説明

フッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法及び路盤材の製造方法

【課題】フッ素溶出濃度を低下させることができるフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法、並びにこのような不溶化方法を利用した路盤材の製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程と、前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程と、養生工程で養生された混合物に高炉セメントを添加する後処理工程とを備えるフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法、並びにフッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程と、前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程と、養生工程で養生された混合物に、高炉セメントと、骨材と、水とを添加する造粒固化工程とを備える路盤材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法及び路盤材の製造方法に関する。詳しくは、鋳物製造工程において排出される鋳物廃砂に含まれるフッ素を不溶化するフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法、及びフッ素を含む鋳物廃砂を路盤材へ再利用する路盤材の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車産業等の製造現場において鉄の鋳造は必須のものとなっているが、鋳物製造業界で用いられている鋳物砂の廃砂のうち、大規模排出事業所から排出される廃砂(200t/月)は、大部分がセメント工場等でリサイクルされている。
しかし、中小の鋳物工場においては、排出量が不安定であったり、品質にバラツキがあったりすることから、再資源化率が10%程度と低い状況にある。
【0003】
鋳物製造用の鋳型に使用された使用済の砂(鋳物廃砂)は、フッ素やクロム等の有害物質を含む場合が多く、鋳物廃砂を再資源化するには、フッ素化合物等の無害化処理が必要である。
一般的に、鋳物鋳造工程で使用される鋳型や中子の材料には、耐火材料の代表である砂が用いられている。鋳物鋳造工程では、溶解した鉄(銑鉄)を鋳型に流し込み、冷却し、型枠を取り外した後、目的の鉄製品が出来上がる。溶解した銑鉄は通常では粘度が高いので、成型し易くするために粘度調整材として、ほたる石(CaF)が銑鉄に添加されることが多い。この場合、鋳型に銑鉄を流し込み、時間をおいて成型する際に、溶解した鉄やCa(カルシウム)、F(フッ素)等の成分が砂の鋳型に溶出し、型枠の鋳物砂の表面に吸着された状態になっている。
【0004】
また、フッ素は、土壌環境基準の基準値項目となってまだ日が浅く、近年、フロンガスをはじめ多くの生活用品、電化製品等に使用されてきており、ごみ処理場の焼却排ガスにも多く含まれるようになってきている。
また、フッ素の健康面に対する影響としては、適量であれば虫歯予防になるが、量が増えると斑状歯や骨硬化症を発症する。
【0005】
フッ素の不溶化方法として、例えば特許文献1には、アルカリ性を呈するフッ素汚染土に、5%の酸化マグネシウムと2.5%以下の塩化マグネシウムを添加して混合する方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−324083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、酸化マグネシウムの混合効果は、処理前の濃度の1/5程度に減ずるにすぎず、高濃度のフッ素を含んだ鋳物廃砂の環境安全性(0.8mg/l)を満足することは困難であり、また、酸化マグネシウムの添加量が2質量%を超えると、リサイクル事業として、事業ベースに乗せることが困難な状況となる。
【0008】
また、フッ素を含んだ汚染鋳物廃砂の汚染の程度には大きな幅があるが、溶出試験においては、数十mg/lのフッ素溶出濃度を示すこともたびたびあった。これまで、0〜5mg/l程度のフッ素溶出濃度の場合は、従来の路盤材製造方法で用いられているセメント処理で環境安全性(環境基準値:0.8mg/l)試験を満足していた。
しかし、フッ素溶出濃度が5〜100mg/lの場合は、従来のフッ素不溶化処理技術では環境安全性の点で問題があり、従来は、そのまま安定型の産業廃棄物処理場に排出され、再利用率は10%程度であった。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、フッ素溶出濃度を低下させることができるフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法、並びにこのような不溶化方法を利用した路盤材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明のフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法は、フッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程と、該前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程と、該養生工程で養生された混合物に高炉セメントを添加する後処理工程とを備える。
【0011】
ここで、フッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程によって、以下のような反応が生じると考えられる。
MgO + HO → Mg(OH)(ブルーサイト)
0.3F + Mg(OH) → MgF0.3(OH)1.7
このようにMgOは、水と反応して水酸化マグネシウム[ブルーサイト:Mg(OH)]となる。水酸化マグネシウムは不溶性物質であるが、マグネシウム8面体層状シートより成る立体構造を持っており、その構造の一部にイオン付加が可能なサイトがあり、水酸化マグネシウム生成初期には、OHイオンやフッ素イオンと入れ替わることができる。
また、前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程によって、不溶化量を上昇させることができる。
また、養生工程で養生された混合物に高炉セメントを添加する後処理工程によって、高炉セメントが少量の硫化物を含み還元効果を示すため、混合物中のクロムが、汚染物質である六価クロムに変化しにくくなり、六価クロムの溶出を抑えることができる。
【0012】
また、前処理工程におけるブルーサイトとフッ素の反応は、非化学量論的であるが、単なる吸着ではなく、定量的な化学反応であり、その結合は経時的に強固となる性質がある。更にブルーサイトと反応しきれなかったフッ素イオンに対し、高炉セメントのカルシウムが反応し、不溶化を進展させ、更に固化遮蔽効果を発揮していくという複合的な効果により、長期不溶化効果を持続することができる。
【0013】
また、本発明のフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法において、酸化マグネシウムの添加量は、フッ素を含む鋳物廃砂の量の0.2〜5.0質量%であり、酸化マグネシウムが添加される前のフッ素を含む鋳物廃砂の水分率は、10〜13%であり、前処理工程においてフッ素を含む鋳物廃砂と酸化マグネシウムを混合撹拌する時間は、10〜40分であり、養生工程において養生する期間は、3〜10日であることが好ましい。
【0014】
また、上記の目的を達成するために、本発明の路盤材の製造方法は、フッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程と、該前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程と、該養生工程で養生された混合物に、高炉セメントと、骨材と、水とを添加する造粒固化工程とを備える。
【0015】
また、本発明の路盤材の製造方法において、高炉セメントの添加量は、路盤材全量に対して2〜10質量%である場合、得られる路盤材の一軸圧縮強度が10kgf/cm程度になるので好ましい。
【0016】
また、本発明の路盤材の製造方法において、骨材の添加量は、路盤材全量に対して10〜90質量%である場合、フッ素を含む鋳物廃砂の使用量を減らして、フッ素溶出濃度の低減化を図ることができる。
【0017】
なお、本発明でいう「鋳物廃砂」には、鋳物製造工程で発生する鋳物型枠をばらして得た鋳物砂、及びその際に発生した鋳物粉塵など砂の粒度に関わりなく鋳物砂やそれから発生した無機廃棄物、若しくは土壌が含まれる。また、フッ素が含まれていれば、例えばPb、Cr6+、As(ヒ素)、CN(シアン)、Hg(水銀)、セレンが、本発明でいう「フッ素を含む鋳物廃砂」にさらに含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法によって、フッ素溶出濃度を低下させることができる。
本発明に係る路盤材の製造方法によって、フッ素を含む鋳物廃砂を再利用しても、フッ素溶出濃度が低い路盤材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法は、フッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程と、前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程と、養生工程で養生された混合物に高炉セメントを添加する後処理工程とを備える。
また、本発明の路盤材の製造方法は、フッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程と、前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程と、養生工程で養生された混合物に、高炉セメントと、骨材と、水とを添加する造粒固化工程とを備える。
【0020】
本発明の方法によって処理されるフッ素を含む鋳物廃砂は、例えば、フッ素溶出濃度が5〜20mg/lの鋳物廃砂である。
【0021】
また、酸化マグネシウムの添加量は、フッ素を含む鋳物廃砂の量の0.2〜5.0質量%が好ましく、更に好ましくは0.2〜2.0質量%であり、もっと好ましくは0.5〜1.0質量%であり、より確実な効果及び経済性を考慮した場合、1.0質量%が好ましい。
酸化マグネシウムの添加によって生じる反応は定量的な反応関係であるため、例えば初期フッ素溶出濃度が50mg/lである鋳物廃砂50g中のフッ素を全て不溶化するために必要な酸化マグネシウム量は、0.265gと算出され、これは即ち50mg/lの鋳物砂の場合、反応理論に基づく酸化マグネシウムの必要量は0.53質量%であるから、酸化マグネシウムの添加量は、フッ素を含む鋳物廃砂の量の1.0質量%で充分である。
ここで、酸化マグネシウムは、600〜800℃で焼成された活性の高い軽質の酸化マグネシウムである。
【0022】
また、鋳物廃砂と酸化マグネシウムとの反応が進む程度に鋳物廃砂が湿っていればよいが、酸化マグネシウムが添加される前のフッ素を含む鋳物廃砂の水分率[(鋳物廃砂中の水分質量/鋳物廃砂質量)×100(%)]は、10〜13%が好ましい。
また、粉体の高炉セメントを混合する工程においては、各資材の化学反応が進行し易く、かつミキサーにより各資材が均一に混合されることから、鋳物廃砂の水分率を13〜18%の範囲に調整することが好ましい。
【0023】
また、前処理工程においてフッ素を含む鋳物廃砂と酸化マグネシウムを混合撹拌する時間は、10〜40分が好ましく、更に好ましくは20〜30分である。この混合撹拌する時間は、酸化マグネシウムが鋳物廃砂とまんべんなく混ざり合うために必要な時間であり、鋳物廃砂の水分率が適切である場合の時間である。
また、高炉セメントを混合する工程では、混合撹拌時間は1〜5分が好ましく、更に好ましくは1〜3分である。
【0024】
また、養生工程において養生する期間は、3〜10日が好ましく、更に好ましくは3〜7日であり、最も好ましくは5〜7日である。本発明者らが検討した結果、酸化マグネシウムを添加してから1〜3日間は、フッ素不溶化量が上昇傾向を示し、3日程度で不溶化量がピーク付近に達し、3日以降は変動の少ない漸減傾向の安定期に入るからである。
【0025】
また、高炉セメントを混合した後の養生期間は、3〜7日が好ましい。
また、路盤材の環境安全性試験は、路盤材の製造終了後、3〜5日経過し、破砕処理したものを試験試料として供するとよい。
【0026】
図1は、高濃度のフッ素及びクロムを含有する鋳物廃砂を用いた本発明の路盤材の製造方法の流れの一例を示すフロー図である。
先ず、路盤材の骨材として使用するフッ素汚染鋳物廃砂(フッ素を含む鋳物廃砂)のフッ素溶出濃度を測定しておき、他の配合骨材とフッ素汚染鋳物廃砂の配合比を決定するための資料とする(鋳物廃砂の評価)(ステップS1)。
【0027】
そして、酸化マグネシウムは、pH10程度もしくはpH10未満の比較的弱いアルカリ性であるフッ素汚染鋳物廃砂(フッ素を含む鋳物廃砂)に添加され、好ましくは10〜40分間、更に好ましくは20〜30分間混合撹拌されて、鋳物廃砂中のフッ素の一部が不溶化される(前処理工程)(ステップS2)。このとき、フッ素汚染鋳物廃砂の水分率は10〜13%に調整されており、酸化マグネシウムの添加量は、フッ素汚染鋳物廃砂の量の0.2〜2.0質量%である。
【0028】
次に、前処理工程で得られた混合物を3〜10日間養生した後(養生工程)(ステップS3)、養生された混合物に、高炉セメント、砕石骨材及び水を混合し(造粒固化工程)(ステップS4)、路盤材を製造する。高炉セメントの添加量は、路盤材全量に対して好ましくは2〜10質量%、更に好ましくは5〜8質量%であり、砕石骨材の添加量は、路盤材全量に対して好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは25〜83質量%であり、残りが水であるが、水セメント比(W/C)を65%程度に調整することが好ましい。また、造粒固化工程における混合時間は1〜5分が好ましく、更に好ましくは1〜3分である。表1に、路盤材の標準的な配合例を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
高炉セメントは、少量の硫化物を含み、還元効果を示すため、六価クロムを溶出させるおそれが少なく、固化強度発現の持続性が高いので、造粒固化資材として問題はない。
また、セメントのフッ素不溶化への寄与は、セメントの持つ固化作用に依るところも大きく、その原因解明のため、フッ素汚染鋳物廃砂に酸化マグネシウム及びセメントを混合して水溶液とした水溶液試料を1N塩酸で滴定を試みた。また、pH10以上では高アルカリ域ほど、液中のフッ素イオン濃度は高い。この溶液を1N塩酸で滴定していくと、pH10で溶液中のフッ素イオン濃度は最低となる。さらに滴定し、pH7前後でフッ素イオン濃度はやや高くなり、pH5以下では溶液中のフッ素イオンはフッ化水素イオンに変わり、フッ素イオンは低下する。
即ち、セメントの配合量を、路盤材全量の10%以上に増やすと、混合した鋳物廃砂のアルカリ性が高まり、OHイオン過多となり、酸化マグネシウム混合処理された時点で、ブルーサイトに付加していたFイオンがOHイオンと入れ替わる可能性が高くなり、セメント単独配合の場合ほど効果が発揮できない。
【0031】
また、フッ素汚染鋳物廃砂の初期フッ素溶出濃度が20mg/lの濃度以下では、酸化マグネシウム等を配合することにより、そのまま環境基準(0.8mg/l)以下の路盤材を製造することが可能であるが、初期フッ素溶出濃度が20mg/l超100mg/l以下の場合、フッ素汚染鋳物廃砂に対して他の細砂、低フッ素濃度のフッ素汚染鋳物廃砂及び粗骨材等を任意に配合し、配合比を調整することによって希釈効果が生じ、最終製造品の路盤材のフッ素溶出濃度を環境基準値以下とすることが可能である。
例えば、骨材混合割合で、鋳物砂の混合量を最も減らした場合の一例として、フッ素汚染鋳物廃砂:細砂:粗骨材の比を、0.6:2.4:1.0とすれば、初期フッ素溶出濃度100mg/lのフッ素汚染鋳物廃砂を用いても、環境基準値以下の路盤材を製造できる。
【0032】
また、造粒固化工程の後、好ましくは3〜10日間、更に好ましくは3〜5日間養生して(養生工程)(ステップS5)、酸化マグネシウムと高炉セメントの複合的効果を発揮せしめる。養生の後、得られた路盤材について強度試験、CBR試験及び有害物質溶出試験を行ない(環境安全性試験)(ステップS6)、試験後、破砕処理を行なって粒度を調整し(破砕処理工程)(ステップS7)、製品として出荷する(ステップS8)。
上記の工程により、鋳物廃砂中のフッ素は、各不溶化資材の効果が最大に発揮された状態で不溶化される。
なお、鋳物廃砂を用いた従来の路盤材の製造方法は、図3に示すように、酸化マグネシウム添加による前処理工程とその後の養生工程が実施されていなかった。
【0033】
また、フッ素汚染鋳物廃砂の初期フッ素溶出濃度確認と不溶化処理後のフッ素溶出濃度の測定に際しては、蒸留比色法(ランタンアリザリンコンプレクソン法)でなく、測定が簡便且つ迅速で製造現場での測定が可能なイオン電極法を用いることが推奨される。
【0034】
(実施例1)
フッ素汚染鋳物廃砂中のフッ素に対する酸化マグネシウムの不溶化率[不溶化材混合前のフッ素溶出濃度(mg/l)/不溶化材混合後のフッ素溶出濃度(mg/l)]について調べるために、フッ素溶出量の高い(30〜60mg/l)フッ素汚染鋳物廃砂に、段階的に酸化マグネシウムを配合して、フッ素溶出量を測定した。また、フッ素汚染鋳物廃砂中のフッ素に対する高炉セメントの不溶化率についても、同様に調べた。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から判るように、フッ素汚染鋳物廃砂の量に対する酸化マグネシウムの配合量が0.1〜5.0質量%の範囲では、配合量と不溶化率は直線的関係があり、例えば、1質量%配合の場合、フッ素の溶出濃度は約1/6になり、2質量%配合の場合、フッ素の溶出濃度は約1/12になった。
一方、フッ素汚染鋳物廃砂中のフッ素に対する、高炉セメントの配合量と不溶化効果についても直線的関係があり、例えばフッ素汚染鋳物廃砂の量に対して高炉セメント8.4質量%配合の場合、フッ素の溶出濃度は約1/12となることが明らかとなった。
【0037】
(実施例2)
次に、酸化マグネシウムの配合量(フッ素汚染鋳物廃砂の量の1.0質量%)を一定とし、フッ素汚染鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加した後の養生日数を変えて、養生日数と不溶化率の関係を調べた。なお、高炉セメントも添加した場合の高炉セメントの養生日数は3日とした。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3に示すように、例えば、フッ素の初期溶出濃度が31.8mg/lのフッ素汚染鋳物廃砂に対して、フッ素汚染鋳物廃砂の量の1質量%の酸化マグネシウムを配合し、6日間養生した後、混合物全量の8.4質量%の高炉セメントを配合し、さらに3日間養生した結果、フッ素溶出濃度は1.3mg/lとなり、フッ素の初期溶出濃度の約1/25になることが判った。
この結果は、酸化マグネシウムと高炉セメントを連続して混合した場合に比べて約2倍のフッ素不溶化率であると共に、従来の高炉セメントのみの不溶化率に比べて約3倍のフッ素不溶化率であった。
【0040】
(実施例3)
フッ素汚染鋳物廃砂と、他の骨材である細砂の配合比調整による希釈効果を調べるために、酸化マグネシウムの配合量(フッ素汚染鋳物廃砂の量の1.0質量%)と、酸化マグネシウム配合後の養生期間(7日間)と、高炉セメントの配合量(混合物全量の8.4質量%)と、高炉セメント配合後の養生期間(5日間)を一定とし、鋳物廃砂と細砂の配合比を変えて、フッ素溶出量の変化を調べた。
【0041】
【表4】

【0042】
表4から判るように、路盤材の製造においては、更に、鋳物廃砂とその他の骨材の配合比調整による希釈効果を考慮することができ、初期のフッ素溶出濃度が5〜100mg/lであるフッ素汚染鋳物廃砂を骨材として用いて路盤材を製造しても、環境基準値(0.8mg/l)を満足する路盤材を製造できることが判った。下記の式は、最終製品である路盤材のフッ素溶出濃度の計算式である。
路盤材製品のフッ素溶出濃度(mg/l)=初期フッ素溶出濃度(mg/l)÷25×フッ素汚染鋳物廃砂質量(kg)÷鋳物砂を含む細骨材質量(kg)
【0043】
(現場実証試験)
また、酸化マグネシウムと高炉セメントの複合効果について室内実験で表3及び表4に示す結果が得られたが、更に、路盤材製造現場のポットミキサー(0.1m)を用いて、現場で実用化規模の約1/7の規模で、実証試験を実施した。
即ち、(1)フッ素汚染鋳物廃砂の量に対して1.0質量%の酸化マグネシウムを添加した場合と、(2)フッ素汚染鋳物廃砂の量に対して2.0質量%の酸化マグネシウムを添加した場合と、(3)フッ素汚染鋳物廃砂の量に対して1.0質量%の酸化マグネシウム、及び高炉セメントを添加した場合と、(4)フッ素汚染鋳物廃砂の量に対して2.0質量%の酸化マグネシウム、及び高炉セメントを添加した場合について、酸化マグネシウム添加後の養生期間を変えて、フッ素不溶化率を調べた。結果を図2に示す。
【0044】
図2から判るように、酸化マグネシウムと高炉セメントの複合効果は、酸化マグネシウム養生期間が6日間の場合に25倍の不溶化率を示した。これは室内実験結果とほぼ同様の結果であり、現場でも、良好な結果が得られることを確認した。
【0045】
なお、酸化マグネシウムよりも先に高炉セメントをフッ素汚染鋳物廃砂に添加することも考えられるが、高炉セメントを先に添加すると、水分をかなり高くするので固化がすぐに始まる。そして、高炉セメントを添加した後、時間をおいて酸化マグネシウムを添加すると、すでに固化が進行しており、フッ素がセメント固化材に閉じ込められた形になっており、酸化マグネシウムとの反応が阻害される。また、将来、路盤材の劣化が進んだときに、閉じ込められていたフッ素の再溶出が危惧される。
また、路盤材製造の場合、高炉セメントの添加によって製品としての強度を発現させているが、酸化マグネシウムを後で添加すると、強度品質が確保できない可能性もある。
【0046】
以上説明したように、本発明は、フッ素汚染鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加した後、所定の期間養生させ、養生した後に高炉セメントを添加することによって、フッ素溶出濃度を大きく低下させることができ、フッ素汚染鋳物廃砂を骨材として利用しても、環境基準値を満たす路盤材を製造することができる。
【0047】
また、本発明により、産業廃棄物として廃棄処分されていた高いフッ素溶出濃度のフッ素汚染鋳物廃砂を路盤材製造用骨材として再利用することができ、産廃処理費用よりも安価に路盤材を製造することができる。これにより、産廃処理場の負担軽減や、フッ素汚染鋳物廃砂を骨材として利用できるので路盤材製造に必要な骨材(砂や砕石等)資源を削減でき、資源の循環に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】高濃度のフッ素及びクロムを含有する鋳物廃砂を用いた本発明の路盤材の製造方法の流れの一例を示すフロー図である。
【図2】実証試験における養生日数とフッ素不溶化率の関係図である。
【図3】鋳物廃砂を用いた従来の路盤材の製造方法の流れを示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程と、
該前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程と、
該養生工程で養生された混合物に高炉セメントを添加する後処理工程とを備える
フッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法。
【請求項2】
前記酸化マグネシウムの添加量は、フッ素を含む鋳物廃砂の量の0.2〜5.0質量%であり、
前記酸化マグネシウムが添加される前のフッ素を含む鋳物廃砂の水分率は、10〜13%であり、
前記前処理工程において前記フッ素を含む鋳物廃砂と前記酸化マグネシウムを混合撹拌する時間は、10〜40分であり、
前記養生工程において養生する期間は、3〜10日である
請求項1に記載のフッ素を含む鋳物廃砂の不溶化方法。
【請求項3】
フッ素を含む鋳物廃砂に酸化マグネシウムを添加する前処理工程と、
該前処理工程で得られた混合物を所定の期間で養生する養生工程と、
該養生工程で養生された混合物に、高炉セメントと、骨材と、水とを添加する造粒固化工程とを備える
路盤材の製造方法。
【請求項4】
前記高炉セメントの添加量は、路盤材全量に対して2〜10質量%である
請求項4に記載の路盤材の製造方法。
【請求項5】
前記骨材の添加量は、路盤材全量に対して10〜90質量%である
請求項3または請求項4に記載の路盤材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−119987(P2010−119987A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297979(P2008−297979)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(308029758)財団法人福岡県すこやか健康事業団 (4)
【Fターム(参考)】