説明

フラックス組成物及びブレージングシート

【課題】マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いた際、少ない塗布量であってもろう付け性を高めることができるフラックス組成物、及びこのフラックス組成物を用いたブレージングシートを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、アルミニウム合金材のろう付け用フラックス組成物であって、[A]KAlFを含むフラックス成分、及び[B]第1族元素及び第2族元素以外の元素を含み、Kを含まないフッ化物を含有することを特徴とする。また、本発明のブレージングシートは、アルミニウム合金からなる芯材と、この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、このろう材の一方の面に積層され、上記フラックス組成物からなるフラックス層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金材のろう付け用フラックス組成物、及びこのフラックス組成物を用いたブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する関心が高まっており、例えば自動車業界においても燃費向上等を目的とした軽量化が進んでいる。この軽量化のニーズに対応し、自動車の熱交換器用アルミクラッド材(ブレージングシート)の薄肉化及び高強度化の検討が盛んに行われている。上記ブレージングシートとしては、犠性材(例えばAl−Zn系)、芯材(例えばAl−Si−Mn−Cu系)及びろう材(例えばAl−Si系)の順からなる三層構造を有するものが一般的であり、高強度化を図るべく、上記芯材へマグネシウム(Mg)添加、つまりMgSi析出による強化の検討が進められている。
【0003】
また、熱交換器等の組み立ての際のブレージングシートの接合には、フラックスろう付け法が広く採用されている。このフラックスとは、ろう付け性を高めるものであり、一般的にはKAlFを主成分として含むもの等が用いられている。
【0004】
しかし、マグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる芯材を備えるブレージングシートは、上記従来のフラックスを用いた場合、ろう付け性を阻害するという不都合がある。この原因は、ろう付けのための加熱時に、芯材中のマグネシウムがろう材表面のフラックス中へ拡散し、このマグネシウムとフラックス成分とが反応して高融点化合物(KMgF及びMgF等)が形成されることで、フラックス成分が消費されるためといわれている。このため、マグネシウム含有アルミニウム合金用のフラックス組成物の開発が自動車用の熱交換器等の軽量化を進めるために必要とされている。
【0005】
このような中、マグネシウム含有アルミニウム合金を芯材とするブレージングシートのろう付け性を向上させるフラックス組成物として、従来のフラックス成分に(1)CsFを添加したものや(特開昭61−162295号公報参照)、(2)CaF、NaF又はLiFを添加したもの(特開昭61−99569号公報参照)が検討されている。
【0006】
しかし、上記(1)のCsFが添加されたフラックス組成物は、Csが非常に高価であるため、大量生産等には不向きであり、実用性が低い。一方、上記(2)のCaF等が添加されたフラックス組成物によれば、これらの化合物の添加により、フラックスが低融点化するため、フラックスの流動性は向上する。しかし、このフラックス組成物においても、フラックスとマグネシウムとは従来どおり反応するため、ろう付け性が十分には向上しない。また、一般的には、フラックスの塗布量を増加させることでろう付け性が高まることが知られているが、塗布量の増加は高コスト化の要因となることから、低コストで優れたろう付けを可能とするフラックスの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−162295号公報
【特許文献2】特開昭61−99569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたものであり、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いた際、少ない塗布量であってもろう付け性を高めることができるフラックス組成物、及びこのフラックス組成物を用いたブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、マグネシウム含有アルミニウム合金のろう付け性低下原因が、従来報告されているマグネシウムとフラックス成分(KAlF)とが反応し、マグネシウムを含む高融点化合物が形成されることだけではなく、上記反応に伴って高融点のKAlFが生成されていることに着目した。そこで、このKAlFを有効利用することができる特定のフッ化物をフラックス成分と共存させることで、ろう付け性が改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、
アルミニウム合金材のろう付けに用フラックス組成物であって、
[A]KAlFを含むフラックス成分(以下、単に「[A]フラックス成分」ということもある。)、及び
[B]第1族元素及び第2族元素以外の元素を含み、K(カリウム)を含まないフッ化物(以下、単に「[B]フッ化物」ということもある。)
を含有することを特徴とする。
【0011】
十分にメカニズムは解明できていないが、当該フラックス組成物は[B]フッ化物を含有することから、マグネシウム含有アルミニウム合金材のろう付けに用いた際、この[B]フッ化物がろう付け時に生成されるKAlFと反応し、KAlFを生成することができると考えられる。従って、当該フラックス組成物によれば、ろう付け性向上に必要なKAlFの減少を抑えることができ、少ない塗布量であっても、ろう付け性を高めることができる。また、当該フラックス組成物は、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金材のろう付けにも対応可能であり、広い用途で使用することができる。また、ろう付け加熱中に、[A]フラックス成分がマグネシウムと反応するより先に、[B]フッ化物と優先的に反応する場合、フラックスの融点変化が想定される。しかし、[0006]に記載の通り、フラックスの単純な低融点化はろう付け性を向上させる効果はなく、一方でフラックスの高融点化はフラックスの流動性を低下させ、ろう付け性を阻害することは明らかである。即ち、ろう付け性を向上させるためには、[A]フラックス成分との反応性が低く、プリメルトされていない別粒子の状態で存在していることが有効と考えられる。
【0012】
上記[B]フッ化物がAlFであるとよい。このように、上記[B]フッ化物としてAlFを用いることで、KAlFからのKAlFの生成をさらに効率的に行うことができると考えられる。
【0013】
当該フラックス組成物の融点が580℃以下であることが好ましい。このように高融点化を抑えることにより、当該フラックス組成物はより高いろう付け性を発揮することができる。
【0014】
当該フラックス組成物が、上記[A]フラックス成分を含む粒子と、上記[B]フッ化物を含む粒子とを含有することが好ましい。このように、[A]フラックス成分と[B]フッ化物とが、それぞれの別の粒子からなることで、上述のように[B]フッ化物の存在による[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができ、その結果、上述のろう付け性の向上作用を効果的に奏することができる。
【0015】
上記[B]フッ化物の上記[A]フラックス成分100質量部に対する含有量としては、1質量部以上200質量部以下が好ましい。このように、[B]フッ化物の含有量を上記範囲とすることで、ろう付け性をさらに高めることができる。
【0016】
当該フラックス組成物は、[C]低融点化剤をさらに含有することが好ましい。このように、[C]低融点化剤を含有させることで、[A]フラックス成分の高融点化を抑制し、ろう付け性をより高めることができる。
【0017】
上記[C]低融点化剤が、NaF及びLiFからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることが好ましい。[C]低融点化剤として上記化合物を用いることで、[A]フラックス成分の高融点化の抑制をより効果的に行うことができる。
【0018】
上記[C]低融点化剤の上記[A]フラックス成分100質量部に対する含有量としては、1質量部以上30質量部以下が好ましい。このように、[C]低融点化剤の含有量を上記範囲とすることで、ろう付け性をさらに高めることができる。
【0019】
本発明のブレージングシートは、アルミニウム合金からなる芯材と、この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、このろう材の一方の面に積層され、上記フラックス組成物からなるフラックス層とを備える。当該ブレージングシートは、上記フラックス組成物が用いられているため、ろう付け性に優れる。
【0020】
上記フラックス層におけるフラックス組成物の積層量としては、固形分換算で0.5g/m以上100g/m以下が好ましい。当該ブレージングシートによれば、フラックス組成物の使用量を上記範囲の少ない範囲としており、優れたろう付け性を発揮しつつ製造コストを抑えることができる。
【0021】
上記アルミニウム合金がマグネシウムを含むことが好ましい。このように、芯材にマグネシウム含有アルミニウム合金を用いることで、当該ブレージングシートの軽量化が図れる。一方、当該ブレージングシートによれば、当該フラックス組成物によりフラックス層が形成されているため、マグネシウム含有アルミニウム合金を用いても、優れたろう付け性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のフラックス組成物は、マグネシウムの含有の有無を問わず、アルミニウム合金材のろう付けに広く用いることができる。特に、当該フラックス組成物によれば、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いた際、少ない塗布量であってもろう付け性を高めることができる。また、本発明のブレージングシートは、上記フラックス組成物が用いられているため、ろう付け性が高い。従って、本発明のブレージングシートによりろう付けされた構造体は、高い強度と軽量化とを両立させることができ、例えば自動車の熱交換器等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例における評価方法を示す模式図
【図2】実施例における評価結果(1)を示すグラフ
【図3】実施例における評価結果(2)を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のフラックス組成物、及びブレージングシートの実施の形態について、順に詳説する。
【0025】
〔フラックス組成物〕
本発明のフラックス組成物は、アルミニウム合金材のろう付けに用いられる。当該フラックス組成物は、[A]KAlFを含むフラックス成分、及び[B]第1族元素及び第2族元素以外の元素を含み、Kを含まないフッ化物を含有する。
【0026】
当該フラックス組成物は、[B]フッ化物を含有することから、マグネシウム含有アルミニウム合金材のろう付けに用いた際、この[B]フッ化物がろう付け時に生成されるKAlFと反応し、KAlFを生成することができると考えられる。従って、当該フラックス組成物によれば、ろう付け性向上に必要なKAlFの減少を抑えることができ、少ない塗布量(付着量)であっても、ろう付け性を高めることができる。また、[B]フッ化物は、[A]フラックス成分によるろう付けを阻害するものではない。従って、当該フラックス組成物は、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金材のろう付けにも対応可能であり、広い用途で使用することができる。以下、各成分について説明する。
【0027】
[A]フラックス成分
[A]フラックス成分は、KAlF含むろう付け用フラックス成分であればよく、特に限定されるものではない。この[A]フラックス成分は、ろう付け時の加熱昇温過程において、ろう材の成分より先に溶融し、アルミニウム合金材表面の酸化膜を除去し、また、アルミニウム合金材表面を覆ってアルミニウムの再酸化を防止する機能を発揮する。
【0028】
[A]フラックス成分は、KAlF以外の他の成分を含んでいてもよい。このKAlF以外の成分としては、特に限定されず、公知のフラックス成分に含まれるものを挙げることができり。この任意成分としては、例えば、KF、KAlF、KAlF等の他のフッ化物や、K(AlF)(HO)等の水和物などを挙げることができる。上記他の成分の中で、例えば、KAlF等は、ろう付け加熱中にMgと反応してKAlFを形成し、このKAlFが上述のとおり[B]フッ化物と反応してKAlFを生成し、この結果、ろう付け性が向上すると考えられる。また、KAlFがはじめから存在する場合も、これが[B]フッ化物と反応するため、同様の効果が奏されると考えられる。このように必須成分としてのKAlF以外に他の成分が含まれていても、KAlFが生成又は存在する状態で[B]フッ化物を存在させることで、本発明の効果を奏すると考えられる。
【0029】
[A]フラックス成分におけるKAlFの含有率は、特に限定されないが、50体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましい。
【0030】
[A]フラックス成分の存在形態としては、特に限定されないが、[A]フラックス成分を含む粒子の状態が好ましく、[B]フッ化物を含まない粒子(例えば、[A]フラックス成分のみからなる粒子)の状態がさらに好ましい。この粒子の形状は、特に限定されず、球形、不定形等が採用される。[A]フラックス成分と[B]フッ化物とを含む粒子を用いた場合、[B]フッ化物の存在により、[A]フラックス成分が高融点化する場合がある。そこで、[A]フラックス成分と[B]フッ化物とをそれぞれ別の粒子とすることで、[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができ、その結果、ろう付け性をさらに高めることができる。
【0031】
[A]フラックス成分の融点に対する当該フラックス組成物の融点の上昇が、15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。また、当該フラックス組成物の融点の上限としては、580℃が好ましく、570℃がさらに好ましい。このように当該フラックス組成物の高融点化を抑えることで、より高いろう付け性を発揮することができる。なお、当該フラックス組成物の融点の下限としては、特に制限されないが、例えば、520℃とすることができ、540℃が好ましい。
【0032】
[B]フッ化物
[B]フッ化物は、第1族元素(水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウム)及び第2族元素(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウム)以外の元素を含み、K(カリウム)を含まないフッ化物であれば特に限定されない。但し、[B]フッ化物としては、メカニズムが十分に明らかにできていないが、マグネシウム含有アルミニウム合金材のろう付け時に生成される高融点化合物であるKAlFと反応し、KAlFを生成することができる成分であることが好ましい。
【0033】
上記[B]フッ化物としては、例えば、AlF、CeF、BaF等を挙げることができる。これらの中でも、第13族元素(ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等)を含むフッ化物が好ましく、アルミニウムを含むフッ化物がより好ましく、第13族元素のフッ化物もより好ましい。これらの中でも、AlFが特に好ましい。AlFを用いることで、KAlFからのKAlFの生成をさらに効率的に行うことができる。なお、AlFは、水和物であってもよいが、無水物が好ましい。
【0034】
[B]フッ化物の含有量の上限としては、特に限定されないが、[A]フラックス成分100質量部に対して、200質量部が好ましく、100質量部がより好ましく、60質量部がさらに好ましい。[B]フッ化物の含有量が上記上限を超えると、相対的に[A]フラックス成分の含有量が低下し、ろう付け性が低下するおそれがある。
【0035】
[B]フッ化物の含有量の下限も、特に限定されないが、[A]フラックス成分100質量部に対して、1質量部が好ましく、2質量部がより好ましく、10質量部がさらに好ましい。[B]フッ化物の含有量が上記下限未満であると、本発明の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0036】
[B]フッ化物の存在形態としては、特に限定されないが、[B]フッ化物を含む粒子の状態が好ましく、[A]フラックス成分を含まない粒子(例えば、[B]フッ化物のみからなる粒子)の状態がさらに好ましい。この粒子の形状は、特に限定されず、球形、不定形等が採用される。上述したように[A]フラックス成分と[B]フッ化物とをそれぞれ別の粒子とすることで、[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができ、ろう付け性をさらに高めることができる。
【0037】
[C]低融点化剤
当該フラックス組成物は、[C]低融点化剤をさらに含有することが好ましい。[C]低融点化剤を含有させることで、[A]フラックス成分の高融点化を抑制し、ろう付け性をより高めることができる。
【0038】
[C]低融点化剤とは、[A]フラックス成分の融点の上昇を抑える効果を有する成分である。[C]低融点化剤としては、上記効果を有するものであれば特に限定されないが、例えば、NaF、LiF、CsF、CaF等のカリウム以外のアルカリ金属及びアルカリ土類金属のフッ化物を挙げることができる。これらの中でも、アルカリ金属のフッ化物が好ましく、NaF及びLiFがさらに好ましい。NaF及びLiFを用いることで、高コスト化を抑えつつ、低融点化によるろう付け性の向上を図ることができる。これらの低融点化剤は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
[C]低融点化剤の含有量の上限としては、特に限定されないが、[A]フラックス成分100質量部に対して、30質量部が好ましく、20質量部がより好ましい。[C]低融点化剤の含有量が上記上限を超えると、相対的に[A]フラックス成分の含有量が低下し、ろう付け性が低下するおそれがある。
【0040】
[C]低融点化剤の含有量の下限も、特に限定されないが、[A]フラックス成分100質量部に対して、0.1質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましく、1質量部がさらに好ましい。[C]低融点化剤の含有量が上記下限未満であると、[C]低融点化剤を含有させた効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0041】
[C]低融点化剤の[B]フッ化物100質量部に対する含有量の上限としては、200質量部が好ましく、100質量部がより好ましい。[C]低融点化剤の含有量が上記上限を超えると、相対的に[B]フッ化物の含有量が低下し、本願発明の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0042】
[C]低融点化剤の[B]フッ化物100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましい。[C]低融点化剤の含有量が上記下限未満であると、[C]低融点化剤を含有させた効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0043】
[C]低融点化剤の存在状態としては、特に限定されないが、通常、粒子状である。この粒子の形状は、特に限定されず、球形、不定形等が採用される。
【0044】
なお、当該フラックス組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で[A]フラックス成分、[B]フッ化物及び[C]低融点化剤以外の成分が含有されていてもよい。
【0045】
当該フラックス組成物の状態としては、特に限定されないが、通常、粉末状である。但し、その他、固形状やペースト状などであってもよい。
【0046】
当該フラックス組成物の製造方法としては、特に限定されず、[A]フラックス成分、[B]フッ化物、及び必要に応じて[C]低融点化剤等を適当な割合で混合する。この混合の方法としては、例えば(1)それぞれ粉末状の成分を単に混合し、粉末状のフラックス組成物として得る方法、(2)それぞれ粉末状の各成分を混合してルツボ等で加熱溶融した後、冷却し固形状又は粉末状のフラックス組成物として得る方法、(3)それぞれ粉末状の各成分を水等の溶媒中に懸濁させペースト状又はスラリー状のフラックス組成物として得る方法などを挙げることができる。上述のように、[A]フラックス成分を含む粒子と、[B]フッ化物を含む粒子とを含有させるためには、(1)及び(3)の方法が好ましい。
【0047】
(当該フラックス組成物の使用方法)
本発明のフラックス組成物の使用方法(本発明のフラックス組成物を用いたろう付け方法)について、以下説明する。本発明のフラックス組成物を用いることで、少ない塗布量(付着量)であってもろう付け性に優れ、その結果、経済性に優れたろう付けを行うことができる。
【0048】
当該フラックス組成物によってろう付けされるアルミニウム合金材は特に限定されず、マグネシウムを含有していてもよいし、含有していなくともよい。但し、材質の軽量化及び当該フラックス組成物の効果をより十分に発揮させるためには、マグネシウムを含有するアルミニウム合金が好ましい。上記アルミニウム合金材としては、アルミニウム合金のみからなる材料や、アルミニウム合金からなる層と他の材料からなる層とを備える多層複合材料(ブレージングシート等)であってもよい。
【0049】
上記アルミニウム合金材(アルミニウム合金)がマグネシウムを含有する場合、マグネシウムの含有量の上限としては、1.5質量%が好ましく、1.0質量%がさらに好ましく、0.5質量%が特に好ましい。マグネシウム含有量が上記上限を超えると、当該フラックス組成物のろう付け性を十分に発揮させることができないおそれがある。なお、上記アルミニウム合金材(アルミニウム合金)中のマグネシウムの含有量の下限としては、特に限定されず、例えば0.01質量%である。
【0050】
当該ろう付け方法に用いられるろう材としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。好ましいろう材としては、[A]フラックス成分の融点より約10〜100℃高い融点を有するものが好ましく、例えばAl−Si合金を挙げることができ、より好適には、Si含有量が5質量部以上15質量部以下であるAl−Si合金を挙げることができる。これらのAl−Si合金(ろう材)には、ZnやCuなどの他の成分が含有されていてもよい。
【0051】
上記フラックス組成物のろう付け部分への付着方法としては、特に限定されず、例えば粉末状のフラックスをそのまま塗布する方法や、スラリー状又はペースト状のフラックス組成物をろう付け部分へ塗布・浸漬し、分散媒成分を揮発させてフラックス組成物のみを付着させる方法等を挙げることができる。上記分散媒成分としては、通常水であり、その他アルコール等の有機溶媒などを用いてもよい。
【0052】
上記フラックス組成物のろう付け部分への付着量の下限は、固形分換算で、0.5g/mが好ましく、1g/mがさらに好ましい。フラックス組成物の付着量を上記下限以上とすることで、十分なろう付け性を発揮させることができる。一方、フラックス組成物の付着量の上限は、固形分換算で、100g/mが好ましく、60g/mがより好ましく、20g/mがさらに好ましく、10g/mが特に好ましい。フラックス組成物の付着量を上記上限以下とすることで、ろう付け性を維持しつつ、フラックス組成物の使用量を抑え、コストの低減を達成することができる。
【0053】
ろう付け部分へ懸濁液(スラリー又はペースト)としてのフラックス組成物を付着させた後は、通常ろう付け部分を乾燥させる。その後、芯材のアルミニウム合金の融点より低くかつフラックスの融点より高い温度(例えば580℃以上615℃以下)で加熱することにより、フラックス成分及びろう材を溶融させて、ろう付けを行うことができる。
【0054】
なお、加熱の際の昇温速度としては、例えば10〜100℃/min程度である。また、加熱時間は、特に限定はされないが、ろう付け性を阻害するマグネシウムの拡散量を低減するためには短い方が好ましい。加熱時間は、例えば5〜20分程度である。
【0055】
また、上記加熱の際は公知の環境条件とすればよく、好ましくは不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。この加熱の際の酸素濃度としては、酸化を抑制する観点から1,000ppm以下が好ましく、400ppm以下がより好ましく、100ppm以下が更に好ましい。また、この加熱の際の環境の露点としては、−35℃以下であることが好ましい。
【0056】
なお、当該フラックス組成物は、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金材のろう付けにも用いることができる。また、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金を芯材とするブレージングシートのフラックス層にも用いることができる。
【0057】
〔ブレージングシート〕
本発明のブレージングシートは、アルミニウム合金からなる芯材と、この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、このろう材の一方の面(表面)に積層され、上記フラックス組成物からなるフラックス層とを備える。なお、当該ブレージングシートにおける芯材とろう材との層構造としては、ろう材/芯材/ろう材(三層両面ろう材)や、ろう材/芯材/中間層/ろう材(四層材)などの三層以上の構造を有するものも含む。
【0058】
当該ブレージングシートは、ろう材の表面に上記フラックス組成物からなるフラックス層を備えるため、マグネシウム含有アルミニウム合金からなる芯材を用いた場合であっても、ろう付けの際、芯材中のマグネシウムに由来する高融点化合物の生成に伴うKAlFの減少を抑制することができる。従って、当該ブレージングシートによれば、ろう付け性を高めることができる。
【0059】
上記芯材は、アルミニウム合金であれば特に限定されないが、マグネシウムを含有するアルミニウム合金であることが好ましい。このように、芯材にマグネシウム含有アルミニウム合金を用いることで、当該ブレージングシートの軽量化が図れる。一方、当該ブレージングシートによれば、当該フラックス組成物によりフラックス層が形成されているため、マグネシウム含有アルミニウム合金を用いても、優れたろう付け性を発揮することができる。マグネシウム含有アルミニウム合金を芯材として用いる場合、この芯材中のマグネシウムの含有量としては、上記アルミニウム合金材として説明した範囲であることが好ましい。
【0060】
上記ろう材としては、当該フラックス組成物の使用方法として上述したものを挙げることができる。
【0061】
上記フラックス層は上記フラックス組成物からなる層である。このフラックス層の形成方法としては特に限定されないが、例えば粉末状、スラリー状又はペースト状のフラックス組成物をろう材表面へ塗布する方法等を挙げることができる。
【0062】
上記フラックス層におけるフラックス組成物の積層量の下限としては特に限定されないが、0.5g/mが好ましく、1g/mがさらに好ましい。フラックス組成物の積層量を上記下限以上とすることで、十分なろう付け性を発揮させることができる。一方、フラックス組成物の積層量の上限としては、100g/mが好ましく、60g/mがより好ましく、20g/mがさらに好ましく、10g/mが特に好ましい。フラックス組成物の積層量を上記上限以下とすることで、ろう付け性を維持しつつ、フラックス組成物の使用量を抑え、コストの低減を達成することができる。
【0063】
当該ブレージングシートの芯材等、サイズは、特に限定されず、公知のサイズを適用することができる。例えば、当該ブレージングシートの厚さとしては、例えば0.1mm以上2mm以下とすることができる。また、当該ブレージングシートの製造方法も特に限定されず、公知の方法で製造することができる。
【0064】
当該ブレージングシートは、上記芯材の他方の面に積層され、芯材より電位が卑な犠牲材をさらに備えていてもよい。当該ブレージングシートが犠牲材を有する場合、耐食性をより高めることができる。
【0065】
上記犠牲材の材質としては、芯材より電位が卑であるものであれば特に限定されないが、例えば、Zn含有量が1〜10質量%のAl−Zn系合金や、Si含有量が0.5〜1.1質量%、Mn含有量が2.0質量%以下、Zn含有量が0.6〜2.0質量%であるAl合金等を挙げることができる。
【0066】
(本発明のブレージングシートの使用方法)
当該ブレージングシートは、公知の方法で使用(ろう付け)することができる。当該ブレージングシートをろう付けする際の加熱条件(温度、昇温速度、酸素濃度等)等は、上述のろう付け方法として記載した条件を挙げることができる。
【0067】
(構造体)
当該フラックス組成物によるアルミニウム合金材のろう付けにより、または、当該ブレージングシートから形成される構造体は、ろう付け部分が強固に接合されている。従って、上記構造体は、アルミニウム合金材、好ましくはマグネシウム含有アルミニウム合金を用いた構造体として高い強度と軽量化とを両立させることができる。
【0068】
上記構造体としては具体的には、ラジエータ、エバポレータ、コンデンサ等の自動車用熱交換器等を挙げることができる。このような熱交換器は、好ましくはマグネシウムを含有するアルミニウム合金材(芯材)を備えるブレージングシートが用いられていることで高強度化及び薄肉化が図られている。また、このような熱交換器は、本発明のフラックス組成物が用いられているため、ろう付け性に優れ、強固にろう付けされている。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1〜24及び比較例1〜4]
[A]フラックス成分、[B]フッ化物及び[C]低融点化剤を表1に記載の質量比で100mLのイオン交換水に添加し、懸濁させることで各フラックス組成物を得た。なお、[A]フラックス成分としては、KAlFを80体積%及びK(AlF)(HO)を20体積%含む粒子状のものを用いた。[B]フッ化物としては、粒子状のAlFを用いた。[C]低融点化剤としては、それぞれ粉末状のNaF及びLiFを用いた。
【0071】
ブレージングシート基材の表面(ろう材表面)に、得られた上記各フラックス組成物を表1に記載の塗布量(固形分換算)で塗布して乾燥させることで、フラックス層を形成し、実施例1〜24及び比較例1〜4のブレージングシートを得た。なお、このように懸濁状のフラックス組成物を塗布し、イオン交換水を乾燥除去することで、粉末状の各成分が均一に塗布できるようにした。上記ブレージングシート基材は、実施例1〜21及び比較例1〜3においては、犠牲材と、マグネシウム含有量0.4質量%のアルミニウム合金からなる芯材と、この芯材の表面に積層されるろう材(JIS4045、クラッド率10%)とからなるものを用いた。その他の実施例22〜24及び比較例4においては、犠牲材と、マグネシウムを含有しないアルミニウムからなる芯材と、この芯材の表面に積層されるろう材(JIS4045、クラッド率10%)とからなるものを用いた。また、これらのブレージングシート基材の厚さは0.4mmである。
【0072】
[評価]
軽金属溶接構造協会規格(LWS T8801)に準じた方法で得られた各ブレージングシートのろう付け性を評価した。具体的な評価方法を図1を参照にしつつ、以下に示す。下板1として、得られたブレージングシートをフラックス層を上面にして静置した。この下板の上面に、上板2として、板厚1.0mmの3003Al合金(母材)を立てて配置した。なお、下板1と上板2の一端との間にはSUS製の棒状のスペーサー3を挟み、下板1と上板2の一端との間に隙間を設けた。
【0073】
上述の状態で間隙充填試験を実施した。具体的には、露点−40℃、酸素濃度100ppm以下の雰囲気下で、600℃で10分加熱することで、下板1と上板2とのろう付けを行った。室温から600℃までの平均昇温速度は50℃/minとした。ろう付け加熱により形成されたフィレット4の長さ(フィレット形成長さL)を測定し、ろう付け性の指標とした。フィレット形成長さLが長いほど、ろう付け性に優れる。評価結果(フィレット形成長さ)を表1に示す。
【0074】
また、各フラックス組成物における融点をリガク社製のTG8120を用いて測定した。測定結果を表1に示す。なお、融点とはフラックス組成物の溶融開始温度を意味する。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示されるように、本発明のフラックス組成物を用いたブレージングシートは、フィレット形成長さが長く、ろう付け性に優れることがわかる。特に、実施例19にて示されるように、塗布量が少ない場合でも、従来フラックスの塗布量が3倍の場合(比較例1)と比較して、フィレット形成長さが向上していることがわかる。すなわち、本発明によれば塗布量を減らしても十分な効果を得ることができる。また、用いたフッ化物も安価であることから、汎用性にも優れる。また、実施例の各フラックスは、[A]フラックス成分のみ(比較例1)と比べても融点の上昇が抑えられていることがわかる。なお、実施例22〜24及び比較例4で示されるように、本発明のフラックス組成物は、マグネシウムを含有しないアルミニウムに対しても、従来のフラックスと同様に使用することができることがわかる。
【0077】
図2に、実施例結果に基づく[B]フッ化物の含有量とフィレット形成長さとの関係を示す。図2に示されるように、[B]フッ化物の含有量を高めるほどフィレット形成長さが長くなり、ろう付け性が高まることがわかる。
【0078】
また、図3に、フラックス組成物([B]フッ化物の含有量を32.5質量としたもののみ)の塗布量とフィレット形成長さとの関係を示す。図3に示されるように、フラックス組成物の塗布量を増やすほどフィレット形成長さが長くなり、ろう付け性が高まることがわかる。但し、上述のように、塗布量を減らしても、十分なろう付け性を有していることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のフラックス組成物は、アルミニウム合金、特にマグネシウム含有アルミニウム合金のろう付けに好適に用いることができ、具体的には、アルミニウム合金製の自動車用熱交換器の製造等に用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 下板
2 上板
3 スペーサー
4 フィレット
L フィレット形成長さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金材のろう付け用フラックス組成物であって、
[A]KAlFを含むフラックス成分、及び
[B]第1族元素及び第2族元素以外の元素を含み、Kを含まないフッ化物
を含有することを特徴とするフラックス組成物。
【請求項2】
上記[B]フッ化物がAlFである請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
融点が580℃以下である請求項1又は請求項2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
上記[A]フラックス成分を含む粒子と、上記[B]フッ化物を含む粒子とを含有する請求項1、請求項2又は請求項3に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
上記[B]フッ化物の上記[A]フラックス成分100質量部に対する含有量が、1質量部以上200質量部以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
[C]低融点化剤
をさらに含有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項7】
上記[C]低融点化剤が、NaF及びLiFからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項6に記載のフラックス組成物。
【請求項8】
上記[C]低融点化剤の上記[A]フラックス成分100質量部に対する含有量が、0.1質量部以上30質量部以下である請求項6又は請求項7に記載のフラックス組成物。
【請求項9】
アルミニウム合金からなる芯材と、
この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、
このろう材の一方の面に積層され、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のフラックス組成物からなるフラックス層と
を備えるブレージングシート。
【請求項10】
上記フラックス層におけるフラックス組成物の積層量が、固形分換算で0.5g/m以上100g/m以下である請求項9に記載のブレージングシート。
【請求項11】
上記アルミニウム合金がマグネシウムを含む請求項9又は請求項10に記載のブレージングシート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−107134(P2013−107134A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194620(P2012−194620)
【出願日】平成24年9月4日(2012.9.4)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)