説明

フッ素樹脂フィルムの製造方法、および農業ハウス用フィルムならびに太陽電池パネル用表皮材フィルム

【課題】所定の傾斜角の傾斜面を有する凹凸(プリズム形状等。)が表面に形成されたフッ素樹脂フィルムを生産性よく、かつ低コストで製造できる方法;および光透過量の入射角度依存性が小さいフッ素樹脂フィルムでありながら、低コストである農業ハウス用フィルムならびに太陽電池パネル用表皮材フィルムを提供する。
【解決手段】傾斜角が20〜75度の傾斜面を有する凸部および/または凹部が表面に複数形成された型ロール16と、バックアップロール18との間に、ダイス14から押し出されたフッ素樹脂を通過させ、該フッ素樹脂をフィルムに成形すると同時に、該フィルムの表面に前記凸部および/または凹部を転写するフッ素樹脂フィルム20の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸部および/または凹部が表面に複数形成されたフッ素樹脂フィルムの製造方法、および該製造方法で得られた農業ハウス用フィルムならびに太陽電池パネル用表皮材フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業ハウス用フィルム、太陽電池パネル用表皮材フィルム等の太陽光を透過させることを目的としたフィルムにおいては、太陽光の入射角度が時間や季節によって変わるため、光透過量の入射角度依存性が小さいことが求められる。
太陽光の入射角度に応じて光透過量を調節するフィルムとしては、所定の傾斜角の傾斜面を有する凹凸(プリズム形状等。)が表面に形成されたフィルムが知られている(特許文献1、2)。
【0003】
フィルムの表面に凹凸を形成する方法としては、たとえば、下記の方法が知られている。
(1)別工程にて製造されたポリ塩化ビニルフィルムを、赤外線ヒータで100〜130℃に再加熱した後、水冷されたエンボスロールとバックアップロールとの間に通し、エンボスロールの表面の凹凸をフィルムの片面に転写する方法(特許文献1の段落[0013]、[0014])。
(2)凹凸が彫られた金型に熱硬化性樹脂を注入し、加熱、硬化させてプリズムシートを得る方法(特許文献2の段落[0031])。
【0004】
最近、農業ハウス用フィルム、太陽電池パネル用表皮材フィルム等の材料としては、耐候性に優れることから、フッ素樹脂が用いられるようになっている。
しかし、(2)の方法では、フッ素樹脂フィルムの表面に凹凸を形成することはできない。一方、(1)の方法では、フッ素樹脂フィルムの表面に凹凸を形成することはできるものの、下記の理由から、表面に凹凸が形成されたフッ素樹脂フィルムを生産性よく、かつ低コストで製造できない。
【0005】
(i)フッ素樹脂フィルムを製造する工程と、フッ素樹脂フィルムの表面に凹凸を形成する工程との2工程が必要である。
(ii)フッ素樹脂の融点が高い(たとえば、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の融点は低融点タイプでも225℃である。)ため、赤外線ヒータでの再加熱に長時間必要である。そのため、再加熱のための多くのエネルギーが必要であり、また、生産速度を上げることができない。
(iii)赤外線ヒータで充分による加熱では、フッ素樹脂フィルムの表面が偏って加熱されるため、エンボスロールの表面の凹凸をフィルムの表面に正確に転写するためには、エンボスロールの表面にフッ素樹脂フィルムを長時間接触させる必要がある。そのため、生産速度を上げることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−141693号公報
【特許文献2】特開2000−031515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、所定の傾斜角の傾斜面を有する凹凸(プリズム形状等。)が表面に形成されたフッ素樹脂フィルムを生産性よく、かつ低コストで製造できる方法;および光透過量の入射角度依存性が小さいフッ素樹脂フィルムでありながら、低コストである農業ハウス用フィルムならびに太陽電池パネル用表皮材フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法は、傾斜角が20〜75度の傾斜面を有する凸部および/または凹部が表面に複数形成された型ロールと、バックアップロールとの間に、ダイスから押し出されたフッ素樹脂を通過させ、該フッ素樹脂をフィルムに成形すると同時に、該フィルムの表面に前記凸部および/または凹部を転写することを特徴とする。
【0009】
前記フッ素樹脂は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体であることが好ましい。
前記ダイスの温度は280〜360℃であり、前記型ロールの温度は120〜240℃であることが好ましい。
前記型ロールの外周速度は1〜300m/分であることが好ましい。
前記型ロールとバックアップロールとを2〜200kg/cmの線圧で押し付けることが好ましい。
【0010】
前記凸部のとなりあう局部山頂の平均間隔または前記凹部のとなりあう局部谷底の平均間隔は、4〜200μmであることが好ましく、前記凸部の平均高さまたは前記凹部の平均深さは、2〜100μmであることが好ましい。
前記凸部は、断面三角形の凸条、または角錐形の突起であることが好ましい。
前記凹部は、断面V字形の溝、または角錐形の孔であることが好ましい。
なお、前記断面とは凸条または溝の長手方向に直交する方向の断面をいう。
【0011】
本発明の農業ハウス用フィルムならびに太陽電池パネル用表皮材フィルムは、本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法で得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法によれば、所定の傾斜角の傾斜面を有する凹凸(プリズム形状等。)が表面に形成されたフッ素樹脂フィルムを生産性よく製造できる。
本発明の農業ハウス用フィルムならびに太陽電池パネル用表皮材フィルムは、光透過量の入射角度依存性が小さいフッ素樹脂フィルムでありながら、従来のものに比べ低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】型ロールの表面付近の断面図である。
【図3】実施例におけるフッ素樹脂フィルムの光透過量の入射角度依存性を評価するための装置を示す概略図である。
【図4】実施例におけるフッ素樹脂フィルムの評価に用いた太陽電池モジュールを示す断面図である。
【図5】例1のフッ素樹脂フィルムの表面の電子顕微鏡写真である。
【図6】例1のフッ素樹脂フィルムの断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<フッ素樹脂フィルムの製造方法>
本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法は、傾斜角が20〜75度の傾斜面を有する凸部および/または凹部(以下、これらをまとめて凹凸とも記す。)が表面に複数形成された型ロールと、バックアップロールとの間に、ダイスから押し出されたフッ素樹脂を通過させ、該フッ素樹脂をフィルムに成形すると同時に、該フィルムの表面に前記凸部および/または凹部を転写する方法である。
【0015】
(製造装置)
図1は、フッ素樹脂フィルムの製造装置の一例を示す概略図である。該製造装置10は、フッ素樹脂を溶融させる押出機12と;押出機12に接続され、先端に溶融されたフッ素樹脂を押し出すスリットが形成されたダイス14と;ダイス14から押し出されたフッ素樹脂が通過できるように配置された、一対の型ロール16およびバックアップロール18と;型ロール16に沿って移動するフッ素樹脂フィルム20を型ロール16から剥離させると同時に冷却し、巻取機(図示略)へと移送する剥離ロール22とを具備する。
【0016】
型ロール:
型ロールの材料としては、金属、セラミック、樹脂等が挙げられ、フッ素樹脂の熱加工温度が比較的高いことから、耐熱性の高い材料が好ましい。耐熱温度は、300℃以上が好ましい。よって、型ロールの材料としては、耐熱性、耐久性の点から、金属、セラミックが好ましく、加工性の点から、金属がより好ましく、鉄系の材料がさらに好ましい。
【0017】
金属製の型ロールの表面は、硬さを増すために、セラミックコーティング、セラミック焼結、セラミック蒸着、超硬金属溶射、メッキ、浸炭、窒化等の表面改質を施されていてもよい。表面改質としては、型ロールが鉄系の材料からなる場合、表面粗度、耐食性、加工性の点から、無電解ニッケルメッキが好ましい。無電解ニッケルメッキ層の厚さは50〜500μmが好ましい。メッキ層の厚さが50μmでは、凹凸の形成時に下地が露出して、凹凸の精度、耐食性等が低下しやすい。メッキ層の厚さが500μmを超えると、メッキ層の歪が過大になり、クラック等の欠陥発生により、メッキ層の密着性、耐食性が低下しやすい。
【0018】
型ロールの表面に凹凸を形成する方法としては、切削、エッチング等の方法が挙げられ、生産性の点から、型ロールを回転させながらの切削が好ましい。切削には、高い精度が要求される点から、精密旋盤を用いることが好ましい。
【0019】
型ロールの表面の凹凸は、フッ素樹脂フィルムの表面に形成される凹凸を反転した形状となる。
凸部としては、型ロールの表面に延在する長尺の凸条、型ロールの表面に点在する突起等が挙げられる。
凹部としては、型ロールの表面に延在する長尺の溝、型ロールの表面に点在する孔等が挙げられる。
【0020】
凸条または溝の形状としては、直線、曲線、折れ曲がり形状等が挙げられ、型ロールの周方向に延びる直線形状が好ましい。凸条または溝は、複数が平行に存在して縞状をなしていてもよい。
凸条または溝の、長手方向に直交する方向の断面形状としては、三角形(V字形)、台形等が挙げられ、三角形(V字形)が好ましい。
突起または孔の形状としては、三角錐形、四角錐形、六角錐形、円錐形等が挙げられる。
【0021】
凹凸は、フッ素樹脂フィルムにおける光透過量の入射角度依存性を小さくするために、傾斜角が20〜75度の傾斜面を有する。傾斜角が20度未満では、光透過量の入射角度依存性の低減が小さく、充分な光透過量の向上に至らない。傾斜角が75度を超えると、フッ素樹脂フィルムの表面の凸部の強度が不充分となる、凹凸を転写する際の型抜け性が悪くなる、型ロールの作製が困難になる、型ロールの表面の凸部の強度が不充分になるため型ロールの耐久性が低下する等の問題が発生する。傾斜面の傾斜角は、30〜65度が好ましい。
【0022】
傾斜角は、図2に示すように、型ロール16の凸部(凸条24)のとなりあう局部山頂を結ぶ線を0度とし、該線からの傾斜面までの最も小さい角度αである。凸部がない場合は、凹部(溝26)のとなりあう局部谷底を結ぶ線を0度とし、該線からの傾斜面までの最も小さい角度αである。
【0023】
傾斜面の合計面積は、型ロールの表面の面積(100%)のうち、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。傾斜面の合計面積が50%未満では、光透過量の入射角度依存性の低減が小さく、光透過量の向上効果が充分に得られない。型ロールの表面の面積とは、型ロールの表面に直交する方向から見て、該表面を1平面上に表した投影図における面積であり、凹凸を形成する前の型ロールの表面の面積と同じである。また、傾斜面の面積とは、該投影図における傾斜面が形成された部分の面積であり、傾斜が加味された傾斜面の実際の面積とは異なる。
【0024】
凹凸は、光透過量の入射角度依存性を充分に小さくできる点から、プリズム形状であることが好ましい。
プリズム形状としては、一方向の三角形プリズム、二方向プリズム、三方向プリズムが挙げられる。一方向の三角形プリズムは、元型ロールの作製が容易であり、離型性も良好であるが、光学的には異方性を有する。二方向プリズム、三方向プリズムは、光学的な異方性は小さいが、元型ロールのコストは高くなる。プリズム形状は、フッ素樹脂フィルムに要求される性能によって選択される。
【0025】
一方向の三角形プリズムとしては、断面三角形の凸条および/または断面V字形の溝が挙げられる。該凸条および/または溝は、図2に示すように、断面三角形の凸条24と断面V字形の溝26とが交互に、かつ平行に存在している形状であることがより好ましい。
二方向プリズムとしては、四角錐形の突起および/または四角錐形の孔が挙げられる。該突起および/または孔は、複数が等間隔に、かつとなりあう突起および/または孔の傾斜面が同一平面に位置するように整列した形状であることがより好ましい。
三方向プリズムとしては、三角錐形の突起および/または三角錐形の孔が挙げられる。該突起および/または孔は、複数が等間隔に、かつとなりあう突起および/または孔の傾斜面が同一平面に位置するように整列した形状であることがより好ましい。
【0026】
凹凸は、光学的な異方性を軽減する点から、円錐形の突起および/または円錐形の孔であってもよい。該突起および/または孔は、複数が等間隔に整列した形状であることがより好ましい。
【0027】
凹凸の平均ピッチは、4〜200μmが好ましく、かつ凸部の平均高さまたは凹部の平均深さは、2〜100μmが好ましい。フッ素樹脂フィルムの厚さは、重さや光透過率の点から300μm以下が好ましいため、平均ピッチが200μmを超え、平均高さ(平均深さ)が100μmを超える場合、フッ素樹脂フィルムの局部谷底部分の厚さが薄くなりすぎて、充分な強度が得られない。
【0028】
凹凸の平均ピッチは、5〜100μmがより好ましく、かつ凸部の平均高さまたは凹部の平均深さは、4〜50μmがより好ましい。また、凹凸の平均ピッチは、10〜60μmがさらに好ましく、かつ凸部の平均高さまたは凹部の平均深さは、8〜30μmがさらに好ましい。
平均ピッチは、凸部のとなりあう局部山頂の間隔または凹部のとなりあう局部谷底の間隔を、無作為に10箇所測定し、平均した値である。
平均高さ(平均深さ)は、凸部の局部山頂と、該凸部にとなりあう凹部の局部谷底との高低差を、無作為に10箇所測定し、平均した値である。
【0029】
バックアップロール:
バックアップロールとしては、型ロールへの押し付けを均一にする点から、弾性ロールが好ましい。弾性ロールとしては、耐熱シリコーンゴムで被覆されたロール等が挙げられる。
【0030】
剥離ロール:
剥離ロールとしては、金属ロール、ゴム被覆ロール、樹脂被覆ロール等が挙げられる。
【0031】
(製造方法)
以下、図1の製造装置10を用いた製造方法について説明する。
押出機12内で溶融されたフッ素樹脂を、ダイス14のスリットから膜状に押し出す。
該フッ素樹脂を、ダイス14の下方に配置され、所定の加圧力で押し付けられた型ロール16とバックアップロール18との間に通過させることによって、該フッ素樹脂をフィルムに成形すると同時に、該フィルムの表面に型ロール16の表面の凹凸を転写する。
型ロール16とバックアップロール18との間を通過したフッ素樹脂フィルム20は、所定の外周速度で回転する型ロール16に沿って移動し、剥離ロール22によって型ロール16から剥離されと同時に冷却され、巻取機(図示略)へと移送される。
【0032】
フッ素樹脂としては、フッ素原子含有率が10質量%以上のフッ素樹脂が好ましい。該フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFEと記す。)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエール)−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体等が挙げられ、ETFE、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン共重合体が好ましく、ETFEがより好ましい。
フッ素樹脂には、紫外線カット、赤外線カット、光散乱、着色等の目的により、無機顔料、有機顔料、染料、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等の添加剤を適宜添加してもよい。
【0033】
押出機内の温度は、フッ素樹脂がETFEの場合、280〜360℃が好ましい。押出機内の温度が280℃未満では、樹脂の粘度が十分に低下しないので、樹脂を搬送するスクリューの負荷が過大となり、次のダイス内に低温の樹脂が流れ込むことで製品外観が悪くなるおそれがある。押出機内の温度が360℃を超えると、樹脂が熱分解して着色したり、分子量の低下により強度が低下するおそれがある。
【0034】
ダイスの温度は、フッ素樹脂がETFEの場合、280〜360℃が好ましい。ダイスの温度が280℃未満では、樹脂の粘度が十分に低下しないので、いわゆる加工圧力が過大となり、製品外観が悪くなり、生産性が低くなる。ダイスの温度が360℃を超えると、樹脂が熱分解して着色したり、分子量の低下により強度が低下するおそれがある。
【0035】
型ロールの表面温度は、フッ素樹脂がETFEの場合、120〜240℃が好ましく、140〜220℃がより好ましい。型ロールの温度が120℃未満では、ETFEの軟化が不充分となり、凹凸の転写性が悪くなる。型ロールの温度が240℃を超えると、型ロールにETFEが粘着し、剥離が困難になる。
型ロールの加熱方法としては、ロール内部に熱媒を循環させる方法;誘導コイルをロールに巻き、外筒に形成したシェル内の熱媒を加熱する方法等が挙げられる。
【0036】
型ロールの外周速度は、フッ素樹脂がETFEの場合、1〜300m/分が好ましく、3〜200m/分がより好ましい。外周速度が1m/分未満では、生産性が低下する。外周速度が300m/分を超えると、上述のロール温度および加圧力では凹凸の転写性が悪い。
【0037】
バックアップロールの表面温度は、フッ素樹脂がETFEの場合、50〜240℃が好ましい。バックアップロールの温度が50℃未満では、型ロールの温度も低下するため、ETFEの軟化が不充分となり、凹凸の転写性が悪くなる。バックアップロールの温度が240℃を超えると、バックアップロールにETFEが粘着し、また、ゴム被覆と芯金(金属ロール)との接着力は低下し、バックアップロールの耐久性が著しく低下する。
バックアップロールの加熱方法としては、ロール内部に熱媒を循環させる方法;誘導コイルをロールに巻き、外筒に形成したシェル内の熱媒を加熱する方法等が挙げられる。
【0038】
型ロールにバックアップロールを押し付けることにより、フッ素樹脂フィルムが型ロールに強く押し当てられ、型ロールの表面の凹凸がフッ素樹脂フィルムの表面に転写される。型ロールにバックアップロールを押し付ける際の加圧力をロールの幅方向の長さで除した線圧は、2〜200kg/cmが好ましく、5〜100kg/cmがより好ましい。線圧が2kg/cm未満では、押し付けが甘いため転写性が悪く、また均一性も悪くなりやすい。線圧が200kg/cmを超えると、荷重が大きくなりすぎることでロール自体の変形により幅方向での押し付け均一性が逆に低下し、また、バックアップロールのゴム被覆と芯金との間に過剰な負荷がかかり、剥離等の問題を起こしやすい。
【0039】
型ロールからフッ素樹脂フィルムを剥離する際、フッ素樹脂フィルムを局所で冷却してフィルム強度を上げると同時に型ロールとフッ素樹脂フィルムとの間の密着力を低減して安定して剥がしてもよい。
局所冷却の方法としては、型ロールの近傍に配置された冷却ロール(たとえば、前記剥離ロール。)にフッ素樹脂フィルムを接触させる方法;型ロールに非常に低圧で押し付けた冷却ロールにフッ素樹脂フィルムを接触させる方法;フッ素樹脂フィルムの移動方向に直交して設けられたエアーナイフからエアーを吹き付ける方法等が挙げられる。
【0040】
冷却ロールの表面温度は、−30〜150℃が好ましい。
エアー温度は、−10〜50℃が好ましく、エアーナイフの先端風速は、0.5〜20m/秒が好ましい。
局所冷却によって、フッ素樹脂フィルムが低温化されるほど、型ロールからのフッ素樹脂フィルムの剥離は容易になるが、過剰に冷却した場合、型ロールの表面温度の維持が困難になる場合があるので、適切な条件を選定する必要がある。
【0041】
型ロールから剥離されたフッ素樹脂フィルムは、そのまま巻き取ってもよく、凹凸を保護する目的で軟質の保護フィルムで共巻きしてもよい。保護フィルムの材料としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等。)が好ましい。
また、バックアップロールとしてゴム被覆ロールを用いた場合、ゴム表面の微細な凹凸がフッ素樹脂フィルムに転写される場合がある。フッ素樹脂フィルムの裏面を平滑にする必要がある場合には、バックアップロール側に耐熱性フィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム等。)を共流ししてもよい。
【0042】
以上説明した本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法にあっては、傾斜角が20〜75度の傾斜面を有する凹凸が表面に複数形成された型ロールと、バックアップロールとの間に、ダイスから押し出されたフッ素樹脂を直接通過させ、該フッ素樹脂をフィルムに成形すると同時に、該フィルムの表面に型ロールの表面の凹凸を転写しているため、下記の理由から、所定の傾斜角の傾斜面を有する凹凸(プリズム形状等。)が表面に形成されたフッ素樹脂フィルムを生産性よく、かつ低コストで製造できる。
【0043】
(i)フッ素樹脂フィルムを製造する工程と、フッ素樹脂フィルムの表面に凹凸を形成する工程とに分ける必要がない。そのため、生産速度が速い。
(ii)赤外線ヒータによるフッ素樹脂フィルムの再加熱が不要である。そのため、再加熱のためのエネルギーが不要となり、また、生産速度を落とす必要もない。
(iii)ダイスから押し出されたフッ素樹脂が溶融状態または半固化状態であるため、型ロールとフッ素樹脂フィルムとの接触が短時間であっても、型ロールの表面の凹凸をフッ素樹脂フィルムの表面に正確に転写できる。そのため、生産速度を落とす必要がない。
【0044】
<農業ハウス用フィルム>
本発明の農業ハウス用フィルムは、本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法で得られたものである。
本発明の農業ハウス用フィルムは、凹凸が形成された表面を農業ハウスの室外側に向けた状態にて、金属パイプ等で構築された骨組に展設される。
本発明の農業ハウス用フィルムの農業ハウスの室内側の表面には、公知の流滴層等を設けてもよい。
【0045】
本発明の農業ハウス用フィルムの厚さは、フィルムの強度の点から、20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい、また、質量の増加や光透過率の低下を抑える点から、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。
【0046】
<太陽電池パネル用表皮材フィルム>
本発明の太陽電池パネル用表皮材フィルムは、本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法で得られたものである。
太陽電池としては、シリコン結晶系、アモルファス系、化合物系、有機系等が研究開発されおり、大面積化が容易である点、シリコン結晶系に比べてシリコンの使用量が格段に少ない点、化合物系のような重金属を用いる必要がない点、有機系に比べて寿命が長い点から、最近では薄膜アモルファスシリコン系の伸びが大きい。本発明の太陽電池パネル用表皮材フィルムは、下記の理由から、薄膜アモルファスシリコン系太陽電池の表皮材フィルムとして好適である。
【0047】
半導体層を通過する太陽光の通過距離が長いほど、すなわち半導体層が厚いほど、該半導体層による太陽光エネルギーの吸収効率は向上する。しかし、アモルファスシリコン半導体の場合、厚膜化すると光劣化率が上昇して耐久性が低下する。そのため、半導体層を通過する太陽光の通過距離を長くするために、表皮材フィルムで太陽光を散乱させることが行われる。本発明の太陽電池パネル用表皮材フィルムは、表面の凹凸によって太陽光を散乱できるため、薄膜アモルファスシリコン系太陽電池の表皮材フィルムとして好適である。
【0048】
本発明の太陽電池パネル用表皮材フィルムの厚さは、フィルムの強度の点から、20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい、また、質量の増加や光透過率の低下を抑える点から、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。
【0049】
以上説明した本発明の農業ハウス用フィルムならびに太陽電池パネル用表皮材フィルムにあっては、本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法で得られたものであるため、光透過量の入射角度依存性が小さいフッ素樹脂フィルムでありながら、従来のものに比べ低コストである。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
例1は実施例であり、例2は比較例である。
【0051】
(評価1)
図3に示すように、光源30(東芝社製、メタルハイドランプDR400/T(L))と照度計32(アズワン社製、LM−332)とを、光源30から照度計32のセンサー部34までの距離が1mとなるように配置した。ついで、センサー部34の前面にフッ素樹脂フィルム20を、フッ素樹脂フィルム20の凸条および溝の長手方向が上下方向となるように、かつ凹凸が形成された面が光源30に向くように取り付けた。水平面36(0度)に対する照度計32の傾斜角βを、90度、45度、30度、5度と変化させることによって、フッ素樹脂フィルム20への光の入射角を0度、45度、60度、85度と変化させ、照度を測定した。比較として、センサー部34の前面にフィルムを取り付けない場合の照度も測定した。
【0052】
(評価2)
図4に示すように、アモルファスシリコン半導体38を封止している、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材40の表面に、フッ素樹脂フィルム20を、凹凸が形成された面が再表面となるように取り付けた。該太陽電池モジュールを屋外に設置し、発電による電流値をアモルファスシリコン半導体38に接続された電流計42で測定した。
【0053】
〔例1〕
口径30mmの押出機、押出機の先端に接続された幅:250mm、間隙:0.5mmのスリットを有するダイス、および元型ロールとゴム被覆ロールとからなるフィルム引取機を具備する装置を用意した。
元型ロールは、以下のように作製した。
内部に熱媒油を通せる構造を有する、外径:150mmの炭素鋼製金属ロールの表面に、ニッケルリン化合物の無電解メッキ層を設けた後、研削して約200μmのメッキ層を形成した。該ロールを精密旋盤(東芝機械社製)に取り付け、刃先角度:90度の研削バイトにより、ピッチ:20μm、深さ:10μmの連続した断面V字型の溝をロールの全周にわたって形成することによって、表面に、傾斜角が45度の断面三角形の凸条と断面V字形の溝とが交互に、かつ平行に形成された元型ロールを得た。
ゴム被覆ロールとしては、金属ロールの表面を、厚さ:5mm、ゴム硬度:65度のシリコーンゴムをライニングした、外径:150mmのロールを用意した。
【0054】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(旭硝子社製、Fluon ETFE LM720AP)を、押出機に投入し、溶融させた後、押出機の先端に接続されたダイスから押し出した。押出機およびダイスの代表的な温度は320℃とし、押出量はスクリューの回転数を調整して2.2kg/時間とした。
押し出した樹脂を、ゴム被覆ロールを元型ロールに10.6kg/cmの線圧で押し付けた間に通すことで、フィルムに成形すると同時に、該フィルムの表面に元型ロールの表面に形成された凹凸を転写し、厚さ100μmのフッ素樹脂フィルムを得た。元型ロールの表面温度は170℃に設定し、ロール外周速度は2.5m/分とした。得られたフッ素樹脂フィルムの電子顕微鏡写真を図5、図6に示す。また、該フッ素樹脂フィルムの評価結果を表1に示す。
【0055】
〔例2〕
例1における型ロールを、表面に硬質クロムメッキが施された鏡面ロールに変更した以外は、例1と同様にして、表面が平滑な厚さ100μmのフッ素樹脂フィルムを得た。該フッ素樹脂フィルムの評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製造方法で得られたフッ素樹脂フィルムは、農業ハウス用フィルムや太陽電池パネル用表皮材フィルムとして有用である。
【符号の説明】
【0058】
14 ダイス
16 型ロール
18 バックアップロール
20 フッ素樹脂フィルム
24 凸条
26 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜角が20〜75度の傾斜面を有する凸部および/または凹部が表面に複数形成された型ロールと、バックアップロールとの間に、ダイスから押し出されたフッ素樹脂を通過させ、該フッ素樹脂をフィルムに成形すると同時に、該フィルムの表面に前記凸部および/または凹部を転写する、フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂が、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体である、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ダイスの温度が280〜360℃であり、前記型ロールの温度が120〜240℃である、請求項2に記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記型ロールの外周速度が1〜300m/分である、請求項2または3に記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記型ロールとバックアップロールとを2〜200kg/cmの線圧で押し付ける、請求項2〜4のいずれかに記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記凸部のとなりあう局部山頂の平均間隔または前記凹部のとなりあう局部谷底の平均間隔が、4〜200μmであり、
前記凸部の平均高さまたは前記凹部の平均深さが、2〜100μmである、請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記凸部が、断面三角形の凸条であり、
前記凹部が、断面V字形の溝である、請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記凸部が、角錐形の突起であり、
前記凹部が、角錐形の孔である、請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法で得られた、農業ハウス用フィルム。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法で得られた、太陽電池パネル用表皮材フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−56083(P2012−56083A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2511(P2009−2511)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】