フォトニックバンドギャップファイバとその製造方法
【課題】製造が容易で偏波保持特性に優れ、導波帯域幅が広く、伝送損失が低いフォトニックバンドギャップファイバ(PBGF)の提供。
【解決手段】ファイバ横断面において第1のピッチΛで多数の円形の空孔が一列に並べられた第1の空孔列と、第1のピッチの2倍である第2のピッチΓで多数の円形の空孔が石英部分を介して並べられ、該空孔と第1の空孔列の空孔とが三角格子を形成するように配置された第2の空孔列とが交互に多数重ねられた長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)をクラッドに有し、且つファイバ中心部に多数の空孔が三角格子状に並べられたコアを有してなり、該コアのx軸方向長さとy軸方向長さとが異なっていることを特徴とするPBGF。
【解決手段】ファイバ横断面において第1のピッチΛで多数の円形の空孔が一列に並べられた第1の空孔列と、第1のピッチの2倍である第2のピッチΓで多数の円形の空孔が石英部分を介して並べられ、該空孔と第1の空孔列の空孔とが三角格子を形成するように配置された第2の空孔列とが交互に多数重ねられた長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)をクラッドに有し、且つファイバ中心部に多数の空孔が三角格子状に並べられたコアを有してなり、該コアのx軸方向長さとy軸方向長さとが異なっていることを特徴とするPBGF。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英部分に多数の空孔がファイバ長手方向に沿って設けられたフォトニックバンドギャップファイバに関する。本発明のフォトニックバンドギャップファイバは、絶対単一偏波を示し、あるいは偏波を保持する偏波保持型フォトニックバンドギャップファイバとなる。このファイバは、低非線形性を示し、偏光子、偏波分離素子、カプラー、フィルター、偏波コントローラ等の光学機器や光学部品等に広く使用される。単一偏波ファイバとは単一偏波のみが伝搬可能なファイバであり、偏波モードの結合、偏波モード分散を排除することができるので、偏波保持ファイバの理想形である。
【背景技術】
【0002】
フォトニックバンドギャップファイバ(photonic bandgap fiber:以下、PBGFと記す。)は、空孔の周期構造をクラッドに用いることにより、そのフォトニックバンドギャップを利用して光をコアに閉じ込める。そのため、コアは空気であっても導波が可能である(非特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、クラッドに設けた空孔の周期構造がバンドギャップを形成しても、光がコア中心に集中するコアモードは、光がコアエッジ近傍の石英に集中する表面モードに結合し、大きな伝送損失をもたらすので、バンドギャップの波長帯域全域における光導波が得られない問題がある(非特許文献2参照。)。
【0004】
表面モードの存在は、コア径の大小に依存する。図1は、その依存性を示す図である。図1に示す従来のPBGFは、ファイバ横断面において石英部分10に多数の円形の空孔11が三角格子状に設けられ、中心の空孔が空孔コア12になっている。以下、このようにファイバ横断面において多数の円形の空孔10が一定のピッチで三角格子の周期構造を形成している空孔構造を「通常の三角格子の周期構造」と記す。
【0005】
図1中の「バルクモード」とは、空孔の周期構造がバンドギャップを構成しているときに、そのバンドギャップの下部通過帯域(バンド)内最高周波数を有するΓ点(波長ベクトルが伝搬方向成分のみを有する点)のモードを指す。
図1に示すような構造のPBGFにおいて、コア12のエッジがバルクモードを横切る場合に表面モードが存在し、横切らない場合には表面モードが存在しないことが知られている(非特許文献3参照。)。
【0006】
図2及び図3は、通常の三角格子の周期構造を有する従来のPBGFにおける空孔コア12とバルクモードとの位置関係を例示する図である。図2に示す従来のPBGFは、ファイバ横断面においてクラッドとなる石英部分10に多数の円形の空孔11が三角格子状に設けられ、中心の1つの空孔とそれを囲む6つの空孔を含む領域を空孔とすることによって形成された空孔コア12を備えている。また、図3に示す従来のPBGFは、ファイバ横断面において石英部分10に多数の円形の空孔11が三角格子状に設けられ、中心の1つの空孔とそれを囲む2層18個の空孔を含む領域を空孔とすることによって形成された空孔コア12を備えている。
【0007】
さらに、空孔コア(エアコア)を有するフォトニックバンドギャップファイバであって、偏波保持機能を持ったファイバも提案されている(例えば、非特許文献4参照。)。
この偏波保持型のフォトニックバンドギャップファイバは、一般的に、コア形状を非対称にすることにより、偏波保持特性を実現している。
【非特許文献1】R. F. Cregan, B. J. Mangan, J. C. Knight, T. A. Birks, P. St. J. Russell, P. J. Roberts, and D. C. Allan, “Single-mode photonic band gap guidance of light in air,” Science, vol. 285, no. 3, pp. 1537-1539, 1999.
【非特許文献2】J. A. West, C. M. Smith, N. F. Borrelli, D. C. Allan, and K. W. Koch, “Surface modes in air-core photonic band-gap fibers,” Opt. Express, vol. 12, no. 8, pp. 1485-1496, 2004.
【非特許文献3】H. K. Kim, J. Shin, S. Fan, M. J. F. Digonnet, and G. S. Kino, “Designing air-core photonic-bandgap fibers free of surface modes,” IEEE J. Quant. Electron., vol. 40, no. 5, pp. 551-556, 2004.
【非特許文献4】X. Chen, M. -J. Li, N. Venkataraman, M. T. Gallagher, W. A. Wood, A. M. Crowley, J. P. Carberry, L. A. Zenteno, and K. W. Koch,“Highly birefringent hollow-core photonic gandgap fiber,” OFC2005, OTuI1, 2005
【非特許文献5】S. G. Johnson and J. D. Joannopoulos, “Block-iterative frequency-domain methods for Maxwell's equations in planewave basis,” Opt. Express, vol. 8, no. 3, pp. 173-190, 2001.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図2及び図3に示すような通常の三角格子の周期構造をクラッドに用いる場合、空孔コア12のエッジが、バルクモード13の存在する領域を横切ってしまうため、表面モードを避けることが困難である。その結果、コアモードの光が表面モードに結合し、大きな伝送損失をもたらし、バンドギャップの波長帯域全域における光導波が得られず、導波帯域幅が狭くなり、また伝送損失が増加してしまう問題がある。
【0009】
また、非特許文献4に開示された従来の偏波保持型のPBGFは、コア断面形状が変形しているため、実用上使用し難い問題がある。
【0010】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、製造が容易で偏波保持特性に優れたPBGFの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、石英部分に多数の空孔がファイバ長手方向に沿って設けられたPBGFであって、ファイバ横断面において第1のピッチΛで多数の円形の空孔が一列に並べられた第1の空孔列と、前記第1のピッチの2倍である第2のピッチΓで多数の円形の空孔が石英部分を介して並べられ、該空孔と前記第1の空孔列の空孔とが三角格子を形成するように配置された第2の空孔列とが交互に多数重ねられた長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)をクラッドに有し、且つファイバ中心部に多数の空孔が三角格子状に並べられたコアを有してなり、該コアのx軸方向長さとy軸方向長さとが異なっていることを特徴とするPBGFを提供する。
【0012】
本発明のPBGFにおいて、コアのy軸方向長さがx軸方向長さよりも大きいことが好ましい。
【0013】
また本発明のPBGFにおいて、コアのx軸方向長さがy軸方向長さよりも大きいことが好ましい。
【0014】
本発明のPBGFにおいて、特定の波長領域で5×10−4を超える複屈折を有することが好ましい。
【0015】
本発明のPBGFにおいて、特定の波長領域で単一偏波のみが伝搬可能であることが好ましい。
【0016】
本発明のPBGFにおいて、クラッド及びコアに設けられた空孔の直径dが0.85Λ≦d≦Λの範囲内であることが好ましい。
【0017】
本発明のPBGFにおいて、クラッドの空孔と石英部分とからなる周期構造がコアの外側に3層以上設けられていることが好ましい。
【0018】
本発明のPBGFにおいて、波長λが0.7≦Γ/λ≦1.2を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有することが好ましい。
【0019】
本発明のPBGFにおいて、波長λが1.4≦Γ/λ≦2.0を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有していてもよい。
【0020】
本発明のPBGFにおいて、石英部分が、純粋石英又はリン、フッ素、ゲルマニウムからなる群から選択される1種又は2種以上のドーパントが添加された石英で構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明のPBGFにおいて、空孔内に、石英よりも誘電率の低い材料が充填された構成としてもよい。
【0022】
また本発明は、石英製のキャピラリと石英ロッドとを、多数のキャピラリが一列に並べられた第1の空孔列と、前記キャピラリと石英ロッドとを交互に並べた第2の空孔列とが交互に重なって横断面のキャピラリ配置が長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)となるように組み合わせ、且つ中央部のy軸方向に並ぶ2つ以上又はx軸方向に並ぶ2本以上の石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域とした石英ロッド入りキャピラリ束を作製し、次いで、該石英ロッド入りキャピラリ束を加熱一体化してファイバ紡糸用母材を作製し、次いで該ファイバ紡糸用母材を紡糸して前記本発明に係るPBGFを得ることを特徴とするPBGFの製造方法を提供する。
【0023】
本発明のPBGFの製造方法において、前記キャピラリが断面円環状であり、前記石英ロッドが、キャピラリと外径の等しい断面円形状であることが好ましい。
【0024】
本発明のPBGFの製造方法において、前記石英ロッド入りキャピラリ束を石英管の孔内に挿入した状態で一体化してファイバ紡糸用母材を作製することが好ましい。
【0025】
また前記PBGFの製造方法において、前記石英管の孔内に挿入したキャピラリ束のうち、キャピラリ内部空間のみを大気圧又はそれ以上の圧力に保持し、キャピラリ内部空間以外の空間部分を減圧状態として前記一体化を行うことが好ましい。
【0026】
本発明のPBGFの製造方法において、前記石英ロッド入りキャピラリ束の横断面の中心部にある石英ロッドのうちy軸方向に並ぶ2つの石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域を形成することが好ましい。
【0027】
本発明のPBGFの製造方法において、前記石英ロッド入りキャピラリ束の横断面の中心部にある石英ロッドのうちy軸方向に並ぶ2つの石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域を形成してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のPBGFは、長方形超格子状の空孔周期構造をクラッドに有し、且つファイバ中心部に多数の空孔が三角格子状に並べられたコアを有し、該コアのx軸方向長さとy軸方向長さとが異なっている構成なので、コア形状が非対称であることと、クラッドの異方性とが相俟って優れた偏波保持性能が得られる。
また、コア領域は中心石英ロッド1個のみをキャピラリに置き換えたファイバと比べ、コア領域が大きくなり、伝搬モードをほとんど空気となる領域に閉じ込めることが可能となる。このように構成されたファイバは、加工後にファイバ全体の空孔が同一の形状となり、クラッドの周期性が保持しやすく、コアも変形し難いので、低損失ファイバが実現できる。
また、本発明のPBGFは、表面モードが発生せずにコアモードのみが存在する光学特性が得られ、導波帯域幅を広くすることができ、伝送損失を下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図4は、本発明のPBGFの第1実施形態を示す図である。図4中、符号20AはPBGF、21は空孔、22は石英部分、23Aはコア、24はクラッド、25は第1の空孔列、26は第2の空孔列である。
【0030】
本実施形態のPBGF20Aは、石英部分22に多数の空孔21がファイバ長手方向に沿って設けられ、ファイバ横断面において第1のピッチΛで多数の円形の空孔21が一列に並べられた第1の空孔列25と、前記第1のピッチの2倍である第2のピッチΓで多数の円形の空孔21が石英部分22を介して並べられ、該空孔21と前記第1の空孔列25の空孔21とが三角格子を形成するように配置された第2の空孔列26とが交互に多数重ねられた長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に有し、且つファイバ中心部に多数の空孔21が三角格子状に並べられたコア23Aを有してなり、該コア23Aは、y軸方向(以下、長軸方向と記す。)長さがx軸方向(以下、短軸方向と記す。)長さよりも長くなっている。
【0031】
図5は、クラッド24に設けられた長方形超格子状の空孔周期構造のユニットセルを示す図である。本発明で用いるこの長方形超格子状の空孔周期構造は、格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2がそれぞれ短軸方向と長軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λ(=31/2・Λ)になっている。
【0032】
この長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に用いることで、表面モードを避けることができ、広い伝送帯域が実現できる。
さらに、図示のように、この超格子は、xとy方向に異なる構造をしており、それぞれの方向の偏波に対して異なるバンドギャップを有する。従って、この長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に用いると、通常の空孔コア(エアコア)であっても、xとy方向の偏波は異なるバンドギャップを感じるため、偏波を保持する能力(偏波保持特性)、あるいは単一偏波特性を示すようになる。
【0033】
本実施形態のPBGF20Aのコア23A(キャピラリコア)は、ファイバ中心部において第2の空孔列26に沿って5個の空孔21が第1のピッチΛで並び、その両側にある第1の空孔列25のそれぞれ4個の空孔21との合計13個の空孔からなっている。このコア23Aは、石英ロッドとキャピラリを組み合わせて長方形超格子状の空孔周期構造を持った石英ロッド入りキャピラリ束を形成し、その中央部において長軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置換することにより形成することができる。
【0034】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、特定の波長領域(使用波長領域)で5×10−4を超える複屈折Bを有することが好ましい。5×10−4を超える複屈折を有することで、このPBGFを偏波保持ファイバとして用いることができ、このPBGFを用いて、例えば、ファイバ偏光子、偏波分離素子、カプラー、フィルター、偏波コントローラ等の各種の光学部品を製造することができる。
【0035】
また、本実施形態のPBGF20Aにおいて、特定の波長領域で単一偏波のみが伝搬可能である単一偏波ファイバを構成することができる。単一偏波ファイバとは単一偏波のみが伝搬可能なファイバであり、偏波モードの結合、偏波モード分散を排除することができるので、偏波保持ファイバの理想形である。
【0036】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、クラッド24及びコア23Aに設けられた空孔21の直径dは、0.85Λ≦d≦Λの範囲内であることが好ましい。空孔直径dが前記範囲であれば、ファイバ全体にわたりほぼ均一な空孔21を有する長方形超格子状の空孔周期構造を構築でき、良好な光学特性を得ることができる。
【0037】
また、本実施形態のPBGF20Aにおいて、クラッド24の空孔21と石英部分22とからなる周期構造がコア23Aの外側に3層以上設けられていることが好ましい。この層数が2層以下であると、光の閉じ込みが不十分になり、損失が大きくなる可能性があるとともに、十分な偏波保持特性が得られなくなる可能性がある。
【0038】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、波長λが0.7≦Γ/λ≦1.2を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有することが好ましい。前記Γ/λが0.7未満であるとバンドギャップが存在しなくなり、光が伝わらなくなり、またΓ/λが1.2を超えると同様にバンドギャップが存在せず光が伝わらなくなってしまう。
【0039】
また、PBGF20Aが高次バンドギャップで動作する場合、波長λが1.4≦Γ/λ≦2.0を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有していてもよい。前記Γ/λが1.4未満であると高次バンドギャップ外にあり、動作しなくなり、またΓ/λが2.0を超えると高次バンドギャップの外にあり、動作しなくなってしまう。
【0040】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、石英部分22は、純粋石英(SiO2)又はリン(P)、フッ素(F)、ゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される1種又は2種以上のドーパントが添加された石英で構成されていることが好ましい。
【0041】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、空孔21内に、石英(SiO2)よりも誘電率の低い材料が充填された構成とすることもできる。石英(SiO2)よりも誘電率の低い材料としては、透明プラスチックやオイルなどが挙げられる。
【0042】
本実施形態のPBGF20Aは、長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に有し、且つファイバ中心部に多数の空孔21が三角格子状に並べられたコア23Aを有し、該コアの長軸方向長さを短軸方向長さよりも長くした構成なので、コア23Aが非対称であることと、クラッド24の異方性とが相俟って優れた偏波保持性能が得られる。
また、コア領域は中心石英ロッド1個のみをキャピラリに置き換えたファイバと比べ、コア領域が大きくなり、伝搬モードをほとんど空気となる領域に閉じ込めることが可能となる。このように構成されたファイバは、加工後にファイバ全体の空孔が同一の形状となり、クラッドの周期性が保持しやすく、コアも変形し難いので、低損失ファイバが実現できる。
また、このPBGF20Aは、表面モードが発生せずにコアモードのみが存在する光学特性が得られ、導波帯域幅を広くすることができ、伝送損失を下げることができる。
【0043】
図6は、本発明のPBGFの第2実施形態を示す図である。本実施形態のPBGF20Bは、前述した第1実施形態のPBGF20Aとほぼ同様の構成要素を備えて構成され、ファイバ中心部のコア23Bは、その短軸方向長さが長軸方向長さよりも長くなっていることを特徴としている。
本実施形態のPBGF20Bは、前述した第1実施形態のPBGF20Aと同様に、特定の波長領域(使用波長領域)で5×10−4を超える複屈折Bを有するように構成でき、さらに特定の波長領域で単一偏波のみが伝搬可能である単一偏波ファイバを構成することができる。
【0044】
本実施形態のPBGF20Bのコア23B(キャピラリコア)は、ファイバ中心部において第1の空孔列25の両側にある第2の空孔列26の対向するそれぞれ1個、合計2個の石英部分22を空孔21に置換した構造になっている。このコア23Bは、石英ロッドとキャピラリを組み合わせて長方形超格子状の空孔周期構造を持った石英ロッド入りキャピラリ束を形成し、その中央部において短軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置換することにより形成することができる。
【0045】
本実施形態のPBGF20Bは、第1実施形態のPBGF20Aと同じく、長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に有し、且つファイバ中心部に多数の空孔21が三角格子状に並べられたコア23Bを有し、コア23Bが非対称であることと、クラッド24の異方性とが相俟って優れた偏波保持性能が得られる。
また、コア領域は中心石英ロッド1個のみをキャピラリに置き換えたファイバと比べ、コア領域が大きくなり、伝搬モードをほとんど空気となる領域に閉じ込めることが可能となり、加工後にファイバ全体の空孔が同一の形状となり、クラッドの周期性が保持しやすく、コアも変形し難いので、低損失ファイバが実現できる。
また、このPBGF20Bは、表面モードが発生せずにコアモードのみが存在する光学特性が得られ、導波帯域幅を広くすることができ、伝送損失を下げることができる。
【0046】
次に、本発明のPBGFの製造方法の一例を説明する。本例では、図4に示すように、長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に有し、且つファイバ中心部において第2の空孔列26に沿って5個の空孔21が第1のピッチΛで並び、その両側にある第1の空孔列25のそれぞれ4個の空孔21との合計13個の空孔からなっているコア23A(キャピラリコア)を備えたPBGF20Aを製造する場合を説明する。
【0047】
本製造方法では、まず、石英製のキャピラリと石英ロッドとを、多数のキャピラリが一列に並べられた第1の空孔列と、前記キャピラリと石英ロッドとを交互に並べた第2の空孔列とが交互に重なって横断面のキャピラリ配置が長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれ短軸方向(x軸方向)と長軸方向(y軸方向)に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)となるように組み合わせ、且つ中央部の長軸方向に並ぶ2個の石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域とした石英ロッド入りキャピラリ束を作製する。本製造方法で用いるキャピラリは、断面円環状であり、また石英ロッドは、キャピラリと外径の等しい断面円形状であることが好ましい。
【0048】
なお、本発明のPBGFの製造方法において、前記コア領域の形成方法は前記の例にのみ限定されず、製造するPBGFのコア構造に応じて適宜変更可能である。例えば、図6に示すPBGF20Bを製造する場合には、ファイバ中心部において短軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置換することによりキャピラリコア領域を形成する。
【0049】
次に、前記石英ロッド入りキャピラリ束を加熱一体化してファイバ紡糸用母材を作製する。この加熱一体化工程は、従来のキャピラリ束を用いるPBGFの製造方法における加熱一体化と同様の装置及び方法を用いて実施することができる。
【0050】
また、前記石英ロッド入りキャピラリ束は、石英管の孔内に挿入した状態で一体化してファイバ紡糸用母材とすることが望ましい。このように石英ロッド入りキャピラリ束を石英管の孔内に挿入した状態で一体化する場合には、キャピラリ周囲の空間内とキャピラリ内部空間との圧力やガス組成を個別に調整することが可能となり、キャピラリ内部空間の圧力を適当に調整しながら、キャピラリ同士間又はキャピラリと石英ロッド間の隙間を埋めることができる。この一体化の際にキャピラリ内部空間の圧力を適宜調整することで、キャピラリの空孔の断面形状をほぼ円形状に維持することができる。
【0051】
石英管の孔内に石英ロッド入りキャピラリ束を挿入して一体化を行う場合、挿入した石英ロッド入りキャピラリ束のうち、キャピラリ内部空間のみを大気圧又はそれ以上の圧力に保持し、キャピラリ内部空間以外の空間部分を減圧状態として前記一体化を行うことが好ましい。
【0052】
次に、前記のように作製したファイバ紡糸用母材を紡糸することによって、図4に示すPBGFを得る。
本製造方法では、ファイバ中心部に位置する2個の石英ロッドをキャピラリで置き換えることによってコアを構成することができるので、従来のエアコアファイバのように一つの大きな空孔でエアコアを形成しているファイバに比べると、ファイバ全体の空孔が同一の形状となるので、格段に製造しやすくなる。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
図7に示す長方形超格子のバンド構造を図8に示す。ただし、周期構造は、空孔直径dが空孔のピッチΛと等しく、石英の屈折率n=1.45とした。図7において黒色部分が石英部分22、白色部分が空孔21を表す。また、バンド構造は、平面波展開法(非特許文献5参照)を用いて計算した。図8において、βは伝搬方向(周期構造と垂直な方向)の波数、Γ=2Λ、ωは角周波数、cは光速を表す。また、ライトラインは光が真空媒質中で伝搬するときの分散曲線を表し、バンドで囲まれる領域は、周期構造断面内にどの方向にも光が伝搬できない領域、すなわちバンドギャップを表す。ファイバのクラッドにこの周期構造を用い、コアに空孔を用いた場合、ファイバのコアに光が導波可能になる帯域はライトラインに隣接し、その上部に存在するバンドギャップとなる。この場合、Γ/λ(=ωΓ/2πc)が0.83〜1.10の範囲で第1導波領域、1.63〜1.78で第2導波領域が存在する。ここでλは波長を表す。
【0054】
図9に示すような、d/Λ=1の長方形超格子構造のクラッド24と、その中心部の長軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置き換えたコア23A(キャピラリコア)とからなるPBGF20Aについて、伝搬モードの分散を計算した。図10は第1バンドギャップ内の分散を示す。図示のように、Γ/λ=0.88〜1.08のバンドギャップ内でモード1、Γ/λ=0.86〜1.12のバンドギャップ内でモード2が存在する。ただし、各モードは単一偏波であり、縮退モードを含んでいない。また、この場合の複屈折B=|β1−β2|/β0は、1.9×10−3〜5.6×10−3となっている。ここで、β1、β2は、それぞれモード1,モード2の伝搬定数を表し、β0=ω/c(ωは角周波数、cは高速をそれぞれ表す)である。また、その他のモードは存在しない。
【0055】
図11は、そのときのモード1の典型的なパワー分布を示す図であり、図12は、そのときのモード2の典型的なパワー分布を示す図である。また、図13はファイバの誘電率分布を同スケールで示す図である。
【0056】
図14は、本実施例のPBGF20Aにおける第2バンドギャップ内の分散を示す図である。図示のように、Γ/λ=1.65〜1.69のバンドギャップ内でモード1、Γ/λ=1.63〜1.72のバンドギャップ内でモード2、Γ/λ=1.62〜1.77のバンドギャップ内でモード3、Γ/λ=1.61〜1.79のバンドギャップ内でモード4が存在する。ただし、この場合も各モードは単一偏波であり、縮退モードを含んでいない。また、この場合のモード1とモード2の間の複屈折は5.5×10−3〜6.3×10−3であり、モード3とモード4の間の複屈折は3.6×10−3〜5.7×10−3となっている。また、その他のモードは存在しない。
【0057】
図15は、本実施例のPBGF20Aにおける第2バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。また図16は、第2バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。また図17は、第2バンドギャップ内のモード3のパワー分布を示す図である。また図18は、第2バンドギャップ内のモード4のパワー分布を示す図である。
【0058】
[実施例2]
図19に示すような、d/Λ=1の長方形超格子構造のクラッド24と、その中心部の短軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置き換えたコア23B(キャピラリコア)とからなるPBGF20Bについて、コアモードの分散を計算した。図20は第1バンドギャップ内の分散を示す。図示のように、Γ/λ=0.88〜1.07のバンドギャップ内でモード1、Γ/λ=0.88〜1.12のバンドギャップ内でモード2が存在する。ただし、各モードは単一偏波であり、縮退モードを含んでいない。また、この場合の複屈折B=|β1−β2|/β0は、6.8×10−3〜7.7×10−3となっている。ここで、β1、β2は、それぞれモード1,モード2の伝搬定数を表し、β0=ω/c(ωは角周波数、cは高速をそれぞれ表す)である。また、その他のモードは存在しない。
【0059】
図21は、そのときのモード1の典型的なパワー分布を示す図であり、図22は、そのときのモード2の典型的なパワー分布を示す図である。また、図23はファイバの誘電率分布を同スケールで示す図である。
【0060】
図24は、本実施例のPBGF20Bにおける第2バンドギャップ内の分散を示す図である。図示のように、Γ/λ=1.64〜1.70のバンドギャップ内でモード1、Γ/λ=1.62〜1.78のバンドギャップ内でモード2、Γ/λ=1.67〜1.80のバンドギャップ内でモード3が存在する。ただし、この場合も各モードは単一偏波であり、縮退モードを含んでいない。また、この場合のモード2とモード3の間の複屈折は3.9×10−3〜4.6×10−3となっている。また、その他のモードは存在しない。
【0061】
図25は、本実施例のPBGF20Bにおける第2バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。また図26は、第2バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。また図27は、第2バンドギャップ内のモード3のパワー分布を示す図である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】通常の三角格子の周期構造をもつPBGFにおけるコア径と表面モードの関係を示す断面図である。
【図2】通常の三角格子の周期構造と空孔コアをもつPBGFにおける空孔コアとバルクモードの関係を示す断面図である。
【図3】通常の三角格子の周期構造と空孔コアをもつ別なPBGFにおける空孔コアとバルクモードの関係を示す断面図である。
【図4】本発明のPBGFの第1実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明のPBGFに用いるクラッドの長方形超格子のユニットセルを示す断面図である。
【図6】本発明のPBGFの第2実施形態を示す断面図である。
【図7】実施例1で製造したd/Λ=1の長方形超格子の断面図である。
【図8】実施例1のd/Λ=1の長方形超格子のバンド構造を示す図である。
【図9】実施例1で作製したd/Λ=1の長方形超格子と、中心部の長軸方向に並ぶ2個の石英ロッドのみをキャピラリに置き換えたキャピラリコアとを有するPBGFの断面図である。
【図10】実施例1のPBGFの第1バンドギャップ内の分散を示す図である。
【図11】実施例1のPBGFにおける第1バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。
【図12】実施例1のPBGFにおける第1バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。
【図13】実施例1のPBGFの誘電率分布を示す図である。
【図14】実施例1のPBGFの第2バンドギャップ内の分散を示す図である。
【図15】実施例1のPBGFにおける第2バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。
【図16】実施例1のPBGFにおける第2バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。
【図17】実施例1のPBGFにおける第2バンドギャップ内のモード3のパワー分布を示す図である。
【図18】実施例1のPBGFにおける第2バンドギャップ内のモード4のパワー分布を示す図である。
【図19】実施例2で製造したd/Λ=1の長方形超格子と、中心部の短軸方向に並ぶ2個の石英ロッドのみをキャピラリに置き換えたキャピラリコアとを有するPBGFの断面図である。
【図20】実施例2のPBGFの第1バンドギャップ内の分散を示す図である。
【図21】実施例2のPBGFにおける第1バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。
【図22】実施例2のPBGFにおける第1バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。
【図23】実施例2のPBGFの誘電率分布を示す図である。
【図24】実施例2のPBGFの第2バンドギャップ内の分散を示す図である。
【図25】実施例2のPBGFの第2バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。
【図26】実施例2のPBGFの第2バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。
【図27】実施例2のPBGFの第2バンドギャップ内のモード3のパワー分布を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
20A,20B…PBGF、21…空孔、22…石英部分、23A,23B…コア、24…クラッド、25…第1の空孔列、26…第2の空孔列。
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英部分に多数の空孔がファイバ長手方向に沿って設けられたフォトニックバンドギャップファイバに関する。本発明のフォトニックバンドギャップファイバは、絶対単一偏波を示し、あるいは偏波を保持する偏波保持型フォトニックバンドギャップファイバとなる。このファイバは、低非線形性を示し、偏光子、偏波分離素子、カプラー、フィルター、偏波コントローラ等の光学機器や光学部品等に広く使用される。単一偏波ファイバとは単一偏波のみが伝搬可能なファイバであり、偏波モードの結合、偏波モード分散を排除することができるので、偏波保持ファイバの理想形である。
【背景技術】
【0002】
フォトニックバンドギャップファイバ(photonic bandgap fiber:以下、PBGFと記す。)は、空孔の周期構造をクラッドに用いることにより、そのフォトニックバンドギャップを利用して光をコアに閉じ込める。そのため、コアは空気であっても導波が可能である(非特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、クラッドに設けた空孔の周期構造がバンドギャップを形成しても、光がコア中心に集中するコアモードは、光がコアエッジ近傍の石英に集中する表面モードに結合し、大きな伝送損失をもたらすので、バンドギャップの波長帯域全域における光導波が得られない問題がある(非特許文献2参照。)。
【0004】
表面モードの存在は、コア径の大小に依存する。図1は、その依存性を示す図である。図1に示す従来のPBGFは、ファイバ横断面において石英部分10に多数の円形の空孔11が三角格子状に設けられ、中心の空孔が空孔コア12になっている。以下、このようにファイバ横断面において多数の円形の空孔10が一定のピッチで三角格子の周期構造を形成している空孔構造を「通常の三角格子の周期構造」と記す。
【0005】
図1中の「バルクモード」とは、空孔の周期構造がバンドギャップを構成しているときに、そのバンドギャップの下部通過帯域(バンド)内最高周波数を有するΓ点(波長ベクトルが伝搬方向成分のみを有する点)のモードを指す。
図1に示すような構造のPBGFにおいて、コア12のエッジがバルクモードを横切る場合に表面モードが存在し、横切らない場合には表面モードが存在しないことが知られている(非特許文献3参照。)。
【0006】
図2及び図3は、通常の三角格子の周期構造を有する従来のPBGFにおける空孔コア12とバルクモードとの位置関係を例示する図である。図2に示す従来のPBGFは、ファイバ横断面においてクラッドとなる石英部分10に多数の円形の空孔11が三角格子状に設けられ、中心の1つの空孔とそれを囲む6つの空孔を含む領域を空孔とすることによって形成された空孔コア12を備えている。また、図3に示す従来のPBGFは、ファイバ横断面において石英部分10に多数の円形の空孔11が三角格子状に設けられ、中心の1つの空孔とそれを囲む2層18個の空孔を含む領域を空孔とすることによって形成された空孔コア12を備えている。
【0007】
さらに、空孔コア(エアコア)を有するフォトニックバンドギャップファイバであって、偏波保持機能を持ったファイバも提案されている(例えば、非特許文献4参照。)。
この偏波保持型のフォトニックバンドギャップファイバは、一般的に、コア形状を非対称にすることにより、偏波保持特性を実現している。
【非特許文献1】R. F. Cregan, B. J. Mangan, J. C. Knight, T. A. Birks, P. St. J. Russell, P. J. Roberts, and D. C. Allan, “Single-mode photonic band gap guidance of light in air,” Science, vol. 285, no. 3, pp. 1537-1539, 1999.
【非特許文献2】J. A. West, C. M. Smith, N. F. Borrelli, D. C. Allan, and K. W. Koch, “Surface modes in air-core photonic band-gap fibers,” Opt. Express, vol. 12, no. 8, pp. 1485-1496, 2004.
【非特許文献3】H. K. Kim, J. Shin, S. Fan, M. J. F. Digonnet, and G. S. Kino, “Designing air-core photonic-bandgap fibers free of surface modes,” IEEE J. Quant. Electron., vol. 40, no. 5, pp. 551-556, 2004.
【非特許文献4】X. Chen, M. -J. Li, N. Venkataraman, M. T. Gallagher, W. A. Wood, A. M. Crowley, J. P. Carberry, L. A. Zenteno, and K. W. Koch,“Highly birefringent hollow-core photonic gandgap fiber,” OFC2005, OTuI1, 2005
【非特許文献5】S. G. Johnson and J. D. Joannopoulos, “Block-iterative frequency-domain methods for Maxwell's equations in planewave basis,” Opt. Express, vol. 8, no. 3, pp. 173-190, 2001.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図2及び図3に示すような通常の三角格子の周期構造をクラッドに用いる場合、空孔コア12のエッジが、バルクモード13の存在する領域を横切ってしまうため、表面モードを避けることが困難である。その結果、コアモードの光が表面モードに結合し、大きな伝送損失をもたらし、バンドギャップの波長帯域全域における光導波が得られず、導波帯域幅が狭くなり、また伝送損失が増加してしまう問題がある。
【0009】
また、非特許文献4に開示された従来の偏波保持型のPBGFは、コア断面形状が変形しているため、実用上使用し難い問題がある。
【0010】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、製造が容易で偏波保持特性に優れたPBGFの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、石英部分に多数の空孔がファイバ長手方向に沿って設けられたPBGFであって、ファイバ横断面において第1のピッチΛで多数の円形の空孔が一列に並べられた第1の空孔列と、前記第1のピッチの2倍である第2のピッチΓで多数の円形の空孔が石英部分を介して並べられ、該空孔と前記第1の空孔列の空孔とが三角格子を形成するように配置された第2の空孔列とが交互に多数重ねられた長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)をクラッドに有し、且つファイバ中心部に多数の空孔が三角格子状に並べられたコアを有してなり、該コアのx軸方向長さとy軸方向長さとが異なっていることを特徴とするPBGFを提供する。
【0012】
本発明のPBGFにおいて、コアのy軸方向長さがx軸方向長さよりも大きいことが好ましい。
【0013】
また本発明のPBGFにおいて、コアのx軸方向長さがy軸方向長さよりも大きいことが好ましい。
【0014】
本発明のPBGFにおいて、特定の波長領域で5×10−4を超える複屈折を有することが好ましい。
【0015】
本発明のPBGFにおいて、特定の波長領域で単一偏波のみが伝搬可能であることが好ましい。
【0016】
本発明のPBGFにおいて、クラッド及びコアに設けられた空孔の直径dが0.85Λ≦d≦Λの範囲内であることが好ましい。
【0017】
本発明のPBGFにおいて、クラッドの空孔と石英部分とからなる周期構造がコアの外側に3層以上設けられていることが好ましい。
【0018】
本発明のPBGFにおいて、波長λが0.7≦Γ/λ≦1.2を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有することが好ましい。
【0019】
本発明のPBGFにおいて、波長λが1.4≦Γ/λ≦2.0を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有していてもよい。
【0020】
本発明のPBGFにおいて、石英部分が、純粋石英又はリン、フッ素、ゲルマニウムからなる群から選択される1種又は2種以上のドーパントが添加された石英で構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明のPBGFにおいて、空孔内に、石英よりも誘電率の低い材料が充填された構成としてもよい。
【0022】
また本発明は、石英製のキャピラリと石英ロッドとを、多数のキャピラリが一列に並べられた第1の空孔列と、前記キャピラリと石英ロッドとを交互に並べた第2の空孔列とが交互に重なって横断面のキャピラリ配置が長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)となるように組み合わせ、且つ中央部のy軸方向に並ぶ2つ以上又はx軸方向に並ぶ2本以上の石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域とした石英ロッド入りキャピラリ束を作製し、次いで、該石英ロッド入りキャピラリ束を加熱一体化してファイバ紡糸用母材を作製し、次いで該ファイバ紡糸用母材を紡糸して前記本発明に係るPBGFを得ることを特徴とするPBGFの製造方法を提供する。
【0023】
本発明のPBGFの製造方法において、前記キャピラリが断面円環状であり、前記石英ロッドが、キャピラリと外径の等しい断面円形状であることが好ましい。
【0024】
本発明のPBGFの製造方法において、前記石英ロッド入りキャピラリ束を石英管の孔内に挿入した状態で一体化してファイバ紡糸用母材を作製することが好ましい。
【0025】
また前記PBGFの製造方法において、前記石英管の孔内に挿入したキャピラリ束のうち、キャピラリ内部空間のみを大気圧又はそれ以上の圧力に保持し、キャピラリ内部空間以外の空間部分を減圧状態として前記一体化を行うことが好ましい。
【0026】
本発明のPBGFの製造方法において、前記石英ロッド入りキャピラリ束の横断面の中心部にある石英ロッドのうちy軸方向に並ぶ2つの石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域を形成することが好ましい。
【0027】
本発明のPBGFの製造方法において、前記石英ロッド入りキャピラリ束の横断面の中心部にある石英ロッドのうちy軸方向に並ぶ2つの石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域を形成してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のPBGFは、長方形超格子状の空孔周期構造をクラッドに有し、且つファイバ中心部に多数の空孔が三角格子状に並べられたコアを有し、該コアのx軸方向長さとy軸方向長さとが異なっている構成なので、コア形状が非対称であることと、クラッドの異方性とが相俟って優れた偏波保持性能が得られる。
また、コア領域は中心石英ロッド1個のみをキャピラリに置き換えたファイバと比べ、コア領域が大きくなり、伝搬モードをほとんど空気となる領域に閉じ込めることが可能となる。このように構成されたファイバは、加工後にファイバ全体の空孔が同一の形状となり、クラッドの周期性が保持しやすく、コアも変形し難いので、低損失ファイバが実現できる。
また、本発明のPBGFは、表面モードが発生せずにコアモードのみが存在する光学特性が得られ、導波帯域幅を広くすることができ、伝送損失を下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図4は、本発明のPBGFの第1実施形態を示す図である。図4中、符号20AはPBGF、21は空孔、22は石英部分、23Aはコア、24はクラッド、25は第1の空孔列、26は第2の空孔列である。
【0030】
本実施形態のPBGF20Aは、石英部分22に多数の空孔21がファイバ長手方向に沿って設けられ、ファイバ横断面において第1のピッチΛで多数の円形の空孔21が一列に並べられた第1の空孔列25と、前記第1のピッチの2倍である第2のピッチΓで多数の円形の空孔21が石英部分22を介して並べられ、該空孔21と前記第1の空孔列25の空孔21とが三角格子を形成するように配置された第2の空孔列26とが交互に多数重ねられた長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に有し、且つファイバ中心部に多数の空孔21が三角格子状に並べられたコア23Aを有してなり、該コア23Aは、y軸方向(以下、長軸方向と記す。)長さがx軸方向(以下、短軸方向と記す。)長さよりも長くなっている。
【0031】
図5は、クラッド24に設けられた長方形超格子状の空孔周期構造のユニットセルを示す図である。本発明で用いるこの長方形超格子状の空孔周期構造は、格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2がそれぞれ短軸方向と長軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λ(=31/2・Λ)になっている。
【0032】
この長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に用いることで、表面モードを避けることができ、広い伝送帯域が実現できる。
さらに、図示のように、この超格子は、xとy方向に異なる構造をしており、それぞれの方向の偏波に対して異なるバンドギャップを有する。従って、この長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に用いると、通常の空孔コア(エアコア)であっても、xとy方向の偏波は異なるバンドギャップを感じるため、偏波を保持する能力(偏波保持特性)、あるいは単一偏波特性を示すようになる。
【0033】
本実施形態のPBGF20Aのコア23A(キャピラリコア)は、ファイバ中心部において第2の空孔列26に沿って5個の空孔21が第1のピッチΛで並び、その両側にある第1の空孔列25のそれぞれ4個の空孔21との合計13個の空孔からなっている。このコア23Aは、石英ロッドとキャピラリを組み合わせて長方形超格子状の空孔周期構造を持った石英ロッド入りキャピラリ束を形成し、その中央部において長軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置換することにより形成することができる。
【0034】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、特定の波長領域(使用波長領域)で5×10−4を超える複屈折Bを有することが好ましい。5×10−4を超える複屈折を有することで、このPBGFを偏波保持ファイバとして用いることができ、このPBGFを用いて、例えば、ファイバ偏光子、偏波分離素子、カプラー、フィルター、偏波コントローラ等の各種の光学部品を製造することができる。
【0035】
また、本実施形態のPBGF20Aにおいて、特定の波長領域で単一偏波のみが伝搬可能である単一偏波ファイバを構成することができる。単一偏波ファイバとは単一偏波のみが伝搬可能なファイバであり、偏波モードの結合、偏波モード分散を排除することができるので、偏波保持ファイバの理想形である。
【0036】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、クラッド24及びコア23Aに設けられた空孔21の直径dは、0.85Λ≦d≦Λの範囲内であることが好ましい。空孔直径dが前記範囲であれば、ファイバ全体にわたりほぼ均一な空孔21を有する長方形超格子状の空孔周期構造を構築でき、良好な光学特性を得ることができる。
【0037】
また、本実施形態のPBGF20Aにおいて、クラッド24の空孔21と石英部分22とからなる周期構造がコア23Aの外側に3層以上設けられていることが好ましい。この層数が2層以下であると、光の閉じ込みが不十分になり、損失が大きくなる可能性があるとともに、十分な偏波保持特性が得られなくなる可能性がある。
【0038】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、波長λが0.7≦Γ/λ≦1.2を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有することが好ましい。前記Γ/λが0.7未満であるとバンドギャップが存在しなくなり、光が伝わらなくなり、またΓ/λが1.2を超えると同様にバンドギャップが存在せず光が伝わらなくなってしまう。
【0039】
また、PBGF20Aが高次バンドギャップで動作する場合、波長λが1.4≦Γ/λ≦2.0を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有していてもよい。前記Γ/λが1.4未満であると高次バンドギャップ外にあり、動作しなくなり、またΓ/λが2.0を超えると高次バンドギャップの外にあり、動作しなくなってしまう。
【0040】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、石英部分22は、純粋石英(SiO2)又はリン(P)、フッ素(F)、ゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される1種又は2種以上のドーパントが添加された石英で構成されていることが好ましい。
【0041】
本実施形態のPBGF20Aにおいて、空孔21内に、石英(SiO2)よりも誘電率の低い材料が充填された構成とすることもできる。石英(SiO2)よりも誘電率の低い材料としては、透明プラスチックやオイルなどが挙げられる。
【0042】
本実施形態のPBGF20Aは、長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に有し、且つファイバ中心部に多数の空孔21が三角格子状に並べられたコア23Aを有し、該コアの長軸方向長さを短軸方向長さよりも長くした構成なので、コア23Aが非対称であることと、クラッド24の異方性とが相俟って優れた偏波保持性能が得られる。
また、コア領域は中心石英ロッド1個のみをキャピラリに置き換えたファイバと比べ、コア領域が大きくなり、伝搬モードをほとんど空気となる領域に閉じ込めることが可能となる。このように構成されたファイバは、加工後にファイバ全体の空孔が同一の形状となり、クラッドの周期性が保持しやすく、コアも変形し難いので、低損失ファイバが実現できる。
また、このPBGF20Aは、表面モードが発生せずにコアモードのみが存在する光学特性が得られ、導波帯域幅を広くすることができ、伝送損失を下げることができる。
【0043】
図6は、本発明のPBGFの第2実施形態を示す図である。本実施形態のPBGF20Bは、前述した第1実施形態のPBGF20Aとほぼ同様の構成要素を備えて構成され、ファイバ中心部のコア23Bは、その短軸方向長さが長軸方向長さよりも長くなっていることを特徴としている。
本実施形態のPBGF20Bは、前述した第1実施形態のPBGF20Aと同様に、特定の波長領域(使用波長領域)で5×10−4を超える複屈折Bを有するように構成でき、さらに特定の波長領域で単一偏波のみが伝搬可能である単一偏波ファイバを構成することができる。
【0044】
本実施形態のPBGF20Bのコア23B(キャピラリコア)は、ファイバ中心部において第1の空孔列25の両側にある第2の空孔列26の対向するそれぞれ1個、合計2個の石英部分22を空孔21に置換した構造になっている。このコア23Bは、石英ロッドとキャピラリを組み合わせて長方形超格子状の空孔周期構造を持った石英ロッド入りキャピラリ束を形成し、その中央部において短軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置換することにより形成することができる。
【0045】
本実施形態のPBGF20Bは、第1実施形態のPBGF20Aと同じく、長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に有し、且つファイバ中心部に多数の空孔21が三角格子状に並べられたコア23Bを有し、コア23Bが非対称であることと、クラッド24の異方性とが相俟って優れた偏波保持性能が得られる。
また、コア領域は中心石英ロッド1個のみをキャピラリに置き換えたファイバと比べ、コア領域が大きくなり、伝搬モードをほとんど空気となる領域に閉じ込めることが可能となり、加工後にファイバ全体の空孔が同一の形状となり、クラッドの周期性が保持しやすく、コアも変形し難いので、低損失ファイバが実現できる。
また、このPBGF20Bは、表面モードが発生せずにコアモードのみが存在する光学特性が得られ、導波帯域幅を広くすることができ、伝送損失を下げることができる。
【0046】
次に、本発明のPBGFの製造方法の一例を説明する。本例では、図4に示すように、長方形超格子状の空孔周期構造をクラッド24に有し、且つファイバ中心部において第2の空孔列26に沿って5個の空孔21が第1のピッチΛで並び、その両側にある第1の空孔列25のそれぞれ4個の空孔21との合計13個の空孔からなっているコア23A(キャピラリコア)を備えたPBGF20Aを製造する場合を説明する。
【0047】
本製造方法では、まず、石英製のキャピラリと石英ロッドとを、多数のキャピラリが一列に並べられた第1の空孔列と、前記キャピラリと石英ロッドとを交互に並べた第2の空孔列とが交互に重なって横断面のキャピラリ配置が長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれ短軸方向(x軸方向)と長軸方向(y軸方向)に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)となるように組み合わせ、且つ中央部の長軸方向に並ぶ2個の石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域とした石英ロッド入りキャピラリ束を作製する。本製造方法で用いるキャピラリは、断面円環状であり、また石英ロッドは、キャピラリと外径の等しい断面円形状であることが好ましい。
【0048】
なお、本発明のPBGFの製造方法において、前記コア領域の形成方法は前記の例にのみ限定されず、製造するPBGFのコア構造に応じて適宜変更可能である。例えば、図6に示すPBGF20Bを製造する場合には、ファイバ中心部において短軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置換することによりキャピラリコア領域を形成する。
【0049】
次に、前記石英ロッド入りキャピラリ束を加熱一体化してファイバ紡糸用母材を作製する。この加熱一体化工程は、従来のキャピラリ束を用いるPBGFの製造方法における加熱一体化と同様の装置及び方法を用いて実施することができる。
【0050】
また、前記石英ロッド入りキャピラリ束は、石英管の孔内に挿入した状態で一体化してファイバ紡糸用母材とすることが望ましい。このように石英ロッド入りキャピラリ束を石英管の孔内に挿入した状態で一体化する場合には、キャピラリ周囲の空間内とキャピラリ内部空間との圧力やガス組成を個別に調整することが可能となり、キャピラリ内部空間の圧力を適当に調整しながら、キャピラリ同士間又はキャピラリと石英ロッド間の隙間を埋めることができる。この一体化の際にキャピラリ内部空間の圧力を適宜調整することで、キャピラリの空孔の断面形状をほぼ円形状に維持することができる。
【0051】
石英管の孔内に石英ロッド入りキャピラリ束を挿入して一体化を行う場合、挿入した石英ロッド入りキャピラリ束のうち、キャピラリ内部空間のみを大気圧又はそれ以上の圧力に保持し、キャピラリ内部空間以外の空間部分を減圧状態として前記一体化を行うことが好ましい。
【0052】
次に、前記のように作製したファイバ紡糸用母材を紡糸することによって、図4に示すPBGFを得る。
本製造方法では、ファイバ中心部に位置する2個の石英ロッドをキャピラリで置き換えることによってコアを構成することができるので、従来のエアコアファイバのように一つの大きな空孔でエアコアを形成しているファイバに比べると、ファイバ全体の空孔が同一の形状となるので、格段に製造しやすくなる。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
図7に示す長方形超格子のバンド構造を図8に示す。ただし、周期構造は、空孔直径dが空孔のピッチΛと等しく、石英の屈折率n=1.45とした。図7において黒色部分が石英部分22、白色部分が空孔21を表す。また、バンド構造は、平面波展開法(非特許文献5参照)を用いて計算した。図8において、βは伝搬方向(周期構造と垂直な方向)の波数、Γ=2Λ、ωは角周波数、cは光速を表す。また、ライトラインは光が真空媒質中で伝搬するときの分散曲線を表し、バンドで囲まれる領域は、周期構造断面内にどの方向にも光が伝搬できない領域、すなわちバンドギャップを表す。ファイバのクラッドにこの周期構造を用い、コアに空孔を用いた場合、ファイバのコアに光が導波可能になる帯域はライトラインに隣接し、その上部に存在するバンドギャップとなる。この場合、Γ/λ(=ωΓ/2πc)が0.83〜1.10の範囲で第1導波領域、1.63〜1.78で第2導波領域が存在する。ここでλは波長を表す。
【0054】
図9に示すような、d/Λ=1の長方形超格子構造のクラッド24と、その中心部の長軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置き換えたコア23A(キャピラリコア)とからなるPBGF20Aについて、伝搬モードの分散を計算した。図10は第1バンドギャップ内の分散を示す。図示のように、Γ/λ=0.88〜1.08のバンドギャップ内でモード1、Γ/λ=0.86〜1.12のバンドギャップ内でモード2が存在する。ただし、各モードは単一偏波であり、縮退モードを含んでいない。また、この場合の複屈折B=|β1−β2|/β0は、1.9×10−3〜5.6×10−3となっている。ここで、β1、β2は、それぞれモード1,モード2の伝搬定数を表し、β0=ω/c(ωは角周波数、cは高速をそれぞれ表す)である。また、その他のモードは存在しない。
【0055】
図11は、そのときのモード1の典型的なパワー分布を示す図であり、図12は、そのときのモード2の典型的なパワー分布を示す図である。また、図13はファイバの誘電率分布を同スケールで示す図である。
【0056】
図14は、本実施例のPBGF20Aにおける第2バンドギャップ内の分散を示す図である。図示のように、Γ/λ=1.65〜1.69のバンドギャップ内でモード1、Γ/λ=1.63〜1.72のバンドギャップ内でモード2、Γ/λ=1.62〜1.77のバンドギャップ内でモード3、Γ/λ=1.61〜1.79のバンドギャップ内でモード4が存在する。ただし、この場合も各モードは単一偏波であり、縮退モードを含んでいない。また、この場合のモード1とモード2の間の複屈折は5.5×10−3〜6.3×10−3であり、モード3とモード4の間の複屈折は3.6×10−3〜5.7×10−3となっている。また、その他のモードは存在しない。
【0057】
図15は、本実施例のPBGF20Aにおける第2バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。また図16は、第2バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。また図17は、第2バンドギャップ内のモード3のパワー分布を示す図である。また図18は、第2バンドギャップ内のモード4のパワー分布を示す図である。
【0058】
[実施例2]
図19に示すような、d/Λ=1の長方形超格子構造のクラッド24と、その中心部の短軸方向に並んだ2個の石英ロッドをキャピラリに置き換えたコア23B(キャピラリコア)とからなるPBGF20Bについて、コアモードの分散を計算した。図20は第1バンドギャップ内の分散を示す。図示のように、Γ/λ=0.88〜1.07のバンドギャップ内でモード1、Γ/λ=0.88〜1.12のバンドギャップ内でモード2が存在する。ただし、各モードは単一偏波であり、縮退モードを含んでいない。また、この場合の複屈折B=|β1−β2|/β0は、6.8×10−3〜7.7×10−3となっている。ここで、β1、β2は、それぞれモード1,モード2の伝搬定数を表し、β0=ω/c(ωは角周波数、cは高速をそれぞれ表す)である。また、その他のモードは存在しない。
【0059】
図21は、そのときのモード1の典型的なパワー分布を示す図であり、図22は、そのときのモード2の典型的なパワー分布を示す図である。また、図23はファイバの誘電率分布を同スケールで示す図である。
【0060】
図24は、本実施例のPBGF20Bにおける第2バンドギャップ内の分散を示す図である。図示のように、Γ/λ=1.64〜1.70のバンドギャップ内でモード1、Γ/λ=1.62〜1.78のバンドギャップ内でモード2、Γ/λ=1.67〜1.80のバンドギャップ内でモード3が存在する。ただし、この場合も各モードは単一偏波であり、縮退モードを含んでいない。また、この場合のモード2とモード3の間の複屈折は3.9×10−3〜4.6×10−3となっている。また、その他のモードは存在しない。
【0061】
図25は、本実施例のPBGF20Bにおける第2バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。また図26は、第2バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。また図27は、第2バンドギャップ内のモード3のパワー分布を示す図である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】通常の三角格子の周期構造をもつPBGFにおけるコア径と表面モードの関係を示す断面図である。
【図2】通常の三角格子の周期構造と空孔コアをもつPBGFにおける空孔コアとバルクモードの関係を示す断面図である。
【図3】通常の三角格子の周期構造と空孔コアをもつ別なPBGFにおける空孔コアとバルクモードの関係を示す断面図である。
【図4】本発明のPBGFの第1実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明のPBGFに用いるクラッドの長方形超格子のユニットセルを示す断面図である。
【図6】本発明のPBGFの第2実施形態を示す断面図である。
【図7】実施例1で製造したd/Λ=1の長方形超格子の断面図である。
【図8】実施例1のd/Λ=1の長方形超格子のバンド構造を示す図である。
【図9】実施例1で作製したd/Λ=1の長方形超格子と、中心部の長軸方向に並ぶ2個の石英ロッドのみをキャピラリに置き換えたキャピラリコアとを有するPBGFの断面図である。
【図10】実施例1のPBGFの第1バンドギャップ内の分散を示す図である。
【図11】実施例1のPBGFにおける第1バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。
【図12】実施例1のPBGFにおける第1バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。
【図13】実施例1のPBGFの誘電率分布を示す図である。
【図14】実施例1のPBGFの第2バンドギャップ内の分散を示す図である。
【図15】実施例1のPBGFにおける第2バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。
【図16】実施例1のPBGFにおける第2バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。
【図17】実施例1のPBGFにおける第2バンドギャップ内のモード3のパワー分布を示す図である。
【図18】実施例1のPBGFにおける第2バンドギャップ内のモード4のパワー分布を示す図である。
【図19】実施例2で製造したd/Λ=1の長方形超格子と、中心部の短軸方向に並ぶ2個の石英ロッドのみをキャピラリに置き換えたキャピラリコアとを有するPBGFの断面図である。
【図20】実施例2のPBGFの第1バンドギャップ内の分散を示す図である。
【図21】実施例2のPBGFにおける第1バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。
【図22】実施例2のPBGFにおける第1バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。
【図23】実施例2のPBGFの誘電率分布を示す図である。
【図24】実施例2のPBGFの第2バンドギャップ内の分散を示す図である。
【図25】実施例2のPBGFの第2バンドギャップ内のモード1のパワー分布を示す図である。
【図26】実施例2のPBGFの第2バンドギャップ内のモード2のパワー分布を示す図である。
【図27】実施例2のPBGFの第2バンドギャップ内のモード3のパワー分布を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
20A,20B…PBGF、21…空孔、22…石英部分、23A,23B…コア、24…クラッド、25…第1の空孔列、26…第2の空孔列。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英部分に多数の空孔がファイバ長手方向に沿って設けられたフォトニックバンドギャップファイバであって、
ファイバ横断面において第1のピッチΛで多数の円形の空孔が一列に並べられた第1の空孔列と、前記第1のピッチの2倍である第2のピッチΓで多数の円形の空孔が石英部分を介して並べられ、該空孔と前記第1の空孔列の空孔とが三角格子を形成するように配置された第2の空孔列とが交互に多数重ねられた長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)をクラッドに有し、且つファイバ中心部に多数の空孔が三角格子状に並べられたコアを有してなり、該コアのx軸方向長さとy軸方向長さとが異なっていることを特徴とするフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項2】
コアのy軸方向長さがx軸方向長さよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項3】
コアのx軸方向長さがy軸方向長さよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項4】
特定の波長領域で5×10−4を超える複屈折を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項5】
特定の波長領域で単一偏波のみが伝搬可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項6】
クラッド及びコアに設けられた空孔の直径dが0.85Λ≦d≦Λの範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項7】
クラッドの空孔と石英部分とからなる周期構造がコアの外側に3層以上設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項8】
波長λが0.7≦Γ/λ≦1.2を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項9】
波長λが1.4≦Γ/λ≦2.0を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項10】
石英部分が、純粋石英又はリン、フッ素、ゲルマニウムからなる群から選択される1種又は2種以上のドーパントが添加された石英で構成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項11】
空孔内に、石英よりも誘電率の低い材料が充填されたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項12】
石英製のキャピラリと石英ロッドとを、多数のキャピラリが一列に並べられた第1の空孔列と、前記キャピラリと石英ロッドとを交互に並べた第2の空孔列とが交互に重なって横断面のキャピラリ配置が長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)となるように組み合わせ、且つ中央部のy軸方向に並ぶ2つ以上又はx軸方向に並ぶ2本以上の石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域とした石英ロッド入りキャピラリ束を作製し、次いで、該石英ロッド入りキャピラリ束を加熱一体化してファイバ紡糸用母材を作製し、次いで該ファイバ紡糸用母材を紡糸して請求項1〜10のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバを得ることを特徴とするフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項13】
前記キャピラリが断面円環状であり、前記石英ロッドが、キャピラリと外径の等しい断面円形状であることを特徴とする請求項12に記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項14】
前記石英ロッド入りキャピラリ束を石英管の孔内に挿入した状態で一体化してファイバ紡糸用母材を作製することを特徴とする請求項12又は13に記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項15】
前記石英管の孔内に挿入したキャピラリ束のうち、キャピラリ内部空間のみを大気圧又はそれ以上の圧力に保持し、キャピラリ内部空間以外の空間部分を減圧状態として前記一体化を行うことを特徴とする請求項14に記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項16】
前記石英ロッド入りキャピラリ束の横断面の中心部にある石英ロッドのうちy軸方向に並ぶ2つの石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域を形成することを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項17】
前記石英ロッド入りキャピラリ束の横断面の中心部にある石英ロッドのうちy軸方向に並ぶ2つの石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域を形成することを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項1】
石英部分に多数の空孔がファイバ長手方向に沿って設けられたフォトニックバンドギャップファイバであって、
ファイバ横断面において第1のピッチΛで多数の円形の空孔が一列に並べられた第1の空孔列と、前記第1のピッチの2倍である第2のピッチΓで多数の円形の空孔が石英部分を介して並べられ、該空孔と前記第1の空孔列の空孔とが三角格子を形成するように配置された第2の空孔列とが交互に多数重ねられた長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)をクラッドに有し、且つファイバ中心部に多数の空孔が三角格子状に並べられたコアを有してなり、該コアのx軸方向長さとy軸方向長さとが異なっていることを特徴とするフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項2】
コアのy軸方向長さがx軸方向長さよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項3】
コアのx軸方向長さがy軸方向長さよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項4】
特定の波長領域で5×10−4を超える複屈折を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項5】
特定の波長領域で単一偏波のみが伝搬可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項6】
クラッド及びコアに設けられた空孔の直径dが0.85Λ≦d≦Λの範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項7】
クラッドの空孔と石英部分とからなる周期構造がコアの外側に3層以上設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項8】
波長λが0.7≦Γ/λ≦1.2を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項9】
波長λが1.4≦Γ/λ≦2.0を満たす範囲内で偏波が保存される光学特性を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項10】
石英部分が、純粋石英又はリン、フッ素、ゲルマニウムからなる群から選択される1種又は2種以上のドーパントが添加された石英で構成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項11】
空孔内に、石英よりも誘電率の低い材料が充填されたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項12】
石英製のキャピラリと石英ロッドとを、多数のキャピラリが一列に並べられた第1の空孔列と、前記キャピラリと石英ロッドとを交互に並べた第2の空孔列とが交互に重なって横断面のキャピラリ配置が長方形超格子状の空孔周期構造(但し、該格子の周期性を表す基本ベクトルa1,a2はそれぞれx軸とy軸方向に向き、それぞれの長さは2Λ、√3Λである。)となるように組み合わせ、且つ中央部のy軸方向に並ぶ2つ以上又はx軸方向に並ぶ2本以上の石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域とした石英ロッド入りキャピラリ束を作製し、次いで、該石英ロッド入りキャピラリ束を加熱一体化してファイバ紡糸用母材を作製し、次いで該ファイバ紡糸用母材を紡糸して請求項1〜10のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバを得ることを特徴とするフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項13】
前記キャピラリが断面円環状であり、前記石英ロッドが、キャピラリと外径の等しい断面円形状であることを特徴とする請求項12に記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項14】
前記石英ロッド入りキャピラリ束を石英管の孔内に挿入した状態で一体化してファイバ紡糸用母材を作製することを特徴とする請求項12又は13に記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項15】
前記石英管の孔内に挿入したキャピラリ束のうち、キャピラリ内部空間のみを大気圧又はそれ以上の圧力に保持し、キャピラリ内部空間以外の空間部分を減圧状態として前記一体化を行うことを特徴とする請求項14に記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項16】
前記石英ロッド入りキャピラリ束の横断面の中心部にある石英ロッドのうちy軸方向に並ぶ2つの石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域を形成することを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【請求項17】
前記石英ロッド入りキャピラリ束の横断面の中心部にある石英ロッドのうちy軸方向に並ぶ2つの石英ロッドをキャピラリに置換してキャピラリコア領域を形成することを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載のフォトニックバンドギャップファイバの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2007−127931(P2007−127931A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322032(P2005−322032)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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