説明

フマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ(FAH)欠損性ブタおよびその使用

【課題】本発明は、初代ヒト肝細胞を増殖する方法を提供することを課題とする。本発明はまた、肝臓疾患の大型動物モデルを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、インビボにおいてヒト肝細胞を増殖させる方法であって、該方法は、Fah欠損性ブタにヒト肝細胞を移植する工程、および、該ヒト肝細胞を増殖させる工程を包含し、それによって、該ヒト肝細胞を増殖する、方法を提供する。本明細書において、Fah欠損性ブタが記載される。このFah欠損性ブタは、種々の目的のため(他の種(特にヒト)に由来する肝細胞の増殖のため、および肝臓疾患(肝硬変、肝細胞癌、および肝臓感染症が挙げられる)の大型動物モデルとして、が挙げられる)の有用性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Fah欠損性ブタおよびその使用に関する。本開示はまた、Fah欠損性ブタにおいて他の種(ヒトが挙げられる)由来の肝細胞を増殖(expand)する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、生体異物化合物(医薬が挙げられる)の代謝に関する主要な部位である。多くの肝臓酵素は種特異的であるので、培養した初代ヒト肝細胞またはそのミクロソーム画分を使用して候補薬剤の代謝を評価することが必要である(非特許文献1;非特許文献2)。肝細胞のミクロソーム画分はいくつかの代謝機能を解明するために使用され得るが、他の試験は生きた肝細胞に依存する。例えば、いくつかの化合物は、肝臓酵素を誘導し、従って、それらの化合物の代謝は時間とともに変化する。酵素誘導を分析するために、肝細胞は、生きているだけではなく、完全に分化しかつ機能しなければならない。
【0003】
ヒト肝細胞は、製薬産業によって前臨床薬物開発の間に広範に使用される。その使用は、薬物開発の一部としてFDA(米国食品医薬品局)により命じられている。薬物代謝および他の研究のために、肝細胞は、代表的には、臓器ドナー死体から単離され、試験が行われる場所へと輸送される。供給源死体由来の肝細胞の状態(生存能および分化状態)は非常に変化しやすく、多くの細胞調製物の品質は下限ぎりぎりである。高品質のヒト肝細胞の入手可能性は、それらが組織培養において顕著には増殖できないという事実によって、さらに妨害される(非特許文献3;非特許文献4)。プレーティングした後、それらの細胞は、生存するが分裂しない。容易に入手可能な哺乳動物種(例えば、マウス)に由来する肝細胞は、薬物試験には適していない。なぜなら、それらは、異なる代謝酵素の捕捉物(complement)を有し、誘導研究において異なる応答をするからである。不死化ヒト肝細胞(肝細胞癌)または胎児肝芽細胞(hepatoblast)もまた、完全に分化した成体細胞の十分な置換物質ではない。ヒト肝細胞はまた、微生物学分野の研究のためにも必要である。多くのヒトウイルス(例えば、肝炎を引き起こすウイルス)は、他のいかなる細胞型においても複製し得ない。
【0004】
さらに、エキソビボで肝細胞を使用するバイオ人工(bioartificial)肝臓補助デバイスが、急性肝不全の患者を支援するために使用されている。さらに、いくつかの肝細胞移植臨床試験が実施されており、それらは、肝細胞移植が有益であり得るという、原理証明(proof−of−principle)を提供した。現在、ヒト肝細胞は、培養において顕著には増殖され得ない。培養において幹細胞から誘導された肝細胞は、未熟であり、概して完全な機能を欠く。従って、現在使用されている肝細胞はすべて、ヒトドナー(死体であるかまたは手術標本のいずれか)に由来する。このことは、肝細胞の入手可能性を有意に制限する。もし十分なヒト肝細胞が入手可能であるならば、バイオ人工(bioartificial)肝臓補助デバイスは実用的な技術となり、ヒト肝細胞移植には広範な用途が見出され得るであろう。これらの制限事項を考慮すれば、初代ヒト肝細胞を増殖(expand)する方法が、非常に望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Brandonら,Toxicol.Appl.Pharmacol.,2003,189:233−246
【非特許文献2】Gomez−Lechonら,Curr.Drug Metab.,2003,4:292−312
【非特許文献3】Rungeら,Biochem.Biophys.Res.Commun.,2000,274:1−3
【非特許文献4】Cascio S.M.,Artif.Organs,2001,25:529−538
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、初代ヒト肝細胞を増殖する方法を提供することを課題とする。本発明はまた、肝臓疾患の大型動物モデルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本明細書において、Fah欠損性ブタが記載される。このFah欠損性ブタは、種々の目的のため(他の種(特にヒト)に由来する肝細胞の増殖(expansion)のため、および肝臓疾患(肝硬変、肝細胞癌、および肝臓感染症が挙げられる)の大型動物モデルとして、が挙げられる)の有用性を有する。
【0008】
本明細書において、ヒト肝細胞をインビボにおいて増殖(expand)させる方法が提供される。いくつかの実施形態においては、その方法は、Fah欠損性ブタ中にヒト肝細胞を移植する工程、およびそのヒト肝細胞を増殖(expand)させる工程、を包含する。いくつかの場合において、そのFah欠損性ブタは、免疫抑制状態である。あるいはまたはさらに、ヒト細胞が、ヒト細胞(肝細胞を含む)に対する免疫学的寛容を誘導するために、胸腺発生前のFah欠損性ブタ胎仔中に移植され得る。従って、いくつかの実施形態において、そののヒト肝細胞をインビボにおいて増殖(expand)させる方法は、ヒト肝細胞をFah欠損性ブタ胎仔中に移植する工程、およびそのFah欠損性ブタの出生後にそのヒト肝細胞を増殖(expand)させる工程、を包含する。いくつかの例において、そのFah欠損性ブタ胎仔は、そのヒト肝細胞を移植するために外科的に取り出される(externalize)。
【0009】
Fah欠損性ブタにおいて増殖(expand)させられ収集された、単離された肝細胞(例えば、ヒト肝細胞)もまた、提供される。
【0010】
また、遺伝子改変ブタも提供され、そのブタのゲノムは、機能的FAHタンパク質の発現の欠如(loss)をもたらすようになっているFah遺伝子における破壊についてホモ接合性であり、そのブタは、肝機能の低下を示す。いくつかの例において、そのFah欠損性ブタは、移植されたヒト肝細胞をさらに含む。いくつかの例において、そのFah欠損性ブタは、免疫抑制状態である。いくつかの例において、そのFah欠損性ブタは、出生前にヒト細胞に対して寛容化されている。Fah遺伝子における破壊についてヘテロ接合性である遺伝子改変ブタもまた、提供される。
【0011】
また、ヒト肝疾患の処置のために有効な薬剤を選択するための方法も提供され、その方法は、候補薬剤をFah欠損性ブタに投与すること、およびその肝疾患に対するその候補薬剤の効果を評価すること、による。その肝疾患の1つまたはそれより多くの徴候または症状における改善は、その候補薬剤がその肝疾患の処置において有効であることを示す。
【0012】
さらに、ヒト肝臓病原体による感染症の処置のために有効な薬剤を選択するための方法が提供され、その方法は、候補薬剤を、ヒト肝細胞を移植したFah欠損性ブタに投与すること(そのFah欠損性ブタにおける移植されたヒト肝細胞は、その肝臓病原体に感染させられる)、およびその肝臓感染症に対するその候補薬剤の効果を評価すること、による。
【0013】
肝硬変の処置のために有効な薬剤を選択するための方法もまた提供され、その方法は、候補薬剤をFah欠損性ブタに投与すること、およびそのFah欠損性ブタにおける肝硬変の少なくとも1種の診断マーカーに対するその候補薬剤の効果を評価すること、による。この方法において、そのFah欠損性ブタには、そのブタにおいて肝硬変の発生をもたらす用量でNTBC(または類似する化合物)が投与されている。さらに、肝細胞癌(HCC)の処置のために有効な薬剤を選択するための方法が提供され、その方法は、候補薬剤をFah欠損性ブタに投与すること、およびそのFah欠損性ブタにおける肝細胞癌(HCC)に対するその候補薬剤の効果を評価すること、による。この方法において、そのFah欠損性ブタには、そのブタにおいて肝細胞癌(HCC)の発生をもたらす用量でNTBC(または類似する化合物)が投与されている。
【0014】
ヒト肝細胞に対する外因性因子の効果をインビボで評価する方法もまた提供される。いくつかの実施形態において、その方法は、その外因性因子をFah欠損性ブタに投与する工程、およびそのFah欠損性ブタにおける肝機能の少なくとも1種のマーカーを測定する工程、を包含する。
【0015】
さらに、肝臓用の遺伝子治療プロトコールおよびベクター(遺伝子発現ベクターおよび遺伝子ノックダウンベクターを包含する);薬物代謝、薬物動態、効力、毒物学、および安全性;ならびにヒト遺伝性肝疾患を評価する方法が提供される。そのような方法は、ヒト肝細胞を移植したFah欠損性ブタ、またはFah欠損性ブタにおいて増殖され収集されたヒト肝細胞を、利用し得る。
【0016】
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1) インビボにおいてヒト肝細胞を増殖させる方法であって、該方法は、Fah欠損性ブタにヒト肝細胞を移植する工程、および、該ヒト肝細胞を増殖させる工程を包含し、それによって、該ヒト肝細胞を増殖する、方法。
(項目2) 上記ヒト肝細胞が、少なくとも約2週間、少なくとも約4週間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間または少なくとも約8ヶ月間増殖させられる、項目1に記載の方法。
(項目3) 上記Fah欠損性ブタが、ヒト肝細胞移植の前に、肝機能障害を予防するに十分な用量の2−(2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチル−ベンゾイル)−1,3シクロヘキサンジオン(NTBC)を投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4) 上記Fah欠損性ブタが、肝細胞移植後、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、または少なくとも6日間、NTBCをさらに投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5) NTBCが、上記Fah欠損性ブタに対して、1日あたり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgの用量で投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6) NTBCが、上記Fah欠損性ブタに対して、1日あたり約1mg/kgの用量で投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目7) 上記Fah欠損性ブタが免疫抑制状態である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8) 上記免疫抑制が、1または複数の免疫抑制剤の投与の結果である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目9) 上記1または複数の免疫抑制剤が、FK506、シクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノレート、プレドニゾン、ラパマイシンおよびアザチオプリン、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10) 上記1または複数の免疫抑制剤が、ヒト肝細胞移植の少なくとも約2日前に、上記Fah欠損性ブタに対して投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11) 上記ヒト肝細胞が、上記Fah欠損性ブタの肝動脈、脾臓、門脈への注入によって移植される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12) 上記Fah欠損性ブタが、Fah遺伝子におけるホモ接合性の破壊を含み、該破壊が機能的なFAHタンパク質の発現の欠如をもたらす、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目13) 上記破壊が、上記Fah遺伝子における挿入、欠失、または、1もしくはは複数個の点変異である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14) 上記破壊が挿入である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15) 上記挿入が終止コドンを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16) 上記挿入が選択マーカーを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目17) 上記Fah欠損性ブタに移植される上記ヒト肝細胞が、単離されたヒト肝細胞である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18) 上記増殖させたヒト肝細胞を、上記Fah欠損性ブタから収集する工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目19) 上記収集したヒト肝細胞を継代移植によって増殖させる工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目20) 上記項目のいずれかに記載の方法によって収集された、単離されたヒト肝細胞。
(項目21) インビボにおいてヒト肝細胞を増殖させる方法であって、該方法は、Fah欠損性ブタの胎仔にヒト肝細胞を移植する工程、および、該Fah欠損性ブタの出生後に該ヒト肝細胞を増殖させる工程を包含し、それによって、該ヒト肝細胞を増殖する、方法。
(項目22) 上記ヒト肝細胞が、少なくとも約2週間、少なくとも約4週間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間または少なくとも約8ヶ月間増殖させられる、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目23) 上記Fah欠損性ブタ胎仔が、上記ヒト肝細胞を移植するために外科的に取り出される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目24) 上記ヒト肝細胞が、上記ブタの妊娠から約30日目〜約40日目に移植される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目25) 上記ヒト肝細胞が上記ブタの妊娠から約35日目に移植される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目26) 上記ヒト肝細胞が、上記Fah欠損性ブタ胎仔の臍静脈への注入によって移植される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目27) 約100,000個〜約500,000個のヒト肝細胞が注入される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目28) 約300,000個のヒト肝細胞が注入される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目29) 上記Fah欠損性ブタ胎仔を受胎している雌ブタが、NTBCを投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目30) 上記Fah欠損性ブタが、生後約1日間〜約6日間、NTBCを投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目31) 上記Fah欠損性ブタが、生後約2週間〜約6ヶ月間、NTBCを投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目32) NTBCが、1日あたり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgの用量で投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目33) NTBCが、1日あたり約1mg/kgの用量で投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目34) 上記Fah欠損性ブタ胎仔に移植される上記ヒト肝細胞が、単離されたヒト肝細胞である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目35) 上記ブタの出生後に、上記Fah欠損性ブタに追加のヒト肝細胞を移植する工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目36) 上記増殖させたヒト肝細胞を、上記Fah欠損性ブタから収集する工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目37) 上記収集したヒト肝細胞を継代移植によって増殖させる工程をさらに包含する、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目38) 上記項目のいずれかに記載の方法によって収集された、単離されたヒト肝細胞。
(項目39) 遺伝子改変Fah欠損性ブタであって、該ブタのゲノムがFah遺伝子における破壊についてホモ接合性であり、その結果、該破壊が、機能的なFAHタンパク質の発現の欠如をもたらし、ここで、該ブタは肝機能の低下を示す、遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目40) 上記破壊が、上記Fah遺伝子における挿入、欠失、または、1もしくはは複数個の点変異である、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目41) 上記破壊が挿入である、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目42) 上記挿入が終止コドンを含む、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目43) 上記挿入が選択マーカーを含む、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目44) 上記ブタが移植されたヒト肝細胞を含む、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目45) 上記ブタが免疫抑制状態である、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目46) 上記免疫抑制が、1または複数の免疫抑制剤の投与の結果である、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目47) 上記1または複数の免疫抑制剤が、FK506、シクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノレート、プレドニゾン、ラパマイシンおよびアザチオプリン、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目48) ヒト肝疾患の処置に有効な薬剤を選択するための方法であって、該方法は、以下:
(i)上記項目のいずれかに記載のFah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程;および
(ii)該肝疾患に対する該候補薬剤の効果を評価する工程であって、ここで、該肝疾患の1以上の徴候もしくは症状における改善は、該候補薬剤が該肝疾患の処置に有効であることを示す、工程
を包含する、方法。
(項目49) 上記ヒト肝疾患がヒト肝臓病原体による感染である上記項目のいずれかに記載の方法であって、該方法は、以下:
(i)ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、ここで、該Fah欠損性ブタの該移植されたヒト肝細胞は、該肝臓病原体に感染している、工程;および
(ii)該肝臓感染症に対する該候補薬剤の効果を評価する工程であって、ここで、該候補薬剤の投与前の該Fah欠損性ブタにおける感染負荷量と比較した、該肝臓病原体の感染負荷量の減少は、該候補薬剤が該肝臓病原体による感染の処置に有効であることを示す、工程
を包含する、方法。
(項目50) 上記感染負荷量は、上記ブタから得たサンプル中の上記病原体の力価を測定することによって決定される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目51) 上記感染負荷量は、上記ブタから得たサンプル中の病原体特異的な抗原を測定することによって決定される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目52) 上記感染負荷量は、上記ブタから得たサンプル中の病原特異的な核酸分子を測定することによって決定される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目53) 上記肝臓病原体が肝指向性ウイルスである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目54) 上記肝指向性ウイルスがHBVまたはHCVである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目55) 上記ヒト肝疾患が肝硬変である上記項目のいずれかに記載の方法であって、該方法は、以下:
(i)Fah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、ここで、該Fah欠損性ブタは、該ブタにおいて肝硬変の発症をもたらす用量でNTBCを投与されている、工程;ならびに
(ii)該Fah欠損性ブタにおける少なくとも1種の肝硬変の診断マーカーに対する該候補薬剤の効果を評価する工程であって、ここで、該少なくとも1種の肝硬変の診断マーカーは、AST、ALT、ビリルビン、アルカリホスファターゼおよびアルブミンから選択され、そして、該候補薬剤の投与前の該Fah欠損性ブタと比較した、該Fah欠損性ブタにおけるAST、ALT、ビリルビンもしくはアルカリホスファターゼの減少、または、アルブミンの増加は、該候補薬剤が、肝硬変の処置に有効であることを示す、工程
を包含する、方法。
(項目56) 上記Fah欠損性ブタにおいて肝硬変が発症した後に、該Fah欠損性ブタに、肝硬変のさらなる進行を予防するために十分な用量のNTBCが投与される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目57) 上記ヒト肝疾患が肝細胞癌(HCC)である上記項目のいずれかに記載の方法であって、該方法は、以下:
(i)Fah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、ここで、該Fah欠損性ブタは、該ブタにおいてHCCの発症をもたらす用量でNTBCが投与されている、工程;および
(ii)該Fah欠損性ブタにおけるHCCに対する該候補薬剤の効果を評価する工程であって、ここで、該候補薬剤の投与前の該Fah欠損性ブタと比較した、該Fah欠損性ブタにおける腫瘍増殖または腫瘍容積の減少は、該候補薬剤がHCCの処置に有効であることを示す、工程
を包含する、方法。
(項目58) インビボにおいてヒト肝細胞に対する外因性因子の効果を評価する方法であって、該方法は、以下:
(i)項目44に記載のFah欠損性ブタに該外因性因子を投与する工程;ならびに
(ii)該Fah欠損性ブタにおいて少なくとも1種の肝機能のマーカーを測定する工程であって、ここで、該少なくとも1種の肝機能のマーカーは、AST、ALT、ビリルビン、アルカリホスファターゼおよびアルブミンから選択され、そして、該外因性因子の投与前の該Fah欠損性ブタと比較した、該Fah欠損性ブタにおけるAST、ALT、ビリルビンもしくはアルカリホスファターゼにおける増加、または、アルブミンにおける減少は、該外因性因子が毒性であることを示す、工程
を包含する、方法。
(項目59) 上記外因性因子が、既知の毒素または疑わしい毒素である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目60) 遺伝子改変Fah欠損性ブタであって、該ブタのゲノムがFah遺伝子における破壊についてヘテロ接合性である、ブタ。
(項目61) 上記破壊が、Fah遺伝子のエキソン5内にある、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目62) 上記破壊が、Fah遺伝子における挿入、欠失、または、1もしくは複数個の点変異である、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目63) 上記破壊が挿入である、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目64) 上記挿入が終止コドンを含む、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目65) 上記挿入が選択マーカーを含む、上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
(項目66) 遺伝子改変Fah欠損性ブタを作製する方法であって、該ブタのゲノムは、Fah遺伝子における破壊についてホモ接合性であり、該方法は、以下:
(i)上記項目のいずれかに記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタを、別の遺伝子改変Fah欠損性ブタと交配させる工程;および
(ii)該Fah遺伝子における破壊についてホモ接合性の子孫を選択する工程
を包含する、方法。
【0017】
(要旨)
相同組換えおよび体細胞核移植によるFah+/−ヘテロ接合性ブタの作製、ならびに、Fah−/−ホモ接合性ブタを産生するための方法が本明細書中に記載される。本開示のFah欠損性ブタは、例えば、ヒト肝細胞の増殖のため、ならびに、遺伝性1型チロシン血症、肝硬変および肝細胞癌の大型動物モデルとして、など、多様な研究および治療の目的に使用され得る。
【0018】
本発明の上記の目的、特徴、および利点、ならびに他の目的、特徴、および利点は、添付の図面を参照して進行する以下の詳細な説明から、より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、Fah欠損性ブタを作製するために使用される手順の模式的図解である。
【図2】図2は、ブタFah遺伝子破壊手順を示す一連の遺伝子構築物である:(A)エキソン4、エキソン5、およびエキソン6を含む、ゲノムFah遺伝子座。(B)エキソン5に対して5’側にあるゲノム相同性アームおよびエキソン5に対して3’側にあるゲノム相同性アームを作製するためのPCR手順。その5’増幅用のエキソン5プライマーは、インフレームの終止コドン(TGA)を含むテール、ならびにPGK−neo(ネオマイシン−ホスホトランスフェラーゼ耐性遺伝子)カセット中のクローニング用制限酵素部位を含む。同様に、3’フラグメント用のエキソン5プライマーもまた制限酵素部位を含む。(C)標的化カセット。(D)AAV−DJベクター中にクローニングされた標的化カセット。意図される組換え事象が示される。ITRループが示される。(E)組換え後の標的化された遺伝子座の構造。上記終止コドンおよびneoカセットが、エキソン5中に挿入されている。正しい組換えを検出するために使用されるPCRプライマーが示される。重要なことには、一方のプライマーは、標的化ベクター内に含まれる相同性アームの外側に配置され、もう一方は、PGK−neoカセット内に配置される。
【図3】図3Aは、Fahノックアウト標的化構築物の模式図である。図3Bは、ゲノム型決定構築物の模式図である。
【図4】図4Aは、胎仔線維芽細胞株の標的化を確認するためのPCRの結果を示すゲルの画像である。標的化された2つの線維芽細胞株が(1)および(2)として示される。野生型ゲノムDNA(gDNA)が、成体ブタの肝臓組織から単離された。α1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼ(Gal)遺伝子を増幅するために設計されたPCRプライマーが、細胞溶解およびPCRが機能的であることを示すための内部コントロールとして役立った。2つの別々のプライマーセットが、上記構築物の5’末端または3’末端のいずれかを増幅するために使用された。一方のプライマーは、PGK−neoカセット中に配置され、もう一方は、1.5kb標的化相同性アームの外側であるがFah遺伝子の内側に配置されて、適切に標的化された線維芽細胞のみがPCR生成物を生じるようにされた。図4Bは、胎仔線維芽細胞株の標的化を確認するためのサザンブロットの結果を示す画像である。標的化された2つの例示的株が、野生型gDNAとともに示される。下側のバンドは、ネイティブの野生型Fah遺伝子座を示し、上側のバンドは、ゲノムFah遺伝子のエキソン5中への1.7kb挿入の結果である。サザンプローブは、Fah遺伝子のイントロン4において見出される特有の配列を標的とするために作製されたPCRテンプレートから作製された。
【図5】図5は、体細胞核移植(SCNT)技術の模式的な図解である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(詳細な説明)
(I.略語)
AAV アデノ随伴ウイルス
ADSC 脂肪組織由来幹細胞
ALT アラニンアミノトランスフェラーゼ
AST アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
CMV サイトメガロウイルス
DNA デオキシリボ核酸
ES 胚性幹
FACS 蛍光活性化細胞分取
FAH フマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ
FSH 卵胞刺激ホルモン
gDNA ゲノムDNA
HBV B型肝炎ウイルス
HCG ヒト絨毛性ゴナドトロピン
HCV C型肝炎ウイルス
hMSC ヒト間葉系幹細胞
HT1 遺伝性1型チロシン血症
iPS 人工多能性幹
IPSC 人工多能性幹細胞
ITR 逆方向末端反復
IVF 体外授精
MOI 感染多重度
mTOR 哺乳動物のラパマイシン標的
NTBC 2−(2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチル−ベンゾイル)−1,3シクロヘキサンジオン
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
SA スクシニルアセトン
SCNT 体細胞核移植。
【0021】
(II.用語および方法)
別途記載のない限り、技術用語は、従来の用法に準拠して使用される。分子生物学における一般用語の定義は、Benjamin Lewin,Genes V,Oxford University Pressより出版、1994(ISBN 0−19−854287−9);Kendrewら編,The Encyclopedia of Molecular Biology,Blackwell Science Ltd.より出版,1994(ISBN 0−632−02182−9);およびRobert A.Meyers編,Molecular Biology and Biotechnology:a Comprehensive Desk Reference,VCH Publishers,Inc.より出版、1995(ISBN 1−56081−569−8)において見出され得る。
【0022】
本開示の種々の実施形態の概説を容易にするために、以下の具体的な用語の説明が提供される。
【0023】
投与:あらゆる有効な経路によって、治療剤のような薬剤を被験体に提供または与えること。例示的な投与経路としては、注射、注入(例えば、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内および静脈内)、経口、腺管内(intraductal)、舌下、直腸、経皮、鼻腔内、経膣および吸入の経路が挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
肝疾患の発症を阻害または予防する薬剤:Fah欠損性動物に投与される場合、動物における肝疾患の発症を予防、遅延、または阻害する化合物または組成物。肝疾患または肝機能障害は、肝組織像の変化(例えば、壊死、炎症、線維化、異形成または肝臓癌)、肝臓特異的な酵素および他のタンパク質(例えば、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ビリルビン、アルカリホスファターゼ、およびアルブミン)のレベルの変化、血漿もしくは尿中のスクシニルアセトン(SA)、または汎発性肝不全が挙げられるが、これらに限定されない、多数の兆候または症状のうちのいずれか1つにより特徴付けられる。一実施形態において、肝疾患を阻害する薬剤は、2−(2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチル−ベンゾイル)−1,3シクロヘキサンジオン(NTBC)である。
【0025】
抗体:免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントにより実質的にコードされた1もしくは複数個のポリペプチドを含むタンパク質(またはタンパク質複合体)。認識される免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロンおよびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖はカッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類され、同様に、各々IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEの免疫グロブリンを規定する。
【0026】
基本的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は、通常、テトラマーである。各々のテトラマーは、2つの同一のペアのポリペプチド鎖から成り、各々のペアは、1つの「軽い」鎖(約25kDa)と1つの「重い」鎖(約50〜70kDa)を有する。各々の鎖のN末端は、主として抗原認識を担う約100〜110個またはそれより多いアミノ酸の可変領域を規定する。「可変軽鎖」(V)および「可変重鎖」(V)という用語はそれぞれ、これらの軽鎖および重鎖を指す。
【0027】
本明細書において使用される場合、「抗体」という用語は、インタクトな免疫グロブリン、ならびに多数のよく特徴付けられたフラグメントを含む。例えば、標的タンパク質(またはタンパク質または融合タンパク質内のエピトープ)に結合するFab、Fv、および一本鎖Fv(scFv)は、そのタンパク質(またはエピトープ)のための特異的結合因子でもある。これらの抗体フラグメントは、以下のように定義される:(1)Fab、インタクトな軽鎖および1つの重鎖の一部分を産生するために、酵素パパインによる全抗体の消化により生成された抗体分子の一価抗原結合フラグメントを含むフラグメント;(2)Fab’、インタクトな軽鎖および重鎖の一部分を産生するために、ペプシンで全抗体を処理し、次いで、還元することにより得られる、抗体分子のフラグメント;(3)(Fab’)、後続の還元を伴わずに酵素ペプシンで全抗体を処理することにより得られる、抗体のフラグメント;(4)F(ab’)、2個のジスルフィド結合により2つのFab’フラグメントが一緒にされた二量体;(5)Fv、2本の鎖として発現される、軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む遺伝子組換えフラグメント;ならびに(6)1本鎖抗体、遺伝的に融合された1本鎖分子として適切なポリペプチドリンカーにより連結された、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含む遺伝子組換え分子。これらのフラグメントを作製する方法は、慣用的である(例えば、Harlow and Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,CSHL,New York,1999を参照)。
【0028】
抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得る。単なる一例として、モノクローナル抗体は、Kohler and Milsteinの古典的な方法(Nature 256:495−97,1975)またはその派生的な方法に従って、マウスハイブリドーマから調製することができる。モノクローナル抗体生成のための詳細な手順は、Harlow and Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,CSHL,New York,1999に記載されている。
【0029】
抗原:動物に注射または吸収される組成物を含む、動物において抗体の産生またはT細胞応答を刺激し得る化合物、組成物または物質。抗原は、特異的な体液性免疫または細胞性免疫の生成物と反応する。「病原体特異的抗原」は、被験体における免疫応答を誘発する、ウイルス、細菌または寄生虫のような病原体によって発現されるタンパク質のような抗原である。
【0030】
アザチオプリン:細胞、特に白血球の増殖を阻害するプリン合成阻害剤である免疫抑制剤。この免疫抑制剤はしばしば、自己免疫疾患または臓器移植拒絶の処置に使用される。これは、体内で活性な代謝産物である6−メルカプトプリン(6−MP)および6−チオイノシン酸に変換されるプロドラッグである。アザチオプリンは、多数のジェネリックメーカーによって、商標名(SalixによるAzasanTM;GlaxoSmithKlineによるImuranTM;AzamunTM;およびImurelTM)として生産されている。
【0031】
生体サンプル(biological sample):末梢血、血清、血漿、脳脊髄液、骨髄、尿、唾液、組織生検、外科標本および検死材料といった、被験体の細胞、組織または体液から得られるサンプル。本明細書中では、「サンプル」とも呼ばれる。
【0032】
肝硬変:正常な微視的小葉構造の欠如と、最終的には器官を締め付け、不規則な小結節へと分割する結合組織の線維性の帯(fibrous band)による壊死性実質組織の再生性の置換によって特徴付けられる、一群の慢性肝疾患をいう。肝硬変は、非常に長い潜伏期間を有し、通常は、突発性の腹部痛と、吐血、就下性水腫または黄疸をともなう腫脹がこれに続く。進行した段階では、腹水、顕著な黄疸、門脈圧亢進、拡張蛇行静脈、および最終的には肝性昏睡となり得る中枢神経系障害が存在し得る。
【0033】
収集:本明細書中で使用される場合、増殖されたヒト肝細胞を「収集する(collecting)」とは、単離されたヒト肝細胞を注入もしくは移植されている動物(またはレシピエント動物とも呼ばれる)から増殖された肝細胞を取り出すプロセスをさす。収集は、必要に応じて、肝細胞を他の細胞型から分離することを含む。一実施形態において、その増殖されたヒト肝細胞は、Fah欠損性動物の肝臓から収集される。一部の例において、その増殖されたヒト肝細胞は、Fah欠損性ブタの肝臓から収集される。
【0034】
インターロイキン受容体の共通γ鎖(common−g chain)(Il2rg):インターロイキン受容体の共通ガンマ鎖をコードする遺伝子。Il2rgは、IL−2、IL−4、IL−7、およびIL−15を含む、多数のインターロイキンに対する受容体の構成要素である(Di Santo et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:377−381,1995)。Il2rgを欠損した動物は、B細胞およびT細胞の減少を示し、ナチュラルキラー細胞が欠如する。インターロイキン−2受容体ガンマ鎖としても知られる。
【0035】
凍結保存:本明細書中で使用される場合、「凍結保存」とは、77Kすなわち−196℃(液体窒素の沸点)のような低い氷点下の温度まで冷却することにより保存または維持されている細胞(例えば、肝細胞)または組織を指す。これらの低温度では、細胞死をもたらす生化学的反応を含む、いかなる生物学的活性も、効果的に停止される。
【0036】
シクロスポリンA:土壌真菌Beauveria niveaによって産生される11アミノ酸の非リボソーム環状ペプチドである免疫抑制化合物。シクロスポリンAは、臓器移植および組織移植における移植片拒絶の予防に使用される。シクロスポリンAはまた、シクロスポリンおよびシクロスポリン(cyclosporine)およびシクロスポリン(ciclosporin)としても知られる。
【0037】
肝機能の低下:肝臓の健康または機能を測定する多くのパラメーターのうちのいずれか1つの異常変化。肝機能の低下はまた、本明細書では、「肝機能障害」とも称される。肝機能は、肝組織像の検査および肝臓酵素または他のタンパク質の測定などであるがこれらに限定されない、当該分野で周知の多数の手段のうちのいずれか1つにより評価することができる。例えば、肝機能障害は、肝臓の壊死、炎症、酸化的損傷、または異形成によって示され得る。一部の例において、肝機能障害は、肝細胞癌のような肝臓癌によって示される。肝機能障害を評価するために試験され得る肝臓酵素およびタンパク質の例としては、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、ビリルビン、アルカリホスファターゼ、およびアルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。肝機能障害はまた、汎発性肝不全をもたらし得る。肝機能を試験するための手順は、Grompeら(Genes Dev.7:2298−2307,1993)およびManningら(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96:11928−11933,1999)により教示されるもの等、当該分野で周知である。
【0038】
欠損:本明細書中で使用される場合、「Fah欠損性」または「Fahの欠損」とは、Fah遺伝子の破壊(例えば、挿入、欠失、または、1もしくは複数個の点変異)を含むブタなどの動物を指し、Fah遺伝子の破壊は、Fah mRNAの発現および/または機能的FAHタンパク質の実質的減少、またはその欠損をもたらす。本明細書中で使用される場合、機能的FAHタンパク質の「発現の欠如」という用語は、発現の完全な欠如だけを指すのではなく、機能的FAHタンパク質の発現の実質的減少(例えば、約80%、約90%、約95%または約99%の減少)も含む。一部の実施形態において、Fah欠損性動物は、Fah遺伝子におけるホモ接合性の挿入(例えば、インフレームの終止コドンを含む挿入)を含む。一部の実施形態において、挿入は、Fahのエキソン5内にある。一部の実施形態において、Fah欠損性動物は、Fah遺伝子におけるホモ接合性の欠失を含む。一例として、ホモ接合性欠失は、Fahのエキソン5内にある。別の実施形態において、Fah欠損動物は、Fah遺伝子の1もしくは数個の点変異を含む。適切なFah点変異の例は、当技術分野で公知である(例えば、Aponte et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.98(2):641−645,2001を参照のこと)。
【0039】
欠乏する:減じるまたは除去すること。例えば、「マクロファージ欠乏」とは、動物におけるマクロファージを排除する、除去する、減じる、または殺滅するプロセスを指す。マクロファージが欠乏している動物は、必ずしもマクロファージが完全に欠如しているとは限らないが、少なくともマクロファージの数または活性の減少を示す。一実施形態において、マクロファージ欠乏は、機能的マクロファージの少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、または100%の減少をもたらす。
【0040】
破壊:本明細書中で使用される場合、遺伝子の「破壊」とは、あらゆる挿入、欠失もしくは点変異、または、これらの任意の組み合わせをいう。一部の実施形態において、破壊は、mRNAおよび/または機能的タンパク質の発現の部分的もしくは完全な欠如をもたらす。
【0041】
胚性幹(ES)細胞:発達途上の胚盤胞の内部細胞塊から単離された多能性細胞。ES細胞は、多能性細胞であり、それらが、体内に存在する全ての細胞(骨、筋肉、脳細胞など)を作製することができることを意味する。マウスES細胞を産生するための方法は、米国特許第5,670,372号に見出され得る。ヒトES細胞を産生するための方法は、米国特許第6,090,622号、PCT公開第WO 00/70021号、およびPCT公開第WO 00/27995号に見出され得る。また、本明細書中では、OCT3/4、SOX2、NANOG、LIN28、Klf4および/またはc−Mycといった特定の遺伝子の発現を誘導することによって、非多能性細胞から人工的に誘導された多能性幹細胞の一つの型である人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)(iPS細胞)も企図される(Yu et al.,Science 318(5858):1917−1920,2007;Takahashi et al.,Cell 131(5):861−872,2007)。今までのところ、マウス(Okita et al.,Nature 448(7151):313−317,2007)、ヒト(Yu et al.,Science 318(5858):1917−1920,2007;Takahashi et al.,Cell 131(5):861−872,2007)、ラット(Li et al.,Cell Stem Cell 4(1):16−19,2009)、サル(Liu et al.,Cell Stem Cell 3(6):587−590,2008)およびブタ(Esteban et al.,J.Biol.Chem.Epub April 21,2009)由来のiPS細胞が報告されている。
【0042】
生着(engraft):動物において細胞または組織を移植すること。本明細書中で使用される場合、レシピエント動物におけるヒト肝細胞の生着は、ヒト肝細胞が、注入後にレシピエント動物に移植されこととなるプロセスをいう。生着したヒト肝細胞は、レシピエント動物において増殖することができる。
【0043】
増殖する:量を増加させること。本明細書中で使用される場合、ヒト肝細胞を「増殖させる(expanding)」とは、ヒト肝細胞の数が増加するように、細胞分裂を生じさせるプロセスを指す。
【0044】
胎仔:動物の、後胚期の胎内にある子孫。
【0045】
FK506:タクロリムスまたはフジマイシン(fujimycin)としても知られるFK506は、免疫抑制薬である。FK506は、細菌Streptomyces tsukubaensisを含んだ日本の土壌サンプルの発酵培養液中で最初に発見された23員のマクロライドラクトンである。この化合物は、しばしば、患者の免疫系の活性を低下させ、そして、臓器拒絶のリスクを低下させるために、同種異系の臓器移植の後に使用される。FK506は、T細胞およびインターロイキン−2の活性を低下させる。また、FK506は、重篤なアトピー性皮膚炎(湿疹)、骨髄移植後の重篤な難治性ブドウ膜炎、および皮膚状態の白斑(skin condition vitiligo)の処置における局所用調製物に使用される。
【0046】
フルダラビン:DNA合成を阻害するプリンアナログ。フルダラビンは、しばしば、多様な血液学的悪性疾患の処置のための化学療法薬として使用される。
【0047】
フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH):チロシン異化の最終段階を触媒する代謝酵素。Fah遺伝子のホモ接合性欠失を有するマウスは、肝mRNA発現の変化および重篤な肝機能障害を示す(Grompe et al.Genes Dev.7:2298−2307,1993)。Fah遺伝子における点変異はまた、肝不全および出生後の致死を生じることも示されている(Aponte et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.98(2):641−645,2001)。Fah欠損性のヒトは、肝疾患である遺伝性1型チロシン血症(HT1)を発症し、そして、肝不全を発症する。Fahの欠損は、強力な酸化剤であるフマリルアセト酢酸の蓄積をもたらし、そして、これは最終的に、Fah欠損性の肝細胞の細胞死をもたらす。このように、Fah欠損性動物は、ヒトを含む他の種由来の肝細胞で再編成(repopulated with)され得る。
【0048】
妊娠:受胎(卵母細胞の授精)から出生までの発生期。ブタの妊娠期間は、(平均)112〜115日である。
【0049】
肝病原体:肝臓の細胞を感染する任意の病原体(例えば、細菌、ウイルスまたは寄生虫病原体)をいう。一部の実施形態において、肝病原体は、HBVまたはHCVといった「肝指向性ウイルス(hepatotropic virus)」(肝臓を標的とするウイルス)である。
【0050】
肝細胞癌(HCC):HCCは、肝炎ウイルス、肝毒素または肝硬変から生じる、代表的には炎症性の肝臓を持つ患者において生じる肝臓の原発性悪性疾患である。
【0051】
肝細胞:肝臓の細胞質塊のうちの70〜80%を構成する細胞型。肝細胞は、タンパク質の合成、タンパク質の貯蔵、および炭水化物の形質転換、コレステロール、胆汁塩およびリン脂質の合成、ならびに外因性および内因性物質の解毒、修飾および排泄に関与する。肝細胞はまた、胆汁の形成および分泌も起こす。肝細胞は、血清アルブミン、フィブリノゲン、および凝固因子のプロトロンビン群を製造し、そして、リポタンパク質、セルロプラスミン、トランスフェリン、補体および糖タンパク質の合成のための主要な部位となる。さらに、肝細胞は、薬物および殺虫剤のような外因性化合物、ならびにステロイドのような内因性化合物を代謝、解毒、および不活性化する能力を有する。
【0052】
遺伝性1型チロシン血症(HT1):チロシン血症は、身体がアミノ酸であるチロシンを有効に分解することができない、通常は先天性代謝異常である。HT1は、この障害の最も重篤な形態であり、ヒトの15番染色体に見られる遺伝子Fahによってコードされる酵素フマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ(FAH)の不足によって引き起こされる。FAHは、チロシンを分解するために必要とされる一連の5種の酵素のうち最後のものである。HT1の症状は通常、生命の最初の2〜3ヶ月に生じ、体重を増加することができないこと、および、予測される速度で成長できないこと(成長障害)、下痢、嘔吐、皮膚および眼の白い部分の黄ばみ(黄疸)、キャベツ様の臭気、ならびに、出血傾向の増加(特に、鼻血)が挙げられる。HT1は、肝不全および腎不全、神経系に影響する問題、ならびに、肝臓癌のリスクの増加をもたらし得る。
【0053】
ヘテロ接合性:対応する染色体遺伝子座において異なる対立遺伝子を有すること。例えば、特定の遺伝子変異についてヘテロ接合性の動物は、遺伝子の一方の対立遺伝子に変異を有するが、もう一方の対立遺伝子には変異を有さない。
【0054】
ホモ接合性:1つもしくは複数の遺伝子座において同一の対立遺伝子を有すること。本明細書中で使用される場合、「破壊についてホモ接合性」とは、1つの遺伝子の両方の対立遺伝子の破壊(例えば、欠失、点変異の挿入)を有する生物を指す。
【0055】
免疫不全:免疫系の少なくとも1つの不可欠な機能を欠如すること。本明細書中で使用される場合、「免疫不全」動物とは、免疫系の特定の構成要素を欠如するか、または免疫系の特定の構成要素(例えば、B細胞、T細胞またはNK細胞など)の機能を欠如する動物である。一部の場合において、免疫不全動物は、マクロファージを欠如する。一部の実施形態において、免疫不全動物(例えば、Fah欠損性ブタ)は、機能的な免疫細胞(例えば、B細胞、T細胞またはNK細胞)の発生を妨害もしくは阻害する1もしくは複数個の遺伝的変化を含む。一部の例において、遺伝的変化は、Rag1、Rag2またはIl2rg遺伝子内にある。すなわち、一部の場合において、免疫不全動物は、Rag1−/−、Rag2−/−またはIl2rg−/−である。
【0056】
免疫抑制薬:体液性もしくは細胞性の免疫系または補体系の構成要素のような免疫系の1または複数の局面の機能または活性を低下させるあらゆる化合物。免疫抑制薬はまた、「免疫抑制剤」とも呼ばれる。本開示の特定の実施形態において、免疫抑制薬は、FK506、シクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノレート(mycophenolate)、プレドニゾン、ラパマイシンもしくはアザチオプリン、またはこれらの組み合わせである。
【0057】
既知の免疫抑制薬としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:(1)プリン合成阻害剤(例えば、アザチオプリンおよびミコフェノール酸)、ピリミジン合成阻害剤(例えば、レフルノミド(leflunomide)およびテリフルノミド(teriflunomide))および葉酸拮抗物質(antifolate)(例えば、メトトレキサート)のような代謝拮抗薬;(2)FK506、シクロスポリンAおよびピメクロリムス(pimecrolimus)のようなマクロライド系;(3)サリドマイドおよびレナリドマイド(lenalidomide)のようなTNF−α阻害剤;(4)アナキンラ(anakinra)のようなIL−1受容体アンタゴニスト;(5)ラパマイシン(シロリムス(sirolimus))、デフォロリムス(deforolimus)、エベロリムス(everolimus)、テムシロリムス(temsirolimus)、ゾタロリムス(zotarolimus)およびビオリムスA9(biolimus A9)のような哺乳動物のラパマイシン標的(mTOR)阻害剤;(6)プレドニゾンのようなコルチコステロイド;ならびに、(7)多数の細胞もしくは血清標的うちの1つに対する抗体。
【0058】
例示的な細胞標的およびそのそれぞれの阻害化合物としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:補体成分5(例えば、エクリズマブ(eculizumab));腫瘍壊死因子(TNF)(例えば、インフリキシマブ(infliximab)、アダリムマブ(adalimumab)、セルトリズマブペゴール(certolizumab pegol)、アフェリモマブ(afelimomab)およびゴリムマブ(golimumab));IL−5(例えば、メポリズマブ(mepolizumab));IgE(例えば、オマリズマブ(omalizumab));BAYX(例えば、ネレリモマブ(nerelimomab));インターフェロン(例えば、ファラリモマブ(faralimomab));IL−6(例えば、エルシリモマブ(elsilimomab));IL−12およびIL−13(例えば、レブリキズマブ(lebrikizumab)およびウステキヌマブ(ustekinumab));CD3(例えば、マクロモナブ−CD3(muromonab−CD3)、オテリキシズマブ(otelixizumab)、テプリズマブ(teplizumab)、ビシリズマブ(visilizumab));CD4(例えば、クレノリキシマブ(clenoliximab)、ケリキシマブ(keliximab)およびザノリムマブ(zanolimumab));CD11a(例えば、エファリズマブ(efalizumab));CD18(例えば、エルリズマブ(erlizumab));CD20(例えば、アフツズマブ(afutuzumab)、オクレリズマブ(ocrelizumab)、パスコリズマブ(pascolizumab));CD23(例えば、ルミリキシマブ(lumiliximab));CD40(例えば、テネリキシマブ(teneliximab)、トラリズマブ(toralizumab));CD62L/L−セレクチン(例えば、アセリズマブ(aselizumab));CD80(例えば、ガリキシマブ(galiximab));CD147/バシジン(basigin)(例えば、ガビリモマブ(gavilimomab));CD154(例えば、ルプリズマブ(ruplizumab));BLyS(例えば、ベリムマブ(Belimumab));CTLA−4(例えば、イピリムマブ(ipilimumab)、トレメリムマブ(tremelimumab));CAT(例えば、ベルチリムマブ(bertilimumab)、レルデリムマブ(lerdelimumab)、メテリムマブ(metelimumab));インテグリン(例えば、ナタリズマブ(natalizumab));IL−6受容体(例えば、トシリズマブ(Tocilizumab));LFA−1(例えば、オヅリモマブ(odulimomab));およびIL−2受容体/CD25(例えば、バシリキシマブ(basiliximab)、ダクリズマブ(daclizumab)、イノリモマブ(inolimomab))。
【0059】
他の免疫抑制剤としては、以下が挙げられる:ゾリモマブアリトクス(zolimomab aritox)、アトロリムマブ(atorolimumab)、セデリズマブ(cedelizumab)、ドリキシズマブ(dorlixizumab)、フォントリズマブ(fontolizumab)、ガンテネルマブ(gantenerumab)、ゴミリキシマブ(gomiliximab)、マスリモマブ(maslimomab)、モロリムマブ(morolimumab)、ペキセリズマブ(pexelizumab)、レスリズマブ(reslizumab)、ロベリズマブ(rovelizumab)、シプリズマブ(siplizumab)、タリズマブ(talizumab)、テリモマブアリトクス(telimomab aritox)、バパリキシマブ(vapaliximab)、ベパリモマブ(vepalimomab)、抗胸腺細胞グロブリン、抗リンパ球グロブリン;CTLA−4阻害剤(例えば、アバタセプト(abatacept)、ベラタセプト(belatacept));アフリベルセプト(aflibercept);アレファセプト(alefacept);リロナセプト(rilonacept);ならびにTNF阻害剤(例えば、エタネルセプト)。
【0060】
免疫抑制:免疫系の活性または機能を低減させる行為をいう。免疫抑制は、免疫抑制化合物の投与によって達成され得るか、または、疾患もしくは障害の作用であり得る(例えば、HIV感染から生じるか、もしくは、遺伝子欠陥に起因する免疫抑制)。一部の場合において、免疫抑制は、機能的免疫細胞の発生を妨害または阻害する遺伝子変異の結果として生じる。
【0061】
人工多能性幹細胞(induced pluripotency stem cell)(IPSC):特定の遺伝子の発現を誘導することによって、非多能性細胞、代表的には成体の体細胞から人工的に誘導される多能性肝細胞の一種。IPSCは、哺乳動物のような任意の生物から誘導され得る。一部の実施形態において、IPSCは、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブタ、ウシ、非ヒト霊長類またはヒトから生成される。ヒト由来のIPSCが典型的である。
【0062】
IPSCは、幹細胞の特定の遺伝子およびタンパク質の発現、クロマチンのメチル化パターン、倍化時間、胚葉体の形成、奇形腫の形成、生存能のあるキメラの形成、ならびに、潜在能力(potency)および分化能のような多くの局面において、ES細胞と類似している。IPSCを産生するための方法は当該分野で公知である。例えば、IPSCは、代表的には、成体の線維芽細胞のような非多能性細胞への特定の幹細胞関連遺伝子(例えば、Oct−3/4(Pouf51)およびSox2)のトランスフェクションによって誘導される。トランスフェクションは、レトロウイルス、レンチウイルスまたはアデノウイルスのようなウイルスベクターによって達成され得る。例えば、細胞は、レトロウイルス系を用いてOct3/4、Sox2、Klf4およびc−Mycを、または、レンチウイルス系を用いてOCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28を、トランスフェクトされ得る。3〜4週間後、少数のトランスフェクト細胞が、形態学的および生化学的に多能性幹細胞と類似し始め、そして、代表的には、形態学的な選択、倍化時間によって、または、レポーター遺伝子および抗生物質による選択によって、単離される。一例では、成人ヒト細胞由来のIPSCは、Yu et al.(Science 318(5854):1224,2007)またはTakahashi et al.(Cell 131(5):861−72,2007)の方法によって作製される。IPSCはまた、iPS細胞としても知られる。
【0063】
感染負荷量(infectious load):被験体、または被験体由来のサンプル中の特定の病原体の量をいう。感染負荷量は当該分野で公知の多数の方法のうちのいずれか1つを用いて測定され得る。選択される方法は、検出される病原体の型および病原体の検出に利用可能な試薬に依存して変化する。感染負荷量はまた、例えば、病原体の力価を決定することによって測定され得、そのための方法は、検出される病原体に依存して変化する。例えば、一部のウイルスの力価は、プラークアッセイを実施することによって定量され得る。ある例では、感染負荷量は、サンプル中の病原体特異的抗原の量を定量することによって測定される。他の例では、感染負荷量は、サンプル中の病原体特異的核酸分子の量を定量することによって測定される。定量は、数値の決定を包含するか、または、相対値であり得る。
【0064】
単離された:「単離された」生体成分(例えば、核酸、タンパク質(抗体を含む)または細胞小器官)とは、その成分が天然に存在する環境(例えば、細胞)における他の生体成分(すなわち、他の染色体および染色体外DNAおよびRNA、タンパク質、ならびに細胞小器官)から実質的に分離または精製されている。「単離された」核酸およびタンパク質としては、標準的な精製法によって精製された核酸およびタンパク質が挙げられる。この用語はまた、宿主細胞における組換え発現によって調製された核酸およびタンパク質、ならびに、化学合成された核酸を包含する。
【0065】
「単離された肝細胞」とは、臓器ドナーのような特定の供給源から得られた肝細胞を指す。一部の実施形態において、「単離された肝細胞」は、ドナーの身体から取り出された肝細胞である。一部の実施形態において、「単離された肝細胞」は、懸濁物における肝細胞、または一片の組織内に含まれる肝細胞である。特定の例では、単離された肝細胞は、他の細胞型から実質的に分離もしくは精製されたか、または、脂肪組織もしくは線維性組織のような他の型の組織から精製されたものである。
【0066】
哺乳動物のラパマイシン標的(mammalian target of rapamycin)(mTOR)阻害剤:mTORの発現または活性を阻害する分子。mTOR阻害剤としては、低分子、抗体、ペプチドおよび核酸の阻害剤が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、mTOR阻害剤は、mTORのキナーゼ活性を阻害するか、または、リガンドに対するmTORの結合を阻害する分子であり得る。mTORの阻害剤はまた、mTORの発現をダウンレギュレートする分子を含む。多数のmTOR阻害剤は、ラパマイシン(シロリムス)を含めて、当該分野で公知である。
【0067】
ミコフェノレート(mycophenolate):同種同系移植の拒絶を予防するために代表的に使用される免疫抑制薬。この薬物は、一般に、経口投与または静脈内投与される。ミコフェノレートは、真菌Penicillium stoloniferum由来である。そのプロドラッグ形態であるミコフェノレートモフェチル(mycophenolate mofetil)は、肝臓で、活性部分ミコフェノール酸へと代謝される。これは、Bリンパ球およびTリンパ球の増殖において使用されるプリン合成のデノボ経路において、グアニン一リン酸の合成速度を制御する酵素であるイノシン一リン酸デヒドロゲナーゼを阻害する。ミコフェノール酸は、一般に、商品名CellCeptTM(ミコフェノレートモフェチル;Roche)およびMyforticTM(ミコフェノレートナトリウム;Novartis)の下、市販されている。
【0068】
NTBC((2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチル−ベンゾイル)−1,3シクロヘキサンジオン):4−ヒドロキシ−フェニルピルビン酸デヒドロゲナーゼ(HPPD)の阻害剤。HPPDは、チロシン異化の第2段階である、4−ヒドロキシフェニルピルビン酸のホモゲンチシン酸への変換を触媒する。NTBCでの処置は、チロシン異化経路をこの段階でブロックし、そして、Fah欠損性のヒトおよび動物において蓄積する、疾病特有症候の代謝産物であるスクシニルアセトンの蓄積を予防する。
【0069】
プレドニゾン:有効な免疫抑制薬である合成コルチコステロイド。これは、しばしば、特定の炎症性疾患、自己免疫疾患および癌の処置、ならびに、臓器移植拒絶の処置または予防に使用される。プレドニゾンは通常、経口摂取されるが、筋肉内注射または静脈内注射によって送達され得る。これは、肝臓によって、活性な薬物であり、そしてまたステロイドでもあるプレドニゾロンへと変換されるプロドラッグである。
【0070】
ラパマイシン:既知の免疫抑制性かつ抗増殖性特性を持つ化合物。シロリムスとしても知られるラパマイシンは、細菌Streptomyces hygroscopicusの生成物として最初に発見されたマクロライドである。ラパマイシンは、mTORに結合し、mTORの活性を阻害する。
【0071】
レシピエント:本明細書中で使用される場合、「レシピエント動物」とは、本明細書中に記載される単離されたヒト肝細胞を注入される動物(例えば、ブタ)である。代表的には、ヒト肝細胞の一部(割合は多様であり得る)が、レシピエント動物に生着する。一部の実施形態ではレシピエント動物は免疫抑制状態である。
【0072】
リコンビナーゼ活性化遺伝子1(Rag1):免疫グロブリンV(D)J組換えの活性化に関与する遺伝子。RAG1タンパク質は、DNA基質の認識に関与するが、安定な結合および切断の活性はまた、RAG2を必要とする。
【0073】
リコンビナーゼ活性化遺伝子2(Rag2):免疫グロブリン遺伝子座とT細胞受容体遺伝子座の組換えに関与する遺伝子。Rag2遺伝子を欠損する動物は、V(D)J組換えを行うことができず、機能的T細胞およびB細胞の完全な欠如をもたらす(Shinkai et al.Cell 68:855−867,1992)。
【0074】
継代移植(serial transplantation):最初の動物において増殖させた肝細胞が収集され、そして、さらなる増殖のために二次動物へと注入などによって移植される、ヒト肝細胞をインビボで増殖するためのプロセス。継代移植は、三次、または四次、または追加次のマウスをさらに含むことができる(Overturf et al.,Am.J.Pathol.151:1078−9107,1997)。
【0075】
体細胞核移植(SCNT):ドナーの核を持つ卵子を用いてクローン性の胚を作製するための実験技術。SCNTでは、体細胞の核が取り出され、そして、細胞の残りが破棄される。同時に、卵細胞の核が取り出される。次に、体細胞の核が、除核された卵細胞へと挿入される。卵へと挿入された後、体細胞の核は、宿主細胞によってリプログラミングされる。この時点で体細胞の核を含んでいる卵は、ショックで刺激され、そして、分裂を開始する。培養における多数の有糸分裂の後、この単一の細胞は、元の生物とほぼ同一のDNAを持つ胚盤胞を形成する。
【0076】
雌ブタ(sow):成体の雌性ブタ。
【0077】
幹細胞:不変の娘細胞を生成する(自己再増殖(self−renewal);親細胞と同一である少なくとも1つの娘細胞を生成する細胞分裂)、および特殊化細胞型を生じるための特異な能力(潜在能力)を有する細胞。幹細胞としては、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、生殖系列幹(GS)細胞、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、多能性成体前駆細胞(MAPC)、多能性成体生殖系列幹細胞(maGSC)、および非制限体性幹細胞(USSC)が挙げられるが、これらに限定されない。インビボでの幹細胞の役割は、動物の正常な寿命の間に破壊される細胞を置換することである。通常、幹細胞は、無制限に分裂することができる。分裂後、幹細胞は、幹細胞として留まっても良いし、前駆細胞になっても良いし、末端分化に進行しても良い。前駆細胞は、少なくとも1つの所与の細胞型の十分に分化した機能的細胞を生成することができる細胞である。一般に、前駆細胞は分裂することができる。分裂後、前駆細胞は、前駆細胞のままであっても良いし、末端分化に進行しても良い。一実施形態において、幹細胞は、肝細胞を生じる。
【0078】
被験体:ヒト、および、ブタを含む非ヒト哺乳動物の両方を含むカテゴリーである、生きた多細胞の脊椎動物生物。
【0079】
治療剤:被験体に対して適切に投与された際に、所望の治療効果もしくは予防効果を誘導することができる、アンチセンス化合物、抗体、プロテアーゼ阻害剤、ホルモン、ケモカインもしくはサイトカインのような、化合物、低分子または他の組成物。本明細書中で使用される場合、「候補薬剤」は、特定の疾患または障害のための治療剤として機能し得るかどうかを決定するためのスクリーニングのために選択される化合物である。
【0080】
力価:本開示の文脈において、力価は、サンプル中の特定の病原体の量をいう。
【0081】
耐性または寛容(torelance):被験体(例えば、ヒトまたは動物)が通常は応答性である特定の抗原または抗原の群に対して反応しない状態。免疫耐性は、免疫反応を抑制するが、単に免疫応答が存在しない状態ではない条件下で達成される。免疫耐性は、免疫系がまだ成熟していない、胎仔の生命または新生仔の期間における同じ抗原との事前接触;極めて高いもしくは低い用量の抗原との事前接触;免疫系を損ねる放射線、化学療法薬もしくは他の薬剤に対する曝露;免疫系の遺伝性の疾患;および、免疫系の後天性疾患を含む、多数の原因から生じ得る。
【0082】
毒素:本開示の文脈において、「毒素」は、あらゆる化学的毒素または生物学的毒素を含む、あらゆる有毒性物質をいう。
【0083】
導入遺伝子:細胞または生物のゲノムに導入される外因性核酸配列。
【0084】
トランスジェニック動物:動物の細胞の一部において染色体外要素として存在するか、または動物の生殖細胞系DNAに(すなわち、その細胞のほとんどまたはすべてのゲノム配列に)安定的に組み込まれた、非内因性(異種)核酸配列を有する、非ヒト動物(通常は、哺乳動物)。異種核酸は、当該分野で周知の方法に従って、例えば、宿主動物の胚または胚性幹細胞の遺伝子操作により、このようなトランスジェニック動物の生殖細胞系に導入される。「導入遺伝子」は、このような異種核酸、例えば、(例えば「ノックイン」トランスジェニック動物の作製用の)発現構築物の形態をした異種核酸、または(例えば「ノックアウト」トランスジェニック動物の作製用の)標的遺伝子内またはその近傍に挿入されて標的遺伝子の発現低下を生じる異種核酸を意味する。遺伝子の「ノックアウト」とは、標的遺伝子の機能低下を生じる遺伝子の配列の変化を意味し、好ましくは、このような標的遺伝子の発現は検出されないか、または有意ではない。トランスジェニックのノックアウト動物は、標的遺伝子についてヘテロ接合性のノックアウト、または標的遺伝子についてホモ接合性のノックアウトを含み得る。「ノックアウト」はまた、コンディショナルノックアウト(conditional knock−out)も含み、この場合、標的遺伝子の変化は、例えば、標的遺伝子の変化を促進する物質に動物を曝露した際、標的遺伝子部位における組換えを促進する酵素(例えばCre−lox系のCre)を導入した際、または標的遺伝子の変化を出生後に指令する他の方法で生じ得る。
【0085】
移植または移植する:ある被験体由来の臓器、組織もしくは細胞を、別の被験体に、または、同じ被験体の別の領域に移植するプロセスをいう。
【0086】
ベクター:宿主細胞において複製および/または組み込みを行うベクターの能力を破壊することなく、外来核酸の挿入を可能にする核酸分子ベクターは、複製起点のような、宿主細胞における複製を可能にする核酸配列を含み得る。ベクターはまた、1または複数の選択マーカー遺伝子および他の遺伝的要素を含み得る。組み込みベクターは、宿主の核酸に自身を組み込むことが可能である。発現ベクターは、挿入された遺伝子(単数または複数)の転写および翻訳を可能にするために必須の調節配列を含むベクターである。
【0087】
そうでないと説明されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。単数形「a」、「an」および「the」は、文脈がはっきりとそうでないと示さない限り、複数の対象物を含む。同様に、語「または(もしくは、あるいは)」は、文脈がはっきりとそうでないと示さない限り、「および(ならびに)」を含むことが意図される。したがって、「AまたはBを含む」は、AまたはB、あるいは、AおよびBを含むことを意味する。さらに、核酸またはポリペプチドに対して与えられる、全ての塩基のサイズまたはアミノ酸のサイズ、ならびに、全ての分子量または分子の質量の値は、近似値であり、説明のために提供されることが理解されるべきである。本明細書中に記載されるものと類似もしくは等価の方法および材料が本開示の実施または試験に使用され得るが、適切な方法および材料は以下に記載される。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参考として援用される。矛盾が生じる場合には、用語の説明を含めて、本明細書が支配する。さらに、材料、方法および実施例は説明的なものに過ぎず、限定的であることは意図されない。
【0088】
(III.いくつかの実施形態の大要)
本明細書中には、胎仔ブタ線維芽細胞における相同組換えと、その後の体細胞核移植によるFah+/−ヘテロ接合性ブタの作製が開示される。また、Fah−/−ホモ接合性ブタを産生するための方法も開示される。本開示のFah欠損性ブタは、例えば、他の種(例えば、ヒト)由来の肝細胞の増殖のため、ならびに、遺伝性1型チロシン血症、肝硬変、肝細胞癌および肝臓感染症を含む肝疾患の大型動物モデルとして、など、多様な研究および治療の目的に使用され得る。
【0089】
本明細書中には、Fah欠損性ブタにおいて肝細胞を増殖するための2つの方法が記載される。ヒト肝細胞の増殖が例示されているが、本明細書中に開示される方法は、他の種(例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマおよび非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、チンパンジーおよびアカゲザル))由来の肝細胞を増殖するために使用され得る。本明細書中に開示される第一の方法は、Fah欠損性の仔ブタまたは成体ブタ(例えば、本明細書中に開示される方法によって作製された仔ブタまたはブタ)にヒト肝細胞を生後移植(post−natal transplantation)することを含む。生後移植は、ヒト細胞の拒絶を予防するために1または複数の免疫抑制剤を用いて処置することを伴う。第二の方法は、ヒト肝細胞の胎仔期移植(fetal transplantation)を含む。この方法では、ブタの胎仔が外科的に取り出され、そして、ヒト肝細胞が注入される。ヒト肝細胞に対する耐性が発生し、ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタに免疫抑制薬を投与する必要性を排除する。
【0090】
免疫抑制薬の使用が免疫欠損性動物の作製の一種として例示されるが、免疫系の特性の構成要素の欠如、または、免疫系の特定の構成要素の機能の欠如(例えば、機能的なB細胞、T細胞および/またはNK細胞の欠如)をもたらす遺伝的変化もまた企図される。一部の実施形態において、遺伝的変化は、Rag1、Rag2またはIl2rg遺伝子内にある。免疫系の特定の細胞(例えば、マクロファージまたはNK細胞)もまた欠乏させ得る。特定の細胞型を欠乏させる方法は当該分野で公知である。
【0091】
さらに、この2つの開示されるFah欠損性ブタにおいてヒト肝細胞を増殖させる方法は組み合され得る。胎仔期移植は、ヒト肝細胞に対する耐性を誘導するために実施され、したがって、より多い量のヒト肝細胞の生後の投与を可能にし得る。
【0092】
したがって、本明細書中には、Fah欠損性ブタにヒト肝細胞を移植し、ヒト肝細胞を増殖させることによって、ヒト肝細胞を増殖する方法が提供される。肝細胞増殖のための時間の長さは多様であり得、最初に移植される肝細胞の数、増殖後に所望されるヒト肝細胞の数、および/または、所望されるヒト肝細胞での肝臓の再編成(repopulation)の程度を含む多様な要因に依存する。一部の場合、これらの要因は、肝細胞の所望される使用、または、ヒト肝細胞が生着したFah欠損性ブタの所望される使用によって決定(dictate)される。一部の実施形態では、ヒト肝細胞は、少なくとも約3日間、少なくとも約5日間、少なくとも約7日間、少なくとも約2週間、または、少なくとも約4週間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約7ヶ月間、少なくとも約8ヶ月間、少なくとも約9ヶ月間、少なくとも約10ヶ月間、または、少なくとも約11ヶ月間、Fah欠損性ブタにおいて増殖される。特定の例において、ヒト肝細胞は、少なくとも7日間、Fah欠損性ブタにおいて増殖される。他の例では、ヒト肝細胞は、少なくとも6ヶ月間、Fah欠損性ブタにおいて増殖される。一部の例では、ヒト肝細胞は、12ヶ月以下、Fah欠損性ブタにおいて増殖される。
【0093】
一部の実施形態において、Fah欠損性ブタは、ブタにおける肝疾患の発症を阻害、遅延または予防する薬剤が投与される。このような薬剤の投与は、健康な(FAHを発現する)肝細胞での動物の再編成(repopulation)の前に、肝機能障害および/または動物の死を予防するために必要である。薬剤は、肝疾患を阻害するための当該分野で公知の任意の化合物または組成物であり得る。1つのこのような薬剤は、2−(2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチル−ベンゾイル)−1,3シクロヘキサンジオン(NTBC)である。NTBCは、Fah欠損性ブタにおける肝疾患の発症を調節するために投与される。投与の用量、投薬スケジュールおよび方法は、Fah欠損性ブタにおける肝機能障害を予防するために必要に応じて調節され得る。一部の実施形態では、Fah欠損性ブタは、さらに、肝細胞移植の後、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、または少なくとも6日間、NTBCを投与される。一部の実施形態では、Fah欠損性ブタは、さらに、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、少なくとも約1ヶ月間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、または少なくとも約6ヶ月間、NTBCを投与される。
【0094】
Fah欠損性ブタに投与されるNTBCの用量は多様であり得る。一部の実施形態では、用量は、1日あたり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgである。特定の例では、NTBCの用量は、1日あたり約1mg/kgである。他の実施形態では、NTBCは、約0.01mg/kg/日〜約0.50mg/kg/日の用量で投与される。別の実施形態では、NTBCは、約0.05mg/kg/日〜約0.10mg/kg/日(例えば、0.05mg/kg/日、約0.06mg/kg/日、約0.07mg/kg/日、約0.08mg/kg/日、約0.09mg/kg/日または約0.10mg/kg/日)の用量で投与される。
【0095】
他の実施形態において、ブタは、肝防御特性または肝治療特性について検討される候補薬剤が投与される。この薬剤の保護効果を評価するために、NTBCについて上述したものと同様の方法が使用され得る。
【0096】
NTBCは、任意の適切な手段(飲料水中、食品中、または注射などが挙げられるがこれらに限定されない)によって投与され得る。一実施形態において、飲料水中で投与されるNTBCの濃度は、約1mg/L〜約8mg/L(例えば、約1mg/L、約2mg/L、約3mg/L、約4mg/L、約5mg/L、約6mg/L、約7mg/Lまたは約8mg/L)である。別の実施形態において、飲料水中で投与されるNTBCの濃度は、約1mg/L〜約2mg/L(例えば、1.0mg/L、約1.2mg/L、約1.4mg/L、約1.6mg/L、約1.8mg/Lまたは約2.0mg/L)である。
【0097】
この方法の一部の実施形態では、Fah欠損性ブタは、免疫抑制されている。一部の例では、免疫抑制は、1または複数の免疫抑制剤の投与の結果である。ブタにおいて免疫抑制を達成するために有効な任意の適切な免疫抑制薬または免疫抑制剤が使用され得る。免疫抑制剤の例としては、FK506、シクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノレート、プレドニゾン、ラパマイシンおよびアザチオプリンが挙げられるがこれらに限定されない。免疫抑制剤の組合せもまた投与され得る。一部の実施形態において、1または複数の免疫抑制剤は、ヒト肝細胞移植の少なくとも約2日前にFah欠損性ブタに投与される。免疫抑制は、一定期間、例えば、ブタの全寿命の一部の間、継続され得る。
【0098】
一部の実施形態において、ヒト肝細胞は、Fah欠損性ブタの肝動脈、脾臓または門脈へと注射によって移植される。
【0099】
一部の実施形態において、Fah欠損性ブタは、Fah遺伝子にホモ接合性の破壊を含み、その結果、この破壊が、機能的なFAHタンパク質の発現の欠如をもたらす。機能的なFAHタンパク質の発現の欠如は、必ずしも発現の完全な欠如ではない。一部の例では、機能的なFAHタンパク質の発現の欠如は、約80%、約90%、約95%または約99%の発現の欠如である。
【0100】
Fah遺伝子の破壊は、機能的なFAHタンパク質の発現の有意な消失または完全な欠如をもたらすあらゆる改変であり得る。一部の実施形態において、破壊は、Fah遺伝子における挿入、欠失、または、1もしくは複数個の点変異、あるいは、これらの任意の組合せである。特定の例では、破壊は挿入である。一部の例では、挿入は、インフレームの終止コドンを含む。挿入はまた、選択マーカーをコードする核酸のような追加の核酸配列を含み得る。
【0101】
一部の実施形態において、Fah欠損性ブタに移植されるヒト肝細胞は、単離されたヒト肝細胞である。一部の実施形態において、ヒト肝細胞は、肝組織移植片の一部として移植される。単離されたヒト肝細胞は、多数の多様な供給源のうちのいずれか1つから入手され得る。一実施形態において、ヒト肝細胞は、臓器ドナーの肝臓から単離される。別の実施形態において、ヒト肝細胞は、外科的切除物から単離される。別の実施形態において、ヒト肝細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系由来幹細胞、脂肪組織由来幹細胞、多能性成体前駆細胞、非制限体性幹細胞、または、肝臓自体、胆嚢、腸もしくは膵臓に見られ得る組織特異的肝性幹細胞のような幹細胞から誘導される。別の実施形態において、ヒト肝細胞は、単球または羊膜細胞(amniocyte)から誘導され、すなわち、幹細胞または前駆細胞は、肝細胞を生成するためにインビトロで入手される。別の実施形態では、ヒト肝細胞は、注入前に凍結保存される。
【0102】
一部の実施形態において、この方法はさらに、増殖させたヒト肝細胞をFah欠損性ブタから収集する工程を包含する。
【0103】
また、ヒト肝細胞をFah欠損性ブタ胎仔に移植し、Fah欠損性ブタの出生後にヒト肝細胞を増殖させることによって、ヒト肝細胞をインビボで増殖させる方法が本明細書において提供される。生後の肝細胞の増殖の時間の長さは多様であり得、最初に移植される肝細胞の数、増殖後に所望されるヒト肝細胞の数、および/または、所望されるヒト肝細胞での肝臓の再編成(repopulation)の程度を含む多様な要因に依存する。一部の場合、これらの要因は、肝細胞の所望される使用、または、ヒト肝細胞が生着したFah欠損性ブタの所望される使用によって決定(dictate)される。一部の実施形態では、ヒト肝細胞は、少なくとも約3日間、少なくとも約5日間、少なくとも約7日間、少なくとも約2週間、または、少なくとも約4週間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約3ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約5ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、少なくとも約7ヶ月間、少なくとも約8ヶ月間、少なくとも約9ヶ月間、少なくとも約10ヶ月間、または、少なくとも約11ヶ月間、Fah欠損性ブタにおいて増殖される。特定の例において、ヒト肝細胞は、少なくとも7日間、Fah欠損性ブタにおいて増殖される。他の例では、ヒト肝細胞は、少なくとも6ヶ月間、Fah欠損性ブタにおいて増殖される。一部の例では、ヒト肝細胞は、12ヶ月以下、Fah欠損性ブタにおいて増殖される。
【0104】
一部の実施形態では、Fah欠損性ブタ胎仔は、ヒト肝細胞を移植するために外科的に取り出される。ヒト肝細胞が注入されるブタ胎仔の在胎齢は多様であり得るが、一般には、胸腺が発生する前である。すなわち、一部の実施形態では、ヒト肝細胞は、ブタの妊娠から約30日目〜約40日目の間のブタ胎仔へと注入される。特定の例では、ヒト肝細胞は、ブタの妊娠から35日目に移植される。一部の実施形態では、ヒト肝細胞は、Fah欠損性ブタ胎仔の臍静脈への注入によって移植される。注入されるヒト肝細胞の数は多様であり得る。一部の実施形態において、約100,000個〜約500,000個のヒト肝細胞が注入される。特定の例では、約300,000個のヒト肝細胞が注入される。
【0105】
一部の実施形態では、Fah欠損性ブタ胎仔を受胎している雌ブタは、ブタにおける肝疾患の発症を阻害、遅延または予防する薬剤を投与される。この薬剤は、NTBCのような、肝疾患を阻害することが当該分野で公知のあらゆる化合物または組成物であり得る。一部の実施形態では、Fah欠損性の仔ブタはまた、生後約1日間〜約6日間、NTBCを投与される。一部の実施形態において、Fah欠損性仔ブタはまた、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間または少なくとも6ヶ月間、NTBCを投与される。一部の実施形態において、Fah欠損性仔ブタはまた、無限にNTBCを投与される。
【0106】
投与の用量、投薬スケジュールおよび方法は、Fah欠損性ブタにおける肝機能障害を予防するために必要に応じて調節され得る。Fah欠損性ブタに投与されるNTBCの用量は多様であり得る。一部の実施形態では、用量は、1日あたり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgである。特定の例では、NTBCの用量は、1日あたり約1mg/kgである。他の実施形態では、NTBCは、約0.01mg/kg/日〜約0.50mg/kg/日の用量で投与される。別の実施形態では、NTBCは、約0.05mg/kg/日〜約0.10mg/kg/日(例えば、0.05mg/kg/日、約0.06mg/kg/日、約0.07mg/kg/日、約0.08mg/kg/日、約0.09mg/kg/日または約0.10mg/kg/日)の用量で投与される。
【0107】
NTBCは、任意の適切な手段(飲料水中、食品中、または注射などが挙げられるがこれらに限定されない)によって投与され得る。一実施形態において、飲料水中で投与されるNTBCの濃度は、約1mg/L〜約8mg/L(例えば、約1mg/L、約2mg/L、約3mg/L、約4mg/L、約5mg/L、約6mg/L、約7mg/Lまたは約8mg/L)である。別の実施形態において、飲料水中で投与されるNTBCの濃度は、約1mg/L〜約2mg/L(例えば、1.0mg/L、約1.2mg/L、約1.4mg/L、約1.6mg/L、約1.8mg/Lまたは約2.0mg/L)である。
【0108】
一部の実施形態において、Fah欠損性ブタに移植されるヒト肝細胞は、単離されたヒト肝細胞である。一部の実施形態において、ヒト肝細胞は、肝組織移植片の一部として移植される。単離されたヒト肝細胞は、多数の多様な供給源のうちのいずれか1つから入手され得る。一実施形態において、ヒト肝細胞は、臓器ドナーの肝臓から単離される。別の実施形態において、ヒト肝細胞は、外科的切除物から単離される。別の実施形態において、ヒト肝細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系由来幹細胞、脂肪組織由来幹細胞、多能性成体前駆細胞、非制限体性幹細胞、または、肝臓自体、胆嚢、腸もしくは膵臓に見られ得る組織特異的肝性幹細胞のような幹細胞から誘導される。別の実施形態において、ヒト肝細胞は、単球または羊膜細胞から誘導され、すなわち、幹細胞または前駆細胞は、肝細胞を生成するためにインビトロで入手される。別の実施形態では、ヒト肝細胞は、注入前に凍結保存される。
【0109】
一部の実施形態において、この方法はさらに、増殖させたヒト肝細胞をFah欠損性ブタから収集する工程を包含する。
【0110】
さらに、Fah欠損性レシピエントブタにおけるヒト肝細胞(または別の種由来の肝細胞)の継代移植の方法が本明細書において提供される。この方法は、増殖させたヒト肝細胞を第一のレシピエントブタから収集し、そしてさらに、第二、第三、第四、またはさらなるレシピエントブタにおいて肝細胞を増殖させる工程を包含する。ヒト肝細胞は、多数の技術のうちのいずれか1つを用いてブタから収集され得る。例えば、肝細胞は、ブタの肝臓を灌流し、その後、丁寧に細かく切ることによって収集され得る。さらに、肝細胞は、周知の方法を用いて(例えば、ヒト細胞またはヒト肝細胞を特異的に認識する抗体を用いることによって)、他の細胞型、組織および/または細片から分離され得る。このような抗体としては、クラスI腫瘍組織適合遺伝子抗原に特異的に結合する抗体(例えば、抗ヒトHLA−A,B,C)が挙げられるがこれらに限定されない(Markus et al.Cell Transplantation 6:455−462,1997)。その後、抗体が結合した肝細胞が、パニング(固体マトリクスに結合させたモノクローナル抗体を利用する)、蛍光活性化細胞分取(FACS)、磁気ビーズ分離などによって分離され得る。肝細胞を収集する代替的な方法は当該分野で周知である。動物において肝細胞を継代移植する方法は、例えば、PCT公開第2008/151283号に記載される。
【0111】
さらに、そのゲノムがFah遺伝子における破壊についてホモ接合性の遺伝子改変をされており、その結果、その破壊が、機能的なFAHタンパク質の発現の欠如をもたらしているブタが本明細書において提供され、ここで、このブタは肝機能の低下を示す。機能的FAHタンパク質の発現の欠如は、必ずしも、発現の完全な欠如ではない。一部の例では、機能的なFAHタンパク質の発現の欠如は、約80%、約90%、約95%または約99%の発現の欠如である。Fah遺伝子の破壊は、機能的なFAHタンパク質の発現の有意な消失または完全な欠如をもたらすあらゆる改変であり得る。一部の実施形態において、破壊は、Fah遺伝子における挿入、欠失、または、1もしくは複数個の点変異、あるいは、これらの任意の組合せである。特定の例では、破壊は挿入である。一部の例では、挿入は、インフレームの終止コドンを含む。挿入はまた、選択マーカーをコードする核酸のような追加の核酸配列を含み得る。
【0112】
一部の実施形態において、Fah欠損性ブタは、移植されたヒト肝細胞を含む。一部の実施形態において、Fah欠損性ブタは免疫抑制状態である。一部の例では、免疫抑制は、1または複数の免疫抑制剤の投与の結果である。ブタにおいて免疫抑制を達成するために有効な任意の適切な免疫抑制薬または免疫抑制剤が使用され得る。免疫抑制剤の例としては、FK506、シクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノレート、プレドニゾン、ラパマイシンおよびアザチオプリンが挙げられるがこれらに限定されない。免疫抑制剤の組合せもまた投与され得る。一部の例において、免疫抑制は、機能的な免疫細胞の発生を阻害する1または複数の遺伝的変化の結果である。免疫抑制はまた、マクロファージまたはNK細胞のような特定の免疫細胞の欠乏からも生じ得る。
【0113】
ヒト肝疾患の処置のために有効な薬剤を選択するための方法もまた提供される。一部の実施形態において、この方法は、Fah欠損性ブタに候補薬剤を投与し、そして、肝疾患に対する候補薬剤の効果を評価する工程を包含し、ここで、肝疾患の1以上の徴候もしくは症状における改善は、その候補薬剤が肝疾患の処置に有効であることを示す。一部の実施形態では、肝疾患は、肝臓感染症、肝硬変またはHCCである。
【0114】
また、ヒトの肝臓病原体による感染の処置に有効な薬剤を選択するための方法も本明細書中に提供される。一部の実施形態において、この方法は、(i)ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、このFah欠損性ブタは、肝臓病原体に感染している、工程;および(ii)肝臓感染症に対する候補薬剤の効果を評価する工程を包含する。候補薬剤の投与前のFah欠損性ブタにおける感染負荷量と比較した、肝臓病原体の感染負荷量の減少は、その候補薬剤が、肝臓病原体による感染の処置に有効であることを示す。
【0115】
一部の実施形態では、感染負荷量は、ブタから得たサンプル中の病原体の力価を測定することによって決定される。一部の実施形態では、感染負荷量は、ブタから得たサンプル中の病原体特異的な抗原を測定することによって決定される。一部の実施形態では、感染負荷量は、ブタから得たサンプル中の病原特異的な核酸分子を測定することによって決定される。一部の実施形態では、肝臓病原体は、HBVまたはHCVのような肝指向性ウイルス(hepatotropic virus)である。
【0116】
さらに、肝硬変の処置に有効な薬剤を選択するための方法が提供される。一部の実施形態では、この方法は、(i)Fah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、このFah欠損性ブタは、ブタにおいて肝硬変の発症をもたらす用量でNTBCが投与されている、工程;および(ii)Fah欠損性ブタにおける少なくとも1種の肝硬変の診断マーカーに対する候補薬剤の効果を評価する工程を包含する。一部の実施形態では、少なくとも1種の肝硬変の診断マーカーは、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、ビリルビン、アルカリホスファターゼ、アルブミンまたは凝固因子から選択される。候補薬剤の投与前のFah欠損性ブタと比較した、Fah欠損性ブタにおけるAST、ALT、ビリルビンもしくはアルカリホスファターゼのうち少なくとも1種の減少、および/または、アルブミンの増加は、その候補薬剤が、肝硬変の処置に有効であることを示す。一部の実施形態では、一度Fah欠損性ブタが肝硬変を発症すると、この動物は、肝硬変のさらなる進行を予防するために、最大用量のNTBCを投与される。肝硬変を評価するための他の診断マーカー(例えば、画像化または肝生検による)もまた、本開示の方法において使用され得る。
【0117】
また、肝細胞癌(HCC)の処置に有効な薬剤を選択するための方法も提供される。一部の実施形態では、この方法は、(i)Fah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、このFah欠損性ブタは、ブタにおいてHCCの発症をもたらす用量でNTBCが投与されている、工程;および(ii)Fah欠損性ブタにおけるHCCに対する候補薬剤の効果を評価する工程を包含する。候補薬剤の投与前のFah欠損性ブタと比較した、Fah欠損性ブタにおける腫瘍増殖または腫瘍容積の減少は、その候補薬剤がHCCの処置に有効であることを示す。
【0118】
さらに、インビボにおいてヒト肝細胞に対する外因性因子の効果を評価する方法が提供される。一部の実施形態において、この方法は、ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタに外因性因子を投与する工程、および、Fah欠損性ブタにおいて少なくとも1種の肝機能のマーカーを測定する工程を包含する。一部の実施形態において、少なくとも1種の肝機能のマーカーは、AST、ALT、ビリルビン、アルカリホスファターゼおよびアルブミンから選択され、ここで、外因性因子の投与前のFah欠損性ブタと比較した、Fah欠損性ブタにおけるAST、ALT、ビリルビンもしくはアルカリホスファターゼにおける増加、または、アルブミンにおける減少は、その外因性因子が毒性であることを示す。一部の実施形態では、外因性因子は、既知の毒素または疑わしい毒素である。
【0119】
(IV.Fah欠損性ブタおよびその使用)
ブタの胎仔線維芽細胞においてAAV標的化構築物を用いた相同組換え、その後の体細胞核移植(SCNT)による、Fah欠損性ブタの作製が本明細書中に開示される。SCNTによって胎仔線維芽細胞からFah+/−ブタを産生するために使用される手順は、図5に例示される。Fah−/−ブタを産生するための方法の説明は図1に示される。以下により詳細に考察されるように、Fah欠損性ブタは、多数の研究および治療の目的に有用である。
【0120】
Fah+/−ブタを作製する例示的な方法は、実施例1に記載され、そして、Fah+/−ブタを異種交配することによってホモ接合性のFah欠損性ブタを産生するための手順は、実施例2に記載される。しかしながら、本開示は、Fah欠損性ブタを作製する1つの特定の方法に限定されず、Fah−/−ブタを産生するための当該分野で公知のあらゆる方法を包含する。
【0121】
本明細書中に開示されるように、Fah+/−ブタは、胎仔ブタ線維芽細胞における相同組換えのためのAAV標的化構築物を作製することによって作製した。AAV標的化構築物は、インフレームの終止コドン、ネオマイシン耐性カセット、ならびに、Fah遺伝子のエキソン5における挿入のための構築物を標的とする5’および3’の相同性アームを含んだ。胎仔ブタ線維芽細胞に、AAV標的化ベクターを感染させ、そして、ネオマイシン耐性について選択して、組み込まれたベクターを持つ個々の細胞クローンを単離した。細胞を増殖させ、そして、各クローンからのDNAをPCRによって評価し、適切な標的化を確認した。
【0122】
胎仔線維芽細胞からFah+/−ブタを作製するために、SCNTを使用した。雌ブタから成熟な卵母細胞を単離し、インビトロで培養し、除核し、そして、ドナーの線維芽細胞と融合させた。結果として生じた胚を、活性化されたレシピエントの若い雌ブタ(gilt(young female pig))内に移した。SCNTから生じた仔ブタをPCRによりスクリーニングし、そして、サザンブロットにより、そのFah+/−の状態を確認する。
【0123】
Fah+/−ヘテロ接合性ブタを異種交配させてFah−/−ホモ接合性ブタを作製することができる。生まれたばかりの仔ブタには、肝不全を予防するためにNTBCまたは類似の化合物が投与される。一旦ゲノム型決定が完了すると、全てのFah−/−ホモ接合性ブタにNTBCの投与が維持される。所望される場合、NTBCの用量は、Fah欠損性ブタにおける肝硬変もしくはHCCを促進するために減じられ得るか、または、以下に考察されるように、NTBC処置は、一旦Fah欠損性ブタにヒト肝細胞または別の種(例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマまたは非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、チンパンジーおよびアカゲザル)など)由来の肝細胞を移植されると、排除され得る。
【0124】
(A.ヒト肝細胞の増殖およびその医療的使用)
本開示は、レシピエントブタにおいて増殖させ、そしてレシピエントブタから収集されたヒト肝細胞の、肝臓の再形成(reconstitution)治療を必要とする被験体において肝臓の再形成を行うためのヒト肝細胞の供給源としての使用を企図する。肝細胞の導入による患者における肝臓組織の再形成は、肝臓移植に先行する一時的な処置、または、孤立性代謝不全(isolated metabolic deficiency)を有する患者の決定的な処置のいずれかとして、急性肝不全を有する患者にとって、可能性がある治療の選択肢である(Bumgardner et al.Transplantation 65:53−61,1998)。肝細胞の再形成は、例えば、遺伝子治療のために遺伝子改変された肝細胞を導入するため、あるいは、疾患、物理的もしくは化学的損傷、または悪性疾患の結果としての肝細胞の喪失を補うために使用され得る(米国特許第6,995,299号)。例えば、家族性高コレステロール血症を罹患する患者の遺伝子治療におけるトランスフェクトした肝細胞の使用が報告されている(Grossman et al.Nat.Genet.6:335,1994)。さらに、増殖させたヒト肝細胞は、人工肝臓補助装置に定植させる(populate)ために使用され得る。Fah欠損性ブタにおいてヒト肝細胞を移植および増殖させる特定の方法は、そしてまた増殖させたヒト肝細胞の医療的使用は、以下により詳細に記載される。
【0125】
(1.Fah欠損性ブタの免疫前胎仔期移植)
Fah欠損性ブタにおいてヒト肝細胞を増殖させるための本明細書中に開示される1つの方法は、Fah欠損性ブタ胎仔にヒト肝細胞を移植する工程を包含する。この方法では、Fah−/−ブタが互いに交配され、ホモ接合性Fahノックアウトの子孫のみを生成する。およそ妊娠35日目に、Fah欠損性ブタ胎仔が外科的に取り出され、そして、臍静脈を介してヒト肝細胞が注入される。一部の実施形態において、ブタ胎仔は、およそ300,000個のヒト肝細胞を注入される。しかしながら、ヒト肝細胞の数は多様であり得、所望される使用に依存する。一部の例では、注入されるヒト肝細胞の数は、約100,000〜約500,000である。胎仔発生段階における免疫系の未熟な性質のおかげで、Fah欠損性ブタ胎仔はヒト肝細胞に対する耐性を生じる。したがって、胎仔発生段階にヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタを免疫抑制剤で処置する必要はない。
【0126】
妊娠した雌ブタは、全妊娠期間にわたり肝機能障害を予防するためにNTBCの投与が維持される。NTBCの用量は多様であり得る。一部の実施形態では、NTBCの用量は、1日あたり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgである。一部の例では、NTBCの用量は、1日あたり約1.0mg/kgである。NTBCの用量は、Fah欠損性動物における肝機能障害を予防するため、必要に応じて修正され得る。生後、ヒト肝細胞が生着したFah欠損性ブタは、ヒト肝細胞の増殖を可能にするために、NTBCの投与が停止される。他の例では、NTBCの用量は、約1日〜約6日にわたってなど、経時的に次第に減じられる。
【0127】
(2.Fah欠損性ブタの生後移植)
Fah欠損性ブタにおいてヒト肝細胞を増殖させる第二の方法は、Fah欠損性ブタへのヒト肝細胞の生後移植を包含する。一部の実施形態において、生後直ちに(例えば、2日以内、または、1週間以内に)、Fah欠損性仔ブタに移植される。他の実施形態では、より週齢の進んだFah欠損性ブタ(成体Fah欠損性ブタを含む)に移植される。ヒト肝細胞は、一般に、肝動脈、脾臓内注射または門脈によって移植される。Fah欠損性ブタは、肝機能障害を予防するために、NTBCの投与が維持される。ヒト肝細胞の移植前に、Fah欠損性ブタは、ヒト肝細胞の拒絶を予防するために1または複数の免疫抑制剤で処置される。代表的には、1または複数の免疫抑制剤は、ヒト肝細胞移植の約2日前に投与される;しかしながら、免疫抑制剤での処置を開始する時期は、必要に応じて最適な結果を達成するために多様にされ得る。免疫抑制剤の投与は、代表的には、ヒト肝細胞の拒絶を予防するために無限に継続される。
【0128】
一旦ヒト肝細胞の移植が完了すると、Fah欠損性ブタは、ヒト肝細胞の増殖を可能にするためにNTBCの投与が停止される。ヒト肝細胞(Fahについて欠損性でない)の存在は、NTBCの非存在下でも動物が健康なままであることを可能にする。一部の場合、NTBCでの処置は、肝細胞移植後直ちに停止される。他の場合には、NTBCは、約1日〜約6日にわたってなど、経時的に次第に減じられる。一部の実施形態では、NTBCの用量は、Fah欠損性ブタに投与される場合、1日あたり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgである。一部の例では、NTBCの用量は、1日あたり約1.0mg/kgである。NTBCの用量は、Fah欠損性動物における肝機能障害を予防するため、必要に応じて修正され得る。
【0129】
一部の場合、子宮内でヒト肝細胞に対して耐性にされた(tolerize)ブタにおいて、生後移植が使用される。
【0130】
(3.Fah欠損性ブタへのヒト肝細胞の移植)
ヒト肝細胞、または、肝細胞前駆体/先祖のあらゆる適切な供給源が、Fah欠損性ブタにおける移植のための本開示の方法において使用され得る。例えば、ヒト肝細胞は、死体のドナーもしくは肝臓の切除物から誘導され得るか、または、市販の供給源から入手され得る。Fah欠損性ブタには、あらゆる年齢のドナーからのヒト肝細胞、または、凍結保存された肝細胞を移植することが可能であるものと期待される。ヒト肝細胞の単離と移植との間にはしばしば遅延(代表的には1〜2日)が存在し、これが、肝細胞の乏しい生存能をもたらし得る。しかしながら、Fah欠損性ブタの系は、肝細胞の数が制限される場合でも、ヒト肝細胞を増殖する手段として機能し得る。
【0131】
ヒト肝細胞を単離する方法は当該分野で周知である。例えば、臓器ドナーまたは肝臓切除物からヒト肝細胞を単離する方法は、PCT公開番号WO 2004/009766およびWO 2005/028640、ならびに、米国特許第6,995,299号および同第6,509,514号に記載される。肝細胞は、経皮的に、または、腹部外科手術により採取された肝生検から入手され得る。レシピエント動物(例えば、Fah欠損性舞台)に移植するためのヒト肝細胞は、当該分野で公知の任意の簡便な方法によって、ヒト肝臓組織から入手され得る。肝臓組織は、単一の細胞の懸濁物を提供するために機械的にまたは酵素により解離させられ得るか、あるいは、インタクトなヒトの肝臓組織の断片が使用され得る。例えば、肝細胞は、慣用的なコラゲナーゼ灌流(Ryan et al.Meth.Cell Biol.13:29,1976)とその後の低速での遠心分離によってドナー組織から単離され得る。ついで、肝細胞は、ステンレス鋼のメッシュを通して濾過され、その後、密度勾配遠心分離を行うことによって精製され得る。あるいは、例えば、蛍光活性化細胞分取、パニング、磁気ビーズ分離、遠心場における洗浄(elutriation within a centrifugal field)、または、当該分野で周知の任意の他の方法のような、肝細胞を富化するための他の方法が使用され得る。同様の肝細胞単離法が、レシピエント動物の肝臓(例えば、Fah欠損性ブタの肝臓)から増殖させたヒト肝細胞を収集するために使用され得る。
【0132】
あるいは、ヒト肝細胞は、Guguen−Guillouzo et al.(Cell Biol.Int.Rep.6:625−628,1982)によって記載された技術を用いて調製され得る。簡単に述べると、肝臓またはその一部が隔離され、そして、カニューレが門脈または門脈枝内に導入される。ついで、この肝臓組織は、カニューレを介して、37℃にて、1分あたり30〜70mLの流速において、HEPES緩衝液中の塩化カルシウム溶液(例えば、約0.075%塩化カルシウム)中にコラゲナーゼ(例えば、約0.025%コラゲナーゼ)を含有する酵素溶液で灌流される。灌流された肝臓組織は、小さな(例えば、約1mm)片へと細かく切られる。酵素による消化は、細胞懸濁物を生成するために、37℃にて穏やかに撹拌しながら約10〜20分間、上述のものと同じ緩衝液中で継続される。放出された肝細胞は、60〜80μmのナイロンメッシュを通して細胞懸濁物を濾過することによって回収される。次いで、この回収した肝細胞は、コラゲナーゼおよび細胞片を除くために、低速の遠心分離を用いて、pH7.0の冷HEPES緩衝液中で洗浄され得る。非実質細胞は、メトリザマイド勾配遠心分離(米国特許第6,995,299号を参照)によって除去され得る。
【0133】
ヒト肝細胞は、新鮮な組織(例えば、死から数時間以内に得られた組織)、または、新鮮な状態で凍結された組織(例えば、凍結され、約0℃以下に維持された新鮮な組織)から入手され得る。一部の用途については、ヒト組織は検出可能な病原体を有さず、形態学および組織学的に正常であり、そして、本質的に疾患を有さないことが好ましい。生着のために使用される肝細胞は、新しく(例えば、2〜3時間以内に)単離され得るか、または、細胞が適切な保存培地中に維持されている場合には、より長い期間の後に移植され得る。1つのこのような培地は、VIASPANTMである(腹部内器官の保存のための万能な大動脈洗浄・低温保存溶液(universal aortic flush and cold storage solution);University of Wisconsin溶液またはUWとも呼ばれる)。肝細胞はまた、移植前に凍結保存され得る。肝細胞を凍結保存する方法は、当該分野で周知であり、例えば、米国特許第6,136,525号に記載される。
【0134】
臓器ドナーまたは肝臓切除物からヒト肝細胞を得ることに加えて、生着のために使用される細胞は、ヒト幹細胞または肝細胞前駆細胞であり得、これは、レシピエント動物への移植後に、増殖可能なヒト幹細胞へと発生または分化する。ES細胞の特性を持つヒト細胞は、胚盤胞の内部細胞塊(Thomson et al.,Science 282:1145−1147,1998)および発生途上の生殖系列細胞(Shamblott et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726−13731,1998)から単離されており、そして、ヒト胚性幹細胞が生成されている(米国特許第6,200,806号を参照)。米国特許第6,200,806号に開示されるように、ES細胞は、ヒトおよび非ヒト霊長類から生成され得る。ヒトおよび非ヒト霊長類の細胞から誘導された人工多能性幹(iPS)細胞もまた入手され得る(例えば、Yu et al.,Science 318(5858):1917−1920,2007;Takahashi et al.,Cell 131(5):861−872,2007;Liu et al.,Cell Stem Cell 3(6):587−590,2008を参照)。一般に、霊長類のES細胞は、ES細胞培地の存在下でマウスの胚性線維芽細胞のコンフルエントな層の上で単離される。ES細胞培地は一般に、80% ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM;ピルビン酸なし、高グルコース処方、Gibco BRL)、ならびに、20%胎仔ウシ血清(FBS;Hyclone)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Sigma)および1%非必須アミノ酸ストック(Gibco BRL)から構成される。ES細胞を、成体に存在する拘束された「多能性」幹細胞(committed “multipotential” stem cell)と区別する特徴としては、培養物において無限に未分化状態を保つES細胞の能力、そして、ES細胞が全ての異なる細胞型に発生するであろう可能性が挙げられる。ヒトES(hES)細胞は、特異的なモノクローナル抗体によって認識される、糖脂質細胞表面抗原であるSSEA−4を発現する(例えば、Amit et al.,Devel.Biol.227:271−278,2000を参照)。
【0135】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)由来のヒト肝細胞もまた、本明細書中に記載される方法において使用され得る。骨髄由来のhMSCの肝性因子への逐次的な曝露は、肝細胞の特性を持つ細胞への幹細胞の分化をもたらす(Snykers et al.BMC Dev Biol.7:24,2007;Aurich et al.Gut.56(3):405−15,2007を参照)。骨髄由来の間葉系幹細胞および脂肪組織由来幹細胞(ADSC)の肝性分化もまた記載されている(参考として本明細書中に援用されるTalens−Visconti et al.World J Gastroenterol.12(36):5834−45,2006を参照)。ヒト肝細胞はまた、単球からも生成され得る。Ruhnke et al.(Transplantation 79(9):1097−103,2005)は、最終段階まで分化した末梢血単球からの肝細胞様(NeoHep)細胞の作製を記載している。NeoHep細胞は、形態構造、肝細胞マーカーの発現、多様な分泌および代謝の機能、ならびに、薬物解毒活性に関して、初代ヒト幹細胞と似ている。さらに、羊膜細胞由来のヒト肝細胞もまた、本明細書中に記載される方法において使用され得る。
【0136】
ヒトES細胞株が存在し、そして、本明細書中に開示される方法において使用され得る。ヒトES細胞はまた、体外授精(IVF)した胚からの着床前の胚からも誘導され得る。未使用のヒトIVFにより生成された胚についての実験は、胚が14日齢未満である場合、多くの国(例えば、シンガポールおよび英国)において認められている。高品質の胚のみが、ES細胞の単離に適している。1細胞のヒト胚を拡大された胚盤胞へと培養するための培養条件は記載されている(例えば、Bongso et al.,Hum Reprod.4:706−713,1989を参照)。ヒト卵管細胞とヒト胚との同時培養は、高品質の胚盤胞の生成をもたらす。細胞同時培養または改良型の限定培地(defined medium)において増大させた、IVF由来の拡大されたヒト胚盤胞は、ヒトES細胞の単離を可能にする(米国特許第6,200,806を参照)。
【0137】
(4.Fah欠損性ブタからのヒト肝細胞の収集)
ヒト肝細胞は、当該分野で公知の多数の技術のいずれかを用いてレシピエント動物から収集され得る。例えば、ブタは、麻酔をかけられ、そして、門脈または下大動脈にカテーテルがカニューレを通して挿入され得る。次いで、肝臓が適切な緩衝液(例えば、0.5mM EGTAおよび10mM HEPESが補充されたカルシウムおよびマグネシウムを含まないEBSS)で灌流され、その後、コラゲナーゼ処置(例えば、0.1mg/mlコラゲナーゼXIおよび0.05mg/ml DNase Iを補充したEBSSの溶液を用いる)が行われ得る。肝臓は、穏やかに細かく切られ、そして、ナイロンメッシュを通して濾過され(例えば、逐次的に、70μmおよび40μmのナイロンメッシュを通す)、その後、細胞の遠心分離および洗浄が行われ得る。
【0138】
レシピエント動物から収集されたヒト肝細胞は、当該分野で周知の任意の技術を用いて、非ヒト細胞または他の交雑物(例えば、組織または細胞片)から分離され得る。例えば、このような方法としては、ヒト肝細胞に選択的に結合する抗体の使用が挙げられる。このような抗体としては、クラスI主要組織適合遺伝子抗原に特異的に結合する抗体(例えば、抗ヒトHLA−A,B,C(Markus et al.Cell Transplantation 6:455−462,1997))またはCD46に特異的に結合する抗体が挙げられるがこれらに限定されない。ヒト細胞またはヒト肝細胞に特異的な抗体は、蛍光活性化細胞分取(FACS)、パニングまたは磁気ビーズ分離を含む種々の多様な技術において使用され得る。あるいは、交雑したブタ細胞を除去し、それによって、ヒト肝細胞を富化するためにブタ細胞に選択的に結合する抗体が用いられ得る。FACSは、抗体によって結合された細胞を分離または選別するために、他のより洗練された検出レベルの中でも、複数の色チャネル、ローアングルおよび鈍角の光散乱検出チャネル(low angle and obtuse light−scattering detection channel)、ならびに、インピーダンスチャネル、を利用する(米国特許第5, 061,620号を参照)。磁気分離は、1)ヒト特異的抗体に結合体化されたか;2)ヒト特異的抗体に結合可能な検出抗体に結合体化されたか;または、3)ビオチン化抗体に結合できるアビジンに結合体化された、強磁性粒子の使用を包含する。パニングは、アガロースビーズ、ポリスチレンビーズ、中空糸膜(hollow fiber membrane)またはプラスチック製のペトリ皿のような固体マトリクスに結合させたモノクローナル抗体を必要とする。抗体によって結合される細胞は、単純に固体支持体をサンプルから物理的に分離することによって、サンプルから単離され得る。
【0139】
Fah欠損性ブタから収集した肝細胞は、例えば、後の使用のために凍結保存され得るか、または、輸送および将来的な使用のために組織培養において平板培養(plate)され得る。
【0140】
(5.ヒト肝臓の再形成)
Fah欠損性ブタは、肝臓移植の代替として、または、肝臓移植の補助として、ヒトの肝臓を再形成するために使用され得るヒト肝細胞を増殖(propagate)させるためのシステムを提供する。現在、肝疾患を罹患する患者は、移植に適した臓器が利用可能となるまでに、長期間待たなければならないかもしれない。移植後、患者は、ドナー肝臓の拒絶を回避するために、その寿命が続く間、免疫抑制剤で処置される必要がある。患者自身の細胞を増殖(propagate)させるための方法は、生存状態を維持するために免疫抑制を必要としない機能的な肝臓組織の供給源を提供し得る。したがって、本明細書中に開示されるFah欠損性ブタは、その自身の肝細胞(患者の特定の幹細胞から生成されたもの、Fah欠損性ブタにおいて増殖させたものを含む)またはドナーからの肝細胞を用いて、肝疾患および/または肝不全を有する患者の肝臓を再形成するために使用され得る。
【0141】
肝細胞の導入(また、「肝細胞移植」とも呼ばれる)による患者における肝臓組織の再形成は、肝臓移植に先行する一時的な処置、または、孤立性代謝不全(isolated metabolic deficiency)を有する患者の決定的な処置のいずれかとして、急性肝不全を有する患者にとって、可能性がある治療の選択肢である(Bumgardner et al.Transplantation 65:53−61,1998)。治療的な肝臓の再形成を達成するための主要な障害は、(宿主とドナーの細胞が遺伝的に、そして、表現型的に異なる場合)「同種移植拒絶」と呼ばれる現象である、宿主による移植された肝細胞の免疫拒絶である。免疫抑制剤は、同種移植拒絶の予防において部分的に成功するのみである(Javregui et al.,Cell Transplantation 5:353−367,1996;Makowka et al.,Transplantation 42:537−541,1986)。
【0142】
Fah欠損性ブタにおいて増殖させたヒト肝細胞はまた、遺伝子治療用途のためにも使用され得る。最も広い意味において、このような肝細胞は、遺伝的欠陥を修正するためにヒト宿主へと移植される。継代肝細胞は、必ずしも、元々移植のレシピエントとなる個体と同じ個体から誘導される必要はないが、元々移植のレシピエントとなる個体と同じ個体から誘導されることも可能である。
【0143】
一部の実施形態では、Fah欠損性ブタにおいて増殖させたヒト肝細胞は、肝臓移植の準備として、または、肝臓移植の代替として、被験体において肝臓組織を再形成するために使用され得る。1つの非限定的な例として、例えば、アルコール中毒症の結果として肝臓の進行性の変性を罹患している被験体は、後にFah欠損性ブタにおいて増殖させる肝細胞のドナーとして機能し得る。肝細胞の数は、被験体から最初に得られ、Fah欠損性ブタに移植された数と比較して増大する。増殖の後、ヒト肝細胞は、Fah欠損性ブタから単離され得、そして、被験体の肝機能を再構成するために使用され得る。Fah欠損性ブタにおける肝細胞の増殖は、肝細胞の数を増やすためだけではなく、感染性もしくは悪性の疾患に冒された肝細胞を選択的に取り除くためにも使用され得る。具体的には、被験体は、肝炎を罹患していてもよく、肝炎では、全てではないが一部の肝細胞が感染されており、感染された肝細胞は、細胞内または細胞表面上のウイルス抗原の存在によって同定され得る。このような場合、肝細胞が被験体から収集され得、そして、非感染細胞が、例えばFACSによって、1または複数のFah欠損性ブタにおける増殖のために選択され得る。一方で、患者における感染を排除するための積極的な処置も取られ得る。処置の後、被験体の肝臓組織は、1または複数のFah欠損性ブタにおいて増殖させた肝細胞によって再形成され得る。同様の方法が、HCCのような肝臓の悪性疾患を罹患する患者から、非悪性細胞を選択的に継代するために使用され得る。
【0144】
(B.HT1のブタモデル)
遺伝性1型チロシン血症(HT1)は、肝臓および腎臓を冒す重篤な常染色体劣性代謝疾患である。HT1は、ヒトの15番染色体のq23−q25およびマウスの7番染色体に位置するFah遺伝子における欠陥から生じる。HT1患者は、肝硬変に進行する幼児期からの肝臓の損傷;凝固因子の減少;低血糖症;血清血漿における高濃度のメチオニン、フェニルアラニンおよびアミノレブリン酸(aminolevulinic acid);高い肝細胞癌のリスク;ならびに、尿細管および糸球体性の腎機能不全のような多様な臨床症状を呈する。その重篤な形態では、進行性の肝損傷のパターンが幼若乳児期(early infancy)から始まる。その中等度の形態では、高いヘパトームの発生率を伴う慢性肝損傷が特徴的である。
【0145】
Fah遺伝子破壊についてホモ接合性のマウスは、肝機能障害によって引き起こされる新生児期致死性の表現型を有する。これまでに、NTBCによるFah欠損性マウスの処置が肝機能を修復し、そして、新生児期の致死性を無効にすることが実証されている(Grompe et al.,Nat Genet 10:453−460,1995)。これらの動物の延長された寿命は、肝細胞癌および線維症の発症を含むヒトのHT1に類似する表現型をもたらした。したがって、本明細書中に開示されるFah欠損性ブタは、ヒト疾患HT1の大型動物モデルを提供するものと予想される。
【0146】
現在、HT1の最も有効な治療は肝臓移植である。この処置は、かなりの合併症の発現頻度、死亡率および費用を伴う。したがって、改善された処置の方法(例えば、薬理学的な阻害または遺伝子治療)が必要とされている。本明細書中に開示されるFah欠損性ブタは、可能性あるHT1処置の有効性を評価するための大型動物モデルを提供する。本明細書では、疾患を軽減する薬剤のスクリーニング、遺伝子治療(例であるが、Fah欠損性ブタに移植されたヒト肝細胞への異種核酸配列の導入)の評価、および、食事変更の評価を含めて、多様な異なる型のHT1治療を評価するためにFah欠損性ブタを使用することが企図される。
【0147】
(C.肝疾患モデル)
上で考察されたように、動物におけるFah欠損性は、ヒト疾患HT1に類似する疾患の表現型をもたらす。致死性を予防するために、Fah欠損性動物は、肝機能障害を予防するためのNTBC投与が維持されるが、HCC、線維症および肝硬変を含むHT1型表現型の発生を促進するために、NTBCの用量の滴定(titration)が使用され得る。したがって、本明細書中に開示されるFah欠損性ブタは、HCCおよび肝硬変を含む種々の肝疾患の研究に使用され得る。
【0148】
一部の実施形態では、本明細書中に開示されるFah欠損性ブタは、ヒト肝疾患の大型動物モデルとして使用される。Fah欠損性ブタは、例えば、毒素、感染性疾患または悪性疾患または遺伝的欠陥(すなわち、HT1につながるFah欠損性)に対する曝露から生じる肝疾患のモデルとして使用され得る。Fah欠損性ブタがモデルとして機能し得るヒト遺伝性肝疾患の例としては、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高シュウ酸尿症、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿病、グリコーゲン蓄積症、リソソーム蓄積症(例えば、ゴーシェ病)、および、あらゆる先天性代謝異常が挙げられるがこれらに限定されない。開示されるモデル系は、特定の肝疾患のより良い理解を得、そして、疾患のプロセスを予防、遅延または逆行させ得る薬剤を同定するために使用され得る。
【0149】
Fah欠損性ブタが毒素によって引き起こされる肝疾患のモデルとして使用される場合、Fah欠損性ブタは、肝機能障害を予防するためにNTBCの投与が維持される。対応するヒトの状態を最もそっくり模倣する結果を生じるために必要とされる毒性因子の量は、増加用量の毒性因子に曝露された多数のFah欠損性ブタを用いることによって決定され得る。毒性因子の例としては、エタノール、アセトアミノフェン、フェニトイン、メチルドパ、イソニアジド、四塩化炭素、黄リンおよびファロイジンが挙げられるがこれらに限定されない。一部の場合、ヒト肝細胞の存在しないFah欠損性ブタは、毒素の影響を評価するためのモデルとして使用される。他の例では、Fah欠損性ブタは、ヒト肝細胞に対する毒素の影響を評価するために、ヒト肝細胞を移植される。これらの例では、Fah欠損性ブタをNTBC投与に維持する必要はない。代表的には、ヒト肝細胞の増殖は、Fah欠損性ブタが毒性因子に曝露される前に、ヒト肝細胞集団の大きさが十分となる(例えば、最大に近づいている)点へと進むことを可能にする。
【0150】
Fah欠損性ブタが悪性肝疾患(例えば、HCCまたはヘパトーム)のモデルとして使用される実施形態では、Fah欠損性ブタは、肝機能障害に起因する不慮の死を防止するために十分に高い用量のNTBCが投与されるが、その用量は、HCCまたは他の肝臓悪性疾患の発症を可能にするに十分低い。あるいは、Fah欠損性ブタは、あらゆる肝機能障害を予防する用量のNTBCに維持され得、そして、悪性疾患は、形質転換因子(transforming agent)への曝露によって、または、悪性細胞の導入によって、もたらされ得る。一部の例では、ヒト肝細胞が存在しないFah欠損性ブタは、悪性肝疾患のモデルとして使用される。他の例では、Fah欠損性ブタは、ヒト細胞の悪性肝疾患を評価するためにヒト肝細胞を移植される。これらの例では、Fah欠損性ブタをNTBCの投与に維持する必要はない。形質転換因子または悪性細胞は、ヒト肝細胞の最初のコロニー形成導入の時点、または、ヒト肝細胞が宿主動物内で増殖し始めた後に導入され得る。形質転換因子の場合、ヒト肝細胞が活発に増殖している時点で因子を投与することが好ましくあり得る。
【0151】
形質転換因子の例としては、アフラトキシン、ジメチルニトロソアミン、および0.05〜0.1%w/wのDL−エチオニンを含有するコリン不足性の食餌(Farber and Sarma,1987,Concepts and Theories in Carcinogenesis,Maskens et al.編,Elsevier,Amsterdam,pp.185−220)が挙げられる。このような形質転換因子は、動物に対して全身性に、または、肝臓自体に局所的に、のいずれかで投与され得る。悪性細胞は、肝臓へと直接接種され得る。
【0152】
(D.肝臓感染症のモデル)
Fah欠損性ブタにおいて増殖され、収集されたヒト肝細胞はまた、多様な微生物学的研究にも使用され得る。多数の病原体(例えば、細菌、ウイルスおよび寄生虫)は、ヒト宿主または初代ヒト肝細胞において複製するのみである。したがって、初代ヒト肝細胞の十分な供給源が存在することが、これらの病原体の研究にとって重要である。増殖させたヒト肝細胞は、ウイルスの感染および複製の研究のため、または、肝ウイルスの感染を調節する化合物を同定するための研究のために使用され得る。肝ウイルスの研究のために初代ヒト肝細胞を用いる方法は、例えば、欧州特許第1552740号、米国特許第6,509,514号およびPCT公開番号WO 00/17338に記載される。肝ウイルスの例としては、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)およびサイトメガロウイルス(CMV)が挙げられる。肝臓に感染する寄生虫の例としては、例えば、マラリアの原因となる因子(Plasmodium種(Plasmodium falciparum、Plasmodium vivax、Plasmodium ovale、Plasmodium malariaeおよびPlasmodium knowlesiを含む))およびリーシュマニア症の原因となる因子(Leishmania種(L.donovani、L.infantum、L.chagasi、L.mexicana、L.amazonensis、L.venezuelensis、L.tropica;L.major;L.aethiopica、L.(V.)braziliensis、L.(V.)guyanensis、L.(V.)panamensisおよびL.(V.)peruvianaを含む))が挙げられる。
【0153】
Fah欠損性ブタにおいて増殖させたヒト肝細胞を微生物学的研究に用いることに加え、Fah欠損性ブタ自体は、肝臓病原体感染症の動物モデルとして機能し得る。例えば、ヒト肝細胞で再編成された(repopulated)Fah欠損性ブタは、肝臓病原体に感染させられ、そして、感染の処置のための候補薬剤をスクリーニングするために使用され得る。候補薬剤は、低分子有機化合物のような多数の化学分類のうちのいずれか1つからの任意の化合物を包含する。候補薬剤はまた、例えば、核酸分子(アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉性RNA(small interfering RNA)、マイクロRNA、リボザイム、短いヘアピンRNA、発現ベクターなどを含む)、ペプチドおよび抗体、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、これらの誘導体、構造アナログまたは組合せのような生体分子(biomolecule)を包含する。
【0154】
候補薬剤は、合成または天然の化合物のライブラリーを含む広範な種々の供給源から入手され得る。例えば、広範な種々の有機化合物および生体分子のランダムな合成および制御された合成には、ランダム化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む多数の手段が利用可能である。あるいは、細菌、真菌、植物および動物の抽出物の形態の天然化合物のライブラリーは、利用可能であるか、または、容易に生成される。さらに、天然または合成によって生成されたライブラリーおよび化合物は、従来の化学、物理および生化学的手段によって容易に改変され、そして、コンビナトリアルライブラリーを生成するために使用され得る。構造アナログを生成するため、既知の薬理学的因子が、制御された化学修飾またはランダムな化学修飾(例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化など)に供され得る。
【0155】
HCVおよびHBVの感染を研究するため、ならびに、これらの感染の処置のための候補薬剤を評価するためのFah欠損性ブタの使用が以下に考察される。しかしながら、この方法は、関心のあるあらゆる肝臓病原体に応用され得る。一実施形態では、Fah欠損性ブタは、ウイルス感染を阻害するか、ウイルス複製を低下させるか、そして/または、HBVもしくはHCV感染によって引き起こされる1または複数の症状を軽減させる薬剤を同定するために使用される。一般に、候補薬剤は、Fah欠損性ブタに投与され、そして、この候補薬剤の効果が、コントロールに対して評価される。例えば、候補薬剤は、HCVに感染したFah欠損性ブタに投与され得、処置された動物のウイルス力価(例えば、血清サンプルのRT−PCRによって測定されるもの)が、処置前の動物のウイルス力価および/またはHCVに感染した未処置の動物と比較され得る。候補薬剤での処置後の感染動物のウイルス力価における検出可能な減少は、その薬剤の抗ウイルス活性を示している。
【0156】
候補薬剤は、薬剤の送達に適した任意の適切な様式で投与され得る。例えば、候補薬剤は、注入(例えば、静脈内注入、筋肉内注入、皮下注入、または、標的組織への直接注入)、注射(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、または、標的組織への直接注射)、経口、または、任意の他の所望される手段によって投与され得る。一部の場合、インビボスクリーニングは、多様な量および濃度の候補薬剤(薬剤なしから、動物に安全に送達され得る上限量に達する薬剤の量まで)を投与される多数のFah欠損性ブタを必要とし、そして、異なる処方物および経路における薬剤の送達を包含し得る。候補薬剤は、単独で、または、特に、薬剤の組合せの投与が相乗作用を生じ得る場合には、2種以上の組合せで投与され得る。
【0157】
候補薬剤の活性は、当該分野で公知の種々の手段のいずれか1つを用いて評価され得る。例えば、Fah欠損性ブタが肝指向性病原体(例えば、HBVまたはHCV)に感染される場合、薬剤の効果は、病原体の存在について血清サンプルを(例えば、ウイルス力価を測定する)、または、病原体の存在に関連するマーカー(例えば、病原体特異的なタンパク質またはコードする核酸)を検査することによって評価され得る。ウイルス感染の存在および重篤度を検出および評価するための定性的および定量的な方法は当該分野で周知である。一実施形態では、HBV感染に対する薬剤の活性は、ウイルス抗原(例えば、HBV表面抗原(HBsAg)またはHBVコア抗原(HbcAg))の存在について血清サンプルおよび/または組織切片を検査することによって評価され得る。別の実施形態では、ウイルス感染に対する薬剤の活性は、ウイルス核酸(例えば、HCV RNA)の存在について血清サンプルを検査することによって評価され得る。例えば、HCV RNAは、例えば、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、競合的RT−PCRもしくは分枝鎖DNA(bDNA)アッセイ、RT−PCRによるネガティブ鎖RNA(HCVの複製中間体)の検出、または、治療によるウイルスゲノムにおける変異/シフト(「類似種進化(quasispecies evolution)」)を検出するためのウイルスRNAの配列決定を用いて検出され得る。あるいは、または加えて、宿主の肝臓が収集され、そして、組織切片におけるウイルス粒子の量のあらゆる定性的または定量的な変化を直接示すためにインサイチュRT−PCRハイブリダイゼーションが行われ得る。あるいは、または加えて、宿主を安楽死させて、そして、肝臓が、感染および/または薬剤によって引き起こされる毒性の徴候について組織学的に検査され得る。
【0158】
Fah欠損性ブタはまた、肝指向性病原体による感染を予防または改善する能力について、候補ワクチンをスクリーニングするためにも使用され得る。一般に、ワクチンは、投与後に、標的病原体に対する免疫応答の開始において宿主を助長する因子である。誘発される体液性、細胞性または体液/細胞性免疫応答は、その病原体に対するワクチンが開発された病原体による感染の阻害を促進し得る。本開示において特に関心があるのは、肝指向性病原体(例えば、微生物、ウイルスまたは寄生虫の病原体)、特に、ウイルス病原体(例えば、HBVおよび/またはHCV)による感染、および/または、その肝臓内での複製を阻害する免疫応答を誘発するワクチンである。
【0159】
候補ワクチンを評価するために、Fah欠損性ブタは、ヒト肝細胞でブタの肝臓を再編成する(repopulate)ためにヒト肝細胞を移植される。有効なワクチンのスクリーニングは、上記したスクリーニング法と類似している。一部の実施形態では、候補ワクチンは、肝指向性病原体を接種される前にFah欠損性ブタに投与される。一部の場合、候補ワクチンは、単回ボーラス(single bolus)(例えば、腹腔内もしくは筋肉内の注射、局所投与または経口投与)を提供することによって投与され、その後、必要に応じて、1もしくはは複数回の追加免疫が行われる。免疫応答の誘導は、当該分野で周知の方法にしたがって、抗原/ワクチンに特異的なB細胞およびT細胞応答を検査することによって評価され得る。次いで、免疫されたFah欠損性ブタは、肝指向性病原体でチャレンジされる。代表的には、数匹の免疫した動物が増大する力価の病原体でチャレンジされる。次いで、これらの動物は、感染の発生について観察され、そして、感染の重篤度が評価される(例えば、存在する病原体の力価を評価するか、または、ヒト肝細胞機能のパラメーターを検査することによって)。病原体による感染の有意な減少および/またはチャレンジ後に生じる疾患の重篤度の有意な低下をもたらすワクチン候補は、実用的なワクチンとして同定される。
【0160】
(E.薬理学的、毒性学的、および遺伝子治療の研究)
Fah欠損性ブタ、および/または、Fah欠損性ブタにおいて増殖させ、収集されたヒト肝細胞は、あらゆる薬理学的化合物(例えば、低分子、生物学的因子(biologicals)、環境的毒素もしくは生物学的毒素、または遺伝子送達系)による、ヒト肝細胞における遺伝子発現の変化を評価するために使用され得る。
【0161】
例えば、Fah欠損性ブタにおいて増殖させ、収集されたヒト肝細胞は、ヒト細胞における特定の化合物の毒性を評価するために使用され得る。単離された肝細胞において化合物の毒性を調べる方法は当該分野で周知であり、例えば、PCT公開番号WO 2007/022419に記載される。同様に、ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタは、外因性因子の毒性を評価するために使用され得る。一部の実施形態では、外因性因子は、既知の毒素または疑わしい毒素である。
【0162】
一部の実施形態では、ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタ(または、Fah欠損性ブタにおいて増殖させ、収集されたヒト肝細胞)は、薬物代謝および薬物動態の多数のパラメーターのいずれか1つを評価するために使用される。例えば、薬物代謝、インビボでの薬物/薬物相互作用、薬物の半減期、排泄/解毒の経路、尿、糞便、胆汁、血液もしくは他の体液中の代謝物、シトクロムp450の誘導、腸肝再循環、および、酵素/トランスポーターの誘導を評価するための研究が行われ得る。
【0163】
一部の実施形態では、ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタ(または、Fah欠損性ブタにおいて増殖させ、収集されたヒト肝細胞)は、化合物(治療剤または候補薬剤(例えば、低分子または生物学的因子(biologicals))、環境的毒素もしくは生物学的毒素、または遺伝子送達系を含む)の毒性学および安全性を評価するために使用される。例えば、化合物への曝露後の癌のリスクを決定するなどのために、ヒト肝細胞における細胞周期増殖が評価され得る。肝細胞に対する毒性もまた、例えば、組織学、アポトーシス指数(apoptosis index)、肝機能検査などによって評価され得る。肝細胞代謝の解析(例えば、安定同位体前駆体の感染後の代謝の解析)もまた、実施され得る。
【0164】
特定の薬物の有効性もまた、ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタにおいて評価され得る。このような薬物としては、例えば、高脂質血症/アテローム性動脈硬化症、肝炎およびマラリアを処置するための薬物が挙げられる。
【0165】
一部の実施形態では、ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタ(または、Fah欠損性ブタにおいて増殖させ、収集されたヒト肝細胞)は、遺伝子治療のプロトコールおよびベクターを研究するために使用される。例えば、以下のパラメーターが評価され得る:ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを含む遺伝子送達ビヒクルの形質導入効率;遺伝子ペイロード(genetic payload)の組込み頻度および位置(組込み部位の解析);遺伝子ペイロードの機能性(遺伝子の発現レベル、遺伝子のノックアウト効率);ならびに、遺伝子ペイロードの副作用(インビボでのヒト肝細胞における遺伝子発現またはプロテオミクスの解析)。
【0166】
以下の実施例は、特定の具体的な特徴および/または実施形態を説明するために提供される。これらの実施例は、記載される特定の特徴または実施形態に対する開示を制限するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0167】
実施例1:Fah+/−ヘテロ接合性ブタの作製
(標的化構築物の作製)
Fah遺伝子ノックアウト構築物を、ブタゲノムDNAから作製したFah遺伝子のエクソン5の2つの1.5kb相同性アームの間にインフレームの終止コドンおよび1.7kbネオマイシン耐性カセット(PGK−neo)を挿入することによって作製した。本明細書中に記載されるように、配列番号1は、ブタにおけるFah遺伝子のエクソン5周辺の20kbの配列のヌクレオチド配列を提供する。この配列は、配列コンティグ番号bE383A3.00171(Genbank ID CU468492)およびbE16F4.00696(Genbank ID CU467891)を用いて、予備ドラフト配列から導いた。
【0168】
上記PGKプロモーターは普遍的に活性であり、このプロモーターはブタ線維芽細胞において機能することが示された。この戦略は、CFTRヌルのブタの作製(Welsh et al.,Trans Am Clin Climatol Assoc 120:149,2009;Rogers et al.,Science 321:1837,2008)に類似している。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターとの相同的組換えの頻度は、標的化事象が挿入であり、かつゲノム配列の欠失を含まない場合、顕著に高い。AAVキャプシドのパッケージング限界は4.7kbであり、それゆえこの構築物は、図2に示されるように、各々1.5kbの2つの相同性アームと、1.7kbのPGK−neoカセットとを含む(1.7+1.5+1.5=4.7)。
【0169】
ゲノムDNAから2つの1.5kbの相同性アームを作製するために、PCRを使用してゲノムDNAを増幅した。標的化ベクター作製のために使用した戦略を、図3Aに図示する。エクソン5内に位置するPCRプライマーは、終止コドンを導入したテイルと、PGK−neo発現ベクターへの簡易ライゲーションを容易にした制限酵素部位とを含むように設計した。次いで、唯一の制限酵素部位を、5’および3’相同性アームについて使用した。標的化構築物を作製するためのこのPCRベースの戦略は、単純(straightforward)であった。以下のクライテリアに基づいて、エクソン5を挿入のために選択した:a)PCRプライマーを設計するために十分に高い質の隣接ゲノムDNAからの配列が存在した、およびb)ゲノム配列のこの領域は、ヒトおよびマウスのFah遺伝子を比較した場合に高度に保存されている。さらに、本発明者らによって以前に作製されたマウスFahノックアウトがエクソン5挿入であるため、エクソン5が好ましかった。標的化ベクターのための相同性アームを増幅するのに使用されたプライマー配列は、以下に提供される。
【0170】
上記標的化ベクターの左アームを増幅するためのプライマーは:
フォワードプライマー−GTAGCGAATTCGCGGCCGCGCAATGTTTTGCTAATTTCTGC(配列番号2)
リバースプライマー−GGATAGAATTCCTGCCGGGAGGAATAGAAGT(配列番号3)
上記標的化ベクターの右アームを増幅するためのプライマーは:
フォワードプライマー−GTAGCAAGCTTCACGCCACAAACGTCGGAGT(配列番号4)
リバースプライマー−GGATAAAGCTTGCGGCCGCACTCTTCCACCAGCAAGCAT(配列番号5)
上記標的化ベクターの中央セグメント(ネオマイシンを含む)を増幅するためのプライマーは:
フォワードプライマー−GTAGCGAATTCTGATCTACCGGGTAGGGGAGGCG(配列番号6)
リバースプライマー−GGATAAAGCTTTAGAACTAGTGGATCTCGAG(配列番号7)。
【0171】
いったん全長4.7kbの標的化構築物が作製されると、それをAAV2骨格中にクローン化し、それによってウイルスパッケージングのために必要とされる逆方向末端反復(ITR)配列をこれに提供する(図3A)。この最終的な標的化構築物を、正確性について確実にするために、最終AAVベクターの産生前に配列決定した。AAV33と命名されたこの標的化構築物のヌクレオチド配列は、本明細書中で配列番号8として記載される。
【0172】
(AAVベクターの産生)
本研究において使用されたAAVパッケージングヘルパーは、AAV2、AAV5およびAAV8キャプシドタンパク質、ならびにAAV2 repタンパク質を含むハイブリッドキャプシドを発現する(Grimm et al.,J Virol 82:5887,2008)。AAV−DJ標的化ベクターを、標準的なリン酸カルシウムトリプルトランスフェクション法によって作製した。この方法は、HEK293細胞の、等量の以下のプラスミドでの形質導入を含んだ:AAV2repおよびAAV−DJキャップ遺伝子を含むAAVパッケージングヘルパー、アデノウイルスヘルパーpladeno5、ならびにAAV標的化構築物(図3A)。全プロジェクトのために使用され得る多数のウイルス調製物(prep)(1013粒子)を作製するために、293細胞の150mmプレート30枚を調製した。3つ全てのプラスミドの細胞へのトランスフェクション後、粗AAV粒子抽出物を、293細胞を凍結および溶解の複数ラウンドに供することによって調製した。ウイルス調製物の粗抽出物を、胎仔線維芽細胞に感染および標的化するために使用した。
【0173】
(ゲノム型決定構築物の作製)
正確に標的化された線維芽細胞クローンの迅速な検出は、頑強かつ迅速なスクリーニング法を必要とする。注意深く最適化されたPCRベースのスクリーニング戦略を作製した。一方のプライマーをPGK−neoカセット内に配置し、他方を1.5kbの標的化相同部位の外側かつFah遺伝子の中に配置する(図3Bを参照のこと)。このスクリーニング法のために使用されたプライマー配列は、以下に提供される。
【0174】
5’末端における正確な標的化を判定するためのプライマーは:
フォワードプライマー−GAACCCAAATTCTCATGGATACC(配列番号9)
リバースプライマー−CTAAAGCGCATGCTCCAGAC(配列番号10)
3’末端における正確な標的化を判定するためのプライマーは:
フォワードプライマー−ATTGCATCGCATTGTCTGAG(配列番号11)
リバースプライマー−TATGCCTCCTGATCCTAAATCTTCC(配列番号12)。
【0175】
Fah遺伝子座が相同的組換えによって正確に標的にされると、このプライマーの組み合せは、約1.6kbフラグメントを与え、一方プラスミドが不規則に組み込まれると増幅は起こり得ない。このPCRフラグメントは、少量のゲノムDNAを用いて確実に作製され得る。
【0176】
上記スクリーニング戦略は、第一に、正確に標的化された遺伝子座と同じ配列を含むプラスミドを作製することによって、実証した。このプラスミド構築物を、カルシウム沈殿およびG418選抜を使用して、コントロールのブタ胎仔線維芽細胞のゲノムDNA内に挿入した。これらのコントロール細胞由来のDNAを、次いで、PCR条件を最適化するために使用した。コントロールプラスミドを構築するために、標的化構築物を作製するために使用されたものと非常に類似しているが、わずかにより大きな相同性アームを用いるPCR反応を行い、その結果、標的化相同性アームの外側のDNA配列が示される(represented)。さらなる400bpのゲノム配列を含む、1.5kbの代わりに1.9kbのサイズの相同性アームを作製した。これらのより大きな相同性アームを、標的化構築物自体と同様にPGK−neoカセット内にライゲーションした(図3)。いったん構築されると、プラスミドを化学的にブタ胎仔線維芽細胞株内に形質導入し、その後G418選抜によってPGK−neoが組み込まれたクローンを単離した。数個のG418耐性クローンを拾い、増殖させ、そしてゲノムDNAを単離した。次いで、このDNAを使用して、強いシグナルを得ることができるまで、プライマーの組み合わせおよびPCRサイクル条件を試験した。これらの正確な条件を、胎仔線維芽細胞にAAV−DJ標的化ベクターを感染させることによって得られたG418耐性クローンをスクリーニングするために使用した。
【0177】
(胎仔線維芽細胞における遺伝子標的化およびスクリーニング)
このプロジェクトのクローニング工程における成功を確実にするためには、複数の独立した標的化雄性胎仔線維芽細胞株および雌性胎仔線維芽細胞株を作製することが必要であった。クローニング効率(核移植によって胚を生成する能力)は細胞株ごとに高度に変動し、予想できないことから、このことが必要であった。また、ブタの群れにおけるFah遺伝子の外側の遺伝的多様性を確立することが重要である。PCRおよびサザンブロットを使用して、本発明者らは、複数の雌性胎仔線維芽細胞株および雄性胎仔線維芽細胞株の正確な標的化を確認した(図4)。
【0178】
複数のモノクローナル線維芽細胞を、35日齢のブタ胎仔(Exemplar Genetics,Iowa)から得た。全てのスクリーニング戦略を、これらの細胞株において実施した。これらの線維芽細胞についての培養条件は、低酸素(1% O)における標準的な培地(DMEM+15%胎仔子ウシ血清)を含んだ。低Oは、遺伝的損傷を最小限にし、かつクローニング能(clonability)を最大化するためである。Y染色体特異的配列を探すためのPCRを実施し、どの細胞株が雄性クローンを生成し、そしてどの細胞株が雌性クローンを生成するか同定した。
【0179】
AAVによる標的化効率は、代表的に、0.1%〜1%の範囲である。したがって、遺伝子標的化のために、個々の胎仔由来の100万個の細胞を100mm皿上で、500の感染多重度(MOI)で上記AAV−DJ標的化ベクターで感染させ、上記PGK−neo構築物が安定に組み込まれた約1,000個のneo耐性クローンを得た。これらのうち、1〜10クローンが、正しい標的化を有すると予測した。組換えノックアウト構築物を使用すると、標的化効率はずっと高く、1〜10%の範囲であることを見出した。
【0180】
感染から6時間後、感染した細胞をトリプシン処理し、100μg/mlの濃度(ブタ胎仔線維芽細胞に対して最適濃度)でG418を含む培地において、10枚の96ウェルコラーゲンコーティングプレート(960ウェル)に分配した。neo耐性カセットを組み込んだ約1,000個の胎仔線維芽細胞クローンの存在を前提とすると、約1/3の細胞がクローンを含み、増殖を示した。この低密度により、おそらく各ウェルが独立したクローンを含むことを確実にした。G418培地での12〜14日の増殖後、細胞増殖(G418耐性)を示す任意のウェルをトリプシン処理し、その含有物を3様に分けた:1)細胞の20%を将来の使用のために速やかに凍結した(この早期継代ストックを増殖させ、クローニングに使用するためにExemplar Geneticsに送った);2)細胞の70%を、DNA抽出、PCR遺伝子型決定、および標的化の検出のために使用した;3)細胞の残りの10%を、培養中での短期間(4〜7日)再増殖のために、新しいコラーゲンコーティング96ウェルプレートに移した。次いで、これらの細胞を、サザンブロッティングによる遺伝子標的化の確認のために、100mm皿上でさらに増殖させた。
【0181】
各クローンのDNAを、上記のPCRアッセイによってスクリーニングした。これらのクローンを短期間再増殖させながら、全ての線維芽細胞をスクリーニングした。これは、800回〜2000回のPCRが実施され、非常に短時間で分析されたことを意味する。所定のウェルが陽性の結果を有した場合、対応する細胞を24ウェルプレート、次いで6ウェルプレートに連続継代し、最後に100mm皿に継代した。この細胞を回収し、アリコートを凍結して、残りをDNA用に処理した。次いで、そのDNAのサザンブロッティングを使用して、Fah遺伝子座の構造を試験し、正確な遺伝子標的化を確認した。いったん所定のクローンについて標的化が確認されると、上記速やかに凍結されたストックをクローニングのために確保した。この凍結細胞を、ブタのクローニングのためにExemplar Genetics(http://exemplargenetics.com/)に輸送した。
【0182】
(体細胞核移植技術(SCNT)によるトランスジェニック胎仔線維芽細胞由来の新生仔Fah+/−ヘテロ接合性ブタの産生)
現在、SCNTは、本明細書中に開示されるFAH欠損性ブタのようなトランスジェニックブタの産生のための最も効率的な技術である。図5において、このSCNT手順が図示され、胎仔線維芽細胞から新生児Fah+/−ブタを作製するための概略がまとめられている。簡潔には、まず成熟卵母細胞を雌性ブタから単離した。次いで、これらの卵母細胞を、標的化された胎仔線維芽細胞との融合のすぐ直前の時間までインビトロで培養した。次いで、中期2において除核した卵母細胞を、ドナー線維芽細胞と融合させ、所望のノックアウト胚を作製した。次いで、これらの胚を、活性化された(activated)レシピエントの雌ブタに移した。15日のプロゲステロン治療および2日のFSH−HCG(卵胞刺激ホルモン−ヒト絨毛性ゴナドトロピン)治療の後、レシピエントの雌ブタにおける排卵からおよそ48時間後に、移植を調整した。約115日の妊娠期間後、SCNTから生じた仔ブタが生まれた。全ての仔ブタにPCRおよびサザンブロットスクリーニングを行い、そのFah+/−の状態を確認した。結果は、5匹の仔ブタ中5匹が正確に標的化されたことを実証した。
【0183】
(実施例2:Fah−/−ホモ接合性ブタを作製するためのFah+/−ブタヘテロ接合性ブタの交配)
Fah+/−ヘテロ接合性ブタを交配させて、遺伝性1型チロシン血症(HT1)を効果的に有するFah−/−ホモ接合性ノックアウト動物を作製する。遺伝性1型チロシン血症(HT1)は、FAH(チロシン分解の最後の段階の触媒)欠損から生じる常染色体劣性先天性代謝異常である。遺伝性1型チロシン血症(HT1)は、ヒトにおいて肝硬変および肝細胞癌(HCC)の早期発症によって特徴付けられる(Russoら,Am J Hum Genet 47:317,1990)。Fah−/−ホモ接合性ノックアウトマウスは、以前に作製されている(Grompeら,Genes Dev 7:2298,1993)。これらの動物は、妊娠の間および出生直後にNTBCで処置しない限り、肝不全により死亡する(Grompeら,Nat Genet 10:453,1995)。最適に及ばない(suboptimal)NTBC用量を与えた場合、Fah−/−マウスは、肝細胞癌(HCC)および線維症を発症する(Al−Dhalimyら,Mol Genet Metab 75:38,2002;Vogelら,Hepatology 39:433,2004)。本明細書において開示されるヒト遺伝性1型チロシン血症(HT1)のブタモデルは、顕著な進歩であり、肝硬変および肝細胞癌(HCC)の研究のためのツールであると、予期される。このモデルは、これよりも十分ではない他のモデルにおいては達成し得ない、硬変性肝不全および肝細胞癌(HCC)を処置するために使用される新規治療の開発および試験を可能にする。重要なことには、このモデルにおける肝損傷の程度は、NTBCの用量およびその投与時期を用いて決定(titrate)し得る。このことは、この疾患を有するマウスおよびヒトにおいて示されている。いったん肝硬変または肝細胞癌(HCC)が確立された後、その動物に、完全に治療用量のNTBC(または類似化合物)を与えて、外科手術および他の介入のためにその動物の健康を安定させ得る。
【0184】
さらに、本明細書において開示される遺伝性1型チロシン血症(HT1)のブタモデルは、ヒト肝細胞による再増殖が容易であり、従って、この重要な細胞型の大規模増殖の系を示すと、予期される。さらに、代替療法(例えば、子宮内細胞移植または出生後細胞移植)が、遺伝性代謝障害(例えば、遺伝性1型チロシン血症(HT1))の処置において依然として必要とされている。大型動物モデルが利用可能であることによって、これらの代替療法の開発が促進される。
【0185】
(Fah+/−ヘテロ接合性ブタを交配し、Fah−/−ホモ接合性を同定する)
Fah−/−ホモ接合性を作製するために、SCNT手順から得たヘテロ接合性ブタを交配させる。8匹のブタ(6匹の雌および2匹の雄)を使用して、Fah−/−ブタの群れを確立する。まずこの群れを、ヘテロ接合性動物を交配させた後に遺伝的に離れたブタと交配させることによって拡大させ、この群れの遺伝的多様性を増加させかつホモ接合性Fah−/−ブタをNTBC治療において維持するコストを低減させる。この子孫のFah遺伝子の状態を、既に開発済みであるPCRおよびサザンブロットをベースとする遺伝子型決定アッセイによって決定する。ヒトにおける観察事項(observation)およびトランスジェニックFahノックアウトマウスを用いる研究に基づけば、新たに作製されたFah−/−ホモ接合性ブタは、保護薬物であるNTBCを補充しなければ急性肝不全により早期に死亡すると、予期される。肝不全、肝細胞癌および肝硬変の発症を予防するために、用量1mg/kg/日をヒトおよびマウスにおいて使用する。Fah−/−胎仔を受胎した妊娠雌ブタを、妊娠後半期に約55日目から開始してNTBC処置する。新生仔ブタはすべて用量1mg/kg/日のNTBCでその生を始め、遺伝子型決定が完了するまで続ける。いったん遺伝子型決定が完了した後は、ホモ接合性ブタを研究して、その表現型ならびに硬変性肝不全および肝細胞癌(HCC)の発症を特徴づけ得る。
【0186】
(Fah−/−ブタにおける肝不全、肝硬変、および肝細胞癌の発症に対するNTBCの用量応答を相関付ける)
いったん遺伝子型決定が完了した後、ブタにおけるFah−/−ホモ接合性表現型を適切に特徴付け得る。最適に及ばない(suboptimal)NTBC用量である0.2mg/kg/日によって、マウスは生存可能であるが、生存期間の最初の6ヶ月に50%を超える高い浸透率(penetrance rate)で肝細胞癌を発症させる。これらの観察事項に基づけば、Fah−/−ホモ接合性ノックアウトブタの表現型を、0mg/kg/日〜1mg/kg/日の範囲にある用量のNTBCの影響下で評価する。肝硬変、肝細胞癌、または肝不全のエビデンスが1mg/kg/日の用量で生じる場合には、それよりも大きなNTBC用量を検討する。ブタを、0mg/kg/日〜0.1mg/kg/日〜0.2mg/kg/日〜0.5mg/kg/日〜1.0mg/kg/日の範囲にある日用量のNTBCで処置する。適切なNTBC用量は、血漿スクシニルアセトン(SA)または尿スクシニルアセトン(SA)をマーカーとして使用して、用量設定(titrate)し得る。スクシニルアセトン(SA)は、正常な体液においては見出されず、遺伝性1型チロシン血症(HT1)について特有症候である(Grompe,Semin Liver Dis 21:563,2001)。チロシン血症の程度をモニターするために、血漿アミノ酸レベルを決定する。肝損傷のマーカーを追跡するために、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベル、アルカリホスファターゼレベル、およびビリルビンレベルを得る。血液凝固を測定して、合成肝不全(synthetic liver failure)の程度を決定する。さらに、α−フェトタンパク質レベルを、腫瘍発生(肝細胞癌)の尺度として得る。ホモ接合性研究用動物を、3ヶ月目、6ヶ月目、および9ヶ月目に屠殺し、その肝臓および他の内部器官を、剖検において原発性腫瘍および転移性腫瘍のエビデンスについて調べる(表1)。このモデルの適切な特徴付けは、肝硬変、肝細胞癌(HCC)、遺伝性1型チロシン血症(HT−1)の研究においてFah−/−ホモ接合性ノックアウトブタを使用することを意図された将来の研究のために有益である。
【0187】
【表1】

(ヒト肝細胞を用いる再増殖)
いったんFah−/−ブタが利用可能になりかつ適切なNTBC用量を決定した後、ヒト肝細胞を用いてそのFah−/−肝臓を再増殖するための実験を行う。2つの一般的なアプローチ((1)免疫前胎仔移植、および(2)免疫抑制を伴う出生後移植)を採用する。
【0188】
免疫前胎仔移植において、NTBCを与えながらFah−/−ブタを互いに交配させて、完全にFah−/−胎仔からなる妊娠体(pregnancy)を生じる。妊娠35日目に、それらの胎仔を外科的に外部に取り出し(externalize)、その臍静脈中に300,000個のヒト肝細胞を注射する。妊娠中のこの時点で、免疫系は未だ発生しておらず、ヒト細胞に対する寛容が生じる。免疫抑制薬物適用は必要ない。それらの妊娠体(pregnancy)には、NTBCを与え続ける。出生後、生着した仔ブタからNTBCを打ち切り、ヒト肝細胞の増殖を可能にさせる。
【0189】
出生後移植において、出生後にNTBCを与えながら、肝動脈経由、脾臓内注射経由、または門脈経由で、Fah−/−仔ブタにヒト肝細胞を移植する。免疫抑制薬物を与え、これは、移植の2日前に開始した後、無期限に継続する。その後、マウスでは成功した(Azumaら,Nat Biotechnol 25:903,2007;国際公開第2008/151283号)通り、NTBCを停止して、ブタ肝臓におけるヒト肝細胞の増殖を可能にさせる。
【0190】
開示された発明の原理が適用され得る可能性がある多くの実施形態を考慮すれば、示された実施形態は本発明の好ましい実施形態に過ぎず、そして本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことが、認識されるべきである。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって規定される。従って、本出願人は、これらの特許請求の範囲の範囲および趣旨の内に生じるすべてを、本出願人の発明として主張する。
【配列表フリーテキスト】
【0191】
(配列表)
添付の配列表に列挙される核酸配列は、米国特許法施行規則第1.822規則(37 C.F.R. 1.822)において規定されるように、ヌクレオチド塩基に関する標準的な略語文字を使用して示される。各核酸配列の一方の鎖のみが示されるが、提示された鎖に対するあらゆる言及によって相補鎖が含まれると理解される。添付の配列表において、
配列番号1は、ブタFah遺伝子の20kb領域のヌクレオチド配列である。
【0192】
配列番号2〜配列番号7は、Fah遺伝子標的化構築物を作製するために使用されるPCRプライマーのヌクレオチド配列である。
【0193】
配列番号8は、Fah遺伝子標的化構築物AAV33のヌクレオチド配列である。
【0194】
配列番号9〜配列番号12は、Fah遺伝子座の適切な標的化についてスクリーニングするために使用されるPCRプライマーのヌクレオチド配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビボにおいてヒト肝細胞を増殖させる方法であって、該方法は、Fah欠損性ブタにヒト肝細胞を移植する工程、および、該ヒト肝細胞を増殖させる工程を包含し、それによって、該ヒト肝細胞を増殖する、方法。
【請求項2】
前記ヒト肝細胞が、少なくとも約2週間、少なくとも約4週間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間または少なくとも約8ヶ月間増殖させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Fah欠損性ブタが、ヒト肝細胞移植の前に、肝機能障害を予防するに十分な用量の2−(2−ニトロ−4−トリフルオロ−メチル−ベンゾイル)−1,3シクロヘキサンジオン(NTBC)を投与される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記Fah欠損性ブタが、肝細胞移植後、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、または少なくとも6日間、NTBCをさらに投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
NTBCが、前記Fah欠損性ブタに対して、1日あたり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgの用量で投与される、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
NTBCが、前記Fah欠損性ブタに対して、1日あたり約1mg/kgの用量で投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記Fah欠損性ブタが免疫抑制状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫抑制が、1または複数の免疫抑制剤の投与の結果である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1または複数の免疫抑制剤が、FK506、シクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノレート、プレドニゾン、ラパマイシンおよびアザチオプリン、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1または複数の免疫抑制剤が、ヒト肝細胞移植の少なくとも約2日前に、前記Fah欠損性ブタに対して投与される、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト肝細胞が、前記Fah欠損性ブタの肝動脈、脾臓、門脈への注入によって移植される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記Fah欠損性ブタが、Fah遺伝子におけるホモ接合性の破壊を含み、該破壊が機能的なFAHタンパク質の発現の欠如をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記破壊が、前記Fah遺伝子における挿入、欠失、または、1もしくはは複数個の点変異である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記破壊が挿入である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記挿入が終止コドンを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記挿入が選択マーカーを含む、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記Fah欠損性ブタに移植される前記ヒト肝細胞が、単離されたヒト肝細胞である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記増殖させたヒト肝細胞を、前記Fah欠損性ブタから収集する工程をさらに包含する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記収集したヒト肝細胞を継代移植によって増殖させる工程をさらに包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法によって収集された、単離されたヒト肝細胞。
【請求項21】
インビボにおいてヒト肝細胞を増殖させる方法であって、該方法は、Fah欠損性ブタの胎仔にヒト肝細胞を移植する工程、および、該Fah欠損性ブタの出生後に該ヒト肝細胞を増殖させる工程を包含し、それによって、該ヒト肝細胞を増殖する、方法。
【請求項22】
前記ヒト肝細胞が、少なくとも約2週間、少なくとも約4週間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間または少なくとも約8ヶ月間増殖させられる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記Fah欠損性ブタ胎仔が、前記ヒト肝細胞を移植するために外科的に取り出される、請求項21または請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒト肝細胞が、前記ブタの妊娠から約30日目〜約40日目に移植される、請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒト肝細胞が前記ブタの妊娠から約35日目に移植される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒト肝細胞が、前記Fah欠損性ブタ胎仔の臍静脈への注入によって移植される、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
約100,000個〜約500,000個のヒト肝細胞が注入される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
約300,000個のヒト肝細胞が注入される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記Fah欠損性ブタ胎仔を受胎している雌ブタが、NTBCを投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記Fah欠損性ブタが、生後約1日間〜約6日間、NTBCを投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記Fah欠損性ブタが、生後約2週間〜約6ヶ月間、NTBCを投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
NTBCが、1日あたり約0.2mg/kg〜約2.0mg/kgの用量で投与される、請求項30または請求項31に記載の方法。
【請求項33】
NTBCが、1日あたり約1mg/kgの用量で投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記Fah欠損性ブタ胎仔に移植される前記ヒト肝細胞が、単離されたヒト肝細胞である、請求項21〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記ブタの出生後に、前記Fah欠損性ブタに追加のヒト肝細胞を移植する工程をさらに包含する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記増殖させたヒト肝細胞を、前記Fah欠損性ブタから収集する工程をさらに包含する、請求項21〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記収集したヒト肝細胞を継代移植によって増殖させる工程をさらに包含する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項36に記載の方法によって収集された、単離されたヒト肝細胞。
【請求項39】
遺伝子改変Fah欠損性ブタであって、該ブタのゲノムがFah遺伝子における破壊についてホモ接合性であり、その結果、該破壊が、機能的なFAHタンパク質の発現の欠如をもたらし、ここで、該ブタは肝機能の低下を示す、遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項40】
前記破壊が、前記Fah遺伝子における挿入、欠失、または、1もしくはは複数個の点変異である、請求項39に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項41】
前記破壊が挿入である、請求項40に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項42】
前記挿入が終止コドンを含む、請求項41に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項43】
前記挿入が選択マーカーを含む、請求項41または請求項42に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項44】
前記ブタが移植されたヒト肝細胞を含む、請求項39に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項45】
前記ブタが免疫抑制状態である、請求項39に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項46】
前記免疫抑制が、1または複数の免疫抑制剤の投与の結果である、請求項45に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項47】
前記1または複数の免疫抑制剤が、FK506、シクロスポリンA、フルダラビン、ミコフェノレート、プレドニゾン、ラパマイシンおよびアザチオプリン、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項46に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項48】
ヒト肝疾患の処置に有効な薬剤を選択するための方法であって、該方法は、以下:
(i)請求項39に記載のFah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程;および
(ii)該肝疾患に対する該候補薬剤の効果を評価する工程であって、ここで、該肝疾患の1以上の徴候もしくは症状における改善は、該候補薬剤が該肝疾患の処置に有効であることを示す、工程
を包含する、方法。
【請求項49】
前記ヒト肝疾患がヒト肝臓病原体による感染である請求項48に記載の方法であって、該方法は、以下:
(i)ヒト肝細胞を移植されたFah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、ここで、該Fah欠損性ブタの該移植されたヒト肝細胞は、該肝臓病原体に感染している、工程;および
(ii)該肝臓感染症に対する該候補薬剤の効果を評価する工程であって、ここで、該候補薬剤の投与前の該Fah欠損性ブタにおける感染負荷量と比較した、該肝臓病原体の感染負荷量の減少は、該候補薬剤が該肝臓病原体による感染の処置に有効であることを示す、工程
を包含する、方法。
【請求項50】
前記感染負荷量は、前記ブタから得たサンプル中の前記病原体の力価を測定することによって決定される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記感染負荷量は、前記ブタから得たサンプル中の病原体特異的な抗原を測定することによって決定される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記感染負荷量は、前記ブタから得たサンプル中の病原特異的な核酸分子を測定することによって決定される、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記肝臓病原体が肝指向性ウイルスである、請求項49〜52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記肝指向性ウイルスがHBVまたはHCVである、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記ヒト肝疾患が肝硬変である請求項48に記載の方法であって、該方法は、以下:
(i)Fah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、ここで、該Fah欠損性ブタは、該ブタにおいて肝硬変の発症をもたらす用量でNTBCを投与されている、工程;ならびに
(ii)該Fah欠損性ブタにおける少なくとも1種の肝硬変の診断マーカーに対する該候補薬剤の効果を評価する工程であって、ここで、該少なくとも1種の肝硬変の診断マーカーは、AST、ALT、ビリルビン、アルカリホスファターゼおよびアルブミンから選択され、そして、該候補薬剤の投与前の該Fah欠損性ブタと比較した、該Fah欠損性ブタにおけるAST、ALT、ビリルビンもしくはアルカリホスファターゼの減少、または、アルブミンの増加は、該候補薬剤が、肝硬変の処置に有効であることを示す、工程
を包含する、方法。
【請求項56】
前記Fah欠損性ブタにおいて肝硬変が発症した後に、該Fah欠損性ブタに、肝硬変のさらなる進行を予防するために十分な用量のNTBCが投与される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記ヒト肝疾患が肝細胞癌(HCC)である請求項48に記載の方法であって、該方法は、以下:
(i)Fah欠損性ブタに候補薬剤を投与する工程であって、ここで、該Fah欠損性ブタは、該ブタにおいてHCCの発症をもたらす用量でNTBCが投与されている、工程;および
(ii)該Fah欠損性ブタにおけるHCCに対する該候補薬剤の効果を評価する工程であって、ここで、該候補薬剤の投与前の該Fah欠損性ブタと比較した、該Fah欠損性ブタにおける腫瘍増殖または腫瘍容積の減少は、該候補薬剤がHCCの処置に有効であることを示す、工程
を包含する、方法。
【請求項58】
インビボにおいてヒト肝細胞に対する外因性因子の効果を評価する方法であって、該方法は、以下:
(i)請求項44に記載のFah欠損性ブタに該外因性因子を投与する工程;ならびに
(ii)該Fah欠損性ブタにおいて少なくとも1種の肝機能のマーカーを測定する工程であって、ここで、該少なくとも1種の肝機能のマーカーは、AST、ALT、ビリルビン、アルカリホスファターゼおよびアルブミンから選択され、そして、該外因性因子の投与前の該Fah欠損性ブタと比較した、該Fah欠損性ブタにおけるAST、ALT、ビリルビンもしくはアルカリホスファターゼにおける増加、または、アルブミンにおける減少は、該外因性因子が毒性であることを示す、工程
を包含する、方法。
【請求項59】
前記外因性因子が、既知の毒素または疑わしい毒素である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
遺伝子改変Fah欠損性ブタであって、該ブタのゲノムがFah遺伝子における破壊についてヘテロ接合性である、ブタ。
【請求項61】
前記破壊が、Fah遺伝子のエキソン5内にある、請求項60に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項62】
前記破壊が、Fah遺伝子における挿入、欠失、または、1もしくは複数個の点変異である、請求項60または請求項61に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項63】
前記破壊が挿入である、請求項60〜62のいずれか1項に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項64】
前記挿入が終止コドンを含む、請求項63に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項65】
前記挿入が選択マーカーを含む、請求項63または請求項64に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタ。
【請求項66】
遺伝子改変Fah欠損性ブタを作製する方法であって、該ブタのゲノムは、Fah遺伝子における破壊についてホモ接合性であり、該方法は、以下:
(i)請求項60〜65のいずれか1項に記載の遺伝子改変Fah欠損性ブタを、別の遺伝子改変Fah欠損性ブタと交配させる工程;および
(ii)該Fah遺伝子における破壊についてホモ接合性の子孫を選択する工程
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−223976(P2011−223976A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212896(P2010−212896)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り American Journal of Transplantationウェブサイト(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1600−6143.2010.03108.x/pdf)上に掲載されたポスター要旨#894「Novel Approach To Create a Porcine Animal Model of Human Hereditary Type 1 Tyrosinemia(HT1)」、掲載年月日:2010年3月23日
【出願人】(506124239)オレゴン ヘルス アンド サイエンス ユニバーシティ (8)
【出願人】(502204218)マヨ ファウンデイション フォア メディカル エデュケイション アンド リサーチ (4)
【Fターム(参考)】