説明

フライアッシュの湿式脱炭における前処理装置及び前処理方法

【課題】フライアッシュ中の未燃カーボンを湿式浮選法を用いて除去する際に、浮選機の後段でのスケールトラブルを低コストで回避する。
【解決手段】フライアッシュに水を加えてスラリー化するスラリータンク2と、スラリータンクから供給されたスラリーS1を撹拌混合しながら貯留する撹拌混合装置22と、撹拌混合装置から供給されたスラリーS1’、又は撹拌混合装置からスラリータンクに戻され、スラリータンク内のスラリーと混合されたスラリーを、フライアッシュ中の未燃カーボンを除去するための浮選装置11に供給する供給装置3とを備えるフライアッシュの湿式脱炭における前処理装置21。強制撹拌機に供給されたスラリーを撹拌混合することで、フライアッシュスラリーS1に石膏が析出するきっかけとなる刺激を与え、二水石膏を種結晶として、そのまわりにカルシウム分を付着、成長させ、カルシウム分の付着性を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュ中の未燃カーボンを湿式浮選法を用いて除去する際に、浮選機の後段でのスケールトラブルを回避するための前処理を行う装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭焚き火力発電所等で発生したフライアッシュは、セメント用混合材、コンクリート用混和材、人工軽量骨材の原料等に用いられているが、フライアッシュ中に未燃カーボンが多いと種々の問題が発生するため、未燃カーボンを除去する必要がある。そのため、多くの技術が提案されている。特に、フライアッシュをセメント用混合材として利用する際には、湿式浮選法によって脱炭処理をした後、湿灰をセメントミルに添加することが、設備コストや運転コストを最も低く抑えることができる方法と考えられている。
【0003】
ここで、フライアッシュをセメント用混合材として利用する際に用いられるフライアッシュ中の未燃カーボン除去方法の一例として、特許文献1に記載の方法を図2を参照しながら簡単に説明する。
【0004】
石炭焚き火力発電所等から廃棄物として運び込まれたフライアッシュをフライアッシュタンク1に貯留した後、スラリータンク2に供給して水と混合し、スラリーS1を生成する。次に、スラリータンク2内のフライアッシュスラリーS1を、ポンプ3を介して表面改質機4に供給する。また、表面改質機4には、疎水剤タンク5からポンプ6を介して疎水剤としての軽油を供給する。
【0005】
次に、表面改質機4において、疎水剤が添加されたスラリーS1に剪断力を付与したり、スラリーS1に含まれる粒子を超微細に砕く。剪断力の付与等が行われたスラリーS1を、表面改質機4から調整槽7へ供給する。また、調整槽7には、起泡剤タンク8からポンプ9を介して起泡剤を供給し、調整槽7において、スラリーS1と起泡剤とを混合してスラリーS2を生成する。
【0006】
次に、スラリーS2をポンプ10を介して浮選機11に供給するとともに、空気を浮選機11に供給し、浮選機11において気泡を発生させ、その気泡に疎水剤に吸着された未燃カーボンを付着させるとともに、未燃カーボンが付着して浮上した気泡を除去する。これにより、フライアッシュに含まれていた未燃カーボンを除去することができる。
【0007】
次に、浮選機11から排出された未燃カーボンを含むフロスFをフィルタープレス13によって固液分離し、未燃カーボンを回収する。回収した未燃カーボンは、セメントキルン等で補助燃料として利用することができる。一方、フィルタープレス13で発生したろ液L1は、ポンプ14を介して調整槽7に添加したり、浮選機11において、気泡に未燃カーボンを付着させる際の消泡に再使用する。
【0008】
一方、浮選機11からのフライアッシュを含むテールTを、フィルタープレス12で固液分離し、未燃カーボンの含有率を0.5質量%以下にしたフライアッシュをセメント混合材として使用する。また、フィルタープレス12で固液分離されたろ液L2をポンプ15を介してスラリータンク2に循環し、ろ液L2に残留する起泡剤を再利用する。
【0009】
上述のフライアッシュの湿式脱炭技術は、高い性能と未燃カーボンの回収率を有するが、近年の石炭焚き火力発電所等に設置されている電気集塵機を通過する燃焼ガス温度の低下により、フライアッシュへの硫酸分の付着量が増加し、この硫酸分が上記スラリータンク2に溶出するカルシウム分と、浮選機11の後段のフィルタープレス12における固液分離工程等において反応し、フィルタープレス12のろ布にスケールを発生させ、ろ布の目詰まりや洗浄の手間を増加させて問題となっている。
【0010】
そこで、例えば、特許文献2には、スケールの成長を抑制して焼却飛灰等のカルシウム含有粉体の水洗脱塩を効率よく行うため、カルシウム含有粉体を水に溶解する際に、二水石膏、塩素バイパスダスト及び硫酸、炭酸ガスのうち少なくとも一つを添加してカルシウムを析出させ、その後、固液分離をして水洗する方法が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特許第3613347号公報
【特許文献2】国際公開第WO2004/030839号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記特許文献2に記載のカルシウム含有粉体の処理方法及び装置においては、硫酸や種結晶による石膏の強制析出によってろ布の目詰まり等を防止しているが、装置コストのみならず、薬剤等の添加による運転コストの増加により、処理コストが高騰という問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであって、フライアッシュ中の未燃カーボンを湿式浮選法を用いて除去する際に、浮選機の後段でのスケールトラブルを低コストで回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、フライアッシュ中の未燃カーボンを除去するための浮遊選鉱工程における浮選機の後段のろ過装置等に達する前に、前記硫酸分とカルシウム分の反応が終了するように、カルシウム分が溶解した際に十分な時間と温度を確保し、石膏が析出するきっかけとなる刺激を与えることで、浮選機の後段のろ過装置等でのスケールトラブルを回避することができることを見出した。
【0015】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、フライアッシュの湿式脱炭における前処理装置であって、フライアッシュに水を加えてスラリー化するスラリータンクと、該スラリータンクから供給されたスラリーを撹拌混合しながら貯留する撹拌混合装置と、該撹拌混合装置から供給されたスラリー、又は該撹拌混合装置から前記スラリータンクに戻され、前記スラリータンク内のスラリーと混合されたスラリーを、前記フライアッシュ中の未燃カーボンを除去するための浮選装置に供給する供給装置とを備えることを特徴とする。
【0016】
そして、本発明によれば、撹拌混合装置によってフライアッシュスラリーを撹拌混合することにより、石膏が析出するきっかけとなる刺激を与え、二水石膏を種結晶として、そのまわりにカルシウム分を付着、成長させ、カルシウム分の付着性を低下させることができるため、後段のろ過装置等でのスケールトラブルを回避することができる。
【0017】
上記フライアッシュの湿式脱炭における前処理装置において、前記撹拌混合装置を、静止型混合機又は強制撹拌装置とすることができ、強制撹拌装置を採用した場合には、円筒状の本体と、該本体内に設けられ鉛直方向に延設される回転軸と、一端が該回転軸に固定されて水平方向に延設された撹拌羽根とを備え、該回転軸の回転速度が1rpm以上100rpm以下、より好ましくは10rpm以上30rpm以下とすることができる。
【0018】
また、本発明は、フライアッシュの湿式脱炭における前処理方法であって、フライアッシュに水を加えてスラリーとし、該スラリーを撹拌混合しながら貯留し、該貯留したスラリー、又は該貯留したスラリーと前記撹拌混合する前のスラリーとの混合物を、前記フライアッシュ中の未燃カーボンを除去するための浮選工程に供給することを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、石膏が析出するきっかけとなる刺激を与え、二水石膏を種結晶として、そのまわりにカルシウム分を付着、成長させ、カルシウム分の付着性を低下させることで、後段のろ過装置等でのスケールトラブルを回避することができる。
【0019】
上記フライアッシュの湿式脱炭における前処理方法において、前記撹拌混合しながら貯留するスラリーの固体濃度を1質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下とすることができる。
【0020】
また、上記フライアッシュの湿式脱炭における前処理方法において、前記撹拌混合しながら貯留するスラリーの温度を1℃以上50℃以下、より好ましくは20℃以上40℃以下とすることができる。
【0021】
さらに、上記フライアッシュの湿式脱炭における前処理方法において、前記撹拌混合しながら貯留するスラリーの貯留時間を1分以上180分以下、より好ましくは10分以上60分以下とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、フライアッシュ中の未燃カーボンを湿式浮選法を用いて除去する際に、浮選機の後段でのスケールトラブルを低コストで回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明にかかる前処理装置を適用したフライアッシュの湿式脱炭システムを示すものであって、この湿式脱炭システム17の基本構成は、図2に示した従来の湿式脱炭システム19と同様であり、同一の構成要素については、同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0025】
この湿式脱炭システム17は、従来の湿式脱炭システム19に加え、スラリータンク2の後段に撹拌混合装置としての強制撹拌機22を備え、この強制撹拌機22を含む循環ルート24にダンパ23を備え、これらの装置とスラリータンク2及びポンプ3とで前処理装置21を構成する。
【0026】
強制撹拌機22は、スラリータンク2から供給されたスラリーS1を撹拌混合しながら貯留するために備えられる。この強制撹拌機22には、静止型混合機(スタティックミキサー)や強制撹拌装置等を用いることができる。強制撹拌装置を用いる場合には、円筒状の本体と、本体内に設けられ鉛直方向に延設される回転軸と、回転軸に固定されて水平方向に延設された複数の撹拌羽根とを備えるように構成し、回転軸の回転速度を1rpm以上100rpm以下、より好ましくは10rpm以上30rpm以下とする。
【0027】
ダンパ23は、ポンプ3からのスラリーS1を表面改質機4と循環ルート24に分配するために備えられ、強制撹拌機22によって撹拌混合されたスラリーS1’は、スラリータンク2に戻される。
【0028】
次に、上記構成を有する前処理装置21、及び前処理装置21の後段の湿式脱炭システム17の動作について図1を参照しながら説明する。
【0029】
受け入れたフライアッシュをフライアッシュタンク1に貯留した後、スラリータンク2に供給して水と混合し、スラリーS1を生成する。次に、ダンパ23を調整した後、ポンプ3から排出されたスラリーS1を表面改質機4に供給するルートと、循環ルート24に分配し、循環ルート24を介して強制撹拌機22に供給されたスラリーS1を撹拌混合する。これにより、フライアッシュスラリーS1に石膏が析出するきっかけとなる刺激を与え、二水石膏を種結晶として、そのまわりに析出した石膏を付着、成長させ、スケール成分を改質フライアッシュとともに系外へ排出する。
【0030】
ここで、浮選機11での未燃カーボンの除去効率の観点から、強制撹拌機22におけるスラリーS1’の固体濃度は、1質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下とする。また、石膏の溶解度の観点から、強制撹拌機22におけるスラリーS1’の温度は、1℃以上50℃以下、より好ましくは20℃以上40℃以下とする。さらに、析出した石膏の種結晶への付着、成長の観点から、強制撹拌機22におけるスラリーS1’の貯留時間は、1分以上180分以下、より好ましくは10分以上60分以下とする。
【0031】
次に、強制撹拌機22による撹拌混合の完了したスラリーS1’をスラリータンク2に戻して新たなスラリーS1と混合し、ダンパ23を介してポンプ3から排出されたスラリーS1を表面改質機4に供給するルートと、循環ルート24に分配し、上記動作を繰り返す。
【0032】
表面改質機4に供給されたスラリーS1には、疎水剤タンク5からポンプ6を介して供給された疎水剤としての軽油とともに、表面改質機4によって剪断力が付与され、スラリーS1に含まれる粒子が超微細に砕かれる。以後は、図2に示した湿式脱炭システム19の場合と同様のフローを辿り、最終的に、浮選機11においてフライアッシュに含まれていた未燃カーボンが除去される。
【0033】
本発明では、上述のように、浮選機11の前段で、フライアッシュスラリーS1を強制撹拌機22に供給して撹拌混合し、フライアッシュスラリーS1に石膏が析出するきっかけとなる刺激を与え、二水石膏を種結晶として、そのまわりにカルシウム分を付着、成長させ、カルシウム分の付着性を低下させているため、浮選機11からのフライアッシュを含むテールTを、フィルタープレス12で固液分離する際に、ろ布にスケールが発生せず、ろ布の目詰まりを回避することができ、洗浄の手間も要しない。
【0034】
尚、上記実施の形態では、スラリータンク2から排出されたスラリーS1を強制撹拌機22で撹拌混合して再びスラリータンク2に戻す循環ルート24を設けたが、スラリータンク2から排出されたスラリーS1を強制撹拌機22によって撹拌混合し、全量を表面改質機4に供給することも可能であり、強制撹拌機22においてフライアッシュスラリーS1に石膏が析出するきっかけとなる刺激を与えることにより、上記と同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる前処理装置を適用したフライアッシュの湿式脱炭システムの全体構成を示すフローチャートである。
【図2】従来のフライアッシュの湿式脱炭システムの全体構成の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 フライアッシュタンク
2 スラリータンク
3 ポンプ
4 表面改質機
5 疎水剤タンク
6 ポンプ
7 調整槽
8 起泡剤タンク
9 ポンプ
10 ポンプ
11 浮選機
12 フィルタープレス
13 フィルタープレス
14 ポンプ
15 ポンプ
17 湿式脱炭システム
21 前処理装置
22 強制撹拌機
23 ダンパ
24 循環ルート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュに水を加えてスラリー化するスラリータンクと、
該スラリータンクから供給されたスラリーを撹拌混合しながら貯留する撹拌混合装置と、
該撹拌混合装置から供給されたスラリー、又は該撹拌混合装置から前記スラリータンクに戻され、前記スラリータンク内のスラリーと混合されたスラリーを、前記フライアッシュ中の未燃カーボンを除去するための浮選装置に供給する供給装置とを備えることを特徴とするフライアッシュの湿式脱炭における前処理装置。
【請求項2】
前記撹拌混合装置は、静止型混合機又は強制撹拌装置であることを特徴とする請求項1に記載のフライアッシュの湿式脱炭における前処理装置。
【請求項3】
前記強制撹拌装置は、円筒状の本体と、該本体内に設けられ鉛直方向に延設される回転軸と、一端が該回転軸に固定されて水平方向に延設された撹拌羽根とを備え、該回転軸の回転速度が1rpm以上100rpm以下、より好ましくは10rpm以上30rpm以下であることを特徴とする請求項2に記載のフライアッシュの湿式脱炭における前処理装置。
【請求項4】
フライアッシュに水を加えてスラリーとし、
該スラリーを撹拌混合しながら貯留し、
該貯留したスラリー、又は該貯留したスラリーと前記撹拌混合する前のスラリーとの混合物を、前記フライアッシュ中の未燃カーボンを除去するための浮選工程に供給することを特徴とするフライアッシュの湿式脱炭における前処理方法。
【請求項5】
前記撹拌混合しながら貯留するスラリーの固体濃度が1質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載のフライアッシュの湿式脱炭における前処理方法。
【請求項6】
前記撹拌混合しながら貯留するスラリーの温度が1℃以上50℃以下、より好ましくは20℃以上40℃以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載のフライアッシュの湿式脱炭における前処理方法。
【請求項7】
前記撹拌混合しながら貯留するスラリーの貯留時間が1分以上180分以下、より好ましくは10分以上60分以下であることを特徴とする請求項4、5又は6に記載のフライアッシュの湿式脱炭における前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−240933(P2009−240933A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90804(P2008−90804)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】