説明

フォンヴィルブランド因子分解酵素の分析方法

【課題】フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断可能な基質を用いるフォンヴィルブランド因子分解酵素の分析方法において、極めて短時間でADAMTS13活性量を正確に定量することができる分析方法及び分析用キットを提供する。
【解決手段】前記分析方法は、被検試料と前記基質との液中での接触を、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類の存在下で実施する。前記分析用キットは、(1)フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断可能な基質と、(2)基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検試料中に含まれるフォンヴィルブランド因子(von Willebrand factor;以下、vWFと称する)分解酵素の分析方法及び分析用キットに関する。
近年、血小板血栓形成傾向の程度あるいは血栓症の検出等に際し、vWF分解酵素[以下、ADAMTS13(vWF分解酵素の別称)と称する]の活性測定はその臨床的価値が認知されつつある。本発明方法によれば、簡便性、迅速性、及び感度に優れたADAMTS13分析法を実現することができ、更には極めて短時間の測定によって全自動分析装置により酵素活性量を精細に定量化することができる。なお、本明細書における用語「分析」には、分析対象物質の存在の有無を判定する「検出」と、分析対象物質の量又は活性を定量的又は半定量的に決定する「測定」とが含まれる。
【背景技術】
【0002】
ADAMTS13は、元来、非常に重篤な致死率の高い血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura;以下、「TTP」と称する)の発症に関与することが示唆され、血漿から精製され(非特許文献1)、cDNAクローニングによりその遺伝子が決定された。実際、ADAMTS13の遺伝子変異がvWF分解活性を著しく低下させることが明らかにされている(非特許文献2)。近年、ADAMTS13に対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を応用した酵素免疫測定法が開発され(特許文献1)、血小板凝集が関与した血栓症の原因及び血栓症の血栓形成傾向の検出法が確立された。これを使用し、各種血栓症患者の血漿中におけるADAMTS13の濃度が健常人と比べて顕著に低下していることが見いだされている。
【0003】
ADAMTS13の活性測定法は、従来より、SDS−アガロース電気泳動とオートラジオグラフィー又はウエスタンブロット法とを組み合わせたvWF巨大マルチマーの検出法が用いられてきた(非特許文献3)。また近年、ADAMTS13によるvWFの特異的分解部位であるA2ドメイン73残基を用い、その周辺部位に蛍光基と消光基を導入したFRETS−vWF73が開発され、ADAMTS13活性測定が簡便に行われるようになった(非特許文献4)。
【0004】
しかし、これら活性を測定する方法は操作が極めて煩雑であったり、またその測定に特殊な蛍光検出器を必要としたり、臨床検体の測定からその結果の出力までに多大な時間を要するために実際の臨床診断検査の現場での使用に堪えうるものではない。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/029242号パンフレット
【非特許文献1】ケー・フジカワ(K. Fujikawa)ら,「ブラッド(Blood)」,(米国),2001年,第98巻,p.1662−6
【非特許文献2】ジー・ジー・レビー(G. G. Levy)ら,「ネイチャー(Nature)」,(英国),2001年,第413巻,p.488−494
【非特許文献3】エム・フルラン(M. Furlan)ら,「ブラッド(Blood)」,(米国),1996年,第87巻,p.4223−4234
【非特許文献4】コカメ・ケー(Kokame K)ら「ブリティッシュ ジャーナル オブ ヘマトロジー(British Journal of Haematology)」,(英国),2005年,第129巻,93−100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のようにADAMTS13の活性測定は今後、臨床上、非常に有用で各種病態解明の中心となることが予想される。このような病態の診断においては簡便でかつ極めて迅速なADAMTS13活性の定量測定が求められることが予想される。これら求められる要素を実現するためには従来にない極めて短時間のADAMTS13活性の定量測定が必須となり、例えば測定者に極力負荷をかけない全自動化装置による短時間のADAMTS13活性の定量測定はその実例となり得ると考えられる。
【0007】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、フォンヴィルブランド因子の基質となる断片を捕捉しうる磁性粒子及び、その断片を認識しうる酵素標識化パートナーを使用した全自動化装置によりADAMTS13活性の定量測定が行えることを示し、更にはADAMTS13とその基質が接触する溶液中に、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類を添加することで、基質側にADAMTS13によって切断されやすい状況が発生し、その結果として酵素活性が著しく亢進し、従来にない極めて短時間でのADAMTS13活性の定量測定を実現させることができ、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
従って、本発明の課題は、従来にない極めて短時間でADAMTS13活性量を正確に定量することができる分析方法及び分析用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、
[1]フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断可能な基質を用いるフォンヴィルブランド因子分解酵素の分析方法において、被検試料と前記基質との液中での接触を、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類の存在下で実施することを特徴とする、フォンヴィルブランド因子分解酵素の分析方法;
[2]前記カチオン性水溶性多糖類が、グルコースを構成単位とする多糖類である、[1]の分析方法;
[3]前記カチオン性水溶性多糖類が、グルコースを構成単位とし、カチオン性を発揮する官能基として第3級アミノ基及び/又は第四級アンモニウム基を有する多糖類である、[1]の分析方法;
[4]前記カチオン性水溶性多糖類が、DEAE−デキストランである、[1]の分析方法;
[5]前記分析を全自動分析装置を用いて実施する、[1]〜[4]の分析方法;
[6]前記基質がフォンヴィルブランド因子分解酵素により切断されて生じる基質断片、及び/又は、未切断の基質を、捕捉することのできる不溶性担体を使用する、[1]〜[5]の分析方法;
[7]不溶性担体が粒子である、[6]の分析方法;
[8]粒子がラテックス粒子又は磁性粒子である、[7]の分析方法;
[9]前記基質が、フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断され遊離する基質断片側において標識物質で標識されているか、あるいは、特異的に認識されうるアミノ酸配列を有している、[6]〜[8]の分析方法;
[10]標識物質が、蛍光物質、発光物質、発色物質、又は酵素である、[9]の分析方法;
[11]前記基質がフォンヴィルブランド因子分解酵素により切断されて生じるネオアンチゲンと特異的に結合するパートナーを使用する、[6]〜[8]の分析方法;
[12](1)フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断可能な基質と、(2)基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類とを含むことを特徴とする、フォンヴィルブランド因子分解酵素の分析用キット
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ADAMTS13により切断可能な基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類を添加することで、基質側にADAMTS13によって切断されやすい状況が発生し、ADAMTS13の基質を切断する酵素活性が、これを共存させない場合と比較し、極めて向上することを発見した。この発見を応用することにより、従来行われてきたADAMTS13の活性測定法に必要とされた時間(特にADAMTS13と基質との接触時間)を大幅に短縮することができた。これにより、全自動化装置による測定に代表されるような簡便でかつ極めて迅速な定量測定が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の分析方法では、ADAMTS13により切断可能な基質、すなわち、フォンヴィルブランド因子の全長又はその基質となる部分の断片を少なくとも用いる。本発明の分析方法は、例えば、
(1)ADAMTS13を含有する可能性のある被検試料と、ADAMTS13により切断可能な基質とを、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類の存在下にて、液中で接触させる工程、
(2)前記基質がADAMTS13により切断されて生じる基質断片、及び/又は、未切断の前記基質とを分離する工程、並びに
(3)分離した前記基質断片及び/又は前記基質を分析する工程
を含むことができる。
【0012】
本発明の分析方法は、ADAMTS13により切断可能な基質又は切断後の基質断片と特異的に反応することのできるパートナー(好ましくは抗体)を使用せずに実施することもできるし、あるいは、前記パートナーを使用して実施することもできる。前記パートナーを使用せずに実施する態様としては、例えば、切断後の基質断片を電気泳動で確認する方法、基質として、例えば、基質の切断部位周辺に蛍光基と消光基が導入されており、その切断により蛍光を検出できる基質[例えば、FRETS−vWF73(非特許文献4)]を使用する方法などを挙げることができる。
【0013】
本発明の分析方法では、簡便で迅速な定量測定を行うことができる点で、不溶性担体を使用した測定が好適である。不溶性担体を使用する態様では、例えば、ADAMTS13により切断可能な基質を、不溶性担体に予め結合させた状態で使用することもできるし、あるいは、被検試料と接触させた後の基質(ADAMTS13により切断されて生じる基質断片、及び/又は、未切断の基質を含む)を、不溶性担体と接触させることもできる。
【0014】
本発明の分析方法において、不溶性担体を用いる態様では、例えば、
(1)ADAMTS13を含有する可能性のある被検試料と、ADAMTS13により切断可能な基質とを、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類の存在下にて、液中で接触させる工程、
(2)前記工程(1)の後に、あるいは、同時に、前記基質又は切断後の基質断片を捕捉することのできる不溶性担体(所望により、更に標識化パートナー等)を接触させる工程、
(3)前記液と不溶性担体とを分離する工程、並びに
(4)不溶性担体に残存する基質又は基質断片、及び/又は、不溶性担体から遊離した液中の基質又は基質断片を分析する工程
を含むことができる。
【0015】
更に、本発明の分析方法には、用いる標識物質の標識化の態様に基づいて、例えば、
(a)基質がADAMTS13の切断により遊離する基質断片側において、他の物質により認識されうる配列又は構造を有しており、これを認識することができる標識化パートナーを用いる態様、
(b)基質がADAMTS13の切断により遊離する基質断片側において、標識物質で直接標識化されている態様、又は
(c)ADAMTS13で切断されて生じる基質のネオアンチゲンと特異的に結合し、且つ、標識物質で標識されている標識化パートナーを用いる態様
が含まれる。
【0016】
本発明の分析方法で分析することのできる被検試料としては、分析対象であるvWF分解酵素(ADAMTS13)を含む可能性のある試料であれば特に限定されないが、例えば、生物学的液体試料、特には、血液、血清、血漿、尿、又は髄液等を挙げることができる。
【0017】
なお、本発明の分析方法によって分析可能な分析対象酵素は、現在vWF分解酵素として考えられているADAMTS13をその代表と考えるが、vWFをその特異的部位[vWFのA2ドメインのチロシン(1605)とメチオニン(1606)の間]で切断可能な酵素である限り、特に限定するものではない。このことは、例えば、将来的にADAMTS13以外のvWF分解酵素が発見された場合、あるいはADAMTS13と複合体などを形成し切断活性を調整する制御因子などが発見された場合も、これらを含有するものとする。
【0018】
本発明の分析方法で用いる酵素基質は、vWFのA2ドメインのチロシン(1605)とメチオニン(1606)の間で特異的にプロテアーゼにより切断可能な物質である限り、特に限定されるものではなく、例えば、vWFの全長、あるいは、その基質となる部分の断片等を用いることができ、vWFの全長あるいはその特異的基質となる部分の最短領域を含むものが好ましい。前記基質は、周知方法により調製することができ、例えば、寄生生物の粗抽出品又は精製品をヒトや動物の体液より採集する方法、生物由来の粗抽出品又は精製品を人工的に養殖した生物から取得する方法、核酸又はタンパク質を遺伝子組換え技術や細胞培養技術により生産する方法、あるいは、ポリペプチドやハプテンを化学合成技術で合成する方法などが挙げられる。
【0019】
本発明で使用するカチオン性水溶性多糖類は、基質と複合体を形成可能なもので、ADAMTS13に切断されやすいフォームを形成させるものである限り、特に限定されるものではない。
カチオン性水溶性多糖類の水溶性多糖類部分は、その構成単位として、例えば、Glc(グルコース、Gal(ガラクトース)、Man(マンノース)、GlcUA(グルクロン酸)、IdoA(イズロン酸)、Fuc(フコース)、GlcN(D-glucosamine:グルコサミン、GlcNH2)、GlcNAc(N-アセチルグルコサミン)、GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)、NeuAc(N-アセチルノイラミン酸)、NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸)等を挙げることができ、グルコースであることが好ましい。水溶性多糖類部分は、これらの1種類の構成単位のみからなることもできるし、あるいは、2種類以上の構成単位からなることもできる。
【0020】
水溶性多糖類としては、例えば、セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース等)エーテル、シアル酸、デキストラン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナン、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン、ヘパリン、ヒアルロン酸などを挙げることができ、本発明で用いるカチオン性水溶性多糖類としては、これらの水溶性多糖類の官能基に化学修飾を施しカチオン性を付与させたものを挙げることができる。なお、前記水溶性多糖類の内、元来カチオン性を有するキトサン又はDEAE−デキストランについては、前記化学修飾を施すこともできるが、前記化学修飾を施すことなく、カチオン性水溶性多糖類としてそのまま使用することができる。水溶性多糖類としては、元来カチオン性を有する点で、キトサン又はDEAE−デキストランが好ましい。
【0021】
カチオン性水溶性多糖類は、その陽イオン性を発揮するための塩基性官能基として、例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基、アミジノ基、グアニジノ基、イミダゾール基などが挙げられ、例えば、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基であることが好ましい。更に本発明で使用する最も適した塩基性官能基としては、第三級アミノ基であるDEAE基、あるいは、第四級アンモニウム基と第三級アミノ基が結合したタンデム構造であるDEAE−DEAE基が好ましい。
【0022】
本発明で用いるカチオン性水溶性多糖類としては、DEAE−デキストランが最も好ましい。なお、一般に市販されているDEAE−デキストランは、DEAE基とDEAE−DEAE基の両方を含んでおり、本明細書における「DEAE−デキストラン」は、塩基性官能基としてDEAE基及び/又はDEAE−DEAE基を含むデキストランを意味する。DEAE−デキストランの分子量は、構成単位であるグルコースの数によりその分子量が決定され、通常、10,000〜2,000,000であり、このうち100,000〜1,000,000が好ましく、300,000〜700,000が特に好ましい。また、N含有量は通常0.1〜20%であり、このうち0.5〜10%が好ましく、1〜5%のものが特に好ましい。
【0023】
本発明方法において使用することのできる不溶性担体としては、酵素基質又は切断後の基質断片を捕捉可能であるものであればいかなる形態の不溶性担体でも利用可能であり、例えば、基質及び/又は切断後の基質断片に特異的なパートナーを物理的に吸着可能な材質や化学結合で担持させうる適当な官能基を有する材質[例えば、各種プラスチック(例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、又はポリテトラフルオロエチレン)からなるプレート、チュ−ブ、ビーズ、チップ、ガラス、磁性担体、ラテックス粒子、又は膜などを利用することができる。B/F分離する際の操作が簡便な点、また全自動化装置による測定へのアプリケーションのしやすさの観点からここでは不溶性磁性粒子を用いることが好ましい。
【0024】
不溶性磁性粒子の粒径は、通常0.05μm〜5μmのものが用いられ、0.3μm〜3μmの範囲の粒径を有する不溶性磁性粒子が好ましい。物理的に吸着させる方法としては、不溶性磁性粒子に、タンパク質を直接固定化する方法が挙げられる。化学的に担持させる方法としては、例えば、磁性粒子の表面に存在するアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、エポキシ基などを化学的に修飾することによりタンパク質と結合させることができる官能基を利用して、直接粒子上に固定化する方法、粒子と基質分子の間にスペーサー分子を化学結合で導入して固定化する方法、アルブミンなどの他のタンパク質を前記の方法で結合させた後、抗体などをその上から更に結合させる方法、又はアルブミンなどの他のタンパク質と抗体などを化学結合させた後、その複合タンパク質を粒子に化学結合させる方法が挙げられる。一般的に担持されるタンパク質の量は、用いる不溶性担体粒子の表面積、官能基量等により適宜決定することができる。
【0025】
本発明方法において使用することのできる標識化パートナーとして、前記基質がADAMTS13の切断により遊離する基質断片側において、他の物質により認識されうる配列又は構造を有している場合、これを認識することができる性質を有しているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、抗体若しくはその断片[例えば、Fab’,scFv,V−ドメインプロテイン(domain Proteins)等]又はアフィボディ(Affibody)、アプタマー等が挙げられる。抗体を使用する場合、前記抗体は、他の物質により認識されうる配列又は構造を有しているものにより適宜選択することができ、予めヒト、マウス、ウサギ、ラット、ヤギ、ヒツジなどに基質又はその断片を免疫して得られた抗血清、アフィニティー精製されたポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体などを利用することができる。
【0026】
本発明方法における使用することのできる標識化パートナーで、基質がADAMTS13で切断されて生じるネオアンチゲンと特異的に結合可能な物質であるものは、これを認識することができる性質を有しているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、抗体若しくはその断片(例えば、Fab’,scFv,V−ドメインプロテイン等)又はアフィボディ、アプタマー等が挙げられる。標識化パートナーとして抗体を使用する場合、前記抗体は、使用する基質により適宜選択することができ、予めヒト、マウス、ウサギ、ラット、ヤギ、ヒツジなどに基質又はその断片を免疫して得られた抗血清、アフィニティー精製されたポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体などを利用することができる。
【0027】
本発明においてはパートナーへ標識する場合、ADAMTS13による切断部位とは異なる部位に標識物質を結合させる。標識化基質(好ましくは酵素標識基質)又は標識化パートナー(好ましくは酵素標識パートナー物質、特には酵素標識抗体)の調製方法は周知であり、任意の方法を選択することができる。
【0028】
本発明で用いる標識物質としては、公知の各種標識物質を用いることができ、例えば、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋わさびペルオキシターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、ルシフェラーゼなど)、蛍光物質(例えば、フルオレッセイン誘導体、ローダミン誘導体など)、時間分解蛍光測定が可能な希土類若しくは希土類錯体(例えば、ユーロピウム、ユーロピウム錯体など)、化学発光物質(例えば、アクリジニウムエステル等)、ラジオアイソトープ(例えば、125I、H、14C、32Pなど)、発色物質[例えば、パラニトロアニリン(pNA)]を用いることができる。すなわち、発色、蛍光、時間分解蛍光、化学発光、電気化学発光、放射活性等を測定する方法を用いることができる。
【0029】
標識物質由来のシグナル強度の変化を検出する手段としては、標識物質の種類及び測定機器の特性によって適宜選択され、周知の方法、例えば、比色法、蛍光法、又は発光法などを利用することができる。例えば、標識物質としてペルオキシダーゼを用いた場合、ルミノールを基質として化学発光法で検出することも可能で、特に微量測定に好適である(例えば、田中弘一郎、石川榮治:西洋ワサビペルオキシダーゼを標識とする酵素免疫測定法における蛍光法と発光法の比較、臨床検査機器・試薬、11:567−569,1988)。また、標識物質としてアルカリホスファターゼを用いた場合、ジオキセタン系基質であるAMPPD[3-(2’-spiroadamantane)-4-methoxy-4-(3”phosphoroxy)phenyl-1,2-dioxetane]、CDP−StarTM[1,2-dioxetane(トロピックス社)]等の公知基質を用いると、より好感度に検出することができるため、好ましい。
【0030】
以下、本発明の分析方法について、実施態様毎に、具体的な測定手順を示すことにより、更に詳細に説明する。
【0031】
本発明の分析方法の一態様である、基質がADAMTS13の切断により遊離する基質断片側において、他の物質により認識されうる配列又は構造を有しており、これを認識することができる標識化パートナーを用いる態様では、以下の工程に限定されるものではないが、例えば、
(A1)ADAMTS13を含有する可能性のある被検試料と、他の物質により認識されうる配列又は構造を末端に有している基質とを、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類の存在下にて液中で接触させる工程、
(A2)前記液と不溶性担体と標識化パートナーとを混合し、更に不溶性担体とこれ以外の液とを分離する工程、並びに
(A3)切断されずに不溶性担体に捕捉される基質、及び/又は、切断を受けて不溶性担体に捕捉されずに遊離した液中の基質断片を分析する工程
を含むことができる。
前記工程(A2)で用いる前記不溶性担体には、前記基質の前記末端を特異的に認識するパートナーが担持されている。また、前記工程(A2)で用いる前記標識化パートナーは、前記基質のもう一方の末端を特異的に認識することができるパートナーを標識化したものである。
【0032】
前記工程(A1)で用いる基質は、他の物質により認識されうる配列又は構造を末端に有している基質である。この基質は、ADAMTS13の特異的切断部位を有しており、この切断部位とは明らかに異なる基質の両末端側が他の物質により認識されうる配列又は構造を有している。工程(A1)において、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類と、前記基質と、被検試料とを同時に接触させると、ADAMTS13が通常、基質単体で遊離している場合よりも、より効率的に特異的切断部位で基質を切断することができる。また、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類と、前記基質とを予め混合させておき、カチオン性水溶性多糖類と基質との複合体を形成させておき、これにADAMTS13を含有する被検試料を接触させると、更に効率的に特異的切断部位で基質を切断することができる。本工程を通してADAMTS13と基質との接触時間は特に限定されるものではないが、本発明方法では、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類を添加することにより、望ましい反応性(ADAMTS13が健常人血中に存在する量の数%に相当する量を検出することができる)を保有した上で、非常に短時間、例えば、20分以内、好ましくは3分〜15分の接触時間での測定を可能とさせる。
【0033】
前記工程(A2)では、前記工程(A1)を実施した後に、ADAMTS13の酵素活性により切断された基質断片、及び切断されなかった基質のそれぞれが、他の物質により認識されうる配列又は構造を少なくとも片側の末端に有しているため、前記末端を特異的に認識するパートナーを担持する不溶性担体へ結合しうる。不溶性担体に結合した未切断基質は、標識化パートナーが認識可能な末端を有するため、更に、標識化パートナーが結合している。一方、不溶性担体に結合した切断基質断片は、標識化パートナーが認識可能な末端を有しないため、標識化パートナーは結合していない。それ以外の画分(すなわち、遊離している基質断片及び被検試料を含む液画分)は、工程(A2)で分離される。この分離操作は、常法により実施することができ、例えば、不溶性担体として磁性粒子を用いる場合には、例えば、磁石を使用することにより、あるいは、遠心操作により分離することができる。不溶性担体としてラテックス粒子を用いる場合には、例えば、遠心操作又は濾過により分離することができる。次の工程(A3)で不溶性担体に含まれる標識物質を分析する場合には、前記分離後に不溶性担体を洗浄することにより、遊離基質断片を充分に除去することが好ましい。
【0034】
前記工程(A3)では、切断されずに不溶性担体に捕捉される基質、若しくは、切断を受けて不溶性担体に捕捉されずに遊離した液中の基質断片、又はその両方を分析することができる。
切断を受けて不溶性担体に捕捉されずに遊離した液中の基質断片を分析する場合には、遊離基質断片を認識しうる標識化パートナーに含まれる標識物質の量を測定することにより、遊離基質断片の量を決定することができ、更に、例えば、検量線を作成することにより、被検試料中に含有されるADAMTS13の量又は活性を決定することができる。被検試料中にADAMTS13が含まれる場合、その酵素量又は活性が高いほど、分析に持ち込まれる標識物質が増加することとなる。
一方、不溶性担体に切断されずに捕捉される基質を分析する場合、結合している標識化パートナーに含まれる標識物質の量を測定することにより、切断されなかった基質の量を決定することができ、更に、例えば、検量線を作成することにより、被検試料中に含有されるADAMTS13の量又は活性を決定することができる。被検試料中にADAMTS13が含まれる場合、その酵素量又は活性が高いほど、分析に持ち込まれる標識物質が減少することとなる。
【0035】
本発明の分析方法の一態様である、基質が標識物質で直接標識化されている態様では、以下の工程に限定されるものではないが、例えば、
(B1)ADAMTS13を含有する可能性のある被検試料と、標識化された基質とを、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類の存在下にて液中で接触させる工程、
(B2)前記液と不溶性担体とを混合し、更に不溶性担体とこれ以外の液を分離する工程、並びに
(B3)切断されずに不溶性担体に捕捉される基質、及び/又は、切断を受けて不溶性担体に捕捉されずに遊離した液中の基質断片を分析する工程
を含む。
前記工程(B2)で用いる前記不溶性担体には、前記基質の標識化された末端と反対側の末端を特異的に認識するパートナーが担持されている。
【0036】
前記工程(B1)で用いる基質は、末端を標識物質で標識された基質である。この基質はADAMTS13の特異的切断部位を有しており、片方が標識物質で標識され、もう片方が他の物質により認識されうる配列又は構造を有している。工程(B1)において、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類と、前記基質と、被検試料とを同時に接触させると、ADAMTS13が通常、基質単体で遊離している場合よりも、より効率的に特異的切断部位で基質を切断することができる。また、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類と、前記基質とを予め混合させておき、カチオン性水溶性多糖類と基質の複合体を形成させておき、これにADAMTS13を含有する被検試料を接触させると、更に効率的に特異的切断部位で基質を切断することができる。本工程を通してADAMTS13と基質との接触時間は特に限定されるものではないが、本発明方法では、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類を添加することにより、望ましい反応性(ADAMTS13が健常人血中に存在する量の数%に相当する量を検出することができる)を保有した上で、非常に短時間、例えば、20分以内、好ましくは3分〜15分の接触時間での測定を可能とさせる。
【0037】
前記工程(B2)では、前記工程(B1)を実施した後に、ADAMTS13の酵素活性により切断された基質断片、及び切断されなかった基質のそれぞれが、他の物質により認識されうる配列又は構造を少なくとも片側の末端(すなわち、標識化された末端と反対側の末端)に有しているため、前記末端を特異的に認識するパートナーを担持する不溶性担体へ結合しうる。また、切断されずに不溶性担体へ結合した基質は、片方の末端が標識物質で標識されている。それ以外の画分(すなわち、遊離している基質断片及び被検試料を含む液画分)は、工程(B2)で分離される。この分離操作は、常法により実施することができ、例えば、不溶性担体として磁性粒子を用いる場合には、例えば、磁石を使用することにより、あるいは、遠心操作により分離することができる。不溶性担体としてラテックス粒子を用いる場合には、例えば、遠心操作又は濾過により分離することができる。次の工程(B3)で不溶性担体に含まれる標識物質を分析する場合には、前記分離後に不溶性担体を洗浄することにより、遊離基質断片を充分に除去することが好ましい。
【0038】
前記工程(B3)では、切断されずに不溶性担体に捕捉される基質、若しくは、切断を受けて不溶性担体に捕捉されずに遊離した液中の基質断片、又はその両方を分析することができる。
切断を受けて不溶性担体に捕捉されずに遊離した液中の基質断片を分析する場合には、遊離基質断片に含まれる標識物質の量を測定することにより、遊離基質断片の量を決定することができ、更に、例えば、検量線を作成することにより、被検試料中に含有されるADAMTS13の量又は活性を決定することができる。被検試料中にADAMTS13が含まれる場合、その酵素量又は活性が高いほど、分析に持ち込まれる標識物質が増加することとなる。
一方、不溶性担体に切断されずに捕捉される基質を分析する場合、片方の末端に標識化された標識物質の量を測定することにより、切断されなかった基質の量を決定することができ、更に、例えば、検量線を作成することにより、被検試料中に含有されるADAMTS13の量又は活性を決定することができる。被検試料中にADAMTS13が含まれる場合、その酵素量又は活性が高いほど、分析に持ち込まれる標識物質が減少することとなる。
【0039】
本発明の分析方法の一態様である、ADAMTS13で切断されて生じる基質のネオアンチゲンと特異的に結合し、且つ、標識物質で標識されている標識化パートナーを用いる態様では、以下の工程に限定されるものではないが、例えば、
(C1)ADAMTS13を含有する可能性のある被検試料と、他の物質により認識されうる配列又は構造を末端に有している基質とを、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類の存在下にて液中で接触させる工程、
(C2)前記液と不溶性担体と前記標識化パートナーとを混合し、更に不溶性担体とこれ以外の液とを分離する工程、並びに
(C3)切断されずに不溶性担体に捕捉される基質、及び/又は、切断を受けて不溶性担体に捕捉されずに遊離した液中の基質断片を分析する工程
を含むことができる。前記工程(C2)で用いる前記不溶性担体には、切断後の基質断片におけるネオアンチゲンとは反対側の末端を特異的に認識するパートナーが担持されている。
【0040】
本明細書において「ネオアンチゲン」とは、基質が分解酵素による切断を受けることにより新しく生じる配列又は構造を意味し、切断を受けたアミノ酸配列のN末端側若しくはC末端側、又はその両方において適宜実施することが可能である。
【0041】
例えば、(C2)の工程で標識化パートナーは、基質がADAMTS13で切断されて生じるネオアンチゲンと特異的に結合するため、酵素切断前の基質とは結合せず、ADAMTS13自身の酵素反応は、標識化パートナーの存在の有無と無関係に進行する。ここで、切断部位との反対側に他の物質により認識されうる配列又は構造を有しており、これを認識することができる物質を不溶性担体に結合させておけば、基質断片と標識化パートナー(好ましくは標識化抗体)との複合体(好ましくは免疫複合体)を不溶性担体に捕捉することができる。
【0042】
この態様における工程(C3)では、不溶性担体に捕捉された切断基質断片に特異的に結合した標識化パートナーの標識物質の量を測定することにより、切断された基質の量を決定することができ、更に、例えば、検量線を作成することにより、被検試料中に含有される分析対象酵素の量又は活性を決定することができる。被検試料中にADAMTS13が含まれる場合、その酵素量又は活性が高いほど、分析に持ち込まれる標識物質が増加することとなる。
【0043】
本発明の分析用キットは、少なくとも、フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断可能な基質と、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類とを含み、標識物質及び検出系などに応じて、例えば、基質、洗浄液、検体希釈液、及び/又は反応増幅剤を更に含むことができる。例えば、第一試薬に基質、第二試薬に基質を捕捉しうる固定化担体、第三試薬に標識化パートナー、第四試薬に標識物質の信号を発現させる物質を含ませることができる。具体的には、例えば、
第一試薬:基質及び水溶性ポリマーを含む溶液
第二試薬:基質を捕捉しうる表面処理が施された磁性粒子など
第三試薬:切断断片を特異的に認識する、あるいは基質を認識しうる標識化抗体など(例えば、標識をアルカリホスファターゼ)
第四試薬:化学発光用基質(例えば、AMPPD)
からなる試薬構成を挙げることができ、標識物質、検出系により、適宜組成を変更し、種々の構成とすることが可能である。
【0044】
各試薬添加後の混合は充分に行う必要があるが、均一に混合された後は混合を止め放置して反応させてもよい。反応は通常pH5〜10、好ましくはpH6〜8にて行う。温度については、通常2〜50℃の範囲で実施可能であるが、望ましくは室温あるいは30〜45℃で反応させる。反応時間は、反応直後から1昼夜まで任意であるが、本発明では水溶性高分子ポリマーを添加することにより、望ましい反応性(ADAMTS13が健常人血中に存在する量の数%に相当する量を検出できる)を保有した上で非常に短時間の測定を(基質と被検試料との接触時間として20分以内、測定全てに必要な時間として30分以内)実現することができる。
【0045】
目的のpHを維持するために、通常緩衝液が用いられる。緩衝液としては、例えば、トリス(Tris)、MES(2-Morpholinoethansulphonic Acid)、リン酸等が用いられるが、弱酸性から中性で常用される殆どの緩衝液が使用可能である。多くの場合、非特異反応を避けるために、塩類(例えば、塩化ナトリウム等)及びタンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン等)が添加される。また、ADAMTS13の酵素活性発現に必須の2価金属イオン(例えば、カルシウム、バリウムなど)を含み、更にはメタロプロテアーゼ以外の酵素活性を阻害する薬剤などを添加してもよい。これ以外にも免疫反応を増感する目的で添加物などを加えることも可能である。
【0046】
不溶性磁性粒子は、反応液に対して通常0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.3重量%、酵素標識抗体等は反応液に対して通常0.00001〜10mAbs、好ましくは0.01〜1mAbsとなるように使用される。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1:SDS−アガロースゲル電気泳動によるADAMTS13酵素活性の測定におけるDEAE−デキストランの効果》
ADAMTS13を含む正常ヒトプール血漿及びその希釈系列を、トリス緩衝液(pH7.4;1.5mol/L尿素及び0.1mol/L塩化バリウム含有)と等量混合し、更に終濃度2.4mmol/Lとなるように4−[2−アミノエチル]−ベンゼンスルホニルフルオリド塩酸塩(4-[2-Aminoethyl]-benzenesulfonyl fluoride, hydrochloride;Pefabloc;Roche社)を添加した。このように処理したサンプル溶液を、vWF(非特許文献3に記載の方法により、ヒト血漿から精製したもの)3μg/mL及びDEAE−デキストラン[Diethylaminoethyl-Dextran(GEヘルスケアバイオサイエンス社)](終濃度0.1%又は0.2%)含有トリス緩衝液(pH7.4、1.5mol/L尿素)と1:5の容量比で混合し、37℃で2時間インキュベーションし、vWFをサンプル溶液中のADAMTS13で分解した。なお、本実施例で使用したDEAE−デキストランは、平均分子量500,000で、N含有量は約3.2%であり、この値からおおよそグルコース3個に対して陽イオン性を発揮する置換基が1個導入されているものに相当する。分解反応は、終濃度40mmol/LとなるようにEDTAを添加することにより停止させた。このように調製したサンプルを非還元下のSDS−アガロースゲル電気泳動(1.4%アガロースゲル)にて分離後、ウエスタンブロット法にて、PVDF(polyvinylidene difluoride)膜にトランスファーした。市販のブロッキング剤(ブロックエース;大日本製薬)で室温にてブロッキングした後、トリス緩衝液(pH7.4)で洗浄した。トリス緩衝液(pH7.4)/10%ブロックエースで1/1000希釈したHRP(horseradish peroxidase)標識抗vWF抗体(DAKO社)にて1時間室温で反応させた後、トリス緩衝液(pH7.4)で3回洗浄後、市販の発色キット(イムノステインHRP−1000;コニカ社)にて発色した。
【0048】
電気泳動の結果を図1に示す。図1に示す各レーンのNHP(Normal human plasma:正常ヒトプール血漿)と数値は、正常ヒトプール血漿を1(=100%)とした場合の、正常ヒトプール血漿及びその希釈系列に含まれるプール血漿の含有割合である。サンプル中のADAMTS13によりvWFが分解され、そのマルチマーサイズに準じたvWFバンドの長さとなって検出されている。ここで、DEAE−デキストランを添加した場合(0.1%及び0.2%)においては、これを添加しない場合(コントロール;記号「ctrl」)と比べて著しく、vWFマルチマーが分解し、そのvWFバンドの長さが極端に短くなることが明らかとなった。
【0049】
《実施例2:DEAE−デキストランとvWFの相互作用解析》
実施例1にて使用したvWF及びDEAE−デキストランの相互作用を観測するとともにその解離定数を測定した。測定にあたっては、BIACORE J(ビアコア社)を使用した。
【0050】
vWFの固定化はセンサーチップCM5(ビアコア社)に対して行った。固定化方法は、CMデキストラン中のカルボキシル基をNHS(N-hydroxysuccinimide)/EDC[1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride]混合液により活性化させ、vWF中のアミノ基と結合させるアミンカップリング法で行った。ここでvWFのチップへの固定化量は、約1000RU(Resonance Unit)=1ng/mmとした。
【0051】
次に、vWF固定化チップを用い、DEAE−デキストランとの相互作用測定を行った。測定に使用するランニング緩衝液として、 5mmol/L Bis−トリス(pH6)/20mmol/L CaCl/0.01%Tween20を含むものを使用した。このランニング緩衝液にDEAE−デキストランを、それぞれ数〜数十μg/mL程度の濃度になるように溶解し、流速30μL/minでvWFとDEAE−デキストランの相互作用を測定した。DEAE−デキストランとvWFの相互作用結果を図2に示す。結合相は0〜180sec 、解離相は180〜360secである。ここで相互作用させるDEAE−デキストランの濃度依存性が得られ、ここから得られた相互作用曲線を、解析プログラムBIAevaluation version 3.0(ビアコア社)を用い、線形あるいは非線形解析を行った。その結果算出されたDEAE−デキストランとvWFの解離定数は、3.21×10−9mol/Lであった。
【0052】
この解離定数から、実施例1又は実施例3において基質とDEAE−デキストランを共存させた条件下においては基質とDEAE−デキストランは複合体を形成しうることが判明した。この結果により、DEAE−デキストランを添加した場合に得られた切断亢進効果は基質とDEAE−デキストランが複合体を形成した際にADAMTS13に切断されやすいフォームが形成されることが推察される。
【0053】
《実施例3:DEAE−デキストラン存在下でのADAMTS13活性の自動化測定》
(1)基質の調製
ADAMTS13の基質として、vWFの部分断片(第1596番〜第1668番のアミノ酸からなる断片。以下、vWF73と称する)を、Koichi Kokame, Masanori Matsumoto, Yoshihiro Fujimura, and Toshiyuki Miyata, VWF73, a region from D1596 to R1668 of von Willebrand factor, provides a minimal substrate for ADAMTS-13. Blood, Jan 2004; 103: 607 - 612に記載の方法に従って、調製した。ここにおいて、実際のアッセイに使用したものは73アミノ酸のN末端にグルタチオンS−トランスフェラーゼ(以下、GSTと称する)、そしてC末端に6XHisを導入したもの(以下、GST−vWF73−Hと称する)を用いた。
【0054】
(2)磁性粒子への抗体の結合
2.4μmの粒径の磁性ラテックス(JSR製)の1%溶液と抗GST抗体(GEヘルスケアバイオサイエンス社)(約200μg)とを、50mmol/L MES緩衝液(pH6)中で室温にて1時間反応させ、前記緩衝液で洗浄後、0.3%ウシアルブミン/0.1mol/Lトリス緩衝液(pH8)によるブロッキングを行い、抗GST抗体結合磁性粒子を調製した。
【0055】
(3)ADAMTS13活性の測定
小型自動免疫測定装置(PATHFAST;三菱化学ヤトロン社製)を用いて測定を行った。詳細には、健常ヒト血漿の希釈サンプル60μLとGST−vWF73−Hを1mAbs及びDEAE−デキストラン(0.05%、0.1%、0.2%、0.4%)及びプロテアーゼインヒビターカクテル(Complete Mini EDTA-free;Roche社)を適量含む緩衝液[5mmol/L Bis−トリス(pH6)/20mmol/L CaCl/0.01%Tween20/0.5%ウシ血清アルブミン(シグマ社):以下反応緩衝液と称する]50μLを37℃で3.3分間反応させた。ここに更に(2)で調製した抗GST抗体結合磁性粒子が前記反応緩衝液に0.03%懸濁された溶液60μLを加え、37℃で2.5分間反応させた。ここに更にHRP標識抗6XHi抗体(Roche社)が前記反応緩衝液に1/500希釈された溶液60μLを加え、37℃で4分間反応させた。0.1mol/Lトリス緩衝液(pH8)/0.15mol/L NaCL/0.1%トリトン(Triton)X−100で磁性粒子を洗浄した後、ケミルミネッセンス基質溶液[ELISA Femto Maximum Sensitivity Substrate(PIERCE社)溶液]100μLを混合し、37℃で2分間反応させ、発光量をカウントした。ブランクとして、56℃で非動化処理しADAMTS13活性を失活させた健常ヒト血漿を使用した。
【0056】
結果を図3に示す。この態様においては、その酵素量又は活性が高いほど分析に持ち込まれる標識物質が減少することとなる。ここでは、ブランク(56℃で非動化処理血漿サンプル)の発光カウント(S)と血漿サンプルを使用した場合の発光カウント(N)との比(S/N)をとることによって切断を受けた基質の量、すなわち、酵素活性の度合いを比較した。DEAE−デキストランを添加した場合(特には0.1%及び0.2%)においては、これを添加しない場合(ctrl)と比べて、前記比において10倍以上の増加を認めた。これは先の結果と同様、DEAE−デキストランとGST−vWF73−Hが複合体を形成した際にADAMTS13に切断されやすいフォームを形成し、GST−vWF73−Hが効率よく切断された結果によるものと思われた。
【0057】
(4)各種デキストラン添加条件下におけるADAMTS13活性の測定
前記実施例3(3)で実施したADAMTS13活性の測定と同一条件下で、DEAE−デキストランの代わりに、デキストラン又はデキストラン硫酸を含む条件下で測定を行った。結果を図4に示す。図4に示すように、前記と同様ブランクの発光カウント(S)と血漿サンプルを使用した場合の発光カウント(N)との比(S/N)を比較したところ、デキストラン及びデキストラン硫酸はその酵素活性の増加を認めるものではなかった。また、実施例2と同一条件下で行ったBIACOREによる測定においても、デキストラン及びデキストラン硫酸はvWF固定化チップに相互作用することを認めなかった。
【0058】
(5)ADAMTS13活性測定(公知法との相関)
DEAE−デキストラン存在下での自動化活性測定[小型自動免疫測定装置(PATHFAST;三菱化学ヤトロン社製)]がADAMTS13活性の測定として特異的であることを検証するために。前記方法にてADAMTS13活性測定値が15〜75%(健常ヒトプール血漿を100%とした)に分布する臨床検体を測定し、既存法により算出された値との整合性を比較検討した。既存のADAMTS13活性測定法としてはFRETS−vWF73[(株)ペプチド研究所(非特許文献4)]を使用した。
【0059】
結果を図5及び図6に示す。この態様においてはその酵素量又は活性が高いほど分析に持ち込まれる標識物質が減少することとなる。健常ヒト血漿の希釈系列を調製し、これを測定することにより臨床検体を定量するための標準曲線を作成した(図5)。この標準曲線を用い、臨床検体を測定することにより得られた発光カウントを健常ヒトプール血漿が100%としたときの%表示に算出し直し、臨床検体のADAMTS13活性測定値とした。この結果、既存法と極めて良好な相関係数(r=0.884)となり、本法において測定されたものがADAMTS13活性として特異的であると考えられた(図6及び表1)。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の分析方法は、臨床診断検査の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】DEAE−デキストラン存在下又は非存在下において、ADAMTS13で分解した組換えvWFの電気泳動の結果を示す、図面に代わる写真である。
【図2】ビアコアシステムで測定した、DEAE−デキストランとvWFとの相互作用の結果を示すグラフである。
【図3】小型自動免疫測定装置(PATHFAST;三菱化学ヤトロン社製)を用いて、DEAE−デキストラン存在下でのADAMTS13活性を測定した結果を示すグラフである。
【図4】ADAMTS13活性向上効果について、DEAE−デキストランと、デキストラン又はデキストラン硫酸とを比較した結果を示すグラフである。
【図5】小型自動免疫測定装置(PATHFAST;三菱化学ヤトロン社製)を用いて作成した標準曲線を示すグラフである。
【図6】小型自動免疫測定装置(PATHFAST;三菱化学ヤトロン社製)の測定結果と既存法による測定結果との相関関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断可能な基質を用いるフォンヴィルブランド因子分解酵素の分析方法において、被検試料と前記基質との液中での接触を、基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類の存在下で実施することを特徴とする、フォンヴィルブランド因子分解酵素の分析方法。
【請求項2】
前記カチオン性水溶性多糖類が、グルコースを構成単位とする多糖類である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記カチオン性水溶性多糖類が、グルコースを構成単位とし、カチオン性を発揮する官能基として第3級アミノ基及び/又は第四級アンモニウム基を有する多糖類である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項4】
前記カチオン性水溶性多糖類が、DEAE−デキストランである、請求項1に記載の分析方法。
【請求項5】
前記分析を全自動分析装置を用いて実施する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項6】
前記基質がフォンヴィルブランド因子分解酵素により切断されて生じる基質断片、及び/又は、未切断の基質を、捕捉することのできる不溶性担体を使用する、1〜5のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項7】
不溶性担体が粒子である、請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
粒子がラテックス粒子又は磁性粒子である、請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
前記基質が、フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断され遊離する基質断片側において標識物質で標識されているか、あるいは、特異的に認識されうるアミノ酸配列を有している、請求項6〜8のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項10】
標識物質が、蛍光物質、発光物質、発色物質、又は酵素である、請求項9に記載の分析方法。
【請求項11】
前記基質がフォンヴィルブランド因子分解酵素により切断されて生じるネオアンチゲンと特異的に結合するパートナーを使用する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項12】
(1)フォンヴィルブランド因子分解酵素により切断可能な基質と、(2)基質と相互作用し、複合体を形成可能なカチオン性水溶性多糖類とを含むことを特徴とする、フォンヴィルブランド因子分解酵素の分析用キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−131908(P2008−131908A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321075(P2006−321075)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000138277)株式会社三菱化学ヤトロン (30)
【Fターム(参考)】