説明

フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体、及びその製造方法

【課題】屈折率が低く、耐擦傷性、塗工性及び耐久性に優れた、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】パーフルオロ(アルキルアルケニルエーテル)を主成分とし、少量のヒドロキシアルキルアルケニルエーテル及びアルキルアルケニルエーテルを共重合させた水酸基含有含フッ素重合体と1個のイソシアネート基と少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを有する化合物とを反応させて得られる、フッ素含有率が40質量%以上であり、メチルイソブチルケトンに対する25℃における溶解度が10質量%以上であるエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体、その製造方法、並びにそれを用いた硬化性樹脂組成物及び反射防止膜に関する。より詳細には、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体、並びにこのエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を含み、硬化させたときに、屈折率が低く、耐擦傷性、塗工性、及び耐久性に優れた硬化物が得られる硬化性樹脂組成物、及びそのような硬化物からなる低屈折率層を含む反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネル、冷陰極線管パネル、プラズマディスプレー等の各種表示パネルにおいて、外光の映りを防止し、画質を向上させるために、低屈折率性、耐擦傷性、塗工性、及び耐久性に優れた硬化物からなる低屈折率層を含む反射防止膜が求められている。
これら表示パネルにおいては、付着した指紋、埃等を除去するため表面を、エタノール等を含侵したガーゼで拭くことが多く、耐擦傷性が求められている。
特に、液晶表示パネルにおいては、反射防止膜は、偏光板と貼り合わせた状態で液晶ユニット上に設けられている。また、基材としては、例えば、トリアセチルセルロース等が用いられているが、このような基材を用いた反射防止膜では、偏光板と貼り合わせる際の密着性を増すために、通常、アルカリ水溶液でケン化を行う必要がある。
従って、液晶表示パネルの用途においては、耐久性において、特に、耐アルカリ性に優れた反射防止膜が求められている。
【0003】
反射防止膜の低屈折率層用材料として、例えば、水酸基含有含フッ素重合体を含むフッ素樹脂系塗料が知られている(例えば、特許文献1〜4)。
しかし、このようなフッ素樹脂系塗料では、塗膜を硬化させるために、水酸基含有含フッ素重合体と、メラミン樹脂等の硬化剤とを、酸触媒下、加熱して架橋させる必要があり、加熱条件によっては、硬化時間が過度に長くなったり、使用できる基材の種類が限定されてしまうという問題があった。
また、得られた塗膜についても、耐候性には優れているものの、耐擦傷性や耐久性に乏しいという問題があった。
【0004】
さらに、本願出願人は、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、水酸基含有含フッ素重合体とをイソシアネート基/水酸基のモル比が1.1〜1.9の割合で反応させて得られるエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を用いれば、それを含む放射線硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化膜が、低屈折率であり、耐ガーゼ摩耗性等の耐擦傷性及び耐アルカリ性等の良好な耐久性を有することを見出し、特許出願をしている(特許文献5)。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−34107号公報
【特許文献2】特開昭59−189108号公報
【特許文献3】特開昭60−67518号公報
【特許文献4】特公平6−35559号公報
【特許文献5】特開2003−183322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献5に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体によれば、上述の低屈折率性及び耐久性を達成できるが、さらに低屈折率の材料が求められている。低屈折率化するためにフッ素含有率を高めようとした場合、上記特許文献5に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法によっては、得られるエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体のフッ素含有率には一定の限界があることがわかってきた。
即ち、上記特許文献5に記載の製造方法は、上記水酸基含有含フッ素重合体を真空乾燥等により一旦固化させ、別の溶媒に再溶解した後、上記1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と反応させるものである(特許文献5、実施例を参照)。しかし、フッ素含有率の高い水酸基含有含フッ素重合体の場合、これを一旦固化すると、溶媒に再溶解することができず、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物との反応を行うことができず、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を得ることができない。
水酸基含有含フッ素重合体を一旦固化して、溶媒に再溶解していた理由は、未反応の重合開始剤およびモノマーを除去し、エチレン性不飽和基含有イソシアネート化合物を反応させる際、ゲル化ならびに不純物の生成を抑制するためである。
【0007】
従って、本発明は、耐擦傷性、塗工性及び耐久性に優れ、かつ、より高屈折率の硬化物を与える、フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体、及びその製造方法、並びにそれを用いた硬化性樹脂組成物及び反射防止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ね、水酸基含有含フッ素重合体を固化することなく、該水酸基含有含フッ素重合体の重合反応液中で、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と反応させれば、フッ素含有率の高い水酸基含有含フッ素重合体を用いる場合であっても、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、下記のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体、及びその製造方法を提供する。
[1]フッ素含有率が40質量%以上であり、メチルイソブチルケトンに対する25℃における溶解度が10質量%以上であるエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
[2]1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、
水酸基含有含フッ素重合体と、
をイソシアネート基/水酸基のモル比が0.1〜1.9の割合で反応させて得られる上記[1]に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
[3]前記水酸基含有含フッ素重合体が、下記構造単位(a)40〜70モル%、(b)5〜55モル%及び(c)5〜55モル%を含んでなり、かつ、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が5,000〜500,000である上記[1]又は[2]に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
(a)下記一般式(1)で表される構造単位。
(b)下記一般式(2)で表される構造単位。
(c)下記一般式(3)で表される構造単位。
【化7】

[一般式(1)中、R1はフッ素原子、フルオロアルキル基、又は−OR2で表される基(R2はアルキル基、又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
【化8】

[一般式(2)中、R3は水素原子又はメチル基を、R4はアルキル基、−(CH2)x−OR5若しくは−OCOR5で表される基(R5はアルキル基、又はグリシジル基を、xは0又は1の数を示す)、カルボキシル基、又はアルコキシカルボニル基を示す]
【化9】

[一般式(3)中、R6は水素原子、又はメチル基を、R7は水素原子、又はヒドロキシアルキル基を、vは0又は1の数を示す]
[4]さらに、前記水酸基含有含フッ素重合体が、下記構造単位(d)0.1〜10モル%を含む上記[3]に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
(d)下記一般式(4)で表される構造単位。
【化10】

[一般式(4)中、R8及びR9は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を示す]
[5]前記水酸基含有含フッ素重合体が、前記構造単位(d)を下記構造単位(e)の一部として含むことを特徴とする上記[4]に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
(e)下記一般式(5)で表される構造単位。
【化11】

[一般式(5)中、R10〜R13は水素原子、アルキル基、又はシアノ基を示し、R14〜R17は水素原子又はアルキル基を示し、p、qは1〜6の数、s、tは0〜6の数、yは1〜200の数を示す。]
[6]さらに、前記水酸基含有含フッ素重合体が、下記構造単位(f)0.1〜5モル%を含む上記[3]〜[5]のいずれかに記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
(f)下記一般式(6)で表される構造単位。
【化12】

[一般式(6)中、R18は乳化作用を有する基を示す]
[7]前記1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物のエチレン性不飽和基が、(メタ)アクリロイル基である上記[1]〜[6]のいずれかに記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
[8]前記1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物が、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートである上記[1]〜[7]のいずれかに記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
[9]水酸基含有含フッ素重合体の重合液中で、該水酸基含有含フッ素重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させるエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法。
[10](1)水酸基含有含フッ素重合体の重合液中において、該水酸基含有含フッ素重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させて、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を合成する工程、
(2)該エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の重合液を、有機溶剤1に添加して、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を沈殿させ、回収する工程、
(3)該エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を、有機溶剤1と異なる有機溶剤2に溶解させる工程、
(4)該有機溶剤1を除去して、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が有機溶剤2に溶解した溶液を得る工程
を含むエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法。
[11]前記有機溶剤1が、メタノール、エタノール、2−プロパノール及び水 からなる群から選択される一以上の有機溶剤を含有してなる、上記[10]に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法。
[12]前記有機溶剤2が、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルアミルケトン、アセトン、酢酸ブチル及び酢酸エチルからなる群から選択される一以上の有機溶剤を含有してなる、上記[10]又は[11]に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が提供される。
本発明によれば、従来よりも屈折率が低く、耐ガーゼ摩耗性等の耐擦傷性及び耐アルカリ性等の耐久性に優れる硬化物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、フッ素含有率が40質量%以上であることを特徴とするものであり、MIBKに対して25℃において10質量%以上の溶解度を有する。ここで、フッ素含有率とは、ポリマー全体の質量に対してフッ素原子が占める割合(質量%)をいう。
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、通常、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、水酸基含有含フッ素重合体とを反応させて得られる。両化合物を反応させる際、イソシアネート基/水酸基のモル比が0.1〜1.9の割合で反応させることが好ましい。
【0012】
(1)1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物
1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物としては、分子内に、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基を含有している化合物であれば特に制限されるものではない。
尚、イソシアネート基を2個以上含有すると、水酸基含有含フッ素重合体と反応させる際にゲル化を起こす可能性がある。
また、上記エチレン性不飽和基として、後述する硬化性樹脂組成物をより容易に硬化させることができることから、(メタ)アクリロイル基を有する化合物がより好ましい。
このような化合物としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1−ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]エチルイソシアネートの一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0013】
尚、このような化合物は、ジイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて合成することもできる。
この場合、ジイソシアネートの例としては、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、1,3−キシリレンジイソシアネ−ト、1,4−キシリレンジイソシアネ−ト、1,5−ナフタレンジイソシアネ−ト、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、3,3’−ジメチルフェニレンジイソシアネ−ト、4,4’−ビフェニレンジイソシアネ−ト、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネア−ト)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネ−ト、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、6−イソプロピル−1,3−フェニルジイソシアネ−ト、4−ジフェニルプロパンジイソシアネ−ト、リジンジイソシアネ−ト、水添ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネ−ト、2,5(又は6)−ビス(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの中では、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネア−ト)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンが特に好ましい。
【0014】
また、水酸基含有(メタ)アクリレートの例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート等一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
尚、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、大阪有機化学(株)製 商品名 HEA、日本化薬(株)製 商品名 KAYARAD DPHA、PET−30、東亞合成(株)製 商品名 アロニックス M−215、M−233、M−305、M−400等として入手することができる。
【0015】
ジイソシアネート及び水酸基含有多官能(メタ)アクリレートから合成する場合には、ジイソシアネート1モルに対し、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートの添加量を1〜1.2モルとするのが好ましい。
【0016】
このような化合物の合成方法としては、ジイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを一括で仕込んで反応させる方法、水酸基含有(メタ)アクリレート中にジイソシアネートを滴下して反応させる方法等を挙げることができる。
【0017】
(2)水酸基含有含フッ素重合体
水酸基含有含フッ素重合体は、下記構造単位(a)40〜70モル%、(b)5〜55モル%及び(c)5〜55モル%を含んでなり、かつ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が5,000〜500,000であることが好ましい。
(a)下記一般式(1)で表される構造単位。
(b)下記一般式(2)で表される構造単位。
(c)下記一般式(3)で表される構造単位。
このように構成することにより、低屈折率性、耐擦傷性、塗工性、及び耐久性に優れた塗膜を得ることができる。
【0018】
【化13】

【0019】
[一般式(1)中、R1 はフッ素原子、フルオロアルキル基、又は−OR2で表される基(R2 はアルキル基、又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
【0020】
【化14】

【0021】
[一般式(2)中、R3 は水素原子又はメチル基を、R4はアルキル基、−(CH2)x−OR5 若しくは−OCOR5 で表される基(R5 はアルキル基、又はグリシジル基を、xは0又は1の数を示す)、カルボキシル基、又はアルコキシカルボニル基を示す]
【0022】
【化15】

【0023】
[一般式(3)中、R6 は水素原子、又はメチル基を、R7 は水素原子、又はヒドロキシアルキル基を、vは0又は1の数を示す]
(1)構造単位(a)
一般式(1)において、R1及びR2のフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基等の炭素数1〜6のフルオロアルキル基が挙げられる。また、R2のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0024】
構造単位(a)は、含フッ素ビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このような含フッ素ビニル単量体としては、少なくとも1個の重合性不飽和二重結合と、少なくとも1個のフッ素原子とを有する化合物であれば特に制限されるものではない。このような例としてはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン等のフルオロレフィン類;アルキルパーフルオロビニルエーテル又はアルコキシアルキルパーフルオロビニルエーテル類;パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(イソブチルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類;パーフルオロ(プロポキシプロピルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)類の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの中でも、ヘキサフルオロプロピレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)がより好ましい。
【0025】
尚、構造単位(a)の含有率は、水酸基含有含フッ素重合体の全体量を100モル%としたときに、40〜70モル%である。この理由は、含有率が40モル%未満になると、含フッ素重合体のフッ素含有率が40質量%に満たないため、本発明が意図するところのフッ素含有材料の光学的特徴である、低屈折率の発現が困難となる場合があるためであり、一方、含有率が70モル%を超えると、水酸基含有含フッ素重合体の有機溶剤への溶解性、透明性、又は基材への密着性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(a)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量に対して、40〜65モル%とするのがより好ましく、45〜60モル%とするのがさらに好ましい。
【0026】
(2)構造単位(b)
一般式(2)において、R4又はR5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ラウリル基等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ、アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0027】
構造単位(b)は、上述の置換基を有するビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このようなビニル単量体の例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、n−ドデシルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル若しくはシクロアルキルビニルエーテル類;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(n−プロポキシ)エチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0028】
尚、構造単位(b)の含有率は、水酸基含有含フッ素重合体の全体量を100モル%としたときに、5〜55モル%である。この理由は、含有率が5モル%未満になると、水酸基含有含フッ素重合体の有機溶剤への溶解性が低下する場合があるためであり、一方、含有率が55モル%を超えると、水酸基含有含フッ素重合体の透明性、及び低反射率性等の光学特性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(b)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量に対して、20〜55モル%とするのがより好ましく、30〜55モル%とするのがさらに好ましい。
【0029】
(3)構造単位(c)
一般式(3)において、R7のヒドロキシアルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基が挙げられる。
【0030】
構造単位(c)は、水酸基含有ビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このような水酸基含有ビニル単量体の例としては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類、アリルアルコール等が挙げられる。
また、水酸基含有ビニル単量体としては、上記以外にも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0031】
尚、構造単位(c)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量を100モル%としたときに、5〜70モル%とすることが好ましい。この理由は、含有率が5モル%未満になると、水酸基含有含フッ素重合体の有機溶剤への溶解性が低下する場合があるためであり、一方、含有率が70モル%を超えると、水酸基含有含フッ素重合体の透明性、及び低反射率性等の光学特性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(c)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量に対して、5〜40モル%とするのがより好ましく、5〜30モル%とするのがさらに好ましい。
【0032】
(4)構造単位(d)及び構造単位(e)
前記水酸基含有含フッ素重合体は、アゾ基含有ポリシロキサン化合物に由来する下記構造単位(d)0.1〜10モル%を含むことが好ましい。
(d)下記一般式(4)で表される構造単位。
【0033】
【化16】

【0034】
[一般式(4)中、R8 及びR9 は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を示す]
構造単位(d)を含むことにより、耐擦傷性が向上する。
【0035】
また、本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体において、上記構単位(d)を上記記構造単位(e)の一部として含むことが好ましい。
(e)前記一般式(5)で表される構造単位。
【0036】
【化17】

【0037】
[一般式(5)中、R10〜R13は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、又はシアノ基を示し、R14〜R17は、同一でも異なっていてもよく、水素原子又はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を示し、p、qは1〜6の数、s、tは0〜6の数、yは1〜200の数を示す。]
【0038】
以下、構造単位(d)及び(e)について説明する。
【0039】
一般式(4)において、R8又はR9のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が、ハロゲン化アルキル基としてはトリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基等の炭素数1〜4のフルオロアルキル基等が、アリール基としてはフェニル基、ベンジル基、ナフチル基等がそれぞれ挙げられる。
【0040】
構造単位(d)は、前記一般式(4)で表されるポリシロキサンセグメントを有するアゾ基含有ポリシロキサン化合物を用いることにより導入することができる。このようなアゾ基含有ポリシロキサン化合物の例としては、下記一般式(7)で表される化合物が挙げられる。
【0041】
【化18】

【0042】
[一般式(7)中、R10〜R13、R14〜R17、p、q、s、t、及びyは、上記一般式(5)と同じであり、zは1〜20の数である。]
【0043】
一般式(7)で表される化合物を用いた場合には、構造単位(d)は、構造単位(e)の一部として水酸基含有含フッ素重合体に含まれる。この場合、一般式(5)において、R10〜R13のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ、R14〜R17のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。
【0044】
本発明において、上記一般式(7)で表されるアゾ基含有ポリシロキサン化合物としては、下記一般式(8)で表される化合物が特に好ましい。
【0045】
【化19】

【0046】
[一般式(8)中、y及びzは、上記一般式(7)と同じである。]
【0047】
尚、構造単位(d)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量を100モル%としたときに、0.1〜10モル%とすることが好ましい。この理由は、含有率が0.1モル%未満になると、硬化後の塗膜の表面滑り性が低下し、塗膜の耐擦傷性が低下する場合があるためであり、一方、含有率が10モル%を超えると、水酸基含有含フッ素重合体の透明性に劣り、コート材として使用する際に、塗布時にハジキ等が発生し易くなる場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(d)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量に対して、0.1〜5モル%とするのがより好ましく、0.1〜3モル%とするのがさらに好ましい。同じ理由により、構造単位(e)の含有率は、その中に含まれる構造単位(d)の含有率を上記範囲にするよう決定することが望ましい。
【0048】
(5)構造単位(f)
さらに、上記水酸基含有含フッ素重合体は、下記構造単位(f)0.1〜5モル%を含むことが好ましい。
(f)下記一般式(6)で表される構造単位。
【0049】
【化20】

【0050】
[一般式(6)中、R18は乳化作用を有する基を示す]
【0051】
構造単位(f)を含むことにより、塗工性が向上する。
【0052】
以下、構造単位(f)について説明する。
【0053】
一般式(6)において、R18の乳化作用を有する基としては、疎水性基及び親水性基の双方を有し、かつ、親水性基がポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル構造である基が好ましい。
【0054】
このような乳化作用を有する基の例としては下記一般式(9)で表される基が挙げられる。
【0055】
【化21】

【0056】
[一般式(9)中、nは1〜20の数、mは0〜4の数、uは3〜50の数を示す]
【0057】
構造単位(f)は、反応性乳化剤を重合成分として用いることにより導入することができる。このような反応性乳化剤としては、下記一般式(10)で表される化合物が挙げられる。
【0058】
【化22】

【0059】
[一般式(10)中、n、m、及びuは、上記一般式(9)と同様である]
【0060】
尚、構造単位(f)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量を100モル%としたときに、0.1〜5モル%とすることが好ましい。この理由は、含有率が0.1モル%以上になると、水酸基含有含フッ素重合体の溶剤への溶解性が向上し、一方、含有率が5モル%以内であれば、硬化性樹脂組成物の粘着性が過度に増加せず、取り扱いが容易になり、コート材等に用いても耐湿性が低下しないためである。
また、このような理由により、構造単位(f)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量に対して、0.1〜3モル%とするのがより好ましく、0.2〜3モル%とするのがさらに好ましい。
【0061】
(6)分子量
水酸基含有含フッ素重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という。)で、テトラヒドロフラン(以下「THF」という。)を溶剤として測定したポリスチレン換算数平均分子量が5,000〜500,000であることが好ましい。この理由は、数平均分子量が5,000未満になると、水酸基含有含フッ素重合体の機械的強度が低下する場合があるためであり、一方、数平均分子量が500,000を超えると、後述する硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、薄膜コーティングが困難となる場合がるためである。
また、このような理由により、水酸基含有含フッ素重合体のポリスチレン換算数平均分子量を10,000〜300,000とするのがより好ましく、10,000〜100,000とするのがさらに好ましい。
【0062】
(3)反応モル比
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、上述した、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、水酸基含有含フッ素重合体とを、イソシアネート基/水酸基のモル比が0.1〜1.9の割合で反応させることが好ましい。この理由は、モル比が0.1未満になると耐擦傷性及び耐久性が低下する場合があるためであり、一方、モル比が1.9を超えると、硬化性樹脂組成物の塗膜のアルカリ水溶液浸漬後の耐擦傷性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、イソシアネート基/水酸基のモル比を、0.3〜1.5とするのが好ましく、0.5〜1.5とするのがより好ましい。
【0063】
2.エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法(以下、本発明の製造方法という)は、水酸基含有含フッ素重合体の重合液中で、該水酸基含有含フッ素重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させることを特徴とする。
【0064】
より具体的には、
(1)水酸基含有含フッ素重合体の重合液中において、該水酸基含有含フッ素重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させて、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を合成する工程、
(2)該エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の重合液を、有機溶剤1に添加して、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を沈殿させ、回収する工程、
(3)該エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を、有機溶剤1と異なる有機溶剤2に溶解させる工程、
(4)該有機溶剤1を除去して、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が有機溶剤2に溶解した溶液を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0065】
本発明の製造方法は、特にフッ素含有率が50質量%以上、より好ましくは53質量%以上の水酸基含有含フッ素重合体を用いてエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を製造するのに好適であるが、フッ素含有率が50質量%未満の水酸基含有含フッ素重合体を用いる場合にも適用することができる。
【0066】
以下、各工程について説明する。
工程(1):
前記水酸基含有含フッ素重合体の重合液とは、含フッ素ビニル単量体(構造単位(a)を構成する化合物)、ビニル単量体(構造単位(b)を構成する化合物)、水酸基含有ビニル単量体(構造単位(c)を構成する化合物)、必要によりアゾ基含有ポリシロキサン化合物(構造単位(d)を構成する化合物)、反応性乳化剤(構造単位(f)を構成する化合物)を、各構成単位が前記所定の割合となるように混合して重合させて、水酸基含有含フッ素重合体が形成されている反応液である。
水酸基含有含フッ素重合体の重合時に用いる反応溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0067】
上記の水酸基含有含フッ素重合体の重合液に、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物を添加し、反応させることにより、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が合成される。
本工程において、反応液のゲル化等を防止するため、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、p−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチルメチルフェノール等が好ましい。
水酸基含有含フッ素重合体を一旦固化させることなく、上記のように反応を行うことにより、フッ素含量の高い水酸基含有含フッ素重合体から、特許文献5に記載の方法では製造できなかったフッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を製造することができる。本発明の製造方法により得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、フッ素含有率が40質量%以上と高いにもかかわらず、MIBKに対する25℃における溶解度が10質量%以上と良好である。
【0068】
水酸基含有含フッ素重合体と1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物との反応条件は、通常、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジラウリル酸ジ−n−ブチル錫、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン−2−メチルトリエチレンアミン等のウレタン化触媒が反応原料の総量に対して0.01〜1質量%の量で用い、反応温度は通常、10〜90℃、特に30〜80℃で行うのが好ましい。
【0069】
工程(2):
エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が生成している重合液を有機溶剤1に添加し、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を沈殿させ、沈殿物を回収し、該溶媒によって膨潤した状態のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を重合液から分離する。本工程では、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体をウエットな状態に保持し、固化させないことが必要である。
用いる有機溶剤1としては、水もしくはアルコールが好ましく、メタノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール(n−BuOH)、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられ、中でもメタノールが好ましい。
有機溶剤1を使用する量は、添加するエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が生成している重合液100質量部に対し、通常500〜5000質量部を使用する。
【0070】
工程(3):
工程(2)で得た有機溶剤1で膨潤した状態のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体に、有機溶剤2を加え、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を溶解させる。
用いる有機溶剤2としては、ケトンが好ましく、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルアミルケトン(MAK)、アセトン、メチルプロピルケトン等が挙げられ、中でもメチルイソブチルケトン(MIBK)が好ましい。
良溶媒の添加量は、工程(2)で得た有機溶剤1で膨潤した状態のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体100質量部に対し、通常100〜1000質量部の範囲内であり、好ましくは200〜900質量部の範囲内である。
【0071】
工程(4):
上記工程(3)で得られた溶液から、前記有機溶剤1を減圧留去等の手段で除去し、溶媒を置換して、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が有機溶剤2に溶解した溶液を得る。
本工程で得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の溶液は、そのまま、後述する硬化性樹脂組成物の構成成分として使用できる。
有機溶剤1を減圧留去する際の条件は、通常、温度30〜60℃、圧力100〜300hPaである。
【0072】
本発明の製造方法によれば、フッ素含有率が40質量%以上、より好ましくは43質量%以上のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が得られる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0074】
(製造例1)
水酸基含有含フッ素重合体溶液1の製造
内容積2.0Lの電磁攪拌機付きステンレス製オートクレーブを窒素ガスで十分置換した後、酢酸エチル525g、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(FPVE)269.1g、エチルビニルエーテル(EVE)36.4g、ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)44.5g、過酸化ラウロイル1.75gを仕込み、再度窒素ガスで系内の酸素を除去した。
次いで昇温を開始し、70℃で20時間攪拌下に反応を継続後、オートクレーブを水冷し、反応を停止させた。
反応液の温度が室温に達した後、オートクレーブを開放し、固形分濃度40質量%の水酸基含有含フッ素重合体溶液1を得た。また、生成した水酸基含有含フッ素重合体を水酸基含有含フッ素重合体1とする。得られた水酸基含有含フッ素重合体1の単量体及び溶剤の仕込み質量(g)を表1に示す。
【0075】
(製造例2及び3)
水酸基含有含フッ素重合体溶液2及び3の製造
表1に示す単量体及び溶剤を、表1に記載の仕込み質量(g)で用いた以外は製造例1と同様にして水酸基含有含フッ素重合体溶液2及び3を得た。生成した水酸基含有含フッ素重合体を、それぞれ水酸基含有含フッ素重合体2及び3という。
【0076】
【表1】

【0077】
表1中、VPS1001は、数平均分子量が7〜9万、ポリシロキサン部分の分子量が約10,000の、上記一般式(8)で表されるアゾ基含有ポリジメチルシロキサンである。NE−30は、上記一般式(10)において、nが9、mが1、uが30であるノニオン性反応性乳化剤である。
【0078】
尚、表1において、単量体と構造単位との対応関係は以下の通りである。
単量体 構造単位
パーフルオロ(プロピルビニルエーテル) (a)
エチルビニルエーテル (b)
ヒドロキシエチルビニルエーテル (c)
ポリジメチルシロキサン骨格(VPS1001) (d)
NE−30 (f)
【0079】
以下、本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の合成例を実施例1〜4に示す。
(実施例1)
エチレン性不飽和基含有フッ素重合体溶液(A−1)の製造
電磁攪拌機、ガラス製冷却管及び温度計を備えた容量3リットルのセパラブルフラスコに、製造例1で得られた水酸基含有含フッ素重合体溶液1を810gと重合禁止剤としてp−メトキシフェノールを0.12g仕込み、78℃で5時間攪拌を行った後、氷浴を用い20℃まで冷却した。次に、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチルメチルフェノール0.06g及び、溶剤として酢酸エチルを1098g及び、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを72.2gを添加し、溶液が均一になるまで攪拌した後、ジブチルチンジラウレート0.8gを添加して反応を開始し、系の温度を55〜65℃に保持し5時間攪拌を乾燥空気下にて継続し、水酸基含有含フッ素重合体1と2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応物B−1を得た。次に、得られた反応物を、電磁攪拌機を備えた容量40Lのステンレス製容器に仕込んだメタノール20kg中に攪拌しながら滴下後、2時間静置を行い、反応物B−1を沈殿させた。沈殿物を溶剤(メタノールと酢酸エチルの混合溶剤)から分離し、溶剤によって膨潤した状態の反応物C−1、410gを得た。この反応物C−1および1800gのMIBKを電磁攪拌機を備えた容量3リットルのセパラブルフラスコに仕込み、溶液が均一になるまで攪拌したあと、3Lのナス型フラスコに仕込み、エバポレーターを用い、温度40℃、圧力150hPaの条件下にて、残留するメタノール、酢酸エチルを留去した。固形分含量が20%になるようにMIBKを追加することにより、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体(A−1)のMIBK溶液を得た。 水酸基含有含含フッ素重合体と2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応における各成文の配合量を表2に示す。また、得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体のNMRチャートを図1に示す。
【0080】
(実施例2〜4)
エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体(A−2〜A−4)の合成
表2に示すように、実施例1において、水酸基含有含フッ素重合体の種類、並びに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、MIBK及びイソシアネート基/水酸基のモル比を変えた以外は、実施例1と同様にしてエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体(A−2〜A−4)のMIBK溶液を得た。
【0081】
【表2】

【0082】
表2中、ヒドロキシエチルビニルエーテル残基とあるのは、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートと結合したヒドロキシエチルビニルエーテルを意味する。
【0083】
(比較例1)
製造例1で得られた水酸基含有含フッ素重合体溶液1を810gを、電磁攪拌機を備えた容量40Lのステンレス製容器に仕込んだメタノール20kg中に攪拌しながら滴下後、2時間静置を行い、水酸基含有含フッ素重合体1を沈殿させた。沈殿物を真空乾燥して水酸基含有含フッ素重合体1を固化した。こうして固化した水酸基含有含フッ素重合体1及びMIBK 1800gを、電磁攪拌機を備えた容量3リットルのセパラブルフラスコに仕込み撹拌して溶解を試みたが、水酸基含有含フッ素重合体1はMIBKに溶解しなかった。
【0084】
表2及び比較例1の結果から、製造例で得られた水酸基含有含フッ素重合体を固化させることなく2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートと反応させることにより、フッ素含有率が40%以上のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、従来よりフッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を提供することができる。
本発明のフッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、屈折率が低いため、低屈折率を必要とする用途、特に、反射防止膜の低屈折率層形成用材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、実施例1で得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体のNMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有率が40質量%以上であり、メチルイソブチルケトンに対する25℃における溶解度が10質量%以上であるエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
【請求項2】
1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、
水酸基含有含フッ素重合体と、
をイソシアネート基/水酸基のモル比が0.1〜1.9の割合で反応させて得られる請求項1に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
【請求項3】
前記水酸基含有含フッ素重合体が、下記構造単位(a)40〜70モル%、(b)5〜55モル%及び(c)5〜55モル%を含んでなり、かつ、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が5,000〜500,000である請求項1又は2に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
(a)下記一般式(1)で表される構造単位。
(b)下記一般式(2)で表される構造単位。
(c)下記一般式(3)で表される構造単位。
【化1】

[一般式(1)中、R1はフッ素原子、フルオロアルキル基、又は−OR2で表される基(R2はアルキル基、又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
【化2】

[一般式(2)中、R3は水素原子又はメチル基を、R4はアルキル基、−(CH2)x−OR5若しくは−OCOR5で表される基(R5はアルキル基、又はグリシジル基を、xは0又は1の数を示す)、カルボキシル基、又はアルコキシカルボニル基を示す]
【化3】

[一般式(3)中、R6は水素原子、又はメチル基を、R7は水素原子、又はヒドロキシアルキル基を、vは0又は1の数を示す]
【請求項4】
さらに、前記水酸基含有含フッ素重合体が、下記構造単位(d)0.1〜10モル%を含む請求項3に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
(d)下記一般式(4)で表される構造単位。
【化4】

[一般式(4)中、R8及びR9は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を示す]
【請求項5】
前記水酸基含有含フッ素重合体が、前記構造単位(d)を下記構造単位(e)の一部として含むことを特徴とする請求項4に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
(e)下記一般式(5)で表される構造単位。
【化5】

[一般式(5)中、R10〜R13は水素原子、アルキル基、又はシアノ基を示し、R14〜R17は水素原子又はアルキル基を示し、p、qは1〜6の数、s、tは0〜6の数、yは1〜200の数を示す。]
【請求項6】
さらに、前記水酸基含有含フッ素重合体が、下記構造単位(f)0.1〜5モル%を含む請求項3〜5のいずれか1項に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
(f)下記一般式(6)で表される構造単位。
【化6】

[一般式(6)中、R18は乳化作用を有する基を示す]
【請求項7】
前記1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物のエチレン性不飽和基が、(メタ)アクリロイル基である請求項1〜6のいずれか一項に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
【請求項8】
前記1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物が、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートである請求項1〜7のいずれか一項に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体。
【請求項9】
水酸基含有含フッ素重合体の重合液中で、該水酸基含有含フッ素重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させるエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法。
【請求項10】
(1)水酸基含有含フッ素重合体の重合液中において、該水酸基含有含フッ素重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させて、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を合成する工程、
(2)該エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の重合液を、有機溶剤1に添加して、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を沈殿させ、回収する工程、
(3)該エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を、有機溶剤1と異なる有機溶剤2に溶解させる工程、
(4)該有機溶剤1を除去して、エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が有機溶剤2に溶解した溶液を得る工程
を含むエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法。
【請求項11】
前記有機溶剤1が、メタノール、エタノール、2−プロパノール及び水からなる群から選択される一以上の有機溶剤を含有してなる、請求項10に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法。
【請求項12】
前記有機溶剤2が、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルアミルケトン、アセトン、酢酸ブチル及び酢酸エチルからなる群から選択される一以上の有機溶剤を含有してなる、請求項10又は11に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−328341(P2006−328341A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247532(P2005−247532)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】