説明

フッ素樹脂製箱型中空容器及びその製造方法

【課題】耐薬品性、強度、耐熱性、非汚染性の点で優れ、大型のフッ素樹脂製化したフッ素樹脂製箱型中空容器も実現できることを課題とする。
【解決手段】四フッ化エチレン樹脂製の底板18と、この底板18と一体的でかつ折り曲げられて連結された少なくとも3つの四フッ化エチレン樹脂製の側板19とを具備し、隣接する側板19同士がフッ素樹脂により溶接されていることを特徴とするフッ素樹脂製箱型中空容器20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素樹脂製容器及びその製造方法に関し、特に耐薬品性、強度、非汚染性に優れ、半導体製造、液晶表示器製造、医薬品製造などの用途に使用可能なフッ素樹脂製容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造、液晶表示器(LCD)製造、医薬品製造等の分野では、その製造工程で各種の腐食性の薬液が多用され、それら薬液の取り扱うために貯蔵容器、処理容器、洗浄容器等が用いられている。また、それらの製造工程においては、製品の特性上、異物を嫌うことから高水準の耐薬品性、非汚染性が要求される。従って、その行程で使用される前記容器としても耐薬品性、非汚染性が要求され、加えて、高温の薬品が使用されることから液洩れを防ぐために強度、耐熱性等も要求される。
【0003】
ところで、耐薬品性、耐熱性に優れた素材としては、例えばPTFE(四フッ化エチレン樹脂),PFA(四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合樹脂),PFEP,ETFE,PCTFE,PVDF,ECTFE,PVFのフッ素樹脂があり、これらのフッ素樹脂のうちでは、PTFEが最も耐熱性、耐薬品性に優れている。従って、これらの分野では、従来、前記貯蔵容器、処理容器、洗浄容器としては、耐薬品性、耐熱性等に優れたPTFE,PFA等のフッ素樹脂で容器全体が構成され、内容積20〜100リットル程度の比較的小型の容器が用いられている。これらのフッ素樹脂製容器のうちで、例えばPTFE製容器は、シート材料を溶接する方法、あるいはアイソタティック成形等による一体成形方により製造され、PFA製容器はインジェクション成形により一体成形して製造されている。
【0004】
しかしながら、近年、半導体製品、LCD等の大型化や、被処理物の大量生産化が進行しており、これに伴い大型の半導体、LCD等をも処理でき、また一度に大量の半導体等をも処理しうるような大型の容器が求められている。従って、そのような要求に応える一つの手段として、上記フッ素樹脂製容器を大型化することが考えられる。しかし、フッ素樹脂は、ポリ塩化ビニル(PVC)等汎用樹脂に比して耐薬品性、高熱性に優れるが、強度が劣る。しかも、フッ素樹脂製容器の強度を高めるべくその肉厚を厚くすると、比重が合成樹脂のうちで最も高いため重くなり、取扱性に劣り、また著しくコスト高ともなる。特に、上記溶接法にて容器全体がPTFEで構成された容器を製造しようとすると、大型化した場合、溶接すべき表面積が多く、溶接面からの液漏れの可能性が高い。
【0005】
また、大型で高強度のPTFE製容器を製造しようとすれば、用いられるシート材料等の肉厚が厚くなることにより、溶接面積に係る荷重は大きくなる。更に、前記容器が使用される場合、即ち、容器内に薬液が満たされた状態ではさらに大きな荷重が溶接部分に加わり、使用時の変形を発生させる確率が高くなる。
【0006】
また、PTFE樹脂は、樹脂の中では熱膨張率が比較的大きく、温度変化に伴い膨張収縮する。従って、PTFE製容器は、特に半導体製造プロセス等の温度が付加される分野で用いられた場合、繰り返して温度変化を受けて膨張収縮を繰り返すと、その溶接部で破断を引き起こしやすく、特に大型化で厚肉化したPTFE製容器ではこの様な溶接部で破断を起こしやすいという問題点もある。それ故、従来と同様の溶接方法では、従来品と同等の品質、特に同等の強度を有する大型のフッ素樹脂製容器を製造することは困難である。
【0007】
そこで、以上のような問題を解決するためにフッ素樹脂製容器の外側をポリ塩化ビニル(PVC)等の熱可塑性樹脂で構成する方法が提案されている(特許文献1)
図5は、従来のPTFE製箱型中空容器の斜視図を示す。この中空容器1は、1枚の底板2と4枚の側板3から構成されている。前記中空容器1は次のようにして製作する。即ち、まず、底板2、側板3となる計5枚のシート状材料を切り出した後、それらを各シート状材料に溶接用の開先部分ビス取り付け孔(図示せず)を加工する。次に、底板2と側板3、及び側板3同士をPTFE樹脂製ビス4で仮止めすることによって、中空箱型を形成する。但し、図5は、便宜上底板2を上にした状態を示している。つづいて、底板2と側板3、側板3同士をPFA樹脂溶接棒を用いて溶接し、PTFE製箱型中空容器1を製作する。但し、図5の符番5は溶接部分を示す。
【特許文献1】特開10−278141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、耐薬品性、強度、耐熱性、非汚染性に優れ、特に大型化した場合に強度面の脆弱性の克服、コスト削減、非汚染性の向上をなしえる、半導体機器、液晶表示製造、医薬品の製造等に使用可能なフッ素樹脂製箱型中空容器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るフッ素樹脂製箱型中空容器は、四フッ化エチレン樹脂製の底板と、この底板と一体的でかつ折り曲げられて連結された少なくとも3つの四フッ化エチレン樹脂製の側板とを具備し、隣接する側板同士がフッ素樹脂により溶接されていることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明に係るフッ素樹脂製箱型中空容器の製造方法は、箱型中空容器を展開図状に切り出して底板形成予定部とこの底板形成予定部と一体的に連結された少なくとも3つの側板形成予定部を有したシート状部材を形成する工程と、底板形成予定部と側板形成予定部との境界部に折り曲げ用溝を形成する工程と、前記溝を起点として前記シート状部材を折り曲げて箱型状にする工程と、隣接する側板形成予定部同士を溶接し、底板と側板からなる箱型中空容器を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐薬品性、強度、耐熱性、非汚染性の点で優れたフッ素樹脂製箱型中空容器が得られる。また、本発明によれば、強度が大きく信頼性が増すことにより、大型のフッ素樹脂製化した箱型中空容器が得られ、半導体機器、液晶表示製造、医薬品の製造等に使用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において、側板は折り曲げ用溝を起点として底板に対して略90度に折り曲げられている。ここで、側板は通常4個であり、この場合側板同士を補強の観点からネジ止めすることが好ましい。但し、側板は4個に限らず、3個でも5個以上であってもよい。この場合、側板の数に応じて底板も三角形状、五角形状にする必要がある。
【0013】
本発明において、折り曲げ用溝の形状や深さは特に限定されず、例えばV字型の切り込み、円弧状の切り込み、単純な直線状の切り込みが挙げられ、用途に応じて採用することができる。また、溝を起点とする折り曲げ方向は、溝を内側に折り曲げてもよいし、溝を外側に折り曲げてもよい。但し、非汚染性の観点からは、容器内部に切れ目が無いことから溝を外側に折り曲げる方が好ましく、この場合、溝を起点して折り曲げた後、折り曲げ部に沿ってPFA樹脂溶接棒等で補強することが好ましい。更に、折り曲げ加工に際しては、折り曲げを容易にしかつ折り曲げ部の白化を防ぐ為に、通常、折り曲げ加工前に熱風式溶接ガンを使用して折り曲げの起点となる溝部分を折り曲げ部の表面が約300℃程度になるように加熱することが好ましい。
【0014】
本発明において、シート状部材は、例えば、PTFE樹脂の成形粉末を金型中で常温において通常20MPa程度の圧力で圧縮することによって予備成型品を製作した後、その予備成型品を融点以上、通常360℃以上の炉中で焼成するというPTFE樹脂特有の粉末冶金に類似した圧縮成形をすることにより得られる。この時使用するPTFE樹脂としては、限定するものではないが、いわゆる懸濁重合で作製された100%のPTFE樹脂で構成されるPTFE樹脂モールディングパウダー、もしくはそれを1質量%以下の他のフッ素樹脂で変性したPTFE樹脂モールディングパウダーのいずれも使用可能である。
【0015】
本発明において、隣接する側板形成予定部同士の溶接は、例えばプラスチック溶接用の熱風式溶接ガンを使用し、PFA樹脂製棒により行うことができる。また、底板形成予定部と側板形成予定部との境界部(溝部分)も強度の観点から溶接することが好ましい。
【0016】
以下、具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1に係るフッ素樹脂製箱型中空容器を図1(A)〜(C)を参照して説明する。
まず、PTFE樹脂の成形粉末を金型中で常温において20MPa程度の圧力で圧縮することによって予備成型品を製作した。ここで、PTFE樹脂としては、懸濁重合で作製された100%のPTFE樹脂で構成されるPTFE樹脂モールディングパウダーを用いた。次に、その予備成型品を融点以上、通常360℃以上の炉中で焼成するというPTFE樹脂特有の粉末冶金に類似した圧縮成形でPTFE樹脂シート11を作製した。つづいて、このPTFE樹脂シート11の底板形成予定部12と側板形成予定部13との境界部に折り曲げ用溝14を形成するとともに、底板形成予定部12のコーナー部Xに隣接する側板形成予定部13同士を切断した。更に、側板形成予定部13の対向する2辺に沿ってビス挿入用の貫通穴15を開けるとともに、ビス装着用の開口穴16を形成した(図1(A)図示)。
【0017】
次に、折り曲げ用溝14に沿って溝14が外側になるように側板形成予定部13を底板形成予定部12に対して矢印方向に90度折り曲げ、箱型状にした(図1(B)図示)。つづいて、側板形成予定部13同士をビス17により止めた。更に、側板形成予定部13同士をプラスチック溶接用の熱風式溶接ガンを使用し、PFA樹脂製棒により溶接した。これにより、厚み20mmの底板18と、この底板18と一体的な4個の厚み20mmの側板19からなる箱型中空容器20が製作された(図1(C)図示)。なお、図1(C)中の符番21はPFA樹脂製の溶接部分を示す。
【0018】
このように、実施例1に係るフッ素樹脂製箱型中空容器20は、四フッ化エチレン樹脂製の底板18と、この底板18と一体的でかつ4箇所で折り曲げられて連結された4個の四フッ化エチレン樹脂製の側板19とを具備し、隣接する側板19同士がPFA樹脂からなる溶接部分20とビス17により補強された構成となっている。こうした構成の中空容器によれば、底板18や側板19がPTFE製であるので耐薬品性、耐熱性、非汚染性に優れていることは勿論の他、従来の中空容器に比べて溶接部分が少ない(半分)ので、特に大型化した場合に強度面の脆弱性を克服できるとともに、溶接工程も少ないのでコストを削減することができる。従って、近年の半導体製品、LCD等の大型化や、被処理物の大量生産化の進行に貢献することができる。
【0019】
なお、図1の中空容器においては、底板18と側板19の境界部(折り曲げ用溝部分)をPFA樹脂棒により溶接することができる。これにより、中空容器の強度をいっそう向上することができる。また、図1には図示されていないが、中空容器の底又は底近くには中空容器に収容する液等を取り出すための液取り出し口が形成される。
【0020】
(実施例2)
実施例2に係るフッ素樹脂製箱型中空容器について図2を参照して説明する。但し、図1と同部材は同じ符番を付して説明する。本実施例2では、4つの側板形成予定部19を折り曲げ用溝が内側となるように折り曲げたことを特徴とする。
図2の中空容器22によれば、溶接部分20が内側に位置するので、外観の点で優れるという利点を有する。
【0021】
(実施例3)
実施例3に係るフッ素樹脂製箱型中空容器について図4(A)〜(C)を参照して説明する。ここで、図4(A)は中空容器の平面図、図4(B)は図4(A)の正面図、図4(C)は図4(A)のX−X線に沿う断面図を示す。但し、図1と同部材は同じ符番を付して説明する。
【0022】
図4の中空容器23は、底板18及び側板19からなる容器本体24と、この容器本体24の上部周縁部に設けられたオーバーフロー部25とを備えている。オーバーフロー部25は、その上面が該容器本体24の上面より高くなるように容器本体24の上部に溶接等により設けられている。前記側板19の上縁部には、角度(α)90°にカットされた複数のV字型溝26が形成されている。液が容器本体24から溢れた場合このV字型溝26よりオーバーフロー部25へ流れる。前記オーバーフロー部25にはオーバーフローした液を流すための液取り出し口27が設けられている。また、容器本体24の底にも液取り出し口28が設けられている。
【0023】
図3の中空容器によれば、オーバーフロー部25を備えているので、容器本体24からオーバーフローした液を周囲に飛散させることなく処理することができ、周辺機器の汚染を回避することができる。
【0024】
(実施例4)
実施例4に係るフッ素樹脂製箱型中空容器について図3を参照して説明する。図3は、実施例4の中空容器を作製するためのシート状部材の展開図を示す。実施例4の中空容器27は、六角形の底板形成予定部29と6個の側板形成予定部30とを備え、側板形成予定部30を底板形成予定部29との境界部で折り曲げた後、底板形成予定部同士を溶接することにより構成される。
【0025】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。具体的には、容器の形状は図1,図2のような四角形状や図3のような六角形状に限定されず、三角形状等の複数角形状でもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係るフッ素樹脂製箱型中空容器の製造方法を工程順に示す説明図。
【図2】本発明の実施例2に係るフッ素樹脂製箱型中空容器の斜視図。
【図3】本発明の実施例4に係るフッ素樹脂製箱型中空容器の説明図。
【図4】本発明の実施例3に係るフッ素樹脂製箱型中空容器の展開図。
【図5】従来のPTFE製箱型中空容器の斜視図。
【符号の説明】
【0027】
11…PTFE樹脂シート、12,29…底板形成予定部、13,30…側板形成予定部、14…折り曲げ用溝、15…貫通穴、16…開口穴、17…ビス、18…底板、19…側板、21…溶接部分、20,22,23…箱型中空容器、24…容器本体、25…オーバーフロー部、26…V字型溝、27,28…液取り出し口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四フッ化エチレン樹脂製の底板と、この底板と一体的でかつ折り曲げられて連結された少なくとも3つの四フッ化エチレン樹脂製の側板とを具備し、隣接する側板同士がフッ素樹脂により溶接されていることを特徴とするフッ素樹脂製箱型中空容器。
【請求項2】
前記側板が4個あり、側板同士がネジ止めされていることを特徴とする請求項1記載のフッ素樹脂製箱型中空容器。
【請求項3】
箱型中空容器を展開図状に切り出して底板形成予定部とこの底板形成予定部と一体的に連結された少なくとも3つの側板形成予定部を有したシート状部材を形成する工程と、底板形成予定部と側板形成予定部との境界部に折り曲げ用溝を形成する工程と、前記溝を起点として前記シート状部材を折り曲げて箱型状にする工程と、隣接する側板形成予定部同士を溶接し、底板と側板からなる箱型中空容器を形成する工程とを具備することを特徴とするフッ素樹脂製箱型中空容器の製造方法。
【請求項4】
前記側板形成予定部が4個あり、前記側板形成予定部を折り曲げた後、溶接前に側板形成予定部同士をネジ止めする工程を具備することを特徴とする請求項3記載のフッ素樹脂製箱型中空容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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