フジツボ種判定用プライマーセットとこれを利用したフジツボ幼生の種判定方法及び定量方法
【課題】北方海域に存在し得る北方系フジツボであるミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボについて、ノープリウス幼生期及びキプリス幼生期のフジツボの種を簡易且つ高精度に判定する。その個体数を定量的に分析する。
【解決手段】各種フジツボの12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識するプライマー対を用いて被験試料をPCRし、被験試料の遺伝子増幅の有無により被験試料に存在しているフジツボ幼生の種を判定するようにした。また、各種フジツボの12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識するプライマー対を用いて被験試料をリアルタイムPCRすることによりCt値を得て、フジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対し上記プライマー対を用いてリアルタイムPCRを行うことによりフジツボ幼生種の個体数とCt値との関係を調べて予め作成された検量線を利用することによって、被験試料に存在するフジツボ幼生種の個体数の定量を行うようにした。
【解決手段】各種フジツボの12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識するプライマー対を用いて被験試料をPCRし、被験試料の遺伝子増幅の有無により被験試料に存在しているフジツボ幼生の種を判定するようにした。また、各種フジツボの12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識するプライマー対を用いて被験試料をリアルタイムPCRすることによりCt値を得て、フジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対し上記プライマー対を用いてリアルタイムPCRを行うことによりフジツボ幼生種の個体数とCt値との関係を調べて予め作成された検量線を利用することによって、被験試料に存在するフジツボ幼生種の個体数の定量を行うようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フジツボ種判定用プライマーセットとこれを利用したフジツボ幼生の種判定方法及び定量方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、複数種のプランクトンが多数存在する海水域から採集した被験試料に含まれる北方系フジツボ(ミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボ)幼生の種を判定し、その個体数の定量を行うのに好適なフジツボ種判定用プライマーセットとこれを利用したフジツボ幼生の種判定方法及び定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボは、海洋構築物や火力・原子力発電所の冷却水路系、船舶、魚網等へ付着することにより生物汚損を引き起こす代表的汚損生物として知られている。例えば、火力・原子力発電所の冷却水路系にフジツボが付着すると、流動抵抗の増大により冷却水の流量が低下し、復水器の冷却効率が低下してしまう。また、復水器管内にフジツボが付着したり、剥がれたフジツボが詰まることにより管壁の腐食が生じる。そこで、各発電所では、付着したフジツボを機械的に除去したり、フジツボの付着を抑制するための様々な防除対策が実施されている。
【0003】
フジツボの付着を抑制する対策としては、冷却水路系や復水器管等に防汚塗料を塗布したり、あるいは塩素を注入してフジツボ幼生の付着を防ぐ手法がとられている。しかしながら、フジツボの付着時期を正確に予測することはできないことから、結果的には長期間にわたって塩素注入を継続することによりフジツボの付着を抑制しているのが現状であり、環境負荷が非常に大きいという問題がある。したがって、環境負荷を低減し、また、防除対策のコストダウンを図るためにも、フジツボが付着する直前にピンポイントで塩素注入を行うことが好ましい。そこで、フジツボの付着時期を正確に予測する技術の確立が望まれている。
【0004】
ところで、海洋等の環境中には様々な種のフジツボが存在していることから、フジツボの付着時期を正確に予測するためには、どのような種のフジツボ幼生がどのようなタイミングで発生するのかを十分に調査する必要がある。
【0005】
フジツボの種を幼生の段階で判定する方法としては、顕微鏡観察による手法が挙げられるが、プランクトンサンプル中に存在する複数種のフジツボ幼生から形態分類学上の差異のみを頼りにフジツボ幼生の種を判定することは極めて困難である。
【0006】
そこで、付着期のフジツボ幼生の種を判定する技術として、特許文献1のような方法が提案されている。具体的には、海水から採集されたタテジマフジツボ、アメリカフジツボ、アカフジツボ、サンカクフジツボ、オオアカフジツボ、サラサフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボおよびヨーロッパフジツボを含むフジツボ種の付着期幼生(キプリス幼生)に対して、波長が400〜440nmの励起光を照射し、発光した波長475nm以上の蛍光分布パターンをデジタル画像情報としてコンピュータに入力し、この情報をコンピュータに予め登録された種に固有の体内蛍光分布パターン認識情報と比較して、これらの蛍光分布パターンがマッチングしたフジツボ類の種を判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−12467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載のフジツボ幼生の種判定方法では、成長初期段階にあるノープリウス幼生期のフジツボ種の判定を行うことができない。したがって、フジツボの付着時期の予測が遅れて付着抑制対策を確実に実行できなくなる虞がある。また、蛍光パターンが類似している種が存在する結果、種の判定を高精度に行うことができないという問題も有している。さらに、キプリス幼生が死んでしまうと、励起光を照射してもキプリス幼生からの蛍光発光が生じなくなり、種の判定ができなくなることから、キプリス幼生を生きたまま種の判定に供する必要があるという煩雑さが伴う。
【0009】
また、フジツボの付着時期を正確に予測するためには、フジツボ幼生の高精度な種判定手法と共に、その個体数を定量的に分析する手法を確立する必要がある。このことは、同一海域に存在し得るフジツボ幼生に対して特に要請される。
【0010】
そこで、本発明は、北方海域に存在し得る北方系フジツボであるミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボについて、ノープリウス幼生期及びキプリス幼生期のフジツボの種を簡易且つ高精度に判定する方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、北方海域に存在し得る北方系フジツボであるミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボについて、ノープリウス幼生期及びキプリス幼生期のフジツボの種を簡易且つ高精度に判定すると共に、その個体数を定量的に分析する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本願発明者等は、遺伝子解析技術からのアプローチにより各種フジツボを分子レベルで種々検討した。その結果、各種フジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の塩基配列情報に基づき、ミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボをそれぞれ分子レベルで特異的に認識するプライマー対を開発することに成功し、本願発明に至った。
【0013】
即ち、本発明のフジツボ種判定用プライマーセットは、下記(1)〜(3)のうち少なくとも一組のプライマー対を含むものである。
(1)配列番号1及び2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むミネフジツボ(Balanus rostratus)検出用プライマー対、
(2)配列番号3及び4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むチシマフジツボ(Semibalanus cariosus)検出用プライマー対、
(3)配列番号5及び6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むハナフジツボ(Balanus crenatus)検出用プライマー対
【0014】
(1)のプライマー対は、ミネフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列を特異的に認識する。即ち、ミネフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列のみを認識し、ミネフジツボと比較的近縁と考えられるチシマフジツボ、ハナフジツボ、キタアメリカフジツボ、サンカクフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボ、ココポーマアカフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、さらには実海域に一般的に存在しているプランクトンの遺伝子を認識しない。したがって、(1)のプライマー対によれば、ミネフジツボの遺伝子と特異的にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を起こす。
【0015】
(2)のプライマー対は、チシマフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列を特異的に認識する。即ち、チシマフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列のみを認識し、チシマフジツボと比較的近縁と考えられるミネフジツボ、ハナフジツボ、キタアメリカフジツボ、サンカクフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボ、ココポーマアカフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、さらには実海域に一般的に存在しているプランクトンの遺伝子を認識しない。したがって、(2)のプライマー対によれば、チシマフジツボの遺伝子と特異的にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を起こす。
【0016】
(3)のプライマー対は、ハナフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列を特異的に認識する。即ち、ハナフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列のみを認識し、ハナフジツボと比較的近縁と考えられるミネフジツボ、チシマフジツボ、キタアメリカフジツボ、サンカクフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボ、ココポーマアカフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、さらには実海域に一般的に存在しているプランクトンの遺伝子を認識しない。したがって、(3)のプライマー対によれば、ハナフジツボの遺伝子と特異的にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を起こす。
【0017】
次に、本発明のフジツボ幼生の種判定方法は、被験試料に対し、上記(1)〜(3)のうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、被験試料の遺伝子増幅の有無により被験試料に存在しているフジツボ幼生の種を判定するようにしている。
【0018】
例えば、被験試料にミネフジツボ幼生が存在している場合には、上記(1)のプライマー対がミネフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列を特異的に認識し、PCRによりミネフジツボ幼生の遺伝子の増幅が生じる。一方、被験試料にミネフジツボ幼生が含まれていない場合には、上記(1)のプライマー対によって認識される遺伝子が存在しないので、遺伝子増幅は生じない。したがって、遺伝子増幅の有無を検出することにより、被験試料に存在しているフジツボ幼生の種がミネフジツボであるか否かを判定することができる。つまり、遺伝子増幅の有無を検出することによって、被験試料に存在しているフジツボ幼生種がPCRに使用したプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種であるか否かがわかるので、これによりフジツボ幼生の種を判定できる。
【0019】
次に、本発明のフジツボ幼生個体数の定量分析方法は、被験試料に対し、上記(1)〜(3)のうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、PCRにおける遺伝子増幅量に基づき、このプライマー対に認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対し、このプライマー対を用いてPCRを行うことによりフジツボ幼生種の個体数と遺伝子増幅量との関係を調べて予め作成された検量線を用いて、被験試料に存在するフジツボ幼生種(PCRに使用したプライマー対により認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種)の個体数の定量を行うようにしている。
【0020】
例えば、上記(1)のプライマー対を用いてPCRを行うことにより、被験試料に存在するミネフジツボ幼生個体数に対応して遺伝子が増幅する。したがって、ミネフジツボ幼生個体数が既知の複数の試料それぞれに対し、上記(1)のプライマー対を用いてPCRを行うことによりミネフジツボ幼生個体数と遺伝子増幅量との関係を調べて予め作成された検量線を用いることで、被験試料の遺伝子増幅量から被験試料に存在するミネフジツボ幼生個体数を定量することができる。つまり、PCRに使用したプライマー対により認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数を定量することができる。
【0021】
ここで、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法において、PCRはリアルタイムPCRとし、遺伝子増幅量としてリアルタイムPCRにより得られるCt値を利用することが好ましい。
【0022】
また、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法において、被験試料を分画処理してからPCRに供することが好ましい。
【0023】
次に、本発明のフジツボ種判定用キットは、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも1つのプライマーをプローブとして含むものである。
【0024】
例えば、配列番号1または2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーをプローブとして含む場合、このプローブがミネフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して結合(ハイブリダイズ)する。したがって、本発明のフジツボ種判定用キットにより、被験試料に存在するフジツボ幼生の種がミネフジツボであるか否かを判定することができる。つまり、プローブとのハイブリッドの形成の有無によって、被験試料に存在しているフジツボ幼生種がプローブとして使用したプライマーによって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種であるか否かがわかるので、これによりフジツボ幼生の種を判定できる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載のフジツボ種判定用プライマーセットによれば、ミネフジツボ、チシマフジツボまたはハナフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識することができ、このプライマーセットをPCRに供することで、この特定領域の遺伝子断片のみを増幅することができる。
【0026】
請求項2記載のフジツボ幼生種判定方法によれば、被験試料に複数種のプランクトンが多数存在している場合であっても、PCRに使用するプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種を特異的に検出して、フジツボ幼生の種を判定することができる。
【0027】
請求項3記載のフジツボ幼生個体数の定量方法によれば、被験試料に複数種のプランクトンが多数存在している場合であっても、PCRに使用するプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種のみを特異的に検出して定量することができる。
【0028】
請求項4記載のフジツボ幼生個体数の定量方法によれば、被験試料に複数種のプランクトンが多数存在している場合であっても、リアルタイムPCRに使用するプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種のみを特異的に検出して定量することができる。しかも、請求項1に記載のフジツボ種判定用プライマーセットにより増幅されるDNA断片長は150bp以内に収まることから、リアルタイムPCRを行うためのDNA断片長として好適な長さとなり、リアルタイムPCRによるCt値の測定を精度良く行うことが可能になる。
【0029】
請求項5に記載のフジツボ幼生個体数の定量分析方法によれば、被験試料が予め分画処理されてからPCRに供されるので、例えば、初期ノープリウス幼生期にあるフジツボ幼生と、後期ノープリウス幼生期及びキプリス幼生期にあるフジツボ幼生とを分画して定量することにより定量精度を高めることが可能となる。
【0030】
請求項6記載のフジツボ種判別用キットによれば、配列番号1〜6記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも一つのプライマーをプローブとして含んでいるので、プローブとして含まれるプライマーによって認識される遺伝子を有するフジツボ種について、そのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識することができ、被験試料に存在するフジツボ幼生種の種判定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】配列番号1及び2の塩基配列からなるプライマー対を用いて各種フジツボ成体の鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図2】配列番号3及び4の塩基配列からなるプライマー対を用いて各種フジツボ成体の鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図3】配列番号5及び6の塩基配列からなるプライマー対を用いて各種フジツボ成体の鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図4】配列番号1及び2の塩基配列からなるプライマー対を用いてプランクトンサンプルの鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図5】配列番号3及び4の塩基配列からなるプライマー対を用いてプランクトンサンプルの鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図6】配列番号5及び6の塩基配列からなるプライマー対を用いてプランクトンサンプルの鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図7】反応液のミネフジツボの鋳型DNA濃度を0.2〜20ng/μLとしたときの配列番号1及び2の塩基配列からなるプライマー対を用いたPCR後のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図8】反応液のチシマフジツボの鋳型DNA濃度を0.2〜20ng/μLとしたときの配列番号3及び4の塩基配列からなるプライマー対を用いたPCR後のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図9】反応液のハナフジツボの鋳型DNA濃度を0.2〜20ng/μLとしたときの配列番号5及び6の塩基配列からなるプライマー対を用いたPCR後のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図10】ミネフジツボの鋳型DNA濃度とリアルタイムPCRのCt値との関係を示す図である。
【図11】チシマフジツボの鋳型DNA濃度とリアルタイムPCRのCt値との関係を示す図である。
【図12】ハナフジツボの鋳型DNA濃度とリアルタイムPCRのCt値との関係を示す図である。
【図13】DNAチップの実施の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
本発明のフジツボ種判定用プライマーセットは、下記(1)〜(3)のうち少なくとも一組のプライマー対を含むものである。
【0034】
(1)ミネフジツボ検出用プライマー対
このプライマー対は、配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーと、配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーとからなるものである。このプライマー対により、配列番号7で示されるミネフジツボのミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子解析領域のうち、36〜148番目の113bpのDNA断片が増幅される。
【0035】
(2)チシマフジツボ検出用プライマー対
このプライマー対は、配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーと、配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーとからなるものである。このプライマー対により、配列番号8で示されるチシマフジツボのミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子解析領域のうち、98〜247番目の150bpのDNA断片が増幅される。
【0036】
(3)ハナフジツボ検出用プライマー対
このプライマー対は、配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーと、配列番号6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーとからなるものである。このプライマー対により、配列番号9で示されるハナフジツボのミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子解析領域のうち、97〜244番目の148bpのDNA断片が増幅される。
【0037】
尚、各プライマーの塩基配列は、配列番号1〜6で示される塩基配列に限定されるものではなく、プライマーの一端または両端が延長されたプライマーであって、対応するフジツボ種の12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列と相補的な配列を有して特異的に認識するプライマーも包含される。但し、プライマー長は最大でも40塩基とすることが好ましい。プライマー長を40塩基超とすると、非特異的なアニーリングが起こり易くなり、目的のDNA断片の増幅が検出できなくなる虞がある。また、プライマーの一端または両端を短縮してもよいが、プライマー長は最小でも18塩基とすることが好ましい。18塩基未満とすると、目的のDNA断片の増幅が検出できなくなる虞がある。
【0038】
本発明のプライマーセットの各オリゴヌクレオチドは、例えば汎用のオリゴヌクレオチド合成装置を用いて化学的に合成することができるがこれに限定されるものではなく、当該技術分野において公知あるいは新規の他の方法を用いて合成してもよい。
【0039】
次に、本発明のフジツボ幼生の種判定方法について説明する。
【0040】
本発明のフジツボ幼生の種判定方法は、被験試料に対し、上記のプライマー対のうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、被験試料の遺伝子増幅の有無により被験試料に存在しているフジツボ幼生の種を判定するようにしている。
【0041】
被験試料としては、フジツボ幼生を1個体以上含有する可能性のあるあらゆる種類の試料が包含される。例えば、複数種のプランクトンを多数含有している海水等の環境サンプルは勿論のこと、人工飼育水槽の飼育水等も被験試料とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
被験試料からは塩分が含まれる海水や飼育水等をできるだけ除き、被験試料中のプランクトンをエタノールに浸漬して固定することが好ましい。この処理により、被験試料中のプランクトンに含まれる酵素等が失活してDNAが分解等を起こすことがなくなり、被験試料の長期保存が可能となると共に、PCRに悪影響を及ぼす虞のある塩分の析出を防ぐことができる。エタノール固定後は、室温(20℃程度)で保存してもよいが、15℃程度で保存することが好適であり、10℃程度で保存することがより好適であり、5℃程度で保存することがさらに好適である。低温保存することで、プランクトンに含まれる酵素の活性を確実に抑えることができ、DNAの分解を防止することができる。エタノールに固定した被験試料は、例えばエッペンドルフチューブなどのチューブに入れて乾燥させる。エタノールは揮発しやすいので、乾燥を素早く行うことができる。尚、エタノール以外の揮発性有機物、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン等を用いても同様の効果を発揮する。
【0043】
但し、被験試料中のプランクトンをエタノール等に浸漬して固定する処理は本発明においては必須処理ではない。即ち、滅菌水等で被験試料中のプランクトンを十分に洗浄して塩分を除いた後、風乾等を行うようにしても良いし、DNAが分解しない程度に熱をかけて乾燥を行うようにしても良い。
【0044】
ここで、被験試料に対しDNA抽出処理を施すようにしてもよい。この場合、プランクトン等に含まれる有機物等によるPCRへの悪影響を防いで、より確実にフジツボ幼生の種の判別を行うことが可能になる。DNA抽出処理方法としては、当該技術分野において公知あるいは新規の方法を適宜用いることができる。
【0045】
PCRは、被験試料中のDNAを鋳型として、上記プライマーセットのうちの一組以上のプライマー対を用いて行われる。PCR条件としては、当該技術分野において公知あるいは新規の条件を適宜用いることができる。例えば、Taqポリメラーゼアドバンテージ2(クローンテック社)を用いたPCRが挙げられるが、これに限られるものではない。PCRを行うことにより、被験試料中にフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子が含まれている場合には、遺伝子増幅が起こり、増幅産物が得られる。より詳細には、使用したプライマー対に対応するフジツボ種のミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子が被験試料中に含まれている場合には、遺伝子増幅が起こり、増幅産物が得られる。
【0046】
PCRによって得られた増幅産物の検出は、例えば、PCR反応混合物をゲル電気泳動で展開し、非検出対象成分(鋳型DNA、プライマー等)と検出対象成分である増幅産物とを分離した状態で蛍光染色によって増幅産物のバンドをその分子量から判断して特定し、そのバンドの蛍光強度を測定することにより行うことができる。しかしながら、この方法に限定されるものではなく、当該技術分野において公知あるいは新規の他の方法を用いることができる。増幅産物が検出された場合には、PCRに使用したプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ種が被験試料に存在していることになる。したがって、PCRに使用したプライマーに応じて、被験試料に存在しているフジツボ種を判定することができる。
【0047】
ここで、本発明のフジツボ幼生種の判定方法は、上記プライマーセットのうちの一組のプライマー対毎にPCRを行って、被験試料に存在するフジツボ幼生の種判定を行うようにしてもよいが、上記プライマーセットのうち複数組のプライマー対を被験試料に投入してPCRを行い、増幅DNAの分子量の差異から、被験試料に存在するフジツボ幼生の種判定を行うようにしてもよい。
【0048】
次に、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法について説明する。本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法は、被験試料に対し、上記プライマーセットのうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、PCRにおける遺伝子増幅量に基づき、このプライマー対に認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対しこのプライマー対を用いてPCRを行うことによりフジツボ幼生種の個体数と遺伝子増幅量との関係を調べて予め作成された検量線を用いて、被験試料に存在するフジツボ幼生種の個体数の定量を行うようにしている。以下に、リアルタイムPCRを利用した場合の実施形態について、詳細に説明する。
【0049】
リアルタイムPCRを利用した本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法は、被験試料に対し、上記プライマーセットのうちの一組のプライマー対を用いてリアルタイムPCRを行うことにより得られるCt値に基づき、このプライマー対に認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対し、このプライマー対を用いてリアルタイムPCRを行うことによりフジツボ幼生種の個体数とCt値との関係を調べて予め作成された検量線を用いて、被験試料に存在するフジツボ幼生種(リアルタイムPCRに使用したプライマー対により認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種)の個体数の定量を行うようにしている。
【0050】
即ち、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法は、フジツボ種毎にフジツボ幼生個体数とCt値との関係を示す検量線を作成する。そして、この検量線を利用して、被験試料のCt値から、被験試料に含まれるフジツボ幼生個体数の定量を行うようにしている。
【0051】
このように、フジツボ種毎にフジツボ幼生個体数とCt値との関係を示す検量線を予め作成しておくことで、被験試料に対し、上記プライマーセットのうち一組のプライマー対毎にリアルタイムPCRを行うことにより、ミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボの幼生個体数の定量分析を行うことができる。そして、被験試料に上記フジツボ種の幼生が存在していない場合には、フジツボ幼生の個体数が0という結果が得られるので、被験試料に存在しているフジツボ幼生種の判定と個体数の定量とを同時に実施できることになる。
【0052】
ここで、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法は、本発明のフジツボ幼生種判定方法を行った後に実施するようにしてもよい。例えば、上記プライマーセットのうちの一組または2組以上のプライマー対を用いて被験試料に存在するフジツボ幼生種を絞り込んだ後に、被験試料に存在するフジツボ幼生種に対応するプライマー対を用いて幼生個体数の定量分析を実施することで、定量分析を無駄なく効率的に実施することができる。また、フジツボ種の判定と定量を同時に行うようにしてもよい。例えば、上記プライマーセットのうちの二組以上のプライマー対を用いて被験試料に存在するフジツボ幼生種を絞り込む際に、電気泳動法を利用して遺伝子増幅の有無をバンドの発現の有無により確認すると共に、バンドの位置からフジツボ幼生種を検出し、さらに遺伝子増幅量をバンドの濃淡から判断し、予め作成されたバンドの濃淡と幼生個体数との関係を示す検量線から、フジツボ幼生個体数の定量を行うようにしてもよい。
【0053】
尚、リアルタイムPCR法とは、PCRによるDNA断片の増幅量をリアルタイムでモニタリングして解析する手法である。この手法を用いることで、被験試料の特定の塩基配列をもつ鋳型DNAの濃度の定量分析を行うことができる。即ち、段階希釈した濃度既知の特定の塩基配列をもつ鋳型DNAを標準試料としてPCRを行い、Ct(Threshold Cycle)値を測定する。この結果に基づいて、Ct値を縦軸に、PCR開始前の特定の塩基配列をもつ鋳型DNA濃度を横軸にプロットし、検量線を作成する。つまり、この検量線が、試料の特定の塩基配列をもつ鋳型DNAの濃度とCt値との関係を表す。したがって、濃度未知の被験試料のCt値をリアルタイムPCRにより測定することで、被験試料中の特定の塩基配列をもつ鋳型DNAの濃度を決定することができる。
【0054】
リアルタイムPCRは、例えば、サーマルサイクラーと蛍光分光光度計とを一体化したリアルタイムPCR装置により行うことができる。また、DNA増幅量のモニタリングは、蛍光試薬を用いた蛍光モニター法により行われる。例えば、二本鎖DNAに結合することで蛍光発光する試薬(インターカレータ)をPCR反応系に添加し、PCR反応により合成される二本鎖DNA(PCR産物)にインターカレータを結合させ、励起光を照射することにより蛍光発光を生じさせて、蛍光強度を検出することによりDNA増幅量のモニタリングを行う、所謂インターカレータ法を用いることができる。尚、インターカレータ法に限定されるものではなく、TaqManプローブ法などを適宜採用することもできる。
【0055】
ここで、DNA増幅量のモニタリングは、サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子として配列番号37で示される塩基配列からなる分子を用いたサイクリングプローブ法により実施するのが特に好ましい。
【0056】
サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子として配列番号37で示される塩基配列からなる分子を用いることで、このプローブが、ミネフジツボの12S rRNA遺伝子解析領域のうち、上記(1)のプライマー対によるDNA増幅部位中の特定領域を特異的に認識する。したがって、被験試料にミネフジツボが含まれている場合には、サイクリングプローブが、PCRにより増幅されたミネフジツボのDNAの特定領域とハイブリッドを形成する。尚、チシマフジツボについても上記(2)のプライマー対によるDNA増幅部位に基づき、サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子として使用可能な分子の設計が可能である。また、ハナフジツボについても上記(3)のプライマー対によるDNA増幅部位に基づき、サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子として使用可能な分子の設計が可能である。尚、インターカレータ法やTaqManプローブ法などによる検出を行っても良い。
【0057】
サイクリングプローブには、RNA部(配列番号37に示される塩基配列においては、3番目のAがRNAである)を挟んで5’端に蛍光物質が結合し、3’端にこの蛍光物質の発する蛍光を消光する物質(クエンチャー)が標識されている。サイクリングプローブは、インタクトな状態にある場合には、クエンチャーの作用により強い蛍光を発することは無い。しかし、増幅DNAの相補的な配列とハイブリッドを形成した後にRNA切断酵素であるRNaseHを作用させると、サイクリングプローブがRNA部で切断され、クエンチャーが作用しなくなって強い蛍光を発するようになる。したがって、この蛍光強度を測定することで、仮に被験試料に存在するプランクトン等の遺伝子がPCRによって増幅されてしまうケースが生じたとしても、目的のフジツボ幼生種の遺伝子増幅のみを選択的に検出することが可能となり、目的のフジツボ幼生個体数の定量を確実且つ精度良く行うことができる。尚、蛍光物質及び消光物質については、リアルタイムPCR装置で検出可能なものを適宜選択することができる。
【0058】
尚、リアルタイムPCRにおけるCt値とは、蛍光標識されたPCR産物量が指数関数的なDNA増幅期の中で一定量となるときの値、即ち、一定の蛍光強度に達するまでのPCRサイクル数を表している。PCRによるDNAの増幅は、初期には指数関数的に起こり、1次関数的な増幅を経て、最終的にはプラトーに達する。指数関数的なDNA増幅期における一定PCR産物量に達するPCRサイクル数と初期鋳型DNA量には高い相関がある。したがって、初期鋳型DNA量、つまり、試料の特定の塩基配列をもつDNAの濃度とCt値との相関を調べることで、Ct値から試料の特定の塩基配列をもつDNAの濃度を推定する為の検量線を作成することができる。また、DNAの増幅曲線を二回微分して最大値を算出し、この最大値に達するまでのサイクル数、つまり、PCR産物量の増幅がバックグラウンド値から指数関数的に変化する時点のサイクル数を検出し、これをCt値とするようにしてもよい。
【0059】
本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法に用いる検量線は、フジツボ幼生個体数が既知の複数の試料それぞれに対し、このフジツボ幼生が有する遺伝子を認識するプライマー対を用いてリアルタイムPCRを行うことによりフジツボ幼生個体数とCt値の関係を調べて予め作成される。
【0060】
試料の処理方法に関しては、上記と同様、試料からは塩分が含まれる海水や飼育水等をできるだけ除き、試料中のフジツボ幼生をエタノールに浸漬して固定し、乾燥させることが好ましい。
【0061】
試料のDNA抽出処理方法としては、当該技術分野において公知または新規の方法を適宜用いることができる。例えば、DNeasy Tissue Kit(キアゲン社)によるシリカゲル膜を利用したDNA抽出方法、Quick Gene DNA Tissue KitS(フジフイルム社)、Soil DNA Isolation Kit (NORGEN社)等を用いることが好適である。特に、Quick Gene DNA Tissue KitS(フジフイルム社)を用いた場合には、試料間のDNA抽出ばらつきを抑えて、フジツボ幼生の定量をより正確に実施し易くなる。また、Soil DNA Isolation Kit (NORGEN社)を用いた場合には、サンプル中の泥や砂の影響を抑えてリアルタイムPCRに適したDNA抽出サンプルを得ることができ、より好適である。
【0062】
また、特にキプリス幼生においては、クチクラの殻(甲皮)の堅さがサンプルにより異なる場合があり、これが原因で試料のDNA抽出効率が低下する場合がある。そこで、試料からDNAを抽出する前に、クチクラの殻の破砕処理を行うことが好適である。例えば、エタノールを除いて乾燥させた試料の入ったエッペンドルフチューブにジルコニアボール(直径2〜3mm)を数個(例えば、3〜5個)入れて、強く震盪することで組織を破砕した後、上記のDNA抽出処理に供することが好適である。
【0063】
ここで、フジツボ幼生は、I期ノープリウス幼生として孵化後すぐにII期ノープリウスとなり、その後は、海水中の植物プランクトンを餌として取り込んで成長する。そしてVI期ノープリウス幼生を経て摂餌をしない付着期のキプリス幼生となる。成長に伴い、個体サイズ、細胞数が増加するため、標的となる12S rRNA遺伝子の1個体当たりのコピー数も増加することになる。したがって、幼生の個体数が同じであっても、リアルタイムPCRの結果示されるCt値が幼生の発生段階で異なってくる。
【0064】
本願発明者の実験によると、フジツボのキプリス幼生の12S rRNA遺伝子コピー数は初期(I期及びII期)ノープリウス幼生の12S rRNA遺伝子コピー数の5倍であることが確認されている。この値はキプリス幼生と初期ノープリウス幼生の体積差を反映している。
【0065】
したがって、検量線を作成する際に使用する試料としては、幼生の各個体の12S rRNA遺伝子コピー数がほぼ一定である試料を用いることが好ましい。この場合には、12S rRNA遺伝子コピー数が試料中の幼生個体数を正確に反映するので、幼生個体数に対する正確なCt値を得ることができる。例えば、キプリス幼生のみが含まれている試料を用いれば、キプリス幼生の個体数に対応する正確なCt値を得ることができるし、初期ノープリウス幼生のみが含まれている試料を用いれば、初期ノープリウス幼生の個体数に対応する正確なCt値を得ることができる。
【0066】
また、幼生個体数が既知の複数の試料は、上記とは別の方法でも得ることができる。即ち、成体試料等から鋳型DNAを抽出し、これを幼生個体数と同等の遺伝子コピー数となるように段階希釈することによって、幼生個体数が既知の複数の試料を得るようにしてもよい。
【0067】
被験試料の種類や処理方法に関しては、上記と同様である。但し、DNA抽出処理方法に関しては、検量線作成時と同様の方法を採用することが定量値のばらつきを抑える上で好ましい。また、被験試料に対して行うリアルタイムPCR条件は検量線作成時のリアルタイムPCR条件と同様とする。
【0068】
ここで、被験試料を分画処理してからリアルタイムPCRに供することにより、精度の高い定量分析を実施することが可能となる。即ち、フジツボ幼生は成長段階に応じてその体積が異なるため、例えば、被験試料を篩にかけて、篩を通過した体積の小さいフジツボ幼生を含む分画成分をリアルタイムPCRして得られるCt値から、分画成分に含まれているフジツボの幼生個体数を初期ノープリウス幼生個体数の総量として換算することで、被験試料に含まれているフジツボの初期ノープリウス幼生の真の個体数により近い値を得ることができる。また、篩を通過しなかった体積の大きいフジツボ幼生を含む分画成分をリアルタイムPCRして得られるCt値から、分画成分に含まれているフジツボ幼生の個体数をキプリス幼生個体数とVI期ノープリウス幼生個体数の総量として換算することで、被験試料に含まれているフジツボのキプリス幼生とVI期ノープリウス幼生の真の個体数により近い値を得ることができる。したがって、どの成長段階にあるフジツボ幼生が被験試料中にどの程度存在するのかをより具体的に明らかにすることが可能となる。尚、分画方法は篩によるものには限定されず、例えば遠心分離処理を用いてもよい。また、分画処理により、例えば初期(I期及びII期)ノープリウス幼生のみを被験試料から分離した成分をリアルタイムPCRして得られるCt値から、被験試料に含まれている初期(I期及びII期)ノープリウス幼生の個体数を高精度に定量することも可能であるし、VI期ノープリウス幼生及びキプリス幼生を被験試料から分離した成分をリアルタイムPCRして得られるCt値から、被験試料に含まれているVI期ノープリウス幼生及びキプリス幼生の個体数を高精度に定量することも可能である。
【0069】
本発明のフジツボ幼生の定量方法により、実海域でのフジツボの付着時期を予測することが可能になる。即ち、Ct値から換算される幼生個体数の発生段階による相違は最大でも5倍である。これは、実海域での幼生出現ピーク時の個体数増加に比べれば小さい値であり、付着時期予測には大きな問題点とはならないと考えられる。これまでに実海域でフジツボ幼生の個体数変動と付着時期を詳細に調査した報告、例えば、志津川湾におけるフジツボ幼生および付着板の調査(電力中央研究所報告V05033)や、柳井・三隅火力発電所前面海域での付着板を用いた調査(中国電力 技研時報101、p75−83)によると、フジツボの付着盛期は1ヶ月以内に集中し、この期間内に急激に付着個体が増加すると報告されている。また、飼育実験からフジツボの幼生は、孵化後1〜2週間で付着期幼生になり、基盤に付着すると考えられる。したがって、付着期前の比較的短期間に幼生の出現ピークがあり、その際の幼生数の増加率は5倍という値に比較して圧倒的に大きな値、例えば、3日〜1週間毎に被験試料をサンプリングした場合、サンプリング量にもよるが、数十倍〜数百倍、あるいはそれ以上の増加率となることが予想される。よって、本発明の定量方法によりフジツボ幼生個体数の定量分析を定期的(例えば、3日〜1週間毎)に行うことで、実海域でのフジツボの付着時期を確実に予測することが可能になる。
【0070】
次に、本発明のフジツボ種判定用キットについて説明する。
【0071】
本発明のフジツボ種判定用キットは、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも1つのプライマーをプローブとして含むものである。
【0072】
即ち、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうち一つのプライマーのみをプローブとして含むことによって、このプライマーによって認識される遺伝子を有するフジツボ種のみを検出するキットとすることができる。また、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうち2つ以上のプライマー(但し、異なるプライマー対由来の2つ以上のプライマー)をプローブとして含むことによって、2種以上のフジツボを検出するキットとすることができる。
【0073】
本発明のフジツボ種判定用キットの一例として、図13に示すDNAチップが挙げられる。このDNAチップ1は、基板2と、基板2の表面に形成されたスポット3と、スポット3内に固定されたDNAプローブ4により構成される。
【0074】
基板2としては、ガラス基板、シリコンウエハー、ナイロン膜、セルロース膜等を適宜用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
スポット3には、DNAプローブ4が等量ずつ固定される。DNAプローブ4は、配列番号1〜6のいずれかに示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも1つのプライマーである。例えば、スポット3にはそれぞれ異なるフジツボ種を検出するプライマーをプローブとして固定しておく。
【0076】
DNAチップ1を用いて、フジツボ幼生の種判定を行う。被験試料はDNA抽出処理後、DNAを一本鎖に調製し、蛍光剤や発色剤を添加して1本鎖DNAを蛍光標識する。そして、これをDNAチップ1のスポット3に滴下し、DNAプローブ4と結合(ハイブリダイズ)させる。未結合の一本鎖DNAは洗い流し、スポット3の蛍光強度を検出することにより、蛍光発光が生じたスポットを特定することで、被験試料中のフジツボ幼生の検出を行うことができる。
【0077】
尚、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0078】
例えば、上述の実施形態では、サーマルサイクラーと蛍光分光光度計とを一体化したリアルタイムPCR装置を用いてフジツボ幼生個体数の定量分析を行う場合について詳細に説明したが、PCR装置やヒートブロックを利用して遺伝子増幅を行い、遺伝子増幅量をモニタリングすることによって、フジツボ幼生個体数の定量を行うことも可能である。具体的には、フジツボ幼生個体数が既知の試料を複数用意し、この試料に一定サイクルでPCR装置またはヒートブロックを用いてPCRを行い、遺伝子増幅量をモニタリングし、フジツボ幼生個体数と遺伝子増幅量との関係を示す検量線を作成しておく。そして、実海域から採集した試料を同条件でPCRして遺伝子増幅量をモニタリングし、検量線を利用して試料中のフジツボ幼生個体数の定量を行うようにしてもよい。
【0079】
遺伝子増幅量のモニタリング方法としては、公知あるいは新規の方法を各種用いることができる。例えば、分光光度計によりPCR後の溶液のDNA濃度を測定することで遺伝子増幅量をモニタリングするようにしてもよいし、電気泳動や色素によるDNA染色を利用した定量方法を用いることもできる。DNAを染色する色素としては、核酸のATに特異性があり、DNA量の測定に一般的に使用されている色素であるDAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、サイクリングプローブ法を用いてもよく、サイクリングプローブの蛍光物質としてROX:6−カルボキシ−X−ローダミン(Xはサイクリングプローブの核酸)を用い、消光物質としてEclipseを用いることで、紫外光を照射することにより赤色の強い蛍光強度を得ることができ好ましいが、これに限定されるものではない。また、蛍光物質としてROX:6−カルボキシ−X−ローダミンを用い、消光物質としてEclipseを用いたサイクリングプローブ法のように、可視光領域において強い蛍光発光を生じる場合には、目的とするフジツボ幼生の増幅DNAのみを、蛍光物質を励起するための励起光を照射するだけで目視で検出することが可能となるので、フジツボ幼生の有無およびおおよその量を目視で容易に検出することができる。
【0080】
また、本発明の定量方法は、上記のプライマー対の2組以上を同時に使用してPCRを行うことにより実施するようにしてもよい。例えば、上記(1)と(2)のプライマー対を用いてPCRを行い、電気泳動法を利用して遺伝子増幅の有無をバンドの発現の有無により確認すると共に、バンドの位置からフジツボ幼生の種を検出し、さらに遺伝子増幅量をバンドの濃淡から判断し、予め作成されたバンドの濃淡と幼生個体数との関係を示す検量線から、フジツボ幼生の個体数の定量を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0081】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0082】
(実施例1)
各種フジツボ成体の12S rRNA遺伝子の塩基配列のデータベース化を行い、このデータベースに基づいて各種フジツボに特異的な塩基配列を特定し、プライマーを設計した。データベース化に供したフジツボ種を表1に示す。アカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、ココポーマアカフジツボは採集後に室内でアルテミア、珪藻(Chaetoceros gracilis)などを餌として与えて飼育されたものを99.5%エタノール(和光純薬製)に浸して固定し、実験に使用するまで4℃で保存した。なお、エタノール浸漬前は、数日間餌を与えずアルテミア由来のDNAの影響を排除した。その他のフジツボは採集直後に99.5%エタノールに浸漬し4℃で保存した。尚、オオアカフジツボは伊豆半島にて採集したものを使用した。
【0083】
【表1】
【0084】
大型のフジツボ成体であるアカフジツボ、キタアメリカフジツボ、ミネフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、シロスジフジツボ、サンカクフジツボ、チシマフジツボ、クロフジツボ、カメノテ、エボシガイ、ココポーマアカフジツボ、ヨーロッパフジツボ、ドロフジツボ、オニフジツボ、オオアカフジツボ、Cryptolepas rhachianechi、ミミエボシ、スジエボシは、解剖後、軟体部、可能であれば筋肉組織の小片(2〜3mm角)を清浄なメスを用いて切り出し、キアゲン社のDNeasy Blood Tissue Kitを使用して総DNAの抽出を行った。DNA抽出はDNeasy Blood Tissue Kitに付属のマニュアルに準じて行った。得られたDNAは、100μLの10mM Tris−HCl/1mM EDTAバッファー(TEバッファー、pH8.0)に溶解した。
抽出用組織が小さい場合は適宜溶解バッファー量を減らした。また小型のフジツボであるイワフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、ムツアナフジツボ、ハナフジツボ、Semibalanus balanoides、Elminius modestus、コウダカキクフジツボ、キタイワフジツボ、また、上記大型のフジツボ成体に属するタテジマフジツボの中でも小型の個体に関しては、1個体の軟体部全体をそのまま同様の方法で抽出に供した。
【0085】
TEバッファーに溶解したDNAの濃度を分光光度計(GeneQuant Pro、アマシャムバイオサイエンス社)により測定した結果、ほとんどのサンプルで5μg以上のDNAが得られていることが確認されたが、イワフジツボなど非常に小型のフジツボにおいては1個体から得られるDNA量が少なかった。DNA濃度の測定結果に基づいて、20ng/μLのDNA濃度としたTEバッファー溶液を調整し、これをPCRの際に鋳型DNAとして供した。
【0086】
次に、上記操作により得られた総DNAを鋳型として、12S rRNA遺伝子をPCRにより増幅した。プライマーには、フジツボミトコンドリアの12S rRNA遺伝子に対するプライマーとして文献1〜4で報告されているものを用いた。
(文献1: R.A.Begum,T.Yamaguchi and S.Watabe(2004).Molecular phylogeny of thoracican barnacles based on the mitochondrial 12S and 16S rRNA genes.Sessile organisms,21,47-54.
文献2: T.D.Kocher, W.K.Thomas, A.Meyer, S.V.Edwards, S.Paabo, F.X.Villablansca and A.C.Wilson(1989). Dynamics of mitochondrial DNA evolution in animals: amplification and sequencing with conserved primers. Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,6196-6200.
文献3: O.Mokady, S.Rozenblatt, D.Graur and Y.Loya(1994). Coral-host specificity of red sea Lithophaga bivalves: interspecific and intraspecific variation in 12S mitochondrial ribosomal RNA.Mol.Mar.Biol.Biotech.,3,158-164.
文献4: S.R.Palumbi(1996). Nucleic acids II: the polymerase chain reaction. In: Molecular Systematics,ed. D.M.Hillis, C.Mortiz and B.K.Mable, Sinauer Associates, Sunderland, pp.205-248.)
【0087】
表2と配列番号7及び8に使用したプライマーの配列を示す。なお、これらのプライマーは、合成(シグマジェノシス)により得られたものであり、PCRに供するまで50pmol/μLのストック溶液(シグマジェノシス製)中に−20℃で保存した。使用前にストック溶液を純水(脱塩蒸留水、無菌、DNase、RNaseフリー、和光純薬)で5倍希釈し10pmol/μLとしてPCRに供した。PCRは、上記の操作により抽出した総DNAを鋳型とし、Taqポリメラーゼとしてジーンタック(ニッポンジーン)またはアドバンテージ2(クローンテック)を用いて行った。なお、鋳型DNAは20ng/μLに調製した溶液を2μL(40ng)、各プライマー溶液1μL(10pmol)を20μLの反応液に加えた。反応にはタカラPCRサーマルサイクラーDice(TP600)を用い、反応液の調製はそれぞれのTaqポリメラーゼに添付された方法に従った。具体的には、ジーンタックに関しては、滅菌水13.20μL、10xPCRバッファー(10xGene Taq Universal Buffer)2.00μL、2.5mM dNTP混合物1.60μL、ジーンタックポリメラーゼ0.20μL、プライマーはそれぞれ0.50μL、鋳型DNAは2.0μLとした。クローンテックアドバンテージ2に関しては、滅菌水14.20μL、10xPCR SAバッファー(10xGene Taq Universal Buffer)2.00μL、50×dNTP混合物0.40μL、50×ポリメラーゼ mix0.40μL、プライマーはそれぞれ0.50μL、鋳型DNAは2.0μLとした。なお、アドバンテージ2においては、添付された2種類の反応バッファーのうち良好な結果が得られたSAバッファーを使用した。
【0088】
【表2】
【0089】
まず、グラジエント機能を利用して最適アニーリング温度の推定を行った。グラジエントPCRでのアニーリング温度は、45.0℃〜65.0℃の12段階に設定した。96℃(ジーンタック)または95℃(アドバンテージ2)で1分間保ったあと、熱変性96℃(ジーンタック)または95℃(アドバンテージ2)30秒間、各温度でのアニーリング30秒間、伸長反応72℃(ジーンタック)または68℃(アドバンテージ2)30秒間という反応を35サイクル繰り返す条件で行った。反応産物はサイズマーカーとともに2%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Safe(インビトロジェン)によるDNAバンドの可視化により特定領域の増幅の有無を確認した。
【0090】
その結果、12S rRNA遺伝子のPCRにおいては、ニッポンジーンのジーンタックを用いた場合、アニーリング温度は53℃が最適であり、クローンテックのアドバンテージ2を用いた場合は54℃が最適ではあったが、45.0℃〜65.0℃のアニーリング温度範囲であれば、安定してPCRすることが可能であった。なお、増幅されたDNA断片はいずれのフジツボにおいても約350bpの長さであった。
【0091】
アガロース電気泳動にて増幅を確認したPCR産物からエタノール沈澱によりDNAを回収し、その一部を塩基配列決定に供した。PCR産物に99.5%エタノール50μL、3Mの酢酸ナトリウム(和光純薬製)2μL、125mMのEDTA(和光純薬製)2μLを加え、撹拌混合して15分間室温で静置した後、13800gで20分間遠心分離処理した。沈澱はさらに70μLの70%エタノールで洗浄し、得られた沈澱を乾燥後、6μLの純水(脱塩蒸留水、無菌、DNase、RNaseフリー、和光純薬)に溶解した。回収されたPCR産物(鋳型DNA)1μLと配列番号7及び8に記載された塩基配列からなるプライマーを用い、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)により、サイクルシーケンス反応を行った。反応は、96℃10秒間、50℃5秒間、60℃4分間を25サイクル行い、終了後、再度エタノール沈澱を行った。得られた乾燥標品にHiDi Formamide(アプライドバイオシステムズ)20μLを加え、95℃で2分間の反応後、サンプルをDNAシーケンサーABI PRISM 310に供してシーケンシングを行った。また、塩基配列のデータはDNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング)を用いて解析した。
【0092】
各種フジツボ総DNAを鋳型とし、配列番号7及び配列番号8に記載された塩基配列からなるプライマーを用いて得られた12S rRNA遺伝子を含むDNA断片のシーケンシングの結果について、塩基配列を配列表の配列番号9〜36に示す。なお、解析領域は、得られたDNA断片のうち、全てのサンプルで塩基配列が決定できた領域である297bp〜305bpの範囲とした。また、配列表の配列番号23〜50に示す塩基配列は、それぞれの種において最も出現頻度の高かった塩基配列である。以下に、配列表の配列番号9〜36に対応するフジツボ種を明記する。
【0093】
・配列番号9 :ミネフジツボ
・配列番号10:チシマフジツボ
・配列番号11:ハナフジツボ
・配列番号12:アカフジツボ
・配列番号13:キタアメリカフジツボ
・配列番号14:アメリカフジツボ
・配列番号15:タテジマフジツボ
・配列番号16:サラサフジツボ
・配列番号17:シロスジフジツボ
・配列番号18:サンカクフジツボ
・配列番号19:ケハダカイメンフジツボ
・配列番号20:イワフジツボ
・配列番号21:クロフジツボ
・配列番号22:ムツアナヒラフジツボ
・配列番号23:カメノテ
・配列番号24:エボシガイ
・配列番号25:オオアカフジツボ
・配列番号26:キタイワフジツボ
・配列番号27:ミミエボシ
・配列番号28:オニフジツボ
・配列番号29:コウダカキクフジツボ
・配列番号30:ヨーロッパフジツボ
・配列番号31:ドロフジツボ
・配列番号32:Cryptolepas rhachianechi
・配列番号33:Elminius modestus
・配列番号34:Semibalanus balanoides
・配列番号35:スジエボシ
・配列番号36:ココポーマアカフジツボ
【0094】
なお、同一の鋳型DNAから12S rRNA用プライマーを用いてジーンタック、アドバンテージ2の2種類のTaqポリメラーゼにより増幅した場合、得られた塩基配列データは全く同じであった。
【0095】
配列表の配列番号9〜36の塩基配列について、種間で変位の大きい領域に基づき、ミネフジツボについて、特異的な塩基配列領域の特定を行ったところ、リアルタイムPCRにおいて高精度に測定できる113bpのDNA断片を挿むプライマー結合部位を選定することができた。各プライマーの塩基配列を配列表の配列番号1及び2に示す。これらのプライマーを合成(シグマジェノシス)し、以下の実験に供した。
【0096】
また、配列表の配列番号9〜36の塩基配列について、種間で変位の大きい領域に基づき、チシマフジツボについて、特異的な塩基配列領域の特定を行ったところ、リアルタイムPCRにおいて高精度に測定できる150bpのDNA断片を挿むプライマー結合部位を選定することができた。各プライマーの塩基配列を配列表の配列番号3及び4に示す。これらのプライマーを合成(シグマジェノシス)し、以下の実験に供した。
【0097】
さらに、配列表の配列番号9〜36の塩基配列について、種間で変位の大きい領域に基づき、チシマフジツボについて、特異的な塩基配列領域の特定を行ったところ、リアルタイムPCRにおいて高精度に測定できる148bpのDNA断片を挿むプライマー結合部位を選定することができた。各プライマーの塩基配列を配列表の配列番号5及び6に示す。これらのプライマーを合成(シグマジェノシス)し、以下の実験に供した。
【0098】
(1)ミネフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対について、上記方法により得られたミネフジツボ成体、ミネフジツボと比較的近縁と考えられるチシマフジツボ成体、ハナフジツボ成体、キタアメリカフジツボ成体、サンカクフジツボ成体、イワフジツボ成体、シロスジフジツボ成体、ココポーマアカフジツボ成体、ケハダカイメンフジツボ成体、アメリカフジツボ成体、タテジマフジツボ成体及びサラサフジツボ成体の鋳型DNAを用いてPCRを行い、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対の有効性とPCRの最適条件について検討した。PCRは基本的には上述の方法に従い、タカラPCRサーマルサイクラーDice(TP600)のグラジエント機能を利用して最適アニーリング温度の検討を行なった。PCR産物はアガロースゲル電気泳動(3%アガロース)後にSYBR Safe(インビトロジェン)によるDNAバンドの可視化により検出した。PCRにおけるサイクル数は30サイクルとした。
【0099】
電気泳動写真を図1に示す。図1において、aがミネフジツボ、bがチシマフジツボ、cがハナフジツボ、dがキタアメリカフジツボ、eがサンカクフジツボ、fがイワフジツボ、gがシロスジフジツボ、hがココポーマアカフジツボ、iがケハダカイメンフジツボ、jがアメリカフジツボ、kがタテジマフジツボ、lがサラサフジツボの電気泳動結果である。
【0100】
アニーリング温度の検討を行った結果、59℃でもっとも増幅効率が高かったため、この温度でのPCRを行なうこととした。ミネフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できた。これは、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対により増幅した113bpのDNA断片であると考えられた。これに対し、ミネフジツボ成体以外から調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0101】
以上の結果から、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対は、ミネフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0102】
(2)チシマフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対について、上記方法により得られたチシマフジツボ成体、チシマフジツボと比較的近縁と考えられるシロスジフジツボ成体、ドロフジツボ成体、サラサフジツボ成体、キタアメリカフジツボ成体、ミネフジツボ成体、ココポーマアカフジツボ成体、アカフジツボ成体、クロフジツボ成体、オオアカフジツボ成体、タテジマフジツボ成体及びヨーロッパフジツボ成体の鋳型DNAを用いて上記(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0103】
電気泳動写真を図2に示す。図2において、aがチシマフジツボ、bがシロスジフジツボ、cがドロフジツボ、dがサラサフジツボ、eがキタアメリカフジツボ、fがミネフジツボ、gがココポーマアカフジツボ、hがアカフジツボ、iがクロフジツボ、jがオオアカフジツボ、kがタテジマフジツボ、lがヨーロッパフジツボの電気泳動結果である。
【0104】
チシマフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できた。これは、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対により増幅した150bpのDNA断片であると考えられた。これに対し、チシマフジツボ成体以外から調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0105】
以上の結果から、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対は、チシマフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0106】
(2)ハナフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対について、上記方法により得られたハナフジツボ成体、ハナフジツボと比較的近縁と考えられるチシマフジツボ成体、ドロフジツボ成体、ミネフジツボ成体、キタアメリカフジツボ成体、サラサフジツボ成体、ケハダカイメンフジツボ成体、サンカクフジツボ成体、オオアカフジツボ成体、イワフジツボ成体、シロスジフジツボ成体及びタテジマフジツボ成体の鋳型DNAを用いて上記(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0107】
電気泳動写真を図3に示す。図3において、aがハナフジツボ、bがチシマフジツボ、cがドロフジツボ、dがミネフジツボ、eがキタアメリカフジツボ、fがサラサフジツボ、gがケハダカイメンフジツボ、hがサンカクフジツボ、iがオオアカフジツボ、jがイワフジツボ、kがシロスジフジツボ、lがタテジマフジツボの電気泳動結果である。
【0108】
ハナフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できた。これは、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対により増幅した148bpのDNA断片であると考えられた。これに対し、ハナフジツボ成体以外から調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0109】
以上の結果から、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対は、ハナフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0110】
(実施例2)
本発明のプライマー対の混合プランクトン中での有効性について検討した。
【0111】
混合プランクトンは以下のようにして得た。即ち、2006年9月5日に東京湾内で、また2006年8月3日に宮城県志津川湾内でプランクトンネット(ノルパック、口径50cm)を用いて約8mの鉛直曳きによりプランクトンサンプルの採集を行った。これにより約1600L分の海水中のプランクトンが採集されたことになる。採集したプランクトンは実験室に持ち帰った後、100μm(13XX)と1mm(20GG)の目開きのメッシュを用いてフジツボ幼生が含まれる画分を得た。つまり、フジツボ幼生は、1mmのメッシュを素通りし、100μmのメッシュでトラップされるので、1mm以上の大型プランクトンはあらかじめ除去して解析に供した。得られたプランクトンサンプルは海水を除いた後、99.5%エタノールを加えて固定し、4℃で保存した。
【0112】
尚、上記プランクトン採集時期には、ミネフジツボ幼生、チシマフジツボ幼生、ハナフジツボ幼生が採集されることはないので、採集したプランクトンサンプルにこれらのフジツボ幼生が含まれることは無い。
【0113】
東京湾にて採集した混合プランクトンサンプルと志津川湾にて採集した混合プランクトンサンプルのそれぞれについて、DNA抽出処理を行った。DNA抽出には、フジフィルム社のQuick Gene DNA Tissue KitSを用い、基本的にはこのキットに添付されたマニュアルに従って抽出した。即ち、DNA抽出用試料に180μLの抽出用バッファー(MDT)と20μLのEDTとを加えて撹拌混合処理した後、55℃で一定時間(1時間)インキュベートした(Proteinase K処理)。さらに180μLのバッファー(LDT)を加えて撹拌混合処理した後、70℃で10分間インキュベートした。次に、240μLの99.5%エタノールを加えて撹拌混合処理した後、QuickGeneMini80のカートリッジに全量処理サンプルを供した。このカートリッジに添加後に、加圧処理と750μLのWDTを加える操作を3回繰り返した(洗浄処理)。洗浄後、フィルターに吸着したDNAを100μLの溶出バッファー(CDT)によりDNAを溶出し、東京湾混合プランクトンの鋳型DNAと志津川湾混合プランクトンの鋳型DNAをそれぞれ回収して、以下の実験に供した。
【0114】
(1)ミネフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対について、実施例1で得られたミネフジツボ成体の鋳型DNA、東京湾混合プランクトンの鋳型DNA、志津川湾混合プランクトンの鋳型DNAを用いて、実施例1(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0115】
電気泳動写真を図4に示す。図4において、Aがミネフジツボ、Bが東京湾混合プランクトン、Cが志津川湾混合プランクトンの電気泳動結果である。ミネフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できたのに対し、プランクトンサンプルから調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0116】
以上の結果から、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対は、実海域に一般的に存在するプランクトンを認識することなく、ミネフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0117】
(2)チシマフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対について、実施例1で得られたチシマフジツボ成体の鋳型DNA、東京湾混合プランクトンの鋳型DNA、志津川湾混合プランクトンの鋳型DNAを用いて、実施例1(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0118】
電気泳動写真を図5に示す。図5において、Aがチシマフジツボ、Bが東京湾混合プランクトン、Cが志津川湾混合プランクトンの電気泳動結果である。チシマフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できたのに対し、プランクトンサンプルから調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0119】
以上の結果から、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対は、実海域に一般的に存在するプランクトンを認識することなく、チシマフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0120】
(3)ハナフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対について、実施例1で得られたハナフジツボ成体の鋳型DNA、東京湾混合プランクトンの鋳型DNA、志津川湾混合プランクトンの鋳型DNAを用いて、実施例1(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0121】
電気泳動写真を図6に示す。図6において、Aがハナフジツボ、Bが東京湾混合プランクトン、Cが志津川湾混合プランクトンの電気泳動結果である。ハナフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できたのに対し、プランクトンサンプルから調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0122】
以上の結果から、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対は、実海域に一般的に存在するプランクトンを認識することなく、ハナフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0123】
(実施例3)
本発明のプライマー対を用いた定量分析について検討した。
【0124】
ミネフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、これを0.2〜20ng/μL(反応液の最終濃度)の範囲で濃度調整し、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対を用いて実施例1と同様の条件でPCRを行い、PCR産物を電気泳動に供した。PCRのサイクル数は25サイクルとした。その結果、図7に示すように、0.4〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。
【0125】
次に、チシマフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、これを0.2〜20ng/μL(反応液の最終濃度)の範囲で濃度調整し、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対を用いて実施例1と同様の条件でPCRを行い、PCR産物を電気泳動に供した。PCRのサイクル数は25サイクルとした。その結果、図8に示すように、0.2〜10ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。
【0126】
次に、ハナフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、これを0.2〜20ng/μL(反応液の最終濃度)の範囲で濃度調整し、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対を用いて実施例1と同様の条件でPCRを行い、PCR産物を電気泳動に供した。PCRのサイクル数は25サイクルとした。その結果、図9に示すように、0.2〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。
【0127】
このように、鋳型DNAの濃度に応じてバンドに濃淡が生じることが確認されたことから、被験試料に含まれるフジツボ幼生に含まれるDNAに起因するバンドの濃淡に応じて、フジツボ幼生の個体数の定量分析が可能であると考えられた。
【0128】
(実施例4)
本発明のプライマー対を用いたリアルタイムPCRによる定量分析について検討した。
【0129】
実施例1で得られたミネフジツボ成体の鋳型DNAを各種濃度で含む反応液を調製し、これをリアルタイムPCRによる定量的解析に供して、Ct(Threshold Cycle)値を測定した。リアルタイムPCRによる定量的解析は、SYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ)を用いたインターカレータ法により行った。
【0130】
反応液は、純水9.5μL、配列番号1に記載のプライマー(10μM)、配列番号2に記載のプライマー(10μM)それぞれ0.5μL(最終濃度0.2μM)、SYBR Premix Ex Taq(x2)を12.5μLを混合し、これに実施例1で得られたミネフジツボ成体の鋳型DNAを各種濃度となるように混合して調製した。
【0131】
装置はSmart Cycler II(Cephied社)を使用して、95℃で初期変性した後、95℃を5秒、60℃を20秒のPCRを40サイクル繰り返し、最後に融解曲線確認のための反応(60℃−95℃)を実施した。そして反応後、各試料のCt(Threshold Cycle)値を測定した。
【0132】
ミネフジツボのDNA濃度とCt値の関係を図10に示す。図10に示すように、DNA濃度とCt値との間には高い相関が見られ、リアルタイムPCRのCt値からDNA量を推定できることが明らかとなった。したがって、推定されたDNA量とミネフジツボ幼生の遺伝子コピー数との関係に基づいて、ミネフジツボ幼生個体数の推定が可能であることが明らかとなった。
【0133】
上記と同様の実験をチシマフジツボ成体の鋳型DNAと配列番号3及び4に記載のプライマー対を用いて実施し、チシマフジツボのDNA濃度とCt値の関係について得られた結果を図11に示す。図11に示すように、DNA濃度とCt値との間には高い相関が見られ、リアルタイムPCRのCt値からDNA量を推定できることが明らかとなった。したがって、推定されたDNA量とチシマフジツボ幼生の遺伝子コピー数との関係に基づいて、チシマフジツボ幼生個体数の推定が可能であることが明らかとなった。
【0134】
また、上記と同様の実験をハナフジツボ成体の鋳型DNAと配列番号5及び6に記載のプライマー対を用いて実施し、チシマフジツボのDNA濃度とCt値の関係について得られた結果を図12に示す。図12に示すように、DNA濃度とCt値との間には高い相関が見られ、リアルタイムPCRのCt値からDNA量を推定できることが明らかとなった。したがって、推定されたDNA量とハナフジツボ幼生の遺伝子コピー数との関係に基づいて、ハナフジツボ幼生個体数の推定が可能であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0135】
1 DNAチップ
4 DNAプローブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、フジツボ種判定用プライマーセットとこれを利用したフジツボ幼生の種判定方法及び定量方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、複数種のプランクトンが多数存在する海水域から採集した被験試料に含まれる北方系フジツボ(ミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボ)幼生の種を判定し、その個体数の定量を行うのに好適なフジツボ種判定用プライマーセットとこれを利用したフジツボ幼生の種判定方法及び定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボは、海洋構築物や火力・原子力発電所の冷却水路系、船舶、魚網等へ付着することにより生物汚損を引き起こす代表的汚損生物として知られている。例えば、火力・原子力発電所の冷却水路系にフジツボが付着すると、流動抵抗の増大により冷却水の流量が低下し、復水器の冷却効率が低下してしまう。また、復水器管内にフジツボが付着したり、剥がれたフジツボが詰まることにより管壁の腐食が生じる。そこで、各発電所では、付着したフジツボを機械的に除去したり、フジツボの付着を抑制するための様々な防除対策が実施されている。
【0003】
フジツボの付着を抑制する対策としては、冷却水路系や復水器管等に防汚塗料を塗布したり、あるいは塩素を注入してフジツボ幼生の付着を防ぐ手法がとられている。しかしながら、フジツボの付着時期を正確に予測することはできないことから、結果的には長期間にわたって塩素注入を継続することによりフジツボの付着を抑制しているのが現状であり、環境負荷が非常に大きいという問題がある。したがって、環境負荷を低減し、また、防除対策のコストダウンを図るためにも、フジツボが付着する直前にピンポイントで塩素注入を行うことが好ましい。そこで、フジツボの付着時期を正確に予測する技術の確立が望まれている。
【0004】
ところで、海洋等の環境中には様々な種のフジツボが存在していることから、フジツボの付着時期を正確に予測するためには、どのような種のフジツボ幼生がどのようなタイミングで発生するのかを十分に調査する必要がある。
【0005】
フジツボの種を幼生の段階で判定する方法としては、顕微鏡観察による手法が挙げられるが、プランクトンサンプル中に存在する複数種のフジツボ幼生から形態分類学上の差異のみを頼りにフジツボ幼生の種を判定することは極めて困難である。
【0006】
そこで、付着期のフジツボ幼生の種を判定する技術として、特許文献1のような方法が提案されている。具体的には、海水から採集されたタテジマフジツボ、アメリカフジツボ、アカフジツボ、サンカクフジツボ、オオアカフジツボ、サラサフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボおよびヨーロッパフジツボを含むフジツボ種の付着期幼生(キプリス幼生)に対して、波長が400〜440nmの励起光を照射し、発光した波長475nm以上の蛍光分布パターンをデジタル画像情報としてコンピュータに入力し、この情報をコンピュータに予め登録された種に固有の体内蛍光分布パターン認識情報と比較して、これらの蛍光分布パターンがマッチングしたフジツボ類の種を判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−12467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載のフジツボ幼生の種判定方法では、成長初期段階にあるノープリウス幼生期のフジツボ種の判定を行うことができない。したがって、フジツボの付着時期の予測が遅れて付着抑制対策を確実に実行できなくなる虞がある。また、蛍光パターンが類似している種が存在する結果、種の判定を高精度に行うことができないという問題も有している。さらに、キプリス幼生が死んでしまうと、励起光を照射してもキプリス幼生からの蛍光発光が生じなくなり、種の判定ができなくなることから、キプリス幼生を生きたまま種の判定に供する必要があるという煩雑さが伴う。
【0009】
また、フジツボの付着時期を正確に予測するためには、フジツボ幼生の高精度な種判定手法と共に、その個体数を定量的に分析する手法を確立する必要がある。このことは、同一海域に存在し得るフジツボ幼生に対して特に要請される。
【0010】
そこで、本発明は、北方海域に存在し得る北方系フジツボであるミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボについて、ノープリウス幼生期及びキプリス幼生期のフジツボの種を簡易且つ高精度に判定する方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、北方海域に存在し得る北方系フジツボであるミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボについて、ノープリウス幼生期及びキプリス幼生期のフジツボの種を簡易且つ高精度に判定すると共に、その個体数を定量的に分析する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本願発明者等は、遺伝子解析技術からのアプローチにより各種フジツボを分子レベルで種々検討した。その結果、各種フジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の塩基配列情報に基づき、ミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボをそれぞれ分子レベルで特異的に認識するプライマー対を開発することに成功し、本願発明に至った。
【0013】
即ち、本発明のフジツボ種判定用プライマーセットは、下記(1)〜(3)のうち少なくとも一組のプライマー対を含むものである。
(1)配列番号1及び2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むミネフジツボ(Balanus rostratus)検出用プライマー対、
(2)配列番号3及び4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むチシマフジツボ(Semibalanus cariosus)検出用プライマー対、
(3)配列番号5及び6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むハナフジツボ(Balanus crenatus)検出用プライマー対
【0014】
(1)のプライマー対は、ミネフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列を特異的に認識する。即ち、ミネフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列のみを認識し、ミネフジツボと比較的近縁と考えられるチシマフジツボ、ハナフジツボ、キタアメリカフジツボ、サンカクフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボ、ココポーマアカフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、さらには実海域に一般的に存在しているプランクトンの遺伝子を認識しない。したがって、(1)のプライマー対によれば、ミネフジツボの遺伝子と特異的にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を起こす。
【0015】
(2)のプライマー対は、チシマフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列を特異的に認識する。即ち、チシマフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列のみを認識し、チシマフジツボと比較的近縁と考えられるミネフジツボ、ハナフジツボ、キタアメリカフジツボ、サンカクフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボ、ココポーマアカフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、さらには実海域に一般的に存在しているプランクトンの遺伝子を認識しない。したがって、(2)のプライマー対によれば、チシマフジツボの遺伝子と特異的にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を起こす。
【0016】
(3)のプライマー対は、ハナフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列を特異的に認識する。即ち、ハナフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列のみを認識し、ハナフジツボと比較的近縁と考えられるミネフジツボ、チシマフジツボ、キタアメリカフジツボ、サンカクフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボ、ココポーマアカフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、さらには実海域に一般的に存在しているプランクトンの遺伝子を認識しない。したがって、(3)のプライマー対によれば、ハナフジツボの遺伝子と特異的にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を起こす。
【0017】
次に、本発明のフジツボ幼生の種判定方法は、被験試料に対し、上記(1)〜(3)のうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、被験試料の遺伝子増幅の有無により被験試料に存在しているフジツボ幼生の種を判定するようにしている。
【0018】
例えば、被験試料にミネフジツボ幼生が存在している場合には、上記(1)のプライマー対がミネフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列を特異的に認識し、PCRによりミネフジツボ幼生の遺伝子の増幅が生じる。一方、被験試料にミネフジツボ幼生が含まれていない場合には、上記(1)のプライマー対によって認識される遺伝子が存在しないので、遺伝子増幅は生じない。したがって、遺伝子増幅の有無を検出することにより、被験試料に存在しているフジツボ幼生の種がミネフジツボであるか否かを判定することができる。つまり、遺伝子増幅の有無を検出することによって、被験試料に存在しているフジツボ幼生種がPCRに使用したプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種であるか否かがわかるので、これによりフジツボ幼生の種を判定できる。
【0019】
次に、本発明のフジツボ幼生個体数の定量分析方法は、被験試料に対し、上記(1)〜(3)のうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、PCRにおける遺伝子増幅量に基づき、このプライマー対に認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対し、このプライマー対を用いてPCRを行うことによりフジツボ幼生種の個体数と遺伝子増幅量との関係を調べて予め作成された検量線を用いて、被験試料に存在するフジツボ幼生種(PCRに使用したプライマー対により認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種)の個体数の定量を行うようにしている。
【0020】
例えば、上記(1)のプライマー対を用いてPCRを行うことにより、被験試料に存在するミネフジツボ幼生個体数に対応して遺伝子が増幅する。したがって、ミネフジツボ幼生個体数が既知の複数の試料それぞれに対し、上記(1)のプライマー対を用いてPCRを行うことによりミネフジツボ幼生個体数と遺伝子増幅量との関係を調べて予め作成された検量線を用いることで、被験試料の遺伝子増幅量から被験試料に存在するミネフジツボ幼生個体数を定量することができる。つまり、PCRに使用したプライマー対により認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数を定量することができる。
【0021】
ここで、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法において、PCRはリアルタイムPCRとし、遺伝子増幅量としてリアルタイムPCRにより得られるCt値を利用することが好ましい。
【0022】
また、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法において、被験試料を分画処理してからPCRに供することが好ましい。
【0023】
次に、本発明のフジツボ種判定用キットは、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも1つのプライマーをプローブとして含むものである。
【0024】
例えば、配列番号1または2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーをプローブとして含む場合、このプローブがミネフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して結合(ハイブリダイズ)する。したがって、本発明のフジツボ種判定用キットにより、被験試料に存在するフジツボ幼生の種がミネフジツボであるか否かを判定することができる。つまり、プローブとのハイブリッドの形成の有無によって、被験試料に存在しているフジツボ幼生種がプローブとして使用したプライマーによって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種であるか否かがわかるので、これによりフジツボ幼生の種を判定できる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載のフジツボ種判定用プライマーセットによれば、ミネフジツボ、チシマフジツボまたはハナフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識することができ、このプライマーセットをPCRに供することで、この特定領域の遺伝子断片のみを増幅することができる。
【0026】
請求項2記載のフジツボ幼生種判定方法によれば、被験試料に複数種のプランクトンが多数存在している場合であっても、PCRに使用するプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種を特異的に検出して、フジツボ幼生の種を判定することができる。
【0027】
請求項3記載のフジツボ幼生個体数の定量方法によれば、被験試料に複数種のプランクトンが多数存在している場合であっても、PCRに使用するプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種のみを特異的に検出して定量することができる。
【0028】
請求項4記載のフジツボ幼生個体数の定量方法によれば、被験試料に複数種のプランクトンが多数存在している場合であっても、リアルタイムPCRに使用するプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種のみを特異的に検出して定量することができる。しかも、請求項1に記載のフジツボ種判定用プライマーセットにより増幅されるDNA断片長は150bp以内に収まることから、リアルタイムPCRを行うためのDNA断片長として好適な長さとなり、リアルタイムPCRによるCt値の測定を精度良く行うことが可能になる。
【0029】
請求項5に記載のフジツボ幼生個体数の定量分析方法によれば、被験試料が予め分画処理されてからPCRに供されるので、例えば、初期ノープリウス幼生期にあるフジツボ幼生と、後期ノープリウス幼生期及びキプリス幼生期にあるフジツボ幼生とを分画して定量することにより定量精度を高めることが可能となる。
【0030】
請求項6記載のフジツボ種判別用キットによれば、配列番号1〜6記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも一つのプライマーをプローブとして含んでいるので、プローブとして含まれるプライマーによって認識される遺伝子を有するフジツボ種について、そのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識することができ、被験試料に存在するフジツボ幼生種の種判定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】配列番号1及び2の塩基配列からなるプライマー対を用いて各種フジツボ成体の鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図2】配列番号3及び4の塩基配列からなるプライマー対を用いて各種フジツボ成体の鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図3】配列番号5及び6の塩基配列からなるプライマー対を用いて各種フジツボ成体の鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図4】配列番号1及び2の塩基配列からなるプライマー対を用いてプランクトンサンプルの鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図5】配列番号3及び4の塩基配列からなるプライマー対を用いてプランクトンサンプルの鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図6】配列番号5及び6の塩基配列からなるプライマー対を用いてプランクトンサンプルの鋳型DNAに対しPCRを行うことにより得られた増幅産物のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図7】反応液のミネフジツボの鋳型DNA濃度を0.2〜20ng/μLとしたときの配列番号1及び2の塩基配列からなるプライマー対を用いたPCR後のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図8】反応液のチシマフジツボの鋳型DNA濃度を0.2〜20ng/μLとしたときの配列番号3及び4の塩基配列からなるプライマー対を用いたPCR後のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図9】反応液のハナフジツボの鋳型DNA濃度を0.2〜20ng/μLとしたときの配列番号5及び6の塩基配列からなるプライマー対を用いたPCR後のアガロース電気泳動像を示す図である。
【図10】ミネフジツボの鋳型DNA濃度とリアルタイムPCRのCt値との関係を示す図である。
【図11】チシマフジツボの鋳型DNA濃度とリアルタイムPCRのCt値との関係を示す図である。
【図12】ハナフジツボの鋳型DNA濃度とリアルタイムPCRのCt値との関係を示す図である。
【図13】DNAチップの実施の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
本発明のフジツボ種判定用プライマーセットは、下記(1)〜(3)のうち少なくとも一組のプライマー対を含むものである。
【0034】
(1)ミネフジツボ検出用プライマー対
このプライマー対は、配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーと、配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーとからなるものである。このプライマー対により、配列番号7で示されるミネフジツボのミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子解析領域のうち、36〜148番目の113bpのDNA断片が増幅される。
【0035】
(2)チシマフジツボ検出用プライマー対
このプライマー対は、配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーと、配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーとからなるものである。このプライマー対により、配列番号8で示されるチシマフジツボのミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子解析領域のうち、98〜247番目の150bpのDNA断片が増幅される。
【0036】
(3)ハナフジツボ検出用プライマー対
このプライマー対は、配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーと、配列番号6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーとからなるものである。このプライマー対により、配列番号9で示されるハナフジツボのミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子解析領域のうち、97〜244番目の148bpのDNA断片が増幅される。
【0037】
尚、各プライマーの塩基配列は、配列番号1〜6で示される塩基配列に限定されるものではなく、プライマーの一端または両端が延長されたプライマーであって、対応するフジツボ種の12S rRNA遺伝子の特定領域の塩基配列と相補的な配列を有して特異的に認識するプライマーも包含される。但し、プライマー長は最大でも40塩基とすることが好ましい。プライマー長を40塩基超とすると、非特異的なアニーリングが起こり易くなり、目的のDNA断片の増幅が検出できなくなる虞がある。また、プライマーの一端または両端を短縮してもよいが、プライマー長は最小でも18塩基とすることが好ましい。18塩基未満とすると、目的のDNA断片の増幅が検出できなくなる虞がある。
【0038】
本発明のプライマーセットの各オリゴヌクレオチドは、例えば汎用のオリゴヌクレオチド合成装置を用いて化学的に合成することができるがこれに限定されるものではなく、当該技術分野において公知あるいは新規の他の方法を用いて合成してもよい。
【0039】
次に、本発明のフジツボ幼生の種判定方法について説明する。
【0040】
本発明のフジツボ幼生の種判定方法は、被験試料に対し、上記のプライマー対のうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、被験試料の遺伝子増幅の有無により被験試料に存在しているフジツボ幼生の種を判定するようにしている。
【0041】
被験試料としては、フジツボ幼生を1個体以上含有する可能性のあるあらゆる種類の試料が包含される。例えば、複数種のプランクトンを多数含有している海水等の環境サンプルは勿論のこと、人工飼育水槽の飼育水等も被験試料とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
被験試料からは塩分が含まれる海水や飼育水等をできるだけ除き、被験試料中のプランクトンをエタノールに浸漬して固定することが好ましい。この処理により、被験試料中のプランクトンに含まれる酵素等が失活してDNAが分解等を起こすことがなくなり、被験試料の長期保存が可能となると共に、PCRに悪影響を及ぼす虞のある塩分の析出を防ぐことができる。エタノール固定後は、室温(20℃程度)で保存してもよいが、15℃程度で保存することが好適であり、10℃程度で保存することがより好適であり、5℃程度で保存することがさらに好適である。低温保存することで、プランクトンに含まれる酵素の活性を確実に抑えることができ、DNAの分解を防止することができる。エタノールに固定した被験試料は、例えばエッペンドルフチューブなどのチューブに入れて乾燥させる。エタノールは揮発しやすいので、乾燥を素早く行うことができる。尚、エタノール以外の揮発性有機物、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン等を用いても同様の効果を発揮する。
【0043】
但し、被験試料中のプランクトンをエタノール等に浸漬して固定する処理は本発明においては必須処理ではない。即ち、滅菌水等で被験試料中のプランクトンを十分に洗浄して塩分を除いた後、風乾等を行うようにしても良いし、DNAが分解しない程度に熱をかけて乾燥を行うようにしても良い。
【0044】
ここで、被験試料に対しDNA抽出処理を施すようにしてもよい。この場合、プランクトン等に含まれる有機物等によるPCRへの悪影響を防いで、より確実にフジツボ幼生の種の判別を行うことが可能になる。DNA抽出処理方法としては、当該技術分野において公知あるいは新規の方法を適宜用いることができる。
【0045】
PCRは、被験試料中のDNAを鋳型として、上記プライマーセットのうちの一組以上のプライマー対を用いて行われる。PCR条件としては、当該技術分野において公知あるいは新規の条件を適宜用いることができる。例えば、Taqポリメラーゼアドバンテージ2(クローンテック社)を用いたPCRが挙げられるが、これに限られるものではない。PCRを行うことにより、被験試料中にフジツボのミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子が含まれている場合には、遺伝子増幅が起こり、増幅産物が得られる。より詳細には、使用したプライマー対に対応するフジツボ種のミトコンドリアDNA上にコードされた12S rRNA遺伝子が被験試料中に含まれている場合には、遺伝子増幅が起こり、増幅産物が得られる。
【0046】
PCRによって得られた増幅産物の検出は、例えば、PCR反応混合物をゲル電気泳動で展開し、非検出対象成分(鋳型DNA、プライマー等)と検出対象成分である増幅産物とを分離した状態で蛍光染色によって増幅産物のバンドをその分子量から判断して特定し、そのバンドの蛍光強度を測定することにより行うことができる。しかしながら、この方法に限定されるものではなく、当該技術分野において公知あるいは新規の他の方法を用いることができる。増幅産物が検出された場合には、PCRに使用したプライマー対によって認識される遺伝子を有するフジツボ種が被験試料に存在していることになる。したがって、PCRに使用したプライマーに応じて、被験試料に存在しているフジツボ種を判定することができる。
【0047】
ここで、本発明のフジツボ幼生種の判定方法は、上記プライマーセットのうちの一組のプライマー対毎にPCRを行って、被験試料に存在するフジツボ幼生の種判定を行うようにしてもよいが、上記プライマーセットのうち複数組のプライマー対を被験試料に投入してPCRを行い、増幅DNAの分子量の差異から、被験試料に存在するフジツボ幼生の種判定を行うようにしてもよい。
【0048】
次に、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法について説明する。本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法は、被験試料に対し、上記プライマーセットのうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、PCRにおける遺伝子増幅量に基づき、このプライマー対に認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対しこのプライマー対を用いてPCRを行うことによりフジツボ幼生種の個体数と遺伝子増幅量との関係を調べて予め作成された検量線を用いて、被験試料に存在するフジツボ幼生種の個体数の定量を行うようにしている。以下に、リアルタイムPCRを利用した場合の実施形態について、詳細に説明する。
【0049】
リアルタイムPCRを利用した本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法は、被験試料に対し、上記プライマーセットのうちの一組のプライマー対を用いてリアルタイムPCRを行うことにより得られるCt値に基づき、このプライマー対に認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対し、このプライマー対を用いてリアルタイムPCRを行うことによりフジツボ幼生種の個体数とCt値との関係を調べて予め作成された検量線を用いて、被験試料に存在するフジツボ幼生種(リアルタイムPCRに使用したプライマー対により認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種)の個体数の定量を行うようにしている。
【0050】
即ち、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法は、フジツボ種毎にフジツボ幼生個体数とCt値との関係を示す検量線を作成する。そして、この検量線を利用して、被験試料のCt値から、被験試料に含まれるフジツボ幼生個体数の定量を行うようにしている。
【0051】
このように、フジツボ種毎にフジツボ幼生個体数とCt値との関係を示す検量線を予め作成しておくことで、被験試料に対し、上記プライマーセットのうち一組のプライマー対毎にリアルタイムPCRを行うことにより、ミネフジツボ、チシマフジツボ、ハナフジツボの幼生個体数の定量分析を行うことができる。そして、被験試料に上記フジツボ種の幼生が存在していない場合には、フジツボ幼生の個体数が0という結果が得られるので、被験試料に存在しているフジツボ幼生種の判定と個体数の定量とを同時に実施できることになる。
【0052】
ここで、本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法は、本発明のフジツボ幼生種判定方法を行った後に実施するようにしてもよい。例えば、上記プライマーセットのうちの一組または2組以上のプライマー対を用いて被験試料に存在するフジツボ幼生種を絞り込んだ後に、被験試料に存在するフジツボ幼生種に対応するプライマー対を用いて幼生個体数の定量分析を実施することで、定量分析を無駄なく効率的に実施することができる。また、フジツボ種の判定と定量を同時に行うようにしてもよい。例えば、上記プライマーセットのうちの二組以上のプライマー対を用いて被験試料に存在するフジツボ幼生種を絞り込む際に、電気泳動法を利用して遺伝子増幅の有無をバンドの発現の有無により確認すると共に、バンドの位置からフジツボ幼生種を検出し、さらに遺伝子増幅量をバンドの濃淡から判断し、予め作成されたバンドの濃淡と幼生個体数との関係を示す検量線から、フジツボ幼生個体数の定量を行うようにしてもよい。
【0053】
尚、リアルタイムPCR法とは、PCRによるDNA断片の増幅量をリアルタイムでモニタリングして解析する手法である。この手法を用いることで、被験試料の特定の塩基配列をもつ鋳型DNAの濃度の定量分析を行うことができる。即ち、段階希釈した濃度既知の特定の塩基配列をもつ鋳型DNAを標準試料としてPCRを行い、Ct(Threshold Cycle)値を測定する。この結果に基づいて、Ct値を縦軸に、PCR開始前の特定の塩基配列をもつ鋳型DNA濃度を横軸にプロットし、検量線を作成する。つまり、この検量線が、試料の特定の塩基配列をもつ鋳型DNAの濃度とCt値との関係を表す。したがって、濃度未知の被験試料のCt値をリアルタイムPCRにより測定することで、被験試料中の特定の塩基配列をもつ鋳型DNAの濃度を決定することができる。
【0054】
リアルタイムPCRは、例えば、サーマルサイクラーと蛍光分光光度計とを一体化したリアルタイムPCR装置により行うことができる。また、DNA増幅量のモニタリングは、蛍光試薬を用いた蛍光モニター法により行われる。例えば、二本鎖DNAに結合することで蛍光発光する試薬(インターカレータ)をPCR反応系に添加し、PCR反応により合成される二本鎖DNA(PCR産物)にインターカレータを結合させ、励起光を照射することにより蛍光発光を生じさせて、蛍光強度を検出することによりDNA増幅量のモニタリングを行う、所謂インターカレータ法を用いることができる。尚、インターカレータ法に限定されるものではなく、TaqManプローブ法などを適宜採用することもできる。
【0055】
ここで、DNA増幅量のモニタリングは、サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子として配列番号37で示される塩基配列からなる分子を用いたサイクリングプローブ法により実施するのが特に好ましい。
【0056】
サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子として配列番号37で示される塩基配列からなる分子を用いることで、このプローブが、ミネフジツボの12S rRNA遺伝子解析領域のうち、上記(1)のプライマー対によるDNA増幅部位中の特定領域を特異的に認識する。したがって、被験試料にミネフジツボが含まれている場合には、サイクリングプローブが、PCRにより増幅されたミネフジツボのDNAの特定領域とハイブリッドを形成する。尚、チシマフジツボについても上記(2)のプライマー対によるDNA増幅部位に基づき、サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子として使用可能な分子の設計が可能である。また、ハナフジツボについても上記(3)のプライマー対によるDNA増幅部位に基づき、サイクリングプローブのDNA−RNA結合分子として使用可能な分子の設計が可能である。尚、インターカレータ法やTaqManプローブ法などによる検出を行っても良い。
【0057】
サイクリングプローブには、RNA部(配列番号37に示される塩基配列においては、3番目のAがRNAである)を挟んで5’端に蛍光物質が結合し、3’端にこの蛍光物質の発する蛍光を消光する物質(クエンチャー)が標識されている。サイクリングプローブは、インタクトな状態にある場合には、クエンチャーの作用により強い蛍光を発することは無い。しかし、増幅DNAの相補的な配列とハイブリッドを形成した後にRNA切断酵素であるRNaseHを作用させると、サイクリングプローブがRNA部で切断され、クエンチャーが作用しなくなって強い蛍光を発するようになる。したがって、この蛍光強度を測定することで、仮に被験試料に存在するプランクトン等の遺伝子がPCRによって増幅されてしまうケースが生じたとしても、目的のフジツボ幼生種の遺伝子増幅のみを選択的に検出することが可能となり、目的のフジツボ幼生個体数の定量を確実且つ精度良く行うことができる。尚、蛍光物質及び消光物質については、リアルタイムPCR装置で検出可能なものを適宜選択することができる。
【0058】
尚、リアルタイムPCRにおけるCt値とは、蛍光標識されたPCR産物量が指数関数的なDNA増幅期の中で一定量となるときの値、即ち、一定の蛍光強度に達するまでのPCRサイクル数を表している。PCRによるDNAの増幅は、初期には指数関数的に起こり、1次関数的な増幅を経て、最終的にはプラトーに達する。指数関数的なDNA増幅期における一定PCR産物量に達するPCRサイクル数と初期鋳型DNA量には高い相関がある。したがって、初期鋳型DNA量、つまり、試料の特定の塩基配列をもつDNAの濃度とCt値との相関を調べることで、Ct値から試料の特定の塩基配列をもつDNAの濃度を推定する為の検量線を作成することができる。また、DNAの増幅曲線を二回微分して最大値を算出し、この最大値に達するまでのサイクル数、つまり、PCR産物量の増幅がバックグラウンド値から指数関数的に変化する時点のサイクル数を検出し、これをCt値とするようにしてもよい。
【0059】
本発明のフジツボ幼生個体数の定量方法に用いる検量線は、フジツボ幼生個体数が既知の複数の試料それぞれに対し、このフジツボ幼生が有する遺伝子を認識するプライマー対を用いてリアルタイムPCRを行うことによりフジツボ幼生個体数とCt値の関係を調べて予め作成される。
【0060】
試料の処理方法に関しては、上記と同様、試料からは塩分が含まれる海水や飼育水等をできるだけ除き、試料中のフジツボ幼生をエタノールに浸漬して固定し、乾燥させることが好ましい。
【0061】
試料のDNA抽出処理方法としては、当該技術分野において公知または新規の方法を適宜用いることができる。例えば、DNeasy Tissue Kit(キアゲン社)によるシリカゲル膜を利用したDNA抽出方法、Quick Gene DNA Tissue KitS(フジフイルム社)、Soil DNA Isolation Kit (NORGEN社)等を用いることが好適である。特に、Quick Gene DNA Tissue KitS(フジフイルム社)を用いた場合には、試料間のDNA抽出ばらつきを抑えて、フジツボ幼生の定量をより正確に実施し易くなる。また、Soil DNA Isolation Kit (NORGEN社)を用いた場合には、サンプル中の泥や砂の影響を抑えてリアルタイムPCRに適したDNA抽出サンプルを得ることができ、より好適である。
【0062】
また、特にキプリス幼生においては、クチクラの殻(甲皮)の堅さがサンプルにより異なる場合があり、これが原因で試料のDNA抽出効率が低下する場合がある。そこで、試料からDNAを抽出する前に、クチクラの殻の破砕処理を行うことが好適である。例えば、エタノールを除いて乾燥させた試料の入ったエッペンドルフチューブにジルコニアボール(直径2〜3mm)を数個(例えば、3〜5個)入れて、強く震盪することで組織を破砕した後、上記のDNA抽出処理に供することが好適である。
【0063】
ここで、フジツボ幼生は、I期ノープリウス幼生として孵化後すぐにII期ノープリウスとなり、その後は、海水中の植物プランクトンを餌として取り込んで成長する。そしてVI期ノープリウス幼生を経て摂餌をしない付着期のキプリス幼生となる。成長に伴い、個体サイズ、細胞数が増加するため、標的となる12S rRNA遺伝子の1個体当たりのコピー数も増加することになる。したがって、幼生の個体数が同じであっても、リアルタイムPCRの結果示されるCt値が幼生の発生段階で異なってくる。
【0064】
本願発明者の実験によると、フジツボのキプリス幼生の12S rRNA遺伝子コピー数は初期(I期及びII期)ノープリウス幼生の12S rRNA遺伝子コピー数の5倍であることが確認されている。この値はキプリス幼生と初期ノープリウス幼生の体積差を反映している。
【0065】
したがって、検量線を作成する際に使用する試料としては、幼生の各個体の12S rRNA遺伝子コピー数がほぼ一定である試料を用いることが好ましい。この場合には、12S rRNA遺伝子コピー数が試料中の幼生個体数を正確に反映するので、幼生個体数に対する正確なCt値を得ることができる。例えば、キプリス幼生のみが含まれている試料を用いれば、キプリス幼生の個体数に対応する正確なCt値を得ることができるし、初期ノープリウス幼生のみが含まれている試料を用いれば、初期ノープリウス幼生の個体数に対応する正確なCt値を得ることができる。
【0066】
また、幼生個体数が既知の複数の試料は、上記とは別の方法でも得ることができる。即ち、成体試料等から鋳型DNAを抽出し、これを幼生個体数と同等の遺伝子コピー数となるように段階希釈することによって、幼生個体数が既知の複数の試料を得るようにしてもよい。
【0067】
被験試料の種類や処理方法に関しては、上記と同様である。但し、DNA抽出処理方法に関しては、検量線作成時と同様の方法を採用することが定量値のばらつきを抑える上で好ましい。また、被験試料に対して行うリアルタイムPCR条件は検量線作成時のリアルタイムPCR条件と同様とする。
【0068】
ここで、被験試料を分画処理してからリアルタイムPCRに供することにより、精度の高い定量分析を実施することが可能となる。即ち、フジツボ幼生は成長段階に応じてその体積が異なるため、例えば、被験試料を篩にかけて、篩を通過した体積の小さいフジツボ幼生を含む分画成分をリアルタイムPCRして得られるCt値から、分画成分に含まれているフジツボの幼生個体数を初期ノープリウス幼生個体数の総量として換算することで、被験試料に含まれているフジツボの初期ノープリウス幼生の真の個体数により近い値を得ることができる。また、篩を通過しなかった体積の大きいフジツボ幼生を含む分画成分をリアルタイムPCRして得られるCt値から、分画成分に含まれているフジツボ幼生の個体数をキプリス幼生個体数とVI期ノープリウス幼生個体数の総量として換算することで、被験試料に含まれているフジツボのキプリス幼生とVI期ノープリウス幼生の真の個体数により近い値を得ることができる。したがって、どの成長段階にあるフジツボ幼生が被験試料中にどの程度存在するのかをより具体的に明らかにすることが可能となる。尚、分画方法は篩によるものには限定されず、例えば遠心分離処理を用いてもよい。また、分画処理により、例えば初期(I期及びII期)ノープリウス幼生のみを被験試料から分離した成分をリアルタイムPCRして得られるCt値から、被験試料に含まれている初期(I期及びII期)ノープリウス幼生の個体数を高精度に定量することも可能であるし、VI期ノープリウス幼生及びキプリス幼生を被験試料から分離した成分をリアルタイムPCRして得られるCt値から、被験試料に含まれているVI期ノープリウス幼生及びキプリス幼生の個体数を高精度に定量することも可能である。
【0069】
本発明のフジツボ幼生の定量方法により、実海域でのフジツボの付着時期を予測することが可能になる。即ち、Ct値から換算される幼生個体数の発生段階による相違は最大でも5倍である。これは、実海域での幼生出現ピーク時の個体数増加に比べれば小さい値であり、付着時期予測には大きな問題点とはならないと考えられる。これまでに実海域でフジツボ幼生の個体数変動と付着時期を詳細に調査した報告、例えば、志津川湾におけるフジツボ幼生および付着板の調査(電力中央研究所報告V05033)や、柳井・三隅火力発電所前面海域での付着板を用いた調査(中国電力 技研時報101、p75−83)によると、フジツボの付着盛期は1ヶ月以内に集中し、この期間内に急激に付着個体が増加すると報告されている。また、飼育実験からフジツボの幼生は、孵化後1〜2週間で付着期幼生になり、基盤に付着すると考えられる。したがって、付着期前の比較的短期間に幼生の出現ピークがあり、その際の幼生数の増加率は5倍という値に比較して圧倒的に大きな値、例えば、3日〜1週間毎に被験試料をサンプリングした場合、サンプリング量にもよるが、数十倍〜数百倍、あるいはそれ以上の増加率となることが予想される。よって、本発明の定量方法によりフジツボ幼生個体数の定量分析を定期的(例えば、3日〜1週間毎)に行うことで、実海域でのフジツボの付着時期を確実に予測することが可能になる。
【0070】
次に、本発明のフジツボ種判定用キットについて説明する。
【0071】
本発明のフジツボ種判定用キットは、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも1つのプライマーをプローブとして含むものである。
【0072】
即ち、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうち一つのプライマーのみをプローブとして含むことによって、このプライマーによって認識される遺伝子を有するフジツボ種のみを検出するキットとすることができる。また、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうち2つ以上のプライマー(但し、異なるプライマー対由来の2つ以上のプライマー)をプローブとして含むことによって、2種以上のフジツボを検出するキットとすることができる。
【0073】
本発明のフジツボ種判定用キットの一例として、図13に示すDNAチップが挙げられる。このDNAチップ1は、基板2と、基板2の表面に形成されたスポット3と、スポット3内に固定されたDNAプローブ4により構成される。
【0074】
基板2としては、ガラス基板、シリコンウエハー、ナイロン膜、セルロース膜等を適宜用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
スポット3には、DNAプローブ4が等量ずつ固定される。DNAプローブ4は、配列番号1〜6のいずれかに示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも1つのプライマーである。例えば、スポット3にはそれぞれ異なるフジツボ種を検出するプライマーをプローブとして固定しておく。
【0076】
DNAチップ1を用いて、フジツボ幼生の種判定を行う。被験試料はDNA抽出処理後、DNAを一本鎖に調製し、蛍光剤や発色剤を添加して1本鎖DNAを蛍光標識する。そして、これをDNAチップ1のスポット3に滴下し、DNAプローブ4と結合(ハイブリダイズ)させる。未結合の一本鎖DNAは洗い流し、スポット3の蛍光強度を検出することにより、蛍光発光が生じたスポットを特定することで、被験試料中のフジツボ幼生の検出を行うことができる。
【0077】
尚、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0078】
例えば、上述の実施形態では、サーマルサイクラーと蛍光分光光度計とを一体化したリアルタイムPCR装置を用いてフジツボ幼生個体数の定量分析を行う場合について詳細に説明したが、PCR装置やヒートブロックを利用して遺伝子増幅を行い、遺伝子増幅量をモニタリングすることによって、フジツボ幼生個体数の定量を行うことも可能である。具体的には、フジツボ幼生個体数が既知の試料を複数用意し、この試料に一定サイクルでPCR装置またはヒートブロックを用いてPCRを行い、遺伝子増幅量をモニタリングし、フジツボ幼生個体数と遺伝子増幅量との関係を示す検量線を作成しておく。そして、実海域から採集した試料を同条件でPCRして遺伝子増幅量をモニタリングし、検量線を利用して試料中のフジツボ幼生個体数の定量を行うようにしてもよい。
【0079】
遺伝子増幅量のモニタリング方法としては、公知あるいは新規の方法を各種用いることができる。例えば、分光光度計によりPCR後の溶液のDNA濃度を測定することで遺伝子増幅量をモニタリングするようにしてもよいし、電気泳動や色素によるDNA染色を利用した定量方法を用いることもできる。DNAを染色する色素としては、核酸のATに特異性があり、DNA量の測定に一般的に使用されている色素であるDAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、サイクリングプローブ法を用いてもよく、サイクリングプローブの蛍光物質としてROX:6−カルボキシ−X−ローダミン(Xはサイクリングプローブの核酸)を用い、消光物質としてEclipseを用いることで、紫外光を照射することにより赤色の強い蛍光強度を得ることができ好ましいが、これに限定されるものではない。また、蛍光物質としてROX:6−カルボキシ−X−ローダミンを用い、消光物質としてEclipseを用いたサイクリングプローブ法のように、可視光領域において強い蛍光発光を生じる場合には、目的とするフジツボ幼生の増幅DNAのみを、蛍光物質を励起するための励起光を照射するだけで目視で検出することが可能となるので、フジツボ幼生の有無およびおおよその量を目視で容易に検出することができる。
【0080】
また、本発明の定量方法は、上記のプライマー対の2組以上を同時に使用してPCRを行うことにより実施するようにしてもよい。例えば、上記(1)と(2)のプライマー対を用いてPCRを行い、電気泳動法を利用して遺伝子増幅の有無をバンドの発現の有無により確認すると共に、バンドの位置からフジツボ幼生の種を検出し、さらに遺伝子増幅量をバンドの濃淡から判断し、予め作成されたバンドの濃淡と幼生個体数との関係を示す検量線から、フジツボ幼生の個体数の定量を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0081】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0082】
(実施例1)
各種フジツボ成体の12S rRNA遺伝子の塩基配列のデータベース化を行い、このデータベースに基づいて各種フジツボに特異的な塩基配列を特定し、プライマーを設計した。データベース化に供したフジツボ種を表1に示す。アカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、ココポーマアカフジツボは採集後に室内でアルテミア、珪藻(Chaetoceros gracilis)などを餌として与えて飼育されたものを99.5%エタノール(和光純薬製)に浸して固定し、実験に使用するまで4℃で保存した。なお、エタノール浸漬前は、数日間餌を与えずアルテミア由来のDNAの影響を排除した。その他のフジツボは採集直後に99.5%エタノールに浸漬し4℃で保存した。尚、オオアカフジツボは伊豆半島にて採集したものを使用した。
【0083】
【表1】
【0084】
大型のフジツボ成体であるアカフジツボ、キタアメリカフジツボ、ミネフジツボ、アメリカフジツボ、タテジマフジツボ、サラサフジツボ、シロスジフジツボ、サンカクフジツボ、チシマフジツボ、クロフジツボ、カメノテ、エボシガイ、ココポーマアカフジツボ、ヨーロッパフジツボ、ドロフジツボ、オニフジツボ、オオアカフジツボ、Cryptolepas rhachianechi、ミミエボシ、スジエボシは、解剖後、軟体部、可能であれば筋肉組織の小片(2〜3mm角)を清浄なメスを用いて切り出し、キアゲン社のDNeasy Blood Tissue Kitを使用して総DNAの抽出を行った。DNA抽出はDNeasy Blood Tissue Kitに付属のマニュアルに準じて行った。得られたDNAは、100μLの10mM Tris−HCl/1mM EDTAバッファー(TEバッファー、pH8.0)に溶解した。
抽出用組織が小さい場合は適宜溶解バッファー量を減らした。また小型のフジツボであるイワフジツボ、ケハダカイメンフジツボ、ムツアナフジツボ、ハナフジツボ、Semibalanus balanoides、Elminius modestus、コウダカキクフジツボ、キタイワフジツボ、また、上記大型のフジツボ成体に属するタテジマフジツボの中でも小型の個体に関しては、1個体の軟体部全体をそのまま同様の方法で抽出に供した。
【0085】
TEバッファーに溶解したDNAの濃度を分光光度計(GeneQuant Pro、アマシャムバイオサイエンス社)により測定した結果、ほとんどのサンプルで5μg以上のDNAが得られていることが確認されたが、イワフジツボなど非常に小型のフジツボにおいては1個体から得られるDNA量が少なかった。DNA濃度の測定結果に基づいて、20ng/μLのDNA濃度としたTEバッファー溶液を調整し、これをPCRの際に鋳型DNAとして供した。
【0086】
次に、上記操作により得られた総DNAを鋳型として、12S rRNA遺伝子をPCRにより増幅した。プライマーには、フジツボミトコンドリアの12S rRNA遺伝子に対するプライマーとして文献1〜4で報告されているものを用いた。
(文献1: R.A.Begum,T.Yamaguchi and S.Watabe(2004).Molecular phylogeny of thoracican barnacles based on the mitochondrial 12S and 16S rRNA genes.Sessile organisms,21,47-54.
文献2: T.D.Kocher, W.K.Thomas, A.Meyer, S.V.Edwards, S.Paabo, F.X.Villablansca and A.C.Wilson(1989). Dynamics of mitochondrial DNA evolution in animals: amplification and sequencing with conserved primers. Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,6196-6200.
文献3: O.Mokady, S.Rozenblatt, D.Graur and Y.Loya(1994). Coral-host specificity of red sea Lithophaga bivalves: interspecific and intraspecific variation in 12S mitochondrial ribosomal RNA.Mol.Mar.Biol.Biotech.,3,158-164.
文献4: S.R.Palumbi(1996). Nucleic acids II: the polymerase chain reaction. In: Molecular Systematics,ed. D.M.Hillis, C.Mortiz and B.K.Mable, Sinauer Associates, Sunderland, pp.205-248.)
【0087】
表2と配列番号7及び8に使用したプライマーの配列を示す。なお、これらのプライマーは、合成(シグマジェノシス)により得られたものであり、PCRに供するまで50pmol/μLのストック溶液(シグマジェノシス製)中に−20℃で保存した。使用前にストック溶液を純水(脱塩蒸留水、無菌、DNase、RNaseフリー、和光純薬)で5倍希釈し10pmol/μLとしてPCRに供した。PCRは、上記の操作により抽出した総DNAを鋳型とし、Taqポリメラーゼとしてジーンタック(ニッポンジーン)またはアドバンテージ2(クローンテック)を用いて行った。なお、鋳型DNAは20ng/μLに調製した溶液を2μL(40ng)、各プライマー溶液1μL(10pmol)を20μLの反応液に加えた。反応にはタカラPCRサーマルサイクラーDice(TP600)を用い、反応液の調製はそれぞれのTaqポリメラーゼに添付された方法に従った。具体的には、ジーンタックに関しては、滅菌水13.20μL、10xPCRバッファー(10xGene Taq Universal Buffer)2.00μL、2.5mM dNTP混合物1.60μL、ジーンタックポリメラーゼ0.20μL、プライマーはそれぞれ0.50μL、鋳型DNAは2.0μLとした。クローンテックアドバンテージ2に関しては、滅菌水14.20μL、10xPCR SAバッファー(10xGene Taq Universal Buffer)2.00μL、50×dNTP混合物0.40μL、50×ポリメラーゼ mix0.40μL、プライマーはそれぞれ0.50μL、鋳型DNAは2.0μLとした。なお、アドバンテージ2においては、添付された2種類の反応バッファーのうち良好な結果が得られたSAバッファーを使用した。
【0088】
【表2】
【0089】
まず、グラジエント機能を利用して最適アニーリング温度の推定を行った。グラジエントPCRでのアニーリング温度は、45.0℃〜65.0℃の12段階に設定した。96℃(ジーンタック)または95℃(アドバンテージ2)で1分間保ったあと、熱変性96℃(ジーンタック)または95℃(アドバンテージ2)30秒間、各温度でのアニーリング30秒間、伸長反応72℃(ジーンタック)または68℃(アドバンテージ2)30秒間という反応を35サイクル繰り返す条件で行った。反応産物はサイズマーカーとともに2%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Safe(インビトロジェン)によるDNAバンドの可視化により特定領域の増幅の有無を確認した。
【0090】
その結果、12S rRNA遺伝子のPCRにおいては、ニッポンジーンのジーンタックを用いた場合、アニーリング温度は53℃が最適であり、クローンテックのアドバンテージ2を用いた場合は54℃が最適ではあったが、45.0℃〜65.0℃のアニーリング温度範囲であれば、安定してPCRすることが可能であった。なお、増幅されたDNA断片はいずれのフジツボにおいても約350bpの長さであった。
【0091】
アガロース電気泳動にて増幅を確認したPCR産物からエタノール沈澱によりDNAを回収し、その一部を塩基配列決定に供した。PCR産物に99.5%エタノール50μL、3Mの酢酸ナトリウム(和光純薬製)2μL、125mMのEDTA(和光純薬製)2μLを加え、撹拌混合して15分間室温で静置した後、13800gで20分間遠心分離処理した。沈澱はさらに70μLの70%エタノールで洗浄し、得られた沈澱を乾燥後、6μLの純水(脱塩蒸留水、無菌、DNase、RNaseフリー、和光純薬)に溶解した。回収されたPCR産物(鋳型DNA)1μLと配列番号7及び8に記載された塩基配列からなるプライマーを用い、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)により、サイクルシーケンス反応を行った。反応は、96℃10秒間、50℃5秒間、60℃4分間を25サイクル行い、終了後、再度エタノール沈澱を行った。得られた乾燥標品にHiDi Formamide(アプライドバイオシステムズ)20μLを加え、95℃で2分間の反応後、サンプルをDNAシーケンサーABI PRISM 310に供してシーケンシングを行った。また、塩基配列のデータはDNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング)を用いて解析した。
【0092】
各種フジツボ総DNAを鋳型とし、配列番号7及び配列番号8に記載された塩基配列からなるプライマーを用いて得られた12S rRNA遺伝子を含むDNA断片のシーケンシングの結果について、塩基配列を配列表の配列番号9〜36に示す。なお、解析領域は、得られたDNA断片のうち、全てのサンプルで塩基配列が決定できた領域である297bp〜305bpの範囲とした。また、配列表の配列番号23〜50に示す塩基配列は、それぞれの種において最も出現頻度の高かった塩基配列である。以下に、配列表の配列番号9〜36に対応するフジツボ種を明記する。
【0093】
・配列番号9 :ミネフジツボ
・配列番号10:チシマフジツボ
・配列番号11:ハナフジツボ
・配列番号12:アカフジツボ
・配列番号13:キタアメリカフジツボ
・配列番号14:アメリカフジツボ
・配列番号15:タテジマフジツボ
・配列番号16:サラサフジツボ
・配列番号17:シロスジフジツボ
・配列番号18:サンカクフジツボ
・配列番号19:ケハダカイメンフジツボ
・配列番号20:イワフジツボ
・配列番号21:クロフジツボ
・配列番号22:ムツアナヒラフジツボ
・配列番号23:カメノテ
・配列番号24:エボシガイ
・配列番号25:オオアカフジツボ
・配列番号26:キタイワフジツボ
・配列番号27:ミミエボシ
・配列番号28:オニフジツボ
・配列番号29:コウダカキクフジツボ
・配列番号30:ヨーロッパフジツボ
・配列番号31:ドロフジツボ
・配列番号32:Cryptolepas rhachianechi
・配列番号33:Elminius modestus
・配列番号34:Semibalanus balanoides
・配列番号35:スジエボシ
・配列番号36:ココポーマアカフジツボ
【0094】
なお、同一の鋳型DNAから12S rRNA用プライマーを用いてジーンタック、アドバンテージ2の2種類のTaqポリメラーゼにより増幅した場合、得られた塩基配列データは全く同じであった。
【0095】
配列表の配列番号9〜36の塩基配列について、種間で変位の大きい領域に基づき、ミネフジツボについて、特異的な塩基配列領域の特定を行ったところ、リアルタイムPCRにおいて高精度に測定できる113bpのDNA断片を挿むプライマー結合部位を選定することができた。各プライマーの塩基配列を配列表の配列番号1及び2に示す。これらのプライマーを合成(シグマジェノシス)し、以下の実験に供した。
【0096】
また、配列表の配列番号9〜36の塩基配列について、種間で変位の大きい領域に基づき、チシマフジツボについて、特異的な塩基配列領域の特定を行ったところ、リアルタイムPCRにおいて高精度に測定できる150bpのDNA断片を挿むプライマー結合部位を選定することができた。各プライマーの塩基配列を配列表の配列番号3及び4に示す。これらのプライマーを合成(シグマジェノシス)し、以下の実験に供した。
【0097】
さらに、配列表の配列番号9〜36の塩基配列について、種間で変位の大きい領域に基づき、チシマフジツボについて、特異的な塩基配列領域の特定を行ったところ、リアルタイムPCRにおいて高精度に測定できる148bpのDNA断片を挿むプライマー結合部位を選定することができた。各プライマーの塩基配列を配列表の配列番号5及び6に示す。これらのプライマーを合成(シグマジェノシス)し、以下の実験に供した。
【0098】
(1)ミネフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対について、上記方法により得られたミネフジツボ成体、ミネフジツボと比較的近縁と考えられるチシマフジツボ成体、ハナフジツボ成体、キタアメリカフジツボ成体、サンカクフジツボ成体、イワフジツボ成体、シロスジフジツボ成体、ココポーマアカフジツボ成体、ケハダカイメンフジツボ成体、アメリカフジツボ成体、タテジマフジツボ成体及びサラサフジツボ成体の鋳型DNAを用いてPCRを行い、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対の有効性とPCRの最適条件について検討した。PCRは基本的には上述の方法に従い、タカラPCRサーマルサイクラーDice(TP600)のグラジエント機能を利用して最適アニーリング温度の検討を行なった。PCR産物はアガロースゲル電気泳動(3%アガロース)後にSYBR Safe(インビトロジェン)によるDNAバンドの可視化により検出した。PCRにおけるサイクル数は30サイクルとした。
【0099】
電気泳動写真を図1に示す。図1において、aがミネフジツボ、bがチシマフジツボ、cがハナフジツボ、dがキタアメリカフジツボ、eがサンカクフジツボ、fがイワフジツボ、gがシロスジフジツボ、hがココポーマアカフジツボ、iがケハダカイメンフジツボ、jがアメリカフジツボ、kがタテジマフジツボ、lがサラサフジツボの電気泳動結果である。
【0100】
アニーリング温度の検討を行った結果、59℃でもっとも増幅効率が高かったため、この温度でのPCRを行なうこととした。ミネフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できた。これは、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対により増幅した113bpのDNA断片であると考えられた。これに対し、ミネフジツボ成体以外から調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0101】
以上の結果から、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対は、ミネフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0102】
(2)チシマフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対について、上記方法により得られたチシマフジツボ成体、チシマフジツボと比較的近縁と考えられるシロスジフジツボ成体、ドロフジツボ成体、サラサフジツボ成体、キタアメリカフジツボ成体、ミネフジツボ成体、ココポーマアカフジツボ成体、アカフジツボ成体、クロフジツボ成体、オオアカフジツボ成体、タテジマフジツボ成体及びヨーロッパフジツボ成体の鋳型DNAを用いて上記(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0103】
電気泳動写真を図2に示す。図2において、aがチシマフジツボ、bがシロスジフジツボ、cがドロフジツボ、dがサラサフジツボ、eがキタアメリカフジツボ、fがミネフジツボ、gがココポーマアカフジツボ、hがアカフジツボ、iがクロフジツボ、jがオオアカフジツボ、kがタテジマフジツボ、lがヨーロッパフジツボの電気泳動結果である。
【0104】
チシマフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できた。これは、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対により増幅した150bpのDNA断片であると考えられた。これに対し、チシマフジツボ成体以外から調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0105】
以上の結果から、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対は、チシマフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0106】
(2)ハナフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対について、上記方法により得られたハナフジツボ成体、ハナフジツボと比較的近縁と考えられるチシマフジツボ成体、ドロフジツボ成体、ミネフジツボ成体、キタアメリカフジツボ成体、サラサフジツボ成体、ケハダカイメンフジツボ成体、サンカクフジツボ成体、オオアカフジツボ成体、イワフジツボ成体、シロスジフジツボ成体及びタテジマフジツボ成体の鋳型DNAを用いて上記(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0107】
電気泳動写真を図3に示す。図3において、aがハナフジツボ、bがチシマフジツボ、cがドロフジツボ、dがミネフジツボ、eがキタアメリカフジツボ、fがサラサフジツボ、gがケハダカイメンフジツボ、hがサンカクフジツボ、iがオオアカフジツボ、jがイワフジツボ、kがシロスジフジツボ、lがタテジマフジツボの電気泳動結果である。
【0108】
ハナフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できた。これは、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対により増幅した148bpのDNA断片であると考えられた。これに対し、ハナフジツボ成体以外から調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0109】
以上の結果から、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対は、ハナフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0110】
(実施例2)
本発明のプライマー対の混合プランクトン中での有効性について検討した。
【0111】
混合プランクトンは以下のようにして得た。即ち、2006年9月5日に東京湾内で、また2006年8月3日に宮城県志津川湾内でプランクトンネット(ノルパック、口径50cm)を用いて約8mの鉛直曳きによりプランクトンサンプルの採集を行った。これにより約1600L分の海水中のプランクトンが採集されたことになる。採集したプランクトンは実験室に持ち帰った後、100μm(13XX)と1mm(20GG)の目開きのメッシュを用いてフジツボ幼生が含まれる画分を得た。つまり、フジツボ幼生は、1mmのメッシュを素通りし、100μmのメッシュでトラップされるので、1mm以上の大型プランクトンはあらかじめ除去して解析に供した。得られたプランクトンサンプルは海水を除いた後、99.5%エタノールを加えて固定し、4℃で保存した。
【0112】
尚、上記プランクトン採集時期には、ミネフジツボ幼生、チシマフジツボ幼生、ハナフジツボ幼生が採集されることはないので、採集したプランクトンサンプルにこれらのフジツボ幼生が含まれることは無い。
【0113】
東京湾にて採集した混合プランクトンサンプルと志津川湾にて採集した混合プランクトンサンプルのそれぞれについて、DNA抽出処理を行った。DNA抽出には、フジフィルム社のQuick Gene DNA Tissue KitSを用い、基本的にはこのキットに添付されたマニュアルに従って抽出した。即ち、DNA抽出用試料に180μLの抽出用バッファー(MDT)と20μLのEDTとを加えて撹拌混合処理した後、55℃で一定時間(1時間)インキュベートした(Proteinase K処理)。さらに180μLのバッファー(LDT)を加えて撹拌混合処理した後、70℃で10分間インキュベートした。次に、240μLの99.5%エタノールを加えて撹拌混合処理した後、QuickGeneMini80のカートリッジに全量処理サンプルを供した。このカートリッジに添加後に、加圧処理と750μLのWDTを加える操作を3回繰り返した(洗浄処理)。洗浄後、フィルターに吸着したDNAを100μLの溶出バッファー(CDT)によりDNAを溶出し、東京湾混合プランクトンの鋳型DNAと志津川湾混合プランクトンの鋳型DNAをそれぞれ回収して、以下の実験に供した。
【0114】
(1)ミネフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対について、実施例1で得られたミネフジツボ成体の鋳型DNA、東京湾混合プランクトンの鋳型DNA、志津川湾混合プランクトンの鋳型DNAを用いて、実施例1(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0115】
電気泳動写真を図4に示す。図4において、Aがミネフジツボ、Bが東京湾混合プランクトン、Cが志津川湾混合プランクトンの電気泳動結果である。ミネフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できたのに対し、プランクトンサンプルから調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0116】
以上の結果から、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対は、実海域に一般的に存在するプランクトンを認識することなく、ミネフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0117】
(2)チシマフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対について、実施例1で得られたチシマフジツボ成体の鋳型DNA、東京湾混合プランクトンの鋳型DNA、志津川湾混合プランクトンの鋳型DNAを用いて、実施例1(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0118】
電気泳動写真を図5に示す。図5において、Aがチシマフジツボ、Bが東京湾混合プランクトン、Cが志津川湾混合プランクトンの電気泳動結果である。チシマフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できたのに対し、プランクトンサンプルから調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0119】
以上の結果から、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対は、実海域に一般的に存在するプランクトンを認識することなく、チシマフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0120】
(3)ハナフジツボ検出用プライマー対の特異性
配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対について、実施例1で得られたハナフジツボ成体の鋳型DNA、東京湾混合プランクトンの鋳型DNA、志津川湾混合プランクトンの鋳型DNAを用いて、実施例1(1)と同様の条件でPCRと電気泳動を行い、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対の有効性について検討した。
【0121】
電気泳動写真を図6に示す。図6において、Aがハナフジツボ、Bが東京湾混合プランクトン、Cが志津川湾混合プランクトンの電気泳動結果である。ハナフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とした場合は、PCR産物をアガロース電気泳動に供することで、シングルバンドが確認できたのに対し、プランクトンサンプルから調製したDNAを鋳型とした場合には、バンドは一切確認できなかった。
【0122】
以上の結果から、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対は、実海域に一般的に存在するプランクトンを認識することなく、ハナフジツボミトコンドリアDNA上の12S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に認識して増幅すると考えられた。
【0123】
(実施例3)
本発明のプライマー対を用いた定量分析について検討した。
【0124】
ミネフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、これを0.2〜20ng/μL(反応液の最終濃度)の範囲で濃度調整し、配列番号1及び2のミネフジツボ検出用プライマー対を用いて実施例1と同様の条件でPCRを行い、PCR産物を電気泳動に供した。PCRのサイクル数は25サイクルとした。その結果、図7に示すように、0.4〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。
【0125】
次に、チシマフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、これを0.2〜20ng/μL(反応液の最終濃度)の範囲で濃度調整し、配列番号3及び4のチシマフジツボ検出用プライマー対を用いて実施例1と同様の条件でPCRを行い、PCR産物を電気泳動に供した。PCRのサイクル数は25サイクルとした。その結果、図8に示すように、0.2〜10ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。
【0126】
次に、ハナフジツボ成体から調製したDNAを鋳型とし、これを0.2〜20ng/μL(反応液の最終濃度)の範囲で濃度調整し、配列番号5及び6のハナフジツボ検出用プライマー対を用いて実施例1と同様の条件でPCRを行い、PCR産物を電気泳動に供した。PCRのサイクル数は25サイクルとした。その結果、図9に示すように、0.2〜20ng/μLの範囲でバンドの濃淡が確認された。
【0127】
このように、鋳型DNAの濃度に応じてバンドに濃淡が生じることが確認されたことから、被験試料に含まれるフジツボ幼生に含まれるDNAに起因するバンドの濃淡に応じて、フジツボ幼生の個体数の定量分析が可能であると考えられた。
【0128】
(実施例4)
本発明のプライマー対を用いたリアルタイムPCRによる定量分析について検討した。
【0129】
実施例1で得られたミネフジツボ成体の鋳型DNAを各種濃度で含む反応液を調製し、これをリアルタイムPCRによる定量的解析に供して、Ct(Threshold Cycle)値を測定した。リアルタイムPCRによる定量的解析は、SYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ)を用いたインターカレータ法により行った。
【0130】
反応液は、純水9.5μL、配列番号1に記載のプライマー(10μM)、配列番号2に記載のプライマー(10μM)それぞれ0.5μL(最終濃度0.2μM)、SYBR Premix Ex Taq(x2)を12.5μLを混合し、これに実施例1で得られたミネフジツボ成体の鋳型DNAを各種濃度となるように混合して調製した。
【0131】
装置はSmart Cycler II(Cephied社)を使用して、95℃で初期変性した後、95℃を5秒、60℃を20秒のPCRを40サイクル繰り返し、最後に融解曲線確認のための反応(60℃−95℃)を実施した。そして反応後、各試料のCt(Threshold Cycle)値を測定した。
【0132】
ミネフジツボのDNA濃度とCt値の関係を図10に示す。図10に示すように、DNA濃度とCt値との間には高い相関が見られ、リアルタイムPCRのCt値からDNA量を推定できることが明らかとなった。したがって、推定されたDNA量とミネフジツボ幼生の遺伝子コピー数との関係に基づいて、ミネフジツボ幼生個体数の推定が可能であることが明らかとなった。
【0133】
上記と同様の実験をチシマフジツボ成体の鋳型DNAと配列番号3及び4に記載のプライマー対を用いて実施し、チシマフジツボのDNA濃度とCt値の関係について得られた結果を図11に示す。図11に示すように、DNA濃度とCt値との間には高い相関が見られ、リアルタイムPCRのCt値からDNA量を推定できることが明らかとなった。したがって、推定されたDNA量とチシマフジツボ幼生の遺伝子コピー数との関係に基づいて、チシマフジツボ幼生個体数の推定が可能であることが明らかとなった。
【0134】
また、上記と同様の実験をハナフジツボ成体の鋳型DNAと配列番号5及び6に記載のプライマー対を用いて実施し、チシマフジツボのDNA濃度とCt値の関係について得られた結果を図12に示す。図12に示すように、DNA濃度とCt値との間には高い相関が見られ、リアルタイムPCRのCt値からDNA量を推定できることが明らかとなった。したがって、推定されたDNA量とハナフジツボ幼生の遺伝子コピー数との関係に基づいて、ハナフジツボ幼生個体数の推定が可能であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0135】
1 DNAチップ
4 DNAプローブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)のうち少なくとも一組のプライマー対を含むことを特徴とするフジツボ種判定用プライマーセット。
(1)配列番号1及び2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むミネフジツボ(Balanus rostratus)検出用プライマー対、
(2)配列番号3及び4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むチシマフジツボ(Semibalanus cariosus)検出用プライマー対、
(3)配列番号5及び6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むハナフジツボ(Balanus crenatus)検出用プライマー対
【請求項2】
被験試料に対し、請求項1に記載のプライマーセットのうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、前記被験試料の遺伝子増幅の有無により前記被験試料に存在しているフジツボ幼生の種を判定することを特徴とするフジツボ幼生の種判定方法。
【請求項3】
被験試料に対し、請求項1に記載のプライマーセットのうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、前記PCRにおける遺伝子増幅量に基づき、前記プライマー対に認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対し前記プライマー対を用いてPCRを行うことにより前記フジツボ幼生種の個体数と遺伝子増幅量との関係を調べて予め作成された検量線を用いて、前記被験試料に存在する前記フジツボ幼生種の個体数の定量を行うことを特徴とするフジツボ幼生個体数の定量方法。
【請求項4】
前記PCRをリアルタイムPCRとし、前記遺伝子増幅量として前記リアルタイムPCRを行うことにより得られるCt値を利用することを特徴とする請求項3記載のフジツボ幼生個体数の定量方法。
【請求項5】
前記被験試料を分画処理してから前記PCRに供する請求項3または4に記載のフジツボ幼生個体数の定量方法。
【請求項6】
配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも1つのプライマーをプローブとして含むフジツボ種判定用キット。
【請求項1】
下記(1)〜(3)のうち少なくとも一組のプライマー対を含むことを特徴とするフジツボ種判定用プライマーセット。
(1)配列番号1及び2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むミネフジツボ(Balanus rostratus)検出用プライマー対、
(2)配列番号3及び4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むチシマフジツボ(Semibalanus cariosus)検出用プライマー対、
(3)配列番号5及び6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むハナフジツボ(Balanus crenatus)検出用プライマー対
【請求項2】
被験試料に対し、請求項1に記載のプライマーセットのうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、前記被験試料の遺伝子増幅の有無により前記被験試料に存在しているフジツボ幼生の種を判定することを特徴とするフジツボ幼生の種判定方法。
【請求項3】
被験試料に対し、請求項1に記載のプライマーセットのうちの一組以上のプライマー対を用いてPCRを行い、前記PCRにおける遺伝子増幅量に基づき、前記プライマー対に認識される遺伝子を有するフジツボ幼生種の個体数が既知の複数の試料のそれぞれに対し前記プライマー対を用いてPCRを行うことにより前記フジツボ幼生種の個体数と遺伝子増幅量との関係を調べて予め作成された検量線を用いて、前記被験試料に存在する前記フジツボ幼生種の個体数の定量を行うことを特徴とするフジツボ幼生個体数の定量方法。
【請求項4】
前記PCRをリアルタイムPCRとし、前記遺伝子増幅量として前記リアルタイムPCRを行うことにより得られるCt値を利用することを特徴とする請求項3記載のフジツボ幼生個体数の定量方法。
【請求項5】
前記被験試料を分画処理してから前記PCRに供する請求項3または4に記載のフジツボ幼生個体数の定量方法。
【請求項6】
配列番号1〜6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーのうちの少なくとも1つのプライマーをプローブとして含むフジツボ種判定用キット。
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−39945(P2012−39945A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184148(P2010−184148)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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