説明

フライアッシュセメント組成物及びそれを用いたコンクリート成形品

【課題】コンクリート成形する際のかたさ、流動性が改善され、コンクリート成形に用いた場合、長期強度及び初期強度が十分に大きく、しかも従来のコンクリート成形品に匹敵する、優れた物性を与える新規なフライアッシュセメント組成物を提供する。
【解決手段】ポルトランドセメント100質量部及びフライアッシュ10〜40質量部からなるセメント基剤に対し、硫酸アルミニウムとアルカリ土類金属硝酸塩との質量比2:1ないし1:3の組合せから成る凝結促進剤1.0〜3.0質量%を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ源及びアルミナ源としてフライアッシュを配合したセメント、いわゆるフライアシュセメントを主剤としたセメント組成物において、凝結時間が短縮されたもの及びそれを用いたコンクリート成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、わが国の火力発電所から排出されるフライアッシュは年間24万トンに達しているが、そのほとんどは産業廃棄物として未利用のまま投棄されたり、埋立用に供されているのが実情である。
【0003】
ところで、このフライアッシュは、SiO235〜60質量%、Al2315〜30質量%を含むことに着目してポルトランドセメントと混合して、いわゆるフライアッシュセメントその他のセメント基剤として利用することも行われている。
【0004】
例えば、フライアッシュセメントに、鉄の無機酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物を含有するセメント組成物(特許文献1参照)、特定形状の粒子を含むフライアッシュと特定形状の粒子を多く含む骨材と水との混練物を硬化して得られる水硬性組成物硬化体(特許文献2参照)、フライアッシュセメント及び水と混練することによりコンクリートの構成材料の骨材の一部又は全部を木材チップとしたコンクリート(特許文献3参照)、水セメント比0.3〜1.3のセメント基材に対し、酸化鉄系鉄鉱石細粒を含む細骨材と酸化鉄系鉄鉱石粗粒を含む粗骨材及び粒径30μm以下に分級されたフライアッシュ粉粒体を配合したコンクリート製造用配合物(特許文献4参照)、フライアッシュを600〜1000℃に加熱してその中に含まれる未燃焼カーボンを燃焼除去して改質したフライアッシュを用いてポルトランドセメントに配合して用いる方法(特許文献5参照)、特定のCaO含有量とフッ素含有量をもつセメントをフライアッシュセメントに配合した混合セメント(特許文献6参照)、フライアッシュセメントに対し、特定の物性をもつ生石灰粉末を添加したセメント組成物(特許文献7参照)などが知られている。
【0005】
しかしながら、これらのフライアッシュセメントを成分として用いたセメント組成物は、水量比の低減や短期間での強度発現が得られにくいなどの欠点を有している。
【0006】
このような欠点を克服するために、フライアッシュをハロゲンガスで処理して空気連行剤の吸着を増大させ、強度を向上させる方法(特許文献8参照)、フライアッシュを酸化雰囲気中、580〜680℃で30〜10分加熱して強熱減量及びメチレンブルー吸着量を減少させる方法(特許文献9参照)、BET比表面積を2.5m2/g以下に調整して空気連行剤の吸着量を適正化する方法(特許文献10参照)、水硬率0.05以上、遊離石灰分5質量%以下、ブレーン比表面積1000cm2/g以下のフライアッシュをポルトランドセメントに2質量%以上混合して、長期強度及び初期強度が大きく、少なくとも普通セメントに比べ70%以上の短期強度を有する改質フライアッシュセメントとしたもの(特許文献11参照)、球形粒子のフライアッシュとフライアッシュ粉砕物とをポルトランドセメントに混合することにより、練り込み水量を減少させても、乾燥収縮や亀裂が少なく、マトリックスが緻密で長期強度の発現、化学抵抗性が優れ、水和発熱量が低いセメント組成物としたもの(特許文献12参照)が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらのフライアッシュセメントは、コンクリートとして使用する場合、特に流動性を向上させるために、慣用されている滑剤を添加した場合、凝結時間が長くなり、作業効率が低いという欠点がある。
【0008】
【特許文献1】特開平5−147994号公報(請求項1、段落番号0005)
【特許文献2】特開平6−345504号公報(請求項1、請求項4)
【特許文献3】特開平7−413494号公報(請求項1、請求項2)
【特許文献4】特開平9−132442号公報(請求項1その他)
【特許文献5】特開平11−60299号公報(請求項1その他)
【特許文献6】特開2001−130932号公報(請求項1、請求項5)
【特許文献7】特開W099/07647号公報(請求項1、請求項4)
【特許文献8】特開平6−91246号公報(請求項1その他)
【特許文献9】特開平7−4632号公報(請求項1その他)
【特許文献10】特開平7−196346号公報(請求項3)
【特許文献11】特開平9−255380号公報(請求項1その他)
【特許文献12】特開2001−354458号公報(請求項1その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、これらの事情に鑑み、従来のフライアッシュセメントのもつ欠点を克服し、コンクリート成形する際のかたさ、流動性が改善され、コンクリート成形に用いた場合、長期強度及び初期強度が十分に大きく、しかも従来のコンクリート成形品に匹敵する、優れた物性を与える新規なフライアッシュセメント組成物を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、フライアッシュセメントの物性を改善するために、鋭意研究を重ねた結果、フライアッシュを配合したポルトランドセメントに対し、このセメント基剤の全質量に基づき特定の割合で硫酸アルミニウム、アルカリ土類金属硝酸塩からなる凝結促進剤及び場合により減水剤を添加することによりその目的を達成しうることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ポルトランドセメント100質量部及びフライアッシュ10〜40質量部からなるセメント基剤に対し、硫酸アルミニウムとアルカリ土類金属硝酸塩との質量比2:1ないし1:3の組合せから成る凝結促進剤1.0〜3.0質量%及び場合により減水剤を添加したことを特徴とするフライアッシュセメント組成物及びこのフライアッシュセメント組成物を用いたコンクリート成形品を提供するものである。
【0012】
本発明組成物に用いるセメント基剤は、ポルトランドセメント100質量部に対しフライアッシュ10〜40質量部を配合したものである。
ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどがあるが、本発明においては、いずれも用いることができる。
【0013】
これらのポルトランドセメントの中で特に好ましいのは、普通ポルトランドセメントであり、これはエーライト(3CaO・SiO2)、ビーライト(β−2CaO・SiO2)及び間隙相としてのアルミネート相(3CaO・Al23)、フェライト相(4CaO・Al23・Fe23)と、セッコウ(CaSO4・2H2O)から構成され、優れた水硬性材料として知られている。また早強ポルトランドセメントはエーライト量を増加させた初期強度発現性の高いセメント、中庸熱ポルトランドセメントはビーライト量を増加させた低水和熱セメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントはアルミネート相の量を減じた耐硫酸塩性の高いセメントである。
【0014】
次に、本発明において上記のポルトランドセメントに配合してセメント基剤を構成するのに用いられるフライアッシュは、石炭燃焼ボイラーの煙道ガスから集塵器で採取される灰であり、その中の強熱減量又はメチレンブルー吸着量の小さいものはコンクリート混和材料又は土木、建築材料として使用されている。
【0015】
このフライアッシュはJIS A6201によりSiO245質量%以上、湿分1質量%以下、強熱減量5質量%以下、比重1.95以上、比表面積2700cm2/g以上、44μm標準ふるい通過分75質量%以上であることが規定されており、球形に近い形状を有しているので、モルタルの流動性を増加し、凝固の際の体積収縮や発熱を減少する効果があるため、セメントに対し10〜30質量%の割合で混入して使用されている。
本発明においては、このようなフライアッシュをそのまま用いてもよいし、また、ハロゲンガス処理、酸化雰囲気中での加熱処理などにより改質したものを用いてもよい。
【0016】
本発明組成物のセメント基剤としては、ポルトランドセメント100質量部当り、フライアッシュ10〜40質量部、好ましくは20〜30質量部の割合で配合した混合物が用いられる。これよりもフライアッシュの配合量が少ないと、コンクリート成形の際の剛性が大きく、また流動性が低くなるため、加工しにくくなるし、他方これよりもフライアッシュの配合量が多いと、成形品の機械的強度が低下する。
【0017】
本発明組成物においては、上記のセメント基剤に対し、凝結促進剤を添加することが必要である。この凝結促進剤としては硫酸アルミニウムとアルカリ土類金属硝酸塩との組合せが用いられる。この際に用いるアルカリ土類金属硝酸塩としては、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウムなどがあるが、特に硝酸バリウムが好ましい。
【0018】
この硫酸アルミニウムとアルカリ土類金属硝酸塩の混合割合としては質量比2:1ないし1:3、好ましくは1:1ないし1:2の範囲が選ばれる。また、この凝結促進剤の添加割合としては、セメント基剤の全質量に基づき1.0〜3.0質量%の範囲内で選ばれる。これよりも凝結促進剤の割合が少ないと、凝結促進効果が不十分になるし、またこれよりも凝結促進剤の割合が多いと、スランプフロー値が小さくなり、成形時に取り扱いにくくなる。
【0019】
本発明組成物においては、場合により成形時の水分を減じるために減水剤を添加することができる。この減水剤としては、これまでコンクリートの減水剤として慣用されているもの、例えばポリカルボン酸塩系化合物、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系化合物、メラミン樹脂スルホン酸塩系化合物などが用いられる。このような減水剤を用いることにより、コンクリート成形の場合の水の使用量を少なくすることができ、凝結時間をさらに短縮することができる。この際の減水剤の添加量としては、セメント基剤の質量に基づき1〜3%の範囲内で選ばれる。
【0020】
本発明組成物を用いてコンクリート成形品を製造するには、これに粗骨材、細骨材及び水を加えてセメントペーストを調製し、これに必要に応じ増粘剤のような添加剤を加えて混練りしたのち、所定の形状に成形し、養生する。この際の粗骨材及び細骨材としては、コンクリート成形に際して通常使用されているものの中から任意に選んで用いることができる。このような粗骨材としては、例えば川砂利、山砂利、海砂利を、また細骨材としては、例えば川砂、山砂、海砂がある。
【0021】
この場合の水とセメントとの混合割合は、質量比で0.3〜1.3の範囲であり、また骨材の配合割合は水とセメントとの混合物100質量部当り、100〜900質量部の範囲である。上記の水の使用量は、減水剤を併用する場合には、より少なくすることができる。
【0022】
このコンクリート成形を好適に行うには、先ずセメント基剤に細骨材及び所望に応じ増粘剤を加えて混合し、これに凝結促進剤を含む水を加えてよく練り混ぜたのち、粗骨材を加え、十分に混練りして所定の形状に成形し、養生する。この際の増粘剤としては、例えばポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどが用いられる。
【0023】
本発明組成物を用いれば、従来のフライアッシュセメントを用いた場合に比べ、凝結時間を2〜3時間短縮することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、フライアッシュセメントを用いてコンクリート成形する際の凝結時間を著しく短縮することができ、しかも通常のフライアッシュセメントを用いた場合に匹敵する、あるいはより優れた機械的強度のコンクリート成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、実施例により、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、この実施例中における空気量測定試験及びスランプフロー試験は以下の方法により行った。
【0026】
(1) 空気量測定試験
JIS A 1117に従って試験した。
【0027】
(2) スランプフロー試験
ASTM C 124に従ってスランプフロー試験した。
【実施例1】
【0028】
ポルトランドセメント100質量部とフライアッシュ30質量部とを混合し、セメント基剤を調製した。次いで、このセメント基剤に硫酸アルミニウムと硝酸バリウムとの質量比1:2からなる凝結促進剤を表1に示す割合で加え、混合してフライアッシュセメント組成物を調製した。この組成を表1に示す。なお、比較のために凝結促進剤を含まない試料(No.1)を調製した。
【0029】
次に、このフライアッシュセメント組成物450質量部に材(川砂、平均粒径1.9mm)855質量部と増粘剤(カルホキシメチルセルロース)25質量部及びポリカルボン酸系減水剤1質量部を加えて30秒間かきまぜたのち、水149質量部を加えて60秒間混練し、さらに粗骨材(川砂利、平均粒径7.5mm)885質量部を加えて120秒間混練りした。このようにして得たコンクリートを板状(50×100×20mm)に成形し、オートクレーブ中で8時間養生した。この際の空気量測定試験結果及びスランプフロー試験結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【実施例2】
【0031】
実施例1におけるNo.1及びNo.5の試料について、凝結開始時間と終結時間とを測定したところ、No.1の場合は、それぞれ8時間30分、10時間30分であるのに対し、No.5の場合は、それぞれ6時間、8時間であり、凝結促進剤の添加により、凝結時間が著しく短縮されていることが分った。
【0032】
また、No.1及びNo.5の試料について、それぞれの1日経過後及び3日経過後の圧縮強度を測定したところ、No.1の場合は11MPa及び28MPaであるのに対し、No.5の場合は、それぞれ7.5MPa及び30.5MPaであり、凝結促進剤を添加することにより、一時的に強度は低下するが3日後に回復することが分る。
また、No.1の試料とNo.5の試料について経時的に圧縮強度を測定したところ、後者は前者に対し3日で1.32倍、7日で1.06倍、28日で1.10倍の数値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、従来のフライアッシュセメント組成物に比べ、凝結時間を著しく短縮することができるので、効率よくコンクリート成形品を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント100質量部及びフライアッシュ10〜40質量部からなるセメント基剤に対し、硫酸アルミニウムとアルカリ土類金属硝酸塩との質量比2:1ないし1:3の組合せから成る凝結促進剤1.0〜3.0質量%を添加したことを特徴とするフライアッシュセメント組成物。
【請求項2】
さらに減水剤を含有する請求項1記載のフライアッシュセメント組成物。
【請求項3】
アルカリ土類金属硝酸塩が硝酸バリウムである請求項1又は2記載のフライアッシュセメント組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のフライアッシュセメント組成物に、水、細骨材及び粗骨材を配合し、凝結させたことを特徴とするコンクリート成形品。

【公開番号】特開2007−131477(P2007−131477A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325363(P2005−325363)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(598134879)有限会社 日本素材工学研究所 (10)
【出願人】(502239265)有限会社ライブパック (1)
【Fターム(参考)】