキサン、ノルボルネンジアミン、フェニレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジブチルエチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,2,5−ペンタントリアミン等を挙げることができる。
【0072】
また、アミノアルコール化合物としては、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、5−アミノペンタノール、6−アミノヘキサノール、2−ピペリジンメタノール、3−ピペリジンメタノール、4−ピペリジンメタノール、2−ピペリジンエタノール、4−ピペリジンエタノール等を挙げることができる。
【0073】
アミノカルボン酸としては、グリシン、アラニン、リシン、ロイシン等を挙げることができる。
【0074】
アミノチオールとしては、1−アミノチオール、2−アミノエタンチオール等を挙げることができる。
【0075】
以上のような成分から合成されたポリウレタン樹脂が水に分散された水分散ポリウレタン樹脂を使用することができる。好適な水分散ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、2000〜10万である。
【0076】
上記のような要件を満足する水分散ポリウレタン樹脂は、市販のものを使用することができる。具体的には、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス」シリーズ、日華化学株式会社製「ネオステッカー」、「エバファノール」シリーズ、DIC株式会社製「ハイドラン」、「ボンディック」シリーズ、荒川化学工業株式会社製「ユリアーノ」シリーズ、楠本化成株式会社製「NeoRez」シリーズ、株式会社ADEKA製「アデカボンタイターHUX」シリーズ、竹林化学工業株式会社製「タケシール」、大成ファインケミカル株式会社製「WBR」シリーズ等が例示される。
【0077】
(水分散ポリエステル樹脂)
水分散ポリエステル樹脂としては、多塩基酸と多価アルコールとの重縮合により生成する樹脂であって、分子中にウレタン結合(−NHCOO−)を含まない樹脂が挙げられる。
【0078】
水分散ポリエステル樹脂は、ハードセグメントとソフトセグメントとの共重合体からポリエステルエラストマーからなり、ハードセグメント構成成分が多塩基酸であるジカルボン酸類と、多価アルコールである低分子グリコールからなるポリエステルが好適に使用される。
【0079】
ハードセグメントを構成するジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、デカメチレンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等の炭素数4〜20の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、ε−オキシカプロン酸等の脂肪族オキシカルボン酸、ダイマー酸(二重結合を有する脂肪族モノカルボン酸を二量重合させた二塩基酸)等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0080】
一方、低分子グリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,6−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコール等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0081】
また、ソフトセグメント構成成分としては、前述のようにポリエステルもしくはポリエーテルが好適に使用される。
【0082】
ソフトセグメントとなるポリエステルは、ジカルボン酸類と長鎖グリコール(多価アルコール)よりなるものが挙げられる、このソフトセグメントを構成するジカルボン酸は、前記ハードセグメントにおけるものと同じものを使用できる。一方、長鎖グリコールとしては、ポリ(1,2−ブタジエングリコール)、ポリ(1,4−ブタジエングリコール)及びその水素添加物などが挙げられる。また、ε−カプロラクトン、エナントラクトン、及びカプロリラクトンもポリエステル成分として有用である。
【0083】
また、ソフトセグメントとなるポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等のポリ(アルキレンオキシド)グリコール類が挙げられる。
【0084】
以上のような成分から合成されたポリエステル樹脂が水に分散された水分散ポリエステル樹脂を使用することができる。好適な水分散ポリエステル樹脂の数平均分子量は、2000〜5万である。
【0085】
上記のような要件を満足する水分散ポリエステル樹脂は、市販のものを使用することができる。具体的には、高松油脂株式会社製「ペスレジンA」シリーズ、東洋紡績株式会社製「バイロナール」シリーズ、東亞合成株式会社製「アロンメルト」等が例示される。
【0086】
(水分散アクリル樹脂)
水分散アクリル樹脂としては、下記に示すようなアクリル単量体を用いて乳化重合した樹脂を用いることが好ましい。水分散アクリル樹脂の原料となるアクリル単量体として、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有アクリルル単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどの水酸基含有アクリル単量体、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの3級アミノ基含有アクリル単量体、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンなどのヒンダードアミノ基含有アクリル単量体、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、ダイアセトンアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、4−メタクリルアミドエチルエチレンウレアなどのアミド基含有アクリル単量体、2−メタクリロイルオキシエチル−エチレンウレアなどのウレア基含有アクリル単量体、アクリル酸グリシジル、アクリル酸メチルグリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチルグリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有アクリル単量体などを挙げることができる。この水分散アクリル樹脂は、これらのアクリル単量体が単独で構成されていても、2種類以上の混合物で構成されていてもよい。
【0087】
以上のような単量体を乳化重合して得られる水分散アクリル樹脂を使用することが好ましい。好適な水分散アクリル樹脂の数平均分子量は、5千〜20万である。
【0088】
上記のような要件を満足する水分散アクリル樹脂は、市販のものを使用することができる。具体的には、株式会社イーテック製アクリルエマルジョン、DIC株式会社製「ボンコート」、竹林化学工業株式会社製「タケタック」、大成ファインケミカル株式会社製「3MF」、「SE」、「UW」、「RKW」、「AKW」シリーズ等が例示される。
【0089】
(水分散ポリエステル・ポリウレタン樹脂)
水分散ポリエステル・ポリウレタン樹脂としては、前記水分散ポリウレタン樹脂に用いられるポリイソシアネート化合物、及びポリオール化合物、さらに前記水分散ポリエステル樹脂に用いられる多塩基酸、及び多価アルコールなどを用いて得られる樹脂が得げられる。好適な水分散ポリエステル・ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、1000〜10万である。
【0090】
上記のような要件を満足する水分散ポリエステル・ポリウレタン樹脂は、市販のものを使用することができる。具体的には、高松油脂株式会社製「WAC」シリーズ等が例示される。
【0091】
(水分散ポリウレタン・アクリル樹脂)
水分散ポリウレタン・アクリル樹脂は、例えば、以下の方法により得ることができる。先ず、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーに、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体を反応させて分子内にエチレン性不飽和結合とイソシアネ−ト基を有する自己乳化性変性プレポリマーを得る。次いで、この自己乳化性変性プレポリマーと、アクリル系単量体を主成分とするエチレン性不飽和単量体を混合した重合性混合物の水分散液を乳化重合させることにより、得ることができる。
【0092】
前記末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得るために、、前記水分散ポリウレタン樹脂に使用されるポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、及び鎖延長剤を用いることが出来る。
【0093】
また、前記水酸基を有するエチレン性不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルアクリレート、プタル酸水素アクリロイルオキシエチル、β−ヒドロキシエチル−β−アクリロイルオキシエチルフタレート、1,4−ブチレングリコールモノアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタアリルアルコール、イソプロペニルアルコール、1−プチニルアルコール、エチレングリコールモノアクリレート、1,4−ブタンジオールモノアクリレート等が用いられる。
【0094】
末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体の反応割合は、プレポリマーの−NCO基と、単量体の−OH基の当量比(−OH/−NCO)が0.3〜0.6であり、−NCO基全てが水酸基と反応したエチレン性不飽和結合を有する自己乳化性の変性プレポリマーを用いて乳化重合する場合ゲル化しやすいため、好ましくは0.5前後となるようにする。
【0095】
ウレタンプレポリマーと水酸基を有するエチレン性不飽和単量体との反応物は、遊離の−NCO基を有するが、活性水素と反応するので好ましくないため、この−NCO基をグリセリンやカプロラクタム等のマスク剤でマスクし、酸やアルカリ等でイオン化させる。アルカリとしては、第3級アミン類、アンモニア等か、酸としては、塩酸等の無機酸や酢酸等の有機酸が使用される。
【0096】
さらに、前記エチレン性不飽和単量体の主成分は、耐候性の面からアクリル酸アル
キルエステル、メタクリル酸アルキルエステル等のアクリレートが使用される。他にスチレン、酢酸ビニル、エチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド等を併用してもよい。
【0097】
具体的には、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン、アクリル(又はメタクリル)オキシアルキルプロパナール、アセトニトリルアクリレート、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ノルマルプロピル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸ノルマルブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−2−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ノルマルブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル、α−メチルスチレン、エチレン、塩化ビニル等が挙げられる。
【0098】
水分散ポリウレタン・アクリル樹脂を得る方法として、乳化重合を挙げることができる。乳化重合の方法としては、自己乳化性のエチレン系不飽和結合を有する変性ウレタンプレポリマーの水性分散液に、エチレン性単量体混合物をそのまま、又は界面活性剤を加えて混合、乳化し、次いで40〜100℃の温度で、重合開始剤を用いて行なっても良いし、前記自己乳化性変性ウレタンプレポリマーとエチレン性不飽和単量体混合物を、界面活性剤を含有する水中に添加し、攪拌、混合して行なっても良い。
【0099】
好適な水分散ポリウレタン・アクリル樹脂の数平均分子量は、3000〜10万である。
【0100】
上記のような要件を満足する水分散ポリウレタン・アクリル樹脂は、市販のものを使用することができる。具体的には、楠本化成株式会社製「NeoPac」シリーズ、大成ファインケミカル株式会社製「WEM」シリーズ等が例示される。
【0101】
(好適な水分散性ポリマー、およびその製造方法)
上記水分散ポリウレタン樹脂、水分散ポリエステル樹脂、及び水分散ポリウレタン・アクリル樹脂などの水分散性ポリマーを得るためには、樹脂構造中に界面活性作用(乳化作用)を有するイオン性、あるいはノニオン性の官能基または原子団を有する自己乳化型のものであるか、乳化剤により強制乳化される必要がある。該水分散性ポリマーを用いて得られる塗膜層(C)に対する合成樹脂層(B)の塗れ性、及び該水分散性ポリマーの保存安定性の観点から、該水分散性ポリマーに含まれる高分子成分は、自己乳化型のものであることが好ましい。
【0102】
自己乳化型高分子が有する界面活性作用を有する基または原子団とは、水に対して親和性の高い基または原子団であり、水中で高分子樹脂をエマルジョン化できる基、または原子団であれば特に限定されるものではない。好適な基、または原子団としては、スルホニル基、カルボキシル基、又はそれらがアルカリ金属塩、アルキルアミン塩、又はアミン塩となった構造(原子団)等のアニオン性の界面活性作用を有する基または原子団が挙げられる。また、水酸基、ポリアルキレングリコール基等のノニオン性の界面活性作用を有する基、 アミノ基又はアルキルアミノ基、またはそれらがスルホン酸塩あるいはアルキルスルホン酸塩となった構造(原子団)等のカチオン性の界面活性作用を有する基または原子団を挙げることができる。その中でも、比較的エマルジョンの安定性が高く、光学シート又は光学フィルム(A2)や、合成樹脂層(B)への密着性などの理由から、アニオン性の界面活性作用を有する基または原子団、特にカルボン酸のアルキルアミン塩を高分子樹脂構造中に有する自己乳化型の高分子成分を含む水分散性ポリマーが好適に用いられる。
【0103】
自己乳化型の高分子成分を含む水分散性ポリマーを製造する際、界面活性作用を有する基の導入方法としては、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホネート基、エポキシ基、ポリオキシアルキレン基等の親水性基を有する化合物を高分子樹脂分子中に取り込み、中和剤で中和して、界面活性作用を有する基又は原子団とする方法が一般的である。
【0104】
前記親水性基を有する化合物としては、例えば、2−オキシエタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホコハク酸、5−スルホイソフタル酸、スルファニル酸、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、2,4−ジアミノトルエン−5−スルホン酸等のスルホン酸含有化合物もしくはこれらの誘導体、又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリオール、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6−ジオキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸等のカルボキシル基含有化合物もしくはこれらの誘導体、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物と活性水素基を有する化合物とを反応させてなるカルボシキル基含有化合物もしくはそれらの誘導体等が挙げられる。また、ダイアセトンアクリルアミドにジアルカノールアミンを付加反応させたものを用いることも出来る。該水分散性ポリマーを製造する際には、これら親水性基を有する化合物を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0105】
また、水分散性ポリマーからなる塗膜層の密着性を向上させる目的で、該水分散性ポリマーにシラノール基、加水分解によりシラノール基を生成し得る基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基およびエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を導入することも可能である。
【0106】
また、水分散性ポリマーが分散した水分散媒における樹脂の分散粒径(平均粒径)は、樹脂の種類、必要に応じて使用される乳化剤の種類、乳化方法などに依存するため一概に規定することはできない。ただし、形成される塗膜層(C)の濡れ性が良好になるという観点から、30nm〜1000nmであるのが好ましく、塗膜層(C)の光学的透明性の観点から、40nm〜500nm以下、特に50nm〜100nm以下であるのが好ましい。
【0107】
以上のような水分散性ポリマーを使用することが好ましい。このような水分散性ポリマーは、そのまま使用することもできるが、架橋剤を併用し、水分散性ポリマーの架橋体として使用することもできる。該架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリジン化合物、ヒドラジド化合物、及びカルボジイミド化合物などを挙げることができる。
【0108】
その中でも、該ポリマー中に、カルボニル基を有する場合、ヒドラジド化合物を架橋剤として配合し、水分散性ポリマーの架橋体として使用することが好ましい。また、該ポリマー中に、カルボキシル基を有する場合、カルボジイミド化合物を架橋剤として配合し、水分散性ポリマーの架橋体として使用することが好ましい。
【0109】
(水分散性ポリマーの架橋体:架橋体)
(ヒドラジド化合物)
塗膜層(C)を形成する高分子ポリマーとしては、前記水分散性ポリマーの内、カルボニル基を有するポリマーに、ヒドラジド化合物を架橋剤として配合し、架橋体として使用することもできる。架橋剤を使用することにより、該塗膜層(C)の架橋密度を向上させることができ、硬化前の合成樹脂層(B)を形成する重合性モノマーに対する耐溶解性、及び形成される合成樹脂層(B)との密着性をより向上させることができる。
【0110】
該架橋剤としては、水分散高分子エマルジョンに含まれるカルボニル基と反応しうるヒドラジド基を有するヒドラジド化合物を挙げることができる。ヒドラジド化合物とは、下記式
【0111】
【化1】

【0112】
で示される基を有する化合物である。特に、好ましいヒドラジド化合物としては、上記式で示される基を分子内に少なくとも2個以上有するポリヒドラジン化合物である。
【0113】
前記ポリヒドラジド化合物としては、具体的には、2〜18個、好ましくは2〜10個の炭素原子を有するジカルボン酸ジヒドラジドとして、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジドなどが挙げられる。
【0114】
また、2〜4個の炭素原子を有する脂肪族水溶性ジヒドラジンとして、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジンなどが挙げられる。
【0115】
さらに、下記一般式、
【0116】
【化2】

【0117】
(式中、
Rは、炭素数2〜7の直鎖状、もしくは分岐状の2価の脂肪族残基、又は炭素数6〜8の2価の環状残基であり、
xは、1〜5の整数である)で示されるような炭酸ポリヒドラジドが挙げられる。
【0118】
Rは、炭素数2〜7の直鎖状、もしくは分岐状の2価の脂肪族残基であり、具体的には、炭素数2〜7の直鎖状、もしくは分岐状のアルキレン基であることが好ましい。また、炭素数6〜8の2価の環状残基としては、芳香族残基、あるいは脂肪族環基が挙げられ、好ましくは、o−、m−、もしくはp−フェニレン基、トリレン基、シクロヘキシレン基又はメチルシクロヘキシレン基が挙げられる。
【0119】
xは、1〜5の整数であり、好ましくは1〜3の整数である。
【0120】
この中でも、特に下記一般式
【0121】
【化3】

【0122】
で示される脂肪族、脂環族又は芳香族のビスセミカルバジドが好適に使用できる。具体的な化合物としては、ピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジド又はテトラヒドラジドが挙げられ、脂肪族トリヒドラジドとして、具体的に、ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、テトラヒドラジドとして、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジドが挙げられる。
【0123】
その他、チオカルボヒドラジド、N,N’−ジアミノグアニジン、ヒドラジン−ピリジン誘導体(例えば、2−ヒドラジノピリジン−5−カルボン酸ヒドラジド、3−クロル−ヒドラジノピリジン−5−カルボン酸ヒドラジド、6−クロル−2−ヒドラジノピリジン−4−カルボン酸ヒドラジド、2,5−ジヒドラジノピリジン−4−カルボン酸など)、ビス−チオセミカルバジド、アルキレンビスアクリルアミドのビスヒドラジン、ジヒドラジンアルカン、芳香族炭化水素のジヒドラジン(例えば、1,4−ジヒドラジノベンゾール、1,3−ジヒドラジノベンゾール、2,3−ジヒドラジンナフタリン)、
カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジン、又はヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させてなるポリヒドラジド(特公昭52−22878号参照)などを挙げることができる。これらポリヒドラジン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0124】
上記ポリヒドラジド化合物は、疎水性が強すぎると水分散化が困難となり、均一な架橋塗膜が得られない傾向にあることから、適度な親水性を有する比較的低分子量(300以下程度)の化合物を使用することが好適である。好適な代表例の一つとして、例えば、こはく酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド等の如く炭素数4〜12のジカルボン酸のジヒドラジド化合物が挙げられる。
【0125】
上記ヒドラジド化合物の配合量は、前記水分散性ポリマー中のカルボニル基の合計モル数に対して、0.01〜5モル当量であり、好ましくは0.05〜3モル当量となる量である。なお、上記配合量は、ヒドラジド基のモル数である。
【0126】
(カルボジイミド化合物)
また、その他の架橋剤としては、分子中にカルボジイミド結合、すなわち−N=C=N−で示される結合を有するカルボジイミド化合物を用いることもできる。特に、分子中に2個以上のカルボジイミド結合を有するポリカルボジイミド化合物を用いることが好ましい。架橋剤としてカルボジイミド化合物を用いた場合には、該カルボジイミド化合物に含まれるカルボジイミド基が、水分散性ポリマーに含まれるカルボキシル基と反応し、該水分散性ポリマーが架橋した塗膜層を得ることができる。
【0127】
本発明に使用されるカルボジイミド化合物は、市販のカルボジイミド化合物を使用することもできるが、例えば、特開昭59−187029号公報に記載されているように、ポリイソシアネート化合物を、あるいはポリイソシアネート化合物とモノイソシアネート化合物とを、触媒存在下において、脱二酸化炭素反応させることによって調製することができる。
【0128】
前述の方法によって当該カルボジイミド化合物を調整する際に使用されるイソシアネート化合物としては、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、β−フェネチルイソシアネートまたはα−ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物、
テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレン−2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートまたは1,3−ジイソシアナートメチルシクロヘキサンなどのジイソシアネート化合物、あるいは該ジイソシアネート化合物を三量化して得られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物などを挙げることができる。
【0129】
また、反応触媒として特に代表的なもののみを例示すれば、ホスフィン化合物、ホスホレン化合物、ホスホレンオキサイド化合物またはホスホレンスルフィド化合物などが挙げられる。
【0130】
カルボジイミド化合物は、前述のイソシアネート化合物を用いて、適宜使用される有機溶剤中で、100〜200℃、好ましくは、130〜160℃なる温度範囲で反応することにより得ることができる。
【0131】
さらに、市販のカルボジイミド化合物としては、日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト」などを挙げることができる。
【0132】
上記カルボジイミド化合物の配合量は、前記水分散性ポリマー中のカルボキシル基の合計モル数に対して、0.01〜5モル当量であり、好ましくは0.05〜3モル当量となる量である。なお、上記配合量は、カルボジイミド結合のモル数である。
【0133】
以上のような水分散性ポリマー、及びその架橋体の他、塗膜層(C)には、水溶性高分子の架橋体を使用することもできる。次に、水溶性ポリマーの架橋体について説明する。
【0134】
(水溶性ポリマーの架橋体)
塗膜層(C)を形成する高分子ポリマーとしては、水溶性ポリマーの架橋体を使用することもできる。前記水溶性ポリマーとしては、分子内に水酸基を有し、水に溶解するポリマーが挙げられる。中でも、ポリビニルアルコール系重合体(PVA)を好適に用いることができる。
【0135】
該PVAとしては、一般に酢酸ビニルを重合して得たポリ酢酸ビニルをけん化して製造される所謂通常のPVAが用いられる。このPVAの重合度は、特に制限はないが、通常100〜10000であり、好ましくは150〜8000であり、より好ましくは200〜6000である。また、好適なPVAの数平均分子量は、4000〜45万であり、好ましくは6000〜35万であり、より好ましくは8000〜25万である。一方、けん化度は、状況に応じて適宜選定すればよいが、通常70〜99.99モル%であり、好ましくは80〜99.95モル%であり、より好ましくは90〜99.9モル%である。
【0136】
また、これら通常のPVAのほかに、不飽和カルボン酸またはその誘導体、不飽和スルホン酸、またはその誘導体、炭素数2〜30のα−オレフィン等で約15モル%未満共重合された変性ポリビニルアルコールやポリビニルホルマール,ポリビニルアセトアセタール,ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、エチレン単位含量が5モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコールをウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化等した変性ポリビニルアルコール、さらにはアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコールにジケテンを反応させたり、ポリビニルアルコールとアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換したりして、ポリビニルアルコールにアセト酢酸エステル基を導入させたもの)等も用いることができる。
【0137】
前記PVAには、その末端や側鎖にシリル基を導入しても構わず、シリル基を導入することにより、塗膜層の耐薬品性を改善することができる。
【0138】
市販の水溶性ポリマーとしては、日本合成化学工業製「ゴーセノール」、「ソアノール」、「ゴーセファイマー」、株式会社クラレ製「クラレポバール」、「エクセバール」などを挙げることができる。
【0139】
本発明においては、前記水溶性ポリマーを架橋剤により架橋させた架橋体を使用することもできる。次に、この架橋剤について説明する。
【0140】
(水溶性ポリマーの架橋剤)
水溶性ポリマーの架橋体を得るためには、分子内の基、例えば、水酸基のような基と作用して分子同士を結合させる架橋剤を配合すればよい。このような架橋剤を例示すれば、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物、及び有機ケイ素化合物、カルボジイミド化合物や、A1成分に使用されるポリイソシアネート化合物などが挙げられる。これら架橋剤を水溶性ポリマーと混合することにより、該水溶性ポリマーの架橋密度を向上させることができ、合成樹脂層(B)を形成す重合性モノマーに対する耐溶解性、及び形成される合成樹脂層(B)との密着性をより向上させることができる。
【0141】
上記の有機チタン化合物としては、各種のものが使用可能であるが、具体的には、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルへキシル)チタネートなどのチタンアルコキシド;
ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジイソプロポキシ(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン、ジ(2−エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジイソプロポキシビス(トリエタノールアミナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、ジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラキス(ビス(N−アミノエチル)−アミノエチル)チタネート、チタンテトラキス(N−ヒドロキシエチル−アミノエチル)チタネート、チタンテトラキス(ビス(N−ヒドロキシエチル)−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ビス(N−アミノエチル)−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(N−ヒドロキシエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ビス(N−ヒドロキシエチル)−アミノエチル)チタネート、n−ブチルトリス(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、n−ブチルイソプロピルトリス(ビス(N−アミノエチル)−アミノエチル)チタネート、n−ブチルイソプロピルトリス(N−ヒドロキシエチル−アミノエチル)チタネート、n−ブチルイソプロピルトリス(ビス(N−ヒドロキシエチル)−アミノエチル)チタネート、チタンラクテートあるいはチタンラクテートアンモニウム塩などのチタンキレート、あるいはチタンキレートアンモニウム塩;
イソプロピルイソステアロイルチタネート、イソプロポピルトリ−n−ドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルアクリルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;
などが挙げられる。
【0142】
これらの有機チタン化合物の中でも水溶性のものが好ましく、具体的にはチタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシビス(トリエタノールアミナート)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミナート)チタンが挙げられる。これらの有機チタン化合物は必ずしも単独で使用する必要はなく、必要に応じて2種以上混合して用いることもできる。
【0143】
さらに、上記チタン化合物以外に、ヒドロキシカルボン酸またはその塩(乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸またはこれらの塩など)、β−ジケトン(アセチルアセトンなど)、アミノアルコール(トリエタノールアミンなど)などの1つのチタン原子に対して共有結合や水素結合などにより、二座またはそれ以上の多座で配位することが可能な配位子を含んでなるものも挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0144】
また、有機ジルコニウム化合物についても、様々なものが使用可能であるが、例えば各種のジルコニルアルコキシド、ジルコニルキレート、ジルコニルキレートアンモニウム塩、およびジルコニルアシレートなどが挙げられ、中でも炭酸ジルコニウム、あるいは炭酸ジルコニウムアンモニウム塩が好適であり、炭酸ジルコニウムアンモニウム塩が特に好ましい。
【0145】
上記有機ジルコニウム化合物の具体例としては、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセトネート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムトリブトキシステアレート等の有機ジルコニウム化合物、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウムなどのハロゲン化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムなどの鉱酸ジルコニウム塩、蟻酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、カプリル酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウムなどの有機酸のジルコニウム塩、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウムなどのジルコニウム錯塩が挙げられる。
【0146】
有機アルミニウム化合物としては、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロピレート、アルミニウムトリブチレート、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機キレート等が挙げられる。
【0147】
有機ケイ素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロピルシリケート、テトラノルマルブチルシリケート、ブチルシリケートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラメチルシリケート、ケイ素アセチルアセトネート、ケイ素エチルアセトアセテート、ケイ素オクタンジオレート、ケイ素ラクテート、ケイ素トリエタノールアミネート、ポリヒドロキシケイ素ステアレート、ケイ素ノルマルプロピレート、ケイ素モノアセチルアセトネート、ケイ素ビスアセチルアセトネート、ケイ素モノエチルアセトアセテート、ケイ素ビスエチルアセトネート、ケイ素アセテート、ケイ素トリブトキシステアレート等が挙げられる。
【0148】
該架橋剤の添加量は、特に制限はないが、得られる塗膜層の耐溶解性、及び合成樹脂層(B)との密着性の観点から、水溶性ポリマー中の水酸基などの水素結合を形成可能な基の合計モル数に対して、該架橋剤のモル数は、0.0001〜5モル当量であり、好ましくは0.001〜2モル当量である。
【0149】
(塗膜層(C)の形成方法)
本発明において、塗膜層(C)は、光学シート又は光学フィルム(A2)上に形成される。そのため、フォトクロミック積層体(A)を製造する前に、予め、光学シート又は光学フィルム(A2)上に、塗膜層(C)を形成してもよい。また、フォトクロミック積層体(A)を形成した後、該フォトクロミック積層体(A)の合成樹脂層(B)を形成する面上に、塗膜層(C)を形成することもできる。以下、光学シート又は光学フィルム(A2)上に、塗膜層(C)を形成する場合の例を説明する。
【0150】
塗膜層(C)を形成する方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、光学シート又は光学フィルム(A2)の片面、もしくは両面に、前記水分散性ポリマーが水に分散した水分散液を塗布し、乾燥することにより、水分散性ポリマーからなる塗膜層(C)を形成することができる。
【0151】
水分散液を塗布する方法は、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ディップースピンコート法、ドライラミネート法、フローコート法、バーコーター法などの公知の方法が何ら制限なく用いられる。前記水分散液の(加熱)乾燥は、30〜130℃の温度で、1分〜120分間の範囲で実施されることが好ましく、温度は昇温、及び降温を組み合わせて変動させても構わない。また、この水分散液は、固形分(水分散性ポリマー)濃度が1〜40質量%であり、5〜20質量%であることが好ましい。
【0152】
また、水分散性ポリマーの架橋体、又は水溶性ポリマーの架橋体を使用する場合には、以下の方法を採用することができる。光学シート又は光学フィルム(A2)の片面、もしくは両面に、水分散性ポリマーが水に分散した水分散液又は水溶性ポリマーが水に溶解した水溶液と、これらポリマーを架橋する架橋剤とを混合した後、得られた混合物を光学シート又は光学フィルム(A2)上に塗布し、乾燥、さらに硬化することにより、水分散性ポリマーの架橋体又は水溶性ポリマーの架橋体よりなる塗膜層(C)を形成することができる。混合物を塗布する方法は、上記水分散液を塗布する方法と同様の方法をとることができる。さらに、混合物の加熱(乾燥)も、上記方法と同様の操作を行えばよい。上記条件で乾燥すれば、水分散性ポリマーの架橋体、または水溶性ポリマーの架橋体からなる塗膜層(C)が形成できる。なお、この場合も、混合物における固形分濃度は、1〜40質量%であり、5〜20質量%であることが好ましい。
【0153】
光学シート又は光学フィルム(A2)上に塗布する、前記水分散性ポリマーが水に分散した水分散液、または、該水分散液あるいは水溶性ポリマーが水に溶解した水溶液と架橋剤とを混合した混合物を塗膜層形成用組成物とする場合、上記の通り、該組成物の固形分(高分子ポリマー)濃度は、1〜40質量%とすることが好ましく、5〜20質量%とすることがさらに好ましい。この塗膜層形成用組成物は、固形分以外は水を主成分とするものであるが、水溶性有機溶媒を含むこともできる。使用できる水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類; エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルグリコールなどのグリコール類;そのエーテル類;N−メチルピロリドン; ジメチルスルホキシド;及びメトキシプロピルアセテートなどが使用できる。これら有機溶媒の含有量は、水100質量部に対して、通常、1質量部〜50質量部であるが、密着性や外観を保つためには、3質量部〜30質量部であるのが好ましい。
【0154】
上記方法により形成される該塗膜層(C)の膜厚は、合成樹脂層(B)を構成する重合性モノマーに対する耐溶解性、さらには合成樹脂層(B)、またはポリウレタン樹脂層(A1)(光学シート又は光学フィルム(A2)の両面に塗膜層(C)を積層した場合)との密着性の観点から、0.1〜20μmが好ましく、より好ましくは0.2〜10μmであり、最も好ましくは0.3〜5μmである。
【0155】
なお、前記の通り、この塗膜層(C)は、予め光学シート又は光学フィルム(A2)の表面に設けることもできるし、フォトクロミック積層体(A)を製造した後、該積層体の表面に設けることもできる。該ポリウレタン樹脂層(A1)と光学シート又は光学フィルム(A2)との間に介在させる場合には、予め、光学シート又は光学フィルムの両面に塗膜層(C)を形成しておくことが好ましい。
【0156】
次に、この塗膜層(C)の上に形成される合成樹脂層(B)について説明する。
【0157】
((B)合成樹脂層)
合成樹脂層(B)は、通常のプラスチックレンズ材料となる熱可塑性樹脂、又は重合性モノマーの組成物を硬化させた熱硬化性樹脂から形成することができる。中でも、塗膜層(C)を形成することの効果がより顕著に発揮されるのは、重合性モノマー組成物を硬化させた熱硬化性樹脂より合成樹脂層(B)を形成する場合である。重合性モノマー組成物としては、具体的には、(メタ)アクリレート系モノマー組成物、アリル系モノマー組成物、チオウレタン系モノマー組成物、ウレタン系モノマー組成物、チオエポキシ系モノマー組成物などの熱硬化性樹脂を形成しうる重合性モノマー組成物を挙げるとができる。
【0158】
(重合性モノマー組成物)
(メタ)アクリレート系モノマー組成物
(メタ)アクリレートモノマー組成物としては、下記に例示されるような(メタ)アクリレートモノマーを含んでなる組成物であり、さらには他の(メタ)アクリレートモノマー、や他の重合性モノマーを混合しても構わない。具体的な(メタ)アクリレートモノマーを例示すれば、グリシジル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタンオリゴマーテトラ(メタ)アクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、平均分子量776の2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メチルメタアクリレート等の少なくとも一つの(メタ)アクリレート基を分子中に有する(メタ)アクリレートモノマーなどを挙げることができる。
【0159】
(アリル系モノマー組成物)
アリル系モノマー組成物としては、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート等のアリル基を有するアリルモノマーを含んでなる組成物が挙げられる。
【0160】
(チオウレタン系モノマー組成物)
チオウレタン系モノマー組成物は、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物の混合物からなる。ポリイソシアネート化合物の具体例としては、前記水分散ポリウレタン樹脂に使用されるジイソシアネート化合物に加えて、2,5−ジイソシアナートメチル−1,4−ジチアン、2,5−ビス(4−イソシアナート−2−チアブチル)−1, 4−ジチアン、2,5−ビス(3−イソシアナートメチル−4−イソシアナート−2−チアブチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(3−イソシアナート−2−チアプロピル)−1,4−ジチアン、1,3,5 − トリイソシアナートシクロヘキサン、1, 3,5−トリス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアネートメチルチオ)メタン、1,5−ジイソシアネート−2−イソシアネートメチル−3−チアペンタン、1,2,3−トリス(イソシアネートエチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(イソシアネートメチルチオ)プロパン、1,1,6,6−テトラキス(イソシアネートメチル)−2,5−ジチアヘキサン、1,1,5,5 −テトラキス(イソシアネートメチル)−2,4−ジチアペンタン、1,2−ビス(イソシアネートメチルチオ)エタン、1,5−ジイソシアネート−3−イソシアネートメチル−2,4−ジチアペンタン、1,5−ジイソシアネート−3−イソシアネートメチル−2,4−ジチアペンタン等のポリイソシアネート類、これらのポリイソシアネート類のビュレット型反応によるニ量体、これらのポリイソシアネート類の環化三量体およびこれらのポリイソシアネート類とアルコールもしくはチオールの付加物等が挙げられる。これら、ポリイソシアネート化合物は、単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
【0161】
ポリチオール化合物の具体例としては、1,2−ジメルカプトエタン、1,2−ジメルカプトプロパン、2,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、1,2,3−トリメルカプトプロパン、1,4−ジメルカプトブタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,5−ジメルカプト−3−オキサペンタン、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2− メルカプトメチル−1,4−ジメルカプトブタン、2−(2−メルカプトエチルチオ)−1,3−ジメルカプトプロパン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ビス(メルカプトメチル)−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、1,2,7−トリメルカプト−4,6−ジチアヘプタン、1,2,9−トリメルカプト−4,6,8−トリチアノナン、1,2,8,9−テトラメルカプト−4,6−ジチアノナン、1,2,10,11−テトラメルカプト−4,6,8−トリチアウンデカン、1,2,12,13−テトラメルカプト− 4,6,8,10−テトラチアトリデカン、1,1,1−トリス(メルカプトメチル)プロパン、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、テトラキス(4−メルカプト−2 −チアブチル)メタン、テトラキス(7−メルカプト−2,5−ジチアヘプチル)メタン、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ブタンジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ブタンジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート) 、1,1−ジメルカプトシクロヘキサン、1,4−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ジメルカプトシクロヘキサン、1,2−ジメルカプトシクロヘキサン、1,4−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1−チアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1−チアン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトメチルフェ
ニル)エーテル、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、3,4−チオフェンジチオール、1,2 −ジメルカプト−3−プロパノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、グリセリルジチオグリコーレート、1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ) エタン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、3−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン等のポリチオール類を挙げることができる。これらは単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
【0162】
(ウレタン系モノマー組成物)
ウレタン系モノマー組成物としては、ジイソシアネート化合物、ポリオール化合物、及びジアミン硬化剤を含んでなる混合物を好適に用いることができる。
【0163】
ジイソシアネート化合物としては、前記水分散ポリウレタン樹脂に使用されるようなジイソシアネート化合物を、該ウレタン樹脂組成物用途に用いることができる。
【0164】
ポリオール化合物としては、前記水分散ポリウレタン樹脂に使用されるようなポリオール化合物を、該ウレタン樹脂組成物用途に用いることができる。
【0165】
ジアミン化合物としては、2,4−ジアミノ−3,5−ジエチル−トルエン、2,6−ジアミノ−3,5−ジエチル−トルエンおよびそれらの混合物、4,4’−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルメタン、ビス−4−(4−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、ビス−4−(3−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、及び市販品としてLonza Ltd.社製「Lonzacure」シリーズなどの芳香族ジアミン化合物;前記水分散ポリウレタン樹脂に使用されるジアミン化合物に加えて、市販品としてHuntsman社製「JEFFAMINE」シリーズなどを挙げることができる。
【0166】
(チオエポキシ系モノマー組成物)
チオエポキシ系モノマー組成物としては、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−3−(β−エピチオプロピルチオメチル)ブタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)ペンタン、1,6−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕エタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−[〔2−(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオエチル〕チオ]エタン等の鎖状有機化合物等;テトラキス(β−エピチオプロピルチオメチル)メタン、1,1,1−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2,2−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−4−チアヘキサン、1,5,6−トリス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアヘキサン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,5ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4,5−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,9−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)−5−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル〕−3,7−ジチアノナン、1,10−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,6−ビス〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕−3,6,9−トリチアデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,8−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル〕−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン等の分岐状有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等;1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕スルフィド、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオエチルチオメチル)−1,4−ジチアン等の環状脂肪族有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物;1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフォン、4,4'−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等が挙げられ、これらは単独もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0167】
以上のような重合性モノマー組成物には、必要に応じて、適当量の熱重合開始剤、光重合開始剤などの重合開始剤を添加してもよい。
【0168】
(合成樹脂層(B)の積層方法(フォトクロミックレンズの製造方法))
フォトクロミック積層体(A)の光学シート又は光学フィルムの塗膜層(C)上に、合成樹脂層(B)を積層する方法としては、以下の方法が挙げられる。具体的には、最表面に塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)を、プラスチックレンズ製造の際に使用されるガラスモールドや金型の中に設置し、そこに該合成樹脂層(B)を形成する重合性モノマー組成物を充填する方法である。
【0169】
合成樹脂層(B)として、前述の熱硬化性樹脂を採用する場合には、一般的に使用されているガラスモールドを用い、該ガラスモールド内に重合性モノマー組成物を充填後に熱硬化(注型重合)することで、フォトクロミックレンズを成型することができる。さらに、熱硬化と併せるか、または単独で光照射によって重合を実施することができる。重合時間は、適宜決定してやればよい。
【0170】
前述のような注型重合を実施するための具体的操作においては、例えば、ガラスモールドの一方に重合性モノマー組成物を充填しておいて、その上に、表面に塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)を浮かべておき、ガスケットやテープを介して他方のガラスモールドをセットした後、ガラスモールド内に重合性モノマー組成物を更に注入して重合する方法を採用することもできる。また、ガラスモールドを固定化しているガスケットやテープ、またはその他の手段により該フォトクロミック積層体(A)をガラスモールド内において支持しておき、重合性モノマー組成物を該ガラスモールド内に充填して重合する方法も採用することができる。さらにはガラスモールドの一方にフォトクロミック積層体(A)を密着させておき、密着させた反対側の塗膜層(C)上に、重合性モノマー組成物を充填して重合する方法などを利用することができる。
【0171】
また、本発明において、合成樹脂層(B)は、前記重合性モノマー組成物を使用する以外に、熱可塑性樹脂からも構成することができる。合成樹脂として、熱可塑性樹脂を採用する場合には、射出成型法を採用できる。具体的には、塗膜層(C)を最表面に有するフォトクロミック積層体(A)を、金型の片方の内壁に密着させておくか、金型の中間近傍に固定化した後に、熱可塑性樹脂を金型内部に射出することにより、本発明のフォトクロミックレンズを得ることができる。
【0172】
フォトクロミックレンズを製造する際、塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)の大きさ、及び形状は、必要に応じて適宜決定することができる。即ち、最終的に得られるフォトクロミックレンズの全体に亘る形状のものであってもよいし、或いはレンズの一部を覆うようなものであってもよい。その中でも、フォトクロミック積層体(A)の側面を、前記ガラスモールドや金型の外部にはみ出すように設置することで、ポリウレタン樹脂層(A1)からのフォトクロミック化合物、またはポリウレタン樹脂自体の溶出を抑制することが可能となる。
【0173】
なお、合成樹脂層(B)の厚みは、特に制限されるものではなく、得られるフォトクロミックレンズの用途、合成樹脂層(B)の積層方法等に応じて適宜決定すればよい。通常、合成樹脂層(B)の厚みは、0.5mm以上10.0mm以下である。
【0174】
以上のような方法により、フォトクロミックレンズを製造することができる。図1、図2に本発明のフォトクロミックレンズの構成例を示した。フォトクロミックレンズ1は、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)2の両面に、光学シート又は光学フィルム(A2)3を有するフォトクロミック積層体(A)4である。そして、この光学シート又は光学フィルム(A2)3の上に、塗膜層(C)5を有し、さらに、この塗膜層(C)5上に、合成樹脂層(B)6を積層してなるものがフォトクロミックレンズ1である(図1)。
【0175】
また、本発明のフォトクロミックレンズ1は、図2に示すように、ポリウレタン樹脂層2と光学シート又は光学フィルム3との間に、塗膜層5を形成することもできる。この塗膜層5を形成することにより、生産性や、フォトクロミック積層体4自体の密着性高めることができる。
【0176】
なお、図1、2には、フォトクロミック積層体4の両表面上に、塗膜層5を有する形態を示したが、一方の面にのみ塗膜層5を有するものであってもよい。
【実施例】
【0177】
以下に例示するいくつかの実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に、本発明を説明するためのものであり、本発明の精神及び範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【0178】
(塗膜層(C)を形成するための高分子ポリマー)
(水分散性ポリマー)
E1;カルボニル基、及びカルボキシル基を有する水分散ポリエステル樹脂(自己乳化型:東洋紡績株式会社製「バイロナールMD−1930」、樹脂固形分濃度 31wt%)。
E2;カルボニル基、及びカルボキシル基を有する水分散ポリエステル・ポリウレタン樹脂(自己乳化型:高松油脂株式会社製「WAC−15X」、樹脂固形分濃度 20wt%)。
E3;カルボニル基、及びカルボキシル基を有する水分散ウレタン樹脂(自己乳化型:日華化学株式会社製「エバファノールHA−107C」、樹脂固形分濃度 40wt%)。
E4;カルボニル基、及びカルボキシル基を有する水分散ウレタン樹脂(自己乳化型:第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス210」、樹脂固形分濃度 35wt%)。
E5;カルボキシル基を有する水分散ウレタン樹脂(自己乳化型:DIC株式会社製「ハイドランCP−7050」、樹脂固形分濃度 25wt%)。
E6;カルボキシル基を有する水分散ウレタン樹脂(自己乳化型:荒川化学工業株式会社製「ユリアーノW600」、樹脂固形分濃度 35wt%)。
E7;カルボニル基、及びカルボキシル基を有する水分散アクリル樹脂(自己乳化型:大成ファインケミカル製「SE−953A−2」、樹脂固形分濃度 39wt%)。
【0179】
(水溶性ポリマー)
E8;ポリビニルアルコール(ケン化度;99.6%、重合度1700)。
E9;ポリビニルアルコール(ケン化度;99.2%、重合度1000)。
【0180】
(架橋剤)
F1;ヒドラジド化合物(アジピン酸ジヒドラジド)。
F2;カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV−02」)。
F3;ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン。
F4;チタンラクテートアンモニウム塩。
【0181】
ポリウレタン樹脂層(A1)形成用組成物(フォトクロミック組成物)の調製方法
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三口フラスコに、数平均分子量800のポリカーボネートジオール(1,5−ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール)252g、イソホロンジイソシアネート100gを仕込み、窒素雰囲気下、70℃で6時間反応させ、プレポリマーを得た。その後、THF1000mlを加えた後、窒素雰囲気下でイソホロンジアミン19gを滴下しながら加え、滴下終了後25℃で1時間反応させた。
【0182】
次いで、上記溶液に窒素雰囲気下にて、4−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン8gを加え、25℃にて1時間反応させることによりポリウレタン樹脂を得た。
【0183】
上記溶液に、下記に示すフォトクロミック化合物(PC1)18.5gを混合、溶解することで、フォトクロミック組成物を得た。
【0184】
【化4】

【0185】
光学シート又は光学フィルム(A2)
・POLYCA;ポリカーボネート製シート(厚み 0.4mm)。
・PET;ポリエチレンテレフタレート製シート(厚み 0.3mm)。
・TAC;トリアセチルセルロース製シート(厚み 0.3mm)。
【0186】
合成樹脂層(B)形成用(重合性モノマー)組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの作製方法
各々作製した、塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)を、直径65mmの円形に裁断し、ガスケットを有するガラスモールド内(0.00D、レンズ径70mm、肉厚3.0mmに設定)に設置した。このガラスモールド内に、下記に記載する重合性モノマー組成物を注入し、下記条件により硬化させた後、外周を玉摺機にて研磨することにより、直径60mmのフォトクロミックレンズを得た。なお、比較例1〜3は、塗膜層(C)を有していないフォトクロミック積層体(A)を使用した。
【0187】
〔アリル系モノマー組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの製造方法〕
重合性モノマー組成物として、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(重合開始剤)3質量部、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート100質量部を準備した。
【0188】
次いで、前記ガラスモールド内に設置した塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)の上下に、前記重合性モノマー組成物を注入し、空気炉中で30〜90℃まで20時間かけて徐々に昇温し、90℃で1時間保持して重合を行った。重合終了後、ガスケットとモールドを取り外したのち、120℃で2時間熱処理を実施した。
【0189】
〔アクリル系モノマー組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの製造方法〕
ラジカル重合性単量体であるトリメチロールプロパントリメタクリレート 20質量部、平均分子量522のポリエチレングリコールジアクリレート 40質量部、ウレタンアクリレート(ダイセル化学工業製EBECRYL4858) 40質量部の混合物を準備した。
【0190】
さらに、該ラジカル重合性単量体100質量部に対し、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシネオデカネート1.0質量部を撹拌混合し重合性モノマー組成物とした。
【0191】
次いで、前記ガラスモールド内に設置した塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)の上下に、前記重合性モノマー組成物を注入し、重合は空気炉を用い、33℃から90℃まで17時間かけて徐々に昇温した後、90℃で2時間保持した。重合終了後、ガスケットとモールドを取り外したのち、オーブンに入れ110℃で3時間加熱した。
【0192】
〔チオウレタン系モノマー組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの製造方法〕
重合性モノマー組成物として、ジシクロヘキシルメタン−4 ,4 ’−ジイソシアネート43.5質量部、イソホロンジイソシアネート43.5質量部、1,2−ビス〔(2−メルカプトエチル)チオ〕−3−メルカプトプロパン63.0質量部、及び重合開始剤としてジブチルチンジラウレート0.1質量部の混合物を準備した。
【0193】
次いで、前記ガラスモールド内に設置した塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体の上下に、前記合成樹脂組成物を注入し、重合は空気炉を用い、35℃から130℃まで12時間かけて徐々に昇温した後、130℃で0.5時間保持した。重合終了後、ガスケットとモールドを取り外したのち、オーブンに入れ130℃で3時間加熱した。
【0194】
〔チオエポキシ系モノマー組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの製造方法〕
重合性モノマー組成物として、ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン95質量部、2−メルカプトエタノール5質量部、及び重合触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド0 . 1 重量部の混合物を準備した。
【0195】
次いで、前記ガラスモールド内に設置した塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体の上下に、前記合成樹脂組成物を注入し、重合は空気炉を用い、20℃から90℃まで20時間かけて徐々に昇温した後、90℃で1時間保持した。重合終了後、ガスケットとモールドを取り外したのち、オーブンに入れ90℃で1時間加熱した。
【0196】
〔ウレタン系モノマー組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの製造方法〕
重合性モノマー組成物として、アジピン酸と1,6−ヘキサンジオールからなる数平均分子量1000のポリエステルポリオール 100質量部と4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物78質量部、及び芳香族ジアミン硬化剤としての2,4−ジアミノ−3,5−ジエチル−トルエン/2,6−ジアミノ−3,5−ジエチル−トルエン17質量部を準備した。
【0197】
まず、上記ポリエステルポリオールと4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物との混合物を、乾燥窒素下で140℃にて10分間加熱し、プレポリマーを生成させた。このプレポリマーを70℃まで冷却し、24時間放置した。ここに、芳香族ジアミン硬化剤を混合し、前記ガラスモールド内に設置した塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)の上下に注入し、120℃で10時間にわたり硬化させた。重合終了後、ガスケットとモールドを取り外したのち、オーブンに入れ110℃で1時間加熱した。
【0198】
実施例1
(塗膜層(C)の形成)
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡績株式会社製「バイロナールMD−1930」)300g、メタノール60g、水250g、及びFZ-2104(東レダウコーニング株式会社製界面活性剤)1gを混合、撹拌することで、塗膜層形成用組成物(A1−1)を得た。この塗膜層形成用組成物(A1−1)を、厚さ0.4mmのポリカーボネート製シート(光学シート又は光学フィルム(A2):POLYCA)の一方の面に塗布し、110℃で30分乾燥、硬化させることにより、膜厚5μmの塗膜層を有する光学シートを得た。
【0199】
フォトクロミック積層体(A)の作製
ポリウレタン樹脂層(A1)形成用組成物の前記調製方法で得られたフォトクロミック組成物を、PET製フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製ピューレックスフィルム、シリコン塗膜付)に塗布し、50℃で30分乾燥させ、厚み約40μmのポリウレタン樹脂層(A1)を得た。次いで、得られたポリウレタン樹脂層(A1)を、前記方法により塗膜層(C)を形成したPOLYCAシート(ポリカーボネート製シート)2枚の間に挟み、40℃で24時間静置した後、さらに110℃で60分加熱処理した。そして、目的のフォトクロミック特性を有するフォトクロミック積層体(A:(S1))を得た。得られたフォトクロミック積層体(A:(S1))は、ポリウレタン樹脂層(A1)と接していない面にのみ塗膜層(C)を有していた。
【0200】
フォトクロミックレンズの作製
上記のアリル系モノマー組成物を用いて、上記の方法に従いフォトクロミックレンズを作製した。
【0201】
得られたフォトクロミックレンズを評価したところ、フォトクロミック特性としての発色濃度は1.1であり、退色速度は40秒であり、耐久性は98%であった。また、該フォトクロミックレンズの各層間のハガレ、及び色調を目視により評価行ったが、初期、耐候性試験後、煮沸試験1時間後、2時間後、及び3時間後のいずれにおいても不良は見られなかった。なお、これらの評価は以下のようにして行った。
【0202】
フォトクロミック特性
得られたフォトクロミックレンズを試料とし、これに、(株)浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100を、エアロマスフィルター(コーニング社製)を介して23℃、積層体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm2、245nm=24μW/cm2で120秒間照射して発色させ、フォトクロミックレンズのフォトクロミック特性を測定した。
【0203】
1)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディレクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
【0204】
2)発色濃度〔ε(120)−ε(0)〕:前記最大吸収波長における、120秒間照射した後の吸光度ε(120)と最大吸収波長における未照射時の吸光度ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れていると言える。
【0205】
3)退色速度〔t1/2(sec.)〕:120秒間照射後、光の照射をとめたときに、試料の前記最大波長における吸光度が〔ε(120)−ε(0)〕の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0206】
4)耐久性(%)=〔(A48/A0)×100〕:光照射による発色の耐久性を評価するために次の劣化促進試験を行った。すなわち、得られた積層体をスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により48時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A0)および試験後の発色濃度(A48)を測定し、〔(A48)/A0〕×100〕の値を残存率(%)とし、発色の耐久性の指標とした。残存率が高いほど発色の耐久性が高い。
【0207】
目視評価
下記2点の観点から、目視評価を実施した。
【0208】
〔ハガレ〕
得られたフォトクロミックレンズは、複数の界面を有しており、各層間の密着性評価を目視により実施した。この密着性評価、1)初期、2)前述の劣化促進試験(48時間)後、さらに3)蒸留水による煮沸試験(1時間、2時間、及び3時間)後に実施した。評価基準は、下記の通りである。
0;各層間で、全くハガレが見られない。
1;塗膜層と合成樹脂層間で、少なくとも一部でハガレが見られる。
2;光学シートとポリウレタン樹脂層間の、少なくとも一部でハガレが見られる。
【0209】
〔色調〕
得られたフォトクロミックレンズの色調を、集光機を用いた目視評価により実施した。評価基準は、下記の通りである。
0;白濁や、黄変等の色調不良が見られず、透明性が高い。
1;集光機を当てることにより、わずかに白濁などの色調不良を確認することができるが、実用上問題ないレベル。
2;集光機を当てなくとも、白濁などの色調不良を確認することができる。
【0210】
実施例2〜24
塗膜層(C)の形成
表1に示す塗膜層形成用組成物(A1−1〜A1−9)、及び光学シート(A2)を用いた以外は、実施例1記載の方法と同様にして、光学シート(A2)表面(片面、または両面)に、塗膜層(C)を形成させた。表1の塗膜層の積層面の欄において、片面と記載したものは、光学シートの合成樹脂層が積層される面にのみ塗膜層を設けたものを指す。また、両面と記載したものは、光学シートの両面に塗膜層を設けたものを指す。
【0211】
フォトクロミック積層体(A)の作製
実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂層(A1)を作製し、次いで、上記で得た塗膜層(C)を有する光学シートを用いた以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミック積層体(A:(S2)〜(S20))を得た。
【0212】
フォトクロミックレンズの作製
表2に示す塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)、及び合成樹脂層(B)を用いた以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミックレンズを作製した。また、得られたフォトクロミックレンズの評価結果を表2に示す。
【0213】
なお、各合成樹脂層を得るための硬化条件等に関しては、前述の’’合成樹脂層(B)形成用(重合性モノマー)組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの作製方法’’に従って実施した。
【0214】
比較例1〜3
フォトクロミック積層体(A)の作製
実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂層(A1)を作製し、表1に示す光学シートを用いた以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミック積層体(A:(S21)〜(S23))を得た。得られたフォトクロミック積層体(A:(S21)〜(S23))は、塗膜層(C)を有していない。
【0215】
フォトクロミックレンズの作製
表2に示すフォトクロミック積層体(A)、及び合成樹脂層(B)を用いた以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミックレンズを作製した。また、得られたフォトクロミックレンズの評価結果を表2に示す。
【0216】
なお、各合成樹脂層を得るための硬化条件等に関しては、前述の’’合成樹脂層(B)形成用(重合性モノマー)組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの作製方法’’に従って実施した。
【0217】
比較例4
塗膜層(C)の形成
トリエチレングリコールジメタクリレート 50g、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート 50g、及びIrgacure1870(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルーペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:7)、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.3gを混合、撹拌することで、塗膜層形成用組成物(A1−10)を得た。
【0218】
この塗膜層形成用組成物(A1−10)を、厚さ0.3mmのポリエチレンテレフタレート製シート(光学シート又は光学フィルム(A2):PET)の一方の面に塗布し、フュージョンUVシステムズ社製F3000SQ(Dバルブ)にて1分間光硬化させることにより、膜厚6μmの塗膜層(C)を有する光学シートを得た。
【0219】
フォトクロミック積層体(A)の作製
実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂層(A1)を作製し、次いで、上記で得た塗膜層(C)を有する光学シートを用いた以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミック積層体(A:(S24))を得た。得られたフォトクロミック積層体(A:(S24))は、光学シート(A2)のポリウレタン樹脂層(A1)と接していない面にのみ塗膜層(C)を有していた。
【0220】
フォトクロミックレンズの作製
表2に示す塗膜層(C)を有するフォトクロミック積層体(A)、及び合成樹脂層(B)を用いた以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミックレンズを作製した。また、得られたフォトクロミックレンズの評価結果を表2に示す。
【0221】
なお、各合成樹脂層を得るための硬化条件等に関しては、前述の’’合成樹脂層(B)形成用(重合性モノマー)組成物、及びそれを用いたフォトクロミックレンズの作製方法’’に従って実施した。
【0222】
【表1】

【0223】
【表2】

【0224】
上記実施例1〜24から明らかなように、本発明に従って、塗膜層を有する2枚の光学シートを用いて、フォトクロミック化合物を含有するポリウレタン樹脂層を挟みこんで得られたフォトクロミック積層体を、透明な合成樹脂中に埋設させることにより、優れたフォトクロミック特性、密着性を有するフォトクロミックレンズが得られることが分かる。
【0225】
一方、比較例1〜3のように、塗膜層のない光学シートを用いた場合には、フォトクロミック特性には問題がないものの、密着性が不十分であった。また、比較例4においても、塗膜層に(メタ)アクリル系組成物を用いた場合には、フォトクロミック特性には問題がないものの、密着性が不十分であった。
【符号の説明】
【0226】
1 フォトクロミックレンズ
2 フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)
3 光学シート又は光学フィルム(A2)
4 フォトクロミック積層体(A)
5 塗膜層(C)
6 合成樹脂層(B)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)との間に、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有するフォトクロミック積層体(A)と、少なくとも一方の該光学シート又は光学フィルム(A2)の上に合成樹脂層(B)を有するフォトクロミックレンズであって、
該光学シート又は光学フィルム(A2)と合成樹脂層(B)との間に、
水分散性ポリマー、水分散性ポリマーの架橋体、及び水溶性ポリマーの架橋体から選ばれる少なくとも1種の高分子ポリマーからなる塗膜層(C)を有することを特徴とするフォトクロミックレンズ。
【請求項2】
前記塗膜層(C)が、カルボニル基を有する水分散性ポリマーとヒドラジド化合物とを反応させて得られる水分散性ポリマーの架橋体からなることを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項3】
前記塗膜層(C)が、カルボキシル基を有する水分散性ポリマーとカルボジイミド化合物とを反応させて得られる水分散性ポリマーの架橋体からなることを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂層(A1)と前記光学シート又は光学フィルム(A2)との間に、さらに、前記塗膜層(C)を有することを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミックレンズ。
【請求項5】
請求項1に記載のフォトクロミックレンズを製造する方法であって、
水分散ポリマーが水に分散した水分散液を光学シート又は光学フィルム(A2)上に塗布し、乾燥することにより、水分散性ポリマーからなる塗膜層(C)を形成する工程を含むことを特徴とするフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のフォトクロミックレンズを製造する方法であって、
水分散ポリマーが水に分散した水分散液又は水溶性ポリマーが水に溶解した水溶液と、これらポリマーを架橋する架橋剤とを混合した後、得られた混合物を光学シート又は光学フィルム(A2)上に塗布し、乾燥することにより、水分散性ポリマーの架橋体又は水溶性ポリマーの架橋体よりなる塗膜層(C)を形成する工程を含むことを特徴とするフォトクロミックレンズの製造方法。
【請求項7】
互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)との間に、フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有するフォトクロミック積層体(A)の少なくとも一方の該光学シート又は光学フィルム(A2)の上に、
水分散性ポリマー、水分散性ポリマーの架橋体、及び水溶性ポリマーの架橋体から選ばれる少なくとも1種の高分子ポリマーからなる塗膜層(C)を積層してなる積層体。
【請求項8】
請求項7に記載の積層体において、該光学シート又は光学フィルム(A2)と前記ポリウレタン樹脂層(A1)との間に、さらに、前記塗膜層(C)を有する積層体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate