フラックスメッキ装置
【課題】表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に浸漬し,メッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置において,鋼板表面上の酸化膜を除去後に鋼板表面に残存するフラックスを軽減し,メッキ膜を被覆した鋼板の品質を向上することを目的とする。
【解決手段】ポットロール3と矯正ロール4の間に設けられた剥離板6を用いて,鋼板Hの表面に付着したフラックス11を除去する。剥離板6は矯正ロール4に一体化されている。剥離板6は水平方向に移動する矯正ロール4と一体に移動するため,矯正ロール4の位置や鋼板Hの位置が変動しても,鋼板Hと剥離板6との間の距離を一定に保つことができ,常に鋼板Hと剥離板6の剥離部6aとの間の距離を最適な長さにして,適切に鋼板Hの表面に付着したフラックス11を除去できる。
【解決手段】ポットロール3と矯正ロール4の間に設けられた剥離板6を用いて,鋼板Hの表面に付着したフラックス11を除去する。剥離板6は矯正ロール4に一体化されている。剥離板6は水平方向に移動する矯正ロール4と一体に移動するため,矯正ロール4の位置や鋼板Hの位置が変動しても,鋼板Hと剥離板6との間の距離を一定に保つことができ,常に鋼板Hと剥離板6の剥離部6aとの間の距離を最適な長さにして,適切に鋼板Hの表面に付着したフラックス11を除去できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に浸漬し,溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板を溶融金属内に浸漬して鋼板表面にメッキ膜を形成する従来の溶融メッキ装置としては,例えば鋼板を溶融金属内に浸漬する前に,フラックスを鋼板表面に塗布するフラックスメッキ装置が知られている。そして鋼板表面へのフラックスの塗布方法には,例えば水溶液状態にしたフラックスを鋼板表面に塗布する方法や,あるいは溶融金属の鋼板侵入部に形成された溶融状態のフラックス層に鋼板を通過させる方法がある。
【0003】
このフラックスによって,鋼板表面に発錆する酸化膜が溶解除去され,鋼板表面が活性化し,鋼板表面に密着性の良いメッキ膜を形成することができる。しかし,フラックスは初期には溶融状態であるが,反応の進行により固形状態となる。固化したフラックスは,鋼板進行によって生じる随伴流により溶融金属内の深部まで引込まれるため,ロールと鋼板の間に入り込み,鋼板表面に傷や汚れといった品質不良を引き起こす。
そこで従来から,浮上固化して浮遊しているフラックスを鋼板表面に再付着させない為に,仕切り板を有し,その下端を鋼板表面に近接配置したフラックスメッキ装置が用いられてきた(特許文献1)。
【0004】
より具体的に説明すると図12に示すように,従来のフラックスメッキ装置100においては,表面にフラックスを塗布した鋼板Hを溶融金属110内に連続的に斜行侵入させて,鋼板Hの表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するようになっている。その後ターンロール102によって鋼板Hの進行方向が上側向きに変えられる。鋼板Hが溶融金属110内に侵入してからターンロール102に達するまでの間に,鋼板Hの表面に付着したフラックス111は固化し,その一部が鋼板Hの表面より浮上除去される。この工程においては,フラックス111は鋼板Hの表面に残留するものもあるため,ターンロール102とガイドロール103の間で,例えば鋼板Hの角度を垂直線に対して15°〜85°に大きく傾けて,更にフラックス111を浮上除去させていた。さらに,この間に仕切り板104を設置し,この仕切り板104によって,鋼板Hの表面へのフラックス111の再付着を防止するように構成されていた。
【特許文献1】特開平10−8229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,この仕切り板104は,溶融金属110内に浮遊しているフラックス111の再付着を防止する効果はあったが,フラックス111の剥離については何ら考慮されておらず,フラックス111の剥離効果自体を期待できなかった。また,鋼板Hの角度を垂直線に対して15°〜85°に傾けることは,ターンロール102の軸や軸受けに過大な負荷を与えるために,ターンロール102が回転し難くなる。このターンロール102の回転不良により,ターンロール102の表面の擦り疵が増加するとともに,軸や軸受けの損耗が大きくなるため,ターンロール102の交換頻度を早めることになる。すなわち,ターンロール102を交換するためには操業を停止する必要があるため,ターンロール102の交換頻度が大きくなると,鋼板Hの生産性が低下する。一方,ターンロール102の負荷を軽減するために,鋼板Hの角度を垂直線に対して15°以下にすると,ターンロール102とガイドロール103の間において,鋼板Hの表面からのフラックス111の浮遊離脱効果が得られない。
また,ガイドロール103を,鋼板Hの形状を矯正するために矯正ロールとして使用し,矯正ロールの位置を水平方向に移動調整した場合,溶融金属槽101に対する鋼板Hの水平方向の位置が変わる。一方,剥離板104は溶融金属槽101に対して固定されている。そのため,仕切り板104と鋼板Hの間の隙間が一定間隔ではなく,仕切り板104と鋼板Hとの隙間の距離が大きくなる場合がある。この場合,フラックス111を完全に除去することが難しく,鋼板表面に傷や汚れといった品質不良を引き起こすおそれがある。
【0006】
本発明は,かかる点に鑑みてなされたものであり,表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に連続的に斜行侵入させて浸漬し,鋼板表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置において,ポットロール通過後の鋼板の角度が垂直線に対して15°以下であって,鋼板表面上の酸化膜を除去後に鋼板表面に残存するフラックスが浮上除去されない条件においても,当該フラックスを軽減し,メッキ膜を被覆した鋼板の品質を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため,本発明によれば,表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に連続的に斜行侵入させて浸漬し,当該鋼板表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置であって,前記溶融金属を貯留する溶融金属槽と,前記溶融金属槽の溶融金属内において前記鋼板の進行方向を上側向きに変えるポットロールと,前記ポットロールを通過後の前記鋼板の形状を矯正する少なくとも水平方向に移動可能な矯正ロールと,前記ポットロールと前記矯正ロールの間に位置し,前記鋼板の表面に付着したフラックスを除去する剥離板と,を有し,前記剥離板は,先端の剥離部が鋼板の表面に近接した状態で前記矯正ロールと一体に移動することを特徴とするフラックスメッキ装置が提供される。
【0008】
本発明においては,鋼板の形状を矯正するために矯正ロールを移動させて鋼板の位置が変動しても,剥離板と矯正ロールが一体に移動するため,鋼板の表面と剥離板における剥離部との隙間の距離を一定の常に近接した状態に保つことができる。これにより,矯正ロール及び鋼板の位置に関わらず,剥離板によって鋼板の表面に付着したフラックスを好適に除去することができる。
【0009】
前記鋼板の表面と前記剥離板の剥離部との隙間の距離は10mm以下が好ましい。
【0010】
前記矯正ロールの表面と前記剥離板における剥離部との間の距離(例えば後述する図2のE,F)は,前記矯正ロールと前記剥離板と前記鋼板で形成される空間に鋼板の通板方向と逆方向に向かって鋼板に沿って流れる溶融金属流れが形成され,なおかつその溶融金属流れにより,前記剥離板を通過する前の鋼板からのフラックスの剥離を促進させるような長さに設定してもよい。さらに,前記溶融金属流れが強いために前記空間における鋼板の縁部に渦流が生じることによって,前記溶融金属内に浮遊しているフラックスが,前記剥離板を通過した後の前記鋼板の表面に再付着しない長さに設定してもよい。
【0011】
前記長さ(例えば後述する図2のE,F)は例えば200mm〜400mmが好ましい。この距離に前記矯正ロールを設置することにより,前記矯正ロールと前記剥離板と前記鋼板で形成される空間に鋼板の通板方向と逆方向に向かって鋼板に沿って流れる溶融金属流れが形成される。その溶融金属流れにより,前記剥離板を通過する前に,鋼板からのフラックスの剥離を促進させることができる。さらに,前記溶融金属内に浮遊しているフラックスが,前記剥離板を通過した後の前記鋼板の表面に再付着することを防止できる。
【0012】
さらに,前記鋼板の溶融金属槽への侵入位置と前記ポットロールの間に,前記鋼板の表面に付着した前記フラックスを除去する他の剥離板を設けてもよい。この場合,鋼板表面に残存するフラックスをさらに軽減することができる。
【0013】
前記他の剥離板は前記鋼板を通過させて,その対向する縁部で前記鋼板表面のフラックスを剥離するための通過口を有し,前記他の剥離板は上下方向に移動可能であることを特徴としている。これにより,鋼板の位置や厚みに基づいて,鋼板が前記通過口の上下方向の中心に位置するように前記他の剥離板の位置を調整し,鋼板表面のフラックスを除去するにあたって,常に最適な位置にてこれを行うことができる。
【0014】
また,前記他の剥離板を前記通過口部分で上板と下板に分離可能とし,下板はその一端を中心として上板に対して回動自在としてもよい。この場合,鋼板が溶融金属内に浸漬されている状態でも,他の剥離板を設置や修理,保守するために撤去,交換をすることが可能である。
【0015】
前記通過口における前記対向する縁部間の距離は20mm以下が好ましい。この際,鋼板が前記通過口の上下方向の中心に位置するように,前記他の剥離板を配置してもよい。
【0016】
さらに,前記他の剥離板を前記通過口部分で上板と下板に分離可能とし,上板と下板は別々に上下方向に移動自在としてもよい。これにより,鋼板の張力が変動して鋼板のカテナリが変化した場合でも,鋼板と他の剥離板が接触することを防止できる。
【0017】
前記下板は,その一端を中心として,水平方向に回動自在であってもよい。この場合,鋼板が溶融金属内に浸漬されている状態でも,他の剥離板を設置や修理,保守するために撤去,交換をすることが可能である。
【0018】
さらに,前記上板と下板が別々に上下方向に移動する他の剥離板を有するフラックスメッキ装置は,鋼板を上下方向にループさせて,鋼板の張力によって上下方向に移動するループロールと,前記ループロールの上下方向の位置を検出する位置検出部と,前記位置検出部からの出力結果から,前記上板と下板のそれぞれの上下方向の移動量を制御する制御部を有してもよい。これにより,前記上板と下板はそれぞれの上下方向の移動が自動で制御される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,矯正ロールを移動させたり,鋼板の種類を変えても,鋼板表面と剥離板の剥離部との間の距離を一定に保つことができるので,鋼板表面に残存するフラックスを常に適切に除去して,これを軽減することができ,メッキ膜を被覆した鋼板の品質を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下,本発明の実施の形態について,図1に基づいて説明する。図1は本実施の形態にかかるフラックスメッキ装置1の概略を示している。
【0021】
フラックスメッキ装置1は,上面が開口し,長手方向に続く溶融金属槽2を有している。溶融金属槽2内には,鋼板Hの表面にSn−Znメッキ膜を被覆する溶融金属としての溶融錫亜鉛合金10が貯留されている。
【0022】
溶融錫亜鉛合金10内には,斜め上方から侵入された鋼板Hをその進行方向を変えて上方に送り出すポットロール3が設けられている。ポットロール3は溶融金属槽2に対して固定されている。さらに溶融錫亜鉛合金10内であってポットロール3の下流側には,鋼板Hの形状を矯正するために,一対の矯正ロール(スタビロール)4,5が上流側からこの順で設けられている。すなわち,実施の形態においては4の上方に5が位置している。矯正ロール4,5は,鋼板Hの両側に,鋼板Hを挟んで斜めに対向し,矯正ロール5が上側に矯正ロール4が下側に設けられている。上流側の矯正ロール4は鋼板Hの裏面側と接し(以下,本側の鋼板Hの表面を裏面側という),下流側の矯正ロール5は鋼板Hの表面側と接している(以下,本側の鋼板Hの表面を表面側という)。矯正ロール4には,鋼板Hに対する押し込み量を調整する調整機構が取り付けられており,矯正ロール4は水平方向に移動することができる。この調整機構に押す詳細については,後述する。一方,矯正ロール5は溶融金属槽2に対して固定されている。
【0023】
さらにポットロール3と矯正ロール4の間には,鋼板Hの裏面側に付着したフラックス11を除去する剥離板6が設けられている。一方,ポットロール3と矯正ロール5の間にも,鋼板Hの表面側に付着したフラックス11を除去する補助剥離板7が設けられている。
【0024】
剥離板6は図2に示すとおり,矯正ロール4に対して固定されている。矯正ロール4の回動軸となるシャフト4aの両端部には,矯正ロール4を支持する支持部材21がそれぞれ設けられている。一方,剥離板6の両端部には,剥離板6を支持する支持板23がそれぞれ設けられている。支持部材21と支持板23は固定されている。これにより,剥離板6は矯正ロール4に対して固定され,矯正ロール4と一体に移動する。
【0025】
次に,上述した矯正ロール4の押し込み量を調整する調整機構20について説明する。溶融金属槽2の上面の一部には,上面板25が形成されており,上面板25にはガイド(図示せず)が設けられている。矯正ロール4の支持部材21はこのガイドに沿って移動する。一方,上面板25には,矯正ロール4の水平方向に延びるネジ26が取り付けられている。支持部材21の上端部は,ネジ26に取り付けられ,ネジ26の回動により軸方向に移動できる。ネジ26の先端部には,モータ27が取り付けられている。このモータ27によりネジ26を回動させ,支持部材21をネジ26に沿ってスライドさせることにより,矯正ロール4を水平移動させて,矯正ロール4の鋼板Hに対する押し込み量を調整できる。なお,ネジ26の駆動については,モータ27に変えて例えばハンドルを設けて手動で行ってもよい。
【0026】
また,補助剥離板7についても同様に,矯正ロール5を支持する支持部材22と補助剥離板7を支持する支持板24によって,矯正ロール5に対して固定されている。支持部材22は,矯正ロール5の回動軸のシャフト5aの両端部にそれぞれ設けられ,上端部がその上面板25上に固定されている。支持板24は補助剥離板7の両端部にそれぞれ設けられている。
【0027】
本実施の形態における鋼板Hの表面と剥離板6において,フラックス11を剥離する剥離部6aとの隙間の距離Cが10mm以下となるように,剥離板6は配置される。補助剥離板7も同様に,鋼板Hの表面と補助剥離板7において,フラックス11を剥離する剥離部7aとの距離Dが10mm以下となるように,補助剥離板7は配置される。剥離板6と補助剥離板7は従来の仕切り板と異なり,鋼板Hの表面のフラックス11を剥ぎ取る効果を有する。すなわち,前記距離C又はDは10mm以下とする場合,フラックス11を剥離する効果があり,10mm以上ではその剥離効果が著しく低減する。また本実施の形態においては,矯正ロール4の表面と剥離板6における剥離部6aとの最短距離Eは例えば330mmとし,矯正ロール5の表面と補助剥離板7における剥離部7aとの最短距離Fは例えば230mmに設定されている。これらの距離E,Fを200mm〜400mmと設定することにより,溶融錫亜鉛合金10内に浮遊しているフラックス11が,剥離板6と補助剥離板7を通過した後の鋼板Hの表面に再付着することを防止することができる。距離Eが適正な200mm〜400mmであると,鋼板Hが例えば20m/分〜90m/分の速度で矯正ロール4を下方から上方に通過する場合,図3(a)に示すように,矯正ロール4が回転することにより,矯正ロール4に随伴した溶融錫亜鉛合金10の流れが生じる。この随伴流により,剥離板6と鋼板Hで囲まれた空間において,通板方向と逆向きに溶融錫亜鉛合金10の流れが生じる。この溶融錫亜鉛合金10の流れは,剥離板6によるフラックス11の剥離を促進する効果(以下,洗浄効果という)がある。このように,フラックス11は充分に剥離除去され,また洗浄されるため,鋼板Hの表面近傍に浮遊しているフラックス11が鋼板Hの表面に再付着することを防止する効果がある。また,鋼板Hの縁部から幅方向の外側に向かう流れは弱いので,剥離板6により剥離され,溶融錫亜鉛合金10内に浮遊しているフラックス11が,矯正ロール4と剥離板6で囲まれた空間に巻き込まれ,鋼板Hの表面に再付着することを防ぐことができる。一方,距離Eが400mmより大きい場合,図3(b)に示すように,この通板方向と逆向きの溶融錫亜鉛合金10の流れが弱くなるため,洗浄効果が弱くなる。この結果,鋼板Hの表面近傍に浮遊しているフラックス11が鋼板Hの表面に再付着するおそれがある。また,距離Eが200mmより小さい場合,図3(c)に示すように,この通板方向と逆向きの溶融錫亜鉛合金10の流れが強くなる。このため,剥離板6を通過後,鋼板Hの縁部から幅方向の外側に向かう流れも強くなり,鋼板の縁部に渦流が生じる。その結果,剥離して浮遊しているフラックス11が剥離板6と矯正ロール4で囲まれた部分に巻き込まれ,その結果,フラックス11が鋼板Hの表面へ再付着するおそれがある。したがって,本実施の形態では,これらの距離E,Fが適正な200mm〜400mmと設定されているため,溶融錫亜鉛合金10内に浮遊しているフラックス11が,剥離板6と補助剥離板7を通過した後の鋼板Hの表面に再付着することを防止することができる。
【0028】
本実施の形態におけるポットロール3と矯正ロール4の位置関係について,図4に基づいて説明する。例えばポットロール3のシャフトの中心と矯正ロール4のシャフト4aの中心との水平方向距離Aは145〜195mmで,その鉛直方向距離Bは1500〜1550mmに設定される。ポットロール3は既述の通り,斜め上方から侵入された鋼板Hをその進行方向を変えて上方に送り出すが,鋼板Hの溶融錫亜鉛合金10への侵入位置からポットロール3までの間の鋼板Hの傾き角度αは水平方向に対して40度〜50度が好ましい。この角度αは,フラックス11を溶解させ,鋼板Hと溶融錫亜鉛合金10の反応を促進するために,水平に近い角度に設定されている。また,ポットロール3から矯正ロール4の間の鋼板Hの傾き角度βは鉛直方向に対して5度〜8度が好ましい。この角度βがこれより大きい角度となると,ポットロール3の負荷が過大になるために,ポットロール3の耐久性が低くなるからである。また,傾き角度βが鉛直方向に対して5度〜8度と小さく,特許文献1にあるように剥離浮遊効果が無い角度であっても,剥離板6が既述の位置に設置されると,フラックス11は充分に鋼板Hの表面から除去される。
【0029】
本実施の形態にかかるフラックスメッキ装置1は以上のように構成されており,次にその運転例について説明する。
【0030】
鋼板Hは,表面にZnCl2とNH4Clの水溶液のフラックスを塗布され,あるいは,溶融状態のZnCl2とNH4Clのフラックス層を通過した後,溶融金属槽2内の溶融錫亜鉛合金10内に水平方向に対して40度〜50度の角度で連続的に斜行侵入し,溶融錫亜鉛合金10内に浸漬される。浸漬された鋼板Hは,その進行方向を上側向きに変えるポットロール3に達するまでに,溶融錫亜鉛合金10が付着し,Sn−Znメッキが被覆される。この間,鋼板Hの表面に塗布されたフラックスは溶融状態になり,鋼板Hの表面上の酸化膜を除去して鋼板Hの表面を活性化した後,塩基性塩化亜鉛Zn5(OH)8Cl2・H2Oである固形の劣化物となる。塩基性塩化亜鉛となったフラックス11は溶融錫亜鉛合金10に比べて比重が小さく,その一部は鋼板Hの表面から自然に剥離し溶融錫亜鉛合金10内に浮遊するが,鋼板Hがポットロール3によってその進行方向を上側向きに変えられた後も,特に鋼板Hの裏面に残存している。
【0031】
ポットロール3によって進行方向を上側向きに変えられた鋼板Hは,矯正ロール4によって鉛直方向から5〜8度の傾きで上方かつ矯正ロール5側に移動し,ポットロール3の下流側に設けられた矯正ロール4,5によって,鋼板Hの形状が矯正される。鋼板Hの形状の矯正は,調整機構20を用いて矯正ロール4の水平方向移動量を調整することにより行われる。ポットロール3と矯正ロール4,5の間には,剥離板6と補助剥離板7がそれぞれ設けられており,それぞれの先端に位置する剥離部6a,7aによって,鋼板Hの裏側面と表側面に残存するフラックス11が除去される。矯正ロール4は鋼板Hの形状を矯正するために水平方向に移動するが,矯正ロール4は剥離板6と一体に移動するために,剥離部6aと鋼板Hとの距離が大きく変わる事無く一定に保たれる。これにより,鋼板Hの形状に関わらず,鋼板Hの表面のフラックス11を最適な状態で除去することができる。さらに本発明においては,剥離部6a,7aと鋼板Hの表面との間の距離が10mm以下に保たれ,より多くの鋼板Hの表面に残存するフラックス11を除去することができる。
【0032】
また,矯正ロール4の表面と剥離板6における剥離部6aとの間の最短距離Eを例えば330mmとし,矯正ロール5の表面と補助剥離板7における剥離部7aとの間の最短距離Fを例えば230mmとしているので,鋼板Hの通板方向と逆方向の溶融錫亜鉛合金10の流れが生じ,溶融錫亜鉛合金10内に浮遊しているフラックス11が,剥離板6,補助剥離板7を通過した後の鋼板Hの表面に再付着することを防止することができる。
【0033】
以上のように,本実施の形態のフラックスメッキ装置1によれば,剥離板6が矯正ロール4と一体に移動するため,鋼板Hの表面と剥離板6の剥離部6aとの間の距離Eを,10mm以下という狭い隙間であっても,ほぼ一定に保つことができる。また,補助剥離板7も矯正ロール5と一体となっており,鋼板Hの表面と補助剥離板7の剥離部7aとの間の距離もほぼ一定に保つことができる。これにより,鋼板Hの表面に残存するフラックス11を常に最適な位置にて除去して,これを軽減することができ,メッキ膜を被覆した鋼板の品質を向上することができる。一方,矯正ロール4と剥離板6,補助剥離板7を一体化しないで別々に設置すると,矯正ロール4を水平方向に移動させた際に,剥離板6,補助剥離板7と鋼板Hが接触しないようにその都度調整する必要があるので,操作が煩雑になる。さらに,矯正ロール4と剥離板6,補助剥離板7は不透明な溶融錫亜鉛合金10の中に浸漬しているので,溶融錫亜鉛合金10中で距離E,Fを10mm以下という狭い隙間に調整することも容易ではない。これに対して,本実施の形態にように,矯正ロール4と剥離板6,補助剥離板7をそれぞれ一体化して設置したことにより,矯正ロール4の操作が容易になり,また距離E,Fを10mm以下という狭い隙間に調整することも容易になる。
【0034】
次に他の実施の形態について,図5に基づいて説明する。図5は他の実施の形態にかかるフラックスメッキ装置30の概略を示している。
【0035】
フラックス11を鋼板Hに塗布した後,鋼板Hを溶融錫亜鉛合金10に浸漬させ,鋼板Hがポットロール3に達するまでに,フラックス11は溶融して鋼板H上の酸化物を除去してから分離除去される必要がある。フラックス11の分離除去の為には,鋼板Hの侵入角度αが水平方向に対してなるべく大きい方が良い。しかし,鋼板Hの通板速度が大きい場合,フラックス11の溶解に要する時間を確保する為には,鋼板Hを溶融錫亜鉛合金10に浸漬させ,鋼板Hがポットロール3に達するまでの距離を併せて確保する必要がある。前記時間と距離の両者を両立させる為には,溶融金属槽2の深さをより深くする必要が有り相応のスペースを確保しなければならず,工業的に不経済である。したがって,鋼板Hの侵入角度αを水平方向に対してなるべく小さくして,鋼板Hがポットロール3に達するまでの距離を確保し,別の方法でフラックス除去を促進する手立てを講じたほうがよい。この点に関し,特開平6−49614号公報によると,この間で複数の仕切り板を設けることが提案されている。この仕切り板の目的は,有機水溶性フラックスの持込によって生じた酸化物及びドロスがめっき浴から引き上げる直前の板条に付着しないような構造の溶融めっき槽にすることにあり,フラックスの剥離効果は記載されていない。加えて,鋼板の場合には,張力変動やサイズ変更時にはカテナリが変わるので,この様な時に仕切り板と鋼板が接触する。この為に仕切り板と鋼板の間隔を狭くすることが出来ない。また,本発明を適用する鋼板の幅は900mm〜1500mm程度と大きい為に,幅方向の反りもあり,更に間隔を広くする必要がある。そのために仕切り板でフラックスを除去する効果はより小さくなる。従って,このような仕切り板を設置しても鋼板上のフラックスを剥離する剥離板の効果は期待できない。
【0036】
そこで,他の実施の形態のフラックスメッキ装置30は,図1に示すフラックスメッキ装置1に,さらに鋼板Hの表面に付着したフラックス11を除去するための他の剥離板31を有している。他の剥離板31は,鋼板Hの溶融金属槽2内の溶融錫亜鉛合金10内への斜行侵入位置から,ポットロール3までの間の位置に設けられており,溶融金属槽2の短手方向と平行であって,溶融錫亜鉛合金10の上下方向に配置されている。
【0037】
他の剥離板31は,図6に示すとおり,鋼板Hを通過させる長方形の通過口32を有する。通過口32における上下に対向する縁部33,33により,鋼板Hの表面に付着したフラックス11を除去することができ,フラックス11を自然剥離させるよりもさらに多くのフラックス11を除去することができる。通過口32の上下方向の高さTは20mm以下とし,鋼板Hと通過口32の縁部33,33との間の距離S1,S2はそれぞれ10mm以下となるように,他の剥離板31を配置する。他の剥離板31は,レール34,34によって支持され,上下方向に移動することができる。レール34,34は溶融金属槽2内の長手方向の対向する側面に各々垂直に設けられ,レール34,34は対向している。レール34は,図7に示すとおり,その水平断面形状は凹型であり,対向する溝部34a,34aに他の剥離板31が挿入されている。これにより,他の剥離板31は水平方向に固定され,上下方向に移動することができる。また,溶融錫亜鉛合金10内が不透明な場合に,鋼板Hと他の剥離板31の縁部33の間隔を検査するためには,他の剥離板31を設置しているレール34,34に例えば歪ゲージ(図示せず)を貼り付けて,溶融錫亜鉛合金10から他の剥離板31が受ける動圧の大きさを測定してもよい。例えば,他の剥離板31の縁部33と鋼板Hの間隔が小さいと動圧は大きくなり,逆にこの間隔が大きいと動圧が小さくなる。この動圧と間隔の関係を例えば触針(図示せず)を用いて予め測定しておくことにより,歪ゲージにより測定された動圧から縁部33と鋼板Hの間隔を求めることができる。そして,この間隔に基づいて他の剥離板31を上下方向に移動させ,他の剥離板31を適切な位置に配置することができる。
【0038】
以上のように,他の実施の形態のフラックスメッキ装置30によれば,他の剥離板31の縁部33,33によってフラックス11を強制的に除去することにより,鋼板Hの溶融金属槽2内の溶融錫亜鉛合金10内への斜行侵入位置からポットロール3までの間において,鋼板Hの表面に残存するフラックス11を自然剥離させるよりもさらに軽減することができる。これにより,メッキ膜を被覆した鋼板の品質をさらに向上することができる。またこの場合,フラックス11の分離除去のために,鋼板Hの侵入角度αが水平方向に対して大きくする必要がないため,溶融金属槽2の深さを深くする必要がなく,経済的な溶融金属槽2を提供することができる。
【0039】
他の剥離板31は,図8に示すとおり,通過口32の位置で上板35と下板36に分割してもよい。さらに他の剥離板31は,下板36の一端40を中心に,下板36は上板35に対して回動自在としてもよい。下板36の他端には,上板35と下板36を固定するための留め具41が設けられ,上板35と下板36を固定することができる。なお,下板36は一端40を中心に回動する際,レール34と干渉しない大きさとする。
【0040】
このような他の剥離板31は,鋼板Hがすでに溶融錫亜鉛合金10内に浸漬されている状態で,他の剥離板31をレール34に設置する場合に用いることができる。すなわち,下板36を上板35に対して下方向に回動させた状態で,他の剥離板31を溶融錫亜鉛合金10内を下降させる。通過口32が鋼板Hの位置まで達した際に,下板36を回動させ留め具41によって上板35に固定させる。これにより,鋼板Hがすでに溶融錫亜鉛合金10内に浸漬されている状態でも,他の剥離板31をレール34に設置することができる。
【0041】
また,他の剥離板31は,図9に示すとおり,通過口32の位置で上板51と下板52に分割され,上板51と下板52が別々に上下方向に移動するようにしてもよい。上板51の鉛直方向の両端には上板駆動部53,53が設けられ,上板駆動部53は上板51を上下方向に移動させる。下板52の上下方向の両端には下板駆動部54,54がそれぞれ設けられ,下板駆動部54は下板52を上下方向に移動させる。上板駆動部53,53と下板駆動部54,54は,それぞれレール55,55上に設けられている。レール55,55は溶融金属槽2内の長手方向の対向する側面に各々垂直に設けられ,レール55,55は対向している。レール55は,図10に示すとおり,その水平断面形状はL型の形状を有している。
【0042】
このように上板51と下板52が別々にレール55,55上を上下方向に移動することにより,鋼板Hの張力が変動して鋼板Hのカテナリが変化した場合でも,鋼板Hと他の剥離板31が接触することを防止できる。なお,この場合,通過口32において対向する縁部33,33の上下距離Tを70mmまで広げることができるようにしてもよい。
【0043】
またこの場合,下板52は,図10に示すように,その一端を中心として,水平方向に回動自在としてもよい。これにより,鋼板Hがすでに溶融錫亜鉛合金10内に浸漬されている状態でも,他の剥離板31をレール55に設置することができる。
【0044】
さらに,他の実施の形態にかかるフラックスメッキ装置30は,図11に示すように,他の剥離板31における上板51と下板52の上下方向の移動を制御する制御部61を有していてもよい。制御部61は,溶融金属槽2の外部に設けられている。鋼板Hの上流側には,鋼板Hを上下方向にループさせるために,上流側から順にターンロール64,ループロール63,ターンロール64が設けられている。ループロール63は鋼板Hの表面側と接し,鋼板Hの張力によって,上下方向に変動自在になるように設置されている。2つのターンロール64は鋼板Hの裏面側と接し,固定設置されている。ループロール63の回転軸となるシャフトは位置検出部62に支持されており,位置検出部62は鋼板Hの張力によって変動するループロール63の上下方向の位置を検出する。この検出結果は制御部61に出力され,他の剥離板31における上板51と下板52の上下方向の移動量が算出される。例えば,鋼板Hの張力が弱くなると,下板52が下方向に移動し,鋼板Hの張力が強くなると,上板51が上方向に移動するように,上板51と下板52のそれぞれの移動量が算出される。これらの移動量は,上板駆動部53と下板駆動部54にそれぞれ伝達され,上板51と下板52の移動量が制御される。
【0045】
このように上板51と下板52の上下方向の移動を自動で制御することにより,他の剥離板31の遠隔操作が可能となる。また,作業者の介入による人為的ミスを削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は,表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に浸漬し,鋼板表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆する,フラックスメッキ装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施の形態にかかるフラックスメッキ装置の概略を示す説明図である。
【図2】矯正ロールと剥離板の側面図である。
【図3】矯正ロールと剥離板の位置関係を示す説明図である。
【図4】ポットロールと矯正ロールの位置関係を示す説明図である。
【図5】他の実施の形態にかかるフラックスメッキ装置の概略を示す説明図である。
【図6】他の剥離板を示す溶融金属槽の縦断面の説明図である。
【図7】他の剥離板を示す溶融金属槽の横断面の説明図である。
【図8】他の剥離板における下板を平面の一端を中心とし下方に回動した状態を示す説明図である。
【図9】他の剥離板における上板と下板が別々に上下動することを示す説明図である。
【図10】他の剥離板における下板が水平方向に回動した状態を示す説明図である。
【図11】他の剥離板の上下動を制御する制御部を有するフラックスメッキ装置の概略を示す説明図である。
【図12】従来のフラックスメッキ装置の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 フラックスメッキ装置
2 溶融金属槽
3 ポットロール
4,5 矯正ロール
6 剥離板
11 フラックス
31 他の剥離板
H 鋼板
【技術分野】
【0001】
本発明は,表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に浸漬し,溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板を溶融金属内に浸漬して鋼板表面にメッキ膜を形成する従来の溶融メッキ装置としては,例えば鋼板を溶融金属内に浸漬する前に,フラックスを鋼板表面に塗布するフラックスメッキ装置が知られている。そして鋼板表面へのフラックスの塗布方法には,例えば水溶液状態にしたフラックスを鋼板表面に塗布する方法や,あるいは溶融金属の鋼板侵入部に形成された溶融状態のフラックス層に鋼板を通過させる方法がある。
【0003】
このフラックスによって,鋼板表面に発錆する酸化膜が溶解除去され,鋼板表面が活性化し,鋼板表面に密着性の良いメッキ膜を形成することができる。しかし,フラックスは初期には溶融状態であるが,反応の進行により固形状態となる。固化したフラックスは,鋼板進行によって生じる随伴流により溶融金属内の深部まで引込まれるため,ロールと鋼板の間に入り込み,鋼板表面に傷や汚れといった品質不良を引き起こす。
そこで従来から,浮上固化して浮遊しているフラックスを鋼板表面に再付着させない為に,仕切り板を有し,その下端を鋼板表面に近接配置したフラックスメッキ装置が用いられてきた(特許文献1)。
【0004】
より具体的に説明すると図12に示すように,従来のフラックスメッキ装置100においては,表面にフラックスを塗布した鋼板Hを溶融金属110内に連続的に斜行侵入させて,鋼板Hの表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するようになっている。その後ターンロール102によって鋼板Hの進行方向が上側向きに変えられる。鋼板Hが溶融金属110内に侵入してからターンロール102に達するまでの間に,鋼板Hの表面に付着したフラックス111は固化し,その一部が鋼板Hの表面より浮上除去される。この工程においては,フラックス111は鋼板Hの表面に残留するものもあるため,ターンロール102とガイドロール103の間で,例えば鋼板Hの角度を垂直線に対して15°〜85°に大きく傾けて,更にフラックス111を浮上除去させていた。さらに,この間に仕切り板104を設置し,この仕切り板104によって,鋼板Hの表面へのフラックス111の再付着を防止するように構成されていた。
【特許文献1】特開平10−8229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,この仕切り板104は,溶融金属110内に浮遊しているフラックス111の再付着を防止する効果はあったが,フラックス111の剥離については何ら考慮されておらず,フラックス111の剥離効果自体を期待できなかった。また,鋼板Hの角度を垂直線に対して15°〜85°に傾けることは,ターンロール102の軸や軸受けに過大な負荷を与えるために,ターンロール102が回転し難くなる。このターンロール102の回転不良により,ターンロール102の表面の擦り疵が増加するとともに,軸や軸受けの損耗が大きくなるため,ターンロール102の交換頻度を早めることになる。すなわち,ターンロール102を交換するためには操業を停止する必要があるため,ターンロール102の交換頻度が大きくなると,鋼板Hの生産性が低下する。一方,ターンロール102の負荷を軽減するために,鋼板Hの角度を垂直線に対して15°以下にすると,ターンロール102とガイドロール103の間において,鋼板Hの表面からのフラックス111の浮遊離脱効果が得られない。
また,ガイドロール103を,鋼板Hの形状を矯正するために矯正ロールとして使用し,矯正ロールの位置を水平方向に移動調整した場合,溶融金属槽101に対する鋼板Hの水平方向の位置が変わる。一方,剥離板104は溶融金属槽101に対して固定されている。そのため,仕切り板104と鋼板Hの間の隙間が一定間隔ではなく,仕切り板104と鋼板Hとの隙間の距離が大きくなる場合がある。この場合,フラックス111を完全に除去することが難しく,鋼板表面に傷や汚れといった品質不良を引き起こすおそれがある。
【0006】
本発明は,かかる点に鑑みてなされたものであり,表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に連続的に斜行侵入させて浸漬し,鋼板表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置において,ポットロール通過後の鋼板の角度が垂直線に対して15°以下であって,鋼板表面上の酸化膜を除去後に鋼板表面に残存するフラックスが浮上除去されない条件においても,当該フラックスを軽減し,メッキ膜を被覆した鋼板の品質を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため,本発明によれば,表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に連続的に斜行侵入させて浸漬し,当該鋼板表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置であって,前記溶融金属を貯留する溶融金属槽と,前記溶融金属槽の溶融金属内において前記鋼板の進行方向を上側向きに変えるポットロールと,前記ポットロールを通過後の前記鋼板の形状を矯正する少なくとも水平方向に移動可能な矯正ロールと,前記ポットロールと前記矯正ロールの間に位置し,前記鋼板の表面に付着したフラックスを除去する剥離板と,を有し,前記剥離板は,先端の剥離部が鋼板の表面に近接した状態で前記矯正ロールと一体に移動することを特徴とするフラックスメッキ装置が提供される。
【0008】
本発明においては,鋼板の形状を矯正するために矯正ロールを移動させて鋼板の位置が変動しても,剥離板と矯正ロールが一体に移動するため,鋼板の表面と剥離板における剥離部との隙間の距離を一定の常に近接した状態に保つことができる。これにより,矯正ロール及び鋼板の位置に関わらず,剥離板によって鋼板の表面に付着したフラックスを好適に除去することができる。
【0009】
前記鋼板の表面と前記剥離板の剥離部との隙間の距離は10mm以下が好ましい。
【0010】
前記矯正ロールの表面と前記剥離板における剥離部との間の距離(例えば後述する図2のE,F)は,前記矯正ロールと前記剥離板と前記鋼板で形成される空間に鋼板の通板方向と逆方向に向かって鋼板に沿って流れる溶融金属流れが形成され,なおかつその溶融金属流れにより,前記剥離板を通過する前の鋼板からのフラックスの剥離を促進させるような長さに設定してもよい。さらに,前記溶融金属流れが強いために前記空間における鋼板の縁部に渦流が生じることによって,前記溶融金属内に浮遊しているフラックスが,前記剥離板を通過した後の前記鋼板の表面に再付着しない長さに設定してもよい。
【0011】
前記長さ(例えば後述する図2のE,F)は例えば200mm〜400mmが好ましい。この距離に前記矯正ロールを設置することにより,前記矯正ロールと前記剥離板と前記鋼板で形成される空間に鋼板の通板方向と逆方向に向かって鋼板に沿って流れる溶融金属流れが形成される。その溶融金属流れにより,前記剥離板を通過する前に,鋼板からのフラックスの剥離を促進させることができる。さらに,前記溶融金属内に浮遊しているフラックスが,前記剥離板を通過した後の前記鋼板の表面に再付着することを防止できる。
【0012】
さらに,前記鋼板の溶融金属槽への侵入位置と前記ポットロールの間に,前記鋼板の表面に付着した前記フラックスを除去する他の剥離板を設けてもよい。この場合,鋼板表面に残存するフラックスをさらに軽減することができる。
【0013】
前記他の剥離板は前記鋼板を通過させて,その対向する縁部で前記鋼板表面のフラックスを剥離するための通過口を有し,前記他の剥離板は上下方向に移動可能であることを特徴としている。これにより,鋼板の位置や厚みに基づいて,鋼板が前記通過口の上下方向の中心に位置するように前記他の剥離板の位置を調整し,鋼板表面のフラックスを除去するにあたって,常に最適な位置にてこれを行うことができる。
【0014】
また,前記他の剥離板を前記通過口部分で上板と下板に分離可能とし,下板はその一端を中心として上板に対して回動自在としてもよい。この場合,鋼板が溶融金属内に浸漬されている状態でも,他の剥離板を設置や修理,保守するために撤去,交換をすることが可能である。
【0015】
前記通過口における前記対向する縁部間の距離は20mm以下が好ましい。この際,鋼板が前記通過口の上下方向の中心に位置するように,前記他の剥離板を配置してもよい。
【0016】
さらに,前記他の剥離板を前記通過口部分で上板と下板に分離可能とし,上板と下板は別々に上下方向に移動自在としてもよい。これにより,鋼板の張力が変動して鋼板のカテナリが変化した場合でも,鋼板と他の剥離板が接触することを防止できる。
【0017】
前記下板は,その一端を中心として,水平方向に回動自在であってもよい。この場合,鋼板が溶融金属内に浸漬されている状態でも,他の剥離板を設置や修理,保守するために撤去,交換をすることが可能である。
【0018】
さらに,前記上板と下板が別々に上下方向に移動する他の剥離板を有するフラックスメッキ装置は,鋼板を上下方向にループさせて,鋼板の張力によって上下方向に移動するループロールと,前記ループロールの上下方向の位置を検出する位置検出部と,前記位置検出部からの出力結果から,前記上板と下板のそれぞれの上下方向の移動量を制御する制御部を有してもよい。これにより,前記上板と下板はそれぞれの上下方向の移動が自動で制御される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,矯正ロールを移動させたり,鋼板の種類を変えても,鋼板表面と剥離板の剥離部との間の距離を一定に保つことができるので,鋼板表面に残存するフラックスを常に適切に除去して,これを軽減することができ,メッキ膜を被覆した鋼板の品質を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下,本発明の実施の形態について,図1に基づいて説明する。図1は本実施の形態にかかるフラックスメッキ装置1の概略を示している。
【0021】
フラックスメッキ装置1は,上面が開口し,長手方向に続く溶融金属槽2を有している。溶融金属槽2内には,鋼板Hの表面にSn−Znメッキ膜を被覆する溶融金属としての溶融錫亜鉛合金10が貯留されている。
【0022】
溶融錫亜鉛合金10内には,斜め上方から侵入された鋼板Hをその進行方向を変えて上方に送り出すポットロール3が設けられている。ポットロール3は溶融金属槽2に対して固定されている。さらに溶融錫亜鉛合金10内であってポットロール3の下流側には,鋼板Hの形状を矯正するために,一対の矯正ロール(スタビロール)4,5が上流側からこの順で設けられている。すなわち,実施の形態においては4の上方に5が位置している。矯正ロール4,5は,鋼板Hの両側に,鋼板Hを挟んで斜めに対向し,矯正ロール5が上側に矯正ロール4が下側に設けられている。上流側の矯正ロール4は鋼板Hの裏面側と接し(以下,本側の鋼板Hの表面を裏面側という),下流側の矯正ロール5は鋼板Hの表面側と接している(以下,本側の鋼板Hの表面を表面側という)。矯正ロール4には,鋼板Hに対する押し込み量を調整する調整機構が取り付けられており,矯正ロール4は水平方向に移動することができる。この調整機構に押す詳細については,後述する。一方,矯正ロール5は溶融金属槽2に対して固定されている。
【0023】
さらにポットロール3と矯正ロール4の間には,鋼板Hの裏面側に付着したフラックス11を除去する剥離板6が設けられている。一方,ポットロール3と矯正ロール5の間にも,鋼板Hの表面側に付着したフラックス11を除去する補助剥離板7が設けられている。
【0024】
剥離板6は図2に示すとおり,矯正ロール4に対して固定されている。矯正ロール4の回動軸となるシャフト4aの両端部には,矯正ロール4を支持する支持部材21がそれぞれ設けられている。一方,剥離板6の両端部には,剥離板6を支持する支持板23がそれぞれ設けられている。支持部材21と支持板23は固定されている。これにより,剥離板6は矯正ロール4に対して固定され,矯正ロール4と一体に移動する。
【0025】
次に,上述した矯正ロール4の押し込み量を調整する調整機構20について説明する。溶融金属槽2の上面の一部には,上面板25が形成されており,上面板25にはガイド(図示せず)が設けられている。矯正ロール4の支持部材21はこのガイドに沿って移動する。一方,上面板25には,矯正ロール4の水平方向に延びるネジ26が取り付けられている。支持部材21の上端部は,ネジ26に取り付けられ,ネジ26の回動により軸方向に移動できる。ネジ26の先端部には,モータ27が取り付けられている。このモータ27によりネジ26を回動させ,支持部材21をネジ26に沿ってスライドさせることにより,矯正ロール4を水平移動させて,矯正ロール4の鋼板Hに対する押し込み量を調整できる。なお,ネジ26の駆動については,モータ27に変えて例えばハンドルを設けて手動で行ってもよい。
【0026】
また,補助剥離板7についても同様に,矯正ロール5を支持する支持部材22と補助剥離板7を支持する支持板24によって,矯正ロール5に対して固定されている。支持部材22は,矯正ロール5の回動軸のシャフト5aの両端部にそれぞれ設けられ,上端部がその上面板25上に固定されている。支持板24は補助剥離板7の両端部にそれぞれ設けられている。
【0027】
本実施の形態における鋼板Hの表面と剥離板6において,フラックス11を剥離する剥離部6aとの隙間の距離Cが10mm以下となるように,剥離板6は配置される。補助剥離板7も同様に,鋼板Hの表面と補助剥離板7において,フラックス11を剥離する剥離部7aとの距離Dが10mm以下となるように,補助剥離板7は配置される。剥離板6と補助剥離板7は従来の仕切り板と異なり,鋼板Hの表面のフラックス11を剥ぎ取る効果を有する。すなわち,前記距離C又はDは10mm以下とする場合,フラックス11を剥離する効果があり,10mm以上ではその剥離効果が著しく低減する。また本実施の形態においては,矯正ロール4の表面と剥離板6における剥離部6aとの最短距離Eは例えば330mmとし,矯正ロール5の表面と補助剥離板7における剥離部7aとの最短距離Fは例えば230mmに設定されている。これらの距離E,Fを200mm〜400mmと設定することにより,溶融錫亜鉛合金10内に浮遊しているフラックス11が,剥離板6と補助剥離板7を通過した後の鋼板Hの表面に再付着することを防止することができる。距離Eが適正な200mm〜400mmであると,鋼板Hが例えば20m/分〜90m/分の速度で矯正ロール4を下方から上方に通過する場合,図3(a)に示すように,矯正ロール4が回転することにより,矯正ロール4に随伴した溶融錫亜鉛合金10の流れが生じる。この随伴流により,剥離板6と鋼板Hで囲まれた空間において,通板方向と逆向きに溶融錫亜鉛合金10の流れが生じる。この溶融錫亜鉛合金10の流れは,剥離板6によるフラックス11の剥離を促進する効果(以下,洗浄効果という)がある。このように,フラックス11は充分に剥離除去され,また洗浄されるため,鋼板Hの表面近傍に浮遊しているフラックス11が鋼板Hの表面に再付着することを防止する効果がある。また,鋼板Hの縁部から幅方向の外側に向かう流れは弱いので,剥離板6により剥離され,溶融錫亜鉛合金10内に浮遊しているフラックス11が,矯正ロール4と剥離板6で囲まれた空間に巻き込まれ,鋼板Hの表面に再付着することを防ぐことができる。一方,距離Eが400mmより大きい場合,図3(b)に示すように,この通板方向と逆向きの溶融錫亜鉛合金10の流れが弱くなるため,洗浄効果が弱くなる。この結果,鋼板Hの表面近傍に浮遊しているフラックス11が鋼板Hの表面に再付着するおそれがある。また,距離Eが200mmより小さい場合,図3(c)に示すように,この通板方向と逆向きの溶融錫亜鉛合金10の流れが強くなる。このため,剥離板6を通過後,鋼板Hの縁部から幅方向の外側に向かう流れも強くなり,鋼板の縁部に渦流が生じる。その結果,剥離して浮遊しているフラックス11が剥離板6と矯正ロール4で囲まれた部分に巻き込まれ,その結果,フラックス11が鋼板Hの表面へ再付着するおそれがある。したがって,本実施の形態では,これらの距離E,Fが適正な200mm〜400mmと設定されているため,溶融錫亜鉛合金10内に浮遊しているフラックス11が,剥離板6と補助剥離板7を通過した後の鋼板Hの表面に再付着することを防止することができる。
【0028】
本実施の形態におけるポットロール3と矯正ロール4の位置関係について,図4に基づいて説明する。例えばポットロール3のシャフトの中心と矯正ロール4のシャフト4aの中心との水平方向距離Aは145〜195mmで,その鉛直方向距離Bは1500〜1550mmに設定される。ポットロール3は既述の通り,斜め上方から侵入された鋼板Hをその進行方向を変えて上方に送り出すが,鋼板Hの溶融錫亜鉛合金10への侵入位置からポットロール3までの間の鋼板Hの傾き角度αは水平方向に対して40度〜50度が好ましい。この角度αは,フラックス11を溶解させ,鋼板Hと溶融錫亜鉛合金10の反応を促進するために,水平に近い角度に設定されている。また,ポットロール3から矯正ロール4の間の鋼板Hの傾き角度βは鉛直方向に対して5度〜8度が好ましい。この角度βがこれより大きい角度となると,ポットロール3の負荷が過大になるために,ポットロール3の耐久性が低くなるからである。また,傾き角度βが鉛直方向に対して5度〜8度と小さく,特許文献1にあるように剥離浮遊効果が無い角度であっても,剥離板6が既述の位置に設置されると,フラックス11は充分に鋼板Hの表面から除去される。
【0029】
本実施の形態にかかるフラックスメッキ装置1は以上のように構成されており,次にその運転例について説明する。
【0030】
鋼板Hは,表面にZnCl2とNH4Clの水溶液のフラックスを塗布され,あるいは,溶融状態のZnCl2とNH4Clのフラックス層を通過した後,溶融金属槽2内の溶融錫亜鉛合金10内に水平方向に対して40度〜50度の角度で連続的に斜行侵入し,溶融錫亜鉛合金10内に浸漬される。浸漬された鋼板Hは,その進行方向を上側向きに変えるポットロール3に達するまでに,溶融錫亜鉛合金10が付着し,Sn−Znメッキが被覆される。この間,鋼板Hの表面に塗布されたフラックスは溶融状態になり,鋼板Hの表面上の酸化膜を除去して鋼板Hの表面を活性化した後,塩基性塩化亜鉛Zn5(OH)8Cl2・H2Oである固形の劣化物となる。塩基性塩化亜鉛となったフラックス11は溶融錫亜鉛合金10に比べて比重が小さく,その一部は鋼板Hの表面から自然に剥離し溶融錫亜鉛合金10内に浮遊するが,鋼板Hがポットロール3によってその進行方向を上側向きに変えられた後も,特に鋼板Hの裏面に残存している。
【0031】
ポットロール3によって進行方向を上側向きに変えられた鋼板Hは,矯正ロール4によって鉛直方向から5〜8度の傾きで上方かつ矯正ロール5側に移動し,ポットロール3の下流側に設けられた矯正ロール4,5によって,鋼板Hの形状が矯正される。鋼板Hの形状の矯正は,調整機構20を用いて矯正ロール4の水平方向移動量を調整することにより行われる。ポットロール3と矯正ロール4,5の間には,剥離板6と補助剥離板7がそれぞれ設けられており,それぞれの先端に位置する剥離部6a,7aによって,鋼板Hの裏側面と表側面に残存するフラックス11が除去される。矯正ロール4は鋼板Hの形状を矯正するために水平方向に移動するが,矯正ロール4は剥離板6と一体に移動するために,剥離部6aと鋼板Hとの距離が大きく変わる事無く一定に保たれる。これにより,鋼板Hの形状に関わらず,鋼板Hの表面のフラックス11を最適な状態で除去することができる。さらに本発明においては,剥離部6a,7aと鋼板Hの表面との間の距離が10mm以下に保たれ,より多くの鋼板Hの表面に残存するフラックス11を除去することができる。
【0032】
また,矯正ロール4の表面と剥離板6における剥離部6aとの間の最短距離Eを例えば330mmとし,矯正ロール5の表面と補助剥離板7における剥離部7aとの間の最短距離Fを例えば230mmとしているので,鋼板Hの通板方向と逆方向の溶融錫亜鉛合金10の流れが生じ,溶融錫亜鉛合金10内に浮遊しているフラックス11が,剥離板6,補助剥離板7を通過した後の鋼板Hの表面に再付着することを防止することができる。
【0033】
以上のように,本実施の形態のフラックスメッキ装置1によれば,剥離板6が矯正ロール4と一体に移動するため,鋼板Hの表面と剥離板6の剥離部6aとの間の距離Eを,10mm以下という狭い隙間であっても,ほぼ一定に保つことができる。また,補助剥離板7も矯正ロール5と一体となっており,鋼板Hの表面と補助剥離板7の剥離部7aとの間の距離もほぼ一定に保つことができる。これにより,鋼板Hの表面に残存するフラックス11を常に最適な位置にて除去して,これを軽減することができ,メッキ膜を被覆した鋼板の品質を向上することができる。一方,矯正ロール4と剥離板6,補助剥離板7を一体化しないで別々に設置すると,矯正ロール4を水平方向に移動させた際に,剥離板6,補助剥離板7と鋼板Hが接触しないようにその都度調整する必要があるので,操作が煩雑になる。さらに,矯正ロール4と剥離板6,補助剥離板7は不透明な溶融錫亜鉛合金10の中に浸漬しているので,溶融錫亜鉛合金10中で距離E,Fを10mm以下という狭い隙間に調整することも容易ではない。これに対して,本実施の形態にように,矯正ロール4と剥離板6,補助剥離板7をそれぞれ一体化して設置したことにより,矯正ロール4の操作が容易になり,また距離E,Fを10mm以下という狭い隙間に調整することも容易になる。
【0034】
次に他の実施の形態について,図5に基づいて説明する。図5は他の実施の形態にかかるフラックスメッキ装置30の概略を示している。
【0035】
フラックス11を鋼板Hに塗布した後,鋼板Hを溶融錫亜鉛合金10に浸漬させ,鋼板Hがポットロール3に達するまでに,フラックス11は溶融して鋼板H上の酸化物を除去してから分離除去される必要がある。フラックス11の分離除去の為には,鋼板Hの侵入角度αが水平方向に対してなるべく大きい方が良い。しかし,鋼板Hの通板速度が大きい場合,フラックス11の溶解に要する時間を確保する為には,鋼板Hを溶融錫亜鉛合金10に浸漬させ,鋼板Hがポットロール3に達するまでの距離を併せて確保する必要がある。前記時間と距離の両者を両立させる為には,溶融金属槽2の深さをより深くする必要が有り相応のスペースを確保しなければならず,工業的に不経済である。したがって,鋼板Hの侵入角度αを水平方向に対してなるべく小さくして,鋼板Hがポットロール3に達するまでの距離を確保し,別の方法でフラックス除去を促進する手立てを講じたほうがよい。この点に関し,特開平6−49614号公報によると,この間で複数の仕切り板を設けることが提案されている。この仕切り板の目的は,有機水溶性フラックスの持込によって生じた酸化物及びドロスがめっき浴から引き上げる直前の板条に付着しないような構造の溶融めっき槽にすることにあり,フラックスの剥離効果は記載されていない。加えて,鋼板の場合には,張力変動やサイズ変更時にはカテナリが変わるので,この様な時に仕切り板と鋼板が接触する。この為に仕切り板と鋼板の間隔を狭くすることが出来ない。また,本発明を適用する鋼板の幅は900mm〜1500mm程度と大きい為に,幅方向の反りもあり,更に間隔を広くする必要がある。そのために仕切り板でフラックスを除去する効果はより小さくなる。従って,このような仕切り板を設置しても鋼板上のフラックスを剥離する剥離板の効果は期待できない。
【0036】
そこで,他の実施の形態のフラックスメッキ装置30は,図1に示すフラックスメッキ装置1に,さらに鋼板Hの表面に付着したフラックス11を除去するための他の剥離板31を有している。他の剥離板31は,鋼板Hの溶融金属槽2内の溶融錫亜鉛合金10内への斜行侵入位置から,ポットロール3までの間の位置に設けられており,溶融金属槽2の短手方向と平行であって,溶融錫亜鉛合金10の上下方向に配置されている。
【0037】
他の剥離板31は,図6に示すとおり,鋼板Hを通過させる長方形の通過口32を有する。通過口32における上下に対向する縁部33,33により,鋼板Hの表面に付着したフラックス11を除去することができ,フラックス11を自然剥離させるよりもさらに多くのフラックス11を除去することができる。通過口32の上下方向の高さTは20mm以下とし,鋼板Hと通過口32の縁部33,33との間の距離S1,S2はそれぞれ10mm以下となるように,他の剥離板31を配置する。他の剥離板31は,レール34,34によって支持され,上下方向に移動することができる。レール34,34は溶融金属槽2内の長手方向の対向する側面に各々垂直に設けられ,レール34,34は対向している。レール34は,図7に示すとおり,その水平断面形状は凹型であり,対向する溝部34a,34aに他の剥離板31が挿入されている。これにより,他の剥離板31は水平方向に固定され,上下方向に移動することができる。また,溶融錫亜鉛合金10内が不透明な場合に,鋼板Hと他の剥離板31の縁部33の間隔を検査するためには,他の剥離板31を設置しているレール34,34に例えば歪ゲージ(図示せず)を貼り付けて,溶融錫亜鉛合金10から他の剥離板31が受ける動圧の大きさを測定してもよい。例えば,他の剥離板31の縁部33と鋼板Hの間隔が小さいと動圧は大きくなり,逆にこの間隔が大きいと動圧が小さくなる。この動圧と間隔の関係を例えば触針(図示せず)を用いて予め測定しておくことにより,歪ゲージにより測定された動圧から縁部33と鋼板Hの間隔を求めることができる。そして,この間隔に基づいて他の剥離板31を上下方向に移動させ,他の剥離板31を適切な位置に配置することができる。
【0038】
以上のように,他の実施の形態のフラックスメッキ装置30によれば,他の剥離板31の縁部33,33によってフラックス11を強制的に除去することにより,鋼板Hの溶融金属槽2内の溶融錫亜鉛合金10内への斜行侵入位置からポットロール3までの間において,鋼板Hの表面に残存するフラックス11を自然剥離させるよりもさらに軽減することができる。これにより,メッキ膜を被覆した鋼板の品質をさらに向上することができる。またこの場合,フラックス11の分離除去のために,鋼板Hの侵入角度αが水平方向に対して大きくする必要がないため,溶融金属槽2の深さを深くする必要がなく,経済的な溶融金属槽2を提供することができる。
【0039】
他の剥離板31は,図8に示すとおり,通過口32の位置で上板35と下板36に分割してもよい。さらに他の剥離板31は,下板36の一端40を中心に,下板36は上板35に対して回動自在としてもよい。下板36の他端には,上板35と下板36を固定するための留め具41が設けられ,上板35と下板36を固定することができる。なお,下板36は一端40を中心に回動する際,レール34と干渉しない大きさとする。
【0040】
このような他の剥離板31は,鋼板Hがすでに溶融錫亜鉛合金10内に浸漬されている状態で,他の剥離板31をレール34に設置する場合に用いることができる。すなわち,下板36を上板35に対して下方向に回動させた状態で,他の剥離板31を溶融錫亜鉛合金10内を下降させる。通過口32が鋼板Hの位置まで達した際に,下板36を回動させ留め具41によって上板35に固定させる。これにより,鋼板Hがすでに溶融錫亜鉛合金10内に浸漬されている状態でも,他の剥離板31をレール34に設置することができる。
【0041】
また,他の剥離板31は,図9に示すとおり,通過口32の位置で上板51と下板52に分割され,上板51と下板52が別々に上下方向に移動するようにしてもよい。上板51の鉛直方向の両端には上板駆動部53,53が設けられ,上板駆動部53は上板51を上下方向に移動させる。下板52の上下方向の両端には下板駆動部54,54がそれぞれ設けられ,下板駆動部54は下板52を上下方向に移動させる。上板駆動部53,53と下板駆動部54,54は,それぞれレール55,55上に設けられている。レール55,55は溶融金属槽2内の長手方向の対向する側面に各々垂直に設けられ,レール55,55は対向している。レール55は,図10に示すとおり,その水平断面形状はL型の形状を有している。
【0042】
このように上板51と下板52が別々にレール55,55上を上下方向に移動することにより,鋼板Hの張力が変動して鋼板Hのカテナリが変化した場合でも,鋼板Hと他の剥離板31が接触することを防止できる。なお,この場合,通過口32において対向する縁部33,33の上下距離Tを70mmまで広げることができるようにしてもよい。
【0043】
またこの場合,下板52は,図10に示すように,その一端を中心として,水平方向に回動自在としてもよい。これにより,鋼板Hがすでに溶融錫亜鉛合金10内に浸漬されている状態でも,他の剥離板31をレール55に設置することができる。
【0044】
さらに,他の実施の形態にかかるフラックスメッキ装置30は,図11に示すように,他の剥離板31における上板51と下板52の上下方向の移動を制御する制御部61を有していてもよい。制御部61は,溶融金属槽2の外部に設けられている。鋼板Hの上流側には,鋼板Hを上下方向にループさせるために,上流側から順にターンロール64,ループロール63,ターンロール64が設けられている。ループロール63は鋼板Hの表面側と接し,鋼板Hの張力によって,上下方向に変動自在になるように設置されている。2つのターンロール64は鋼板Hの裏面側と接し,固定設置されている。ループロール63の回転軸となるシャフトは位置検出部62に支持されており,位置検出部62は鋼板Hの張力によって変動するループロール63の上下方向の位置を検出する。この検出結果は制御部61に出力され,他の剥離板31における上板51と下板52の上下方向の移動量が算出される。例えば,鋼板Hの張力が弱くなると,下板52が下方向に移動し,鋼板Hの張力が強くなると,上板51が上方向に移動するように,上板51と下板52のそれぞれの移動量が算出される。これらの移動量は,上板駆動部53と下板駆動部54にそれぞれ伝達され,上板51と下板52の移動量が制御される。
【0045】
このように上板51と下板52の上下方向の移動を自動で制御することにより,他の剥離板31の遠隔操作が可能となる。また,作業者の介入による人為的ミスを削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は,表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に浸漬し,鋼板表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆する,フラックスメッキ装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施の形態にかかるフラックスメッキ装置の概略を示す説明図である。
【図2】矯正ロールと剥離板の側面図である。
【図3】矯正ロールと剥離板の位置関係を示す説明図である。
【図4】ポットロールと矯正ロールの位置関係を示す説明図である。
【図5】他の実施の形態にかかるフラックスメッキ装置の概略を示す説明図である。
【図6】他の剥離板を示す溶融金属槽の縦断面の説明図である。
【図7】他の剥離板を示す溶融金属槽の横断面の説明図である。
【図8】他の剥離板における下板を平面の一端を中心とし下方に回動した状態を示す説明図である。
【図9】他の剥離板における上板と下板が別々に上下動することを示す説明図である。
【図10】他の剥離板における下板が水平方向に回動した状態を示す説明図である。
【図11】他の剥離板の上下動を制御する制御部を有するフラックスメッキ装置の概略を示す説明図である。
【図12】従来のフラックスメッキ装置の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 フラックスメッキ装置
2 溶融金属槽
3 ポットロール
4,5 矯正ロール
6 剥離板
11 フラックス
31 他の剥離板
H 鋼板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に連続的に斜行侵入させて浸漬し,当該鋼板表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置であって,
前記溶融金属を貯留する溶融金属槽と,
前記溶融金属槽の溶融金属内において前記鋼板の進行方向を上側向きに変えるポットロールと,
前記ポットロールを通過後の前記鋼板の形状を矯正する少なくとも水平方向に移動可能な矯正ロールと,
前記ポットロールと前記矯正ロールの間に矯正ロール側に接近して位置し,前記鋼板の表面に付着したフラックスを除去する剥離板と,を有し,
前記剥離板は,先端の剥離部が鋼板の表面に近接した状態で前記矯正ロールと一体に移動することを特徴とする,フラックスメッキ装置。
【請求項2】
前記鋼板の表面と前記剥離板の剥離部との間の隙間は10mm以下であることを特徴とする,請求項1に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項3】
前記矯正ロールの表面と前記剥離板における剥離部との間の距離は,前記矯正ロールと前記剥離板と前記鋼板で形成される空間に鋼板の通板方向と逆方向に向かって鋼板に沿って流れる溶融金属流れが形成され,なおかつその溶融金属流れにより,前記剥離板を通過する前の鋼板からのフラックスの剥離を促進させるような長さに設定されていることを特徴とする,請求項1又は2に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項4】
前記矯正ロールの表面と前記剥離板における剥離部との間の距離は,前記溶融金属流れが強いために前記空間内の鋼板の縁部に渦流が生じることによって,前記溶融金属内に浮遊しているフラックスが前記剥離板を通過した後の前記鋼板の表面に再付着しない長さに設定されていることを特徴とする,請求項3に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項5】
前記長さは200mm〜400mmであることを特徴とする,請求項4に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項6】
さらに,前記鋼板の溶融金属槽への侵入位置と前記ポットロールの間にあって,前記鋼板の表面に付着したフラックスを除去する他の剥離板とを有し,
前記他の剥離板は前記鋼板を通過させて,その対向する縁部で前記鋼板表面のフラックスを剥離するための通過口を有し,
前記他の剥離板は上下方向に移動可能であることを特徴とする,請求項1〜5に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項7】
前記他の剥離板は前記通過口の部分で上板と下板に分離可能であり,下板はその一端を中心として上板に対して回動自在であることを特徴とする,請求項6に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項8】
前記通過口における前記対向する縁部間の距離は20mm以下であることを特徴とする,請求項6又は7に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項9】
前記他の剥離板は前記通過口の部分で上板と下板に分離可能であり,上板と下板は別々に上下方向に移動自在であることを特徴とする,請求項6に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項10】
前記下板はその一端を中心として水平方向に回動自在であることを特徴とする,請求項9に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項11】
前記フラックスメッキ装置はさらに,
鋼板を上下方向にループさせ,鋼板の張力によって上下方向に移動するループロールと,
前記ループロールの上下方向の位置を検出する位置検出部と,
前記位置検出部からの出力結果から,前記上板と下板のそれぞれの上下方向の移動量を制御する制御部と,を有することを特徴とする請求項9又は10に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項1】
表面にフラックスを塗布した鋼板を溶融金属内に連続的に斜行侵入させて浸漬し,当該鋼板表面に溶融金属を付着させてメッキ膜を被覆するフラックスメッキ装置であって,
前記溶融金属を貯留する溶融金属槽と,
前記溶融金属槽の溶融金属内において前記鋼板の進行方向を上側向きに変えるポットロールと,
前記ポットロールを通過後の前記鋼板の形状を矯正する少なくとも水平方向に移動可能な矯正ロールと,
前記ポットロールと前記矯正ロールの間に矯正ロール側に接近して位置し,前記鋼板の表面に付着したフラックスを除去する剥離板と,を有し,
前記剥離板は,先端の剥離部が鋼板の表面に近接した状態で前記矯正ロールと一体に移動することを特徴とする,フラックスメッキ装置。
【請求項2】
前記鋼板の表面と前記剥離板の剥離部との間の隙間は10mm以下であることを特徴とする,請求項1に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項3】
前記矯正ロールの表面と前記剥離板における剥離部との間の距離は,前記矯正ロールと前記剥離板と前記鋼板で形成される空間に鋼板の通板方向と逆方向に向かって鋼板に沿って流れる溶融金属流れが形成され,なおかつその溶融金属流れにより,前記剥離板を通過する前の鋼板からのフラックスの剥離を促進させるような長さに設定されていることを特徴とする,請求項1又は2に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項4】
前記矯正ロールの表面と前記剥離板における剥離部との間の距離は,前記溶融金属流れが強いために前記空間内の鋼板の縁部に渦流が生じることによって,前記溶融金属内に浮遊しているフラックスが前記剥離板を通過した後の前記鋼板の表面に再付着しない長さに設定されていることを特徴とする,請求項3に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項5】
前記長さは200mm〜400mmであることを特徴とする,請求項4に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項6】
さらに,前記鋼板の溶融金属槽への侵入位置と前記ポットロールの間にあって,前記鋼板の表面に付着したフラックスを除去する他の剥離板とを有し,
前記他の剥離板は前記鋼板を通過させて,その対向する縁部で前記鋼板表面のフラックスを剥離するための通過口を有し,
前記他の剥離板は上下方向に移動可能であることを特徴とする,請求項1〜5に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項7】
前記他の剥離板は前記通過口の部分で上板と下板に分離可能であり,下板はその一端を中心として上板に対して回動自在であることを特徴とする,請求項6に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項8】
前記通過口における前記対向する縁部間の距離は20mm以下であることを特徴とする,請求項6又は7に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項9】
前記他の剥離板は前記通過口の部分で上板と下板に分離可能であり,上板と下板は別々に上下方向に移動自在であることを特徴とする,請求項6に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項10】
前記下板はその一端を中心として水平方向に回動自在であることを特徴とする,請求項9に記載のフラックスメッキ装置。
【請求項11】
前記フラックスメッキ装置はさらに,
鋼板を上下方向にループさせ,鋼板の張力によって上下方向に移動するループロールと,
前記ループロールの上下方向の位置を検出する位置検出部と,
前記位置検出部からの出力結果から,前記上板と下板のそれぞれの上下方向の移動量を制御する制御部と,を有することを特徴とする請求項9又は10に記載のフラックスメッキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−291460(P2007−291460A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121897(P2006−121897)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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