説明

フッ素系溶媒金属酸化物分散液の製造方法

【課題】フッ素系溶媒中酸化セリウム等の金属酸化物粒子が分散した分散液の製造方法を開発する。
【解決手段】金属酸化物懸濁液に、主鎖炭素数が5以上のフルオロアルキル鎖を有するフッ素系界面活性剤を添加し、生じた沈殿物を回収後、それを乾燥して金属酸化物粒子表面をフッ素系界面活性剤で被覆したフッ素系溶媒分散性金属酸化物を得て、それをフッ素系溶媒に分散させることによりフッ素系溶媒金属酸化物分散液を製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物をフッ素系溶媒中に分散させたフッ素系溶媒金属酸化物分散液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスを電気化学反応させることによって電力を発生させる燃料電池は、発電効率が高く、また環境に対する排ガスの影響が極めて小さいことから、近年種々の用途への期待が高まっている。中でも固体高分子型燃料電池は、出力密度が大きく、80℃程度の低温でも作動可能なことから注目を集めている。固体高分子型燃料電池は、高分子膜の両面に一対の電極が接合された電解質膜電極接合体(MEA)をセパレータで挟持したセルを発電単位とする構成を有する。
【0003】
しかし、固体高分子型燃料電池には、長期間の運転により電池性能が低下してしまうという問題がある。この原因の一つに、電池内で生成された過酸化物ラジカルによる電解質膜や電極等の損傷、及び劣化等が挙げられる。すなわち、燃料電池の運転時には酸化剤ガスが供給される酸素極において水素と酸素から水が生成されるが、運転条件等により、酸素極における酸素の還元が2電子反応で停止し、過酸化水素が生成されることがある。生成された過酸化水素は、例えば、金属イオン等の存在下でラジカル分解され、電極や電解質膜を損傷すると考えられている。MEAを構成する電解質膜には、通常、耐酸化性等に優れたフッ素系電解質膜が使用されている。例えば、ナフィオン(登録商標;デュポン社)膜のようなパーフルオロカーボンスルホン酸重合体からなるイオン交換膜が挙げられる。従来、このようなフッ素系電解質膜は、過酸化水素によりほとんど損傷を受けないと考えられてきた。実際、パーフルオロカーボンスルホン酸膜を用いた燃料電池は、高加湿下での運転における安定性が非常に高い。しかし、近年になって、当該膜であっても低加湿又は無加湿での運転条件においては、電圧劣化が大きいことが報告されている(非特許文献1)。つまり、低加湿又は無加湿下ではフッ素系電解質膜においても過酸化水素により損傷を受ける可能性がある。また、過酸化水素によりフッ素系電解質膜が分解されると、フッ酸等の有害な物質が生じるおそれもある。
【0004】
そこで、前記問題を解決すべく、いくつかの試みがなされている。例えば、難溶性セリウム化合物を膜中に含有させる方法が挙げられる(特許文献1)。特許文献1は、具体的には、スルホン酸基を有する高分子化合物の分散液中に難溶性セリウム化合物の微粒子を添加して混合することにより該分散液中に難溶性セリウム化合物を分散させ、それにより得られた溶液をキャスト法等により製膜化し、固体高分子型燃料電池用の電解質膜を製造する方法について開示している。
【0005】
しかし、当該方法では、難溶性セリウム化合物をフッ素系電解質前駆体溶液に添加できない。これは、難溶性セリウム化合物である酸化セリウム等の金属酸化物の多くがフッ素系溶媒に対して親媒性が低く、当該前駆体溶液中で凝集して沈降してしまうためである。
【0006】
金属酸化物粒子をフッ素系電解質前駆体溶液に分散することができれば、固体高分子型燃料電池用電解質膜の製造をより簡便化することができ、かつ耐久性も向上すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-98179号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】新エネルギー・産業技術総合開発機構主催 平成12年度固体高分子形燃料電池研究協力開発成果報告会要旨集 p56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、金属酸化物をフッ素系溶媒中に分散させたフッ素系溶媒金属酸化物分散液を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物の粒子表面にフッ素系界面活性剤を付与することによって金属酸化物のフッ素系溶媒に対する親媒性が高まり、前記課題が解決されることを見出した。フッ素系界面活性剤で表面処理した金属酸化物自体は、特開平9-48615(特許第2991952号)において公知である。しかし、この引用文献において開示された金属酸化物は、紫外線吸収剤としての金属酸化物(酸化第二セリウム)であって、フッ素系溶媒中で高分散能を有することについては全く知られていなかった。また、前記引用文献におけるフッ素系界面活性剤と金属酸化物の混合比率では、本発明の目的を達成するためのフッ素系溶媒分散性金属酸化物を得ることは、困難である。したがって、本発明は、新規のフッ素系溶媒金属酸化物分散液を製造する方法である。すなわち、本明細書は、以下の発明を包含する。
【0011】
(1)金属酸化物懸濁液に、フルオロアルキル鎖の主鎖炭素数が5以上のフルオロアルキルカルボン酸及びフルオロアルキルスルホン酸、並びにそれらの塩から選ばれる少なくとも1つのフッ素系界面活性剤を添加する工程、フッ素系界面活性剤添加工程で得られる沈殿物を回収する工程、回収した沈殿物を乾燥し、フッ素系溶媒分散性金属酸化物を得る工程、及びフッ素系溶媒分散性金属酸化物をフッ素系溶媒に分散させる工程を含むフッ素系溶媒金属酸化物分散液の製造方法。
(2)乾燥工程で得られたフッ素系溶媒分散性金属酸化物を分散工程前に粉末化する工程をさらに含む、前記(1)に記載の製造方法。
(3)フルオロアルキル鎖の主鎖炭素数が10以下である、前記(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0012】
(4)フッ素系界面活性剤がパーフルオロカルボン酸類及びパーフルオロスルホン酸類、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)フッ素系界面活性剤添加工程におけるフッ素系界面活性剤の金属酸化物に対するモル比が5以上である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)金属酸化物が酸化セリウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つである、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)金属酸化物懸濁液中の金属酸化物の粒径が1nm〜100nmの範囲内にある、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
(8)金属酸化物懸濁液がセリアゾルである、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)フッ素系溶媒分散性金属酸化物をフッ素系溶媒に対して0.05重量%〜0.8重量%で混合する、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)フッ素系溶媒がフッ素置換された、脂肪族炭化水素類、アルコール類、又はエーテル類であって、かつ常温において液体のものから選ばれる少なくとも1つである、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、金属酸化物をフッ素系溶媒に分散させた分散液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のフッ素系溶媒金属酸化物分散液製造方法の概念図
【図2】フッ素系溶媒中のフッ素系溶媒分散性金属酸化物の粒子径出現頻度
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、金属酸化物をフッ素系溶媒に分散させた分散液の製造方法である。本発明を図1で例示して説明する。この図で示すように、本発明の製造方法は、フッ素系界面活性剤添加工程A、沈殿物回収工程B、乾燥工程C、及び分散工程Dを含む。また、一の実施形態で、本発明の製造方法は、乾燥工程Cと分散工程Dの間に粉末化工程Eをさらに含むことができる。以下、それぞれに工程について、詳細に説明をする。
【0017】
1.フッ素系界面活性剤添加工程
「フッ素系界面活性剤添加工程A」とは、金属酸化物懸濁液4にフッ素系界面活性剤1を添加する工程である。
【0018】
本発明における「金属酸化物3」は、フッ素系溶媒との親媒性に乏しい金属の酸化物であれば、特に限定はしない。好ましくは、例えば、酸化セリウム(CeO2)、酸化チタン(TiO2)、又は酸化ジルコニウム(ZrO2)である。また、複数種の金属酸化物の混合物であってもよい。
【0019】
「金属酸化物懸濁液4」とは、前記金属酸化物の微粒子を溶媒2に分散させた懸濁液である。ここで使用される溶媒は、金属酸化物の微粒子が分散可能な溶媒であれば特に限定しない。例えば、水、又はアルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール)のような有機溶媒が挙げられる。好ましくは水である。
【0020】
金属酸化物懸濁液は、金属酸化物の微粒子表面を後述するフッ素系界面活性剤で被覆するために、個々の微粒子が所定の期間、懸濁液中で分散し、かつ浮遊した状態にある必要がある。それ故、金属酸化物の粒径は、通常は1nm〜100nm、好ましくは1nm〜50nm、より好ましくは1nm〜20nmの範囲内にある。また、金属酸化物懸濁液中における金属酸化物の濃度(重量%)は、特に限定はしないが、合成原理上、希薄液が好ましい。具体的には、例えば、溶媒に対する金属酸化物が上限で通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。一方、溶媒に対する金属酸化物の下限は、生成する沈殿物の収率を考慮すると、通常0.005重量%以上、好ましくは0.01重量%以上である。
【0021】
金属酸化物懸濁液の具体例としては、セリアゾルが挙げられる。セリアゾルは、酸化セリウムを適当な重量%(例えば、約15重量%)で含有する水溶液をいう。セリアゾルは、市販のもの(例えば、多木化学株式会社製)を利用することもできる。
【0022】
本工程のフッ素系界面活性剤には、フルオロアルキルカルボン酸(Rf-COOH;Rfはフルオロアルキル基)及びフルオロアルキルスルホン酸Rf-SO3H;Rfはフルオロアルキル基)、並びにそれらの塩から選ばれる少なくとも1つが使用される。塩よりも酸の方が好ましい。フッ素系界面活性剤において、フルオロアルキル基における側鎖の有無及びラセミ体については特に限定はしない。ただし、主鎖炭素数は、5以上である。これは、主鎖炭素数が4以下の場合、フッ素系溶媒への十分な分散性が得られないからである。一方、主鎖炭素数の上限は、好ましくは10以下、より好ましくは7以下である。これは、フルオロアルキル基の主鎖炭素数が大きすぎると、環境に対する負荷が増大することや、フッ素系界面活性剤自体が固体となり、本工程に使用することが困難になるからである。
【0023】
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロカルボン酸(PFCA;CnF2n+1-COOH)類及び/又はパーフルオロスルホン酸(PFSA;CnF2n+1-SO3H)類が好ましい。パーフルオロカルボン酸類の具体例としては、ウンデカフルオロヘキサン酸(C5F11-COOH)、トリデカフルオロヘプタン酸(C6F13-COOH)、パーフルオロオクタン酸(PFOA;ペンタデカフルオロオクタン酸;C7F15-COOH)、ペプタデカフルオロノナン酸(C8F17-COOH)、ノナデカフルオロデカン酸(C9F19-COOH)が挙げられる。パーフルオロスルホン酸類の具体例としては、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸(C5F11-SO3H)、トリデカフルオロヘプタンスルホン酸(C6F13-SO3H)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS;ペンタデカフルオロオクタンスルホン酸;C7F15-SO3H)、ペプタデカフルオロノナンスルホン酸(C8F17-SO3H)が挙げられる。
【0024】
本工程において、フッ素系界面活性剤は、金属酸化物に対してモル比で5倍以上、好ましくは10倍以上となるように添加することが好ましい。金属酸化物に対してモル比が等倍以下の場合には、金属酸化物表面に十分量のフッ素系界面活性剤を纏着させることができず、フッ素系界面活性剤の被覆が不完全となるため、結果的にフッ素系溶媒への分散能が低下してしまうからである。
【0025】
フッ素系界面活性剤を金属酸化物懸濁液へ添加する方法は、特に限定はしない。好ましくは滴下による添加である。添加後に撹拌等によって金属酸化物懸濁液を混合してもよい。本工程により、金属酸化物微粒子表面にフッ素系界面活性剤が纏着したスラリー状の沈殿物5が形成される。
【0026】
2.沈殿物回収工程
「沈殿物回収工程B」とは、前記フッ素系界面活性剤添加工程Aにおいて金属酸化物懸濁液中に生じた沈殿物を回収する工程である。本工程の目的は、金属酸化物懸濁液に用いた溶媒から沈殿物を分離することである。ただし、本工程では溶媒を完全除去することまでは要しない。次の乾燥工程Cで完全除去することができるからである。
【0027】
本工程でいう沈殿物とは、金属酸化物微粒子表面にフッ素系界面活性剤が纏着したスラリー沈殿物をいう。沈殿物の回収は、公知の方法で行えばよい。例えば、濾過、遠心分離、又はデカンテーション、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
3.乾燥工程
「乾燥工程C」とは、前記沈殿物回収工程Bで回収した沈殿物を乾燥し、フッ素系溶媒分散性金属酸化物を得る工程である。本工程の目的は、回収した沈殿物から金属酸化物懸濁液に用いた溶媒を乾燥除去することにより、金属酸化物粒子に纏着したフッ素系界面活性剤をその表面に固着させ、フッ素系溶媒分散性金属酸化物を生成することである。
【0029】
本明細書において「フッ素系溶媒分散性金属酸化物」とは、フッ素系界面活性剤で表面被覆された金属酸化物をいう。本フッ素系溶媒分散性金属酸化物は、金属酸化物粒子表面に纏着したフッ素系界面活性剤をその表面で乾燥固化させることによって形成することができる。
【0030】
本工程でいう「乾燥」とは、金属酸化物懸濁液に使用した溶媒を気化(例えば、蒸発、揮発を含む)又は昇華によって除去することをいう。乾燥方法は、特に限定はしない。金属酸化物懸濁液に使用した溶媒の種類に応じて適宜定めればよい。例えば、金属酸化物懸濁液に使用した溶媒が、水であった場合には、加熱、バキューム脱気、風乾(外気に晒して放置するだけの自然乾燥法、除湿剤とともに密閉容器内に入れて乾燥する除湿乾燥法を含む)又はそれらの組み合わせにより蒸発させることができる。具体例としては、ホットプレートのような適当な容器において、通常40℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上で、水分が完全に蒸発するまで加熱する方法が挙げられる。加熱時間は、沈殿物に含まれる溶媒量、及び加熱温度によって定まる。一般的には沈殿物に含まれる溶媒量が少ないほど、及び加熱温度が高いほど、短時間で完了する。より具体的な例を挙げて説明すれば、濾過法によって回収した沈殿物であれば、100℃〜150℃の範囲内の温度で、10分間〜2時間、好ましくは20分間〜1時間も加熱すれば、通常、完全に水分を除去することができる。あるいは、凍結乾燥のように沈殿物中の水分を凍結させ、真空条件下で昇華除去することによって乾燥させてもよい。
【0031】
本工程によって得られたフッ素系溶媒分散性金属酸化物は、フッ素系溶媒に対して高い親媒性を有しており、フッ素系溶媒に分散可能な金属酸化物として利用することができる。また、少量作製する場合であれば、加熱により溶媒を全て蒸発除去することで回収工程と乾燥工程を同時に行うこともできる。
【0032】
4.分散工程
「分散工程D」とは、前記フッ素系溶媒分散性金属酸化物6をフッ素系溶媒7に分散させる工程である。本工程によって、目的とするフッ素系溶媒金属酸化物分散液8を得ることができる。
【0033】
本明細書において「フッ素系溶媒」とは、フッ素置換された、脂肪族炭化水素(フルオロアルカン)類、アルコール(フッ素アルコール)類、又はエーテル(フルオロエーテル)類であって、かつ常温において液体のもの、或いはそれらの混合物をいう。「常温」とは、人為的温度操作を加えない大気温度に依存した温度であって、例えば、通常−20℃〜45℃、好ましくは0℃〜40℃をいう。フッ素系溶媒の具体例としては、フルオロアルカン類としては、例えば、ドデカフルオロペンタン、テトラデカフルオロヘキサン等が、フッ素アルコール類としては、例えば、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール(TFP)、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1-ペンタノール(OFP)、2-(パーフルオロオクチル)エタノール、1,1,2,2-テトラヒドロヘプタデカフルオロデカノール、1,1,2,2-テトラヒドロパーフルオロデカノール、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エタノールが、さらに、フルオロエーテル類としては、例えば、ハイドロフルオロエーテル(例えば、エチルノナフルオロブチルエーテル(C4F9OC2H5)、メチルノナフルオロブチルエーテル(C4F9OCH3)、メチルトリデカフルオロヘキシルエーテル(C6F13OCH3)、C3HF6-CH(CH3)O-C3HF6を含む)が、挙げられる。
【0034】
フッ素系溶媒分散性金属酸化物とフッ素系溶媒の混合比は、フッ素系溶媒分散性金属酸化物のフッ素系溶媒に対する重量%で、通常0.05重量%〜0.8重量%、好ましくは0.1重量%〜0.5重量%、より好ましくは0.2重量%〜0.3重量%である。前記混合比の範囲内であれば、フッ素系溶媒中でフッ素系溶媒分散性金属酸化物が凝集若しくは沈降しない又は凝集若しくは沈降し難いためである。また、通常、金属酸化物粒子が0.05重量%〜0.8重量%の範囲にあれば、研磨剤又はフッ素系電解質前駆体への金属酸化物微粒子の添加剤として十分に機能し得る。
【0035】
分散方法は、特に限定しない。例えば、フッ素系溶媒に所定量のフッ素系溶媒分散性金属酸化物を添加した後、撹拌等を行い混合すればよい。
【0036】
本工程で得られた分散液によれば、金属酸化物を分散状態で含有するフッ素系溶媒として、従来困難であった燃料電池の電解質膜への酸化セリウムの添加が可能となる。これにより、耐久性の高い電解質膜を提供することができる。また、水や炭化水素系有機溶媒が使用できない材料における研磨剤としての適用もできる。
【0037】
5.粉末化工程
「粉末化工程E」とは、乾燥工程で得られたフッ素系溶媒分散性金属酸化物6を分散工程前に粉末化する工程である。本工程の目的は、分散工程におけるフッ素系溶媒分散性金属酸化物のフッ素系溶媒への分散性を高めるために、乾燥工程で得られたフッ素系溶媒分散性金属酸化物を微粒子化することである。したがって、本工程は必要に応じて実行すればよい。例えば、乾燥工程後のフッ素系溶媒分散性金属酸化物微粒子が互いに凝集・固化し、塊を形成している場合には、本工程を実行することが望ましい。逆に、乾燥工程後、得られたフッ素系溶媒分散性金属酸化物が既に微粒子状態であるか、又は外力を加えるか若しくはフッ素系溶媒に添加することにより容易に崩壊して微粒子になる粒塊状態である場合には、本工程は必ずしも必要ではない。
【0038】
粉末化は、公知の粉砕方法を用いることができる。例えば、回転歯粉砕機、又はミル(mill)を利用することができる。或いは、乳鉢等ですりつぶしてもよい。フッ素系溶媒分散性金属酸化物の個々の粒子が分離した状態になるまで、粉末化することが好ましい。本工程後の粒子サイズは、フッ素系界面活性剤添加工程Aで用いた金属酸化物懸濁液中の金属酸化物の粒径と同程度(厳密にはフッ素系界面活性剤で表面被覆された分だけ若干大きなサイズとなる)〜3倍程度であることが好ましい。また、粉末化後の各粒子サイズは、概ね均一であることが好ましい。
【実施例】
【0039】
<実施例1>
本発明のフッ素系溶媒金属酸化物分散液における金属酸化物の分散状態
(方法)
フッ素系溶媒金属酸化物分散液の製造
セリアゾル(粒径20nm、酸化セリウム含有量15重量%水系ゾル;多木化学社製)にフッ素系界面活性剤(ウンデカフルオロへキサン酸;東京化成工業社製)をフッ素系界面活性剤/酸化セリウムのモル比が0.1、1、及び10となるように滴下方法によってそれぞれ添加し(フッ素系界面活性剤添加工程)、混合後に生じたスラリー状の溶液をシャーレに移し、100〜120℃で加熱して溶媒を蒸発除去した。得られた粉末状固形物を回収・乾燥して、フッ素系溶媒分散性金属酸化物を得た(沈殿物回収工程及び乾燥工程)。それをフッ素系溶媒(ノベックHFE7300;住友3M社製)に0.2重量%になるように添加して、撹拌混合することにより、本発明のフッ素系溶媒金属酸化物分散液を調製した。
【0040】
フッ素系溶媒金属酸化物分散液の評価法
フッ素系溶媒金属酸化物分散液の分散状態については、フッ素系溶媒に浮遊するフッ素系溶媒分散性金属酸化物の粒子径を、動的光散乱法により粒度分析計(Nanotrac UPA-UT151;Microtrac社製)を用いて測定し、同時にフッ素系溶媒の濁度及び沈降物の有無を目視によって確認し、双方の結果から総合的に評価した。
【0041】
(結果)
フッ素系界面活性剤/酸化セリウムの混合モル比が0.1(図1,a)及び1(図1,b)の場合には、浮遊する粒子径が200nm以上あり、酸化セリウムは、凝集していることが明らかとなった。目視においてもフッ素系溶媒は混濁しており、また沈降物も生じていた。一方、混合モル比が10(図1,c)の場合には、浮遊する粒子径が約20〜60nmとセリアゾル中の酸化セリウム粒径〜その約3倍に一致しており、フッ素系溶媒中で分散していることが判明した。目視においても、透明で沈降物も生じなかった。
【0042】
【表1】

【0043】
<実施例2>
(目的)
本発明のフッ素系溶媒金属酸化物分散液におけるフッ素系溶媒分散性金属酸化物の分散状態について検証する。
【0044】
(方法)
金属酸化物懸濁液として粒径20nm、酸化チタン含有量15重量%の水系ゾル(石原産業社製)を用いて前記実施例1と同様の方法により、フッ素系溶媒分散性金属酸化物の分散状態について検証した。
【0045】
(結果)
実施例1の酸化セリウムを用いた場合とほぼ同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物懸濁液に、フルオロアルキル鎖の主鎖炭素数が5以上のフルオロアルキルカルボン酸及びフルオロアルキルスルホン酸、並びにそれらの塩から選ばれる少なくとも1つのフッ素系界面活性剤を添加する工程、
フッ素系界面活性剤添加工程で得られる沈殿物を回収する工程、
回収した沈殿物を乾燥し、フッ素系溶媒分散性金属酸化物を得る工程、及び
フッ素系溶媒分散性金属酸化物をフッ素系溶媒に分散させる工程
を含むフッ素系溶媒金属酸化物分散液の製造方法。
【請求項2】
乾燥工程で得られたフッ素系溶媒分散性金属酸化物を分散工程前に粉末化する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
フルオロアルキル鎖の主鎖炭素数が10以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
フッ素系界面活性剤がパーフルオロカルボン酸類及びパーフルオロスルホン酸類、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
フッ素系界面活性剤添加工程におけるフッ素系界面活性剤の金属酸化物に対するモル比が5以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
金属酸化物が酸化セリウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
金属酸化物懸濁液中の金属酸化物の粒径が1nm〜100nmの範囲内にある、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
金属酸化物懸濁液がセリアゾルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
フッ素系溶媒分散性金属酸化物をフッ素系溶媒に対して0.05重量%〜0.8重量%で混合する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
フッ素系溶媒がフッ素置換された、脂肪族炭化水素類、アルコール類、又はエーテル類であって、かつ常温において液体のものから選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−184817(P2010−184817A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27959(P2009−27959)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】