説明

フッ化脂肪酸類の製造方法

【課題】工業的に入手可能な原料から、簡便かつ効率よくフッ化脂肪酸類を製造する方法の提供。
【解決手段】金属アミド化合物又は金属水素化物の存在下で、下記式(1)で表されるエステル化合物と、下記式(2)で表されるホスホニウム塩を反応させることを特徴とする、下記式(3)で表されるフッ化脂肪酸エステルの製造方法。


(式中、R1は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を示し、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示し、R4はフッ素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の含フッ素アルキル基を示し、R5〜R7はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、X-はハロゲンイオン又はトリフラートアニオンを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化脂肪酸類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、電気特性、耐薬品性、防水性、撥水撥油性、光学特性等に優れた特徴を有するため、電子部品の保護膜、インクジェットプリンタのヘッドの撥水膜、フィルタの防水防油コート等に使用されている。また、医薬、農薬分野においては、生理活性化合物の特定位置にフッ素原子を導入することで、著しく毒性が軽減される、薬効が増大する等の報告例もある。更に、化粧品、香粧品分野においても、その撥水撥油性の特徴を利用した高持続性の商品への応用がなされている。
【0003】
このような優れた特徴を有する含フッ素化合物を効率的に合成する試みは、多方面で検討されている。含フッ素化合物の製造方法としては、フッ素ガス、フッ化水素ガス、フッ化アルカリ金属塩を用いる方法などが知られている。
一方、長鎖脂肪酸類の製造に関しては、アルデヒド類からウィティッヒ(Wittig)反応のような炭素−炭素結合生成反応を用いて効率的に製造できることが報告されている(特許文献1及び2)。
また、末端に含フッ素アルキル基であるトリフルオロメチル基を有するフッ化脂肪酸類についても、下記式(A)で表されるように、n−ブチルリチウム存在下、3,3,3−トリフルオロプロピルトリフェニルホスホニウムハライドを用いて、ウィティッヒ反応により製造する方法が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
【化1】

【0005】
しかし、含フッ素アルキル基を有するホスホニウム塩を用いるウィティッヒ反応は、収率が低く、製造コスト面で満足のいくものでないという問題があった。
【特許文献1】特開平5−25108号公報
【特許文献2】特開平6−128193号公報
【非特許文献1】Phytochemistry.1996,42(5),1259-1262
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、工業的に入手可能な原料から、フッ化脂肪酸類を簡便かつ効率よく製造する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、フッ化脂肪酸類の製造方法について検討したところ、塩基としてナトリウムビストリメチルシリルアミド等の金属アミド化合物又は金属水素化物を用い、エステル化合物と含フッ素アルキル基を有するアルキルホスホニウム塩とをウィティッヒ反応に付すことにより、簡便かつ効率よくフッ化脂肪酸エステルを製造でき、当該方法を経由することにより、フッ化脂肪酸を効率よく製造できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記1)〜3)に係るものである。
1)金属アミド化合物又は金属水素化物の存在下で、下記式(1)で表されるエステル化合物と、下記式(2)で表されるホスホニウム塩を反応させることを特徴とする、下記式(3)で表されるフッ化脂肪酸エステルの製造方法。
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R1は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を示し、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示し、R4はフッ素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の含フッ素アルキル基を示し、R5〜R7はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、X-はハロゲンイオン又はトリフラートアニオンを示す。)
【0011】
2)金属アミド化合物又は金属水素化物の存在下で、下記式(1)で表されるエステル化合物と、下記式(2)で表されるホスホニウム塩を反応させて、下記式(3)で表されるフッ化脂肪酸エステルを得、次いで還元及び脱エステル化することを特徴とする下記式(4)で表されるフッ化脂肪酸の製造方法。
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R1〜R7及びX-は、前記と同じ。)
【0014】
3)下記式(5)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示し、m+nは6〜21の整数を示す。)
で表されるフッ化脂肪酸エステル。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フッ化脂肪酸類を、工業的に入手可能な原料から簡便かつ効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1で示される「炭素数1〜10のアルキル基」としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基が挙げられる。
具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、2−メチルプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデカニル基等が挙げられ、このうち、炭素数1〜6の直鎖のアルキル基が好ましい。
また、これらのうち、R1としては、水素原子が好ましい。
【0019】
2で示される「炭素数1〜20のアルキレン基」としては、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよい。
当該アルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基、ヘプタデカメチレン基、オクタデカメチレン基、ノナデカメチレン基、エイコサメチレン基が挙げられる。このうち、炭素数8〜15のアルキレン基が好ましく、具体的には、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基が好ましく、ドデカメチレン基がより好ましい。
【0020】
1のアルキル基、R2のアルキレン基に置換し得る基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0021】
3で示される「炭素数1〜6のアルキル基」としては、加水分解により容易に脱離可能な基であるのが好ましく、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよい。
例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0022】
4はフッ素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の含フッ素アルキル基であるが、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の含フッ素アルキル基が好ましい。
【0023】
また、R4で示される「炭素数1〜20の含フッ素アルキル基」としては、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよいが、末端炭素原子にフッ素が導入されたアルキル基が好ましい。
含フッ素アルキル基としては、例えばトリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、フルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基、6,6,6−トリフルオロヘキシル基、7,7,7−トリフルオロヘプチル基、8,8,8−トリフルオロオクチル基、9,9,9−トリフルオロノニル基、10,10,10−トリフルオロデシル基、11,11,11−トリフルオロウンデシル基、12,12,12−トリフルオロドデシル基、13,13,13−トリフルオロトリデシル基、14,14,14−トリフルオロテトラデシル基、15,15,15−トリフルオロペンタデシル基、16,16,16−トリフルオロヘキサデシル基、17,17,17−トリフルオロヘプタデシル基、18,18,18−トリフルオロオクタデシル基、19,19,19−トリフルオロノナデシル基、20,20,20−トリフルオロエイコシル基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブチル基、4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチル基、5,5,6,6,6−ペンタフルオロヘキシル基、1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル基、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル基、3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチル基、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロヘキシル基、1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基、4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル基、5,5,6,6,7,7,8,8,8−ノナフルオロオクチル基、1,1−ジ(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2−ジ(トリフルオロメチル)−3,3,3−トリフルオロプロピル基、3,3−ジ(トリフルオロメチル)−4,4,4−トリフルオロブチル基、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチル基、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−トリフルオロメチル−4,4,4−トリフルオロブチル基が挙げられる。
【0024】
このうち、炭素数1〜10の直鎖の含フッ素アルキル基が好ましく、具体的には、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基、6,6,6−トリフルオロヘキシル基、7,7,7−トリフルオロヘプチル基、8,8,8−トリフルオロオクチル基、9,9,9−トリフルオロノニル基、10,10,10−トリフルオロデシル基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブチル基、4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチル基、5,5,6,6,6−ペンタフルオロヘキシル基、1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロピル基、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル基、3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチル基、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロヘキシル基、1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基、4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル基、5,5,6,6,7,7,8,8,8−ノナフルオロオクチル基が好ましく、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基がより好ましい。
【0025】
4の含フッ素アルキル基に置換し得る基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0026】
5〜R7で示される「炭素数1〜10のアルキル基」としては、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよいが、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましい。
5〜R7で示される「置換基を有していてもよいアリール基」におけるアリール基としては、フェニル基等が挙げられる。
当該アリール基に置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられ、これらは1〜3置換されていてもよい。
5〜R7は、共に同一の基であるのが好ましく、共にフェニル基であるのがより好ましい。
【0027】
-で示される「ハロゲンイオン又はトリフラートアニオン」としては、反応収率の点で、ハロゲンイオンが好ましい。当該ハロゲンイオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンが挙げられるが、臭素イオン、ヨウ素イオンが好ましく、ヨウ素イオンがより好ましい。
【0028】
式(3)で表されるフッ化脂肪酸エステルのうち、下記式(5)
【0029】
【化5】

【0030】
(式中、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示し、m+nは6〜21の整数を示す。)
で表される化合物は、文献未記載の新規化合物である。
【0031】
以下、本発明の反応について説明する。
1)フッ化脂肪酸エステルの製造(ウィティッヒ反応)
本反応は、式(1)で表されるカルボニル化合物と式(2)で表されるホスホニウム塩に、塩基として、金属アミド化合物又は金属水素化物を加えることによって行うことができる。
【0032】
ここで、金属アミド化合物としては、例えば、下記式(6)
【0033】
【化6】

【0034】
(式中、R8及びR9はそれぞれ独立してトリメチルシリル基又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、Yはアルカリ金属原子を示す。)
【0035】
で表される化合物が挙げられる。
【0036】
式(6)中、R8及びR9で示される「炭素数1〜10のアルキル基」としては、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよく、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。「炭素数1〜10のアルキル基」の具体例としては、上記R5〜R7で示される「炭素数1〜10のアルキル基」と同様であるが、iso−プロピル基がより好ましい。
【0037】
Yで示される「アルカリ金属原子」としては、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子等が挙げられるが、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子が好ましく、ナトリウム原子がより好ましい。
【0038】
式(6)で表される化合物の好適な具体例としては、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(NaN(Si(CH332)、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド(KN(Si(CH332)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(LiN(Si(CH332)、リチウムジイソプロピルアミド等が挙げられ、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(NaN(Si(CH332)が好ましい。
【0039】
また、金属水素化物としては、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウム等が挙げられる。
これらの塩基のうち、反応収率の点で、金属アミド化合物が好ましく、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドがより好ましい。
【0040】
金属アミド化合物又は金属水素化物の使用量は、反応時間の遅延や反応速度の低下が起こらない量を適宜選択すればよいが、式(1)で表されるカルボニル化合物に対して、1〜5当量用いるのが好ましい。
【0041】
反応は、通常、反応に影響のない有機溶媒中で行われ、該有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ペンタン等の飽和炭化水素類、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン炭化水素類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、アセトニトリル、プロピルニトリル等のニトリル類、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化合物等が挙げられるが、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒を用いるのが好ましい。
【0042】
反応は、円滑なウィティッヒ反応の促進の点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスは、特に限定されないが、例えば、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0043】
反応温度は、例えば、−80〜120℃、好ましくは−20〜80℃であり、反応時間は、例えば、30分〜50時間、好ましくは30分〜12時間である。
【0044】
フッ化脂肪酸エステルは、ろ過、洗浄、乾燥、再結晶、各種溶媒による抽出、クロマトグラフィー等の通常の手段を適宜組み合わせて、反応系から、単離、精製することができる。
【0045】
式(1)で表されるエステル化合物は、公知の方法により製造することができる。
【0046】
式(2)で表されるホスホニウム塩は、R4−CH2−X(R4及びXは前記と同じ)で表されるハロゲン化物とトリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物とを、ベンゼン、トルエン、キシレン等の溶媒中で加熱、反応させることにより得ることができる。
【0047】
2)フッ化脂肪酸の製造(還元及び脱エステル化)
本発明の式(4)で表されるフッ化脂肪酸は、上記方法により得られた式(3)で表されるフッ化脂肪酸エステルを還元及び脱エステル化することにより得ることできる。
当該還元及び脱エステル化処理の順序は何れでもよく、適宜決定すればよい。
還元処理は、白金、パラジウムなどの金属やそれらと任意の担体との混合物を触媒とする接触還元や、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウムなどの金属水素化化合物による還元等の炭素−炭素二重結合の還元法として周知の方法を使用して実施することができる。
例えば、接触水素化は、適当な溶媒、例えばアルコール、セロソルブ、プロトン性極性有機溶媒、エーテル、低級脂肪酸、特にメタノール、エタノール、メトキシエタノール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル−酢酸等を用いて、例えば、0〜120℃、水素圧1〜100気圧下に、1〜24時間程度行うのが好ましい。触媒としては、例えばパラジウムブラック、パラジウムカーボン、白金ブラック、白金カーボン、酸化白金、ラネーニッケル等が挙げられる。
【0048】
加水分解は、通常のエステルの加水分解反応に用いられる反応条件がいずれも適用できる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの塩基性化合物;塩酸、硫酸、臭化水素酸などの鉱酸;あるいはp−トルエンスルホン酸などの有機酸等の存在下、水、メタノール、エタノール、プロパノールなどのようなアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのようなエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのようなケトン類、酢酸等の溶媒又はこれらの混合溶媒中で行われる。
【0049】
反応は、通常室温〜180℃、好ましくは室温〜140℃で行われ、反応時間は通常1〜24時間程度である。
【0050】
フッ化脂肪酸は、ろ過、洗浄、乾燥、再結晶、各種溶媒による抽出、クロマトグラフィー等の通常の手段を適宜組み合わせて、反応系から、単離、精製することができる。
【実施例】
【0051】
製造例1 18,18,18−トリフルオロオクタデカン酸の製造
(1)3,3,3−トリフルオロプロピルトリフェニルホスホニウムアイオダイドの合成
キシレン300mlに1,1,1−トリフルオロ−3−アイオドプロパン18.39g(82.11mmol)及びトリフェニルホスフィン25.85g(98.56mmol)を溶解し、窒素雰囲気下、160℃で17時間撹拌した。析出した結晶を濾過し、ジエチルエーテルで洗浄、乾燥して、3,3,3−トリフルオロプロピルトリフェニルホスホニウムアイオダイド21.39g(収率54%)を得た。
【0052】
(2)14−ホルミルテトラデカン酸メチルエステルの合成
15−ヒドロキシペンタデカン酸メチルエステル12.04g(44.05mmol)をジクロロメタン200ml、ジメチルスルホキシド50mlに溶解し、窒素雰囲気下、0℃に冷却した後、トリエチルアミン31ml(223.64mmol)、三酸化硫黄ピリジン錯体25.43g(159.78mmol)を加えた。0℃で1時間撹拌後、ジエチルエーテル100ml及び1MHCl200mlを加えた。水層除去後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、14−ホルミルテトラデカン酸メチルエステル7.95g(収率67%)を得た。
【0053】
1H-NMR(CDCl3, ppm): 1.24-1.29(m, 20H), 1.58-1.64(m, 2H), 2.29(t, J=7.6Hz, 2H), 2.39-2.43(m, 2H), 3.66(s, 3H), 9.76(t, J=1.7Hz, 1H)
13C-NMR(CDCl3, ppm): 22.0, 24.9, 29.12, 29.13, 29.3, 29.38, 29.40, 29.5, 29.6, 34.1, 43.9, 51.4, 174.4, 203.0
【0054】
(3)18,18,18−トリフルオロ−15−オクタデセン酸メチルエステルの合成
3,3,3−トリフルオロプロピルトリフェニルホスホニウムアイオダイド10.81g(22.23mmol)を無水テトラヒドロフラン45mlに分散させた。窒素雰囲気下、ナトリウムビストリメチルシリルアミド12.7ml(24.13mmol、1.9Mテトラヒドロフラン溶液)を滴下し、室温で30分撹拌した後、これにあらかじめ無水テトラヒドロフラン35mlに溶解した14−ホルミルテトラデカン酸メチルエステル5.04g(18.493mmol)を滴下した。室温で3時間撹拌後、ヘキサン100ml及び蒸留水100mlを加えた。水層除去後、飽和塩化アンモニウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、18,18,18−トリフルオロ−15−オクタデセン酸メチルエステル4.76g(収率61%)を得た。
【0055】
1H-NMR(CDCl3, ppm): 1.25-1.37(m, 22H), 1.59-1.62(m, 2H), 2.04(q, J=7.6Hz, 2H), 2.30(t, J=7.6Hz, 2H), 2.80-2.87(m, 2H), 3.66(s, 3H), 5.35-5.39(m, 1H), 5.69-5.73(m, 1H)
13C-NMR(CDCl3, ppm): 24.9, 27.4, 29.0, 29.1, 29.2, 29.42, 29.44, 29.56, 29.59, 31.9, 32.0, 32.2, 32.4, 34.1, 51.4, 116.6(q, JC,F=2.7Hz), 126.2(q, JC,F=228.8Hz), 136.7, 174.4
【0056】
(4)18,18,18−トリフルオロ−15−オクタデセン酸の合成
18,18,18−トリフルオロ−15−オクタデセン酸メチルエステル4.76g(13.58mmol)をエタノール135ml及び蒸留水15mlに溶解し、窒素雰囲気下、水酸化ナトリウム1.09g(27.16mmol)を加えて、80℃で2時間撹拌した。室温まで冷却した後、1MHCl20mlを加え、次にクロロホルム200mlを加えた。水層除去後、蒸留水150mlで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、18,18,18−トリフルオロ−15−オクタデセン酸3.85g(収率84%)を得た。
【0057】
1H-NMR(CDCl3, ppm): 1.25-1.38(m, 20H), 1.63(quint, J=7.5Hz, 2H), 2.04(q, J=2.3Hz, 2H), 2.35(t, J=7.4Hz, 2H), 2.81-2.87(m, 2H), 5.35-5.40(m, 1H), 5.69-5.73(m, 1H)
13C-NMR(CDCl3, ppm): 24.7, 27.4, 29.0, 29.1, 29.2, 29.42, 29.44, 29.56, 29.59, 31.9, 32.1, 32.3, 32.5, 34.0, 116.6(q, JC,F=2.7Hz), 126.2(q, JC,F=229.5Hz), 136.7, 179.9
【0058】
(5)18,18,18−トリフルオロオクタデカン酸の合成
18,18,18−トリフルオロ−15−オクタデセン酸3.85g(11.44mmol)をメタノール100mlに溶解し、パラジウムカーボン266.6mg(対カルボン酸、7重量%)を加え、水素雰囲気下、常圧室温で15時間撹拌した。濾過、溶媒留去後、18,18,18−トリフルオロオクタデカン酸3.81g(収率98%)を得た。
【0059】
IR(cm-1, ATR法): 2936, 2914, 2848, 1699, 1153, 1050, 936
1H-NMR(CDCl3, ppm): 1.25-1.34(m, 24H), 1.54(quint, J=7.3Hz, 2H), 1.63(quint, J=7.5, 2H), 2.01-2.09(m, 2H), 2.35(t, J=7.5)
13C-NMR(CDCl3, ppm): 21.81, 21.83, 21.9, 24.7, 28.7, 29.0, 29.16, 29.22, 29.3, 29.4, 29.5, 29.57, 29.59, 29.62, 33.4, 33.6, 33.8, 33.9, 34.0, 127.3(q, JC,F=228.8Hz), 179.5
【0060】
製造例2 18,18,19,19,20,20,21,21,21−ノナフルオロ−15−ヘネイコセン酸メチルエステルの合成
製造例1(1)と同様に、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルアイオダイドを用いて、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリフェニルホスホニウムアイオダイドを製造した。
次に、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリフェニルホスホニウムアイオダイドと14−ホルミルテトラデカン酸メチルエステルを用いて、製造例1(3)と同様に製造し、18,18,19,19,20,20,21,21,21−ノナフルオロ−15−ヘネイコセン酸メチルエステル0.11g(収率48%)を得た。
【0061】
1H-NMR(CDCl3, ppm): 1.21-1.41(m, 20H), 1.60(quint, J=7.4Hz, 2H), 2.04(q, J=7.4Hz, 2H), 2.30(t, J=7.6Hz, 2H), 2.85(dt, J=18.6, 7.2Hz, 2H), 3.66(s, 2H), 5.38-5.43(m, 1H), 5.74-5.78(m, 1H)
13C-NMR(CDCl3, ppm): 24.9, 27.4, 29.10, 29.13, 29.16, 29.24, 29.3, 29.4, 29.5, 29.56, 29.59, 34.1, 51.4, 106.4-112.3(m), 115.3(t, JC,F=17.5Hz), 114.2-120.3(m) , 137.3, 174.4
【0062】
比較例1(ウィティッヒ反応、ナトリウムメトキサイド存在下)
18,18,18−トリフルオロ−15−オクタデセン酸メチルエステルの合成
3,3,3−トリフルオロプロピルトリフェニルホスホニウムアイオダイド6.02g(12.38mmol)を無水ジメチルホルムアミド25mlに溶解した。窒素雰囲気下、ナトリウムメトキサイド2.64g(13.68mmol、28%メタノール溶液)を滴下し、室温で30分撹拌した後、これにあらかじめ無水ジメチルホルムアミド40mlに溶解した14−ホルミルテトラデカン酸メチルエステル5.38g(18.35mmol)を滴下した。室温で16時間撹拌後、ジエチルエーテル200ml及び蒸留水100mlを加えた。水層除去後、飽和塩化アンモニウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去して、粗精製品7.37gを得たが、18,18,18−トリフルオロ−15−オクタデセン酸メチルエステルは生成していなかった。
【0063】
上記より、強塩基化合物であるナトリウムメトキサイド存在下では、ウィティッヒ反応が進行しないにもかかわらず(比較例1)、ナトリウムビストリメチルシリルアミド存在下では、高収率でウィティッヒ反応が進行することがわかる(製造例1(3))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アミド化合物又は金属水素化物の存在下で、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を示し、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表されるエステル化合物と、下記式(2)
【化2】

(式中、R4はフッ素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の含フッ素アルキル基を示し、R5〜R7はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、X-はハロゲンイオン又はトリフラートアニオンを示す。)
で表されるホスホニウム塩を反応させることを特徴とする、下記式(3)
【化3】

(式中、R1、R2、R3及びR4は、前記と同じ。)
で表されるフッ化脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
1が水素原子であり、R4が炭素数1〜20の含フッ素アルキル基である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
金属アミド化合物又は金属水素化物の存在下で、下記式(1)
【化4】

(式中、R1は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を示し、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表されるエステル化合物と、下記式(2)
【化5】

(式中、R4はフッ素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の含フッ素アルキル基を示し、R5〜R7はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、X-はハロゲンイオン又はトリフラートアニオンを示す。)
で表されるホスホニウム塩を反応させて、下記式(3)
【化6】

(式中、R1、R2、R3及びR4は、前記と同じ。)
で表されるフッ化脂肪酸エステルを得、次いで還元及び脱エステル化することを特徴とする下記式(4)
【化7】

(式中、R1、R2、R3及びR4は、前記と同じ。)
で表されるフッ化脂肪酸の製造方法。
【請求項4】
下記式(5)
【化8】

(式中、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示し、m+nは6〜21の整数を示す。)
で表されるフッ化脂肪酸エステル。

【公開番号】特開2010−150191(P2010−150191A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330601(P2008−330601)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】