説明

フコイダン含量の測定方法及びフコイダン含有食品

【課題】食品中または食品素材中のフコイダン原料の種類とフコイダン含有比を特定する方法を見出すことで、食品中もしくは食品素材中のフコイダン含量を測定する方法を実現する。
【解決手段】フコースを含有するフコイダンの含量を測定する方法であり、まずフコイダン原料種を、フコイダンを構成する糖の種類と割合、フコイダンの分子量、または特異的に識別する物質を用いて特定するとともに、フコイダン原料種のフコース量を測定しフコイダン原料種に特有のフコイダンに対するフコースの含有量に基づき予め知られているフコイダン変換係数と、フコイダン原料種中のフコース量に基づいてフコイダン含量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコイダン含量の測定方法に関し、さらに該測定方法で測定されているフコイダン含有食品に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
水生生物由来の生理活性物質としてフコイダンが知られている。フコイダンとは藻
類、棘皮動物等(以下、「フコイダン原料」という)に含まれている硫酸化フコース
含有多糖であり、硫酸化フコースを構成糖として含むものである。
【0003】
フコイダンは、抗血液凝固活性、抗腫瘍活性、血中コレステロール低下活性、抗ウィルス活性、抗HIV活性、血圧上昇抑制活性、抗アレルギー活性などの効果を有し、健康志向食品および/または該素材としての用途開発が期待されている。
【0004】
これらの効果を目的とした各種のフコイダン含有健康食品が製造、販売され、さらにはフコイダンの健康イメージを訴求した海草利用食品及び食品素材が数多く市販されている(特許文献1の海藻を原料とする飲料用食品の製造方法参照)。
【特許文献1】特開2003−259844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モズクなどのフコイダンを含有する海草を利用する食品については、原材料の海草に塩蔵、凍結、加熱などの処理を施すと、その組織に損傷を生じやすく、そのような損傷の生じた原材料を水洗した場合、フコイダンは水溶性が高いため、フコイダンが流出してしまう。このため、最終製品中に含有されるフコイダンの量は原料である海草等に比べてかなり少ない量になってしまう。しかも、その減少の度合いも、水洗の条件により異なっており、一定ではないのが実態であった。
【0006】
このために、食品中のフコイダン量を知るためには食品でフコイダン含量を測定する必要があった。しかしながら、食品中のフコイダンを定量する方法は確立していなかった。フコイダンは、フコースを含有する多糖類の総称であり、フコイダン原料の種類が異なるとその中のフコースの構成割合(フコイダン変換係数)も異なる。
【0007】
言い換えれば、フコイダン変換係数はフコイダンの原材料別に固有であることから、フコイダン原料種が既知の場合には、食品中のフコース含量からフコイダン含量を換算し測定することが出来た。
【0008】
逆に、食品に使用されたフコイダン原料種が未知の場合は、フコイダン含量を測定することは出来なかった。また、複数種のフコイダンを使用した場合で、かつ、各フコイダンの混合比が未知の場合、或いは複数種のフコイダンの混合比が既知であっても、使用したいずれかのフコイダン原料種のフコイダン変換係数が未知の場合は、食品中もしくは食品素材中のフコイダン含量を測定することは出来なかった。
【0009】
これらの状況から、健康維持のためにフコイダンを摂取しようとしても、食べようとしている食品中に実際にどれだけの量のフコイダンが含有されているのかがわからないため、有効な摂取が出来なかった。これらの問題を解決するためにはフコイダン含量の測定方法を確立し、この測定法を用いてフコイダン含量が管理、測定されている食品を製造する必要があった。
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決することを目的とするものであり、食品中もしくは食品素材中のフコイダン含量を測定する方法を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために、フコイダン原料種とフコース量を特定し、フコイダン原料種に特有のフコイダンに対するフコースの含有率(フコイダン変換係数)と前記フコース量に基づいて、フコイダン含量を測定することを特徴とするフコイダン含量の測定方法を提供する。
【0012】
前記フコイダン原料種の特定を、フコイダンを構成する糖の種類と割合から識別して行うことが好ましい。
【0013】
前記フコイダン原料種の特定を、フコイダンの分子量の分布から識別して行うことが好ましい。
【0014】
前記フコイダン原料種の特定を、特異的に識別する物質を用いて行うことが好ましい。
【0015】
特異的に識別する物質は、抗体であることが好ましい。
【0016】
本発明は上記課題を解決するために、上記方法でフコイダンの含量が特定されていることを特徴とするフコイダン含有食品を提供する。
【0017】
フコイダン含有食品のフコイダンの原料として、オキナワモズクを利用してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るフコイダン含量の測定方法によれば、従来なしえなかった食品中または食品素材中のフコイダン原料の種類とフコイダン含有比を特定することができ、この結果、食品中もしくは食品素材中のフコイダン含量を簡単且つ正確に測定することができ、フコイダンを、多方面の加工食品等の製品への適用に供することが可能である。
【0019】
さらに、フコイダン原料としては、上述の海草や棘皮動物のみならず、精製フコイダン自体も含めることができ、これらの原料を含有する食品中または食品素材中のフコイダン原料の種類とフコイダン含有比を特定することができ、この結果、食品中もしくは食品素材中のフコイダン含量を簡単且つ正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係るフコイダン含量の測定方法を実施するための最良の形態を、以下に説明し、さらに実施例を説明する。なお、以下の使用する比率関連の用語は、説明の明確化のために以下の通り定義する。
(1)「含有率」は、「各フコイダン原材料中のフコイダン含有率」に使われている。
(2)「含有比率」は、「加工食品中の複数種のフコイダン原材料自体の含有比率」、要するに、「食品中の異なる種類のフコイダン原材料自体の含有比率」に使われている。
(3)「含有比」は、「異なるフコイダン原材料由来の異なるフコイダンの含有比」に使われている。
【0021】
(概要)
本発明に係るフコイダン含量の測定方法の基本的な原理を説明する。フコイダンを含有するフコイダン原料である海草等について、それぞれの種類毎にフコイダン中のフコースの含有率が分かっている。
【0022】
今、フコイダン中のフコースの含有パーセント(%)がK%の時、k=100/Kとすれば、フコース含量×k=フコイダン含量 となる。本明細書では、このkを「フコイダン変換係数」という。
【0023】
従って、フコイダン原料種が識別されて特定されれば、食品もしくは食品素材のフコース量を測定し、これにフコイダン変換係数を掛ければフコイダン含量を計算出来る。
【0024】
しかし、フコイダン原材料が複数種の原料から構成される複合原料であると、各フコイダン原材料由来のフコイダンの含有比を考慮しなくてはならない。このフコイダン含有比は、食品に含まれるフコイダンを分析することで特定するか、或いは食品を構成する複数のフコイダン原料自体の含有比率を特定し且つ各フコイダン原料中のフコイダンの含有率から特定することができる。以下において、食品中のフコイダン含量の測定方法を説明する。
【0025】
(フコイダン含量の測定方法)
測定方法1:
この測定方法1は、食品中のフコイダン原材料が1種(単一原料)である場合のフコイダン含量測定方法である。この測定方法1では、食品中のフコース含量を測定する。
【0026】
そして、この海草等のフコイダン原材料種毎について知られているフコイダン変換係数kと食品中のフコース含量を乗じて、食品中のフコイダン含量を求めることができる。なお、海草等のフコイダン原料種が単一であるか否かが未知の場合は、後述するフコイダン原料種の識別方法で識別して特定すればよい。
【0027】
測定方法2:
この測定方法2は、食品中のフコイダン原材料が複数種(複合原料)である場合のフコイダン含量測定方法である。この測定方法2では、測定方法1と同様に、まず食品中のフコース含量を測定する。
【0028】
そして、食品中の複数のフコイダン原料種と、フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比を特定する必要がある。複数のフコイダン原料種と、フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比の測定については、後述する。
【0029】
ここで、各フコイダン原料種毎(n=1,2・・・・,N)にフコイダンの含量(Xn)を計算してそれらを総和(ΣXn)すれば、食品中のフコイダン含量(F=ΣXn)を求めることができる。各フコイダン原料種のフコイダン含量の計算は、次の計算式により行う。
【0030】
ここで、Xn、An、kn、Rは、
[食品中の当該フコイダン原料種に由来するフコイダン量]:Xn
[食品中の当該フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比]:An
[当該フコイダン原料毎のフコインダン変換係数]:kn
[食品中のフコース含量]:R
と定義したとき、
Kn=1/knとすると、
X1 =A1/(K1×A1+K2×A2+K3×A3+・・・・・+Kn×An)×R
X2 =A2/(K1×A1+K2×A2+K3×A3+・・・・・+Kn×An)×R
X3 =A3/(K1×A1+K2×A2+K3×A3+・・・・・+Kn×An)×R



Xn =An/(K1×A1+K2×A2+K3×A3+・・・・・+Kn×An)×R
よって、
F(フコイダン含量)=ΣXn=(X1+X2+X3+・・・・+Xn)
=(A1+A2+A3+・・・+An)/(K1×A1+K2×A2+K3×A3+・・・・・+Kn×An)×R
【0031】
この式を言い換えれば、
[食品中の当該フコイダン原材料由来のフコイダン含量]=[食品中のフコイダン含量を元にした当該フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比]/[食品中のフコイダン原材料加工食品中の当該フコイダン原材料の変換係数の逆数と加工食品中のフコイダン含量を元にした各フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比を掛け合わした数値の総和]×[加工食品中のフコース含量]
となり、
[食品中のフコイダン含量]=[食品中のフコイダン含量を元にした全フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比の総和]/[加工食品中のフコイダン原材料加工食品中の当該フコイダン原材料の変換係数の逆数と加工食品中のフコイダン含量を元にした各フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比を掛け合わした数値の総和]×[食品中のフコース含量]
となる。
【0032】
なお、この計算式は、以下のように求めたものである。つまり、上記の定義より、
X1、X2・・・・Xnを求めたい食品中のフコイダン原材料別のフコイダンの量としたとき、測定により求めた食品中のフコースの量がRであり、食品中のフコイダン原材料別のフコイダンの含有比が、X1:X2:・・・:Xn=A1:A2:・・・:Anであり、食品中の各フコイダン原料種のフコイダン変換係数が、それぞれ、k1、k2、・・・、knのとき、
Kn=1/knとおくと、
R=K1X1+K2X2+・・・+KnXnより
含有比よりX1=A1b、X2=A2b、・・・、Xn=Anb(但し、bはゼロ以外の数値)とすることができ
よって、R=K1X1+K2X2+・・・+KnXn
=K1A1b+K2A2b+・・・+KnAnb
=(K1A1+K2A2+・・・+KnAn)b
よって、b=R/(K1A1+K2A2+・・・+KnAn)
よって、Xn=Anb=An/(K1A1+K2A2+・・・+KnAn)×R
となることから求められた。
【0033】
なお、上記計算式では各フコイダン原料種のフコイダン含量を求めてその総和により算出したが、食品の全体のフコイダン変換係数(これをkTと定義する。)を求めて、これを加工食品中のフコース含量に掛け合わせても食品もしくは、食品素材中の全フコイダン含量を計算できる。
【0034】
すなわち、食品に使用した複数のフコイダン原料種を特定するとともに、フコイダン原材料由来の各フコイダン種の含有比を測定し、当該フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比を求め、各比率を当該フコイダン原料種のフコイダン変換係数(フコース量よりフコイダンの量を計算出来る変換係数:K)と掛け合わせた値を得て、それらの総和(複数のフコイダン原料種について計算した値の総和)で全当該フコイダン原料種に由来するフコイダンの含有比の総和を割ることで、食品のフコース量よりフコイダン量を計算できる全体の変換係数(kT)が定まる。
【0035】
この全体の変換係数(kT)を、加工食品のフコース量に掛ければ、フコイダン含量(F)が求まる。なお、上記の定義によれば、
kT=(A1+A2+・・・+An)/(K1A1+K2A2+・・・+KnAn)
で表される。
【0036】
例えば、食品の原材料として使用したフコイダン原料種が、AとBの2種で、両者の比が、A種含量:B種含量=α:βであった場合、フコイダン変換係数がA種がa、B種がbの場合、全体の変換係数(kT)は、kT=(α+β)/(α×1/a+β×1/b)となり、ここで、加工食品のフコース含量がZの場合、求めるフコイダン含量Yは、Y=Z×K=Z×[(α+β)/(α×1/a+β×1/b)]となる。
【0037】
測定方法3:
この測定方法3は、食品中のフコイダン原料種が複数種であり、しかも複数種のフコイダン原料種の夫々のフコイダン含有率が既知の場合における食品中のフコイダン含量を測定する方法である。この測定方法3は、測定方法1と同様に、まず加工食品中のフコース含量を測定する。
【0038】
そして、食品中の複数のフコイダン原種をそれぞれ特定するとともに、食品中のそれぞれのフコイダン原料種自体の含有比率を特定する。この複数のフコイダン原料種の特定及びその含有比率の測定については、後述する。前記測定方法2では、食品中の複数のフコイダン原料種由来の複数のフコイダンをそれぞれ特定するとともに、フコイダン原材料由来の複数のフコイダンの含有比を特定したが、この測定方法3では、フコイダン原料種自体の含有比率を特定する点で異なる。
【0039】
各フコイダン原料種毎にフコイダンの含量を計算してそれらを総和すれば、食品中のフコイダン含量を求めることができる。各フコイダン種毎にフコイダンの含量を計算は、次の式により行う。
【0040】
[加工食品中の当該フコイダン原材料由来のフコイダン含量]=[当該フコイダン原材料中のフコイダン含有率]×[加工食品中の当該フコイダン原材料自体の含有比率]/[加工食品中の全フコイダン原材料加工食品中の当該フコイダン原材料の変換係数の逆数と当該フコイダン原材料中のフコイダン含有率と加工食品中の当該フコイダン原材料自体の含有比率を掛け合わした数値の総和]×[加工食品中のフコース含量]
【0041】
本発明に係るフコイダン含量の測定方法を実施するためには、次の特定または測定のためのプロセスが必要となる。
(1)加工食品中のフコース量を測定する。
(2)加工食品中のフコイダン原材料の種類を特定する。
(3)加工食品が複数種のフコイダン原材料から構成される場合(測定方法2、3)については、食品検体中の複数種の原材料由来のフコイダンの含有比を特定する。この場合、測定方法2では、加工食品に含まれるフコイダンを分析することで複数種のフコイダンの含有比を特定し、測定方法3では、加工食品を構成する複数のフコイダン原材料自体の含有比率を特定し且つ各フコイダン原材料中のフコイダンの含有率から特定する。
【0042】
(海草又はフコイダンの種類と含有比の識別)
以下において、上記(2)、(3)について、本発明者らが発明した、加工食品を構成するフコイダン原材料に含まれるフコイダンの種類とその含有比、又はフコイダン原材料種とその含有比率を特異的に識別する方法を説明する。
【0043】
第1の識別方法:
第1の識別方法は、フコイダン原料の加水分解前のフコイダンの分子量分布が海草等のフコイダン原材料種別に特有(例えば、分子量24万を示すフコイダンはイトモズクに特異的な分子量、分子量4万2千はひじきのフコイダンに特異的な分子量、分子量50万はオキナワモズクのフコイダンに特異的な分子量)である点に着目し、この特有な分子量分布をゲル濾過法で調べることで、食品中のフコイダン原材料種とフコイダン含有比を決定する方法である。
【0044】
この方法は、詳細には次のとおりである。食品検体を塩酸抽出、ろ過、エタノール沈殿により粗フコイダンを抽出する。この粗フコイダン1gを100mlの蒸留水に溶解し、1晩の透析の後、2%セチルピリジニウムクロライドを加え、生成した沈殿を遠心分離で回収した後、蒸留水で洗浄し4M塩化カルシウム100mlに溶解し、ろ過の後透析を行い精製フコイダン溶液を得た。
【0045】
この溶液の分子量分布をゲル濾過により測定し、標準品の構成比と比較することで、食品中のフコイダン原材料種とフコイダンの含有比を決定することが出来る。
【0046】
第2の識別方法:
第2の識別方法は、フコイダン原材料の構成糖の割合も、フコイダン原材料種によって特有である点に着目し、HPLC(High Performance Liquid Chromatography:高速液体クロマトグラフィ)を用いた分析またはTLC(Thin-Layer Chromatgraphy:薄層クロマトグラフィー)を用いた分析で食品中のフコイダン原材料種とフコイダン含有比を決定する方法である。
【0047】
この方法の詳細は次のとおりである。食品検体である海草粉末から塩酸抽出、ろ過、エタノール沈殿により粗フコイダンを抽出する。この粗フコイダン1gを100mlの蒸留水に溶解し、1晩の透析の後、2%セチルピリジニウムクロライドを加え、生成した沈殿を遠心分離で回収した後、蒸留水で洗浄し4M塩化カルシウム100mlに溶解し、ろ過の後透析を行い精製フコイダン溶液を得た。これを2.0Nの硫酸中で100℃で2時間の加水分解に供した。
【0048】
ここで、HPLCを利用する場合は、加水分解に供した精製フコイダンを、HPLCにより定量分析を行い、L-フコースとD-キシロース等の糖の構成比を標準品の構成比と比較する。これにより、海草等の原材料種やフコイダンの含有比を明らかにすることが出来た。ここでのHPLCは、カラム(カラム高温槽)はShimpak ISA-07(4.0 x 250 mm)を利用し、溶離液は0.1〜0.4Mホウ酸緩衝液を用い、溶離液の流速は0.6ml/minで、温度は65℃で行った。
【0049】
また、TLCを利用する場合は、加水分解に供した精製フコイダンを、TLCにより定量分析を行い、L-フコースとD-キシロース等の糖の構成比を標準品のTLCパターンと比較することで、フコイダン原材料種やフコイダン含有比を明らかにすることが出来る。
【0050】
第3の識別方法:
第3の識別方法は、複数のフコイダン原材料由来のフコイダンが混合しているような場合には、まず、各フコイダン原材料由来のフコイダンに対する特異的抗体を用いたELISA分析法等の免疫学的測定法や、フコイダン原材料由来のフコイダンに特異的レクチンを用いた測定方法により、フコイダン原材料種およびフコイダン含有比を測定する。
【0051】
第4の識別方法:
第4の識別方法は、複数の海草等由来のフコイダンが混合しているような場合について、製品に使用した個々のフコイダン原料(実際に使用する保存水洗後の原料バルク)のフコイダン含有率(%)が前もってわかっている場合は、フコイダン以外の各海草等のフコイダン原材料に特異な抗原を免役して得た、特異的抗体を使用した測定方法によりフコイダン原材料種や各フコイダン原材料の含有比率を測定し、これに、個々のフコイダン原料のフコイダン含有率(%)を掛け合わせることで、個々のフコイダン含有比を求めることは可能である。
【0052】
第5の識別方法:
第5の識別方法は、複数のフコイダン原材料由来のフコイダンが混合しているような場合について、製品に使用した個々のフコイダン原材料のフコイダン含有率(%)が前もってわかっている場合は、各フコイダン原料に対し特異的DNAの含量をPCR等の種々のDNA定量法により使用した個々のフコイダン原料の混合比(各海草の含有比率)を測定し、これに、個々のフコイダン原料のフコイダン含有率(%)を掛け合わせることでも、個々のフコイダン含有比を求めることは可能である。
【0053】
(加工食品中のフコース含量の測定)
以下において、上記(1)に挙げた、変換係数(k)に掛け合わせる加工食品中のフコース含量(R)の測定について説明する。従来、種々の添加物の存在する加工食品中では、フコースの測定は難しく、特に、他の糖や硫酸基を有する物質などが混在した場合は難しかった。
【0054】
例えば、従来フコイダンの純度の測定に使用されていたロジソン酸法(K.S.Dodgson, R.G.Price, Biochem. J., 84, 106 (1962))は、糖を塩酸で加水分解後、塩酸を除去し、エタノールを加え沈殿を遠心除去した後、BaClとロジソン酸ナトリウム溶液を加え混合し、室温暗所に置き、520nmの吸光度で測定する方法である。
【0055】
しかし、この方法では、硫酸基の量を測定するために、動物由来のコンドロイチン、海草由来のカラギーナン、無機化合物のミョウバンなど、その他多くの硫酸基を含有する食品素材も含んでしまい、加工食品中のフコイダンの測定には使用できないという問題があった。本発明に係るフコイダン含量の測定法では、以下の方法を行うことで、従来難しかった加工食品中でのフコースの測定を可能とした。
【0056】
すなわち、本発明に係るフコイダン含量の測定法では、食品を塩酸処理後に、エタノール処理、更に、ここで、次の発色過程において、フコースと同様に発色するために障害となるオリゴ糖や単糖等を含有する低分子画分を限外濾過で除外し、次いで、加水分解する。
【0057】
そして、得られたフコイダンをフコースに分解した際には、従来のフコイダンの測定に使用されているフェノール・硫酸法では、ショ糖やグルコースの混入が発色により影響するので、このフェノール・硫酸法を使用しない。本発明に係るフコイダン含量の測定法では、ショ糖やグルコースが発色せずに、この段階で、メチルペントースであるフコースの量のみが測定できるギボンズ法(Gibbons法:Gibbons, M.N.(1955)Analyst, 80, 268.)を使用する。
【0058】
このGibbons法は、システイン−硫酸法の一種である。このシステイン−硫酸法の原理は、その正確な基本反応は不明であるが、大まかには、糖と硫酸との反応により生じる物質が、システインなどのSH試薬と反応して呈色に変化するので、その呈色度から糖の定量を行うのが本法の原理である。
【0059】
特にGibbons法は、上述したようにメチルペントースの定量法の一種であるが、SH試薬として、チオグリコール酸を用いる方法である。チオグリコール酸で発色した時の吸収スペクトルの400nmと430nmにおける吸光度を測定し、差を算出し、フコースの量を計測した。これにより、加工食品中のフコースの量を把握することを可能とした。なお、ショ糖やグルコースの混入が問題ない場合は、フェノール・硫酸法を使用することも可能であった。
【0060】
以上、本発明に係るフコイダン含量の測定方法について、フコイダン原料が海草である場合を中心として説明したが、フコイダン原料は、海草や棘皮動物のみならず、精製フコイダン自体も含めることができ、これらの原料を含有する食品中または食品素材中のフコイダン原料の種類とフコイダン含有比を特定することができ、この結果、食品中もしくは食品素材中のフコイダン含量を簡単且つ正確に測定することができる。
【0061】
なお、本発明に係るフコイダン含量の測定方法の対象は、海草等のフコイダン原材料であるが、このようなフコイダン原材料を原料としたフコイダンを含有した食品としては、多くの食品類をあげることが出来る。
【0062】
一例としては、酢の物やスープやサラダ等の惣菜類、コンニャクや豆腐類、ドレッシング類、薩摩揚げや天ぷら等の練り物類、海草含有飲料等の各種飲料類、海草含有ハムやソーセージやハンバーグやミートボール等の食肉加工製品類、パンやせんべいや餅やケーキやクッキーやキャンデーやガム等、海草を粉末にしたふりかけやお茶漬け類、ジャム類、バターやチーズやヨーグルト等の乳製品類、各種缶詰、レトルト食品類、冷凍食品類、乾物等の種々の食品をあげることが出来る。さらに、この方法の対象となるのは、食品だけに限らず、化粧品や医薬品に関しても適用することが出来る。
【実施例1】
【0063】
(糖組成による識別)
実施例1として、前記識別方法2を特徴とする実施例を以下に挙げる。試験検体として、オキナワモズクのみよりなる海草粉末を作成した。この海草粉末から塩酸抽出、ろ過、エタノール沈殿により粗フコイダンを抽出した。この粗フコイダン1gを100mlの蒸留水に溶解し、1晩の透析の後、2%セチルピリジニウムクロライドを加え、生成した沈殿を遠心分離で回収した後、蒸留水で洗浄し4M塩化カルシウム100mlに溶解し、ろ過の後透析を行い精製フコイダン溶液を得た。これを2.0Nの硫酸中で100℃で2時間の加水分解に供した。
【0064】
これをHPLC(カラム、Shimpak ISA-07(4.0 x 250 mm); 溶離液、0.1〜0.4Mホウ酸緩衝液; 流速、0.6ml/min; 温度65℃)により定量分析を行ったところ、L-フコースとD-キシロースの構成比が97:3であり、他の糖がほとんど含まれないというオキナワモズクに特異的な糖組成を示すことが明らかとなった。この結果から海草粉末はオキナワモズクのみを原料としていることが確認された。
【実施例2】
【0065】
(糖組成による識別)
実施例2として、前記識別方法2と特徴とする別の実施例を以下に挙げる。海草としてひじきのみを添加した海草入りのさつま揚げに含まれるフコイダンの糖組成を実施例1と同様の方法で調べたところ、ひじき特異的な糖組成であるL-フコース:D-ガラクトース:D-グルコース:D-マンノース:D-キシロース:D-グルクロン酸が5:1:1:0.5:0.5:2を示すことが明らかとなった。この結果から使用されている海草はひじきのみであると確認された。
【実施例3】
【0066】
(抗体による原料海草の識別)
実施例3として、前記識別方法3を特徴とする実施例を以下に挙げる。白色種ウサギに1.0mgのオキナワモズク由来精製フコイダンの破砕物を(フロイント完全アジュバントとのエマルジョンとして)皮内投与し、一週間後にさらに等量のオキナワモズク由来精製フコイダンの破砕物を投与する(フロイント不完全アジュバントとのエマルジョンとして)、投与を4回繰り返した後49日後に全血を採取し、抗血清を得た。この抗血清をアフィニティークロマトにより精製を行い、抗オキナワモズク由来精製フコイダンポリクローナル抗体を得た。
【0067】
また、コンブにおいても同様に処置し抗コンブ由来精製フコイダンポリクローナル抗体を得た。ここで、フコイダン含量が20%のオキナワモズク(飲料中6重量%)とフコイダン含量が10%のコンブ(飲料中4重量%)を混ぜた海草飲料を作成し、この抗体を用いて海草飲料中のオキナワモズク由来のフコイダンの量をELISA法により測定した。
【0068】
同じく、この抗体を用いて海草飲料中のコンブ由来のフコイダンの量をELISA法により測定した。その結果、オキナワモズク及びコンブのフコイダン含有比として、オキナワモズク由来フコイダン含量:コンブ由来フコイダン含量=3:1を得ることが出来た。
【実施例4】
【0069】
実施例4として、分子量分布による識別(前記識別方法1)及び加工食品中のフコース含量測定のプロセスにより、加工食品中のフコイダン含量を測定する実施例を以下に説明する。
【0070】
第1のプロセス(分子量分布による識別):
まず、試験検体として、海草として、ひじき、オキナワモズクを原料として海草スープを作成した。前もって、これらの原料中のフコイダンを精製し、各海草中のフコイダン含量を測定することで、本海草スープが、各海草由来のフコイダンの含有比が、ひじき由来のフコイダン:オキナワモズク由来のフコイダン=20:10で、フコイダン含有量が53mgであることを確認しておいた。
【0071】
この海草スープから塩酸抽出、ろ過、エタノール沈殿により粗フコイダンを抽出した。この粗フコイダン1gを100mlの蒸留水に溶解し、1晩の透析の後、2%セチルピリジニウムクロライドを加え、生成した沈殿を遠心分離で回収した後、蒸留水で洗浄し4M塩化カルシウム100mlに溶解し、ろ過の後透析を行い精製フコイダン溶液を得た。
【0072】
ここで、分子量4万2千はひじきのフコイダンに特異的な分子量、分子量50万はオキナワモズクのフコイダンに特異的な分子量であることから、この溶液の分子量分布をゲル濾過により測定したところ、分子量4万2千を示すフコイダン量:分子量50万を示すフコイダン量=20:10であった。
【0073】
これより、検体スープ中には、ひじきのフコイダン含量:オキナワモズクのフコイダン含量=20:10の比率で各フコイダン原料中のフコイダンが含有されていたことが確認された。
【0074】
第2のプロセス(加工食品中のフコース含量測定):
上記海草スープ50mlに塩酸を0.2N HCl(最終濃度)になるように添加し、室温で攪拌しながら一晩抽出した。2,000rpm、10minで固形物を除き吸引ろ過 (ADVANTEC 5A)後、NaOHで中和(pH6〜7)し、30ml EtOHを添加し、遠心(5,000 rpm x 15 min)により沈殿を回収した。ついで、150mlの純水に溶解、限外ろ過で分子量20万以下を排除 (4℃)、1回洗った。
【0075】
2.7ml濃硫酸を添加し50mlにメスアップし、加水分解(100℃2時間)し、フコース定量を行った。フコース定量は、Gibbons法で行った。つまり、フコース標準液(1%溶液(10mg/ml))を段階希釈し、サンプルを希釈し、キャップ付試験管に標準液またはサンプルを1ml入れ(サンプルは3組ずつ用意)、氷冷下で4.5 ml 硫酸(純水:濃硫酸=1:6)を加えた。
【0076】
フタをして室温に戻し、10分ボイル後、氷冷した。チオグリコール酸(チオグリコール酸1mlを純水で希釈して30mlにしたもの。)を0.1mlずつ加えた。サンプルの内1組はチオグリコール酸の代わりに水を加えたものを作成しバックグランド値の測定に使用した。暗所で3〜24時間放置した。400nmと430nmにおける吸光度を測定し、差を算出した。測定結果として、フコース含量として、20mgを得た。
【0077】
第3のプロセス(加工食品中のフコイダンの含量の算出):
ここで、ひじきにおけるフコイダンのフコース含量は、31.4%であるので、フコイダン換算係数は、100/31.4=3.18となる。また、オキナワモズクにおけるフコイダンのフコース含量は、50.5%であるので、フコイダン換算係数は、100/50.5=1.98となる。
【0078】
そして、ひじきのフコイダン含量:オキナワモズクのフコイダン含有量=20:10であるので、全体の換算係数は、30/(1/3.18×20+1/1.98×10)=2.65となるので、本海草スープ50ml中のフコイダン含量は、20mg×2.65=53mgとなった。
【0079】
以上、本発明に係るフコイダン含量の測定方法を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のとおり本発明は、食品中のフコイダンの量を測定しその数量を正確に評価できるから、フコイダンを利用する食品の目的に応じて、フコイダンの量を正確に含有させることができ、各種飲料類、食肉加工製品類、惣菜類、冷凍食品類等、いろいろな食品への含有により、それぞれの加工食品の付加価値を高めることができる。また、本発明は健康食品、化粧品中のフコイダン含量の測定にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコイダンの含量を測定する方法であって、フコイダン原料種とフコース量を特定し、該フコイダン原料種に特有のフコイダン変換係数と前記フコース量に基づいて、フコイダン含量を測定することを特徴とするフコイダン含量の測定方法。
【請求項2】
前記原料種の特定を、フコイダンを構成する糖の種類と割合から識別して行うことを特徴とする請求項1記載のフコイダン含量の測定方法。
【請求項3】
前記原料種の特定を、フコイダンの分子量から識別して行うことを特徴とする請求項1記載のフコイダン含量の測定方法。
【請求項4】
前記原料種の特定を、特異的に識別する物質を用いて行うことを特徴とする請求項1記載のフコイダン含量の測定方法。
【請求項5】
前記特異的に識別する物質が、抗体であることを特徴とする請求項4記載のフコイダン含量の測定方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法でフコイダンの含量が特定されていることを特徴とするフコイダン含有食品。
【請求項7】
前記フコイダンの原料種がオキナワモズクであることを特徴とする請求項6記載のフコイダン含有食品。

【公開番号】特開2006−184131(P2006−184131A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378304(P2004−378304)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)
【Fターム(参考)】