説明

フォトクロミック材料

フォトクロミック色素が開示される。フォトクロミック色素は、第1の光反応性基および第2の光反応性基を含み得る。第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線によりフォトクロミック色素の第1の光反応基に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線によりフォトクロミック色素の第2の光反応基に誘起され得る。第2の強度は、第1の強度より大きくてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にフォトクロミック材料に関する。
【背景技術】
【0002】
数多くのフォトクロミック材料が多様な産業界で使用されている。フォトクロミック材料の吸収スペクトルおよびそれによる色は、電磁放射線(たとえば、可視光またはUV光)の吸収の結果として変化し得る。
【0003】
多くのフォトクロミック材料は、フォトクロミズムの現象に基づく色変化特性を有する。フォトクロミズムは、可逆性の、少なくとも2つの形態の間の、光により誘起される化合物の変換を指す。少なくとも2つの形態は、本質として異なる吸収スペクトルを有し、したがって異なる色を呈する。フォトクロミック色素は、光依存性の色変化特性を呈するフォトクロミック材料である。光放射線の吸収は、異なる吸収スペクトルを有しそれにより異なる色を呈する2つの形態の間に、フォトクロミック色素を可逆的に変換させることができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示のある実施形態は、フォトクロミック色素を記述する。フォトクロミック色素は、第1の光反応性基および第2の光反応性基を含み得る。ある態様では、第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線により第1の光反応性基に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線により第2の光反応性基に誘起され得る。
【0005】
別の実施形態に従えば、フォトクロミック色素が記述される。フォトクロミック色素は、第1の光反応性部分を含む第1の光反応性基および第2の光反応性部分を含む第2の光反応性基を含み得る。ある態様では、第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線により第1の光反応性部分に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線により第2の光反応性部分に誘起されるが、第1の強度よりも第2の強度の方が大きい。
【0006】
さらに別の実施形態に従えば、フォトクロミック組成物が記述される。ある態様では、フォトクロミック組成物は、ポリマー、オリゴマー、モノマー、またはこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の材料、および材料の少なくとも一部に組み込まれた少なくとも1種のフォトクロミック色素を含み得る。ある態様では、少なくとも1種のフォトクロミック色素は、第1の光反応性基および第2の光反応性基を含み得る。ある態様では、第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線により第1の光反応性基に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線により第2の光反応性基に誘起され得る。
【0007】
なお別の実施形態に従えば、光学物品が記述される。ある態様では、光学物品は、眼科用要素、ディスプレイ要素、窓、鏡、液晶セル要素、およびこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1個の光学物品、ならびに光学物品の少なくとも一部に組み込まれた少なくとも1種のフォトクロミック色素を含み得る。ある態様では、少なくとも1種のフォトクロミック色素は、第1の光反応性基および第2の光反応性基を含み得る。ある態様では、第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線により第1の光反応性基に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線により第2の光反応性基に誘起され得る。
【0008】
上述の要約は例示のためだけであっていかなる意味でも制限を加えることを意図してはいない。上述した例示的な態様、実施形態および特徴に加えて、さらなる態様、実施形態および特徴が以下の詳細な説明を参照することにより明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
I.序論と定義
以下の詳細な説明においては、附属する構造式を参照するが、構造式は本明細書の一部である。構造式においては、文脈において他に記述しない限り、同様の記号が通常、同様の成分を特定する。詳細な説明において記述される例示的な実施形態、構造式、および特許請求の範囲は制限的であることを意図していない。本明細書に提示する主題の精神または範囲を逸脱することなく、他の実施形態を使用し得るし、他の変更もなし得る。
【0010】
本開示に従うフォトクロミック色素は、照射の強度が変化するにつれて2種以上の色変化を呈し得るフォトクロミック材料(たとえば、化学的な色素)を指す。本明細書に記述されるようにフォトクロミック色素は、異なる反応性を有する2種以上の光反応性基を1個の分子中に共に連結することにより形成し得る。
【0011】
本明細書で使用する場合、「光反応性基」という用語は、光反応性の特性を有するいかなる物質をも意味する。1つの形態から別の形態への光反応性基の変換は、電磁放射線(たとえば、UVまたは可視光線)の吸収により誘起され得る。いくつかの普通の光反応性の変換としては、開環または閉環反応、ペリ環化反応、シス−トランス異性化、分子内水素転移、分子内基転移、解離プロセスおよび電子移動を含むがこれらに限られるわけではない。
【0012】
ある態様では、光反応性基はフォトクロミック基を含み得る。ある態様では、フォトクロミック反応は、フォトクロミック基に起こる色変化反応であり得る。そのように、1つの形態から他の形態への変換は、2つの形態が異なる色を呈するような、色素の吸収スペクトルの変化を起こすまたは誘起するフォトクロミック反応を含み得る。
【0013】
本明細書で使用する場合、「フォトクロミック部分」という用語は、光反応性基の部分または一部を指し、その部分において、1つの形態から別の形態への可逆的なフォトクロミック変換を起こすためにフォトクロミック反応が起こる。
【0014】
本明細書で使用する場合、「開環または閉環反応」という用語は、フォトクロミック基が光放射線を吸収した時に起こる、開環反応または閉環反応を指す。フォトクロミック基の種に応じて開環反応または閉環反応が起こる。たとえば、スピロピランおよびスピロオキサジンは、光放射線に応答して開環反応を起こすが、ジアリールエテンおよびフルギドは、光放射線に応答して閉環反応を起こす。
【0015】
本明細書で使用する場合、「共役系」という用語は、原子が、交互になっている単結合と二重結合で共有結合している系を指す。ある態様では、第1のフォトクロミック反応が、本明細書で使用する場合、第1の光反応性基中の第1の共役系の修飾を含み得、第2のフォトクロミック反応が、第2の光反応性基中の第2の共役系の修飾を含み得る。たとえば、ある与えられた波長および/または強度を有する光の光子の吸収により誘起されるフォトクロミック反応は、第1の共役結合長を有する第1の共役系から第2の(たとえば、より長い)共役結合長を有する第2の共役系への光反応性基における変換を誘起し得る。共役結合長が変化するにつれて、分子の吸収スペクトルおよびそれによる分子の色が変化することが一般に起こることである。一般的に言えば、8未満の共役二重結合を有する共役系は、紫外線領域において光を吸収するにすぎず、ヒトの眼には無色である。追加の共役二重結合を加えること(すなわち、共役結合長の増加)により、共役系はより長波長(および低エネルギー)の光子を吸収し、結果としてヒトの眼の可視領域の光子の吸収をもたらす。
【0016】
したがって、本明細書で述べるフォトクロミック反応は、第1の共役結合長を有する第1の異性体から第2の共役結合長を有する第2の異性体への、または第2の共役結合長を有する第2の異性体から第3の共役結合長を有する第3の異性体への、フォトクロミック色素の変換を誘起する。共役結合長の増加に伴い、本明細書に開示されたフォトクロミック色素は、より長波長の光子を吸収し得る。そのように、無色のフォトクロミック色素は、有色のフォトクロミック色素(たとえば、無色から青色)へ変化し得る、または有色のフォトクロミック色素は、異なる色を有するフォトクロミック色素(たとえば、青色から赤色)へ変化し得る。
【0017】
たとえば、下のスキームIは、UV光の照射に応答してのスピロオキサジンの開環反応を示す。スキームI中に示されているスピロオキサジンは、光反応性基を含み、スピロオキサジンが、UV照射に応答して、その吸収特性を変化させ、それによりその色を変化させるため、前記化合物は、「フォトクロミックである」と呼ぶことができる。オキサジンのスピロ形は、sp混成のスピロ炭素(で表示した)によって分離された、共役オキサジンおよび他の共役芳香族部分を有する無色のロイコ色素である。UV光での照射の後、スピロ炭素とオキサジンとの間の結合が壊れ、開環する。結果として、スピロ炭素がsp混成状態に転換し平面状となり、芳香族基が回転し、拡張された共役系が形成される。拡張された共役系の形成は、分子に可視光の光子を吸収させ、それにより着色して見える。UV光源が除かれると、分子はその基底状態に徐々に緩和し、炭素−酸素結合が再形成され、スピロ炭素が再びsp混成状態となり、分子はもとの無色の状態に戻る。
スキームI
【0018】
【化1】

【0019】
本明細書で使用する場合、「光放射線」という用語は、光反応性基を1つの形態から別の形態へ変換させることができる、紫外線および可視光線などの電磁放射線を指すがこれに限られるわけではない。
【0020】
フォトクロミック反応の反応性は、フォトクロミック基のモル吸光係数に関係する。本明細書で使用する場合、「モル吸光係数」という用語は、ある与えられた波長において化学物質がいかに強力に光を吸収するかの測定値を指す。それは物質の固有特性である。材料のモル吸光係数(ε)は、下式による材料の吸光度に関係している。
ε=A/(c×l)
(式中、「A」は、特定の波長での材料の吸光度、「c」は、リットル当たりのモル(mol/L)で表した材料の濃度、および「l」は、センチメーターで表した光路長(またはセル厚さ)である。)
【0021】
本明細書で使用する場合、「強度」および「光放射線の強度」という用語は、光の強さを指す。光の強さは、単位面積当たりの光のパワー(たとえば、光放射線により運ばれるエネルギー)(たとえば、mW/cm)である。光の強さは、ある時間の間、ある面積を照らしている、ある与えられたパワーを有する光を指すこともある。
【0022】
II.フォトクロミック色素
本開示の実施形態は、フォトクロミック色素に関する。フォトクロミック色素は、電磁放射線の吸収に応答して色を可逆的に変化させる能力を呈する色素である。本明細書に開示されたフォトクロミック色素は、少なくとも2個の光反応性基を有し、フォトクロミック色素に少なくとも異なる2つの色を有する少なくとも2つの形態間で可逆的に変換することを可能とさせる。
【0023】
本開示のある態様において、フォトクロミック色素は、第1の光反応性基および第2の光反応性基を含む。第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線により第1の光反応性基に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線により第2の光反応性基に誘起され得る。
【0024】
ある態様において、フォトクロミック色素は、第2のフォトクロミック反応の前に、第1のフォトクロミック反応が起こり得るように構成されている。別の態様においては、フォトクロミック色素は、第1のフォトクロミック反応が第1の強度を有する放射線により誘起され、第2のフォトクロミック反応が第2の強度を有する放射線により誘起されるが、第2の強度が第1の強度よりも大きいように、構成されている。すなわち、第1のフォトクロミック反応が照射下に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、入射する照射の強度が増加するにつれて、連続した照射下で引き続き誘起される。
【0025】
分子が着色して見えるようにさせる共役系の形成を例示するために、スキームIが以下に参照される。
スキームI
【0026】
【化2】

【0027】
照射がない場合には、スキームIの左側に示されているスピロオキサジンは、2つの分離された、共役二重結合を有する部分を含む。すなわち、分子の一方の端のオキサジンの共役系および分子の他方の端のベンゼン環は、「スピロ」炭素(で表示した)で分離されている。共役系の間にあるスピロ結合の存在は、分子の一方の端から他方へのpi−軌道の拡張された重なりを妨げている。結果として、スピロオキサジンの非照射形は、無色である。
【0028】
しかし、照射に応答して、スピロ炭素とオキサジンの間の結合が壊れ、共役系が分子の一方の端から他方への拡張を形成する。そのような状態では、オキサジンは可視光を吸収することができ、着色して見える。
【0029】
上述したスピロオキサジンと対照的に、本明細書で開示したフォトクロミック色素は、第1の共役系を有する第1の光反応性基および第2の共役系を有する第2の光反応性基を含み得る。ある態様では、第1のフォトクロミック反応が誘起された時に第1の共役系が形成され、第2のフォトクロミック反応が誘起された時に第2の共役系が形成され得る。ある態様では、第1の共役系は、第1の共役結合長を有し、第2の共役系は、第2の共役結合長を有するが、それは、第1の共役結合長より長い。すなわち、共役系における追加の二重結合が、分子により長波長(および低エネルギー)の光子を吸収させ、結果としてヒトの眼に見え得る色を有する化合物をもたらす。
【0030】
本開示のフォトクロミック色素のある実施形態では、2個の光反応性基が異なる程度のモル吸光係数を有する。一般に、材料のモル吸光係数が高ければ高いほど、分子当り基準で、材料はより多くの放射線を吸収する。すなわち、材料のモル吸光係数が高ければ高いほど、フォトクロミック反応は起こりやすく、一方で、物質のモル吸光係数が低ければ低いほど、フォトクロミック反応が起こるのはより困難となる。多重のフォトクロミック基の間のモル吸光係数の差が大きいと、光反応性基の連続した変換は効率が良くなる。すなわち、第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線の吸収に応答して起こり、第2のフォトクロミック反応が第2のより高い強度を有する放射線の吸収に応答して起こる。さらに、2つの反応のタイミングを、入射する放射線の強度を徐々に増加させて十分分離することが可能である。
【0031】
そのように、ある実施形態では、第1のフォトクロミック反応が、相対的に低い強度の放射線による照射に応答して起こり、第2のフォトクロミック反応が、相対的に高い強度の放射線による照射に応答して起こるように、第1の光反応性基と第2の光反応性基との間のモル吸光係数の差が、約5000L/molに等しいかそれより大きい。別の態様では、第1の光反応性基と第2の光反応性基との間のモル吸光係数の差が、約5000L/mol、または約6000L/mol、または約6500L/mol、または約7000L/mol、または約7500L/mol、または約8000L/mol、または約8500L/mol、または約9000L/mol、または約9500L/mol、または約10,000L/mol、または約10,500L/mol、または約11,000L/mol、または約11,500L/mol、または約12,000L/mol、または約12,500L/mol、または約13,000L/mol、または約13,500L/mol、または約14,000L/mol、または約14,500L/mol、または約15,000L/mol、または約15,500L/mol、または約16,000L/mol、または約16,500L/mol、または約17,000L/mol、または約17,500L/mol、または約18,000L/mol、または約18,500L/mol、または約19,000L/mol、または約19,500L/mol、または約20,000L/molに等しいかそれより大きい。
【0032】
別の実施形態では、第1の光反応性基は、約20,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約15,000L/molのモル吸光係数を有し得る。そのように、第1のフォトクロミック反応が、相対的に低い強度の放射線による照射に応答して起こり、第2のフォトクロミック反応が、相対的に高い強度の放射線による照射に応答して起こり得る。別の態様では、第1の光反応性基は、約21,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約14,500L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約22,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約14,000L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約23,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約13,500L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約24,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約13,000L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約25,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約12,500L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約26,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約12,000L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約27,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約11,500L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約28,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約11,000L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約29,000L/molから約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molから約10,500L/molのモル吸光係数を有し得る、または第1の光反応性基は、約30,000L/molのモル吸光係数を有し、第2の光反応性基は、約10,000L/molのモル吸光係数を有し得る。
【0033】
本開示のさらに別の実施形態では、第1のフォトクロミック反応が、約50mW/cmから約100mW/cmの強度を有する光が第1の光反応性基に吸収された時に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、約150mW/cmから約200mW/cmの強度を有する光が第2の光反応性基に吸収された時に誘起され得る。そのように、第1のフォトクロミック反応が、相対的に低い強度の放射線による照射に応答して起こり、第2のフォトクロミック反応が、相対的に高い強度の放射線による照射に応答して起こり得る。別の態様では、第1のフォトクロミック反応が、約60mW/cmから約100mW/cmの強度を有する光が第1の光反応性基に吸収された時に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、約160mW/cmから約200mW/cmの強度を有する光が第2の光反応性基に吸収された時に誘起され得る、または第1のフォトクロミック反応が、約70mW/cmから約100mW/cmの強度を有する光が第1の光反応性基に吸収された時に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、約170mW/cmから約200mW/cmの強度を有する光が第2の光反応性基に吸収された時に誘起され得る、または第1のフォトクロミック反応が、約80mW/cmから約100mW/cmの強度を有する光が第1の光反応性基に吸収された時に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、約180mW/cmから約200mW/cmの強度を有する光が第2の光反応性基に吸収された時に誘起され得る、または第1のフォトクロミック反応が、約90mW/cmから約100mW/cmの強度を有する光が第1の光反応性基に吸収された時に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、約190mW/cmから約200mW/cmの強度を有する光が第2の光反応性基に吸収された時に誘起され得る、または第1のフォトクロミック反応が、約100mW/cmの強度を有する光が第1の光反応性基に吸収された時に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、約200mW/cmの強度を有する光が第2の光反応性基に吸収された時に誘起され得る。
【0034】
本開示のなお別の実施形態では、フォトクロミック色素により吸収される光の波長は、約250から400nm、または約260から390nm、または約270から380nm、または約280から370nm、または約290から370nm、または約300から370nm、または約310から370nm、または約320から370nm、または約330から370nm、または約340から370nm、または約350から370nm、または約360から370nm、または約365nmであり得る。
【0035】
これまでの議論から理解できるように、本明細書に開示されたフォトクロミック色素が、光放射線の相対的に低い強度を有する光に曝された時に、第1の光反応性基は、典型的にはより高いモル吸収係数を有するが、第1のフォトクロミック反応、たとえば、開環もしくは閉環反応、および/またはシス−トランス異性化反応を起こす。この第1のフォトクロミック反応により、第1の共役系が形成される。すなわち、共役系は、第1のフォトクロミック化合物の一方の端から第2の光反応性基へと拡張される。第1のフォトクロミック反応により形成された拡張された共役系は、色素により長波長の光子を吸収させ、それにより色素に第1の色を与える。
【0036】
相対的により強い放射線に曝される場合、第2のフォトクロミック基は、より低いモル吸光係数を有するように構成されているが、第2のフォトクロミック反応、たとえば、開環もしくは閉環反応、および/またはシス−トランス異性化反応を起こす。この第2のフォトクロミック反応により、第2の共役系が形成される。すなわち、共役系は、第1のフォトクロミック基の端から第2のフォトクロミック基の端へと拡張される。色素の共役系の拡張により、色素はより長波長の光子を吸収でき、そのために他の色を呈する。
【0037】
下に示すスキームIIは、本開示に従うフォトクロミック色素の2個のフォトクロミック基の連続したフォトクロミック反応(すなわち、開環反応)の例を表す。
スキームII
【0038】
【化3】

【0039】
スキームIIにおいては、2個のスピロオキサジン光反応性基は2個の色変化可能な色素を形成するように連結されている。スキームII−1に示された色素の構造は、共役系がスピロ炭素により分離されており、可視光を吸収するには短すぎるので無色である。たとえば、第1の光反応性基に付随する共役系は、スキームII−1中に太線で示している。スキームII−1中で太線で示した共役系はわずか3個の共役二重結合を含むが、これは化合物に可視光を吸収させ着色して見えるようにするには短すぎる。
【0040】
しかし、色素が放射線を受けると、第1の光反応性基は、第1のフォトクロミック反応を起こす。このスキームでは、第1の光反応性基は、第2の光反応性基に比較してより高いモル吸光係数を有するので最初に反応する。第1のフォトクロミック反応の結果、共役系は第2の光反応性基(スキームII−2、太線)に、8個の共役二重結合の共役結合長まで拡張され、これは、色素に可視光を吸収させ、色(たとえば、青色)を呈するのに十分である。
【0041】
色素が相対的により高い強度を有する光を照射された場合、第2の光反応性基は、第2の開環反応を起こす。第2のフォトクロミック反応の結果として、共役系が分子全体の長さに、13個の共役二重結合の共役結合長まで拡張され(スキームII−3、太線)、これは、色素に可視光の異なる波長(すなわち、より長い)を吸収させ、第2の色(たとえば、赤色)を呈するのに十分である。
【0042】
ある実施形態に従えば、第1のおよび第2の光反応性基は、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、ジアリールエテン化合物およびフルギド化合物からなる群から、独立に選択される少なくとも1つである。
【0043】
その中から光反応性基が選択され得るフォトクロミックジアリールエテンの非制限的な例としては、チオフェンパーフルオロペンテン、ベンゾチオフェンパーフルオロペンテン、ベンゾチオフェンマレイン酸無水物、ベンゾチオフェンシアノエテン、およびベンゾチオフェンスルホンパーフルオロペンテンが含まれる。
【0044】
その中から光反応性基が選択され得るフォトクロミックフルギドの非制限的な例としては、3−フリルおよび3−チエニルフルギドおよびフルギイミドが含まれる。
【0045】
ある実施形態では、本開示のフォトクロミック色素は、第1の光反応性部分を含む第1の光反応性基および第2の光反応性部分を含む第2の光反応性基を含み得る。フォトクロミック色素においては、第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線により第1の光反応性部分に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線により第2の光反応部分に誘起され得るが、第2の強度は、第1の強度より大きい。
【0046】
ある実施形態では、フォトクロミック色素は、式Iで表され得る。
式I
【0047】
【化4】

【0048】
式中、XおよびYは、独立に、水素、電子供与性基、または電子受容性基を表し、ただし、Xが電子供与性基を表す場合は、Yは水素または電子受容性基を表し、およびXが電子受容性基を表す場合は、Yは水素または電子供与性基を表し、ならびにRからR16は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−8アルキル、置換もしくは非置換のC1−8アルコキシ、置換もしくは非置換のC1−8アルケニル、置換もしくは非置換のC1−8共役アルキル、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し、またはこれらの置換基は一緒になってアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してアリール基を完成させる。特には、前記RからR16は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−6アルキル、置換もしくは非置換のC1−6アルコキシ、置換もしくは非置換のC1−6アルケニル、置換もしくは非置換のC1−6共役アルキル、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し、またはこれらの置換基は一緒になってアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してアリール基を完成させる。さらに特には、前記RからR16は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−4アルキル、置換もしくは非置換のC1−4アルコキシ、置換もしくは非置換のC1−4アルケニル、置換もしくは非置換のC1−4共役アルキル、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基表し、またはこれらの置換基は一緒になってアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してアリール基を完成させる。
【0049】
特に他に明示されない限り、本開示は以下に提供する定義を使用する。
【0050】
「置換された」基は、原子価の要請が満たされ、置換により化学的に安定な化合物が得られる場合に、1個または複数の水素原子が、1個または複数の水素でない基で置き換えられたものである。
【0051】
「アルキル」とは、直鎖および分岐の飽和炭化水素基を指し、一般には特定の数の炭素原子を有する(すなわち、C1−6アルキルは、1、2、3、4、5、または6個の炭素原子を有するアルキル基を、C1−12アルキルは、1、2、3、4、5、6,7,8、9、10、11、または12個の炭素原子を有するアルキル基を指す)。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ペンタ−1−イル、ペンタ−2−イル、ペンタ−3−イル、3−メチルブタ−1−イル、3−メチルブタ−2−イル、2−メチルブタ−2−イル、2,2,2−トリメチルエタ−1−イル、n−ヘキシル等が含まれるがこれらに限られるわけではない。
【0052】
「アルコキシ」とは、アルキル−O、アルケニル−O、およびアルキニル−Oを指す。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、s−ペントキシ等が含まれるがこれらに限られるわけではない。
【0053】
「アルケニル」とは、1個または複数の不飽和炭素−炭素結合を有する、直鎖および分岐の炭化水素基を指し、一般には特定の数の炭素原子を有する。アルケニル基の例としては、エテニル、1−プロペン−1−イル、1−プロペン−2−イル、2−プロペン−1−イル、1−ブテン−1−イル、1−ブテン−2−イル、3−ブテン−1−イル、3−ブテン−2−イル、2−ブテン−1−イル、2−ブテン−2−イル、2−メチル−1−プロペン−1−イル、2−メチル−2−プロペン−1−イル、1,3−ブタジエン−1−イル、1,3−ブタジエン−2−イル等が含まれるがこれらに限られるわけではない。
【0054】
「アリール」とは、それぞれ、窒素、酸素およびイオウから独立に選択される、0から4個の複素原子を含有する5−および6−員の単環芳香族基を含む、1価および2価の芳香族基を指す。単環アリール基の例としては、フェニル、ピロリル、フラニル、チオフェニル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラアゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリダジニル、ピリミジニル等が含まれるがこれらに限られるわけではない。アリール基としてはまた、上記したように縮合5−および6−員環を含む、二環式基、三環式基等が含まれる。多環アリール基の例としては、ナフチル、ビフェニル、アントラセニル、ピレニル、カルバゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾジオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチオフェネイル、キノリニル、イソキノリニル、インドリル、ベンゾフラニル、プリニル、インドリジニル等が含まれるがこれらに限られるわけではない。アリールおよびアリーレン基は、原子価の要請に反しない限り、親基にまたは任意の環原子における基質に結合していてもよい。同様に、アリール基は、原子価の要請に反しない限り、1個または複数の水素でない置換基を含み得る。有用な置換基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルカノイル、シクロアルカノイル、シクロアルケノイル、アルコキシカルボニル、シクロアルコキシカルボニル、ならびに上記で規定したようにハロ、ならびにヒドロキシ、メルカプト、ニトロ、アミノおよびアルキルアミノが含まれるがこれらに限られるわけではない。
【0055】
ある実施形態では、電子供与性基は、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルコキシ、ジュロリジンまたはジフェニルであり得る。電子受容性基は、シアノ、酸化窒素、ハロゲン、トリフルオロメチル、ジシアノビニル、またはトリシアノビニルであり得る。
【0056】
ある非制限的な実施形態では、式Iのフォトクロミック色素は、以下の式I−1からI−8からなる群から選択され得る。
【0057】
【化5】



(式中、R’およびR’’は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−8アルキル、または置換もしくは非置換のC1−8アルコキシを表す。)特に、R’およびR’’は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−6アルキル、または置換もしくは非置換のC1−6アルコキシを表す。
【0058】
2個の光反応性基は、光反応性中心の間に共役系を有するように連結されていても良い。非制限的な実施例に従えば、光反応性基は、互いに直接連結されていても良い。さらに、光反応性基は、互いに連結基を通して連結されていても良い。
【0059】
ある実施形態では、本開示のフォトクロミック色素は、式IIで表され得る。
式II
【0060】
【化6】

【0061】
(式中、XおよびYは、独立に、水素、電子供与性基、または電子受容性基を表し、ただし、Xが電子供与性基を表す場合、Yは水素または電子受容性基を表し、およびXが電子受容性基を表す場合、Yは水素または電子供与性基を表し、RからR21は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−8アルキル、置換もしくは非置換のC1−8アルコキシ、置換もしくは非置換のC1−8アルケニル、置換もしくは非置換のC1−8共役アルキル、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し、またはこれらの置換基は一緒になってアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してアリール基を完成させ、Aは、単結合、
【0062】
【化7】

【0063】
を表し、ここで、nは、1から6、1から4、または1から2である。)特には、前記RからR21は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−6アルキル、置換もしくは非置換のC1−6アルコキシ、置換もしくは非置換のC1−6アルケニル、置換もしくは非置換のC1−6共役アルキル、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し得、またはこれらの置換基は一緒になってアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してアリール基を完成させる。さらに特には、前記RからR21は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−4アルキル、置換もしくは非置換のC1−4アルコキシ、置換もしくは非置換のC1−4アルケニル、置換もしくは非置換のC1−4共役アルキル、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し得、またはこれらの置換基は一緒になってアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してアリール基を完成させる。
【0064】
ある非制限的な実施形態では、式IIのフォトクロミック色素は、下式II−1からII−4からなる群から選択され得る。
【0065】
【化8】

【0066】
(式中、R’およびR’’は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−8アルキル、または置換もしくは非置換のC1−8アルコキシを表す。)特に、R’およびR’’は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−6アルキル、または置換もしくは非置換のC1−6アルコキシを表す。
【0067】
III.フォトクロミック色素を組み込んだ物品
本開示はまた、フォトクロミック組成物を提供する。フォトクロミック組成物は、本明細書に既に記述した1種または複数のフォトクロミック色素を含み、その色素は第1の材料の一部に組み込まれ得る。例示的な実施形態では、材料としては、ポリマー、DNA/RNAもしくはタンパク質などのバイオポリマー、オリゴマー、モノマーまたはこれらの混合物もしくは組合せが含まれるがこれらに限られるわけではない。
【0068】
フォトクロミック色素は、フォトクロミック組成物を形成するために、ポリマー、オリゴマーまたはモノマーなどの材料の一部に組み込まれてもよく、フォトクロミック組成物を、たとえば、フォトクロミック物品を、これに限られるわけではないが、形成するために使用してもよい。本明細書で使用する場合、「ポリマー」という用語は、ホモポリマーおよびコポリマー、ならびにブレンドおよびこれらの他の組合せを指す。本明細書で使用する場合、「オリゴマー」という用語は、追加のモノマー単位と反応し得る2種以上のモノマー単位の組合せを指す。本明細書で使用する場合、「に組込まれる」という用語は、物理的におよび/または化学的に組み合わされることを意味する。たとえば、本明細書で開示された種々の非制限的な実施例に従うフォトクロミック色素は、物理的に、たとえば、これらに限られるわけではないが、フォトクロミック色素を材料に混合、組み合わせ、含浸、挿入、もしくは吸収させることにより、材料の一部と付随させてもよく、および/または化学的に、たとえば、これらに限られるわけではないが、共重合によりもしくはフォトクロミック色素を材料に他のやり方で結合すること(たとえば、共有結合的にまたは非共有結合的に連結すること)により、材料の一部と組み合わせてもよい。
【0069】
本明細書で開示された種々の非制限的な実施形態に従えば、フォトクロミック色素は、材料とフォトクロミック色素とをブレンドすることおよび結合することの少なくとも1つのやり方で材料の一部に組み込まれ得る。材料へのフォトクロミック色素の組込みに関して本明細書で使用する場合、「ブレンドすること」および「ブレンドされた」という用語は、フォトクロミック色素が、材料に対して結合されるのではなく、材料の一部に混合または混ぜ合わせられることを意味する。さらに、材料へのフォトクロミック色素の組込みに関して本明細書で使用する場合、「結合すること」または「結合された」という用語は、フォトクロミック色素が材料の一部に対して連結されることを意味している。たとえば、本明細書で限定するわけではないが、フォトクロミック色素は反応性置換基を通して材料に連結されてもよい。
【0070】
ある実施形態に従えば、フォトクロミック色素は、約0.001wt%から約5.0wt%、または約0.01wt%から約4.5wt%、または約0.1wt%から約4.0wt%、または約0.2wt%から約3.5wt%、または約0.5wt%から約3.0wt%、または約1.0wt%から約2.0wt%、または約1.2wt%から約1.7wt%、または約1.5wt%の割合で材料の一部に組み込まれ得る。
【0071】
ある特定の非制限的実施形態に従えば、材料は、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ(C1−C12)アルキルメタクリレート、ポリオキシ(アルキレンメタクリレート)、ポリ(アルコキシル化フェノールメタクリレート)、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニリデンクロライド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ((メタ)アクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ((メタ)アクリル酸)、熱可塑性ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、コポリ(スチレン−メチルメタクリレート)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、ポリビニルブチラール、ならびにポリオール(アリルカーボネート)モノマー、単官能アクリレートモノマー、単官能メタクリレートモノマー、多官能アクリレートモノマー、多官能メタクリレートモノマー、ジエチレングリコールジメタクリレートモノマー、ジイソプロペニルベンゼンモノマー、アルコキシル化ポリヒドリックアルコールモノマーおよびジアリリデンペンタエリスリトールモノマーからなる群のメンバーを有するポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマー材料であり得る。
【0072】
一般に、ガラス転移温度(T)は、ポリマーまたは別の材料が、剛直な固体状態から、変形し得る状態へ遷移する温度を指す。たとえば、室温よりはるかに低いガラス転移温度を有するポリマーは、エラストマーおよび/または粘稠な液体として特徴付けられ得るが、室温よりはるかに高いガラス転移温度を有するポリマーは、剛直な、構造用のポリマーとして特徴付けられ得る。
【0073】
フォトクロミック色素のある状態から別の状態への遷移は、一般に、1つまたは複数の構造の再配置を含むので、フォトクロミック色素の転換速度は、色素の周りの環境の固さに敏感であり得る。その結果、フォトクロミック色素は、溶液中で最も速く、剛直なポリマー中のような剛直な環境中で最も遅く転換する。転換速度を増加させ得る1つの方法は、低Tのポリマー(たとえば、室温よりもはるかに低いガラス転移温度を有するポリマー)へ色素を組み込むことである。次いで、低Tのポリマーが、剛直でない材料による減少した転換速度を保存しながら、構造のための剛直なポリマーに組み込まれてもよい。フォトクロミック色素へ可撓性で低Tのポリマーを付着させることは、フォトクロミック色素を剛直な材料中でもずっと早く転換させ得る。たとえば、シロキサンポリマーが付着したある種のスピロオキサジンは、剛直なマトリックスに組み込まれていてもほぼ溶液のような速度で転換し得る。
【0074】
そのように、ある実施形態では、色素は、約0℃未満、または約−5℃未満、または約−10℃未満、または約−15℃未満、または約−20℃未満、または約−25℃未満、または約−30℃未満、または約−35℃未満、または約−40℃満、または約−45℃未満、または約−50℃未満、または約−55℃未満、または約−60℃未満のガラス転移温度を有する、少なくとも1種の材料に組み込まれ得る。
【0075】
別の実施形態では、色素は、第2の材料に組み込まれ、次いでそれからそれが上述した第1の材料中に組み込まれ得る。その場合、第2の材料は、約0℃未満、または約−5℃未満、または約−10℃未満、または約−15℃未満、または約−20℃未満、または約−25℃未満、または約−30℃未満、または約−35℃未満、または約−40℃満、または約−45℃未満、または約−50℃未満、または約−55℃未満、または約−60℃未満のガラス転移温度を有する。
【0076】
さらに別の実施形態では、フォトクロミック色素は、約0℃未満、または5℃未満、または約−10℃未満、または約−15℃未満、または約−20℃未満、または約−25℃未満、または約−30℃未満、または約−35℃未満、または約−40℃満、または約−45℃未満、または約−50℃未満、または約−55℃未満、または約−60℃未満のガラス転移温度を有する、ポリシロキサンおよび/またはポリアクリレートからなる群から選択される第2の材料に組み込まれ得る。上述したように、色素を含む第2の材料は、第1の材料に組み込まれ得る。
【0077】
約0℃未満のガラス転移温度を有するポリアクリレートの非制限的な例は、ポリ(ブチルアクリレート)であり、そのガラス転移温度は、−49℃である。有機の側鎖(R≠H)を有する重合したシロキサンは、普通には、シリコーンまたはポリシロキサンとして公知である。代表的な例としては、[SiO(CH]n(ポリジメチルシロキサン)(“PDMS”)および[SiO(C]n(ポリジフェニルシロキサン)が含まれるがこれらに限られるわけではない。これらの化合物は有機と無機化合物の両者のハイブリッドと考えることができる。有機の側鎖が疎水性の特性を与えるが、一方、−Si−O−Si−O−のバックボーンは、純粋に無機的である。
【0078】
PDMSは、広汎に使用されているシリコンベースの有機ポリマーである。その適用範囲は、コンタクトレンズおよび医療用機器からエラストマーまで広がっている。PDMSは粘弾性的であり、長い流動時間においては(または高温では)、蜂蜜と同じように粘稠な液体のように振舞う。しかし、短い流動時間においては(または低温では)、ゴムと同じように弾性的な固体のように振舞う。独特の力学的、化学的および光学的特性のために、PDMSは多くの光学素子に組み入れられている。PDMSは、広い範囲の波長において光学的に透明である。さらに、架橋(通常、メチルトリクロロシランによる)の間に使われる硬化時間および温度は、バルクの屈折率(RI)を決定し得る。ポリマーは容易に成形できるため、レンズおよび導波路を形成するのに用いられてきた。また、PDMSの実効のRIおよび吸収スペクトルは、有機化合物がポリマー中に物理的に吸収されると変化する。
【0079】
別の実施形態では、本開示は、本明細書に開示された1種または複数のフォトクロミック色素または組成物から作成されるまたはそれらを組み込む光学物品を提供する。ある態様に従えば、光学物品は、少なくとも1個の光学物品および光学物品の一部に組み込まれた少なくとも1種のフォトクロミック色素を含む。
【0080】
本明細書で使用する場合、「光学」という用語は、光および/または視覚に関連または付随することを意味する。本明細書に開示された種々の非制限的な実施形態に従う光学要素としては、眼科用要素、ディスプレイ要素、窓、鏡、および液晶セル要素を含み得るがこれらに限られるわけではない。本明細書で使用する場合、「眼科用」という用語は、眼および/または視覚に関連または付随することを意味する。眼科用要素の非制限的な例としては、単視野または、分割もしくは非分割多視野レンズであり得る多視野レンズ(双焦点レンズ、三焦点レンズおよび累進レンズなどがあるがこれらに限られるわけではない)を含む矯正用および非矯正用レンズ、コンタクトレンズ、ならびに、これらに限られるわけではないが、拡大レンズ、保護レンズ、バイザー、ゴーグル、ならびに光学装置(たとえば、カメラおよび望遠鏡)のためのレンズを含む、視覚を矯正する、保護する、または拡張する(美容のためのまたはその他の)ために用いられる他の要素が含まれる。本明細書で使用する場合、「ディスプレイ」という用語は、言葉、数字、記号、デザインまたは図を用いての情報の視覚的なまたは機械読み取り可能な表示を意味する。ディスプレイ要素の非制限的な例としては、スクリーン、モニター、および安全マークなどの安全要素が含まれる。本明細書で使用する場合、「窓」という用語は、それを通して放射線の透過を許すようにした開口部を意味する。窓の非制限的な例としては、自動車および飛行機の透明板、ウインドシールド、フィルター、シャッター、ならびに光学スイッチが含まれる。本明細書で使用する場合、「鏡」という用語は、入射光の大部分を鏡面的に反射する表面を意味する。本明細書で使用する場合、「液晶セル」という用語は、整列できるようにされた液晶材料を含有する構造を指す。液晶セル要素の1つの非制限的な例としては、液晶ディスプレイがある。
【0081】
ある実施形態では、光学物品に組み込まれるフォトクロミック色素は、第1の光反応性基および第2の光反応性基を含み得る。ある態様では、第1の強度を有する放射線により第1の光反応基に第1のフォトクロミック反応が誘起され、第2の強度を有する放射線により第2の光反応基に第2のフォトクロミック反応が誘起され得る。本明細書に記載されたフォトクロミック色素の他のいかなるものも、組成に関してなんらの制限もなく光学物品に組み込まれ得る。
【0082】
ある態様では、光学物品は、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、ポリオキシ(アルキレンメタクリレート)、ポリ(アルコキシル化フェノールメタクリレート)、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニリデンクロライド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ((メタ)アクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ((メタ)アクリル酸)、熱可塑性ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、コポリ(スチレン−メチルメタクリレート)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、ポリビニルブチラール、ならびにポリオール(アリルカーボネート)モノマー、単官能アクリレートモノマー、単官能メタクリレートモノマー、多官能アクリレートモノマー、多官能メタクリレートモノマー、ジエチレングリコールジメタクリレートモノマー、ジイソプロペニルベンゼンモノマー、アルコキシル化ポリヒドリックアルコールモノマーおよびジアリリデンペンタエリスリトールモノマーからなる群のメンバーを有するポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーから組み立てられまたはさらに含み得る。
【0083】
上述したように、光学物品に組み込まれる色素は、約0℃未満のガラス転移温度を有する少なくとも1種の材料に組み込まれ得る。別の態様では、色素は第2の材料に組み込まれてもよく、その材料が、次いで上述した第1の材料に組み込まれ得る。その場合、第2の材料は、約0℃未満のガラス転移温度を有する。さらに別の実施形態では、フォトクロミック色素は、約0℃未満のガラス転移温度を有するポリシロキサンおよび/またはポリアクリレートからなる群から選択される第2の材料に組み込まれ得る。
【0084】
本明細書で開示された種々の非制限的な実施形態は、基盤および基盤の一部に結合された、上述した非制限的実施形態のいずれかに従うフォトクロミック色素を含むフォトクロミック物品を提供する。本明細書で使用する場合、「に結合された」という用語は、直接または間接に別の材料または構造を通して付随していることを意味する。
【0085】
本明細書で開示された非制限的な実施形態は、フォトクロミック組成物を、インモールド注型、塗布および積層の少なくとも1つの方法により基盤の少なくとも一部に結合することを含む、光学要素を調製する方法を提供する。
【0086】
たとえば、ある非制限的な実施形態に従えば、フォトクロミック組成物は、インモールド注型により基盤の少なくとも一部に結合し得る。この非制限的な実施形態に従えば、フォトクロミック組成物を含む塗布組成物は、液体塗布組成物または粉末塗布組成物であり得るが、金型の表面に適用される。その後、塗布済みの基盤が金型から取り除かれる。本明細書で開示された種々の非制限的な実施形態に従うフォトクロミック組成物が使用され得る粉末塗布物の非制限的な例は、米国特許第6,068,797号に挙げられており、その開示は、参照により本明細書にその全体が組み込まれる。
【0087】
別の非制限的な実施形態に従えば、フォトクロミック組成物は、塗布によって基盤の一部に結合されてもよい。適切な塗布法の非制限的な例としては、スピン塗布、スプレイ塗布(たとえば、液体または粉末塗布を使用)、カーテン塗布、ロール塗布、スピンおよびスプレイ塗布、オーバーモールド成形ならびにこれらの組合せが含まれる。たとえば、ある非制限的な実施形態に従えば、フォトクロミック組成物は、オーバーモールド成形により基盤に結合されてもよい。この非制限的な実施形態に従えば、フォトクロミック組成物(既に述べたように、液体塗布組成物または粉末塗布組成物であり得るが)を含む塗布組成物が、金型に適用され、次いで基盤が金型の中へ、基盤が塗布物に接触し基盤の表面に塗布物を広がらせるように置かれ得る。その後、塗布組成物は、少なくとも一部は固定され、塗布済みの基盤が金型から取り除かれ得る。本明細書で使用する場合、「固定される」という用語は、硬化、重合、架橋、冷却および乾燥を含むがこれらに限られるわけではない。代替として、空いた領域を基盤と金型との間に規定し、その後、その空いた領域にフォトクロミック組成物を含む塗布組成物を注入するようにして、金型の中に基盤を置くことにより、オーバーモールド成形を実施してもよい。その後、塗布組成物は、少なくとも部分的に固定され、塗布済みの基盤が金型から取り除かれ得る。
【0088】
追加としてまたは代替として、塗布組成物(フォトクロミック組成物の含有・不含有にかかわらず)は、基盤に(たとえば、前述の方法のいずれかにより)適用され、塗布組成物が、少なくとも部分的に固定され、その後にフォトクロミック色素を塗布組成物中へ(既に述べたように)吸収させてもよい。
【0089】
基盤がポリマー材料またはガラスなどの無機材料を含む、なお別の非制限的な実施形態に従えば、フォトクロミック組成物は、積層により基盤の少なくとも一部に結合され得る。この非制限的な実施形態に従えば、フォトクロミック組成物を含むフィルムが、基盤の少なくとも一部に、接着剤ならびに/または熱および圧力の適用を用いてまたは用いないで、接着されまたは他の方法で結合し得る。その後、所望ならば、フォトクロミック組成物を含むフィルムが2枚の基盤の間に挟まれているような要素を形成するように、第2の基盤が、第1の基盤の上に適用され、2枚の基盤が共に積層され(すなわち、熱および圧力を適用して)てもよい。フォトクロミック組成物を含むフィルムを形成する方法としては、たとえば、ポリマー溶液またはオリゴマー溶液もしくは混合物をフォトクロミック組成物と組み合わせるステップ、それからフィルムを注型または押出しするステップ、および、必要に応じて、少なくとも部分的にフィルムを固定するステップが含まれるがこれらに限られるわけではない。追加としてまたは代替として、(フォトクロミック組成物の含有・不含有にかかわらず)フィルムを形成し、フォトクロミック組成物を(上述したように)吸収させてもよい。
【0090】
さらに、本明細書で開示された種々の非制限的な実施形態に従うフォトクロミック組成物および物品が、さらに、前記組成物および物品の加工および/または機能において助けとなる他の添加物を含み得ることは、当業者により理解されよう。そのような添加剤の非制限的な例としては、光開始剤、熱開始剤、重合禁止剤、溶媒、光安定化剤(紫外光吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などの光安定剤などであるが、これらに限られるわけではない)、熱安定化剤、金型剥離助剤、レオロジー制御剤、レベル化剤(界面活性剤などであるが、これらに限られるわけではない)、フリーラジカル捕捉剤、接着促進剤(ヘキサンジオールジアクリレートおよびカップリング剤など)、ならびにこれらの組合せおよび混合物が含まれる。
【0091】
本開示は、本出願に記載された特定の実施例の用語に限定されるものではない。当業者には明白であるように、多くの修正や変化が本願の精神や範囲から逸脱することなくなされ得る。本開示の範囲内で機能的に等価の方法および装置が、本明細書において列挙したものに加えて、これまでの記載から当業者には明白であろう。そのような修正や変化は、添付の特許請求の範囲内であることを意図している。本開示は、添付の特許請求の範囲の用語によってのみ、そのような特許請求の範囲が権利を与えられる等価物の全範囲に沿って、制限を受けるものである。本開示は、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生物系、これらのものは、もちろんのことだが変化し得るが、に限定されるものではないことは理解されねばならない。本明細書に用いられる用語法は、特定の実施例のみを記述する目的のためのものであり、制限的であることを意図してはいない。
【0092】
本明細書における実質的にすべての複数形および/または単数形の用語の使用に対して、当業者は、状況および/または用途に適切なように、複数形から単数形に、および/または単数形から複数形に変換することができる。さまざまな単数形/複数形の置き換えは、理解しやすいように、本明細書で明確に説明することができる。
【0093】
通常、本明細書において、特に添付の特許請求の範囲(たとえば、添付の特許請求の範囲の本体部)において使用される用語は、全体を通じて「オープンな(open)」用語として意図されていることが、当業者には理解されよう(たとえば、用語「含む(including)」は、「含むがそれに限定されない(including but not limited to)」と解釈されるべきであり、用語「有する(having)」は、「少なくとも有する(having at least)」と解釈されるべきであり、用語「含む(includes)」は、「含むがそれに限定されない(includes but is not limited to)」と解釈されるべきである、など)。導入される請求項で具体的な数の記載が意図される場合、そのような意図は、当該請求項において明示的に記載されることになり、そのような記載がない場合、そのような意図は存在しないことが、当業者にはさらに理解されよう。たとえば、理解の一助として、添付の特許請求の範囲は、導入句「少なくとも1つの(at least one)」および「1つまたは複数の(one or more)」を使用して請求項の記載を導くことを含む場合がある。しかし、そのような句の使用は、同一の請求項が、導入句「1つまたは複数の」または「少なくとも1つの」および「a」または「an」などの不定冠詞を含む場合であっても、不定冠詞「a」または「an」による請求項の記載の導入が、そのように導入される請求項の記載を含む任意の特定の請求項を、単に1つのそのような記載を含む実施形態に限定する、ということを示唆していると解釈されるべきではない(たとえば、「a」および/または「an」は、「少なくとも1つの」または「1つまたは複数の」を意味すると解釈されるべきである)。同じことが、請求項の記載を導入するのに使用される定冠詞の使用にも当てはまる。また、導入される請求項の記載で具体的な数が明示的に記載されている場合でも、そのような記載は、少なくとも記載された数を意味すると解釈されるべきであることが、当業者には理解されよう(たとえば、他の修飾語なしでの「2つの記載(two recitations)」の単なる記載は、少なくとも2つの記載、または2つ以上の記載を意味する)。さらに、「A、BおよびC、などの少なくとも1つ」に類似の慣例表現が使用されている事例では、通常、そのような構文は、当業者がその慣例表現を理解するであろう意味で意図されている(たとえば、「A、B、およびCの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AおよびBを共に、AおよびCを共に、BおよびCを共に、ならびに/またはA、B、およびCを共に、などを有するシステムを含むが、それに限定されない)。2つ以上の代替用語を提示する事実上いかなる離接する語および/または句も、明細書または特許請求の範囲のどこにあっても、当該用語の一方(one of the terms)、当該用語のいずれか(either of the terms)、または両方の用語(both terms)を含む可能性を企図すると理解されるべきであることが、当業者にはさらに理解されよう。たとえば、句「AまたはB」は、「A」または「B」あるいは「AおよびB」の可能性を含むことが理解されよう。
【0094】
さらに、本開示の特徴または態様は、マーカッシュ群で記述される。当業者ならば、本開示がまた、マーカッシュ群の各項のいずれかの個々の項のまたはそのサブグループでここに記述されていると認識するであろう。
【0095】
当業者には理解されるように、書かれた記述を提供している意味においてなどの、いかなるおよびすべての目的に対して、本明細書に開示されたすべての範囲は、いかなるおよびすべての可能な部分範囲ならびにその部分範囲の組合せを包含する。挙げられた範囲はいずれも、十分に記述されたものとして、および同じ範囲を、少なくとも等しい半分、1/3、1/4、1/5、1/10等に分割し得るものとして容易に認識され得る。非制限的な例として、本明細書に述べられたそれぞれの範囲は、1/3の低い部分、真ん中の1/3、および高い方の1/3等に容易に分割され得る。当業者には理解されるように、「まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」等などのすべての用語は、記載された数を含み、上述したように部分範囲にさらに分割し得る範囲を指す。最後に、当業者には理解されるように、範囲は、個々の数を含む。したがって、たとえば、1〜3のセルを有する群は、1、2、または3個のセルを有する群を指す。同様に、1〜5のセルを有する群は、1、2、3、4、または5個のセルを有する群を指す、等である。
【0096】
種々の態様および実施形態が本明細書に開示されているが、他の態様および実施形態も当業者には明らかであろう。本明細書に開示された種々の態様および実施形態は、以下の特許請求の範囲で示される真の範囲と精神を有するものであり、例示の目的のためであって、制限的であることを意図してはいない。
【実施例】
【0097】
本明細書に開示された種々の非制限的な実施形態に従ってフォトクロミック色素を作成するために用いられる合成手順を実施例1から2において提示する。
【0098】
実施例1
1,3,3−トリメチル−6−(4−(1’,3’,3’−トリメチルスピロ[ベンゾ[b][1,4]オキサジン−2,2’−インドリン]−6−イル)フェニル)スピロ[インドリン−2,3’−ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]の合成
【0099】
【化9】

【0100】
化合物2の調製:2,3,3−トリメチル−3H−インドールおよびヨードメタンのジクロロエタン溶液を、4時間攪拌下に還流させる。次いで、反応混合物を室温で1時間攪拌し、沈殿した固体をろ過により集める。
【0101】
化合物3の調製:化合物2の粗固体をアセトンで洗浄した後、固体の一部を(1M)のNaOH水溶液に溶解する。得られた1,3,3−トリメチル−2−メチレンインドリンをクロロホルムで抽出する。有機層を無水NaSOで脱水し、溶媒を揮発させる。
【0102】
化合物5の調製:化合物3および4−ブロモ2−ニトロソフェノールをエタノールに溶解し、混合物を90℃で3時間攪拌する。混合物を冷却した後、固体生成物5をろ過で得る。
【0103】
化合物7の調製:6−ブロモ−2,3,3−トリメチル−3H−インドールおよびヨードメタンのジクロロエタン溶液を6時間攪拌下に還流させる。次いで、反応混合物を室温で1時間攪拌し、沈殿した固体7をろ過により集める。
【0104】
化合物8の調製:化合物7の固体をアセトンで洗浄した後、固体の一部を(1M)のNaOH水溶液に溶解する。得られた6−ブロモ−1,3,3−トリメチル−2−メチレンインドリン8をクロロホルムで抽出する。有機層を無水NaSOで脱水し、溶媒を揮発させる。生成物はかなり良い収率で得られる。
【0105】
化合物10の調製:化合物8および1−ニトロソナフタレン−2−オールをエタノールに溶解し、混合物を90℃で3時間攪拌する。混合物を冷却した後、固体生成物、6−ブロモ−1,3,3−トリメチルスピロ[インドリン−2,3’−ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]をろ過で得る。
【0106】
化合物11の調製:鈴木カップリング反応
化合物5および化合物10を、1,4−フェニレンジボロン酸、Pd(PPh、KCOの存在下、トルエンに溶解する。混合物を12時間還流させる。最終生成物、1,3,3−トリメチル−6−(4−(1’,3’,3’−トリメチルスピロ[ベンゾ[b][1,4]オキサジン−2,2’−インドリン]−6−イル)フェニル)スピロ[インドリン−2,3’−ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]をシリカゲルクロマトグラフィー(EA:ヘキサン=1:2)で得る。得られた化合物を、THF/ヘキサン中で再沈殿させて精製する。
【0107】
実施例2
(E)−1,3,3−トリメチル−6−(2−(1’,3’,3’−トリメチルスピロ[ベンゾ[b][1,4]オキサジン−2,2’−インドリン]−6−イル)ビニル)スピロ[インドリン−2,3’−ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]の合成
【0108】
【化10】

【0109】
化合物12の合成は、化合物11の合成に非常によく似ている。
【0110】
化合物5および化合物10を、1,2−ビス(トリブチルスズ)エタン、Pd(PPhの存在下、ジメチルホルムアミドに溶解する。反応混合物を一夜還流させる。最終化合物、(E)−1,3,3−トリメチル−6−(2−(1’,3’,3’−トリメチルスピロ[ベンゾ[b][1,4]オキサジン−2,2’−インドリン]−6−イル)ビニル)スピロ[インドリン−2,3’−ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]をシリカゲルクロマトグラフィー(EA:ヘキサン=1:4)で得る。得られた化合物を、THF/ヘキサン中で再沈殿させて精製する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の光反応性基
を含むフォトクロミック色素であって、
第1の光反応性基が、第1の強度を有する放射線に応答して第1のフォトクロミック反応を起こすように構成されており、
第2の光反応性基が、第2の強度を有する放射線に応答して第2のフォトクロミック反応を起こすように構成されている、フォトクロミック色素。
【請求項2】
第2の光反応性基が第2のフォトクロミック反応を起こす前に、第1の光反応性基が第1のフォトクロミック反応を起こすように構成されている、請求項1のフォトクロミック色素。
【請求項3】
第2の強度が第1の強度よりも大きい、請求項2のフォトクロミック色素。
【請求項4】
第1の光反応性基が第1の共役系を有し、第2の光反応性基が第2の共役系を有し、
第1の共役系が、第1のフォトクロミック反応が誘起された時に完成され、
第2の共役系が、第2のフォトクロミック反応が誘起された時に完成される、
請求項1のフォトクロミック色素。
【請求項5】
第1の共役系が第1の共役結合長を有し、第2の共役系が、第1の共役結合長より長い第2の共役結合長を有する、請求項4のフォトクロミック色素。
【請求項6】
第1の光反応性基と第2の光反応性基の間のモル吸光係数の差が、約5000L/molに等しいかそれより大きい、請求項1のフォトクロミック色素。
【請求項7】
第1のフォトクロミック反応が、約50mW/cmから約100mW/cmの強度を有する光が第1の光反応性基によって吸収された時に誘起され、
第2のフォトクロミック反応が、約150mW/cmから約200mW/cmの強度を有する光が第2の光反応性基によって吸収された時に誘起される、請求項1のフォトクロミック色素。
【請求項8】
第1および第2の光反応性基が、それぞれ、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、ジアリールエテン化合物およびフルギド化合物からなる群の少なくとも1種である、請求項1のフォトクロミック色素。
【請求項9】
フォトクロミック色素が、式Iの構造で表される、請求項1のフォトクロミック色素。
式I
【化1】

(式中、
XおよびYは、独立に、水素;アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルコキシ、ジュロリジンもしくはジフェニル、およびこれらの組合せからなる群から選択される電子供与性基;またはシアノ、酸化窒素、ハロゲン、トリフルオロメチル、ジシアノビニルもしくはトリシアノビニルおよびこれらの組合せからなる群から選択される電子受容性基を表し、ただし、Xが電子供与性基を表す場合は、Yは水素または電子受容性基を表し、Xが電子受容性基を表す場合は、Yは水素または電子供与性基を表し、
からR16は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−8アルキル、置換もしくは非置換のC1−8アルコキシ、置換もしくは非置換のC1−8アルケニル、置換もしくは非置換のC1−8共役アルキル、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し、またはこれらの置換基は一緒になってアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してアリール基を完成させる。)
【請求項10】
式Iの色素が、式I−1から式I−8およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項9のフォトクロミック色素:
【化2】


(式中、
R’およびR’’は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−8アルキル、または置換もしくは非置換のC1−8アルコキシを表す。)
【請求項11】
フォトクロミック色素が、式IIの構造により表される、請求項1のフォトクロミック色素:
式II
【化3】

(式中、
XおよびYは、独立に、水素、電子供与性基、または電子受容性基を表し、ただし、Xが電子供与性基を表す場合は、Yは水素または電子受容性基を表し、Xが電子受容性基を表す場合は、Yは水素または電子供与性基を表し、
からR21は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−8アルキル、置換もしくは非置換のC1−8アルコキシ、置換もしくは非置換のC1−8アルケニル、置換もしくは非置換のC1−8共役アルキル、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基を表し、またはこれらの置換基は一緒になってアルキレンもしくはアルケニレン鎖を形成してアリール基を完成させ、
Aは、単結合、
【化4】

を表し、ここで、nは、1から6である。)
【請求項12】
式IIの色素が、式II−1からII−4およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項11のフォトクロミック色素:
【化5】


(式中、
R’およびR’’は、独立に、水素、ハロゲン、置換もしくは非置換のC1−8アルキル、または置換もしくは非置換のC1−8アルコキシを表す。)
【請求項13】
ポリマー、オリゴマー、モノマー、またはこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の材料、および材料の少なくとも一部に組み込まれた少なくとも1種のフォトクロミック色素を含むフォトクロミック組成物であって、
少なくとも1種のフォトクロミック色素は、第1の光反応性基および第2の光反応性基を含み、第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線により第1の光反応性基に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線により第2の光反応性基に誘起される、フォトクロミック組成物。
【請求項14】
材料が、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、ポリオキシ(アルキレンメタクリレート)、ポリ(アルコキシル化フェノールメタクリレート)、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニリデンクロライド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ((メタ)アクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ((メタ)アクリル酸)、熱可塑性ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、コポリ(スチレン−メチルメタクリレート)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、ポリビニルブチラール、ならびにポリオール(アリルカーボネート)モノマー、単官能アクリレートモノマー、単官能メタクリレートモノマー、多官能アクリレートモノマー、多官能メタクリレートモノマー、ジエチレングリコールジメタクリレートモノマー、ジイソプロペニルベンゼンモノマー、アルコキシル化ポリヒドリックアルコールモノマーおよびジアリリデンペンタエリスリトールモノマーからなる群のメンバーを有するポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである、請求項13のフォトクロミック組成物。
【請求項15】
少なくとも1種の材料が、約0℃未満のガラス転移温度を有する第2の材料を少なくともさらに含む、請求項13のフォトクロミック組成物。
【請求項16】
色素が少なくとも1個の共有結合で第2の材料にカップリングされている、請求項15のフォトクロミック組成物。
【請求項17】
第1および第2の光反応性基が、それぞれ、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、ジアリールエテン化合物、フルギド化合物、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項13のフォトクロミック組成物。
【請求項18】
眼科用要素、ディスプレイ要素、窓、鏡、液晶セル要素、およびこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1個の光学物品、ならびに前記光学物品の少なくとも一部に組み込まれた少なくとも1種のフォトクロミック色素を含む物品であって、
少なくとも1種のフォトクロミック色素は、第1の光反応性基および第2の光反応性基を含み、第1のフォトクロミック反応が、第1の強度を有する放射線により第1の光反応性基に誘起され、第2のフォトクロミック反応が、第2の強度を有する放射線により第2の光反応性基に誘起される、物品。
【請求項19】
光学物品が、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、ポリオキシ(アルキレンメタクリレート)、ポリ(アルコキシル化フェノールメタクリレート)、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニリデンクロライド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ((メタ)アクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ((メタ)アクリル酸)、熱可塑性ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、コポリ(スチレン−メチルメタクリレート)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、ポリビニルブチラール、ならびにポリオール(アリルカーボネート)モノマー、単官能アクリレートモノマー、単官能メタクリレートモノマー、多官能アクリレートモノマー、多官能メタクリレートモノマー、ジエチレングリコールジメタクリレートモノマー、ジイソプロペニルベンゼンモノマー、アルコキシル化ポリヒドリックアルコールモノマーおよびジアリリデンペンタエリスリトールモノマーからなる群のメンバーを有するポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーをさらに含む、請求項18の物品。
【請求項20】
第1のおよび第2の光反応性基が、それぞれ、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、ジアリールエテン化合物、フルギド化合物、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項18の物品。

【公表番号】特表2013−518979(P2013−518979A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552789(P2012−552789)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009127
【国際公開番号】WO2011/102599
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(510056353)コリア・ユニバーシティ・リサーチ・アンド・ビジネス・ファウンデーション (15)
【Fターム(参考)】