説明

フォトクロミック複合材料

【課題】
【解決手段】
フォトクロミック複合材料のゾル−ゲル作製方法であって、前駆体とフォトクロミック錯体とを配置し、加水分解、凝縮、および乾燥の連続ステップによってゾル−ゲル法を実施する方法において、前駆体としてアルコキシシランを選択し、フォトクロミック錯体としてニトロシル配位子を有するルテニウム錯体を選択し、組み合わせにより、加水分解、選択された形状の容器内への配置、凝縮、熟成および老化の連続ステップにより、選択された前駆体とフォトクロミック錯体とからゾル−ゲル法を実施し、この最後のステップが、最終的な乾燥を含み、熟成および老化ステップでは、pH、温度、および持続時間を選択することにより、生成されて容器により形状が決められるキセロゲル中で、結晶状態にあってナノ粒子の形態をとる、ニトロシル配位子を有するルテニウムフォトクロミック錯体が、少なくともほぼ均質に分布されたシリカマトリクスのナノポアに導入されるようにする。高容量の光メモリ媒体の実現に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック複合材料に関する。このような複合材料は、高密度の光情報記録媒体を構成することができる。
【背景技術】
【0002】
高密度の光情報記録媒体は、光学的な品質にすぐれ、厚みが最小限であり、励起状態寿命が長く、光誘起変化が著しく、すなわち屈折率が著しく変わる等の、幾つかの特性を備えていなければならない。屈折率は、情報記録ホログラフィー技術において必要不可欠なパラメータである。これらの特性を組み合わせによって満たそうとすると、こうした光記録機能の候補となる材料が制限されるという制約が生じる(J.Asheley、M−P.Bernal、G.W.Burr、H.Coufal、H.Guenther、J.A.Hoffnagle、C.M.Jefferson、B.Marcus、R.M.Macfarlane、R.M.Shelby、G.T.Sincerbox「Holographic data storage」IBM J.Res.Develop.、vol.44、2000、341)。
【0003】
光記録媒体としては、LiNbOまたはBATiO等の大型寸法の結晶の形状をとる合成無機材料、または光反応性の複合ポリマー、特に、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)マトリクスにフェナントレンキノン(PQ)等の発色団分子(molecule chromophore)を組み合わせた複合材料、あるいは、また、アゾベンゼンまたはスピロピラン等の発色団基(groupement chromophore)など、様々な材料が研究されている。このような場合、無機材料または光反応性の複合ポリマーは、光により励起されると、それらの屈折率等の光特性が可逆的に変化するように構成される(G.T.Sincerbox「Holographic storage:are we there yet」URL:http://www.optics.arizona.edu/Glenn/holograp1.htm)。
【0004】
化合物の色を変化させるとともに屈折率を変えるような、低温で可逆性の異性化反応を有するニトロプルシドナトリウムNa[Fe(CN)NO].2HO等の化学的なニトロシル基を有するフォトクロミック分子についても同様の研究が行われている。光誘起準安定状態の寿命は長い(347日以上)。このタイプの分子材料に照射を行うと、ニトロシル配位子の立体配座が変化する。光学的な変化の位置が特定され、屈折率の変化が著しく、状態変化の速度は当該用途に関して適切である。しかし、このタイプの材料には、次のような幾つかの限界がある。すなわち、発生する粒子数(population)が部分的なものでしかないので像の解像度が最適ではなく、動作温度が室温からかけ離れており、材料は単結晶の形状をとるため、それに固有の欠点すなわち脆弱性や寸法制御が困難であることなどが挙げられる。a)P.Gutlich、Y.Garcia、T.Woike「Photoswitchable coordination compounds」Coord.Chem.Rev.、2001、839、b)T.Woike、W.Kirchner、G.Schetter、T.Barthel、S.Haussuhl「New information storage elements on the basis of metastable electronic states」、Optics Comm.、vol.106、1994、6、c)M.Imlau、M.Fally、T.Weisemoeller、D.Schaniel「Holographic light scattering in centrosymmetric sodium nitroprusside upon generation of light−induced metastables states」Phys.Rev.B、vol.73、2006、205113参照。
【0005】
D.Schaniel、B.Cormary、I.Malfant、L.Valade、T.Woike、B.Delley、K.W.Kramer、H.U.Gudel、「Photogeneration of two metastable NO linkage isomers with high populations of up to 76% in trans−[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HO」、Phys.Chem.Chem.Phys.、vol.9、2007、3717は、上記の錯体と同様の特性を有する一方で有効性を一段と高めた錯体[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HOを記載している。このような、ニトロシル配位子を有するルテニウムフォトクロミック錯体では、準安定状態の形成により生ずるスイッチング特性が、錯体中のニトロシル配位子の立体配座の変化に関係する。こうした構造的な変化がある場合、それに伴って屈折率が著しく変化する。有効性が高められた証拠として、たとえば、基本的な状態から準安定状態への変換は、錯体が結晶の形態をとっていて動作温度が以前よりも高い場合、ほぼ全般的に行われることを挙げられる。しかしながら、このような錯体を、結晶または粉体の形態で適切な形状の工業装置に組み込まなければならないという問題が残っている。考慮されている事例では、現在のところ、この問題に対して満足のいく解決方法が見つかっていない。これが、まさに、本発明が解決しようとしている課題の1つである。
【0006】
公知の様々なフォトクロミック化合物の成形のために、一般には次の3種類のアプローチが提案されている。
【0007】
第1のアプローチは、有機フォトクロミック分子(たとえばジアリールエテン、スピロピラン)をポリマーマトリクスに導入して希釈することからなり、ポリマーは凝縮される。使用されるポリマーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を挙げることができる。その場合、フォトクロミック分子は、ポリマーマトリクスの内部にナノ粒子の形態で分散される。この第1のアプローチは、高精度の情報の書き込みおよび読み込みを可能にする。記録密度を高めることができ、解像度を上げることができる。反対に、この第1のアプローチは、熱的安定性が弱く、三次元光記録を可能にするには厚みが不十分な場合があり、温度に応じて光特性の変動が著しく、書き込み/読み込み/消去サイクルにつれて媒体の老化、さらには劣化が見られるという限界を有する。その結果、この第1のアプローチでは、記録される情報量を最適化することができず、記録の品質と精度は経時的に低下する。
【0008】
LiNbOまたはBATiO等の無機材料、またはNa[Fe(CN)NO]等の化学的なニトロシル基を有するフォトクロミック分子のための第2のアプローチは、単結晶を形成することからなる。得られる光品質は優れているが、しかし、このアプローチは、生産の再現性が限られており、結晶がこわれやすいので機械的強度が非常に低く、形状制御を行うことがきわめて困難であるという欠点を有する。以上の理由から、このアプローチは工業的な規模で実施することがほとんどできない。
【0009】
D.Leby「Photochromic Sol−Gel materials」Chem.Master.、vol.9、1997、2666は、第3のアプローチすなわちゾル−ゲル法(加水分解、凝縮および乾燥)によるシリカマトリクスへのフォトクロミック分子の導入を開示している。前駆体としてはアルコキシシラン(テトラメトキシオルトシラン(TMOS)、ビニルトリエトキシシラン(VTES)、テトラエトキシオルトシラン(TEOS)等)を使用する。水溶液中でのゾル−ゲル反応によって、アルコキシシランは凝縮し、フォトクロミック分子(スピロピラン等)の存在下で複合材料が得られる。形成されるシリカマトリクスは、反応媒質のpHに応じて変化するナノメートル寸法の孔を有する。フォトクロミック分子は、これらのナノポアに捕集される。こうした第3のアプローチによって、所望の形状のプレートまたはモノリスを構成できる。この第3のアプローチは、特に、形成される形状の制御および十分な厚さの形状を実現できることに加えて、導入されるフォトクロミック分子の光特性を保持し、熱的に安定しており、温度に応じてマトリクスの屈折率の変動が少ないという長所を有する。それに対して、この第3のアプローチは、現在まで確認されている限界として、導入されたフォトクロミック分子と、ナノポアを有するシリカマトリクスとが相互作用し、これが支障となって、最終的な効率を損なう。他方で、高品質の複合媒体を得ることを望む場合、ゾル−ゲル法の各ステップの操作条件を制御することが必要である。
【0010】
PCT国際公開第2006/019435号パンフレットは、光感受性微粒子を作製するための方法と、これらを含む水性組成物とを記載している。米国特許第5821287号明細書は、フォトクロミック化合物の合成について記載している。欧州特許出願公開第0592366号明細書は、フォトクロミック化合物について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】PCT国際公開第2006/019435号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5821287号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0592366号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.Asheley、M−P.Bernal、G.W.Burr、H.Coufal、H.Guenther、J.A.Hoffnagle、C.M.Jefferson、B.Marcus、R.M.Macfarlane、R.M.Shelby、G.T.Sincerbox「Holographic data storage」IBM J.Res.Develop.、vol.44、2000、341。)
【非特許文献2】G.T.Sincerbox「Holographic storage:are we there yet」URL:http://www.optics.arizona.edu/Glenn/holograp1.htm)
【非特許文献3】P.Gutlich、Y.Garcia、T.Woike「Photoswitchable coordination compounds」Coord.Chem.Rev.、2001、839。
【非特許文献4】T.Woike、W.Kirchner、G.Schetter、T.Barthel、S.Haussuhl「New information storage elements on the basis of metastable electronic states」、Optics Comm.、vol.106、1994、6。
【非特許文献5】M.Imlau、M.Fally、T.Weisemoeller、D.Schaniel「Holographic light scattering in centrosymmetric sodium nitroprusside upon generation of light−induced metastables states」Phys.Rev.B、vol.73、2006、205113。
【非特許文献6】D.Schaniel、B.Cormary、I.Malfant、L.Valade、T.Woike、B.Delley、K.W.Kramer、H.U.Gudel、「Photogeneration of two metastable NO linkage isomers with high populations of up to 76% in trans−[RuCl(NO)(py)4][PF6]2.1/2H2O」、Phys.Chem.Chem.Phys.、vol.9、2007、3717。
【非特許文献7】D.Leby「Photochromic Sol−Gel materials」Chem.Master.、vol.9、1997、2666。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明が解決しようとする課題は、形状および寸法を同時に制御可能であるとともに、耐久性があり、十分に肉厚で、透明にすることができ、その成形が単結晶のスイッチング特性に悪影響を及ぼさず、すなわちスイッチング率が約100%の高密度の光情報記録のためのフォトクロミック複合材料を構成することからなる。さらに、これは、エネルギー消費が少なく(一般には室温および周囲の圧力で形成される)、環境に及ぼす悪影響が最小限である(一般には有害な溶媒の使用を回避して水を用いる)。また、この方法は、工業的な規模で再現かつ検討可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このため、本発明は、D.Schaniel、B.Cormary、I.Malfant、L.Valade、T.Woike、B.Delley、K.W.Kramer、H.U.Gudel、「Photogeneration of two metastable NO linkage isomers with high populations of up to 76% in trans−[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HO」、Phys.Chem.Chem.Phys.、vol.9、2007、3717に記載されたフォトクロミック錯体であるニトロシル配位子を有するルテニウム[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HOにおいて実験的に確認された品質(固体状態における完全なスイッチング)を、上記のように成形される第3のアプローチ(ゾル−ゲル法によるシリカマトリクスへのフォトクロミック分子の導入)により得られる長所と組み合わせることをめざしている。
【0015】
本発明は、ニトロシル配位子を有するルテニウムフォトクロミック錯体が、意外なことに、ゾル−ゲル法によるシリカマトリクス中での成形により保持されることを特徴とする。
【0016】
このため、第1の特徴によれば、本発明は、
フォトクロミック複合材料をゾル−ゲル法により作製する方法をめざしており、この方法では、
−前駆体を配置し、
−フォトクロミック錯体を配置し、
−加水分解、凝縮、および乾燥の連続ステップによって、前駆体とフォトクロミック錯体とからゾル−ゲル法を実施する方法において、
−前駆体としてアルコキシシランを選択し、
−フォトクロミック錯体として、ニトロシル配位子を有するルテニウム錯体を選択し、組み合わせにより、
−加水分解、選択された形状の容器内への配置、凝縮(重合またはゲル化)、熟成および老化の連続ステップにより、選択された前駆体とフォトクロミック錯体とからゾル−ゲル法を実施し、この最後のステップが、最終的な乾燥を含み、
−熟成および老化ステップのために、pH、温度、および持続時間を選択することにより、生成されて容器により形状が決められるキセロゲル中で、結晶状態にあってナノ粒子の形態をとるニトロシル配位子を有するルテニウムフォトクロミック錯体が、少なくともほぼ均質に分布されたシリカマトリクスのナノポアに導入されるようにすることを特徴とする。
【0017】
この方法の他の特徴によれば
−テトラメトキシオルトシラン(TMOS)、ビニルトリエトキシシラン(VTES)、テトラエトキシオルトシラン(TEOS)、または、Mが金属でRがアルキル基のときアルコキシドM(OR)xを含む群から前駆体を選択する。
−YがCl、Br、OHであり、Xが、Br、Cl、PF、BFを含む系列の中から選択されるとき、[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HOおよび[RuY(NO)(py)]Xを含む群からフォトクロミック錯体を選択する。
−熟成および老化ステップのために、酸性のpH(<7)を選択する。
−アセトニトリルの存在下では、熟成ステップが、温度約55°Cの閉鎖環境において約1週間続けられ、水の存在下では、熟成ステップが、室温で約72時間続けられる。
−老化ステップが、温度約55°Cで約1週間続けられる。
【0018】
この方法は、室温および周囲の圧力で実現可能であるので、エネルギー消費が少ない。この方法は、有害な溶媒を用いずに水を用いるので、環境に対する悪影響は最小限である。
【0019】
さらに、この方法は、工業的な規模で再現かつ検討可能である。
【0020】
第2の特徴によれば、本発明は、上記の方法により得られるフォトクロミック複合材料をめざしている。
【0021】
こうしたフォトクロミック複合材料の他の特徴によれば、形成されるキセロゲルが、容器の形状により決定される形状を有し、このキセロゲルが、選択されたニトロシル配位子を有するルテニウムフォトクロミック錯体を含み、この錯体が、結晶状態でナノ粒子の形態をとり、少なくともほぼ均質に分布されたシリカマトリクスのナノポアに導入される。
【0022】
他の特徴によれば、
−材料が、モノリスまたは所望の厚さのプレートの形状を呈する。
−シリカマトリクスのナノポアの平均寸法が2〜15nmである。
−フォトクロミック錯体のナノ結晶の最も多数の粒子が2〜4nmである。
【0023】
このフォトクロミック複合材料は、形状および寸法を制御可能であると同時に、耐久性があり、記憶容量を大きくするためにそれが望まれる場合は十分に肉厚にされ、しかも透明である。
【0024】
さらに、シリカマトリクスによるゾル−ゲル法によるこの材料の成形は、ルテニウム錯体の単結晶に存在するスイッチング特性に悪影響を及ぼさず、すなわちスイッチング率は約100%である。
【0025】
第3の特徴によれば、本発明は、上記の少なくとも1つのフォトクロミック複合材料を含む高容量の光メモリ媒体をめざしている。
【0026】
このような媒体は、様々な光記録品質を提供し、特に、現在まで提案されてきたものよりも高い容量を提供する。
【0027】
こうした光メモリ媒体の他の特徴によれば、
−光誘起粒子数が、フォトクロミック錯体の単結晶の光誘起粒子数に近い。
−実施温度が室温に近い。
−照射後、完全に可逆性の色の変化を有する。
−寿命の準安定状態が9年以上である。
【0028】
本発明は、複数の実施形態についての以下の説明を読めば、いっそう理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0029】
前述のように、本発明は、次の3つの特徴を有する。
−ゾル−ゲル法によるフォトクロミック複合材料の作製方法
−この方法により得られることを特徴とする上記のようなフォトクロミック複合材料
−少なくとも1つのこのようなフォトクロミック複合材料を含む、高品質、特に高容量の
【0030】
光メモリ媒体
本発明によるフォトクロミック複合材料の作製方法は、「ゾル−ゲル法」という名称で知られた方法(または反応)を実施する。
【0031】
この方法の原理は、当業者にとって公知であり、容易に検討される。特に、D.Leby「Photochromic Sol−Gel materials」 Chem.Master.、vol.9、1997、2666を参照することができる。
【0032】
ゾル−ゲル法は、以下の連続ステップを含む。
−加水分解
−凝縮または、換言すれば、重合またはゲル化
−乾燥
【0033】
本発明によるフォトクロミック複合材料の作製方法では、前駆体としてアルコキシシランを選択し、この前駆体を配置する。
【0034】
他方で、フォトクロミック錯体として、ニトロシル配位子を有するルテニウム錯体を使用し、この錯体を配置する。
【0035】
一つの実施形態では、前駆体として、テトラメトキシオルトシラン(TMOS)を使用する。
【0036】
考えられる他の実施形態では、前駆体として、ビニルトリエトキシシラン(VTES)、さらには、テトラエトキシオルトシラン(TEOS)、または機能的同等物、より一般的には、Mが金属でRがアルキル基のときアルコキシドM(OR)xを使用する。
【0037】
一つの実施形態では、フォトクロミック錯体として、[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HOを使用する。
【0038】
考えられる別の実施形態では、フォトクロミック錯体として、Y=Br、OHで、X=Br、Cl、PF、BFであり、またY=Clで、X=Br、Cl、BFまたは機能的同等物であるとき、[RuY(NO)(py)]Xを使用する。
【0039】
本発明によれば、選択された前駆体とフォトクロミック錯体とを起点として、加水分解、選択された形状の容器への配置、凝縮(または重合もしくはゲル化)、熟成および老化の連続ステップにより、ゾル−ゲル法を実施し、この最後のステップが最終乾燥を含む。
【0040】
さらに、熟成および老化ステップのために、pH、温度、および持続時間を選択し、生成されて容器により形状が決められるキセロゲル中で、結晶状態にあってナノ粒子の形態をとるニトロシル配位子を有するルテニウムフォトクロミック錯体が、少なくともほぼ均質に分布されたシリカマトリクスのナノポアに導入されるようにする。
【0041】
操作ステップは、室温に近い適度な温度および環境に近い適切な圧力で実施される。
アルコキシド加水分解ステップにおいて、アルコキシドの加水分解は、水の比率、pH、および温度がこのために選択されている場合、完全なものにすることができる。その場合OR基全体が、OH基に代えられる。
【0042】
このステップを実施するためにアルコキシドとメタノールとを混合し、この混合物を、必要な時間にわたって、たとえば約5分間撹拌する。蒸留水の添加により加水分解を開始する。
【0043】
一定時間、たとえば約2分間経過したら、それ自体が溶解された、選択されたフォトクロミック錯体を前駆体に添加する。
【0044】
必要な時間にわたって、たとえば約10分間撹拌を続ける。
【0045】
一つの実施形態では、テトラメトキシオルトシラン(TMOS)1mlと、メタノール1.2mlと、その2倍の蒸留水すなわち2.4mlという比率にされる。
【0046】
[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HOの場合、選択されたフォトクロミック錯体を、この錯体が水溶性ではないためにアセトニトリル溶液中で使用し、[RuY(NO)(py)]X(X=Cl、Br)の場合は水溶液で使用する。
【0047】
次いで、加水分解ステップ後、選択された前駆体と、選択されたフォトクロミック錯体とを配置し、選択された形状の容器に溶かす。この容器によって、形成されるキセロゲルの形状がモノリスにされるかプレートにされるかが決まる。
【0048】
たとえば、モノリスを形成するために試料採取管(tube a hemolyse)等の容器を使用し、所望の厚さのプレートを形成するために平底の箱等の容器を使用することができる。
【0049】
凝縮(または重合もしくはゲル化)ステップは、橋架け結合される酸素を形成し、水またはアルコール分子を除去する。このステップの終わりに、橋架け結合される酸素原子によって三次元のシリカ網目構造を形成することができる。これは、以下の収支反応により得られる。
【0050】
[化学式]
≡Si−OH+Si−OH⇔≡Si−O−Si≡+H2O
≡Si−OR+Si−OH⇔≡Si−O−Si≡+ROH
【0051】
凝縮ステップにより、ゲルが形成される。
【0052】
フォトクロミック錯体として[RuCl(NO)(py)4][PF6]2.1/2H2Oを使用し、TMOS等の前駆体がアセトニトリルを含む混合物中にあるとき、凝縮時間はより長くなり、湿ったゲルは遅くなってからしか出現しない。後段の熟成ステップが早すぎるか、あるいは開放された雰囲気中で実施される場合、得られたゲルが均質ではなく、フォトクロミック錯体の微結晶がマトリクス中に分散される可能性がある。
【0053】
熟成ステップ、次いで老化ステップにより、このゲルは安定化される。すなわち、予め開始されていた重合が続けられる一方で、ゲルの内部にある溶媒が排出される。
【0054】
これらの熟成および老化ステップでは、pH、温度、および持続時間を選択して、最終的に生成されて容器により形状が決められるキセロゲル中で、結晶状態にあってナノ粒子の形態をとるフォトクロミック錯体が、少なくともほぼ均質に分布されたシリカマトリクスのナノポアに導入されるようにする。
【0055】
このようにして、一つの実施形態では、[RuCl(NO)(py)4][PF6]2.1/2H2Oの場合、選択されたpHが約5であり、[RuCl(NO)(py)4]Br2の場合は約5.6である。
【0056】
一つの実施形態では、前者の場合、熟成ステップは、アセトニトリルが存在するために、温度約55°Cの閉鎖環境において約1週間続けられる。後者の場合、熟成ステップは、室温で約72時間続けられる。
【0057】
一つの実施形態では、老化ステップは、前者および後者の双方の場合において、温度約55°Cで約1週間続けられる。
【0058】
老化ステップの終わりに乾燥を実施可能であり、それによってシリカゲルを圧縮し、溶媒の残りを除去する。
【0059】
緩慢な蒸発による乾燥は、シリカの網目構造を収縮させ、この網目構造の容積を小さくし(たとえば容積損失1/5)、モノリスまたはプレートの形状をとるキセロゲルを形成することができる。その反対に、溶媒の臨界点を超える厳しい条件で乾燥が行われる場合、湿ったゲルがほとんど収縮せず、望んでいたようなキセロゲルは得られずにエアロゲルが得られる。
【0060】
熟成ステップと老化ステップが早くすすみすぎると、形成される材料中に望ましくない亀裂または破断が発生することがある。
【0061】
水とメタノール(アセトニトリルなし)の混合物を使用する場合、フォトクロミック錯体の濃度が高ければ高いほど、ゲルの色が濃くなる。その反対に、水とメタノールとアセトニトリルの混合物を使用する場合、フォトクロミック錯体の濃度が30mmol.L−1を越えると、マトリクスが錯体により飽和し、結晶と粉体とがキセロゲルの内部と周囲とに形成される。
【0062】
本発明によれば、前述のように、成熟および老化ステップのために、pH、温度、および持続時間を選択することにより、生成されて容器により形状が決定されるキセロゲル中で、フォトクロミック錯体が結晶状態およびナノ粒子の形態を呈してシリカマトリクスのナノポアに導入されるようにする。これらのナノポアは、それ自体が少なくともほぼ均質に分布されている。
【0063】
上記の方法によって、通常の温度および圧力条件において、均質かつ透明で容易に造形可能な安定したフォトクロミック複合材料が得られる。かくして、キセロゲルは4ヶ月、さらには7ヶ月経過しても劣化がないことが確認された。これらの材料は、レーザ光線に対してすぐれた強度を有し、機械強度はガラスと同等であり、溶媒に対する強度も良好である。
【0064】
既に述べたように、長さ1〜2cmのモノリス状または所望の厚さの1〜3cmの形状をとるフォトクロミック複合材料を実現可能である。
【0065】
酸性または塩基性の触媒を用いずに形成されるシリカマトリクスのナノポアの平均粒径は、2〜15nmである。ナノポアの分布は均質である。
【0066】
フォトクロミック錯体は、ナノ結晶の形態を呈する。2〜4nmの粒子が最も多数である。
【0067】
問題となる寸法および分子間距離を考慮して、シリカマトリクスの最小ナノポアは、1個または2個のルテニウム分子をその対イオンと共に含むことが分かっている。
【0068】
数々の試験時に得られた複合材料について実施された分析によれば、粒子はマトリクス中に適切に希釈されており、ナノポア中のナノメートルサイズを有する物質は、フォトクロミック錯体から適切に構成されている。
【0069】
得られた複合材料の光異性化は、フォトクロミック錯体[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HOが結合されるシリカマトリクスの場合、次のように明らかにされる。
【0070】
この材料のサンプルをクライオスタットに配置し、次いで、2時間にわたって温度約100Kでこれを照射する。クライオスタットからできるだけすばやくサンプルを出す。サンプルの色の変化が確認され、基本的な状態における色であるオレンジ色から、照射状態の色である緑色に変化したことが確認される。
【0071】
サンプルをクライオスタットから出したとき、温度が急上昇し、たった1分後に弛緩(relaxation)が開始される。数分後、サンプルは、オレンジ色に戻る。
【0072】
従って、形成されたフォトクロミック複合材料は、照射後、それらの色が完全に可逆的に変化するという特徴を有する。光誘起粒子数は、推計では約36%であるので、単結晶で観察される光誘起粒子数に近い。これらのフォトクロミック複合材料は、室温に近い温度で使用可能である。準安定状態に関しては、寿命時間は約9年以上である。
【0073】
その結果、上記のフォトクロミック複合材料は、特に容量に関しては、高品質の光メモリ媒体の作製に完全に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック複合材料のゾル−ゲル作製方法であって、
−前駆体を配置し、
−フォトクロミック錯体を配置し、
−加水分解、凝縮、および乾燥の連続ステップによって、前駆体とフォトクロミック錯体とからゾル−ゲル法を実施する方法において、
−前駆体としてアルコキシシランを選択し、
−フォトクロミック錯体として、ニトロシル配位子を有するルテニウム錯体を選択し、組み合わせにより、
−加水分解、選択された形状の容器内への配置、凝縮(重合またはゲル化)、熟成および老化の連続ステップにより、選択された前駆体とフォトクロミック錯体とからゾル−ゲル法を実施し、この最後のステップが、最終的な乾燥を含み、
−熟成および老化ステップのために、pH、温度、および持続時間を選択することにより、生成されて容器により形状が決められるキセロゲル中で、結晶状態にあってナノ粒子の形態をとる、ニトロシル配位子を有するルテニウムフォトクロミック錯体が、少なくともほぼ均質に分布されたシリカマトリクスのナノポアに導入されるようにすることを特徴とする方法。
【請求項2】
テトラメトキシオルトシラン(TMOS)、ビニルトリエトキシシラン(VTES)、テトラエトキシオルトシラン(TEOS)、または、Mが金属でRがアルキル基のときアルコキシドM(OR)xを含む群から前駆体を選択することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
YがCl、Br、OHであり、Xが、Br、Cl、PF、BFを含む系列の中から選択されるとき、[RuCl(NO)(py)][PF.1/2HOおよび[RuY(NO)(py)]Xを含む群からフォトクロミック錯体を選択することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
操作ステップが、室温に近い適度な温度および圧力で実施されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アルコキシドの全体加水分解を実施し、OR基全体がOH基に代えられることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アルコキシドとメタノールとを混合し、この混合物を撹拌することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
加水分解ステップの開始後、選択されたフォトクロミック錯体を、それ自体を溶かして前駆体に添加することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
選択されたフォトクロミック錯体を水に溶かし、あるいは、不可能な場合にはアセトニトリルに溶かすことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
モノリスの製造を望むかプレートの製造を望むかに応じて、管または、平底型の箱の形状の容器を使用することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
熟成および老化ステップのために、酸性pH(<7)を選択することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
アセトニトリルの存在下では、熟成ステップが、温度55°Cの閉鎖環境において1週間続けられることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
水の存在下では、熟成ステップが、室温で72時間続けられることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
老化ステップが、温度55°Cで1週間続けられることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
生成されるキセロゲルが、容器の形状により決定される形状を有し、このキセロゲルが、選択されたニトロシル配位子を有するルテニウムフォトクロミック錯体を含み、この錯体が、結晶状態でナノ粒子の形態をとり、少なくともほぼ均質に分布されたシリカマトリクスのナノポアに導入されることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の方法により形成されるフォトクロミック複合材料。
【請求項15】
モノリスまたは所望の厚さのプレートの形状を呈することを特徴とする請求項14に記載のフォトクロミック複合材料。
【請求項16】
シリカマトリクスのナノポアの平均サイズが2〜15nmであることを特徴とする請求項14または15に記載のフォトクロミック複合材料。
【請求項17】
フォトクロミック錯体のナノ結晶の最も多数の粒子が2〜4nmであることを特徴とする請求項14から16のいずれか一項に記載のフォトクロミック複合材料。
【請求項18】
フォトクロミック錯体の単結晶に近い光誘起粒子数を有することを特徴とする請求項14から17のいずれか一項に記載の少なくとも1つのフォトクロミック複合材料を含む、高品質、特に高容量の光メモリ媒体。
【請求項19】
実施温度が室温に近いことを特徴とする請求項18に記載の光メモリ媒体。
【請求項20】
照射後、完全に可逆性の色の変化を有することを特徴とする請求項18または19に記載の光メモリ媒体。
【請求項21】
寿命の準安定状態が9年以上であることを特徴とする請求項18から20のいずれか一項に記載の光メモリ媒体。


【公表番号】特表2012−515356(P2012−515356A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544902(P2011−544902)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050011
【国際公開番号】WO2010/081977
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(511134470)セントレ ナショナル デ ラ ルシェルシェ サイエンティフィック−シーエヌアールエス (2)
【Fターム(参考)】