説明

フォトマスクの異物除去方法及び異物除去装置

【課題】パターンの微細な凹部に入り込んだ異物を精度よく除去することができるフォトマスクの異物除去方法及び異物除去装置を提供する。
【解決手段】カンチレバー12の変位量が一定となるように3軸微動機構21を制御しつつカンチレバー12を上下に変位させ、基板01の表面上をスキャンすることにより、基板01の表面及び異物02の三次元情報を取得する。基板01の表面及び異物02の三次元情報を元に、プローブ11のアプローチ位置と深さ方向のアプローチ量とを決定したうえで、その決定値で異物02にプローブ11をアプローチする。プローブ11(細管14)が異物02に接触した瞬間、異物02は細管14に吸着される。細管14に異物02が吸着されている状態で、プローブ11をカンチレバー12と一体に引き上げることにより、基板01の凹部に入り込んだ異物02を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクに付着している異物の除去、特に、微細な凹部に入り込んだ異物を除去するフォトマスクの異物除去方法及び異物除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体加工、特に、大規模集積回路の加工にあっては、高集積化に伴って回路パターンの微細化が進められている。その結果、フォトマスクの製造においても、上記微細化に伴い、より微細かつ高精度なマスクパターンを形成する技術が要求されている。また、マスクパターンを微細化すると、微小な異物であっても、ウェハ転写に影響を及ぼすようになる。
【0003】
微細なマスクパターンの凹部(溝)に何らかの異物が入り込んで付着してしまい、その付着力が強い場合には、洗浄処理だけで異物を洗い流すことは難しく、異物をいったんマスクから剥離させた(付着力を弱めた)上で洗浄処理を行う必要がある。
【0004】
この場合、プローブを用いて凹部に入り込んだ異物にある程度の力を加えることにより、異物を凹部から移動させる(密着状態を解く)必要があり、例えば、AFM(Atomic Force Microscope)技術を利用して、プローブで異物に荷重を加える方法が知られている。
【0005】
プローブの先端材料としては、シリコンやダイヤモンドなどが一般的に用いられており、ハーフピッチ45nm世代のパターンサイズまで対応可能である。しかし、パターンの微細化が進んでいる中、これらの先端材料からプローブを細くするのには限界がある。
【0006】
そこで、特許文献1では、先端材料にカーボンナノチューブを用いて異物除去する方法が開示されている。カーボンナノチューブは、直径数nm〜100nmの構造を製造するうえで制御可能であることから、ハーフピッチ45nm以細のパターンの凹部に入り込んだ異物に荷重を加えて移動させることが可能となる。
【0007】
また、特許文献2には、圧縮空気を吹き付けて異物を吹き飛ばすブロー装置と、吹き飛ばした異物を排気口から外部へ排出する排気ファンと、を備えた異物除去装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−054773号公報
【特許文献2】特開2007−316551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、カーボンナノチューブを用いてパターンの凹部に入り込んだ異物に荷重を加えて移動させる技術は、異物を移動させるに過ぎず、凹部から異物を取り除くものではないうえ、異物を移動させたからといって洗浄処理で除去できるとは限らないという問題が生じていた。
【0010】
同様に、圧縮空気を吹き付けた場合であっても、微細な凹部に入り込んだ異物を必ずしも吹き飛ばすとは限らないという問題が生じていた。
【0011】
このように、近年のフォトマスクにおけるパターンの微細化や高精度化が進むにつれて、微小な異物であってもウェハ転写に影響を及ぼすようになることから、このような微小な異物が微細なパターンの凹部に入り込んでしまった場合であっても、精度よく除去することが望まれている。
【0012】
前述の実情を鑑みて、本発明は、パターンの微細な凹部に入り込んだ異物を精度よく除去することができる異物除去方法及び異物除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する為に、請求項1に係る発明は、フォトマスクに付着した異物を除去するフォトマスクの異物除去方法であって、前記フォトマスクの表面及び前記異物の三次元情報を取得し、前記三次元情報に基づいて前記異物の位置を特定する工程と、前記特定された異物の位置に基づいてプローブ先端を動かして前記異物を前記プローブ先端で吸引し、その後、前記プローブ先端を前記フォトマスクから離間させることにより前記異物を前記フォトマスクから除去する工程と、前記吸引を解除し、前記プローブ先端で吸引した前記異物を前記プローブ先端から除去する工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のフォトマスクの異物除去方法において、前記プローブ先端は中空構造の細管で構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2記載のフォトマスクの異物除去方法において、前記細管の材料は、カーボンナノチューブであって、その直径は、数nm〜100nmであることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3にいずれか1項記載のフォトマスクの異物除去方法において、前記プローブ先端で吸引した前記異物を前記プローブ先端から除去する工程では、前記プローブ先端の異物に向けて気体をブローすることを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項2〜4にいずれか1項記載のフォトマスクの異物除去方法において、前記プローブは、前記細管を支持する台座を有し、前記台座は、少なくとも直径又は長さの一方が異なる細管の交換が可能に構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5にいずれか1項記載のフォトマスクの異物除去方法において、前記プローブ先端の吸引作用は、真空ポンプによる吸引力であり、この吸引力はバルブ開閉によって制御されることを特徴とする。
【0019】
請求項7に係る発明は、フォトマスクに付着した異物を除去するフォトマスクの異物除去装置であって、前記フォトマスクの表面及び前記異物の三次元情報を取得し、前記三次元情報に基づいて前記異物の位置を特定する位置特定手段と、プローブ先端を前記特定された異物の位置に移動させるとともに、前記プローブ先端を前記フォトマスクから離間させる移動手段と、前記異物を前記プローブ先端で吸引及び吸引の解除を可能とした吸引手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、プローブ先端が、微細な細管なので、ハーフピッチ45nm以細のパターンの凹部に入り込んだ異物でも対応可能である。異物を吸引除去の際、パターン面には接触しないので、パターン面の損傷を防止できる。また、異物を直接吸引するため、後の洗浄工程の省略が可能である。
【0021】
吸引除去後は、プローブ先端をクリーニングすることにより、プローブ先端に付着した異物を除去することができる。そのため、パターン面に吸着した異物の再付着を防止できる。
【0022】
プローブ自体が交換可能なため、異なる径の先端であれば、様々なパターンサイズに対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る異物除去装置の撮影時における全体の簡略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る異物除去装置の異物吸引時における全体の簡略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る異物除去装置の異物除去時における全体の簡略図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る異物除去方法のフローである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態に係る異物除去方法及び異物除去装置について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態に係る異物除去方法では、異物除去装置としてAFM(Atomic Force Microscope)装置を利用している。このAFM装置は、プローブ11と試料(基板01)との間に働く原子間力または分子間力によるカンチレバー12の上下方向の変位を検出して、試料表面形状を画像化するものである。
【0025】
具体的には、撮影時におけるAFM装置は、プローブヘッド15と、ピエゾ素子を利用した3軸微動機構21と、3軸微動機構21を制御する制御装置22と、カンチレバー12の変位量を変位情報として取得するZ変位量フィードバック機構23と、カンチレバー12の背面に向けてレーザー光を照射する半導体レーザー24と、カンチレバー12の背面で反射した反射光を検出する光検出器25と、基板01の表面に形成されたパターンを撮影する光学カメラ26と、バルブ31と、真空ポンプ32と、ブロワー41と、を備えている。また、基板01は図示しないステージ上にセットされる。
【0026】
カンチレバー12は、プローブ11が設けられた一端部とは反対側の他端部で片持ち支持され、その他端部に3軸微動機構21が設けられている。3軸微動機構21は制御装置22によって制御され、この3軸微動機構21により、カンチレバー12及びこれに保持されたプローブ11をXYZの3方向に駆動させることができる。
【0027】
カンチレバー12の変位量は、光てこ測定系により検出される。本実施の形態においては、半導体レーザー24からレーザー光をカンチレバー12の背面に向けて照射し、そのカンチレバー12の背面からの反射光の光路の変化を光検出器25によって検出することで、カンチレバー12の変位量を検出する。また、光検出器25で検出されたカンチレバー12の変位量は、変位情報としてZ変位量フィードバック機構23にフィードバックされる。
【0028】
このような構成において、撮影時においては、図4に示すように、基板01をステージ上にセットし(ST1)、光学カメラ26を用いて基板01の任意の位置をターゲットとして大まかな位置を確認(ST2)した後、カンチレバー12の変位量が一定となるように3軸微動機構21を制御しつつカンチレバー12を上下に変位させ、基板01の表面上をスキャンすることにより、基板01の表面及び異物02の三次元情報を取得する(ST3)。これらの情報を元に、異物02の位置や形状並びにサイズ等を特定する。
【0029】
次に、図2を参照して本発明の異物吸引時におけるAFM装置を説明する。プローブ11及びカンチレバー12は、中空な構造を有する。また、プローブ11は、カンチレバー12の先端に固定された台座13と、この台座13を貫通する細管14とを備えている。この細管14は、径が微細かつ中空な構造であり、その長さは基板01の表面に形成された凹部の深さAよりも十分に長い物であることが望ましい。また、細管14の材料としてはカーボンナノチューブ等が考えられる。カーボンナノチューブは、シングルウォールタイプのものであれば直径が数nm〜10nm、マルチウォールタイプのものであれば直径が10nm〜100nm、の範囲に属するものであれば製造工程で直径を制御することが可能である。そのため、マスクパターンの凹部の幅に応じて複数種類(直径)のものを予め準備しておき、凹部の幅や上述した撮影工程で特定した異物02のサイズに合わせて適切な直径のものを採用すればよい。
【0030】
したがって、本実施の形態に係るカンチレバー12は、上述した複数種類の直径(及び長さ)の細管14を適宜選択するために、例えば、磁力によってプローブ11を他のプローブに交換することができる。なお、磁力による交換としたのは、バルブ31を閉じて吸引を解除している状態であっても、プローブ11がカンチレバー12から外れないようにするためである。この際、プローブヘッド15には電磁石を用い、電流のON/OFFで磁力の制御を行うのが好ましい。カンチレバー12とプローブ11とを電磁石によって接合するためには、カンチレバー12とプローブ11とが、共に磁性体材料であることが望ましい。また、安定した接合を実現するために、プローブ11の細管14の先端とは反対側の端部に台座13を設けている。台座13は錐体状で、中心を貫くように細管14を通すことで、細管14とカンチレバー12とを連通させると共に、細管14が傾くことなく鉛直方向に沿って延在した状態で保持することが可能である。この構造を採用することで、基板01の凹部の側壁と異物02の相対位置関係を正確に捉え易くすることができる。さらに、カンチレバー12の先端の開口部Cは、位置ズレによる吸引不能を防止するために、台座13の開口部Bよりも大きくすることが望ましい。
【0031】
カンチレバー12の内部の中空部分は、プローブヘッド15を介して真空ポンプ32に接続されており、バルブ31の開閉により、細管14による吸引を制御することができる。バルブ31は、異物の吸引動作及び異物の保持動作以外は、閉の状態にしておく。
【0032】
このような構成において、異物02を吸引するにあたっては、図4に示すように、バルブ31を開状態とした吸引開始において(ST4)、先に特定(ST1〜ST3)した基板01の表面及び異物02の三次元情報を元に、プローブ11のアプローチ位置と深さ方向のアプローチ量とを決定したうえで、その決定値で異物02にプローブ11をアプローチする(ST5)。そして、プローブ11(細管14)が異物02に接触した瞬間、異物02は細管14に吸着される。細管14に異物02が吸着されている状態で、プローブ11をカンチレバー12と一体に引き上げることにより、基板01の凹部に入り込んだ異物02を除去する。なお、細管14の選定にあたっては、凹部の幅並びに異物02の大きさを考慮し、その異物02を吸引した際に細管14の先端で留め置くことができるものを用いる。
【0033】
さらに、細管14で吸引して引き上げた異物02は、図3に示すように、ブロークリーニングを用いて除去する。ブロワー41の先端は中空となっており、図示しないブロワー送風機等に接続されている。
【0034】
まず、引き上げられた細管14を基板01の範囲外へ移動させ(ST6)、ブロワー41の先端を異物02に接近させた状態で、バルブ31を開の状態から、閉にすることにより、細管14による吸引状態を解除する(ST7)。これにより、細管14による異物02の吸引が解除されると同時に、ブロワー41からの送風により細管14で吸引していた異物02が細管14から除去される(ST8)。なお、ブロワー41からブローする気体としては、細管14が変質しないように、窒素やヘリウム等不活性ガスを用いるのが望ましい。これにより、基板01に対して異物02の再付着を防止することができる。
【0035】
本実施の形態では、プローブヘッド15と、3軸微動機構21と、制御装置22と、Z変位量フィードバック機構23と、半導体レーザー24と、光検出器25と、光学カメラ26が、フォトマスクの表面及び前記異物の三次元情報を取得し、前記三次元情報に基づいて前記異物の位置を特定する位置特定手段を構成している。
また、3軸微動機構21と、制御装置22が、プローブ先端を前記特定された異物の位置に移動させるとともに、前記プローブ先端を前記フォトマスクから離間させる移動手段を構成している。
また、制御装置22と、バルブ31と、真空ポンプ32とが、前記異物を前記プローブ先端で吸引及び吸引の解除を可能とした吸引手段を構成している。
【符号の説明】
【0036】
01 … 基板
02 … 異物
11 … プローブ
12 … カンチレバー
13 … 台座
14 … 細管
15 … プローブヘッド
21 … 3軸微動機構
22 … 制御装置
23 … Z変位量フィードバック機構
24 … 半導体レーザー
25 … 光検出器
26 … 光学カメラ(撮影手段)
31 … バルブ
32 … 真空ポンプ(吸引手段)
41 … ブロワー(除去手段)
A … 基板01の表面深さ
B … 細管14の直径
C … カンチレバー12先端の開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスクに付着した異物を除去するフォトマスクの異物除去方法であって、
前記フォトマスクの表面及び前記異物の三次元情報を取得し、前記三次元情報に基づいて前記異物の位置を特定する工程と、
前記特定された異物の位置に基づいてプローブ先端を動かして前記異物を前記プローブ先端で吸引し、その後、前記プローブ先端を前記フォトマスクから離間させることにより前記異物を前記フォトマスクから除去する工程と、
前記吸引を解除し、前記プローブ先端で吸引した前記異物を前記プローブ先端から除去する工程と、
を備えたことを特徴とするフォトマスクの異物除去方法。
【請求項2】
前記プローブ先端は中空構造の細管で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクの異物除去方法。
【請求項3】
前記細管の材料は、カーボンナノチューブであって、その直径は、数nm〜100nmであることを特徴とする請求項2に記載のフォトマスクの異物除去方法。
【請求項4】
前記プローブ先端で吸引した前記異物を前記プローブ先端から除去する工程では、前記プローブ先端の異物に向けて気体をブローすることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のフォトマスクの異物除去方法。
【請求項5】
前記プローブは、前記細管を支持する台座を有し、
前記台座は、少なくとも直径又は長さの一方が異なる細管の交換が可能に構成されていることを特徴とする請求項2〜4に何れか1項記載のフォトマスクの異物除去方法。
【請求項6】
前記プローブ先端の吸引作用は、真空ポンプによる吸引力であり、この吸引力はバルブ開閉によって制御されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項にフォトマスクの異物除去方法。
【請求項7】
フォトマスクに付着した異物を除去するフォトマスクの異物除去装置であって、
前記フォトマスクの表面及び前記異物の三次元情報を取得し、前記三次元情報に基づいて前記異物の位置を特定する位置特定手段と、
プローブ先端を前記特定された異物の位置に移動させるとともに、前記プローブ先端を前記フォトマスクから離間させる移動手段と、
前記異物を前記プローブ先端で吸引及び吸引の解除を可能とした吸引手段と、
を備えたことを特徴とするフォトマスクの異物除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−203163(P2012−203163A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67188(P2011−67188)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】