説明

フラットケーブル

【課題】導体にポリブチレンテレフタレートを主成分とする樹脂組成物を押出被覆してなる絶縁層を有し、一定基準以上の難燃性を備えたフラットケーブルの提供。
【解決手段】本発明のフラットケーブルは、互いに平行に配列した複数本の導体と、前記導体にポリブチレンテレフタレートを主成分とする樹脂組成物を押出被覆してなる絶縁層と、を備えるフラットケーブルであって、前記絶縁層が、臭素系難燃剤、リン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含み、前記絶縁層における臭素含有率が6.0〜12.0質量%であり、前記絶縁層におけるリン含有率が0.2〜1.3質量%であり、前記絶縁層におけるアンチモン含有率が1.0〜10.0質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に搭載される電装品、OA機器、及び家電製品等の配線として、フラットケーブルが用いられている。この種のフラットケーブルは、互いに平行に配列した複数本の導体と、この導体を被覆する絶縁層を備えている。このフラットケーブルの全体形状は、一般的に帯状であり、その断面は偏平となっている。この種のフラットケーブルには可撓性があり、配索方向に応じて折り曲げることが可能である。そのため、この種のフラットケーブルは、特にフレキシブルフラットケーブルと呼ばれることがある。
【0003】
前記フラットケーブルとしては、例えば、導体と、この導体を挟むように積層された絶縁性の樹脂シートからなる絶縁層を備えたものが知られている。このフラットケーブルは、所謂、ラミネートタイプと呼ばれているものであり、その絶縁層は、前記樹脂シート同士を、熱可塑性の接着剤を介して熱ロール等を用いて熱圧着することにより形成される。
【0004】
ところで、このラミネートタイプのフラットケーブルは、生産性が悪いという問題がある。何故ならば、絶縁層を形成する際、前記樹脂シート同士の熱圧着にある程度時間を要するからである。前記樹脂シート同士を十分に接着するためには、ある程度の熱圧着時間を確保しなければならない。そのためこのラミネートタイプのフラットケーブルの製造ラインにおいては、ライン速度の上限が熱圧着工程によって決まってしまうため、ライン速度を上げて生産性を向上させることが難しいという問題があった。
【0005】
また、従来、導体と、この導体に絶縁性の熱可塑性樹脂を押出被覆してなる絶縁層を備えたものが知られている(例えば、特許文献1)。この種のフラットケーブルは、絶縁層を押出成形により形成するため、ラミネートタイプにおける樹脂シート同士の熱圧着工程が不要であり、生産性が良い。そのため、近年、この種のフラットケーブルが注目されている。
【0006】
前記特許文献1には、導体を被覆する絶縁性の熱可塑性樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が示されている。このように絶縁層がPBT等のポリエステル樹脂からなるフラットケーブルは、配索に必要な可撓性と共に、適度な強度を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−343141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、この種のフラットケーブルを車両の電装品等の配線として用いるためには、フラットケーブルは一定基準以上の難燃性を備えている必要がある。フラットケーブルの難燃性は、主として絶縁層を構成する材料の性質に因るものである。そのため、絶縁層を構成する熱可塑性樹脂自身が一定基準以上の難燃性を備えていない場合は、絶縁層に難燃剤を含有させて絶縁層の難燃性を向上させる必要がある。
【0009】
前記特許文献1に示されるフラットケーブルは、絶縁層がPBTのみからなる。PBT自身には車両等の配線として必要な一定基準以上の難燃性が無いため、特許文献1に示されるフラットケーブルは、実際には、そのままの状態で車両の電装品等の配線として使用できない。
【0010】
また、特許文献1等に示される、熱可塑性樹脂の押出成形により絶縁層が形成されたフラットケーブルでは、一定基準以上の難燃性を備えるように、その絶縁層に難燃剤を含有させることは非常に困難である。以下、その理由を説明する。
【0011】
この種のフラットケーブルの絶縁層に難燃剤を含有させるためには、先ず、絶縁層を形成するための熱可塑性樹脂に所定量の難燃剤を添加し、その熱可塑性樹脂を溶融混練して、難燃剤を分散させた押出成形可能な樹脂組成物を調製しなければならない。しかしながら、このように、一定基準以上の難燃性が得られるように所定量の難燃剤を分散させた押出成形可能な樹脂組成物を、調製することが非常に困難である。何故ならば、難燃剤の種類によって熱可塑性樹脂(絶縁層)に付与する難燃性の程度、熱可塑性樹脂に対する分散性(混合性)、及び熱可塑性樹脂に与える粘度変化の程度等が全く異なるからである。
【0012】
本発明の目的は、導体にポリブチレンテレフタレートを主成分とする樹脂組成物を押出被覆してなる絶縁層を有し、一定基準以上の難燃性を備えたフラットケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るフラットケーブルは、互いに平行に配列した複数本の導体と、前記導体にポリブチレンテレフタレートを主成分とする樹脂組成物を押出被覆してなる絶縁層と、を備えるフラットケーブルであって、前記絶縁層が、臭素系難燃剤、リン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含み、前記絶縁層における臭素含有率が6.0〜12.0質量%であり、前記絶縁層におけるリン含有率が0.2〜1.3質量%であり、前記絶縁層におけるアンチモン含有率が1.0〜10.0質量%であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレートを主成分とし、押出成形により形成されるフラットケーブルの絶縁層に用いられる樹脂組成物であって、臭素系難燃剤、リン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含み、前記絶縁層における臭素含有率が6.0〜12.0質量%であり、前記絶縁層におけるリン含有率が0.2〜1.3質量%であり、前記絶縁層におけるアンチモン含有率が1.0〜10.0質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフラットケーブルは、導体にポリブチレンテレフタレートを主成分とする樹脂組成物を押出被覆してなる絶縁層を有し、一定基準以上の難燃性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るフラットケーブルの断面図である。
【図2】フラットケーブルの製造ラインを示す説明図である。
【図3】押出機の断面図である。
【図4】他の実施形態に係るフラットケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るフラットケーブルの実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、一実施形態に係るフラットケーブルの断面図である。図1に示されるように、本実施形態のフラットケーブル1は、導体2と、絶縁層3を備える。
【0018】
導体2は、銅材料、鉄材料、アルミ材料等の導電性材料からなる。前記銅材料としては、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、リン青銅等が挙げられる。前記導体2は、スズ、ニッケル等の金属でメッキされてもよい。
図1に示される導体2は、所謂、平角導体と呼ばれるものであり、断面(短手方向における断面)が偏平な矩形状となっている。なお、導体2としては、平角導体に限られるものではなく、公知のフラットケーブル用の導体を使用できる。導体2は、1本の所謂、導線であっても良いし、複数本の導線を組み合わせてなるもの(例えば、撚り線)であっても良い。
【0019】
導体2は、絶縁層3内に、通常、複数本存在する。図1に示されるように、本実施形態のフラットケーブル1は、絶縁層3内に3本の導体2が互いに平行に配列している。導体2の本数、導体2同士の間隔、各導体2の外形形状(断面形状)、導体2の大きさ(厚み、幅、直径等)等は、導体2に絶縁層3を押出被覆により形成可能等であれば特に制限は無く、目的に応じて適宜設定される。
【0020】
絶縁層3は、図1に示されるように、導体2の周囲を被覆するものである。絶縁層3は、ポリブチレンテレフタレートを主成分とする樹脂組成物を導体2に押出被覆してなる。
前記ポリブチレンテレフタレートは、ブチレングリコールとテレフタル酸(その誘導体を含む)との共重合体のみならず、少なくとも80モル%以上のブチレンテレフタレート繰り返し単位を含む共重合体等が挙げられる。共重合成分としては、公知の酸性分及び/又はグリコール成分を使用できる。前記共重合成分としては、例えば イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、シュウ酸等の酸性分、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール成分が挙げられる。
上市されている前記ポリブチレンテレフタレートとしては、例えば、バイロペットEMC700(東洋紡株式会社製)、トレコン1401 X04(東レ株式会社製)等が挙げられる。
【0021】
前記樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート以外に、その他の樹脂を含んでもよい。なお前記樹脂組成物において、主成分として含まれるポリブチレンテレフタレートは、全ての樹脂量(質量)に対して、60〜100質量%の割合が好ましく、80〜100質量%の割合がより好ましく、90〜100質量%の割合が更に好ましい。
【0022】
前記樹脂組成物は、臭素系難燃剤、リン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含む。
【0023】
臭素系難燃剤としては、例えば、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビスペンタブロモジフェニル、テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロモフタルイミド、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリエステル、臭素化アクリル樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモエチルベンゼン、デカブロモジフェニル、ヘキサブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、デカブロモジフェニルオキサイド、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、オクタブロモナフタレン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(トリブロモフェニル)フマルイミド、N−メチルヘキサブロモジフェニルアミン等が挙げられる。これらの臭素系難燃剤は単独で使用しても良いし、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0024】
臭素系難燃剤は、絶縁層3における臭素含有率(質量%)が6.0〜12.0%となるように、樹脂組成物に配合されるのが好ましく、10.0〜12.0%となるように樹脂組成物に配合されるのがより好ましい。
【0025】
リン系難燃剤としては、例えば、リン酸メラミン、リン酸アンモン、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート、1,3−フェニレンビスジキレニルホスフェート、及びこれらの縮合物等が挙げられる。これらのリン系難燃剤は、単独で使用しても良いし、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0026】
リン系難燃剤は、絶縁層3におけるリン含有率(質量%)が0.2〜1.3%となるように、樹脂組成物に配合されるのが好ましく、0.3〜1.0%となるように樹脂組成物に配合されるのがより好ましい。
【0027】
アンチモン系難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、三塩化アンチモン、五酸化アンチモン、ホウ酸アンチモン、モリブデン酸アンチモン等が挙げられる。これらのアンチモン系難燃剤は、単独で使用しても良いし、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0028】
アンチモン系難燃剤は、絶縁層3におけるアンチモン含有率(質量%)が1.0〜10.0%となるように、樹脂組成物に配合されるのが好ましく、1.0〜7.0%となるように、樹脂組成物に配合されるのがより好ましい。
【0029】
前記樹脂組成物は、必要に応じて、金属粉、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス繊維、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、窒化アルミニウム、炭化珪素、木材繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、メラミンシアヌレート等の充填剤、酸化防止剤、金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、加工助剤(滑剤、ワックス等)、着色用顔料等を含んでもよい。これらは単独で使用されても良いし、2種以上組み合わせて使用されても良い。
【0030】
絶縁層3は、前記樹脂組成物を材料として、押出成形により導体2に形成される。図2は、本実施形態のフラットケーブルの製造ライン20を示す説明図である。図2において左側が、製造ライン20の上流側に相当する。図2に示されるように、製造ライン20には、搬送経路22の上流に、導体供給ロール24(24a、及び24b)が備えられている。その導体供給ロールの下流には押出機26が備えられている。各導体供給ロール24a及び24bには、線状の導体2が巻回されて収納されており、それぞれ収納されている線状の導体2は各ガイドロール30(30a及び30b)を経て下流の押出機26へ徐々に供給される。なお、本実施形態のフラットケーブル1は3本の導体2を含むが、説明の便宜上、図2には、2個の導体供給ロール24a及び24bが示されている。
【0031】
図3は、図2の製造ライン20に示される押出機26の断面図である。なお、図3において右側が、図2の製造ライン20の上流側に相当する。図3に示されるように、押出機26は、その本体27内部に、ニップル32と、その下流側にダイス34を備える。ニップル32とダイス34の間には、隙間38が形成されている。また、ニップル32はニップル穴32aを有し、ダイス34はダイス穴34aを有する。これらのニップル穴32a及びダイス穴34aは、隙間38を介して繋がっている。
【0032】
導体供給ロール24より供給された導体2は、ニップル穴32a、隙間38及びダイス穴34aを貫通するように配置し、徐々に下流側へ送られる。なお、ニップル穴32a内には、図示されないガイド部材が備えられており、そのガイド部材によって、複数本の導体2が互いに平行に配列される。
【0033】
押出機26の本体27には、絶縁層3を形成するための樹脂組成物の溶融物が供給される供給口36が備えられている。この供給口36から供給された樹脂組成物の溶融物は隙間38を通って、平行に配列した導体2の周囲を被覆する。このように、押出機26等を用いる押出成形によって、導体2に絶縁層3を被覆することを、「押出被覆」という。
【0034】
導体2に絶縁層3を形成したものであるフラットケーブル1は、ダイス穴34aより排出される。図2に示されるように、押出機26の下流には、巻取ロール28が備えられており、その巻取ロール28によって、押出機26より排出されたフラットケーブル1が順次巻き取られる。
【0035】
絶縁層3における臭素含有率(質量%)は、6.0〜12.0%である。この臭素含有率とは、絶縁層3中に含まれる臭素系難燃剤に由来する臭素の含有率のことである。
【0036】
絶縁層3におけるリン含有率(質量%)は、0.2〜1.3%である。このリン含有率とは、絶縁層3中に含まれるリン系難燃剤に由来するリンの含有率のことである。
【0037】
絶縁層3におけるアンチモン含有率(質量%)は、1.0〜10.0%である。このアンチモン含有率とは、絶縁層3中に含まれるアンチモン系難燃剤に由来するアンチモンの含有率のことである。
【0038】
絶縁層3中に含まれる臭素、リン、及びアンチモンの特定(定性分析)は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDX)によって行うことができる。エネルギー分散型X線分光測定装置としては、例えば、EDX−720(島津製作所製)を用いることができる。
【0039】
絶縁層3中に含まれる臭素の含有量は、所定量の絶縁層3を燃焼させた際に発生するガスをNaOH水溶液に溶解させて捕集し、そのガスが溶解した水溶液を、イオンクロマトグラフ(例えば、ICA−2000、東亜デーケーケー社製)で分析することにより求められる。
【0040】
絶縁層3中に含まれるリンの含有量は、所定量の絶縁層3を燃焼させた際に発生するガスをNaOH水溶液に溶解させて捕集し、そのガスが溶解した水溶液を、イオンクロマトグラフ(例えば、ICA−2000、東亜デーケーケー社製)で分析することにより求められる。
【0041】
絶縁層3中に含まれるアンチモンの含有量は、所定量の絶縁層3を、硫酸水溶液に浸してアンチモンを溶解させ、そのアンチモンが溶解した硫酸水溶液を、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析することにより求められる。このICP発光分析装置としては、例えば、SPS7800(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いることができる。
【0042】
フラットケーブル1は、難燃性を備える。具体的には、このフラットケーブル1は、UL1581−1080 VW−1(垂直燃焼試験)の評価基準を満たす。
【0043】
図4(A)〜(C)は、他の実施形態に係るフラットケーブルの断面図である。図4(A)に示されるフラットケーブル1Aは、絶縁層3中に、複数本の導体2Aがまとめられてなる導体群20を含む。この導体群20同士は、所定の間隔を保って互いに平行に配列している。なお導体群20中の各導体2Aは所謂、導線からなり、各導体2Aの断面は円形となっている。導体群20をなす導体2A同士は、互いに接するように平行に配列している。
【0044】
図4(B)に示されるフラットケーブル1Bは、絶縁層3中に、複数本の導体2Bがまとめられてなる導体群20を含む。この導体群20同士は、所定の間隔を保って互いに平行に配列している。なお導体群20中の各導体2Bは所謂、撚り線からなり、各導体2Bは更に細径の導線を含む。導体群20をなす導体2B同士は、互いに接するように平行に配列している。
【0045】
図4(C)に示されるフラットケーブル1Cは、絶縁層3中に、複数本の導体2Cがまとめられてなる導体群20を含む。この導体群20同士は、所定の間隔を保って互いに平行に配列している、なお導体群20中の各導体2Cは所謂、導線からなり、各導体2Cの断面は円形となっている。導体群20において各導体2Cは互いに接するように平行に配列し、かつ層状に配列している。
【実施例】
【0046】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0047】
(供試材料)
本実施例及び比較例において使用した材料の製造元、商品名は以下の通りである。
・ポリブチレンテレフタレート[東洋紡績株式会社製、バイロペットEMC700]
・ポリエチレンテレフタレート[帝人化成株式会社製、TR−4550BH]
・臭素系難燃剤[アルベマール日本株式会社製、Saytex8010]
・リン系難燃剤(縮合リン酸エステル)[大八化学工業株式会社製、PX−200]
・アンチモン系難燃剤(三酸化アンチモン)[和光純薬工業株式会社製、酸化アンチモン(III)]
・酸化防止剤[チバ・ジャパン株式会社製、イルガノックス1010]
・金属不活性化剤(銅害防止剤)[チバ・ジャパン株式会社製、イルガノックスMD1024]
【0048】
(実施例1及び2)
短手方向における断面が、縦0.15mm×横1.5mmの矩形状である導体(平角導体)を3本用意した。これらの導体を平行に配列し、押出機(単軸押出機)を用いてこれらの導体の周囲に、表1に示される樹脂組成物を押出被覆して絶縁層を形成した。フラットケーブル(絶縁層)の厚みが約0.15mm、絶縁層の幅(短手方向)が約7.9mmとなるように、前記樹脂組成物を導体に押出被覆した。表1に示される樹脂組成物の各成分配合量の単位は質量部である。
なお、前記樹脂組成物としては、あらかじめ前記押出機(単軸押出機)とは別の押出機(二軸押出機)を用いて混合し、その混合物をペレタイザーでペレット化したものを使用した。具体的には、前記樹脂組成物の各成分を前記二軸押出機内に投入し、その機内で260℃〜280℃の温度条件で各成分を混合し、混合物をストランド状に押し出した。次いで、その押し出された混合物を水冷し、その後、ペレタイザーで前記混合物を切断して、ペレット状の樹脂組成物を調製した。
以上のようにして、実施例1及び2のフラットケーブルを作製した。
【0049】
(混合加工性試験)
各実施例における樹脂組成物の混合加工性の評価を目視で行った。混合加工性の評価基準は、以下の通りである。
○:樹脂組成物が均一に混ざり合い、並びにペレット化のためのストランド状の連続押出及びペレタイザーによるカットが可能な場合。
×:樹脂組成物の混合が不均一の場合、又はペレット化のためのストランド状の連続押出及びペレタイザーによるカットが不可能な場合。
【0050】
(各難燃剤の含有率)
各実施例のフラットケーブルから絶縁層を分離し、絶縁層(500g)を燃焼して、絶縁層から発生したガスを、NaOH水溶液で捕集した。
ガスを捕集した水溶液を、イオンクロマトグラフ(ICA−2000、東亜デーケーケー社製)を用いて分析して、絶縁層中に含まれる臭素及びリンの含有量を求めた。得られた臭素含有量及びリン含有量から、それぞれ絶縁層における臭素含有率及びリン含有率を更に求めた。結果は、表1に示した。
【0051】
また、上記のようにフラットケーブルから分離した絶縁層(20g)を、硫酸水溶液酸(200ml)に浸して、アンチモンを溶解させた。その硫酸水溶液を、ICP発光分析装置(SPS7800、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて分析して、その酸溶液中のアンチモンの含有量を求めた。得られたアンチモン含有量から、絶縁層におけるアンチモン含有率を更に求めた。結果は、表1に示した。
【0052】
(耐液性試験)
各実施例のフラットケーブルから、長さ600mmの試験用ケーブルを調製し、その試験用ケーブルを、40℃の試験液(ISO1817に規定された液体3)に24時間浸漬した。その後、試験用ケーブルを試験液から取り出して、−40℃の低温槽において4時間放置した。
その後、低温槽内において1回/秒の巻き付け速度で、マンドレル(直径6mm)に500g重の負荷をかけて、試験用ケーブルを3回巻き付けた。
その後、試験用ケーブルを低温槽から取り出し、常温雰囲気下の室内において試験用ケーブルの外観を目視で確認した。試験用ケーブルの絶縁層から導体が露出していない場合は、更に以下の耐電圧試験を行った。
【0053】
<耐電圧試験>
試験用ケーブルを、10分間塩水に浸した。その後、塩水から試験用ケーブルを取り出し、1kVの電圧を1分間加えた。その後、試験用ケーブルの絶縁層に破壊(絶縁破壊)が生じたか否かを目視で確認した。
【0054】
耐液性試験の評価基準は、以下の通りである。耐液性試験の結果は、表1に示した。
○:巻き付け後の試験用ケーブルの絶縁層から導体が露出せず、かつ、耐電圧試験で絶縁破壊が無い場合。
×:巻き付け後の試験用ケーブルの絶縁層から導体が露出し、又は耐電圧試験で絶縁破壊が生じた場合。
【0055】
(難燃性試験)
UL1581−1080 VW−1に準じて、難燃性試験(垂直燃焼試験)を行った。評価基準は、UL1581−1080 VW−1に準ずるものであり、以下の通りである。この難燃性試験の結果は、表1に示した。
○:試料(試験用ケーブル)の燃焼時間が60秒以内であること、試料に取り付けられた表示旗(クラフト紙)が25%以上燃えないこと、及び試料から落下した燃焼物により、試料の下方に配置させた脱脂綿が燃焼しないこと。
×:試料の燃焼時間が60秒を超えた場合、試料に取り付けられた表示旗(クラフト紙)が25%以上燃えた場合、又は試料から落下した燃焼物により、試料の下方に配置させた脱脂綿が燃焼した場合。
【0056】
【表1】

【0057】
(比較例1〜9)
表2に示される樹脂組成物を用いたこと以外は、上記実施例と同様にして、比較例1〜9のフラットケーブルを作製した。表2に示される樹脂組成物の各成分配合量の単位は質量部である。
上記実施例と同様に、各比較例のフラットケーブルの絶縁層における各難燃剤の含有率を求めた。結果は、表2に示した。
なお、比較例3及び8では、絶縁層を押出成形することが出来なかったため、これらについては、配合から算出した推定値を各含有率とした。
また、各比較例のフラットケーブルについても、上記実施例と同様にして、混合加工性試験、耐液性試験及び難燃性試験を行った。結果は、表2に示した。
なお、比較例3及び8では、絶縁層を押出形成することが出来なかったため、これらについては、耐液性試験及び難燃性試験は行わなかった。
【0058】
【表2】

【0059】
表1に示されるように、実施例1及び2のフラットケーブルは、その絶縁層を構成する樹脂組成物の混合加工性に優れ、かつ難燃性に優れることが確かめられた。また、実施例1及び2のフラットケーブルは、その絶縁層を構成する樹脂組成物がポリブチレンテレフタレートを主成分としているため、アニール処理を施さなくても、耐液性に優れることが確かめられた。
【0060】
比較例1は、フラットケーブルの絶縁層が、難燃剤として臭素系難燃剤のみを含む場合である。比較例1のフラットケーブルは、UL1581−1080 VW−1の難燃性の評価基準を満たさないことが確かめられた。
【0061】
比較例2は、フラットケーブルの絶縁層が、難燃剤としてリン系難燃剤のみを含む場合である。比較例2のフラットケーブルは、難燃性の前記評価基準を満たさないことが確かめられた。
比較例3は、フラットケーブルの絶縁層を形成するための樹脂組成物が、難燃剤としてリン系難燃剤のみを含む場合である。比較例3は、比較例2と比べて、リン含有率が高い場合である。比較例3においては、リン系難燃剤が樹脂成分と混ざりきらず、二軸押出機内でリン系難燃剤が分離した状態で液状化し、ペレット化のためのストランド状の連続押出が不可能であった。そのため、比較例3の混合加工性は、×と判断した。
【0062】
比較例4は、フラットケーブルの絶縁層が、難燃剤として臭素系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含む場合である。比較例4のフラットケーブルは、難燃性の前記評価基準を満たさないことが確かめられた。
比較例5は、フラットケーブルの絶縁層を形成するための樹脂組成物が、難燃剤として臭素系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含む場合である。比較例5は、比較例4と比べて、アンチモン含有率が高い場合である。
比較例5においては、樹脂組成物のペレット化、及びそのペレットを用いた押出被覆は可能であった。しかしながら、押し出された絶縁層中にアンチモン系難燃剤の塊(所謂、ブツ)が見られ、混合不良(分散不良)が発生した。そのため、比較例5の混合加工性は、×と判断した。
【0063】
比較例6は、フラットケーブルの絶縁層が、樹脂成分としてポリエチレンテレフタレートを含み、かつ難燃剤として臭素系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含む場合である。ポリエチレンテレフタレートは、ポリブチレンテレフタレートよりも結晶化する速度が遅い。そのため、押出被覆されたフラットケーブルの絶縁層は、結晶化する前に冷え固まるため、溶剤に対する耐性(耐液性)が悪いことが確かめられた。なお、比較例6のフラットケーブルの絶縁層に耐液性を付与するためには、別途アニール処理を施す必要がある。
【0064】
比較例7は、フラットケーブルの絶縁層が、難燃剤として臭素系難燃剤及びリン系難燃剤のみを含む場合である。比較例7のフラットケーブルは、難燃性の前記評価基準を満たさないことが確かめられた。
【0065】
比較例8は、フラットケーブルの絶縁層を形成するための樹脂組成物が、難燃剤として臭素系難燃剤及びリン系難燃剤のみを含む場合である。比較例8は、比較例7と比べてリン含有率が高い場合である。
比較例8においては、リン系難燃剤が樹脂成分と混ざりきらず、二軸押出機内でリン系難燃剤が分離した状態で液状化し、ペレット化のためのストランド状の連続押出が不可能であった。そのため、比較例3の混合加工性は、×と判断した。
【0066】
比較例9は、フラットケーブルの絶縁層が、樹脂成分としてポリエチレンテレフタレートを含み、かつ難燃剤として臭素系難燃剤及びリ系難燃剤を含む場合である。ポリエチレンテレフタレートは、ポリブチレンテレフタレートよりも結晶化する速度が遅い。そのため、押出被覆されたフラットケーブルの絶縁層は、結晶化する前に冷え固まるため、溶剤に対する耐性(耐液性)が悪いことが確かめられた。なお、比較例9のフラットケーブルの絶縁層に耐液性を付与するためには、別途アニール処理を施す必要がある。
【0067】
比較例10は、フラットケーブルの絶縁層が、難燃剤としてリン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含む場合である。比較例10のフラットケーブルは、難燃性の前記評価基準を満たさないことが確かめられた。
【符号の説明】
【0068】
1 フラットケーブル
2 導体
3 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に配列した複数本の導体と、
前記導体にポリエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物を押出被覆してなる絶縁層と、を備えるフラットケーブルであって、
前記絶縁層が、臭素系難燃剤、リン系難燃剤及びアンチモン系難燃剤を含み、
前記絶縁層における臭素含有率が6.0〜12.0質量%であり、
前記絶縁層におけるリン含有率が0.2〜1.3質量%であり、
前記絶縁層におけるアンチモン含有率が1.0〜10.0質量%であることを特徴とするフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−34703(P2011−34703A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177388(P2009−177388)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】