フコシル化化合物の合成
フコシル化化合物を産生する能力を有する遺伝子組換え細胞を作製するための方法であって:フコースキナーゼを発現するように細胞を形質転換する工程、フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼを発現するようにその細胞を形質転換する工程、フコシルトランスフェラーゼを発現するようにその細胞を形質転換する工程、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコシル化化合物およびそれに関連する細胞を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人乳は、炭水化物、タンパク質、脂質、ホルモン、および微量栄養素の複雑な混合物から構成されており、乳児の成長に必要なすべての栄養素を提供するものである。それに加えて、人乳はいくつかの保護物質(protective agents)を含有している。免疫グロブリンの他に、人乳は、保護特性を有する様々な数多くの複合オリゴ糖類(complex oligosaccharides)を含有している。人乳オリゴ糖(HMO)画分は、主たる炭水化物成分であるラクトースに加えて、130を超える種々の複合オリゴ糖類を含んでいる。複合オリゴ糖のこの構造的多様性、およびそれらの高い存在量は、ヒトに特有のものである。対照的に、ウシ乳では、非常に少ない種類の複合オリゴ糖がごく微量見られるだけであり、従って、一般的に用いられる乳児用調合乳にはこれらのオリゴ糖が欠落している。
【0003】
臨床データから、母乳で育てられた乳児は、調合乳で育てられた乳児に比べて下痢症、呼吸器疾患、および中耳炎の発病率が低いことが示された。このような人乳の保護効果は分泌免疫グロブリンの存在に帰するものであると長い間考えられてきたが、現在では、母乳で育てられた乳児における病原体に対する主たる防御線はHMOであり得ることが認識されてきた。
【0004】
複合HMOの多くは、ルイスX(LeX)組織‐血液型抗原Gal(β1‐4)[Fuc‐(α1‐3)]GlcNAc(β1)などの細胞表面複合糖質との相同性を示し(Newburg, 2001)、これらは、多くの場合、病原体受容体として作用する。従って、細胞表面複合糖質構造を模倣して可溶性デコイを排出することにより、自然はこのように感染を予防する効率的なメカニズムを発展させた。例えば、HMOは、病原性の大腸菌(Escherichia Coli)(Cravioto et al., 1991)、コレラ菌(Vibrio Cholerae)(Coppa et al., 2006)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)(Andersson et al., 1986)、またはカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(Ruiz-Palacios et al., 2003)の毒性を激減させることができることが示され、また、大腸菌の熱安定性エンテロトキシン(Crane et al., 1994)などのトキシンを中和することができることも示された。上記の腸管における局所的効果に加えて、HMOは、体循環に進入することにより乳児における全身作用を誘発することもできる(Gnoth et al., 2001)。
【0005】
HMOは、例えばセレクチン‐白血球結合などのタンパク質‐炭水化物相互作用に影響を与えることにより、免疫反応の調節および炎症反応の低減を行うことができる(Bode, 2006、Kunz & Rudloff, 2006)。
【0006】
複合オリゴ糖は、人乳の成分の中で、ラクトースと脂肪に次いで3番目に多い成分である。これらのほぼ全ては、還元末端にラクトースを共通して有しており、非還元末端はフコースおよび/またはシアル酸で修飾されている。複合オリゴ糖は、3個〜32個の単糖から構築されており、ほとんどは1個〜15個のフコースユニットとしてフコースを含有している。従って、フコシル化オリゴ糖は、抗感染性およびプレバイオティック特性を有する生物活性食物成分として大きな可能性を示すものである。
【0007】
供与体であるグアノシン‐二リン酸活性化L‐フコース(GDP‐L‐フコース)からいくつかの受容体分子へのフコース残基の転移を触媒するフコシルトランスフェラーゼ(FucT)が、動物、植物、真菌、および細菌中で発現される(Ma et al., 2006)。これらは、フコース付加の部位に応じて分類されており、従って、α1,2、α1,3/4、およびα1,6 FucTが識別されている。HMOおよび血液型抗原の生合成を元来から担うヒトFucTの他に、いくつかの細菌FucTが報告されている。FucT活性は、そのリポ多糖(LPS)をフコース含有ルイス抗原で修飾するヒト胃病原体であるピロリ菌(Helicobacter pylori)に関するものが最もよく記録されている(Wang et al., 2000)。H.pylori感染におけるこれらのルイス抗原構造物の正確な役割は不明であるが、ホストの免疫系を回避するための分子擬態、接着、およびコロニー形成について検討されている(Bergman et al., 2006)。
【0008】
HMOは、健康増進栄養補助食品として多大な可能性を有することから、費用対効果の高い、大スケールでの生産への関心が高まっている。細菌発酵プロセスを介する生物触媒による生産は、人乳からのHMOの抽出、ならびに労力がかかり複数の保護および脱保護工程を必要とする化学合成よりも非常に有利である(Kretzschmar & Stahl, 1998)。ここ10年の間に、遺伝子組換え大腸菌による発酵、またはインビトロでの酵素転換を用いてHMOを合成する試みがいくつか報告されている(Albermann et al., 2001、Dumon et al., 2006、Dumon et al., 2001、Dumon et al., 2004、Koizumi et al., 2000)。しかし、フコシル化オリゴ糖の生産のボトルネックは、供与体であるヌクレオチド糖GDP‐フコースの入手のし難さである。この高エネルギー分子は、現在のところ、化学合成または酵素合成を介しては効率的にも高費用対効果的にも得ることができない。フコシル化化合物の生産システムを報告している刊行物の多くは、大腸菌の内在性GDP‐フコースプールに依存しているが、これは、極めて限られており、フコース含有菌体エキソ多糖類コラン酸の誘導合成に用いられるのみである(Grant et al., 1970)。
【0009】
例えば、Albermann et al. (2001)は、酵素合成に遺伝子組換え酵素を用いている。GDP‐β‐L‐フコースの合成は、GDP‐D‐マンノースをGDP‐4‐ケト‐6‐デオキシ‐D‐マンノースへ転換することで行う。これをGDP‐4‐ケト‐6‐デオキシ‐D‐マンノース3,5エピメラーゼ‐4‐レダクターゼで処理することによりGDP‐β‐L‐フコースを合成し、これを分取用HPLCで精製する。
【0010】
Koizumiおよび共同研究者らによるN‐アセチルラクトサミン(LacNAc)からLeXを合成する別の手法は、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)による補充されたGMPからのGTPの産生、GDP‐マンノースを介するGDP‐フコースの合成、および別の大腸菌株内でのピロリ菌α1,3‐FucTの過剰発現によるLacNAcのフコシル化の組み合わせを含むものであった(Koizumi et al., 2000)。この細菌カップリング(bacterial coupling)の手法では、透過処理、及びそれによる細胞の殺傷を用いる必要があったため、ここで選択された手法では、連続的な大スケールでの発酵プロセスは可能ではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
先行技術の欠点の少なくともいくつかを克服するフコシル化化合物を生産するための方法が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様は、フコシル化化合物を産生する能力を有する遺伝子組換え細胞を作製するための方法であって、該方法は、
フコースキナーゼを発現するように細胞を形質転換する工程、
フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼを発現するように上記細胞を形質転換する工程、
フコシルトランスフェラーゼを発現するように上記細胞を形質転換する工程、
を含む。
【0013】
本発明の方法によると、遺伝子組換え細胞が作製される。該細胞は、フコースキナーゼ、フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、およびフコシルトランスフェラーゼを発現するように形質転換されたものである。
【0014】
遺伝子を細胞へ導入する方法は当業者に公知である。
【0015】
好ましい一態様では、遺伝子組換え細胞は、エスケリキア属(Escherichia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ピキア属(Pichia)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、およびクリベロミセス属(Kluyveromyces)から成る群より選択される微生物である。
【0016】
本発明の好ましい一態様では、フコースキナーゼおよびフコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼの活性が、二機能性酵素中にて組み合わされる。フコースキナーゼ、フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、および/または二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする形質転換に適する遺伝子は、バクテロイデス属(Bacteroides)、レンチスファエラ属(Lentisphaera)、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、ソリバクター属(Solibacter)、アラビドプシス属(Arabidopsis)、オリザ属(Oryza)、フィスコミトレラ属(Physcomitrella)、ビチス属(Vitis)、ダニオ属(Danio)、ウシ属(Bos)、ウマ属(Equus)、マカク属(Macaca)、チンパンジー属(Pan)、ヒト属(Homo)、ラッタス属(Rattus)、ハツカネズミ属(Mus)、およびクセノプス属(Xenopus)から得ることができる。
【0017】
好適なフコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、ヘリコバクター属、エスケリキア属、エルシニア属(Yersinia)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、シゲラ属(Shigella)、クレブシエラ属(Klebsiella)、サルモネラ属(Salmonella)、バクテロイデス属、ディクチオステリウム属(Dictyostelium)、アラビドプシス属、ドロソフィラ属(Drosophila)、ヒト属、ウシ属、ハツカネズミ属、ラッタス属、ヤケイ属(Gallus)、イヌ属(Canis)、およびイノシシ属(Sus)からなる群より選択される生物から得ることができる。
【0018】
発現に用いられる遺伝子源および細胞源によっては、コドン最適化が発現の増加に有用であり得る。
【0019】
細胞の中には、フコースに対する異化経路を有するものもある。この場合、この異化経路を不活性化することが推奨される。好適な方法には、フコース‐1‐リン酸アルドラーゼ遺伝子、フコースイソメラーゼ遺伝子、およびフクロースキナーゼ遺伝子から成る群より選択される1又は複数の遺伝子を不活性化することが含まれる。
【0020】
本発明の遺伝子組換え細胞によって作製可能である好適なフコース由来化合物は、フコシルラクトース類であり、好ましくは2’‐フコシルラクトース、3‐フコシルラクトース、またはラクトジフコテトラオース(Lactodifucotetraose)である。
【0021】
本発明は、Albermann et al. (2001)に記載のGDP‐D‐マンノースを出発物質とする遺伝子組換え酵素を用いた調製的合成ではなく、フコースを出発物質とする細胞内での合成である。
【0022】
本発明のさらなる態様は、本発明の方法で得ることができる遺伝子組換え細胞である。フコシル化化合物を生産するために、本発明の遺伝子組換え細胞が、フコースおよび受容体基質を含む培地中にて適切な培養条件下で培養される。
【0023】
好適な受容体基質としては、例えば、単糖、二糖、もしくはオリゴ糖、またはペプチドが挙げられ、例えば、ラクトース、2’‐フコシルラクトース、または3‐フコシルラクトースが挙げられる。
【0024】
この生産方法によって得られる好ましいフコシル化化合物は、フコシルラクトース類であり、好ましくは2’‐フコシルラクトース、または3‐フコシルラクトース、またはラクトジフコテトラオースである。
【0025】
本願は、外部から供給されたL‐フコースからの大腸菌内における効率的なGDP‐フコース合成、従って大腸菌内におけるフコース「サルベージ経路(salvage pathway)」の確立を始めて報告するものである。しかし、この手法は、食品または医薬品業界で関心の高い、培養が容易であるその他の生物(例えば、ラクトバチルス属生物(Lactobacillus spp.))に移転することもできる。この新たに発見された経路を用いることにより、高コストかつ労力のかかるGDP‐フコース提供(インビトロ)、または内在性の高度に制御されたGDP‐フコース生合成経路(インビボ)に依存する必要なしに、2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトースに加えてオリゴ糖類の生産についてまったく新しい展望が得られる。
【0026】
いわゆる「フコースサルベージ経路」では、フコースはまず、酵素であるフコースキナーゼによってリン酸化されてフコース‐1‐リン酸となる。次に、このフコース‐1‐リン酸は、酵素であるフコース‐1‐P‐グアニリルトランスフェラーゼの作用によってGDP‐フコースへと変換される。最近、フコースキナーゼおよびL‐フコース‐1‐P‐グアニリルトランスフェラーゼの両活性を有する初めての細菌酵素Fkpが報告された(Coyne et al., 2005)。腸内細菌であるバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)は、この酵素をGDP‐フコースの産生に用いており、これは、カプセル多糖および糖タンパク質をフコース残基で修飾するように作用する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】主要な複合人乳オリゴ糖(HMO)である2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトースの構造を示す図である。
【図2】共役酵素反応によるFkp活性の測定、およびNADH酸化の測定のための光度分析のスキームを示す図である;Fkp=二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸‐グアニリルトランスフェラーゼ、PK=ピルビン酸キナーゼ、LDH=L‐乳酸デヒドロゲナーゼ、PEP=ホスホエノールピルビン酸。
【図3】共役酵素反応によるFucT活性の測定、およびNADH酸化の測定のための光度分析のスキームを示す図である;FucT=フコシルトランスフェラーゼ、PK=ピルビン酸キナーゼ、LDH=L‐乳酸デヒドロゲナーゼ、PEP=ホスホエノールピルビン酸。
【図4】誘導後のタンパク質形成を示す図である。 レーン1〜4:大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP(レーン1)、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pET‐futAco(レーン2)、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP+pETfutAco(レーン3)、および大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP+pCAW55(レーン4)からの粗抽出物中における、可溶性Fkp(105.7kDa)および/またはFutAco(49.3kDa)またはFucT2(35.9kDa)の発現; レーン5:PageRuler(商標)着色タンパク質ラダー(フェルメンタス(Fermentas),ドイツ); レーン6〜9:大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP(レーン6)、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pET‐futAco(レーン7)、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP+pETfutAco(レーン8)、および大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP+pCAW55(レーン9)からの6M尿素中に再懸濁させた細胞デブリ中における、不溶性Fkpおよび/またはFutAcoまたはFucT2の発現。
【図5】ブタノール:アセトン:酢酸:水(35:35:7:23)で発色させ、ラジオ‐TLCリーダーを用いて分析した3H‐フコースのラジオ薄層クロマトグラフィー(ラジオ‐TLC)を示す図である。
【図6】大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1からの細胞抽出物のラジオ‐TLCを示す図であり、フコースおよびフクロースおよびフクロース‐1‐リン酸を示すが、フクロース‐1‐リン酸の分解は、フクロース‐1‐リン酸アルドラーゼ遺伝子(fucA)のゲノムノックアウトにより阻害されている。
【図7】大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucPからの細胞抽出物のラジオ‐TLCを示す図であり、バクテロイデス・フラジリスからの二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼFkpによって産生されたGDP‐フコース、ならびにフコース、および分解産物フクロースおよびフクロース‐1‐リン酸の蓄積を示す。
【図8】大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoからの細胞抽出物のラジオ‐TLCを示す図であり、二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼ(Fkp)によって提供されたGDP‐フコースを介して、コドンが最適化されたヘリコバクター・ピロリのフコシルトランスフェラーゼによって産生された3‐フコシルラクトースの蓄積を示す。フコースならびに分解産物フクロースおよびフクロース‐1‐リン酸は僅かに存在するだけであり、GDP‐フコースの量は、3‐フコシルラクトースの産生によって大きく減少している。
【図9】ネガティブコントロールである大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1からの細胞溶解物のHPAED分析を示す図であり、細胞内L‐フコース、ラクトース、グリセロール、およびL‐ラムノースのピークが見られるが、フコシルラクトースは見られない。
【図10】3‐フコシルラクトースを産生する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoの細胞溶解物を示す図であり(保持時間は約11分)、L‐フコース、ラクトース、グリセロール、およびL‐ラムノースのピークが見られる。
【図11】大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pCAW55からの細胞溶解物のHPAED分析を示す図であり、2’‐フコシルラクトースの産生を示した(保持時間は約22分)。さらに、L‐フコース、ラクトース、グリセロール、およびL‐ラムノースが見られる。
【図12】図12aおよび図12bは、大腸菌JM109(DE3) ΔfucA(図12a)および大腸菌JM109(DE3) ΔfucA pCOLA‐fkp‐fucP(図12b)内でのGDP‐フコース発現の電気化学的検出によるHPLC分析を示す。
【実施例】
【0028】
本発明を、以下の限定されない実施例によりさらに説明する:
【0029】
実施例1
発現プラスミドの構築および産生株の開発
外部から供給したフコースの分解を良好に防止するためには、鍵となる異化酵素フクロース‐1‐リン酸アルドラーゼをコードするfucA遺伝子を大腸菌株BW25113のゲノムから欠失させる必要があった。fucA欠失の構築には、(Datsenko & Wanner, 2000)の方法を適用した。T7プロモーターを用いた異種遺伝子発現については、λDE3溶原化キット(ノバジェン(Novagen))を用いて、誘導性T7RNAポリメラーゼを欠失大腸菌株BW25113 ΔfucAに組み込んだ。ここで、得られた株を大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)と称した。プラスミドpCOLA‐fkp‐fucPおよびpET‐futAcoは、pCOLADuet‐1およびpETDuet‐1発現ベクター(ノバジェン)を用いて構築した。構築に用いたすべてのプライマーを表2に挙げる。遺伝子fkp(GeneBank受託番号AY849806)は、バクテロイデス・フラジリスのゲノムDNA ATCC25285Dを用い、プライマーfkp‐NcoI‐フォワードおよびfkp‐NotI‐リバースによるPCRで増幅した。大腸菌K12のfucP遺伝子(GeneBank受託番号CP000948)は、プライマーFucP‐NdeI‐フォワードおよびFucP‐XhoI‐リバースを用い、大腸菌TOP10(インビトロジェン(Invitrogen),米国)のゲノムDNAから増幅した。fkpおよびfucPの両方を、それぞれ、pCOLADuet‐1の第一および第二のマルチクローニングサイト(MCS)へ、示した制限部位を用いて挿入した。得られたプラスミドはpCOLA‐fkp‐fucPと称した。H.pyroli株26695のfutA遺伝子(GeneBank受託番号AE000511)に、大腸菌内での発現のためのコドン最適化を施し、ジェンスクリプトコーポレーション(GenScript Corporation)(ピスカタウェイ,ニュージャージー州,米国)による合成により調製した。この遺伝子を、プライマーFutAco‐NcoI‐フォワードおよびFutAco‐BamHI‐リバースを用いて増幅し、pETDuet‐1の第一のMCSへ挿入してpET‐futAcoを得た。クローン遺伝子が正しく挿入されていることを、Duetベクターマニュアル(ノバジェン)に記載の推奨プライマーpACYCDuetUP1、pET‐Upstream、DuetDOWN‐1、DuetUP2、およびT7‐Terminatorを用い、制限分析およびシークエンシングによって確認した。ヘリコバクター・ピロリ NCTC364からのα1,2‐フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子fucT2を含有するプラスミドpCAW55は、C. Albermann(シュトゥットガルト大学、微生物学研究所(Institute for Microbiology, University of Stuttgart))の寄贈によるものであり、ベクターpJOE2702に基づいている(Stumpp et al., 2000)。遺伝子fucT2は、制限部位NdeI/PstIを介して挿入され、L‐ラムノース誘導性プロモーターrhaPBADの支配下にある。大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)は、電気穿孔法により発現ベクターを持ち手形質転換を行った(Dower et al., 1988)。本研究で用いたすべての細菌株を表1に挙げる。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
実施例2
培養条件および細胞抽出物の調製
大腸菌株を、100μgmL−1のアンピシリンおよび/または50μgmL−1のカナマイシンを含有する2xYTブロス(Sambrook & Russell, 2001)10mL中に播種し、ロータリーシェーカー中で37℃にて一晩インキュベートした。翌日、適切な抗生物質を添加した新しい2xYTブロス30mLに、一晩培養物から1/100にて播種し、十分に通気しながらロータリーシェーカー中で37℃にてインキュベートした。培養物の光学密度(OD600nm)が約0.5に達した時点で、誘導因子イソプロピル‐1‐チオ‐β‐D‐ガラクトピラノシド(IPTG)および/またはL‐ラムノースを、それぞれ0.1mMおよび0.1%の濃度で添加した。この培養物を、一定の振とう下にて28℃でさらに一晩(約15時間)インキュベートした。光度活性分析のために、細胞培養物のアリコートを取り出し、細胞をペレット化し、重量/体積で5倍の50mM Tris‐HCl(pH7.5)に再懸濁させた。細胞ペレットの重量の4倍のガラスビーズを添加し、得られた懸濁液に5分間ずつ2回のボルテックス攪拌を施すと同時に、その間にさらに5分間氷上に静置した。細胞デブリを遠心分離(13,200rpm、5分間、4℃)により除去し、得られた粗抽出物を4℃で保存した。
【0033】
フコシルラクトースのインビボでの産生のために、細胞を1培養体積分のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)(Sambrook & Russell, 2001)で洗浄し、30mLの改変M9ミネラル培地中に再懸濁したが、これは、標準M9処方(Sambrook & Russell, 2001)に以下の物質:20mM L‐フコース、20mM ラクトース、0.5% グリセロール、0.5mM グアノシン、および1× GIBCO MEMビタミン溶液(100×)(インビトロジェン,米国)、を添加したものである。どの菌株が培養されているかに関わらず、すべての培養物へ誘導因子L‐ラムノース(0.1%)およびIPTG(0.1mM)の添加も行い、培養条件のばらつきを回避した。ここでも、培養物を一定の振とう下にて28℃で一晩(約15時間)インキュベートした。この培養物を遠心分離し、上清をデカントして−20℃で保存した。続いて細胞をPBSで洗浄し、蒸留水中に再懸濁し、オートクレーブによって透過処理した(100℃、5分間)。細胞デブリを除去するために、サンプルを遠心分離し(8,500rpm、30分間)、透明な細胞溶解物を−20℃で保存した。
【0034】
実施例3
SDS‐PAGE
異種タンパク質の発現を、SDS‐PAGE(Sambrook & Russell, 2001)により確認した。タンパク質抽出物を1× SDSゲルローディングバッファー中に調製し、ポリアクリルアミドゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色した。
【0035】
実施例4
酵素光度計分析
【0036】
実施例4a
Fkp活性を測定するために、ホスホエノールピルビン酸(PEP)の脱リン酸化の際にピルビン酸キナーゼ(PK)によって基質として用いられる、ATPから生じるADPの量により酵素のフコースキナーゼ活性を測定し、一方、得られたピルビン酸は次に、NADHを消費しながらL‐乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)によりL‐乳酸へ変換された。対応する反応を図2にまとめる。各1,000μLの反応を、10mMのL‐フコース、15mMのPEP、5mMのMgSO4、各々0.2mMのATPおよびNADH、ならびに各々5UのPKおよびLDHを含有する65mMのMOPSバッファー(pH7.5)中で実施した。25μLの粗抽出物の添加後、NADHのNADへの酸化を、V‐630 Bio spectrophotometer(ジャスコ社(JASCO GmbH),ドイツ)を用い、340nmの吸光度の減少によってモニタリングした。
【0037】
実施例4b
同様に、FucT活性を(図3に示すように)、PEPからピルビン酸への変換の下にてPKによってGTPへとリン酸化されたGDP(供与体GDP‐L‐フコースから)の発生によって測定した。LDHが、NADHの消費を伴うピルビン酸をL‐乳酸へ還元する最終反応を触媒した。細胞抽出物(25μL)の試験は、50mM Tris‐HClバッファー(pH7.5)中に10mM ラクトース、100μM GDP‐L‐フコース、5mM MgSO4、各々0.2mMのATPおよびNADH、ならびに各々5UのPKおよびLDHを含有する反応液1,000μL中にて行った。NADHの減少を340nmでモニタリングした。
【0038】
実施例5
オリゴ糖の検出
HPLCシステム(シマズ(Shimadzu),ドイツ)に接続したアンテックレイデン(Antec Leyden)(オランダ)製のDecade IIパルス式電気化学検出器(pulsed amperometric detector)、およびCarboPac PA20カラム(ダイオネクス(Dionex),ドイツ)を用いた高速陰イオン交換クロマトグラフィ(HPAED)でサンプルを分析した。検出器の感度は、印加パルス電位0.05‐Vにて50μAに設定した。単糖、二糖、およびオリゴ糖を、10mM 水酸化ナトリウムを用いて流速0.4mL分−1で溶出した。10mM NaOHによる30分間の定組成溶出後、カラムを200mM NaOHで20分間洗浄して保持時間を一定とし、その後10mM NaOHで20分間の再生を行った。
【0039】
実施例6
3H‐フコース供給実験
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)細胞を、ベクターpCOLADuet‐1、pETDuet‐1、pCOLA‐fkp‐fucP、およびpET‐futAcoで形質転換し、以下の菌株を作出した:
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAco
【0040】
大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1を、供給実験における空ベクターコントロールとした。次に、この3種類の菌株すべてを用いて、トリチウム標識フコース供給実験を行った。供給実験のために、20μlのL‐5,6‐3H‐フコース(40〜60Ci/mmolおよび1mCi/mL)、50mMのラクトース、および1mMのIPTGを含有する2xYT培地3mL中で細胞を培養した。用いた発現ベクターに応じて、2xYT培地には、100μgmL−1のアンピシリンおよび/または50μgmL−1のカナマイシンを添加した。3mLの大腸菌培養物を室温にて一晩インキュベートした。次に、遠心分離により細胞を回収し、培地から分離して、得られた細胞ペレットを、200μLのddH2Oに再懸濁し、5分間煮沸した。氷上にて10分間冷却した後、13,000rpmでの遠心分離を10分間施して細胞デブリを回収した。このようにして得られた大腸菌細胞上清から、それぞれ20μLの培養物をシリカゲルTLCプレート(シリカゲル60)に付与した。TLCプレートの発色には、ブタノール:アセトン:酢酸:水(35:35:7:23)から成る溶媒混合物を用いた。次に、ラジオ‐TLC分析をラジオ‐TLCリーダー(レイテスト(Raytest))を用いて実施した。非放射性参照物質のRf値の測定のために、TLCプレートにアニスアルデヒド溶液(5mL 濃H2SO4、100mL エタノール、1.5mL 酢酸、2mL アニスアルデヒド)を噴霧し、加熱した。
【0041】
実施例7
大腸菌における効率的なL‐フコースサルベージ経路の確立
フコシルトランスフェラーゼの受容体基質としてラクトースが用いられたことから、β‐ガラクトシダーゼ欠損(lacZ−)大腸菌株BW25113を選択して、急速なラクトース分解の問題を回避した(Datsenko & Wanner, 2000)。L‐フコースもまた、野生型大腸菌により、フクロースへの異性化、フクロース‐1‐リン酸へのリン酸化、並びに、それに続くフクロース‐1‐リン酸のグリセリン‐3‐リン酸及びL‐ラクトアルデヒドへの逆アルドール開裂を介して効果的に分解され得る。供給されたフコースの分解を阻止するために、フコース分解経路の鍵となる異化酵素フクロース‐1‐リン酸アルドラーゼ(FucA)をコードする遺伝子fucAを、大腸菌株BW25113のゲノムから欠失させた。得られた大腸菌株BW25113 ΔfucAは、フコースならびにラクトースを唯一の炭素源とするM9最小培地(minimal plates)上で成長することができなかった。遺伝子組換えファージλDE3による溶原化により、T7プロモーターによって作動される発現ベクターの使用に適合する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)を得た。フコースからGDP‐フコースへのヌクレオチド活性化の能力は、自然界では非常に限られており、長い間いくつかの哺乳類(ヒト、ブタ、マウス)で知られるだけであった。フコースのヌクレオチド活性化は、ここで、2つの連続する酵素反応段階によって媒介され、それぞれ、第一は、フコースキナーゼの触媒によるフコースのフコース‐1‐リン酸へのリン酸化、およびこれに続くグアニリルトランスフェラーゼの触媒によるフコース‐1‐リン酸のGDP‐フコースへの変換である。哺乳類の場合、フコースサルベージ経路は2つの別個の酵素触媒反応を含むが、最近発見された細菌および植物のタンパク質は、両方の酵素活性を有する。大腸菌内におけるヒトフコースキナーゼの異種発現は、ほとんど検出されない活性が得られただけであった(Hinderlich et al., 2002)。生化学的研究から、哺乳類フコキナーゼは、高度に制御された酵素であることが示された(Park et al., 1998)。最近発見されたB.flagilisのFkp酵素がフコースの活性化により適しているかどうかを試験し、かつ大腸菌内でのフコシル化オリゴ糖の合成のために効率的にGDP‐フコースを提供するために、本発明者らは、B.fragilisのゲノムDNAからの遺伝子を増幅し、これを異種発現のために細菌発現ベクター中へクローニングした。
【0042】
2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトースの合成のために、以下のフコシルトランスフェラーゼを共発現のために選択した:α1,3‐フコシルトランスフェラーゼをコードするH.pylori 26695のfutA遺伝子(Appelmelk et al., 1999)、およびH.pylori NCTC364のα1,2’‐フコシルトランスフェラーゼ遺伝子fucT2(Albermann et al., 2001)。クローニングプロセスを始める前に、futAのコドン使用頻度を大腸菌内での発現のために最適化し、次に、この遺伝子をジェンスクリプトコーポレーション(米国)によって合成した。得られた遺伝子futAcoを発現ベクターpETDuet‐1中へ挿入し、FkpおよびFucPの共発現の存在下および非存在下にて発現の試験を行った。標準的な誘導条件を用いて、Fkp、FucP、およびFutAco、またはFucT2を共発現させた。IPTGおよび/またはL‐ラムノースによる誘導の後、タンパク質形成をSDS‐PAGEで測定し(図4参照)、顕著なFkpタンパク質の可溶性産物が示された一方、膜に局在化するフコースパーミアーゼタンパク質(FucP)の誘導は、予想通り、SDS‐PAGEによって細胞原形質中では検出することができなかった。しかし、futAcoおよびfucT2の遺伝子産物は、僅かに少量の可溶性画分が検出可能であっただけで、主として封入体中に局在化されていることが示された。
【0043】
実施例8
酵素活性の光度検出
誘導培養物由来の粗抽出物に、上述の共役酵素分析法において補助酵素(auxiliary enzymes)を用いることで、フコースキナーゼおよびフコシルトランスフェラーゼ活性についての試験を施した。明らかに、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)内にてNADHオキシダーゼおよび/またはホスファターゼ活性のバックグランドが大きく、これが、再現性のない結果、ならびに種々の菌株におけるフコースキナーゼおよびフコシルトランスフェラーゼ活性の測定値が低いことの原因であった。従って、酵素活性は、細胞内産物の形成(GDP‐フコースおよびフコシルラクトース)をモニタリングすることで測定することとした。
【0044】
実施例9
遺伝子組換え大腸菌によるGDP‐フコースおよび3‐フコシルラクトース産生のための外部から供給された3H‐L‐フコースの利用についての試験
本実験は、バクテロイデス・フラジリスからのフコースサルベージ経路二機能性酵素Fkpによる、フコースおよびラクトースからGDP‐フコース産生を介する3‐フコシルラクトース産生の確認を目的としたものである。ネガティブコントロール大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1、さらには、Fkpおよびフコースパーミアーゼを発現する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP、ならびにFkp、フコース‐パーミアーゼ、およびα1,3‐フコシルトランスフェラーゼを発現する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoを、上述のようにして処理した。これらの菌株から得られた細胞抽出物をTLCプレートに適用し、上述のようにして発色させ、ラジオ‐TLCリーダーで分析した。加えて、3H‐標識L‐フコース標準をTLCプレートに適用し、発色させた(図5参照)。L‐フコースおよびL‐フクロース‐1‐リン酸、GDP‐L‐フコース、ならびに3‐フコシルラクトースに対する非放射性標準を、TLCおよびそれに続くアニスアルデヒド溶液による染色によって同様に分析した(データ示さず)。
【0045】
ネガティブコントロール実験の結果(図6参照)からは、フコース代謝からの第一および第二の異化段階の産物、すなわちL‐フクロース(フコースイソメラーゼによってフコースから産生)およびL‐フクロース‐1‐リン酸(フクロースキナーゼによってフクロースから産生)が示された。フコースのさらなる分解は、フクロース‐1‐リン酸のL‐ラクトアルデヒド及びジヒドロキシアセトンリン酸への逆アルドール開裂反応を触媒する酵素フクロース‐1‐リン酸アルドラーゼをコードする遺伝子fucAのノックアウトにより、実質的に阻害される。
【0046】
バクテロイデス・フラジリスからの二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼFkpを共発現する大腸菌細胞は、GDP‐フコースの産生を示し(図7参照)、GDP‐フコースは明らかに細胞内に蓄積しており、また、他の代謝経路への転換がある場合はその産物がラジオ‐TLC上に現れるはずであるため、他の代謝経路への転換はごく僅かであり得る。
【0047】
大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoからの細胞抽出物は、3‐フコシルラクトースおよびごく少量のGDP‐フコースの産生を示している(図8参照)。この結果は、この実験の最初の目的、すなわち、バクテロイデス・フラジリスからの二機能性サルベージ経路酵素Fkpによる、GDP‐フコースの供給を介した3‐フコシルラクトースの産生を示すことと一致している。また、フコシルラクトース産生におけるGDP‐フコースの消費、ならびに、それに由来する、フクロース‐1‐リン酸およびフクロースから、GDP‐フコース産生によって反応から常に引き抜かれるフコースへの反応平衡の移動に起因して、フコース分解産物であるフクロースおよびフクロース‐1‐リン酸の量も大きく減少している。
【0048】
実施例10
遺伝子組換え大腸菌による2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトース産生の試験
pCOLA‐fkp‐fucP、およびfutAcoまたはfucT2遺伝子のいずれかを別個の発現ベクター中に有する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)、ならびに空ベクターpCOLADuet‐1およびpETDuet‐1を有する大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)(ネガティブコントロール)を、2xYTブロス中で成長させ、IPTGおよび/またはL‐ラムノースを用いて、28℃にて15時間、タンパク質発現を誘導した。続いて細胞をPBSで洗浄し、L‐フコース、ラクトースおよびグアノシン、IPTG、およびL‐ラムノースを添加した改変M9培地中に再懸濁させた。発酵フェーズの後(28℃、15時間)、細胞を採取し、上清を回収し、上述のようにして細胞溶解物を調製した。
【0049】
HPAEDによる分析から、用いたHPLCカラム上での保持時間は、L‐フコース標準に対しては約3分、ラクトース標準に対しては約17分、3‐フコシルラクトース標準に対しては約11分、および用いた2’‐フコシルラクトース標準に対しては約22分であることが示された(データ示さず)。培地の一部分であり炭素源であるグリセロールは、記録された保持時間が約1.5分であり、誘導因子L‐ラムノースの保持時間は5.5分であった。いずれの物質も、細胞溶解物の分析において細胞内で検出されている。
【0050】
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1のネガティブコントロール株からの細胞溶解物は、細胞内L‐フコースおよびラクトースを示したが、予想通り、フコシルラクトースは示さなかった(図9参照)。上述の分子に加えて、培地に供給された炭素源であるグリセロールおよび転写誘導因子L‐ラムノースも、この分析で検出される。
【0051】
コドン最適化を施されたヘリコバクター・ピロリのα1,3‐フコシルトランスフェラーゼ遺伝子と合わせて、B.fragilisのfkp遺伝子および大腸菌のフコースパーミアーゼ遺伝子を共発現する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoからの細胞溶解物のHPAED分析は、3‐フコシルラクトースの細胞内産生を示した(約11分の時点のピーク、図10参照)。L‐フコースおよびラクトースもまた、グリセロールおよびL‐ラムノースと共に細胞溶解物の成分である。
【0052】
大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pCAW55からの細胞溶解物は、α1,2‐フコシルトランスフェラーゼFucT2の共発現に起因して、2’‐フコシルラクトースの細胞内産生を示した(図11参照)。さらに、ネガティブコントロール、および3‐フコシルラクトース産生大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoからの細胞溶解物とまったく同様に、L‐フコース、ラクトース、グリセロール、およびL‐ラムノースが細胞溶解物中に見られる。
【0053】
これらの結果は、明らかに、遺伝子組換え大腸菌細胞内において、外部から供給されたL‐フコースおよびラクトースから3‐フコシルラクトースおよび2’‐フコシルラクトースが産生されたことを示している。B.fragilisのFkpタンパク質の異種発現により、フコースリン酸化およびフコース‐1‐リン酸グアニリル転移の2段階反応が触媒されることで、効率的にGDP‐フコースを産生することができた。元はヘリコバクター・ピロリ由来であるコドン最適化α1,3‐フコシルトランスフェラーゼFutAco、またはヘリコバクター・ピロリ由来のα1,2‐フコシルトランスフェラーゼFucT2は、このように供給されたGDP‐フコースを、それぞれ、2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトースへと変換することができる。
【0054】
実施例11
大腸菌JM109細胞内でのGDP‐フコースの発現
Fkpの発現に起因する細胞内GDP‐フコース含有量の上昇が、プラスミドからのFkpを発現する大腸菌株およびFkpのコピーを持たない大腸菌株の平行培養によって示された。この場合、大腸菌株JM109(DE3)ΔfucAを、Fkpを持たないコントロール株として用いた。Fkpを発現する菌株は、同じ大腸菌株JM109(DE3)ΔfucAであるが、こちらはプラスミドpCOLA‐fkp‐fucPを含有し、従ってフコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼFkp、およびフコースパーミアーゼFucPをコードする遺伝子を有していた。遺伝子は、ベクターpCOLADuet‐1(ノバジェン,英国)のマルチクローニングサイト(MCS)1および2にてクローン化したが、いずれのMCSもT7プロモーター/オペレーターの5’側に隣接することから、両方の遺伝子の発現はいずれもIPTGの添加によって誘導することができる。
【0055】
両菌株共に、30mlの2YT培地中、37℃および220rpmにて2つの反復サンプルとして培養し、pCOLA‐fkp‐fucPを持つ菌株の場合は、プラスミド維持のために培地にカナマイシンを添加した。Fkp発現の誘導は、1mM IPTGの添加によってOD660=0.5から開始し、20mM フコースを両菌株に供給し、続いて37℃および220rmpにてさらに3時間培養した。細胞を遠心分離でペレット化し、5体積/重量(v/w)の蒸留水中にペレットを再懸濁した。これらの細胞懸濁液を95℃にて10分間インキュベートし、細胞を溶解した。遠心分離により細胞デブリを除去し、上清をHPLCで分析した。
【0056】
Decade IIパルス式電気化学検出器(アンテックレイデン,オランダ)を用いた電気化学的検出によってHPLC分析を実施した。CarboPac PA20カラム(ダイオネクス,米国)上にて、20mM水酸化ナトリウム+825mM酢酸ナトリウムを溶出液として用いた。GDP‐フコースは、16.0分の保持時間で溶出された。
【0057】
【表3】
【0058】
図12aは、FKPタンパク質の発現のない大腸菌JM109(DE3) ΔfucA細胞のGDP‐フコース発現についてのHPLC分析を示す。
【0059】
図12bは、フコースインポーターFucPと共にFkpタンパク質を共発現する大腸菌JM109(DE3) ΔfucA pCOLA‐fkp‐fucP細胞の分析である。真正標準で確認されるように、16.0分の時点でのピークが、GDP‐フコースに対応している。
【0060】
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【技術分野】
【0001】
本発明は、フコシル化化合物およびそれに関連する細胞を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人乳は、炭水化物、タンパク質、脂質、ホルモン、および微量栄養素の複雑な混合物から構成されており、乳児の成長に必要なすべての栄養素を提供するものである。それに加えて、人乳はいくつかの保護物質(protective agents)を含有している。免疫グロブリンの他に、人乳は、保護特性を有する様々な数多くの複合オリゴ糖類(complex oligosaccharides)を含有している。人乳オリゴ糖(HMO)画分は、主たる炭水化物成分であるラクトースに加えて、130を超える種々の複合オリゴ糖類を含んでいる。複合オリゴ糖のこの構造的多様性、およびそれらの高い存在量は、ヒトに特有のものである。対照的に、ウシ乳では、非常に少ない種類の複合オリゴ糖がごく微量見られるだけであり、従って、一般的に用いられる乳児用調合乳にはこれらのオリゴ糖が欠落している。
【0003】
臨床データから、母乳で育てられた乳児は、調合乳で育てられた乳児に比べて下痢症、呼吸器疾患、および中耳炎の発病率が低いことが示された。このような人乳の保護効果は分泌免疫グロブリンの存在に帰するものであると長い間考えられてきたが、現在では、母乳で育てられた乳児における病原体に対する主たる防御線はHMOであり得ることが認識されてきた。
【0004】
複合HMOの多くは、ルイスX(LeX)組織‐血液型抗原Gal(β1‐4)[Fuc‐(α1‐3)]GlcNAc(β1)などの細胞表面複合糖質との相同性を示し(Newburg, 2001)、これらは、多くの場合、病原体受容体として作用する。従って、細胞表面複合糖質構造を模倣して可溶性デコイを排出することにより、自然はこのように感染を予防する効率的なメカニズムを発展させた。例えば、HMOは、病原性の大腸菌(Escherichia Coli)(Cravioto et al., 1991)、コレラ菌(Vibrio Cholerae)(Coppa et al., 2006)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)(Andersson et al., 1986)、またはカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(Ruiz-Palacios et al., 2003)の毒性を激減させることができることが示され、また、大腸菌の熱安定性エンテロトキシン(Crane et al., 1994)などのトキシンを中和することができることも示された。上記の腸管における局所的効果に加えて、HMOは、体循環に進入することにより乳児における全身作用を誘発することもできる(Gnoth et al., 2001)。
【0005】
HMOは、例えばセレクチン‐白血球結合などのタンパク質‐炭水化物相互作用に影響を与えることにより、免疫反応の調節および炎症反応の低減を行うことができる(Bode, 2006、Kunz & Rudloff, 2006)。
【0006】
複合オリゴ糖は、人乳の成分の中で、ラクトースと脂肪に次いで3番目に多い成分である。これらのほぼ全ては、還元末端にラクトースを共通して有しており、非還元末端はフコースおよび/またはシアル酸で修飾されている。複合オリゴ糖は、3個〜32個の単糖から構築されており、ほとんどは1個〜15個のフコースユニットとしてフコースを含有している。従って、フコシル化オリゴ糖は、抗感染性およびプレバイオティック特性を有する生物活性食物成分として大きな可能性を示すものである。
【0007】
供与体であるグアノシン‐二リン酸活性化L‐フコース(GDP‐L‐フコース)からいくつかの受容体分子へのフコース残基の転移を触媒するフコシルトランスフェラーゼ(FucT)が、動物、植物、真菌、および細菌中で発現される(Ma et al., 2006)。これらは、フコース付加の部位に応じて分類されており、従って、α1,2、α1,3/4、およびα1,6 FucTが識別されている。HMOおよび血液型抗原の生合成を元来から担うヒトFucTの他に、いくつかの細菌FucTが報告されている。FucT活性は、そのリポ多糖(LPS)をフコース含有ルイス抗原で修飾するヒト胃病原体であるピロリ菌(Helicobacter pylori)に関するものが最もよく記録されている(Wang et al., 2000)。H.pylori感染におけるこれらのルイス抗原構造物の正確な役割は不明であるが、ホストの免疫系を回避するための分子擬態、接着、およびコロニー形成について検討されている(Bergman et al., 2006)。
【0008】
HMOは、健康増進栄養補助食品として多大な可能性を有することから、費用対効果の高い、大スケールでの生産への関心が高まっている。細菌発酵プロセスを介する生物触媒による生産は、人乳からのHMOの抽出、ならびに労力がかかり複数の保護および脱保護工程を必要とする化学合成よりも非常に有利である(Kretzschmar & Stahl, 1998)。ここ10年の間に、遺伝子組換え大腸菌による発酵、またはインビトロでの酵素転換を用いてHMOを合成する試みがいくつか報告されている(Albermann et al., 2001、Dumon et al., 2006、Dumon et al., 2001、Dumon et al., 2004、Koizumi et al., 2000)。しかし、フコシル化オリゴ糖の生産のボトルネックは、供与体であるヌクレオチド糖GDP‐フコースの入手のし難さである。この高エネルギー分子は、現在のところ、化学合成または酵素合成を介しては効率的にも高費用対効果的にも得ることができない。フコシル化化合物の生産システムを報告している刊行物の多くは、大腸菌の内在性GDP‐フコースプールに依存しているが、これは、極めて限られており、フコース含有菌体エキソ多糖類コラン酸の誘導合成に用いられるのみである(Grant et al., 1970)。
【0009】
例えば、Albermann et al. (2001)は、酵素合成に遺伝子組換え酵素を用いている。GDP‐β‐L‐フコースの合成は、GDP‐D‐マンノースをGDP‐4‐ケト‐6‐デオキシ‐D‐マンノースへ転換することで行う。これをGDP‐4‐ケト‐6‐デオキシ‐D‐マンノース3,5エピメラーゼ‐4‐レダクターゼで処理することによりGDP‐β‐L‐フコースを合成し、これを分取用HPLCで精製する。
【0010】
Koizumiおよび共同研究者らによるN‐アセチルラクトサミン(LacNAc)からLeXを合成する別の手法は、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)による補充されたGMPからのGTPの産生、GDP‐マンノースを介するGDP‐フコースの合成、および別の大腸菌株内でのピロリ菌α1,3‐FucTの過剰発現によるLacNAcのフコシル化の組み合わせを含むものであった(Koizumi et al., 2000)。この細菌カップリング(bacterial coupling)の手法では、透過処理、及びそれによる細胞の殺傷を用いる必要があったため、ここで選択された手法では、連続的な大スケールでの発酵プロセスは可能ではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
先行技術の欠点の少なくともいくつかを克服するフコシル化化合物を生産するための方法が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様は、フコシル化化合物を産生する能力を有する遺伝子組換え細胞を作製するための方法であって、該方法は、
フコースキナーゼを発現するように細胞を形質転換する工程、
フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼを発現するように上記細胞を形質転換する工程、
フコシルトランスフェラーゼを発現するように上記細胞を形質転換する工程、
を含む。
【0013】
本発明の方法によると、遺伝子組換え細胞が作製される。該細胞は、フコースキナーゼ、フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、およびフコシルトランスフェラーゼを発現するように形質転換されたものである。
【0014】
遺伝子を細胞へ導入する方法は当業者に公知である。
【0015】
好ましい一態様では、遺伝子組換え細胞は、エスケリキア属(Escherichia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ピキア属(Pichia)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、およびクリベロミセス属(Kluyveromyces)から成る群より選択される微生物である。
【0016】
本発明の好ましい一態様では、フコースキナーゼおよびフコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼの活性が、二機能性酵素中にて組み合わされる。フコースキナーゼ、フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、および/または二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする形質転換に適する遺伝子は、バクテロイデス属(Bacteroides)、レンチスファエラ属(Lentisphaera)、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、ソリバクター属(Solibacter)、アラビドプシス属(Arabidopsis)、オリザ属(Oryza)、フィスコミトレラ属(Physcomitrella)、ビチス属(Vitis)、ダニオ属(Danio)、ウシ属(Bos)、ウマ属(Equus)、マカク属(Macaca)、チンパンジー属(Pan)、ヒト属(Homo)、ラッタス属(Rattus)、ハツカネズミ属(Mus)、およびクセノプス属(Xenopus)から得ることができる。
【0017】
好適なフコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、ヘリコバクター属、エスケリキア属、エルシニア属(Yersinia)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、シゲラ属(Shigella)、クレブシエラ属(Klebsiella)、サルモネラ属(Salmonella)、バクテロイデス属、ディクチオステリウム属(Dictyostelium)、アラビドプシス属、ドロソフィラ属(Drosophila)、ヒト属、ウシ属、ハツカネズミ属、ラッタス属、ヤケイ属(Gallus)、イヌ属(Canis)、およびイノシシ属(Sus)からなる群より選択される生物から得ることができる。
【0018】
発現に用いられる遺伝子源および細胞源によっては、コドン最適化が発現の増加に有用であり得る。
【0019】
細胞の中には、フコースに対する異化経路を有するものもある。この場合、この異化経路を不活性化することが推奨される。好適な方法には、フコース‐1‐リン酸アルドラーゼ遺伝子、フコースイソメラーゼ遺伝子、およびフクロースキナーゼ遺伝子から成る群より選択される1又は複数の遺伝子を不活性化することが含まれる。
【0020】
本発明の遺伝子組換え細胞によって作製可能である好適なフコース由来化合物は、フコシルラクトース類であり、好ましくは2’‐フコシルラクトース、3‐フコシルラクトース、またはラクトジフコテトラオース(Lactodifucotetraose)である。
【0021】
本発明は、Albermann et al. (2001)に記載のGDP‐D‐マンノースを出発物質とする遺伝子組換え酵素を用いた調製的合成ではなく、フコースを出発物質とする細胞内での合成である。
【0022】
本発明のさらなる態様は、本発明の方法で得ることができる遺伝子組換え細胞である。フコシル化化合物を生産するために、本発明の遺伝子組換え細胞が、フコースおよび受容体基質を含む培地中にて適切な培養条件下で培養される。
【0023】
好適な受容体基質としては、例えば、単糖、二糖、もしくはオリゴ糖、またはペプチドが挙げられ、例えば、ラクトース、2’‐フコシルラクトース、または3‐フコシルラクトースが挙げられる。
【0024】
この生産方法によって得られる好ましいフコシル化化合物は、フコシルラクトース類であり、好ましくは2’‐フコシルラクトース、または3‐フコシルラクトース、またはラクトジフコテトラオースである。
【0025】
本願は、外部から供給されたL‐フコースからの大腸菌内における効率的なGDP‐フコース合成、従って大腸菌内におけるフコース「サルベージ経路(salvage pathway)」の確立を始めて報告するものである。しかし、この手法は、食品または医薬品業界で関心の高い、培養が容易であるその他の生物(例えば、ラクトバチルス属生物(Lactobacillus spp.))に移転することもできる。この新たに発見された経路を用いることにより、高コストかつ労力のかかるGDP‐フコース提供(インビトロ)、または内在性の高度に制御されたGDP‐フコース生合成経路(インビボ)に依存する必要なしに、2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトースに加えてオリゴ糖類の生産についてまったく新しい展望が得られる。
【0026】
いわゆる「フコースサルベージ経路」では、フコースはまず、酵素であるフコースキナーゼによってリン酸化されてフコース‐1‐リン酸となる。次に、このフコース‐1‐リン酸は、酵素であるフコース‐1‐P‐グアニリルトランスフェラーゼの作用によってGDP‐フコースへと変換される。最近、フコースキナーゼおよびL‐フコース‐1‐P‐グアニリルトランスフェラーゼの両活性を有する初めての細菌酵素Fkpが報告された(Coyne et al., 2005)。腸内細菌であるバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)は、この酵素をGDP‐フコースの産生に用いており、これは、カプセル多糖および糖タンパク質をフコース残基で修飾するように作用する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】主要な複合人乳オリゴ糖(HMO)である2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトースの構造を示す図である。
【図2】共役酵素反応によるFkp活性の測定、およびNADH酸化の測定のための光度分析のスキームを示す図である;Fkp=二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸‐グアニリルトランスフェラーゼ、PK=ピルビン酸キナーゼ、LDH=L‐乳酸デヒドロゲナーゼ、PEP=ホスホエノールピルビン酸。
【図3】共役酵素反応によるFucT活性の測定、およびNADH酸化の測定のための光度分析のスキームを示す図である;FucT=フコシルトランスフェラーゼ、PK=ピルビン酸キナーゼ、LDH=L‐乳酸デヒドロゲナーゼ、PEP=ホスホエノールピルビン酸。
【図4】誘導後のタンパク質形成を示す図である。 レーン1〜4:大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP(レーン1)、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pET‐futAco(レーン2)、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP+pETfutAco(レーン3)、および大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP+pCAW55(レーン4)からの粗抽出物中における、可溶性Fkp(105.7kDa)および/またはFutAco(49.3kDa)またはFucT2(35.9kDa)の発現; レーン5:PageRuler(商標)着色タンパク質ラダー(フェルメンタス(Fermentas),ドイツ); レーン6〜9:大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP(レーン6)、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pET‐futAco(レーン7)、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP+pETfutAco(レーン8)、および大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP+pCAW55(レーン9)からの6M尿素中に再懸濁させた細胞デブリ中における、不溶性Fkpおよび/またはFutAcoまたはFucT2の発現。
【図5】ブタノール:アセトン:酢酸:水(35:35:7:23)で発色させ、ラジオ‐TLCリーダーを用いて分析した3H‐フコースのラジオ薄層クロマトグラフィー(ラジオ‐TLC)を示す図である。
【図6】大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1からの細胞抽出物のラジオ‐TLCを示す図であり、フコースおよびフクロースおよびフクロース‐1‐リン酸を示すが、フクロース‐1‐リン酸の分解は、フクロース‐1‐リン酸アルドラーゼ遺伝子(fucA)のゲノムノックアウトにより阻害されている。
【図7】大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucPからの細胞抽出物のラジオ‐TLCを示す図であり、バクテロイデス・フラジリスからの二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼFkpによって産生されたGDP‐フコース、ならびにフコース、および分解産物フクロースおよびフクロース‐1‐リン酸の蓄積を示す。
【図8】大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoからの細胞抽出物のラジオ‐TLCを示す図であり、二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼ(Fkp)によって提供されたGDP‐フコースを介して、コドンが最適化されたヘリコバクター・ピロリのフコシルトランスフェラーゼによって産生された3‐フコシルラクトースの蓄積を示す。フコースならびに分解産物フクロースおよびフクロース‐1‐リン酸は僅かに存在するだけであり、GDP‐フコースの量は、3‐フコシルラクトースの産生によって大きく減少している。
【図9】ネガティブコントロールである大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1からの細胞溶解物のHPAED分析を示す図であり、細胞内L‐フコース、ラクトース、グリセロール、およびL‐ラムノースのピークが見られるが、フコシルラクトースは見られない。
【図10】3‐フコシルラクトースを産生する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoの細胞溶解物を示す図であり(保持時間は約11分)、L‐フコース、ラクトース、グリセロール、およびL‐ラムノースのピークが見られる。
【図11】大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pCAW55からの細胞溶解物のHPAED分析を示す図であり、2’‐フコシルラクトースの産生を示した(保持時間は約22分)。さらに、L‐フコース、ラクトース、グリセロール、およびL‐ラムノースが見られる。
【図12】図12aおよび図12bは、大腸菌JM109(DE3) ΔfucA(図12a)および大腸菌JM109(DE3) ΔfucA pCOLA‐fkp‐fucP(図12b)内でのGDP‐フコース発現の電気化学的検出によるHPLC分析を示す。
【実施例】
【0028】
本発明を、以下の限定されない実施例によりさらに説明する:
【0029】
実施例1
発現プラスミドの構築および産生株の開発
外部から供給したフコースの分解を良好に防止するためには、鍵となる異化酵素フクロース‐1‐リン酸アルドラーゼをコードするfucA遺伝子を大腸菌株BW25113のゲノムから欠失させる必要があった。fucA欠失の構築には、(Datsenko & Wanner, 2000)の方法を適用した。T7プロモーターを用いた異種遺伝子発現については、λDE3溶原化キット(ノバジェン(Novagen))を用いて、誘導性T7RNAポリメラーゼを欠失大腸菌株BW25113 ΔfucAに組み込んだ。ここで、得られた株を大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)と称した。プラスミドpCOLA‐fkp‐fucPおよびpET‐futAcoは、pCOLADuet‐1およびpETDuet‐1発現ベクター(ノバジェン)を用いて構築した。構築に用いたすべてのプライマーを表2に挙げる。遺伝子fkp(GeneBank受託番号AY849806)は、バクテロイデス・フラジリスのゲノムDNA ATCC25285Dを用い、プライマーfkp‐NcoI‐フォワードおよびfkp‐NotI‐リバースによるPCRで増幅した。大腸菌K12のfucP遺伝子(GeneBank受託番号CP000948)は、プライマーFucP‐NdeI‐フォワードおよびFucP‐XhoI‐リバースを用い、大腸菌TOP10(インビトロジェン(Invitrogen),米国)のゲノムDNAから増幅した。fkpおよびfucPの両方を、それぞれ、pCOLADuet‐1の第一および第二のマルチクローニングサイト(MCS)へ、示した制限部位を用いて挿入した。得られたプラスミドはpCOLA‐fkp‐fucPと称した。H.pyroli株26695のfutA遺伝子(GeneBank受託番号AE000511)に、大腸菌内での発現のためのコドン最適化を施し、ジェンスクリプトコーポレーション(GenScript Corporation)(ピスカタウェイ,ニュージャージー州,米国)による合成により調製した。この遺伝子を、プライマーFutAco‐NcoI‐フォワードおよびFutAco‐BamHI‐リバースを用いて増幅し、pETDuet‐1の第一のMCSへ挿入してpET‐futAcoを得た。クローン遺伝子が正しく挿入されていることを、Duetベクターマニュアル(ノバジェン)に記載の推奨プライマーpACYCDuetUP1、pET‐Upstream、DuetDOWN‐1、DuetUP2、およびT7‐Terminatorを用い、制限分析およびシークエンシングによって確認した。ヘリコバクター・ピロリ NCTC364からのα1,2‐フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子fucT2を含有するプラスミドpCAW55は、C. Albermann(シュトゥットガルト大学、微生物学研究所(Institute for Microbiology, University of Stuttgart))の寄贈によるものであり、ベクターpJOE2702に基づいている(Stumpp et al., 2000)。遺伝子fucT2は、制限部位NdeI/PstIを介して挿入され、L‐ラムノース誘導性プロモーターrhaPBADの支配下にある。大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)は、電気穿孔法により発現ベクターを持ち手形質転換を行った(Dower et al., 1988)。本研究で用いたすべての細菌株を表1に挙げる。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
実施例2
培養条件および細胞抽出物の調製
大腸菌株を、100μgmL−1のアンピシリンおよび/または50μgmL−1のカナマイシンを含有する2xYTブロス(Sambrook & Russell, 2001)10mL中に播種し、ロータリーシェーカー中で37℃にて一晩インキュベートした。翌日、適切な抗生物質を添加した新しい2xYTブロス30mLに、一晩培養物から1/100にて播種し、十分に通気しながらロータリーシェーカー中で37℃にてインキュベートした。培養物の光学密度(OD600nm)が約0.5に達した時点で、誘導因子イソプロピル‐1‐チオ‐β‐D‐ガラクトピラノシド(IPTG)および/またはL‐ラムノースを、それぞれ0.1mMおよび0.1%の濃度で添加した。この培養物を、一定の振とう下にて28℃でさらに一晩(約15時間)インキュベートした。光度活性分析のために、細胞培養物のアリコートを取り出し、細胞をペレット化し、重量/体積で5倍の50mM Tris‐HCl(pH7.5)に再懸濁させた。細胞ペレットの重量の4倍のガラスビーズを添加し、得られた懸濁液に5分間ずつ2回のボルテックス攪拌を施すと同時に、その間にさらに5分間氷上に静置した。細胞デブリを遠心分離(13,200rpm、5分間、4℃)により除去し、得られた粗抽出物を4℃で保存した。
【0033】
フコシルラクトースのインビボでの産生のために、細胞を1培養体積分のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)(Sambrook & Russell, 2001)で洗浄し、30mLの改変M9ミネラル培地中に再懸濁したが、これは、標準M9処方(Sambrook & Russell, 2001)に以下の物質:20mM L‐フコース、20mM ラクトース、0.5% グリセロール、0.5mM グアノシン、および1× GIBCO MEMビタミン溶液(100×)(インビトロジェン,米国)、を添加したものである。どの菌株が培養されているかに関わらず、すべての培養物へ誘導因子L‐ラムノース(0.1%)およびIPTG(0.1mM)の添加も行い、培養条件のばらつきを回避した。ここでも、培養物を一定の振とう下にて28℃で一晩(約15時間)インキュベートした。この培養物を遠心分離し、上清をデカントして−20℃で保存した。続いて細胞をPBSで洗浄し、蒸留水中に再懸濁し、オートクレーブによって透過処理した(100℃、5分間)。細胞デブリを除去するために、サンプルを遠心分離し(8,500rpm、30分間)、透明な細胞溶解物を−20℃で保存した。
【0034】
実施例3
SDS‐PAGE
異種タンパク質の発現を、SDS‐PAGE(Sambrook & Russell, 2001)により確認した。タンパク質抽出物を1× SDSゲルローディングバッファー中に調製し、ポリアクリルアミドゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色した。
【0035】
実施例4
酵素光度計分析
【0036】
実施例4a
Fkp活性を測定するために、ホスホエノールピルビン酸(PEP)の脱リン酸化の際にピルビン酸キナーゼ(PK)によって基質として用いられる、ATPから生じるADPの量により酵素のフコースキナーゼ活性を測定し、一方、得られたピルビン酸は次に、NADHを消費しながらL‐乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)によりL‐乳酸へ変換された。対応する反応を図2にまとめる。各1,000μLの反応を、10mMのL‐フコース、15mMのPEP、5mMのMgSO4、各々0.2mMのATPおよびNADH、ならびに各々5UのPKおよびLDHを含有する65mMのMOPSバッファー(pH7.5)中で実施した。25μLの粗抽出物の添加後、NADHのNADへの酸化を、V‐630 Bio spectrophotometer(ジャスコ社(JASCO GmbH),ドイツ)を用い、340nmの吸光度の減少によってモニタリングした。
【0037】
実施例4b
同様に、FucT活性を(図3に示すように)、PEPからピルビン酸への変換の下にてPKによってGTPへとリン酸化されたGDP(供与体GDP‐L‐フコースから)の発生によって測定した。LDHが、NADHの消費を伴うピルビン酸をL‐乳酸へ還元する最終反応を触媒した。細胞抽出物(25μL)の試験は、50mM Tris‐HClバッファー(pH7.5)中に10mM ラクトース、100μM GDP‐L‐フコース、5mM MgSO4、各々0.2mMのATPおよびNADH、ならびに各々5UのPKおよびLDHを含有する反応液1,000μL中にて行った。NADHの減少を340nmでモニタリングした。
【0038】
実施例5
オリゴ糖の検出
HPLCシステム(シマズ(Shimadzu),ドイツ)に接続したアンテックレイデン(Antec Leyden)(オランダ)製のDecade IIパルス式電気化学検出器(pulsed amperometric detector)、およびCarboPac PA20カラム(ダイオネクス(Dionex),ドイツ)を用いた高速陰イオン交換クロマトグラフィ(HPAED)でサンプルを分析した。検出器の感度は、印加パルス電位0.05‐Vにて50μAに設定した。単糖、二糖、およびオリゴ糖を、10mM 水酸化ナトリウムを用いて流速0.4mL分−1で溶出した。10mM NaOHによる30分間の定組成溶出後、カラムを200mM NaOHで20分間洗浄して保持時間を一定とし、その後10mM NaOHで20分間の再生を行った。
【0039】
実施例6
3H‐フコース供給実験
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)細胞を、ベクターpCOLADuet‐1、pETDuet‐1、pCOLA‐fkp‐fucP、およびpET‐futAcoで形質転換し、以下の菌株を作出した:
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAco
【0040】
大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1を、供給実験における空ベクターコントロールとした。次に、この3種類の菌株すべてを用いて、トリチウム標識フコース供給実験を行った。供給実験のために、20μlのL‐5,6‐3H‐フコース(40〜60Ci/mmolおよび1mCi/mL)、50mMのラクトース、および1mMのIPTGを含有する2xYT培地3mL中で細胞を培養した。用いた発現ベクターに応じて、2xYT培地には、100μgmL−1のアンピシリンおよび/または50μgmL−1のカナマイシンを添加した。3mLの大腸菌培養物を室温にて一晩インキュベートした。次に、遠心分離により細胞を回収し、培地から分離して、得られた細胞ペレットを、200μLのddH2Oに再懸濁し、5分間煮沸した。氷上にて10分間冷却した後、13,000rpmでの遠心分離を10分間施して細胞デブリを回収した。このようにして得られた大腸菌細胞上清から、それぞれ20μLの培養物をシリカゲルTLCプレート(シリカゲル60)に付与した。TLCプレートの発色には、ブタノール:アセトン:酢酸:水(35:35:7:23)から成る溶媒混合物を用いた。次に、ラジオ‐TLC分析をラジオ‐TLCリーダー(レイテスト(Raytest))を用いて実施した。非放射性参照物質のRf値の測定のために、TLCプレートにアニスアルデヒド溶液(5mL 濃H2SO4、100mL エタノール、1.5mL 酢酸、2mL アニスアルデヒド)を噴霧し、加熱した。
【0041】
実施例7
大腸菌における効率的なL‐フコースサルベージ経路の確立
フコシルトランスフェラーゼの受容体基質としてラクトースが用いられたことから、β‐ガラクトシダーゼ欠損(lacZ−)大腸菌株BW25113を選択して、急速なラクトース分解の問題を回避した(Datsenko & Wanner, 2000)。L‐フコースもまた、野生型大腸菌により、フクロースへの異性化、フクロース‐1‐リン酸へのリン酸化、並びに、それに続くフクロース‐1‐リン酸のグリセリン‐3‐リン酸及びL‐ラクトアルデヒドへの逆アルドール開裂を介して効果的に分解され得る。供給されたフコースの分解を阻止するために、フコース分解経路の鍵となる異化酵素フクロース‐1‐リン酸アルドラーゼ(FucA)をコードする遺伝子fucAを、大腸菌株BW25113のゲノムから欠失させた。得られた大腸菌株BW25113 ΔfucAは、フコースならびにラクトースを唯一の炭素源とするM9最小培地(minimal plates)上で成長することができなかった。遺伝子組換えファージλDE3による溶原化により、T7プロモーターによって作動される発現ベクターの使用に適合する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)を得た。フコースからGDP‐フコースへのヌクレオチド活性化の能力は、自然界では非常に限られており、長い間いくつかの哺乳類(ヒト、ブタ、マウス)で知られるだけであった。フコースのヌクレオチド活性化は、ここで、2つの連続する酵素反応段階によって媒介され、それぞれ、第一は、フコースキナーゼの触媒によるフコースのフコース‐1‐リン酸へのリン酸化、およびこれに続くグアニリルトランスフェラーゼの触媒によるフコース‐1‐リン酸のGDP‐フコースへの変換である。哺乳類の場合、フコースサルベージ経路は2つの別個の酵素触媒反応を含むが、最近発見された細菌および植物のタンパク質は、両方の酵素活性を有する。大腸菌内におけるヒトフコースキナーゼの異種発現は、ほとんど検出されない活性が得られただけであった(Hinderlich et al., 2002)。生化学的研究から、哺乳類フコキナーゼは、高度に制御された酵素であることが示された(Park et al., 1998)。最近発見されたB.flagilisのFkp酵素がフコースの活性化により適しているかどうかを試験し、かつ大腸菌内でのフコシル化オリゴ糖の合成のために効率的にGDP‐フコースを提供するために、本発明者らは、B.fragilisのゲノムDNAからの遺伝子を増幅し、これを異種発現のために細菌発現ベクター中へクローニングした。
【0042】
2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトースの合成のために、以下のフコシルトランスフェラーゼを共発現のために選択した:α1,3‐フコシルトランスフェラーゼをコードするH.pylori 26695のfutA遺伝子(Appelmelk et al., 1999)、およびH.pylori NCTC364のα1,2’‐フコシルトランスフェラーゼ遺伝子fucT2(Albermann et al., 2001)。クローニングプロセスを始める前に、futAのコドン使用頻度を大腸菌内での発現のために最適化し、次に、この遺伝子をジェンスクリプトコーポレーション(米国)によって合成した。得られた遺伝子futAcoを発現ベクターpETDuet‐1中へ挿入し、FkpおよびFucPの共発現の存在下および非存在下にて発現の試験を行った。標準的な誘導条件を用いて、Fkp、FucP、およびFutAco、またはFucT2を共発現させた。IPTGおよび/またはL‐ラムノースによる誘導の後、タンパク質形成をSDS‐PAGEで測定し(図4参照)、顕著なFkpタンパク質の可溶性産物が示された一方、膜に局在化するフコースパーミアーゼタンパク質(FucP)の誘導は、予想通り、SDS‐PAGEによって細胞原形質中では検出することができなかった。しかし、futAcoおよびfucT2の遺伝子産物は、僅かに少量の可溶性画分が検出可能であっただけで、主として封入体中に局在化されていることが示された。
【0043】
実施例8
酵素活性の光度検出
誘導培養物由来の粗抽出物に、上述の共役酵素分析法において補助酵素(auxiliary enzymes)を用いることで、フコースキナーゼおよびフコシルトランスフェラーゼ活性についての試験を施した。明らかに、大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)内にてNADHオキシダーゼおよび/またはホスファターゼ活性のバックグランドが大きく、これが、再現性のない結果、ならびに種々の菌株におけるフコースキナーゼおよびフコシルトランスフェラーゼ活性の測定値が低いことの原因であった。従って、酵素活性は、細胞内産物の形成(GDP‐フコースおよびフコシルラクトース)をモニタリングすることで測定することとした。
【0044】
実施例9
遺伝子組換え大腸菌によるGDP‐フコースおよび3‐フコシルラクトース産生のための外部から供給された3H‐L‐フコースの利用についての試験
本実験は、バクテロイデス・フラジリスからのフコースサルベージ経路二機能性酵素Fkpによる、フコースおよびラクトースからGDP‐フコース産生を介する3‐フコシルラクトース産生の確認を目的としたものである。ネガティブコントロール大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1、さらには、Fkpおよびフコースパーミアーゼを発現する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP、ならびにFkp、フコース‐パーミアーゼ、およびα1,3‐フコシルトランスフェラーゼを発現する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoを、上述のようにして処理した。これらの菌株から得られた細胞抽出物をTLCプレートに適用し、上述のようにして発色させ、ラジオ‐TLCリーダーで分析した。加えて、3H‐標識L‐フコース標準をTLCプレートに適用し、発色させた(図5参照)。L‐フコースおよびL‐フクロース‐1‐リン酸、GDP‐L‐フコース、ならびに3‐フコシルラクトースに対する非放射性標準を、TLCおよびそれに続くアニスアルデヒド溶液による染色によって同様に分析した(データ示さず)。
【0045】
ネガティブコントロール実験の結果(図6参照)からは、フコース代謝からの第一および第二の異化段階の産物、すなわちL‐フクロース(フコースイソメラーゼによってフコースから産生)およびL‐フクロース‐1‐リン酸(フクロースキナーゼによってフクロースから産生)が示された。フコースのさらなる分解は、フクロース‐1‐リン酸のL‐ラクトアルデヒド及びジヒドロキシアセトンリン酸への逆アルドール開裂反応を触媒する酵素フクロース‐1‐リン酸アルドラーゼをコードする遺伝子fucAのノックアウトにより、実質的に阻害される。
【0046】
バクテロイデス・フラジリスからの二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼFkpを共発現する大腸菌細胞は、GDP‐フコースの産生を示し(図7参照)、GDP‐フコースは明らかに細胞内に蓄積しており、また、他の代謝経路への転換がある場合はその産物がラジオ‐TLC上に現れるはずであるため、他の代謝経路への転換はごく僅かであり得る。
【0047】
大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoからの細胞抽出物は、3‐フコシルラクトースおよびごく少量のGDP‐フコースの産生を示している(図8参照)。この結果は、この実験の最初の目的、すなわち、バクテロイデス・フラジリスからの二機能性サルベージ経路酵素Fkpによる、GDP‐フコースの供給を介した3‐フコシルラクトースの産生を示すことと一致している。また、フコシルラクトース産生におけるGDP‐フコースの消費、ならびに、それに由来する、フクロース‐1‐リン酸およびフクロースから、GDP‐フコース産生によって反応から常に引き抜かれるフコースへの反応平衡の移動に起因して、フコース分解産物であるフクロースおよびフクロース‐1‐リン酸の量も大きく減少している。
【0048】
実施例10
遺伝子組換え大腸菌による2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトース産生の試験
pCOLA‐fkp‐fucP、およびfutAcoまたはfucT2遺伝子のいずれかを別個の発現ベクター中に有する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)、ならびに空ベクターpCOLADuet‐1およびpETDuet‐1を有する大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)(ネガティブコントロール)を、2xYTブロス中で成長させ、IPTGおよび/またはL‐ラムノースを用いて、28℃にて15時間、タンパク質発現を誘導した。続いて細胞をPBSで洗浄し、L‐フコース、ラクトースおよびグアノシン、IPTG、およびL‐ラムノースを添加した改変M9培地中に再懸濁させた。発酵フェーズの後(28℃、15時間)、細胞を採取し、上清を回収し、上述のようにして細胞溶解物を調製した。
【0049】
HPAEDによる分析から、用いたHPLCカラム上での保持時間は、L‐フコース標準に対しては約3分、ラクトース標準に対しては約17分、3‐フコシルラクトース標準に対しては約11分、および用いた2’‐フコシルラクトース標準に対しては約22分であることが示された(データ示さず)。培地の一部分であり炭素源であるグリセロールは、記録された保持時間が約1.5分であり、誘導因子L‐ラムノースの保持時間は5.5分であった。いずれの物質も、細胞溶解物の分析において細胞内で検出されている。
【0050】
大腸菌BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLADuet‐1 pETDuet‐1のネガティブコントロール株からの細胞溶解物は、細胞内L‐フコースおよびラクトースを示したが、予想通り、フコシルラクトースは示さなかった(図9参照)。上述の分子に加えて、培地に供給された炭素源であるグリセロールおよび転写誘導因子L‐ラムノースも、この分析で検出される。
【0051】
コドン最適化を施されたヘリコバクター・ピロリのα1,3‐フコシルトランスフェラーゼ遺伝子と合わせて、B.fragilisのfkp遺伝子および大腸菌のフコースパーミアーゼ遺伝子を共発現する大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoからの細胞溶解物のHPAED分析は、3‐フコシルラクトースの細胞内産生を示した(約11分の時点のピーク、図10参照)。L‐フコースおよびラクトースもまた、グリセロールおよびL‐ラムノースと共に細胞溶解物の成分である。
【0052】
大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pCAW55からの細胞溶解物は、α1,2‐フコシルトランスフェラーゼFucT2の共発現に起因して、2’‐フコシルラクトースの細胞内産生を示した(図11参照)。さらに、ネガティブコントロール、および3‐フコシルラクトース産生大腸菌株BW25113 ΔfucA(DE3)pCOLA‐fkp‐fucP pET‐futAcoからの細胞溶解物とまったく同様に、L‐フコース、ラクトース、グリセロール、およびL‐ラムノースが細胞溶解物中に見られる。
【0053】
これらの結果は、明らかに、遺伝子組換え大腸菌細胞内において、外部から供給されたL‐フコースおよびラクトースから3‐フコシルラクトースおよび2’‐フコシルラクトースが産生されたことを示している。B.fragilisのFkpタンパク質の異種発現により、フコースリン酸化およびフコース‐1‐リン酸グアニリル転移の2段階反応が触媒されることで、効率的にGDP‐フコースを産生することができた。元はヘリコバクター・ピロリ由来であるコドン最適化α1,3‐フコシルトランスフェラーゼFutAco、またはヘリコバクター・ピロリ由来のα1,2‐フコシルトランスフェラーゼFucT2は、このように供給されたGDP‐フコースを、それぞれ、2’‐フコシルラクトースおよび3‐フコシルラクトースへと変換することができる。
【0054】
実施例11
大腸菌JM109細胞内でのGDP‐フコースの発現
Fkpの発現に起因する細胞内GDP‐フコース含有量の上昇が、プラスミドからのFkpを発現する大腸菌株およびFkpのコピーを持たない大腸菌株の平行培養によって示された。この場合、大腸菌株JM109(DE3)ΔfucAを、Fkpを持たないコントロール株として用いた。Fkpを発現する菌株は、同じ大腸菌株JM109(DE3)ΔfucAであるが、こちらはプラスミドpCOLA‐fkp‐fucPを含有し、従ってフコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼFkp、およびフコースパーミアーゼFucPをコードする遺伝子を有していた。遺伝子は、ベクターpCOLADuet‐1(ノバジェン,英国)のマルチクローニングサイト(MCS)1および2にてクローン化したが、いずれのMCSもT7プロモーター/オペレーターの5’側に隣接することから、両方の遺伝子の発現はいずれもIPTGの添加によって誘導することができる。
【0055】
両菌株共に、30mlの2YT培地中、37℃および220rpmにて2つの反復サンプルとして培養し、pCOLA‐fkp‐fucPを持つ菌株の場合は、プラスミド維持のために培地にカナマイシンを添加した。Fkp発現の誘導は、1mM IPTGの添加によってOD660=0.5から開始し、20mM フコースを両菌株に供給し、続いて37℃および220rmpにてさらに3時間培養した。細胞を遠心分離でペレット化し、5体積/重量(v/w)の蒸留水中にペレットを再懸濁した。これらの細胞懸濁液を95℃にて10分間インキュベートし、細胞を溶解した。遠心分離により細胞デブリを除去し、上清をHPLCで分析した。
【0056】
Decade IIパルス式電気化学検出器(アンテックレイデン,オランダ)を用いた電気化学的検出によってHPLC分析を実施した。CarboPac PA20カラム(ダイオネクス,米国)上にて、20mM水酸化ナトリウム+825mM酢酸ナトリウムを溶出液として用いた。GDP‐フコースは、16.0分の保持時間で溶出された。
【0057】
【表3】
【0058】
図12aは、FKPタンパク質の発現のない大腸菌JM109(DE3) ΔfucA細胞のGDP‐フコース発現についてのHPLC分析を示す。
【0059】
図12bは、フコースインポーターFucPと共にFkpタンパク質を共発現する大腸菌JM109(DE3) ΔfucA pCOLA‐fkp‐fucP細胞の分析である。真正標準で確認されるように、16.0分の時点でのピークが、GDP‐フコースに対応している。
【0060】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコシル化化合物を産生する能力を有する遺伝子組換え細胞を作製するための方法であって、
フコースキナーゼを発現するように前記細胞を形質転換する工程、
フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼを発現するように前記細胞を形質転換する工程、
フコシルトランスフェラーゼを発現するように前記細胞を形質転換する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記遺伝子組換え細胞が、Escherichia属、Klebsiella属、Helicobacter属、Bacillus属、Lactobacillus属、Streptococcus属、Lactococcus属、Pichia属、Sacchromyces属、およびKluyveromyces属から成る群より選択される微生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フコースキナーゼおよび前記フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼが、二機能性酵素として組み合わされている、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼが、Bacteroides属、Lentisphaera属、Ruminococcus属、Solibacter属、Arabidopsis属、Oryza属、Physcomitrella属、Vitis属、Danio属、Bos属、Equus属、Macaca属、Pan属、Homo属、Rattus属、Mus属、およびXenopus属から成る群より得られる二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記フコシルトランスフェラーゼが、Helicobacter属、Escherihia属、Yersinia属、Enterococcus属、Shigella属、Klebsiella属、Salmonella属、Bacteroides属、Dictyostelium属、Arabidopsis属、Drosophila属、Homo属、Bos属、Mus属、Rattus属、Gallus属、Canis属、およびSus属から成る群より選択される生物から得られる、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞のフコースに対する異化経路が不活性化される、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
フコースに対する前記異化経路の不活性化が、フコース‐1‐リン酸アルドラーゼ遺伝子、フコースイソメラーゼ遺伝子、およびフクロースキナーゼ遺伝子から成る群より選択される1もしくは複数の遺伝子を不活性化することによって行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フコシル化化合物が、フコシルラクトースであり、好ましくは2’‐フコシルラクトース、3‐フコシルラクトース、またはラクトジフコテトラオースである、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の方法で得られる、遺伝子組換え細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞を、フコースおよび受容体基質を含む培地中にて適切な培養条件下で培養する工程を含む、フコシル化化合物を作製するための方法。
【請求項11】
前記受容体基質が、単糖、二糖、もしくはオリゴ糖、またはペプチドである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記受容体基質が、ラクトース、2’‐フコシルラクトース、または3‐フコシルラクトースである、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記フコシル化化合物が、フコシルラクトースであり、好ましくは2’‐フコシルラクトース、または3‐フコシルラクトース、またはラクトジフコテトラオースである、請求項10〜請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
フコシル化化合物を産生する能力を有する遺伝子組換え細胞を作製するための方法であって、
フコースキナーゼを発現するように前記細胞を形質転換する工程、
フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼを発現するように前記細胞を形質転換する工程、
フコシルトランスフェラーゼを発現するように前記細胞を形質転換する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記遺伝子組換え細胞が、Escherichia属、Klebsiella属、Helicobacter属、Bacillus属、Lactobacillus属、Streptococcus属、Lactococcus属、Pichia属、Sacchromyces属、およびKluyveromyces属から成る群より選択される微生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フコースキナーゼおよび前記フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼが、二機能性酵素として組み合わされている、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼが、Bacteroides属、Lentisphaera属、Ruminococcus属、Solibacter属、Arabidopsis属、Oryza属、Physcomitrella属、Vitis属、Danio属、Bos属、Equus属、Macaca属、Pan属、Homo属、Rattus属、Mus属、およびXenopus属から成る群より得られる二機能性フコースキナーゼ/フコース‐1‐リン酸グアニリルトランスフェラーゼから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記フコシルトランスフェラーゼが、Helicobacter属、Escherihia属、Yersinia属、Enterococcus属、Shigella属、Klebsiella属、Salmonella属、Bacteroides属、Dictyostelium属、Arabidopsis属、Drosophila属、Homo属、Bos属、Mus属、Rattus属、Gallus属、Canis属、およびSus属から成る群より選択される生物から得られる、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞のフコースに対する異化経路が不活性化される、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
フコースに対する前記異化経路の不活性化が、フコース‐1‐リン酸アルドラーゼ遺伝子、フコースイソメラーゼ遺伝子、およびフクロースキナーゼ遺伝子から成る群より選択される1もしくは複数の遺伝子を不活性化することによって行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フコシル化化合物が、フコシルラクトースであり、好ましくは2’‐フコシルラクトース、3‐フコシルラクトース、またはラクトジフコテトラオースである、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の方法で得られる、遺伝子組換え細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞を、フコースおよび受容体基質を含む培地中にて適切な培養条件下で培養する工程を含む、フコシル化化合物を作製するための方法。
【請求項11】
前記受容体基質が、単糖、二糖、もしくはオリゴ糖、またはペプチドである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記受容体基質が、ラクトース、2’‐フコシルラクトース、または3‐フコシルラクトースである、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記フコシル化化合物が、フコシルラクトースであり、好ましくは2’‐フコシルラクトース、または3‐フコシルラクトース、またはラクトジフコテトラオースである、請求項10〜請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【公表番号】特表2012−512643(P2012−512643A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541476(P2011−541476)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067531
【国際公開番号】WO2010/070104
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511149751)イェネヴァイン ビオテヒノロギー ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067531
【国際公開番号】WO2010/070104
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511149751)イェネヴァイン ビオテヒノロギー ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】
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