説明

フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物及びフッ素系艶消しフィルム

【課題】きめの細かい艶消し性及び耐溶剤性に優れたフッ素系艶消しフィルムを安定に製造することができるフッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】体積平均粒子径が100〜1,000μmのフッ素系樹脂粒子(A)100質量部及び非架橋のアクリル系樹脂(B)1〜18質量部(ただしフッ素系樹脂粒子(A)100質量部に対して)を含有し、フッ素系樹脂粒子(A)の溶解度パラメータ(SPF)とアクリル系樹脂(B)の溶解度パラメータ(SPA)が下式(1)を満足するフッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物。
SPA−SPF≧5J1/2cm−3/2・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物及びフッ素系艶消しフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系樹脂等のフッ素含有樹脂から得られるフッ素系フィルムは耐候性、耐溶剤性及び耐汚染性に優れているため、プラスチック、ガラス、スレート、ゴム、金属板、木板等の各種基材の表面にラミネートされる保護フィルムとして広く使用されている。また、フッ素系フィルムで表面が保護された基材は建築物の内装材、外装材、家具等の多くの用途で使用されている。
【0003】
更に、近年、特に屋内で使用される壁紙やレザー家具等の基材についてはイメージの高級化が要望されるようになり、艶消しフィルムがラミネートされたものの使用が多くなっている。
【0004】
上記の艶消しフィルムの製法としては、主として(1)表面を荒らした金属製又はゴム製のマットロールによってフィルム表面に微細な凹凸を付与し、熱成形する方法、(2)砂又は金属等の微粒子を被処理フィルム表面に吹き付けて微細な凹凸を付与するサンドブラスト法、(3)被処理フィルムに艶消し剤をコーティングする方法及び(4)微細な有機又は無機の充填剤(艶消し剤)をフィルム構成用樹脂中に添加する方法が知られている。
【0005】
しかしながら、マットロールによるフィルムの艶消し方法(1)はフッ素系樹脂に添加した紫外線吸収剤等の添加剤によりマットロールが目詰まりしやすいという問題や、薄いフィルムでは厚み斑がそのまま艶斑となり、均質な艶消しフィルムが得られにくいという問題点がある。
【0006】
また、サンドブラスト法(2)においては、薄く柔らかいフィルムでは、サンドブラスト時に被処理フィルムが伸びたり、破断したりする問題がある。
【0007】
更に、艶消し剤をコーティングする方法(3)においては、艶消し剤がフッ素系樹脂に対して非粘着(非接着)性のためフッ素系樹脂の表面に艶消し剤のコーティングを容易に行うことができない。
【0008】
また、艶消し剤をフィルム構成用樹脂中に添加する方法(4)においては、上記のような問題は生じないものの、無機系の艶消し剤を使用する場合には、得られたフィルム内にボイドが発生し易く、機械的強度が低下する場合がある。また無機系艶消し剤の添加によりフィルムの透明性の低下が生じる場合がある。更に、無機系艶消し剤をフッ素系樹脂に混合させる溶融押出ペレット化工程や、艶消し剤、特に無機系艶消し剤を配合したフッ素系樹脂をフッ素系樹脂の結晶融点よりも一定温度以上に加熱して溶融押出製膜する工程での高温加熱によりフッ素系樹脂が着色する問題が生じる場合がある。
【0009】
上記問題を解消すべく有機系の艶消し剤を用いる方法として多くの提案がなされている。
【0010】
例えば、特許文献1には、表面層が架橋アクリル樹脂及びフッ化ビニリデン系樹脂を含有する、外観性、表面光沢度、引張伸び及び熱加工性に優れたフッ化ビニリデン系樹脂フィルムが提案されている。
【0011】
また、特許文献2には、フッ化ビニリデン系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂及び特定粒径の架橋アクリル樹脂を含有する樹脂組成物を用いた、外観、表面光沢度、熱加工性及び耐候性に優れた内外装建材用表面保護フィルムが提案されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で得られるフィルムはいずれも耐溶剤性が充分とはいえない。
【0013】
更に、特許文献3にはインサート成形又はインモールド成形を施した時に、成形品が白化しない、且つ車輌用途に用いることができる表面硬度、耐熱性、及び透明性又は艶消し性を有するアクリル樹脂フィルム状物が提案されている。この特許文献3には、フィルム表面の耐候性や耐溶剤性を改善するために、無機充填剤又は架橋性高分子粒子を混練する方法、エポキシ基含有単量体を共重合する方法、水酸基を有する直鎖状重合体を使用することにより得られたフッ素樹脂フィルムを最表層に設けることが開示されている。
【0014】
しかしながら、特許文献3には耐溶剤性を維持しつつ、きめの細かい艶消し性を発現させる具体的な施策について何ら開示されておらず、またこれらの性能を有する艶消しフィルムを安定に製造するための樹脂組成物ついても何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−205755号公報
【特許文献2】特開2008−7709号公報
【特許文献3】特開2005−139416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的はきめの細かい艶消し性及び耐溶剤性に優れたフッ素系艶消しフィルムを安定に製造することができるフッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、体積平均粒子径が100〜1,000μmのフッ素系樹脂粒子(A)100質量部及び非架橋のアクリル系樹脂(B)1〜18質量部(ただしフッ素系樹脂粒子(A)100質量部に対して)を含有し、フッ素系樹脂粒子(A)の溶解度パラメータ(SPF)とアクリル系樹脂(B)の溶解度パラメータ(SPA)が下式(1)を満足するフッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物(以下、「本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物」という)を要旨とする。
【0018】
SPA−SPF≧5J1/2cm−3/2・・・(1)
【発明の効果】
【0019】
本発明により、耐候性及び耐溶剤性を備え、きめ細かい良好な艶消し状態を有するフィルムを安定に製造することができることから、例えば、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途;ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途;AV機器のフロントパネル、ボタン、エンブレム等及び家具製品の窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居等の表面化粧材用途;携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途;家具用外装材用途;壁面、天井、床等の建築用内装材用途;サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途;各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途;電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途;瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器並びに材料、景品、小物等の雑貨等のその他各種用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】

フッ素系樹脂粒子(A)


本発明で使用されるフッ素系樹脂粒子(A)を形成する樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル等のアクリル系単量体との共重合体及びフッ化ビニリデン系重合体を主成分とする他樹脂との混合樹脂が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して使用できる。
【0021】
フッ素系樹脂粒子(A)としては、得られるフッ素系艶消しフィルムの光透過性及びきめの細かい艶消し発現性並びにフッ素系樹脂(A)とアクリル系樹脂(B)との相溶性の点でフッ化ビニリデン系重合体粒子が好ましい。
【0022】
尚、本発明において、「(メタ)アクリ」は「アクリ」又は「メタクリ」を示す。
【0023】
本発明において、フッ化ビニリデン系重合体はフッ化ビニリデン単量体単位を有するビニル重合体であれば特に限定されず、フッ化ビニリデンの単独重合体であってもよく、フッ化ビニリデンと他のビニル化合物単量体との共重合体であってもよい。
【0024】
フッ化ビニリデンと共重合可能な、他のビニル単量体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレン等のフッ素化されたビニル単量体及びスチレン、エチレン、ブタジエン、プロピレン等のビニル単量体が挙げられる。
【0025】
フッ素系樹脂粒子(A)の体積平均粒子径は100〜1,000μmである。
【0026】
フッ素系樹脂粒子(A)の体積平均粒子径を100μm以上とすることにより、本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物を製造する際に、本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物を製造するための原料粉体(以下、「本原料粉体」という)の固結を防止し、押出機ホッパー内での本原料粉体の流動性(フリーフロー性)を良好とし、押出機への本原料粉体の安定供給を可能とすることができる。また、フッ素系樹脂粒子(A)の体積平均粒子径を1,000μm以下とすることにより、きめの細かい艶消し性を有するフッ素系フィルムを安定に得ることができる。
【0027】
フッ素系樹脂粒子(A)の体積平均粒子径としては500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。

アクリル系樹脂(B)

本発明で使用されるアクリル系樹脂(B)は架橋剤単量体単位やグラフト交叉剤単量体単位等の多官能性単量体単位を含まないアクリル系樹脂をいう。
【0028】
アクリル系樹脂(B)の溶解度パラメータ(以下、「SPA」という)はフッ素系樹脂粒子(A)の溶解度パラメータ(以下、「SPF」という)よりも5以上高いことが必要である。SPA−SPF≧5となるアクリル系樹脂(B)を使用することにより、本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物を使用して得られるフッ素系艶消しフィルム(以下、「本フッ素系艶消しフィルム」という)は外観及び艶消し性に優れ、耐溶剤性も良好である。
【0029】
尚、本発明において、溶解度パラメータは以下のFedorsの式で表される値をいう。
<Fedorsの式>
σ=(E/v)1/2=(ΣΔe/ΣΔv1/2
σ:溶解度パラメータ(単位;J1/2cm−3/2
:蒸発エネルギー
v:モル体積
Δe:各原子又は原子団の蒸発エネルギー
Δv:各原子又は原子団のモル体積
上式の計算に使用する各原子又は原子団の蒸発エネルギー及びモル体積は「R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14,147(1974)」に拠る。
【0030】
アクリル系樹脂(B)としては上記条件を満足するSPAを有するものであれば公知のアクリル系樹脂を使用することができる。
【0031】
アクリル系樹脂(B)は単独で、又は併用して使用できる。
【0032】
アクリル系樹脂(B)としては、例えば、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート及びブチルメタクリレートから成る群より選ばれる少なくとも一種のメタクリレートから得られる構成単位を主構成単位とし、必要に応じて炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の他のビニル単量体から得られる構成単位を有する単一重合体又は共重合体及び(メタ)アクリレート単位を主構成単位とするアクリル系重合体から上記SPAを有するものを選ぶことができる。
【0033】
前記のSPAを有するアクリル系樹脂(B)の具体例としては水酸基含有重合体が挙げられる。
【0034】
水酸基含有重合体としては、例えば、以下に示す水酸基含有重合体(1)が挙げられる。水酸基含有重合体(1)を使用することにより、本フッ素系艶消しフィルムの伸度をフッ素系樹脂の伸度と比べてほとんど低下しないようにすることができる。そのため、本フッ素系艶消しフィルムは、例えば二次加工時等にフィルム切れ等が起こりにくく、好ましい。
【0035】
水酸基含有重合体(1)は、炭素数1〜8の水酸基含有アルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル1〜80質量%、炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキル20〜99質量%及び炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキル0〜79質量%を含有する単量体成分を共重合して得られるものである。
【0036】
炭素数1〜8の水酸基含有アルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、及びアクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して使用できる。
【0037】
前記単量体成分中の炭素数1〜8の水酸基含有アルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルの含有量は1〜80質量%が好ましい。炭素数1〜8の水酸基含有アルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルの含有量を1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上とすることにより、本フッ素系艶消しフィルムの艶消し効果(艶消し性および外観)が良好となる傾向にある。また、炭素数1〜8の水酸基含有アルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルの含有量を80質量%以下、好ましくは50質量%以下とすることにより、本フッ素系艶消しフィルム中の水酸基含有重合体(1)の粒子の分散性がより良好となり、本フッ素系艶消しフィルムの製膜性が良好となる傾向にある。
【0038】
炭素数1〜8の水酸基含有アルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとしては、得られるフッ素系艶消しフィルムの艶消し発現性の点で、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましい。
【0039】
炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル及びメタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して使用できる。
【0040】
炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルとしては、耐候性の点で、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0041】
前記単量体成分中の炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルの含有量は耐候性の点で20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。また、前記単量体成分中の炭素数1〜13のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルの含有量としては本フッ素系艶消しフィルムの艶消し発現性の点で99質量%以下、好ましくは90質量%以下である。
【0042】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して使用できる。
【0043】
前記単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルの含有量は0〜79質量%である。炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルの含有量はアクリル系樹脂(B)の分散性の点で0.5質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルの含有量は耐候性、耐熱性の点で40質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
【0044】
アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)としては、本フッ素系艶消しフィルムの艶消し発現性や本フッ素系艶消しフィルム中でのアクリル系樹脂(B)の粒子の分散性の点で、80℃以下が好ましい。この場合、前記単量体成分中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルの含有量は0.5〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。
【0045】
尚、本発明において、重合体のTgはポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用い、FOXの式から算出した値を示す。
【0046】
アクリル系樹脂(B)の固有粘度としては、本フッ素系艶消しフィルム中でのアクリル系樹脂(B)の分散性を良好とし、本フッ素系艶消しフィルム中の水酸基含有重合体(1)の未溶融成分を低減して、本フッ素系艶消しフィルムの外観を良好とするために、0.3L/g以下が好ましく、0.12L/g以下がより好ましい。また、アクリル系樹脂(B)の固有粘度としては、本フッ素系艶消しフィルムの艶消し性を良好とするために、0.01L/g以上が好ましい。
【0047】
尚、アクリル系樹脂(B)の固有粘度は、サン電子工業(株)製自動粘度計AVL−2C(商品名)を使用し、溶媒にはクロロホルムを用い、25℃で測定した値を示す。
【0048】
アクリル系樹脂(B)の固有粘度を調節するためにメルカプタン等の重合調節剤を用いることができる。
【0049】
メルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン及びt−ドデシルメルカプタンが挙げられる。
【0050】
アクリル系樹脂(B)の分子量分布としては、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で2.2以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。Mw/Mnが小さい程、水酸基含有重合体(1)の分子量分布は単分散に近くなるため、高分子量成分が減少し、本フッ素系艶消しフィルム中にフィッシュアイ等の外観不良の原因となる未溶融物の発生が抑制される。
【0051】
尚、Mw/Mnはゲルパーメーションクロマトグラフ(GPC)により以下のGPC測定条件で測定して得られる値を示す。
<GPC測定条件>
使用機器:東ソー(株)製HLC−8320GPCシステム
カラム:TGKgel SupaerHZM−H(東ソー(株)製、商品名)2本
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率(RI)
アクリル系樹脂(B)の製造方法としては、例えば、懸濁重合及び乳化重合が挙げられるが、製造に使用する助剤類の洗浄除去の観点から、懸濁重合が好ましい。
【0052】
懸濁重合に使用される開始剤としては、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。
【0053】
懸濁安定剤としては、例えば、有機コロイド性高分子物質、無機コロイド性高分子物質、無機微粒子及びこれらと界面活性剤とを組み合わせたものが挙げられる。これらの中で、有機系の懸濁安定剤が好ましく、例えば、特開平1−168,702号公報に開示されているメタクリル酸メチルとメタクリル酸カリウムの共重合体及びメタクリル酸メチルとメタクリル酸カリウムとメタクリル酸2−スルフォエチルナトリウム塩との共重合体が挙げられる。
【0054】
また、無機系の懸濁安定剤を使用する場合は、洗浄等の重合後処理により除去できるものが好ましく、例えば、第三リン酸カルシウムが挙げられる。
【0055】
通常、懸濁重合は懸濁安定剤の存在下に単量体等を重合開始剤と共に水性懸濁したものを使用して行われる。また、必要に応じて懸濁重合する際に単量体に可溶な重合体を単量体に溶解して重合することができる。
【0056】
懸濁重合後には、懸濁重合により得られるビーズ状物から、外観不良の原因となる、重合中に発生するクロロホルムに不溶な成分であるカレットを、篩別によって除去することが好ましい。
【0057】
上記の篩別で使用される篩としては、十分な収率を確保する場合、150メッシュ以下が好ましく、50メッシュ以下がより好ましい。また、カレットを十分除去する場合には、50メッシュ以上が好ましく、150メッシュ以上がより好ましい。
【0058】
本発明においては、アクリル系樹脂(B)中に300μm以上のカレットを含まない様にすることが好ましく、100μm以上のカレットを含まない様にすることがより好ましい。
【0059】
アクリル系樹脂(B)を、無機系懸濁安定剤を用いて重合する場合には、本フッ素系艶消しフィルム中のフィッシュアイの発生を抑制して印刷抜けを抑制するために、懸濁重合で得られたアクリル系樹脂(B)のビーズ状物を水洗浄してアクリル系樹脂(B)中の無機物の含有量を低減させることが好ましい。
【0060】
上記の水洗浄の方法としては、例えば、アクリル系樹脂(B)のビーズ状物に硝酸等の洗浄液を加えて分散させた後に固液分離する分散洗浄法及び水酸基含有重合体(1)のビーズ状物に洗浄液を通過させる通過洗浄法が挙げられる。洗浄温度としては、洗浄効率の点で、10〜90℃が好ましい。
【0061】
上述したような重合終了後の篩別や水洗浄等の後処理において、製品収率を低下させることなく篩別によりカレットを効率的に取除くために、また洗浄により効率的に無機物を除去するために、アクリル系樹脂(B)の体積平均粒子径としては、300μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。また、水酸基含有重合体(1)の体積平均粒子径としては、重合体の取扱性の点で、10μm以上が好ましい。

本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物

本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物はフッ素系樹脂粒子(A)100質量部及びアクリル系樹脂(B)1〜18質量部(ただしフッ素系樹脂粒子(A)100質量部に対して)を含有するものである。
【0062】
アクリル系樹脂(B)の配合量がフッ素系樹脂粒子(A)100質量部に対して1質量部以上で、本フッ素系艶消しフィルムの艶消し性が良好となる。
【0063】
本発明においては、高級感のある外観が得られる点で、得られる本フッ素系艶消しフィルムを測定角60°で測定したときの表面光沢(60°表面光沢度)は45%以下が好ましいことから、アクリル系樹脂(B)配合量は3質量部以上が好ましい。
【0064】
一方、アクリル系樹脂(B)の配合量がフッ素系樹脂(A)100質量部に対して18質量部以下で、本フッ素系艶消しフィルムの耐薬品性が良好となる。アクリル系樹脂(B)の配合量としては、アクリル系樹脂(B)の配合の費用対効果の点で、15質量部以下が好ましく、13質量部以下がより好ましい。
【0065】
本発明においては、本フッ素系艶消しフィルムの溶解度パラメータ(SPFA)(以下、「SPFA」という)を17〜18J1/2cm−3/2とすることが好ましい。
【0066】
SPFAを上記の範囲とすることにより本フッ素系艶消しフィルムの耐薬品性をより良好とすることができる傾向にある。
【0067】
本フッ素系艶消しフィルムの厚みとしては、本フッ素系艶消しフィルムのラミネート性、製膜性又は二次加工性の点で、5〜500μmが好ましく、15〜200μmがより好ましく、30〜100μmが更に好ましい。
【0068】
本フッ素系艶消しフィルムの60°表面光沢度としては、艶消し性に優れ、また高級感のある外観が得られるの点で、100%以下が好ましく、45%以下がより好ましく、20%以下が特に好ましい。
【0069】
本フッ素系艶消しフィルムの表面に形成されている表面凹凸の平均間隔(JIS B0601準拠。以下、「Sm」という)は30μm以下が好ましい。本フッ素系艶消しフィルムがアクリル系樹脂(B)を含有し、本フッ素系艶消しフィルムの表面のSmが30μm以下の場合、本フッ素系艶消しフィルムの艶消し状態が肌理細かく、極めて良好な艶消し性を有する傾向にある。
【0070】
本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物には、必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、艶消し剤、加工助剤、耐衝撃助剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、着色剤、紫外線吸収剤、熱可塑性重合体等の各種添加剤を配合することができる。
【0071】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤が挙げられる。
【0072】
熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系熱安定剤、硫黄系熱安定剤及びヒドラジン系熱安定剤が挙げられる。
【0073】
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、リン酸エステル、脂肪酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、オキシ安息香酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルが挙げられる。
【0074】
滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級アルコール及びパラフィンが挙げられる。
【0075】
帯電防止剤としては、例えば、カチオン系帯電防止剤、アニオン系帯電防止剤、ノニオン系帯電防止剤及び両イオン系帯電防止剤が挙げられる。
【0076】
難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、塩素系難燃剤、窒素系難燃剤、アルミニウム系難燃剤、アンチモン系難燃剤、マグネシウム系難燃剤、ホウ素系難燃剤及びジルコニウム系難燃剤が挙げられる。
【0077】
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、滑石、蝋石及びカオリンが挙げられる。
【0078】
上記の添加剤はそれぞれ単独で、又は二種以上を併用して使用できる。
【0079】
本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物に上記の添加剤を配合する方法としては、例えば、フィルムを得るための成形機に本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物と共に供給する方法及び予め本フッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物に添加剤を配合した原料混合物を各種混練機にて混練する方法が挙げられる。後者の方法で使用される混練機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリミキサー及びロール混練機が挙げられる。
【0080】
本フッ素系艶消しフィルムを得るための成形方法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法が挙げられ、これらのうち経済性の点でTダイ法が好ましい。
【0081】
本フッ素系艶消しフィルムを得る際の溶融押出温度は、例えば、150〜235℃程度である。
【0082】
また、本フッ素系艶消しフィルムを得る際に使用される押出機としては、例えば、単軸押出機及び二軸押出機が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下実施例及び比較例により本発明を説明する。尚、実施例及び比較例中の「部」は「質量部」を表す。また、得られたフッ素系フィルムについての評価は下記の方法で行った。
(1)体積平均粒子径
樹脂粒子の体積平均粒子径をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定した。
(2)60度表面光沢度
フッ素系フィルム用樹脂組成物を押出成形して得られたペレットのうち、押出成形初期のペレット及び押出成形8時間後のペレットの両方のペレットについて、ポータブル光沢計(コニカミノルタセンシング(株)製、商品名:GM−268)を用い、押出成形初期のペレットから得られたフッ素系艶消しフィルムの60度表面光沢度(イ)及び押出成形8時間後のペレットから得られたフッ素系艶消しフィルムの60度表面光沢度(ロ)を測定し、光沢度(イ)と(ロ)の差のレベルをフッ素系フィルム用樹脂組成物の製造安定性の指標とした。
(3)艶消し性
フィルム表面を目視にて観察し、下記基準でフィルムの艶消し性を評価した。
◎:極めてきめの細かい艶消し状態を有している。
○:きめの細かい艶消し状態を有している。
×:きめの粗い艶消し状態を有している。
(4)外観
A4サイズのフィルムを目視にて観察し、下記基準でフィルムの外観を評価した
○:分散不良によるフィッシュアイが見られない。
△:分散不良によるフィッシュアイが数個見られる。
×:フィッシュアイが多数発生している。
(5)フィルム表面凹凸の平均間隔(Sm)
(株)キーエンス製の形状測定レーザマイクロスコープVK−8500(商品名)を用い、倍率200倍でフッ素系フィルム表面に形成されたフィルム表面凹凸の平均間隔(Sm)を測定した。
(6)耐溶剤性1
フッ素系フィルムの表面に溶剤としてアセトン又はメチルエチルケトン(MEK)を1滴垂らし、室温で乾燥するまで放置した。乾燥後のフィルム表面を目視観察し、下記の基準でアセトン又はMEKに対する耐溶剤性を評価した。
○:フィルム表面に変化はない。
△:フィルム表面に僅かに溶剤の痕が残っている。
×:フィルム表面に溶剤の痕がはっきり残っている、又はフィルム表面の溶剤が接 触した面が白濁している。
(7)耐溶剤性2
フッ素系フィルムの表面にガーゼを載せ、その上にサンタンローション(Schering−Plough HealthCare Products,Inc.製、商品名:Coppertone Waterbabies 30SPF)を1滴垂らし、さらにその上に縦50mm及び横50mm)のアルミ板を置き、アルミ板を含めた500gの荷重をかけ、74℃で1時間放置した。試験後のフィルム表面を目視観察し、下記の基準でサンタンローションに対する耐溶剤性を評価した。
○:フィルム表面に変化はない。
△:フィルム表面に僅かにサンタンローションの痕が残っている。
×:フィルム表面にサンタンローション若しくはガーゼの痕がはっきり残ってい る、又はフィルム表面のサンタンローションが接触した面が白濁している。
(8)耐溶剤性3
フッ素系フィルムの表面に10%乳酸水溶液を1滴垂らし、80℃で24時間放置した。試験後のフィルム表面を目視観察し、下記の基準で10%乳酸水溶液に対する耐溶剤性を評価した。
○:フィルム表面に変化はない。
△:フィルム表面に僅かに10%乳酸水溶液の痕が残っている。
×:フィルム表面に10%乳酸水溶液の痕がはっきり残っている、フィルム表面 が膨潤している、又は10%乳酸水溶液が接触した面が白濁している。
(9)耐溶剤性4
フッ素系フィルムの表面に内径38mm及び高さ15mmのポリエチレン製円筒を圧着器を用いて試験片に強く密着させ、ポリエチレン製円筒の開口部)に自動車用芳香剤((株)ダイヤケミカル製、商品名:グレイスメイトポピー柑橘系)を5ml注入した。開口部にガラス板で蓋をした後、55℃に保持した恒温槽に入れ、4時間放置した。試験後、圧着器とポリエチレン製円筒)を取り外し、試験片を水洗した後に風乾し、試験部の表面の白化状態を観察し、下記の基準で自動車用芳香剤に対する耐溶剤性を評価した。
○:フィルム表面に変化はない。
△:フィルム表面に僅かに自動車用芳香剤の痕が残っている。
×:フィルム表面に自動車用芳香剤の痕がはっきり残っている、又は自動車用芳香 剤が接触した面が白濁している。
(10)耐溶剤性5
フッ素系フィルムの表面に内径38mm及び高さ15mmのポリエチレン製円筒を圧着器を用いて試験片に強く密着させ、ポリエチレン製円筒の開口部にプラスチック用可塑剤としてジオクチルフタレートを5ml注入した。開口部にガラス板で蓋をした後、80℃に保持した恒温槽に入れ、72時間放置した。試験後、圧着器とポリエチレン製円筒(を取り外し、試験片を水洗した後に風乾し、試験部の表面の白化状態を観察し、下記の基準でジオクチルフタレートに対する耐溶剤性を評価した。
○:フィルム表面に変化はない。
△:フィルム表面に僅かにジオクチルフタレートの痕が残っている。
×:フィルム表面にジオクチルフタレートの痕がはっきり残っている、又はジオク チルフタレートが接触した面が白濁している。
[調製例1]水酸基含有重合体(1−1)の製造
攪拌機、還流冷却器及び窒素ガス導入口の付いた反応容器に以下の単量体混合物(1)を仕込んだ。
【0084】
次いで、反応容器内を十分に窒素ガスで置換した後、反応容器内の単量体混合物(1)を攪拌しながら75℃まで加熱し、窒素ガス気流中で3時間反応させた。この後、反応容器内の温度を90℃に昇温して、更に45分保持して重合体のビーズを得た。得られた重合体のビーズを150メッシュ(目開き100μm)の条件で篩別を行い、通過したビーズを脱水、乾燥して水酸基含有重合体(1−1)のビーズを得た。水酸基含有重合体(1−1)のSPAは22.6J1/2cm−3/2であった。また、水酸基含有重合体(1−1)のTgは77℃、固有粘度は0.11L/g、Mw/Mnは2.1、体積平均粒子径は70μmであった。
<単量体混合物(1)>
アクリル酸メチル:10部
メタクリル酸メチル:60部
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:30部
t−ドデシルメルカプタン:0.5部
ラウリルパーオキサイド:1部
第三リン酸カルシウム:5部
水:250部
[調製例2]水酸基含有重合体(1−2)の製造
単量体混合物(1)を以下の単量体混合物(2)に変更したこと以外は調製例1と同様の方法で水酸基含有重合体(1−2)を得た。得られた水酸基含有重合体(1−2)のSPAは21.8J1/2cm−3/2であった。また、水酸基含有重合体(1−2)のTgは93℃、固有粘度は0.079L/g、Mw/Mnは2.1、体積平均粒子径は75μmであった。
<単量体混合物(2)>
アクリル酸メチル:1部
メタクリル酸メチル:79部
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:20部
t−ドデシルメルカプタン:0.5部
ラウリルパーオキサイド:1部
第三リン酸カルシウム:5部
水:250部
<実施例1〜5及び比較例1〜6>
【0085】
フッ素系樹脂粒子(A)である体積平均粒子径が120μmのポリフッ化ビニリデン(ソルベイソレクシス(株)製、商品名:SOLEF6008、溶解度パラメータ:17.1J1/2cm−3/2)100部に対して、表1に示すアクリル系樹脂(B)を表1に示す割合で配合してヘンシェルミキサーを用いて30秒間混合して原料粉体を調整した。得られた原料粉体を2軸押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM35)を用いてシリンダー温度180〜200℃及びダイヘッド温度220℃の条件で押し出し、切断してフッ素系樹脂組成物のペレットを得た。
【0086】
上記のフッ素系樹脂組成物のペレットの製造中に原料粉体の固結は無く、2軸押出機のホッパー内での原料粉体のフリーフロー性は良好であり、原料粉体を押出機に安定して供給できた。
【0087】
尚、フッ素系樹脂組成物のペレットを得るに際し、フッ素系フィルムの60度表面光沢度(イ)及び(ロ)の測定に使用するために、樹脂組成物のペレットの製造開始初期に押し出したサンプル及び押出成形8時間後のサンプルの各5kgをサンプリングした。
【0088】
上記の2種のフッ素系フィルムの60度表面光沢度(イ)及び(ロ)の測定用のペレットのサンプルを乾燥後、40φ製膜機((株)ムサシノキカイ製)を用いてT−ダイ法で製膜し、厚み約50μmのフッ素系フィルムを得た。尚、製膜に際してはシリンダー温度を180〜220℃に設定し、T−ダイの温度を230℃に設定した。得られたフッ素系フィルムの60度表面光沢度(イ)及び(ロ)、艶消し性、外観、Sm並びに耐溶剤性1〜5についての評価結果を表1に示す。
<実施例6>
【0089】
フッ素系樹脂粒子(A)として体積平均粒子径が180μmのポリフッ化ビニリデン(クレハ(株)製、商品名:KF−W#1000、溶解度パラメータ:17.1J1/2cm−3/2)を使用した。それ以外は実施例2と同様にしてフッ素系フィルムを得た。フッ素系フィルムについての評価結果を表1に示す。
<比較例7>
【0090】
フッ素系樹脂粒子(A)として体積平均粒子径が70μmのポリフッ化ビニリデン(アルケマ(株)製、商品名:Kynar721、溶解度パラメータ:17.1J1/2cm−3/2)を使用した。それ以外は実施例1と同様にしてフッ素系樹脂組成物のペレットを得ようとした。しかしながら、フッ素系樹脂組成物のペレットの製造中に原料粉体の固結が見られ、ホッパー内での原料粉体のフリーフロー性が不良であり、押出機への原料粉体の供給が滞る場合があり、安定した製造が困難であった。
<比較例8>
【0091】
フッ素系樹脂粒子(A)である体積平均粒子径が120μmのポリフッ化ビニリデン(ソルベイソレクシス(株)製、商品名:SOLEF6008、溶解度パラメータ:17.1J1/2cm−3/2)100部を2軸押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM35)を用いてシリンダー温度180〜200℃及びダイヘッド温度220℃の条件で押し出し、切断してフッ素系樹脂粒子(A)のペレットを得た。フッ素系樹脂粒子(A)のペレットの平均寸法はφ2.5mm×2mmであり、体積平均粒子径は1,000μmより大きかった。
【0092】
フッ素樹脂粒子(A)の代わりに上記のフッ素系樹脂粒子(A)のペレットを使用する以外は実施例1と同様にしてフッ素系フィルムを得た。フッ素系フィルムについての評価結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

熱可塑性重合体:メチルメタクリレート(MMA)−メチルアクリレート(MA)共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g、溶解度パラメータ:20.3J1/2cm−3/2
架橋アクリル微粒子A:エポスターMA1013((株)日本触媒製)
架橋アクリル微粒子B:エポスターMA1006((株)日本触媒製)
△σ:SPA−SPF(J1/2cm−3/2
上記の実施例及び比較例より、次のことが明らかとなった。
【0094】
実施例1〜6においては、フッ素系フィルムの原料となる樹脂組成物を安定して製造することができ、耐溶剤性を備え、且つきめの細かい艶消し状態を有する艶消しフィルムが得られた。また、実施例1〜6においては、フッ素系フィルムを8時間製造しても安定した艶消し性が得られていた。
【0095】
一方、比較例1ではフッ素系樹脂粒子(A)のみを使用してフッ素系フィルムを得たものであるが、得られたフッ素系フィルムの表面に凹凸は発現していなかった。
【0096】
また、比較例2及び4ではフッ素系樹脂粒子(A)とアクリル系樹脂(B)との溶解度パラメータの差△σが5J1/2cm−3/2未満であることから、艶消し性が不十分であるかフィッシュアイが発生し、外観の良好なフッ素系艶消しフィルムが得られなかった。
【0097】
更に、比較例3では良好な艶消し性を有するフィルムが得られているものの、アクリル系樹脂(B)の配合量が多いため、フッ素系樹脂が本来有する耐溶剤性が損なわれていた。
【0098】
また、フッ素系樹脂粒子(A)に架橋アクリル微粒子を配合した比較例5及び6では、得られたフッ素系フィルムの表面はきめの粗い艶消し状態を有しており、耐溶剤性も不良であった。
【0099】
更に、比較例7では体積平均粒子径が100μm未満のフッ素系樹脂粒子(A)を使用したため、樹脂組成物のペレットを安定して製造できなかった。
【0100】
また、比較例8では体積平均粒子径が1,000μmを超えるフッ素系樹脂粒子(A)を使用したため、得られるフッ素系フィルムの製造初期における艶消し発現性と製造後期における艶消し発現性に差が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積平均粒子径が100〜1,000μmのフッ素系樹脂粒子(A)100質量部及び非架橋のアクリル系樹脂(B)1〜15質量部(ただしフッ素系樹脂粒子(A)100質量部に対して)を含有し、フッ素系樹脂粒子(A)の溶解度パラメータ(SPF)とアクリル系樹脂(B)の溶解度パラメータ(SPA)が下式(1)を満足するフッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物。
SPA−SPF≧5J1/2cm−3/2・・・(1)
【請求項2】
フッ素系樹脂粒子(A)がフッ化ビニリデン系重合体粒子である請求項1に記載のフッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系樹脂(B)が水酸基含有重合体である請求項1〜2のいずれかに記載のフッ素系艶消しフィルム用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素系艶消しフィルム用組成物から得られるフッ素系艶消しフィルム。

【公開番号】特開2011−231273(P2011−231273A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104983(P2010−104983)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】