説明

フッ素繊維紡績糸およびその製造方法

【課題】
高温、酸性ガス、アルカリ条件下など過酷な条件下において使用される紡績糸または、摺動性優れた布帛においてに好適に用いることができるフッ素繊維紡績糸を提供する。
【解決手段】
動摩擦係数が0.01〜0.5であり、捲縮を有するフッ素繊維のみからなり、前記フッ素繊維は、繊維長が10〜200mm、繊維長のバラツキが20%〜80%の範囲内にあることを特徴とするフッ素繊維紡績糸およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に縫製性に優れ、撥水性、撥油性、防汚性、耐薬品性、耐熱性、耐候性に優れ好適に用いられるフッ素繊維紡績糸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素繊維は、その優れた力学特性および電気特性から近年さまざまな用途に利用されている。フッ素繊維とは、通常、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略記する)または、その誘導体であるフッ素樹脂からなる繊維の略称で、極性の高いフッ素原子がポリマー外周を覆う結果、摩擦係数が低くなるので摺動性が高く、また非粘着性のため、撥水シートや防汚シートなどに利用される。さらには、酸やアルカリといった耐薬品性に優れ、融点が例えば325℃と高いので耐熱性に優れていることから、過酷な条件下での使用にも耐え得るものであった。
【0003】
しかしながら、フッ素繊維は摩擦係数が低いので、繊維同士の絡みが弱くすり抜けるために、繊維の脱落が発生しやすく、フッ素繊維のみからなる紡績糸はこれまで得ることができていなかった。
【0004】
例えば、特許文献1では、フッ素繊維の摩擦が極めて低いので、他の繊維と混紡することで、紡績糸を得ることが開示されている。しかしながら、他の繊維との混紡であると、フッ素繊維以外の繊維は、摩擦係数が大きいので、摺動性に劣り、かつ耐薬品性や耐熱性に劣るため、酸やアルカリ過酷な条下では劣化しやすく、また高温下では分解してしまう。
【0005】
また、特許文献2にも、PTFE繊維以外の連続したフィラメントのトウ、紡績工程中のスライバーまたはこれらの2種以上と、PTFEフィルムを3倍以上に一軸延伸したフィルムまたは該一軸延伸したフィルムを網状にスプリットしたヤーンとを高速で回転している針刃ロールに同時に供給することで、分枝構造および/またはループ構造を有するPTFE繊維と他の繊維とからなる混合綿状物を製造する技術が開示されている。しかしながら、特許文献2に開示される技術も、特許文献1に開示される技術と同様にフッ素繊維の動摩擦が低いために、他の繊維と混綿しながら割繊し紡績する方法であり、他の繊維との混紡であると、フッ素繊維以外の繊維は、摩擦係数が多いので、摺動性に劣り、かつ耐薬品性や耐熱性におとるため、酸やアルカリ過酷な条下では劣化しやすく、また高温下では分解することもあり、フッ素繊維の特性を活かすことは難しかった。
【0006】
さらに、特許文献3において、少なくともフッ素繊維と引張強度が2GPa以上である高強度繊維とを含む布帛において、フッ素繊維と高強度繊維とが複合糸条を形成し、かかる複合糸条が布帛を形成しているフッ素繊維布帛が開示されている。ここで、複合糸条は、牽切する方法で得ているが、あらかじめ炭素繊維を牽切した糸条とフッ素繊維からなる布帛を得るものであって、100%フッ素繊維ではなく複合糸条であるため摺動性に劣る欠点は残る。
【0007】
すなわち、高温、酸、アルカリの過酷な条件下でかつ摺動性、撥水性、撥油性、防汚性に優れている紡績糸を得るためには、実質的にフッ素繊維のみからなるような紡績糸を得る必要があるが、摩擦係数の低いフッ素繊維は、繊維同士が絡合しにくく、これまで、繊維脱落の少ない安定した紡績糸は得られていないのが実情である。
【特許文献1】特開平07−229028号公報
【特許文献2】特許第3486905号公報
【特許文献3】特開2005−220487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記した従来の技術における問題点を解決し、高温、酸、アルカリが発生する過酷な条件下において使用でき、かつ繊維脱落の少ないフッ素繊維紡績糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的を達成するために、本発明のフッ素繊維紡績糸は次の構成を有する。すなわち、動摩擦係数が0.01〜0.5であるフッ素短繊維を95重量%以上含むフッ素繊維紡績糸であり、前記フッ素短繊維は、平均繊維長が10〜200mm、繊維長のバラツキが20%〜80%の範囲内にあることを特徴とするフッ素繊維紡績糸である。
【0010】
また、前記した本発明の目的を達成するために、本発明のフッ素繊維紡績糸の製造方法は次のいずれかの構成を有する。すなわち、動摩擦係数が0.01〜0.5で、かつ伸度が1%〜30%であるフッ素長繊維のトウを得、そのトウを牽切した後、スライバーとなして紡績するフッ素繊維紡績糸の製造方法、または、動摩擦係数が0.01〜0.5であるフッ素長繊維に、捲縮数が8〜22山/25mmおよび/または捲縮率が8〜22%となるよう捲縮を付与して捲縮トウを得、その捲縮トウを牽切した後、スライバーとなして紡績するフッ素繊維紡績糸の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフッ素繊維紡績糸によれば、紡績糸を構成するフッ素短繊維が特定の動摩擦係数、平均繊維長、繊維長バラツキを有するために繊維同士の絡みが高まり、紡績糸に用いられる繊維がフッ素繊維のみから構成されたとしても、繊維の脱落の少ない安定した紡績糸とすることができる。紡績糸に用いられる繊維をフッ素繊維のみで構成すれば、高温、酸、アルカリが発生する過酷な条件下において好適に使用できるばかりか、他の繊維を含まないので摺動性、撥水性、撥油性、防汚性に優れている。
【0012】
また、本発明のフッ素繊維紡績糸の製造方法によれば、かかるフッ素繊維紡績糸を工業的に安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】

本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、フッ素繊維に通常のステープル加工を行うと、繊維の末端が鋭断され、かつ繊維長が一定となるため、捲縮による繊維同士の絡合が有っても、容易に解れてしまうが、紡績糸を構成するフッ素短繊維について、その動摩擦係数、平均繊維長、繊維長のバラツキおよび繊維末端のフィブリル化を制御することによって、繊維同士の絡合が複雑になることに着目し本発明に到達した。
【0014】
本発明のフッ素繊維紡績糸は、フッ素繊維のみからなることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、紡績糸にはフッ素繊維以外の繊維を、紡績糸重量あたり、5重量%までの少量であれば混紡してあっても良い。フッ素繊維以外の繊維の含有量が、紡績糸全体の5重量%までであれば、紡績糸としての動摩擦係数はそれほど大きくはならず、紡績糸の摺動性には大きな影響を与えない。混紡する場合、フッ素繊維以外の繊維としては、炭素繊維、ポリアラミド繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維など、高温、酸、アルカリが発生する過酷な条件下での耐久性に優れる繊維が選ばれる。
【0015】
本発明において、フッ素繊維を構成するフッ素樹脂としては、炭素とフッ素のみで構成されているテトラフルオロエチレンを重合してなるポリマー、いわゆるPTFEに限らず、PTFEの誘導体も用いることができる。PTFEの誘導体としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)(FEP)を例示することができる。また、本発明におけるフッ素繊維としては、セルロース誘導体とフッ素樹脂をマトリクス状態で紡糸し焼成するマトリックス製造方法で得られるものでも、フッ素樹脂を加圧・加熱凝集した後フィルム状に延ばし、その後スリットカットするスリットヤーン製造方法で得られるものでも良い。
【0016】
本発明の紡績糸は、それを構成するフッ素短繊維が、繊維表面の動摩擦係数が0.01〜0.5、摺動性をより向上させるために、好ましくは0.01〜0.2、より好ましくは0.01〜0.1である必要がある。
【0017】
本発明の紡績糸を構成するフッ素短繊維は、捲縮数が8〜22山/25mmであるか、または捲縮率が8〜22%である捲縮を有していることが好ましい。捲縮数が8山/25mm未満では、繊維自体の絡みが少なく紡績糸から繊維の脱落が増えるし、22山/25mmを越えると、毛玉が発生しやすくなり紡績糸の品位が劣る場合がある。また、捲縮率が8%未満であると捲縮が不足するし、22%を超えると、毛玉が発生しやすくなり紡績糸の品位が劣る場合がある。
【0018】
フッ素繊維に親水性の高い油剤を付与することで、紡績糸を得ようとする方法もあるが、これでは製品化したときに折角のフッ素繊維の特徴である撥水が失われやすい。なお、繊維の表面に油剤が付与されていても、前記した動摩擦係数を有するフッ素繊維が好ましく用いられる。フッ素繊維の動摩擦係数は、PTFEの成分中のポリマーユニットを変更する、又は、その割合を変えるなど、フッ素繊維の基質自体を変更する他、繊維の断面形状をY型などの異形断面としたり、油剤の成分として粘着性の異なるユニットを持つ成分を使うなどすることにより、変更することができる。特に動摩擦係数を大きくするには、フッ素繊維の基質としてPTFEにエーテル結合などの共重合体や側鎖を付与したり、粘着性の高い油剤を使用したり、水分を付与するのが効果的である。また、動摩擦係数を小さくするためには、フッ素繊維の基質としてPTFEのホモポリマーを用いたり、粘着性の低い油剤を使用したり、油剤を付与しないことが効果的である。油剤を付与する場合には、フッ素繊維の表面にポリオキシレンアルキルエーテルからなる疎水性の油剤がフッ素繊維重量あたり0.01〜0.5重量%付与することが好ましい。親水性を有する油剤であると繊維同士の粘着により紡績化しやすいが、フッ素繊維の特徴である撥水性や摺動性が劣る。
【0019】
また、後述するように、油剤を付与していない無油トウにて牽切することもできるが、開繊機やカード機に通過させて紡績化するにあたり、静電性を抑える目的で油分が付与されるのが一般的であり、得られる紡績糸には、0.01〜0.05重量%の油分が付着させることが多い。
【0020】
本発明の紡績糸において、構成するフッ素短繊維は、平均繊維長が10〜200mm、好ましくは50〜200mm、より好ましくは50〜150mmであり、繊維長のバラツキが20%〜80%、好ましくは40〜80%である。フッ素短繊維の平均繊維長が長い方が交絡しやすいが、あまりに繊維長が短すぎると紡績糸からの繊維の脱落を発生させる。前記したとおり、通常のステープル加工をしたものは、繊維長のばらつきが小さすぎるため、繊維同士の絡合が有っても、容易に解れてしまうが繊維長が不均一、すなわち繊維長のバラツキがある程度大きくなると、繊維同士の絡合が複雑化するので繊維が脱落しにくくなるのである。
【0021】
また構成短繊維の末端はフィブリル化していることが好ましい。フィブリル化しているフッ素繊維の末端同士の交絡が複雑化するので、繊維が脱落しにくくなる。フィブリル化とは、切断された繊維末端が枝状に割かれた状態のことをいう。
【0022】
次に、本発明のフッ素繊維紡績糸を好適に得ることができるフッ素繊維紡績糸の製造方法について説明する。
【0023】
まず、動摩擦係数が0.01〜0.5であるフッ素長繊維を準備する。フッ素長繊維は、セルロース誘導体とフッ素樹脂をマトリクス状態で紡糸し焼成するマトリックス製造方法で得ても、フッ素樹脂を加圧・加熱凝集した後フィルム状に延ばし、その後スリットカットするスリットヤーン製造方法で得ても良い。ここで、動摩擦係数は、前記するようにポリオキシレンアルキルエーテルからなる油剤を繊維重量あたり0.01〜0.5重量%付与することや、PTFE分子量の変更、焼成温度、焼成時間を変更させたりすることで制御することができる。このようなフッ素長繊維のトウを牽切するのであるが、ここで、伸度が1%〜30%であるフッ素長繊維を用いるか、フッ素長繊維に、例えばスタフィングボックス内で捲縮を付与して、捲縮数が8〜22山/25mmおよび/または捲縮率が8〜22%である捲縮トウとなすのである。好ましくは伸度が1%〜30%、好ましくは3%〜26%、さらに好ましくは8%〜26%である。さらに好ましくは、伸度が1%〜30%であるフッ素長繊維に、捲縮を付与して、捲縮数が8〜22山/25mmおよび/または捲縮率が8〜22%である捲縮トウとなすのが良い。
【0024】
フッ素長繊維の伸度が30%以下で有ると、牽切工程において効率的に繊維が断続的に切断される。一方、伸度が30%を越えると、繊維が伸びすぎ牽切工程で切断されにくく、かつ一度にトウが切断する場合があり、得られる短繊維における繊維長のバラツキが前記した範囲になりにくい。また伸度を1〜30%のフッ素繊維を得るためには、用いるフッ素樹脂の重量平均分子量を変更したり、フッ素繊維を得るにあたって加熱延伸を行い、その延伸倍率を適切に制御すればよい。但し、この際に繊維が切断される延伸倍率よりも小さな延伸倍率とすることが肝要である。
【0025】
また、フッ素長繊維に、捲縮を付与して、特定の捲縮数および/または特定の捲縮率である捲縮トウとしてから牽切を行なうと、単繊維同士の絡みが強いため繊維を引きちぎりやすくなり、また、引きちぎり後の繊維同士の絡みが強いため脱落を抑える効果があるばかりか、トウ乱れによることによりロール巻き付きも防止できる。捲縮トウや紡績糸において、捲縮数は10〜15山/25mm、捲縮率は10〜15%であることがより好ましい。また捲縮トウの上記した捲縮数や捲縮率は、例えばスタフィングボックス内での、圧力、温度、速度、繊維の動摩擦係数、単繊維径の条件を変更することで制御することができる。特にスタフィングボックス内の圧力を上げることで、フッ素繊維の座屈が強くなり捲縮数や捲縮率は大きくなる。またスタフィングボックス内の温度を上げることでも、フッ素繊維が軟化しやすくなり捲縮数や捲縮率は大きくなる。さらに、ライン速度を高めることで、スタッフィングボックス内のフッ素繊維のかみ込み量が増え座屈が強くなり捲縮数や捲縮率は大きくなる。またフッ素繊維の動摩擦係数を高めることによって、繊維とスタフィングボックスのロールとの摩擦が増え、繊維の滑りが減少し、捲縮数や捲縮率は大きくなる。さらには、繊維径を細くすることでフッ素繊維の座屈を強く受けやすくなり捲縮数や捲縮率は大きくなる。
【0026】
次いで、前記したフッ素長繊維のトウまたは捲縮トウを牽切する。牽切とは引きちぎることであり、通常、ステンレス製ロールまたはゴム製ロールで構成されるニップロールである供給ロールと牽切ロールを用い、供給ロールでトウを挟んで供給し、牽切ロールでトウを挟みながら供給ロールよりも高速、具体的には10〜100m/分のライン速度で、引張倍率1.5〜7倍程度引っ張って牽切する。なお、引張倍率とは、牽切ロールの速度と供給ロールの速度との比を意味する。ライン速度が低速では、生産効率が悪く、早すぎるとロールへの巻き付きなどにより連続した加工が困難となる。また、繊維は一般に引張変形速度が大きくなるほど、破断伸度が小さくなるので、牽切工程でのライン速度が大きくなると、同じ引張倍率でトウを引っ張っても、個々の単繊維は破断しやすく、またトウはロール上でいくらかは滑るため、破断伸度よりわずかに高い引張倍率とすることが好ましい。引張倍率が大きすぎると一度機に単繊維が切断され連続した牽切がされにくい。また引張倍率が小さすぎると繊維が一部分しか牽切されないのでスライバーが得られない。得られる単繊維において、所望の平均繊維長や繊維長のバラツキとなるよう、ライン速度および引張倍率を調整する。
【0027】
この際に繊維トウの間で切れる位置が異なるため、トウは一度に切れるこことはなく、連続したトウの状態(短繊維糸条)を維持できる。もし一度にトウが同じ箇所で切断された場合には、連続した短繊維糸条として得ることが出来ない。さらに切断されていない繊維が多いとスライバーとしての形状が維持されない。すなわち適切な繊維長を有する短繊維が不連続に存在する必要がある。このため牽切するにはニップロールにおいて繊維の適度な滑りが必要であり、摩擦が低すぎてはニップロールの滑りが大きく牽切出来ず、また摩擦が大きすぎるとロールへの巻き付きや一度に繊維が切断するといった不具合も生じる。
【0028】
この短繊維糸条を、好ましくはスタンフィングボックスで捲縮を付与した後に、開繊機、カード機に通すことで、スライバーとなして、このスライバーを数本から数十本にまとめて撚ることで紡績化する。
【0029】
この際に牽切することで繊維長のバラツキが適度に発生し、かつ両端がフィブリル化したフッ素短繊維となるので、繊維同士が絡まりやすくなる。また、あらかじめ捲縮を付与された捲縮トウを牽切すれば、牽切した後に繊維同士が絡まりやすくなるが、牽切した後にスタンフィングボックス内などで捲縮を付与してスライバーにすると、より繊維同士の絡まりやすく、紡績化しやすくなる。
【実施例】
【0030】
本発明を、実施例を用いて、より具体的に説明する。なお、本発明において、各種物性値は以下に記載の方法によるものである。
<繊維の捲縮数、捲縮率>
JIS1015(1999)に基づき、トウあるいは短繊維の束の中から任意に30本の単繊維を抜き出し捲縮度、捲縮率を求める。
【0031】
糸条に規定加重(繊度×2mg/dtex)を掛けたときの原長をA、そのときの糸条25mm中の山の高さを捲縮度、さらに規定加重300mgの加重をかけた時の繊維長をBとして、B−A/Bを捲縮率とする。また、糸条に規定加重(繊度×2mg/dtex)を掛けたとき25mm間隔中の山の数を捲縮数とする。
<繊維の伸度>
JIS1015(1999)に基づき、トウあるいは短繊維の束の中から任意に30本の単繊維を抜き出し伸度を求める。なお、本実施例では、株式会社オリエンテック製 テンシロン RTC−1210Aを用いた。
<繊維−摩擦係数試験方法係数>
JIS1015(1999)に基づき、トウの束から任意に10本の単繊維を抜き出し動摩擦係数を測定する。なお、本実施例では、動摩擦計として、エイコー測器(株)製 μメーターを用いた。
<短繊維の平均繊維長と繊維長のバラツキ>
JIS1015(1999)に基づき、平均繊維長を求める。また、平均繊維長を求める際の繊維長の標準偏差を求め、それを平均値(平均繊維長)で割り百分率として求めた値を繊維長のバラツキとした。
(実施例1)
マトリックス紡糸法により重量平均分子量200万のPTFEポリマーを、セルロース誘導体と混合してマトリックス状態として湿式紡糸を行い、350℃で5分焼成することで、単繊維繊度が10dtex、全繊度30万dtexのフッ素長繊維を得た。得られたフッ素長繊維の動摩擦係数は0.01であった。得られたフッ素長繊維を、ステンレスSUS410からなるクリンパーロールを2つ箱体に収納したスタッフィングボックスに押し込み、0.2MPaの圧力を付与して捲縮加工して捲縮トウを得た。得られた捲縮トウは、伸度10%で、捲縮数17.1山/25mm、捲縮率18.5%の捲縮が付与されていた。
【0032】
得られた捲縮トウを牽切機で前方を3個のステンレスロールでトウを挟み、後方を3個のステンレスロールでトウを挟み、挟まれたトウを50m/分の速度でかつ引張倍率5.5倍引き延ばしながら引きちぎることで、平均繊維長が140mmでかつ繊維長のバラツキが55%の短繊維トウを得た。
【0033】
この短繊維トウにポリオキシレンアルキルエーテル系油剤を繊維重量あたり0.1重量%付与したのち開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けることで、繊度150dtexのフッ素繊維紡績糸を得た。紡績糸を構成する短繊維は、伸度3%で、捲縮数15.1山/25mm、捲縮率17.5%の捲縮を有していた。また繊維末端はフィブリル化していた。
【0034】
得られた紡績糸を濃度5重量%、温度50℃の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬したが、紡績糸は形状を維持していた。また、得られた紡績糸を260℃で24時間加熱したが、紡績糸は形状を保持していた。また、得られた紡績糸を用いて製織し布帛を製造したが、紡績糸からの繊維の脱落は発生しなかった。実験条件および評価結果を表1にまとめた。
(実施例2)
PTFEポリマーを重量平均分子量150万のものに変更し、かつ、セルロース誘導体と混合してマトリックス状態として湿式紡糸を行い、かつ吐出量を下げ350℃で5分焼成しすることで、単繊維繊度を7.5dtexで全繊度22.5万dtexのフッ素長繊維を得て、ポリオキシレンアルキルエーテル系油剤を0.05重量%付与するとともに、0.15MPaの圧力を付与して捲縮加工した以外は、実施例1と同様にして捲縮トウを得た。得られたフッ素長繊維の動摩擦係数は0.09であり、得られた捲縮トウは、伸度25%で、捲縮数9.0山/25mm、捲縮率9.1%の捲縮が付与されていた。
【0035】
得られた捲縮トウを牽切機で前方を3個のステンレスロールでトウを挟み、後方を3個のステンレスロールでトウを挟み、挟まれたトウを50m/分の速度でかつ引張倍率5.0倍引き延ばしながら引きちぎり、さらにステンレスSUS410からなるクリンパーロールを2つ箱体に収納したスタッフィングボックスに押し込み、0.15MPaの圧力を付与して捲縮加工して捲縮トウを得た。、平均繊維長が55mmでかつ繊維長のバラツキが25%の短繊維トウを得た。この短繊維トウを開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けることで、繊度200dtexのフッ素繊維紡績糸を得た。紡績糸を構成する短繊維は、伸度3%で、捲縮数15.2山/25mm、捲縮率16.5%の捲縮を有していた。また繊維末端はフィブリル化していた。
【0036】
得られた紡績糸を濃度5重量%、温度50℃の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬したが、紡績糸は形状を維持していた。また、得られた紡績糸を260℃で24時間加熱したが、紡績糸は形状を保持していた。また、得られた紡績糸を用いて製織し布帛を製造したが、紡績糸からの繊維の脱落は発生しなかった。実験条件および評価結果を表1にまとめた。
(実施例3)
重量平均分子量300万のPTFEポリマーを、350℃で30分加熱したのち、細口のノズルからロープ状に引き延ばし、得られたロープ状のポリマーを縦及び横方向に引き延ばし、フィルム状にする。この得られたフィルムをカッターで引っ掻きながら縦方向に裁断することで得られたフッ素繊維に、ポリオキシレンアルキルエーテル系油剤を0.1重量%付与することで単繊維繊度が2dtex、全繊度30万dtexのフッ素長繊維を得た。得られたフッ素長繊維の動摩擦係数は0.19であった。得られたフッ素長繊維を、ステンレスSUS410からなるクリンパーロールを2つ箱体に収納したスタッフィングボックスに押し込み、0.2MPaの圧力を付与して捲縮加工して捲縮トウを得た。得られた捲縮トウは、伸度9%で、捲縮数20.5山/25mm、捲縮率19.5%の捲縮が付与されていた。また繊維末端はフィブリル化していた。
【0037】
得られた捲縮トウを実施例1と同じ条件で牽切機で引き延ばしながら引きちぎることで、平均繊維長が120mmでかつ繊維長のバラツキが40%の短繊維トウを得た。この短繊維トウを再びステンレスSUS410からなるクリンパーロールを2つ箱体に収納したスタッフィングボックスに押し込み、0.2MPaの圧力を付与して捲縮加工した。開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けることで、繊度100dtexのフッ素繊維紡績糸を得た。紡績糸を構成する短繊維は、伸度4%で、捲縮数23.3山/25mm、捲縮率19.8%の捲縮を有していた。
【0038】
得られた紡績糸を濃度5重量%、温度50℃の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬したが、紡績糸は形状を維持していた。また、得られた紡績糸を260℃で24時間加熱したが、紡績糸は形状を保持していた。また、得られた紡績糸を用いて製織し布帛を製造したが、紡績糸からの繊維の脱落は発生しなかった。実験条件および評価結果を表1にまとめた。
(実施例4)
油剤付着量を0.2重量%に変更した以外は、実施例3と同様にして捲縮トウを得た。得られたフッ素長繊維の動摩擦係数は0.45であり、得られた捲縮トウは、伸度9%で、捲縮数13.5山/25mm、捲縮率14.6%の捲縮が付与されていた。
【0039】
得られた捲縮トウを実施例1と同じ条件で牽切機で引き延ばしながら引きちぎることで平均繊維長が90mmでかつ繊維長のバラツキが60%の短繊維トウを得た。この短繊維トウを開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けることで、繊度110dtexのフッ素繊維紡績糸を得た。紡績糸を構成する短繊維は、伸度3%、捲縮数12.5山/25mm、捲縮率13.2%の捲縮を有していた。また繊維末端はフィブリル化していた。
【0040】
得られた紡績糸を濃度5重量%、温度50℃の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬したが、紡績糸は形状を維持していた。また、260℃で24時間加熱したが、紡績糸は形状を保持していた。また、得られた紡績糸を用いて製織し布帛を製造したが、紡績糸からの繊維の脱落は発生しなかった。実験条件および評価結果を表1にまとめた。
(実施例5)
油剤付着量を0.5重量%に変更した以外は、実施例3と同様にしてフッ素長繊維を得た。得られたフッ素長繊維は、動摩擦係数が0.45、伸度が9%であった。得られたフッ素長繊維のトウは、捲縮を付与せず、トウ缶に収納したが、トウが乱れることから渦巻き状に収納した。得られたフッ素長繊維の捲縮なしのトウを実施例2と同じ条件で牽切捲縮加工して短繊維トウを得た。得られた短繊維トウは、平均繊維長が88mmでかつ繊維長のバラツキが55%を有していた。しかしながらトウ乱れがあった。
【0041】
この短繊維トウを開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けることで、繊度110dtexのフッ素繊維紡績糸を得た。紡績糸を構成する短繊維は、伸度3%で、捲縮数8.5山/25mm、捲縮率7.8%の捲縮を有していた。また繊維末端はフィブリル化していた。
【0042】
得られた紡績糸を濃度5重量%、温度50℃の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬したが、紡績糸は形状を維持していた。また、260℃で24時間加熱したが、紡績糸は形状を保持していた。また、得られた紡績糸を用いて製織し布帛を製造したが、紡績糸からの繊維の脱落は発生しなかった。実験条件および評価結果を表1にまとめた。
【0043】
(実施例6)
実施例1で得たPTFEの短繊維トウと、3.5dtex、繊維長100mm、捲縮数11.5山、捲縮率10.5%からなるポリエステル短繊維とを、96:4の重量割合で混合して、開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けることで、フッ素繊維とポリエステル繊維が混紡した繊度150dtexのフッ素繊維紡績糸を得た。
【0044】
得られた紡績糸を濃度5重量%、温度50℃の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬したが、一部の繊維が溶解したが、紡績糸は形状を維持していた。また、得られた紡績糸を260℃で24時間加熱したが、一部の繊維が融着したが、紡績糸は形状を保持していた。また、得られた紡績糸を用いて製織し布帛を製造したが、紡績糸からの繊維の脱落は発生しなかった。実験条件および評価結果を表1にまとめた。
(比較例1)
実施例1で得た捲縮トウを、100mm均等の長さにカッターで切断して短繊維を得た。得られた短繊維は、平均繊維長が100mmで、繊維長のバラツキが3%であった。また繊維末端は鋭断されていた。
【0045】
この短繊維にポリオキシレンアルキルエーテル系油剤を0.1重量%付与したのち開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けたが、繊維が脱落し紡績糸を得ることは出来なかった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
(比較例2)
実施例2で得た捲縮トウを、80mm均等の長さにカッターで切断して短繊維を得た。得られた短繊維は、平均繊維長が80mmで、繊維長のバラツキが2%であった。また繊維末端は鋭断されていた。
得られた短繊維を開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けたが、繊維が脱落し紡績糸を得ることは出来なかった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
(比較例3)
実施例3で得た捲縮トウを、150mm均等の長さにカッターで切断して短繊維を得た。得られた短繊維は、平均繊維長が150mmで、繊維長のバラツキが5%であった。また繊維末端は鋭断されていた。
【0046】
得られた短繊維を開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けたが、毛玉が発生し品位の良い紡績糸を得ることは出来なかった。また、フッ素繊維の脱落が多かった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
(比較例4)
実施例4で得た捲縮トウを170mm均等の長さにカッターで切断して短繊維を得た。得られた短繊維は、平均繊維長が170mmで、繊維長のバラツキが4%であった。また繊維末端は鋭断されていた。
【0047】
得られた短繊維を開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けたが、繊維が脱落し紡績糸を得ることは出来なかった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
(比較例5)
比較例2で得た短繊維を、単繊維繊度3.5dtex、平均繊維長100mm、繊維長のバラツキ5%、捲縮数11.5山、捲縮率10.5%のポリエステル短繊維と、50:50の重量割合で混合して、開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けることで、フッ素繊維とポリエステル繊維が混紡した繊度110dtexの紡績糸を得た。
【0048】
この紡績糸は、濃度5重量%、温度50℃の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬することで、紡績糸はバラバラとなった。また、このポリエステルを、260℃で24時間加熱した結果、表面が融着しかつ紡績糸同士が接着し形状が維持されていなかった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
(比較例6)
PTFEポリマーを重量平均分子量150万のものに変更し、油剤種類をシリコーン系の油剤に、油剤の付着量を1.0重量%に変更した以外は、実施例3と同様にして捲縮トウを得た。フッ素長繊維の動摩擦係数は0.005であった。得られた捲縮トウは、単繊維繊度2.0dtex、伸度12%で、捲縮数2.1山/25mm、捲縮率2.5%の捲縮が付与されていた。
【0049】
得られた捲縮トウを実施例1と同じ条件で牽切機で引き延ばしながら引きちぎることで、平均繊維長が240mmでかつ繊維長のバラツキが18%の短繊維トウを得た。この短繊維トウを開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けたが繊維の脱落が多くPTFEからなる紡績糸を得ることはできなかった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
(比較例7)
PTFEポリマーを重量平均分子量100万のものに変更し、スタッフィングボックスにおける圧力を1.0MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして捲縮トウを得た。得られたフッ素長繊維の動摩擦係数は0.01であった。得られた捲縮トウは、伸度50%で、捲縮数27.1山/25mm、捲縮率28.5%の捲縮が付与されていた。
【0050】
実施例1と同様に、得られた捲縮トウを牽切機で引き延ばしながら引きちぎろうとしたが、一度に切断が発生し短繊維糸条を得ることができなかった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
(比較例8)
フッ素長繊維を得るに際して、焼成後にシリコーン系の油剤を繊維重量あたり1.5重量%付与するとともに、捲縮加工に際して、圧力を0.5MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして捲縮トウを得た。得られたフッ素長繊維の動摩擦係数は0.003であり、得られた捲縮トウは、伸度26%で、捲縮数8.2山/25mm、捲縮率10.5%の捲縮が付与されていた。
【0051】
得られたトウを牽切機で前方を3個のステンレスロールでトウを挟み、後方を3個のプラスチック製ロールでトウを挟み、フッ素繊維を滑らしながら挟まれたトウを15m/分の速度でかつ引張倍率2.5倍引き延ばしながら引きちぎることで、平均繊維長が880mmでかつ繊維長のバラツキが18%の短繊維を得た。この短繊維にポリオキシレンアルキルエーテル系油剤を繊維重量あたり0.1重量%付与したのち開繊機、カード機に通し、紡績機に掛けたが、繊維長が長すぎたために紡績機内で詰まりが発生し、紡績糸を得ることが出来なかった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
(比較例9)
実施例1で得られた短繊維トウを再度、8mm均等の長さにカッターで切断して短繊維を得た。得られた短繊維は、平均繊維長が8mmで、繊維長のバラツキが25%であった。また繊維末端は鋭断されていた。
【0052】
この短繊維を紡績機に掛けたが、繊維長が短すぎて、紡績糸を得ることが出来なかった。実験条件および評価結果を表2にまとめた。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によるフッ素繊維紡績糸は、撥水性や撥油性、防汚性に優れており、かつ耐熱性や、耐酸性、耐アルカリ性に優れていることから、ミシン糸、摺動材、スクリム、布帛、雨具、防水シート、防油シート、防汚シートなどに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動摩擦係数が0.01〜0.5であるフッ素短繊維を95重量%以上含むフッ素繊維紡績糸であり、前記フッ素短繊維は、平均繊維長が10〜200mm、繊維長のバラツキが20%〜80%の範囲内にあることを特徴とするフッ素繊維紡績糸。
【請求項2】
前記短繊維は、その末端がフィブリル化している請求項1に記載のフッ素繊維紡績糸。
【請求項3】
前記短繊維は、捲縮数が8〜22山/25mmおよび/または捲縮率が8〜22%である捲縮を有する請求項1または請求項2に記載のフッ素繊維紡績糸。
【請求項4】
前記短繊維は、その表面にポリオキシレンアルキルエーテルからなる油剤を0.01〜0.5重量%有する請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素繊維紡績糸。
【請求項5】
動摩擦係数が0.01〜0.5で、かつ伸度が1%〜30%であるフッ素長繊維のトウを得、そのトウを牽切した後、スライバーとなして紡績するフッ素繊維紡績糸の製造方法。
【請求項6】
動摩擦係数が0.01〜0.5であるフッ素長繊維に、捲縮数が8〜22山/25mmおよび/または捲縮率が8〜22%となるよう捲縮を付与して捲縮トウを得、その捲縮トウを牽切した後、スライバーとなして紡績するフッ素繊維紡績糸の製造方法。
【請求項7】
フッ素長繊維には、その表面にポリオキシレンアルキルエーテルからなる油剤が繊維重量あたり0.01〜0.5重量%付与されてなる請求項5または請求項6記載のフッ素繊維紡績糸の製造方法。

【公開番号】特開2009−120984(P2009−120984A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295155(P2007−295155)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】